6
Ⅰ.はじめに 腰部は上半身の荷重を支え、全身の動作や姿勢の 制御を司る。すなわち、腰部はヒトが二足歩行で生 活を営む上で、文字通り「要」となる部位である。 その一方で、多くの者が腰部の痛み、すなわち腰痛 を訴える。厚生労働省による平成22年度国民生活基 礎調査 1によれば、男性における腰痛の有訴者率は 肩こり等の他の有訴症状と比較して最も高く、人口 千人中89.1人であった。女性の有訴者率は肩こりに 次いで第 2 位であり、有訴者率は千人中117.6人で あった。また、腰痛を理由として通院する者の割合 は、男性では人口千人中40.4人、女性では57.5人で あり、通院理由としては男性で第 5 位、女性では第 4 位であった。成人の約80%が一生に 1 回は酷い腰 痛を経験するとの報告もあり 2、腰痛は非常に身近 な症状である。腰痛は、症状が強くなると運動や歩 行などの日常的な動作に支障をきたすようになり、 重篤な例では車椅子を用いなければならなくなるこ ともある。このように、腰痛は生活の質(QOLを低減させる非常に身近な要因であり、腰痛への適 切な対処は、我々が健やかな生活を送るうえで重要 である。 腰痛への対処としては、薬物療法、脊椎マニピュ レーション、適度な運動療法が有効であるとされて いる 3。しかしながら、腰痛のうち85%は器質的変 化と症状とが結びつかない非特異的腰痛であるとさ れており 2、明確な診断や治療方針の決定が困難な 症状でもある。このような状況下において、先述し 3 種の治療法以外にも、腰痛に対して経験的もし くは民間療法的に用いられる治療法や技法が存在す る。こうした技法の腰痛に対する有効性が示されれ ば、腰痛治療に新たな選択肢を与えることに繋がる。 日本統合医療学会誌 第 5 巻第 1 号(20121 要 旨: 筋緩消法が腰痛に及ぼす影響について検討した。腰痛を自覚する健常な男女15名が試験に参加した。試験参加者に対 し、腰部右側部分に筋緩消法の施術を10分間実施し、その前後で生体組織硬度計を用いて筋硬度を測定し、腰痛の自 覚症状を記入させた。その結果、筋硬度が有意に低下し(ps<0.033)、「腰の痛み」(p=0.013)、「体の動きやすさ」 p<0.001)、「体の軽やかさ」(p<0.001)と言った、腰痛に関する自覚症状が有意に改善した。以上より、第二著者 考案の筋緩消法は、腰背部の筋緊張を軽減し、腰痛の自覚症状を改善する可能性が示唆された。 ABSTRACT: In the present study, we have investigated the effect of the Kanshoho, which is one kind of maneuver developed by the second author, on the low back pain (lumbago). Fifteen male and female volunteers, who feel low back pain (lumbago) daily, participated in the present study. The first author performed the Kanshoho to participants for 10 minutes, and we studied the hardness of lower back muscles using the tissue hardness meter PEK-1, and subjective symptoms which got involved with low back pain (lumbago), before and after performing Kanshoho. After having performed, the hardness of lower back muscle significantly reduced (ps<0.033), and the subjective symptoms, such as “low back pain (lumbago)” (p=0.013), “the mobility of one’s body” (p<0.001), and “the lightness of one’s body” (p<0.001), significantly improved. In summary, our results suggest that the Kanshoho could reduce the muscle tightness of low back, and indicated that Kanshoho might reduce low back pain (lumbago). Key Words: Kanshoho, lower back pain (lambago), hardness of lower back muscle 筋緩消法が腰背部筋緊張および腰痛に及ぼす影響 The effect of Kanshoho on the low back pain (lumbago) ********** ***・ ***・ **** Tsuyoshi TAKARA Koji SHIIZUKA Naoko SUZUKI Kazuo YAMAMOTO Takashi SAKATO Hirozumi SAKAGUCHI * 坂口治療室  ** 社団法人日本健康機構  *** 株式会社オルトメディコ  **** 医療法人社団盛心会 タカラクリニック

