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1
等晶系 Cu-Ni 合金の状態図
Keyword:状態図計算、固溶体、溶解度ギャップ線、スピノーダル線、金属組織変化
はじめに
Cu-Ni 合金は、Cu と Ni の結晶構造が同じであるため等晶系合金と呼ばれる。見た目が
白く見えるため、昔から銀の代用品として、貨幣などに用いられてきた。我々の身近なもの
として、50 円硬貨がある。50 円硬貨には、Cu が 75%、Ni が 25%含まれ、銀白色の硬貨
である。工業的用途としては、引っ張り強度が高いことや、合金中の Ni の割合の変化によ
り、電気抵抗が大きく変化するなどの特徴を利用して、電気抵抗線などに使用されている。
ここでは、Cu-Ni 合金の状態図について以下 12 課題に関して熱力学ソフトの使用方法とと
もに簡単な熱力学的説明も行う。「Cu と Ni を混合した Cu-Ni 系合金を 0℃から 1600℃ま
で昇温した時、或いはその融液を 1600℃から 0℃まで降温した時の下記の反応を検討する。
(x)Cu(液体⇄固体)+(1-x)Ni(液体⇄固体)⇄ Cux Ni1-x(液体⇄固体)(x=
0.0~1.0)
・・・・・・・(Ⅰ)本ソフトを使用するための基本的な事項の説明・・・・・・・・
課題 1:温度を 0℃から 1600℃まで昇温させた時の上記の反応の状態図を作成し、本状態
図の特徴を記せ。(本ソフト使用すると簡単に状態図を表示できるので、Cu-Ni 状態図の表
示方法とその特徴について説明します。)
課題 2:上記の状態図において、温度を 1455℃、1300℃、1200℃、800℃、300℃と降温さ
せた時の各冷却過程における各相の変化を表示せよ。(本ソフト使用すると各温度における
液相と固相の変化を表示できるので、相変化も含んだ状態図について説明します。)
・・・・(Ⅱ)本ソフトの計算結果を理解するための一般的な熱力学の式の説明・・・・
課題 3:上記の状態図について、熱力学の基本式をベースに液相線、固相線について説明せ
よ。(2 成分 2 相系溶体状態図における液相線、固相線について熱力学の近似式を用いて説
明します。)
課題 4:上記の状態図において、熱力学の基本式をベースに溶解度ギャップ線、スピノーダ
ル線について近似式を基に説明せよ。(2 成分 2 相系溶体状態図における溶解度ギャップ線、
スピノーダル線について熱力学の近似式を用いて説明します。)
2
・・・・・・・・・(Ⅲ)温度一定で Ni のモル分率が変化した場合・・・・・・・・・
課題 5:上記の状態図において、1300℃における Cu-Ni 合金の溶体の自由エネルギー、混
合の自由エネルギー、混合のエンタルピー、混合のエントロピーを表示せよ。
(溶体の自由エネルギー、混合の自由エネルギー、混合のエンタルピー、混合のエントロピ
ーの表示方法とその計算結果について熱力学の基本式をベースに説明します。)
課題 6:上記の状態図の 1300℃において、固相と液相の安定関係を溶体の自由エネルギー
を基に説明せよ。また、1300℃における Cu と Ni の組成変化も図示せよ。
(1300℃における液相と固相の安定関係に関して溶体の自由エネルギーを基本に説明しま
す。また、固相と液相中の Cu と Ni の割合を表示する方法も説明します。)
課題 7:上記の説明を基に、1500℃、1455℃、1200℃、800℃の各冷却温度おける相変化
とその安定関係を説明せよ。(溶体の自由エネルギーをベースに目的とする各温度でそれぞ
れの相が何故安定なのかを説明します。)
課題 8:400℃から 150℃まで冷却した時の溶解度曲線、並びにスピノーダル曲線を求め、
各冷却温度おける各相の安定関係を説明せよ。(2 成分 2 相系溶体状態図における溶解度ギ
ャップ線、スピノーダル線の表示方法について説明します。)
・・・・・・・・・・・(Ⅳ)組成一定で温度が変化した場合・・・・・・・・・・・
課題 9:上記の状態図において Ni=0.6mol における 1500℃から 800℃まで冷却した時の固
溶体の組成変化を定量的に説明せよ。(ある特定の組成(x)で、高温から融液を冷却した時
の固相と液相の割合及びその組成を表示する方法を説明します。)
課題 10:上記の状態図において Ni=0.6mol における 400℃から 0℃まで冷却した時の固相
の相変化を溶解度ギャップ線を基に定量的に説明せよ。(ある特定の組成(x)で、低温から
の冷却過程で、固相がどのように2相に分離するかを説明します。)
課題 11:上記の状態図において、1500℃から 1250℃まで降温した時の各相の変化を金属
組織の変化として、その概念図を図示し、同時に各相の変化を定量的に説明せよ。(ある特
定の組成(x)で、高温から融液を降温した場合の金属組織の変化をモデル図を基に説明し
ます。)
・・・・・・・・・・・・・(Ⅴ)応用編:融解熱の求め方・・・・・・・・・・・・・
課題 12:純粋な Cu と Ni の融解熱を求めよ。(純粋な Cu と Ni の融解熱の求め方を説明し
ます。)
3
課題 13:Cu-Ni 系合金における Ni=0.6mol 組成の融解熱を求めよ。(Ni=0.6mol, Cu=0.4mol
の合金の融解熱の求め方を説明します。)
課題 1:温度を 0℃から 1500℃まで昇温させた時の下記の反応の状態図を作成
し、本状態図の特徴を記せ。
(x)Cu(固体→液体)+(1-x)Ni(固体→液体)→ CuxNi1-x(固体→液
体)の反応で x を 0 から 1 まで変化させた場合。
●計算熱力学ソフトの使用方法(状態図の表示のための事前入力法1)
パソコン画面上の CaTCalc を立ち上げ、画面上段の System をクリックする。
●計算熱力学ソフトの使用方法(状態図の表示のための事前入力法2)
①最初にニッケルの Ni クリックする。
②次に銅の Cu をクリックする。
③データベースとして RICT-BasicDB.EDB を選ぶ。
④最後に Load をクリックする。
*下図に示すように、今回の計算ために選択した条件が表示される。
② ①
③
④
4
画面上段の Calculation をクリックする。
●計算熱力学ソフトの使用方法(状態図の表示のための事前入力法3)
下図のような状態図を計算するための入力画面が現れる。状態図を計算するためのデー
タの入力方法を以下に示す。
注:この計算は典型的な計算であるので、Set Default Values をクリックするとデフォルト
の条件が自動的にセットされる。以下には、正式な入力方法を記す。
①Add Feed ボタンをクリックし、Phase のプルダウンメニューで Cu(FCC_A1)を選択す
る。
②Add Feed ボタンをクリックし、Phase のプルダウンメニューで Ni(FCC_A1)を選択す
る。
*Species の項が Cu と Ni であることを確認する。
①
②
③ ④
⑤
⑥
⑦
⑧
5
③Cu の項の Value に b を入力する。
④Ni の項の Value に x を入力する。
⑤x の項に 0 と 1 を入力する。
⑥Temperature を 0 から 1500℃と入力する。
⑦Phase Diagram を選択する。
⑧全項目を確認し、Calculate を実行する。
●計算結果の説明(0℃から 1500℃までの状態図の表示)
①状態図をワード等に貼り付けたい場合は、メニューバーの Edit をクリックし、Copy to
clipboard を選択すると、ワード等のソフトに図を貼り付けることができる。
②Cu-Ni 系合金の状態図の計算結果が下図に示すように表示されます。
・上図に示す Cu-Ni 系合金の状態図は典型的な等晶系合金の状態図である。
・T1 から T2 までの円弧で上側にあるものが液相線、下側にあるものが固相線と呼ばれて
いる。また、さらに下側にあるドーム状の線を溶解度ギャップ線と呼ぶ。
・T1 と T2 の温度は以下のようにして求めることができる。
Cu-xNi P=1.01325bar
Mole fraction Ni
1.8.6.4.2
Tem
peratu
re (
C)
1400
1200
1000
800
600
400
200FCC_A1+FCC_A1_#2
FCC_A1
LIQUID+FCC_A1
LIQUID 液相線
固相線
T1
T2
溶解度ギャップ線
6
・Plot タブの右サイドにある List タブをクリックすると以下の表が表示される。
・T1 は Ni の融点であり、Frame の 4 と 5 が、Ni の融点を示している。約 1455℃である。
・T2 は Cu の融点であり、Frame の 2 と 3 が Cu の融点を示している。約 1085℃である。
・Ni は FCC_A1 で表される立方晶系の面心立方構造を有する。この Ni がどのような特徴
を有するかは、上段の Data ボタンをクリックして、Phases リストにある FCC_A1 をクリ
ックすると良い。
・Cu も FCC_A1 で表される立方晶系の面心立方構造を有する。Cu がどのような特徴を有
するかは Ni と同様に上段の Data ボタンをクリックして、Phases リストにある FCC_A1
をクリックすると良い。
●Data 画面による Cu と Ni の熱力学的情報の収集(その1)
・Data ボタンをクリックすると、Data 画面が表示されます。
