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小特集 大型装置計測のためのミリ波技術の開発 4.ミリ波デバイスの開発動向 4.1 ミリ波集積回路の開発 (株式会社テラテック) Recent Development of M皿imeter-Wave Device Development of Millimeter-Wave Integrated Circu MATSUURA Hiroyuki T6勉!60Coゆo解!歪o%,To妙0180-8750,∫砂伽 (Received24September l998) Abstract Abasicprincipleofheterojunctionbipolartransistors(HBTラs)andt cuit fQr the microwave and.m皿imeter-wave frequency range is descr millimeter-waVe integrated CirCUit,an OSCillatOr,a freqUenCy mixer,and shown.The monolithic oscillator generates an80GHz signal using a 畑ax=180GHz.The mixer using Schottky-barrier(1iodes(SBD’s)with an HBT I conversion gain at95GHz.It includes a rat-race circuit as a signal isolation tector chip has a bow-tie antema,an SBD mixer,and an HBT IF amplifier.T special base and is measured at85-99GHz. KeywordSl HBT,SBD,GaAs,CPW,millimeter-wave,integrated circuit,oscillator,negat frequency mixer,rat-race,bow-tie antenna 4.1.1 ミり波HBT素子と集積回路の構成 近年,自動車レーダーやミリ波通信などに代表される ミリ波応用システムの二一ズと,半導体技術のめざまし い進歩によって回路素子の高速化が可能となったシーズ とが重なり,ミリ波集積回路の研究開発が数多くの研究 機関で行われている.この帯域で集積化が可能な超高速 素子としてHBT(Heterojunction Bipolar Transistor)と HEMT(High Electron Mobility Transistor)とが3端子 素子の代表的なものである.前者は,通常のバイポーラ トランジスタを半導体材料および構造をかえて高速化し たもの,後者は電界効果トランジスタ(FET:Field EffectTransistor)を同様に高速化したものである.こ の項では,HBTについてその構造と特性について述べる. HBTを使った集積回路の断面図をFig.1に示す.半 導体基板はガリウム砒素(GaAs)で,直径が3インチ ないし4インチのものが通常用いられる.この上にFig. 1のような各種素子が半導体技術で集積化される. まずFig.1のHBTはnpn型であり,そのバンド図を シリコンバイポーラトランジスタと比較してFig。2に 示す.Fig.2では,Fig.1の断面図において上にあるエ ミッタ部分を左方に描いた.バイポーラトランジスタに はベースとエミッタ間およびベースとコレクタ間の2つ o厩ho湾6一刀伽ゐ別α醜z媚@!6観66.ッo々09σz畝ooブρ 1399

4.ミリ波デバイスの開発動向jasosx.ils.uec.ac.jp/JSPF/JSPF_TEXT/jspf1998/jspf... · frequency mixer,rat-race,bow-tie antenna 4.1.1 ミり波HBT素子と集積回路の構成

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  小特集

◎  大型装置計測のためのミリ波技術の開発

4.ミリ波デバイスの開発動向

   4.1 ミリ波集積回路の開発

 松 浦 裕 之

(株式会社テラテック)

Recent Development of M皿imeter-Wave Devices

Development of Millimeter-Wave Integrated Circuits

    MATSUURA HiroyukiT6勉!60Coゆo解!歪o%,To妙0180-8750,∫砂伽

   (Received24September l998)

Abstract

 Abasicprincipleofheterojunctionbipolartransistors(HBTラs)andthestructureoftheintegrate(lcir-

cuit fQr the microwave and.m皿imeter-wave frequency range is described.As examples of the

millimeter-waVe integrated CirCUit,an OSCillatOr,a freqUenCy mixer,and an integrate(i deteCtOr are

shown.The monolithic oscillator generates an80GHz signal using a GaAs HBT with方=130GHz and

畑ax=180GHz.The mixer using Schottky-barrier(1iodes(SBD’s)with an HBT IF amplifier has a9.5(IB

conversion gain at95GHz.It includes a rat-race circuit as a signal isolation element.The integrate(l de-

tector chip has a bow-tie antema,an SBD mixer,and an HBT IF amplifier.The chip is mounted on a

special base and is measured at85-99GHz.

