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Ⅲ.選択政策基本的方向

Ⅲ.⇥∞⇝∛選択⇫∋⇟政策∀基本的方向 - Kofu...6 “Ageing,Exploding the myths” Ageing and Health Programme,WHO, 1999 7 秋山弘子「銚寿時ㆊの科学と社

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Ⅲ.これから選択すべき政策の基本的方向

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Ⅲ.これから選択すべき政策の基本的方向

01.地域コミュニティの活性化と共通基盤 主任研究員 乙黒 功

(1)地域は誰が支えるか

ア.「個人」と「地域社会」

少子化、長寿化、超高齢化、そして人口縮減という人口・社会構造の変化は、地域に様々な問

題を顕在化させており、今を生きる私たちは、そうした問題の中から、今後に取り組むべき課題

を的確に捉えておくことが必要となるが、大切なことは、こうした問題を「個人」と「地域社会」

の両面から捉え直し、体系的に整理することで、優先的に取り組むべき課題が明確となり、より

実効性のある政策オプションを導き出す有効な手立てになる。

イ.社会関係資本に着目した政策の提案

その上で、こうした避けることのできない中長期的な変化を前提としながら、地域の活力を今

後も維持・継続していくための政策オプションを、これまで見落とされがちであった社会関係資

本 Social-Capital1を下支えする諸活動を中心に、研究レポート2で指摘した「時間軸」、「地域経済

循環」、「広域連携」、「地域経営」という包括的な視点も踏まえながら、その基本的な方向性を提

示することとしたい。

なぜなら、地方自治の根幹である住民自治を支える地域力3を高めることは、私たちが目指す持

続可能な地域社会の本旨であり、地域の多様な主体が連携しながら、住民相互が支え合う心(思

い)を共有し、新たな「ひと・情報・もの・サービス」を地域に創造・循環させることにより、多

様化・複雑化する地域課題を、その地域の実情に即して、真に住民が望む方向で柔軟かつ木目細

かに解決していくことに繋がると考えるからである。

そして、そのために必要不可欠である地域人材の確保・養成や、地域「知」の循環を図るプラ

ットフォームの構築・運営を、行政界や分野など既成の枠組を越えて取り組んでいく、具体的な

プログラム(政策オプション)として提案したい。

ウ.「高齢化」の再定義

地域の人口社会構造を推し測る指標の一つである従属人口指数4の推移を見ると、1990 年に

48.74 まで低下して以降、急速に上昇を続け、僅か 25 年後の 2015 年には 67.51 となり、団塊の

世代が後期高齢者へ移行する 10 年後の 2025 年には 78.85 となることが予測され、一般的には、

支える世代の負担増と地域の活力減退が懸念されるところであろう。(図表 01‐1)

しかし、近年急速に進む雇用・就労環境の変化や、健康年齢の延伸、体力向上など、いわゆる

シニア層の加齢に伴う生理機能や社会関係の状況変化を踏まえて、生産年齢人口の定義を「15~

64 歳」から「15~70 歳」へ置き換えれば、懸念される状況は一変することになる。(図表 01‐2)

1 人々の協調行動を活発にすることにより、社会の効率性を改善する社会組織をいい、信頼、互酬性、

市民参加ネットワークなどの要素から構成される。 2 みらい協創研究会「研究レポート~地域の実像~」(2018.5.24) 3 教育、子育て支援、防災、防犯・治安、介護・福祉といったコミュニティが有する諸機能。 4 従属人口指数=(【15 歳未満人口】+【65 歳以上人口】)÷【15~64 歳人口】×100

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つまり、豊富な知識、経験、能力及び意欲を有するシニアを、社会の担い手として明確に位置

付け、その能力等を最大限に発揮する中で、人生 100 年時代における新たな価値観やライフスタ

イルを確立しながら、住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができる地域社会づくりを進

めることができるならば、各自治体における個人の豊かな長寿と社会の持続的な発展の実現を図

る可能性を高められるのである。

県央自治体は、こうした取組の必要性を、地域全体の共通課題として認識し、シニアの活躍を

積極的に促進・支援する仕組みや施策を安定的に維持・運営できる共通基盤を、連携して整備す

ることで、個人の長寿化と社会の高齢化へ適切に対応する政策を、効率的かつ効果的、そして包

括的に展開することができるのである。

このような共通基盤づくりを、多様な主体の協働を引き出しながら、自治体間の連携により進

図表 01‐1

図表 01‐2

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めていくプログラムを本稿において提案したい。

(2)シニア5(高齢者)の実像

前項で示した社会の担い手として捉えるべきシニアとは、どのような人なのか。以下、その実

像に迫りたい。

ア.高齢者の捉え方

国においては、高齢者施策の指針となる「高齢社会対策大綱」(平成 30 年 2 月 16 日閣議決定)

の中で、

“65 歳以上を一律に高齢者とみる一般的な傾向は、現実的なものではなくなりつつある。”

“高齢者の体力は若くなり、社会との関わりをもつ意欲も高い。”

と初めて明記するなど、「支え

が必要な人」というこれまでの

高齢者の捉え方に対する意識

改革を図りながら、超高齢社会

を迎え、「人生 100 年時代」と

言われる現代において、意欲や

能力のある高齢者に社会の担

い手として活躍できる社会環

境の整備を進めていくとして

いる。

5 ここでは、「高齢者」と「シニア」を混在して使用しているが、国連報告書「人口高齢化とその経済的・社会的意

義」に準拠して、概ね65歳以上の人々を高齢者とし、シニアについても概ね同義として取り扱う。

シニアの実像

学び  ▶ 高い意欲

「ICT」リテラシー  ▶ 一般化

就労意識  ▶ 多面性

地域活動  ▶ 希薄化

体力・運動能力  ▶ 向上

意識・価値観  ▶ 多様化

健康・自立期間  ▶ 延伸

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そして、高齢者が社会の担い手として、それまでの長い人生の中で培ってきた能力や経験を発

揮しながら、生涯にわたり活躍することをとおして、生きがいを創出するだけでなく、地域社会

が抱える様々な課題の解決や、持続可能で活力ある社会の形成にも寄与することが期待されると

している。

この点については、国連の世界保健機関 WHO も、これまでの高齢者及び年齢に対する次のよ

うな誤った通念(偏見・先入観)を打破し、高齢者を地域社会にける有用な資源として捉え直し、

適切な医療と健康増進教育を行い、世代間の連帯を強化することなどにより、活力ある地域社会

を実現できるとしている。6

☆ 高齢者はみな同じである。

☆ 男性も女性も同じように年をとる。

☆ 高齢者は虚弱である。

☆ 高齢者は何も貢献できることはない。

☆ 高齢者は社会に対する経済的な負担である。

~WHO「打破すべき6つの神話」より抜粋~

イ.健康状態・自立度

ごく普通の日常生活の動作を人や器具の助けなしでできるという、自立して生活する能力の加

齢に伴う変化を見ると7、男性の 7 割が、また女性では9割弱が、それぞれ緩やかに自立度を低下

させており、多くが 75 歳頃までは自立した日常生活を送っている。(図表 01‐3、4)

こうした介護・療養を必要とするまでの期間を、健康を保持しながら、自らの能力を最大限に

生かし活躍することができれば、当該期間をさらに延伸させ、自らの生活のQОL(Quality Of

Life)向上や、地域の活性化に繋げていくことが期待される。

なお、ここでいう健康とは、WHO(世界保健機構)の定義によれば、「虚弱でないとか病気で

ないとかいうことでなく、身体的にも、精神的にも、社会的にも、十分調和のとれている状態」

とされているが、本研究における社会関係資本の担い手として期待するシニア像そのものとも言

える。

6 “Ageing,Exploding the myths” Ageing and Health Programme,WHO,1999 7 秋山弘子「長寿時代の科学と社会構想「科学」岩波書店 2010」

図表 01‐3 自立度の変化パターン(全国高齢者 20 年の追跡調査)

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ウ.体力・運動能力

2015 年 6 月、日本老年学会が「現在の高齢者は 10~20 年前に比べて、5~10 歳は若返ってい

ると想定される。」と発表し、2017 年 1 月には、日本老年学会・日本老年医学会が、前期高齢者

である 65~74 歳を「准高齢者」、75~89 歳を「高齢者」、90 歳以上を「超高齢者」と区分を見直

す旨の提言を発表した。

これらの提言は、「人生 100 年時代」の到来を見据える中で、65 歳以上の人を一括りに高齢者

として扱うことへの警鐘として、一石を投じている。

その証左として、2017 年 10 月 8 日にスポーツ庁から公表8された、「握力」や「上体起こし」、

「長座体前屈」、「開眼片足立ち」、「10m障害物歩行」及び「6 分間歩行」の 6 項目による新体力

テストの合計点の年次推移を見ると、年代・性別を問わず、高齢者の体力・運動能力は一貫して

向上しており、身体機能の若返りが明らかになっている。

なお、この結果は、近年の健康志向の高まりを背景として、高齢者が日常的に運動しているこ

とが、その要因の一つと考えられている。

8 スポーツ庁「2016 年度体力・運動調査」

図表 01‐4 健康寿命と平均寿命の推移

出典:令和元年度版高齢社会白書(内閣府)

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エ.意識・価値観

内閣府が平成 20 年に行った「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」によると、「趣味

やスポーツに熱中している時」、「仕事に打ち込んでいる時」、「旅行に行っている時」に生きがい

を感じると答えた人は、健康状態が良い層で多く、健康状態が良くない層と比較すると、その格

差が大きく、意識と健康との間に強い関係性が窺える。

また、ビデオリサーチが 2013 年に行った「シニア 1,000 人調査」では、実年齢と気持ちの上で

の年齢に、概ね 8 歳のギャップがあることが示されているが、株式会社 JTB 総合研究所が示した

図表 01‐7 の「各世代の特徴」によると、高齢者といっても、生まれ育った時期によって、その

価値観や考え方は大きく異なっており、画一的に捉えることには問題があろう。

図表 01‐5 2016 年度体力・運動能力調査 新体力テストの合計点の年次推移

25~59 歳 65~79 歳

図表 01‐6 実年齢と気持ちの上での年齢とのギャップ

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このように、高齢者においては、健康状態や身近な人との関係が生きがいに深くかかわってい

るとともに、気持ちも若く、各年代によって価値観や考え方も全く異なり、総じて多様であるこ

とが分かる。

一方、「生きがい」の意味を問うた「生活と生きがいに関する調査」9(年金シニアプラン総合研

究機構)の過去 6 回の推移を見ると、「生きる喜びや満足感」が常にトップにある一方で、「自分

自身の向上」や「個人や社会の役に立っていると感じること」は、徐々に順位を下げており、直

近の平成 29 年度調査では最下位にまで凋落するなど、大きな時系列変化を見せている。

こうした意識や価値観の多様性を理解する上では、高齢期における「より良く生きる」という

個人ベースの課題についても、さらに踏み込んだ考察をする必要がある。

この点については、それまでのサクセスフルエイジング10の概念を問い直す契機ともなったエ

リクソン Erikson.E.H の心理社会的発達理論が参考となろう。

エリクソンによると、人は生涯を通して発達する存在であり、年齢に応じた 8 段階の発達課題

とその克服により、より良く生きるための力を獲得するとしているが、自らが 90 歳を越えた晩年

には、長寿化による高齢期の延伸という大きな社会変化においては、さらに一段階を追加11する必

要性を指摘している。(図表 01‐8)

それは、後期高齢者になっても、「老年的超越」という年齢に応じた発達段階へと成長していく

9 サラリーマンシニアを中心とした調査。平成 3 年度から同 29 年度までに6回実施。 10 Successful Aging 「幸福な老い」 高齢者は、高齢期においても健康で自立し社会貢献できるとする。 11 Erikson.J.M.(Erikson.E.H.の妻)が、その著「ライフサイクル、その完結(増補版)」で追加発表。

図表 01‐7 各世代の特徴

(出典)株式会社 JTB 総合研究所

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ことを提示している。

したがって、これまで論じたような高齢者の意識や価値観等に関する様々なアプローチを試み

ることによって、人生 100 年という個人の長寿化が惹起する課題を明らかにすることができ、結

果として、活力ある超高齢社会の創造に向けた知恵を、私たちに与え得るのではないか。

オ.暮らし・就労

山梨県が実施した「シニア世代の就労に係るニーズ・実態調査県民アンケート」の結果による

と、「何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいか」という問いに対しては、「働けるうちはいつまで

も」と回答した割合が 28.9%と最も高く、次いで、「65 歳くらいまで」、「70 歳くらいまで」がと

もに 16.6%、「仕事をしたいと思わない」が 10.6%などの順となっている。

また、就労する理由としては、「生活費のため」ばかりではなく、「生きがい」や「健康」、「仲間

作り」のためなど、収入以外の理由を挙げる高齢者も多い。

図表 01‐9 高齢者の就労希望年齢

図表 01‐10 山梨県内の高齢者の就労したい理由

段階 年齢 課題、構成要素 基礎的活力

 乳児期  0~1.5歳  信頼‐不信  希望

 早期児童期  1.5~3歳  自立性‐恥と疑惑  意思力

 成人期  40~60歳  生産性‐停滞  世話

 老年期  60歳~  自我統合‐絶望  英知

(省略)

老年的超越(宇宙的・超越的・非合理的)

図表 01‐8 エリクソンの発達段階と課題

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一方、同結果では、各事業所へ高齢者雇用に対する意識調査も行っているが、この中では、事

業者が高齢者雇用について、「知識や経験を活用すれば業績にも繋がる」、「雇用コストも低い」と

いうプラス面を感じている反面、「健康状態への不安」や「仕事を覚えるのに時間がかかる」、「頑

固」などのマイナス面を懸念している傾向もみられる。

このように、シニアにおける就労は、当事者本人の就労意義を、経済的理由、社会的責任の分

担、社会的貢献、健康保持、社会関係など、多面的な機能として捉えることが必要であり、その

就労がどのような社会的な機能・意義へと繋がっているかについても、考察を加えることは欠か

せない。

カ.地域活動

高齢者における、自治会活動や消防団活動、PTA 活動、NPO 活動などの公益的な活動、そして

ボランティア活動などの自発的かつ利他的な活動である地域活動への参加状況については、内閣

府が行った「平成 28 年高齢者の経済・生活環境に関する調査結果」によると、高齢者の約 2 割が

自治会・町内会などの自治組織での活動を行っている一方で、約 7 割にあたる高齢者が、特に地

域活動へ参加していない(図表 01‐11)。

そして、地域活動を始めたきっかけについては、自治会・町内会からの誘いが最も高く4割半

ばを占め、次いで「友人、仲間のすすめ」が約 2 割となっている(図表 01‐12)。

また、内閣府の「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」によると、健康・スポーツな

どの趣味的活動への参加意欲は高い。

一方で、地域活動・ボランティアを始めるきっかけをつかみ、積極的に活動する高齢者は一部

図表 01‐11 高齢者の地域活動の状況

図表 01‐12 高齢者の地域活動を始めたきっかけ

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であり、多くの高齢者が時間的・体力的な余裕がないことなどを理由に地域活動に参加していな