・FCC_A1 は Cu と Ni が同じ結晶構造を有するので、両者とも FCC_A1 で表示されてい
る。個々の Cu と Ni の表示はないので注意。
①Data画面の初期状態ではLIQUID をトップに関連する組成がリストアップされている。
7
アルファベットの順番になっているので、FCC_A1 を探し、選択(アクティブに)する。
②Species リストの Cu をダブルクリックする。
●Data 画面による Cu の熱力学的情報の収集(その2)
①温度(T)に 0 と 1500、並びに温度間隔 20 を入力。この温度間隔の入力を忘れると正確
な図は得られないので注意。
②圧力(P)の項は、必要に応じて変更する。
③Calculate を実行する。
●計算結果の説明(純粋な Cu の Gibbs 自由エネルギーの計算結果)
・上記の図のように、0 から 1500℃までの Cu のギブス自由エネルギーが求められる。
①
②
③
8
課題 2:上記の状態図において、温度を 1455℃、1300℃、1200℃、800℃、300℃
と降温させた時の各降温過程における相変化を定量的に表示せよ。
●計算熱力学ソフトの使用方法(各相の割合の表示のための事前入力法)
*課題 1 にある「●計算熱力学ソフトの使用方法」にある手順にて必要項目を入力してく
ださい
①xの項は 0 と1を入力。注:組成間隔を 0.02 と入力する。
②Temperature の項は 1455℃に固定。目的とする温度に設定する。
③Equilibrium Calc を選択する
④Calculate を実行する。
●計算結果の説明(1455℃での各相の割合の自動表示)
・Edit をクリックし、Copy to Clipboard を選択し、必要なファイルに貼り付ける。
・以下の図は、パワーポイントにコピーし、説明用に加工したものである。
①
②
③
④
9
・1455℃は Ni の融点の温度であるので、この温度以上では、Liquid のみである。
●計算結果の説明(1400℃での各相の割合の自動表示)
・1455℃の方法と同じ方法で、以下の図を求めることができる。
Cu-xNi T=1455C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.5
mol (ato
m)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
Liquidのみ
Cu-xNi T=1400C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
Liquid Solid
Ni=0.86molNi=0.81mol
10
・1400℃においては、等温線が液相線と交差する Ni=0.81mol と、固相線と交差する
Ni=0.86mol の組成範囲において、液相は、Ni の濃度増加に伴い減少し、固相は増加する。
液相及び固相内の Ni と Cu の分布は後述する。具体的に、同温度における、固相と液相の
割合が、どのように変化するかを示ししている。
●計算結果の説明(1300℃での各相の割合の自動表示)
・1300℃では、等温線と液相線との交点が Ni=0.46mol、固相線との交点が Ni=0.60mol と
なり、1400℃よりもより、液相に含まれる Ni の濃度が相対的に低下する。
・液相は Ni=0.46mol より減少し、Ni=0.60mol で完全に消失する。それに対して固相は
Ni=0.46mol より増加し、Ni=0.60mol で最大となる。
Cu-xNi T=1300C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.5
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
Liquid Solid
Ni=0.60molNi=0.46mol
11
●計算結果の説明(800℃での各相の割合の自動表示)
・800℃では、Cu と Ni が均一に固溶した一つの溶体として存在する。
●計算結果の説明(300℃での各相の割合の自動表示)
・300℃になると、Ni=0mol から Ni=0.34 mol までは、一つの溶体(Solid)が安定である。
・Ni=0.34 mol から Ni=0.85mol の間は二つの溶体(Solid1 と Solid2)が安定であり溶解
度ギャップが生じている。
・Ni=0.85mol 以上では、一つの溶体が安定である。
・何故、このような溶解度ギャップが生じるかは後述する。
Cu-xNi T=800C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
mol (ato
m)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
FCC_A1
Solidのみ
Cu-xNi T=300C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
FCC_A1
FCC_A1_#2
Solid1 Solid2
Ni=0.85molNi=0.34mol
12
課題 3:上記の状態図において、熱力学の基本式をベースに液相線、固相線、に
ついて説明せよ。
これまで説明してきた状態図では、上記の図に示すように、液相線、固相線、溶解度ギャ
ップ線の境界線が表示されている。このような境界線は、本ソフトでは、複雑な熱力学の式
を用い、高度な数学的手段で計算しているため簡単には理解できない。しかし、近似式でも
良いので、どのようにして作図されたかを知りたい方は、近似式を用いた計算式を以下に紹
介する。
Cu-Ni 系合金において、Cu と Ni は同じ面心立方格子を有するが、Cu-Cu の原子間距離
は 0.256nm で、Ni-Ni の原子間距離は 0.248nm と少し異なるが、同じ結晶構造で固溶体
を形成するので、等晶系合金と呼ばれる。
Cu-Ni 系合金では、Cu と Ni の 2 成分と液相と固相の 2 相が共存することになるので 2
成分 2 相系になる。ここで、Cu を成分 1、Ni を成分 2、液相を X 相、固相を Y 相とする。
モル分率で表すと、X 相の成分 1 を x1、Y 相の成分 1 を y1、X 相の成分 2 を x2、Y 相の
成分 2 をy2 と表す。
Cu-xNi P=1.01325bar
Mole fraction Ni
1.8.6.4.2
Tem
peratu
re (
C)
1400
1200
1000
800
600
400
200FCC_A1+FCC_A1_#2
FCC_A1
LIQUID+FCC_A1
LIQUID 液相線
固相線
T1
T2
溶解度ギャップ線
13
○液相線及び固相線の求め方
Cu と Ni の混合物を溶体として表現すると、溶体の自由エネルギーは、原子の配列が無
秩序であると仮定すると以下のようになる。これからの式の展開は、丸善出版の「平衡状態
図の基礎」を参考とした。
ここで、GL は、モル分率x1L とx2
L の溶液の温度 T での 1 モル当たりの自由エネルギー
である。また、GM.L は純粋な液相 1 と純粋な液相 2 とがお互いに溶け合わないで、上式と
同じ比率で混合しているとき、温度 T が持っていると考えられる 1 モル当たりの自由エネ
ルギーである。上式の右辺の第 2 項は、混合の自由エネルギーである。
GM,L は以下の式で与えられる。
ここで、G1Lは純粋な液相1の温度 T でのモル自由エネルギー、G2Lは純粋な液相2の温度
T での自由エネルギーである。上式を微分すると以下の式になる。
成分 2 の液相の化学ポテンシャルはそれぞれ以下のようになる。
また、成分 2 の固相の化学ポテンシャルは以下のようになる。
液相と固相が平衡に存在する時は、おのおのにおける成分 2 の化学ポテンシャルは等しく
ならなければならないから、
となる。G2L-G2Sは、温度 T での純粋な成分 2 の融解エネルギーに相当するから
G2L G2
S-
=
TT1
-ΔfusHO2
ΔfusHO2
dGL
dx2
- = G2L G1
L- + lnx1
L
x2L
-RT
14
となる。上記の 2 式より、
となる。ここで、ΔfusHo2は、成分 2 がニッケルになるので、ΔfusHoNiとニッケルの融解熱
(凝固熱)になる。
同様に X1 に関しても、温度と組成の関係式が得られる。
個々で、ΔfusHoCu は銅の融解熱である。X1s=1-X2s、X1L=1-X2L の関係式を用いて、それぞ
れ、X2s と X2L の連立方程式として X2s と X2L について求めると以下のようになる。
この式を X2 と T の関数としてグラフを作成すると固相線に相当するが、近似式であるの
で、これまで説明してきた状態図の固相線とは完全に一致しない。
ここで、A は以下の式で与えられる。
また、B は以下の式で与えられる
液相線に関しては、以下の式で、X2とTの関係をグラフにすると液相線に相当する。固
相線と同様に近似式であるので、前述の状態図とは一致しない。
ここで、A と B は前述の式と同じである。
この式を基に液相線と固相線を作成すると、前述と同じ図が得られる。
x2S = A(1-B)/(A-B)
x2L = (1-B)/(A-B)
lnx2
L
x2S
- =R T
1
T1
1---
ΔfusHONi
lnx2
L
x2S
- =ΔfusHO
Cu
