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呼吸器感染症
鳥取市立病院 総合診療科
尾坂 妙子
呼吸器感染症の動向
• 肺炎は日本人の死因第3位(年間10万人)
→超高齢社会において、寿命として肺炎で亡くなる時代になった。
• 耐性菌の問題
特にカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)は菌種を超えて
耐性化が広がり、市中肺炎が難治化する可能性がある。
• 新興感染症
SARS、鳥インフルエンザ、パンデミックインフルエンザ、MERSなど。
航空網の発達で世界中に拡散する危険性がある。
ほとんどが人獣共通感染症。→One Healthという理念
• 災害における肺炎
東日本大震災などの災害で、避難所から多くの高齢者肺炎が発生した。
肺炎は死因の第3位
感染の3要素
感染源
感染経路 宿主
呼吸器感染症の分類
https://nurseful.jp/nursefulshikkanbetsu/pulmonology/section_0_01/
部位別の主な疾患・原因微生物【上気道感染症】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・感冒 ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス慢性副鼻腔炎 インフルエンザ菌、肺炎球菌急性咽頭炎・扁桃炎 ライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、レンサ球菌咽頭結膜熱 アデノウイルスクループ パラインフルエンザウイルス急性喉頭蓋炎 インフルエンザ菌【下気道感染症】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気管支炎 RSウイルス、コロナウイルス、ライノウイルス、肺炎球菌急性細気管支炎 RSウイルス、パラインフルエンザウイルス【肺実質感染症】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・細菌性肺炎 肺炎球菌、インフルエンザ菌、クレブシエラ、黄色ブドウ球菌非定型肺炎 マイコプラズマ、クラミジア(クラミドフィラ)、レジオネラウイルス性肺炎 サイトメガロウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルス、
ヒトメタニューモウイルス肺真菌症 アスペルギルス、クリプトコックス、ニューモシスチス肺膿瘍 嫌気性菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌肺結核症 結核菌非結核性抗酸菌症 MAC、M.kansasii
感染防御の仕組み
https://nurseful.jp/nursefulshikkanbetsu/pulmonology/section_0_01/
診療の流れ
主訴
意識+ABC 診断推論
心停止 不安定 安定 鑑別
胸骨圧迫 バイタルサイン 情報収集 確定診断人工呼吸 モニター ・問診除細動 静脈路確保 ・身体所見 治療
酸素投与 ・検査原因検索
安定化集中治療
問診
• 病歴聴取の方法
OPQRST-A SAMPLEROnset(発症様式) Symptoms(症状)
Proocation/Palliation(増悪緩解因子) Allergy(アレルギー)
Quality(性状) Medication(服用薬)
Region/Radiation(部位・放散) Past medical history(既往歴)
Severity(症状の強さ) Last meal(最後の経口摂取)
Time(時間経過) Events prior to illness(発症前のできごと)
Associated symptoms(随伴症状) Risk factors(疾病の危険因子)
問診
• 経過による鑑別
• 呼吸器症状上気道症状:鼻閉、鼻汁、くしゃみ、咽頭痛、嗄声
下気道・肺症状:咳嗽(乾性・湿性、急性・慢性)、痰、呼吸困難、胸痛
臨床経過 感染症・病原菌の鑑別
急性 1週間以内 肺炎球菌、クレブシエラ、レジオネラ、
インフルエンザウイルス、誤嚥性肺炎など
亜急性 1週間~1か月 インフルエンザ菌、モラキセラカタラリス、
マイコプラズマなど
慢性 1か月以上 結核、肺膿瘍、放線菌症など
問診
咳嗽
乾性咳嗽は非定型肺炎、湿性咳嗽は細菌性肺炎や気管支炎を疑う。
急性咳嗽の多くは呼吸器感染症だが心不全との鑑別が必要。
慢性咳嗽の多くは非感染性疾患だが、肺結核の鑑別が必要。
痰 鉄さび色:肺炎球菌、緑色:緑膿菌
呼吸困難(Fletcher-Hugh-Jones分類):肺炎では下記が混合性に聞かれる。
呼気性:末梢気道 wheeze、疾患では細気管支炎、喘息、COPDなど。
吸気性:中枢気道 stridor、rhonchi、疾患ではクループ、急性喉頭蓋炎など。
胸痛:壁側胸膜に痛覚神経が存在。
呼吸器感染症では肺炎、気管支炎、胸膜炎など。
緊急性を要する急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓症、緊張性気胸、
食道破裂などの鑑別を忘れずに!