い。

こうした状況を踏まえながら、近時において変容する地域社会の姿を明らかにする中で、新た

な視点に立った地域社会システムの創造・提案に繋げていくことが求められる。

キ.学び

内閣府が 2012 年(平成 24 年)に実施した「生涯学習に関する世論調査」では、60 歳以上の半

数以上が「生涯学習をしたことがある」と回答するなど、高齢者の「学び」に対する意欲は高い。

一方で、「生涯学習を行っていない」と回答した 60 歳から 69 歳の高齢者のうち、40.8%の方が

「仕事が忙しくて時間がない」と回答し、さらに 20.9%の方が「生涯学習を行うきっかけがない」、

次いで、13.6%の方が「一緒に学習や活動をする仲間がいない」と回答している。(図表 01‐14)

ここで押えておきたいことは、高い学習意欲を個々の思いに沿った学習機会へと繋ぎ合わせる

仕組みや基盤を、どのように構築していくのか、そして、そもそも生涯学習とはどのような活動

であるのかという点である。この点については、今後の研究課題としたい。

図表 01‐14 高齢者が生涯学習を行っていない理由

図表 01‐13 高齢者が行っている生涯学習について

上段:60~69歳 下段:70歳以上

上段:60~69歳 下段:70歳以上

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ク.ICT(Information Communication Technology:情報通信技術)

人と人、人と社会とをつなぐ ICT が、近年、急速に発達する中、総務省「通信利用動向調査」

によると、インターネットの利用率を利用者の年齢階級別に平成 22 年と 27 年とを比較すると、

70~79 歳が 14.3 ポイント増と最も大きく、次いで 60~69 歳が 12.2 ポイント増などとなってお

り、ICT を活用するシニアは大幅に増加している。

また、スマートフォンやタブレットなどの携帯情報端末機器の普及によって、情報発信・情報

共有のスピードが飛躍的に向上する中、対面交流でのつながりだけでなく、Facebook や Twitter、

LINE などの SNS12の利用率も高まりを見せている。

12 Social Networking Service=社会的ネットワーク構築サービス

各年度の上から

1 段:いずれか利用、2 段:LINE、3 段:Facebook、4 段:Twitter、5 段:mixi、6 段:Mobage、7 段:GREE

図表 01‐15 利用者の年齢階級別インターネット利用率(平成 22 年末、27 年末)

図表 01‐16 代表的 SNS 利用率の推移

(出典)総務省「通信利用動向調査」(平成 27 年)

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現在、40~50 代にある人の利用率を見れば、SNS を積極的に利用する情報リテラシーのレベ

ルが高い高齢者が、今後、急速に増加していくことが推測される。

こうしたコミュニケーション・ツールが、シニア層全体で普遍化された手段として、さらに定

着が進めば、Society5.013が掲げるように、人口構造の急激な変化に対応する新たな価値の創造や、

社会的な課題の解決に繋がる可能性を高めることにもなるだろう。

(3)少子高齢化は地域へどのようなインパクトを与えたか

ア.地域社会への影響

私たちが住む地域社会のシステム(インフラを含む)は、右肩上がりの経済成長と人口増加を

前提とした時代につくられたままで、超高齢社会が現出している状況を要因とした都市の縮退プ

ロセスに対応しておらず、様々な面で機能不全を惹き起こしつつある。

そこで大切なことは、地域社会で今何が起きているのか、起きつつあるのかについて、しっか

りと検証を加えた上で、効果的な対策を間断なく講じていくことである。

この点については、ОECD の政策集14でも、「高齢化の傾向とその影響は、概ね予測可能なもの

であるため、高齢社会のための政策は、単に現在の必要性や機会に対処するだけでなく、将来の

人口構造を予測し、より円滑にそれに向かって進むよう、経済社会の取り得るべき進路を切り開

くものである。」と、その必要性を示している。

<地域経済への影響>

高齢者の消費性向15は上昇しているものの、収入の減少により消費額は縮小し、加齢の影響で消

費支出費目も大きく変化している(図表 01‐17)。

また、加齢による身体的負担の増加や、移動手段が制限される中で、小売店やサービス店の業

13 「第5期科学技術基本計画」(平成28年1月22日閣議決定)において、我が国が目指すべき未来の社会の姿

として、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に癒合させたシステムにより。経済発展と

社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(Society5.0)を提唱。 14 Ageing in Cities (OECD, Publishing, Paris)2015(前文) 15 消費性向=消費支出/可処分所得

地域社会への影響

交通インフラ  ▶ 公共交通の需給ギャップ

地域コミュニティ  ▶ 自尊好縁、世代間断絶

まちづくり  ▶ 都市機能の劣化

地域経済  ▶ 流通機能の弱体化

地方財政  ▶ 収支バランスの崩壊リスク

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態や高齢者の購買行動にも変化が生じ、購買頻度や誘客力の低下のほか、郊外幹線道路沿線型店

舗の売り上げの減少や、商店街の衰退が進み、高齢者の日常生活の質は低下しつつある。

こうした流通機能全体の弱体化は、需給両面にとって極めて深刻な問題を出現させている。

<地方財政への影響>

収入の低い高齢者の増加に伴い所得課税税目の税収が減少するとともに、空き家や空き地の点

在や、郊外への商業機能の再配置などにより、これまでの住宅地の魅力低下が住宅重要を減少さ

せ、不動産価格の下落に歯止めが掛からず、資産課税税目の税収も減少の一途を辿っている(図

表 01‐18)。

一方で、高齢化に伴う公的サービスの質的変化と量的拡大により、財政需要は増大しており、

持続可能な公的サービスの維持を図るためには、供給体制そのものに深く切り込むような、抜本

的な見直しが必要となっている。

用途令和元年度平均価格(A)

平成22年度

平均価格(B)変動額(A-B)

住宅地 24,300 30,500 ▲ 6,200

(内)リゾート系 11,300 12,500 ▲ 1,200

宅地見込地 14,800 18,900 ▲ 4,100

商業地 45,600 55,800 ▲ 10,200

工業地 14,100 17,900 ▲ 3,800

全用途 27,100 34,000 ▲ 6,900

(単位:円/㎡)

図表 01‐18 山梨県地価調査結果

図表 01‐17 可処分所得額、消費支出額及び平均消費性向の推移(平成 15 年~20 年、高齢無職世帯)

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<地域コミュニティへの影響>

地域のコミュニティ活動(実態を伴った地域課題の解決が要請されているという意味合いにお

いて)は、住民生活を支え、持続可能なまちづくりを進める上で不可欠であるが、高齢化は、地

域におけるコミュニティ活動への参加を後退させ、低収入により経済的分担を困難にするととも

に、住民間のネットワークを希薄化させるなど、コミュニティの不活化(機能不全)を招来する

大きな構成要因となることが危惧される。

<まちづくりへの影響>

これまでの、自動車での移動を前提としたまちづくりや、立体的な高度利用を前提とした都市

空間づくりは、住民の生活を維持する装置としての都市機能を弱体化させており、少子高齢化の

進展を踏まえた都市再生を進めることが不可避の状況となっている。

なお、この点に関連して、大西隆氏は、人口減少社会において「逆都市化」が進行する中での、

「ゆとり」と「環境共生」を両立させた都市の質の向上に関する提言16を行うほか、こうしたまち

づくりを実現する上で、自治体が市民の中にある個性的な知恵を拾い上げ、その実現を支援する

公民連携や、市民組織が自らその知恵を実現する仕組みの構築と実践の必要性を指摘している点

は、前述の地域コミュニティとも関連して、示唆に富む重要な視点であろう。

<交通インフラへの影響>

人口減少が、公共交通機関の利用者を減少させ、採算性の低下に伴うサービスの縮小や、事業

からの撤退を現出することは、容易に考え得るところであるが、一方で、高齢者の増加は、いわ

ゆる交通弱者問題を惹き起こす中で、移動手段の核としての公共交通機関の需要増を招来する可

能性を高める要因ともなっている。

イ.地域コミュニティへの影響を如何にして受け止めるか

これらの影響により生起する諸問題に対しては、他の研究員がそれぞれの視点からアプローチ

することとなっているので、ここでは、地域コミュニティへの影響に着目し、高齢者を活かす社

会システムを地域へ実装する取組と、その広域的な基盤づくりの可能性について論じたい。

その趣意は、少子高齢化が進行する中にあって、豊富な知識、経験、能力及び意欲、さらには

旺盛な経済活動等を有する高齢者を、地域の社会関係資本(ソーシャルキャピタル Social Capital)

の重要な構成要素として位置付け、十分に活用・発揮できる環境づくりを進め、生涯にわたる元

気な活躍を後押しする中で、地域の活性化を支え先導する担い手へと積極的に転換を図るところ

にある。(図表 01‐19)

16 「逆都市化時代」(学芸出版社、大西隆、2004.6.30)

図表 01‐19 社会関係資本の構成要素

出典:パットナム Putnam 社会関係資本の構成要素

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なぜなら、核家族化が進み、生涯未婚率の上昇とも相俟って、高齢単身世帯が今後さらに増加

する中にあっては、こうした取組について何ら有効な手立てを打たなければ、高齢者の「人と人

とのつながり」は希薄化し、惹いては地域社会全体が無縁社会の方向へと移行する危険性を孕み

ながら、高齢者の引きこもりやセルフネグレクト17、さらには孤独死といった悲しい事象の顕在化

に拍車を掛けることになると考えるからである。

だが、悲観的なことばかりではない。このように地縁的なつながりが薄れる反面で、共通の価

値観や関心事におけるつながりを求める高齢者は着実に増えており、高齢者自身の新たな人生の

可能性と楽しみの再発見につながるような社会システムや基盤の用意があれば、社会参加や地域

活動に取り組み、仲間をつくり、能動的な信頼関係を構築する中で、お互いに気を配り交流しな

がら支えあうコミュニティ(住民共助型)ケアの展開が期待でき、高齢者は、その有力な担い手

に成り得るだろう。

その基盤こそ、社会関係資本と呼ばれるものであ

り、地域の効率的な運営を支えていくパワーそのもの

に繋がる。

ここで、少々古いが、興味深い統計分析結果を紹介

したい。

それは、内閣府が 2003 年に発表した「ソーシャル

キャピタル・豊かな人間関係と市民活動の好循環を求

めて」の中で、合計特殊出生率とソーシャルキャピタ

ル指数との間に正の相関関係が認められるとするも

のである。

つまり、社会関係資本を考えるに際しては、長寿化

に伴う高齢者個人の課題として捉えるだけでなく、広

く全世代にわたる地域社会全体の課題として、積極的

に捉え直し、地域に根付かせていくことを指向するこ

とが求められるのである。

以下、こうした地域社会を運営する上で重要なファ

クターである社会関係資本を、積極的に支援する全世

代参加型地域協働プログラムや基盤について、その基

本フレームを提示したい。

(4)全世代参加型地域協働プログラムの提案

個人的使命で忙しくするリタイア世代を肯定する

考え方として、Busy Ethic(ビジーエシック)と呼ば

れる倫理的な概念があるが、これは、自らの目標を明

確に立てその目標に向かって勤しむ役割を演じ切れてこそリタイアという変化へ適応できたこと

を意味する。

17 個人の保健、衛生、生活環境などのセルフケアが不足している状況。

図表 01‐20 コミュニティケアの再創造

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その役割を、趣味やスポーツなどの個人的な嗜

好に置き、専ら自尊好縁によるネットワークづく

りに専念するだけではなく、地域が抱えるコミュ

ニティ課題の解決に貢献する方向で、社会関係資

本の形成に資するように仕掛けることが、ここで

提案するプログラムの趣意である。

一方、現役世代(特に女性)は、子育て期の 30

代、40 代に地域コミュニティへの参加が非常に高くなる一方で、子育てを終了する 50 代頃から

就業を主な要因として急激に低下する傾向が強く見られ、高齢期との間に世代間断裂が存在して

いること確認されている。(図表 1‐22)

本プログラムは、こうした現状を克服し、世代間での切れ目の無い地域コミュニティへの関わ

りを図る全世代型の地域協働システムとしての機能を有している。

ア.研究・検討体制

ここで提案するプログラムの実効性を高めるためには、地域で暮らす住民の意見を正確に傾聴

し、潜在する問題も掘り起こしながら、具体的な課題を設定する中で、時として有効な解決策を

提案し、住民による自律的かつ自主的な実行へと誘導するための基盤を、地域に実装していくこ

とが求められる。

そして、地域コミュニティの活性化に向けて、ジェロントロジー18など学際的な領域での研究成

果を積極的に取り入れながら、より小さな単位の地域におけるフィールド研究(フィールド調査/

分析、リビングラボ)や、多様な専門分野の「知」を持ち寄る場の創設など、プログラム全体を通

18 Gerontology = 加齢に伴う心身の変化を研究し、高齢社会に起こる個人と社会の様々な課題を解決

することを目的とする学際的学問。

全世代参加型地域協働プログラム

■ 地域人材の養成・専門人材の確保

■ 継続的な実行組織

■ 地域活動の包括支援

図表 01‐22 地域への関心と活動量からみたコミュニティ

出典「戸田市の将来ヴィジョンとシティセールス」(法政大学地域研究センター、2014)

図表 01‐21 プログラムの基幹プロジェク

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じた専門的な支援19を得ることが欠かせない。

(ア)エキスパート・グループ Expert Group

当該グループは、エビデンス(科学的根拠)に基づいた専門家による学際的な議論とフィール

ド研究を進める集団として編成し、社会科学系、人文科学系、自然科学系、医療保健系等の分野

に係る専門家を中心に構成されることが望まれる。

そして、こうした専門的な知見による調査研究活動を通じて、人口縮減・超高齢社会における

地域の実像を明らかにするとともに、安定的かつ持続的な地域力を維持・強化するための体制の

あり方や、その運営を担う人材確保に関する基本的な考え方など、プログラムを構成する様々な

取組(以下、「プロジェクト」という。)の青写真を描いていくことが重要である。

なお、その成果は、プログラム全体の基本的な指針として取りまとめられ、地域知として地域

全体でオーソライズされ共有することが望ましい。

(イ)フィールド調査及び分析

プログラムは、地域コミュニティ活性化の根幹に関わるプロジェクトを多く含むことから、自

治会などにおけるコミュニティ活動の内容や、その担い手の実態を客観的かつ直截的にモニタリ

ングすることが求められる。

したがって、こうした活動に対する住民意識等に関する聞き取り及びアンケート調査を実施す

ることが欠かせない。

また、その設計に際しては、プロジェクトの企画立案とその実行プロセスを確実なものとする

ためにも、地域の文化や歴史、風土、そして住民の暮らしなど、多角的なアプローチにより、そ

の地域に蓄積された社会関係資本の特徴を明らかにできるよう配慮されなければならない。

(ウ)リビングラボ Living Lab

プログラムの実行プロセスにおける重要な取り組みとして、企業、行政、住民、有識者等によ

るリビングラボ活動を進める必要がある。

リビングラボは、「ユーザーをイノベーションの源泉とみなし、製品やサービス等のサプライヤ

ーが、それらを利用するユーザーの行動様式を理解して、新しい洞察を獲得する目的で、実際の

利用環境の中で、新しい製品・サービス・ソリューションを創出する取り組み」20と定義されてい

るが、この考え方を地域という活動フィールドに適用するならば、現地主義、住民目線による地

域課題解決の基本的な方向に関する議論を深めていくための素地づくりと、具体化に向けたトラ

イアル事業の実行プロセスを先導しモニタリングしていく役割を担い得るチーム体制として、大

いに期待できるのではないか。

また、実行プロセス全体をコントロールする機能も付加した PB21や PMO22として位置付ける

ことも考えられよう。

19 東京大学高齢社会総合研究機構、高齢社会共創センター、健康生きがい学会など。 20 研究レポート№395 September 2012(富士通総研 FRI 経済研究所) 21 Project Board の略、プロジェクト・ボード。プロジェクト委員会。 22 Project Management Office の略、プロジェクト・マネジメント・オフィス。個々のプロジェクマ