R T
1
T2
1---
A =ΔfusHO
Cu
R T
1
T2
1---
=R T
1
T1
1---
ΔfusHONi
B
15
上式を基に計算された液相線(左図)と固相線(右図)である。
・液相線と固相線を一緒に並べた図
であるが、近似式を用いて計算して
いるにもかかわらず、計算結果と類
似はしている。
1000
1050
1100
1150
1200
1250
1300
1350
1400
1450
1500
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
温度(℃)
Xb(Nimol)
1000
1100
1200
1300
1400
1500
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
温度(℃
)Xb(Nimol)
1000
1050
1100
1150
1200
1250
1300
1350
1400
1450
1500
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
温度(℃)
Xb(Nimol)
1000
1100
1200
1300
1400
1500
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
Xb(Nimol)
16
課題 4:上記の状態図において、熱力学の基本式をベースに溶解度ギャップ線、
スピノーダル線について近似式を基に説明せよ。
(1)溶解度ギャップ線の求め方
溶解度ギャップ線を求めるために、先ず、溶体の自由エネルギー(GS)を定義する必要が
ある。ここでの式の展開は、丸善の「平衡状態図の基礎」を参考とした。
固体の溶体の自由エネルギーは以下の式で与えられる。
ここで、GM,Sは固相の機械的混合の自由エネルギーである。また ΔGmS は固体の混合の自由
エネルギーである。
機械的混合の固相の自由エネルギーは以下の式で与えられる。
ここで、x1sと x2s は、Cu と Ni のモル分率である。ΔG1S は Cu の固相の自由エネルギー、
ΔG2S は固相の Ni の自由エネルギーである。
また、固体の混合の自由エネルギーは以下の式で与えられる。
ΔHmS は混合のエンタルピーであり、以下の式となる。
ΩSは以下の式で表される。
x1 は固相における 1(Cu)原子のモル分率、x2 は固相における 2(Ni)原子のモル分率
である。Z は一個の原子に結合している数、配位数である。No は固相中の原子の数、H12は
固相中の最近接の 1、2 両原子間の結合のエンタルピー、H11 は固相中の二つの最近接1原
子間の結合のエンタルピー、H22は固相中の二つの最近接 2 原子間の結合のエンタルピーで
ある。
混合のエントロピーは以下の式で表される。
ここで、R は気体乗数である。
-R ( )xAS ln xA
S xBS ln xB
S+ΔSm
S =
17
以上を纏めると、溶体(固相)の自由エネルギーは以下の式となる。
ここでx2について、GSの最小をとると、
となるので、以下の式となる。
ここで、Cu と Ni は物理的、化学的性質並びにお互いの原子間距離に大きな差がないこと
より、近似として ΔG1S =ΔG2S と仮定すると
となり、以下の式が得られる。
ここで、臨界温度を Tc とすると
となる。これより以下の式が得られる。
上記の式を基本に、温度 T と組成 x2のグラフを作成すると、下図に示すような溶解度ギャ
ップ線となる。
(2)スピノーダル線の求め方
スピノーダル曲線は、上記と同じような手法で近似的に求めることができる。
前述の上式を基本に、上式を微分すると以下の式が得られる。
= ー2ΩS +RTln{x2/(1-x2)}∂2GM ∂x22/
ΩS = ZNo[ H12 - 0.5×(H11+H22) ]
∂GM ∂x2/ 0=
2(1-2x2)/ln{(1-x2)/x2}=T/Tc
18
この式をゼロとすると最初の式の変曲点が得られる。
Tc を臨界温度とすると、最終的に以下の式が得られる。
これまで、説明してきた溶解度ギャップ線とスピノーダル線を計算すると以下の図が得ら
れる。
・実際の高度な式で計算された状態図とは、かなり異なっているが、概念的に理解するため
の近似式を用いても、概略、溶解度ギャップ線とスピノーダル線は求めることができる。
0
50
100
150
200
250
300
350
400
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
温度(℃)
Xb(Nimol)
溶解度ギャップ
スピノーダル
2ΩSRT/ = x2/(1-x2)
4x2/(1-x2) =T/Tc
19
課題 5:上記の等晶系状態図において、1300℃における、溶体の自由エネルギ
ー、混合の自由エネルギー、混合のエンタルピー等に関して熱力学の基本式を
ベースに説明し、それぞれのエネルギー図を求めよ。
Cu と Ni 及び液相と固相のように、2 成分 2 相の状態図を検討するためには、溶体に関
する熱力学的考察が必要である。そこで、先ず、前述の状態図における各温度での各相の自
由エネルギー及び混合の自由エネルギーの計算プロセスを熱力学の基本式を用いて説明し、
その後、液相と固相の各相の安定関係を説明する。なお、これからの式の展開は、丸善出版
の「平衡状態図の基礎」とコロナ社の「固体の熱力学」を参考とした
○計算熱力学ソフトの使用方法(個々の自由エネルギー表示のための前操作)
先ず、最初に Data ボタンをクリックして、下記の図を開く。
左端の+の記号を、今回使用する Liquid、FCC_A1 以外は全て+を外す。
20
○計算熱力学ソフトの使用方法(1300℃における自由エネルギーの求め方)
①x を 0 から 1 にセットして、間隔を 0.02 とする。この間隔を忘れると不正確な図になる
ので要注意
②Temperature を 1300℃とする。
③Individual Phase Energies を選択する。
④Calculate を実行する。
●計算結果の説明(1300℃での各相の組成変化による自由エネルギー変化)
Cu-xNi T=1300C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.8.6.4.2
Gib
bs Energy (kJ/m
ol_
atom
)
-87
-88
-89
-90
-91
-92
-93
-94
-95
LIQUID
FCC_A1
固相
液相
①
②
③ ④
21
・液相と固相のギブスの自由エネルギーを上記に示すが、それぞれのギブスの自由エンルギ
ーに関してこれから説明する。
・溶体での液相(GL)の自由エネルギーは、機械的混交の自由エネルギー(GM,L)と混合の
自由エネルギー(ΔGmL)の和として表される。
ここで、機械的混合の自由エネルギーは以下の式となる。
・同様に溶体における固相の自由エネルギー(GS)も機械的混合の自由エネルギー(GM,S)
と混合の自由エネルギー(ΔGmS)の和として表される。
ここで、固相の機械的混合の自由エネルギーは以下の式で与えられる。ここでは、A 原子を
Cu、B 原子を Ni とする。
・ΔGmSは、以下に示す、混合のエンタルピーとエントロピーから求められる。
●計算結果の説明(1200℃での各相の組成変化による混合の自由エネルギー)
・計算結果の出力方法:Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Gibbs
energy of mixing を選択して Apply ボタンをクリックする。
GL ΔGmL
= GM,L+
GS ΔGmS= GM,S+
GM,L = GAL + GB
LxAL xB
L
GM,S = GAS + GB
SxAS xB
S
Cu-xNi T=1300C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.8.6.4.2
Gib
bs Energy of m
ixin
g (kJ/m
ol_
atom
)
-.5
-1
-1.5
-2
-2.5
-3
-3.5
-4
-4.5
-5
-5.5固相
液相
22
・液相の混合の自由エネルギー(ΔGmL)は、混合のエンタルピー(ΔHmL)と混合のエント
ロピー(ΔSmL)の和として表される。
・同様に固相の混合の自由エネルギ(ΔGmS)は、混合のエンタルピー(ΔHmS)と混合のエン
タルピー(ΔSmS)の和として表される。
・先述の図の液相の自由エネルギーの値が、固相の自由エネルギーより負に小さくなってい
る。上記の自由エネルギーでは液相のほうが安定であるが、これは混合の自由エネルギーの
ためである。
●計算結果の説明(1300℃での各相の組成変化による混合のエンタルピー)
・計算結果の出力方法:Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Enthalpy
of mixing を選択して Apply ボタンをクリックする。
・液相の混合のエンタルピーは以下のように記述できる。
ここで、XA は液相における A(Cu)原子のモル分率、XB は液相における B(Ni)原子のモ
ル分率である。Z は一個の原子に結合している数、配位数である。No は溶液中の原子の数、
ΔGmL ΔHm
L= TΔSmL
-
ΔGmS ΔHm
S= TΔSmS-
