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エネルギーとエントロピー

エネルギーとエントロピーerata.org/kagaku/kagaku6.pdf• 状態によってのみ変わる量を状態量(状態関数)という。初状態iと終状態f の差をΔを付して表せる。

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エネルギーとエントロピー

系、周囲、そして全体

系 System

外界 Surrounding

全体 Universe

やりとり エネルギー 物質

孤立系 isolated × ×

閉鎖系 closed ○ ×

開放系 open ○ ○

エネルギー(energy)とは? Youngは「仕事をする能力」と定義した。 その次元は [M L2 T-2](M: mass, L: length, T: time) SI単位系では、[J] = [kg m2 s-2]

1 kg v = 1.41 m s-1

1 Jの運動エネルギー

ジュールの実験 1 gの水の温度を1 ℃上げる熱量が1 cal。 1 kgの錘が1 m落下した時失われるのは mgh = 1 [kg] 9.8 [m s-2] 1 [m] = 9.8 [J] の位置エネルギー。 実験より、1 [cal] = 4.184 [J]:熱の仕事当量

1 kg

10 cm

1 Jの位置エネルギー

教科書

これらは開放系、閉鎖系、孤立系のどれにあてはまるだろうか?考えてみよう。

蓋をしたフラスコ 地球 蓋の閉じた魔法瓶

宇宙 細胞 電子顕微鏡内のクマムシ

開放系

開放系

孤立系

孤立系 (閉鎖系)

閉鎖系

孤立系

• 状態によってのみ変わる量を状態量(状態関数)という。初状態iと終状態fの差をΔを付して表せる。

• 状態量は、系と外界が平衡にある時に一定になる。体積V, 圧力p, 温度Tなどは状態量である。どのような経路を通っても、変化前と変化後の状態で決まる→その変化を量の前にΔを付すことで示すことができる。他に今後出てくる内部エネルギーU, エンタルピーH,エントロピー S, 化学ポテンシャルμなども状態量である。 例えば、ΔV = Vf – Vi , ΔU = Uf - Ui

• 平衡状態から変化を起こすためには、系と外界との間にエネルギーのやり取りが必要になる。そのエネルギーを経路関数という。仕事w, 熱qなど

系 初期平衡状態 i 体積Vi,圧力pi, 温度Ti

内部エネルギー Ui

系 最終平衡状態 f 体積Vf,圧力pf, 温度Tf

内部エネルギー Uf

状態変化

外界 熱 Q 仕事 W

状態量と経路関数

ΔU = Q + W 内部エネルギー変化 ΔU = Uf - Ui

内部エネルギー変化ΔUは、初期(initial)状態と最終(final)状態の内部エネルギーの差。内部エネルギーは、状態に付随する状態量(quantity of state)なので、Δが付く。

内部エネルギーとは、系全体のエネルギーから系自身の運動エネルギーと位置エネルギーを差し引いたもの。

地上で起こる事象は、概ね地球の自転・公転の運動エネルギーや位置エネルギーを考えなくても良い!

熱 仕事

例)系が外界からq = 150 J の熱エネルギーを受けて、w = 10 Jの仕事をする場合

系 System

外界 Surrounding

孤立系 Isolated system

熱溜

仕事溜

10 J

150 J

ΔU = 150 – 10 = 140 J

ΔU, Q, W 全てに正・負の値が存在する。 外界から系にエネルギーが移る場合を正 系から外界にエネルギーが移る場合を負とする。

“孤立系の内部でいかなる変化があっても、その孤立系の内部エネルギーは一定である。” “孤立系内のエネルギーはなくなったり、新しく生じたりしない。”:熱力学第一法則

ー ー = 系

熱力学の第一法則

• 熱(heat):分子の乱雑な運動を通じたエネルギー移動

• 仕事(work):分子の秩序だった運動を通じたエネルギー移動

• エネルギー、熱、仕事は等価である。

①膨張仕事 pV = p(圧力)× V(体積) ②力学的仕事 w = F(力)× L(距離) ③電気的仕事 we = E(電圧)× q(電気量) ④化学エネルギー wC = μ(化学ポテンシャル)× n(物質量) ⑤熱量 q = T(温度)× S(エントロピー)

dU = d’q + d’W =TdS − pdV + μdn + Edq + …

熱 仕事

示強変数:量で不変

示量変数:量で変化

熱→仕事: 完全に変換できるが、 仕事→熱: 完全に変換できない(エントロピー)

