10
有利子負債 過去の投資の 果実など 市 場 NTT JT など 財投債 貸 付 財政融資資金 財政投融資特別会計 財政融資資金勘定 償 還 回 収 出 資 リターン 「確実かつ有利」 (財政融資資金法1条) 産業投資 財政投融資特別会計 投資勘定 配当金など 「リスクマネー」 政策的必要性が高く、リターンが 期待できるものの、リスクが高く 民間だけでは十分に資金が供給 されない事業 政策的必要性が高く、かつ、 償還確実性 のある事業  長期・固定・低利での資金供給 財政投融資の 3 類型 財政投融資の具体的な資金供給手法は、財政融資、産業投資、政府保証の3種類があります。 財政融資 財政融資とは、財投債の発行により調達された資金や、政府 の特別会計から預託された積立金・余裕金などによって構成さ れている財政融資資金 を活用し、国の特別会計や地方公共団 体、政府関係機関、独立行政法人などに対して長期・固定・低利 で行われる融資です。 財政融資資金は、財政投融資特別会計 の財政融資資金勘定 において経理されています。 財政融資資金法第1条において、財政融資資金の運用は「確 実かつ有利」に行うことが求められていることから、財政融資資 金の運用先は、同法第10条において、資金の安全性及び公共 性の確保を図るため、国や地方公共団体、政府関係機関などに 限定されています。 産業投資 産業投資とは、 (株)国際協力銀行からの国庫納付金や財政投 融資特別会計投資勘定が保有するNTT株、JT株の配当金など を原資として行う産業の開発及び貿易の振興のための投資(主 として出資)です。 産業投資は、財政投融資特別会計の投資勘定において経理さ れています。 財政融資が確定利付の融資を行うのに対し、産業投資は政策 的必要性が高くリターンが期待できるものの、リスクが高く民間 だけでは十分に資金が供給されない事業に対して、投資により 資金を供給しています。 政府保証 政府保証とは、政府関係機関・独立行政法人などが金融市場 で発行する債券や借入金を対象に、政府が元利払いに対して行 う保証です。これにより、財投機関は事業に必要な資金を円滑 かつ有利に調達することが可能となります。 政府保証債は国にとってバランスシートに計上されない債務 であることに加え、財政投融資改革 により財投債(政府保証債 より低利な国債)で調達した財政融資資金の貸付けが導入され たことから、できる限り抑制する方向で対応しています。 最近では、 「財政投融資を巡る課題と今後の在り方について」 (P18 参照)を踏まえ、政府保証については、引き続き個別に厳 格な審査を行うことに加え、その執行に当たっても、資金需要に 応じた管理を行うこととしています。 2.財政投融資の仕組み 財政融資と産業投資 4 FILP REPORT 2016

2.財政投融資の仕組み · column 負 債 資 産 債務超過解消 [資産>負債] 新規融資が可能 資 本 資本性 劣後ローン 資本に準じた取扱い

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Page 1: 2.財政投融資の仕組み · column 負 債 資 産 債務超過解消 [資産>負債] 新規融資が可能 資 本 資本性 劣後ローン 資本に準じた取扱い

有利子負債

過去の投資の果実など

市 場

NTTJTなど

財投債 貸 付 確定利付の融資

財政融資資金

財政投融資特別会計 財政融資資金勘定 ( )償 還 回 収

出 資 出資(一部融資)リターン

「確実かつ有利」(財政融資資金法1条)

産業投資

財政投融資特別会計投資勘定( )