KeywordSlHBT,SBD,GaAs,CPW,millimeter-wave,integrated circuit,oscillator,negative resistance,

frequency mixer,rat-race,bow-tie antenna

4.1.1 ミり波HBT素子と集積回路の構成

 近年,自動車レーダーやミリ波通信などに代表される

ミリ波応用システムの二一ズと,半導体技術のめざまし

い進歩によって回路素子の高速化が可能となったシーズ

とが重なり,ミリ波集積回路の研究開発が数多くの研究

機関で行われている.この帯域で集積化が可能な超高速

素子としてHBT(Heterojunction Bipolar Transistor)と

HEMT(High Electron Mobility Transistor)とが3端子

素子の代表的なものである.前者は,通常のバイポーラ

トランジスタを半導体材料および構造をかえて高速化し

たもの,後者は電界効果トランジスタ(FET:Field

EffectTransistor)を同様に高速化したものである.こ

の項では,HBTについてその構造と特性について述べる.

 HBTを使った集積回路の断面図をFig.1に示す.半

導体基板はガリウム砒素(GaAs)で,直径が3インチ

ないし4インチのものが通常用いられる.この上にFig.

1のような各種素子が半導体技術で集積化される.

 まずFig.1のHBTはnpn型であり,そのバンド図を

シリコンバイポーラトランジスタと比較してFig。2に

示す.Fig.2では,Fig.1の断面図において上にあるエ

ミッタ部分を左方に描いた.バイポーラトランジスタに

はベースとエミッタ間およびベースとコレクタ間の2つ

o厩ho湾6一刀伽ゐ別α醜z媚@!6観66.ッo々09σz畝ooブρ

1399

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プラズマ・核融合学会誌 第74巻第12号  1998年12月

Emitξer

BaseCollector

一AIGaAs

P+lnGaAsn-GaAs

n+GaAs

1st meta1:Au

Ta2052nd meta1:Au

  TaN

HBT Sch(蹴ky   Capacitor Resistor

ba曲or dio(1e

4-inch Semi-insulating GaAs substrate

Fig.1 Cross section of HBT integrated circuit

Emitter  国   Base

 n   l         P     魯

     匁⑭ ⑳ ⑫⑫⑫

  ◎

をMinority carrierir唾ec丘on

Collector

 n

(a)Silicon bipolar碇ansistor

Emitter      Base     嬉(湘G訟s)1(lnG訟s)  n       p     摺     厚⑫  ⑫@㊥

WideBandGap    ◎

穿Nominoritycarrierinjec丘on

(b)HBT

l Collector

l   n図

富 ⑫

Fig.2 Energy-band diagram.

の接合が存在する.HBTはヘテロ接合,すなわち異種

半導体接合を少なくともエミッタとベース間に用い,以

下に示す特長をだす.まず,従来のシリコンバイポーラ

トランジスタは半導体のバンドギャップの性質が同一で

あるシリコン材料どうしで接合を形成している.一般に

この高速化のためには各電極面積の微細化,および膜厚

を薄くすることが必要となる.同時に内部抵抗値を小さ

く保たなければならないので,ベース領域に高濃度の不

純物ドーピングをすることになる.この結果ベースから

の少数キャリアがエミッタに注入されるという間題が生

じ,トランジスタとしての電流利得が低下する.また,

膜厚を薄くすることにより耐電圧が低くなるという間題

点も生じる.そこで,エミッタとベースに異種半導体を

用いることによって,エミッタ側のバンドギャップを広

くするようにして,少数キャリアの注入を阻止し,電流

利得を確保できるようにする.また,シリコンに比べて

GaAsは飽和電子速度が大きく,極端に膜厚を薄くしな

くてすむので,耐電圧低下を防ぐことができる.これが

HBTである[1,2].

