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3モータ用パワーコントロールユニットの開発
IPM
ECU(2 sheets)
DCDC
MOT1 MOT2 MOT3
IPM
UVW UVW UVW
ECU
3モータ用パワーコントロールユニットの開発※
技術紹介
2モータハイブリッドシステム用 PCU で開発した,パワー半導体と絶縁基板とリードフレームから構成される SUB-COMP と外部からの信号により PCU を制御する ECU
(Electronic Control Unit)を最大限活用している.
Fig . 2 に示すように,IPM のUVW 相×3セット構成と ECU 2枚構成により,モータ3台を駆動させることが可能となり,3モータ搭載車に対応した PCU を実現した.なお,車の仕様上,昇圧機能,発電機能は有していない.
また,バッテリー電圧を 12V に降圧させるための DCDC コンバータ(以降 DCDC)が内蔵されている.
従来製品は PCU 外に DCDC が設けられていたため,それを冷却するための冷却機能が別に必要であったが,PCU内蔵にすることで,PCU の冷却経路を利用することができ,車全体の簡素化が図れた.
*1 開発本部 四輪 PCU 開発部
※ 2017年8月3日受付
Fig. 1 Structure of PCU for three motors Fig. 2 IPM configuration
中 村 武*1 阿 部 聖一郎*1 八 木 卓 也*1 小 林 豪*1
1.はじめに
自動車業界では省エネルギー,地球温暖化防止の観点から,車両販売台数に対する電動車の割合は年々大幅に増加している.電動車には,モータ駆動用の PCU(Power Control Unit)が必要不可欠のため,PCU に求められる機能,性能も年々高いものになっている.
また,市場の電動車へのニーズも,小型車から大型車と多岐にわたり,モータ出力やモータ数のバリエーションが増えている.本報では,3つの駆動モータを搭載する電動車に搭載される PCU を紹介する.
2.PCUの概要
Fig. 1 に3モータ用 PCU の構造を示す.今回開発した PCU は,ベース機種である
技術紹介
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ケーヒン技報 Vol.6 (2017)
Upper cover
Lower case
ECU
Resin bracketpart
① DCDC cooling channel
② Water channel in the lower case
③ W/J of IPM
④ Water channel in the lower case
O-ring
ECU
IPM
Reactor
Condenser
Cover ①
Case ②
Case ③
Case ④
Cover ①
Case ②
ECU
IPM
DCDC
Condenser
[Base model]
[This model]Two-partcasing
Four-partcasing
3.ダイカストケース2部品化
Fig. 3 のように従来製品はアルミダイカストケースが4層構造(アッパーカバー,アッパーケース,ミッドケース,ロアケース)であり,ミッドケースの表裏に放熱が必要な IPMとリアクトルが搭載されていた.本機種は,アルミダイカストケースを2部品化した.
Fig. 4 のようにロアケースに構成部品を積上げ固定し,アッパーカバーで保護するという筐体の2部品化を図ることで,ダイカスト部品点数削減(4→2部品)によるコストダウンと軽量化に貢献した.
また,構成部品をミッドケースの表裏に固定しないことで,PCU ASSY 工程の反転作業をなくした.また,ECU 基板をやぐら構造の樹脂ブラケット部品に固定することで,構成部品をロアケース下段から積み上げて組付けられるため組立て性の向上が図れた.
ダイカストケースのサイズが 272(mm)×792(mm)で大型(従来部品の約1.5倍)のため,鋳造可能なダイカスト鋳造設備を有するメーカが限定された.
また,ケース全体のゆがみにより,ケースとカバーの合せ面の平面度がばらつき気密機能に影響を及ぼしてしまうため,ゆがみを考慮した上で切削加工量(削り代)を設定し,金型設計に反映した.
4.気密(直列流路)
従来機種での発熱部品である IPM に加えてDCDC を PCU 内に搭載するため,それらから発生した熱を冷却水で奪い加熱を防止する必要がある.今回は大型鋳造ボディで成型性の観点から作りやすいシンプルな構造にする必要があるため DCDC と IPM の冷却経路を直列につないだ.