ΔHmL XAXBZNo[ HAB - 0.5×(HAA+HBB) ]=
Cu-xNi T=1300C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.8.6.4.2
Enth
alp
y o
f m
ixin
g (
kJ/m
ol_
ato
m)
3
2.5
2
1.5
1
.5
LIQUID
FCC_A1液相
固相
23
HAB は溶液中の最近接の A、B 両原子間の結合のエンタルピー、HAA は溶液中の二つの最近
接 A 原子間の結合のエンタルピー、HBB は溶液中の二つの最近接 B 原子間の結合のエンタ
ルピーである。ここで、
と置くと、液相の混合のエンタルピーは以下のようになる。
・同様に、固相の混合のエンタルピーは以下のように記述できる。
ここで、XA は固相における A(Cu)原子のモル分率、XB は固相における B(Ni)原子のモ
ル分率である。Z は一個の原子に結合している数、いわゆる配位数である。No は結晶中の
原子の数である。HABは結晶中の最近接の A、B 両原子間の結合のエンタルピー、HAAは結
晶中の二つの最近接 A 原子間の結合のエンタルピー、HBB は結晶中の二つの最近接 B 原子
間の結合のエンタルピーである。ここで、
と置くと、固相の混合のエンタルピーは以下の式で表される。
・ΩL 及びΩS の値は、異種原子間に吸引的な相互作用があれば、A-A 結合や、B-B 結合よ
りも A-B 結合が安定になり、負の値とり、混合のエンタルピーも負となる。逆に、異種原
子間に反発相互作用があれば、正となり、混合のエンタルピーも正となる。
・具体的には、溶体における 2 成分の金属の原子半径、結晶構造、物理化学的性質が類似し
ている場合は、負となり、混合のエンタルピーは下に凸の形状となる。
・逆に、2 成分の金属の原子半径、結晶構造、物理化学的性質が異なるなる場合は、正とな
り、上に凸の形状を示す。
・Cu と Ni の場合は、結晶構造は同じでも、原子間距離や、電気陰性度等が少し異なるた
め、液相、固相共に正の値となり、その結果、上に凸の形状になったと推察される。
ΩL =ZNo[ HAB - 0.5×(HAA+HBB) ]
ΔHmL = ΩLXAXB
ΔHmS XAXBZNo[ HAB - 0.5×(HAA+HBB) ]=
ΩS = ZNo[ HAB - 0.5×(HAA+HBB) ]
ΔHmS = ΩSXAXB
24
●計算結果の説明(1200℃での各相の組成変化による混合のエントロピーの変
化)
・計算結果の出力方法:Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Entropy of
mixing を選択して Apply ボタンをクリックする。
・液相の混合のエントロピーは以下の式で与えられる。
ここで、R は気体定数である。同様に固相の混合のエンタルピーは以下の式である。
・上記の図のように液相と固相の値は異なるが、ほぼ同じ曲線となり、常に正の値となる。
・先述のように液相の混合の自由エネルギーは以下の式で求められる。
・これまで説明してきた機械的混合の自由エネルギーに混合の自由エネルギーを加えるこ
とにより、溶体における自由エネルギーを求めることができる。
Cu-xNi T=1300C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.8.6.4.2
Entr
opy o
f m
ixin
g (
J/m
ol_
ato
mK)
5
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
.5
LIQUID
FCC_A1
固相
液相
-R( )xAL ln xA
L xBL ln xB
L+ΔSmL =
-R ( )xAS ln xA
S xBS ln xB
S+ΔSm
S =
ΔGmL ΔHm
L= TΔSmL
-
25
課題 6:上記の状態図の 1300℃において、固相と液相の安定関係を溶体の自由
エネルギーを基に説明せよ。また、1300℃における Cu と Ni の組成変化を図示
せよ。
・1300℃における各相の成分の変化と液相と固相の安定性の議論を溶体の自由エネルギー
を基に説明する。
●計算結果の説明(前述の 1300℃での状態図)
・前述の状態図で、1300℃では、Cu のモル分率の増加に伴って、「Liquid の領域」と「Cu
と Ni の固相と Liquid の領域」さらに「Cu と Ni の固相の領域」と 3 領域に分かれる。
・1300℃では、赤線と液相線が交差するのは、Ni=0.46mol の時である。また、固相線と交
差するのは Ni=0.60mol である。
・何故、このような領域になるのか溶体の自由エネルギーをベースに説明する。
Cu-xNi P=1.01325bar
Mole fraction Ni
1.8.6.4.2
Tem
peratu
re (
C)
1500
1450
1400
1350
1300
1250
1200
1150
1100
1050
1000
LIQUID
LIQUID+FCC_A1
FCC_A1
Ni=0.60molNi=0.46mol
T1
T2
26
●計算結果の説明(何故液相線と固相線の間は固相と液相が安定化、その1)
【設定条件】
・Caluculate 画面で x に「0 1 0.02」、温度範囲を「1300」℃と入力し、Individual Phase
Energies を選択、Calculate クリックで計算実行する。この時、必要な Phase は「LIQUID」
と「FCC_A1」のみである。(”Maker”にチェックすることでマークが表示されます)
・例えば、ある特定の組成を示す組成線を緑色の波線とする。この組成線と固相の自由エネ
ルギーと交差する点を a とする。
・同様に組成線(緑色)と液相の自由エネルギーと交差する点を b とする。
・液相に自由エネルギーと固相の自由エネルギーの両者に共通の接線を引く。
・赤色の接線と、2 本の赤印のライン(波線)と交差する点が、それぞれの接点となり、
Ni=0.46mol と Ni=0.60mol である。
・この接線と緑色の組成線と交差する点を M とすると、同じ組成で、M は a 点や b 点より
も自由エネルギーは小さくなるため最も安定であることを示している。それでは、何故、接
線上の M 点が安定となるのか、以下にさらに詳しく説明する。
Cu-xNi T=1300C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.8.6.4.2
Gib
bs Energy (kJ/m
ol_
atom
)
-87
-88
-89
-90
-91
-92
-93
-94
-95
LIQUID
FCC_A1
固相液相
Ni=0.60molNi=0.46mol
a
bM
27
●計算結果の説明(何故液相線と固相線の間は固相と液相が安定化、その2)
・固相線と組成 X の組成線(赤波線)が交差する点に接線を引くと Ni=1 の軸と交わる点が
固相の化学ポテンシャル(μsNi)である。
・液相線と組成 Y の組成線(赤波線)が交差する点に接線を引くと Ni=1 の軸と交わる点が
液相の化学ポテンシャルで(μLNi)ある。
・液相と固相が平衡の場合は、固相と液相が同じ接線でなくてはならない。そのため、液相
と固相の化学ポテンシャルは等しくなくてはならない。
・よって、液相と固相に引いた接線(緑色)の範囲が、両者が最も安定な領域であり、
Ni=0.46mol から Ni=0.60mol の間は、液相と固相が安定な領域となる。
Cu-xNi T=1300C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.8.6.4.2
Gib
bs Energy (kJ/m
ol_
atom
)
-87
-88
-89
-90
-91
-92
-93
-94
-95
LIQUID
FCC_A1
固相
液相
Ni=0.60molNi=0.46molμS
Ni
μLNi
μSNi μL
Ni=
X Y
28
●計算熱力学ソフトの使用方法(液相と固相の活動度の求め方)
【設定条件】
・Caluculate 画面で x に「0 1 0.02」、温度範囲を「1300」℃と入力し、Equilibrium Calc
を選択、Calculate クリックで計算実行する。(”Maker”にチェックすることでマークが表示
されます)
①Axis タブ-[Y-Axis]-[Variable]からプルダウンメニューを表示する。
②項目の中の Phase Activities を選択する。
③Apply ボタンをクリックする。
*活動度が出力されます。
このとき、選択されている Phase は LIQUID と FCC_A1 のみです。
Cu-xNi T=1300C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.8.6.4.2
Phase A
ctivity
1
.98
.96
.94
.92
.9
.88
.86
LIQUID
FCC_A1
固相液相
Ni=0.60molNi=0.46mol
29
・液相の活動度は Ni=0.60mol まで 1.0 であるが、それ以降は 1.0 より小さくなり、それ以
上の濃度では、液相は存在しない。
・固相の活動度は Ni=0.46mol から Ni=1.0mol まで 1.0 であるが、Ni=0.46mol 以下では
