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2 アジア アジア アジア アジア科学技術協力 科学技術協力 科学技術協力 科学技術協力の戦略的推進 戦略的推進 戦略的推進 戦略的推進 地域共通課題解決型国際共同研究 地域共通課題解決型国際共同研究 地域共通課題解決型国際共同研究 地域共通課題解決型国際共同研究 事後評価 事後評価 事後評価 事後評価 「アジア アジア アジア アジアからの からの からの からの免疫不全症 免疫不全症 免疫不全症 免疫不全症データベース データベース データベース データベースの創出 創出 創出 創出」 機関名 機関名 機関名 機関名: 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人理化学研究所 免疫 免疫 免疫 免疫・アレルギー アレルギー アレルギー アレルギー科学総合研 科学総合研 科学総合研 科学総合研 究センター センター センター センター 代表者名 代表者名 代表者名 代表者名:小原 小原 小原 小原 実施期間 実施期間 実施期間 実施期間:平成 平成 平成 平成19 19 19 19年度 年度 年度 年度~平成 平成 平成 平成21 21 21 21年度 年度 年度 年度

アジアアジア科学技術協力 科学技術協力の ...€¦ · アジアアジア科学技術協力 科学技術協力のの戦略的推進戦略的推進 地域共通課題解決型国際共同研究

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アジアアジアアジアアジア科学技術協力科学技術協力科学技術協力科学技術協力のののの戦略的推進戦略的推進戦略的推進戦略的推進

地域共通課題解決型国際共同研究地域共通課題解決型国際共同研究地域共通課題解決型国際共同研究地域共通課題解決型国際共同研究

事後評価事後評価事後評価事後評価

「「「「アジアアジアアジアアジアからのからのからのからの免疫不全症免疫不全症免疫不全症免疫不全症データベースデータベースデータベースデータベースのののの創出創出創出創出」」」」

機関名機関名機関名機関名:::: 独立行政法人理化学研究所独立行政法人理化学研究所独立行政法人理化学研究所独立行政法人理化学研究所 免疫免疫免疫免疫・・・・アレルギーアレルギーアレルギーアレルギー科学総合研科学総合研科学総合研科学総合研

究究究究センターセンターセンターセンター

代表者名代表者名代表者名代表者名::::小原小原小原小原 收收收收

実施期間実施期間実施期間実施期間::::平成平成平成平成19191919年度年度年度年度~~~~平成平成平成平成21212121年度年度年度年度

3

目次

Ⅰ.国際共同研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1-3

Ⅱ.経費

1.所要経費 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

2.使用区分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

Ⅲ. 実施結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5-24

1.目標達成度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5-6

(1)目標の達成状況

(2)採択コメントに対する対応

(3)所期の計画どおりに進捗しなかった場合の理由、対処、実績

2.成果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6-14

(1)研究成果の内容

(2)国内外の各参画機関の共同研究体制

3.計画・手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14-16

5.成果の詳細 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16-24

IV. 自己評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24-25

1.目標達成度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

2.成果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

3.計画・手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

5.その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

Ⅴ.その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25-28

1.代表研究者・国内参画機関研究者への質問

2.国外参画機関への質問

4

Ⅰ.国際共同研究の概要

■プログラム名: アジア科学技術協力の戦略的推進

■課題名: アジアからの免疫不全症データベースの創出

■機関名:独立行政法人理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター

■代表者名(役職):小原 收 (グループディレクター)

■実施期間:3年間

■実施経費: 81.7百万円(間接経費込み)

1.課題概要

(1)研究の目標・概要

1.研究の目的

・ 免疫・アレルギー疾患の具体的な例として原発性免疫不全症に的を絞り、統合化されたゲノミクス情報

を活用して疾患原因を同定し治療を的確に行うための問題解決型の情報基盤を創出する。

2.内容

・ ヒト原発性免疫不全症にかかわる免疫系シグナル伝達径路の異常と臨床症状の関連マップ、遺伝子発

現情報、ゲノム構造情報、臨床アーカイブなどを統合した原発性免疫不全症データベースを構築し、そ

の公開を通じて、アジアから免疫・アレルギー疾患克服のための国際標準となり得る情報基盤を形成す

る。

3.実施体制

・ インドのThe Institute of Bioinformaticsの持つ高度なデータベース構築ノウハウと情報科学的技術と、

(独)理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センターのもつ免疫学における多くのノウハウ、知

識の集積を融合し、相互補完的に研究を進める。

(2)研究の意義等

1.政策的ニーズ

・ 日本とインドが、双方に優れた異分野領域の技術を融合し、アジア規模での免疫疾患克服の実現を目

指すものであり政策的に重要である。

2.社会経済的な実効性

・ 本研究開発で目指す原発性免疫不全症の問題解決指向型のデータベースは、それをハブとした国際

的な免疫疾患克服のためのネットワークを形成することを通じて、より確実な診断や治療方法の選択を

可能とし、大きな医療経済効果をもたらすと期待できる。

3.本制度による取組からの付加価値

・ 今回の提案の情報基盤整備は、産業界主導で行うべき段階の研究開発活動ではないため、民間ベー

スの技術協力は困難である。また、広範な領域の研究者の結集が必要であり、既存の研究開発プログ

ラムの枠組みでは組織化が困難である。

4.共同研究への参画

・ The Institute of Bioinformaticsは、人的貢献と情報科学的貢献を本研究に対して行なうことに全く問題

はない。

5.過去の蓄積

研究代表者は、The Institute of Bioinformaticsの設立当初からアドバイザーとして研究に協力してきた実績を

5

持つ。

2.採択時コメント

本提案は、インドの高い生物情報学の能力と我が国の免疫学能力とのイコールパートナーシップにより、原発

性免疫不全症に関するデータベースの構築を目的としており,政策的な必要性は高いと判断された。

研究体制やミッション達成のロードマップ等が明確であり、免疫学研究基盤に関する実績もあり、原発性免疫

不全症をモデルとした国際標準となりうる問題解決型データベースの構築が期待される。

また、実効的な国際基準となる情報基盤を創成するためには、国際的な情報交換も視野に入れたデータベ

ースシステムの構築が望ましい。

研究体制研究体制研究体制研究体制研究体制研究体制研究体制研究体制

((((独独独独))))理化学研究所理化学研究所理化学研究所理化学研究所((((独独独独))))理化学研究所理化学研究所理化学研究所理化学研究所免疫免疫免疫免疫・・・・アレルギーアレルギーアレルギーアレルギー科学総合研究科学総合研究科学総合研究科学総合研究センターセンターセンターセンター免疫免疫免疫免疫・・・・アレルギーアレルギーアレルギーアレルギー科学総合研究科学総合研究科学総合研究科学総合研究センターセンターセンターセンター Institute of Bioinformatics

Dr. Dr. SujathaSujatha MohanMohan

Dr. Akhilesh Pandey

ITITITITITITITIT技術支援技術支援技術支援技術支援、、、、プログラムプログラムプログラムプログラム作製支援作製支援作製支援作製支援技術支援技術支援技術支援技術支援、、、、プログラムプログラムプログラムプログラム作製支援作製支援作製支援作製支援

データデータデータデータ提供提供提供提供、、、、データデータデータデータ提供提供提供提供、、、、DBDBDBDBDBDBDBDB構築支援構築支援構築支援構築支援構築支援構築支援構築支援構築支援

臨床免疫研究臨床免疫研究臨床免疫研究臨床免疫研究

基礎免疫研究基礎免疫研究基礎免疫研究基礎免疫研究

遺伝子構造解析遺伝子構造解析遺伝子構造解析遺伝子構造解析・・・・ゲノミクスゲノミクスゲノミクスゲノミクス

研究統括研究統括研究統括研究統括 プロテオミクスプロテオミクスプロテオミクスプロテオミクス・・・・バイオインフォマティクスバイオインフォマティクスバイオインフォマティクスバイオインフォマティクスプロテオミクスプロテオミクスプロテオミクスプロテオミクス・・・・バイオインフォマティクスバイオインフォマティクスバイオインフォマティクスバイオインフォマティクス