筋緩消法 が腰背部筋緊張 および 腰痛 に及ぼす 影響 · 自主性 について 十分 な説明 を行い、 試験参加 につい て同意 をした 者のみを

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Page 1: 筋緩消法 が腰背部筋緊張 および 腰痛 に及ぼす 影響 · 自主性 について 十分 な説明 を行い、 試験参加 につい て同意 をした 者のみを

Ⅰ.はじめに

腰部は上半身の荷重を支え、全身の動作や姿勢の制御を司る。すなわち、腰部はヒトが二足歩行で生活を営む上で、文字通り「要」となる部位である。その一方で、多くの者が腰部の痛み、すなわち腰痛を訴える。厚生労働省による平成22年度国民生活基礎調査1)によれば、男性における腰痛の有訴者率は肩こり等の他の有訴症状と比較して最も高く、人口千人中89.1人であった。女性の有訴者率は肩こりに次いで第 2 位であり、有訴者率は千人中117.6人であった。また、腰痛を理由として通院する者の割合は、男性では人口千人中40.4人、女性では57.5人であり、通院理由としては男性で第 5 位、女性では第

4 位であった。成人の約80%が一生に 1 回は酷い腰痛を経験するとの報告もあり2)、腰痛は非常に身近な症状である。腰痛は、症状が強くなると運動や歩行などの日常的な動作に支障をきたすようになり、重篤な例では車椅子を用いなければならなくなることもある。このように、腰痛は生活の質(QOL)を低減させる非常に身近な要因であり、腰痛への適切な対処は、我々が健やかな生活を送るうえで重要である。

腰痛への対処としては、薬物療法、脊椎マニピュレーション、適度な運動療法が有効であるとされている3)。しかしながら、腰痛のうち85%は器質的変化と症状とが結びつかない非特異的腰痛であるとされており2)、明確な診断や治療方針の決定が困難な症状でもある。このような状況下において、先述した 3 種の治療法以外にも、腰痛に対して経験的もしくは民間療法的に用いられる治療法や技法が存在する。こうした技法の腰痛に対する有効性が示されれば、腰痛治療に新たな選択肢を与えることに繋がる。

日本統合医療学会誌 第 5 巻第 1 号(2012)

1

原 著

要 旨: 筋緩消法が腰痛に及ぼす影響について検討した。腰痛を自覚する健常な男女15名が試験に参加した。試験参加者に対し、腰部右側部分に筋緩消法の施術を10分間実施し、その前後で生体組織硬度計を用いて筋硬度を測定し、腰痛の自覚症状を記入させた。その結果、筋硬度が有意に低下し(ps<0.033)、「腰の痛み」(p=0.013)、「体の動きやすさ」

(p<0.001)、「体の軽やかさ」(p<0.001)と言った、腰痛に関する自覚症状が有意に改善した。以上より、第二著者考案の筋緩消法は、腰背部の筋緊張を軽減し、腰痛の自覚症状を改善する可能性が示唆された。

ABSTRACT: In the present study, we have investigated the effect of the Kanshoho, which is one kind of maneuver developed by thesecond author, on the low back pain (lumbago). Fifteen male and female volunteers, who feel low back pain(lumbago) daily, participated in the present study. The first author performed the Kanshoho to participants for 10minutes, and we studied the hardness of lower back muscles using the tissue hardness meter PEK-1, and subjectivesymptoms which got involved with low back pain (lumbago), before and after performing Kanshoho. After havingperformed, the hardness of lower back muscle significantly reduced (ps<0.033), and the subjective symptoms, such as“low back pain (lumbago)” (p=0.013), “the mobility of one’s body” (p<0.001), and “the lightness of one’s body”(p<0.001), significantly improved. In summary, our results suggest that the Kanshoho could reduce the muscletightness of low back, and indicated that Kanshoho might reduce low back pain (lumbago).

