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野木幹男:エフェクターを使いこなす! DAW ソフト全盛時代になって大きく様変わりしたのがエフェクターまわり。手軽に多くの種類のエフェクター を使えるようになり、そのルーティンも自由自在に設定できるようになりました。ただフレキシビリティが高く なった分、使いこなすのは難しくなったと言うこともできます。複数のエフェクターをかけ合わせるにしても、 どんなエフェクターをどんな順番でかけるか、どんな音源に、どのようなプロセスでかけるのかといったことに よって、その効果は大きく異なります。1 つ 1 つのエフェクト効果やパラメーターに習熟すると同時に、その組 み合わせやかけ方に関しても詳しく考察していきましょう。 第 5 回:コーラス/フランジャー/フェイザー (2009 年 1 月 14 日) 今回はエフェクトとしてはリバーブやディレイに次いで使用する機会が多く、サウンドにふくよかさを与えるコーラスを 取り上げましょう。また、サウンドは少し異なりますが仕組みとしてはよく似ているフランジャーやフェイザーについて も同時に解説していくことにしましょう。 ●コーラス/フランジャー/フェイザーの原理 まず、コーラス(fig.1)の原理を簡単に説明しておきま しょう。コーラスの構造は基本的にはショート・ディ レイとほぼ同じだと考えていいでしょう(fig.2)。ディ レイと同じように原音とディレイ音をミックスしてサ ウンドを作りますが、コーラスの場合は通常この割合 が 50:50 です。また、数 10msec という短めのデ ィレイ・タイムが一定の周期でわずかに変化している 点も異なります(fig.3)。 fig.1 コーラス/フランジャーの例 fig.2 コーラス/フランジャーの原理 fig.3 ディレイ・タイムが一定の幅で周期的に変化

第5回:コーラス/フランジャー/フェイザー野木幹男:エフェクターを使いこなす! DAWソフト全盛時代になって大きく様変わりしたのがエフェクターまわり。手軽に多くの種類のエフェクター

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Page 1: 第5回:コーラス/フランジャー/フェイザー野木幹男:エフェクターを使いこなす! DAWソフト全盛時代になって大きく様変わりしたのがエフェクターまわり。手軽に多くの種類のエフェクター

野木幹男:エフェクターを使いこなす! DAW ソフト全盛時代になって大きく様変わりしたのがエフェクターまわり。手軽に多くの種類のエフェクター

を使えるようになり、そのルーティンも自由自在に設定できるようになりました。ただフレキシビリティが高く

なった分、使いこなすのは難しくなったと言うこともできます。複数のエフェクターをかけ合わせるにしても、

どんなエフェクターをどんな順番でかけるか、どんな音源に、どのようなプロセスでかけるのかといったことに

よって、その効果は大きく異なります。1 つ 1 つのエフェクト効果やパラメーターに習熟すると同時に、その組

み合わせやかけ方に関しても詳しく考察していきましょう。

第 5 回:コーラス/フランジャー/フェイザー (2009 年 1 月 14 日)

今回はエフェクトとしてはリバーブやディレイに次いで使用する機会が多く、サウンドにふくよかさを与えるコーラスを

取り上げましょう。また、サウンドは少し異なりますが仕組みとしてはよく似ているフランジャーやフェイザーについて

も同時に解説していくことにしましょう。

●コーラス/フランジャー/フェイザーの原理

まず、コーラス(fig.1)の原理を簡単に説明しておきま

しょう。コーラスの構造は基本的にはショート・ディ

レイとほぼ同じだと考えていいでしょう(fig.2)。ディ

レイと同じように原音とディレイ音をミックスしてサ

ウンドを作りますが、コーラスの場合は通常この割合

が 50:50 です。また、数 10msec という短めのデ

ィレイ・タイムが一定の周期でわずかに変化している

点も異なります(fig.3)。

fig.1 コーラス/フランジャーの例

fig.2 コーラス/フランジャーの原理

fig.3 ディレイ・タイムが一定の幅で周期的に変化

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このようにディレイ音のディレイ・タイムを周期的に変化させるとドップラー効果のような音程変化が生じます。これを

原音に加えることによってサウンドがいくつか重ねられたような“コーラス”効果が生まれるのです。ちなみにディレイ

音単体で使った場合はピッチが一定の周期でうねるビブラート効果を得ることができます。これは Reason 4 に付属する

コーラス/フランジャー。ディレイ・タイムを長目にするとコーラスとなり、短めでフランジャーとなる。

フランジャーもコーラスと全く同じ構造ですが、異な

るのはディレイ・タイムが数msec と短めの設定にな

っているところです。このことによって波形の周期単

位というタイミングで原音とディレイ音がずれるため、

ある特定の周波数では互いに強まったり打ち消しあっ

たりします。この結果、くし型フィルターという強烈

な個性を持ったフィルターがスイープされ、いわゆる

“ジェット効果”と言われるエフェクトが生まれるの

です(fig.4)。

フェイザーはコーラス/フランジャーのようにディレイの要素は使わず、古くからあるアナログ回路で構成されています。

ディレイと同様にサウンドを遅延させ、それを周期的に変化させるのは変わらないのですが、その量はわずかで波形周期

の何分の 1という単位なのです。このズレは位相(フェーズ)とも呼ばれ、これがフェイザーの語源となっています。周

波数に対してこのズレの量がリニアにならないため、フランジャーのシャープなサウンドとは一線を画した独特なサウン

ドとなります。これらのエフェクターに共通している、遅延時間等を一定の周期で変化させ、サウンドにうねりを加える

操作のことを一般的に“モジュレーション”と呼び、これらの効果を持つエフェクトをモジュレーション系エフェクトな

どと分類されます。

●コーラス/フランジャー/フェイザーのパラメーター

コーラスの代表的なパラメーターとの具体的な名称は機器によりさまざまですが、depth(fig.1 ではMOD AMOUNT)、

ratio などがあります。depth はディレイ・タイムの変調の深さで大きいほどコーラスの効果が大きくなります。ratio は

モジュレーションの周期で速いほどコーラスのかかりが強調されますが、ビブラート的な要素も強くなります。これらの

2つを調整することによって、あっさり系からコッテリ系まで好みのコーラス・サウンドを作ることができるるのです。

フランジャーのパラメーターも原理がコーラスと一緒なので同様なものとなります。depth を大きくとるとスイープのレ

ンジが広くなり、ratio を上げると変調の速さが変わります。加えてフランジャーではフィードバックというパラメーター

も使われます(fig.2 緑線)。これは出力の一部を入力に戻すことによって、くし形フィルターの特性をより強調させて、

さらにアクの強いサウンドを得るというものです。フェイザーについてもほとんどがフランジャーと同様のパラメーター

を持っていて使い方も似ています。

次回はコーラス/フランジャー/フェイザー以外のモジュレーション系エフェクトを取り上げることにしましょう。

fig.4 フランジャーのくし形フィルター