ネジメントの支援を組織横断的に行う部門若しくは構造システム。

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(エ)利害関係者との双方向コミュニケーション

こうしたプロジェクト等のモニタリング結果や成果は、広く地域全体で共有されるよう常に配

慮されるべきであって、利害関係者の理解と合意形成の上に立った地域課題の共通認識を確立す

るための環境づくりとして、実行プロセスそのものの品質向上に努めることが、多様な地域主体

の協働を前提とするプログラムを成功させる鍵と言えよう。

したがって、利害関係者との「意見交換の場」は、随時設定されるべきであるし、その運営に

際しては、そこから生起する指摘や意見に対する高い応答性が求められよう。

イ.プログラムの法的基盤

地域コミュニティのあり方や、その運営に関わるプログラムの実効性と持続性を担保するため

には、その活動をオーソライズする法的基盤の整備が欠かせない。

なぜなら、社会関係資本を蓄積・活用するプログラムにおいては、行政による必要最小限の側

面支援に関する住民合意を図っておく必要があるほか、その実行組織や運営システムの導入その

ものが、住民自治に深く関わることも想定されるため、プログラムに実装されたシステム等の信

頼性を高めたり、一定の公益性を担保する上で欠かせない事項については、例えば、関係自治体

間の連携協約等に基づき、各自治体が法的な根拠規定をそれぞれ整備しておくことも必要であろ

う。

ウ.プログラムの実行組織 Producer,Player

プログラムでは、多様な地域主体の協働により、住民が日常生活を送る上で抱えているニッチ

な課題を、相互の支え合い活動により解決を図っていくための、地域コミュニティをベースとし

た自走できる共助の仕組みを導入する必要があるが、それは、人口縮減・超高齢社会の中で揺ら

ぎつつある互助(地縁団体)や、縮小せざるを得ない公助(行政)を適切に補完する中で、持続的

な地域社会の実現に資することを目的としている。

その導入にあたっては、地域の誰もが気軽に参加・活動できること、気兼ねなくサービスを提

供し享受できること、そして、地域人材を継続的に育成・確保することなどを基本とした、制度

フレームと運営スキームの設計に取り組まなければならい。

そして、そこで展開されるプロジェクトは、プログラムの趣旨・目的に沿って、一定の公益性

を有する範囲で多分に地域固有的なものであり、多様な地域主体の自律的な発意などを要件とし

て構想されるべきものであるため、その実行組織は、こうした主体が直接、プロジェクトの企画

実施に関わり得る体制として構築されることが肝要である。

なお、その構築及び運営に関し留意しなければならないのは、行政は、公民の役割分担を相互

に確認する中で、必要とされる支援を必要なだけするという立場に徹するのであって、徒に包括

的な支援を行ってはならないということである。

(ア)地域コミュニティの変容とミッション

上述したプログラムの実行組織に求められるミッションとは、何だろうか。

それは、社会関係資本の蓄積とその活用を図りながら、多様な地域主体の協働により、地域コ

ミュニティの活性化を図る各プロジェクトを継続的に実施し、地域全体の活力再生に繋げていく

ための実行プロセスを着実に前へ進めることにある。

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かつて、国民生活審議会調査部会は、その報告の中で23、コミュニティを「生活の場において,

市民としての自主性と責任を自覚した個人および家庭を構成主体として,地域性と各種の共通目

標をもった、開放的でしかも構成員相互に信頼感のある集団」と定義し、住民の生活を豊かにす

るために地域が備えるべき基本的な条件としたが、人口縮減・超高齢化が急進する中にあっては、

こうした概念で説明するコミュニティはその存立基盤が揺らぎつつある。

そして、地域の現場においては、早急に解決を迫られる複雑化する地域課題に対する解決力の

低下が、既に常態化の様相を呈しているのである。

このような状況の中、同審議会24は、コミュニティを、「自主性と責任を自覚した人々が、問題

意識を共有するもの同士で自発的に結びつき、ニーズや課題に能動的に対応する人と人とのつな

がりの総体」と再定義し、地域が抱える問題の自己解決能力を備えた仕組みとして再興する必要

性を訴え、従来の生活圏域住民で構成するエリア型コミュニティが停滞している現状を踏まえつ

つ、特定なテーマの下に有志が集うテーマ型コミュニティと補完的・複層的に融合した、多様な

主体の協働を引き出し得る多元参加型コミュニティの可能性を提唱している。

したがって、従来の市民(住民)と行政という関係性のみを捉えた実行組織を構想することは、

現在の地域を取り巻く状況から見れば、非現実的と言わざるを得ないだろう。

実行組織は、こうした地域コミュニティの変容を直視しつつ、その活性化を図るために本プロ

グラムを継続的に実施していく体制として構築される必要がある。

(イ)地域課題の事業型解決手法

さて、上述のミッションを踏まえた上で、実行組織の運営主体をどのような視点で具体的にイ

メージすればよいのだろうか。

本プログラムは、既述のとおり、多様な地域主体の協働を引き出しながら、地域固有の社会関

係資本を蓄積し活用する中で、地域が抱える課題を解決することにより、地域コミュニティの再

生と地域の活性化に取り組むためのプラットフォームとシステムを構築し、関連する具体的なプ

ロジェクトを着実に実行していくことを目的としている。

そして、そこで展開される地域課題解決のためのプロジェクトには、縮退する行政と従来の伝

統的なコミュニティの機能低下の中にあって、多様な地域主体が参加し得る持続的な取組が求め

られるのであって、相応の対価性も視野に入れた「事業性」において一定の評価が得られる必要

がある。

その評価軸として、「社会的意義」「有効性・インパクト」「収益性」「事業の実施可能性」「継続

可能性」など25を挙げる例もあるが、こうした評価を得たプロジェクトの実行組織を考える上で重

要な視点は、概ね次のとおり整理することができるのではないだろうか。

【つながり】 Network

事業者・企業、市民団体、経済団体、大学・研究機関、行政など、地域の内外を問わず連携・協

力できること。

23 「コミュニティ~生活の場における人間性の回復~」(1969 年 9 月 29 日、国民生活審議会調査部

会コミュニティ問題小委員会) 24 「コミュニティ再興と市民活動の展開」(2005 年 7 月、国民生活審議会総合企画部会) 25 「2015 年版中小企業白書~地域発、中小企業イノベーション宣言~」(中小企業庁)

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【解決力】 Solution

地域が抱える社会的・公益的な課題を、「つながり」により解決を図ることができること。

【自己実現】 Self-realization

地域コミュニティにおける活動原理は、経済

的合理性のみに依拠するものではなく、地域と

いう生活の場における満足度を高めるととも

に、そこに生き活動に関わる人々の主体的な意

思を尊重するところにあるため、担い手の自己

実現(生きがい創造)に繋がるような運営が図

られること。

【継続性】 Continuity

本プログラムの目的を実現するためには、関

係者における信頼性が不可欠であり、各プロジ

ェクトが、長期にわたり安定的に継続して地域

に根付きながら、地域コミュニティの活性化に

繋がる新たなプロジェクトへと拡張していくことができること。

エ.プロジェクト Project

上述の事業性を有した公益的なプロジェクトは、「地域の課題を地域住民が主体的に、ビジネス

の手法を用いて解決する取り組み」として捉えたコミュニティビジネス26 Community business

と同義と言えるものである。

したがって、実行組織が取り組むプロジェクトは、こうした概念を参考に企画実施していくこ

とが肝要であろう。(図表 01‐24)

具体的には、フレイル予防、健康寿命延

伸、シニアのスキル活用、世代間交流、自主

防犯・防災、認知症互助ケア、独居者見守り、

子育て支援、傾聴・話し相手、コミュニティ

カフェ、ごみ出し、草刈り、電球の交換、買

い物代行、移動援助、伝統文化/保存伝承、

イベント運営、そして地域人材の養成など、

共生・相互扶助(思いやり・隣人愛)による

善意と社会貢献意識に支えられた住民の自

主・自発的な取組などを中心に展開するこ

とが考えられよう。

そして、こうしたプロジェクトは、自立・継続できるものとしてビジネスの可能性にも着目す

る中で、社会性や公共性だけでなく、収益性や事業性、革新性なども、その成立要件としながら、

26 経済産業省関東経済産業局ホームページ。

行政領域

コミュニティビジネス領域

市場経済領域

図表 01‐24 コミュニティビジネスの領域

図表 01‐23 実行組織の視点

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これまで必要とされていたのにも関わらず取り残されてきた、地域住民が抱える多様で深刻なニ

ーズに応える新たな価値やサービスを提供することを通じて、地域課題の解決と地域の活性化へ

繋げていくことになる。

オ.地域金融機関の支援 Relationship Banking

これまでに述べたように、プロジェクトは、事業性(採算性)をその要件とするだけに、その

企画実施に際しては、迅速な資金調達を図るためのつなぎ資金の融資や実行組織への低額な活動

拠点の提供など、起業・創業支援やマーケティング支援、経営改善・事業再生支援、さらには人

材確保・育成支援など、地域金融機関の多様で総合的な支援が必要である。

特に資金面でのサポートにおいては、先に述べた実行組織の形態とも関連するが、税制上の優

遇措置の有無をはじめ、継続的な収益性の確保、地域経済・雇用の改善効果、地域課題解決への

貢献度、さらには財務面も含めた難しい判断を迫られる場面も想定されるところであるが、地域

住民から預かる資金を地域内の活動主体に還流させる姿勢を積極的に示すことは、地域金融機関

が、将来にわたって新たな「公」の中心的な役割を果たし、地域経済さらには地域振興に寄与し

ていく上で、大変意義深いものがあるのではないだろうか。

カ.担い手 Actor

社会関係資本に深く関わりながら、多様な地域資源間の調整を図り、地域課題の解決策を自ら

企画し、積極的に提案するとともに、実行していく人材は、プログラムの成否を占う重要な要素

である。

こうした人材を広く市井に求め、育成・確保していくためには、コミュニティケア27に関するノ

ウハウや知見を体得するためのリカレント教育28の場が、地域に用意されていなければならない。

そして、そこで養成される人材には、受容と共感による高いコミュニケーション能力や、自律

的な行動力、そして中立・公正で誠実な倫理観などが求められことになるが、その修得行動自体

が、自己開発や自己実現に繋がるカリキュラムを設定し、プログラム全体を通じてプロジェクト

の担い手として活躍できるよう配慮されなければならない。

キ.人材養成機関

上述の担い手を養成するためには、地域に根ざした学習機会の充実とともに、「顔の見える」関

係の中での学習者の適切な地域活動への参加を促す仕組みや、学習・活動履歴の還流システムを

一体的に運用することが求められる。

文部科学省は、生涯学習の場を通じた「個人の自立」と「社会での協働」を促すことを志向す

る“学びの循環”を提唱しているが、地域活動の中で自ら身に付けた学びを地域活動の現場で実

践し、そして周囲の人を巻き込みながら、現場に出てきた課題を解決するために、さらに学びを

深めていくような活動の場とすることを指摘している。

「生涯学習」の機会ではあるが、その課程や内容は、先述したようにプログラムの担い手養成

を志向するものでなければならない。

27 ここでは、社会福祉の方法に限らず、より広義に捉えて、「コミュニティを基盤とした住民による

自主的な問題解決の方法(Communication Organization Care)」としている。 28 Recurrent Education = 働きながら学ぶ場合や学校以外での学びを広く含む学び直し。

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例えば、(社会福祉法人)中野区社会福祉協議会の地域活動担い手養成講座では、地域活動全般

の広い視点から、福祉活動の“担い手”となるためのさまざまな講座内容を用意し、自分の希望

する講座を1講座から受講することができ、講座修了後には、参加した一人ひとりが、自分にあ

った地域活動が見つけられるようバックアップしている。

その主な内容としては、防犯・防災、介護ケア、権利擁護、地域福祉(地域の支え合い活動)、

障碍者支援、貧困問題、ボランティア活動、医療・保健、コミュニケーションスキル、医療・保

健、子育て支援、経営管理、組織管理、租税など、多領域にわたる。

これ以外にも、地域に固有な個々のプロジェクトによっては、担い手に求められる知識や資質

も多様であることから、それに伴い、カリキュラムも千差万別になるであろう。

いずれにしても、普遍的な知識や技術に終始するのではなく、地域コミュニティの活性化によ

る地域課題の解決を牽引する人材を養成できるよう、それぞれの地域で創意工夫していくことが

必要である。

ク.互酬システム Royalty

地域コミュニティの活性化に欠かせない社会関係資本を蓄積し活用していくためには、その構

成要素である互酬性に着目した仕組みを導入する必要がある。

プログラム全体が長期的に安定して機能するためには、コミュニティビジネスの面から、プロ

ジェクトの継続を担保する仕組みとして、採算性を踏まえた相応の対価を求める「利用料金制」

(事業システム)の導入は不可欠であるが、それとともに、公益的・社会的な活動に携わる担い

手の確保やそのインセンティブを高める仕組みとして、「お互い様」の価値観(互酬性)を可視化

する「ポイント制」(互酬システム)の両システムを、相互に組み合わせ最適化して、地域に実装

していくことが重要である。

このポイント制の導入にあたって留意すべき点としては、その流通システムが簡素であること、

ポイントによるロイヤルティを生活満足度と関連付けて設定すること、ポイントの還流が共助の

ネットワークの形成に資すること、そして、利用者のニーズデータを適切に管理する中で、事業

性を有した新たな価値の創造に繋がることなどが挙げられる。

そして、こうした仕組が、先述した地域コミュニティ活動における世代間断裂を克服し、本プ

ログラムを全世代から受容されるための支援ツールとして、機能していくことを期待したい。

ケ.広域的な連携基盤

近隣自治体間においては、住民の区域を越えた日常生活行動等を通じて、社会経済全般にわた

り実質的な相互依存関係が現に成立しており、ある自治体の地域活性化の水準は、他の自治体と

正の関係があると言っても議論の無いところであろう。

したがって、その波及効果に着目するならば、不活化する地域コミュニティの再生を図る基盤

づくりについて、近隣自治体間で広域的に連携・協力して取り組むことは極めて意義があるもの

と考える。

そもそもプログラムを支える基盤やシステムの構築・運営には、専門的で高度な知見を有した

人材や多様な地域主体の参加を必要としているが、これらを限られた地域内で確保することは非

現実的であるし、運営コストや事業リスクの分散にとっても不利と言わざるを得ない。

また、少子高齢化が全国で普遍的に進行している現状を見れば、そこから生起する地域課題は

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共通しており、特に地域の不活化に繋がる地域コミュニティを再生するための取り組みは、各自