 Fig.1ではエミッタ材料にAIGaAs(アルミニウム・

ガリウム・砒素),ベース材料にInGaAs(インジウム・

ガリウム・砒素)を用いた例を示したが,このほかにも

いろいろな組み合わせが研究開発されている.エミッタ

にAIGaAsやInGaP(インジウム・ガリウム・燐),ベー

スにGaAsを用いたものがしばしば用いられる.さらに

は,基板材料にInP(インジウム・燐)を用いて超高

速化を図ったもの[3],基板材料はシリコンでベースに

SiGe(シリコン・ゲルマニウム)を用いて,シリコン

系半導体の蓄積技術を受け継ぎながら高速の特長を加え

ようというHBTがある[4].いずれにせよ,これらは

1つの半導体元素を用いるのでなく,化合物を用いるこ

とによって特長をだすので,化合物半導体と呼ばれる.

 HBTの最高周波数の発表例としては,InP系素子を

形成後Transferred-substrateと呼ばれる技術で,微小

電極でも放熱をとれる構造にしたもので,電流増幅カッ

トオフ周波数乃=164GHz,最大発振可能周波数五n、x

=400GHz以上という例がある[5].ここで電流増幅カ

ットオフ周波数とは,通常エミッタ接地回路でベースに

流した電流がコレクタに何倍になって現れるかという電

流増幅率が1,すなわち増幅しなくなる周波数をいう.

また,最大発振可能周波数とは,理想的な共振素子をつ

けたときの最大発振可能周波数をいう.実際には回路損

失などの理由でこれらの周波数まで使用はできないが,

素子単独の能力を比較するのによく用いられる数値である.

 さて,Fig.1中のHBT以外の素子について述べる.

超高周波用のSBD(ショットキバリアダイオード)は,

HBTのコレクタ層にショットキ電極を形成することで

実現でき,別の半導体層は必要としない.ダイオードに

1400

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小特集 4.1 ミリ波集積回路の開発 松浦

、…編曙漸capacit・r   waveguide 血duct・r

GaAs substrate

Fig。3 Passive elements using interconnec重Iayer.

順バイアス電圧を印加し電流を流した状態であるオン時

の等価抵抗値と,ゼロバイアス容量値をかけた時定数の

逆数をカットオフ周波数と呼び,例えば1.3THz(1.3×

1012Hz)の値を持つ[6].また,受動素子であるコンデ

ンサは通常MIM(Metal-lnsulator-Meta1)構造,すなわ

ち2枚の金属配線層で誘電体を挟むことで形成する.

Fig,1の例では誘電体に五酸化タンタルを用いて,930

pF/mm2の容量値をもつ.また配線層には金が通常用

いられる.図示してないが,この2つの配線層の間の絶

縁膜としてはポリイミドを使用している.MIM構造以

外のキャパシタとして,Fig.3左に示したように,同一

平面上の櫛形の2つの配線パターンを対向配置したイン

ターデジタル型キャパシタがある.

 集積回路上のマイクロ波・ミリ波信号の伝送線路とし

ては,Fig.3中央に示したcpw(コプレーナウェーブ

ガイド)を我々は用いている.この信号線幅および線問

隔で線路の特性インピーダンスを制御できる.なお,こ

のほかに一般によく用いられる伝送線路としてはマイク

ロストリップ(Microstrip)があり,基板裏面をグラン

ドプレーン,表面に信号線層を形成した伝送路である

[7].ただし,これを使用する場合には基板の表裏をつ

なぐためのヴィアホールが必要となるが,CPWでは基

板の表裏をつなぐことは不要である。インダクタはこれ

らの伝送線路を用いるか,配線を渦巻き状にパターンニ

ングしたスパイラルインダクタ(Fig.3右)がしばしば

用いられる.

 Fig.1の右端には薄膜抵抗を示した.抵抗材料は窒化

タンタルである.このほかに抵抗素子を実現する方法と

して,半導体層を抵抗として用いる簡便なものもあるが,

抵抗値の精度,温度特性,電圧電流関係の非線形性など

が間題になり,一般に薄膜抵抗の方が優れている.

