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90 1-2-3(3)-1 森林クラウド実証システム(伐採届の電子申請)の画面イメージ 現在実証中の森林クラウドでは、森林計画上必要な行政情報である川上側の情報(伐採 届)のみを取り扱っているが、今後同様の仕組みが木材流通に展開されていくことで、国 内の山から生産された木材の流通量が一元的に把握できる可能性がある。 () 将来の HWP 算定に関する手法についてのまとめ 森林認証制度や地域材認証制度は、第三者機関による公平性の確保や認証木材量(スト ック)把握手法において、HWP 算定のためのデータ取得・管理方法の検討の際に参考とな る。一方で、それぞれの制度は木材の持続性確保や木材利用を推進するために設計された ものであるため、データ取得の範囲は限定的である。つまり、それら制度に参加していな い事業者や消費者の情報は把握できないという課題がある。 森林クラウド事業において電子申請の検討対象としている伐採届の申請手続きは、森林 計画制度上の義務として位置づけられた行政手続きであるため、伐採・造林を行う全ての 事業者が対象となる点で、任意の制度である森林認証制度や地域材認証制度とは異なり、 データ取得の範囲は全てを網羅する。 本節で取り上げた国内外におけるトレーサビリティ確保のための制度や技術は、そのま HWP の算定に利用できる仕組みとはなっていない。しかし、もし将来的に森林を開始点 とし、木材の最終製品までデータ取得の範囲を広げ、かつ捕捉範囲を広げることができれ ば,有力なツールとなる可能性はあると考えられる。 HWP に関係するデータの補足率を向上させるためには、HWP の算定対象となる木材製 品を取り扱う事業者の参加を促す取り組みが最も重要な課題となる。一方で、直ちに全 HWP

90...90 図1-2-3(3)ウ-1 森林クラウド実証システム(伐採届の電子申請)の画面イメージ 現在実証中の森林クラウドでは、森林計画上必要な行政情報である川上側の情報(伐採

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図 1-2-3(3)ウ-1 森林クラウド実証システム(伐採届の電子申請)の画面イメージ

現在実証中の森林クラウドでは、森林計画上必要な行政情報である川上側の情報(伐採

届)のみを取り扱っているが、今後同様の仕組みが木材流通に展開されていくことで、国

内の山から生産された木材の流通量が一元的に把握できる可能性がある。

(エ) 将来の HWP 算定に関する手法についてのまとめ

森林認証制度や地域材認証制度は、第三者機関による公平性の確保や認証木材量(スト

ック)把握手法において、HWP 算定のためのデータ取得・管理方法の検討の際に参考とな

る。一方で、それぞれの制度は木材の持続性確保や木材利用を推進するために設計された

ものであるため、データ取得の範囲は限定的である。つまり、それら制度に参加していな

い事業者や消費者の情報は把握できないという課題がある。

森林クラウド事業において電子申請の検討対象としている伐採届の申請手続きは、森林

計画制度上の義務として位置づけられた行政手続きであるため、伐採・造林を行う全ての

事業者が対象となる点で、任意の制度である森林認証制度や地域材認証制度とは異なり、

データ取得の範囲は全てを網羅する。

本節で取り上げた国内外におけるトレーサビリティ確保のための制度や技術は、そのま

ま HWP の算定に利用できる仕組みとはなっていない。しかし、もし将来的に森林を開始点

とし、木材の最終製品までデータ取得の範囲を広げ、かつ捕捉範囲を広げることができれ

ば,有力なツールとなる可能性はあると考えられる。

HWP に関係するデータの補足率を向上させるためには、HWP の算定対象となる木材製

品を取り扱う事業者の参加を促す取り組みが最も重要な課題となる。一方で、直ちに全HWP

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の把握が難しい場合でも、一定の捕捉率を確保することで、国産材率推計のための参考デ

ータとして利用することが想定できる。

(4) 各国の HWP 算定に関する現状

本節では、海外主要国が採用している HWP 算定方法について、最新(2015 年 Submission)