”熱と仕事は等価であるが、等質ではない。”:熱力学の第二法則

熱と仕事

ΔU = Q + W 孤立系では、Q = 0,W = 0であり、ΔU = 0

変化が微小量の時、 dU = δQ + δW

完全微分 (微小変化)

不完全微分 (単なる微小量)

膨張前

膨張後

外圧Pext

外圧Pext

V1

l1

V2

l2

定圧膨張 摩擦のないピストン

シリンダ内の気体が外部から熱を吸収して膨張する場合、系がする仕事wは、 すなわち したがって

w = - PextV1

V2

ò dV

dU = δQ - PdV

w = -Pext (V2 -V1)P系

P系

P系=Pextを保ちながらゆっくりと膨張(可逆的)

系の内部エネルギー変化

より深く勉強したい人はカルノーサイクルについて学ぼう!

平衡状態1

平衡状態2

P1, V1, T1

P1, V2, T2

P1

P1

高温熱源

定圧過程(P2 = P1)

熱Q

平衡状態1

平衡状態2

P1, V1, T1

P2, V1, T2

P1

P2

高温熱源

定積過程(V2 = V1)

熱Q

様々な熱力学的過程I

定圧膨張過程(A→B) 仕事は■の面積

定容過程(A→C) 仕事はゼロ

定圧過程と定容過程

定圧下の可逆過程では、ΔU = QP−PΔV

移項すると、ΔU+PΔV = Qp

ここで、定圧条件下において便利なエンタルピーHを導入する。

H ºU +PVエンタルピー(enthalpy) Hは状態量なので、

ΔH = ΔU + PΔV

圧力一定を意味する添字

ちなみに…定積(定容)変化では、W = 0なので、 ΔU = QV 体積一定を意味する添字

系に出入りする熱は系の内部エネルギー変化に等しい。

系のエンタルピー変化は、定圧条件下にて供給された熱と等しい。

エンタルピー

ΔH = H2−H1

= (U2 + P2V2)−(U1 + P1V1) = (U2 − U1) + (P2V2− P1V1) = ΔU + Δ(PV)

等温膨張過程

仕事

定圧膨張過程

Δ(PV) = □ー□ = 0 Δ(PV) = □ー□ = ■

何故定圧過程の時だけΔH = qなのか?

海風

陸風

同じ熱を与えても陸と海では温度変化が異なる:熱容量が異なる!

定容変化と定積変化でも温度変化が異なる。

定積変化

DU = q,w = 0

定積熱容量

定圧変化

CV =q

DT=

DU

DT

NA

1

2mc 2

æ

èç

ö

ø÷ =

3

2RT

DU =3

2RDT

CV =DU

DT=

3

2R

DU = q-PDV

定圧熱容量

q = DU +PDV

CP =q

DT=

3

2R+R =

5

2R

PDV = RDT

q = DU +RDT

定積過程よりも定圧過程の方が気体が温まりにくい!

ΔVが大きい気体では常にCP > CV

ΔVが小さい液体・固体ではCP ~ CV

教科書 p.123

熱容量

※液体や固体の場合は、温めても(気体の場合に比べて)ほとんど体積は増えないので、CP ≃ CV

理想気体(単原子気体)の自由度は3つの並進(x, y, z) したがって、定容モル比熱は3×(1/2)R

二原子分子(直線状分子)の場合 自由度は回転×2が追加

多原子分子(非直線状分子)の場合

しかしながら、多原子分子の場合は、計算値よりも大きなCVとCPが得られる。

熱容量の中身は?

分子 実測値CP * / J K-1mol-1

計算値CP * / J K-1mol-

1

並進・回転の自由度からの計算値

単原子気体 He 20.79

20.79 5/2R Ne 20.79

Ar 20.79

Kr 20.79

二原子気体 H2 28.82

29.10 7/2R N2 29.12

O2 29.36

多原子気体‡ CO2 37.11 29.10 (37.42†)

7/2R (9/2R†)

NH3 35.06 33.26 8/2R

CH4 35.79

*298 Kにおける値 †2つの変角振動も考慮

‡分子振動を考慮すると、CP = a + bT + cT2 + ….