1.0 より小さな値であるので、固相はそれ以下では存在しない。
・前述の状態図と比較すると、固相と液相の安定性が理解できる。
●計算結果の説明(1300℃における液相中における Cu と Ni の分布を求める)
・計算結果の出力方法
①Axis タブ-[Y-Axis]-[Variable]からプルダウンメニューを表示する。
②項目の中の Phase Composition を選択する。
③Phase は LIQUID、Fraction は Species Fraction を選択する。
④Apply をクリックすると液相中の Cu と Ni の分布が出力される。
・液相中の Cu の分布は、Ni=0.46mol までは直線的に減少し、Ni=0.46mol と Ni=0.60mol
の間は変化せず、それ以降は、曲線的に減少している。
・液相中の Ni の分布は、Ni=0.46mol までは直線的に増加し、Ni=0.46mol と Ni=0.60mol
の間は変化せず、それ以降は、直線的に増加している。
・液相中での Cu と Ni の分布がどのようになっているか明確にできる。
Cu-xNi T=1300C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.8.6.4.2
Specie
s f
raction in L
IQU
ID
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
Cu
Ni
液相中のNi液相中のCu
Ni=0.60molNi=0.46mol
30
●計算結果の説明(1300℃における固相中における Cu と Ni の分布を求める)
・計算結果の出力方法
①Axis タブ-[Y-Axis]-[Variable]からプルダウンメニューを表示する。
②項目の中の Phase Composition を選択する。
③Phase は FCC_A1、Fraction は Species Fraction を選択する。
④Apply をクリックすると固相中の Cu と Ni の分布が出力される。
・固相中の Cu の分布は、Ni=0.46mol までは曲線的に減少し、Ni=0.46mol と Ni=0.60mol
の間は変化せず、それ以降は、直線的に減少している。
・固相中の Ni の分布は、Ni=0.46mol までは直線的に増加し、Ni=0.46mol と Ni=0.60mol
の間は変化せず、それ以降は、直線的に増加している。
・先述の液相の Cu と Ni の分布の変化と逆になっている。
・固相中での Cu と Ni の分布がどのようになっているか明確にできる。
Cu-xNi T=1300C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.8.6.4.2
Specie
s f
raction in F
CC_A1
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
Cu
Ni
固相中のNi
固相中のCu
Ni=0.60molNi=0.46mol
31
●計算結果の説明(1300℃における液相・固相中における Cu と Ni の分布を一
緒に求める)
・計算結果の出力方法
①Axis タブ-[Y-Axis]-[Variable]からプルダウンメニューを表示する。
②項目の中の Elements Distribution を選択する。
③Apply をクリックすると固相中と液相中の Cu と Ni の分布が出力される。
・固相中の Cu の分布は、Ni=0.46mol から直線的に増加し、Ni=0.60mol で最大値に達し、
Ni=1.0mol までに直線的に減少している。
・液相中の Cu の分布は、最初直線的に減少し、Ni=0.46mol でさらに急激に減少し、
Ni=0.60mol で消滅している。
・固相中の Ni の分布は、Ni=0.46mol から Ni=0.60mol まで直線的に増加し、その後、
Ni=1.0mol まで直線的に増加している。
・液相中の Ni は、Ni=0.46mol まで直線的に急激に増加し、その後、Ni=0.60mol まで緩や
かに減少し消滅している。
・上記のように本ソフトを用いると、液相中、固相中で Cu と Ni の分布がどのようになっ
ているかを明確にできるの、固溶体の状態を定量的に理解するのに優れている。
Cu-xNi T=1300C, P=1.01325bar
CaTCalc
Ni (mol)
1.8.6.4.2
mol (ato
m)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
液相中のNi固相中のCu
固相中のNi
液相中のCu
32
課題 7:上記の状態図の説明を基に、溶体の自由エネルギーを用いて、1500℃、
1455℃、1200℃、800℃の各降温温度おける各相の安定関係を説明せよ。
●計算結果の説明(1500℃での各相の組成変化による自由エネルギー変化)
【設定条件】
・Caluculate 画面で x に「0 1 0.02」、温度範囲を「1500」℃と入力し、Individual Phase
Energies を選択、Calculate クリックで計算実行する。この時、必要な Phase は「LIQUID」
と「FCC_A1」のみである。(”Maker”にチェックすることでマークが表示されます)
・すでに説明したように溶体での液相の自由エネルギーは、機械的混交の自由エネルギーと
混合の自由エネルギーの和として表される。
・同様に溶体における固相の自由エネルギーも機械的混合の自由エネルギーと混合の自由
エネルギーの和として表される。
・1500℃のような高温においては、Ni=0.0mol から Ni=1.0mol まで、全領域において、液
相の自由エネルギー曲線が固相の自由エネルギー曲線よりも下側にある。この温度では、全
ての組成範囲の合金は単一の溶融体として安定である。
GL ΔGmL
= GM,L+
GS ΔGmS= GM,S+
Cu-xNi T=1500C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nerg
y (
kJ/
mol_
ato
m)
-104
-105
-106
-107
-108
-109
-110
-111
-112
-113
LIQUID
FCC_A1
固相
液相
33
●計算結果の説明(1455℃での各相の組成変化による自由エネルギー変化)
・温度が低くなると液相の自由エネルギーは、最低値が、1500℃よりも約 5kJ/mol_atom 大
きくなるが、固相の自由エネルギーの変化は小さい。一般に、液相の自由エネルギー変化は、
固相の自由エネルギー変化よりも大きい。
・液相の自由エネルギーの増加により、温度 T1(Ni の融点)で液相と固相の自由エネルギ
ーは一致する。
・この Ni の融点の温度では、純粋な Ni の固体と純粋な Ni の液相が平衡に共存している。
Cu-xNi T=1455C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.8.6.4.2
Gib
bs E
nergy (
kJ/m
ol_
ato
m)
-101
-102
-103
-104
-105
-106
-107
-108
LIQUID
FCC_A1
固相
液相
34
●計算結果の説明(1200℃での各相の組成変化による自由エネルギー変化)
・1200℃は、すでに 1300℃で説明したように、液相の自由エネルギー曲線と固相の自由エ
ネルギー曲線は中間の組成でお互いに交差している。
・各相の安定性を議論するには、前述のように固相の自由エネルギー曲線と液相の自由エネ
ルギー曲線に接線を引く必要がある。
・Ni=0.0mol から Ni=0.21mol までは液相の自由エネルギー曲線が最も下側にあり、液相が
安定である。
・液相と固相の自由エネルギー曲線の接線の範囲内の組成である、Ni=0.21mol から
Ni=0.32mol の範囲では、液相と固相の両相が存在する。
・Ni=0.32mol 以上の組成では、固相の自由エネルギー曲線が最も下側にあり、固相が安定
である。
Cu-xNi T=1200C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nergy (
kJ/m
ol_
ato
m)
-77
-78
-79
-80
-81
-82
-83
-84
-85
LIQUID
FCC_A1
固相液相
固相液相
Ni=0.21mol
Ni=0.32mol
35
●計算結果の説明(800℃での各相の組成変化による自由エネルギー変化)
・800℃のように低温になると、全ての組成範囲で、固相の自由エネルギー曲線が液相の自
由エネルギー曲線よりも下側にある。
・この温度では、液相は全く存在せず、固相のみが存在する。
Cu-xNi T=800C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nergy (
kJ/m
ol_
ato
m)
-44
-45
-46
-47
-48
-49
-50
-51
-52
-53
LIQUID
FCC_A1
固相
液相
36
課題 8:400℃から降温した時の溶解度曲線、並びにスピノーダル曲線を求め、
各降温温度おける各相の安定関係を説明せよ。