 以上HBTの概要およびミリ波集積回路に用いられる

回路素子について述べた.これらは,基板上に平面的に

並ぶように設計され,各層のパターンを形成するための

複数のフォトマスクが作成される.基板の半導体素子の

縦方向の層構造はMBE(MolecularBeamEpitaxy)や

MOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Depositlon)

といった装置で一括して形成される.これに上記のフォ

トマスクのパターンをステッパなどの露光装置で転写

し,エッチングで不要半導体層を取り除いたり,またス

パッタや蒸着などの方法で金配線や誘電膜の層を形成す

ることなどを繰り返し,前述のような集積回路構造を実

現する.

 以下の項では我々が開発したミリ波集積回路について

概略を述べる。

4.1、2 ミリ波発振器

 ミリ波帯の発振器の能動素子として,従来はガンダイ

オードやインパットダイオードなどの2端子素子が多く

用いられてきたが,前項で述べたHBTやHEMTの3端子素子を使った回路開発が現在盛んに行われている.

共振素子はIC上の伝送線路を用いるものや[8,9],高

い安定度をめざすために誘電体共振器をチップ上に装着

した例がある[10].

 Fig.4に我々が開発したミリ波発振器の回路例を示す

[8,9].HBTのベース側にインダクタンスとして働く伝

送線路を接続することによって,エミッタ側から見ると

負性抵抗成分が等価的に発生する.ここに別の伝送線路

を共振素子として接続し,伝送線路の損失分を負性抵抗

で打ち消すことによりミリ波信号を発振する.したがっ

て発振周波数はこれら2つの伝送線路およびHBTの特

性によって決定できる.一般にトランジスタを用いたミ

リ波発振器ではトランジスタから出力負荷回路を見たイ

ンピーダンスを低くする必要があるが,この例では単に

■。J Ulll  ■)u且且1 τ

0.8pF      8ΩTFMSL笛580um

   CPW   L器420um     CPW     L=190umVbb=1.5V 300Ω

3pF1pF

    Vcc=2V}

Emitter Size:

1。5um×10um Output

L:_瑛h濡房レ12飴  Fig.4 Schematic diagram of the oscillator.

1401

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プラズマ・核融合学会誌 第74巻第12号  1998年12月

低抵抗を接続することによって実現した.コレクタに直

流バイアスを印加する伝送線路にはTFMS(ThinFilm Microstrip:薄膜マイクロストリップ),すなわち

2つの配線層の片方を信号線に他方をグランドプレーン

としたものを用いた.この場合の誘電体は層間絶縁膜で

あるポリイミドである.前述のGaAs基板を誘電体に用

いるマイクロストリップにくらべ,誘電率は低いが誘電

体厚さが非常に薄いため信号線幅が狭くなる。このため

伝送線路における損失は大きくなるが,この部分は直流

バイアスを印加するので大きな影響はない.

 チップ写真をFig.5に示す.パターンサイズは玉。O

mm×0.35mmである.同図中央の上下方向にベース側

およびエミッタ側のCPW伝送線路がみえる.このチッ

プのHBT単体の特性はfr=130GHz,畑ax=180GHz

であり,発振回路としての動作結果は周波数80.7GHz

で出力レベルは一9dBmであった.

 今後の方向としては,発振周波数および発振レベルの

アップがまず第一にあげられる.このためには発振トラ

ンジスタの性能向上のみならず,伝送線路長やそのイン

ピーダンスの最適化,バッファ増幅段の付加などを検討

している.また,逆バイアスを印加したSBDを可変容

量ダイオードとして用い,発振周波数を可変にした

i霧

VCO (電圧制御発振器)を実現することも応用面から

は重要である.

4.1.3 ミリ波ミキサ

 ミリ波帯で動作するミキサ,すなわち周波数変換回路

には様々な回路方式がある.一般に周波数変換回路はト

ランジスタやダイオードの非線形特性を使って,2つの

入力信号の差周波数または和周波数の信号を出力する.