バイオインフォマティクスバイオインフォマティクスバイオインフォマティクスバイオインフォマティクスバイオインフォマティクスバイオインフォマティクスバイオインフォマティクスバイオインフォマティクス

データベースデザインデータベースデザインデータベースデザインデータベースデザイン、、、、データデータデータデータ提供提供提供提供、、、、データベースデザインデータベースデザインデータベースデザインデータベースデザイン、、、、データデータデータデータ提供提供提供提供、、、、

データベースデータベースデータベースデータベース構築構築構築構築、、、、国際連携国際連携国際連携国際連携のののの推進推進推進推進データベースデータベースデータベースデータベース構築構築構築構築、、、、国際連携国際連携国際連携国際連携のののの推進推進推進推進

宮脇宮脇宮脇宮脇 利男利男利男利男野野野野々々々々山山山山 恵章恵章恵章恵章金兼金兼金兼金兼弘和弘和弘和弘和

今井今井今井今井 耕輔耕輔耕輔耕輔

土方土方土方土方 敦司敦司敦司敦司深谷深谷深谷深谷((((菊野菊野菊野菊野))))玲子玲子玲子玲子

石川石川石川石川 文彦文彦文彦文彦

小原小原小原小原 收收收收

日本日本日本日本日本日本日本日本 インドインドインドインドインドインドインドインド

○課題分類 「アジア発の先端技術・国際標準の創出」

○提案課題名 「アジアからの免疫不全症データベースの創出」

○研究代表者名 「 小原 收 」

○代表機関名 「(独)理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター」

連携実務連携実務連携実務連携実務連携実務連携実務連携実務連携実務 免疫関連免疫関連免疫関連免疫関連たんぱくたんぱくたんぱくたんぱく質質質質にににに関関関関するするするする情報収集情報収集情報収集情報収集ととととデータマイニングデータマイニングデータマイニングデータマイニングのためののためののためののためのプログラムプログラムプログラムプログラム作製作製作製作製

免疫不全症免疫不全症免疫不全症免疫不全症にににに関関関関するするするするデータベースデータベースデータベースデータベース構築構築構築構築

課題実施内容課題実施内容課題実施内容課題実施内容::::課題実施内容課題実施内容課題実施内容課題実施内容::::アジアアジアアジアアジアからのからのからのからのアジアアジアアジアアジアからのからのからのからの原発性原発性原発性原発性原発性原発性原発性原発性免疫不全症免疫不全症免疫不全症免疫不全症データベースデータベースデータベースデータベースのののの創出創出創出創出免疫不全症免疫不全症免疫不全症免疫不全症データベースデータベースデータベースデータベースのののの創出創出創出創出

臨床免疫研究者臨床免疫研究者臨床免疫研究者臨床免疫研究者

基礎免疫研究者基礎免疫研究者基礎免疫研究者基礎免疫研究者

PIDbase

迅速迅速迅速迅速・・・・正確正確正確正確なななな診断診断診断診断、、、、迅速迅速迅速迅速・・・・正確正確正確正確なななな診断診断診断診断、、、、

治療法治療法治療法治療法のののの迅速迅速迅速迅速かつかつかつかつ適切適切適切適切なななな治療法治療法治療法治療法のののの迅速迅速迅速迅速かつかつかつかつ適切適切適切適切なななな

リスクリスクリスクリスク評価評価評価評価とととと選択選択選択選択リスクリスクリスクリスク評価評価評価評価とととと選択選択選択選択

未知免疫不全症遺伝子未知免疫不全症遺伝子未知免疫不全症遺伝子未知免疫不全症遺伝子のののの探索探索探索探索、、、、未知免疫不全症遺伝子未知免疫不全症遺伝子未知免疫不全症遺伝子未知免疫不全症遺伝子のののの探索探索探索探索、、、、

免疫免疫免疫免疫システムシステムシステムシステムのののの理解理解理解理解のののの深化深化深化深化免疫免疫免疫免疫システムシステムシステムシステムのののの理解理解理解理解のののの深化深化深化深化

データベースデータベースデータベースデータベース公開公開公開公開・・・・データデータデータデータ共有共有共有共有

アジアアジアアジアアジアからからからから世界世界世界世界へへへへ向向向向けてのけてのけてのけての情報発情報発情報発情報発

信信信信

アジアネットワークアジアネットワークアジアネットワークアジアネットワーク形成形成形成形成アジアネットワークアジアネットワークアジアネットワークアジアネットワーク形成形成形成形成

統合化統合化統合化統合化とととと情報抽出情報抽出情報抽出情報抽出統合化統合化統合化統合化とととと情報抽出情報抽出情報抽出情報抽出

インターフェースインターフェースインターフェースインターフェース構築構築構築構築インターフェースインターフェースインターフェースインターフェース構築構築構築構築

原発性免疫不全症原発性免疫不全症原発性免疫不全症原発性免疫不全症原発性免疫不全症原発性免疫不全症原発性免疫不全症原発性免疫不全症

データベースデータベースデータベースデータベースのののの構築構築構築構築データベースデータベースデータベースデータベースのののの構築構築構築構築

臨床臨床臨床臨床アーカイブアーカイブアーカイブアーカイブ臨床臨床臨床臨床アーカイブアーカイブアーカイブアーカイブ

モデルマウスモデルマウスモデルマウスモデルマウス解析解析解析解析データデータデータデータモデルマウスモデルマウスモデルマウスモデルマウス解析解析解析解析データデータデータデータ

ヒトゲノミクスヒトゲノミクスヒトゲノミクスヒトゲノミクス解析解析解析解析データデータデータデータヒトゲノミクスヒトゲノミクスヒトゲノミクスヒトゲノミクス解析解析解析解析データデータデータデータ

既知免疫不全原因遺伝子既知免疫不全原因遺伝子既知免疫不全原因遺伝子既知免疫不全原因遺伝子データデータデータデータ既知免疫不全原因遺伝子既知免疫不全原因遺伝子既知免疫不全原因遺伝子既知免疫不全原因遺伝子データデータデータデータ

インドインドインドインドのののの高度高度高度高度ななななインドインドインドインドのののの高度高度高度高度なななな

データベースデータベースデータベースデータベース・・・・ITITITIT技術技術技術技術データベースデータベースデータベースデータベース・・・・ITITITIT技術技術技術技術

先進的先進的先進的先進的なななな日本日本日本日本のののの免疫研究免疫研究免疫研究免疫研究先進的先進的先進的先進的なななな日本日本日本日本のののの免疫研究免疫研究免疫研究免疫研究

相互補完関係相互補完関係相互補完関係相互補完関係相互補完関係相互補完関係相互補完関係相互補完関係

6

Ⅱ.経費 (振興調整費分)

1.所要経費

(間接経費を含む) (単位:百万円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 H19

年度

H20

年度

H21

年度 合計

1. 免疫不全症に関するデータ

ベース構築

独立行政法人理

化学研究所 免

疫・アレルギー科

学総合研究セン

ター

小原 收

26.1

28.6 27.0

81.7

所 要 経 費 (合 計) 26.1 28.6 27.0 81.7

2.使用区分

(単位:百万円)

研究項目1 計

設備備品費 0 0

試作品費

(H19、H20 のみ)

0 0

人件費 46.1 46.1

業務実施費

(H19、H20)

事業実施費

(H21)

9.7

7.1

9.7

7.1

間接経費 18.8 18.8

計 81.7 81.7

※備品費の内訳(購入金額5百万円以上の高額な備品の購入状況を記載ください)

7

Ⅲ.実施結果

1.目標達成度

(1)目標の達成状況

・計画(目標):

免疫・アレルギー疾患の具体的な例として、原発性免疫不全症に的を絞り、統合化されたゲノミクス情

報を活用して疾患原因の同定および治療を的確に行うための、問題解決型情報基盤を創出する。創出す

る情報基盤は、免疫・アレルギー疾患研究全般に拡張性を持たせ、国際的な免疫・アレルギー研究の情

報ネットワーク形成のコアとなるものの創出を目指す。このために主として理化学研究所グループによって

担われる(1)免疫不全症に関するデータベース構築と、主としてインド共同研究先 The Institute of

Bioinformatics (バイオインフォマティクス研究所) によって担われる(2)免疫関連たんぱく質に関する情報

収集とデータマイニングのためのプログラム作製の2つの研究項目を設定した。

・達成状況:

