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植物生理学分科 - 京都大学 · でフィトクロムによる細胞自律的応答が確認された。さら に、この系を用いて、外部から加えた植物ホルモンの効果

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植物生理学分科

概要

 植物は、複数の光受容タンパク質を使い分け、光を貴重な「情報源」として巧みに利用している。本研究室では、植物の光応答の分子機構の解明を目指して研究を多方面から進めてきた。以下、平成 19年度の成果を中心に概要を紹介する。なお、研究室のホームページ (http://physiol2.bot.kyoto-

u.ac.jp/%7Enagatani/HP3/)も合わせて参照されたい。

A. フィトクロムの細胞内シグナル伝達機構

背景

 フィトクロムは、主に赤色光と遠赤色光を吸収する光受容体であり、発芽から花芽形成までさまざまな生理現象を制御している。我々はフィトクロムのシグナル伝達機構について、1) 光により活性化されたフィトクロムが細胞質から核内に移行すること (Sakamoto & Nagatani, 1996;

Yamaguchi et al., 1999)、2)フィトクロム分子は、発色団を結合する N-末端側領域でシグナル発信が可能であること (Matsushita et al., 2003)、3)約 650アミノ酸からなるN-末端側領域のうち、C-末端側の約 200アミノ酸残基はシグナル伝達に必須でないこと (Oka et al, 2004)、4)phyB

のN-末端領域内のアミノ酸置換変異を同定・解析し、フィトクロムに特有の light sensing knot 構造がシグナル伝達に深く関与する可能性があること (Oka, Matsuchita et

al., 2008, Kikis, Oka et al., 2008)、などを示してきた。本年度は主に、phyAの分子種特異性の構造的基盤と、プロトプラストを用いたシグナル伝達機構の研究を進めた

1.phyA と phyB の分子種特異性の構造的基盤の

解析

  phyAは、phyBと並んでフィトクロムの主要分子種と位置づけられる。phyAは高感度光受容体として機能し、超低光量応答 (VLFR)や、Pfr量が低レベルに保たれる状態で引き起こされる遠赤色光高照射反応 (FR-HIR) の受容体として機能する (Nagatani et al., 1993; Shinomura

et al., 1996など)。一方、おそらく高感度応答を抑制するフィードバック機能として、phyAは連続赤色光下では速やかに分解される。phyAの特殊機能の分子構造的基盤を明らかにするため、フィトクロムを 4つの領域にわけ、各領域について phyA

または phyB の配列をもつような phyA/phyB 間のキメラ分子 (全長 phyA, phyBを含めて 16種類)を構築し、シロイヌナズナで発現させ、その性質を詳しく調べた。その結果、phyA機能をもつためは、N-末端突出+ PAS領域と PHY領域が phyA配列であることが必要十分条件であることがわかった。この結果は、phyAの機能発現機構を理解する上で非常に重要である。現在、さらに細かい構造/機能解析を計画している。

図 1 遠赤色光照射による phyA-GFP融合タンパク質の核内蓄積。phyA-GFPを発現させた黄化芽生えを表記の時間遠赤色光で処理し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。

2. プロトプラストを用いた光シグナル伝達機構の

解析

 フィトクロムによる光応答の研究は、もっぱら植物体を用いて行われてきた。しかしながら、細胞内で完結する細胞自律的な応答を調べるためには、単離細胞系が必要となる。このような考えに従い、葉肉プロトプラストを調整し、EOD-FR処理による避陰応答を、遺伝子発現を指標に調べた。その結果、AtHB2, HFR1遺伝子などの遺伝子でフィトクロムによる細胞自律的応答が確認された。さらに、この系を用いて、外部から加えた植物ホルモンの効果を調べたところ、オーキシンが AtHB2 や HFR1 の光応答を、フィトクロム依存的に促進することが明らかとなった。本研究により確立された実験系は、個体レベルの光応答を理解する上でも有力な手段となることが示された。

図 2 シロイヌナズナ葉肉細胞のプロトプラスト。16日間白色光下で成育させたシロイヌナズナ (左)のロゼット葉よりプロトプラスト (右)を調整し、避陰刺激に対する遺伝子発現応答を調べた。

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B. フォトトロピン応答の細胞内シグナル伝

達機構

背景

 フォトトロピンは、光屈性や葉緑体定位運動、気孔開口などの青色光応答に関与する光受容体であり、フラビンを結合する N末端側の発色団領域と C末端側のキナーゼ領域からなる。我々は、単細胞緑藻クラミドモナスにフォトトロピン (Crphot)を見出し、それが高等植物であるシロイヌナズナでも機能することを示した (Onodera et al.,

2005)。さらに、シロイヌナズナの phot2にGFPを融合して形質転換植物で発現させ、その細胞内分布が光条件により変化することを見いだした (Kong et al., 2006, 2007)。また、phot1と phot2の光感度の差が、主に N末端側領域の構造により決定されることを示した (Aihara et al.,

2008)。本年度は、シグナル伝達因子候補である ARF1の機能、フォトトロピンによる葉の形態形成制御、フォトトロピンの下流因子候補の解析、などを進めた。

1.フォトトロピンのシグナル伝達機構

 分子レベルでの情報伝達機構の解明に向け、phot1、phot2 と相互作用する因子を酵母 Two-hybrid 法を用いて検索した。その結果、10 種類の因子の取得に成功し、その中には既知因子である RPT2も存在した。これら因子については、phot1、phot2両者と相互作用する因子 6

種類、phot1特異的に相互作用する因子 1種類、phot2特異的に相互作用する因子 2種類に分類することができた。phot1、phot2 両者と相互作用する因子として、ARF1(ADP ribosylation factor 1) が取得できた。ARF1は低分子量 Gタンパク質の一つであり、ゴルジ体に存在し小胞輸送への関与が示唆されている。現在我々は、光屈性や細胞内局在解析をもとに光受容体による小胞輸送制御の解明に取り組んでいる。また、葉緑体運動や気孔開口、葉の形態形成制御に ARF1が関与するかについても解析を進めている。

2.フォトトロピンによる葉肉組織分化と葉の扁平化

の制御

 フォトトロピンは、光屈性、葉緑体定位、気孔開口の他に、葉の扁平化にも寄与する。我々は、これらに加えて、強光下においてフォトトロピンが柵状組織の発達を促す機能をもつことを発見した。葉の形態形成に関わるフォトトロピンの作用について、その光受容部位を明らかにするため、phot2-GFPを葉の異なる組織で発現する形質転換植物を作出して、応答を比較したところ、葉の扁平化では表皮のフォトトロピンが、柵状組織の発達については、葉肉細胞のフォトトロピンが制御していることが分かった。すなわち、フォトトロピンは、組織ごとにことなる生理機能を果たした。

3.フォトトロピンの下流シグナル伝達因子候補の解析

 フォトトロピンは青色光照射により活性化されるセリン/スレオニン蛋白キナーゼである。キナーゼ領域でホモロジーサーチを行ったところ、出芽酵母において相同性を示すキナーゼが存在することが分かった。そこで、出芽酵母での知見を参考に、フォトトロピンのシグナル伝達機構の解析を進めた。

図 3 野生株 (上)とフォトトロピン欠損変異体のロゼット葉の形態。

C. 光シグナルの器官・組織間伝達の解析

背景

 植物の光応答では、しばしば形態的な変化が起こる。光刺激の受容から形態変化までの過程を理解するには、光受容体分子の作用機構に加え、その下流ではたらく各種因子(遺伝子、タンパク質、植物ホルモンなどを含む) について総合的に理解する必要がある。また、形態形成においては、組織/器官間のシグナル伝達が大きな役割を果たしていると考えられるが知見はまだ少ない。我々は、このような背景を踏まえ、フィトクロムの下流で働くホルモン関連遺伝子の解析 (Tanaka et al., 2002a, 2002b; Nakamura

et al., 2004)、組織/器官間のシグナル伝達 (Endo et al.,

2005, 2007)、異なる光受容体間の相互作用 (Usami et al.,

2004, 2007)、などについて調べてきた。本年度は、ロゼット葉の避陰応答における遺伝子の発現制御について、トランスクリプトーム解析と顕微照射実験を行った。

1. ロゼット葉における避陰応答性遺伝子のトラン

スクリプトーム解析解析

 シロイヌナズナのロゼット葉の形態は避陰応答により変化する。具体的には、陰の条件、すなわちフィトクロムがPr型となる条件では葉柄の伸長が促進される。そこで、葉柄と葉身に分けて、避陰応答による遺伝子発現の変化を、DNAマイクロアレイを用いて網羅的に解析した。その結果、遠赤色光処理に応答して、葉柄および葉身で異なる遺伝子の発現が誘導されることが分かった。さらに、これらの応答において、オーキシンが重要な役割を果たすことが示唆された。

2. 顕微照射技術を用いた、避陰応答における器官・

組織間シグナル伝達の解析する遺伝子の解析

 避陰応答においては、胚軸や葉柄の伸長が促進されることがよく知られている。そこで、FR部分照射を行い、これらの応答の光受容部位を調べた。その結果、それぞれ子葉と葉身で光刺激を受容していることが明らかとなった。次に、これらの応答が遺伝子発現レベルではどのように制御されているかを明らかにするため、部分照射による遺伝

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図 4 植物細胞内におけるレトログレードプラスチドシグナル伝達系は、図に示した 3つの独立した経路があると考えられている。プラスチドの分化・機能状態はこれらの経路を介して核に伝達され、細胞核における「オルガネラ関連遺伝子」の転写が調節される。

子発現の変化を、部位ごとに代表的な避陰応答遺伝子について調べた。その結果、個体レベルの光応答においては、部位自律的な応答に加えて、部位・器官間のシグナル伝達が複雑に作用していることが示唆された。さらに、オーキシンに加えて未知の因子による器官間シグナル伝達機構が存在する可能性も示唆された。

D. プラスチド (葉緑体)と核の相互作用お

よびプラスチド分化

 植物細胞内に存在する色素体やミトコンドリアは、その昔、宿主である原始真核細胞にらん藻および好気性細菌が細胞内共生して生じたと考えられている。真核細胞体制の成立に伴い、これら共生細胞がもつ大部分の遺伝情報は宿主細胞の核に水平移動し、維持されてきた。このような共生関係において、オルガネラは細胞核に従属した存在と考えられるが、一方でオルガネラが細胞核の機能 (転写やDNA複製)をコントロールすることも知られており、細胞の正常な機能にはオルガネラと核の密接な相互作用 (情報交換)が重要である。我々は、特にプラスチドによる核遺伝子発現調節 (プラスチドシグナル)に着目し、それに関わる情報伝達系の解明を目指している。これまでの研究により、この伝達系にはプラスチドで合成されるクロロフィル合成系が関与する経路と、プラスチド遺伝子の転写・翻訳およびレドックスが関わる経路があると考えられている。現在我々が注目しているのは、Mg-chelatase酵素複合体である。Mg-chelataseはテトラピロール合成において、ポルフィリン環に Mg2+イオンを配位する反応に必須であるばかりでなく、最近アブシジン酸の受容体や、転写因子の活性調節にも関わることが示唆されている。主な実験材料としてはシロイヌナズナを用い、Mg-chelatase 突然変異体について分子遺伝学的・生化学的手法による解析を進めている。

最近の主な発表論文

1. Kikis, E.A., Y. Oka, M.E. Hudson, A. Nagatani

and P.H. Quail (2008) Residues clustered in the

light-sensing knot of phytochrome B are necessary

for conformer-specific binding to signaling partner

PIF3. PLoS Genet, in press

2. Mochizuki N., R. Tanaka, A. Tanaka, T. Masuga,

A. Nagatani (2008) The steady-state level of Mg-

protoporphyrin IX is not a determinant of plastid-

to-nucleus signaling in Arabidopsis. Proc Natl

Acad Aci USA 105:15184

3. Kobayashi K., K. Awai, M. Nakamura, A. Na-

gatani, T. Masuda, H. Ohta (2008) Type B mono-

galactosyldiacylglycerol synthases are involved

in phosphate starvation-induced lipid remodel-

ing and are crucial for low-phosphate adaptation.