トランジスタを用いた場合,入出力が比較的容易に分離

できる利点があり,低い周波数では多数実用化されてい

る.しかし,ミリ波帯では素子の増幅度などの問題があ

り,ダイオードを用いる例がまだ多い.ダイオードを用

いた場合,2つの入力信号が出力側に漏れないよう分離

回路が必要となる.このために,いろいろな回路形式が

研究開発されているが,ラットレース(Rat-race)を用

いた例をFig。6に示す[6,11,12].ラットレースは4分

の1波長の伝送線路を6本リング状に接続したものであ

る.ある節点から入力した信号は,その隣の点,および

正面の点には現れるが,4分の1波長伝送線路2つ分の

距離だけ離れた点には,右回りの信号と左回りの信号が

打ち消しあい信号が現れない.したがってFig.6のRF

(RadioFrequency)端子とLO(Loca10scillator)端子に

印加したミリ波信号は,ラットレース上のダイオードに

加わる.しかし出力を取り出すIF(lntermediateFre-

quency)側にはこれらの信号は現れない.ここではRF

入力は未知または微弱なミリ波信号,LOはシステム内

部で持っている基準信号を印加する.これらRFとLO

端子に印加する信号は近接した周波数であるが,IF端

子に出力される信号はその差周波数でミリ波信号に比較

RF州  Rat.racecircuit

  O53pF

認de

   モZ25pF馬1辮

LO

053pF

m

4、67pF

⊥42

531 野2.10pF IO3

79

4

Z55pFτ画          VCC

Fig.5 Photographofthe80GHzosci鋪ator.

一CPW(A quarter-wavelength)

OUT

Fig,6 Schematic diagram of tわe SBD mixer witわthe HBT

   lF ampiifier.

1402

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小特集 4,1 ミリ波集積回路の開発 松浦

して十分低い周波数であるので,前述の動作となる.

 ミキサでは前述のようにSBDの非線形性を用いる

が,その性質をより強く生じさせるために,電圧電流特

性の変化が急になるよう直流バイアスを別途与える.

Fig.6の回路では2つのSBDに直列にバイアスを印加

している.また,ラットレースの出力を,4分の1波長

伝送線路を用いたローパスフィルタに印加し,ミリ波成

分の除去を確実にしている.さらにIF信号を2個の

HBTを用いた増幅器で増幅した.使用したSBDのカッ

トオフ周波数は1.3THz,HBTの高周波特性は方二50

GHz,ノ油、=50GHzである.チップ写真をFig。7に示す.

チップサイズは1.Omm×2.Ommである.

 2つの入力に90GHz帯域のミリ波を周波数差圭.2

GH:zで印加した時の特性をFig.8に示す.同図には,

入力RF信号レベルに対しての出力IFレベルの大きさ

の比である変換ゲイン(Conversion Gain)と,-LO端

子に印加した信号のRF端子への漏れ(LO-RF Leakage)

とを示す.この漏れ信号は外部へ再放出されたりするの

で小さい方が望ましい.95GHzにおいて変換ゲイン9.5

dB,漏れの量が一29dBの良好な結果を得た.

騰轟塑擁』響翌・ 、癬繭」口

4.1、4 集積化ミリ波検出器

 前述のミリ波ミキサとIF信号の増幅の機能のほか

に,空間を伝播するミリ波帯域の電磁波を電気信号に変

換するアンテナを半導体基板上に集積した例について述

べる[13].Fig.9に回路図を示す.このアンテナはボウ

タイ(bow-tie),型と呼ばれ,周波数特性をあまり持た

ない超広帯域特性が得られることが知られている.アン

テナヘは後述するように空間からミリ波帯のRF信号,

LO信号を印加する.アンテナで電気信号に変換された

両信号はアンテナ中央のSBDでミキシングされ差周波

数の信号を取り出し,前項と同様のHBT増幅器で増幅

する.この場合,アンテナに生じるミリ波は微弱であり

ラットレースなどの分離回路を使用しなくても動作に大

きな支障はない.SBDには直流バイアスを重畳して非

線形性を強くして効率を上げる.

