27
Meiji University Title Author(s) �,Citation �, 48(1): 65-90 URL http://hdl.handle.net/10291/5808 Rights Issue Date 1964-11-26 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

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Meiji University

 

Title 商業資本の歴史的発展

Author(s) 染谷,孝太郎

Citation 明大商學論叢, 48(1): 65-90

URL http://hdl.handle.net/10291/5808

Rights

Issue Date 1964-11-26

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

Page 2: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

(65)

の歴

・染

一 商業資本の歴史的発展一一65

一二三四

前期的商業資本

近代商業資本

小商品生産がとくに広範化した時期の商業資本

マニュファクチュア段階の商業資本

一、前

前期的商業資本は、それと

「双児的関係」にあ

った高利貸付資本とともに資本主義的生産様式よりも古

い時代から

(1㌢

存在

し、

「事実

上では、資本

の、歴史的に最

も古

い自由

な実存様式」

であ

った。

このような前期的資本は、古代

エジプ

ト、

バビ

ロニア》

ェニキア、ギ

リシ

ァ、

ロー

マの時代

より存在し、単純

な商品

.貨幣流通

の後退がみられ

た中世

にお

いてその存在領域を狭

められたが、第

三な

いし第四回の十字軍以後そ

支配力と独自性

をたかめた。

ェルナー

.ゾ

ンバルトは、

ラテ

ン商業

民族による・コンスタ

ンチノープ

ル征服

の年

たる西暦

=

一〇

四年

(第四回十

Page 3: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

66叢一仏醐

学一 商(66)

字軍の最後の年

)をも

って

「資本

主義

の生誕の年」とし、

これに対

して、

ルヨ

・ブ

ンター

ノは、資

本主義

は人類

の歴

史とと

もに古くから存在

し、

一二〇四年

「資

本主義

の生誕

の年」

であるよりもむしろそれ

が完全

な成長を遂げた年

戸2)

であるとしている。

ンバルトの早期資本主義

(即巷冨警呂。・目仁ω)あるいは商業資本主義

(密昆。ポ冨葺巨‖

5)やブレンターノの古代

資本主義

(民餌富呂。日5

〉ぎ詳c日)は、

いずれにせよ前資本主義的生産と結び付

いた単純な商品

・貨幣流通の存在

を前提とした前期的資本ことに前期的商業資本の独自的な活動がみられる社会なのであり、近代資本主義的商晶生産

の担当者たる近代産業資本とそれに従属する近代商業資本が剰余価値の収奪と分配とを本格的に行なう社会とは本質

的に異なる。

ここで問題となる前期的資本は、ことに、近代産業資本主義成立以前すなわち封建制社会の解体期における資本で

あり、そのような資本は、前期的な商品取扱資本と貨幣取扱資本

(両替商と地金銀売買商とを含む)からなる前期的商業

資本と、それと

「双児的関係」にある高利貸付資本とから構成されている。

前期的貨幣取扱資本と高利貸付資本は、通常、前期的商品取扱資本の大規模な存在と活動とを前提とする。したが

って、前期的資本ことに前期的商業資本は、前期的商品取扱資本によ

って代表されると言

っても過言ではな

い。

次に前期的商品取扱資本の存立条件とその特徴点について検討してみよう。

一、前期的商品取扱資本の存立条件は、単純な商品

・貨幣流通の存在である。商品として流通過程に入りこむ生

産物が歴史的にどんな生産様式の基礎上で生産されたにせよ、商品としての生産物の性格は変化しな

い。それが、た

とえ、原始的共同体の基礎上で生産されたにせよ、あるいは奴隷制的生産、小農民的

・小ブルジ

ョア的生産、資本主

義的生産の基礎上で生産されたにせよ、さらに、生産が全範囲的な商品生産であるか、自給自足的生産者がその剰余

Page 4: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

(67)一 商業資本の歴史的発展一67

生産物のみを市場に投入するような偶然的商品生産であるかを問わず、流通過程に投入された生産物は商品である。

商品の生産がいずれの生産様式あるいは生産形態に依

存するかを問わず、単純な商品

・貨幣流通の存在するところに

はどこにでも前期的商口叩取扱資本は存在する。

第二、資本主義的生産が未発展であればあるほど、貨幣財産

はます

ます商人の手に集積され、商人財産の独自的形

態として現象するのであり、商人の貨幣的富、ことに商人の貨幣資本は独自的に増大する。前期的商業資本の自立的

で優勢な発展は、社会め

一般的な経済的発展

と逆比例するのであり、資本主義的未発展を前提条件とする。

この場合、生産された商品の運動が商業を形成するのではなく、逆に商業

が生産物の商品化を発展させる。資本は

生産過程において生れるのではなく、流通過程ではじめて生れるのであり、貨幣が資本に発展する。流通過程におい

て生産物がはじめて交換価値として、商品として登場し、さらに、貨幣資本として回収され、さらに再投資される。

前期的商業資本の自立的発展が資本主義的生産の発展度に逆比例するという法則は、ヴ

ェネチア人やゲヌア人やオ

ランダ人などの場合のように仲介商業

(S艮轟

'霊エ巴

の.歴史に、最もよくあらわれている。

この場合には、主要な利

潤は、自国生産物の輸出によ

って得られるのではなく、商業的、および、とにかく経済的に未発展な諸共同体の諸生

産物の交換を媒介することにより、そして双方の生産国を搾取することによ

って得られる。この場合、前期的商業資

本は、生産過程から分離しており、逆に生産者を支配

・収奪する立場にある。

第三、未発展な諸共同体間の生産物交換を媒介する前期的商業資本、ことに商品取扱資本め獲得する商業利潤は、

不等価交換に基づく譲渡利潤であり、大部分は詐偽

・臓着から結果するもめである。このような利潤は、G日Wーぴ、

すなわち商業資本の商品の購買および販売の運動過程、あるいは流通過程の内部において取得される。

未発展な生産様式が

]般的であり、市場関係の未成熟による交換の・不等価性および交換の機械的,・偶発的性質によ

Page 5: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

68叢一スム両冊

学一 商(68)

る非法則性が価格体系の地域的差異を導き出すところでは\剰余生産物の主要な部分が譲渡利潤の形式で詐偽

.哺着

によ

って前期的商業資本に帰着することになるρ

前期的商業資本は、.剰余生産物の最大の占有者である奴隷所有者

、封建領主

.僧侶

.絶対主義君主等と取引関係を

結び、彼らと接近することによ

って、才

ーソライズされ、前期的商業資本の詐偽

.購着もオーソライズされることに

なる。さらに、権力によ

って庇護された前期的商業資本は、

いたるところで暴力的掠奪

.海賊

.奴隷盗奪

.圧制等を

くりかえしながら、正義の名の下に彼らの掠奪制度を完成する。このような基盤での利潤獲得の存続こそは、前期的

商業資本存立の重要な前提条件である。

,

次に前期的商業資本の歴史的役割、すなわち、封建的生産様式をどの程度分解し、新しい生産様式の発生にどのよ

うな影響をもたらしたかに

ついて検討してみよう。

前期的商業資本は、いたるところで交換価値のための生産を発展させ、その範囲を大きくし、それを多様化し、普

遍化し、単純なる商品

・貨幣流通を

一般化し、貨幣を世界貨幣にまで発展させた。また、それは、流通過程の独自的

支配とその過程を通じての生産者

への支配とを進ある中にあ

つて、封建的財産の流動的貨幣財産化、後者の商人的貨

幣資本化を推進し、同時に自家消費のための生産

(使用価値のための生産)を販売のための生産

(交換価値のための生産)

