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特殊学級 50 年の歩みと今後の特別支援教育 はじめに 平成13年1月「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」 (1) が発 表され、21世紀の特殊教育の方向が、特別支援教育として提言された。 この報告、提言を受けて、特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者 会議において審議が行われ、平成 15 年 3 月に「今後の特別支援教育の在り 方について(最終報告)」 (2) が、公表された。この報告を基に特殊教育から 特別支援教育への移行が始まったのである。 この機に、特殊学級 50 年の歩みを振り返り、新たな特別支援教育の在 り方について、検討を加えたいと考えた。 墨田プランを柱に展開されてきた墨田区の特殊学級 50 年の歩み、中野 区立桃園小学校ひまわり学級(特殊学級)の 50 年の実践をもとにまとめ ることとする。 1. 東京都における特殊学級設置の形態 東京都における昭和 21 年(1946)~ 28 年(1953)の特殊学級の設置の 状況は、別表 1 (3) のようである。 昭和 21 年、渋谷区立大和田小学校に特殊学級が設置され、新しい教育 制度のもとで、知的障害児の教育が始まったのである。 当時の特殊学級の設置の形態は、区市により異っており、次のようにま とめることができる。 ―1― 帝京大学文学部紀要教育学 29 :1 30(2004)

特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育 - teikyo …特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育 大南英明 はじめに 平成13年1月「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」(1)

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Page 1: 特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育 - teikyo …特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育 大南英明 はじめに 平成13年1月「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」(1)

特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

大 南 英 明

はじめに

平成13年1月「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」(1) が発

表され、21世紀の特殊教育の方向が、特別支援教育として提言された。

この報告、提言を受けて、特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者

会議において審議が行われ、平成15年3月に「今後の特別支援教育の在り

方について(最終報告)」(2) が、公表された。この報告を基に特殊教育から

特別支援教育への移行が始まったのである。

この機に、特殊学級50年の歩みを振り返り、新たな特別支援教育の在

り方について、検討を加えたいと考えた。

墨田プランを柱に展開されてきた墨田区の特殊学級50年の歩み、中野

区立桃園小学校ひまわり学級(特殊学級)の50年の実践をもとにまとめ

ることとする。

1. 東京都における特殊学級設置の形態

東京都における昭和21年(1946)~28年(1953)の特殊学級の設置の

状況は、別表1(3) のようである。

昭和21年、渋谷区立大和田小学校に特殊学級が設置され、新しい教育

制度のもとで、知的障害児の教育が始まったのである。

当時の特殊学級の設置の形態は、区市により異っており、次のようにま

とめることができる。

― 1 ―

帝京大学文学部紀要教育学 29:1-30(2004)

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(1)小学校の特殊学級の設置から

小学校の特殊学級をまず設置し、次に中学校の特殊学級を設置する形態

で、渋谷区、足立区、江東区、千代田区、葛飾区、台東区、品川区、板橋

区、北区、目黒区が、この形態をとっている。

(2)墨田プラン(計画設置)による(図1)

墨田区は、小学校の特殊学級から設置しているが、(1)の区とは異なり、

区内を4つの地域に分け、それぞれに小学校の特殊学級を同時に開級する

という、当時としては画期的な計画設置を実施している。

(3)小学校、中学校の特殊学級を同時に設置

杉並区は、済美小と大宮中に、中野区は桃園小と第七中に、豊島区は、

大塚台小、長崎小と区立中学校、八王子市は、第二小と第三中に同時に特

殊学級を設置している。

このうち、杉並区立済美小学校、大宮中学校の特殊学級は、小・中学校

が同じ場所に設置され、済美学園と呼ばれた。(現杉並区立済美養護学校)

小学校と中学校の特殊学級が、同じ場所に設置される形態は、いくつか

の区市で行われた。

例 千代田区立神竜小学校、一橋中学校

(神竜小学校に設置)

文京区立礫川小学校、文京第九中学校

(「あおば学園」)

新宿区立四谷第七小学校、四谷第二中学校

(「新苑教室」四谷第七小学校)

また、千代田区、墨田区、豊島区などのように、小学校の中に、中学

校の特殊学級を一時的に設置し、中学生を指導していた例もみられる。

― 2 ―

大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

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― 3 ―

帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

昭和21年 渋谷区立大和田小

(1946)

22 世田谷区立砧小 品川区立大崎中分教場

(1947)

23

(1948)

24 足立区立関原小

(1949) 江戸川区立小岩小

江東区立元加賀小

千代田区立神竜小

葛飾区立柴又小

25 台東区立黒門小 東京都立青鳥

(1950) 杉並区立済美小 杉並区立大宮中 中学校

26 千代田区立中*

(1951) 江東区立深川第四中

27 品川区立中延小 千代田区立一橋中*

(1952) 渋谷区立西原小

板橋区立板橋第二小

台東区立金竜小

28 北区立滝野川小 足立区立第七中

(1953) 墨田区立外手小

 同 緑小

 同 第二寺島小

 同 第三寺島小

目黒区立碑小

中野区立桃園小 中野区立第七中

豊島区立大塚台小 豊島区立西巣鴨中*

 同 長崎小

八王子市立第二小 八王子市立第三中

昭和32年

都立青鳥養護

学校

別表 1

東京都における特殊学級設置の状況

1946-1953

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― 4 ―

大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

3

48

6

5

2

1

7

図 1

墨田区の特殊学級の設置

1 緑小

2 外手小

3 第二寺島小

4 第三寺島小

5 本所中

6 吾嬬第一中

7 堅川中

8 寺島中

_

`

a

bb

bb

2

2

昭和28年

29年

30年

(大南作図 2003)