配当金など 「リスクマネー」

●政策的必要性が高く、リターンが期待できるものの、リスクが高く民間だけでは十分に資金が供給されない事業

●政策的必要性が高く、かつ、償還確実性†のある事業 

●長期・固定・低利での資金供給

財政投融資の3類型 財政投融資の具体的な資金供給手法は、財政融資、産業投資、政府保証の3種類があります。

財政融資

 財政融資とは、財投債の発行により調達された資金や、政府

の特別会計から預託された積立金・余裕金などによって構成さ

れている財政融資資金†を活用し、国の特別会計や地方公共団

体、政府関係機関、独立行政法人などに対して長期・固定・低利

で行われる融資です。

 財政融資資金は、財政投融資特別会計†の財政融資資金勘定

において経理されています。

 財政融資資金法第1条において、財政融資資金の運用は「確

実かつ有利」に行うことが求められていることから、財政融資資

金の運用先は、同法第10条において、資金の安全性及び公共

性の確保を図るため、国や地方公共団体、政府関係機関などに

限定されています。

産業投資

 産業投資とは、(株)国際協力銀行からの国庫納付金や財政投

融資特別会計投資勘定が保有するNTT株、JT株の配当金など

を原資として行う産業の開発及び貿易の振興のための投資(主

として出資)です。

 産業投資は、財政投融資特別会計の投資勘定において経理さ

れています。

 財政融資が確定利付の融資を行うのに対し、産業投資は政策

的必要性が高くリターンが期待できるものの、リスクが高く民間

だけでは十分に資金が供給されない事業に対して、投資により

資金を供給しています。

政府保証

 政府保証とは、政府関係機関・独立行政法人などが金融市場

で発行する債券や借入金を対象に、政府が元利払いに対して行

う保証です。これにより、財投機関は事業に必要な資金を円滑

かつ有利に調達することが可能となります。

 政府保証債は国にとってバランスシートに計上されない債務

であることに加え、財政投融資改革†により財投債(政府保証債

より低利な国債)で調達した財政融資資金の貸付けが導入され

たことから、できる限り抑制する方向で対応しています。

 最近では、「財政投融資を巡る課題と今後の在り方について」

(P18参照)を踏まえ、政府保証については、引き続き個別に厳

格な審査を行うことに加え、その執行に当たっても、資金需要に

応じた管理を行うこととしています。

2.財政投融資の仕組み

財政融資と産業投資

4 FILP REPORT 2016

財政投融資の概要

Page 2: 2.財政投融資の仕組み · column 負 債 資 産 債務超過解消 [資産>負債] 新規融資が可能 資 本 資本性 劣後ローン 資本に準じた取扱い

COLUMN

負 債資 産

債務超過解消[資産>負債]

新規融資が可能

資 本

資本性劣後ローン

資本に準じた取扱い

※利息は10年経過後 一括支払

10年満期一括償還†

10年

利息額は10年間の業績によって変動( )

利 息

元 金

産業投資の活用1. 産業投資の役割

 産業投資は、政策的必要性が高くリターンが長期的に期待

できるものの、リスクが高く民間だけでは十分に資金が供給さ

れない分野に、長期リスクマネーを呼び水として供給(エクイ

ティ、メザニンファイナンス)することにより、官民の適切なリ

スク分担の下、民間が負担しきれないリスクを政府が分担し、

民間金融による資金供給を誘発する「質的補完」の役割を発揮

しています。

 民間金融機関などの行う投資活動は長くとも5年程度まで

の短中期的投資が中心であり、短期的な期間損益も株主など

から厳しく問われるのに対し、産業投資は、収益が上がるまで

長期的に耐えることのできる資金であることが特徴であり、こ

うした面から民間の投資マーケットの補完を行っていくことが

重要な役割となっています。投資スキームの組成や投資実行

に際しては、民間企業や民間ファンドと協業・協力を行うことで、

民間資金を最大限活用しています。

2. 産業投資の対象分野

 産業投資は、従来から、政策金融機関や独立行政法人など

に対し、資本性資金の供給や政策的必要性の高いプロジェク

トを支援するための財務基盤強化を目的とした出資を実施し、

近年は、官民ファンドを通じて長期リスクマネー供給を強化し、

これを呼び水として民間資金を誘発しています(官民ファンド

については、P6にて後述)。

 特に研究開発・ベンチャーなどの分野においては、産業投資

を活用して、民間の人材・ノウハウによる運営を基本としつつ、

民主導の新しい官民パートナーシップの構築に向けた取組を

行っていく必要があるとされ、平成21年度に(株)産業革新機

構を創設しました。その後、政府の成長戦略を受け、農業の6

次産業化†、クールジャパン†戦略、民間資金を活用したインフ

ラ整備(PFI†)、インフラシステムの海外展開支援などに対象

分野が拡大しています。

 一方、研究開発法人向け投資は、「独立行政法人の事務・事

業の見直しの基本方針」(平成22年12月7日閣議決定)など

を踏まえた各法人における事業の廃止や新規採択の廃止など

を受け、大幅に減少(平成26年度以降はゼロ)しています。

3. 産投出資と産投貸付の役割・特徴

 産業投資は、財政融資と異なり、リスクが高い事業を対象と

して、主にエクイティファイナンス(産投出資)を実施しています。

最近はメザニンファイナンス(業績連動型の金利設定の融資)