Plant J., in press

4. Oka, Y., T. Matsushita, N. Mochizuki, Peter H.

Quail and A. Nagatani (2008) Mutant screen dis-

tinguishes between residues necessary for light-

signal perception and signal transfer by phy-

tochrome B. PLoS Genetics 4:e1000158

5. Aihara, Y., R. Tabata, T. Suzuki, K. Shimazaki

and A. Nagatani (2008) Molecular basis of the

functional specificities of phototropin 1 and 2.

Plant J,, 56:364

6. Kong, S.-G. and A. Nagatanai (2008) Addenda:

Where and how does phototropin transducer light

signals in the cell? Plant Signaling & Behavior, in

press

7. Endo, M. and A. Nagatani (2008) Addenda: Flow-

ering regulation by tissue specific functions of pho-

toreceptors. Plant Signaling & Behavior, 3, 47-48

8. 長谷あきら (2008)「光形態形成」、基礎生物学シリーズ「植物生理学」三村徹郎他編、東京化学同人、印刷中

9. Kong, S.-G., T. Kinoshita, K.-I. Shimazaki, N.

Mochizuki, T. Suzuki and A. Nagatani (2007) The

C-terminal kinase fragment of Arabidopsis pho-

totropin 2 triggers constitutive phototropin re-

sponses. Plant J. 51, 862-873.

10. Endo, M., N. Mochizuki, T. Suzuki and A. Na-

gatani (2007) CRYPTOCHROME2 in Vascular

Bundles Regulates Flowering in Arabidopsis Plant

Cell,19:84-93.

11. Usami, T., T. Matsushita, Y. Oka, N. Mochizuki

and A. Nagatani (2007) Roles for the N- and C-

terminal domains of phytochrome B in the physi-

ological interactions between phytochrome B and

cryptochromes. Plant Cell Physiol., 48, 423-433.

12. Iwama, A., T. Yamashino, Y. Tanaka, H. Sakak-

ibara, T. Kakimoto, S. Sato, T. Kato, S. Tabata,

A. Nagatani, and T. Mizuno (2007) AHK5 Histi-

dine Kinase Regulates Root Elongation Through

an ETR1-Dependent Abscisic Acid and Ethylene

Signaling Pathway in Arabidopsis thaliana. Plant

Cell Physiol., 48, 375-380.

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13. Kong, S.-G., T. Suzuki, K. Tamura, N. Mochizuki,

I. Hara-Nishimura, and A. Nagatani (2006) Blue

Light-induced Association of Phototropin 2 with

the Golgi Apparatus. Plant J., 45, 994-1005.

14. 長谷あきら (2006)「GFPを用いた核局在タンパク質の観察」「新版 植物の細胞を観る実験プロトコール」編、pp.144-148、秀潤社

15. Endo, M., S. Nakamura, T. Araki, N. Mochizuki

and A. Nagatani (2005) Phytochrome B in the

Mesophyll Delays Flowering by Suppressing FT

Expression in the Bascular Bundles. Plant Cell,

17, 1941-1952.

16. Nakamura, M., T. Satoh, S.-I. Tanaka, N.

Mochizuki, T. Yokota and A. Nagatani (2005) Ac-

tivation of the Cytochrome P450 Gene, CYP72C1,

Reduces the Levels of Active Brassinosteroids in

vivo. J. Exp. Bot., 56, 833-840.

17. Onodera, A., S.-G. Kong, M. Doi, K.-I. Shimazaki,

J. Christie, N. Mohchizuki and A. Nagatani (2005)

Phototropin from Chlamydomonas reinhardtii Is

Functional in Arabidopsis thaliana. Plant Cell

Physiol. 46, 367-374.

18. Nagatani, A. (2005) Functions of Different Do-

mains of Phytochrome. In ”Light Sensing in

Plants.” edited by M. Wada, K. Shimazaki, M.

Iino, pp.69-77., Yamada Science Foundation and

Springer-Verlag, Tokyo

19. 長谷あきら (2005)「光と植物のかたちづくり」、学術月報、58(12):891-894.

20. Usami, T., N. Mochizuki, M. Kondo, M.

Nishimura and A. Nagatani (2004) Cryptochromes

and Phytochromes Synergistically Regulate Ara-

bidopsis Root Greening under Blue Light. Plant

Cell Physiol., 45, 1798-1808.

21. Oka, Y., T. Matsushita, N. Mochizuki, T. Suzuki,

S. Tokutomi, and A. Nagatani (2004) Functional

Analysis of a 450-amino Acid N-terminal Frag-

ment of Phytochrome B in Arabidopsis. Plant

Cell, 16, 2104-2116.

22. Seo, H.S., E. Watanabe, S. Tokutomi, A. Na-

gatani, and N.-H. Chua (2004) Photoreceptor

Ubiquitination by COP1 E3 Ligase Desensitizes

Phytochrome A Signaling. Genes Dev. 18, 617-

622.

23. Nagatani, A. (2004) Light-regulated Nuclear Lo-

calization of Phytochromes. Curr. Opin. Plant

Biol., 7, 708-711

24. 松下智直、長谷あきら (2004)「フィトクロムの細胞内シグナル伝達機構再考」、蛋白質核酸酵素、49(6):

749-757.

25. 田中慎一郎、長谷あきら (2004)「光受容体と光応答」、「植物の環境応答と形態形成のクロストーク」岡宏、岡田清孝、篠崎一雄 編、pp.3-11、シュプリンガー・フェアラーク東京

2008 年度学位論文

修士論文

• 小野 裕也「フィトクロム Aと Bの機能分化の構造的基盤」

• 小林淳子「シロイヌナズナの避陰応答における器官・組織間光シグナル伝達」

• 高野 雄也「シロイヌナズナの葉肉プロトプラストを用いた避陰応答における光信号伝達と植物ホルモンの相互作用の解析」

メンバー

• 長谷 あきら (教授)

• 望月 伸悦 (助教)

• 鈴木 友美 (助教)

• 小塚 俊明 (博士研究員)

• 岡 義人 (博士研究員)

• 相原 悠介 (博士課程 1年)

• 小野 裕也 (修士課程 2年)

• 小林 淳子 (修士課程 2年)

• 高野 雄也 (修士課程 2年)

• 山本 和彦 (修士課程 1年)

• 岩本 景子 (事務補佐員)

• 道券 佐代子 (技術補佐員)

• 長谷川 保江 (技術補佐員)

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形態統御学分科

形態統御学分化では、植物・微生物を材料に時間制御・空間制御にみられる基本的な生体システムに注目して、システムを構成するタンパク質レベルの解析から、細胞、個体レベルにおける統合されたシステムの解析まで幅広い興味で研究を進めている。光合成生物 (高等植物とシアノバクテリア)の計時機構と細胞性粘菌の発生・分化について取り組んでいる。

A. 時間生物学グループ

研究内容の概略

1.高等植物の概日リズムと光周性花成

 単子葉類に属するアオウキクサ属 (Lemna属)の植物には春から初夏にかけて開花する長日性の種と夏から秋にかけて開花する短日性の種が両方存在する。L. gibba(イボウキクサ) は前者に属し、L. paucicostata(アオウキクサ)は後者に属する (図 1)。これら近縁の 2種の計時機構を明らかにするために、まず、概日時計システムの比較を行った。 双子葉類のシロイヌナズナにおいては分子遺伝学的な解析から多数の概日時計関連遺伝子が単離されている。CCA1/LHY, GI, TOC1, ELF3など振動体中枢で機能すると考えられる遺伝子群は互いに遺伝子発現を制御し合い、それらの発現制御そのものが概日振動の原動力となっていると考えられている。つまり、それぞれの遺伝子発現は概日リズムを示しだけでなく、そのリズムは概日時計の動きの指標となっている。私たちは二種の Lemnaから上記時計遺伝子のホモログを単離して、その発現リズムについて解析した結果、両種で対応する遺伝子の発現リズムは基本的に似ていることを示した (Miwa et al 2006)。つまり、時計遺伝子の動きは短日・長日植物ではほぼ同じであることから、概日時計機構そのものの類似性が明らかになった。さらにこれらの遺伝子発現変動様式は双子葉類のシロイヌナズナとも類似しており、概日時計機構が高等植物で広く保存されている可能性を示した。

2.生物発光レポーターを利用したウキクサの概日リ

ズム測定系の開発

 植物の概日リズムは葉 (身)の就眠運動の観察などによって植物体にダメージを与えることなく測定可能である。一方で、近年は植物に限らずルシフェラーゼ遺伝子等を発光レポーターとする生物発光測定系による概日リズムの高精度測定が行われている。植物では形質転換が可能な種においては応用できる技術であったが、植物体の小さいシロイヌナズナ以外ではほとんど用いられていなかった。私たちはパーティクルガンを用いた一過的な遺伝子導入法をウキクサに応用することで、簡便に概日リズム測定を可能にした。概日リズムを示すプロモーターでホタルルシフェラーゼ遺伝子を発現させるプラスミドコンストラクトをウキクサの表皮細胞に導入し、微弱光測定装置で発光量をモニ

図 1.Lemna属の長日性ウキクサと短日性ウキクサ(A) 長日性ウキクサ L. gibba G3株。(B)短日性ウキクサL. paucisostata 6746株。(C)様々な日長条件における L.gibba G3株の花成の割合。24時間周期中の昼 (明期)の長さに対して花成率をプロットしてある。(C)様々な日長条件における L. paucicostata 6746株の花成の割合。

ターすることで、5日程度の生物発光リズムの測定が可能になった (Miwa et al. 2006)。シロイヌナズナの概日発現プロモーターがウキクサにおいても類似の位相を持つ発現リズムを示したことから、高等植物では概日発現機構が遺伝子のシス配列においても保存されていることを示した。

3.高等植物の概日時計関連遺伝子機能の保存性

 発光レポーターを用いた概日リズム測定系では、機能を知りたい遺伝子の過剰発現コンストラクトや RNAi コンストラクトをエフェクターとして共導入することで、遺伝子導入された細胞の概日リズムに対するエフェクターの影響を評価できる。この系を用いてウキクサの概日時計関連遺伝子の機能解析を行い、シロイヌナズナと対応する遺伝子は基本的に類似の機能を持ちうることを明示した (図 2;

Serikawa et al. 2008)。これらの研究により少なくとも高等植物においては概日時計システムの大枠は遺伝子のレベルで保存されていることが明らかになった。

4.シアノバクテリアの概日振動子の同調

 シアノバクテリアの概日時計システムは三つの時計タンパク質 (KaiA, KaiB, KaiC) を構成因子とする振動体の発振を基盤とする。このKaiタンパク質振動体は ATPを消費しながら KaiCのリン酸化・脱リン酸化、さらに複合体形成能を概日周期的に変動させている (図 3;総説、小山 2008、Oyama 2009)。この系は精製タンパク質を用いて試験管内で反応させることでも自律的に発振することができ、生体システム解析のモデルケースとして注目されている。3 つの Kai タンパク質の中でも KaiC が特に重要で、時計の基本的な性質 (周期・外部温度に対する周期安定性・位相)を規定していると考えられている (Terauchi

et al. 2007)。一方で、個々の KaiCタンパク質が同じ反応性をもたなければ、安定な振動は持続しない。この同期はKaiCが脱リン酸化反応を起こす位相で起こることを明