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2. 特殊学級の経営

開設当初の特殊学級の経営については、墨田区の様子を「東京の精神薄

弱教育―戦後のあゆみ―」(4) より引用すると次のようである。

(1)合同運営、合同学習

28年5月、外手小、緑小、6月に二寺小、三寺小の開設が行われ、

墨田区における本格的な精薄児教育がはじまった。

① 薄弱の原因を調査し、それに対する対策をたて、実態を正確に把

握して、個人の能力に即応した個別指導をする。

② 学力中心の考えをやめ、生活能力社会的経済的自立を将来得さし

めるようにする。但し、基礎学力の指導は、単元展開の各場面で徹

底して行なう。

③ 従って、生活指導を中心として知識を広めるよう態度の育成に重

点をおく―生活訓練―

④ 職業人としての自立ということから職業的基礎訓練や精神的、身

体的な健康指導が要求されてくる。

このような4校共通の指導方針のもとに、カリキュラムが組まれ、

学級の経営が進められた。

墨田プランを確立するには、どうしても4校が緊密に協力すること

が必要であった。発足当初、4人の担任にとって、4校が歩調をそろ

え、協力しあうことは、当然のことであり、また、どうしても欠くこ

とができないことであった。担任会はもちろん、父兄会も合同でもち、

子供会、水泳、入浴指導、遠足、宿泊学習など、最初の年とはいえ、

10回以上の合同の学習がもたれた。とくに宿泊学習については、全員

が、区費による負担で参加し、出発に際しては、関係者はもちろん、

地域の人々からも支援を受けた。

― 5 ―

帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

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この文章にもあるように、墨田プランは、計画設置と合同運営・合同学

習であり、特殊学級が設置された後は、合同運営・合同学習が重要となる。

教員、児童にとどまることなく、保護者(父母)会も4校合同で実施する

など、合同運営・合同学習の徹底を目ざしていることが分かる。

経営の基本方針の中には、個別指導を明記し、生活中心の教育を明確に

している。そして、社会的自立、職業的自立(経済的自立)を小学校段階

から目ざすことを共通の目標としている。

このことは、現代の知的障害教育にも通じる重要な基本的な考え方であ

る。

(2)作業活動を中心とした経営

千代田区立神竜小学校の学級経営の考え方は、次のようである。(5)

開設当初より「将来、各自の能力に応じた幸福な独立生活を営むた

めに、その基礎をつくることが当教育の最大眼目の一つである。」と

うたい、さらに「特殊教育は結局はこの職業教育へ帰着すべきもので

はないであろうか。」といって、つぎのような作業を小学生より指導

していたのである。

1 造花の製作作業

花環に使う造花の製作で作業が簡単で、需要が多く、家庭内職

として適当であった。

製作過程 (1)花型の打抜き (2)焼こてあて (3)焼芯付け

(4)軸付け の4段階を流れ作業的にやった。

2 ミシン縫工作業

3 編物

これらの指導にあたって、造花の売上金は学級費とした。児童には、

仕上げた品物については、賃金を学級内発行のお金で支払い、買物、

貯金など経済生活の指導をした。

― 6 ―

大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

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千代田区立神竜小学校の特殊学級では、日常生活の基礎となる能力、職

業生活を目ざした教育を明確にした目標を設定して、指導に当たっている。

小学校の段階から、作業活動を多く取り入れた教育を展開している学級

は、現在、中野区立桃園小学校、練馬区立旭丘小学校、同区立光ガ丘第三

小学校などにみられる。

(3)小学校、中学校の特殊学級の連携

① 小学校の特殊学級において、中学生もいっしょに指導した例

ア 千代田区立神竜小学校

「東京の精神薄弱教育」(6) によれば、次のように述べられている。

中学部の問題は当分神竜小におくということは、自然発生的に中学

部ができ、小学生と中学生が、同一小学校で学ぶことに決まったので

あるが、それには中学生の学籍や待遇、小学校側の受入れ方や学級保

護者の意向等について、入りくんだ問題があった。これには、学級が

多忙な年であり、いちいち検討することはなかった。千代田区の特殊

事情でやむを得ないということで、関係者は承知した。学級としては、

小中併置の利点を生かし、小中一貫した教育の意義を強め、その徹底

をはかることにした。

この年度の区の方針が原則的なものとなり、その後紆余曲折があっ

たが、小中7ヶ年ないし9ヶ年の教育が進められたのである。

イ 文京区立あおば学園

「東京の精神薄弱教育」(7) によれば、次のように述べられている。

3 昭和30年度

小学部23名、中学部5名、計28名の2学級編成とした。―(略)―

この年は、中学部として学級編成上正式には区別しないで、小学校特

殊学級2学級の枠の中で中学生を扱うこととした。前年度に比べて2

― 7 ―

帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

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倍強の児童数となり、教育内容の検討充実が何よりの課題であった。