の National Inventory Report(NIR)と Common Reporting Format(CRF)をもとに整理し

た。調査対象国としては、これまでの報告で、HWP 算定に国独自法(Tier 3)を採用して

いた国、あるいは昨年度のヒアリング調査により、今回の報告で Tier 3 を採用することが

想定された国の中から 8 カ国(オーストラリア、フィンランド、スウェーデン、ノルウェ

ー、ドイツ、UK、NZ、米国)を選定した。調査の結果、各国の Tier レベルの表記に若干の

相違がみられることが分かった。この要因としては、京都議定書 CP2 への参加の有無によ

り、基準としているガイドラインが異なること、また、条約下報告のガイドラインである

2006 IPCC ガイドラインと、京都議定書 CP2 の基準となっている 2013 KP Supplement

では、Tier の定義が異なることが考えられる(表 1-2-3(4)-1)。

表 1-2-3(4)-1 2006 IPCC ガイドラインと 2013 KP Supplement の Tier 比較

2006 IPCC ガイドライン 2013 KP Supplement

Tier1 与えられた一次減衰関数と半減期を用

いて HWP の炭素貯蓄変化量を計算

即時排出

Tier 2 活動データ、排出係数(半減期)など

について国独自のデータを使用

与えられた一次減衰関数と半減期

を用いて HWP の炭素貯蓄変化量を

計算

Tier 3 国独自の計算法を使用 ・活動データ、排出係数(半減期)

などについて国独自の値を使用

・国独自の計算法を使用

具体的には、今回調査を行った海外主要国の多くが 2013 KP Supplement を基準としてい

るのに対し、京都議定書 CP2 に参加していない NZ や米国では、引き続き、2006 IPCC ガ

イドラインの基準を採用しているといった点である。この通り、Tier の表記には若干の相違

がみられるものの、本報告書では、各国の表記した Tier レベルを尊重することとし、NZ や

米国のように、他の調査対象国と異なるケースについては補足説明を加えることとした。

表 1-2-3(4)-2 に、各国の HWP 算定方法の一覧を示す。生産法以外の方法で HWP 計上を

行っているのは、オーストラリアのみであった。また、比較を可能にするため、日本の HWP

算定方法についても一覧に含めた。

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表 1-2-3(4)-2 各国の HWP 算定方法一覧(出所:NIR、CRF)

国 方法論 HWP カテゴリ 排出係数 2) 変換係数 3) バックデータ(HWP の生産・貿易データ等)

オーストラリア 蓄積変化法(Tier 3)

製材 CS CS National database of domestic wood production

Australian Forest and Wood Products Statistics

State Forest Service のログ収穫量データ

木質パネル CS CS

紙製品 CS CS

フィンランド 生産法(Tier 2)

製材

D

D

FAOSTAT データベース 木質パネル D

紙製品 CS/D(2006

GL)

ドイツ

生産法(Tier 2)

WoodCarbonMonitor

モデル

製材 D CS

FAOSTAT データベース 木質パネル D D

紙製品 D D

NZ 1) 生産法

(Tier 2, 2006 GL)

製材 D(2006 GL) CS FAOSTAT データベース

Ministry for Primary Industries 木質パネル

D(2006 GL) D(2006

GL) 紙製品

ノルウェー 生産法(Tier 2)

製材 D D

FAOSTAT データベース 木質パネル D D

紙製品 D D

UK 生産法(Tier 3)

CARBINE モデル

製材 D CS Annual Forestry Statistics publication National Inventory of Woodlands and

Trees

木質パネル D CS

紙製品 D CS

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国 方法論 HWP カテゴリ 排出係数 2) 変換係数 3) バックデータ(HWP の生産・貿易データ等)

アメリカ

生産法(Tier の記載な

し)

WOODCARBⅡモデル

製材

CS 記載無し

US Census

USDA Forest Service の生産・貿易データ

US EPA の廃棄物データ

木質パネル

紙製品

スウェーデン 生産法(Tier 3)

製材 D CS Swedish Forest Agency の生産・貿易データ

(1990 年~) 木質パネル D CS

紙製品 D CS

日本 生産法

Tier 3

製材・木質

パネル CS D 建築着工統計、住宅着工統計(国交省)