・本ソフトではスピノーダル線は求めることはできないが、以下に近似的に求める方法を説
明する。
●計算結果の説明(400℃での各相の組成変化による自由エネルギー変化)
・400℃においては、単一の溶体で存在する。
・370℃に達すると後述する溶解度ギャップが現れる。
・この溶解度ギャップが現れる温度(Tc)は、臨界温度と呼ばれている。
Cu-xNi T=400C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nergy (
kJ/m
ol_
ato
m)
-24
-24.5
-25
-25.5
-26
-26.5
-27
-27.5
-28
LIQUID
FCC_A1
Ni=0.60mol
溶解度ギャップの臨界温度(Tc:約370℃、xNi=0.6mol)
37
●計算結果の説明(300℃での各相の組成変化による自由エネルギー変化)
・300℃になると状態図で説明した溶解度ギャップ線が現れる。
・溶解度ギャップ線は、各温度における自由エネルギーとその接線との交点で求められる。
・この温度においては、それぞれの接点は、Ni=0.34mol と Ni=0.84mol である。
・Ni=0.34 mol と Ni=0.84mol の間では、二つの溶体(固相)が出現する。
・Cu-Ni 系金属では、溶解度ギャップが生じると同時に、この溶解度ギャップ線を切って、
非平衡に冷却する場合には、スピノーダル曲線が現れる。
・このスピノーダル曲線は、上図の自由エネルギー曲線で、溶解度ギャップが現れる組成よ
り内側に自由エネルギーの変曲点として現れる。
・それぞれの変曲点の推定値は、概略 Ni=0.45mol と Ni=72mol である。
・スピノーダル曲線に関しては、ここでは詳細な説明は省略する。
・ただ、溶解度ギャップ線は、一般に、低温で生じるため、拡散速度が小さく、平衡状態に
達するのが困難なため、実際にこのようなギャップが見出される例は少ないとされている。
Cu-xNi T=300C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nergy (
kJ/m
ol_
ato
m)
-19
-19.5
-20
-20.5
-21
-21.5
-22
-22.5
-23
LIQUID
FCC_A1
Ni=0.34mol Ni=0.84mol
Ni=0.45mol
Ni=0.72mol
スピノーダル曲線
溶解度曲線
38
●計算結果の説明(200℃と 150℃での各相の組成変化による自由エネルギー変
化)
・200℃では Ni=0.18mol と Ni=0.97mol の間で二つの固相が出現する。
・同温度で、Ni=0.45mol と Ni=0.72mol(推定値)の間でスピノーダルが生じる。
・150℃では Ni=0.13mol と Ni=0.98mol の間で二つの固相が出現する。
・同温度で、Ni=0.30mol と Ni=0.81mol(推定値)の間でスピノーダルが生じる。
Cu-xNi T=200C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nergy (
kJ/m
ol_
ato
m)
-15
-15.5
-16
-16.5
-17
-17.5
-18
LIQUID
FCC_A1
Ni=0.18mol Ni=0.96mol
Ni=0.45mol
Ni=0.72mol
スピノーダル曲線
溶解度曲線
Cu-xNi T=150C, P=1.01325bar
Ni (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nergy (
kJ/m
ol_
ato
m)
-12
-12.5
-13
-13.5
-14
-14.5
-15
LIQUID
FCC_A1
Ni=0.13mol Ni=0.98mol
Ni=0.30mol
Ni=0.81mol
スピノーダル曲線
溶解度曲線
39
課題 9:上記の状態図において、Ni=0.6mol における 1500℃から 1000℃まで降
温した時の固溶体の各相の変化を定量的に説明せよ。
●計算結果の説明(Ni=0.6molで 1320℃における固相と液相の割合の求め方)
・等晶系合金において、液相から固相への降温過程における各相の変化について、上図に示
す前述の状態図をベースに説明する。
・等晶系合金の状態図において、Ni=0.6mol と Cu=0.4mol である X=0.6 の組成の合金を
1500℃から降温させた時、1320℃における固相と液相の割合を求める。
・固溶体の場合は、「テコの原理」で固相と液相の割合が求められる。1320℃の等温線と
X=0.6 の組成線が交差する点を M とする。また、1320℃の等温線と液相線が交差する点を
a とする。この点は、Ni=0.53mol に相当し、液相の組成を表す。同様に 1320℃の等温線と
固相線が交差する点を b とする。この点は、Ni=0.66mol に相当し、固相の組成を表す。
・1320℃における固相の割合(WS)は、WS=直線(a-M)/ 直線(a-b)で求められる。
直線 ab 上の S と記述される範囲である。
・同温度における液相の割合(WL)は、WL=直線(M-c)/ 直線(a-b)で求められる。
直線 ab 上の L と記述される範囲である。
・上図を基に概略を求めると WS=0.5、WL=0.5 と、固相と液相の割合はほぼ等しい。
Cu-xNi P=1.01325bar
CaTCalc
Mole fraction Ni
1.8.6.4.2
Tem
pera
ture
(C)
1500
1450
1400
1350
1300
1250
1200
1150
1100
1050
1000
T1
T2
Ni=0.66molNi =0.53mol
S L
a
M b
40
○計算熱力学ソフトの使用方法 Ni=0.6mol における 1350℃から 1275℃まで降
温した時の組成変化の求め方
・わかりやすくするため固溶体を形成する温度範囲を狭くする。
①x を 0.6 とする。
②Temperature を 1275℃から 1350℃とし、温度間隔を 10℃とする。この時、温度間隔を
入力しないと、結果が直線となり不正確になるので、要注意。
③Equilibrium Calc を選択する。
④Calculate を実行する。
①
②③
④
41
●計算結果の説明(Ni=0.6mol で 1350℃から 1275℃まで降温した時の固相と
液相の割合の直接表示)
・固相と液相の割合の表示をわかりやすくするため、温度を 1275℃から 1350℃に設定して
いる。
・1298℃と 1342℃の間で液相と固相が共存する。
・液相と固相の割合は、先述の「テコの原理」から求められるが、本ソフトを用いると任意
の温度での液相と固相の割合を求めることができる。
・先述の 1320℃における固相は、0.46mol であり、液相は 0.54mol 存在している。
Cu-xNi P=1.01325bar, X=0.6
CaTCalc
Temperature (C)
1340132013001280
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
固相 液相
0.46
0.54
42
●計算結果の説明(Ni=0.6mol で 1500℃から降温した時の活動度の変化)
【設定条件】
・Caluculate 画面で x に「0.6」、温度範囲を「0 1500 25」と入力し、Equilibrium Calc
を選択、Calculate クリックで計算実行する。
その後、Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Phase Activities を選択して Apply ボタ
ンをクリックする。この時、必要な Phase は「LIQUID」と「FCC_A1」「FCC_A1_#2」
である。(”Maker”にチェックすることでマークが表示されます)
・1500 度からの温度降下に伴う固相と液相の活動度の変化について説明する。
・活動度は理想溶体の場合には、1.0 となる。
・固相 1 は臨界温度の 370℃まで存在し、それ以上の温度では固相 2 のみとなる。1298℃
までは 1.0 であるが、それ以上の温度は 1.0 より以下となり、合金中には存在しない。
・液相の場合は、1342℃までは、1.0 以下であり、この系には存在しないが、それ以上の温
度では 1.0 となり、安定に存在する。
・1298℃から 1342℃までは、液相と固相(固相 1 と固相 2 は、同じ性質の金属である)が
共存する。
Cu-xNi P=1.01325bar, X=0.6
CaTCalc
Temperature (C)
15001000500
Phase A
ctivity
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
FCC_A1_#2
固相1(370℃まで) と固相2
1298℃ 1342℃
液相
43
課題 10:上記の状態図において、Ni=0.6mol における 400℃から 0℃まで降温
した時の相変化溶解度ギャップ線基に定量的に説明せよ。
●計算結果の説明(Ni=0.6mol で 300℃における 2 種類の固相の割合の求め方)
・等晶系合金において、400℃からの冷却過程において、臨界温度(Tc)は 370℃である。
