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NTT技術ジャーナル 2018.854
5Gの実現に向けた総合実証試験
5G実現に向けた研究開発
第 5 世代移動通信システム( 5 G)は,「大容量」「超高速」だけでなく,「多数同時接続」「低遅延 ・ 高信頼」といった新たな特徴も有しており,経済成長に不可欠なIoT(Internet of Things)時代のICT基盤として早期実現が期待されています.世界に先駆けて日本において 5 Gを実現するため,総務省は,欧米,アジア諸国との連携強化を図るとともに,2015年度から 5 G実現に向けた電波の有効利用に資する研究開発に取り組んでおり,NTTドコモおよびNTTは 2 つの研究開発プロジェクトを受託しています.また, 5 Gの技術的条件を検討するため,2016年10月に情報通信審議会に「新世代モバイル通信システムの技術的条件」を諮問し, 5 G用の周波数確保等に向けた検討が行われたことを背景に,2017年度からは, 5 Gの総合的な実証試験(1)
( 5 G総合実証試験)が開始されています.
本稿では,NTTドコモが実施主体となり総務省より請負った平成29年度「人口密集地において10Gbpsを超える超高速通信を可能とする第 5 世代移動通信システムの技術的条件等に
関する調査検討」(試験グループGI)に関する総合実証試験の概要と,その応用分野のうち「エンターテインメント」分野に関する実証試験の事例について紹介します.
総合実証試験の概要
総務省が主導する,さまざまな応用分野における具体的なフィールドを活用した 5 G総合実証試験は,表 1 に示す 6 つの試験グループで構成され,東京などの首都圏のみならず地方においても試験が開始されています.本実証試験は, 5 Gを社会実装させることを念頭に,世界中の企業や大学などが参加できるオープンな環境を構築し,国際的な標準化活動へ貢献することで,世界に先駆け日本で 5 Gを実現することをめざしています.
NTTドコモは 5 G総合実証試験の一部として,試験グループGIの実施を請負っており,人口密集都市環境かつ時速30 kmまでのユーザ端末移動条件において,日本で3.6〜4.2 GHz帯,4.4〜4.9 GHz帯(3.7 GHz帯等),および27.5〜29.5 GHz帯(28 GHz帯)の周波数帯に 5 Gを導入するため,当該周波数帯における電波伝搬特性の解明および同周波数帯を用いた超高速通信
に関して 5 Gの性能評価を実施しています.具体的には2015年度から先行して実施している「第 5 世代移動通信システム実現に向けた研究開発」の成果である種々の 5 G無線プラットフォームなどを活用しながら, 5 G時代のサービスやアプリケーションを組み合わせた総合実証試験環境を効率的に立ち上げました.通信事業者からみたバーティカルプレーヤに対し新たなサービスやアプリケーションを創出できる機会を提供することで, 5 Gを基点とした新たな産業の創出や日本企業の競争力の強化につなげ,また,事業者や無線プラットフォームベンダに対して新たな企業間のコラボレーションを促進しています.
試験グループGIにおける調査検討では,電波伝搬特性の評価,伝送特性に関するシミュレーション評価など技術的な側面の評価も実施していますが,「エンターテインメント」「スマートシティ/スマートエリア」「医療」の 3 つの応用分野においてさまざまなパートナー企業と協力し, 5 Gを活用したサービス ・ アプリケーションのフィージビリティを検証していることが特徴的です(表 2 ).
5G 総合実証試験 エンターテインメント
5Gの実現に向けた総合実証試験の全体概要とエンターテインメント分野における実証試験本特集では, 5 Gの実現による新たな市場の創出に向け,2017年度から開始された総務省の「 5 G総合実証試験」において,NTTドコモとNTTコミュニケーションズが請負った実証試験の内容と実施結果について紹介します.本稿では,試験全体の概要を述べた後に,高臨場・高精細の映像コンテンツを 5 Gで超高速無線伝送し,従来にないさまざまな新しい体感を得ることのできるエンターテインメント分野への応用について,実証事例を紹介します.