その他の重要な問診事項:
年齢、基礎疾患、治療内容、家族構成、職業、周囲の同症状の有無、
ワクチン接種歴、嗜好歴、ペットの有無、温泉や噴水などへの暴露など。
身体診察
バイタルサインは必須!・A-DROP、I-ROAD(後述)で肺炎の重症度評価
・qSOFAで敗血症の評価
(呼吸数22/min以上、GCS<15、収縮期血圧100mmHg以下)
視診:胸郭運動の左右差(片側の肺炎、胸水、無気肺)
打診:肺炎、膿胸、胸水で濁音
聴診:喘鳴、crackles、rhonchi、wheeze、胸膜摩擦音など細菌性肺炎では全吸気crackles、
非定型肺炎では吸気終末cracklesが聴取される
声音振盪:肺炎や胸水でヤギ音
検査
喀痰検査
・塗抹検査、培養・同定検査、薬剤感受性検査など。
・口腔内常在菌を減らすため、うがい後の採取が望ましい。
血液培養検査
・血培を行うタイミング
悪寒戦慄を伴う発熱、低体温、頻呼吸、意識レベルの変化、急な血糖コントロール不良など、
患者の状態が急に変化した場合や、治療変更時。
・血培のセット数での検出感度は、1セットで73.2%、2セットで93.9%、3セットで96.9%
→できれば2セット行う!
ウイルス学的検査
・直接法:分離培養、核酸検出法、抗原検出法
・間接法:抗体検出法
・抗ウイルス薬が存在するウイルス:単純ヘルペス、水痘・帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、
インフルエンザウイルス、RSウイルス
・感染対策上重要なウイルス:水痘・帯状疱疹ウイルス、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、
SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、
パラインフルエンザウイルスの病原診断は重要。
検査胸部単純X線・X線→CTの順が望ましい。・できれば側面像もとる。・胸水200ml以上でCPangleがdullになる。胸部CT
・全世界のCTの1/3が日本にある。・肺炎球菌:高頻度にconsolidaionを合併、多肺葉にわたる。約20%に胸水を認める。・インフルエンザ桿菌:気管支壁肥厚など気管支肺炎に特徴的な所見の頻度が高い。・マイコプラズマ:小葉中心性結節影、気管支肺動脈束肥厚等。小児は成人と異なる像。・空洞病変を来す頻度の高い菌:ブドウ球菌、クレブシエラ、緑膿菌、嫌気性菌、真菌(アスペルギルス、クリプトコックス)、結核菌
迅速検査・血中抗原:アスペルギルス、クリプトコックス、カンジダ、サイトメガロウイルス・尿:肺炎球菌、レジオネラ
遺伝子検査レジオネラ、マイコプラズマ、結核、インフルエンザウイルスなど
血清学的検査肺炎球菌抗原(尿、喀痰)、レジオネラ抗原(尿)、インフルエンザ抗原(鼻腔・咽頭ぬぐい液)、マイコプラズマ抗原、アスペルギルス抗原、抗アスペルギルス沈降抗体、クリプトコックス抗原、β-D-グルカン
グラム染色像
三嶋理晃,藤田次郎.呼吸器感染症.中山書店;2017,p54
グラム染色以外の染色法
三嶋理晃,藤田次郎.呼吸器感染症.中山書店;2017,p55
急性気道感染症へのアプローチ
鼻閉・鼻汁・くしゃみ・微熱など
咽頭痛・発熱など
喉のイガイガ感、嗄声など
呼吸困難・喘鳴・発熱など
咳・痰・発熱など
かぜ症候群
急性咽頭炎急性扁桃炎
急性喉頭炎
急性喉頭蓋炎
急性気管支炎
時期によってはインフルエンザ抗原検査、RSウイルス抗原検査
必要に応じて一般培養検査、A群溶連菌迅速検査、EBウイルス血清検査、HIV RNA検査、マイコプラズマ・肺炎クラミジア抗体検査
血液培養検査(インフルエンザ菌などを対象)
必要に応じて一般培養検査、
マイコプラズマ・肺炎クラミジア抗体検査、インフルエンザ抗原検査、場合により百日咳菌検査
上気道感染症
かぜ症候群原因:ウイルスが90%(小児ではRSウイルス、パラインフルエンザウイルス
成人ではライノウイルス、コロナウイルスなどが多い。)
症状:様々(鼻汁、鼻閉、咽頭痛、下気道まで及べば咳、痰、喘鳴など)
治療:対症療法が基本だが、細菌感染を疑うときは抗菌薬を使用。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
喉頭の炎症
クループ好発:3歳以下の乳幼児原因:パラインフルエンザウイルス感染
などによる声門下の腫脹症状:犬吠様咳嗽、吸気時喘鳴胸部X線像:正面でペンシル像治療:加湿、酸素吸入、
輸液、ネブライザーなど
急性喉頭蓋炎好発:2~6歳の小児原因:インフルエンザ桿菌感染による
喉頭蓋の腫脹症状:咽頭痛、嚥下痛、呼吸困難
→窒息!!