Key Words: Kanshoho, lower back pain (lambago), hardness of lower back muscle

筋緩消法が腰背部筋緊張および腰痛に及ぼす影響The effect of Kanshoho on the low back pain (lumbago)

***・ ***・ ****

***・ ***・ ****髙 良   毅Tsuyoshi TAKARA

椎 � 詰 仁Koji SHIIZUKA

鈴 木 直 子Naoko SUZUKI

山 本 和 雄Kazuo YAMAMOTO

坂 戸 孝 志Takashi SAKATO

坂 口 廣 純Hirozumi SAKAGUCHI

* 坂口治療室 ** 社団法人日本健康機構 

*** 株式会社オルトメディコ **** 医療法人社団盛心会 タカラクリニック

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日本統合医療学会誌 第 5 巻第 1 号(2012)

2

本試験では、腰痛に対する新しい治療技法のひとつである筋緩消法4)について、その有効性を検証した。

第二著者は、腰痛を自覚する者に対して筋肉の過緊張を軽減することを目的として筋緩消法4)を実施してきた。これまでに、筋緩消法を施術された者からは痛みが軽減したという感想は得られているものの、腰痛への有効性を明確に示すエビデンスは未だにない。

そこで、本試験では、筋緩消法が腰痛の一症状である腰部筋緊張に及ぼす影響を検討した。非特異的な腰痛を発症している男女に対し筋緩消法を実施し、その前後における腰部筋肉の緊張を定量的に評価する筋肉の硬度(筋硬度)を測定し客観的指標とした。一方、腰痛の自覚症状やリラックス等、試験参加者の主観的な反応を検討するため、VisualAnalogue Scale5)を用いて評価した。さらに、抗酸化能検査や血液検査を実施し、筋緩消法の安全性についても検討した。

Ⅱ.対象と方法

1.試験デザイン本試験はオープントライアル試験であった。

2.試験参加者腰痛を自覚する男女15名が参加した。男性 7 名、

女性 8 名であり、平均年齢は47.9±13.4歳であった。

3.倫理的配慮試験の実施に際し、医療法人社団盛心会タカラク

リニックの倫理委員会(委員長 髙良 毅)の承認を受け、ヘルシンキ宣言(1964年採択、2008年修正)の趣旨に則り実施した。試験への参加希望者に対し、事前に試験の目的、実施方法、および試験参加への自主性について十分な説明を行い、試験参加について同意をした者のみを試験参加者とした。試験参加への同意は、文書にて記録した。

4.施術技法第二著者考案の筋緩消法4)を実施した。試験参加

者は立位にて施術を受けた。施術者の右拇指を試験参加者右側背部(腸骨稜の高さ)に、右示指から第5 指を腹側施術箇所に当て(図 1 −上)、試験参加者に側屈運動をさせた(図 1 −下)。施術の進行に伴い、指をあてる位置は、上下方向へと適宜変更した(図 1 )。

施術は、左右の腸骨稜を結んだ線上の右側部分のうち腹側近傍(図 2 :測定箇所 3 )に対して実施した。筋緩消法の施術は、柔道整復師の有資格者である第一著者が実施した。施術時間は10分であった

(図 2 )。

5.測定項目1)腰部筋硬度

筋緊張の程度を測定するために、生体組織硬度計

図1 施術風景

図2 測定箇所および施術箇所写真は、ヒトの腰背部を右側から撮影したものである。

測定箇所1

測定箇所2

測定箇所3

(

施術箇所)

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3

PEK-1(株式会社井元製作所製)を用いて筋硬度を測定した。PEK-1は、 2 つのばねの弾性の違いを利用して、筋肉の硬度を測定する。筋硬度は 0 〜100の値をとり、筋硬度が高いほど筋肉が固いことを意味する。