に転化させた。

以上のことと関係して、前期的商業資本は、農民の共同的土地財産の没収と農民からの土地の収奪、生産手段から

の生産者の分離、生産者からの消費財源の収奪、全般的には、奴隷制的および農奴制的諸関係の分解をおし進めた。

したが

って、それは、旧来の生産諸関係に依拠して前期的利潤の獲得をはかりながらもwそれの依拠すべき基礎を掘

り崩していかざるを得なか

った。

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(69)商業資本の歴史的発展69

しかし、どの程度まで前期的商業資本が封建的生産様式の分解を推進するかは、さしあたり、その生産様式の堅固

さと内的編制とに依存するものであり、さらに、農民の下からの組織的もりあがりに依存するものであり、け

っして

前期的商業資本の歴史的役割を過大評価してはならない。また、この分解過程がどんな結果を生むか、すなわち、ど

んな新たな生産様式が旧生産様式の代わりに現われるかは、前期的商業資本の行動力にではなく、旧生産様式そのも

(3)

のの内的条件

いかんにかか

って

いる。

ポール

・M

・スウ

ィージー

は封建的生産様式

が、彼

の言う外

的諸力、すなわ

ち、商業、交換、都市

の発展、

および

それら

の衝撃

によ

って分解

したことを強調

しているし、ま

た、商業

が市揚

のため

の生産

の組織

を発生さ

せ、

この組織

が以前

から存在し

ていた封建的な使

用価値

のための生産

の組織

にあたえる衝撃

のみを重点的に跡づ

てい苛"

このよ

うな点

の研究も重要な

のであるが、しかし、彼

は、前期的商業資本

が依拠

する旧生産様式

の内部的堅固さと編制

いては軽視的

である。

"

-

、,

オマルク

スは、前期的商業資本

が当面する生産様式に分解的影響を及ぼす

ことを強

調す

ると同時

に、根本的

には、前

期的商業資本ではなく、旧生産様式

の性格

が新しく生

れでる生産様式

の性格を基礎づけ

るも

のであ

ることを正しく強

調し

ている。

モーり

・ド

ツブは封建制から資本制

への移行

を論ず

る場合、

ゴルクスの正し

い考え方を継承しながら、

旧生産様式

の分解と新生産様式

の発生

に当面

ての前期的商業資本

の歴史的役割、あ

るいは、それ

の影響

と、それを

内包する旧生産様式内部での搾取と闘争

の増

大と

「相

互作用」

を考慮

し、とくに旧生産様式

の内部的矛盾

の増大

(5

)

一次的重点をおいている。

近代社会では、商業資本の発展が資本主義的生産様式

の中で指導的役割を持

っている産業資本の発展に依存してい

る。しかし、資本主義社会以前においては、、どこま

で産業的発展が商業資本の発展と歩調をともにするかは、ま

った

Page 7: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

70論 叢一

学一 一 商(70)

く他

の事情

に依存するp古代

ロー

マは、共和制後期に

それ以前と比

べてなんらの産業的発展

をみ

せなか

ったのに、古

代世界にお

いてこれまで、にな

い高

い水準

にまで前期的商業資本

を発

展さ

せたが、

コリ

ント、その他、

ヨー

ロッパや小

アジ

ァのギリシ

ァ諸都市

では、前期的商業資

の発展は、産業

の高度な発展を伴

った。他

面、商業精神

および前期的

商業資

本の発展

は、しば

しば非定住的

・遊牧的な諸民族

に固有なことも事

実存在

した。

前述したよう

に、前期的商業資

の存立条件

が単純な商品

・貨幣流通の存在、資本主義的商晶生産

の未成

熟、不等

価交換

に基づく前期的利潤

の獲得であると

いう

ことからもあきら

かなよう

に、前期的商業資本は、根本的には、前資

本主義的生産様式

に結

果す

るも

のであ

って、それから絶対的に自由な存在

ではな

い。

したが

って、前期的商業資本

「資本

一・般

の最初

の自

由な実存様式」

であ

った.ζとを曲解

し、さらに封建制

から資本制

への移行

が行なわれる場合、

それが歴史的

に果たした媒介的役割

を必要以上

に過大評価

して、それ

の近代性

のみを導きだす

ことは歴史的事実

に背

反したも

のとなるであ

ろう。

(1、)

カール・マルクス著

「資本論」長谷-部文雄氏訳、第三部、上、第四分冊、四六

一頁。

(2∨

田中豊喜博士著

「産業的中産者と前期的資本」軍六頁⇔

(3)

カール

・マルクス、前掲書、第四分冊、四七

一頁。

(4)

ポール・M

・スウィージー

「モーリス・ドッブ氏への批判」

(一橋大学経済研究所編集

「経済研究」

一九五

一年、第

一号、

四三頁)。

(5)

モーリス

・ドッブ

「ポール

璽M

・スウィージー氏への反批判」(前掲書ぺ五・三・頁)。

二、

似上のところでは、前期的商業資本

(と《

に前期的商品取扱資本)

の特徴

的存在形態

↓般を検討したので、あるが

ζ

Page 8: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

(71')一 商業資本の歴史的発展r-一71

こでは、

近代産業資本主義あるいは近代産業資本が確立した段階における近代商業資本

(ことに近代商品取扱資本)に

ついて、その特徴的存在形態を

一般的に検討してみよう。

一、近代産業資本主義の段階における近代商業資本

(とくに近代商品取扱資本)

は、

近代産業資本の流通過程にお

ける単なる

一循環形態としての商品資本の特殊的独立形態である。そのような商品資本は、その機能が

一般的に他の

特殊的資本の機能として自立化され、分業によ

って特殊的資本家部類にわり当てられた機能として固定化するかぎり、

(1

)

近代商業資本

(とくに近代商品取扱資本)となる。

商品取扱資本は、絶えず市場に存在して姿態変換過程にあ

って、

つねに流通部面に抱擁されている流通資本の

一部

分の自立的に転化した形態である9したがって、それは、近代産業資本

の流通部面の機能的な

↓循環形態であるにす

ぎない商品資本の機能が、近代産業資本の最終消費者

への商品の販売のための臨時の操作としてはあらわれないで、

(2

)

一つの特殊資本たる近代商業資本とくに商品取扱資本の専属的操作として独立化する場合にあらわれる、

商品取扱資本家は、通常、産業資本家から商品を購入して、種々の経路を通じて消費者に最終的に販売する操作を

代行するものであり、商品を販売する産業資本家の流通過程を、再販売のための購入ということによ

って機能的に代

行するものである9

`

資本主義以前

のすべての生産様式の下では、商業資本

(前期的資本の範晴∀は、

「資本の機能それ自体として現象」

し、部分的には、

「資本

一般の最初の自由な実存様式」として存在したが、資本主義的生産様式の内部では、商業資

本は、

↓つの特殊的機能を果たす資本としてのみ現象し、全体的には、近代産業資本に対して代行的位置にある資本

としての姿をとる。したが

って、近代産業資本主義の下では、商業資本が産業資本を従属させるのではなく、産業資

(3

)

