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沖縄県図書館協会誌 第 15 号 2011 − 48 − 創立 100 年の県立図書館の蔵書 県立図書館の蔵書数は平成22年度(2010) で約64万冊となっている。昨年の 8 月で創 立 100 年を迎えたので、本来ならば 100 年を かけて収蔵された資料ということになる。し かし、沖縄戦で資料は失われ、わずかに残さ れた歴代宝案の一部が現在の那覇市立図書館 に収蔵されているだけである。  初代館長の伊波普猷、続く真境名安興、島 袋全発と歴代の館長が情熱を傾けて収集した 資料を柳宗悦は「沖縄に関する文献が完璧で あり、地方的特色のある図書館としては、日 本随一のものであった」と述べている。   戦争で貴重な資料のほとんどを失ったが、 その情熱の炎は消えることなく戦後、郷土を 愛する人々によって資料が収集され大切に守 られてきた。その一部が県立図書館に寄贈さ れ、現在の蔵書を形成している。 資料の保存と活用 県立図書館には東恩納寛惇、真境名安興、 比嘉春潮、山下久四郎、天野鉄夫、大城立裕 山之口貘という寄贈者名を冠した7つの特殊 文庫があり、そのほかにも多くの個人や機関 から貴重な資料が寄せられている。 資料の中には県立図書館にしかない唯一の 歴史的資料(絵図や古地図、古文書)など現 在では入手できない資料も多い。これらの時 代を経た古い資料の損耗をいかにして防ぎ、 保存していくかは大きな課題である。幸いに、 平成 21 年度から 3 年間の国の経済対策の予 算が獲得できたため、資料の修復や複製本の 作成などの事業は大幅に進んだ。 一方で、貴重資料は普段、利用者が目に触 れる事のない書庫に保存されており、資料の 存在が充分に知らされていない。また、保存 のためには、オリジナル資料への閲覧も制限 せざるを得なかった。 「保存と活用」という相反する目的をどの ように達成するか。その有効な手段がデジタ ルアーカイブを構築して Web サイトで公開 するという事業であった。デジタルアーカイ ブの流れは他の機関でも加速しており、利用 の拡大という意味では特に効果があると思わ れた。平成 20 年度には作業部会を立ち上げ、 デジタル資料を Web サイトに掲載するため 担当職員が試行錯誤しながら取りかかった。 しかし職員の負担が重く、時間も要し、一気 呵成にというわけにはいかなかった。それら のことがこの事業に着手する契機となった。 デジタルアーカイブ事業について 1. 沖縄県立図書館貴重資料デジタルアーカ イブ構築事業 平成 22 年度に緊急雇用創出事業を活用し てデジタルアーカイブ構築事業を行った。 同事業は民間企業へ委託して行うことに なったが、委託業者の選定は企画提案募集に よる公募型プロポーザル方式で実施した。審 査のために図書館内外から構成する企画提案 貴重資料の保存と活用 宮 城 涼 子 話題アラカルト 「沖縄県立図書館貴重資料デジタル書庫」の開設と取り組み

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沖縄県図書館協会誌 第 15号 2011

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創立 100 年の県立図書館の蔵書

 県立図書館の蔵書数は平成22年度(2010)で約64万冊となっている。昨年の 8 月で創立 100 年を迎えたので、本来ならば 100 年をかけて収蔵された資料ということになる。しかし、沖縄戦で資料は失われ、わずかに残された歴代宝案の一部が現在の那覇市立図書館に収蔵されているだけである。  初代館長の伊波普猷、続く真境名安興、島袋全発と歴代の館長が情熱を傾けて収集した資料を柳宗悦は「沖縄に関する文献が完璧であり、地方的特色のある図書館としては、日本随一のものであった」と述べている。   戦争で貴重な資料のほとんどを失ったが、その情熱の炎は消えることなく戦後、郷土を愛する人々によって資料が収集され大切に守られてきた。その一部が県立図書館に寄贈され、現在の蔵書を形成している。

資料の保存と活用

 県立図書館には東恩納寛惇、真境名安興、比嘉春潮、山下久四郎、天野鉄夫、大城立裕山之口貘という寄贈者名を冠した7つの特殊文庫があり、そのほかにも多くの個人や機関から貴重な資料が寄せられている。 資料の中には県立図書館にしかない唯一の歴史的資料(絵図や古地図、古文書)など現在では入手できない資料も多い。これらの時代を経た古い資料の損耗をいかにして防ぎ、保存していくかは大きな課題である。幸いに、

平成 21 年度から 3 年間の国の経済対策の予算が獲得できたため、資料の修復や複製本の作成などの事業は大幅に進んだ。 一方で、貴重資料は普段、利用者が目に触れる事のない書庫に保存されており、資料の存在が充分に知らされていない。また、保存のためには、オリジナル資料への閲覧も制限せざるを得なかった。 「保存と活用」という相反する目的をどのように達成するか。その有効な手段がデジタルアーカイブを構築して Web サイトで公開するという事業であった。デジタルアーカイブの流れは他の機関でも加速しており、利用の拡大という意味では特に効果があると思われた。平成 20 年度には作業部会を立ち上げ、デジタル資料を Web サイトに掲載するため担当職員が試行錯誤しながら取りかかった。しかし職員の負担が重く、時間も要し、一気呵成にというわけにはいかなかった。それらのことがこの事業に着手する契機となった。