試験参加者ごとに 3 か所の測定箇所を設けた。図2 に測定箇所を示す。測定箇所は、左右の腸骨稜を結んだ線上の右側部分であり、脊椎に近い場所から順に、測定箇所 1 、測定箇所 2 、測定箇所 3 とした。各測定箇所につき、筋硬度を 3 回ずつ測定し、その平均値をその測定箇所の筋硬度の値とした。2)主観的反応

腰痛の自覚症状やリラックス等、試験参加者の主観的な反応を検討するため、試験参加者の主観的な疲労や腰痛に関する項目についての評価を行った。評価項目は「疲労回復度」「肉体的ストレス」「精神的ストレス」「腰の痛み」「リラックス状態」「体の動きやすさ」「体の軽やかさ」であり、Visual AnalogueScale(VAS)5)を用いて評価した。3)抗酸化能

血中の酸化ストレスは、d-ROMs(Diacron-Reactive Oxygen Metabolites)により、生体の抗酸化力は、BAP(Biological Antioxidant Potential)により、それぞれ評価した。d-ROMsは、血中のヒドロペルオキシド(ROOH)の濃度を測定することで、生体内の酸化ストレスを総合的に評価することが可能である6)。BAPは、血漿中抗酸化物質が活性酸素に電子を与え、酸化反応を止める還元能力を計測し、抗酸化力を評価する7)。d-ROMsおよびBAPは、活性酸素・フリーラジカル自動分析装置(Free RadicalAnalytical System:FRAS、株式会社ウィスマー製)を用いて測定した。また、生体の抗酸化能を総合的に評価するために、修正BAP/d-ROMs比を算出した8)。修正BAP/d-ROMs比は抗酸化バランスを表し、BAPをd-ROMsで除算し、それを更に7.541で除算したものである。この数値が高いほど酸化ストレスからの防御が有効な状態であることを意味する。4)血液検査筋緩消法の身体への影響を検討するため、血液学

検査および血液生化学検査を実施した。血液学検査、血液生化学検査共に、三菱化学メディエンス株式会社に委託した。

血液学検査の検査項目は、白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球色素量(MCH)、平均赤血球色素濃度(MCHC)および白血球像であ

った。また、白血球像の結果値を白血球数に乗算することで、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球の数についても検討を行った。

血液生化学検査の検査項目は、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ -GTP、ALP、LD(LDH)、LAP、総ビリルビン、コリンエステラーゼ、ZTT、総蛋白、尿素窒素、クレアチニン、尿酸、CK、カルシウム、血清アミラーゼ、グルコース、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、遊離脂肪酸の22項目であった。

6.試験方法試験は、医療法人社団盛心会タカラクリニックに

て実施した。試験参加者に対し筋緩消法を10分間実施し、その前後で5. 測定項目に記載した検査項目を測定した。施術後の採血は施術直後に実施したが、施術前の採血から施術までの間には、他の検査項目の実施や施術の待ち時間など、30分弱の空き時間があった。そのため、 2 回の採血の間には40分程度の間隔があった。

7.統計解析筋硬度およびVASについて、筋緩消法の影響を検

討するため、Wilcoxonの順位和検定を用いて摂取前と摂取後の検査値を比較した。各検査項目について、施術前の検査値と施術後の検査値との間に変化がないと言う帰無仮説の検証を行い、帰無仮説が棄却された場合に有意差があると判定した。統計解析にはIBM SPSS Ver. 18.0を使用した。有意水準を 5 %とし、両側検定で有意確率 5 %未満(p<0.05)を有意差あり、有意確率 5 %以上10%未満(p<0.10)を傾向差ありと判定した。また、抗酸化能および血液検査については安全性の検討に留めた。

Ⅲ.結 果

1.筋硬度表 1 に、施術前および施術後における筋硬度につ

いて、平均値と標準偏差を示す。筋硬度の全試験参

表1 筋硬度(平均値±標準偏差)

