14
iii 目  TEXT1 マネー・ローンダリング対策 マネー・ローンダリング対策の概要と最近の動向 1 第1節 マネー・ローンダリングとは何か? 2 1 マネー・ローンダリングの定義 2 2 マネー・ローンダリングによる悪影響と対策 3 3 マネー・ローンダリング対策の概要 3 第2節 マネー・ローンダリング対策の経緯と最近の動向 6 1 第3次 FATF 対日相互審査の結果 6 2 平成23(2011)年犯罪収益移転防止法の改正(平成25(2013)年4月施行) 11 マネー・ローンダリング対策に関する法制度と実務対応 2 第1節 犯罪収益移転防止法の概要 14 1 犯罪収益移転防止法の目的 14 2 犯罪収益移転防止法の成立の経緯 14 3 犯罪収益移転防止法の改正点の概要 18 4 犯罪収益移転防止法で課されている主な5つの義務 20 第2節 犯罪収益移転防止法で求められる実務対応 21 1 取引時確認に関する規定 21 2 取引時確認を的確に行うための措置の構築 43 3 金融庁ガイドラインの記載内容 47 4 改正監督指針・検査マニュアル・金融検査事例集の内容 52 5 疑わしい取引の届出制度 56

目 次マネー・ローンダリング(Money Laundering:資金洗浄)とは、違法な行為による収益の 出所を隠すことです。たとえば、麻薬密売人が麻薬密売代金を偽名で開設した金融機関の

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Page 1: 目 次マネー・ローンダリング(Money Laundering:資金洗浄)とは、違法な行為による収益の 出所を隠すことです。たとえば、麻薬密売人が麻薬密売代金を偽名で開設した金融機関の

iii

目  次

▶TEXT1 マネー・ローンダリング対策

マネー・ローンダリング対策の概要と最近の動向第 章1第 1節 マネー・ローンダリングとは何か? 2

1 マネー・ローンダリングの定義 2

2 マネー・ローンダリングによる悪影響と対策 3

3 マネー・ローンダリング対策の概要 3

第 2節 マネー・ローンダリング対策の経緯と最近の動向 6

1 第3次 FATF 対日相互審査の結果 6

2  平成 23(2011)年犯罪収益移転防止法の改正(平成 25(2013)年4月施行)

11

マネー・ローンダリング対策に関する法制度と実務対応第 章2第 1節 犯罪収益移転防止法の概要 14

1 犯罪収益移転防止法の目的 14

2 犯罪収益移転防止法の成立の経緯 14

3 犯罪収益移転防止法の改正点の概要 18

4 犯罪収益移転防止法で課されている主な5つの義務 20

第 2節 犯罪収益移転防止法で求められる実務対応 21

1 取引時確認に関する規定 21

2 取引時確認を的確に行うための措置の構築 43

3 金融庁ガイドラインの記載内容 47

4 改正監督指針・検査マニュアル・金融検査事例集の内容 52

5 疑わしい取引の届出制度 56

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第3節 外為法と犯収法で求められるマネー・ローンダリング対策 60

1 犯罪収益移転防止法と 「外国為替及び外国貿易法」 の関係、違いについて 60

2  マネー・ローンダリング防止に係る外為法および犯収法の重要条文等に

ついて 62

3 経済制裁措置と外為法 17 条 「適法性の確認義務」 について 67

4 犯収法上の外為業務に係る重要条文について 73

5 外国為替業務に関連する銀行等の報告義務について 76

6 外国為替検査マニュアルについて 78

7 外為業務 「窓口受付事務」 の事例研究 80

マネー・ローンダリング防止態勢(コンプライアンス・プログラム)の構築第 章3第 1節 金融機関における法令等遵守態勢の整備・確立の重要性 90

1 コンプライアンス・プログラムとは 90

第 2節 金融検査マニュアルにおけるコンプライアンス・プログラム 91

1 取引時確認に係るもの 91

2 疑わしい取引に係るもの 93

3 コンプライアンス・プログラムの見直し 95

マネー・ローンダリング&反社会的勢力対策強化コース

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マネー・ローンダリング対策に関する今後の動向第 章4第 1節 G8ロック・アーン・サミットにおけるコミットメント 98