建設資材・労働力需要実態調査(国交省) 固定資産の価格等の概要調書(家屋)(総務省) 木材需給報告書、木材統計調査(農水省) 貿易統計(財務省) 生産動態統計(窯業・経済統計)(経産省) 木質ボード用途別出荷量(日本繊維版工業会)

Tier 2

製材 D D

木質パネル D D

紙製品 D D

1) NZ は、Tier レベルや排出・変換係数のデフォルト値について、「2006 IPCC ガイドライン」の基準を適用している。

2) 半減期、減衰率など(D:デフォルト値、CS:国独自に設定した値)。

3) 木材容積密度、炭素含有率、C-conversion factor など。

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オーストラリアは、昨年と同様、蓄積変化法をベースとした独自の HWP モデルを用いて

HWP 計上を行っている。この方法の生産法と異なる点は、国内で生産された HWP だけで

なく、輸入された HWP も考慮し、また、国内から輸出された HWP については炭素プール

より差し引いている点である。つまり、炭素プールは、生産場所を問わず、国内で使用中

の木材製品と定義される。生産法の考え方に準ずるには、輸入された HWP を国内産 HWP

と分けて考慮する必要があるが、国内の森林に由来するプールの割合の推計は困難である

としている。

木材生産量や輸入・輸出量データは、1930 年より整備されている国内木材製品データベ

ースより、年間ログ収穫量データは、Australian Forest Product Statistics(ABARES, 2014a)

または State Forest Services より取得している。炭素含有率や容積密度といった変換係数

は、木材の製品形態別(針葉樹製材、広葉樹製材、ヒノキ製材、合板、パーティクルボー

ド、パルプおよび紙など)に、国独自の値を細かく設定している。

2/CMP.7 の決定事項として、CP2 では、国内の森林に由来する HWP を 3 つの製品カテ

ゴリ(製材、木質パネル、紙製品)に分けて計上することとなっているため、条約報告も

これに準じ、オーストラリア独自の HWP モデル内では通常、別々に考慮されている 5 つの

プールを次の 3 つの想定寿命プールに振り分けて計算している。

・製材:プール 4、5(超長期~長期プール)

・木質パネル:プール 2、3(短期~中期プール)

・紙および紙製品:プール 1(超短期~短期プール)

この独自モデルでは、製品寿命による材料の損失(loss of material)は製品の年齢ととも

に増大するという前提のもと、各製品プールにおける毎年の HWP の投入量と、減衰率をベ

ースに推計した廃棄量を追跡し、さらに 3 つの異なる年齢クラス(Young、Mid、Old)に

分けて、年間の炭素蓄積変化量を評価している。減衰曲線の形状は製品毎に異なるため、

図 1-2-3(4)の通り、損失する材料の割合も各製品プールの年齢クラス毎に異なる。

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図 1-2-3(4) オーストラリアの HWP モデルの構造

(出所:Figure 6.26, オーストラリアの NIR)

フィンランドは、これまでの報告では、第一約束期間で採用していた、蓄積変化法をベ

ースとした「直接蓄積インベントリー法(direct stock inventories)」と呼ばれる方法に、デ

フォルトの半減期、一次減衰関数を取り入れた国独自の推計方法(IPCC 2006 ガイドライ

ンの Tier 3)を採用していたが、京都議定書 CP2 では、生産法による計上が定められたこ

ともあり、条約下における 2015 年報告もこれに準じて行った。生産法では、国内生産され

た HWP のうち、国内消費中の HWP と輸出された HWP を分けて計算している。フィンラ

ンドの建築関連統計は、国内に存在する HWP にしか適用できないという性質があることか

ら、木材輸出国であるフィンランドにとっては、生産法下で国内利用分のみに手間とコス

トをかけて国独自法を開発するメリットは少なく、結果として、CP2 は 2013 KP

Supplement に示される Tier 2(デフォルトの半減期および一次減衰関数を使用)をベース

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とした算定となった。最も早いケースで、2017 年 Submission では、国独自の変換係数へ