この温度から溶解度ギャップ曲線を切って、固相から 2 種類の固相への変化について、上
図に示す前述の状態図をベースに説明する。
・上述の溶解度ギャップ線の状態図において、Ni=0.6mol と Cu=0.4mol である X=0.6 の組
成の合金の 300℃における 2 種類の固相の割合を求める。
・溶解度ギャップ線では、固溶体の場合と同様に、「テコの原理」で 2 種類の固相の割合が
求められる。300℃の等温線と X=0.6 の組成線が交差する点を M とする。また、300℃の等
温線と溶解度ギャップ線が交差する点をaとする。この点は、Ni=0.34mol に相当し、固相
1の組成を表す。同様に 300℃の等温線と溶解度ギャップ線が交差する点をbとする。この
点は、Ni=0.84mol に相当し、固相 2 の組成を表す。
・300℃における固相 1 の割合(WS1)は、WS1=直線(M-b)/ 直線(a-b)で求められ
る。直線 ab 上の S1 と記述される範囲である。
・同温度における固相 2 の割合(WS2)は、WS2=直線(a-M)/ 直線(a-b)で求めら
れる。直線 ab 上の S2 と記述される範囲である。
・上図を基に概略を求めると WS1=約 0.5、WS2=約 0.5 と、固相 1 と固相 2 の割合はほ
ぼ等しい。
Cu-xNi P=1.01325bar
CaTCalc
Mole fraction Ni
1.8.6.4.2
Tem
pera
ture
(C)
400
350
300
250
200
150
100
50
Tc
Ni=0.84molNi=0.34mol
S1S2
a M b
固相1と固相2
固相
44
○計算熱力学ソフトの使用方法(Ni=0.6mol における臨界温度(Tc)から降温
した時の組成変化の求め方)
・わかりやすくするため固溶体を形成する温度範囲を狭くする。
①x を 0.6 とする。
②Temperature を 0℃から 400℃とし、温度間隔を 10℃とする。この時、温度間隔を入力
しないと結果が直線となり不正確になるので、要注意。
③Equilibrium Calc を選択する。
④Calculate を実行する。
①
②③
④
45
●計算結果の説明(Ni=0.6mol で 400℃から 0℃まで冷却した時の 2 種類の固
相の割合の求め方)
(*Axis タブの”Marker” にチェックを入れると丸くマークされます)
・固相 1 と固相 2 の割合の表示をわかりやすくするため、温度を 0℃から 400℃に設定して
いる。
・臨界温度(Tc:370℃)から固相 1 と固相 2 に分離している。
・固相 1 と固相 2 の割合は、先述の「テコの原理」から求められるが、本ソフトを用いると
任意の温度での液相と固相の割合を求めることができる。
・先述の 300℃における固相 1 は、0.51mol であり、固相 2 は 0.49mol 存在している。
Cu-xNi P=1.01325bar, X=0.6
CaTCalc
Temperature (C)
400300200100
mol (ato
m)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
FCC_A1
FCC_A1_#2
固相1(S1)
固相2(S2)
0.51
0.49Tc
46
課題 11:上記の状態図において、1500℃から 1250℃まで降温した時の各相の
変化を金属組織の変化として、その概念図を図示せよ。
●Ni=0.6mol で 1500℃から 1250℃まで降温した時の t0 から t5 までの状態図
の説明
【設定条件】
・Caluculate 画面で x に「0 1」、温度範囲を「1000 1500」と入力し、Phase Diagram を
選択、Calculate クリックで計算実行する。
・Ni=0.6mol の組成の時、1500℃からの降温過程の概略を温度ごとに説明する。
・t0 は液相の状態
・t1 から t4 までは液相線と固相線の間の状態
・t5 は固相の状態
Cu-xNi P=1.01325bar
CaTCalc
Mole fraction Ni
1.8.6.4.2
Tem
pera
ture
(C)
1500
1450
1400
1350
1300
1250
1200
1150
1100
1050
1000
T1
T2
t4 t3t2 t1
t0
t5
47
●計算結果の説明(Ni(mol)=0.6 で t1、t2、t3、t4、t5 の各温度における各相
の定量的変化)
【設定条件】
・Caluculate 画面で x に「0.6」、温度範囲を「1250 1500 20」と入力し、Equilibrium
Calc を選択、Calculate クリックで計算実行する。
・各温度における各相の割合は、List タブをクリックすると以下の表が得られる。
・温度の設定の項で、自分の必要な温度が欲しい温度間隔を入力する。今回は 20℃として
いる。以下に表の説明を行う。
・液相に関する全ての情報は、上段の横長の青い線の中に表示されている。
・固相に関する全ての情報は、下段の横長の青い線の中に表示されている。
・mol(atom)は、液相と固相のモルを表している。
・Activity は、活動度である。
・Element は各相の Cu と Ni のモルを表している。
t5 t4 t3 t2 t1
液相
固相
48
●上記の計算結果の概念図(1400℃から 1330℃の範囲の金属組織の補足説明)
等晶系合金における金属の組織変化の概念図を以下に示す。あくまでも理解を助けるため
の概念図であることに留意して欲しい。それぞれの合金により組織が異なるので、このよう
に単純組織とはならない。
・t0:1400℃:温度が 1400℃の場合、完全な液相の状態であるので、液相のみが存在し、液
相中の Ni と Cu のモルは、初期のモル濃度設定(Ni=0.6mol、Cu=0.4mol)と同じ値であ
る。
・t1:1342℃:温度が 1342℃に達すると、Ni=0.6mol の組成線と液相線が初めて交差するの
で、Cu-Ni 合金の結晶核が析出し始める。ただし、この温度では液相と固相が平衡状態にあ
るので、結晶核は消滅したり、析出したりを繰り返していると予測される。上図では、僅か
ではあるが、結晶核が生成したと仮定している。結晶核の生成がなければ、液相の組成は、
初期設定の組成と同じである。もし、この温度で、結晶核が僅かでも生成すると仮定すると、
Cu-Ni 合金の結晶核の組成は Cu=0.29mol、Ni=0.71mol である。
・t2:1330℃:Cu-Ni 合金の結晶が成長を始めるので、最初の液相組成から Ni が減少する。
このため、この温度での液相組成は(Cu=0.44mol、Ni=0.56mol)となり、Cu の量が増加
する。この温度での Cu-Ni 合金の組成は、Cu=0.32mol、Ni=0.68mol である。また、液相
と固相の割合(W)は W=0.67/0.33 である。
Liguid(Cu=0.4molNi=0.6mol)
Liquid Cu-Ni 結晶L
t0:1400℃
t1:1342℃ t2:1330℃
Liguid/Solid=1.0/0.0
Liguid/Solid=1.0/0.0
Solid(Cu=0.29molNi=0.71mol)
Liguid(Cu=0.4molNi=0.6mol)
Liguid/Solid=0.67/0.33
Solid(Cu=0.32molNi=0.68mol)
Liguid(Cu=0.44molNi=0.56mol)
49
●上記の計算結果の概念図(1200℃から 1100℃の範囲の金属組織の補足説明)
・t3:1310℃:温度が 1310℃まで下降してくると、Cu-Ni 合金の結晶は、さらに結晶成長が
進み、同時に、結晶核も形成されるので Ni の量は減少し、液相の組成は、Cu=0.50mol、
Ni=0.50mol となる。この時生成する Cu-Ni 合金の組成は、Cu=0.37mol、Si=0.63mol と
なる。この時の液相と固相の割合(W)は W=0.22/0.78 である。
・t4:1298℃:この温度は液相線と固相線が交差する温度であり、純粋な Cu 金属の融点で
ある。この温度で、液相は消滅し固相のみとなる。Cu-Ni 合金の結晶の組成は、Cu=0.4mol、
Ni=0.6mol と初期設定の濃度と一致する。
・t5:1250℃:この温度では、Cu-Ni 合金の結晶のみとなり、最終的な合金の組成は、
Cu=0.4mol、Ni=0.6mol となる。
・以上のように本ソフトを用いると、融液の温度降下に伴う、金属組織の変化を、液相の組
成、並びに固相の組成をそれぞれ表示できるので、固溶体の概要を理解するうえで非常に有
益である。
L
t3:1310℃
Liguid/Solid=0.22/0.78
Solid(Cu=0.4molNi=0.6mol)
Liguid(存在しない)
Cu-Ni 結晶
Cu-Ni 結晶
Cu-Ni 結晶
t4:1298℃
Liguid/Solid=0.0/1.0
Solid(Cu=0.37molNi=0.63mol)
Liguid(Cu=0.50molNi=0.50mol)
Liguid/Solid=0.0/1.0
Solid(Cu=0.4molNi=0.6mol)
Liguid(存在しない)
t5:1250℃
50
課題 12:純粋な Cu と Ni の融解熱を求めよ。