胸部X線像:頸部側面で喉頭蓋腫脹治療:抗菌薬、気道確保
下気道感染症
急性気管支炎原因:約90%がウイルス感染。それ以外では百日咳菌やマイコプラズマなど。
胸部X線やCT画像上異常所見はなし。
急性細気管支炎好発:2歳以下、特に6か月前後の小児に多い。主に冬期にみられる。
原因:RSウイルス、パラインフルエンザウイルスなど
症状:発熱、咳嗽、喘鳴を伴う呼気性呼吸困難、チアノーゼなど
検査:胸部X線像で肺の過膨張、鼻汁でRSウイルス抗原迅速検査陽性
治療:対症療法(酸素投与、ネブライザー、輸液)
喘息と異なりアレルギーではないのでステロイドは禁忌(感染増悪)!
急性気道感染症における抗菌薬の適応
①高熱の持続(3日間以上)
②膿性の喀痰、鼻汁
③扁桃肥大と膿栓・白苔付着
④中耳炎、副鼻腔炎の合併
⑤強い炎症反応(白血球増多、CRP陽性、赤沈の亢進)
⑥ハイリスク患者(65歳以上、慢性呼吸器疾患などの基礎疾患+)
上記6項目中3項目以上の該当で抗菌薬使用を考慮すべきとされる。
「成人気道感染症の考え方」日本呼吸器学会
肺炎の分類
形態学的分類
肺胞性肺炎:大葉性肺炎、気管支肺炎
間質性肺炎
混合性肺炎:肺胞性+間質性
原因微生物による分類
細菌性肺炎
非定型肺炎
発症の場による分類
市中肺炎
院内肺炎
医療介護関連肺炎
細菌性肺炎、非定型肺炎の鑑別
①年齢60歳未満
②基礎疾患がない、あるいは軽微
③頑固な咳がある
④胸部聴診上所見が乏しい
⑤喀痰がない、あるいは迅速診断法で原因菌らしいものが
証明されない
⑥末梢血白血球数が10000/μL未満である
6項目中4項目以上、あるいは⑥以外で3項目以上の該当で
非定型肺炎を疑う。
マイコプラズマ肺炎
発症の場による分類
入院48時間以降の発症(療養病棟への入院は除く)
病院外、または入院48時間未満の発症
肺炎の発症
医療・介護関連肺炎の定義①長期療養型病床群もしくは介護施設に入所②90日以内に病院を退院した③介護を必要とする高齢者、身体障害者④通院にて継続的に血管内治療を受けている(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬等)
該当あり 該当なし
院内肺炎 医療・介護関連肺炎 市中肺炎高 死亡率・耐性菌の割合 低
市中肺炎
・原因菌の多い順に、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ菌。
一般細菌以外にはマイコプラズマが多い。
・A-DROPや敗血症の有無を参考に重症度を判断し、治療を選択する。
・治療 基本はペニシリン系抗菌薬を比較的高用量使用する。
外来治療:AMPCかβ-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系経口薬
入院治療:ペニシリン系あるいはセフェム系注射薬
ICU治療:カルバペネム系+ニューキノロン系、マクロライド系
緑膿菌などの耐性菌が原因のときは第3、4世代セフェムやカルバペネム系
非定型肺炎の場合はマクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系
市中肺炎の重症度分類
A-DROPシステム①A(Age):男性70歳以上、女性75歳以上②D(Dehydretion):BUN21mg/dl以上または脱水あり③R(Respiration):SpO2 90%以下(PaO2 60Torr以下)