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4.血液検査表 4 に施術前および施術後における血液検査の結

果について、平均値と標準偏差を示す。施術後に、白血球亜種のうち、リンパ球数と好中球数が上昇する傾向にあり、ASTやALTをはじめとする肝機能マーカーが上昇する傾向にあったが、いずれも基準値内の変動であった。また、総コレステロールおよび遊離脂肪酸の平均値は施術後に基準値を超えて高値を示したものの、施術前の段階からそれぞれ 5 名ずつが検査基準値を超過しており、その他の脂質マー

表2 主観的反応(平均値±標準偏差)

表3 抗酸化能(平均値±標準偏差)

加者での平均値は、測定箇所 1 において52.8から50.4へ(p=0.033)、測定箇所 2 では33.2から30.6へ(p=0.004)、測定箇所 3 では30.6から27.3へ(p<0.001)、いずれも有意な低下を示した(表 1 )。

2.主観的反応表 2 に、施術前および施術後における主観的反応

について、平均値と標準偏差を示す。施術前と施術後との間に有意差が認められた項目は、疲労回復度(p=0.002)、肉体的ストレス(p<0.001)、精神的ストレス(p<0.001)、腰の痛み(p=0.013)、リラックス感(p=0.001)、体の動きやすさ(p<0.001)、体の軽やかさ(p<0.001)であり、いずれも改善していた(表 2 )。

3.酸化ストレス・抗酸化能表 3 に、施術前および施術後における酸化ストレ

スおよび抗酸化能について、平均値と標準偏差を示す。d-ROMsの基準値は200U.CARR〜300U.CARRであり、施術後に基準値を超過する被験者が若干名散見された。BAPの基準値は2200μmol/l以上であり、施術前に若干低目だったBAP値が、施術後に大きく上昇した。修正BAP/d-ROMs比は、 1 を超えていると抗酸化機能が上手く働いていることを意味する。修正BAP/d-ROMs比は低下する傾向にあったものの、施術後にも 1 を超えており、抗酸化バランスは良好であった(表 3 )。

表4 血液検査(平均値±標準偏差)

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カーの値も施術前の段階から全般的に高値を示す者が多かった(表 4 )。

Ⅳ.考 察

本試験の目的は、筋緩消法の腰部筋緊張に対する効果を検討することであった。

筋緩消法では、筋肉内の老廃物が正常に排出されないために腰痛が生じると考える。すなわち、腰部の筋肉が過度に緊張することによって筋肉内の血管が圧迫され、老廃物の排出が妨げられ、それが筋肉の更なる緊張を生むという悪循環が生じる。西洋医学的病態に於ける椎間板ヘルニア、脊椎管狭窄症、圧迫骨折など原因の特定されない非特異的腰痛、すなわち椎間板、椎間関節、仙腸関節、背筋などの腰部組織に原因の可能性がある腰痛を対象としている。筋緩消法の施術4)において、被施術者は立位にて施術を受ける。施術者の右拇指を試験参加者右側背部(腸骨稜の高さ)に、右示指から第 5 指を腹側施術箇所に当て(図 1 −上)、被施術者に側屈等の運動をさせる。このような方法で、背側筋群(広背筋、下降鋸筋)や腹側筋群(外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)を緊張状態(収縮状態)にしたり弛緩状態にしたりしながら、腰背部の筋肉の狭い範囲に圧力をかけることで、腰部筋肉の過緊張を軽減する。この「被施術者を立位の状態で施術を受け且つ運動をさせながら、筋肉に圧力をかける」点が本法の特徴ある。従って、骨格の歪みを圧迫や牽引により矯正して筋肉痛を解消するカイロプラクティックと異なる。また、ストレイン・カウンターストレイン法は筋肉群の緊張部位を緩めた状態で固定することで、緊張した筋肉と拮抗筋とのバランスをとる事で筋肉群の過緊張を軽減する。何れの方法も施術時間は30分要するのに対して筋緩消法は10分で腰痛が軽減される。筋緩消法の普及啓発や筋緩消法技師の育成及び認定は、社団法人日本健康機構が実施している。