1 法人及び法的取極めの悪用を防止するためのG8行動計画原則 98

2 わが国における行動計画 99

第 2節 マネー・ローンダリング対策等に関する懇談会の開催 101

1  マネー・ローンダリング対策等に関する懇談会において議論された

主な論点 101

2 リスクベース・アプローチと NRA(National Risk Assesment) 103

3 マネー・ローンダリング対策等に関する懇談会報告書のその他の論点 110

●参考資料① 外国為替検査マニュアル(チェックリスト) 128

② 外国通貨又は旅行小切手の売買に係る疑わしい取引の参考事例 143

③ 外国送金を行う方々へ 145

④ 「外国送金依頼書兼告知書」 の例 146

⑤ 「本人確認書兼取引時確認書(個人)」 の例 148

⑥ 「本人確認書兼取引時確認書(法人)」 の例 150

⑦ 「FATCA チェック票(法人用)」 の例 152

⑧ 「FATCA プレ判定(法人用)」 の例 153

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執筆者一覧(五十音順・敬称略)

國吉 雅男(くによし まさお)  :弁護士法人中央総合法律事務所 弁護士中村 健三(なかむら けんぞう) :弁護士法人中央総合法律事務所 弁護士古川 純平(ふるかわ じゅんぺい):弁護士法人中央総合法律事務所 弁護士山﨑 千春(やまざき ちはる)  :有限責任 あずさ監査法人 マネージング・ディレ‌‌ クター両部 美勝(りょうべ よしかつ) :静岡中央銀行

制作にあたり、地方銀行各行にご協力いただきました。

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1

マネー・ローンダリング対策の概要と最近の動向

第 章1

マネロン1_�ック.indb 1 14/09/30 11:12

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第 1章 マネー・ローンダリング対策の概要と最近の動向

2

 マネー・ローンダリング(Money Laundering:資金洗浄)とは、違法な行為による収益の

出所を隠すことです。たとえば、麻薬密売人が麻薬密売代金を偽名で開設した金融機関の

預貯金口座に隠匿したり、詐欺や横領の犯人が騙し取ったり、不法領得したお金をいくつ

もの預貯金口座に転々と移動させて、その出所をわからなくするような行為を言います。

 こうしたマネー・ローンダリングを行うことにより、本来、犯罪収益として表の世界(合

法的な経済活動の舞台)に出せないようなお金を表の世界で堂々と使えることが可能とな

ります。

マネー・ローンダリングとは何か?1マネー・ローンダリングの定義1

図表1-1-1 マネー・ローンダリングの概要

BANK

表の世界で堂々と使えるお金ヘ

マネー・ローンダリングの例

犯罪資金にも…

賭博 振り込め詐欺 売春

きれいなお金

売却代金 犯罪収益

不動産 預貯金

転売

購入

送金

汚れたお金

表に出せないようなお金を

(出所)JAFIC「マネー・ローンダリング対策等に関する懇談会 (平成 22 (2010) 年 7 月) 報告」より抜粋、作成(http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/kondankai/kondankai.htm)

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第1節 マネー・ローンダリングとは何か?