飼育を中心とし児童の情操に訴え、自ら心を開く教育、また身辺生活

の確立等児童が直接体を動かし繰り返し身につけていくこと、このた

めには叱るということの規制ではなく、児童の心情に訴え、自らなし

たことの喜びを感じるという方針をもっていた。―(略)―

4 昭和31年度

31年度には正式に中学部を設置することとなった。中学部の教育内

容をどのようにするかが重要な課題であった。

中学校の特殊学級の設置については、各区において、いろいろ苦心をし、

工夫をしたようである。小・中の一貫性、9ヵ年の一貫した教育を目ざす

ことには、共通点がみられる。

② 小・中合同学習

小学校の学級と中学校の学級が、いっしょに合同学習を展開した例が、

墨田区にあり、「東京の精神薄弱教育」(8) において、次のように述べられて

いる。

中学校に学級が設置されたことにより、当初考えられていた小中一

貫の指導、小中合同運営が、実施されることになった。まず担任会が、

小中合同で、ついで、宿泊学習の事前学習もかねて、夏休み中に社会

科見学が行なわれた。そして、9月に区立健康学園で小中6校合同の

宿泊学習が実施された。さらに、3月には、合同の学芸会が開かれ、6

校の児童、生徒が一堂に会して、日頃の学習の成果を披露した。

合同学習の意義について「東京の精神薄弱教育」(9) では、次のように解

説している。

小学校の学級の誕生、中学校の学級の発足当初から、合同学習がは

じめられていたが、30年に中学校に2学級増設されてから、本格的に

― 8 ―

大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

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行なわれるようになった。合同学習の必要性については、つぎのよう

に説明されている。「合同学習」は、『精薄児を将来なんとか独立自活

させようと思えば、小集団の中だけで深い個人指導をするだけでは、

多面的な社会的経験を与え、社会性を発達させることはできない。ま

たひとりの教師による指導の限界を拡大すること、評価をより客観化

すること、父兄および社会を啓蒙すること、教師がお互いに研究をす

ることなどのため』に重要であると考えられ、行なわれてきた。」

合同学習のおもなものは、遠足、宿泊学習、精密診断、校外実習、

運動会、修学旅行、学芸会などである。これらの学習は、一つ一つ切

りはなされたものではなく、それぞれつながりをもっている(年齢・

学年によりより密接な関係をもつものである)。たとえば春の遠足で

の係の分担、仲間づくり、問題行動、行動特性などは、宿泊学習の時

に重要な学習指導の指標となってくる。―(略)―

合同運営・合同学習は、区市町村を単位にもしくは近隣の区市町村合同

で行われるものである。必要に応じて組織していくことが大切である。

近隣の区の連合行事として行われたものに7区連合運動会がある。これ

について、「東京の精神薄弱教育」(10) には、次のように記録されている。

4 連合運動会

区内での合同行事、合同学習は、学級設置当初から考えられ、実績

をあげてきた。今でこそ、区内での合同の運動会、学芸会などは、相

当多くの区市でとりあげられ、珍しいものではなくなっている。

この中で、運動会は、墨田区だけでなく隣接区と合同で、より大き

な集団で、しかも従来の運動会とはちがったものを…と連合の形がと

られるようになった。7区連合運動会と呼ばれるようになり、運営、

生徒の学習などで多くの成果をあげるとともに、地域の人々などによ

き啓蒙の機会となった。

― 9 ―

帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

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― 10 ―

大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

墨 田 区

開 催 区 特     色開催日・場所・参加数

30. 10. 29若宮公園 103名

墨 田 区31. 10. 30若宮公園 381名

墨 田 区32. 10. 25吉田グランド

415名

葛 飾 区33. 10. 2柴又小学校

542名

江戸川区34. 10. 6区営グランド

647名

荒 川 区

台 東 区36. 10. 15黒門小学校

956名

足 立 区37. 10. 14千住第二小学校

1,091名

江 東 区38. 10. 13深川第七中学校

1,205名

区内合同の運動会として発足。

墨田区の招待という形で、隣接六区が参

加。

正式に各区教育委員会、設置校長のそれ

ぞれの連絡協議により実施。

この頃になると運動会らしくなり参加人

員が急増してきた。自由参加でなく組織

的な運営の考え方ができ、運動会のため

の設置校長会が開催され予算化されてき

た。人数が多くなってきたので種目の演

技時間など延びマンネリズム化して内容

の再検討の声が出て、リズム行進などが

新しく登場してきた。

新しい担任が多くなり、子どもの自主的

運営から、教師がリードし、いわゆる普

通学級的臭いが濃くなった。連合の意味

がだんだん消えて、形式的な考え方に変

ってきた。参加人員と会場、会場までの

引率など交通事情とあいまって、話題に

なってきた。当番区という立場から区教

委が難色を示しだした。

プレ

プレ

1

2

3

4

5

6

7

35. 10. 10第八 田小学校

788名

別表 2

七区連合運動会の推移

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3 教育課程の編成と指導計画の作成

(1) 中野区立桃園小学校

「東京の精神薄弱教育」(11) から引用すると次のようである。(昭和28年度)

つぎに、手塚教諭のつくった学習計画の一部をご紹介しよう。当時

としてはユニークなものだった。

精薄カリキュラム草案要綱(2学期前半)

10月26日まで(次の1、2を適当に組み合わせて行なう。)

1 遠足についての単元

・方向 ・時間 ・交通道徳 ・対人関係 ・交通通信を主とした

“社会”

2 新入生の迎え入れの準備(買物を含む)

・対人関係 協力和合の精神→物によって示す。

・買物 区役所支出の金で買物練習の指導(主として子供に

A よい品物(確実性のあるもの)を買う。

B しかも安いものを買う。

C 買う時の対人関係をはっきり認識させる。即ち積極的な行動

をとると同時に相手の立場を知り、尊重するようにさせる。

精薄児の職業教育には二種ある。その一つは一般的な職業につける

ための準備をする事で、他の一つは技能を覚えさせる事である。今回

は前者に重点をおいて取扱う。

10月下旬より11月全部

1 女子を主として食生活中心と男子中心の農耕、工作の作業

A おやつの作成(簡単なもの)及び非給食日の給食

B 秋植え球根の処理(種子も)