の供給源としての役割も担っており、産投出資に加えて、産投

貸付も特例的・限定的に活用しています。

 産投貸付については、確定利付の財政融資では対応困難な

長期・一括返済の成功利払い型の融資が可能であることから、

劣後ローンなどのメザニンファイナンスを手がけている(株)

日本政策金融公庫などにおいて活用しています。

業績連動型金利設定のイメージ 資本性劣後ローンの効果

(参考)産投貸付の対象となっている機関(平成28年度当初計画)◦(株)日本政策金融公庫(中小企業者向け業務):資本性劣後ローン†(震災劣後型)◦(株)農林漁業成長産業化支援機構:資本性劣後ローン◦(株)商工組合中央金庫:グローバルニッチトップ支援貸付など

FILP REPORT 2016 5

財政投融資の概要

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COLUMN

機関名 設立日(存続期間) 設立目的 産業投資

(28年3月末時点)民間出資

(28年3月末時点)

産業革新機構(INCJ) 21年7月(15年間)

オープンイノベーション†の推進を通じた次世代産業の育成を目指し、革新性を有する事業に投資 2,860億円(出資) 140億円

地域経済活性化支援機構(REVIC) ※預金保険機構経由で出資

25年3月(10年間)

事業の選択と集中、事業の再編も視野に入れた事業再生支援や、新事業・事業転換及び地域活性化事業に対し支援

130億円(出資)※一般会計出資30億円

101億円

農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)

25年1月(20年間)

「攻めの農林水産業」を展開するため、6次産業化に取り組む農林漁業者と他産業の合弁事業体を支援 300億円(出資) 18億円

民間資金等活用事業推進機構(PFI推進機構)

25年10月(15年間)

利用料金収入により資金回収を行うPFI事業に対し、民間資金の導入を促進し、インフラ投資市場を育成 100億円(出資) 100億円

海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)

25年11月(20年間)

クールジャパンの海外展開を促進するため、ジャパンモールなど「日本の魅力」の産業化を目指す事業に出資・事業参画 416億円(出資) 107億円

競争力強化ファンド(日本政策投資銀行[DBJ])

25年3月(10年程度)

異業種間連携による新事業の創出や、企業に眠る高度な技術を生かした新事業の創出を促進 1,000億円(貸付) 500億円

※DBJの自己資金

特定投資業務(日本政策投資銀行[DBJ])

27年6月(10年間)

企業の競争力強化や地域活性化の観点から、民間金融機関などの資金供給を促進しつつ、企業の成長に向けた積極的な取組を支援

650億円(出資) 650億円※DBJの自己資金

海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)

26年10月(─)

交通・都市インフラの海外輸出を促進するため、海外における高速鉄道事業などに出資・事業参画 150億円(出資) 59億円

海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)

27年11月(20年間)

通信・放送・郵便事業の海外展開を促進するため、海外における 地デジ放送網の整備事業などに出資・事業参画 19億円(出資) 19億円

(注) 単位未満は四捨五入

※サブファンドを用いる場合

官民ファンド

投資先企業

民間

民間

サブファンド

出資など 出資など

出資など

一般会計出資/産投出資

呼び水効果

呼び水効果

民間

出資など

出資など 出資など

1. 官民ファンドとは

 官民ファンドは、現在我が国では民間資金がリスクマネーと

して十分に供給されていない状況にある中、政府の成長戦略

の実現、地域活性化への貢献、新たな産業・市場の創出など

の政策的意義があるものに限定して、民業補完を原則とし、民

間で取ることが難しいリスクを取ることによって民間投資を喚

起する(呼び水効果)ものであり、民間主導の経済成長の実現

を目的としています。

官民ファンドの概要(産業投資対象機関)

官民ファンドのスキーム

官民ファンドを通じたリスクマネー供給

6 FILP REPORT 2016

財政投融資の概要

Page 4: 2.財政投融資の仕組み · column 負 債 資 産 債務超過解消 [資産>負債] 新規融資が可能 資 本 資本性 劣後ローン 資本に準じた取扱い

機能:重要な投資に係る決定要件:専門性、独立性、中立性(常勤者と社外取締役

(企業経営の経験者などを含む)等)

機能:通常の投資に係る決定(注)要件:常勤、短周期(毎週等)の開催

機能:投資案件の発掘、DDの実施要件:常勤、人材育成の観点担当部署等

機能:重要な投資に係る決定を行う機能の監視、牽制

要件:独立性、専門性監査役、アドバイザリーボード等

重要な意思決定(利益相反に関する判断を含む)、ポートフォリオ管理、特に重要な投資案件

全ての投資案件

投資候補案件

機能:通常の投資に係る決定(注)を行う機能の監視、牽制

要件:独立性、専門性監査役、社外取締役、アドバイザリーボード等

:内部組織

:チェック機能

:法令に基づいて行う監査の機能と、それを補助するものとして社外有識者等からなる助言を行う機能(アドバイザリーボード等)を整理・明確化した上で、それぞれの権限・責任に応じ、監視・牽制を行う。