奥おくむら
村 幸ゆきひこ
彦 /須す や ま
山 聡さとし
増ま し の
野 淳じゅん
NTTドコモ
NTT技術ジャーナル 2018.8 55
特集
「エンターテインメント」分野の 実証試験事例
5 Gの超高速 ・ 大容量通信の特徴を用いた高臨場 ・ 高精細な映像伝送を活用した,エンターテインメント向けの種々の実証試験を実施しました
(図 1 ).■VRエンターテインメントシステム
2017年12月 8 日〜10日の期間において,東京スカイツリータウン® ・ スペース634にて,東武鉄道株式会社,東武タワースカイツリー株式会社,パナソニック株式会社の協力のもと,4K高精細360度ライブカメラで撮影した映像を 5 G伝送し,220°広視野角ヘッドマウントディスプレイで視聴するVR(Virtual Reality)エンターテインメントシステムの実証試験を実施しました(図 2 ).臨場感あふれるライブコンサート映像の伝送には最大で
表 1 試験グループ
試験グループ GⅠ GⅡ GⅢ GⅣ GⅤ GⅥ
実施概要
高臨場 ・高精細の映像コンテンツ配信や広域監視,総合病院と地方の診療所間の遠隔医療に関する実証
高速移動体(鉄道,バス)に対する高精細映像配信に関する実証
建機の遠隔操作など,移動体とのリアルタイムな情報伝送に関する実証
屋内スタジアムでの自由視点映像の同時配信や鉄道駅構内における高精細映像の収集配信に関する実証
トラックの隊列走行,車両の遠隔監視 ・遠隔操作に関する実証
�生産から消費までの物流管理や在庫管理,自由な働き方を実現するスマートオフィスやテレワークに関する実証
技術目標
ユーザ端末 5 Gbit/sの超高速通信の実現(基地局当り10�Gbit/s超)
高速移動時における2 Gbit/sの高速通信の実現
1ms(無線区間)の低遅延通信の実現
ユーザ端末 5 Gbit/sの超高速通信の実現(基地局当り10�Gbit/s超)
1ms(無線区間)の低遅延通信の実現
100万台/km2の多数同時接続の実現
移動速度 30�km/hまで 90�km/h以上 60�km/hまで 90�km/hまで
試験環境 「人口密集都市環境」「都市またはルーラル環境」
「都市またはルーラル環境」
「屋内・閉空間環境」 「都市またはルーラル環境」
「屋内・閉空間環境」
伝搬特性
「人口密集都市環境(30�km/hまで)」(1)�3.7�GHz帯等(2)�28�GHz帯
「都市またはルーラル環境(90� km/h以上)」(1)�3.7�GHz帯等(2)�28�GHz帯
「都市またはルーラル環境(60� km/hまで)」(1)�3.7�GHz帯等(2)�28�GHz帯
「屋内・閉空間環境」(1)�28�GHz帯
「都市またはルーラル環境(90� km/hまで)」(1)�3.7�GHz帯等(2)�28�GHz帯
「屋内・閉空間環境」(1)�3.7�GHz帯等
性能評価周波数
(3)�3.7�GHz帯等(4)�28�GHz帯
(3)�28�GHz帯 (3)�3.7�GHz帯等(4)�28�GHz帯
(2)�28�GHz帯 (3)�3.7�GHz帯等(4)�28�GHz帯
(2)�3.7�GHz帯等,�28�GHz帯,1GHz以下の周波数帯,免許不要帯(920�MHz,2.4�GHz帯等)
表 2 GⅠ参画企業と役割
GⅠ参画企業 役 割
NTTドコモ ・本実証試験全体の推進 ・統括・実験環境( 5 Gトライアルサイト)の提供
富士通・ �ショッピングモールなどの人口密集屋内環境での高精細映像伝送の実証試験・ �5 G無線装置の提供(エンターテインメント)
華為技術(ファーウェイ)
・ �ホログラフィックレンズ上にMR映像を投影する通信システムの実証試験・ �5 G無線装置の提供(エンターテインメント)
エリクソン ・ �人口密集環境における5G伝送の実証試験・ �5 G無線装置の提供
ノキア ・ �人口密集環境 ・スポーツスタジアムにおける5G伝送の実証試験・ �5 G無線装置の提供(エンターテインメント)
東武鉄道 ・ �エンターテインメント分野における実証試験の推進・ �5 Gトライアルサイトにおける東京スカイツリータウンの実験環境整備 ・調整
東武タワースカイツリー
パナソニック・ 4K 360°ライブカメラによるVRエンターテインメントの実証試験・ �220°広視野角ヘッドマウントディスプレイおよび4K接写カメラ(医療)の提供