・融解熱はエンタルピーに相当するので、先ずその求め方について説明する。
●計算熱力学ソフトの使用方法
(エンタルピー表示のための事前操作1)
①x を 0.6 とする。後で、純粋な Cu と Ni の融解熱も求める。その時は、x=0.0 と x=1.0 を
入力する。
②Temperature の項に 0 と 1500 を入力後、10℃毎に計算する場合は 10 の数字を入れる。
この温度間隔の入力は重要である。
③Equilibrium Calc を選択する。
④Calculate を実行する。
①
②③
④
51
●計算熱力学ソフトの使用方法
(エンタルピー表示のための事前操作2)
①Axis タブ-[Y-Axis]-[Variable]からプルダウンメニューを表示する。
②Energetic Quantities を選択する。
③Apply ボタンをクリックする。
●計算熱力学ソフトの使用方法
(エンタルピー表示のための事前操作3)
①Gibbs Energy の図が表示される。
②Enthalpy を選択すると以下の図が表示される。
③ ②
①
①
②
52
●先ず、最初に純粋な金属 Ni の融解熱を求める。
・上図の計算方法の説明で最初に x=1.0 して計算すると以下の図が現れる。
・上図のエンタルピー変化は、以下の式を基に求められる。ただし、この式は、一般的な熱
力学の式であり、先述のように本ソフトの計算方法とは異なるが、常圧では両者に違いは無
い。また、温度の単位は図と一致させるために℃を用いている。実際の計算の時には、温度
の単位は K に変更が必要である。Cp(S)は固体の Ni の比熱である。また、Cp(L)は Ni の液
体の比熱である。
・融解熱(ΔfusHo)の値は、List タブをクリックすると表示される。下図の表より、ΔfusHo
=64.9-47.5=17.4kJ と Ni の融解熱が求められる。
Cu-xNi P=1.01325bar, X=1
CaTCalc
Temperature (C)
15001000500
Enth
alp
y (
kJ)
60
50
40
30
20
10 ∫25
1455Cp(S)dT
∫1455
1500Cp(L)dT ⊿fusHO
⊿H1500 ∫25
1455Cp(s)dTH25 += ∫
1455
1500Cp(L)dT+ +⊿(Ni) ⊿ fusHo
53
●次に、純粋な金属 Cu の融解熱を求める。
・Ni と同様に上図の計算方法の説明で、今度は x=0.0 して、計算すると以下の図が現れる。
Cu-xNi P=1.01325bar, X=0
CaTCalc
Temperature (C)
15001000500
Enth
alp
y (
kJ)
55
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
∫25
1084Cp(S)dT
∫1084
1500Cp(L)dT
⊿fusHO
54
・上図のエンタルピー変化は、以下の式を基に求められる。Cp(S)は固体の Cu の比熱であ
る。また、Cp(L)は Cu の液体の比熱である。
・融解熱(ΔfusHo)は List タブをクリックすると表示される。下図の表より、ΔfusHo=42.6
-29.3=13.3kJ と Cu の融解熱が求められる。
⊿H1500 ∫25
1085Cp(s)dTH25 += ∫
1085
1500Cp(L)dT+ +⊿(Cu) ⊿ fusHo
55
課題 13:Cu-Ni 系合金における Ni=0.6mol 組成の融解熱を求めよ。
●Cu-Ni 合金の融解熱を求める。
・Cu-Ni 合金のエンタルピーの計算結果は上図のようになる。ここで最下段の青色の縦の
矢印の範囲で示す比熱の積分の式は、合金(Cu0.4Ni0.6)を 25℃から 1298℃まで加熱した時の
エンタルピー変化である。同様に、最上段の緑色の縦の矢印の範囲で示す比熱の積分の式は、
液相の合金を 1298℃から 1342℃まで加熱した時のエンタルピー変化である。中段の縦の
赤の矢印の範囲は、これまでの純粋な Cu と Ni の融解熱のように特定の温度で急激に変化
するケースとは異なり、温度上昇にともないゆるやかに変化している。この理由は、上図に
示すように、1298℃のエンタルピーの値と 1342℃のエンタルピーの値の差の中に、合金の
融解熱と合金の固相と液相のエンタルピー変化が含まれているからである。この温度範囲
の変化をより詳細に示すと以下の図のようになる。
Cu-xNi P=1.01325bar, X=0.6
CaTCalc
Temperature (C)
15001000500
Enth
alp
y (
kJ)
65
60
55
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
56
・合金の融解熱は、これまでの純粋な合金の融解熱のように、1342℃のエンタルピー(上段
の赤線)の値から 1298℃のエンタルピー(下段の赤線)の値を引いた値(ΔH)にはならな
い。それでは、合金の融解熱をどのように求めるかの説明を以下に行う。
ここで、上図に示すxは液相の割合を示し、(1-x)は固相の割合を示す。x は 0 から 1 まで
の値をとる。具体的には下図に示すように、1298℃から 1342℃までの温度範囲で、固相が
徐々に減少し、液相は、逆に徐々に増加している。1298℃では、固相のみであるから x=0
となる。また、1342℃では液相のみになるので、x=1 となる。このように x は温度の関数
となっている。ここで、1298℃と 1342℃の間の任意の温度を T(x)とすると、下図よりこの
温度での液相の割合を求めることができる。温度 T(x)においては、先述の ΔH は、固相の
T(x)までのエンタルピーと液相のエンタルピーと合金の融解熱の和となる。よって、T(x)に
おける合金の融解熱は、合金の T(x)までの液相のエンタルピーと固相のエンタルピーを差
し引いた値となる。もし、x=1 で液相のみであれば、合金の融解熱は、固相の 1298℃から
1342℃までのエンタルピーの変化の値を差し引いた値となる。
このように合金の融解熱は 1298℃から温度が上昇するに伴い、x の値が徐々に増加するの
で、融解熱は増加し、1342℃で最大値となる。しかし、これまでの議論は、ある程度概念的
に説明したものである。なぜなら、この温度範囲の合金は組成も変化するし、各温度での融
解熱も変化し、より複雑な現象となるため、ここでは、これ以上の議論は行わない。
Cu-xNi P=1.01325bar, X=0.6
CaTCalc
Temperature (C)
14001350130012501200
Enth
alp
y (
kJ)
60
58
56
54
52
50
48
46
44
42
40
38
T(x)
⊿H
57
●合金の温度上昇に伴う固相と液相の変化
【設定条件】
・Caluculate 画面で x に「0.6」、温度範囲を「1250 1350 50」と入力し、Equilibrium
Calc を選択、Calculate クリックで計算実行する。Axis タブで”LIQUID”のチェックを外し
ます。
・Cu-Ni 合金の場合は、純粋な金属と異なり、温度上昇にともない、固相の割合(1-x)が
減少し、液相の割合(x)が、上図に示すように、徐々に増加している。このため、1298℃
から 1342℃のエンタルピーの変化は複雑なものになる。さらに、以下に示すように合金の
固相と液相の組成も温度によって変化する。
●合金中の固相の温度変化にともなう組成変化
・計算結果の出力方法:Axis タブ-[Y-Axis]-[Variable]からプルダウンメニューを表示し、
Phase Composition を選択する。”Phase”は FCC_A1、”Fraction”は Species Fraction を選
択し、Apply をクリックする。この時、前回外した”LIQUID”はチェックをしておく。
Cu-xNi P=1.01325bar, X=0.6
CaTCalc
Temperature (C)
135013001250
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
FCC_A1
Cu-Ni合金の温度上昇に伴う固相の減少
58
・合金(Cu0.4Ni0.6)の固相中の Cu と Ni の割合は温度が上昇するにつれて、Cu の割合が
減少し、Ni の割合が増加している。また、同様に、ここでは図を示していないが、合金の
液相の組成も温度の上昇によって変化する。
・以上のように、合金の融解熱を理論的に正確に求めることは複雑になるため、先述のよう
に、ここでは詳細な議論は行わない。ただ、DTA や DSC 等の熱分析手法を用いれば、液相
と固相のエンタルピーの変化は、概略、ベースラインと近くなるため、実験的に融解熱は求
めることができる。
●参考にした文献
1)上原邦夫他:“固体の熱力学”、コロナ社(1965)
2)山口喬:“入門化学熱力学”、培風館(1971)
3)平野賢一他:“平衡状態図の基礎”丸善(1971)
Cu-xNi P=1.01325bar, X=0.6
CaTCalc
Temperature (C)
135013001250
Specie
s F
raction in F
CC_A1
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
Cu
Ni
Ni
Cu