デジタルアーカイブ事業について

1. 沖縄県立図書館貴重資料デジタルアーカ

イブ構築事業

 平成 22 年度に緊急雇用創出事業を活用してデジタルアーカイブ構築事業を行った。 同事業は民間企業へ委託して行うことになったが、委託業者の選定は企画提案募集による公募型プロポーザル方式で実施した。審査のために図書館内外から構成する企画提案

貴重資料の保存と活用

宮 城 涼 子

話題アラカルト

「沖縄県立図書館貴重資料デジタル書庫」の開設と取り組み

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沖縄県図書館協会誌 第 15号 2011

審査委員会を設置し、業者選定の透明性、公平性を図った。 平成 23 年の 6 月に「沖縄県立図書館貴重資料デジタル書庫」の Web サイトに 610 点の王府時代の地図や絵図、拓本などの貴重資料が掲載され公開された。

2. 沖縄県立図書館貴重資料デジタルアーカ

イブ普及活用事業

 平成 22 年度のアーカイブ構築事業は単年度の事業で継続ができないため、平成 23 年度は新たにデジタルアーカイブ普及活用事業として取り組みを始めた。

(1) 事業概要

①「デジタル書庫」の普及活動 ②デジタル資料の追加(500 点)と Web

上での公開③アーカイブ資料(500 点)の解説の付与

① 普及活動について 貴重資料の周知やアーカイブサイトの認知向上と利用促進のため、講演会・研修会を県内各地で開催する。

第 1 回講演会 2011 年 8 月 9 日 

場所:宜野湾マリン支援センター   講師:松下博文(筑紫女学園大学教授) 演題:「貘のゐる風景」

第 2 回講演会 2011 年 10 月 23 日 場所:石垣市立図書館 琉球大学附属図書

館共催講師:豊見山和行(琉球大学教授)  演題:「1771 年の大津波とその後の八重山

社会」講師:里井洋一(琉球大学教授)  演題:「蔵元絵師画稿集・異人の図を読み

解く-漂着マニラ人か-」第 3 回講演会 2011 年 11 月 20 日 

場所:宮古島市 働く女性の家講師:松下博文(筑紫女学園大学教授) 演題:「貘のゐる風景」

第 4 回講演会 2012 年 2 月 18 日 場所:沖縄県立図書館講師:上里隆史(早稲田大学琉球・沖縄研

究所招聘研究員)演題:未定        

[第 5 回]研修会 2012 年 2 月場所:沖縄県立図書館講師:鶴田 大(志香須賀文庫学芸員)演題:未定

 講演会・研修会では、図書館の職員がデジタルアーカイブの事業概要及びデジタル書庫の機能や利用方法についてパワーポイントを用いて詳しく説明している。 また、講師の先生方には掲載資料を活用した講話や資料の紹介をしてもらい「デジタル書庫」の普及に努めている。これまでの講演会は、参加者の多くの方に好評をいただいた。

開設された「貴重資料デジタル書庫」

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沖縄県図書館協会誌 第 15号 2011

② デジタル資料の追加 昨年度に掲載したデジタル資料 610 点に更に 500 点を追加しWeb上に掲載する。 ③ アーカイブ資料の解説について アーカイブを専門家だけでなく、広く活用してもらうため、資料の内容がわかるよう解説を付けている。すでに多くの解説がデジタル資料とともに掲載されている。鶴田大氏による解説は中学生でも読めるように難しい漢字にはルビを振るなど、丁寧でとてもわかりやすく説明している。しかも掲載資料だけでなく周縁にまで理解が広がるように解説されている。また、「概要・解説文」に加え、より詳しい「詳細解説文」や「参考文献・調査ノート」も付加され、レファレンスにも役立つよう配慮されていて、図書館員にとっても所蔵資料を知る上で大変参考になる。画像と書誌情報、解説を同画面で見る事ができ、プリントアウトできるのも便利である。

(2) Webサイトの充実

 デジタル書庫を開設するにあたって、こだ

わったことの1つがトップページのデザインである。平素からややもすると地味になりがちで発信力の弱い自らの業務姿勢の反省もあり、存在感があり、多くの人の関心をひくデザインにしたいと考えた。 資料検索は資料名を知らなくてもさまざまなベクトルから検索ができるように利用者の利便性を最重視した。キーワード、カテゴリー選択、文庫別、分類検索、タイトルや著者などの詳細検索。さらに漢字でもかな・カタカナでも検索ができるようにした。またタイトル一覧、著者一覧でデジタル資料の全容を見通せるようにして解説や翻刻資料の有無も付け加え相互のリンクづけも行った。 また、デジタル書庫の掲載資料と地図や年表をリンクさせWebサイトに掲載して、街歩きや郷土学習に活用できるように現在、準備を始めている。

各機関との連携

 県立図書館がデジタルアーカイブ構築事業を進める際に琉球大学附属図書館から多くの示唆をいただいた。琉大も本館と同様にデジタルアーカイブ事業をおこなっており、貴重資料情報の共有を目的とした協力体制の推進に取り組んでいる。また現在「国立国会図書館デジタルアーカイブポータル」に参加する準備をすすめており、これにより、国立国会図書館システムで本館のデータベースが検索できるようになる。 沖縄県の歴史、文化、観光、産業、経済など沖縄県全体の情報をどのように集約し発信していくか。これからは1機関だけでなくアーカイブをすすめている県内のさまざまな機関と連携し協力体制を構築する時期に来ているのではないかと思う。

資料掲載画面 右上 書誌情報       下 解説文

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沖縄県図書館協会誌 第 15号 2011

――――――――――――――――――――みやぎ りょうこ:沖縄県立図書館

第 2回講演会(八重山地区)