C 小動物園の作成(小鳥及び小動物の飼育小屋)

働く事の喜び(勤労)と一般的技能の取得

2 動物園の見学

― 11 ―

帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

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当時は、生活単元学習という言葉は使われていなかったようであるが、

遠足、新入生歓迎会、動物園の見学は、まさしく、生活単元学習の単元で

あると考えられる。

また、買い物から始める調理も調理実習(調理学習)として、現在、一

般的に行われているものである。

(2) 墨田区―ソフトクリーム構想―

墨田区における指導計画について「東京の精神薄弱教育」(12) には、次の

ように記録されている。(昭和30年~34年)

5 指導計画について

28年小学校に学級が設置され、担任会で第1年次の単元表が作成さ

れた。29年中学校に学級が設置された。小・中一貫した指導計画の話

題がたびたび出され、30年に指導計画作成委員会が発足した。この会

でいろいろ協議、検討が行なわれた。指導計画の基本的構造図(ソフ

トクリーム構想といわれている)がつくられた。この構想を展開させ

る中心が、合同学習である。

この構想をもとに大単元が設定され、小学校、中学校、実習教室の

小単元、単元の展開などが検討された。そして、34年11月にできあ

がったのが、墨田区特殊学級指導計画第一次試案である。

大単元

◎新学年(4~5月)

◎宿泊学習と実習(6~8月)

◎いろいろな行事(9~12月)

◎一年間のまとめ(1~3月)

指導計画の特徴

① 総合生活学習を根幹として、対人関係の調整、体力の増進、さら

に中学部では、職業的基礎訓練や態度の育成をはかり、将来職業人

として自立できる最低の基礎能力を身につけさせることを目的とし

― 12 ―

大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

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ている。

② 学級の現況は、複式学級であるが統一的な学習の流れの中で児童

生徒おのおのの能力、段階に応じて、くりかえしによる生活訓練、機

能訓練からはじまり、高学年に進むにつれて対人関係、技能訓練の要

素を身につけていけるように考えた。

③ 小学校は小単元であるのが当然であるが、中学校、実習教室では、

大単元による教育も必要だと考え、両者を組み合わせて編成した。

④ 単一学級内の学習にとどまることなく、小学部、中学部それぞれ

合同した学習やさらにそれを強化し、高度化するため、小中全体の

合同学習形態を用いる。

35、36年にかけては、単元学習帳の編集に力を入れるとともに、実

践記録の中から単元展開例を編集し、資料集のようなものにしていく

計画もたてられた。

小学校、中学校の学級に共通した指導計画、一貫した指導計画は、多く

の特殊学級において必要であり、重要なものとして、その作成が、理念と

してはあっても、作成することが困難なものである。現在でも、小学校と

中学校の学級の指導の一貫性、指導計画の連続性、継続性が、提言される

が、実現している例は、決して多いとはいえない状況である。

ソフトクリーム型構想で指摘されている社会とのギャップであるが、こ

のギャップは、50年経った現在まで、ずっと引き継いでいるもの、現代、

新たに加わったものがある。

このギャップをどのような形で埋めていくのか、そのシステムを今後も

検討する必要がある。

― 13 ―

帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

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― 14 ―

大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

単  

単  

単  

要  素

単  

単  

単  

単  

単  

単  

 

 

 

 

 

 

アフターケア

(A) (B)

中学卒業

中学部入級

小学部入級

ラセン的繰返えしと高度化

実習教室入所

図 2

指導計画の基本的構想図

(A)順調な場合の発達

卒業後 (B)うまくゆかない場合の退行

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(3) 品川プラン―生活指導大系(5領域)―

品川区立中延小学校と浜川中学校が共同でまとめ、昭和31年に文部省

特殊教育研究指定校として全国に発表した生活指導大系、5領域案が品川

プランと呼ばれている。

「東京の精神薄弱教育」(13) において、次のように記録されている。

生活指導大系とは即教育と結ぶところに、道徳的、情操的、知識的、

身体的、技術的の5つの領域より成り立ち、それぞれの領域を個人、

家庭、社会(国家、世界)に生活の範囲を拡大しながら精神薄弱児が

社会的自立を目指して何をどれだけ身につけたらよいかを分析して作

られたものである。更にその能力をマーテンスは知能年令にのみおい

ているのに対して生活指導大系においては、生活年令から来る能力を

無視してはならないという立場を取っているのである。

5領域の概要を「研究報告書」(14) より抜すいすると次のようである。(昭

和31年11月出された報告書は謄写印刷である。)

5 教育内容を実際に分析した態度

5つの領域を基本として分析した。

1 道徳的なもの

対人関係の調和を第一とし、自主性、社会性の面を考慮した。具体

的な道徳技術は技術的な領域に入れ、ここでは精神的な面を分析した。

2 情操的なもの(精神衛生)

第一に開放、次に安定、更に向上、協力、計画、創造に及んだ。内

容として、遊び、運動、音楽、図工、文学、環境の美、余暇利用、読書、

情緒性の面を考慮した。

3 知識的なもの

ここでは、知識的として、生活に必要なものを出来るだけ挙げ、知的

負担を軽くしようと努めた。内容として、日常生活面(衣・食・住・経

― 15 ―

帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

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済・こよみ等)、自然、娯楽、教養、社会、行事等を考慮した。