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図 2.生物発光レポーター系による L. gibbaの概日リズムと時計関連遺伝子の機能解析(A)ウキクサにシロイヌナズナの PRR1遺伝子プロモーターとホタルルシフェラーゼ遺伝子の融合遺伝子を発光レポーターとして導入した。12 時間の暗期で時計をリセットした後、連続明条件下で 96時間生物発光量を測定した。夜に相当する時間が灰色で示してある。(B)ウキクサ LHY遺伝子の過剰発現コンストラクトを共導入したときの生物発光。灰色のトレースはコントロール。(C)ウキクサ LHY遺伝子の RNAi コンストラクトを共導入したときの生物発光。灰色のトレースはコントロール。コントロールと比較してピークの時間 (位相)がはやくなっている。

らかにした (Ito et al. 2007)。KaiCがリン酸化反応を起こす位相にあるときは、お互いが相互作用することなく反応するが、脱リン酸化反応をおこすKaiCが一定の割合を超えると、それまでリン酸化反応性をもっていたKaiCが一斉に脱リン酸化反応性をもつことが明らかになった。さらに、大多数のKaiCの脱リン酸化反応が終了しないとリン酸化反応が起こらないことも明らかになった。このように 1サイクル毎にKaiCの状態・反応性をリセットすることで安定な振動を維持していることが明らかになった。

図 3.シアノバクテリア概日時計システム(A) シアノバクテリア (Synechococcus elongatus PCC7942株)の培養の様子。(B)シアノバクテリアの 3種の時計タンパク質 (KaiA, KaiB, KaiC) の立体構造。(C)Kaiタンパク質時計の仕組み。KaiCのリン酸化・脱リン酸化が概日周期的に繰り返す。KaiA, KaiBと KaiCとの相互作用様式がリン酸化サイクルに共役して変動する。

5.シアノバクテリアkai遺伝子のフィードバック機構

 シアノバクテリアの概日時計システムは Kai タンパク質振動体を基盤とするが、細胞内では 3種のKaiタンパク質の濃度を適した値に保つ必要がある。kaiA, kaiB, kaiC

はゲノム上でタンデムに並んでいるが、kaiB と kaiC はオペロンを形成しており、共転写されている。KaiCタンパク質は kaiB-kaiCの転写活性化に働く一方で、KaiC量が増えると、ネガティブフィードバックが働き、転写を強く抑制することが明らかになっていた (総説、小山 2008)。このネガティブフィードバックが働かなくなった labA突然変異体を単離・解析した結果、この因子がリン酸化型のKaiCの量を反映して、下流の転写因子 (RpaA)を介して kaiB-kaiC の転写を抑制していることを明らかにした(Taniguchi et al. 2007)。一方、2成分制御系のセンサーキナーゼである SasAは kaiB-kaiCのポジティブな転写メディエーターである。SasAは KaiCと直接相互作用することにより、KaiCがリン酸化反応性を持つときにその信号を下流の RpaA に伝えていることが明らかになっていた。これらの結果から、KaiCはリン酸化状態・反応性の周期的な違いを時刻情報として LabA, SasA の二つの因子に伝達し、それらの下流で働く RpaA を介して自分自身の発現制御を行っていることを示した。この系が働くことで、kaiB-kaiCの転写は発現リズムを持つが、他のリズム発現遺伝子の制御も同様の機構が関与していることも示唆している。

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B. 細胞性粘菌グループ

研究内容の概略

 Dictyostelium 属の細胞性粘菌は、独立したアメーバ状の単細胞生物として増えるが、飢餓状態になると多数の細胞が走化性反応で集合して「移動体」と呼ばれるナメクジ状の多細胞体を形成し、環境要因の変化に反応して胞子の塊と柄からなる子実体を作る (図 4A)。この生物は単純に見えるが、他の多細胞生物との共通点も多く、様々な興味深い問題が存在する。

1. 柄細胞分化における細胞内構造の変化

 子実体形成過程において、それまで非常に活発にアメーバ状の運動をおこなっていた予定柄細胞が、数時間のうちに液胞を発達させ、セルロースを主成分とする細胞壁を備えた柄細胞に分化する。つまり、動物的な細胞が短時間に植物的な細胞に変化する。このとき細胞内の構造がどのように変化するのかは細胞生物学的に非常に興味深いだけでなく、その過程を明らかにすることは、一見非常に異なる動物細胞と植物細胞それぞれの特徴の起源と関係を知るのに役立つことが期待される。私たちは、共焦点顕微鏡を用いて高倍率で子実体形成過程を記録する方法を開発し、様々な細胞内構造のマーカーとなる GFP-融合蛋白質を発現した形質転換体と蛍光色素による生体染色を組み合わせることによって、この現象を調べている。予定柄細胞では自食胞 (autophagic vacuole) が顕著に発達している一方、収縮胞 (contractile vacuole) も大きな体積を占める。細胞性粘菌の収縮胞の膜には、植物や菌類の液胞膜に存在する vacuolar H+-ATPase と相同な分子が高密度で存在すること、植物の自食胞は液胞形成経路の一つと考えられていることから、これら 2種類の vacuoles

と柄細胞の液胞の関係にまず注目した。これまでに、実際に柄細胞分化が進行する過程の解析の結果、液胞は主に自食胞が融合して形成されるらしいこと、収縮胞は液胞の成長とは独立に機能していることがわかり、さらに子実体先端部の予定柄細胞において小胞のサイズ・数ともに増大すること、柄細胞分化が進行するのに伴い急速なアクチン繊維の消失と細胞の運動性の低下が起こることなどを見いだした (図 4B)。今年度は、柄細胞の液胞膜にAmmonia transporter-A (AmtA) が局在することを発見し (図 4C,D)、これを指標に液胞膜の形成過程を解析した結果、予定柄細胞において autophagosome と lysosome

が融合して自食胞が形成され、それが融合・拡大して柄細胞の液胞が形成されることが明らかになった。

2. 柄細胞分化の制御機構

 子実体の形成過程では、柄細胞と胞子への分化は、どちらも時間・空間的に厳密に調節され、それによって初めて正常な子実体の形ができる。私たちは、柄細胞の分化には細胞質の pH が重要な役割を果たしていることを見いだし、細胞質 pH が形態形成過程での細胞運動と細胞分化にどのように関連しているかを調べるために、いくつかの新しい技法を開発してきた。その結果、柄細胞分化に先立って細胞質 pH の低下がおこるのに対し細胞質 pH を高く保つと柄細胞分化が抑制されること、予定柄細胞は予定胞子細胞に比べプロトンポンプの活性が低く、わずかの酸負荷によって大きな細胞質 pH の低下が起こることなどが明らかになった。一方、飢餓状態での形態形成運動の

図 4. A. Dictyostelium discoideum の子実体形成過程。左端の移動体から右端の子実体まで 100分間隔で示す。子実体の高さは約 2mm。B. 形成途中の子実体の先端部分。F-actin 結合蛋白 (ABP120) の actin binding domain とGFP の融合蛋白質を発現した細胞を用いて、F-actin の局在を示す。Stalk tube とよばれるセルロースでできた管の中に陥入した予定柄細胞では F-actin が減少するとともに、液胞が急速に発達する。C. 移動体から分散した予定柄細胞における AmtA-GFP の分布 (左:微分干渉、右:GFP 蛍光)。AmtA-GFP は autophagosome, lysosome,自食胞の膜に存在する。下の細胞では液胞が形成され始めている。この写真に見える 2 個の細胞は、内部が見やすいようにアガロースで押さえて扁平にしてある。D. 形成途中の子実体の柄細胞における AmtA-GFP の分布 (左:微分干渉、右:GFP 蛍光)。Stalk tube の中に詰まった 5個ほどの細胞が見える。柄細胞では単一の大きな液胞が発達し、AmtA-GFP はその液胞膜に局在する。Scale bars:10 µm。

エネルギーの供給はオートファジーによっており、その過程で有機酸とアンモニアが生じる。これらのことは、環境の変化に伴うわずかなアンモニア濃度の低下が細胞質 pH

の低下を引き起こし、それが引き金となって予定柄細胞から柄細胞への分化が始まるとともに、柄細胞分化に伴う弱酸の生成により柄細胞分化が連鎖反応的に起こるという可能性を示している。また、柄細胞分化に伴い多量に生成されるアンモニアが拡散しやすいため、柄細胞から離れた領域での柄細胞分化を抑制する方向に働くと考えられる。一方、細胞質の酸性化はそれまで活発に起こっていた細胞運動を抑制する。これらの機構の組み合わせによって子実体の基本的な形が作られるとの仮説を立て、その検証を進めている。

3. 組織中での細胞運動の機構

 組織中の細胞運動の様子は平面上に拡がった細胞の運動と大きく異なるが、その機構に関する研究は非常に少ない。細胞性粘菌は、その発生過程に単細胞と多細胞の時期があり、いずれの時期にも活発な細胞運動が見られることから、両者の機構の共通性と違いの研究に適している。この特長を生かして様々な角度から組織中の細胞運動の調べ、動物の培養細胞などで定説となっているアクチンの重合を伴う局所的な機構の他に、細胞表層の収縮の結果として起こる細胞質の圧力流による機構が大きな役割を果たしていることを明らかにした。このような運動を示す細胞は、細胞の側面全体で周りの細胞に力を及ぼしていることが細胞

8

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表層のアクチン繊維の挙動から示唆される。細胞骨格は脂質膜によって外と隔てられているため隣の細胞の細胞骨格に接線方向の力を直接及ぼすことができない。つまり、隣接細胞の細胞骨格をつなぐ機構が存在するはずであり、その同定は組織中の細胞運動を理解するのに欠くことができない。私たち は、 Dictyostelium の形態形成運動に必須の分子としてアクチン結合蛋白 タリン B を同定し、それが実際に多細胞組織中での力の伝達を担っていることを示した。この蛋白は細胞膜のすぐ内側に局在し、その分布はアクチン繊維の分布とほぼ一致する。タリン B の遺伝子を欠く変異体の細胞が底質に及ぼす力を実測すると野生株の半分にも満たない。一方、タリン B に結合する接着分子の候補としてインテグリン様の膜貫通蛋白をコードする遺伝子ファミリーを同定した。東京大学の足立博之准教授のグループとの共同研究で、それらの一部が タリン B と結合することが示され、詳しい解析を進めている。

最近の主な発表論文

1. Oyama, T. and Kondo, T. (2009) The Kai Oscil-

lator. In ”Bacterial Circadian Programs” edited

by Ditty, J.L., Mackey, S.R., Johnson, C.F., pp87-

101., Springer-Verlag Berlin Heidelberg

2. Serikawa, M., Miwa, K., Kondo, T., and Oyama,

T. (2008) Functional conservation of clock-related

genes in flowering plants: overexpression and

RNAi analyses of the circadian rhythm in the

monocotyledon Lemna gibba. Plant Physiol.,146,

1952-1963.

3. Murayama, Y., Oyama, T., and Kondo, T. (2008)

Regulation of circadian clock gene expression by

phosphorylation states of KaiC in cyanobacteria.

J. Bacteriol., 190, 1691-1698.

4. Ito, H., Kageyama, H., Mutsuda, M., Naka-

jima, M., Oyama, T., and Kondo, T. (2007) Au-

tonomous synchronization of the circadian KaiC

phosphorylation rhythm. Nat. Struct. Mol. Biol.,

14, 1084-1088.