代表的な気体の定圧モル熱容量

多原子分子の場合

より小さなエネルギーで励起できる変角振動が寄与する。

二原子分子の場合 振動の自由度:伸縮振動のみ 振動準位間のエネルギー差が大きい ⇩ 外界から多少のエネルギーをもらっても振動状態が励起されない (回転準位間の遷移はより小さなエネルギーで起こることを思いだそう)

原子数が多くなると寄与できる振動の自由度も多くなり、より複雑になる(固体の場合は格子振動が低エネルギーなので寄与する)。

多原子分子の熱容量

• 温度が高くなると、分子振動の熱容量への寄与は次第に大きくなる。

CH4 一般的な近似式

メタンの定圧熱容量に関する近似式

定容過程 定圧過程

熱容量の温度依存性

火鉢や七輪の中では炭が酸化して熱を放出する。

C (s, graphite) + O2(g) → CO2(g) + 393.51 kJ

木炭は黒鉛成分が85〜95 %なので、使用後にも燃えかすが残る。

固体(solid)を意味する記号 気体(gas)を意味する記号 反応熱(燃焼熱)

火鉢や七輪の中での炭の燃焼は大気圧下:燃焼熱はエンタルピー変化: 燃焼エンタルピーΔcHm (添字は燃焼combustionとモル当たりを示す)

C (s, graphite) + O2(g) → CO2(g) ΔCHm = -393.51 kJ mol-1

エンタルピーは状態量なので、 途中に複数の経路があっても、反応エンタルピーはその総和になる:Hessの法則

経路①

経路②

C (s, graphite) + O2(g) → CO2(g) ΔCHm = -393.51 kJ mol-1

C (s, graphite) + ½ O2(g) → CO(g) ΔCHm = -110.50 kJ mol-1

CO(g) + ½ O2(g) → CO2(g) ΔCHm = -283.01 kJ mol-1

経路②を足し合わせると経路①と等価になる。

熱は外部に放出される:発熱反応は負のΔH

反応熱とヘスの法則

C (s, graphite) + O2(g) → CO2(g) ΔCHm = -393.51 kJ mol-1

炭素の燃焼エンタルピーは、二酸化炭素の生成エンタルピーでもある。

標準生成エンタルピー(Standard enthalpy of formation) ΔfH° 化合物1 molが、標準状態(298.15 K, 105 Pa) で、その成分元素の単体から

生成するときのエンタルピー変化のこと。元素の単体の標準生成エンタルピーはゼロである。したがって、CO2のΔfH° = -393.51 kJ mol-1

標準反応エンタルピー(Standard enthalpy of reaction) ΔrH° 定圧反応熱は生成系と原系のエンタルピーの差に等しく、これを反応エンタルピーΔrHと呼び、特に標準状態(298.15 K, 105 Pa) における反応エンタルピーを標準反応エンタルピーΔrH°という。

標準生成エンタルピーの値から任意の反応の標準反応エンタルピーを求めることができる。

aA + bB → cC + dD (定圧)

DrH° = D

få H°(products)- Dfå H°(reactants)

= cDfH o(C)+dD

fH o(D)-aD

fH o(A)-bD

fH o(B)

標準生成エンタルピーと標準反応エンタルピー

ΔH < 0

ΔH > 0

CO(g) + ½ O2(g)

ΔfHo=-110.53

単位:kJ mol-1

メタンの燃焼 CH4(g) + 2O2(g)→CO2(g) + 2H2O(l)

ΔrHo={ΔfH

o(CO2)+2 ΔfHo(H2O)}(生成系)

−{ΔfHo(CH4)+2 ΔfH

o(O2)}(原系) =−393.5+2×(−285.8)−(−74.9)−2×0 =−890.2 [kJ mol-1]発熱反応と吸熱反応

exothermic endothermic

発熱反応と吸熱反応

分子 ΔfH

o / kJ mol-1 分子

ΔfHo / kJ

mol-1 分子 ΔfH

o / kJ mol-1

HF -271.1 CO2 -393.5 CH4 -74.9

HCl -92.31 NO2 33.18 C2H6 -84.68

HBr -36.4 O3 142.7 C3H8 -104.7

HI 26.36 SO2 -296.8 C2H4 52.30

CO -110.53 H2O -285.8 C2H2 226.73

NO 90.25 NH3 -45.94 CH3Cl -83.68

様々な気体の標準生成エンタルピーΔfH°

標準反応エンタルピーは、反応物と生成物の標準生成エンタルピーがわかれば、計算できる。→しかし、化学反応は常に室温298 Kで起こるわけではない!