(注) 重要な意思決定案件(利益相反に関する判断を含む)、ポートフォリオ管理、特に重要な投資案件等の上位決定機能への付議の決定を含む

2. 官民ファンドガイドライン

 政府としては、関係行政機関が官民ファンドを設立して終わ

りにするのではなく、日本経済の成長のため、官民ファンドが

政策目的に沿って運営されるよう、官民ファンドの活動を評価、

検証し、所要の措置を講じていくことが必要です。

 官民ファンドの活用推進を図るとの観点から、官民ファンド

の運営状況の検証を政府一体となり関係行政機関が連携して

行うため、平成25年9月に「官民ファンドの活用推進に関する

関係閣僚会議」(主宰:内閣官房長官)を開催し、「運営全般(政

策目的、民業補完等)」、「投資の態勢及び決定過程」、「ポート

フォリオマネージメント」、「民間出資者の役割」及び「監督官庁

及び出資者たる国と各ファンドとの関係」という項目から構成

される「官民ファンドの運営に係るガイドライン」(以下、官民ファ

ンドガイドライン)が決定・公表されました。

3. 官民ファンドの検証

 官民ファンドガイドラインには、「官民ファンドが政策目的に沿っ

て運営されるよう、官民ファンドの活動を評価、検証し、所要の

措置を講じていく」と定められており、閣僚会議の下に、関係

府省と有識者からなる「官民ファンドの活用推進に関する関係

閣僚会議幹事会」(以下、幹事会)を置き、幹事会において、官

民ファンドガイドラインに基づく検証を行うこととされています。

同検証は、定期的に継続して行っていくこととされており、9月

末実績と3月末実績に基づき、平成26年5月に第1回検証報

告、平成26年11月に第2回検証報告、平成27年7月に第3

回検証報告、平成27年12月に第4回検証報告、平成28年6

月に第5回検証報告がそれぞれとりまとめられました。

 なお、検証報告においては、官民ファンドの活用状況、官民

ファンドごとに設定されている事後検証可能な指標(KPI:Key

Performance Indicator)の進捗・達成状況や官民ファンド

相互間の連携、投資決定後のモニタリング及びポートフォリオ

マネージメントの取組状況などについて、検証を行っています。

官民ファンドに求められる組織体制(官民ファンドガイドラインより)

FILP REPORT 2016 7

財政投融資の概要

Page 5: 2.財政投融資の仕組み · column 負 債 資 産 債務超過解消 [資産>負債] 新規融資が可能 資 本 資本性 劣後ローン 資本に準じた取扱い

財政融資関連年表

(注)西原借款 大正 6、7年頃行われた一連の対中国向け借款を指します。その一部は預金部資金をもって行われましたが、回収不能となり、国による元利金の肩代わりなどの整理が行われました。

税金以外の雑収入などを「積立金」として蓄積。のち、「準備金」と改称。明治時代初期 準備金取扱規則

大蔵省国債寮で預金を預かり運用する規定をおく。明治9年

駅逓局貯金(現在の郵便貯金)が大蔵省国債局に預けられて、運用が本格化する。明治11年

大蔵省預金の預入れを法制化し、預金部設置。ただし、当初は運用よりも保管業務に重点が置かれていた。明治18年 預金規則

この間、預金部の運用は国債中心から興業債券や特殊銀行債へ変化した。大正に入ると、西原借款(注)のように、運用上問題となったものも生じた。資金の管理・運用を適正にするため、預金部制度の改善の必要が出てくる。

明治中期~大正

「有利確実な方法」「国家公共の利益のため」という基本原則を明確化。「預金部資金運用委員会」を設置。大正14年 預金部預金法

第二次大戦頃

預金部の資産と負債の整理を実行。昭和21年 大蔵省預金部等損失特別処理法

GHQの方針として預金部資金の運用先は原則として国及び地方公共団体に対するものに限定されていた。占領下

戦後復興のため、産業界から長期資金の需要が高まる。・国の資金の管理を一元化  ・公共の利益の増進に寄与  ・資金の確実かつ有利な方法での運用昭和26年 資金運用部資金法