研究項目(1)については、臨床研究者の意見を取り入れながら、原発性免疫不全症の原因遺伝子に

関するゲノミクス情報、患者に見つかった変異情報等を統合化したデータベース(RAPID: Resource of

Asian Primary Immunodeficiency Diseases ) を構築し 、インターネ ッ ト上で公開するに至った

(http://rapid.rcai.riken.jp/)。また、バイオインフォマティクス研究所と協力して、ユーザーフレンドリーなイ

ンターフェースおよびデータ解析ツールの開発を行い、統合データの検索、閲覧、比較を容易にした。研

究項目(2)についても、インドの高い情報処理技術を駆使して、ほぼすべての原発性免疫不全症既知原

因遺伝子に関する分子および遺伝子変異情報を収集および統合化することができた。また、バイオインフ

ォマティクス研究所では、パスウェイデータベースの公開と継続的な改良を行った。これらの両研究機関の

特徴を活かした共同研究の成果として、世界初の原発性免疫不全症の統合データベースの創出に至った。

この情報基盤は実際の免疫不全症の遺伝子診断に利用され、免疫不全症各疾患の原因遺伝子の同定

を迅速化かつ効率化することに貢献することを実証できた。本研究開発期間中に、アジア各国から免疫不

全症研究者を招聘してシンポジウムを2回開催し、アジアにおける原発性免疫不全症研究ネットワーク形

成への第一歩を踏み出すことができた。また、セマンティックウェブ技術を利用した理研サイネスシステム

上に、インターネット上でのよりインタラクティブな情報共有システムを構築し、国際的な情報交換を可能と

するデータベースシステムの基礎を作ることができた。同時に、同システムを利用したアジア全域からの臨

床アーカイブデータを蓄積するために必要な情報項目を精査・整理した。実際のデータ蓄積は、倫理的な

制約のために未だ運用には至っていないものの、国際標準となりうる臨床アーカイブの基本的な枠組みを

構築できた。以上の成果から、原発性免疫不全症における問題解決型情報基盤を創出するという当初の

目的をおおむね達成できたと考える。またアジアにおける原発性免疫不全症ネットワーク形成においても、

当初の計画を超える成果を得ることができた。

(2)採択コメントに対する対応

広く活用される情報基盤とするために、コメントに記載された国際標準化を特に意識して対応するように

努めた。そのため、ゲノミクスデータについては国際標準化が進んでいるものの、臨床的な活用を目指した

疾患統合ゲノミクスデータベースの前例は少ないため、国内臨床専門医のアドバイスはもちろん、早期に

アジアを中心とする国外臨床専門医からの意見も聴取し、それらのアドバイスを受けながらデータベース

開発を進めるアプローチを取ることとした。こうした意見聴取の場として、免疫不全症関連の国際会議での

8

発表と情報交換を積極的に行うこととした。

(3)所期の計画どおりに進捗しなかった場合の理由、対処、実績

当初計画していた、臨床アーカイブデータおよびヒト原発性免疫不全症モデルマウスのデータは、臨床

専門医との討議において、現在のオープンアクセス型のデータベースでの公開に倫理的な問題が指摘さ

れた。そのため、将来のために高いセキュリティーを担保しながら臨床情報を臨床医の方々が共有化する

ための情報システムの構築は進めたが、個人情報保護の観点から、その拙速な公開データベースへの実

装は控えることとした。特に、アジア各国の間では倫理的な問題の取り扱いには非常に大きな差があること

を国際シンポジウムでも指摘され、この疾患の稀少性の故に、公開データベースでの取り扱いについては

時期尚早との判断に至った。また、臨床研究における有益性の観点から、多数の免疫系シグナル伝達経

路マップの作成よりも、病因変異情報の蓄積を優先させた。このシグナル伝達経路マッピングについては、

理化学研究所で本研究開発業務に携わったリサーチアソシエイト Mr. Rajesh Rajuによって、インド共同研

究先であるバイオインフォマティクス研究所において新しいパスウェイデータベース(NetSlim(仮称))として

の開発が継続されており、本研究開発業務遂行中に議論してきたユーザーインターフェースをもつ発展型

のデータベースの完成を待って、次のフェーズのインドとの国際共同研究での RAPID との統合化を計画し

ている。

2.成果

(1)研究成果の内容

①地域共通課題の解決につながるどのような成果が得られたか、(その成果が将来的に社会へどの程度

適応できる段階にあるかわかるように)記載してください。

これまで、アジア発の原発性免疫不全症の各疾患および原因遺伝子の情報を統合的にまとめたデ

ータベースは存在しておらず、アジア諸国の免疫不全症研究者どうしのネットワークも、形成されてはい

なかった。アジア諸国では、まだまだ免疫不全症そのものに対する情報が不足しており、診断が遅れるた

めに救える命が救えないというケースも潜在的に多く存在していた。そのため、専門医への相談を可能と

するネットワーク形成はアジア各国で渇望されていた。本研究の最終年度に、各国の免疫不全症研究の

第一人者が一堂に会するシンポジウムを開催し、本研究成果のデータベースを活用したアジア全域・欧

米の研究者間のネットワーク形成にむけた機運を高めることができたことは、本研究による大きな成果で

あった。本研究で開発したデータベースである RAPID は、それ自体が国際的な免疫不全症の統合デー

タベースであるだけなく、こうした免疫不全症研究者どうしの情報交換ネットワークの基盤としての役割を

果 た す こ と が で き る と 期 待 さ れ る 。 既 に こ の デ ー タ ベ ー ス は 公 開 を 行 っ て お り

(http://rapid.rcai.riken.jp/)、この情報基盤を介して、アジア諸国の小児科医を中心とする原発性免疫不

全症の臨床・遺伝子診断の連携活動が行われている。特に、既に免疫不全症の遺伝子解析を活発に行

っている台湾、オーストラリア、シンガポールからのアクセス数が高く、我が国の場合と同様に、免疫不全

症遺伝子診断の効率化のために RAPIDが利用されていると考えられる。

本研究で示した情報基盤を基礎とした臨床医のネットワーク形成というアプローチは、今後他の疾患に

おいても展開可能であり、インターネット等の情報基盤の活用による多国間連携の促進へとつなげられる

可能性を示した。

②共同研究によって得られた新しい科学技術面での知見があれば、どのようなものか、わかりやすく記載

してください。

9

本共同研究は、疾患研究のための新しい情報基盤を創出するということが主要な目的であったため、

新しい知見と呼べるものは、創出された情報基盤を使って得られてくる今後の波及効果として期待できる。

その一例としては、本共同研究で行った新規免疫不全症原因候補遺伝子の予測が挙げられる。これは

創出した免疫不全症情報基盤とバイオインフォマティクス技術を活用して、原発性免疫不全症の原因と

成り得る候補ヒト遺伝子のリストを作成したものである。次世代シーケンシング技術によって疾患原因遺伝

子探索がより網羅的に実行可能となっていることを考え合わせると、このような情報基盤とバイオインフォ

マティクスを駆使して新規免疫不全症原因遺伝子候補パネルを作成できたことは、より効率的な遺伝子

診断の実現に向けた新しい試みである。原発性免疫不全症が稀な疾患であるために、その確定診断に

は多くの経験と専門的な知識集積が必要であったが、そうした情報が今までは散逸して存在していたた

めにアクセスすることが必ずしも容易ではなかった。しかし、今回の情報基盤整備によって、遺伝子解析

による確定診断の迅速化とその変異情報に依拠した適切な治療法選択の実現に一歩近づいた。正確な

確定診断による適切な治療の選択は、重篤な感染症への罹患を事前に防ぐことを可能とし、この遺伝性

疾患で苦しんでおられる患者・患者家族の方への福音となると期待される。

③研究成果の発表状況

【ワークショップ、国際会議の開催】(2件)

国際会議名称: Symposium for PID in Asia

開催日:2008年 12月 11日~12日

開催場所:独立行政法人理化学研究所 横浜研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター

参加者数:50名

主な参加者: Dr. Joong Kim(Seoul National University), Dr. Xiaochuan Wang (Fudan University), Dr.

