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─ 10 ─ 硬さの異なる豆腐の食味について ○中澤芳則 (九州沖縄農研) 【目的】 豆腐の食味では,ショ糖含量と甘味に相関が認 められることなどが報告されているが,硬さが食 味に影響することも指摘されている。豆腐は複雑 な工程で製造され,さらに,豆乳の成分が硬さに も影響することから,成分や硬さが単独で食味に 与える影響を評価することは難しい。最近では, 味覚センサーを利用して豆腐の食味を客観的に評 価する方法も提案されている。 消費者は豆腐の味と食感を重視しているが,食 味に関する報告は少なく,硬さが食味に与える影 響も明確ではない。ここでは,同じ成分組成の豆 乳で凝固剤濃度のみを変えて調製した硬さの異な る豆腐を供試し,官能試験と味覚センサーで比較 評価を行ったので報告する。 【材料および方法】 供試品種は「フクユタカ」と「サチユタカ」を 用い2009年に実施した。加熱絞りで調製した両品 種の豆乳で凝固剤 MgCl2・6H2O の添加量を変え て硬さの異なる充填豆腐を製造し,官能試験ある いは味覚センサーに供試した。官能試験は,甘さ, 舌触り,好みについて4名が硬さの異なる2つの 豆腐を比較しながら5段階評価する方法で行っ た。また,全く同じ条件で製造した豆腐の破断応 力を測定し,官能試験に供試した豆腐の硬さの推 測値とした。味覚センサーによる評価は,両品種 で凝固剤濃度を変えて硬さの異なる豆腐を製造し て行った。測定は無味を基準にして数値化した。 【結果および考察】 官能試験の結果を第1表に示す。同じ豆乳に由 来する豆腐を比較しているので,凝固剤を除くシ ョ糖などの成分組成は同じである。従って,食味 に与える硬さの影響を示すものと推測される。結 果は,豆腐が軟らかい方が甘みなどで良い評価と なり,また,その影響は品種で異なる可能性が示 唆された。すなわち,硬さの違いによる食味の差 異は「フクユタカ」で大きく,「サチユタカ」で 小さかった。比較した豆腐間硬さ(破断応力)の 差異は「サチユタカ」の方が大きいので,食味に は硬さや豆乳成分以外の要因が影響している可能 性も示唆された。凝固剤濃度に対する破断応力の 変化は「フクユタカ」と「サチユタカ」で異なる ことが多いことから,両者の凝固の差異が食味に 影響している可能性も推測される。 食味センサーによる評価は,凝固剤濃度を変え て調整した豆腐を液状にして,無味を基準として 測定した。機械的にセンサーで測定していること から,pH 等の補完データを考慮して食味を検討 することが望ましい。しかし,豆腐についての基 礎データが少ないことから,ここでは無味を基準 とした測定値を評価値とした。結果は第2表に示 す。食味センサーによる評価でも「甘み」「旨み」 は軟らかい方が高い評価となり,官能試験と同じ 傾向が認められた。一方,同じ品種内での凝固剤 濃度間の測定値の差は「サチユタカ」が「フクユ タカ」よりも大きく,官能試験とは異なっていた。 この理由として,食味センサーによる評価では, 豆腐を液状にして測定したことから,この状態の 変化が影響した可能性も推測される。味覚センサ ーの利用で客観的に数値化することが可能である が,豆腐の状態は官能試験と異なる。味覚センサ ーを利用する場合,豆腐の状態にも留意する必要 があるのかもしれない。 第1表 凝固剤濃度による食味の違い 品種 凝固剤濃度 破断応力 評価点(平均) (g/ 甘さ 食感 好み フクユタカ 0.20% 33.5 4.0 4.0 4.3 0.35% 76.9 3.0 3.3 2.8 0.25% 55.4 3.5 4.0 4.0 0.40% 77.7 2.8 3.0 3.3 サチユタカ 0.20% 22.9 3.0 2.8 3.3 0.35% 81.9 2.8 3.0 3.0 0.25% 47.7 2.8 3.5 3.0 0.40% 92.3 2.5 3.3 2.8 注:4名による官能試験 5段階評価 甘さ(5:強い-3:普通-1:弱い) 食感(5:良-3:並-1:悪) 好み(5:好き-3:並-1:嫌い) 第2表 食味センサーでの評価 品種 凝固剤濃度 評価項目 甘味 旨み フクユタカ 0.20% 21.87 1.30 14.85 0.83 0.30% 20.57 14.02 サチユタカ 0.20% 22.63 1.45 15.21 0.86 0.30% 21.18 14.35 注:無味基準での測定値、⊿は測定値の差