 チップ写真をFig.10に示す.チップサイズは2.Omm

×4.Ommである.これをケースに実装する場合,通常

のミリ波集積回路と異なり,空間からRF信号および

LO信号を印加する必要があるので,Fig.llの断面図に

示す構造とした.GaAsチップの表面からLO信号と裏

面からRF信号を空間的に照射する.GaAs基板の比誘

電率は約13であるので,チップ裏面側の方がミリ波の感

度が大きい.チップの横にはIF信号の取り出しと直流

Fig.7 Pわotograph ofthe mixer.

3.40mm

2,44mm

弍Diode bias

團.拶

100

CPS

τZlpF畢1pF《7pF

圖VCC

531

  2.1pF

辮.灘486

542  79

遡Fig.9 Schematic diagram of the iategrated millimeter

   wave detector.

 曽10訂          Convers亜onGain圏 0悟3“10昭.20・寒

〇一30麟

.9-40鴇の>一50蓉   88   90   92   94   96   98   100

Q        LO Frequency[GHz1

Fig,8 Conversion gain and Ieakage ofthe mlxer,

華§

講藤

轡噸鰯撫

無磯轍臨翼鍵

Fig.10 Photograph of the integrated millimeter wave de-

   tector.

1403

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プラズマ・核融合学会誌 第74巻第12号  1998年12月

バイアスを印加するためのアルミナ基板を配置し,全体

は真鍮に金メッキしたケースにマウントした.Fig.12

に実測結果を示す.これは,IF周波数が2GHzになる

ようにRFとLO信号を印加したときの各信号の周波数

特性である.RFおよびLO信号レベルはホーンアンテ

ナで空間に放射する前の総量であり,この電力のごく一

部分がアンテナで受信されている.したがって,これら

の値はあくまで参考値である.しかしながら,この結果

から,広帯域で動作していることがわかる.また,設計

上では周波数帯域をFig。12の値だけに制限する要素は

ないので,さらに広帯域動作が期待できる.このチップ

の応用としてプラズマが発生するミリ波帯の信号観測を

考えており,現在試験中である.

4.1、5 今後の展望

 以上HBT素子の動作の概要と,HBT素子を含む半

導体プロセスを用いて我々が開発したミリ波集積回路に

ついて述べた.今後の一般的な展望としては,素子の高

速化,高出力化,高集積化および高信頼性化などの視点

                  Top cover灘1畢轡i………………鋲…………………………

          6mm                 Alumina substratePattem&device side               for DC bias an(l IF

                 comecti㎝

一      含.響…雌

Fig.11 Cross section of GaAs cれip mounting,

40_ ……

 qQ 三30

で各種の改良が実施されるであろう.材料系の研究によ

ってエネルギーバンドを自在に操作するバンドエンジニ

アリング,素子の各部の寸法の最適化などが重要なポイ

ントである.

 現在のHBTの製品応用としては携帯電話用パワーア

ンプというやや低い周波数の電力増幅応用が一般的であ

る.しかしながら,まだまだデバイスの改良余地は多く

あり,回路についても工夫できる点が数多くある.今後

も半導体プロセス開発と回路開発とをコンカレントに進

め,さらに高性能または実用的なミリ波帯域およびマイ

クロ波帯域の集積回路を実現できると考える.

e-40国三

 一50

謝辞

 本稿をまとめるに際し,株式会社テラテック第1研究

部の各位のご協力に深く感謝いたします.

撃一60

3』。70

一80

 ぜ 穫1eve1

LOlev l→

RFlve1+〉

 ℃20蚤 臣10略 o 日0

                    一10-90 84    86     88    90    92    94    96    98    100

        LO實equency[GHzI

 Fig。12 Frequency characteris慧cs ofthe module,

        参考文献[1]F.Al呈an(1A.Gupta,伍MTs&珊丁ε’Z)6擁66s,

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