Wen-I Lee (Chang Gung Memory Hospital and University College of Medicine), Voravich

Luangwedchakarn (Siriraj Hospital, Mahidol University), Dr. Tony Roscioli(Royal Prince Alfred Hospital

The University of Sydney), Dr. Asghar Aghamohammadi(Tehran University of Medical Sciences),

Dr.Hans D. Ochs (Seattle Children's Research Institute Center for Immunity and Immunotherapies), Dr.

Surjit Singh(Advanced Pediatric Centre, Post Graduate Institute of Medical Education and Research), 峯

岸 克行 (東京医科歯科大学大学院),原 寿郎 (九州大学大学院), 土屋 滋 (東北大学大学院), 谷

内江 昭宏 (金沢大学), 有賀 正 (北海道大学大学院), 布井 博幸 (宮崎大学), 烏山 一 (東京医

科歯科大学大学院), 金子 英雄 (岐阜大学大学院医学系研究科), 高田 英俊 (九州大学病院小児

科), 久間木 悟 (東北大学大学院), 山田 雅文 (北海道大学大学院)

概要:本ワークショプでは、まず欧米での免疫不全症研究ネットワーク形成状況、我が国の免疫不全症

ネットワーク構築状況、参加者のそれぞれの国(韓国、中国、台湾、タイ、オーストラリア、イラン、インド)

における免疫不全症の診断と治療の現状が報告された。続いて、免疫不全症の基礎免疫学からの最近

の知見の発表と、免疫不全症研究の大家である Prof. Ochsの講演が行われた。翌日はポスターセッショ

ンで構築中の RAPID データベースの紹介などを行った後、免疫不全症の病理学・遺伝子治療などにつ

いての講演が主に日本の研究者から行われた。この会議は、先立って行われた European Society for

Immunodeficiencies の年会で免疫不全症アジアネットワーク構築の機運を本研究開発参画者らが高めて

くれていたのを受けて行われたため、海外からの参加者の多くにはその趣旨をよく理解していただいてい

た。本会議後に小原からの提案でサテライトミーティングとして今後のアジアネットワーク形成に向けての

意見交換の場を設け、そこで今後積極的にアジア免疫不全症ネットワークを構築することが全員一致で

確認された。

10

国際会議名称:The 2nd Symposium for PID in Asia

開催日:2010年 2月 4日~5日

開催場所:かずさアカデミアホール・財団法人かずさ DNA研究所 (千葉県木更津市)

参加者数:51名

主な参加者:Dr. Voravich Luangwedchakarn (Siriraj Hospital, Mahidol University), Dr. Joong Kim(Seoul

National University), Dr. Xiaochuan Wang (Fudan University), Dr. Surjit Singh(Advanced Pediatric

Centre, Post Graduate Institute of Medical Education and Research), Dr. Mauno Vihinen

(Bioinformatics,University of Tampere, Finland), Dr. Capucine Picard (Paris Descartes University), Dr.

John Ziegler (School of Women's and Children's Health, Sydney Children's Hospital), Dr. Yu-lung Lau

(The University of Hong Kong), Dr. Nguyen Dang Dung (Military Medical University), Dr. Anne Galy

(Généthon), Dr. Mei W. Baker (Wisconsin State Laboratory of Hygiene), 峯岸 克行 (東京医科歯科

大学大学院), 笹原 洋二 (東北大学大学院), 原 寿郎 (九州大学大学院), 和田 泰三 (金沢大学),

岡田 賢 (広島大学大学院), 森尾 友宏 (東京医科歯科大学), 平家 俊男 (京都大学大学院), 土屋

滋 (東北大学大学院), 谷内江 昭宏 (金沢大学), 有賀 正 (北海道大学大学院), 布井 博幸(宮崎

大学)

概要:前年のアジア会議での継続性についての議論に基づき、欧米、アジア(米国、フランス、フィンラン

ド、中国、インド、香港、韓国、タイ、ベトナム、オーストラリア)で活発に臨床・研究活動を続けている免疫

不全症研究者を招聘し、免疫不全症研究に関する第二回目のアジアシンポジウムを開催した。まず、我

が国の免疫不全症スクリーニングと臨床アーカイブの構築状況の報告から始まり、フランスでの免疫不全

症ネットワークと新規原因遺伝子群の同定についての話題提供、免疫不全症遺伝子治療のフランス、韓

国での取り組み、オーストラリア免疫不全症ネットワークの状況、最近の基礎免疫学的な免疫不全症の

知見、などの報告が続いた。更に、重篤な免疫不全症の新生児スクリーニングを進めている米国ウィスコ

ンシン州の状況や香港の診断ネットワークを含む免疫不全症の診断システムと病理についての発表など

が行われた。更に、ユーロッパで活発に免疫不全症の情報基盤を構築している Dr.Vihinen と本研究開

発の参画研究者の Dr. Mohanによって、それぞれの情報基盤の状況が報告された。両者ともに相互補

完的な研究活動を行っているため、今後の良好な共同研究の基礎を築くことができた。いずれの発表も

最新の免疫不全症に関する知見が含まれており、各国での取り組みについて多くの情報が得られた。こ

の本会議に引き続き、(財)かずさ DNA研究所の免疫不全症遺伝子解析施設見学の後、今後のアジア

ネットワーク形成に向けた議論を行った。ここでは、インド、ベトナムなどでの免疫不全症診断や治療の現

状を報告してもらい、何がアジアにとって求められているかについてフロアでの意見交換を行った。情報

共有化の仕組み作りが重要であるとの指摘がなされ、そのためのシステムとして本研究開発の成果として

理研サイネスシステムを活用した免疫不全症臨床専門医のための情報交換基盤を継続的に提供しようと

していることなどを紹介した。この議論を踏まえて、今までのアジアシンポジウムに参加されたメンバーを

主とした免疫不全症専門家のディレクトリーを作成し、RAPID上で公開を行っていくなどの具体的な作業

を進めている。このアジア会議の継続的な開催希望を受け、次回は米国コロラド州デンバーで

Symposium for PID in Asia/North America として開催される予定である。

【研究成果発表等】(計13件)

受賞:なし

11

原著論文: 13件

特許出願:なし

【主要雑誌への研究成果発表】

1. Mathivanan S, Ahmed M, Ahn NG, et al. Human Proteinpedia enables sharing of human protein data.

Nat Biotechnol 26, 164-7 (2008) 査読有

2. Nonoyama S, Imai K, Ohara O, Oshima K, Nakagawa N, Kanegane H, Miyawaki T, Takemori T.

Establishment of Diagnostic center for PID in Japan. Clin Exp Immunol 154(1), 135 (2008) 査読有

3. Keerthikumar S, Raju R, Kandasamy K, et al. RAPID: Resource of Asian Primary Immunodeficiency

Diseases. Nucleic Acids Res 37, D863-7 (2009). 査読有

4. 中川紀子, 今井耕輔, 大嶋宏一, 小原 收, 野々山恵章: Midwinter Seminar 臨床免疫学の未来

Primary Immunodeficiency Database in Japan(PIDJ)プロジェクト開始以来当科へ紹介された原発性免疫

不全症(PID)112例に関する検討 日本臨床免疫学会会誌 32: 372 (2009) 査読無

5. Ikeda K, Yamaguchi K, Tanaka T, Mizuno Y, Hijikata A, Ohara O, Takada H, Kusuhara K, Hara T.

Unique activation status of peripheral blood mononuclear cells at acute phase of Kawasaki disease. Clin

Exp Immunol 160(2), 246-255 (2009) 査読有

6. Oshima K, Yamazaki K, Nakajima Y, Kobayashi A, Kato T, Ohara O, Agematsu K. A case of familial

Mediterranean fever associated with compound heterozygosity for the pyrin variant