④O(Orientation):意識障害⑤P(pressure):血圧(収縮期)90mmHg以下
該当項目0:軽症→外来治療1~2:中等症→外来or入院治療3:重症→入院治療4~5:超重症(ショックがあれば1項目のみでも超重症)→ICU
成人市中肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会;2007
院内肺炎
・誤嚥性肺炎、人工呼吸器関連肺炎(VAP)が主。
・VAPの予防には気管挿管の回避、口腔ケア、誤嚥による被害の最小化が大切。
・耐性菌リスクを評価することが重要。
・治療 I-RORDでB群以上で耐性菌リスクあり→広域抗菌薬を使用
A群:一般細菌対象の抗菌薬
B群:カルバペネム系やそれに準じた高用量ペニシリン系が推奨
C群:B群抗菌薬+アミノグリコシド系、ニューキノロン系
・MRSAは単なる保菌の可能性もあり、別枠で項目を設定してある。
院内肺炎の重症度分類
1.生命予後予測因子(I-ROADシステム)①I(immunodeficiency):悪性腫瘍または免疫不全状態②R(Respiration):SpO2>90%を維持するためにFiO2>35%を要する③O(Orientation):意識障害④A(Age):男性70歳以上、女性75歳以上⑤D(Dehydratuion):乏尿または脱水
該当項目2以下の場合(2.肺炎重症度因子) 該当項目3以上の場合①CRP≧20mg/dl
②胸部X線像で陰影の広がりが一側肺の2/3以上
該当なし→軽症(A群) 1項目以上→中等症(B群) 重症(C群)
3.MRSAリスクの評価下記のいずれかに該当する場合、抗MRSA薬の使用を考慮する①長期(2週間程度)の抗菌薬投与②長期入院の既往③MRSA感染や定着の既往
成人院内肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会;2008
医療・介護関連肺炎
• 高齢化に伴いCAPとHAPの2分法では当てはまらない
その中間に位置する肺炎群。
• 高齢者では誤嚥性肺炎が多い。
• 重症度の評価はA-DROPに準ずる。
• 全身状態によっては倫理面を考慮。
誤嚥性肺炎について
・誤嚥性肺炎以下の2つに大別される。
術後の併存症としての肺炎
フレイル高齢者の(不顕性)誤嚥による肺炎
・夜間の誤嚥の有無が参考になる。
・原因菌:肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、黄色ブドウ球菌、
嫌気性菌、歯周病菌など
・治療:嫌気性菌の混合感染を考慮し、βラクタマーゼ阻害薬配合
ペニシリンが基本。治療中も誤嚥を繰り返すため、嚥下リハ
ビリテーションや口腔ケアが必須。
・フレイルが原因の場合、抗菌薬を使用しても予後が改善しない
ことがある。
誤嚥性肺炎
【重症度の評価】敗血症があれば重症(qSOFA)
HAP:I-ROAD中等症以上NHCAP:A-DROPで重症以上
【耐性菌リスク】以下のうち2項目を満たす①過去90日以内の経静脈的抗菌薬の使用歴②過去90日以内に2日以上の入院歴③免疫抑制状態④活動性の低下
「肺炎診療ガイドライン2017」フローチャート(日本呼吸器学会)
耐性菌について
耐性菌のリスク因子と肺炎重症化のリスク因子は同じではない!