「資金運用部資金及び簡易生命保険の積立金の長期運用に対する特別措置に関する法律」施行昭和48年

金利自由化など、経済金融環境の変化が進展。・預託金†の預託利率について、法定制を改め、政令に委任  ・資金運用部資金の運用対象として、外国債を追加昭和62年 資金運用部資金法改正

時代環境を反映し、政策の重点が産業基盤の充実から生活基盤の整備へと移行。・郵便貯金・年金積立金の資金運用部への預託義務廃止(財政投融資改革)・政策コスト分析†の導入  ・情報開示の一層の徹底  ・市場原理に則った資金調達

平成13年 財政融資資金法

戦時体制への突入とともに、次第に国策会社、軍需会社に対する資金の供給や大陸投資などに運用の重点が移された。その結果、運用資産に大きな損失が生じる。

財政融資の沿革 財政融資資金の歴史は明治時代初期までさかのぼることがで

きます。この段階においては、民間金融機関は未発達であり、政

府のもとに各種の資金が集まりました。政府は当初、その資金

を保管することが中心でしたが、駅逓てい

局貯金(現在の郵便貯金)

の預託も受けるようになり、集まった資金を国債で運用すること

になりました。その後、郵便貯金の預託額増加に伴い、国内の産

業資金や国策会社に対する投資に充てるために資金が運用され

るようになりましたが、そのような中で資金を回収できないもの

も出てきました。

 このような経緯もあり、戦後設置された資金運用部資金(財

政融資資金の前身)においては、確実かつ有利な運用を徹底す

るため、運用先を、国(一般会計及び特別会計)や地方公共団体

と、その全額出資法人などに限定することを法律により規定しま

した。現在の財政融資資金においても同様の考え方が踏襲され

ています。

財政融資の沿革(概略)

8 FILP REPORT 2016

財政投融資の概要

Page 6: 2.財政投融資の仕組み · column 負 債 資 産 債務超過解消 [資産>負債] 新規融資が可能 資 本 資本性 劣後ローン 資本に準じた取扱い

● 郵便貯金・年金積立金の預託義務の廃止、市場における自主運用● 償還確実性の精査、民業補完を踏まえ、真に必要とされる額のみを財投債により調達

● 貸付期間に応じ、国債の市場金利を基準にして貸付金利を設定● 政策コスト分析の導入・充実● 各財投機関は、財投機関債を発行● 情報開示の一層の徹底などによる特殊法人などの規律確保

改革のポイント全額預託義務の廃止、市場原理にのっとった資金調達政策コスト分析の導入、情報開示の一層の徹底

旧財投 新財投

郵 貯 年 金 断ち切り

一括調達

財投債(国債)

財投機関債(自主調達)

改革(13年度)

経営判断に基づき全額自主運用

託運

財投機関

財  投

(資金運用部)

年 金

財投機関

金融市場 財

必要額を精査

貸付金利=国債金利

預 託

財政投融資改革 財政投融資制度については、平成13年度に抜本的な改革(財

政投融資改革)が行われました。

 この改革以前は、郵便貯金や年金積立金が資金運用部資金に

義務的に預託されており、財政投融資の主要な資金調達手段と

なっていました。郵便貯金や年金積立金などを活用した財政投

融資は、国内の貯蓄を社会資本の整備などに効率的に活用する

財政政策手段として、我が国の経済発展に貢献してきたと考え

られますが、政策的に必要とされる資金需要とは関係なく原資

が集まることで財政投融資の規模が肥大化し、効率的な運用が

行われていないなどの問題が指摘されていました。

 財政投融資改革は、こうした点を踏まえ、財政投融資制度を

より効率的で、市場原理と調和のとれたものとするために行わ

れました。

 具体的な改革の内容については、まず、財政投融資の資金調

達のあり方について、郵便貯金・年金積立金の資金運用部への

預託義務が廃止され、全額自主運用(原則市場運用)される仕組

みへと改められました。財政投融資に必要な資金は、財投債の

発行により市場から調達されることとなり、これにより、必要な資

金需要に応じた効率的な資金調達を行うことが可能となりました。

 さらに、財投機関が行う財政投融資対象事業についても、

民業補完の観点から事業を見直し、また、財投機関においても、

必要な事業の資金調達については、財投機関自身が、財投機関債†

の発行により市場での自主調達に努めることとなりました。

 このほか、政策コスト分析を導入しました。これは、財政投融

資のディスクロージャーの観点から、財政投融資を活用している

事業について、政策コスト(将来見込まれる補助金や出資金の機

会費用など)がどの程度生じるかを明らかにすることで、財政投

融資対象事業の妥当性や財投機関の財務の健全性に関する情

報の充実を図ったものです。

財政投融資改革のイメージ

FILP REPORT 2016 9

財政投融資の概要

Page 7: 2.財政投融資の仕組み · column 負 債 資 産 債務超過解消 [資産>負債] 新規融資が可能 資 本 資本性 劣後ローン 資本に準じた取扱い