治体において喫緊の課題となっている。

人口の維持・増加を図る取り組みと合わせ、持続可能な地域づくりを進めるためには、現に減

少を続ける人口と加速する高齢化により疲弊する地域力の低下を、如何にして押し留め、再生し

ていくかを、県央自治体相互が共に強く認識し、産学とも連携しながら、目に見える結果を出し

ていく時期を迎えているのではないか。

図表 01‐25 全世代参加型地域協働プログラムの構図

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02.生活圏域と行政サービス提供体制

研究員 佐野慶太

(1)行政域と生活圏域

少子高齢化の本格的な到来による人口減少社会の進展は避けうるものではない。

これは、研究会を構成する県央自治体のみならず、山梨県全体さらには国内の基礎自治体のほ

とんどが直面している共通の課題である。

2016 年に国立社会保障・人口問題研究所が発表した『日本の地域別将来推計人口(平成 30(2018)

年推計)』によれば、県央自治体の人口は、2015 年から 2045 年にかけてすべての自治体で減少

し、その減少幅は▲7.9%から▲42.3%と開きがあるものの、総じて減少する推計となっている。

一自治体だけではなく、隣接する自治体もその減少率に差はあれ、人口が減少していくことに

より、地域における人口の偏在や密度の低下が起こり、その変化が行政のコスト増や効率性の低

下をもたらしている。

現在、限られた財源を適切に効率よく配分することが至上命題である基礎自治体は、単独であ

らゆる行政サービス1や公共施設を揃える、いわゆる「フルセット型」の行政が限界を迎えている

ことを自覚してはいるものの、自治体間の境界が行政サービスの基本単位であるという既成概念

から、そこに居住する住民への行政サービスは一自治体で完結させざるを得ず、単独自治体によ

るサービス提供に伴う行政コストの増大は、不可避な状況におかれているのが現状である。

しかしながら、実際にそこに生活する住民は、当然ではあるが、常にひとつの自治体の中で活

動しているわけではない。

学生であれば学校が所在する自治体、社会人であれば勤務先が所在する自治体など、また、平

日の日用品の購入は市内だが、週末の買い物は市外でなど、住民は、常に複数の自治体を移動し

ながら生活している。

その行動範囲の中で、行政サービスを提供する必要があるが、住民が日常生活において活動す

る領域を生活圏域とするならば、自治体がサービスを提供する行政域と住民の生活圏域は、必ず

しも一致しないことになる。

また、自治体の中心部に居住する住民とその境界に居住する住民では、公的な施設において同

じ行政サービスを享受するための移動距離は異なる。

提供される行政サービスへのアクセスにおいて、全ての住民が平等であるべきであることを前

提とするならば、可能な限り、全ての住民が近似の移動距離で同様の行政サービスを享受されな

ければならず、こうした課題に対し、一自治体のみで有効な手立てを講じていくことに、自ずと

限界があることは論を待たないところである。

(2)課題とその解決方策

このように、一自治体で完結するフルセット型の行政サービスの提供には、少子高齢・人口減

少の到来を背景として限界が生じる一方で、その提供領域が住民の生活圏と一致していないこと

により、必ずしも公平・公正なパフォーマンスに繋がっていない状況を現出させており、行政サ

ービスに対する住民の満足度の低下が危惧される。

1 ここでは、特に定義しない限り、基礎自治体が提供する行政サービスとする。

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行政サービスを一自治体が単独で提供することでは、直面する課題の解決を図ることができな

いのであれば、これまでとは異なるアプローチによる取組が求められる。

ここでは、こうした現行の行政サービスが抱える課題を踏まえる中で、近隣自治体と連携した

行政サービスのあり方について提案したい。

ア.基本的な考え方

今後における行政サービスの提供は、各自治体に居住する住民が、その生活圏域の中で自治体

間の境界を意識することなく、誰もが容易に行政サービスへアクセスできるように構築されなけ

ればならない。

ここでは、住むまち、働くまち、買い物や余暇を過ごすまちから構成される生活圏域の中で、

人々が必要とする質の高い行政サービスを、複数の自治体が連携して提供する体制について提案

したい。

なぜなら、自治体が互いの住民の生活圏域を認識し、それぞれの資源を持ち寄って、相互の役

割や応分の負担を分担しながら、地域全体でバランスの取れた行政サービスの最適化を目指すこ

とを強く意識しながら、生活圏域の住民福祉の維持向上を図ることが重要であると考えるからで

ある。

イ.実現への課題

前出(32 頁)の連携実態調査においては、県央自治体の 64%が、既に実施している自治体間の

連携について、双方で認識していない現状が明らかにされた。

広域的な自治体連携は、他の自治体と協力することをとおして、より質の高い行政サービスの

提供と、コストパフォーマンスを高めることを可能とし、これからの地域の持続的な発展に繋が

る重要な要素であることを強く認識する中で、一自治体の枠を超えた発想を共有できる場(連携

組織)において議論を深めていくことが肝要である。

自治体間で連携を行う際に課題となるのが、負担割合の調整であるが、互いが自己にとって有

利に働くような負担割合を個別に主張し合うと、連携にとって大きな障害となるため、地域全体

の最適化を図ることを機軸に、その負担割合を調整していくような、連携組織における自治体間

の建設的な思慮の認め合いが求められよう。

また、自治体に限らない連携、例えば大学や企業といった産学公民の連携を行う際にも、こう

した連携組織の活用は有功に機能することが期待される。

これらのことから、近隣自治体が連携して行政サービスを提供していく際には、その連携を明

確にするための連携組織を立ち上げることが重要である。なお、詳細については、「09.自治体間

連携の障壁とその克服」を参照されたい。

ウ.事例

1987 年 1 月に、当時の小平市、東村山市、田無市、保谷市、清瀬市、東久留米市の 6 市(田無

市と保谷市は 2001 年 1 月に合併し、西東京市となっている)により設置された多摩北部都市広

域行政圏協議会は、文化事業をはじめ、図書館やスポーツ施設の相互利用、文化施設の共同運営

など、各自治体間に共通する行政課題について、広域的に連携・協力して対処することにより、

質の高い行政サービスの提供を行っている。

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また、2016 年 3 月に、大分市、別府市、臼杵市、津久見市、竹田市、豊後大野市、由布市、日

出町の7市1町で設置された大分都市広域圏推進会議では、連携協約を締結し、大分都市広域圏

ビジョン・経済戦略の策定をはじめ、文化事業や観光 PR 事業の推進、移住・定住の促進、スポー

ツ施設の相互利用、特定外来生物の広域防除、コミュニティバス広域マップの共同作成、広域災

害時における連携など、幅広い分野にわたる事業展開を図りながら、大分市を中心市とする大分

都市広域圏全体の持続的な発展に取り組んでいる。

エ.具体的な連携事項の提案

上述の事例で挙げた2団体を参考に、先ずは、基本的な事業構造が既成かつ簡素であり、容易

に実行可能な取組である文化事業の共同開催や観光パンフレットの共同作成、広域災害時におけ

る連携体制の構築などを優先的に取り組みながら、こうした実績を踏まえた上で、以下の 2 点の

ような、経費負担や事務共同化のシステム構築、さらには住民の利便性などの面で、利害関係者

の調整に所要の時間を要するような課題に、順次、取り組んでいくことが肝要であろう。

(ア)図書館業務の共同化

【現状と課題】

県央自治体の多くは、平成の大合併により複数の図書館を維持・運営しており、需給バランス

の調整と維持管理コストの軽減が課題となっている中、そのほとんどが、自治体単独で独自の図

書館システムを運用している。

合併前における旧市町村のシステムが異なれば、その統合や更新による統合に係る費用は多額

に上るため、複数の旧システムを維持せざるを得ないのが現状となっている。

一方で、利用者である住民目線で図書館を考えると、山梨県内では現在、自治体図書館と大学

図書館が参加する総合目録データベースがあり、同県内の図書館の蔵書を横断検索することがで

きる。

また、蔵書の相互貸借も行っており、居住地の図書館に蔵書されていない図書を、他の図書館

から取り寄せて借りることができるようになっているため、サービスの利便性を高める仕組みが

既存している。

ただ、居住地外の図書館に利用登録する場合、その都度、利用カードを作成する必要があるな

どの課題もある。

【具体的な取組】

図書館システムを県央自治体間で共同化し、各自治体の図書館で個々に管理しているサーバを

1 か所で集中管理することによって、システムの維持管理に要する様々な負担の軽減を図ること

図表 02‐1 圏域内における図書館システムネットワークの構築

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ができる。

具体的には、県央自治体で構成する圏域全体で蔵書管理を行い、これまで圏域内で重複して購

入されていた多くの図書を、蔵書回転率の向上や取寄せサービスの迅速化などを図りながら、圏

域内全体の蔵書数を必要最小限に抑えることで、圏域内における蔵書貸出の効率化と図書購入費

の軽減を行うことができるほか、図書情報のサーバへの登録コストの削減などを見込める。

圏域内での蔵書の重複を抑制する対策としては、現在ある図書の取り寄せサービスのほか、イ

ンターネット予約を充実・周知し、その活用を促進することで対応できる。

利用者にとっては、圏域内の図書館が同一のシステムで統合され、一体的に運用されることで、

1枚の利用者カードにより圏域内のすべての図書館サービスを利用することができるようになる。

このように、図書館業務を共同化し、その連携組織を構築することによって、各図書館は、貸

出業務やレファレンスサービス、図書館を活用したイベントの企画といった本来業務に、より注

力できるようになり、図書館の機能向上と住民の利用を高めていくになるものと考える。

ただ、図書館業務の共同化においては、サーバ導入時の初期費用や運用管理の経費、共同購入

図書の配分といった自治体間に生じる負担等を、如何にして各自治体間で調整し合意形成に繋げ

ていくかが大きな課題となる。

特に、経費負担の調整は、広域的な連携において最も克服し難い課題であり、通常は、自治体

間において負担の軽重差が生じると、その点のみを捉えて、連携そのものが瓦解する可能性を孕

んでいるのが現状である。

各自治体は、広域連携の本来の目的を見失うことなく、また、個々の経費負担のみに過度に固

執することなく、プラットフォーム(協議の場)での中長期的かつ包括的な視点に立った議論を

深めることをとおして、利便性と効率性を最適化するサービスを、圏域住民全体の合意形成の中

で実現し、連携による各自治体のメリットを極大化できるよう取り組まなければならない。

(イ)体育施設の相互利用

【現状と課題】

図書館と同様に、合併によって同種の体育施設を複数保有し、現行の施設数とサービスを維持

するために多額の費用を投じて管理を行っており、その効率化が大きな課題となっている。

この課題に対しては、各自治体において、公共施設等総合管理計画を策定し、施設の統廃合を

進めるとともに、施設の効率的な運用方法としての広域連携によるサービスを模索している。

利用者の視点から見ると、体育施設の多くは市内居住者と市外居住者で料金体系が異なり、市

外居住者は概ね利用料金が高く設定されている。

これは、施設の整備費用を市内居住者の税から捻出しているためであり、市外居住者はこうし

たイニシャルコストを負担していないことから、応分の負担としては妥当な考え方と言えよう。

しかし、その料金格差があまりに大きいと、市外利用者の需要を削ぐこととなり、結果として、

施設の利用効率を低下させる要因ともなっている。

【具体的取組】

自治体間における体育施設の相互利用を行うことで、個々の施設の利用効率を上げ、コストパ

フォーマンスを向上させることが可能となる。

また、相互利用による料金体系の見直しにより、市外利用者の利用頻度が増加すれば、利用料

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収入の増加につながることが考えられる。

なお、利用料金については、圏域内居住者の料金を従前の市内居住者料金と同様の水準に設定

し、これによって生じる従前と比較した減収分は、利用者が居住する自治体が連携組織をとおし

て補填し、施設所在自治体が総じて負担する仕組みを導入することが考えられよう。

ただ、施設を相互利用する上で考えられる課題としては、施設によって、移動距離等の関係か

ら従前より利用者数が大きく増減し、施設の利用頻度における格差が拡大することが考えられる。

このことにより、例えば、従前から利用頻度が高い施設において、相互利用により更に利用者

が増加することで、居住地住民の利用を損なうことにつながり、行政サービスの低下を招いたり、

利用頻度が低い施設の利用がさらに減少するといった弊害も生じることもあろう。

さらに、施設の維持管理や大規模改修等にあたっては、利用人数の実績等も踏まえながら、所

在自治体を含む関係自治体全体での費用負担の枠組みを確立しておくことも必要となる。

こうした課題の解決に向けては、前述の連携組織による調整に期待する点においては、図書館

業務の共同化と同様である。

(3)まとめ

連携組織を用いた広域的な連携は、ごみ処理業務や消防事務、介護認定審査事務など、従前か

ら広域行政を活用して取り組まれてきたが、効率性に主眼をおいた行政サービスの提供といった

側面が強い。

また、イベントの共催や観光 PR 事業など、住民サービスに直結しないものを中心に、特段の

連携組織を置かない取り組みも数多くある。

しかし、住民生活に直結した行政サービスに関する連携については実績が少なく、連携による

効率性や利便性の向上を深く自覚しながらも、その具体化プロセスの困難性に関する過去の経験

等を要因として、各自治体は、自己完結するフルセット型の行政サービスの提供を継続しており、

一歩前へ踏み出すことに慎重となっている感がある。

今後、人口減少・少子高齢化が加速化していき、これまでのようなやり方では行政運営が困難

となる今、質の高い住民サービスを持続的に展開する自治体運営を図る上で、何が適正な判断な

図表 02‐2 体育施設の相互利用における利用料の仕組み

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のかが問われている。

こうした時にこそ、自治体は、すべての行政サービスのあり方について、柔軟な発想をもって

果断に変革していくことが欠かせないのであって、そのツールのひとつとして、広域的な連携の

活用は、極めて有効であることを提言したい。

既存の行政域に囚われること無く、多様な行政サービスを多様な主体の連携により維持してい

くことが、これからの地域社会において必要なのである。

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03.ふるさと納税と自治体連携

研究員 塩田将大

(1)ふるさと納税と自治体連携

ふるさと納税は自治体への寄附のため、自治体単位で取り組むものとされてきたが、これから

はその垣根を越えた自治体同士の連携が、ますます重要になりそうだ。

一つの自治体だけでできることは限られており、単独ではなかなか解決できない課題も、複数

の自治体が一丸となって取り組むことによって、前に進むスピードが速くなる。

最近の傾向として、『首長からのトップダウン』だけでなく、現場の職員同士の交流から生まれ

た『ボトムアップ』による連携も増えている。

現場を知り、お互いの事情もわかった者同士が話し合って決めていくので、より実践的で、効

果の出やすいものが多い。

例えば、高知県内の 10 市町では地元の産品をお互いに出し合って、共同でお礼の品の定期便を

作り、寄附者から毎年好評価を得ている。

また、三重県南部の 13 市町では、合同で寄附者向けのツアーや PR イベントを数回にわたって

行い、着実にファンを増やしている。

近隣自治体が連携することで、一つの自治体で行うよりも、特産品のブランディングやエリア

全体の PR、観光誘致の効果を、より高めているのである。

ふるさと納税に詳しい「トラストバンク」1によると、早い段階から、自治体職員同士の交流や

コミュニケーションの重要性を感じ、職員向けのセミナーやイベントなどを毎年開催して、その

きっかけ作りを進めてきたとのこと。こうした連携の動きが加速することによって、新たな潮流

が生まれるのではないかと期待しているようだ。

さらに、一つのテーマのもと、複数の自治体が広域的に連携してガバメントクラウドファンデ

ィング(GCF)2を行うケースも出ている。各地で共通する課題の解決に向けたアプローチとして、

注目を集めている。

(2)先例に学ぶ

ア.高知県の例

高知県では、自治体同士が垣根を越えて連携し、各自治体が特産品を出し合い、期間限定で定

期便を受け付けて、毎年、寄附者から高評価を得ている。

2015 年度、室戸市、安芸市、須崎市、越知町、四万十町の 5 自治体が連携し、お礼の品として

「高知のうまいもんまるごとセット」を期間限定で受け付けた。

5 万円、10 万円など金額別に 6 つのコースがあり、各自治体の特産品が定期便で届くようにな

っている。

各コース、各自治体に限定数を設けているが、どの自治体から申し込んでもお礼の品の内容は

変わらない。

1 ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」の運営会社。 2 Government Crowd Funding 「ふるさとチョイス」で募る、ふるさと納税制度を活用したクラウ