本が商業資本を従属的たらしめる.商業資本の優勢も産業資本の優勢と結びついている。

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72'叢 一一

論一 商 ・学(72)

近代産業資本によ

っで、一著しい影響を受ける商品取扱資本に対して、自立して機能する別個の

一資本たる性格を付

与するものは何であろ㍉か。

ω

それは、商品資本がその生産者である近代産業資本家とは異なる、その代理者すなわち商人の手で、貨幣

への

姿態変換を行な

って商品資本としてのそれに属する機能を市場で果たすこと、および産業資本の機能の

一側面である

商品資本の機能が売買を操作する商人によ

って分離

・独立化されて独自の事業となり、社会的分業の

一特殊形態を形

成することに基づく。

',②

それは、分離

ど独立的で、しかも近代産業資本家の流通代理者である商人が、この位置で自己の、または他人

から借り入れた貨幣資本を商品売買のための事業に投下することに基づく。産業資本にと

っては、WI

Gすなわち

商品資本の貨幣資本

への転形または単なる商品の販売としてあらわれるものが、商

人にと

っては、G-W-Gとして、

同じ商品の購江回貝および販売としてぺ貨幣資本の還流としてあらわれる。

`

第二、前期的商業資本が資本主義的商品生産の未成熟と単純な商品

・貨幣流通の存在するところならばどこにでも

自由に存在することができるのに対して、近代商業資本は、-資本主義的商品生産および資本主義的商品流通の下にお

いてのみ存在することが可能

である⇔

,一近代商業資本は、根本的には、-資本主義的生産様式に依拠するのであ

って、資本主義的商品生産が十分に発展してぺ

生産物が交換価値すなわち商品としてのみ生産され、直接的な生活維持手段としては生産されない場合に本格的に登

場する。このような段階において、近代商業資本は、資本主義的商品流通の主たる担当者としての姿容を完成する。

近代商業資本と商品流通の発展は、し資本主義的商品生産の飛躍的発展に相呼応する性質を持

っている。商業革命あ

るいは流通革命といわれるものは、資本主義的商品生産

におげる変革あるいは飛躍的発展なしには考えられない○

,

Page 10: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

(73)一 商業資本の歴史的発展一73

第三、近代商業資本の獲得する商業利潤は、、交換において詐偽と購着とを媒介とするものではなく、原則的には、

等価的11法則的交換に基づいており、わ剰余価値の実現の控除部分としてあらわれるものである。近代商業資本は、・剰

余価値の生産には参加しないが、・剰余価値の平均利潤

への均等化には参加する。`一般

的利潤率は、近代商業資本に帰

属する剰余価値の控除

'(産業資本の利潤からの控除)を含んでいる。

商業利潤は、商品の生産価格

(商人にとρ唾は商品の購買価格に等しい)遊こえる販売価格

の超過部分に等しい。

した

って、商人による商品の販売価格は、生産価格プラス商業利潤である。産業資本が利潤を獲得できるのは、 利潤が

剰余価値としてすでに商品の価値の中に含まれているからであるのと同じように、商業資本が利潤を獲得できるのは、

産業資本によ

って販売される商品価格においては、全剰余価値または利潤が産業資本によ

って完全に実現されていな

いからに他ならな

い○したが

って、商業資本の販売価格が購入価格を超過するのは、販売価格が総価値を超過すゐか

(4

)

はな

く、,購

入価

が総

以下

らな

であ

る。

-

.

-.

-

い,

.

(1)

カール

・マルク

ス著

「資本論」

長谷部文

雄氏訳、第三部さ上.第

四分冊、

三八五~

六頁。・

.(2)

田中豊喜博士著

「産業的ヰ産者

と前期的資本」

一八四頁。

,(

3)

カール

・マルクス、前掲書、,第

四分冊、

四七三頁。、

(4)

'

-

↓〃

一Q頁。

-

.三

の注

に基

いて

工業

生産

を担

工業

が、,偶

然的

はあ

るが、

ひと

び市

(地方的)」に

と、,市

むけ

の比重

しだ

いに増

て(

小商

生産

.(古

代奴隷制社会、封建制社会、近代資本主義社会'

のいずれ

の社会にも存在し、・特定

の経済段階

に固有

のものではな

い〉と

りぺ

に小

営業

(広

い意味

の小商品生産者である

Page 11: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

74叢一払醐

学一 商《74)

が、イギリスでは農奴解放期

,中世的手工業の崩壊期からマ「三

ファクチュアの成立期までの時期にとくに存在した形態)と

る。

このような移行は、きわめ

てゆるやかに、

しかも試

みとして行

なわれ

る。

一種

の小商品生産

の形態であ

る小営業

は、

工業

における注文生産からしだ

いに脱却する過程の中

で、

生産

がたまたま手もとにのこ

って

いたり、

ひまなとき

に生産されたりして市場で売

られる度数

が重なることと関係

しても発生する。

はじめのうちは、販売

が偶然的

で、市

が狭

いために、手

工業

の小営業

への移行はき

わめて蝸牛的

である。

このような経済状態のそ

れ以上の発展

は、封建制社会

のわれ目

に生息

して

いる前期的商業資本

の発展を伴

い、また、

買占商人と

いう専門家

の出現を必要

とす

る。すな

わち、小営業

は、製

品や原材料の売買

のような商取引

に専門

に従事

し、さらに、それを種

々の方法で経済的

に従属さ

せる前期的商業資本

(問屋制商業資本)を発生さ

せる。

買占商人は、

前期的営利

のために、

製品や原材料等

の商品を購

入し、

転売す

(G-Wーα)ことを日常

の業務

して

いる。

したが

って、

このような買占

商人は、

前期的商業資本

(商品取扱資本としての)の代表者

である。前期的商

業資本

である買占商

人の出現をもたらす条件

には次

の二

つがある。すなわち、①

小営業

の孤立

・分散性

とそれら

いだにおけ

る経済的不和

や闘争が

つねに存在することである。②商業資

の行なう諸機能

の性質、さらに、製品や

原材料等

のきわ

めて小規模

で偶然的で不規則な売買

から、やや大規模

で規則的な売買

への移行

と関係し

ている。

この

ような、やや大規模

で規則的な売買

の経済的優位性

と関係

て、不可避的に、小営業は、市場

から切りはなされ、経

(1

)