筋硬度は、 3 か所の測定点のいずれにおいても、施術により有意に低下した。このことは、腰部の筋肉が施術により柔らかくなったことを意味しており、筋緩消法が腰部の筋緊張を解す作用があることが客観的に証明された。主観的反応については、測定した 7 項目すべてに

おいて有意な改善が認められた。特に「体の動きやすさ」においては2.5点から5.4点へと、「体の軽やかさ」においては2.5点から5.6点へと、それぞれ施術前比100%以上の改善を示した。筋硬度の結果と考え合わせると、筋緊張が解れたことで腰の可動域が

増え、そのことが体の動きやすさや軽さの実感へと繋がったのではないかと考えられる。また、「腰の痛み」においても3.0点から4.4点へと施術前比47.7%の有意な改善を示したことから、筋緩消法が腰痛を軽減しうる可能性が示唆された。

酸化・抗酸化マーカー及び血液検査においては、酸化ストレスおよび抗酸化力がいずれも上昇する傾向を示したものの、両者のバランスは保たれていた。脂質マーカーが高値を示す傾向にあったが、施術前から高値を示す者が多かったことから、施術による重篤な変動ではないと考えられた。総じて、酸化・抗酸化マーカーおよび血液検査の結果からは、重篤な体調変化を来した被験者は認められず、筋緩消法の施術による副作用は認められなかった。

Ⅴ.まとめ

本試験の結果より、筋緩消法により腰部筋緊張が軽減し、腰痛が改善する可能性が示唆された。また、本試験においては、筋緩消法によると考えられる重篤な副作用は認められなかった。以上より、筋緩消法は、腰部筋緊張や腰痛の軽減に対して有効であり、かつ副作用の少ない安全な手技療法である可能性が示唆された。今後は、対照条件を用いた比較試験を実施することで、より精度の高いエビデンスを積み重ねることや、腰痛以外の症状への適用可能性について検討することが望まれる。これらに加え、教育体系を構築し整備することで、筋緩消法は科学的な施術技法として広く実施される可能性を秘めていると言える。

謝 辞

本試験の実施にあたり、特定非営利活動法人日本健康事業促進協会理事長の橋本政和氏から多大なるご支援を頂きました。記して篤く感謝いたします。

文 献

1 )厚生労働省:平成22年度国民生活基礎調査の概況.http: //www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/dl/gaikyou.pdf 2011: 22-23.

2 )坪内俊二:腰痛の一般診断.医学の歩み 1997;180:570-574.

3 )伊藤俊一,他:腰痛症・その他の脊椎疾患の理学療法における課題と今後の展望.理学療法2000;17:35-38.

4 )坂戸孝志: 9 割の腰痛は自分で治せる.株式会社中経出版,東京,2011.

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5 )Aitken R.C.B: Measurement of feeling usingvisual analogue scales. Proc. R. Soc. Med. 1969;62: 89-993.

6 )関泰一:d-ROMsテストによる酸化ストレス総合評価.生物試料分析 2009;32:301-306.

7 )Dohi, K., et al.: Elevated plasma levels ofbilirubin in patients with neurotrama in patientswith neurotrauma reflect its pathophysiologicalrole in free radical scavending. In Vivo 2005; 19:55-860.

8 )永田勝太郎,他:生活習慣病と酸化ストレス防御系.Jpn J Psychosom Med 2008;48:177-183.

日本統合医療学会誌 第 5 巻第 1 号(2012)

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▶著 者 略 歴◀坂口 廣純坂口治療室 院長1975年 関東逓信病院1978年 大東医学技術専門学校1982年 柔道整復師2011年 筋緩消法認定技術者

i 責任著者連絡先〒152-0023 東京都目黒区八雲 1−5−6−202

坂口治療室Email:[email protected]

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