5. Taniguchi, Y., Katayama, K., Ito, R., Takai, N.,

Kondo, T,. and Oyama, T. (2007) labA: a novel

gene required for negative feedback regulation of

the cyanobacterial circadian clock protein KaiC.

Genes & Dev., 21, 60-70.

6. Terauchi, K., Kitayama, K., Nishiwaki, T., Miwa,

K., Murayama, Y., Oyama, T., and Kondo, T.

(2007)ATPase activity of KaiC determines the ba-

sic timing for circadian clock of cyanobacteria.

Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 104, 16377-

16388.

7. Miwa, K., Serikawa, M., Suzuki, S., Kondo, T.,

and Oyama, T. (2006) Conserved expression pro-

files of circadian clock-related genes in two Lemna

species showing long-day and short-day photope-

riodic flowering responses. Plant Cell. Physiol.,

47, 601-612.

8. 小山時隆 (2008) 『シアノバクテリアの概日時計』、産総研ブックス『きちんとわかる時計遺伝子』石田直理雄 編、pp223-250、白日社

9. 小山時隆 (2007)『光合成生物の概日時計の分子進化』、植物細胞工学シリーズ 23『植物の進化』、pp174-182、秀潤社

10. Tsujioka, M., Yoshida, K and Inouye, K. (2004)

Talin B is required for force transmission in mor-

phogenesis of Dictyostelium. EMBO J. 23, 2216-

2225.

11. Umeda, T. and Inouye, K. (2004) Cell sorting by

differential cell motility: a model for pattern for-

mation in Dictyostelium. J. Theor. Biol. 226,

215-224.

12. 井上敬 (2003)“細胞性粘菌における比率の制御とパターン調節”, 『生物の形の多様性と進化』, 関村利朗・野地澄晴・森田利仁 (編),裳華房,pp. 232-242.

2008 年度学位論文

博士論文

• 野田口理孝「シロイヌナズナ FT 遺伝子による花成促進効果の接木伝達性に関する研究」

メンバー

• 小山 時隆 (准教授)

• 井上 敬 (講師)

• 野田口理孝 (博士課程 3年)*

• 内川 徹 (博士課程 2年)

*: 生命科学研究科に研究指導委託

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植物分子細胞生物学分科

 高等植物細胞が示す生命現象を細胞小器官オルガネラレベルと分子レベルで解明することを目的としている。特に、小胞体や液胞をはじめとする細胞内膜系の機能分化やプログラム細胞死等に注目し、その分子機構を細胞生物学、分子生物学、生化学、分子遺伝学等の手法を用いて解析している。

研究内容の概略

1.タンパク質の液胞への選別輸送機構

 登熟期の種子は一時期に大量の貯蔵タンパク質を合成し、タンパク質蓄積型液胞に蓄積する。私達が見いだした PAC小胞 (Precursor-Accumulating Vesicles) を介するゴルジ体非依存的な輸送経路は、種子で大量に合成される貯蔵タンパク質を効率よく液胞へ輸送するために植物が獲得してきた機構と考えられる。PAC小胞のプロテオーム解析とシロイヌナズナの逆遺伝学的解析から、貯蔵タンパク質の液胞への選別輸送に関わるレセプター VSR

(Vacuolar-Sorting Receptor)を同定した。VSRの発見は,貯蔵タンパク質の輸送装置を構成する因子として最初のものである.

 種子タンパク質の細胞内輸送の研究は,液胞選別輸送のモデルとしても位置づけられる.液胞選別輸送を駆動する装置の全容を解明する目的で,シロイヌナズナの正遺伝学的な 2つのアプローチを採ってきた.第一の方法は,「貯蔵タンパク質は粗面小胞体で前駆体として合成されるが,正しく液胞へ運ばれた後に成熟型に変換する」という事実に基づき,貯蔵タンパク質の前駆体を種子に蓄積するmaigo

変異体 (mag mutants) を選抜した. 第二の方法は,「液胞型GFP (Green fluorescent protein)を誤って細胞外に分泌してしまう変異体の種子は強い蛍光を発する」という発見に基づき,液胞型 GFPを発現している種子を変異源処理し,次世代の種子集団から光る種子を選抜した.この画期的な方法 (Green-fluorescent seed 法) は,極めて効率的にかつ非破壊的に変異体種子 (gfs mutants)を得ることを可能にした (図 1).

 上記の 2 つの方法により,貯蔵タンパク質の液胞選別輸送に関与する因子として,MAG1/VPS29(VSR1 のリサイクルに関与),MAG2(粗面小胞体からのタンパク質のexit step に関与),GFS1/VSR1,GFS2/KAM2(エンドソーム形成に関与,後述),GFS10(新規の膜タンパク質)

を同定している.この内,MAG2欠損変異体のみは,貯蔵タンパク質を細胞外に分泌するのではなく,細胞内に新規の構造体を発達させてその中に貯蔵タンパク質の前駆体を集積するという,新しいタイプの変異体であった (図 2).

2.細胞内膜系の構造維持機構

 高等植物の細胞内膜系の構造の維持や小胞輸送には細胞骨格系が関与しているとされている。この分子機構を明らかにする目的で、細胞内膜系全体を GFPで可視化できるシロイヌナズナ (GFP-2sc株)を作製し,これを親株と

図 1 GFP蛍光を指標にした新規輸送変異体 gfsの単離(A) 液胞型 GFPを導入した形質転換シロイヌナズナを変異原処理し,乾燥種子において強い GFP蛍光を発する個体を green fluorescent seed (gfs)変異体として選抜した。(B) これまでに単離した gfs変異体における種子細胞の共焦点レーザー顕微鏡写真。液胞型 GFPが誤って分泌されるため,GFP蛍光 (緑色)が細胞外に見られる。赤色は細胞内のタンパク質蓄積型液胞の自家蛍光。バーは 10マイクロメーター。

し変異原処理したラインから内膜系に異常を示す変異体(katamari)を単離してきた。KAM1はゴルジ体膜に局在するタンパク質で,アクチンと結合することで細胞内膜系の維持に関与している。KAM2は,エンドソーム形成に関与しており,その結果,種子では貯蔵タンパク質の液胞への選別輸送が異常になった (上記参照).また,胚の成長軸の形成にも異常がみられた (図 3).細胞内膜系の構造維持や機能不全の変異体の単離という分子遺伝学的な手法により得られた新規の因子の細胞内局在性や機能を解析し、高次の生命現象の解明につないでいきたい。

3.植物のプログラム細胞死を制御する液胞プロセシ

ング酵素

 高等植物は、置かれた環境の変化に対応するために細胞レベルで大きく変動する能力を持つ。また、発生の過程や感染防御の過程で一部の細胞を死に至らせる能力を備えている。私達は、様々な液胞の機能分子の成熟化や活性化に関与している酵素を見出し、液胞プロセシング酵素(VPE: Vacuolar Processing Enzyme)と命名した。VPE

は、細胞が大きく変動する時期や組織、或いは死に至る細胞で液胞内プロセシング系の鍵酵素として機能する。これまでに、(1) 種子の登熟期に胚に出現する VPEが貯蔵タンパク質の正常な成熟化を行うこと,および (2) VPEが

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図 2 貯蔵タンパク質の輸送異常を示す mag2変異体maigo2 (mag2) 変異体では貯蔵タンパク質の小胞体からの出芽に異常が見られる。野生型 (A)とmag2変異体 (D)の種子の電子顕微鏡写真。mag2変異体の細胞内には電子密度の高い新規構造体が見られる。主要な貯蔵タンパク質である 2Sアルブミン (B, E)と 12S (C, F)を用いた免疫電子顕微鏡観察から,新規構造体 (赤点線)には貯蔵タンパク質の蓄積が確認できる。バーは 1マイクロメーター。

植物特有のプログラム細胞死を制御していることを示してきた。

 動物の細胞死の実行因子として caspasesが知られている。植物でも caspases活性が細胞死に関与していることは知られていたが、その活性を担う酵素の実態は不明のままだった。私達は、VPEが caspase-1活性を持つことを酵素化学的解析と VPE遺伝子のノックダウン植物の解析から明らかにした。また、VPEが病原体感染による過敏感反応死や胚発生の初期の珠皮 (種皮)の形成時の細胞死を制御していることを示すことができた。植物も動物も同じ酵素活性を使って細胞死を実行するが、両者の細胞死の機構は大きく異なる。動物の caspaseのカスケードは細胞質ゾルで起こるのに対し、植物の VPE依存的な細胞死は液胞の崩壊を引き起こすことから始まる。VPEを中心とする植物のプログラム細胞死の分子機構の全貌の解明を目指して研究を進めている。

4.小胞体由来の新規オルガネラ ER bodyの機能

 高等植物の分化の特徴は細胞の柔軟性にあり,これを支えているのは細胞内膜系のダイナミクスにあるという考えから,細胞内最大の表面積を持つ小胞体から派生する新規のコンパートメントに焦点をあて,それらの特殊化した機能や分化誘導について解析している.小胞体型 GFPを発現させたシロイヌナズナ形質転換体から、小胞体由来の新規のコンパートメントを発見し、ER Body と命名した。ER Body は、幼植物の表皮細胞や根に広く分布するが、成熟葉には存在しない。しかし、傷害や虫による食害を受けた成熟葉は ER Bodyを誘導する。外部刺激による細胞内のコンパートメントの形成誘導は興味深い発見である。ER Body 形成不全の nai1 変異株を単離して解析した結果、ER Body の構成タンパク質として Pyk10 と呼ばれるグルコシダーゼを同定した。ER Bodyは植物の生体防御に関わるオルガネラであると考えられる。高等植物は、様々な条件に応じて非常に特殊化した機能をもつオルガネラを小胞体から誘導するという新しい視点が浮上してきている。

図 3 kam2変異体は胚の屈曲方向に異常を示すkatamari2 (kam2)変異体は細胞内膜系の構造維持に異常を示す変異体として単離された。kam2変異体では約半数の種子に形態異常を見られる。野生型 (A) と kam2 変異体 (D)の乾燥種子。*は形態異常を示す種子。登熟期の胚珠を透明化して観察すると,kam2 変異体 (E, F) では野生型 (B, C)とは逆の方向に胚が屈曲する様子が見られる。バーは 100マイクロメーター。

最近の主な発表論文

1. Ogasawara K, Yamada K, Christeller JT, Kondo

M, Hatugai N, Hara-Nishimura I, Nishimura M.

(2009) Constitutive and inducible ER bodies

of Arabidopsis thaliana accumulate distinct ss-

glucosidases. Plant Cell Physiol., in press.

2. Chan CB, Abe M, Hashimoto N, Hao C, Williams

IR, Liu X, Nakao S, Yamamoto A, Li SY, Hara-

Nishimura I, Asano M, Ye K. (2009) Mice lack-

ing asparaginyl endopeptidase develop disorders

resembling hemophagocytic syndrome. Proc Natl

Acad Sci U S A. 106, 468-473.

3. Yokota E, Ueda S, Tamura K, Orii H, Uchi S,

Sonobe S, Hara-Nishimura I, Shimmen T. (2009)

An isoform of myosin XI is responsible for the

translocation of endoplasmic reticulum in tobacco

cultured BY-2 cells. J Exp Bot., 60, 197-212.

4. Nishikawa M, Hosokawa K, Ishiguro M, Mi-

namioka H, Tamura K, Hara-Nishimura I, Taka-

hashi Y, Shimazaki K, Imai H. (2008) Degradation

of sphingoid long-chain base 1-phosphates (LCB-

1Ps): functional characterization and expression

of AtDPL1 encoding LCB-1P lyase involved in the

dehydration stress response in Arabidopsis. Plant

Cell Physiol., 49, 1758-1763.