済的に優位な前期的商業資本

の前に脆かざるを得なくなる。

前期的商業資本は、封建的生産様式にたいして、いたるところで多かれ少なかれ分解的な作用を及ぼした。すなわ

ち、それは、使用価値に代わる交換価値めあての

一種の商品生産

を発展させ、その範囲を大きくし、それを多様化す

る方向を作り出し、さらに、商品

・貨幣財産

の集積と、それらの大量的な商業資本化を導き出し、商品

・貨幣経済を

Page 12: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

(75)一一一商業 資本 の歴 史的発展一75

発展させて、それを世界的規模

にまで発展させさえ

した。

しかし、前期的商業資本

が、

の程度ま

で封建的生産様

式を分解させるかは、そ

の生産様式

の堅固さと内的編制

に依存す

るのであり、すなわち旧生産様式そ

のものの性格に依存す

るのであ

って、け

っしてそ

の前期的商業資本

の進

歩性

あるいは革命性

に依存するものではな

い。

それ

の進歩性

は、現象的にはきわ

めて広範

にわたるよう

にみうけられ

るが、それ

の本質

は、むしろ反動的な側

面にあるよう

に思

われる。

前期的商業資本

は、新し

い体制

への方

向、すなわち封建制

から資本制

への移行を主体的

に切り開

いて行くにはま

たく不十分な状態

にあ

った。そ

れは、小商

品生産ある

いは小営業

の資本主義

的単純協業

への発展、後者

マエ

ユフ

クチ

ュア

への上昇

を体制的に阻

止し、それらの上昇

を最

小限度

にく

い止めな

がら、自らは封建制社会

の裂

け目、すな

わち、単純な商品

・貨

幣流通

に基盤をおきな

がら、そこに最大限

に吸着

つつ、権力と妥協しな

がら封建体制を無意

識的に腐

敗させる役割を果

たす

のであり、まさ

に、封建体制

にと

っては寄生虫的存在

であ

った。

前期的商業資本は、前期的利潤収奪

の基盤を

っそう拡大する

ことが自ら

の墓穴を掘る

ことに結び付く結果、

「事

実上」

の近代

コー

スをやむを得ず歩まざるを得なくな

る。

したが

って、

それは、封

建体制

を腐敗.・分解させ

はし

たが、

ルジ

ョア化が進

められ

る過程

にあ

って、

っして革命

の推進力

でもなければ、そ

の基軸

でもなか

った。

封建制

から資本制

への移行

が行なわれる場合、

そこには対抗的な

つのコー

スが存在

した。そ

の第

一のコー

スは、

小生産者

が、封建的生産様式

の中

で、単純商

の生産者となり、商

人を兼ねながら資本主義的単純協業、さら

に、

昌フ

ァクチ

ュアの経営者

とな

って、農業的自然経済

や、中世的都市

に典型的であ

った同職組合的手工業

に対立し

(2

)

本来

の意味

での資本

主義的生産様式

を作り出して行く

コー

スであ

る。

コー

スは

「産業的中産者」

(甘合

苔苫ロ零

日冨聾§

ら∀が封建的生産様式に対立しながら勤勉と節約によ

って貨幣財産を蓄積して、

やがて小資本家

(巨ξ巨§

Page 13: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

76

叢論学商(76)

⇔巷津巨・↓)となりぺ本来め産業資本家になるという、現実に革命的な道である。

.これに対して、第二のコースは、前期的商業資本家がパ単純な商品

・貨幣流通を存立条件にして、封建的生産様式

を変革することなく、むしろそれを維持

・温存し、小商品生産者である

「産業的中産者」を形式的には自立させたま

までおき、実質的には、彼らを経済的に従属させ、剰余労働を占有し、小商品生産者による新生産様式の展開を妨害

しながら、、

自らが、‥「事実上」の産業資本家となり、やがて、.ヤ

ニュファクチ

ュアの経営者となるコースであゐ。彼

らはパ孤立

.分散的に存在しぺしかも≒本の糸によ

って操られている

「事実上」の賃労働者たる資本主義的家内労働

者を収奪するばかりではなく、

一つの屋根め下で多数の賃労働者をも収奪するようになるぬこのコースは、歴史的に

(3)

は♪圧倒的

な移行

コー

スとして存在す

るが(妥協的

であり、保守的

㌧反動的

であり、

しかも他律的な道

である。

上のような

つの

コー

スは、

各国にお

いて資

本主義化

が進

められ

る場合、事.実両方

とも

に存在

したのであるが、

歴史的事実

に照〕

て後者

コ日

スが圧倒

であリパ

ことに後進諸国

におい

てそう

であ

った。

このような第

二の

コー

におけ

る商業資本

は、

旧生産様式

を変革しな

いでべそれを保存

し、自己の前提とし

て維持す

るだけであり一現実

ツ チし

たかたちに修正す

るだけ

である。

この

コー

スにお

いてパ孤立

.分散的に商業資本によ

って支

配さ

れて

いる直接

的生産者

は、

一つ屋根

の下

で資本

によ

つて直

接支配

を受け冗

いる労働者

よりもはるかに劣悪な労働諸条件を

おし

つけ

れ、佃来

からの生産様式

の基礎

上で本来

の賃労働者よりもはるかに劣悪な生活をよぎなくされ

る。

`第

一・の

コー

ス、すな

わち、"小生産者

が商人兼産業資本家とな

って、封建的生産様式に対立

して、交換価値

のための

大規模な生産

を遂行す

る方向

への発展

コー

スは、・革命的

でばら色

コー

スではあるがパ移行

が行なわれる場合

の圧

倒的な

コ」

スではな

った。`ここでは現実的

で圧倒的な第

二の

コー

スだけを検討

してみよう。

-,

一、

∴,、

,第二の

コースにお

いて、前期的商業資本家

が生産を支配す

る仕方

には二通りあ

る。①内外貿易が盛

んな大都市等

Page 14: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

(77)一 商業資本の歴史的発展一一77

いてヘ

ム流

の前期的商業資本家

が直接産業資本家

になる場合

である。巨大な商業

を基礎とする工業

は、商業資本家

によ

って、-原材料

や労働者とともに外国から輸

入された奢修

品工業等

に多

い。奢修品

工業

の場合に

かぎ

らずさ,都市

巨大な商

人はへ権力

を後楯

にしながら、外国から移殖

・導

入した産業、すなわち外来産業

(ア巨とに外束工業∵の経営者

とな

ることによ

ってい問屋制商業資本家

であると同時

にパ産業資

本家

でもあるようにな

る。

、w

このような第

二の①

コーズは、

たとえば

く日本

の独占資本

が発生

・成立す

る過程、すな

わち、"巨犬政商

が明治絶

対主義的国家権力を媒

介に各種

の外来産業

を移植

・導

入し、さらにそれから払下げを受け

ることによ

って産業資本家

となり、やがて独占資本家とな

って行く過程

を検討すればパさら

に明確な解答

が得

られるであろう。

-

、含

ミド

②都市や農村

(ことに後者)

にお

いて二流

の商人が小親方を自分の単なる仲介者たらしめるかパあるいは自立的生

産者から生産物の買占等を継続的に行な

って収奪を強化する江ピによつてバ旧生産様式ヒ抱合的な産業資体家κ転化

する場合である。この場合、商人は、小生産者を名目的に自立させておきパその旧式な生産様式を変革させないでお

く。このような形態は、問屋制商業資本が問屋制家内工業あるいは初期

マニュファクチ

ュアを支配する場合であり、、

あるいは問屋制商業資本と抱合的な産業資本たるマニュフーワチ

ュアが資本主義的家内労働を支配すゐ場合であ喝。

封建制から資本制

へめ

移行期において、

一'流の前期的商業資本が小営業を直接支配する場合ももちろん存在したが、

二流

の前期的商業資本を支配し、-それを媒介返して小営業を支配するという階層的な収奪…機構がすでにでき上が

って

いた。

一流の前期的商業資本、すなわち、都市の巨大な問屋制商業資本は、'都市の同職組合的手工業を支配し、その

もとにおける多数

の手工業者を

一括的κ支配する。

'

-、、

v

,

・,

都市の同職組合的手工業者は∩商品も貨幣流通が発展するにつれ、親方

・職人

.徒弟という身分的労働力構成と経

験的手工技術をも

って遂行していた生産活動とともに、'彼らが同時に担当していた流通活動そのものが、次第に複雑

Page 15: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

78

裳論学一一』 商(78)