3

マネー・ローンダリングによる悪影響と対策2

 マネー・ローンダリングを放置すると、犯罪収益が将来の犯罪活動に再び利用されたり、

犯罪組織がその資金をもとに合法的な経済活動に介入し、健全な経済活動に重大な悪影響

を及ぼすおそれがあります。そのため、マネー・ローンダリング対策は、犯罪対策上の観

点のみならず、経済活動の健全な発展の観点からも重要な課題となっています。

 特に近年は、合法的な経済活動のほか、犯罪や犯罪収益についても容易に国境を越え、

移動するなどクロスボーダー化が進展しています。そのため、一国のみが規制を強化して

も、規制の緩い国へと犯罪収益は流れていってしまうため、マネー・ローンダリング対策

を実効的に行うためには、国際的な協調が不可欠となっています。この点については、本

章第2節「マネー・ローンダリング対策の経緯と最近の動向」を参照してください。

マネー・ローンダリング対策の概要3

 暴力団、テロ組織その他の犯罪組織は、経済的利益を不正な目的や手段で獲得し、国民

生活の安全と平穏を脅かすほか、マネー・ローンダリングによりその収益を移転させて仮

装・隠匿することで将来の犯罪活動や経済活動の資金源にしようとします。

 このように、犯罪による収益は、組織的な犯罪を助長するために使用されるとともに、

移転して事業活動に用いられることにより健全な経済活動に重大な悪影響を与えます。

 犯罪による収益の多くは被害者や市場参加者から不当に奪ったものですので、捜査当局

による捜査によって特定したうえで、没収、追徴その他の手続きにより剥奪し、または犯

罪による被害の回復にあてる必要があります。

 しかし、犯罪による収益が移転した場合には、剥奪や被害回復にあてることが困難にな

りますので、これを防止することが必要です。

マネロン1_�ック.indb 3 14/09/30 11:12

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第 1章 マネー・ローンダリング対策の概要と最近の動向

4

 このようなマネー・ローンダリングによる犯罪収益の移転を防止するためには、①マ

ネー・ローンダリング等に利用されるおそれのある事業者(特定事業者)が適正な顧客管理

措置を講じることにより、そのリスクを抑制するとともに、②マネー・ローンダリング等

の犯罪が行われた場合には資金の追跡を可能とし、それらの犯罪の実態解明や検挙に資す

る仕組みを構築することが有益です。

 そのため、わが国の犯罪収益移転防止法(以下、「犯収法」)では、特定事業者について、

次のように規定されています。

①� 顧客管理措置として、一定の取引を行う際に顧客等の本人特定事項等を確認すると

ともに(取引時確認の実施)、当該取引に係る記録等を保存しなければならない(確

認記録・取引記録の保存)。

②� 業務において収受した財産が、犯罪による収益である疑いがある場合等には、所管

行政庁に届け出なければならない(疑わしい取引の届出の実施)。

図表1-1-2 マネー・ローンダリング対策と犯罪収益移転防止法

マネー・ローンダリング(犯罪収益の出所や帰属を隠そうとする行為)

強盗

振り込め詐欺

訴追・没収へ

犯罪収益 特定事業者(銀行、宅建業等)

訴追・没収を免れる

犯罪に使われる恐れ

○取引時確認○確認記録・取引記録保存○疑わしい取引の届出

追加可能性確保

犯罪収益移転防止法

(出所)JAFIC「マネー・ローンダリング対策等に関する懇談会 (平成 26 (2014) 年 7 月) 報告」より抜粋、作成(http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/kondankai/kondankai.htm)

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第1節 マネー・ローンダリングとは何か?

5

図表1-1-3 犯収法上の義務づけ

犯罪収益移転防止法

取引時確認(4 条) 確認記録・取引記録の 作成・保存(6 ・7 条)

疑わしい取引の届出(8 条)

特定事業者の主な義務

間接的な義務

特定事業者

自らの義務の履行のため、顧客に取引時確認事項の申告を求める

顧 客

顧客は取引時確認に係る事項を偽ってはならず、本人特定事項を偽った場合は罰則

(出所)JAFIC「マネー・ローンダリング対策等に関する懇談会 (平成 26 (2014) 年 7 月) 報告」より抜粋、作成(http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/kondankai/kondankai.htm)

図表1-1-4 疑わしい取引の届出について

特定事業者

特定業務において収受した財産が

犯罪による収益

である疑い

認められた場合

届 出

所管行政庁

通 知国家公安委員会・警察庁(FIU)