4 技術的なもの

生活に必要な具体的技術を出来るだけ含めた内容を考慮した。(言

葉の上でなく、基本的な態度として)即ち、自立の基本的習慣(食事、

睡眠、用便、着衣、清潔)、ことば、行動、社会性、災害予防、自然、職

業、家庭技術等の内容を考慮した。

5 身体的なもの

精薄児の場合、殆んどが虚弱児や運動障害等に近い身体を持ってい

る事が多い。それで、特別に内容も細かく考慮する必要があるので、

この領域を設けた訳である。内容としては、運動、栄養、衛生、用便、

予防、休養、姿勢、診断、治療、自然等の面を考慮した。

この生活指導大系―5領域案―、いわゆる「品川プラン」は、中延小、

浜川中の6名の特殊学級担任によって生み出されたもので、当時の全国の

特殊学級の教育課程の編成、指導計画の作成に大きな影響を与えたと伝え

られている。

34年に出された精神薄弱教育指導者養成講座中部日本会場で作成され

た中部日本案―6領域案―にも基本的な考え方で、手本となっている。

6領域案は、生活、言語、数量、情操、健康、生産の6領域を設定し、

発達段階に応じた指導内容を示したものである。

4 人工衛星プラン―実習教室の誕生―

(1) アフターケア・センター設置の要望(15)

中学校の学級が卒業生を送り出した昭和31年から、アフターケアの必

要性が強調されていた。その経緯について「特殊教育十年」では、次のよ

うに記録している。

― 16 ―

大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

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小学校に特殊学級が設けられてから31年にはじめて卒業生をだし

たが、指導法も未熟であり卒業生の社会適応力が不十分で、卒業後の

生活が不安でならなかった。

当時の卒業生は、約半数が就職後半年以内に離職せざるを得なかっ

た。

この実態から、卒業生補導および失職者の再訓練のためのアフター

ケア・センター設置の要望が起こり、31年に区議会で1,755,000円の予

算が計上された。(実際は32年に実習教室の改修費にあてられた。)

(2)人工衛星プランの登場

小学校入学から中学校を卒業するまでの教育、中学校段階で実習教室を

設置し、実習を強化するなどのプランがまとめられ、「人工衛星プラン」

と呼ばれた。そのことについて「特殊教育十年」(16) に次のように記録され

ている。

人工衛星プランの登場

しかし、卒業生を対象とする指導施設は特別区の教育委員会の権限

外であり、在校生の職業補導センターとして企画することになった。

校内・校外の実習をするという意味から「実習教室」といい図のよ

うな構想が作られた。

・教育と産業の現場が協力して精薄児の社会自立を指導するため、職

員会議は各協力工場、実習工場の代表者も含めて構成する。

・図にあげた公的機関は精薄児に関係はあるが職業、福祉、保健など

の一面に限られその間の連絡は円滑とはいえない。一貫した方針、

処理がとり得られるように、実習教室の外部組織として、関係機関

が連絡協議会をもつ。

以上のような構想であるが、人工衛星に形が似ているところから、

関係者の間で「人工衛星プラン」とよばれた。

― 17 ―

帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

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― 18 ―

大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

就 職

実実

就職職

中学 教育

(職員会には工場主も入る)

実習

職業安定所

労働基準監督署

保健所

児童相談所

警察

      等

実  習

教  室

 

図 3

人工衛星プラン

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「人工衛星プラン」は、一般にはあまり知られていないが、学校と企業

が相互に協力し、在校生の現場実習(校外実習)に加えて、卒業生のアフ

ターケア(就職後、うまくいかなくなった場合の再教育)にまで範囲を拡

げていくことを考えたものである。

(3)実習教室

人工衛星プランの中心になるものが「実習教室」である。実習教室につ

いては、「特殊教育十年」に詳細に記録されているが、ここでは、「東京の

精神薄弱教育」に掲載されている内容を引用する。(17)

4 実習教室制度

人工衛星プランの登場により、1、2年と3年生を分離した指導形態

が生まれた。中学校4校のうちの1校に実習教室を設け、3年生を通学

させ、他の3校に1、2年生を集めて指導を行った。

指導の重点

① 段階づけの指導(分離指導)

1、2年生と3年生を分離して指導する この間に実習教室入所選

考が行なわれた。

② 一貫作業

技術の指導ではなく態度の指導

③ 生活指導

④ 単元指導

合同学習が中心

⑤ 両親教育

家庭と学校との協力、卒業後の方向づけ

問題点

① 実習教室は、進路指導、アフターケアの中心となっていたので、

しわよせがはげしい。

② 合同運営を前提として作られたものであり、区内の各学級が有機

― 19 ―

帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

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― 20 ―

大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

(註)38年度に実習教室は、発展的解消をし、各校にそれぞれおかれることになった。(実質的には解体であり、この制度は以後46

年まで復活していない。)