シャープ ・ �8KマルチチャンネルMMT伝送の実証試験・ �映像側誤り訂正符号化に対応した8Kデコーダの提供
ジャパンディスプレイ
・ �低消費ディスプレイによる屋外デジタルサイネージの実証試験・ �4K反射ディスプレイの提供
NTT ・ �スポーツイベントにおける高精細中継カメラ映像伝送の実証試験・ �協調無線LANシステムの提供
インフォシティ ・ �スポーツイベントにおける高精細ライブビューイングサービスの実証試験・ �高精細カメラ,4Kライブエンコーダ,映像スイッチャーの提供
NTT技術ジャーナル 2018.856
5Gの実現に向けた総合実証試験
70 Mbit/s程度の帯域が必要となりますが, 5 G無線伝送によりリアルタイムに複数ユーザへ配信できたほか,配信サーバに実装した可変レートの映像エンコーダにより,時々刻々変化する各ユーザの通信状況に応じて映像圧縮することで安定した配信も実現できました.スポーツ競技場やコンサート会場にいるような臨場感を体感できる新しいエンターテインメントとしての活用が想定され,ご体感いただいた一般のお客さまの約 7 割の方々より,本システムで遠隔地のライブコンサートを体験したいなどの好評を得ました.■MRを活用した新コミュニケーションシステム同期間において,東武鉄道,東武タ
ワースカイツリー,華為技術日本
(ファーウェイ ・ ジャパン)株式会社の協力のもと,東京スカイツリー®の展望デッキ(地上340 m)屋内と浅草駅EKIMISE屋上を 5 Gで接続し,浅草駅ビル内にいる人物の映像を,MR
(Mixed Reality)技術を用いてヘッドマウントディスプレイ上に3Dで再現する新しいコミュニケーションスタイルの実証試験も実施しました(図 ₃ ).1.2 kmの長距離伝送や展望台を覆うガラスによる挿入損失などの無線伝送の観点では厳しい条件がそろいましたが最大4.5 Gbit/sの伝送速度を達成し,遠隔地の人物の3D映像をホログラフィックディスプレイ上に再現することに成功しました.本システムによる臨場感のあるリアルタイムな会話は,将来の3Dでのスポーツイベントの中
継を見据えた双方向映像伝送などへの活用が想定されています.■東京スカイツリータウン®における実証試験2018年 3 月 5 日〜 8 日の期間には,
東京スカイツリータウンおよび東京ソラマチ®の屋内外に試験環境を構築し,人口の密集する商業施設における 5 Gを活用したサービスの実現性を検証しました(図 ₄ ).
シャープ株式会社との協力では,5 Gを介した8K映像のマルチチャンネルMMT(MPEG Media Transport)伝送の実証試験を行い,無線(物理層)レイヤと映像(アプリケーション)レイヤの双方での前方誤り訂正処理により安定した映像品質が得られることを確認しました.事前に実施した
図 1 GⅠ「エンターテインメント」分野実証試験概要
5 Gユーザ端末を模擬した試験装置5 G基地局を
模擬した試験装置
コンテンツサーバ
5G
VR・ARを活用した現実拡張体験
高臨場パブリックビューイング
高精細映像中継
図 3 MRを活用した新コミュニケーションシステム
MRによる3D映像
東京ソラマチ 5階 スペース634浅草駅(EKIMISE)
図 2 VRエンターテインメント
NTT技術ジャーナル 2018.8 57
特集
室内実験では,H.265/HEVC(High Efficiency Video Coding)の映像符号化により平均80 Mbit/sの伝送レート を 必 要 と す る8K映 像 を 5 Gで12チャンネル伝送することにも成功しており,さまざまなイベントにおける仮設パブリックビューイングなどへの応用が期待されています.
株式会社ジャパンディスプレイとの協力では,超省電力型反射ディスプレイを屋外に設置し,商業地におけるデジタルサイネージの実証試験を行いました.試験では,ディスプレイ 4 枚のタイリングにより4Kの解像度を実現し,広告などを想定した高精細な映像コンテンツを基地局から伝送して順次表示を行い,屋外光の下で画質劣化なく十分なコントラストと色再現性を確保した表示ができることを確認しました.一般観光客を対象とした被験者アンケートでは反射ディスプレイ特有の自然な表示,見映えに関して好評を得ました.将来的には 5 G移動局との組合せによるケーブル(AC電源)レスのデジタルサイネージの柔軟な設置が期待できます.