298 K

1/2N2 + 3/2H2

373 K

NH3

1/2N2 + 3/2H2

NH3

ΔH1

ΔH4 ΔH2

ΔH3

室温の窒素と水素から高温のアンモニアを作る反応を考える。

ΔrH = ΔH1+ ΔH4 = ΔH2 + ΔH3

ΔrH

エンタルピーの温度依存性

ΔH = CPΔT DH = DH o + DCp298

T

ò dT

キルヒホフの法則

ΔCp = (生成系のCp総和)ー(原系のCp総和)

反応エンタルピーの温度依存性

ΔH1 = CPΔT =29×(1/2+3/2)×(373-298)=4350 J mol-1

窒素と水素のCP 水素の物質量

窒素の物質量

NH3のCp = 35 J K-1 mol-1だが、多原子分子の場合は温度依存性が顕著になる:

Cp = 29.7 + 0.025T

ΔH2 = ΔfHo(NH3) = -45.94 kJ mol-1

ΔrH = 4350 + ΔH4 = 2860-45940 = -43.08 kJ mol-1

ΔH4 = -47.43 kJ mol-1

反応エンタルピーの温度依存性

ΔH < 0 ΔH > 0

CO2(g) → C(s, graphite) + O2(g) ΔrHo = +393.5 kJ mol-1

二酸化炭素を黒鉛に戻せるか?

地球の大気は安定なのか?

½ N2(g) + ½ O2(g) → NO(g) ΔrHo = +90.25 kJ mol-1

どちらも自発的には起こらないことが予想される。

果たしてΔHだけで判断して良いのだろうか?

現象・反応の行き着く先はエンタルピーだけでわかるのか?

溶解エンタルピーΔHo =+28 kJ mol-1 >0(吸熱反応)

しかし、常温でも反応は自発的に進行し、冷却パックは周囲の熱を奪ってゆく。 エンタルピーの正と負では説明できない何かを考える必要がある!

エントロピー

硝酸アンモニウムの水和 NH4NO3 (s) →NH4+(aq) + NO3

− (aq)

不可逆

冷却パック(硝酸アンモニウムの溶解)

NO2が増えてくると、N2O4 (g) ⇄ 2NO2(g)

しかし、分解反応は自発的に進行し、無色からNO2の赤褐色を呈す。NO2過剰で逆反応が起こり、平衡に達する。 エンタルピーの正と負では説明できない何かを考える必要がある!

エントロピー

N2O4 (g) →2NO2(g) ΔrHo =+57.5 kJ mol-1 >0(吸熱反応)

ΔfHo(N2O4 (g)) = 9.16 kJ mol-1 ΔfH

o(NO2 (g)) = 33.18 kJ mol-1

四酸化二窒素の分解

真空

V, p, T 2V, 1/2p, T

断熱過程なので q = 0

自由膨張なので w = 0

したがってΔU = 0

エンタルピーの変化量ΔHもゼロ

しかし、気体は真空に向かって膨張し、再び元の平衡状態には戻らないし、一旦平衡に達したぬるま湯の温度を、再び元の冷水と熱湯の状態には戻せない。 内部エネルギーやエンタルピーでは説明できない何かを考える必要がある!

エントロピー

V, T1 2V, Te V, T2

熱湯 冷水 ぬるま湯

断熱混合なので q = 0

混合なので w = 0

したがってΔU = 0

エンタルピーの変化量ΔHもゼロ

断熱自由膨張と断熱混合

• 第1法則「エネルギーはなくなったり、新しく生じたりすることはない」

• 第2法則「熱をすべて仕事に変換することはできない」

• 第3法則「絶対零度では物質のエントロピーはゼロになる」

第0法則「AとBが熱平衡をなし、BとCが熱平衡をなすとしたら、AとCは熱平衡をなす」

熱力学の法則

学習内容:反応の進行方向を決める要因は?

なぜ、氷はちょうど0℃で液体になるのか?

化学反応

相転移

反応の進む向きは何で決まるのか? なぜ、吸熱反応でも自発的に起こることがあるのか?

自由エネルギー 化学ポテンシャル

エントロピー (エンタルピーとは別物)

到達目標:

エントロピー、自由エネルギー、化学ポテンシャルを「定性的に」理解し、反応の進む方向を説明出来る。

エントロピーと自由エネルギー

反応が自発的に進む向きは、エンタルピーだけでは 説明出来ない。何か別の要因があるはず!?

例: 吸熱反応(⊿H>0) なのに自発的

系の乱雑さが増加!

(吸熱反応なら例外なし)

エントロピー S (J/K)

>0℃

熱力学、統計力学で定義されるパラメーターで、 (誤解を恐れずに言えば)系の乱雑さの度合い

エントロピーとは?

自然界は、エントロピーが増える(乱雑になる)のを好む

仕切り除去

理由:確率的に、そうなりやすいから

× エンタルピー的には不利

こおり

>0℃

◎ エントロピー的には有利

⇒自発的に起こる

ある反応が自発的に起こるかどうかは、 エンタルピーとエントロピーの兼ね合いで決まる

エントロピーとは?