夏期は実習教室入

所者のみ

冬期は3年全員

夏期1~3年

冬期3年

期間は同じ

実習奨励金配分制

度実施

校外実習

本所中に通学閉所

時は、堅川中にもどる

寺島中へ通学

寺島中へ通学

堅川中へ通学

設置校の

1・2年生

6月~3月

10月~3月

4月~3月

4月~3月

4月~3月

開所期間

移動しない

移動しない

移動しない

移動しない

生徒の籍

20名

10名

13名

16名

20名

生徒数

堅 川 中

堅 川 中

本 所 中

本 所 中

本 所 中

設置校

3334

3536

37

雑 巾

雑 巾

焼 板

雑 巾

焼 板

雑 巾

焼 板

雑 巾

焼 板

主な作業

3教室で行なう

本所中講堂で行な

い、質量ともに最

高で他区に呼びか

ける

全国協議会分科会

実演授業として行

なう

イスラエル・バザー

すぎな会バザーに

出品

即売会

6・11・2月の3回

書類審査(履歴書・内申書)

面 接

10月の1回

4月に1回

4月に1回

実技テスト(木工・

裁縫・炊事)を加

える

4月に2回

申込・掃除テスト

を加え3日間

入所選考

  時間

  方法

項目

年度

別表 3

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的に結合していないと運営がむずかしい。分散設置された各校の独

自性が生かされてくると、有機的な結合がよわまり、実習教室の負

担が重くなる。

③ 養護学校学習指導要領が出されたが、指導の基本的な考え方、指

導法などに違いが生じ、さらに特殊学級のおかれている現在の諸条

件と重なりあって合同運営の基本方針の設定をなおさらむずかしく

している。

実習教室の考え方は、ユニークなものであり、中学3年生だけを集めて、

集中的に職業教育を実施することに注目された。しかし、問題点に指摘さ

れているように、校長、担当教員の共通理解、運営方法等、課題もあった

ようである。

実習教室という名称は、使ってはいないが、「共同実習所」などの名称

で、市内の中学校特殊学級の生徒のための実習所が、2~3の市で設置さ

れ、成果をあげた例がある。(18)

5 社会教育における学習の場―「すみだ教室」の誕生―

中学校卒業後の学習の場の確保が、昭和31年頃から検討され、昭和39

年4月に、待望の「すみだ教室」が誕生した。その概要は、「東京の精神

薄弱教育」(19) に記録されている。

5 すみだ教室の誕生

「アフターケアを公の費用で…」という切望が、ある面でかなえら

れたのが、青年学級類似事業(以下通称として青年学級と呼ぶ)とし

て生まれた、「すみだ教室」である。

卒業後の指導については、卒業生をだした時(30年)から考えられ

ており、アフターケアセンター設置の要望も出された(31年)。これ

は、実習教室制度となり、卒業後の指導は、人工衛星プランにも十分

― 21 ―

帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

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とりいれられ、その重要さを各方面に説いてまわった。その後37年

に10周年の記念事業にと精神薄弱者青年学級(仮称)開設計画書が

作成され、青年学級の開設に大きく一歩を踏み出した。この計画では、

38年4月から開設する予定であったが、1年のびて、39年4月から出

発した。

・開講日 毎月第一・第三日曜日

年間18回

午前9時30分~午後3時30分

・会 場 39~41年まで、分室が横川小学校にあったのでそこを使

用 42年から本所中学校

・受講生の募集 4月に巣美多会の総会を開き、その時に説明し、要

項を配布、欠席者には自宅へ郵送

・講 師 39年度は2名。40年、41年は4名。42年度には管理者兼カ

ウンセラーが1名増員され、5名。44年度には、講師がさ

らに増加され6名となった。講師には、元設置校長、特殊

学級担任があたっている。このほかに、特別講師が年間5

名予定され、ボランティアとして、社会人、学生の献身的

な協力をえている。

・年間計画 年度当初にプリントし、全受講生に配布し、予定の変更

は、事前に行う(42年度より変更は少なくなり、事前の処

置が徹底する。)

特別講座 5回 43年度の例をあげると、①防犯について 浅草少

年センター見学 ②③夏のすごしかた(健康管理、水泳)

④電話のかけかた(実技を含む)⑤史跡めぐり

調理実習 年間6~8回

社会見学 明治神宮 NHK放送センター

研修旅行 蓮台寺(43年)

・日 程 朝礼、日直からの連絡など時事講活、教養、受講生必携

(テキスト)を使用

― 22 ―

大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

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昼食

クラブ 6つのクラブに分かれる

レクリエーション 体育と音楽

終礼 まとめ

運営委員会 一日の反省

・受講生必携 年間計画を印刷し、単元学習帳を発展させたもので43

年から使用

第6回は、62名の受講生が籍をおいているが、出席率はたいへんよ

い。目的はそれぞれ多少はちがっているが、「先輩、同輩、後輩にあ

えて、話も気軽にできるし」「先生とも相談ができる。おけいこごと

もできるし」「外へでかけることもある」と、満足している。

①社会生活で必要な技術の修得、②余暇の利用、③社会常識の獲得、

④社会生活で当面する問題の解決というねらいは、生きている。

「すみだ教室」の開設は、東京都及び全国における知的障害者の社会教

育(生涯学習)に大きな影響を与えた。(19) (20)

「すみだ教室」は、平成15年、40回目を迎え、約100名の受講生が活動

している。40年間、知的障害者の余暇活動、休日の活動を公教育に位置

づけ、継続した活動を展開した意義は大きいといえる。

全国各地で、知的障害者の生涯学習を考え、さらにその機会と場が確保

されることを願うものである。

6 今後の特別支援教育への提言

「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」が出されたことに

より、特殊教育から特別支援教育への移行が始まり、全国各地で様々な議

論、運動、試行が行われている。その中でも特別支援教室に対する議論が

多いように思える。

今回、特殊学級の50年をあえて振り返ったのは、特殊学級の設置の経

― 23 ―

帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

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緯にみられるように、各区市町村が、いろいろな理念、計画等のもとに、