化七、分化し、特殊的に専門化するにつれて、伝統的な流通機能をそのまま継続的に果たすごとができなくなる。そ

(4

)

こで手工業における流通機構は↓巨大な問屋制商業資本の支配網に編入されるにいたる。

都市の手工業が、購入する原材料が高価なために相当量の資本を必要とするようになり、同時にでき上がった生産

物を特殊な消費者や遠隔地の消費者に販売せざるを得なくなると、手工業は都市の巨大な問屋制商業資本に従属せざ

(5

)

るを得なくなる。このような過程を経て中世的なツンフトは崩壊をよぎなくされる。

都市の問屋制商業資体は、都市のツンフト手工業め流通活動を叱りあげ、職人や徒弟の身分を永久化して彼らを支

配し、さらに都市の手工業者全体を支配するばかりではなくパそれらの経済的支配を拠点と

して、地方的、地域的支

配者である二流の問屋制商業資本を問屋制前貸的に支配す

ることによって、後者に経済的に従属し、地方に孤立

・分

散的に存在する小営業者あるいは小,商品生産者をも階層的に支配するにいたる。

二流の前期的商業資本である問屋制商業資本は、分散的で地域的な小市場における単純な商品

・貨幣流通に寄生し

ながらパその地域における小営業者を問屋制前貸的に支配していたのであるが、その二流の問屋制商業資本は、

]流

の問屋制商業資本が大都市を中心に、全国的な統

一市場における商品

・貨幣流通に寄生して、小営業者の大群を最終

的に収奪する場合の中間項あるいは媒介機関としてめ役割を背負わされていた。

現象的には、今日の独占段階における支配的資本と中小資本との間の関係に類似した関係が、前期的商業資本相互

間においてすでに発生していたとみるべきであろう。歴史的

・範疇的

には、今日の独占資本は、

一流の巨大な問屋制

商業資本から異質的に転換してきたものであろうし、今日の中小資本は、二流の問屋制商業資本や小営業から転化し

てき

たものであろう。、前記の類似の関係は、あくまでも現象面κおける類似であ

って、段階を超越七て本質的に類似

しているというのではない。

Page 16: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

(79)一 商業資本の歴史的発展79

↓流の問屋制商業資本であろうと、魑二流

の問屋制商業資本であろうと、移行期において、それらが小営業を支配す

る基本的な形態は本質的に共通性をも

っているが(とくに後者の問屋制商業資本による小営業支配の諸形態は次

の通

りである。

一の形態は、・問屋制商業資本家または大きな仕事場

の経営者が、彼の特権的な地位を利用して小営業者から製品

を賀占

める場

合であ

る。彼は、特定地域における製品の買占人としてあらわれ、小営業者め販売市場を独占し、-

生産

者に支払われる価格を際限なく引ぎ下げるρ

第一一の形態は、問屋制商業資体家が高利貸付資本家の役割をも兼ねる場合である。商人は、彼

の所持している休息

貨幣資本を金に困

っている小営業者に高利貸付けしくもちろん封建的支配者にも貸付ける)、それに対する返済を商品ある

いは封建的生産物

の自然物形態で受ける。この場合、小営業者は、現金で借金を返済することは到底不可能なために、

生産物での返済となる、な

お、こめ貸借関係と平行して行なわれる小営業者

による生産物の販売は賃労働者

の収入よ

りもはるかに低

い収入を彼にもたら・すだけ

であり、それはハ

つねに際限なく引き下げられた価格

で行なわれる。この

場合、債権者である商人は、債務者である小営業者

を、たんなる経済上の貸借関係以上に、人格的に隷属させ、債務

奴隷化する。

.`

第三吻形態はパ問屋制商業資本家が小営業者からその製品を買

い取る場合に現金の代わりに種

々め商品

"(消費資料)

で支払う形態である。.この形態は、・小営業が量的に圧倒的

であ

った時期ばかりではなく、資本主義の発展が未熟な経

済段階

一般

に共通的な現象である。

四の形態

はパ、問屋制商業資本家が製晶の購

入に当たり.て、小営業者にと

って生産上必要な商品すなわち原材料を

って支払う・場合である。、製晶

の買占人でもある問屋制商業資本家

が小営業者に原材料で支払いを開始することは、̀

Page 17: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

80叢一

論学一 商C80)

資本主義的生産関係の形成における非常に大きな前進を意昧ずる。問屋制商業資本家は、さきに小営業者を製品の販

売市場から遮断したが、こんどは原材料め購買市場からも遮断する。このことによ

って、前者は、後者をより深く従

属させることになる。

第五の形態は、第四の形態からもう

一歩のところにある。この形態においては、問屋制商業資本家は、生産者にぺ

(一定の支払いの代償として)加工材料を直接配分し、

さらに彼らに賃加工させるようにな

る。

小営業者は、自分の家

で労働する

「事実上」の賃労働者となり、最高形態にまで発展した問屋制商業資本家は、

「事実上」の産業資本家と

なる。小営業者は、当時、-生産手段の中で支配的な位置を占めていた原材料に対する所有権を奪われ、第二義的な生

産手段である労働手段だけをどうにか所有し、自分の作業場で労働すゐことによ

つて、かろうじてその対面を保持し

得た忙すぎないゆ問屋制商業資本家と小営業者との支配

・従属のからみあいの最後の形態にお

いて資本主義的家内労

(6

)

働が形成される

ことになる。

.要するに問屋制商業資本.は、主として五

つの支配形態、

すなわち、①単純な買入業者から買占業者

への発展

,(製品

販売市場の独占)、②買占資本と古鳳利貸資本との結合(金融市場の独占)、'③製品購買に対して諸商品

(消費資料)をもらて

する支払(消費資料購買市場の独占)∵④製

品購買に対して諸商品

(原材料)をも

ってする支払

(原材料購買市場の独占)、⑤

原材料の直接的提供

(問屋制商業資本の原材料所有と小営業者による自宅賃加工)等の方法を通じて小営業者

を収奪する〉

さらに、その収奪をご単なる流通過程においてばかりではなく、それを媒介にして生産過程皮配をも行なうことによ

って遂行するようになる。

`問屋制商業資本はパ小営業者に対して買占や金融独占等のかたちでの流通過程からの支配だけにとどまらずぺ商品

の販売にさえして重要な要素である低価格と製品の品質の均

一性とを保持するために、小営業者の貧窮を利用してパ

Page 18: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

(81)一 商業資本 の歴史的発展一一81

原材料や半製

品の直接

的提供

を行なうことにより、

ある場合には、繊維

工業

におけるように道具

ことに織機等

を賃貸

(7

)