直列冷却は,Fig. 5 のように,①DCDC 冷却経路→②ロアケースの水路→③IPM の W/J →④ロアケースの水路の順番とした.直列経路全体の気密性能として,冷却水(LLC)が漏
Fig. 4 Stacking structure
Fig. 3 Basic structure
Fig. 5 Series cooling channel
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3モータ用パワーコントロールユニットの開発
Before change
After change
Frequency [kHz]
Osc
illat
ion
[m/s
2]
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
Five condenser fixing boltsBolt weight changed
DCDC mountingsurface
Cross section(Fig. 7)
W/J cover
StepW/J cover
DCDC mounting surface
LLC channel cross sectionLower case
(Before installation of W/J cover)
(After installation of W/J cover)
FIPG
Heat dissipation water channel
れない実車要件を満足させるため,PCU 内部の②③間および③④間には,ベース機種の2モータハイブリッドシステム用 PCU と同様な O リング構造を採用した.
DCDC 冷却経路①は,PCU 外部環境に直接さらされる部位のため,気密性以外に実車耐環境性を満足させる必要があり,O リングより耐久性の優れた FIPG(Formed In Place Ga s k e t)を用いた.DCDC 冷却部の詳細をFig. 6 と Fig. 7 に示す.
DCDC 冷却部はロアケースに放熱水路を設け,PCU 外側から W/J カバー(Water Jacket)を設置することで,容易に製造できる流路構造とした.また,ロアケースと W/J カバーの間に FIPG を塗布することで気密要件および耐環境性を満足させた.また,ロアケースのFIPG 塗布面に段差を設けることにより LLC流路内に,FIPG が浸入しない構造とした.
Fig. 6 DCDC cooling part
Fig. 7 DCDC cooling part cross section
Fig. 8 Condenser vibration vs Frequency
5.高周波振動
PCU は大電力を高周波でコントロールするため,コンデンサの内部素子が高周波で振動する.その振動が PCU ケースを介して車体に伝わり,車内の静寂性が悪化する.その対策として,振動発振源となるコンデンサと伝達経路である PCU ケースを締結するボルトの形状を変更し,振動共振点を変化させ,課題となっていた周波数帯の振動を低減した(Fig. 8).また,ボルトの形状,質量によっては異なった周波数帯域の低減効果が見込めるため,状況に応じて最小限の設計変更で対策をとることが可能となる.
6.ノイズ
PCU は IGBT スイッチングによるリンギングで高周波ノイズが発生するため,課題となる周波数帯でのノイズレベルを低減する対策が必要となる.Fig. 9 は共振点が 10~20MHzとなる Y コンデンサのインピーダンス周波数
技術紹介
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ケーヒン技報 Vol.6 (2017)
Fig. 9 Impedance frequency characteristic of Y condenser
Frequency [MHz]
Impe
danc
e
1 10 100
本開発を遂行するにあたり,株式会社本田技術研究所の皆様および構成部品メーカの皆様からご協力をいただき,大変感謝しております.
最後に,いろいろな困難を乗り越え量産することができたのも,本プロジェクトメンバーはもちろんですが,関わっていただいた全ての皆様のおかげと思っております.今度も更なる高性能 PCU の開発に向けよろしくお願い致します.
本当にありがとうございました.(中村)
著 者
中 村 武
Before change
After change
Frequency [MHz]
Noi
se le
vel
1 10 100
Fig. 10 PCU radiation noise level
7.今後の展望
SUB-COMP と ECU のコモナリティ設計でさまざまな電動車へ PCU のバリエーション展開が可能である.
今後更に加速する電動化に向けて,本開発で培った気密技術,高周波振動抑制技術およびノイズ抑制技術を活かし,更なる高性能,高信頼性製品を提供することで電動車の価値創造に貢献していきたい.
特性であり,静電容量 C と配線長 L を調整し,狙った周波数帯に共振点 F を設けることで,Fig. 10 に示すよう PCU からの放射ノイズレベルを低減した.
参考文献
(1) 松本栄伸ほか:ハイブリッド車向けパワーコントロールユニット,ケーヒン技報,Vol.5 (2016)