ドファンディング。

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「一つのお礼の品で、様々な自治体の特産品が楽しめる」と寄附者から高評価を受け、その後

も毎年続けられている。

これは、自治体の垣根を越えて協力することで、高知県の PR と産業振興を達成しようという

試みで、各自治体の PR と産業振興へとつなげることを意図している。

こうした連携に参加するにあたっては、各自治体の負担金などは無く、現在では香南市、佐川

町、四万十市、黒潮町、中土佐町も加わり、5 市 5 町もの大規模な連携へと拡大している。

これにより、お礼の品のバリエーションが増えただけでなく、2017 年 11 月には「ふるさとチ

ョイス Café」でイベントも実施し、寄附者に対して直接、高知の魅力を伝えている。

イ.三重県の例

三重県南部の 13 市町は、寄附者に特産品だけでなく「地域の味」を感じてもらおうと 2015 年

から連携バスツアーを企画実施し、人を呼ぶために独自の創意工夫を加えるなど、地道な取り組

みを重ね、ファンを増やしている。

2018 年 3 月に行われた「みえ南部まるごとスペシャルバスツアー」には、抽選で 26 組 52 人

(1コース 13 組 26 人)が参加した。

これは、特定の期間中に三重県南部の 13 市町に寄附した人限定の企画であり、今年で 2 年目を

迎えた。

今年は 2 コースあり、「東紀州コース」では紀宝町での伝統的な川舟の三反帆体験、熊野市の世

界遺産「花の窟いわや」見学などを行い、「伊勢志摩コース」では度会町の林業見学や、鳥羽市の

答志島ツアーなどが行われた。

このツアーには、参加費として 1 万円が必要で、寄附に対する「お礼」というわけではない。

この取組は、もともと、ふるさと納税に積極的だった玉城町が主導する形でスタートしたが、

玉城町産業振興課の職員は「寄附だけでは実際に足を運ぶまでに至りません。各市町が連携した

バスツアーを企画して、そのきっかけを作りました」と話している。その目的は、色々な町に立

ち寄ってもらい、交流人口を増やすこと、そして最終的には、移住者の増加にあるようだ。

主催した自治体は、伊勢市、鳥羽市、志摩市、尾鷲市、熊野市、玉城町、度会町、南伊勢町、大

紀町、大台町、紀北町、御浜町、紀宝町の 13 市町で、2015 年度から連携して「ふるさと納税南

部まるごと発信事業」を行っており、三重南部地域で一体となった PR をすることで、寄附の増

加や観光振興を図っている。

また、イベントにも力を入れており、三重県のアンテナショップ「三重テラス」でのイベント

や「ふるさと納税大感謝祭」に合同で参加している。

「バスツアーやイベントを通して、特産品だけでなく、寄附した地域を知ってもらう、いわば

複数の自治体の『味見』をしてもらいたいと考えています。ガイドブックには載っていない、担

当者しか知らないような、地元ならではの魅力を発信することが必要ですが、単独では限界があ

ります。魅力を大きくアピールしていくためにも、連携は不可欠ですね」と玉城町産業振興課の

職員は言う。

(3)連携への期待

高知県や三重県を例に紹介したが、多くの自治体が連携することの利点は、「ノウハウの共有」

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である。

自治体は異動が多く、ふるさと納税担当者も頻繁に変わってしまう。

引き継ぎが行われるとはいえ、新たな担当者はふるさと納税の業務を一から学び直すことにな

る。

そのようなときに、他の自治体の担当者と情報を共有し合うことができていれば、連携自治体

全体で蓄積されたノウハウを活かすことができる。

高知県や三重県が連携を実現できた契機としては、島根県浜田市で 2015 年に開催された「第1

回ふるさと納税全国サミット」の中国四国サミットで、5 市町の担当者が意気投合したことに端

を発して、緩やかに連携を深めながら、現在に至ったものである。

現在、災害時に互いの自治体をすぐに支援できるように「代理寄附支援」に関する取り決めを

規則に盛り込むことも検討している状況にある。

産業振興からスタートした連携は、実務上のノウハウの蓄積や万が一の災害時の協力など、年々

その幅を広げているのである。

一方、山梨県内では、2019 年 7 月に、山梨市や大月市、富士川町など県内の 8 市町村が連携

し、山梨県産の桃やブドウなど 9 品目を、ふるさと納税の共通返礼品として設定している。

同年 6 月の制度改正3で、返礼品は「寄付額の 3 割以下の地場産品」に限られることとなったが、

この中では、地場産品の少ない自治体に配慮して、都道府県が市町村と連携して共通の返礼品を

設定できる制度も設けられている。

共通返礼品に指定した商品は、山梨市と富士川町の「種なしピオーネ」や、中央市と富士川町

の「シャインマスカット」などのブドウ、大月市、南アルプス市、北杜市等の「『山の酒』純米酒

飲み比べ 7 本セット」などとなっている。

これにより、地域資源が余り豊かでない自治体において、県内の特産品を返礼品として扱える

ようになったが、未だに、こうした制度を活用していない自治体もあるようだ。

より多くの自治体が活用することで、地域活性化につなげることが期待できる。これも自治体

連携のひとつと考える。

また、「ふるさと納税自治体連合」4という組織もあり、山梨県内だと甲州市と富士川町が参加し

ている。

この組織はふるさと納税本来の趣旨・目的を全国に伝えるため、志を同じくする自治体が集ま

り、2017 年 5 月に設立され、現在も、広く全国の自治体に参加を呼びかけている。

前述した高知県や三重県とまでは言わないが、山梨県内でも火種はあるように感じる。

こうした場を通じて、各自治体が連携し、ふるさと納税の返礼品のアイデアやノウハウを共有

することで、今以上に各自治体の魅力を発信し、「住みたい」と感じさせることができれば、自ず

と人口の社会増につながっていくことだろう。

3 地方税法等の一部を改正する法律の施行(2019 年 6 月 1 日)に伴い、「ふるさと納税(特例控除)」に係る指

定制度を創設。返礼割合 3 割以下など寄附金募集を適正に実施する地方団体を対象として指定。 4 正式名称は「ふるさと納税の健全な発展を目指す自治体連合」。

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04.若者世代の県内定着

研究員 齋藤 雄

(1)地域の現状

超高齢化・長寿化、人口縮減という人口・社会構造の変化に対応し、持続可能なまちづくりを

行うためには、若者世代の流出防止(県内定着)、及びUIJターンの推進が必要である。先日公

表された県の総合戦略(素案)においても、その重要性が見て取れる。

先ず、図表 04‐1 を参照されたい。就職期の若年層(特に女性)の転出超過が著しいことが分

かる。2018 年、県外への転出超過数 2,454 人のうち約 8 割に当たる 1,948 人は就職期(20~24

歳)の若者が占め、さらにその大半の 1,149 人は女性となっている。

資料:山梨県総合戦略(素案)

これを図表 04‐2 のとおり転出と転入に分けてみると、転出数は男女同程度だが、転入は女性

の方が一段と少なく、若い女性のUターン・Iターンの動きの弱さが特に際立っていることが見

て取れる。

図表 04‐1 年齢階級別転入・転出者差引数(山梨県、2018 年)

図表 04‐2 年齢階級別転入・転出者数(山梨県、2018 年)

左側:男性、右側:女性

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(2)地域が抱える問題

若年世代が流出することは、出生数の低下、少子高齢化、生産年齢人口の減少、次代を担う人

材の減少、社会保障費の増大、介護費用の増大など、自治体の存立さえも脅かす非常に重要な問

題を生起させている。

図表 04‐3 は、県が各種施策を行い、若者世代の流出を抑制した場合の人口移動を示したもの

である。

図表 04‐3 の人口移動が見込まれる場合には、図 04‐4 のとおり、何も施策を講じない場合

(社人研推計)と比べると、2060 年の将来人口において 10 万人以上の差が発生する。そのため、

若者世代の流出抑制が総人口の推移に大きな影響を及ぼすことが読み取れる。

図表 04‐3 年齢階級別転入・転出者数(2040 年将来推計)

図表 04‐4 山梨県の将来人口推計(低位が社人研推計、高位が県の将来推計)

左側:男性、右側:女性

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(3)今後の政策課題

県内の若者世代が流出してしまう主な要因として、県内の大学卒業者が希望する就職先が無い

ために県外への就職を指向するほか、魅力ある大学や通学の利便性の高い大学が県内に少ないこ

とにより首都圏に流出し就職することが考えられる。

学校基本調査によれば、山梨県内の大学数は7校で、東京都は138校と約20倍となってお

り、こうした選択肢の多さと通学利便性の低さが相俟って、流出過多となっているのが現状であ

る。

若者世代の流出防止(県内定着)やUIJターンの推進は、全国において普遍的な課題であり、

様々な対策が講じられているが、必ずしも、就学・就職を機にした流出を食い止めるまでには至

ってない。

しかし、こうした対策は、人口定着に有効な政策として選択されるべきであることは、論を待

たないところであり、ここでは、その具体的な方向性を提示したい。

ア.高速交通網の形成を活かした、リニア駅周辺への大学の誘致

リニア新幹線が整備され、中部横断自動車道が開通することにより、首都圏・関西圏等や静岡

方面からのアクセス向上により、通学の利便性が一層高められることが考えられる。

特に、リニア山梨県駅が、新山梨環状道路や中央自動車道とのアクセスが高いことを考慮すれ

ば、自動車による移動も容易となるだろう。

リニア山梨駅周辺に、首都圏の災害時におけるデータバックアップ機能を有する施設や、首都

機能の一部を補完する施設、大規模の展示場・会議場などの誘客施設の誘致をはじめ、つくば研

究学園都市のような、AI、IoT、自動運転などの「第4次産業革命」を推進する研究機関や関連企

業等の集積など、駅周辺に潜在する可能性を最大限に引き出す取り組みを進める中で、こうした

取り組みを支える人材を養成する高等教育機関を用意することにより、将来的にリニア駅周辺が

産業拠点となった際に、学生が周辺の企業への就職を志すという好循環も生まれると考える。

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05.観光と広域連携

研究員 曽雌隼人

(1)はじめに

県央自治体(甲府市、山梨市、韮崎市、南アルプス市、北杜市、甲斐市、笛吹市、甲州市、中央

市、昭和町の 9 市1町、以下「圏域」という。)は、都市部と違った魅力を持つ観光地が多く、首

都圏から自動車や高速バス、鉄道で片道1~2時間以内に往来が可能なこともあり、首都圏から

の観光客の来訪が特に多い地域でもある。

2020 年には中部横断自動車道の全面開通、2027 年にはリニア中央新幹線の開通が予定されて

おり、今後は、首都圏からだけでなく、中部地方や関西地方からも多くの観光客の来訪が見込ま

れる。

さらに近年では、富士・東部地方を中心にインバウンドの旅行客も増加しており、国内向けの

観光地としてだけでなく、国際的な観光地としても知名度を上げている。

一方で、小規模な宿泊業の廃業件数の増加や、労働人口の減少により、観光業においても労働

力確保等の課題が深刻になっている。

また、山梨県が策定した「やまなし観光推進計画」のような広域での観光戦略はあるものの、

市町村間の実行レベルでの広域連携を扱った観光施策は少なく、各市町村が個別に観光施策を実

施しているのが実情である。

ここでは、圏域の観光に関する実態や課題を明らかにし、広域連携による効果的な政策の展開

について提言する。

(2)観光とは何か?

先ず、圏域の観光実態をみる前に、「観光」や「観光産業」に関して、その定義や内容を明確に

しておきたい。

ア.観光とは何か?

一般として考えられる観光とは、「余暇時間に、娯楽や保養のため、日常圏を離れ、食事、鑑賞、

体験をすること」または「地方の風景、史跡、風物などを見物すること」である。

しかし、観光庁1の定義では、観光とは「余暇、ビジネス、その他の目的のため、日常生活圏を

離れ、継続して1年を超えない期間の旅行をし、また滞在する人々の諸活動」としている。

また、竹内ほか2は、観光庁や国際観光機関等の定義を踏まえ、観光とは「日常の居住地を離れ、

飲食や鑑賞、体験すること」と定義し、いずれも、ビジネス関係の出張や赴任も、観光と見做す

こととしている。

一般的な考え方とは異なるが、「観光」を推進する理由を地域で外貨を稼ぐ手段であると考えれ

ば、ビジネスに関する来訪も観光としてみなすことができるため、ここでは、観光に関する定義

を図表 05‐1 のとおりとしたい。

1 国土交通省観光庁『観光入込客統計に関する共通基準(平成 25 年 3 月策定)』 2 竹内 正人ほか『入門観光学』(ミネルヴァ書房)

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図表 05‐1 用語の定義

用語 定義

観光 日常の居住地を離れ、飲食や鑑賞、体験すること

観光客 ビジネス、レジャーあるいはその他個人的な目的で、1年未満の期

間、非日常圏を移動する旅行者

観光客の種類

①国内居住者の国内観光(ドメスティック)

②国外居住者の国内観光(インバウンド)

③国内居住者の国外への観光(アウトバウンド)

参考:竹内 正人/竹内 利利/山田 浩之『入門観光学』(ミネルヴァ書房)

イ.観光産業とは何か?