COLUMN

(%)

(注) 1. 改革直前の貸付金利は、10年物国債の表面利率を基準として概ね+0.2%に設定。 2. 改革後の貸付金利は、国債の市場金利(流通利回り)を基準として、貸付期間や償還形態に応じた金利を設定。 3. 平成 28年 8月3日の国債の市場金利を基準に算出。

貸付期間(年)

0.05 10 15 20 25 30 35 40

0.2

0.4

0.1

0.3

0.5

0.6

改革後貸付金利(元利均等償還†)

改革後貸付金利(元金均等償還†)

改革後貸付金利(満期一括償還)

(参考:28年 8月債を基準に算出した仮想金利)改革前貸付金利

+0.2%

(10年利付国債表面利率)

 財政融資資金は、財投債と預託金を主な財源としています。

財投債は国債の一種であり、商品性も通常の国債と同じで、発

行も通常の国債と合わせて行われているため、調達金利は国

債金利そのものです。また、国の特別会計の積立金・余裕金

などからの預託金については、預託期間に応じて、国債の利回

りに即して財務大臣が預託金利を定めることとされています(た

だし、0.01%を下限としています。)。このように、財政融資資

金の調達金利は基本的に国債金利と同水準となります。

 一方、貸付金利についても、貸付期間に応じ、国債の流通利

回りを基準として、償還方法 (元金均等、元利均等、満期一括)

や据置期間†(貸付を受けた日以降、元金を償還せず、利子の

みを支払う期間)といった償還形態の違いを反映した上で財

務大臣が定めており、基本的に国債金利と同水準になります。

 以上のような金利の設定方法は、財政投融資改革において

導入されたものです。それまでの預託金利は、昭和62年の資

金運用部資金法改正により、国債の金利その他市場金利を考

慮するとともに、預託者側の事情にも配慮して政令で定めるこ

ととされており、財政投融資改革直前における預託金利の実際

の水準を見ると、7年以上の預託に対しては毎月発行される10

年物利付国債の表面利率に0.2%を上乗せした水準で設定さ

れていました。他方、貸付金利については、貸付期間にかかわ

らず、7年以上の預託金利と同一の水準で設定されてきました。

 財政投融資改革により、預託者への配慮規定が廃止され、

預託金利や貸付金利は国債の流通利回りに基づき設定される

ようになり、市場原理との調和が図られることとなりました。

財政投融資改革前・改革後の貸付金利(固定金利・据置期間なし)の比較

財政融資資金の調達金利と貸付金利

10 FILP REPORT 2016

財政投融資の概要

Page 8: 2.財政投融資の仕組み · column 負 債 資 産 債務超過解消 [資産>負債] 新規融資が可能 資 本 資本性 劣後ローン 資本に準じた取扱い

COLUMN

リニア中央新幹線の全線開業前倒し(鉄道・運輸機構):2年で約3兆円

▶ JR東海に対して、鉄道・運輸機構を通じて財政投融資の低利融資を行うことにより、東京・名古屋間の開業後、連続して名古屋・大阪間の工事に着手し、全線開業までの期間を、最大8年間前倒し。

インフラ海外展開支援(国際協力銀行):約2,000億円(5年で約5,000億円)

▶ 「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」を踏まえ、高効率火力発電所の建設など我が国企業が高い技術力を有する分野で、日本企業の海外展開を後押しする。

※ このほか、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)等に対しても、財務基盤強化のための借置を行う。

鉄道立体交差化等の推進(日本政策投資銀行):約5,000億円

▶ 鉄道立体交差化事業、ホームドアの設置、バリアフリー化、無電柱化等の推進に対する支援を行う。

※ 連続立体交差化事業については、①鉄道事業者負担分(約1割程度)、及び ②それに伴う鉄道機能の強化や周辺用地の開発・整備の推進を支援する。

財政投融資貸付金利の下限見直し(0.1%➡0.01%)