5. Kunieda T, Mitsuda N, Ohme-Takagi M, Takeda

S, Aida M, Tasaka M, Kondo M, Nishimura M,

Hara-Nishimura I. (2008) NAC family proteins

NARS1/NAC2 and NARS2/NAM in the outer in-

tegument regulate embryogenesis in Arabidopsis.

Plant Cell, 20, 2631-2642.

6. Yamada K, Nagano AJ, Nishina M, Hara-

Nishimura I, Nishimura M. (2008) NAI2 is an en-

doplasmic reticulum body component that enables

11

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ER body formation in Arabidopsis thaliana. Plant

Cell, 20, 2529-2540.

7. Nagano AJ, Fukazawa M, Hayashi M, Ikeuchi

M, Tsukaya H, Nishimura M, Hara-Nishimura I.

(2008) AtMap1: a DNA microarray for genomic

deletion mapping in Arabidopsis thaliana. Plant

J., 56, 1058-1065.

8. Mitsuhashi N, Kondo M, Nakaune S, Ohnishi

M, Hayashi M, Hara-Nishimura I, Richardson A,

Fukaki H, Nishimura M, Mimura T. (2008) Lo-

calization of myo-inositol-1-phosphate synthase to

the endosperm in developing seeds of Arabidopsis.

J Exp Bot., 59, 3069-3076.

9. Shimada TL, Shimada T, Takahashi H, Fukao Y,

Hara-Nishimura I. (2008) A novel role for oleosins

in freezing tolerance of oilseeds in Arabidopsis

thaliana. Plant J., 55, 798-809.

10. Nagano AJ, Fukao Y, Fujiwara M, Nishimura

M, Hara-Nishimura I. (2008) Antagonistic jacalin-

related lectins regulate the size of ER body-

type beta-glucosidase complexes in Arabidopsis

thaliana. Plant Cell Physiol., 49, 969-980.

11. Liu Z, Jang SW, Liu X, Cheng D, Peng J, Yepes

M, Li XJ, Matthews S, Watts C, Asano M, Hara-

Nishimura I, Luo HR, Ye K. (2008) Neuroprotec-

tive actions of PIKE-L by inhibition of SET pro-

teolytic degradation by asparagine endopeptidase.

Mol Cell, 29, 665-678.

12. Yamazaki M., Shimada T., Takahashi H., Tamura

K., Kondo M., Nishimura M. and Hara-Nishimura

I. (2008) Arabidopsis VPS35, a retromer com-

ponent, is required for vacuolar protein sorting

and involved in plant growth and leaf senescence.

Plant Cell Physiol., 49, 152-156.

13. Saska I., Gillon A. D., Hatsugai N., Dietzgen R.

G., Hara-Nishimura I., Anderson M. A. and Craik

D. J. (2007) An asparaginyl endopeptidase medi-

ates in vivo protein backbone cyclization. J. Biol.

Chem., 282, 29721-2978.

14. Fuji, K., Shimada, T., Takahashi, H., Tamura,

K., Koumoto, Y., Utsumi, S., Nishizawa, K.,

Maruyama, N. and Hara-Nishimura, I. (2007) Ara-

bidopsis vacuolar sorting mutants (green fluores-

cent seed) can be identified efficiently by secre-

tion of vacuole-targeted green fluorescent protein

in their seeds. Plant Cell, 19, 597-609.

15. Morita, Y., Araki, H., Sugimoto, T., Takeuchi, K.,

Yamane, T., Maeda, T., Yamamoto, Y., Nishi,

K., Asano, M., Shirahama-Noda, K., Nishimura,

M., Uzu, T., Hara-Nishimura, I., Koya, D., Kashi-

wagi, A. and Ohkubo, I. (2007) Legumain / As-

paraginyl endopeptidase controls extracellular ma-

trix remodeling through the degradation of fi-

bronectin in mouse renal proximal tubular cells.

FEBS Lett., 581, 1417-1424.

16. Tamura, K., Takahashi, H., Kunieda, T., Fuji, K.,

Shimada, T. and Hara-Nishimura, I. (2007) Ara-

bidopsis KAM2/GRV2 is required for proper endo-

some formation and functions in vacuolar sorting

and determination ot embryo growth axis. Plant

Cell, 19, 320-332.

17. Kuroyanagi, M., Hatsugai, N., Nishimura, M.

and Hara-Nishimura, I. (2006) Vacuolar process-

ing enzyme, a key molecule in both pathogen-

induced and phytotoxin-induced cell death in

higher plants. Mol. Plant Microbe Interact.,

18. Li, L., Shimada, T., Takahashi, H., Ueda, H.,

Fukao, Y., Kondo, M., Nishimura, M. and Hara-

Nishimura, I. (2006) MAIGO2 is involved in the

exsit of seed storage proteins from the endoplas-

mic reticulum in Arabidopsis thaliana. Plant Cell,

18, 3535-3547.

19. Shimada, T., Koumoto, Y., Li, L., Yamazaki, M.,

Kondo, M., Nishimura, M. and Hara-Nishimura,

I. (2006) AtVPS29, a putative component of a

retromer complex, is required for the efficient sort-

ing of seed storage proteins. Plant Cell Physiol.,

47, 1187-1194.

20. Kong, S.G., Suzuki, T., Tamura, K., Mochizuki,

N. and Hara-Nishimura, I. (2006) Blue light-

induced association of phototropin 2 with the

Golgi apparatus. Plant J., 45, 994-1005.

21. Hatsugai, N., Nishimura, M. and Hara-Nishimura

I. (2006) A cellular suicide strategy of plants:

vacuole-mediated cell death. Apoptosis, 11, 905-

911.

22. Ueda, H., Nishiyama, C., Shimada, T., Koumoto,

Y., Hayashi, Y., Kondo, M., Takahashi, T.,

Ohtomo, I., Nishimura, M., and Hara-Nishimura,

I. (2006) AtVAM3 is required for normal specifica-

tion of idioblasts, myrosin cells. Plant Cell Phys-

iol., 47, 164-175.

23. Hara-Nishimura, I. and Shimada, T. (2006) Induc-

tion of specialized compartments from the ER. In

The Plant Endoplasmic Reticulum., D.G. Robin-

son, ed (Heidelberg, Germany: Springer, 2006),

141-154.

24. Terauchi, K., Asakura, T., Ueda, H., Tamura, K.,

Tamura, T., Matsumoto, I., Misaka, T., Hara-

Nishimura, I., and Abe, K. (2006) Plant-specific

insertions in the soybean aspartic proteinases,

soyAP1 and soyAP2, perform different functions

of vacuolar targeting. J. Plant Physiol., 163, 856-

862.

25. 黒柳美和,西村いくこ:高等植物における自己防衛システムとしての細胞死ー液胞を介した細胞死を制御する酵素 VPE.蛋白質・核酸・酵素 (共立出版,東京,2007年)pp. 698-704.

26. 嶋田知生:どこが違う?植物の品質管理.タンパク質の一生集中マスター「細胞における成熟・輸送・品質管理」遠藤斗志也他編集 (羊土社,東京,2007年)pp.

140.

27. 田村謙太郎,西村いくこ:液胞の可視化と細胞内膜系異常を示す変異体の単離. 植物細胞工学シリーズ 22

「新版 植物の細胞を観る実験プロトコール」 福田裕穂他監修 (秀潤社,東京,2006年)pp. 221-224.

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28. 黒柳美和,西村いくこ:高等植物における液胞の多様機能.「プラントミメティックスー植物に学ぶ」甲斐昌一他監修 (NTS,東京, 2006年)286-292.

29. 松島良,嶋田知生,西村いくこ:植物の小胞体由来の構造体.「プラントミメティックスー植物に学ぶ」甲斐昌一他監修 (NTS,東京, 2006年)293-298.

30. 嶋田知生,西村いくこ:植物細胞における液胞タンパク質の輸送とプロセシング.化学と生物 (日本農芸化学会,東京,2006年)pp. 13-20.

2008 年度学位論文

博士論文

• 國枝 正「世代間コミュニケーションから見たシロイヌナズナの種子形成の研究」

• 永野 惇 「ER bodyの機能と形態制御」

• 平井 克之「トバモウイルス感染によるタバコのモザイクパターン形成機構の解析」

修士論文

• 運天 修「シロイヌナズナの病害抵抗性における細胞内輸送の関与」

• 中野 亮平「シロイヌナズナ小胞体の形態形成・維持機構の解明 ~ermo 変異体の解析を通して~」

• 橋詰 祥子「高等植物の核プロテオームと新規核タンパク質の解析」

メンバー

• 西村いくこ (教授)

• 嶋田知生 (講師)

• 田村謙太郎 (助教)

• 河本恭子 (教務補佐員)

• 上田晴子 (研究員 (科学研究))

• 十河暁子 (日本学術振興会特別研究員)

• 初谷紀幸 (さきがけ専任研究員)

• 山崎美紗子 (gCOE研究員)

• 平井克之 (博士過程 3年,農業生物資源研究所)

• 國枝正 (博士課程 3年,日本学術振興会特別研究員)

• 前川晃徳 (博士課程 3年)

• 白川一 (博士課程 3年,日本学術振興会特別研究員)

• 永野惇 (博士課程 3年,日本学術振興会特別研究員)

• 高橋健太郎 (博士課程 2 年,日本学術振興会特別研究員)

• 島田貴士 (博士課程 1年,日本学術振興会特別研究員)

• 運天修 (修士課程 2年)

• 中野亮平 (修士課程 2年)

• 橋詰祥子 (修士課程 2年)

• 岡本圭史 (修士課程 1年)

• 菅野茂夫 (修士課程 1年)

• 中辻綾 (修士課程 1年)

• 市野琢爾 (学部 4回生)

• 高木純平 (学部 4回生)

• 田中智幸 (学部 4回生)

• 宮原窓 (学部 4回生)

13

Page 14: 植物生理学分科 - 京都大学 · でフィトクロムによる細胞自律的応答が確認された。さら に、この系を用いて、外部から加えた植物ホルモンの効果

植物分子遺伝学分科

植物の光合成機能を中心とした環境応答機構、形態形成機構についてシロイヌナズナ、クラミドモナスなどのモデル生物を用いて、分子遺伝学、生理学、分子生物学、生化学、細胞生物学などの手法を用いて多面的に研究している。

研究内容の概略

1. 光合成電子伝達の調節に関する研究

(1) PGR5依存光化学系 Iサイクリック電子伝達経路に関する研究

 光化学系?サイクリック電子伝達は半世紀以上前に発見されたが、その生理機能は不明であった。シロイヌナズナの変異株の解析から、高等植物では、PGR5 という機能未知のタンパク質に依存する経路とNDH複合体に依存する経路が存在し、特に PGR5依存経路は、光合成と葉緑体を過剰な光から守る反応に重要な役割を果たすことが明らかになった (図 1)。我々は、遺伝学、生化学、生理学の手法を駆使し、電子伝達経路の全貌解明を目指している。また、イネ、ヒメツリガネゴケ、ゼニゴケを用いて、植物が陸上での進化の過程で光合成装置をいかに作り変えてきたのか、その進化的戦略を解き明かそうとしている。

(2) NDH複合体の構造解析

  NDH複合体はラン藻に由来し、葉緑体で光化学系 Iサイクリック電子伝達を触媒する。複合体の電子供与体との結合サブユニットが明らかになっていないため、複合体が何から電子を受け取るのかが未知である。我々は NDH複合体の全貌解明を目指し、遺伝学と生化学により解析を進めている。2008年度は、NDH複合体が光化学系?と超複合体を形成しているという重要な知見を得た。