し、さらに種

々の生産過程の結合をはか

ったりして、商品生産

への発言権と指揮権とを増大する。

問屋制商業資本による小営業者支配の五

つの形態は、通常、問屋制支配の形態として言われているものである。

問屋制商業資本は、

「商業資本が小営業においてとる基本的形態」の第

一の形態において、単なる商業資本から問

屋制商業資本に移行し、・第二の形態、すなわち買占資本と高利貸資本の結合を通じての小営業者支配という複合的支

配形態を契機として、・その典型的な姿を整える。そ

して、それは、第三

・第四の形態を経て第五の形態において、問

屋制商業資本としての姿を完成する。しかし、問屋制商業資本としての完成した姿容は、次の新しい資本

への移行

一,歩

であり、

「事実上」の産業資本としての姿でもある。本来の産業資本、すなわち

マニュファクチ

ュア資本

へは、

あと

一歩である。

問屋制商業資本と小営業との支配

・従属のからみあいにおいて問屋制家内工業が形成される。したがって、問屋制

家内工業は、特定の段階に固有な工業の発展形態を意味するものではなく、問屋制商業資本による小営業者支配の形

態である。このような問屋制家内工業は、第

一の形態において発生し、第二から第四の形態において確立する。すな

わち、第二から第四の形態においては、問屋制商業資本が小商品生産者たる小営業者をまだ

「事実上」の賃労働者た

らしめておらず、自らも

「事実上」の産業資本とな

ってはおらないが、そこにおいては、すでに小営業を問屋制商業

資本が強固に支配

.従属化して行く過程がみられる。この過程において、前期的商業資本は、問屋制商業資本として

本格的に登場するのであり、小営業は、このような悶屋制商業資本の直接収奪の対象たる問屋制家内工業になりさが

る。第

五の形態に至

って、問屋制商業資本は、

「事実上」め産業資本となリパそれに従属する問屋制家内工業は

「・事実

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82

叢仏編

学一 商

上」の賃労働とな

ってあらわれ、・ここに資本主義的家内労働が形成される口

、問屋制商業資本に従属する小商品生産あるいは小営業、すなわち問屋制家内工業の次の発展形態は資本主義的家内

労働である。資本主義的家内労働は、,第五形態において発生し、本来的

マニュファクチ

ュ.アの段階においてパ

マニ芦

ー7クチ

ュアの不可避的な付属物として特徴的な存在となり、工場制工業の段階においても残存する。

それに対して問屋制家内工業は、前期的商業資本支配下の小営業の時期において発生し、そこにおいて、も

つとも

特徴的な存在形態を示すのであるが、,

マニュファクチ

ュア段階において、

マニュファクチ

ュア資本ピ問屋制商業資本

は同

一の資本家の下忙おいてパ互いにからみあ

っているばかりではなく、独立の問屋制商業資本としても存在するた

めに、それらの商業資本に従属する問屋制家内工業の存在をも広範にみることができる。なお、それは、工場制工業

の段階においても残存する。

小営業は、販売市場の喪失、高利貸的債務と結び付

いた飢餓的販売、消費資料をも

ってする販売代金の受け取り、

原材料購買市場の喪失、賃加工と結び付

いた資本主義的家内労働等という問屋制商業資本の収奪方法をも

って、しだ

いに本来の小営業の位置からすべり落ちて

「事実上トの賃労働に移行する。小営業者は、このような過程を経て幻想

的な財産所有者に転落する。彼らが、自己の労働力以外に販売すべきなにものをももたない本来の賃労働者に転化す

るのには、あと多少の時間の経過を待てばよい。

'

/

'

.

`

.

-

'

これに対して、前期的商業資本は、単なる前期的商業資本から問屋制商業資本

へと発展し、さらにそれの最高発展

形態としての

「事実上」の産業資本

へと発展し、あとは本来の産業資本

への転化あるのみである。

のO

,(r

)

「レ

マル

H

ン主、義

,』

2

)

、カ

.

マル

「資

Page 20: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

(83)

(3

)

・マ

ス、

四分

(4

)

叶中

の社

(松

「中

一〇

一~

)。

(5

)

マッ

クズ

・ウ

・青

訳、

二九

一~

(6

):

レ・ー

ン、

(7

)

マッ

・ウ

ー、

、.二九

`

'

-

一 商業資本め歴卑的発展一83

四、

ュフ

ァク

ュァ段階

の商

資本

小商品生産がとくに広範化した時期においては、}90期的商業資本は、高利貸付資本と

「双児的関係」にありながら、

自由にして、独立性を保持した唯

一の資本であり、.・

しかも小商品生産

(者)に対して支配的な位置にあ

った。それに

対して一産業革命を経過し、工場制工業が

一般化した近代産業資本主義確立以後においては、'近代商業資本はパ近代

産業資本の流通過程における単なる

一循環形態としての商品資本の特殊的独立形態であるに過ぎなくなり、

一つの特

殊的機能を果たす資本としてのみ現像し一近代産業資本に対して従属的

・代行的位置にある資本としての姿をとる。

こめ段階では「産業的覇権が商業的覇権を伴う」ことになる。

,∴とヒろでパ

マニュファクチ

ュアそのものは、

一般的にはパ資本主義的生産関係を内部に持

った近代的範疇の工業経

営形態として把握されているが、同時に、それは、前近代的生産関係と不可分の関係にある資本主義的家内労働や小

商品生産

(者)を外部的に支配しないかぎり存立し得ない状態にある。

ず、

したが

って、

マニュファクチ

ュアの段階における商業資本は、.

小営業の時期や工場制工業の段階における商業資本

のように明確な存在を示すものではなく、過渡的な状態にあると言

い得る。・しかし、複雑だとは言え、

マニュファク

ユアそれ自体は近代的範晴に所属するゆえに、・マニュファクチ

ュア経営者

の所有に帰して

いる商業資本

(この場合

Page 21: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

84叢一

論学商(84)

商品資本と言わずに商業資本と言う)や

マニュフ

ァクチ

ュアとは

一応別個ではある

マニュフ

ァクチ

ュア

に対

して従属的

であり、

それと不可分

の関係にある商業資本

は、現象的

には、き

わめて前近代的な収奪

を専ら行

なう問屋制商業資本

とし

て存在するようにみえ

るが、本質的には、近代的範疇

に所属す

るも

(問屋制商業資本)と考え得る。

だが、

マニ

ュファクチ

ュア段階

には、

このような商業資本だけではなく、

マニ

ュフ

ァクチ

ュアの影響を受け、近代

への傾向

を持

ちな

がら、それで

いて

マニュフ

ァクチ

ュアから独立

していて、従来からの小商

品生産者

に対す

る問屋

制支配

を続け

ている中小

の前期的商業資本

や、さらにきわ

めて前期的

で影響力も顕著で巨大な商業資本

が存在する。

この巨大な前期的商業資本

こそ

は、絶対主義国家権力

と結んで、貨幣制度、植民制度、国債制度、租税制度、そ

の他

各種保

護制度

を媒介

にし

て、

「個人的で、分散的

な生産手段

の社会的

に集中さ

れた生産手段

への転化、したが

って多

数者

による小量的所有

の少数者

による大量的所有

への転化、したが

って広範

な人民大衆

からの土地や生活手段

や労働

(1

)

用具

の収奪」、

「いわゆる本源的蓄積し(8唄9§鼻Φc3宮管巴↑昏。〉芹

・日巳豊8)を遂行

し、

っとも勢力的に

マニ

ァクチ

ュアに直接

・間接

に莫大な貨幣資本をもたらした前期的資本

の中

の資本

である。

以上のよう

に、

マニ

ュファクチ

ュア段階

の商業資本

は、

いろ

いろ複雑

ではあるが、も

っとも単純化してみると、近

代的範

疇に所属するも

のと、近代

への方向を示しな

がらなおか

つ前近代的範疇

に所属するも

のと

の二

つのグ

ループ

が存在した。ま

ず、第

一のグ

ループから検討

してみよう。

ニュフ

ァクチ

ュアのも

っとも明確な特殊性

一つは、商業資

本と産業資本と

の間

にお

いてきわ

めて緊密

で不可分

な関連性

が保持されて

いると

いうことである。

ここでは、買占商業資本、ことに問屋制商業資本

は、

ニュフ

ァクチ

(2

)