三嶋理晃,藤田次郎.呼吸器感染症.中山書店;2017,p288
耐性菌について・CAP-DRP(CAP drug-resistant pathogen):以下の全てに耐性となる菌
・非抗緑膿菌β-ラクタム系抗菌薬
・マクロライド系抗菌薬
・レスピラトリーキノロン系抗菌薬
・代表的なCAP-DRPsに緑膿菌、MRSA、ESBL産生腸内細菌がある。
・市中発症肺炎におけるCAP-DRPリスク因子
①過去90日以内の経静脈的抗菌薬の使用歴
②過去90日以内に2日以上の入院歴
③免疫抑制状態
④活動性の低下(自力歩行困難)
⑤制酸薬(H2ブロッカー、PPI)の使用
⑥経管栄養
・さらにMRSAに特異的なリスク因子として以下の3つがある。
①30日以内の維持透析歴、②うっ血性心不全、③過去90日以内のMRSA検出歴
Shindo Y,et al.Am J Respir Crit Care Med 2013;188:985-95
抗菌薬の治療効果判定について
• まずは速やかに適切な抗菌薬を開始する(4~6時間以内)。
• 最初の治療効果判定は3日後(重症例は2日後)に行い、
治療継続または抗菌薬変更(点滴から経口への変更、
抗菌薬の種類を変更など)を検討する。
→評価項目:発熱、症状、白血球
• その後は5~7日後を目安に再判定を行い、治療終了または
継続、抗菌薬変更を検討する。
→評価項目:発熱、症状、白血球、CRP、胸部Xp
成人市中肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会;2007
抗菌薬中止のタイミング
①解熱(目安:37℃以下)
②白血球数増加の改善(目安:正常化)
③CRP値の改善(目安:最高値の30%以下へ低下)
④胸部X線の明らかな改善
基礎疾患がない場合:4項目中3項目以上を満たした場合
基礎疾患がある場合: 4項目中3項目以上を満たした4日後
成人市中肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会;2007
ウイルス性肺炎
• 呼吸器ウイルス:インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルスなど
• 全身性ウイルス:CMV、EBV、HSV、VZV、麻疹ウイルス、風疹ウイルスなど
サイトメガロウイルス肺炎
• 免疫能低下患者(免疫抑制薬使用、悪性腫瘍、HIV感染など)に好発
• 感染経路:経胎盤、産道、母乳、唾液、輸血、性交など
• 症状:発熱、呼吸困難、乾性咳嗽など
• 画像:胸部X線像で両肺野すりガラス様陰影
• 喀痰細胞診、肺生検:核内封入体を有する巨細胞(owl`s eye)
• 診断:PCR法でDNA検出、BALFからのウイルス分離など
• 治療:抗ウイルス薬(ガンシクロビルなど)
インフルエンザ• 特徴:冬~春の流行期に突然の発熱(38℃以上)、倦怠感、頭痛、
筋肉痛・関節痛(特にA型)、下痢(特にB型)などの症状。
高齢者や免疫不全などのハイリスク患者では肺炎の合併などで
重症化することがある。
• 診断:鼻腔拭い液や咽頭拭い液で迅速キットを用いる。
• 治療:解熱鎮痛薬→アセトアミノフェンを使用する。
小児ではインフルエンザ脳症を発症することがあり、
特にNSAIDsが誘因となるReye症候群は予後不良である。
抗インフルエンザウイルス薬を投与(発症48時間以内に)
第一選択:ノイラミニダーゼ阻害薬
オセルタミビル(商品名:タミフル)経口:10代の未成年には原則禁忌
ザナミビル(商品名:リレンザ):吸入
ペラミビル(商品名:ラピアクタ):静脈注射
ラニナミビル(商品名:イナビル):吸入
第二選択:M2蛋白阻害薬
塩酸アマンタジン(商品名:シンメトレル):A型にのみ有効。耐性ウイルス↑
肺真菌症肺アスペルギルス症侵襲性肺アスペルギルス症
・免疫低下の易感染性宿主に日和見感染として発症
・症状:発熱、咳嗽、血痰
・画像:胸部CT像でhalo signやair crescent sign
・血清検査:β-D-グルカン↑、ガラクトマンナン抗原+
・診断:喀痰、BALF検体などからの真菌培養検査あるいは病理検査でアスペルギルスの証明
・治療:抗真菌薬
慢性肺アスペルギルス症
・肺アスペルギローマ
・既存の空洞病変に感染
・症状:無症状、あるいは発熱、咳嗽、喀血、血痰など
・画像:胸部X線像でfungus ball、meniscus sign、空洞壁や胸膜肥厚
・血清検査:抗アスペルギルス沈降抗体+