行っている疑い

顧客が特定業務に関し

犯罪による収益の隠匿罪に該当する行為

組織的犯罪処罰法第 10 条の罪に

あたる行為

麻薬特例法第6条の罪

にあたる行為

(出所)JAFIC「マネー・ローンダリング対策等に関する懇談会 (平成 26 (2014) 年 7 月) 報告」より抜粋、作成(http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/kondankai/kondankai.htm)

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第 1章 マネー・ローンダリング対策の概要と最近の動向

6

FATF の概要と活動内容1 FATF(Financial Action Task Force on Money Laundering:金融活動作業部会)は、平

成元(1989)年のアルシュ・サミット経済宣言により設立された政府間会合です。当初はマ

ネー・ローンダリング対策に係る国際的な協調指導、協力推進などの役割を担ってきまし

たが、平成 13(2001)年9月 11 日の米国同時多発テロ事件後の同年 10 月には、その任務

に、マネー・ローンダリング対策のほか、テロ資金供与対策も加わりました。

マネー・ローンダリング対策の経緯と最近の動向2第3次 FATF対日相互審査の結果1

図表1-2-1 FATFの概要

第 3次 FATF 勧告

FATF とは、マネー・ローンダリング対策およびテ口資金供与対策に関する国際協力を推進するために設置されている政府間会合平成 26(2014)年3月末現在、日本を含む 34 の国・地域および 2 の国際機関が参加 主な活動内容は、○マネー・ローンダリング対策およびテ口資金供与対策に関する国際基準(FATF 勧告) の策定および見直し○ FATF 参加国・地域相互間における FATF 勧告の遵守状況の監視(相互審査)   等

平成 15(2003) 年 第 3 次 FATF 勧告の採択平成 16(2004) 年 9 の特別勧告を採択平成 19(2007) 年第 3 次対日相互審査→ 日本はフォローアップの対象にFATF の主な指摘事項:顧客管理・テロ資産凍結

第 4次 FATF 勧告

平成 24(2012) 年 第 3 次 FATF 勧告・特別勧告を一本化し、第 4 次FATF 勧告を採択

FATFとは

(出所)JAFIC「マネー・ローンダリング対策等に関する懇談会 (平成 26 (2014) 年 7 月) 報告」より抜粋、作成(http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/kondankai/kondankai.htm)

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第2 節 マネー・ローンダリング対策の経緯と最近の動向

7

 FATF には、平成 26(2014)年3月現在、OECD 加盟国を中心に 34 の国・地域と 2 つの

国際機関(欧州委員会・湾岸協力会議)が加盟しています。

 FATF の主な活動内容は、次のとおりです。

①� マネー・ローンダリング対策およびテロ資金供与対策に関する国際基準(FATF 勧

告)の策定および見直し

② FATF 参加国・地域相互間における FATF 勧告の遵守状況の監視(相互審査)