富士通株式会社との協力では,商業施設を模した屋内に 5 Gの超高密度分散アンテナを配備し,ショッピングモールにおける商品情報などの表示を想定した4K高精細映像を移動局へ伝送する試験を実施しました.移動中の複数移動局への同時高精細動画伝送や,移動局の周辺を複数の歩行者が歩き回る検証試験を行い,入り組んだ複雑な形状のテナントにおいても分散アンテナの協調制御を用いたダイナミック仮想セルにより安定して映像伝送できることを確認しました.
■ ₅ Gトライアルサイト®における無線伝送試験2018年 3 月19日〜20日の期間には,
ドコモが東京スカイツリータウン®に構築した「 5 Gトライアルサイト」において 5 G無線伝送試験を実施しました(図 ₅ ).伝送装置諸元は中心周波数27.9 GHz,帯域幅730.5 MHz,アン
テナ素子数(基地局:128× 2 ユニット,移動局: 8 )です.
屋外環境において 2 ユーザ同時接続時に最大10.2 Gbit/sのスループットを観測,実フィールドにおいて超高速 ・ 大容量通信を実現できることを確認しました.
図 4 東京スカイツリータウンにおける実証試験
8K映像マルチチャンネルMMT伝送実証試験
4K反射ディスプレイによるデジタルサイネージ実証試験
東京スカイツリータウン 4階 スカイアリーナ に5G通信環境を構築
超高密度分散アンテナによる高精細映像伝送実証試験
図 5 5 Gトライアルサイトにおける無線伝送試験
5G移動局① 5G移動局②
5G移動局②
5G基地局
5G移動局①
NTT技術ジャーナル 2018.858
5Gの実現に向けた総合実証試験
■スポーツイベントのライブビューイングに関する実証試験2018年 3 月19日には,スタジアム
においてスポーツイベントの4K高精細ライブビューイングサービスに関する実証試験を行いました(図 6 ).本試験は,スタジアム内に設置された高精細カメラ映像の大容量データを,5 Gにより低遅延でリアルタイム伝送し,スタジアム施設内のみならず,施設外スペースにおいても,同時刻に臨場感を持って観戦体験できるエンターテインメントサービスの提供を念頭に実施しました.具体的には,外野席に設置した 3 台の4K高精細中継用カメラ映像を,NTTアクセスサービスシステム研究所の提供する協調無線LANシステムおよびPON(Passive Optical Network)によって,バック
スクリーン付近に設置した 5 G基地局まで伝送し,さらにスタジアム外の施設まで 5 Gで伝送しました.また,株式会社インフォシティの協力のもと,4Kライブビューイングシステムを構築し,ライブビューイング会場側にて5 Gで伝送された高精細映像を切り替えて大型モニターでの観戦体験を提供しました.スタジアムから離れた位置にある施設外スペースにおいても,同時刻に,スタジアムさながらの臨場感で観戦体験できること,また,無線伝送により従来のシステムに比べてサービス自体の設営時間を大幅に削減できることを確認しました.
■参考文献(1) ht tp ://www.soumu .go . jp/menu_news/
s-news/01kiban14_02000297.html
図 6 スポーツイベントのライブビューイングに関する実証試験
ライブビューイング会場ビル側 5 G端末
遠隔地での4Kライブビューイング実証試験4K映像スイッチャースタジアム外野席にカメラを設置
スタジアム側 5 G基地局
(左から) 増野 淳/ 奥村 幸彦/ 須山 聡
5Gは超広帯域やビームフォーミングを前提とした超高速 ・大容量通信などの技術的な特徴もさることながら,商用展開前からさまざまな業界と連携し5Gを活用した新たなサービスや産業創りに取り組んでいることも大きな特徴です.NTTドコモは技術 ・サービスの両輪で5Gによるイノベーションを推進していきます.
◆問い合わせ先NTTドコモ� R&D戦略部TEL 03-5156-1749E-mail dtj nttdocomo.com
*1 「東京スカイツリータウン」「東京スカイツリー」は,東武鉄道株式会社,東武タワースカイツリー株式会社の登録商標です.
*2 「東京ソラマチ」は,東武鉄道株式会社の登録商標です.
*3 「 5 Gトライアルサイト」は,株式会社NTTドコモの登録商標です.