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日手会誌( J Jpn Soc Surg Hand),第 26 巻 第 3 号 101-104,2010
舟状骨偽関節に対する低出力超音波(LIPUS)治療の経験
Key words:
【緒 言】
舟状骨骨折の症例の中には,的確な診断がなされ
ずに初期治療が不十分であったり,患者自身が手術
治療を希望しないなど,何らかの経緯で,受傷後数
か月を経過しても単純 X 線像で骨癒合が得られな
い症例が散見される.本来なら骨移植を含めた手
術治療が検討されるところだが,やむを得ない理
由により,必ずしも可及的早期に手術が実施できな
い場合もある.そのような遷延治癒,偽関節例に低
出力超音波 Low Intensity Pulsed Ultrasound(以下
LIPUS)治療を行い,LIPUS を含めた保存治療に
よって骨癒合が期待できる症例は如何なるものか,
その単純 X 線像の所見の特徴について検討したの
で報告する.
【対象と方法】
対象は 2002 年から 2009 年までに当院で治療し
た舟状骨骨折のうち,保存治療もしくは未治療後に
受傷後 8 週以上を経過しても単純 X 線写真で骨癒
合が認められなかった 23 例である.理学所見上,
手関節運動時痛もしくは舟状骨周囲の圧痛を有し,
遷延治癒または偽関節と診断された症例である.性
別は男性 18 例,女性 5 例.年齢は 14 才から 59 才
で,平均 22 才.受傷から LIPUS 治療開始までの期
間が 3 か月以内の症例は 10 例,3 か月以上 9 か月
以内の症例は 10 例,1 年以上の症例は 3 例であっ
た.LIPUS 治療以前に,初期治療としてギプスな
どの外固定が行われていたのは,3 か月以内では 10例中 6 例,3 か月以上 9 か月以内では 10 例中 4 例
であった.なお,本症例は手術を希望しないなど,
何らかの理由により手術が行われなかった陳旧例で
あり,新鮮例及び月状骨周囲脱臼例については手術
適応としている.
舟状骨偽関節の Filan-Herbert 分類1)(以下 FH 分
類)で X 線評価すると,線維性癒合の D1 が 14 例,
骨折辺縁硬化像を呈する,変形の少ない偽関節の
D2 が 8 例,硬化して変形の進んだ偽関節の D3 が 1例であった.また池田分類2) で評価すると,転位が
ないか,あっても 2 mm 未満の線状型が 10 例,転
位が 2 mm 未満で骨折部に嚢胞状透亮像を示す嚢胞
型が 8 例,2 mm 以上の転位を示すか,骨折部に辺
縁硬化帯が 1 mm 以上ある硬化・転位型(図 1)が
5 例であった.
米国 Exogen 社製 SAFHS を使用し,snuffbox に
プローベをあてて,1 日 1 回 20 分間,LIPUS 治療
を行った.治療期間中の外固定は thumb free の簡
易サポータのみとし,1 kg までの負荷を許可した.
骨癒合の判定は単純 X 線写真または CT で評価し
た.
【結 果】
全 23 例中,18 例(78%)に骨癒合が得られた.
LIPUS 治療開始までの期間が 9 か月以下の症例に
限ると,20 例のうち 18 例(90%)に骨癒合が得ら
れた.表 1 に受傷から LIPUS 治療開始までの期間
別に各骨折型の症例数と骨癒合の有無を示す.FH分類の D1 の 14 例全例に骨癒合が得られた.D2 の
8 例中 4 例,および D3 の 1 例は骨癒合得られな
かった.一方,池田分類の線状型と嚢胞型あわせて
18 例のうち 17 例において骨癒合が得られた.硬
化・転位型では 5 例中 4 例で骨癒合が得られなかっ
た.
受理日 2009/8/24
佐さ
藤とう
明あきひろ
弘,後ご
藤とう
均ひとし
舟状骨偽関節,低出力超音波,保存療法,scaphoid nonunion,low intensity pulsed ultrasound,conservative therapy
ごとう整形外科クリニック 〒980-0811 仙台市青葉区一番町 4-1-1 仙台セントラルビル 5 階
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舟状骨偽関節に対する低出力超音波(LIPUS)治療の経験・佐藤 明弘102
LIPUS 治療期間すなわち癒合例で骨癒合までに
要した期間は 57 日から 269 日,平均 143 日であっ
た.3 か月以内に治療を開始した 9 例の治療期間は
57~186 日で平均 134 日,3 か月以上 9 か月までに
治療を開始した 9 例では 71~269 日で平均 152 日
であった.線状型 9 例の治療期間は 78~183 日で
平均 142 日,嚢胞型 6 例では 57~269 日で平均 156日であった.骨折部位が遠位 1/3 の 6 例の治療期間
は 71~180 日で平均 116 日,中央 1/3 の 9 例と近位
1/3 の 3 例をあわせた 12 例では 57-269 日で平均
157 日であった.
全 23 例中 5 例に,LIPUS 治療開始時に 10 度か
ら 25 度までの DISI 変形を認め,その 5 例中 4 例に
癒合が得られた.癒合しなかった 1 例の変形角度は
17 度であったが,辺縁硬化帯の厚さが 1 mm 以上
あり,硬化・転位型に分類された.
症例を呈示する.