③ 国際的なマネー・ローンダリング対策およびテロ資金供与対策の拡大・向上

④� マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与の手口および傾向に関する調査、分析 

 「総会」に相当する FATF 全体会合は、通常年 3 回(2 月、6 月、10 月)開催され、FATF

勧告の遵守に関する相互審査、今後の政策方針の策定等の重要審議および採択等が行われ

ています。

FATF によるマネー・ローンダリング対策2 FATF は、平成2(1990)年に、国際的なマネー・ローンダリング規制の検討結果を取り

まとめ、各国が取るべき措置を「40 の勧告」として公表しました。この 40 の勧告は、各国

に対し、国連麻薬新条約(麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約)の早

期批准を求めたうえで、同条約と共通するマネー・ローンダリングの犯罪化、薬物犯罪収

益の剥奪等に関する法整備のほか、金融機関による本人確認、取引記録の保存および疑わ

しい取引の報告(Suspicious Activity Report:SAR)を求める内容でした。

 FATF は、平成 8(1996)年に、上記「40 の勧告」を改訂し、マネー・ローンダリングとし

て捉えるべき収益の前提となる犯罪の範囲を薬物犯罪からそれ以外の重大な犯罪に拡大す

べきとしました。さらに、平成 15(2003)年には、金融機関以外の不動産業者等一定範囲

の事業者や職業専門家(カジノ、不動産業者、貴金属商、宝石商、弁護士、公証人その他

の法律専門家、会計士、トラスト・アンド・カンパニー、サービスプロバイダ等)に対して

顧客管理措置等の措置を求めました。そして、金融機関による措置の基準をより詳細なも

のとし、また、疑わしい取引についてはそれが完結しない場合にも届出を求めるなど、全

般的に従来の勧告の見直しを行いました(第 3 次 FATF 勧告の採択)。

 前述のとおり、米国同時多発テロ事件後の平成 13(2001)年 10 月には、FATF の任務に、

テロ資金供与対策も加わり、各国が準拠すべき事項が「テロ資金供与に関する FATF 特別

勧告」として取りまとめられました。

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第 1章 マネー・ローンダリング対策の概要と最近の動向

8

 この特別勧告は、FATF 参加国に対し、テロ資金供与防止条約等の早期批准を促したう

えで、金融機関の本人確認をはじめ同条約が定める措置の実施のほか、金融機関による送

金人情報の付記や非営利法人を利用するテロ資金供与への警戒措置等を求めました。そし

て、平成 16(2004)年には、現金その他の支払手段を携帯して運搬する行為(キャッシュ・

クーリエ)を監視・捕捉するための措置として新たに項目が追加されました。

わが国のマネー・ローンダリング対策3 わが国政府は、マネー・ローンダリング対策に関する FATF 勧告の完全実施に向けて、

国家公安委員会・警察庁が関係省庁の協力を得て法案の作成に着手し、平成 19(2007)年 2

月に、その成案が「犯罪による収益の移転防止に関する法律案」(いわゆる「犯罪収益移転

防止法」)として閣議決定し、国会に提出されました。その後、同法案は同年 3 月に可決成

立し、公布されました。また、FIU(Financial Intelligence Unit)の移管に相当する規定(金

融庁→国家公安委員会・警察庁)が平成 19(2007)年 4 月 1 日に施行され、その他の規定は

平成 20(2008)年 3 月 1 日より施行されました。

 FATF による日本の第 3 次相互審査については、平成 20(2008)年 3 月から実施され、

その結果については、平成 20(2008)年 10 月開催の FATF 全体会合で公表されました。

結果としては、遵守すべき 49 の勧告のうち肯定的評価を受けたのは 23 項目(「履行:

Compliant(C)」が4項目、「概ね履行:Largely Compliant(LC)」が 19 項目) と全体の半数

以下にとどまる等、非常に厳しい評価を受けました(10 ページの〈図表 1-2-3〉参照)。

 そのため、 わが国は、 「不履行:Not Compliant(NC)」または「一部履行:Partly Compliant

(PC)」とされた勧告について、FATF からフォローアップを求められることとなりました

(「第 3 次相互審査フォローアップ手続きの概要」については 11 ページの、〈図表1-2-4〉

を参照)。

 そこで、11 ページ以降で解説するように、有識者懇談会が設置され、懇談会の検討結果

を踏まえ、犯収法の改正により対応することとなりました。

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第2 節 マネー・ローンダリング対策の経緯と最近の動向

9

図表1-2-2 マネー・ローンダリング対策の経緯

国際的な動き 日本国内の動き

昭和 63年 12 月

平成 元年 7月

平成 2年 4月

平成 6年 6月

平成 7年 6月

平成 8年 6月

平成 10 年 5月

平成 11 年 12 月

平成 13 年 9月

平成 13 年 10 月

平成 15 年 6月

平成 16 年 10 月

平成 20 年 10 月

平成 24 年 2月

平成 25 年 6月

平成 2年 6月 大蔵省から各金融団体宛に通達を発出 (金融機関等による顧客等の本人確認等実施の要請)平成 4年 7月 麻薬特例法の施行 (薬物犯罪に関するマネー・ローンダリングの  犯罪化、疑わしい取引の届出制度の創設)