観光産業とは、旅行業、宿泊業、飲食業、観光施設、小売業、交通業等の業種の複合体である。

前出の竹内ほかは、「観光産業とは供給側から見た概念ではなく、需要側から見た概念である。」

としている。

ただ、各業種において、一般消費者と観光客の双方に財・サービスを提供しているため、観光

産業のみの実態を数値で把握することには、困難を伴う。

ウ.まちづくりと観光

図表 05‐2 は、観光産業の各業種の主たるサービス対象者(受益者)を整理したものである。

飲食業や小売業などは、地元住民をサービス対象者に設定し、宿泊業や観光コンテンツ(レジ

ャー等)は観光客をサービス対象者として設定することが多く、観光産業を振興しても、住民が

便益を受けることにつながらない構造となっている。

そのため、大社3は「観光産業と地域の他産業や人びとの暮らしが『分断』されている」とし、

その「分断の構造を『見える化』し、分断されている経済連関を『統合』に向けて『仕組み化』し

ていくこと」が肝要であると述べている。

将来の人口減少による需要の減少は、飲食業や小売業へ多大な影響を与えることは明白であり、

人口密度とサービス産業の相関関係に関しては既知のとおりである。

このまま人口減少の影響を受け、飲食業や小売業が衰退していけば地域経済の縮小や住民サー

ビスの低下を招くことになる。

今後の観光振興はその対策手段として、交流人口を増やし、まちなかの人口密度を高めること

に軸をおいて、観光産業と関連が低い飲食業や小売業の消費も増加させるような仕組みを構築す

る必要がある。

したがって、地域においては、『観光関連事業者が担う観光』の仕組みから、他産業や市民も含

めて複合的に観光とまちづくりを進める『観光まちづくり』への転換が求められる。

3 大社 充『DMO 入門-官民連携のイノベーション-』(宣伝会議)

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図表 05‐2 観光産業とサービス対象者

出典:大社 充『DMO 入門-官民連携のイノベーション-』P21(一部編集)

(3)圏域の観光に関する実態

以下において、観光の実態を数値により明らかにしたい。

ア.観光入込客数

観光入込客数については、「県内の観光地点を訪れた観光入込客数をカウントした値で、例えば、

1人の観光入込客が当該都道府県の複数の観光地点を訪れたとしても、1人回と数えることにな

る。」4と定義されている

図表 05‐3 は、圏域の過去5年間の観光入込客数を示している。

平成 30 年において、圏域内では、北杜市が約 445 万人と最も多く、次いで甲府市が約 427 万

人、甲州市が約 247 万人、笛吹市が約 217 万人、山梨市が約 152 万人の順となっており、この 5

市で圏域の観光入込客数の約 87%を占めている。

また、図表 05‐4 のとおり、山梨県全体において観光入込客数は増加傾向にあり、圏域につい

ても同様に、その観光入込客数は増加傾向にあることが分かる。

一方で、圏域の観光入込客数の山梨県全体に占める割合は、概ね 45%前後を推移しており、大

きな変化はない。

なお、同図表には記載が無いが、平成 30 年の観光客入込客数は、富士吉田市が約 635 万人と

最も多く、富士河口湖町が約 552 万人、北杜市が 445 万人の順となっている。

4 『山梨県観光入込客統計調査報告書』(山梨県)P.5

海外 国内 近隣 地元

● ●

● ● ●

● ● ● ●

● ● ●

● ●

市場/サービスサービス対象者(受益者)

観光(訪れてよし) まちづくり(住んでよし)

飲食業

小売業

交通業

施設

コンテンツ

宿泊業

非観光

観光

旅行業(仲介)

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図表 05‐3 観光入込客数(過去5年の推移)

出典:『平成 26 年~平成 30 年山梨県観光入込客統計調査報告書』(抜粋)

図表 05‐4 観光入込客数(過去5年の推移)

自治体名 H26年 H27年 H28年 H29年 H30年 平均 構成比(平均)甲府市 2,865,326 3,151,521 3,270,159 3,304,925 4,272,839 3,372,954 22.7%山梨市 1,198,362 1,306,696 1,352,036 1,284,679 1,525,233 1,333,401 9.0%韮崎市 280,508 325,770 426,540 383,336 406,443 364,519 2.5%南アルプス市 511,855 486,496 526,109 467,790 524,187 503,287 3.4%北杜市 3,766,383 3,735,548 4,019,386 3,978,263 4,458,518 3,991,620 26.9%甲斐市 565,012 561,586 530,300 469,552 496,813 524,653 3.5%笛吹市 2,423,413 2,236,166 2,137,741 2,084,624 2,176,497 2,211,688 14.9%甲州市 1,997,257 2,090,284 2,021,821 2,045,255 2,470,783 2,125,080 14.3%中央市 425,977 431,513 404,563 385,685 400,617 409,671 2.8%昭和町 23,004 18,527 20,457 22,078 27,134 22,240 0.1%圏域合計 14,057,097 14,344,107 14,709,112 14,426,187 16,759,064 14,859,113 100.0%山梨県 30,016,843 31,461,975 32,045,792 32,161,839 37,687,727 32,674,835圏域の観光入込客数の山梨県全体に占める割合 46.8% 45.6% 45.9% 44.9% 44.5% 45.5%

甲府市

山梨市

韮崎市

南アルプス市

甲斐市

中央市

昭和町

甲州市

北杜市

笛吹市

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出典:『平成 26 年~平成 30 年山梨県観光入込客統計調査報告書』(抜粋)

図表 05‐5 は、圏域における平成 30 年の月別の観光客入込客数の一覧表である。

7 月~10 月(夏から秋)までは観光客入込客数は多いが、12 月~2 月(冬)にかけては、ほ

とんどの自治体で低い数値となっている。

特に、観光客入込客数が最多の 8 月と最少の 2 月の差は約 150 万人であり、冬場の観光振興

に関する施策を実施していく必要がある。

図表 05‐5 平成 30 年観光入込客数 市町村別・月別一覧表(実人数)

出典:『平成 30 年山梨県観光入込客統計調査報告書』(抜粋)

イ.宿泊客数

図表 05‐6 は、山梨県が設定した観光圏域別の宿泊客数の推移を示した一覧である。

宿泊客数は平成 30 年において、峡東圏域が 164 万人と圏域内では最も多かった。

変動があるものの、県全体、圏域のいずれにおいても、増加傾向にある。

また、平成 30 年の県全体の宿泊客数に占める圏域の宿泊客数の割合が 42.4%、圏域の観光入

込客数の山梨県全体に占める割合が 45.5%と、ほぼ同じ割合を示している。

図表 05‐6 圏域別宿泊客数一覧表(過去5年推移)

出典:『平成 26 年~平成 30 年山梨県観光入込客統計調査報告書』(抜粋)

図表 05‐7 は、圏域別宿泊客数のうちインバウンドの宿泊客数を示した一覧表である。

インバウンドの宿泊客数は平成 30 年において、峡東地域が約 25 万人と圏域内では最も多かっ

た。

インバウンドの宿泊客数は、変動があるものの県全体、圏域で増加傾向にある。

平成 30 年の県全体の宿泊客数に占める圏域のインバウンドの宿泊客数の割合は 17.5%であり、

(人)圏域名 自治体名 H26年 H27年 H28年 H29年 H30年

峡中圏域甲府市、南アスプス市、甲斐市、中央市、昭和町

916,781 1,511,079 1,506,851 1,133,466 1,316,392

峡東圏域 山梨市、笛吹市、甲州市 1,414,180 1,695,534 1,578,027 1,662,711 1,643,529峡北圏域 韮崎市、北杜市 864,479 965,347 881,822 838,518 946,675

3,195,440 4,171,960 3,966,700 3,634,695 3,906,5967,393,034 8,624,790 9,025,903 8,196,522 9,217,293

43.2% 48.4% 43.9% 44.3% 42.4%

圏域合計山梨県

圏域の宿泊客数の山梨県宿泊客数に占める割合

(人)自治体名/月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 総数

甲府市 371,711 242,496 329,246 372,447 427,842 282,059 401,650 401,074 310,918 492,351 432,601 208,442 4,272,837山梨市 63,525 51,391 84,359 98,952 130,239 149,321 156,521 184,377 176,780 194,611 159,170 75,986 1,525,232韮崎市 27,369 18,906 26,248 50,301 25,042 28,010 32,377 66,977 31,001 48,305 29,009 22,898 406,443

南アルプス市 35,407 118,141 39,033 34,689 27,011 41,590 54,496 50,046 36,038 26,612 30,267 30,858 524,188北杜市 352,954 168,891 246,711 279,785 348,611 280,404 492,750 881,046 411,181 465,818 317,740 212,626 4,458,517甲斐市 35,640 36,243 44,246 37,302 37,363 38,293 42,877 47,341 43,116 46,917 46,551 40,924 496,813笛吹市 202,347 112,513 140,514 176,704 119,843 138,832 272,151 312,096 207,224 190,422 183,162 120,688 2,176,496甲州市 104,317 102,458 131,562 129,312 112,798 143,006 225,381 355,156 470,799 395,161 199,691 101,142 2,470,783中央市 25,329 23,549 31,079 25,992 29,784 39,950 34,141 37,183 33,029 31,632 60,542 28,407 400,617昭和町 1,270 1,275 1,440 1,018 1,041 1,114 1,305 1,349 1,251 13,419 1,317 1,334 27,133

圏域合計 1,219,869 875,863 1,074,438 1,206,502 1,259,574 1,142,579 1,713,649 2,336,645 1,721,337 1,905,248 1,460,050 843,305 16,759,059

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圏域の観光入込客数の割合(45.5%)や宿泊客数の山梨県全体に占める割合(42.4%)に比べて著

しく低く、他の圏域に比べてインバウンドの需要が伸びていないことが分かる。

図表 05‐7 インバウンド圏域別宿泊客数一覧表(過去5年推移)

出典:『平成 26 年~平成 30 年山梨県観光入込客統計調査報告書』(抜粋)

図表 05‐8 は、宿泊客数を観光入込客数で除することにより、観光入込客数のうち宿泊する人

の割合を示した表である。

峡中圏域及び峡東圏域では、観光入込客数の増減に対して、宿泊客数やその割合のいずれもが

変動していない。

峡北圏域においては、他の地域より観光入込客数のうち宿泊する割合が少なく、日帰り客が多

いと推定されるが、観光入込客数のうち宿泊する割合は 19%台で安定をしており、観光入込客数

を増加させることにより、宿泊客数の増加を図ることにつながるものと考えられる。

図表 05‐8 観光入込客数のうち宿泊する割合(過去3年推移)

出典:『平成 28 年~平成 30 年山梨県観光入込客統計調査報告書』(報告者作成)

ウ.観光産業(宿泊業)の推移

(2)で述べたとおり、観光産業は複数の業種の複合体であり、各業種で一般消費者と観光客の双

方に財・サービスを提供しているため、観光産業全体の実態を把握することは困難である。

そのため、ここでは、観光に最も関係性が高い宿泊業の統計を利用し、現況を確認したい。

図表 05‐9 は、圏域の宿泊業の事業者数、従業員数(従業員数及び従業員数のうち常用雇用者

数)を示したものである。

事業者数は、全体として減少傾向にあり、その内訳としては常用雇用者が「0 人」、「1~4人」

の小規模宿泊事業者で減少している一方、常用雇用者数が「31 人以上」の中規模以上の事業者は

(人)圏域名 自治体名 H26年 H27年 H28年 H29年 H30年

峡中圏域甲府市、南アスプス市、甲斐市、中央市、昭和町

37,971 89,041 75,558 52,025 131,920

峡東圏域 山梨市、笛吹市、甲州市 101,096 170,595 130,087 201,691 255,194峡北圏域 韮崎市、北杜市 63,083 83,694 68,857 38,712 51,930

202,150 343,330 274,502 292,428 439,044802,863 1,174,494 1,477,664 1,472,734 2,502,832

25.2% 29.2% 18.6% 19.9% 17.5%

圏域の宿泊客数の山梨県宿泊客数に占める割合

圏域合計山梨県

(人)

観光入込客数…①

宿泊者数…②

観光入込客数のうち宿泊する割合

(②÷①)

観光入込客数…①

宿泊者数…②

観光入込客数のうち宿泊する割合

(②÷①)

観光入込客数…①

宿泊者数…②

観光入込客数のうち宿泊する割合

(②÷①)

峡中圏域甲府市、南アスプス市、甲斐市、中央市、昭和町

4,751,588 1,506,851 31.7% 4,650,030 1,133,466 24.4% 5,721,590 1,316,392 23.0%

峡東圏域 山梨市、笛吹市、甲州市 5,511,598 1,578,027 28.6% 5,414,558 1,662,711 30.7% 6,172,513 1,643,529 26.6%

峡北圏域 韮崎市、北杜市 4,445,926 881,822 19.8% 4,361,599 838,518 19.2% 4,864,961 946,675 19.5%

14,709,112 3,966,700 27.0% 14,426,187 3,634,695 25.2% 16,759,064 3,906,596 23.3%

32,045,792 9,025,903 28.2% 32,161,839 8,196,522 25.5% 37,687,727 9,217,293 24.5%

圏域名 自治体名

H28年度 H29年度 H30年度

圏域合計

山梨県

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増加傾向にあるため。事業者全体では従業員の雇用は増加傾向を示している。

圏域内の観光入込客数と宿泊客数は増加傾向にあることを確認したが、圏域内の全ての宿泊業

者が、その恩恵を受けているとは言い難い状況にあることが分かる。

図表 05‐9 宿泊業の事業者数の推移及び従業員数の推移

出典:平成 24 年、平成 28 年 経済センサス活動調査をもとに作成

自治体名 調査年度 常用雇用者規模 事業者数 従業員数 総数 従業員数 男 従業員数 女 常用雇用者数 総数 常用雇用者数 男 常用雇用者数 女

総数 539 5,994 2,790 3,204 4,500 2,077 2,4230人 202 568 218 350 0 0 01〜4人 179 751 349 402 317 116 2015〜9人 51 532 230 302 352 147 20510〜19人 48 792 388 404 677 321 35620〜29人 20 473 209 264 484 199 28530人以上 39 2,878 1,396 1,482 2,670 1,294 1,376総数 516 6,354 2,919 3,435 5,199 2,366 2,8330人 197 465 206 259 0 0 01〜4人 153 550 236 314 288 95 1935〜9人 54 480 209 271 356 150 20610〜19人 49 724 313 411 663 276 38720〜29人 19 527 199 328 468 170 29831人以上 44 3,608 1,756 1,852 3,424 1,675 1,749総数 -23 360 129 231 699 289 4100人 -5 -103 -12 -91 0 0 01〜4人 -26 -201 -113 -88 -29 -21 -85〜9人 3 -52 -21 -31 4 3 110〜19人 1 -68 -75 7 -14 -45 3120〜29人 -1 54 -10 64 -16 -29 1331人以上 5 730 360 370 754 381 373

圏域合計

H24

H28

増減

自治体名 調査年度 常用雇用者規模 事業者数 従業員数 総数 従業員数 男 従業員数 女 常用雇用者数 総数 常用雇用者数 男 常用雇用者数 女

総数 82 1,072 536 536 1,014 434 5800人 11 14 7 7 0 0 01〜4人 30 110 55 55 61 28 335〜9人 13 130 65 65 83 35 4810〜19人 14 140 70 70 196 59 13720〜29人 6 118 59 59 143 58 8530人以上 8 560 280 280 531 254 277総数 76 1,341 599 742 1,196 533 6630人 13 29 11 18 0 0 01〜4人 22 80 34 46 47 16 315〜9人 9 90 29 61 63 23 4010〜19人 18 260 91 169 236 74 16220〜29人 6 158 64 94 156 63 9331人以上 8 724 370 354 694 357 337総数 -6 269 63 206 182 99 830人 2 15 4 11 0 0 01〜4人 -8 -30 -21 -9 -14 -12 -25〜9人 -4 -40 -36 -4 -20 -12 -810〜19人 4 120 21 99 40 15 2520〜29人 0 40 5 35 13 5 831人以上 0 164 90 74 163 103 60

H24

H28

増減

甲府市

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図表 05‐10 宿泊業の事業者数及び従業員数の推移(各市町)

