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3-2-3 公ます用自動採水器の水質規制業務以外への活用方法 南部下水道事務所 お客さまサービス課 杉本 太郎
大橋 智恵美 (現 経理部 業務管理課)
斎藤 慎哉 (現 流域下水道本部 技術部 施設管理課)
1 概要
水質規制業務では自動採水器を事業場指
導に活用している。指導のために事業場排
水を公共汚水ます(以下、公ます)などで
採水する際、一般的には立入検査時に職員
が採水を行うが、夜間・早朝の採水が必要
な場合は自動採水器を用いることで、効率
的かつ効果的な事業場指導を行っている。
その際、狭隘かつ作業環境の悪い公ますな
どに設置する必要があるため、特殊な小型
自動採水器(写真 1, 2)を使用している。 今回は、水質規制業務以外への活用方法
として、お客さまサービス課業務担当にお
いて懸案となっている、一時使用に係る汚
水排出量の認定を適正に行うために、自動
採水器による連続監視を行い、一定の成果
を得た。
2 公ます用自動採水器 2.1 概要 水質規制業務で使用する自動採水器は、
公ますに設置することで、事業場等からの
排水を採水するものである。この自動採水
器は、全体が公ます内に収まるよう小型化
されて、かつ汚水の流れを阻害しない構造
になっている。自動採水器設置後もます蓋
は正常に閉まるので、通行者等への支障は
無く、事業場からも自動採水器の存在がわからないようになっている(写真 3)。 2.2 機能
公ます用自動採水器には、水流感知センサーと pH センサーが装備されている。これらのセ
ンサーを併用することによって、一定時間間隔での採水のほか、水流感知時の採水、pH 逸脱時
の採水を行うことができる。なお、採水ボトルは 4 本ないし 6 本装備可能な 2 タイプがある。
写真 1 標準ます用自動採水器
写真 2 小型ます用自動採水器
3-2-3東京都下水道局技術調査年報 -2017- Vol.41 176
写真 4 自動採水器の疑似インバート部
公ます用自動採水器の下部には疑
似インバート部(写真 4)があり、これ
を公ます内のインバート部にセット
する。疑似インバート中央部には堰
を設け、一定量の水が溜まるように
なっており、この部分から排水を採
取している。堰の前後には水流セン
サー(銀色の部分)を装備しており、
排水の流れを感知して採水すること
もできる。また、堰の内側に pH セ
ンサー(奥の白い部分)を装備して
いる。 2.3 使用例 自動採水器を使用する効果は、通
常の立入検査では監視を行うことが
難しい、連続的な採水や早朝・夜間・
休日の採水ができることである。自
動採水器では、3 種類のモードで排
水を採水することができる(表 1)。これらのモードを用いた事業場指導事
例を、以下に紹介する。 2.3.1 定時採水モード 事業場によっては、濃厚廃液(薬品の原液など)を処理施設に投入することにより、時間帯
によって処理が不十分な場合がある。処理が不十分であれば、規制対象物質が高濃度で残存し、
下水排除基準を超過する場合があるため、改善指導が必要である。しかし、通常の立入検査で
は事業場の排水を長時間連続的に監視・採水することができないため、十分な改善指導ができ
ないことがある。
自動採水器 設置個所
水流センサー
pH センサー
写真 3 自動採水器設置の様子 左:設置作業 右:設置後
表 1 自動採水器の採水モード
定時採水モード 一定時間おきに採水する
水流感知モード 一定時間以上、排水が継続して
流れている場合に採水する
pH 監視モード pH が一定範囲から逸脱した場合
に採水する
3-2-3東京都下水道局技術調査年報 -2017- Vol.41 177
そこで、自動採水器の定時採水モードを用いることによって、長時間の採水を容易に行うこ
とができる。その試料を分析することで、時間ごとの処理水質の変化を調べることが可能とな
り、適切な指導を行うことができる。 例えば、自動採水器による採水の結果、夕方から夜にかけて下水排除基準を超過している場
合、夕方に行われている作業が基準超過の原因だと推定される。原因を判明することで、事業
場に対して具体的な改善方法を指導できるようになる。 2.3.2 水流感知モード 事業場の排水処理施設の構造や設置場所によっては、貯槽の水位計と連動し、ポンプで公共
下水道への放流を行っている事業場も存在する。この場合、一定量の排水が溜まった時にだけ
ポンプが作動するため、断続的な放流が行われることになる。水流感知モードを使用すること
で、このように断続的な排水を採水することができる。 また、事業系排水と生活系排水が一つの公ますに接続されている場合に、生活系排水を避け