平成 12年 2月 組織的犯罪処罰法の施行  (前提犯罪を重大犯罪に拡大、日本版 FIU を金融監督庁に設置等)平成 14年 7月 テロ資金供与処罰法・改正組織的犯罪処罰法の施行 (前提犯罪にテロ資金供与・収集罪を追加等)平成 15年 1月 金融機関等本人確認法の施行 (金融機関等による顧客等の本人確認義務の法定化)平成 16年 12月 改正金融機関等本人確認法の施行 (預貯金通帳の不正譲渡等の罰則化)平成 16年 12月 国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部 (「テロの未然防止に関する行動計画」を決定)平成 17年 11月 国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部 (「FATF 勧告実施のための法律の整備」を決定)平成 19年 3月 犯罪収益移転防止法の成立平成 19年 4月 犯罪収益移転防止法の一部施行 (FIU の移管(金融庁→国家公安委員会・警察庁))平成 20年 3月 犯罪収益移転防止法の全面施行 (非金融業者等に対する本人確認義務等の施行)平成 23年 4月 改正犯罪収益移転防止法の成立 (取引時の確認事項の追加、特定事業者への追加、 取引時確認等を的確に行うための措置の追加、 預貯金通帳の不正譲渡等に係る罰則の強化)平成 23年 5月 改正犯罪収益移転防止法の一部施行 (預貯金通帳の不正譲渡等に係る罰則の強化)平成 25年 4月 改正犯罪収益移転防止法の全面施行 (取引時の確認事項の追加、取引時確認等を的確 に行うための措置の追加、特定事業者の追加)平成 25年 6月 日本行動計画を公表

アルシュ・サミット(FATF 設置を採択)FATF「40 の勧告」を策定 ○ 金融機関による顧客の本人確認 ○ 疑わしい取引の金融規制当局への報告

FATF「40 の勧告」を一部改訂 ○ 前提犯罪を重大犯罪に拡大することを義  務づけ

FATF「8 の特別勧告」を策定 ○ テロ資金供与の犯罪化、テロ関係の疑  わしい取引の届出の義務づけ等

FATF「40 の勧告」を再改訂 ○ 非金融業者(不動産業者、貴金属商、  宝石商等) ・職業的専門家(弁護士、会  計士等)への勧告の適用

FATF「8 の特別勧告」を「9 の特別勧告」に改訂 ○ 国境を越える資金の物理的移転を防止す  るための措置に関する項目の追加

FATF 第 3 次対日相互審査の結果公表 ○ 顧客管理に関する勧告 5 他 9 項目につ  いて、「不履行(NC)」との評価を受ける

FATF「40 の勧告」「9 の特別勧告」を改訂 ○ 「40 の勧告」および「9 の特別勧告」を  一本化、新「40 の勧告」に改訂

ロック・アーン・サミット(C8 行動計画原則を合意)

第1次 FATF 対日相互審査 ○ 前提犯罪が薬物犯罪に限定されているこ  とに対する指摘ハリファクス・サミット

(前提犯罪を重大犯罪に拡大する必要性を確認)

バーミンガム・サミット(FIU の設置について合意)テロ資金供与防止条約の採択(テロ資金提供・収集行為の犯罪化を義務づけ)米国における同時多発テロの発生

麻薬新条約の採択(薬物犯罪収益に関するマネー・ローンダリングの犯罪化を義務づけ)

(出所)JAFIC「マネー・ローンダリング対策の沿革」より抜粋、作成(http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/maneron/manetop.htm)

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無断複製・転用等を禁じます。落丁・乱丁本はお取替えします。 14−10−01

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