自治体名 調査年度 常用雇用者規模 事業者数 従業員数 総数 従業員数 男 従業員数 女 常用雇用者数 総数 常用雇用者数 男 常用雇用者数 女

総数 23 279 143 136 174 99 750人 12 31 11 20 0 0 01〜4人 7 31 12 19 13 2 115〜9人 0 0 0 0 0 0 010〜19人 1 33 12 21 13 7 620〜29人 1 27 2 25 27 2 2530人以上 2 157 106 51 121 88 33総数 20 234 98 136 165 79 860人 12 31 11 20 0 0 01〜4人 4 25 8 17 13 3 105〜9人 0 0 0 0 0 0 010〜19人 1 16 7 9 16 7 920〜29人 2 74 19 55 54 18 3631人以上 1 88 53 35 82 51 31総数 -3 -45 -45 0 -9 -20 110人 0 0 0 0 0 0 01〜4人 -3 -6 -4 -2 0 1 -15〜9人 0 0 0 0 0 0 010〜19人 0 -17 -5 -12 3 0 320〜29人 1 47 17 30 27 16 1131人以上 -1 -69 -53 -16 -39 -37 -2

山梨市

H24

H28

増減

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- 80 -

自治体名 調査年度 常用雇用者規模 事業者数 従業員数 総数 従業員数 男 従業員数 女 常用雇用者数 総数 常用雇用者数 男 常用雇用者数 女

総数 25 164 64 100 104 34 700人 7 14 6 8 0 0 01〜4人 10 46 26 20 16 9 75〜9人 5 41 12 29 33 8 2510〜19人 2 38 15 23 30 12 1820〜29人 1 25 5 20 25 5 2030人以上 0 0 0 0 0 0 0総数 26 195 92 103 90 34 560人 9 25 14 11 0 0 01〜4人 7 29 11 18 15 6 95〜9人 9 99 44 55 52 24 2810〜19人 0 0 0 0 0 0 020〜29人 1 42 23 19 23 4 1931人以上 0 0 0 0 0 0 0総数 1 31 28 3 -14 0 -140人 2 11 8 3 0 0 01〜4人 -3 -17 -15 -2 -1 -3 25〜9人 4 58 32 26 19 16 310〜19人 -2 -38 -15 -23 -30 -12 -1820〜29人 0 17 18 -1 -2 -1 -131人以上 0 0 0 0 0 0 0

南アルプス市

H24

H28

増減

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- 81 -

自治体名 調査年度 常用雇用者規模 事業者数 従業員数 総数 従業員数 男 従業員数 女 常用雇用者数 総数 常用雇用者数 男 常用雇用者数 女

総数 237 1,702 791 911 1,094 530 5640人 123 313 127 186 0 0 01〜4人 88 348 162 186 130 50 805〜9人 8 89 34 55 54 28 2610〜19人 9 158 78 80 125 67 5820〜29人 2 50 27 23 50 27 2330人以上 7 744 363 381 735 358 377総数 234 1,697 848 849 1,280 636 6440人 119 270 119 151 0 0 01〜4人 82 246 118 128 134 42 925〜9人 14 107 56 51 98 51 4710〜19人 10 154 71 83 141 63 7820〜29人 1 33 19 14 26 18 831人以上 8 887 465 422 881 462 419総数 -3 -5 57 -62 186 106 800人 -4 -43 -8 -35 0 0 01〜4人 -6 -102 -44 -58 4 -8 125〜9人 6 18 22 -4 44 23 2110〜19人 1 -4 -7 3 16 -4 2020〜29人 -1 -17 -8 -9 -24 -9 -1531人以上 1 143 102 41 146 104 42

北杜市

H24

H28

増減

自治体名 調査年度 常用雇用者規模 事業者数 従業員数 総数 従業員数 男 従業員数 女 常用雇用者数 総数 常用雇用者数 男 常用雇用者数 女

総数 21 277 127 150 220 94 1260人 2 6 3 3 0 0 01〜4人 2 10 6 4 6 2 45〜9人 10 107 49 58 74 31 4310〜19人 4 65 32 33 57 27 3020〜29人 2 55 25 30 52 24 2830人以上 1 34 12 22 31 10 21総数 19 238 96 142 182 74 1080人 1 5 3 2 0 0 01〜4人 4 35 7 28 10 4 65〜9人 8 69 37 32 55 27 2810〜19人 4 63 25 38 55 22 3320〜29人 1 27 14 13 27 14 1331人以上 1 39 10 29 35 7 28総数 -2 -39 -31 -8 -38 -20 -180人 -1 -1 0 -1 0 0 01〜4人 2 25 1 24 4 2 25〜9人 -2 -38 -12 -26 -19 -4 -1510〜19人 0 -2 -7 5 -2 -5 320〜29人 -1 -28 -11 -17 -25 -10 -1531人以上 0 5 -2 7 4 -3 7

甲斐市

H24

H28

増減

自治体名 調査年度 常用雇用者規模 事業者数 従業員数 総数 従業員数 男 従業員数 女 常用雇用者数 総数 常用雇用者数 男 常用雇用者数 女

総数 80 1,997 947 1,050 1,630 790 8400人 15 38 17 21 0 0 01〜4人 18 83 48 35 38 15 235〜9人 10 119 52 67 68 31 3710〜19人 12 276 136 140 183 108 7520〜29人 5 129 67 62 120 60 6030人以上 20 1,352 627 725 1,221 576 645総数 78 2,226 996 1,230 1,987 880 1,1070人 15 37 17 20 0 0 01〜4人 16 54 24 30 31 12 195〜9人 9 76 32 44 57 18 3910〜19人 9 134 62 72 120 55 6520〜29人 5 121 27 94 113 21 9231人以上 24 1,804 834 970 1,666 774 892総数 -2 229 49 180 357 90 2670人 0 -1 0 -1 0 0 01〜4人 -2 -29 -24 -5 -7 -3 -45〜9人 -1 -43 -20 -23 -11 -13 210〜19人 -3 -142 -74 -68 -63 -53 -1020〜29人 0 -8 -40 32 -7 -39 3231人以上 4 452 207 245 445 198 247

笛吹市

H24

H28

増減

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自治体名 調査年度 常用雇用者規模 事業者数 従業員数 総数 従業員数 男 従業員数 女 常用雇用者数 総数 常用雇用者数 男 常用雇用者数 女

総数 45 247 86 161 68 25 430人 28 143 46 97 0 0 01〜4人 15 62 18 44 31 3 285〜9人 0 0 0 0 0 0 010〜19人 1 21 11 10 16 11 520〜29人 1 21 11 10 21 11 1030人以上 0 0 0 0 0 0 0総数 36 141 64 77 53 23 300人 21 48 22 26 0 0 01〜4人 13 67 27 40 29 9 205〜9人 1 7 1 6 5 0 510〜19人 1 19 14 5 19 14 520〜29人 0 0 0 0 0 0 031人以上 0 0 0 0 0 0 0総数 -9 -106 -22 -84 -15 -2 ちゅう0人 -7 -95 -24 -71 0 0 01〜4人 -2 5 9 -4 -2 6 -85〜9人 1 7 1 6 5 0 510〜19人 0 -2 3 -5 3 3 020〜29人 -1 -21 -11 -10 -21 -11 -1031人以上 0 0 0 0 0 0 0

甲州市

H24

H28

増減

自治体名 調査年度 常用雇用者規模 事業者数 従業員数 総数 従業員数 男 従業員数 女 常用雇用者数 総数 常用雇用者数 男 常用雇用者数 女

総数 2 8 3 5 8 3 50人 1 0 0 0 0 0 01〜4人 0 0 0 0 0 0 05〜9人 1 8 3 5 8 3 510〜19人 0 0 0 0 0 0 020〜29人 0 0 0 0 0 0 030人以上 0 0 0 0 0 0 0総数 1 16 7 0 16 7 90人 0 0 0 0 0 0 01〜4人 0 0 0 0 0 0 05〜9人 0 0 0 0 0 0 010〜19人 1 16 7 9 16 7 920〜29人 0 0 0 0 0 0 031人以上 0 0 0 0 0 0 0総数 -1 8 4 -5 8 4 40人 -1 0 0 0 0 0 01〜4人 0 0 0 0 0 0 05〜9人 -1 -8 -3 -5 -8 -3 -510〜19人 1 16 7 9 16 7 920〜29人 0 0 0 0 0 0 031人以上 0 0 0 0 0 0 0

中央市

H24

H28

増減

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出典:平成 24 年、平成 28 年 経済センサス活動調査

図表 05‐11 は、山梨県内の宿泊事業者の客室稼働率の推移を示した表である。

図表 05‐11 山梨県内の宿泊事業者の客室稼働率(従業員数区分)の推移

出典:「平成 27 年~平成 30 年宿泊旅行統計調査」

平成 30 年においては、従業員数が「0~9 人」の小規模宿泊事業者の客室稼働率が 20.4%と悪

く、小規模事業者は慢性的に厳しい経営状態が続いている。

図表 05‐12 は、山梨県内の宿泊施設タイプ別の宿泊者数を示した図表である。

自治体名 調査年度 常用雇用者規模 事業者数 従業員数 総数 従業員数 男 従業員数 女 常用雇用者数 総数 常用雇用者数 男 常用雇用者数 女

総数 6 99 32 67 71 18 530人 0 0 0 0 0 0 01〜4人 1 23 9 14 1 0 15〜9人 2 20 5 15 16 2 1410〜19人 2 25 10 15 23 8 1520〜29人 0 0 0 0 0 0 030人以上 1 31 8 23 31 8 23総数 6 103 44 59 100 42 580人 0 0 0 0 0 0 01〜4人 1 3 1 2 2 0 25〜9人 1 9 2 7 9 2 710〜19人 1 12 2 10 11 1 1020〜29人 2 45 19 26 44 19 2531人以上 1 34 20 14 34 20 14総数 0 4 12 -8 29 24 50人 0 0 0 0 0 0 01〜4人 0 -20 -8 -12 1 0 15〜9人 -1 -11 -3 -8 -7 0 -710〜19人 -1 -13 -8 -5 -12 -7 -520〜29人 2 45 19 26 44 19 2531人以上 0 3 12 -9 3 12 -9

昭和町

H24

H28

増減

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図表 05‐12 山梨県内の宿泊施設タイプ別の宿泊者数

出典:「平成 27 年~平成 30 年宿泊旅行統計調査」

旅館は、平成 27 年には 324 万人の宿泊客

数であったが、平成 30 年には 305 万人とな

り、約 20 万人の宿泊客数の減少となってい

るが、リゾートホテルにおいては、平成 27

年の 179 万人から平成 30 年には 221 万人の

宿泊客数となり、42 万人の宿泊客数の増加

となっている。

図表 05‐13 は、圏域における宿泊事業者の

売上金額を、それぞれ示したものである。

圏域全体では、売上金額が平成 24 年の約

301 億円から平成 28 年の約 449 億円へと、約

147 億円増加している。

なお、平成 28 年の売上金額を見ると、笛吹

市が約 150 億円と最多で、以下、北杜市の約

132 億円、甲府市の約 124 億円の順となって

おり、当該3市の合計額は、圏域全体の売上金

額の 9 割を占めている状況となっている。

エ.インバウンド

図表 05‐14 は、国籍別のインバウンド宿泊

客の推移(10 万人以上)を示した図表である。

自治体名 調査年度 事業者数 従業員数売上金額

(百万円)H24 64 903 6,022H28 63 1,250 12,424増減 -1 347 6,402H24 20 268 1,854H28 20 234 943増減 0 -34 -911H24 13 122 698H28 19 152 784増減 6 30 86H24 14 77 455H28 23 173 795増減 9 96 340H24 189 1,212 7,865H28 208 1,605 13,249増減 19 393 5,384H24 13 192 965H28 16 190 1,136増減 3 -2 171H24 56 1,497 11,897H28 69 1,903 15,060増減 13 406 3,163H24 38 194 426H28 35 140 538増減 -3 -54 112H24 0 0 0H28 0 0 0増減 0 0 0H24 407 4,465 30,182H28 453 5,647 44,929増減 46 1,182 14,747

中央市

圏域合計

甲斐市

山梨市

韮崎市

南アルプス市

北杜市

笛吹市

甲州市

甲府市

図表 05‐13 圏域の宿泊事業者の売上金額

出典:平成 24 年、平成 28 年 経済センサス活動調査

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平成 30 年におい

て、インバウンド宿

泊客で最も多い中

国は 674,680 人と

なっており、他の国

を大きく上回り、次

いで台湾の 237,940

人、タイの 153,040

人、香港の 100,160

人と、中華圏から

は、1,012,780 人が

来県しており、山梨

県に宿泊したイン

バウンド宿泊客の

6 2 % を 占め る。

図表 05‐15 は国籍

別のインバウンド宿

泊客推移(10 万人未

満)を示した図表であ

る。フィリピン以外の

全ての国の宿泊客が

増加している。特にタ

イ、インドネシア、ベ

トナム、マレーシアな

どの東南アジアから

の来県が増加傾向に

ある。

図表 05‐16 は、国

籍・地域別にみる訪日

外国人旅行者1人当

たり費目別旅行支出

をまとめた一覧であ

る。

旅行支出額では、オ

ーストラリアが最多

で 242,041 円、次いで

スペインが 237,234

円、中国が 224,870 円

となっている。

図表 05‐14 国籍別のインバウンド宿泊客推移(10 万人以上)

出典:「平成 27 年~平成 30 年宿泊旅行統計調査」

図表 05‐15 国籍別のインバウンド宿泊客推移(10 万人未満)

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図表 05‐16 国籍・地域別にみる訪日外国人旅行者1人当たり費目別旅行支出(2018 年)

出典:「令和元年版観光白書-平成 30 年度観光状況-」抜粋

オ.交通に関する状況

令和2年度に中部横断自動車道の一

部区間が開通する予定であり、これに

より、甲府市~静岡市間が、約1時間

40 分でアクセスが可能になる。

静岡県からの圏域(特に南アルプス

市、北杜市)への来訪者の増加に寄与

することが期待されるところである。

一方、2027 年には、リニア中央新幹

線の品川・名古屋間が開通する予定で、

図表 05‐18 のように、名古屋・甲府間

の所要時間は、1時間を切り、それに

伴い、京都、大阪から甲府までの所要

時間も2時間を切るなど、大都市圏と

のアクセスは、今後一層、向上してい

くことになる。

図表 05‐17 山梨県内の交通網整備状況

出典:『やまなし観光推進計画』(抜粋)

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図表 05‐18 リニア中央新幹線での所要時間

出典:『やまなし観光推進計画』(抜粋)

(4)観光分野に関する広域連携

圏域全体で観光産業が好調のなか、なぜ、観光分野での広域連携が必要なのか。

それは観光客の行動範囲と行政区域が合致していないからである。観光客の目的は、個々の自

治体の区域で完結するものではなく、各地に点在する観光資源を周遊観光することにある。

しかしながら、現状は、各自治体において、観光振興に関する事業予算を計上・執行しており、

観光客のニーズに則した効率的な施策を展開しているとは言い難い面もある。

また、観光客入込客数や宿泊客数の推移から見て取れるように、圏域内の自治体ごとに、その

数には隔たりがあり、必ずしも、全ての自治体で観光振興を単独で行う必要はないことが分かる。

そのため、観光客の旅行ニーズを把握して、需要面から各自治体が保有する観光資源の発掘・

磨き直しを行い、自治体間の観光資源を結びつけ、広域連携での観光地づくりを行う必要がある。

ア.観光施策の広域連携について

(ア)広域連携の圏域設定と役割分担について

広域連携を行うにあたって

は、地理的な区分や観光種類の

区分など、何らかの繋がりを用

いて「広域連携の圏域」や「観光

圏」を設定し、観光施策毎に連

携する自治体の役割分担を明確

にしておく必要がある。

広域連携を行う範囲設定につ

いて、①観光圏をベースに連携

する方法、②自治体をベースに

連携する方法がある。

観光圏は複数自治体で形成される一方で、一つの自治体内に複数の観光圏が形成されることも

ある。

①の観光圏をベースに連携する方法をとる場合、一つの自治体が観光に関する複数の広域連携

を行ってしまうと、実務が煩雑になり、マネジメントも困難になる。

図表 05‐19 広域連携の推進体制について

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そのため、観光に関する広域連携は「自治体をベースに圏域を設定して連携する」手法が望ま