図 1 光化学系 I サイクリック電子伝達を完全に欠く二重突然変異体は正常に生育できない野生型 (WT)と PGR5経路変異株 (pgr5)、NDH経路変異株 (crr2-2, crr3, crr4-2)、PGR5 経路と NDH 経路両方を欠く二重突然変異体 (crr2-2 pgr5, crr3 pgr5, crr4-2pgr5)。

図 2 クロロフィル蛍光イメージングによる光化学系 I サイクリック電子伝達活性の可視化シロイヌナズナ crr2変異株は、葉緑体 ndhB遺伝子の発現が異常なため NDH活性が検出されない。

2. 葉緑体遺伝子発現調節機構の解明

 葉緑体は独自のゲノムを持つオルガネラであるが、その遺伝子発現調節は、核コード遺伝子が行なっている。我々はクロロフィル蛍光イメージングの手法で、葉緑体遺伝子発現調節が異常な変異株を多数単離、解析してきた (図2)。RNA編集は植物では葉緑体およびミトコンドリアで見られ、多数のシチジン残基が RNA上でウリジンに変換される。この RNA編集のサイト認識に、PPRタンパク質が RNA結合タンパク質として機能することを明らかにした。また PPR タンパク質の N 末部分は RNA 配列の認識に、また PPR タンパク質間で保存性の高い C 末部分はシチジンからウリジンへの変換反応に関わる未知の酵素を呼び込むことに関わることを示唆する結果を得た。

3. 植物の銅イオン恒常性維持の分子機構解明

 銅は光合成電子伝達を含む多くの生体反応に必須であるが、過剰な銅は毒性を持つ。植物は生体内の銅イオンの恒常性維持のため様々な戦略を持っている。シロイヌナズナの転写因子 SPL7はこの銅イオン恒常性維持に中心的な役割を果たし、microRNA の機能を介して銅亜鉛と鉄の二つの SODの使い分けを制御したり、銅トランスポーターの発現を制御したりしている。SPL7の破壊株は、銅欠乏下で、深刻な生育障害を示す。

4. 葉脈パターン形成に関わる遺伝子

 葉脈のパターンに異常のある突然変異体を単離し、葉脈のパターン形成機構を解析している。no vein (nov)変異体では葉脈を持たない葉が形成される。NOV 遺伝子が、胚、葉、根におけるオーキシンを介した細胞分化とパターニングに必要であることを明らかにした。また、領域特異的な PINタンパク質の発現と極性的局在に NOVが必要であることを明らかにした。NOVが胚、葉、根に共通な制御系を構成し、オーキシンによる協調的な極性的分化とパターニングに必要であることが明らかになった。clumsy

vein (cuv)変異体では、本葉の葉脈数が減少し、葉脈末端の遊離頻度が高い。これまでの解析から、CUV遺伝子は本葉での正常なオーキシン分布に必要なこと、PIN タンパク質の極性的局在に必要であることが示唆されている。

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cuv突然変異体では、オーキシン応答に関わり、PINタンパク質の正常な極性的局在に必要な Aux/IAA family 遺伝子の mRNA 量が減少していた。vascular hyperplasia

(vah)変異体では葉脈パターンの異常と葉脈の肥厚が観察される。vah変異体では、維管束の横方向への細胞数の増加が観察された。向背軸方向への細胞の増加や木部・師部の配向に異常はなかった。これらは、VAH遺伝子が維管束細胞の横方向への増加を抑制するのに必要であることを示唆している。

5. 母性遺伝の分子機構を探る

 雄も雌もミトコンドリア/葉緑体をもつ。しかし多くの場合、雄のものは子孫には伝わらず,雌のものだけが子に伝わる (母性遺伝)。いったいどのようなしくみで母性遺伝が起きるのかは、最初の発見 (1909年)から 100年経た今日でも解らないことが多い。私たちは単細胞緑藻クラミドモナス (Chalmydomonas reinhardtii) をモデルとした遺伝学・細胞学・分子生物学的解析を通し、この疑問に分子レベルで答えて行きたいと考えている。単細胞の緑藻であるクラミドモナスでは、雄と雌の配偶子が全く同じ形をしており、それぞれが子に同じ量のミトコンドリア (葉緑体)DNA を寄与する。それにも関わらず、葉緑体 DNAは母性遺伝、ミトコンドリア DNAは父性遺伝する。DNA 特異的蛍光色素 SYBR Green I で生きた接合子の葉緑体DNAを染色して蛍光顕微鏡で観察すると、接合してから僅か 45~60分程で、雄の葉緑体 DNAが分解されてしまう事が解った (図)。さらに、メダカの精子や粘菌のミトコンドリアにおいても、片親DNAの分解が起きる事が示され、クラミドモナスで最初にみつかった片親のミトコンドリア (葉緑体)DNAの積極的な分解は、母性遺伝の基本的なしくみの一つであると考えられている。現在、雄の葉緑体 DNAの分解を担う遺伝子を探るべく、母性遺伝変異体の単離、および接合子特異的遺伝子の逆遺伝学的解析に取り組んでいる。得られてきた変異体のなかには、接合子の成熟自体がとまるものや、雌雄の葉緑体DNAの蛍光までが消えるものなど、予想外の表現型を示す変異体もみつかってきている。今後、これらの変異体を解析して母性遺伝を制御する遺伝子群を一つ一つ明らかにしていくことで、真核生物の母性遺伝のしくみに迫りたい。

6. 花器官の正常な数とかたち作りに必要な遺伝子

 植物器官の形は、細胞増殖と細胞伸長がどの方向にどれだけ行われるのかによって決まる。また、これらは細胞間で協調的に行われると考えられているが、その分子機構はまだわかっていない。花器官形成過程において、VAJRA(VAJ)

遺伝子が、頂端基部軸方向と横軸方向両方の細胞増殖を制御する機構に関与することを明らかにした。また、VAJが方向依存的な細胞伸長と花器官の数と形成位置の制御にも関わることが示唆された。クローニングの結果、VAJはスプライソソーム構成因子をコードし、スプライソソームによる pre-mRNAスプライシングを介した遺伝子発現制御に関わることが示された。

7. 軸に依存した側生器官形成に関わる遺伝子

 葉や花器官などの側生器官では、分裂組織に近い表側(向軸側)、遠い裏側 (背軸側)、及び横側 (周縁部)でそれぞれ特徴的な細胞分化が見られる。向背軸、横軸という軸

図 3 クラミドモナスの母性遺伝(A, B) SYBR Green Iで接合子の DNAを標識し、経時的に母性遺伝の様子を追った。核 (緑色, N)と葉緑体のクロロフィル自家蛍光 (赤色)と核様体 (黄色)。接合直後 (A)は雄雌両方の葉緑体に核様体が存在するが、時間と共に雄由来の葉緑体の核様体が消失している (B)。

に依存した側生器官形成の分子機構を解析している。PRESSED FLOWER (PRS)遺伝子は、葉や花器官等の側生器官の発生初期に周縁部特異的に発現する遺伝子であり、周縁部の形成に機能する重要な遺伝子の一つである。PRSホモログであるWOX1遺伝子が PRSと重複した機能を有すると予想されたので、prs wox1二重変異体を作製し、周縁部組織の表現型解析を行った。prs wox1の葉や花器官では、葉身の周縁部の組織が欠失し、表側または裏側の組織に置き換わるという異常が観察された。これらの異常は、それぞれの単独変異体では見られなかった。また、prs wox1では細胞増殖が抑えられ、横方向への成長が抑制されていた。さらに、prs wox1では、表側、裏側に特徴的な細胞の分布が裏側、表側へ各々拡大するという異常が見られた。裏側領域の決定に関わる FIL遺伝子の発現パターンを解析したところ、裏側特異的な FILの発現が、prs wox1では表側へ広がっていることがわかった。これらから、PRSとWOX1が余剰的に、1)周縁部組織の形成に重複した機能を持つこと、2) 細胞増殖を促進することで側生器官の横方向への成長に関与していること、3) 表側または裏側の特徴を持つ細胞の分布を適切に保つ機能を持つことが明らかとなった

8. トライコーム密度の可塑性を制御する機構

 シロイヌナズナの表皮細胞の一部はトライコーム (星状毛)に分化する。傷を受けた植物ではトライコーム密度が増加することが知られ、食害に対する誘導的な防衛反応の一つだと考えられている。傷害という外部刺激が表皮細胞の分化パターンを変化させることに着目し、その制御機構を解析している。傷害ホルモンであるジャスモン酸により、トライコーム分化を正に制御する GL3の発現が誘導されることを見出した。更に、傷害応答性のトライコーム

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増加には、インポーチンホモログをコードする URM9遺伝子を介した GL3-GFP 融合タンパク質の核内局在が重要であることを明らかにした。

9. 極性を持った細胞伸長に関わる遺伝子

 方向依存的な細胞伸長の制御に表層微小管が深く関わっていることが知られているが、微小管の配向と動態がどのように制御されているか等、不明な点が多い。これまでの解析から、新規遺伝子 ITOSUGI(ITG)が方向依存的な細胞伸長の制御に必要であることを明らかにしている。ITG

はアルマジロリピートと C2ドメインからなるタンパク質をコードしており、タンパク質間相互作用を介して方向依存的な細胞伸長に関わると考えられる。ITG タンパク質が細胞表層においてドット状の局在パターンを示すこと、ITG の細胞表層への局在性には正常な表層微小管が必要なこと、ITGが表層微小管と共局在すること、ITGを含むドット状の構造体は細胞表層で直線状の移動性を示すことを明らかにした。これらから、方向依存的な細胞伸長制御には、ITG が表層微小管と共局在し、機能することが必要であることが示唆された。

最近の主な発表論文

1. Okuda, K., Chateigner-Boutin, A.-L., Nakamura,

T., Delannoy, e. Sugita, M., Myouga, F., Moto-

hashi, R., Shinozaki, K., Small, I. and Shikanai,

T. (2009) Pentatricopeptide repeat proteins with

the DYW motif have distinct molecular function

in RNA editing and RNA cleavage in Arabidopsis

chloroplasts. Plant Cell, 108, 064667.

2. Yamasaki, H., Hayashi, M., Fukuzawa, M.

Kobayashi, Y. and Shikanai, T. (2009) SPL7 is

a central regulator for copper homeostasis in Ara-

bidopsis. Plant Cell, 108, 060137.

3. Yoshida, Y., Sano, R., Wada, T., Takabayashi, J.

and Okada, K. (2009) Jasmonic acid control of

GLABRA3 links inducible defense and trichome

patterning in Arabidopsis. Development, 136,

1039-1048.

4. Yagi, N., Takeda, S., Matsumoto, N. and Okada,

K. (2009) VAJ/GFA1/CLO is involved in the di-

rectional control of floral organ growth. Plant Cell

Physiol., in press.

5. Peng, L., Shimizu, H. and Shikanai, T. (2008) The

chloroplast NAD(P)H dehydrogemase complex in-

teracts with photosystem I in Arabidopsis. J. Biol.

Chem., 283, 34873-34879.

6. Okuda, K., Habata, Y., Kobayashi, Y. and

Shikanai, T. (2008) Amino acid sequence varia-

tions in Nicotiana CRR4 orthologs determine the

apecies-specific efficiency of RNA editing in plas-

tids. Nucleic Acids Res., 36, 6155-6164.

7. Shimizu, H., Peng, L., Myouga, F., Mo-

tohsahi, R., Shinozaki K. and Shikanai, T. (2008)

CRR23/NdhL is a subunit of the chloropast

NAD(P)H dehydrogenase complex in Arabidopsis.