の置き換えを行う意向とのことである。

ドイツでは、木材製品の生産データに基づき、WoodCarbonMonitor モデルを使用して

HWPの算定を行っている。京都議定書下の報告との整合性を保つため、算定方法としては、

2013 KP Supplement に示される Tier 2 を採用している。より高い透明性を確保するため、

国産材製品のうち、国内消費中の HWP と輸出された HWP を分けて計算している。固形廃

棄物処分場(SWDS)にある木材の炭素については考慮していない。活動データのソース

は FAOSTAT である。ドイツでは、製材(針葉樹、非針葉樹)は、製品として国内で広く使

用されていることを考慮し、これらの変換係数には国独自の値(Rüter, 2011)を設定して

いる。

NZ では、2015 年 Submission で初めて HWP の算定、報告をおこなっている。他の調査

国と異なる点として、NZ は京都議定書 CP2 の参加国ではないため、方法論として基準と

しているのは、2013 KP Supplement ではなく、2006 IPCC ガイドラインであるという点

が特徴的である。したがって、一部、国独自の活動データや係数を用いて、デフォルトの

HWP モデルを調整した算定方法について、2006 IPCC ガイドラインに則り、Tier 2 として

いる。これは、2013 KP Supplement の Tier 3 に近い要素も含まれていると推察できる。こ

のモデルでは、輸出された原材料は、国内生産分と同じ率で最終製品・最終用途に振り分

けられると仮定している。現在、海外市場における NZ 産木材の最終用途に関する研究を通

して、この仮定を検証しているところである。NZ 材製品の最終用途は多岐に渡り、減衰率

に関する研究も限られていることから、国独自の半減期を算出することは困難であると報

告している。

活動データのソースは、NZ の第一次産業省から提供されたデータを基にした FAOSTAT

であるが、欠損あるいは古いデータについては、追加・更新作業を施している。モデル中

の変換係数のいくつかに国独自のパラメータを使用しており、例えば、木材中の炭素含有

率は、森林分野の算定モデルとの整合性を考慮し、0.5(50%)を適用、また NZ の収穫木

材の 90%以上を Radiata pine(マツ科の一種)が占めることから、当該樹種を原材料とし

た製材、及び丸太については、国独自の木材容積密度を採用して、この樹種の優位性を反

映している。全体の 11%を占める針葉樹の bark factor(樹皮率)や、木質パネル、紙製品、

木炭などのその他の製品カテゴリの変換係数にはすべて、2006 IPCC ガイドラインのデフ

ォルト値を適用している。

UK では、森林分野と同様、CARBINE モデルを使用して、生産法をベースとした Tier 3 に

よる HWP 算定を行っている。特徴的なのは、2013 KP Supplement の基準では、本来、即

時排出(Tier 1)扱いとなる D(Deforestation:森林減少)活動から生じる炭素についても

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HWP プールに含めている点である。前回提出の NIR からの改善点として、2000 年以降の