L110P-E148Q/M680I in Japan. Mod Rheumatol 20(2), 193-195 (2010) 査読有

7. Keerthikumar S, Bhadra S, Kandasamy K, Raju R, Ramachandra YL, Bhattacharyya C, Imai K, Ohara

O, Mohan S, Pandey A. Prediction of candidate primary immunodeficiency disease genes using a

support vector machine learning approach. DNA Res. 16(6) 345-351. (2009) 査読有

8. Uchisaka N, Takahashi N, Sato M, Kikuchi A, Mochizuki S, Imai K, Nonoyama S, Ohara O, Watanabe

F, Mizutani S, Hanada R, Morio T. Two brothers with ataxia-telangiectasia-like disorder with lung

adenocarcinoma. J Pediatr. 155(3) 435-438 (2009) 査読有

9. Hashii Y, Yoshida H, Kuroda S, Kusuki S, Sato E, Tokimasa S, Ohta H, Matsubara Y, Kinoshita S,

Nakagawa N, Imai K, Nonoyama S, Oshima K, Ohara O, Ozono K. Hemophagocytosis after bone

marrow transplantation for JAK3-deficient severe combined immunodeficiency. Pediatr Transplant.

2009 in press 査読有

10. 今井 耕輔, Sujatha Mohan, 小原 收: 免疫不全症候群の遺伝子診断の中央化とデータベース

臨床検査 53(5), 533-540 (2009) 査読無

12

11. 大嶋 宏一, 小原 收: 免疫不全症遺伝子解析法の実際 臨床検査 53(5), 547-552 (2009) 査

読無

12. Kandasamy K, Mohan SS, Raju R, Keerthikumar S, Kumar GS, Venugopal AK, Telikicherla D,

Navarro JD, Mathivanan S, Pecquet C, Gollapudi SK, Tattikota SG, Mohan S, Padhukasahasram H,

Subbannayya Y, Goel R, Jacob HK, Zhong J, Sekhar R, Nanjappa V, Balakrishnan L, Subbaiah R,

Ramachandra YL, Rahiman BA, Prasad TS, Lin JX, Houtman JC, Desiderio S, Renauld JC,

Constantinescu SN, Ohara O, Hirano T, Kubo M, Singh S, Khatri P, Draghici S, Bader GD, Sander C,

Leonard WJ, Pandey A. NetPath: a public resource of curated signal transduction pathways. Genome Biol.

1(1) R3 (2010) 査読有

13. Hijikata A, Raju R, Keerthikumar S, Ramabadran S, Balakrishnan L, Ramadoss SK, Pandey A, Mohan

S, Ohara O. Mutation@A Glance: An Integrative Web Application for Analysing Mutations from Human

Genetic Diseases. DNA Res 17, 197-208 (2010) 査読有

【学会などでの発表実績】(20件)

・小原 收 “免疫疾患研究の情報基盤整備とその戦略” オミックス医療が拓く未来2008 2008/7/3-7/4

・Keerthikumar S, Raju R, Kandaswamy K, Hijikata A,Ramabadran S, Balakrishnan L, Ahmed M, Rani

S,Selvan L. D, Somanathan D. S, Ray S, Bhattacharjee M, Gollapudi S, Ohara O, Pandey A, Sujatha M.

“Primary Immunodeficiency disease database: A discovery tool for the genomics research” Human Genome

Meeting (HGM2008) (Hyderabad, India) 2008/9/27-9/30

・Nonoyama S, Ohara O, Oshima K, Nakagawa N, Kanegane H, Miyawaki T, Takemori T. “Establishment of

Diagnostic center for PID in Japan” European Society for Immunodeficiencies (ESID) (`s-Hertogenbosch,

The Netherlands) 2008/10/16-10/19

・土方 敦司 “Development of a new tool for mutation analyses of primary immunodeficiency diseases” 第

31回日本分子生物学会年会・第81回日本生化学会大会 (BMB2008)(神戸) 2008/12

・Ohara O. “PIDJ network: DNA Analysis” Symposium for PID in Asia. (横浜) 2008/12/9-12/12

・Ishikawa F. “Humanized Mouse Model for Primary Immunodeficiency Diseases” Symposium for PID in Asia.

(横浜) 2008/12/9-12/12

・Mohan S. “Construction of an informational platform for Primary Immunodeficiency diseases in Asia”

Symposium for PID in Asia. (横浜) 2008/12/11-12/12

・Hijikata A. “Development of a new tool for mutation analyses of primary immunodeficiency diseases”

Symposium for PID in Asia. (横浜) 2008/12/11-12/12 (ポスター発表)

13

・Ramabadran S. “RAPID: Resource of Asian Primary Immunodeficiency Diseases” Symposium for PID in

Asia. (横浜) 2008/12/11-12/12 (ポスター発表)

・Ramabadran S. “RAPID: Resource of Asian Primary Immunodeficiency Diseases” JSPS-DST Asian

Academic Seminar 2008. (Bangalore, India) 2008/12/26/-12/30

・小原 收 “原発性免疫不全症解析のための情報基盤整備に向けての取り組み:RAPID (Resource of

Asian Primary Immunodeficiency Diseases)” 第2回日本免疫不全症研究会 2009/1

・Hijikata A, Raju R, Keerthikumar S, Ramabadran S, Balakrishnan L, Pandey A, Mohan S.,Ohara O.

“Mutation@A Glance:A New Bioinformatics Tool for Mutation Analusis in Primary Immunodeficiency

Diseases” Keystone Symposia Human Immunology and Immunodeficiencies (Beijing, China)

2009/5/12-5/17

・Keerthikumar S, Ramabadran S, Raju R, Balakrishnan L, Hijikata A, Pandey A, Ohara O, Mohan S.

“RAPID: Resource of Asian Primary Immunodeficiency Diseases An Integrated Informational Platform”

Keystone Symposia Human Immunology and Immunodeficiencies (Beijing, China) 2009/5/12-5/17

・Imai K, Nonoyama S, Oshima K, Kanegane H, Miyawaki T, Ohara O, Takemori T, Hara T. “Primary

Immunodeficiency Database Network in Japan” Keystone Symposia Human Immunology and

Immunodeficiencies (Beijing, China) 2009/5/12-5/17

・Ohara O. Functional genomics focused on immune systems. World Allergy Congress Argentina 2009

(Buenos Aires,Argentina) 2009/12/6-12/10

・土方 敦司, 大嶋 宏一, 今井 耕輔, 野々山 恵章, 金兼 弘和, 宮脇 利男, 小原 收 “原発性免疫

不全症研究における問題解決のための情報科学的アプローチ” 第3回日本免疫不全症研究会(東京)

2010/1/30

・Imai K. “PIDJ (primary immunodeficiency database in Japan), 2008-2009” The 2nd Symposium for PID in

Asia (木更津) 2010/2/4-2/5

・Ishikawa F. “Humanized PID mouse model for basic and translational immunology” The 2nd Symposium for

PID in Asia (木更津) 2010/2/4-2/5

・Ohara O. “Exploration of PID-causative mutations: A Japan model and the future direction” The 2nd

Symposium for PID in Asia (木更津) 2010/2/4-2/5

・Mohan S. “Resource of Asian Primary Immunodeficiency Diseases: RAPID - A Road Ahead” The 2nd