しい。

また、複数の団体が乱立し、その機能があまりにも重複するのは非効率であるため、広域連携

を行う前に、各団体において、それぞれ新しい運営体制での役割・機能の分担を行う必要がある。

そして、必要に応じて、観光協会が持つ機能をこうした新たな広域連携の運営主体に移し、観

光協会を発展的に解消するなど、機能の移行や組織の統廃合に関する検討も不可避となる。

(イ)広域連携の手順

広域連携の手順としては、「①調査(データの収集)、②データの共有と分析、③観光戦略の立

案、④事業立案と推進体制の決定、⑤運営主体の設立、⑥事業の実施、事業評価」のプロセスを

経る必要がある。(図表 05‐19)

図表 05‐19 広域連携の手順

(ウ)広域連携で行う事業

広域連携で行う主な事業は、以下のとおりである。

【圏域の基本戦略・計画の策定】

圏域における基本戦略を策定する際には、少なくとも「①目的、②目標(数値目標)、③組織、

①調査(データの収集)

②データの共有と分析

③観光戦略の立案

④事業立案と推進体制の決定

⑤事業運営主体の設立

⑥事業の実施、評価

・広域連携に関する研究会の設立

・検討委員会の設立

・役割や費用分担に関する取決め

・圏域や事業内容の決定

・実施運営主体の設立

・事業の実施

自治体間協定締結

●圏域の基本戦略・計画の策定

●圏域の観光に関する統計調査

●圏域のマーケティング

●観光地の品質・サービス向上に関する施策

●観光ガイドの育成

●観光に関する環境整備

●圏域の事業間連携の促進

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④観光圏、⑤実施事業」を設定しておく必要がある。

また、観光圏を設定するには「①圏域内の観光資源の洗い出し・格付け、②主要交通の確認・

利用者数や台数の把握、③観光に関する事業者数や関連団体の把握、④旅行事業者へのヒアリン

グ、⑤既存の広域連携の確認 等」が必要である。

図表 05‐20 は、県が統計調査で用いている区

分であるが、この区分は、地理で分けた区分であ

るため、地域の実情を反映した観光圏を設定す

る上においては、これに旅行者の移動範囲や観

光資源の種類、観光産業の有無等を加味するこ

とが肝要である。

また、観光圏を設定する際に「まちづくり」と

どのような関係性を築いていくかを十分に考慮

する必要がある。

例えば、人口減少や車社会の発達によってバ

スへの需要は減少しており、県内のコミュニテ

ィバスで採算をとれるような路線はほとんどな

い。一方で高齢社会の到来により、コミニティバ

スの新設や運行時間を増加して欲しいという要

望もある。

その課題を解決するために、観光地間の移動

手段として、コミニティバスを利用できるよう

に路線設計をすれば、コミュニティバスの運用

経費の一部を観光客に負担してもらうことがで

きよう。

地域の課題解決の手段として、「観光」をどのようにまちづくりに関与させるかについては、方

針を策定する段階で検討しておかなければならない。

【圏域の観光に関する統計調査】

圏域で広域連携を考えるにあたり、また広域連携をして実施した事業を評価する際には、圏域

の観光に関する統計調査の数値が欠かせない。

既存の統計調査としては、国が行っている「旅行・観光消費動向調査」、「訪日外国人消費動向

調査」、「宿泊旅行統計調査」、「訪日外客数」、「経済センサス」、「RESAS」や、県が行っている「山

梨県観光入込客統計調査」、「アンケート調査」、また、日本観光振興協会の「観光予報プラットフ

ォーム」など既存の統計資料が数多くある。

統計調査は調査をする側、される側の双方で労力を割かれるため、観光に関する既存のデータ

を基本的には利用するとともに、足りない部分があった場合は、広域連携の運営主体において、

独自調査を行うことも検討されるべきだろう。

また、山岳やお祭り等の数を正確に把握できない場所やイベントに対して、自動カウンターの

設置等の手法を確立し、観光客数を把握することも必要である。

地域 区分

峡中

昇仙峡・湯村温泉 周辺

芸術の森・武田神社 周辺

広河原・芦安温泉 周辺

櫛形山・果実郷 周辺

釜無川沿岸 周辺

風土記の丘 周辺

峡東

大菩薩・恵林寺 周辺

勝沼ぶどう郷周辺

西沢渓谷・フルーツ公園周辺

石和温泉・果実郷周辺

峡北

八ヶ岳高原周辺

金峰・みずかき周辺

甲斐駒ケ岳、鳳凰三山周辺

茅ヶ岳周辺

図表 05‐20 県統計調査用区分

出典:『年山梨県観光入込客統計調査報告書』(抜粋)

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【圏域の観光マーケティング】

観光戦略で設定した観光圏を基礎にマーケティングを行い、観光圏ごとにターゲット層を設定

し、どのような製品開発、PR、ブランド戦略を展開するかを決定することが必要となる。

【観光地の品質・サービス向上に関する施策】

観光地において中・長期間にわたり、観光客の来訪を促すためには、圏域内の観光産業におい

て提供するサービスの品質を、観光客の満足度向上に資する水準へ常に保たなければならない。

そのためには、実務的かつ専門的な研修を定期的に実施し、提供サービスの品質を一定にする

取り組みが必要である。また、広域連携に伴う事務等の増加は、観光客に向き合う時間を減らし、

サービス低下につながることも危惧される中で、ICT を活用した業務支援システムの導入やその

アウトソーシングなどの対策を講じていくことも必要となる。

なお、このような取り組みは、観光圏内の事業者の賛同が前提となるため、こうした事業者や

関係機関との良好な関係を構築し維持していくことも重要である。

【観光ガイドの育成】

観光資源と観光客を媒介する「観光ガイド」を、広域圏で育成する施策の実施が必要である。

例えば、「山」は、観光分野において登山が主目的になる。そのため、観光資源になるのは「日

本百名山」や「山梨百名山」といった登山向けの山のみである。しかし、山には植物(花、木、山

菜、キノコ)、動物(鳥、昆虫)、地質(岩石、地形)等の資源があり、各分野の熟練者が観光ガイ

ドを行えば、これらを観光資源・観光コンテンツとして利活用することが可能となる。これは山

だけでなく、城跡等の史跡や畑・田も同様である。

また、インバウンドへの対応においても、各国に対応できる観光ガイドを育成し配置できれば、

さらなる促進が可能である。

【観光に関する環境整備】

観光に関する環境整備としては、観光バスの駐車場対策、公衆トイレの洋式化やUDタクシー

促進・「JAPAN Taxi」への対応事業の促進、またインバウンドへの対応の強化として、無料 Wi-

Fi スポットの設置、外国語対応の道路標識・案内標識設置や翻訳機設置などの多言語化対応、ま

たキャッシュレス対応を促進していくことが必要である。

【圏域の事業連携の促進】

観光を地域経済活性化の手段として活用するためには、観光産業分野における域内調達率を上

げることが求められる。そのため、圏域内での農林業者、観光事業者、食品製造事業者等が連携

して、6次産業化商品の開発を進めるなど、容易に構築可能なサプライチェーンの確立を目指す

ことも有効な施策ではないかと考える。

(5)終わりに

圏域を単位とした観光と観光関連産業の振興を図り、圏域全体の経済発展につなげていくため

には、実態的に形成された観光圏を構成する自治体相互が、広域連携によってその関係性を一層

強め、各自治体がその役割・機能に応じた投資の重点化を図る中で、有効な施策を効率的に展開

していくことが重要である。

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06.食と農による地域経済の活性化

研究員 浅川裕介

(1)はじめに

地域のあるべき姿とは? また、地域の豊かさとは? を考えた時、各自治体のポテンシャル

は異なるものの、共通の認識として、図表 06‐1 のようなバスタブの、水位が安定し平衡な状態、

もしくは、水位が上昇している状態が、地域の豊かさであり、あるべき姿と言える。

しかしながら、人口減少・超高齢社会が加速化する中で、地域の豊かさを維持することが困難

になっており、確実にその水位は減少しているのが現状である。

そこで、ポテンシャルが異なる自治体においては、新たな圏域構想とその連携を足掛かりに、

圏域全体で持続可能な循環システムを構築していくことが、今後、重要になるものと考える。

図表 06‐1 自治体の経営サイクルに問題はないか?

出典:「世界はシステムで動く」ドネラ・H・メドウズ

地域の豊かさの水位は、ヒト・モノ・カネで構成されており、そのバランスが極端に崩れると

急激に水位は減少していく。

バランスが極端に崩れないようにするためには、各自治体が、ヒト、モノ、カネについて、そ

れぞれ課題とするものを個々に分析し、地域の豊かさを維持する上で欠かせない給水と排水の流

れをしっかりと把握し対策を講じることが必要となる。

しかしながら、現状の枠(自治体であったり既存の集落範囲など)で維持できない場合におい

ては、バスタブの大きさを改善することになるが、近年、各自治体において取り組みが始まりつ

つあるコンパクトシティー化に加え、今回の研究テーマである新たな圏域の創造も、水位の維持・

上昇を図る上で採り得るべき一つの方途と言えよう。

地域経済の

あるべき姿

地域人口の

あるべき姿

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(2)あるべき姿について

県央自治体の中で、特に北杜市は、県内最大の耕地面積を有しており、基幹的作物を水稲とす

る田園風景や管理された水田の土手等は、観光資源としても大きな役割を果たしている。

また、他の自治体の多くも、同様に農業を基幹産業としており、東部は果樹地帯を、西部は穀

倉地帯をそれぞれ形成するなど、圏域全体で見れば多種多様な農業が展開されており、農業を活

用した多様な施策展開の可能性を秘めているとも言えよう。

確かに、今日の農業は、経済的側面のみを捉えれば、非常に経営基盤が弱い産業と言えようが、

その多面的な機能に着目するならば、地域経済にとっても重要な産業であり、こうした地域農業

が「農村」として持続可能になることで、自然豊かで環境にやさしいまちづくりを後押しし、そ

れが魅力となって、移住増加の要因ともなり得る。

なお、ここで言う「農村」においては、その空間的な特質を活かしながら、今後も農林業的な

土地利用を継続的に進めながら、食を通じて、地域さらには県内の経済的な豊かさだけでなく、

心の豊かさをも支える役割を担うことが期待される。

(3)圏域でみる各自治体のポテンシャル

図表 06‐2 食料自給率(国試算)

図表 06‐2 のデータは、平成 20 年頃に作成したもので少々古いが、山梨県内の各自治体の食

料自給率(カロリーベース)を示している。

同図表によれば、山梨県の食料自給率は 20%となっているため、多くの食料を県外または国外

から取り入れないと、市民・県民の生命活動を維持できないという見方ができよう。

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しかし、これには食料自給率(カロリーベース)のカラクリがある。

市民一人当たりの耕地面積と食料自給率を比べていただけるとわかりやすい。

1人当たりの耕地面積が同じくらいの自治体である「山梨市」と「韮崎市」を比較すると、1

人当たりの耕地面積は500m2(5a)でありながら、食料自給率の差は2倍近くある。

これは、穀物が中心の峡北地域と果樹が中心の峡東地域では、そもそも主たる栽培作物のカロ

リーに差があることから、上記のような結果が生じる。

人は、健康的な生活を維持するためには、主食を中心とするバランス良い食事が必要不可欠で、

単に、カロリーベースの食料自給率だけの統計に目を奪われてしまうと、地域農業のポテンシャ

ルを正しく理解できなくなり、戦略が立てられなくなる。

そこで、北杜市が独自に計算した各自治体のポテンシャルの数値を分析し、圏域連携によって

県内から県外に流出してしまう「カネ」の流れを抑制できないかを検討する。

まず、主食について各自治体のポテンシャルを分析する。

図表 06‐3 の太枠は、各自治体が所有している水田面積である。

現在は、米の消費が低迷していることから、水田で米を栽培すること自体に規制があったり、

すでに耕作放棄地化していることもあり、水稲栽培には量的に上限が存在するが、最大のポテン

シャルという意味で同図表を見ていただきたい。(実際は、自給率は図表より低いと考えられる。)

まず、峡北地域以外の地域は、水稲栽培が盛んでないことや、農村ではなく商工業地であるこ

となどから、人口に対して農地が少なく自給率は低い状況にある。

県内全体で見ても、山梨県は他県から米を仕入れないと、県民・市民の生活を維持できない状

況であるのが見てとれる。

図表 06‐3 食料自給率(独自試算)

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次に、副菜となる野菜などについて、各自治体のポテンシャルを分析する。

図表 06‐4 の太枠は、各自治体が所有している畑の面積である。

こちらも同様に、耕作放棄地化されているので、実際の数値は同図表より低くなると考えられ

るが、最大のポテンシャルとして見ていただきたい。

野菜は、品目によって 1000 ㎡(10a)あたりの収穫量が異なるが、平均として3トンを収穫出

来るとして計算している。

一方で、消費量については、厚生労働省が目標としている1日当たりの野菜の摂取量(350g)

を人口で除して需要を計算している。

図表 06‐4 食料自給率(独自試算)

自給率の欄を見ていただくとわかるが、畑をフル回転させると、県内のほとんどの地域が市民

の命を支えるくらいの自給率を、計算上では保持しているのが見てわかる。

(4)まとめ

ア.圏域内における食と農の連携事業について

「(3)」で示したとおり、県央自治体の圏域内では多種多様な農業展開がなされているため、そ

れほど競合することもなく、連携することで豊かな食文化を維持し発信することが出来る。

一方で、各自治体が所有している道の駅や直売所は、地域の野菜が新鮮で手軽に買えるという

イメージがあるが、結局は全ての食材が手に入るわけではないため、品揃えが豊富で便利な販売

店へと、消費が流れてしまう傾向にあるのは否めない。

したがって、例えば、直売所同士が連携することで、果樹王国には穀倉地帯のお米や野菜が物

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流し、穀倉地帯には、季節の果物が手軽に買える仕組みが生まれ、利用客の向上と物流の簡素化

による農業者の所得向上に繋がるのではないか。

また、各自治体が展開している学校給食においても、地産地消の地産において、地域を過度に

限定せずに、より広域的に捉えた圏域を対象に考えれば、地域農業の活性化に資することになろ

う。

そして、物流がコンパクトとなることで、鮮度の高い農畜産物を給食に提供することをとおし

て、知育・徳育・体育の基礎である食育の底上げにもなり、これからの地域を支える子どもたち

の成長を支えることにもなる。

イ.圏域内連携による販路拡大について

「ア.」の連携を進めることができれば、多種多様な農産物を相互に流通・消費させ、その相乗・

相補効果を引き出す販売戦略も併せて展開することで、それぞれの特色ある農産物に新たな価値

を付与し、マーケットの拡大を図る可能性を一層高めることができる。