て採水することもできる。工場の 2 階が住宅になっているような場合には、生活系排水は断続
的にしか発生しない。例えば、一般的な風呂釜一杯(200L)の水を排水する場合にかかる時間は
約 3 分 20 秒程度である。そこで、水流が 10 分以上継続した場合に採水する、という設定を行
うことで、生活系排水を避け、長時間連続して放流される事業系排水だけを採水することがで
きる。 2.3.3 pH 監視モード pH 監視モードは、pH が設定範囲を逸脱した際に採水を行う。事業場の排水処理・管理に問
題がある場合、pH 監視モードで採水を行い、指導を行うことが有効である。表 2 のように夜間
に pH が下水排除基準を満たさない排水が放流されている場合、自動採水器による採水結果を
事業場に提示し、適切な中和処理を行うよ
う指導している。 また、金属加工業やめっき業では、pH が
基準値を超過している排水の場合に、重金
属類も下水排除基準を超過していることが
多い。表 3 のように、pH 監視モードによる
採水を行うことで、ほかの規制項目につい
ても監視、指導を行うことができる。
表 3 pH 監視モードによる採水結果(めっき業)
採水時刻 pH T-Cr Cr6+ Cu Zn Pb CN
10:01 2.8 0.7 <0.05 0.2 20 <0.01 <0.1
10:34 5.1 0.5 0.35 0.2 6.8 <0.01 <0.1
10:50 5.8 0.5 0.32 0.2 5.3 <0.01 <0.1
pH 以外の項目は(mg/L) 斜体:下水排除基準超過
表 2 pH 監視モードによる採水結果(食品製造業) 採水日 時刻 pH
1 日目 21:11 5.3
〃 22:32 5.6
〃 23:51 5.7
2 日目 0:51 4.4
〃 1:51 4.2
3-2-3東京都下水道局技術調査年報 -2017- Vol.41 178
3 水質規制業務以外への活用 3.1 一時使用 工事現場で発生する湧水などを、一時的に公共下水道へ排水する場合には、「公共下水道一時
使用届」の提出が必要となり、下水道料金の徴収対象となる。この場合には、上水道の使用量
とは関係なく下水道料金が発生するため、お客さまサービス課業務担当が汚水排出量の認定を
行い、それを基に下水道料金を徴収している。 一時使用に係る汚水排出量は、流量メーターを設置
している現場がほとんどないため、時間当たりの排水
量に水中ポンプの運転時間を積算して算定することが
多い。時間当たりの排水量は、業務担当の職員が現場
に出向き、計量容器とストップウォッチを用いて測定
している(写真 5)。水中ポンプの運転時間は使用者の申
告によるが、平日昼間のみ 8 時間程度の運転として申
告されているポンプが、夜間休日も運転されている場
合がある。このような場合、夜間休日の使用状況を監
視する必要があるものの、夜間休日に職員を派遣する
ことには限界がある(写真 6)ため、適切な下水道料金徴
収ができない場合があった。 3.2 自動採水器を用いた連続監視 上記のような問題点を解決するための一案として、
水質規制業務で使用している公ます用自動採水器を用
いて、一時使用届の対象現場での連続的な排水監視を
試みた。 一時使用を行っている工事現場のうち、工法と作業
内容から夜間休日にも排水が生じる可能性の高い現場
に、自動採水器を設置し(写真 7)、水流の有無を 5 分間
隔で記録する設定とした。
写真 7 小型ます用自動採水器の設置状況
写真 5 容器を用いた水量査定のようす
写真 6 夜間監視のようす
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一週間後に自動採水器を回収すると、夜間休日にも水流が連続して検知された記録が残って
いた。今回の調査では、夜間休日も絶えることなく排水が継続していたことを示す水流感知デ
ータや、試料の採水を確認できた。自動採水器に内蔵されているメモリには、5 分間隔で 1 週
間連続測定したデータを保存し、後日、パソコンにデータを取り出すことが可能である。 この水流検知記録を一時使用者に提示し、適正な申告を行うよう指導を行った。これにより、
適正な下水道料金徴収を行うことができた。 4 まとめ 水質規制業務では、公ます用自動採水器を用いることで、事業場排水の監視や、改善指導に
役立ててきた。今回は公ます用自動採水器を活用し、一時使用者からの夜間休日排水を連続的
に監視した。これにより実際の排水量を把握し、適正な下水道料金徴収につなげることができ
た。今後も公ます用自動採水器の水質規制業務以外への活用を進めていく。
3-2-3東京都下水道局技術調査年報 -2017- Vol.41 180