ユア経営者

の下

で産業資本と共存形態

を示し、

両者

は、

つねにから

みあ

って存在す

る。

マニ

ュファクチ

ュアは、賃労働者を多数雇用した

「分業

に基づく協業」

の形態

であ

るが、基本的

には、従来

の手

Page 22: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

(85)一 商業資本の歴史的発展一85

的技術

を生産

の基礎

としているために、数量的

には絶対数を占めて

いる小経営や資本主義的家内労働

を圧倒

し、生産

領域

から完全

に排除

してしまうことができな

い。む

しろ、

マニ

ュファクチ

ュア経営者は、

工場

の拡張、原材料

や道具

の購

入等

に多額

の資本

と時間を費さず、しかも豊富に存在す

る低賃金労働力

を外部的

に利

用し、さらに市場条件にあ

わせて、生産額

を欲す

るだけの規模

に伸縮

しな

がら自

の収益

を増大させることを積極的

に推進しさえす

る。したが

って、こ

のような段階

では、

ニュフ

ァクチ

ュアとそれに従属す

る小経営や資本主義

的家

内労働と

の間には、まだ産

業資本

の部分形態とし

ての商品資本や貨幣資本

にまで発展し

ていな

いところの、

マニ

ュフ

ァクチ

ュア産業資本と共存

形態にある商業資

(あるいは

「事実上」の産業資本)の介在

が必要不可欠となる。

このような商業資本は、前期的商業資本

から完全な近代商業資本

への過渡的状態

にある商業資本な

のであり、唯

自由な資本とし

ての存在

を示さず、

ニュフ

ァクチ

ュァ産業

資本と結合

しな

いかぎ

り存在し得な

いと

いうところに、

近代性

への傾斜を発見

し得

る。

このような資本

は、多

くの前期性を内包

しな

がらも、

やや近代性

への比重

がまさ

って

いるものと判断し得

る。

て、

ニュフ

ァクチ

ュア

(産業資本)と小商品生産者

(や資本主義的家内労働)とを流通過程にお

いて、支配

・従属

いう

かたちで関係

づけ

るも

のは

マニ

ュフ

ァクチ

ュア商業資本なのであるが、そ

の商業資本は、具体的

には、ど

のよ

うな経済的機能を果たすも

のであろう

か。

ニュフ

ァクチ

ュアは、そ

の工場にお

いて手

工的な熟練賃労働

を基礎

に、

「分業

に基づく協業」

の方式をも

って、

商品生産

を集中的に展開す

る。機械

こそ使用しな

いが、

これは、

マニュフ

ァクチ

ュアの近代産業資本とし

ての側面

ある。同時

に、

マニュフ

ァクチ

ュアは、そ

の産業資本

の運動

に所属す

る原材

料や道具

の購

買と製品

の販売とを行なう

ばかりではなく、多数

の小商品生産者

に対し

て、生活資料や原材料

を転売し、分配し、彼ら

の貧窮

つけこんで高利

Page 23: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

86叢一

論学一 商(86)

貸付

けを行な

い、彼らから製品

を常識

では考えられな

い低価格

で買占め、

それを自己

の製品とし

て第

三者

に転売す

る。

これらは

マニ

ュフ

ァクチ

ュア

の商業資本としての機能

の側面

である。

お、

これら

の商業資本

の支配形態

は、前期的商業資本あ

るいは前期的問屋制商業資本

の小営業支配

の諸形態

と現

象的

にはきわめ

て類似

し、そ

の経済行為自体、前期性を多分

に持

っていることを示すも

のであ

るが、生産過程から遊

し、独立した商業資本

の運動としてあ

るのではなく、

それ

が大部分、

マニ

ュファクチ

ュアの生産過程と関連をも

た商業資本

の機能

としてあらわれると

いうところ

にそれの特殊的近代性を発見し得

る。

マニュフ

ァクチ

ュアにおけ

る商業資本

の過渡的性格は、

マニ

ュフ

ァクチ

ュア段階

における原

生的産業革命

の進行

ともに、しだ

いに失われて、産業資本

への従属性すなわち近代性を示す方向

に発展す

る。しかし、

この部類

の商業資

が本来

の意昧

の近代商業資本

とし

てあらわれ

るようにな

るのは、産業革命を経過

して近代産業資本主義

が確立し、

工場制

工業

一般化す

る段階

にお

いてである。

次に、

ニュフ

ァクチ

ュアの発展

は、商業資本

の性格を変化さ

せず

にはおかな

い。従来

から

の問屋制商業資本

とそ

れの存立

の基盤

であ

った単純な商品

・貨幣流通

とは、

マニ

ュフ

ァクチ

ュアの発展によ

って後

退をよぎなくされ、

マニ

(3

)

ユフ

ァクチ

ュアを基礎とする近代的な商業資本と商品

・貨幣流通とが発

生する。

ここでは商業資本

は、

マニ

ュファク

ュアの流通過程を担当するそれ

とは別個

の、し

かも従属的な資本として近代的姿容

をも

って登場す

るのであるが、

しかしこのような商業資本

は、手

工的熟練労働

を基礎とし、経済的能力

の十分

でな

マニ

ュフ

ァクチ

ュアの下

では、

配的な存在となるま

でにはいたらな

い。こ

の段階

では、

マニュフ

ァクチ

ュア生産

に基礎

をお

いた新し

い商品

・貨幣

の中

から生れ

た近代

的商業資本

は存在するが支配的

ではなく、近代的範疇

に所属しながらも、前期性を多分

に持

りた過渡的な商業資本、すなわち

マニ

ュフ

ァクチ

ュァ産業

資本と裏腹

の関係

にある商業資本

が広範

に存在し

ていた。

Page 24: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

(87)一 商業資本の歴史的発展一一一87

この段階

では、産業資本と商業資本との優劣

はまだ最終的

に決定す

るにいたらな

った。

二のグ

ループ

の商業資本

は、たえず

マニ

ュフ

ァクチ

ュアから種

々の影響

を受け

て近代化

への傾向を示しながらも、

マニ

ュフ

ァクチ

ュアから独立し

ており、かえ

って

一部

マニ

ュファクチ

ュアや小商品生産者

を問屋制

的に支配しさえ

して

いる前近代的範晴

に所属す

る大小

の商業資本

である。

都市

の巨大な問屋制商業資本

は、本来的

ニュフ

ァクチ

ュアの段階

が到来

したからと

って、

ただちに産業資

本化

るも

のではなく、絶対主義国家権力と結

び、そ

の植

民政策

を後楯

に植

民地貿易を強力

に推進し

たり、国内

にお

いて

は、商業資本

に対す

る各種

の保護政策を利

用して特権的な政商

とし

ての地位

を保持しながら前期的な譲渡利潤を獲

る。

この巨大な特権的な問屋制商業資本は、各地

に散在する

マニ

ュフ

ァクチ

ュアから独立

して

いる中

小の地方的な問屋

制商業資本や、

一部

マニ

ュファクチ

ュア産業資本と共存関係

にあ

る商業資本や、ご

く少数

ではあるが

マニ

ュフ

ァク

ュアに対して従属的な近代的商業資

本等

を問屋制的に支配し、しかもそれら

の下に散在す

る小商

品生産者を間接的

に支配しさえしていた。

巨大な問屋制商業資本は、他

の多くの問屋制商業資

本を直接支配することを通じ

て、

マニ

ュフ

ァクチ

ュア段階

にお

ける商品

・貨幣流通

を独占的

に支配しさえる。し

たが

って、巨大な問屋制商業資本が、直接、

マニ

ュフ

ァクチ

ュアを

(4

)