・診断:喀痰、BALF検体などからの真菌培養検査あるいは病理検査でアスペルギルスの証明
・治療:外科的切除
・慢性壊死性肺アスペルギルス症
・アスペルギローマ、免疫能低下を背景に空洞拡大、浸潤影の増悪などが見られる
・治療:抗真菌薬
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
肺アスペルギローマ
肺真菌症
肺クリプトコックス症
•原発性(健常者に発症)と続発性(免疫能低下患者に発症)がある。
•症状:発熱、咳嗽など
•画像:胸部X線像で結節影、空洞形成、浸潤影など
•血清検査:グルクロノキシロマンナン抗原+
•合併症:脳炎、髄膜炎の合併に注意
•治療:抗真菌薬
ニューモシスチス肺炎
•AIDS患者など免疫能低下患者に合併する日和見感染症
•症状:急な発熱、乾性咳嗽、呼吸困難など
•検査:LDH↑、KL-6↑、β-D-グルカン↑↑、PaO2↓
•画像:胸部X線像、CT像でびまん性すりガラス様陰影
•診断:喀痰、BALF、TBLB検体などからのP.jirovecci菌体検出
•治療:抗菌薬(ST合剤)、ペンタミジン、ステロイドなど
カリニ肺炎
抗酸菌感染症
肺結核を疑うポイント
・症状:2週間以上続く咳、痰などの呼吸器症状
発熱、倦怠感、体重減少、食欲不振など
・健診で胸部X線検査で異常を指摘
・結核の既往、再燃のリスクがある
(AIDS、免疫抑制剤の使用、透析、糖尿病、悪性腫瘍など)
抗酸菌感染症
• 検査の基本は喀痰検査!①~③
痰が取れない場合は胃液検査、気管支鏡検査(BAL、肺生検)を行う。
①喀痰抗酸菌塗抹検査(基本は3日連続で3回の3連痰)
②喀痰抗酸菌培養検査:数週間かかるが感受性結果が得られる。
③喀痰抗酸菌遺伝子検査(PCRなど)。
• 補助的にインターフェロンγ遊離試験(QFN、T-スポット)を行う。
BCG接種歴の影響は受けないが、既感染でも陽性となることがあり注意。
診断の流れ喀痰の抗酸菌染色が陽性※
患者にサージカルマスクを装着してもらい、陰圧個室管理
結核菌のPCR法が陽性 結核菌のPCR法が陰性かつMACのPCR法が陽性
結核菌とMACのPCR法が陰性
陰圧個室管理の継続 陰圧個室管理の解除
結核として治療 非結核性抗酸菌症の疑いとして検査を進め、非結核性抗酸菌症の診断基準に合致すれば治療開始を考慮
※既に非結核性抗酸菌症と診断されており、新たな病変の出現がなく、喀痰中から繰り返し非結核性抗酸菌症が分離されている場合は、塗抹陽性となった抗酸菌を非結核性抗酸菌と考える。
肺結核
• 感染様式:飛沫核によるヒトからヒトへの空気感染
• 患者はサージカルマスク、医療者はN95マスクを使用する。
• 基本的に喀痰塗抹が陽性の結核は入院が必要
• 2類感染症であり、診断がついたら直ちに保健所へ届け出る。
• 初感染の一次結核と、既感染発病の二次結核がある。
• 肺病変の好発部位はS1、S2、S6
• 胸部X線像にて肺門リンパ節腫脹、肺野結節影、空洞病変などを認める。
• 結核菌が血行性に全身に播種する粟粒結核では、両肺野にびまん性
小結節の散布像を認める。
• 胸部CT像にてtree in bud appearanceを認める。
• 治療はINH、RFP、PZA、SMまたはEBなどを用いた多剤併用療法を行う。
• 抗結核薬の副作用に注意。
肺結核
非結核性抗酸菌症
• ヒトーヒト感染はしない。
• 診断には異なる喀痰検体の培養で2回以上陽性であることが必要。
• 原因菌の約70-80%はMAC(Mycobacterium avium complex)、
約20%がM.cansasiiである。MACにはM.aviumとM.intracellulareが
含まれ、これらによる疾患をMAC症と総称する。
• MAC症には中葉舌区型(最多)、空洞形成型、全身播種型がある。
• MAC症の治療は抗結核薬+CAM。菌陰性化後も1年間続ける。
(しかしこれらは効きにくく、難治化しやすい。)
• M.cansasii症は抗結核薬が有効で予後は良好。
MAC症(M.intracellulare)
まとめ
• 発症場所による分類で患者背景、原因菌、使用すべき
抗菌薬群が推定できる。
• 常に結核の可能性を考えておく。
• 治療の際は耐性菌もしくは耐性化のリスクを考慮する。
• 場合によっては個人の意志やQOLを重視。
• 重症化しやすい疾患を見逃さないこと。
• 呼吸器症状があっても呼吸器以外の疾患であったり、
呼吸器症状はなくても呼吸器疾患のこともあり注意が必要。