それぞれの区市町村にふさわしい特殊学級の設置、運営を工夫し、特色の

ある実践を展開してきている。

特殊学級は、その地域の実態をふまえた設置、運営をすることが求めら

れ、そのことをもとに実践が進められてきている。

特別支援教室についても同様で、文部科学省や都道府県が、その設置や

運営を決めることではないと考える。

(1)各区市町村における実態を的確に把握する

障害のある幼児、児童、生徒の実態は、各区市町村により特色があると

思われる。そのことは、実態を把握しなければ、議論もできないし、計画

を立案することも不可能である。

まず、各区市町村における障害についての実態を的確に把握することで

あり、実態調査を何らかの方法で実施する必要がある。

東京都23区における特殊学級設置に対する実態調査等の実施状況は、

別表4のとおりである。

50年いやそれ以上以前に、先人達は、よりよい特殊学級の設置をめざ

して、区内の障害児(知的障害児を中心に)の実態を把握し、学級の設置、

運営を考えたのである。

現在とは、比較にならない社会情勢、経済状況等の中で、各区ができる

方法で実施していたことがうかがえる。

(2)特別支援教室の計画的な設置

特別支援教室は、必要に応じて小学校、中学校のすべての学校に設置す

ることが考えられている。

実態調査をもとに、どこの学校にどのような障害の児童生徒を対象とす

る特別支援教室を設置するのかを検討し、計画することである。

一定の人数の集団、固定的な集団が必要な児童生徒には、必要な集団が

構成できる特別支援教室を作る必要がある。一率に分散した教室を作れば

― 24 ―

大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

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― 25 ―

帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

昭和 21 年 4 月

24. 11

26. 9

24. 9

24

28. 6

28. 4

29. 5

28. 5

29. 1

29. 9

29. 9

29. 4

29. 9

29. 11

31. 9

24. 11

29. 6

26. 2

27. 9

24. 4

28. 5

渋 谷

千代田

品 川

江戸川

葛 飾

中 野

目 黒

荒 川

墨 田

豊 島

中 央

新 宿

文 京

世田谷

練 馬

 港 

江 東

大 田

杉 並

板 橋

足 立

 北 

台 東

昭和18年に大和田國民學校に

補助学級設置の実績がある

精神遅滞児の実態調査

実態調査

実態調査「養護学級へ入級させた

い児童」報告・集計

実態調査

区内小・中学校悉皆調査

実態調査

実態調査

精神薄弱児実態調査

実態調査

入級適格児童の調査

精神薄弱児の実態調査

学習遅進児の調査

特殊教育対象の調査

悉皆調査

精神薄弱児の実態調査

田中B式知能テストIQ75以下

を対象

社会生活能力調査、学力調査

個人面接、個別知能検査、行動

観察、学力テスト、生育歴調査

精密検査の実施

学校独自で自主的に設置

学業不振児を主体とした特別学級

滝野川第六小25周年記念事業

昭和

24. 4

24

24

25

27

27

27

28. 1

28

28

28

28

28

28

30. 11

24

28

特殊学級開設区 名 実 態 調 査 等実施年月

別表 4

特殊学級設置に対する実態調査等の実施状況(23区のみ)

(「東京の精神薄弱教育 戦後のあゆみ」により読取)

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よいということではないと考える。

そして、何よりも大切なことは、各区市町村でこれまでに培ってきた障

害のある児童生徒への教育をどのような形で、新しいシステムに活かして

いくかを考えることである。

特殊学級(心身障害学級)、通級指導教室(通級指導学級)の施設・設

備についても継続して活用できるもの、すべきものは新たな活用の方法を

工夫することである。

これまでの施設・設備、指導内容・方法をすべて無にすることは、あっ

てはならないことであり、非効率的である。

「墨田プラン」は、今から50年前に考案されたものであり、その範とす

るものは、我が国では見あたらないのである。

「○○プラン」といわれるユニークな考え方を期待したい。

(3)教育課程の編成及び指導計画の作成

知的障害に限らずいろいろな障害のある児童生徒の教育課程、指導計画

を考える必要がある。

そのためには、特別支援教室の目標及び一人一人の児童生徒の個人目標

を明確にすることである。

知的障害児にはこの教育課程、LD児には、これを、ADHD児にはこの

指導計画、高機能自閉症はこれを、というように障害によって教育課程を

編成し、指導計画を作成する考え方は、改める必要がある。

A君、B君、Cさん、Dさんの教育課程、指導計画を考えることであ

る。(教育課程についての考え方が最近かなり変わってきている。)

そして、特別支援教室で一定の時間、学習する児童生徒については、在

籍学級での学習と特別支援教室での学習とに一貫性、連続性等があるよう

に工夫する必要がある。

また、個別の指導計画を一人一人の児童生徒について作成し、指導に当

たる必要がある。

個別の(教育)支援計画が、確実に作成され、学校において利用するよ

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大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

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うになれば、その流れの中で、個別の指導計画を作成していくことを心が