Plant Cell Physiol., 49, 835-842.

8. Okegawa, Y., Kagawa, Y., Kobayashi Y. and

Shikanai, T. (2008) Characterization of factors af-

fecting the activity of photosystem I cyclic electron

transport in chloroplasts. Plant Cell Physiol., 49,

825-834.

9. Yamasaki, H., Pilon, M. and Shikanai, T. (2008)

How do plants respond to copper deficiency? Plant

Signaling & Behavior, 3-4, 231-232.

10. Shikanai, T. (2007) The NAD(P)H dehydrogenase

complex in photosynthetic organisms: subunit

composition and physiological function. Func.

Plant Sci. Biotech., 1, 129-137.

11. Shikanai, T. (2007) Cyclic electron transport

around photosystem I; genetic approaches. Annu.

Rev. Plant Biol., 58, 199-217.

12. Okuda, K., Myouga, F., Motohashi, R., Shinozaki,

K. and Shikanai T. (2007) Conserved domain

structure of pentatricopeptide repeat proteins in-

volved in chloroplast RNA editing. Proc. Natl.

Acad. Sci. USA., 104, 8178-8183.

13. Yamasaki, H., Abdel-Ghany, S.E., Cohu, C.M.,

Kobayashi, Y., Shikanai, T. and Pilon, M. (2007)

Regulation of copper homeostasis by microRNA in

Arabidopsis. J. Biol. Chem., 282, 16369-16378.

14. Shimizu, H. and Shikanai, T. (2007) Dihydrodipi-

colinate reductase-like protein, CRR1, is essential

for chloroplast NAD(P)H dehydrogenase in Ara-

bidopsis. Plant J., 52, 539-547.

15. Okegawa, Y., Long, T.A., Iwano, M., Takayama,

S., Kobayashi, Y., Covert, S.F. and Shikanai,

T. (2007) Balanced PGR5 level is required for

chloroplast development and optimum operation

of cyclic electron transport around photosystem I.

Plant Cell Physiol., 48, 1462-1471.

16. Munshi, M.K., Kobayashi, Y. and Shikanai, T.

(2006) CRR6 is a novel factor required for accu-

mulation of the chloroplast NAD(P)H dehydroge-

nase complex in Arabidopsis. Plant Physiol., 141,

737-744.

17. Okuda, K., Nakamura, T., Sugita, M., Shimizu,

T. and Shikanai, T. (2006) A pentatricopeptide

repeat protein is a site-recognition factor in chloro-

plast RNA editing. J. Biol. Chem., 281, 37661-

37667.

18. Muraoka, R., Okuda, K., Kobayashi, Y. and

Shikanai, T. (2006) A eukaryotic factor required

for accumulation of the chloroplast NAD(P)H de-

hydrogenase complex in Arabidopsis. Plant Phys-

iol., 142, 1683-1689.

19. Shikanai, T. (2006) RNA editing in plant or-

ganelles: machinery, physiological function and

evolution. Cell Mol. Life Sci., 63, 698-708.

20. Nishimura, Y., Yoshinari, T., Naruse, K., Yamada,

T., Sumi, K., Mitani, H., Higashiyama, T., and

Kuroiwa, T. (2006) Active digestion of sperm mi-

tochondrial DNA in single living sperm revealed

by optical tweezers. Proc. Natl. Acad. Sci. USA

103, 1382-1387.

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2008 年度学位論文

博士論文

• 八木慎宜「シロイヌナズナ突然変異体を用いた方向依存的な細胞伸長の制御機構の分子遺伝学的解析」

• 吉田祐樹「シロイヌナズナを用いたトライコーム形成の表現型可塑性の研究」

• 山崎広顕「シロイヌナズナにおける銅欠乏環境への適応機構の研究」(九州大学・生物資源環境科学府)

修士論文

• 為重才覚「シロイヌナズナ突然変異体 enlarged fil

expression domain2を用いた向背軸形成機構の解析」

• 岩崎 晃「花弁の成熟に異常が見られるシロイヌナズナの folded petals2突然変異体の分子遺伝学的解析」

メンバー

• 鹿内利治 (教授)

• 槻木竜二 (助教)

• 西村芳樹 (助教、2008年 9月に着任)

• 奥田賢治 (博士研究員)

• 山本 宏 (博士研究員)

• Peng Lianwei(日本学術振興会外国人特別研究員)

• 上田 実 (日本学術振興会特別研究員 PD、2009年度より)

• 山崎広顕 (博士課程 2年、日本学術振興会特別研究員PD、2009年度より)

• 八木慎宜 (博士課程 3年、理学部 RA、TA)

• 堺 彩子 (博士課程 3年)

• 吉田祐樹 (博士課程 3年、日本学術振興会特別研究員)

• 豊倉浩一 (博士課程 2 年、日本学術振興会特別研究員、基礎生物学研究所に研究指導委託)

• 桶川友季 (博士課程 2 年、日本学術振興会特別研究員、九州大学より研究指導委託)

• 高見常明 (博士課程 2年、九州大学より研究指導委託)

• 杉本和彦 (博士課程 1年、gCOE RA)

• 中田未友希 (博士課程 1 年、日本学術振興会特別研究員)

• 岩崎 晃 (修士課程 2年、基礎生物学研究所に研究指導委託)

• 為重才覚 (修士課程 2年、基礎生物学研究所に研究指導委託)

• 寺田志穂 (研究補助員)

• 田原亜沙子 (研究補助員)

• 田中 瞳 (研究補助員)

• 佐藤 望 (研究補助員)

• 高木麻友子 (事務補佐員)

• 柴田将光 (2009年度より修士課程 1年)

• 國吉哲紀 (2009年度より学部 4回生)

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植物系統分類学分科

植物系統分類学分科では、4人の教官をはじめ、ポスドク、大学院生など、合わせて 11名が、野生の陸上植物を材料として、植物系統進化の研究を行っている.主に被子植物を中心に様々な形質情報 (外部形態、解剖学的・発生学的形質、DNA・アロザイム等の分子情報など)を統合的に解析し、植物群の系統進化過程の科学的解明を試みている。

A.植物系統分類学グループ

研究内容の概略

1.被子植物の雌雄生殖器官の発生学と進化

 この数十年間のあいだに分子系統解析の研究が大きく進展し、植物の分類システムもまた大きく変わりつつある。その結果、被子植物では 479科が認められるようになったが、この数は過去最高の数であると同時に、今後もまだ増える可能性がある。その一方、どの科がどのような特徴を持つのか、それを明らかにするための個々の科の形態的特徴に関する研究の必要性が急速に高まっている。なかでも雌雄生殖器官の発生学の研究が世界でも急速に進み、重要な発見や観察結果の報告が相次ぐようになっている。当研究室でも、新たな分類システムを立証する形態的特徴の探索のために、さまざまな植物群について、雌雄生殖器官の発生学の研究を行ってきた。

(1) クスノキ目(a) ハスノハギリ科クスノキ目 (全 7科)はゴンドワナ植物と言われ、その起源はゴンドワナ大陸にあると考えられている。ハスノハギリ科は 4-5属からなる小さな科がある。しかし、その分布は世界中におよび、科内における発生学的形質は大きな変異を示す。これまでの研究の結果、ハスノハギリ科は多層になる外珠皮によって特徴付けられ、アメーバ状タペート細胞と無胚乳種子をもつこと、hypostaseを欠くことなどの特徴を共有することから、クスノキ科と近縁である。科の中では、ハスノハギリ亜科 (ハスノハギリ属、テングノハナ属)は、葯内に放射状に伸長するタペート細胞と縦に1層に並ぶ花粉母細胞、横に弁開する葯、厚い珠心組織、nucellar beak、維管束をもつ外胚 (種) 皮, および厚い宿存性の外種皮中層をもつという特徴がある。一方、もう一つの亜科 Gyrocarpoideae(2属)は珠心組織から飛び出す胚嚢、特殊化しないカラザをもつという特徴があることがわかった (図 1)。

(b) モミニア科モニミア科も世界中の熱帯に分布の中心をもつ植物群である。約 25属知られているが、個々の属の分布が限られることや花や果実の組織が硬いことから、これまで組織や器官の発生学的研究が遅れてきた。これまでの研究結果から、モニミア科のうち原始的亜科であるモニミア亜科とホルトニア亜科を研究し、共有原始形質を明らかにした。その結果、これらの原始的な 2つの亜科はほとんど変異を示さず、双同側型 (isobilateral)の四分子小胞子 (花粉)と四分子大胞子、非特殊化カラザ、外種皮中層/外層型種子を

図 1.

共有していることが分かった。花粉母細胞の連続型細胞膜形成を共有する点は、分子系統解析によって示唆されているモミニア科 - ハスノハギリ科 - クスノキ科のクレードを支持する一方、モニミア科とハスノハギリ科、あるいはモニミア科とクスノキ科との間に共有派生形質は見いだせなかった。

(2) アブラナ目アブラナ目はアブラナ科を含む 18科からなる。かつては、これらの科は「からし油配糖体」あるいはミロシン細胞をもつ植物として 7目へ分類されていたが、分子系統解析によってごく一部を除くほとんど全ての科がアブラナ目としてまとめられることが明らかになっている。しかし、アブラナ目の中には、まだよく理解されていない植物も少なくなく、相互の類縁関係や形態形質の進化について、それらを一つずつ研究している。2008 年は、ケーベルリニア科の唯一の種 Koeberlinia

spinosa を研究した。この種は北米の砂漠に生育する葉がないユニークな植物で、これまでフウチョウソウ科を含むさまざまな科に分類されてきた。研究の結果、Koeber-

linia は湾性胚珠、2 細胞層の外珠皮、腎臓型の種子、湾曲した胚、繊維状内珠皮外層をもつ点で、フウチョウソウ科や他 7科 (アブラナ科、クレオメ科、エンブリンギア科、ギイロステモン科、ペンタディプランドラ科、モクセイソウ科、トヴァリア科)からなるコアグループと一致することが明らかになった。しかし、Koeberliniaは薄層珠心、大型化する珠心先端の表皮細胞、外種皮外層型種子をもつなどの点で、それらの科とは明瞭に異なっていた。

  (3) 単子葉植物 (オモダカ目サトイモ科)

単子葉植物の系統のなかで、オモダカ目はショウブ科に続く最も原始的な植物群である。さらにオモダカ目 (14科)

の中では、サトイモ科が最も原始的と考えられ、サトイモ科を理解することはオモダカ目の進化を理解する上で必須のことであるが、多くの種で子房室内に粘液を溜めるなど、発生学の研究には大きな困難があって十分な研究がなされていない。そこで、従来の発生学の研究結果を分析し、サトイモ科の特徴、変異、進化を探り、今後の研究の

18

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展望を検討した。サトイモ科 106属のうち、これまで多少とも研究のなされてきた 27属について調査し、7亜科のそれぞれについて特徴をまとめ、系統樹に照らして形質進化を解析した。その結果、サトイモ科内の原始的胚珠は、Orontioideaeのように、直生で、厚層珠心をもち、胚嚢の周りに厚い珠心組織をもち、厚い内珠皮と外珠皮をもつこと、それに対して、幾つかの Aroideaeのように、派生的胚珠は、倒生で、薄層珠心をもち、胚嚢の周りに珠心組織がなく、薄い内珠皮と外珠皮をもち、さらに endothelium

を持つことが明らかになった (図 2)。

図 2.