Symposium for PID in Asia (木更津) 2010/2/4-2/5

14

④科学的・技術的波及効果

本研究によって開発した RAPID データベースは、既知の原発性免疫不全症原因遺伝子に関する情報

を網羅しており、遺伝子変異に関する情報量は世界的に見ても最大規模である。また、変異解析ツールを

開発、公開したことによって、これまでは専門医が手作業で行っていた変異解析を効率的に行うことが可能

となった。これらの情報基盤整備によって、疾患の確定診断の迅速化へ貢献することができたと考える。ま

た、遺伝子変異解析は、原発性免疫不全症だけでなく、様々な遺伝性疾患についても作業内容はほぼ同

じであり、本研究で開発した情報基盤は先天性疾患全般の原因解明のための解析情報基盤となりうると期

待できる。

原発性免疫不全症研究は、従来我が国においても主として臨床免疫研究者のグループによって担わ

れてきた。しかし、本研究を契機として、バイオインフォマティクス研究者、ゲノミクス研究者、基礎免疫研究

者らとのネットワークが確立し、そのネットワークの情報的基盤を整備することができた。今後、この人的ネッ

トワークと情報基盤に立脚した免疫不全症研究が推進できることは、我が国のみならず、アジア全体の免

疫不全症の迅速・正確な診断と治療方針の決定に大きく貢献すると期待される。このように、今回は免疫

不全症をキーワードにしたものであったが、将来的な異分野融合による研究開発のための一つの雛形を

提示できたと考える。

(2)国内外の各参画機関の共同研究体制

①研究資源の提供や研究実施における役割について、国内機関と海外機関に分けて記載してくだ

さい。

・ インドのバイオインフォマティクス研究所は、免疫不全症関連遺伝子・タンパク質のデータ、関連パスウェイ

情報の収集とデータベースへの取り込み、情報科学的なデータベース構築に関する技術的サポートを行

う。

・ (独)理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターは、原発性免疫不全症臨床アーカイブの構

築、免疫不全関連細胞の遺伝子発現プロファイリング、タンパク質プロファイリング、免疫不全マウスを用い

た原発性免疫不全症モデルマウスの解析結果、臨床検体の遺伝子変異解析結果(かずさ DNA 研究所と

の共同研究)などのコンテンツ整備と提供、臨床的観点からのデータベースデザイン、データベース維持・

管理を行なう。

②研究全体会議(運営委員会)等を開催した場合は、会議(委員会)メンバー・出席者及び開催実績(時

期・議題・会議の成果等)を記載してください。

・第一回研究運営委員会

出席者:小原 收、石川 文彦、土方 敦司、野々山 恵章、金兼 弘和、今井 耕輔、 菊野 玲子、

Sujatha Mohan、Rajesh Raju、Shivakumar Keerthikumar

オブザーバー:(JST)佐久間 プログラムオフィサー、(理研)足立 枝実子、坂庭 励

開催実績

実施日:2007年8月20日

議題:研究推進委員会キックオフミーティング

会議の成果等:

研究プロジェクト3年間での達成目標、研究枠組みの確認

出席者による研究進捗報告

報告内容および今後の進め方についての討議を行った

15

・第二回研究運営委員会

出席者:小原 收、土方 敦司、金兼 弘和、今井 耕輔、菊野 玲子、Sujatha Mohan、

Subhashri Ramabadran、Lavanya Balakrishnan

オブザーバー:(JST)西垣 隆プログラムオフィサー、(理研)坂庭 励、今井 博久

開催実績

実施日:2008年6月20日

議題:研究進捗報告

会議の成果等:

出席者による進捗報告を行った。

開発したデータベースの研究者コミュニティーへの認知度を高める方針を確認した。

今後の進め方についての討議を行った。

・第三回研究運営委員会

出席者:小原 收、 宮脇 利男、 野々山 恵章、 金兼 弘和、 今井 耕輔、 石川 文彦、豊田 哲郎、

土方敦司、 大嶋 宏一、 Sujatha Mohan、Suresh Kumar Ramadoss

オブザーバー:(JST)西垣 隆プログラムオフィサー

(理研)坂庭 励、萩原 誠、福島 一成

開催実績

実施日:2009年6月22日

議題:研究進捗報告

会議の成果等:

出席者による進捗報告を行った。

データベースの国際標準化のための方針を確認した。

今後の進め方についての討議を行った。

③実施期間中の各参画機関の組織としての関与(支援)について記載してください。

(独)理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターは、本研究の推進と並行して、我が国

における原発性免疫不全症研究を積極的に推進してきた。特に、この原発性免疫不全症に関する取り

組みは Nature Immunologyでも紹介され、国際的にも”Japan model”という我が国独特の取り組みとして

注目を集めた(Nature Immunol. 2008, vol.9, 1005-1007)。このアジアからの免疫不全症データベース

のための礎となる、臨床医との間の連携を促進する臨床アーカイブの開発・維持、免疫不全症検体バ

ンクの構築・維持管理、免疫不全症遺伝子診断などを厚生労働省難治性疾患克服研究事業「原発性

免疫不全症候群に関する調査研究」における調査研究班、(財)かずさ DNA 研究所と共同して進めて

きた。更に、本研究実施期間中に、国際的な非営利患者団体であるジェフェリーモデル財団からの支

援を受け、理研ジェフリー・モデル原発性免疫不全症診断・研究センターを平成20年1月に設立した。

これらの活動は、すべて本研究での免疫不全症アジア連携の形成に大きく貢献した。

④今後期待される国際連携への政策的波及効果を記載してください。

今回の研究成果により、我が国がこうした国際的に共通した難病克服に向けて積極的な科学技術

的貢献を推進しようとしていることへの認知度は確実に向上した。その結果、ヨーロッパ、オーストラリア

などとの原発性免疫不全症の連携研究のオファーも寄せられ、その可能性を積極的に検討している。

また、今回の成果物である免疫不全症の情報基盤の活用に関しても、ヨーロッパのバイオインフォマテ

16

ィクスグループとの連携関係を構築することができた。今後、共通の疾患克服という課題の下に、国際

連携を進める基盤は十分に整備され、今後の波及効果が期待できる。

⑤今後期待される社会経済の活性化効果を記載してください。

免疫不全症は、正しい診断と治療の選択がなされなければ、不可避的に感染症を繰り返すことによ

り、患者個人のみならず、医療経済的にも大きな負担を社会に課す結果となる。そのため、今回の研究

で得られた情報基盤の活用によって、アジア全域での免疫不全症の迅速・正確な診断と治療の選択が

実現できれば、医療経済的な意味での貢献は大きいものと期待される。

3.計画・手法(「Ⅱ.経費」とも関連)