▶ 財政投融資貸付金利の下限を見直し、現在の低金利の恩恵がしっかりと行き渡るようにする。

整備新幹線の整備の加速化(鉄道・運輸機構):約8,000億円

▶ 鉄道・運輸機構の整備新幹線の建設資金に財政投融資の低利融資を活用することにより、金利負担を縮減し、整備新幹線の整備を加速化する。

(参考) 既着工区間の開業予定時期◦新函館北斗〜札幌間(約211km) :平成42年度末◦金沢〜敦賀間(約125km) :平成34年度末◦武雄温泉〜長崎間(約66km) :平成34年度

※29〜30年間元本償還なし。その後、10年間元金均等償還。

※上記のほか、日本政策金融公庫等による中小企業・小規模事業者の資金繰り支援や、熊本地震復旧・復興に向けた資金繰り支援等を行う。

投奨学生

【例】 有利子奨学金有利子奨学金(固定金利方式・金利見直し方式)の貸与利率に反映。

長期・固定・低利の貸付 財投と同水準で貸与※

償還 償還

日本学生

支援機構

貸付財

長期・固定・低利の貸付

その他金融機関等

鉄道

事業者等

政投銀立体交差化事業等の取組

計画前倒しのイメージ

現計画

前倒し

平成39年(名古屋開業)

平成47年(大阪着工/当初計画)

平成57年(大阪開業/当初計画)

経営体力回復期間

名古屋・大阪間工事

品川・名古屋間工事

平成49年財投の貸付

最大8年間前倒し

※有利子奨学金の貸与利率は、卒業時に決定。

 平成28年1月29日に導入が決定された日銀の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」政策を背景に国債利回りが低下し、同年2月には10年債利回りが史上初めてマイナスを記録しました。 国債利回りが一部でマイナスとなる中、財投債を主な財源とする財政融資の積極的な活用により、民間投資の拡大を図るべきとの議論を踏まえ、「経済財政運営と改革の基本方針2016」(平成28年6月2日閣議決定)や「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年6月2日閣議決定)において、「現下の低金利環境を活かし必要な投資を進める道筋を検討する」とされました。

 こうした状況の中、平成28年8月2日に閣議決定された「未来への投資を実現する経済対策」においては、「現下の低金利状況を活かし、財投債を原資とする財政投融資の手法を積極的に活用・工夫する」との観点から、民間金融機関では十分に対応できない長期・固定・低利の資金について、インフラ整備などに対する資金供給を行うこととしています。具体的にはリニア中央新幹線の全線開業前倒し、整備新幹線の整備の加速化、鉄道立体交差化等の推進、インフラ海外展開支援、財政投融資貸付金利の下限見直しなどの措置が盛り込まれています。

低金利状況を活かした財政投融資の積極的な活用

参考 「未来への投資を実現する経済対策」(平成28年8月2日閣議決定)における財政投融資の活用例

現下の低金利状況を活かし、インフラ整備に対する超長期の資金供給や、財政投融資貸付金利の下限 見直し等を行い、未来への投資を加速させる。

FILP REPORT 2016 11

財政投融資の概要

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COLUMN

(注) 1. 当初計画ベース。平成20年度から平成27年度の[ ]は補正・弾力による改定後です。 2. 平成12年度以前は、一般財政投融資ベースです。

(兆円)

平成8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28(年度)0.0

10.0

20.0

30.0

40.045.0

35.0

25.0

15.0

5.0

40.5 39.336.7

39.3 37.5

32.5

26.823.4

20.517.2

15.0 14.2 13.9

[16.6]

[23.9]

[18.6][20.6][19.0][19.1]

[16.5][14.9]

15.918.4

14.917.6 18.4

16.2 14.6 13.5

■ 当初計画額  ■ 改定額(補正+弾力)

財投改革スタート

平成20年9月リーマン・ショック

平成23年3月東日本大震災

(注) 平成27年度までは実績です。平成28年度は、平成27年度決算時点の見込であり、今後異同を生ずることがあります。

(兆円)

平成 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (年度末)0.0

100.0

200.0

300.0

400.0450.0

350.0

250.0

150.0

50.0

財投改革スタート

377.3 394.9 400.8 414.3 417.8 410.2 390.6354.0

332.5299.6

275.5245.1

216.0 201.9 189.2 181.1 175.7 169.3 162.2 154.3 151.3

27 28(見込)