けることである。

「品川プラン」「墨田区のソフトクリーム型構想」など、50年近く以前

に考察された指導計画、指導内容・方法を参考にしながら、各区市町村単

位で「○○プラン」等を作りあげることである。

そのためには、区市町村の特別支援教室が、相互に協力しあうことであ

る。

(4)学習の機会、場の拡大

特殊学級の歴史の中で、先人達は、知的障害児の学習の機会や場をいか

に拡大するかを常に考え、実践していたようである。

① 合同学習の必要性と成果

「墨田プラン」は、計画設置と合同運営、合同学習を大きな柱とし

て実施された。合同学習は、その後、各地の区市町村においても取り

上げられ、成果をあげている。

特別交換教室においても、必要に応じて、合同学習を実施すること

である。そのためには、同一区市町村の関係の特別支援教室が、常に

情報交換を行うなど、担当者間の連携が必要である。

現在、各地で合同学習が行われているが、形式的であったり、「授

業がつぶれる」(合同学習をどのようにとらえているか疑問)と発言

したり、「学級の独自性が失われる」といったりすることを耳にする

ことが少なくないのは残念である。何のために合同学習するのか、合

同学習があるのかを教師自身が理解することの方が先である。

② 連合行事の必要性と成果

運動会、学芸会、作品展など多くの学校との連合行事が行われてい

る。行政区域をこえた連合行事もある。

このことについても、形式的であったり、意義を十分ふまえていな

かったりするなど、必要性の理解が不十分であることを感じる。

特別支援教室では、学習の機会や場をどのようにして拡大していくか、

今後、問われることである。

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帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

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(5)幼児から卒業後までの一貫した教育

個別の(教育)支援計画の作成は、乳幼児期から学校卒業後の成人まで

という大きなプランである。

福祉、医療、教育、労働関係機関の連携により、一人一人の障害のある

子どもにとってふさわしい計画になるように関係者が一丸となって対応す

る必要がある。

教員もその一人であり、少なくとも12年間、幼稚園、幼稚部を加える

と、14~15年間、さらに卒業後の支援を考えると、20年ぐらいは、かか

わりをもつことが望まれる。

一人の教員が、20年間継続して、指導、支援に当たることが、特定の

人を除けば、それ程多くはないと考えるが、組織としての学校は、少なく

とも20年間は、かかわりをもつ必要がある。

特別支援教育に携わる教員は、その時、受けもっている児童生徒の5歳

下、5歳上の子どもやおとなの生活を理解して指導に当たる必要があると

考えている。小学校の教員は、小学生、中学校の教員は中学生だけを知っ

ていればよいというのでは、専門性を疑われてもやむをえないことである。

子どもは連続した発達の中で成長、発達していることを実感するために、

幅広い年齢の子どものことを理解しておくことである。

少なくとも、特別支援教室を受けもつ教員は、おとなの知的障害者、自

閉症者の生活を十分に知る必要がある。

小学校と中学校の特別支援教室との連携・協力、盲学校、聾学校、養護

学校との連携・協力は、すでに行われているところもあるが、今後は、よ

り緊密な連携、協力が必要である。

区市町村によっては、小学校と中学校の特殊学級(心身障害学級)との

連携が十分でないところもあるようであるが、連携が十分でないと、幅広

い活動は展開できないと考える。

(6)医療、福祉、労働関係機関との連携、協力

ことばや文字の上での連携、協力ではなく、一人一人の障害のある子供

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大南:特殊学級50年の歩みと今後の特別支援教育

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たちのために、医療、福祉、労働関係機関との連携協力を進めることである。

必要なところから連携を深めることである。

特別支援プロジェクト(チーム)のように組織的に活動することもある

が、一人一人の障害のある児童生徒の日常生活でおこる様々なことに対し

て、関係機関と連携を図ることである。そのためには、区市町村内に、あ

るいは近隣にある医療、福祉、労働関係機関の所在と機能を十分に知って

おく必要がある。

引用文献

( 1)「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」21世紀の特殊教育の在り

方に関する調査研究協力者会議 平成13年1月

( 2 )「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」今後の特別支援教育の

在り方に関する調査研究協力者会議 平成15年3月

( 3)「東京の精神薄弱教育 戦後のあゆみ」 東京都精神薄弱教育史研究会編 

表現研究所 昭和46年9月

( 4)大南英明 前掲書 「墨田区」p222

( 5 )木野孝雄 前掲書 「千代田区」p150

( 6 )木野孝雄 前掲書 「千代田区」p150

( 7 )冬木 茂 前掲書 「文京区」p193~p195

( 8 )大南英明 前掲書 「墨田区」p223

( 9 )大南英明 前掲書 「墨田区」p223~p224

(10)大南英明 前掲書 「墨田区」p232~p233

(11)森岡 昇 前掲書 「中野区」p336~337

(12)大南英明 前掲書 「墨田区」p227~228

(13)刈田孝子 前掲書 「品川区」p265

(14)東京都品川区立中延小学校 浜川中学校 「研究報告書=文部省研究指定

校=p10~p11 昭和31年11月

(15)墨田区 「特殊教育十年」 墨田区教育委員会 p75 1964年1月

(16)墨田区 前掲書 p75

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帝京大学文学部紀要教育学 第29号(2004年2月)

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(17)大南英明 「東京の精神薄弱教育 戦後のあゆみ」「墨田区」 p226~p227

(18)文部省「作業学習指導の手引」p187 ぎょうせい 昭和60年

(19)大南英明「東京の精神薄弱教育 戦後のあゆみ」「墨田区」 p234~p235

(20)大南英明「知的障害者の生涯学習を考える(その1)―東京都、静岡県、石

川県、京都市の例―」帝京大学文学部紀要 教育学第26号 2001年1月

(21)大南英明「知的障害者の生涯学習を考える(その2)―北海道、札幌市、群

馬県の例」 帝京大学文学部紀要 教育学第27号 2002年2月

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