①研究項目毎に適切な予算配分、執行がなされたか記載してください。

本研究では、免疫不全症に関するデータベースの構築を目的とする。計画の実施のために必要最低

限のコンピュータおよびその周辺機器をリースにて導入した。本研究で構築したデータベースシステムは、

オープンソースおよび自前のプログラムを組み合わせて用いており、システムを構築する上でのコストは、

コンピュータのリースおよびインド共同研究機関からの研究員等を我が国で雇用するための人件費のみで

あった。このことからも、予算執行は適切であったと考える。

②研究目標達成のために取られた手法は適切なものであったか記載してください。

本研究では、既存のデータベースの統合、加工および、変異情報の論文からの抽出を、Linux コンピュ

ータを中心として行った。また情報を蓄積するためのシステムを、オープンソースソフトウェアと自前のプロ

グラムを組み合わせることで、柔軟かつ目的に沿ったシステムを構築しながら行うという手法をとった。その

ため、効率よくデータを蓄積することができた。また、インドからのこうしたノウハウ移植と連携を円滑にする

ために、インド共同研究機関からの研究員等を我が国で雇用して業務遂行したことも、一連の業務円滑化

に大きな実効があった。それらの効果は、当初の予定よりも前倒しでデータベースを公開することができた

ことなどに見られ、そうした事実を鑑みて本研究での手法は適切であったと判断する。

4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性

①実施期間終了後、課題実施により培われた研究及びネットワークを継続する体制や仕組みに対する工

夫について記載してください。

本研究によって、構築した原発性免疫不全症データベースは、この実施期間が終了しても、更新およ

び改良を継続的に実施する計画である。そのために、理化学研究所免疫アレルギー科学総合研究センタ

ー免疫インフォマティクス研究ユニット(Sujatha Mohan ユニットリーダー)が中心となって、データベースの

継続的な更新および改良を行っていく。また、最終年度に研究に参画した理化学研究所生物情報基盤研

究部門(豊田哲郎 部門長)とは継続して情報基盤整備を続け、同研究部門が開発した理研サイネスシス

テムを利用した、免疫不全症研究者間の情報交換システムの完成を目指す。現在、実際に利用する臨床

研究者の意見を取り入れながら進めており、アジア全域をカバーするコミニュケーションネットワークの持続

可能的な運用を実現させる。最も大きな極めて現実的な問題は、データベース維持に関する費用である

が、財源の探索と並行して、この問題を技術的に解決する方策も継続的に模索している。

インド共同研究先であるバイオインフォマティクス研究所では、バイオインフォマティクスのみならずプロ

テオーム解析やゲノミクス解析にも着手しており、将来的にはバイオインフォマティクス以外の分野での連

携も視野に入れて彼らとの検討を継続している。

17

国内外の臨床免疫不全症研究者とのネットワークについても、継続的にアジア連携のための会議を開

催することが既に計画されている。秋に行われる European Society of Immunodeficiencies (Istanbul, 2010)、

来春に計画されている第 7回アジア小児医学研究学会議(北米、2011)のサテライトシンポジウムとして免

疫不全症ミーティングが予定されており、本研究成果の国際認知度向上と活用の促進のための活動を継

続展開する。

②これまでの研究成果を発展させる明確な研究・交流のビジョンがあれば記載してください。

本研究で構築した、原発性免疫不全症データベースおよびツール群は、遺伝子に関する情報を主軸と

しているため、原理的には、ヒト遺伝性疾患全般に拡張可能である。また免疫不全症と同様に、ニーズは

あるにも関わらず、臨床研究における問題解決のための情報基盤の整備が進んでいない遺伝性疾患は

少なくない。特に、患者数が少ない稀少疾患に関しては、それに関わる研究者人口の少なさから、非常に

多数の疾患において情報整備が国際的にも滞っている。これは企業的な費用対効果の低さからは当然の

帰結とも言えるが、稀少疾患の種類の多さを考えると社会的に放置されていい問題ではない。よって、本

研究で確立した情報基盤を、他の遺伝性疾患へも拡張・転用することは、政策的・社会的にも意義がある

ことであろう。本研究を足がかりとして、他のヒト遺伝性疾患研究者とも連携をはかり、本研究成果のデータ

ベースをより広範な遺伝子疾患の問題解決型情報基盤へと発展させることを目指し、まず国内の遺伝性

稀少疾患研究者とのネットワーク形成に向けた活動が開始されている。遺伝子解析については、国内で免

疫不全症解析を共同で進めている(財)かずさ DNA研究所が、今回のアジアネットワーク形成の過程で多

くのアジア諸国において臨床検体の遺伝子解析実施がままならないことを知り、アジア全域も視野に入れ

た稀少疾患の原因遺伝子探索拠点化の計画を推進している。これは産学官連携プロジェクトの中の一つ

のサブテーマとして千葉県から文科省に提案され、平成21年度都市エリア産学官連携促進事業【発展

型】として採択された(課題名「先端ゲノム解析技術を基礎とした免疫・アレルギー疾患克服のための産学

官連携クラスター形成」、平成 22 年度から地域イノベーションクラスタープログラムに統合され名称変更)。

これらの活動にも、本研究成果の情報基盤は有効に活用され、また今回形成された免疫不全症ネットワー

クをさらに共同で発展させていく計画である。

国内の原発性免疫不全症への取り組みについては、本研究開発の参画研究者である野々山らによっ

て2008年に日本免疫不全症研究会が発足された。この研究会には、厚生労働省の難治性疾患克服研

究事業「原発性免疫不全症候群に関する調査研究」における調査研究班、理化学研究所、かずさ

DNA 研究所のみならず、広範な臨床医が参加され、継続的な情報交換と教育活動の場として機能

している。我が国の免疫不全症アーカイブである PIDJの実務的運営は理化学研究所が担当してお

り、本研究開発の成果との連携を継続的に進めることが可能である。免疫不全症に関する取り組み

は、理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターのプロジェクトとしても推進されており

(http://www.rcai.riken.jp/activity/pidj/index.html)、その継続性は本センターによっても担保さ

れている。実際、本研究開発のためにインドから理化学研究所に来た Dr..Sujatha Mohanは、こ

のアジア免疫不全症ネットワークの拡大のために本研究開発終了後も理化学研究所で研究ユニッ

トを継続運営することとなった。また、2008年には、米国の NPO患者・患者家族団体であるジェフリ

ー・モデル基金の支援によって、理研ジェフリー・モデル原発性免疫不全症診断・研究センターが

設立された。これらの複数の取り組みにより、国内での原発性免疫不全症の啓蒙活動を継続的に行

う基盤がより強固になっただけでなく、国際的な患者・患者家族団体との連携の中で本研究成果の

活用を図っていく土台が形成されたと考える。アジアへのネットワークの広がりの実現には、まず

先行する我が国で、こうしたネットワークが実際にどのようなメリットを患者・患者家族の方に与

18

えられるかの実例を示していくことが重要だと考えている。そのためには、現在の臨床研究者、ゲ

ノム解析研究者らとの連携の枠組みの継続により、そうした免疫不全症ネットワークがもたらす福

音の実例を蓄積していくことが極めて重要であると考えている。

一方、こうした情報基盤の整備により、原発性免疫不全症発症についての基礎研究の深化もより活性化

されると期待している。なぜなら、ワンストップな免疫不全症情報基盤の存在は、この疾患発症の機構をシ

ステム的に捉えるために必須であり、疾患発症制御のための方法論をシステム生物学的な視点から開発

する可能性を生み出すからである。本研究成果のこの情報基盤を活用して、数理・制御工学的な手法によ

り従来の診断・治療法選択を支援するシステムの創出を目指して、新たな異分野融合に向けての外部資

金獲得のためのプロジェクト提案を開始している。

5.成果の詳細

(1)免疫不全症に関するデータベース構築

① 原発性免疫不全症データの収集と統合化

1.1 原発性免疫不全症原因遺伝子に関する情報の整理・統合化(理研、バイオインフォマティクス研究所)

既知の原発性免疫不全症原因遺伝子に関する様々な情報は、既に出版された文献を精読すること(文

献情報のキュレーション)、および公的データベースの情報を利用することによって得た。原発性免疫不全

症における個々の症例、原因遺伝子上に起きた変異、およびその遺伝子がコードするタンパク質を介したシ

グナル伝達パスウェイについては主に文献情報から、原因遺伝子がコードするタンパク質の機能、立体構

造、発現部位およびそれが関与する細胞特異的なシグナル伝達経路に関する情報は、理化学研究所免疫

アレルギー科学総合研究センターが開発・公開している Reference Database of Immune Cells (RefDIC,

http://refdic.rcai.riken.jp/)およびインド共同研究先のバイオインフォマティクス研究所が公開している

Human Protein Reference Database (HPRD, http://www.hprd.org)を含む11種類の公的データベースを利

用して得た(表1)。原発性免疫不全症原因遺伝子の様々な細胞および組織における遺伝子発現データは、

前述の RefDIC および、米国 National Institute of Biotechnology and Information (NCBI)で公開している

Gene Expression Omnibus (GEO) から得た。タンパク質相互作用データは、インド共同研究相手先のバイオ

インフォマティクス研究所が維持管理している HPRD から得た。バイオインフォマティクス研究所では、こうし

たヒトタンパク質の統合情報を集積・閲覧するオープンソースなリソースを本研究開発期間中に新たに開発

し、HPRD のデータの基礎として活用している(以下のカッコ内の文献番号は、8ページの「主要雑誌への成

果発表」における各文献の番号を示す:1. Mathivanan et.al.)。更に、パスウェイ情報については、本研究

開発においてバイオインフォマティクス研究所が開発した NetPathを利用した(12. Kandasamy et al.)。この

NetPathの論文は、掲載された Genome Biology誌において Highly accessed articleの一つとなっている(ア

クセス数、3767回/5 ヶ月)。免疫不全症原因遺伝子のマウスオーソログ遺伝子についての変異によるマウ

ス表現型情報は、Mouse Genome Informatics (MGI) から得た。これらの情報をリレーショナルデータベース

上で統合し、ウェブブラウザを介して容易に参照・編集可能なアノテーションツールを開発した(理研、バイ

オインフォマティクス研究所の共同開発)。このアノテーションツールを用いて、各原発性免疫不全症原因遺

伝子における臨床情報およびタンパク質に関する情報を、それぞれの項目ごとに分けて記録、保管した(理

研、バイオインフォマティクス研究所での分担作業)。

19

表1 本業務遂行に利用した公共データベース

1.2 原発性免疫不全症原因遺伝子上の突然変異情報の収集・統合化(理研、バイオインフォマティクス研

究所)