問屋制的前貸しの支配下において

「問屋制

マニュファクチ

ュア」を形成する場があ

っても、それはごく

一部分であり、

本来的

マニュファクチ

ュアの主要な部分を完全に問屋制的に支配してしまうということはあり得ない。

マニ昌ファクチ

ュアは、その産業資本が劣弱であり、その技術的基礎が手工的熟練労働に依存しているために、本

格的な資本主義的集中生産を遂行し得ず、小商品生産者を残存させ、自己に必要不可欠な付属物としての資本主義的

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88叢一 一

論学・・一 商(88)

家内労働

を広範

に存続さ

せ、

しかも問屋制支配を強力

に行な

って

いる商業資本の活動

を許容

して、

の下で

一部

「問屋制

マ一一ユブ

ァクチ

ュア」

や多数

の問屋制家内工業

(小商品生産者が前期的商業資本の問屋制前貸しの支配下にくみ入

れられた場合に発生する)を存続さ

せることにな

る。

巨大な岡屋制商業資本

は、

マニ

ュフ

ァクチ

ュア段階に

いた

っても、

ただち

に産業資本化

することなく、

小商品生産

ある

いは小営業から転化

してきた

マニ

ュフ

ァクチ

ュアばかりではなく、他

の多く

の前期的商業資本

から転化

してきた

マニ

ュフ

ァクチ

直アと対立する。そ

れが自

ら、

ニ包フ

ァクチ

ュアを経営す

ることがあ

っても、

生産過程

の主要な部

におけ

るもめ

ではなく、問屋制的支配を強化す

る手段としてなされるにすぎな

い。巨大な問屋制商業資本

は、そ

努力を直接

自らの手

で産

業資

本化する

ことに注

がず、絶対主義国家権力と結ん

で政商

.特権貿易商

、銀行家

への道

を歩

みな

がら、

マニュフ

ァクチ

ュア段階

に照応

した問屋制

支配

を強化する。

それ

らは、

ェフ

ァクチ

且ア段階

が最高度

に発展

し、産業

革命

が到来する直前

の時期

にいた

って、原生的産業革

の影響を受けた

マニュフ

ァクチ

ュアの経営を行

なう

ようになり、

ことに国営

(官営)

マニ

ュフ

ァクチ

ュアの

一部

特恵的払下げを絶対主義国

家から受け

て、

りき

ょに産業資本化

し、政商

・特権貿

易商

(人).銀行資本等

をも兼

ねた

巨大な総合資本

としての姿容

を整え

る。

これ

が独占資本とな

ってあらわれるのには、

ことに日本等

にお

いては、

一〇

か二〇年

の期間

を経

過すれば

い。

エユフ

ァクチ

ェア段階

における前期的商業

資本の中

には、権力と結

び付

いた巨大

な問屋制商業資本ばかり

ではな

く、

小営業期

におけ

る二流

の問

屋制

商業資本

の後身の

一部分

(他の一部分はすでにマニュファクチュアに転化している)で

ある中

小の問屋制商業資本、すなわち地方問屋等が存在する。

この地方的な二流

の問屋制商業資

本は、

マニュフ

ァクチ

ュア段階

においても、

小営業期

にお

いて小商品生産者を問

Page 26: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

(89)一 商業資本の歴史的発農89

屋制的前貸

しの方法

で収奪したと同様

の方法を継承し、問屋制家内

工業

(独立の問屋制商業資本の付属物)を資本主義的

家内労働

(マニュファクチュアの付属物)ととも

にさらに広範化す

る。

この地方的な問屋制

商業資本

は、小商品生産者、あ

るいは問屋制家内

工業

から

の外延的収奪

っそう有効

にする

ために、本来的

マニ

ュフ

ァクチ

ュアの経済的

・技術的成果をとり

入れ

て、

一つ屋根

の下に多数

の賃労働者

を雇用し

就労さ

せ、問屋

の下での

一種

マニ

ュファクチ

ュアを形成

し、収

奪の主たる対象

たる問屋制家内

工業

におけ

る分散的

な生産過程

と連絡させる。

このような問屋

マニ

ュフ

ァクチ

ュアは、

商品の生産

にお

いて、も

っとも主要

な過程を担

せず、技術的

にあまりめんどう

でなく、金

のかからな

い部分、すなわち生産

におけ

る準備過程、あ

るいは最後

のち

っとした仕

上過程を担当す

る。

これらの点

は、本来

マニ

ュファクチ

ュアの場合と根本的

に異な

る。

地方的な問屋制商業資本

は、主たる収奪

の対象

たる小商

品生産、ある

いは問屋制家内工業

を、以前

におけるよりも

さらに合理的

に支配

・収奪す

るために、本来的

マニ

ュフ

ァクチ

ュアとは別個

であり、それから独立し

ているが、きわ

めて初歩的な

ュフ

ァクチ

ュアの経営を行な

って、

一種

の近代化

への対応を示さざるを得なくなる。し

かし、この

近代化

への対応は、前期的な収奪を展開する手段となる。

ニュフ

ァクチ

ュア段階

にお

いても、

このような地方的な問屋制商業資本

は、

たえず

ニュフ

ァクチ

ュアに転化

いるの

であるが、そ

の主要な部分

は、問屋制商業資本として再生産され、本格的な産業資

本主義

の段階を経

て独占

資本主義

の段階

いた

っても問屋制商業資本として存続し、独占資本

の下

で中

小商業資本とし

ての役割を担当す

る。

独占段階

の問屋制商業資本の収奪方法

は、前期的な問屋

制商業資本

の収奪方法

に類似し

ているが、

しかしそこでの問

屋制商業資本

は、原則として、与えられ

た剰

余価値法則の作

用の範囲内

で自

己の商業

利潤

を形成するのであり、詐偽

・購着

を媒介とした譲渡利潤

の形成

を行なうも

のではな

い。したが

って、それが、多く

の前期性

を内包して

いるとし

Page 27: 65...(65) 商 業 資 本 の 歴 史 的 発 展 ・染 谷 孝 太 郎 65 一 商業資本の歴史的発展一一 一 四 三 二 前 期 的 商 業 資 本 近 代 商 業 資

90

ても、

は近代

であ

る。

の点

つい

ての詳

は別

に譲

れば

らな

い。

(1)

カー

.マルクス著

「資本論」

長谷部文雄氏訳、第

一部、下、第

二分冊、

一一五八頁。

(2)

「レー

ニン全集」

マルクス"1ーレ

ニン主義研究所訳、第

三巻、四五六~七

頁。

(3)

牛尾真造氏

「中小商業

の社会的

存在形態」

(松井辰之助編

「中小商業問題

一〇九頁)。

(4)

大塚久雄氏著

「近代欧州経済史序

説」上巻、三二三頁。

叢一

論学商(90)