森林減少面積を改訂している。植林面積や収穫量といった活動データは、ともに UK の森林

統計資料(Forestry Statistics publication)から取得することで、データの時系列的な整合

性を確保している。利用可能なデータが存在しない 1920 年以前の植林データについては、

National Inventory of Woodlands and Trees から得られる年齢級の構造により推計している。

HWP 製品カテゴリ別消費データについても、同じく森林統計資料から取得しているが、デ

ータのない 1990 年から 2001 年については、2002 年から 2011 年の値の 10 年平均に基づ

いて、木材製品カテゴリ別に算出した値を用いている。上記のデータセットは、CARBINE

モデルからの HWP アウトプットを、国内消費分あるいは輸出分のいずれかに割り当てるた

めに使用している。HWP 製品カテゴリ別の炭素の割り当ては、CARBINE モデルに実装さ

れている、林分材積アソートメント予測プログラム26(stand volume assortment forecasting

model)に商品向け幹材積中の炭素量を入力することによって推計される。CARBINE モデ

ルが扱う最終木材製品(’end-use’ wood product)の種類としては、長寿命製材、短寿命製

材、パーティクルボード、紙、燃料などが含まれるが、このうち、長寿命・短寿命製材は、

HWP 製品カテゴリの報告の形式上、「製材」カテゴリとして一つにまとめられている。上

記以外は、廃棄材として廃棄物プールで扱われる。各木材製品カテゴリは、2006 IPCC ガ

イドラインのデフォルトの半減期と、社会経済的要因に影響される減衰率および稼動寿命

が考慮された独自の炭素保持曲線を持っており、各製品カテゴリの減衰や炭素の大気中へ

の戻りを推計するために使用される。

ノルウェーは、HWP の 3 つのカテゴリ(製材、木質パネル、紙製品)の計上ついて、2013

KP Supplement に示される Tier 2 を採用している。透明性確保のために、国産材製品のう

ち、国内消費中の HWP と輸出された HWP を分けて計算しており、輸入された HWP は計

算に含めていない。

米国は、昨年と同様、WOODCARBⅡモデルにより、HWP の炭素吸収/排出量を、国内

外で使用中の HWP と、国内の固形廃棄物処理場(SWDS)に存在する HWP の二つのプー

ルに分けて評価している。米国から輸出され、別の国でプールに入る HWP は、国内 HWP

と同じ半減期、減衰率を適用している。また、アプローチ法別の結果を比較するため、生

産法だけでなく、蓄積変化法、大気フロー法による計算結果についても報告している。USDA

Forest Service、U.S. Census、U.S. EPA から得られる HWP の生産・貿易データや廃棄物

データとキャリブレーションを取ることによってHWPの3つの製品カテゴリ別の半減期や

減衰率を独自に算出しているほか、一戸建て木造建造物に使用される住宅建材の建築年代

26 樹種や樹木のサイズクラスの分布による製品生産高のばらつきを考慮して木材中の炭素割り当てを推

計する、ASORT(Rollinson and Gay, 1983)として知られるプログラム。

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別の半減期、減衰率についても算出している。2015 年 NIR には、Tier に関する明確な記載

はなく、また、変換係数についても、情報源となる CRF が現時点で非公開(レポーティン

グソフトウェアのディスプレイ事情によるもの)のため、詳細は不明である。しかなしな

がら、上記のとおり、排出係数に国独自の値を詳細に設定している点や、米国独自の豊富

な活動データが利用可能であるという点で、2013 KP Supplement における Tier 3 に近い方

法が適用されていると推察できる。ただし、米国は、京都議定書 CP2 の参加国ではないた

め、算定基準としているのは、2013 KP Supplement ではなく、2006 IPCC ガイドラインで

ある。

スウェーデンは、議定書報告との比較を可能にするため、生産法を選択し、国内産 HWP

のうち、国内消費中の HWP と輸出された HWP を分けて計算している。算定方法は、2006

IPCC ガイドラインに記載の Tier 2 をベースとしつつ、一部国独自の係数を適用した Tier 3

としている。HWP プールにおける炭素貯蓄変化量は、2006 IPCC ガイドラインの算定式

(2006 IPCC GL, equation 12.1)に基づき、新たに生産された製品中の炭素量の HWP プー

ルへの投入(インフロー)と廃棄された製品中の炭素量の HWP プールからの排出(アウト

フロー)の差により計算される。インフローの推計には、Swedish Forest Agency より得ら

れる生産・貿易データ(1900 年以降)を使用しているが、HWP 製品の生産時のデータが

存在しない場合は、比例減少による推計を行っている。アウトフローは、2013 KP

Supplement のデフォルトの排出係数をベースとした推計をおこなっている。スウェーデン

では、製材・木質パネルとして使用される丸太の 99%を Norway spruce(55 %)と Scots pine

(45 %)が占めていることから、これらの木材製品の容積密度には、NFI データおよび幹

材積・幹バイオマスのモデルにより算出された国独自の値を設定している。

日本では、建築分野の HWP には Tier 3、その他の HWP には Tier 2 という組み合わせの

手法による HWP 算定を行っており、その計算方法については、算定式を含め、かなり詳細

に報告を行っている。今回調査対象とした海外主要国では、デフォルトの半減期および一

次減衰関数を用いた Tier 2 を採用している国が多く、また Tier 3 であっても、方法論につ

いて、日本ほど詳細且つ明瞭に記載している国はなかったことからも、我が国は、国独自

法の中でもかなり高度な水準を有していると考えられる。今後は、1-2-3(3)で述べられてい

るような、将来の HWP 算定に関する新しい技術を検討しつつ、引き続き、国際的な動向に

柔軟に対応し得る国独自法を保持していくことが重要である。