2.キク属の染色体進化と倍数性

 観賞用キクの原種と言われるキク属の種イワギク(Chrysanthemum zawadskii)、シマカンギク (C. in-

dicum)、アブラギク (C. boreale) は、韓国ではしばしば3種とも、あるいは 2種が混在して分布し、しかもそれらの体細胞染色体は多様な核型を示すことが知られている。多様な核型が生じた原因を染色体再配列 (chromosome re-

arrangements)にあると考え、その仮説を検証するために3種の 2倍体 (2n = 18)の 7集団 33個体の減数分裂を観察した。その結果、全ての個体において、第一回減数分裂前期から中期にかけて、1個か 2個の多価染色体 (ほとんどの場合 4価染色体)が幾つかの花粉母細胞 (約 17∼37%)

において、さらに全ての花粉母細胞において、長さや動原体の位置が異なる非相同染色体が必ず 1 対か 2 対観察された。減数分裂時に見られるこうした染色体は染色体再配列、即ち相互転座と不等交叉がキク属にあったことを示している。それにも関わらず、減数分裂後期には染色体分離が成功しており、染色性のある大量の花粉を作っていることを確かめた。従って、そうした配偶子の受精により、多様な核型が生じたと考えられた。また、この研究を通して、特にシマカンギクでは、高い割合で異常な染色体行動や花粉不稔性をもつことが明らかになり、過去や比較的最近でも交雑が起こってきた可能性を示唆した。植物では倍数体形成が種の進化や分化に重要な役割を果たしてきたことは良く知られている。キク属においても例外ではない。例えばイワギクでは 2 倍体から 10 倍体 (2x、

4x、6x、8x、10x)、シマカンギクでは 2倍体から 6倍体(2x、4x、6x) まであることが知られている (x = 9)。しかし、倍数体が生じるメカニズムについては知られていない。ところが、イワギクとシマカンギクの 2倍体個体において、花粉母細胞の減数分裂を観察しているときに、低い頻度 (1.1-1.3%)ではあるが第一減数分裂の始めに 2個の花粉母細胞が融合する場合があることを発見した。融合した細胞 (syncyte) は 2 個の染色体を保持したまま 1 個の大きな花粉母細胞として減数分裂を続け、その結果、発芽能力のある 4個の (2n)非減数花粉を形成する。こうした融合細胞の形成はキク属の種内倍数体形成に大きな役割を果たしてきた可能性があることを明らかにした。

3.ブナ目における花粉管伸長様式の多様性と合点受

精の研究

 ブナ目では、受粉から受精までに長い時間がかかることが知られている。これまでにモクマオウ科、カバノキ科、ヤマモモ科、ブナ科について雌蕊内における受粉後の花粉管伸長の様子を観察し、結果を発表してきた。2008年には、20世紀後半発見され新科として発表された被子植物唯一の科である中米固有科ティコデンドロン科について発表した。この科は受粉時に 2 心皮性の雌蕊に 4 個の未成熟の胚珠をもち、従って、他のブナ目の科と同様、受精遅延を示す。受粉後、花粉管は子房室内の胚珠の発達に同調して断続的に伸長を繰り返し、胚嚢に辿り着くまでに 4

箇所 (花柱内、子房上部の組織内、珠柄組織の内外、カラザ)で停滞することが分かった。最終的にただ 1本の花粉管がカラザ組織を通り、4個の胚珠のうち 1個の胚珠の胚嚢に入り受精が起こる (合点受精)。こうした受精遅延と花粉管の断続伸長は、他のブナ目と同様、雌雄配偶体選抜に重要な役割を果たしていると同時に、カラザを経由する合点受精と 5段階花粉管伸長様式は、モクマオウ科、ティコデンドロン科、カバノキ科共通の系統系列の特徴であることを明らかにした (図 3,4)。

図 3.

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図 4.

4.湿潤アジア地域の生物多様性に関する研究

 日本が属する東アジアから東南アジア熱帯地域にかけては赤道域から温帯域 にわたって連続的に湿潤な気候に恵まれ、世界でも最も生物多様性の高い生物 群集を有する地域の一つとなっている。京都大学ではこの地域に何度も調査隊を派遣し、多くの学術標本資料を集積し植物相の解明に取り組んでいる。中高木層の構成メンバーであるハイノキ科やツバキ科、林床生の低木アリドオシ (アカネ科)やミヤマシキミ (ミカン科)、熱帯域の林床性大型草本類ショウガ科のなど代表的な植物群については詳細な分類学的・植物地理学的研究を進めている。2008年度にはマレーシアのランビル国立公園のフィ ールド調査および永久方形区の樹種調査を行なった。

5.チシマゼキショウ科の系統分類学的研究

 チシマゼキショウ科は主に北半球の温帯から亜寒帯および南米北部に分布する 4-5属約 20種からなる単子葉植物の科である。分子系統学的にこの科はオモダカ目に入ることがわかっている。しかしながら、科内の属の範囲や属間の系統関係についてはまだよく分かっていない。そこで、チシマゼキショウ科 5 属 17 種を対象に分子系統解析を行った。その結果、5属は単系統群を形成し、科内では北米南東部に固有の Pleea 属が最初に分岐した。南米の Isidrogalvia 属は北米固有の Harperocalis 属が姉妹群に、また Tofieldia属と Triantha属と姉妹群となった。Tofieldia属と Triantha属はしばしば一つの属として扱われてきたが、分子系統学的には両者の間にはかなりの距離があることがわかった。Triantha属には 4種が知られているがほとんど差はなく、多系統であったため分類学的な再検討が必要であろう。

6.カンアオイ属の花の匂いの研究

 カンアオイ属カンアオイ節は日本に約 50 種が知られ、特に日本において多様化している植物群のひとつである。カンアオイ属の多くの種は冬季に緑色から暗紫色の花を地表面か枯葉に埋もれた状態で咲かせるので、その特異な花形態・生活史から、その繁殖様式について古くから関心が寄せられている。カンアオイ節の多くの種では花の匂いは感じられないが、一部の種ではやや不快な匂いを放つと報告されている。また、最近、西表島のヤエヤマカンアオイの花からよい香りがすることが観察されている。そこで、琉球列島に分布するカンアオイ節 11種について花の匂いの捕集と分析を行った。その結果、ヤエヤマカンアオイはメチルチグリン酸 (仮同定)と数種類のセスキテルペンを放出していることがわかった。メチルチグリン酸はフルーティーなノートを持ち、スイレン科やモクレン科の花の匂い成分のひとつとして知られている。そのほか、オオバカンアオイも数種類のセスキテルペンを放つことがわかった。それ以外の種については匂い物質は検出されなかった。ただし、センカクカンアオイは鼻で嗅ぐとやや不快な匂いがするが、匂い物質を検知することはできなかった。

B.植物集団進化生物学グループ

研究内容の概略

 集団レベルで植物の進化プロセスと進化機構について解析する。

1.開花習性に関する適応進化と繁殖特性

 開花習性の形質に自然淘汰が働き、進化が起こっている 2

種類、ワスレグサ属 (Hemerocallidaceae)と Camissonia

refracta(Onagraceae)植物の野外自然集団において、どのように自然淘汰が作用し進化してきたのかを、野外調査、量的遺伝学的手法、移植栽培・交配実験、分子生物地理学的手法などを用いて、解析を行っている。カリフォルニアMojave砂漠に生育する Camissonia refracta集団で、日中閉じる花と開いたままの開花習性形質に多型が存在することを発見した。この多型の存在は、開花習性の形質に進化が起こったことを示す。この 2型間では、花のサイズ、花の寿命が有意に違うことを明らかにした。さらに野外調査および量的遺伝学的手法を用いて、各形質に作用する淘汰の強さを算定した。また、夜咲性のユウスゲに関しては、花の維持コストに淘汰が作用し、適応進化が起こり、1日花 (エゾキスゲなど)から夜咲性が進化したことを明らかにした。

最近の主な発表論文

1. Kim, J.S., Oginuma, K. and Tobe, H. (2009)

Syncyte formation in the microsporangium of

Chrysanthemum (Asteraceae): a pathway to in-

fraspecific polyploidy. J. Plant Res. 122, in press.

2. Tobe, H. (2008) Embryology of Japonolirion (Pet-

rosaviaceae, Petrosaviales): a comparison with

other monocots. J. Plant Res. 121, 407-416.

3. Tobe, H. and Kadokawa, T. (2008) Embryology

of the Araceae: variation and character evolution.

Makinoa N.S. 7, 29-53.

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4. Tobe, H. and Raven, P.H. (2008) Embryology of

Koeberlinia (Koeberliniaceae): evidence for core-

Brassicalean affinities. Amer. J. Bot. 95, 1475-

1486.

5. Kim, J.S., Oginuma, K. and Tobe, H. (2008) Anal-

ysis of meiotic chromosome behaviour in diploid

individuals of Chrysanthemum zawadskii and re-

lated species (Asteraceae): evidence for chromo-

some rearrangements. Cytologia 73, 425-435.

6. Kimoto, Y. and Tobe, H. (2008) Embryology of the

Hortonioideae and Monimioideae (Monimiaceae,

Laurales): characteristics of lower monimioids.

Bot. J. Linn. Soc. 158, 228-241.

7. Sogo, A. and Tobe, H. (2008) Mode of pollen tube

growth in pistils of Ticodendron incognitum (Tico-

dendraceae, Fagales) and the evolution of chala-

zogamy. Bot. J. Linn. Soc. 157, 621-631.

8. Kimoto, Y. and Tobe, H. (2008) Embryology of Il-

ligera and Sparattanthelium (Hernandiaceae, Lau-

rales): family characteristics and relationships.

Intern. J. Plant Sci. 169, 391-408.

9. Oda, J. and Nagamasu, H. (2008) Two new species

of Carex sect. Capitellatae (Cyperaceae) from

Japan. Acta Phytotax. Geobot 59, 55-66.

10. Fukuda, T., Naiki, A. and Nagamasu, H. (2008)

Pollen morphology of the genus Skimmia (Ru-

taceae) and its taxonomic implications. J. Plant

Res. 121, 463-471.

11. Kono, M. and Tobe, H. (2007) Is Cycas revoluta

(Cycadaceae) wind- or insect-pollinated? Amer.

J. Bot., 94, 847-855.

12. Tobe, H., Kimoto, Y. and Prakash, R. (2007)

Development and structure of the female game-

tophyte of Austrobaileya scandens (Austrobailey-

aceae). J. Plant Res., 120, 431-436.

13. Fukuda, T., Naiki, A. and Nagamasu, H. (2007)

Karyotypic analysis of Skimmia japonica (Ru-

taceae) and related species. J. Plant Res., 120,

113-121.

14. Takano, A. and Nagamasu, H. (2007) Myx-

ochlamys (Zingiberaceae), a new genus from Bor-

neo. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 58, 19-

32.

15. 織田二郎、永益英敏.2007.ミヤマカンスゲ (カヤツリグサ科)の有花茎の着く位置.分類 7: 121-130.

2008 年度学位論文

博士論文

• Izu Andry Fijridiyanto:「Phylogenetic analyses

of Malesian Litsea Lam. (Lauraceae) and re-

lated genera based on the chloroplast and nuclear

genomes」

メンバー

• 戸部 博 (教授)

• 永益英敏 (准教授) (総合博物館)

• 野口順子 (助教)

• 東 浩司 (助教)

• Izu Andry Fijridiyanto (博士課程 3年、首都大学東京に研究指導委託)

• 門川朋樹 (博士課程 3年)

• 岡田 潤 (博士課程 3年)

• 後藤 静 (博士課程 1年)

• 望月啓太 (修士課程 1年)

• 掛澤明弘 (学部 4回生)

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表紙の図:Flora Japonica(von Siebold and Zuccarini, 1835–1870; 植物学教室所蔵)より

Ginkgo biloba L. (イチョウ)