硬さの異なる豆腐の食味について 播種様式(点播)が二条大 …豆腐を比較しながら5段階評価する方法で行っ た。また,全く同じ条件で製造した豆腐の破断応

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Page 1: 硬さの異なる豆腐の食味について 播種様式(点播)が二条大 …豆腐を比較しながら5段階評価する方法で行っ た。また,全く同じ条件で製造した豆腐の破断応

─ 10 ─

播種様式(点播)が二条大麦「ニシノホシ」の生育・収量に及ぼす影響

○近乗偉夫・森山修志1)・河野礼紀・森本美和・江川寛子2)・田中啓二郎3)・橘 保宏4)・有吉映明5)

(大分農林水産研指水田・1)大分県中部振興局・2)大分県北部振興局・3)大分農林水産研指農研・4)生研セ・5)アグリテクノ矢崎㈱)

【目的】

麦類の播種は,条播または散播で行われるのが

一般的であり,機械利用の面からドリルシーダが

広く使用されている。現在,農研機構生研セなど

で開発中の高速汎用播種機は,精密な点播が可能

であり,水稲乾田直播栽培での活用が期待されて

いる。

そこで,本播種機の麦類における適応性を把握

するため,点播が大麦の生育・収量に及ぼす影響

について検討した。

【材料および方法】

試験実施場所は場内(宇佐市,標高8m,土性:

灰色低地土,前作:乾田直播栽培による水稲),品種はニシノホシを供試した。

播種機は高速汎用播種機試作1号機(6条播)を供

試し,播種粒数を3.3粒/株,株間を16.5,11,6cmに設定し,慣行区に S 式ドリルシーダ(6条播)を供試し,いずれも2.2m の畦を成形した後,条間

30cmで播種を行った。

播種期は2013年12月6日(慣行区は12月4日),窒

素施用量(kg/10a)は基肥4,分げつ肥2(2014年1月2

3日),穂肥3(3月7日)とした。

【結果および考察】

1.播種機の概要

供試した播種機は,高速種子操出装置を有した

播種ユニットを6つ搭載し,トラクタの3点リンク

に装着するタイプであった。

2.播種精度及び出芽状況(写真1,表1)播種は各設定株間とも支障は見られず作業を行

うことができた。株間16.5,11cm 区は株状に出

芽したが,6cm区では条状となった。

写真1 出芽状況(播種後55日)

注)各写真の長辺は,概ね1mである。

株当たりの出芽数は3本程度で欠株は見られず,

㎡当たり出芽数は慣行区に比べ少なく,播種量に

比例した。

3.生育調査結果(表2)分げつ期は株間が広いほど草丈が低く,茎数が

少なく,葉色が濃い傾向となった。穂数は慣行区

に比べ,試験区でやや少なくなった。成熟期は株

間16.5cm区がやや遅くなった。

4.収量・品質調査結果(表3)収量は明確な傾向はみられなかったものの,慣

行区がやや高かった。千粒重は株間が広がるほど

重くなり,株間16.5cm では慣行区より重く,品

質も向上した。

以上のことから,高速汎用播種機(試作1号機)は,大麦への汎用利用が可能であり,点播するこ

とにより,慣行栽培よりも大幅に播種量を減らす

ことが可能で,品質向上の可能性も示唆された。

播種量 出芽日数 同左比播種機 株間 kg/10a 日 本/株

16.5cm 2.7 20 3.1 50 a 30

11cm 3.7 20 3.2 70 a 42

6cm 5.9 20 - 120 b 72

慣行区 - 8.1 21 - 167 c 100

区 出芽数表1 播種量と出芽状況

注)表中の異なるアルファベット間にはTukey法により5%水準で有意差があることを示す(下表も同じ)。

本/㎡

高速汎用播種機

成熟期播種機 株間

月.日16.5cm 16.1 a 545 a 45.5 a 381 ab 5.26

11cm 17.3 ab 623 a 45.4 ab 357 a 5.25

6cm 18.1 ab 973 b 42.7 c 420 ab 5.25

慣行区 - 19.1 b 935 b 41.9 c 480 b 5.24注)葉色はMK社spad502sを用い、完全展開葉上位第2葉を測定した。

分げつ期(3月7日調査)

草丈 茎数 葉色穂数区

高速汎用播種機

cm 本/㎡ GM値 本/㎡

表2 生育調査結果

播種機 株間16.5cm 42.7 a 34.1 a 47.0 b 763 a 3.7 b

11cm 38.6 a 32.2 a 45.6 ab 776 a 5.0 a

6cm 40.4 a 32.2 a 42.9 c 773 a 4.7 ab

慣行区 - 46.4 a 32.5 a 44.0 ac 772 a 5.3 a

注)検査等級は1等上中下、2等上中下、規格外の7段階で表す。

表3 収量・品質調査結果容積重 検査等級

kg/a kg/a g g/L (1-5)