(症例 1)17 才男性.受傷から約 2 か月を経過し
て骨折部に骨吸収像を呈しており,骨折型分類は
FH 分類で D1,池田分類で嚢胞型であった.LIPUS治療開始から約 2 か月で骨癒合した(図 2).(症例 2)24 才女性.受傷から約 3 か月を経過し
た近位部偽関節であり,FH 分類で D2,池田分類
で嚢胞型であった.LIPUS 治療開始から約 4 か月
で骨癒合が得られた(図 3).(症例 3)18 歳女性.初期固定なし.受傷から 18
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舟状骨偽関節に対する低出力超音波(LIPUS)治療の経験・佐藤 明弘 103
か月経過し,骨折部に 1 mm 以上の辺縁硬化帯があ
り,FH 分類で D2,池田分類で転位・硬化型であっ
た.LIPUS 治療開始から約 5 か月で骨癒合傾向な
く(図 4),手術治療となった.
(症例 4)15 歳男性.初期固定なし.受傷から 9か月を経過して FH 分類で D1,池田分類で嚢胞型
であった.LIPUS 治療開始から約 4 か月で CT 上,
骨癒合が確認された(図 5).
【考 察】
舟状骨骨折は,骨膜性仮骨形成がなく,血流が乏
しいため癒合に時間がかかるといった特徴がある.
また,経過中,骨折部に骨吸収像を認める場合もあ
り,数か月を経過して有症候性の場合には遷延治癒
あるいは偽関節と診断され,手術を検討されること
が多い.一方,中村ら3) は,単純 X 線写真で偽関
節と診断した中に,術中所見で癒合を認めた症例を
不顕性癒合として報告しており,受傷から数か月を
経過した時点の X 線像で明確な癒合像がないから
といって,その後,骨癒合が全く期待できないか否
かは不確かである.
FH 分類 D1 は,受傷後 6 週以上経過した fibrous union と定義され1),骨折型としては転位がなく,
骨折線に硬化像がないものである.我々の症例にお
いて,LIPUS 治療の他,サポータ固定や負荷の制
限を含め,それらが骨折の治癒機転に有利に働いた
かどうかは別にしても,結果として FH 分類 D1 の
14 例全てに骨癒合が得られたことから,このよう
な骨折型については,数か月を経過したものであっ
ても骨折治癒過程の途中であって,真の偽関節とは
言えないと思われた.一方で,FH 分類 D2 は,半
数ずつ癒合例と非癒合例が存在していたことから,
治療方針を決定する上で,FH 分類は LIPUS を含め
た保存治療の成否の予測には有用とは言い難いと思
われた.
池田らは,骨折部の転位,吸収,硬化により,骨
折型を線状型,嚢胞型,硬化・転位型の 3 つに分類
して,それぞれの骨折型別に手術治療成績を報告し
ている2).その中で,線状型と嚢胞型においては受
傷からの期間に関係なく,適切な螺子固定をすれば
骨移植なしでも骨癒合が得られると述べている.そ
のことは,両骨折型においては,骨折治癒機転が働
く可能性を残しているとも考えられる.今回,線状
型または嚢胞型に分類された 18 例のうち 17 例で骨
癒合が得られ,硬化・転位型では 5 例中 4 例で骨癒
合が得られなかった.硬化・転位型以外の症例,す
なわち,骨片間の転位が 2 mm 未満,かつ辺縁硬化
帯の厚さが 1 mm 未満という条件を満たす症例は,
LIPUS を含めた保存治療で骨折治癒が期待でき,
それ以外の症例との間で骨折治癒の potential に相
違があることが示唆された(表 2).少数例での検
討ではあるが,池田分類による単純 X 線での骨折
型評価で,LIPUS を含めた保存治療の成否の予測
がある程度可能であると思われた.
線状型の中で骨癒合が得られなかった 1 例につい
ては,受傷後 8 週で骨折部辺縁に滑らかで薄い骨硬
化像が認められていた(図 6).受傷してから骨折
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舟状骨偽関節に対する低出力超音波(LIPUS)治療の経験・佐藤 明弘
と診断されるまでの 2 か月間,柔道競技を継続して
おり,繰り返しの損傷が加わっていた症例であり,
骨折型評価のみで骨折治癒を予測することには限界
があると言わざるを得ない.
最後に DISI 変形については,5 例の検討で症例
数として十分とはいえないが,DISI 変形の有無と
骨癒合の成否に関連がなかった.
まとめ
1.保存治療(もしくは未治療)後に,受傷から
8 週以上を経過しても単純 X 線写真で骨癒合が認め
られなかった舟状骨骨折 23 例に対して LIPUS 治療
をおこない,18 例に骨癒合が得られた.
2.FH 分類 D1 の 14 例全例に骨癒合が得られた.
池田分類の線状型と嚢胞型あわせて 18 例のうち 17例に骨癒合が得られた.
3.受傷後数か月を経過していても,転位が 2 mm未満で,かつ辺縁硬化帯が 1 mm 未満であれば,
LIPUS を含めた保存治療で骨癒合が期待できる.
【文 献】
1) Filan SL, et al.: Herbert screw fixation of scaphoid frac-tures. J Bone Joint Surg, 78: 519-529, 1996.
2) 池田和夫ほか:舟状骨骨折のレントゲン所見に基づい
た治療方針.日手会誌,24: 58-62, 2007.3) 中村蓼吾ほか:舟状骨の不顕性癒合.日手会誌,
13: 238-240, 1996.
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