財政投融資計画規模の推移

 平成13年度の財政投融資改革において、財政投融資の大

部分を占める融資については、郵貯・年金の預託義務を廃止し、

基本的には財投債を発行して市場から能動的に資金調達を行

う仕組みに転換するとともに事業の重点化・効率化に取り組

んだことで、財政投融資計画規模はスリム化しました。

 財政投融資対象事業の見直しに関しては、主に以下のよう

な取組が行われました。

◦「特殊法人等整理合理化計画」(平成13年12月閣議決定)において、財投機関を含む163の特殊法人及び認可法人(このうち財投機関は38法人)を対象に、事業及び組織形態の見直し

◦ 財政制度等審議会財政投融資分科会†において、平成16年に、財政投融資の実施状況が財政投融資改革の趣旨を反映したものとなっているか点検し、財投機関の事業について、特殊法人等整理合理化計画の事業見直しの実施状況を確認するとともに、事業の政策的必要性、財務の健全性などに

ついて精査(平成16年12月に「財政投融資改革の総点検について」として結果をとりまとめ)

◦ その翌年に、総点検で指摘した事項が着実に実行に移されていることを確認(平成17年12月に「財政投融資改革の総点検フォローアップ」として結果をとりまとめ)

財政投融資計画額の推移(フロー)

財政投融資計画残高の推移(ストック)

財政投融資計画規模の推移

 近年では、平成20年9月のリーマン・ショックによる経済・

金融危機や平成23年3月の東日本大震災といった、我が国

の社会経済情勢を受けた資金需要に対応したため、フローは

一時的に増加しましたが、ストックについては引き続き減少を

続けています。

 平成28年度計画において、フローではピーク時(平成8年

度)の約3分の1(平成13年度の財政投融資改革以降最小)、

ストックではピーク時(平成12年度)の約2分の1を大きく下

回る水準となりました。

12 FILP REPORT 2016

財政投融資の概要

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支援策 内 容

中小・小規模事業者向けのセーフティネット貸付

 社会的要因などによって、一時的に売上高や利益が減少したものの、中長期的に業況の回復が見込める中小企業などへの 貸付けを行った。平成20 〜22年度で累計11兆円の信用供与を行った。

危機対応業務

 リーマン・ショック後は大手企業でも社債による調達が困難になるなど、資金確保が難しい状況にあった。企業の資金繰り悪化に対応するため、政府の経済対策を受けて、指定金融機関である(株)日本政策投資銀行及び(株)商工組合中央金庫による危機対応融資の貸付けが行われた。 貸付実績は、(株)日本政策投資銀行で約3.7兆円、(株)商工組合中央金庫で約4.8兆円となった。

海外事業支援緊急業務  日本企業の海外事業などを支援するため、(株)国際協力銀行が累計で約2.5兆円の信用供与を行った。

支援策 内 容

企業等金融支援関連

 (株)日本政策金融公庫は、中小企業・小規模事業者の経営安定を図るため、東日本大震災復興特別貸付制度や、震災復興支援資本強化特例(被災中小企業向けの資本性劣後ローン)の創設などを行い、資金繰り支援に万全を期している。また、被災事業者などの経営安定などのため、指定金融機関((株)日本政策投資銀行、(株)商工組合中央金庫)を通じた危機対応融資(ツーステップ・ローン)の拡充など、必要な資金需要に対し資金供給を行っている。

地方 東日本大震災を教訓として行う緊急性・即効性のある防災・減災対策(公立学校施設の耐震化や河川津波対策など)のための資金供給を行っている。

その他  被害を受けた住宅や医療・福祉施設の再建、復旧のための資金供給を行っている。

経済・金融危機、東日本大震災への対応

 財政投融資計画は、税財源によらない財政政策であること

に加え、毎年度、経済事情の変動などに応じ機動的かつ弾力

的に対処するため、財政融資の予定額や政府保証の限度額を

一定範囲で増額しうる措置が講じられているため、社会経済情

勢に応じて柔軟な資金供給ができるという特徴があります。リー

マン・ショック後の経済・金融危機や東日本大震災の際の資金

需要に対しても、財政投融資が積極的に活用されました。

 具体的な活用先としては、資金繰りに困難をきたしている企

業に対する支援(セーフティネット貸付や危機対応業務)、復旧・

復興事業や防災・減災対策などが挙げられます。

リーマン・ショック後の経済・金融危機への対応

東日本大震災に対する財政投融資の対応

(独)都市再生機構/震災復興事業/災害公営住宅/宮城県石巻市 (独)都市再生機構/震災復興事業/災害公営住宅/宮城県気仙沼市

FILP REPORT 2016 13

財政投融資の概要