高速汎用播種機

子実重 わら重 千粒重

硬さの異なる豆腐の食味について

○中澤芳則

(九州沖縄農研)

【目的】

豆腐の食味では,ショ糖含量と甘味に相関が認

められることなどが報告されているが,硬さが食

味に影響することも指摘されている。豆腐は複雑

な工程で製造され,さらに,豆乳の成分が硬さに

も影響することから,成分や硬さが単独で食味に

与える影響を評価することは難しい。最近では,

味覚センサーを利用して豆腐の食味を客観的に評

価する方法も提案されている。

消費者は豆腐の味と食感を重視しているが,食

味に関する報告は少なく,硬さが食味に与える影

響も明確ではない。ここでは,同じ成分組成の豆

乳で凝固剤濃度のみを変えて調製した硬さの異な

る豆腐を供試し,官能試験と味覚センサーで比較

評価を行ったので報告する。

【材料および方法】

供試品種は「フクユタカ」と「サチユタカ」を

用い2009年に実施した。加熱絞りで調製した両品

種の豆乳で凝固剤 MgCl2・6H2O の添加量を変え

て硬さの異なる充填豆腐を製造し,官能試験ある

いは味覚センサーに供試した。官能試験は,甘さ,

舌触り,好みについて4名が硬さの異なる2つの

豆腐を比較しながら5段階評価する方法で行っ

た。また,全く同じ条件で製造した豆腐の破断応

力を測定し,官能試験に供試した豆腐の硬さの推

測値とした。味覚センサーによる評価は,両品種

で凝固剤濃度を変えて硬さの異なる豆腐を製造し

て行った。測定は無味を基準にして数値化した。

【結果および考察】

官能試験の結果を第1表に示す。同じ豆乳に由

来する豆腐を比較しているので,凝固剤を除くシ

ョ糖などの成分組成は同じである。従って,食味

に与える硬さの影響を示すものと推測される。結

果は,豆腐が軟らかい方が甘みなどで良い評価と

なり,また,その影響は品種で異なる可能性が示

唆された。すなわち,硬さの違いによる食味の差

異は「フクユタカ」で大きく,「サチユタカ」で

小さかった。比較した豆腐間硬さ(破断応力)の

差異は「サチユタカ」の方が大きいので,食味に

は硬さや豆乳成分以外の要因が影響している可能

性も示唆された。凝固剤濃度に対する破断応力の

変化は「フクユタカ」と「サチユタカ」で異なる

ことが多いことから,両者の凝固の差異が食味に

影響している可能性も推測される。

食味センサーによる評価は,凝固剤濃度を変え

て調整した豆腐を液状にして,無味を基準として

測定した。機械的にセンサーで測定していること

から,pH 等の補完データを考慮して食味を検討

することが望ましい。しかし,豆腐についての基

礎データが少ないことから,ここでは無味を基準

とした測定値を評価値とした。結果は第2表に示

す。食味センサーによる評価でも「甘み」「旨み」

は軟らかい方が高い評価となり,官能試験と同じ

傾向が認められた。一方,同じ品種内での凝固剤

濃度間の測定値の差は「サチユタカ」が「フクユ

タカ」よりも大きく,官能試験とは異なっていた。

この理由として,食味センサーによる評価では,

豆腐を液状にして測定したことから,この状態の

変化が影響した可能性も推測される。味覚センサ

ーの利用で客観的に数値化することが可能である

が,豆腐の状態は官能試験と異なる。味覚センサ

ーを利用する場合,豆腐の状態にも留意する必要

があるのかもしれない。

第1表 凝固剤濃度による食味の違い

品種 凝固剤濃度破断応力 評価点(平均)

(g/ ) 甘さ 食感 好み㎠

フクユタカ

0.20% 33.5 4.0 4.0 4.3

0.35% 76.9 3.0 3.3 2.8

0.25% 55.4 3.5 4.0 4.0

0.40% 77.7 2.8 3.0 3.3

サチユタカ

0.20% 22.9 3.0 2.8 3.3

0.35% 81.9 2.8 3.0 3.0

0.25% 47.7 2.8 3.5 3.0

0.40% 92.3 2.5 3.3 2.8

注:4名による官能試験

  5段階評価 甘さ(5:強い-3:普通-1:弱い)

        食感(5:良-3:並-1:悪)

        好み(5:好き-3:並-1:嫌い)

第2表 食味センサーでの評価

品種 凝固剤濃度評価項目

甘味 ⊿ 旨み ⊿

フクユタカ0.20% 21.87

1.3014.85

0.830.30% 20.57 14.02

サチユタカ0.20% 22.63

1.4515.21

0.860.30% 21.18 14.35

注:無味基準での測定値、⊿は測定値の差

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