インド共同研究チームのノウハウを活用して、原発性免疫不全症における個々の症例および個々の患者

に見つかった、原因遺伝子上に起きた突然変異に関する情報を重点的に収集した(理研、バイオインフォマ

ティクス研究所の分担作業)。得られた変異情報について、変異パターンを記述するための国際標準として

推奨されている Human Genome Variation Society (HGVS, http://www.hgvs.org/) が定めた表記法に則りア

ノテーションを行った。最終的に、平成22年3月末時点で、183個の免疫不全症原因遺伝子上について、1

450報の免疫不全症の症例に関する文献を精読し 6787症例の遺伝子変異情報を抽出することができた。

表2に、こうして収集された免疫不全症遺伝子に見られた変異タイプをまとめる。こうした原発性免疫不全症

の突然変異データは、本研究開発で初めて統計的に眺めることが可能になったものである。こうしたマニュ

アルキュレーションによる情報収集は、この分野で既に顕著な実績を有している、インド共同研究チームのノ

ウハウを活用することで短期間内に実現できた。

変異による遺伝子産物への影響 データ数

ミスセンス変異 2774

フレームシフト 1270

ナンセンス変異 1140

スプライシング異常 1324

アミノ酸残基挿入/欠失 77

エクソンスキップ 80

複合型変異・その他 50

合計 6787

表2 業務実施期間に得られた変異情報

1.3 原発性免疫不全症原因遺伝子産物に関する情報の整理・統合化(理研、バイオインフォマティクス研究

所)

原発性免疫不全症原因遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列、ドメイン構造、立体構造および、

インド共同研究先であるバイオインフォマティクス研究所が蓄積している、タンパク質相互作用情報などを当

20

データベースに格納・統合化することで、免疫不全症原因遺伝子産物の立体構造に基づいた、遺伝子変異

によるアミノ酸置換とタンパク質機能への影響を詳細に解析することが可能となった。タンパク質相互作用部

位の解析は、遺伝子診断において判断が難しかったミスセンス変異のタンパク質機能に及ぼす影響をより

詳細に吟味する上で重要な役割を果たすと期待されていたため、そうした観点からの情報収集・統合化を行

った(理研、土方ら)。ここでは、原発性免疫不全症原因遺伝子中に比較的多く出現しかつ立体構造情報が

利用可能な、Tumor necrosis factor (TNF)と TNF受容体スーパーファミリーを具体的な一例として示す(表

3)。構造バイオインフォマティクス的手法によって、各 TNFと TNF受容体の相互作用部位を推定した。既に

TNF受容体である TNFRSF1Aとそのリガンドである LTAとの複合体構造が X線結晶解析によって決定され

ていたため 、この立体構造情報に基づき、まだ複合体の結晶構造が決定されていない、FAS – FASLG、

CD40 – CD40LGおよび TNFSF11 – TNFRSF11Aの複合体構造モデルをホモロジーモデリングによって構

築した(図1)。得られたモデル構造から、分子間相互作用に関与するアミノ酸残基を推定することができた。

このようにして収集した結果、全原発性免疫不全症遺伝子がコードするタンパク質のうち61種類(33%)に

ついて、タンパク質間相互作用部位との関係を解析可能とした。このデータに、さらにすべての既知ヒト遺伝

子疾患の病因変異を合わせて、病因変異と相互作用部位との関係について解析したところ、病因変異部位

は、病気とは無関係の一塩基多型が起こすアミノ酸置換部位に比べて、統計的に有意にタンパク質相互作

用部位に多いことを明らかにした(13.Hijikata et al.)。

TNF TNF受容体

LTA TNFRSF1A

FASLG FAS

CD40LG CD40

TNFSF11 TNFRSF11A

*各行は TNF と TNF受容体の相互作用ペアを表す。赤字は既知の免疫不全症原因遺伝子を表す。

表3 免疫不全症の原因遺伝子である TNFおよび TNF受容体

図1 既知免疫不全症の原因となる TNF-TNF受容体の複合体モデル

左から、CD40LG – CD40, FASLG – FAS, TNFSF11 – TNFRSF11A。TNFの三量体(黄、薄黄、白)と

TNF受容体(緑、橙、青)。TNFおよびTNF受容体上のミスセンス変異部位をそれぞれ、紫および赤で示

している。

21

1.4 免疫不全症原因遺伝子解析実験プロトコールの標準化(理研)

免疫不全症患者の遺伝子解析を効率よく行うための、

実験プロトコール標準化作業を新たに開始した。この作

業には我が国で免疫不全症の遺伝子診断を中央化して

遂行されている、(財)かずさ DNA 研究所の協力を仰ぎ、

理化学研究所において実験条件を精査した(理研、

Mohan ら)。個々の遺伝子によって設計するプライマー

および実験試薬や反応時間などの条件が異なっている

ため、最終的に、78個の遺伝子について、有効性が確

認された実験プロトコールを蓄積することができた。これ

らのプロトコールを、RAPIDウェブサイト上で公開した(図

2; http://rapid.rcai.riken.jp/RAPID/sequencing)。現在

まで、免疫不全症遺伝子解析はそれぞれの研究室で別

の遺伝子増幅条件や配列解析条件で行われてきて

おり、それらの実験プロトコールをオープンにしたのは

本ケースが最初である。こうした実験条件の標準化の提示は、遺伝性疾患原因遺伝子検査実績の少ないア

ジア地域の研究者に有益な情報を提供し、本データベースが国際標準化されていく中で貴重な情報基盤

アイテムとなることが期待できる。

② 原発性免疫不全症データベースの構築と改良

2.1 Resource of Asian Primary Immunodeficiency Disease (RAPID)の開発(理研、バイオインフォマティクス研

究所)

研究項目①によってアノテー

ションされた原発性免疫不全症

に関する情報を、ウェブブラウザ

によって閲覧できるユーザーイ

ンターフェースのデザインおよ

び開発を行った(理研、バイオイ

ンフォマティクス研究所の共同

開発)。各原発性免疫不全症原

因遺伝子について、その症例

情報およびその遺伝子産物に

関するデータを、リレーショナル

データベース上で共通の識別

子で参照できるように設計し、ユ

ーザーが必要とする情報に素

早くアクセスできるデザインとし

た。また、ユーザーインターフェ

ースは、アノテーションツールと

図2 遺伝子解析実験プロトコールの一例

図3 RAPIDホームページ (http://rapid.rcai.riken.jp/)

22

同じサーバー上で動作させ、共通のリレーショナルデータベースを参照させるような設計とした。すなわち、

アノテーションツールで更新した情報が逐一ユーザーインターフェース側に反映される設計とした。これらの

設計をもとにユーザーインターフェースを開発し、RAPID (Resource of Asian Primary Immunodeficiency

Diseases)と名付けた(図3)。このデータベースをインターネット上に公開するとともに、論文発表を行った

(http://rapid.rcai.riken.jp/) (3. Keerthikumar et al.)。また、RAPIDは継続的にデータをアップデートしてい

るだけでなく、新たな機能を追加している。例えば、免疫不全症アジアシンポジウムを契機に作成した PID

expert セクションや、収録している遺伝子変異をもつ患者が見つかった地域性が簡単に調べられるようにし

た機能(http://rapid.rcai.riken.jp/RAPID/load_map.html)など、臨床側からのリクエストを継続的に取り込み、

改良作業を行った(理研、Mohan ら)。

図4に、過去10ヶ月の RAPID の国別アクセス数を示す。ほぼ原発性免疫不全症の診断の普及の割合と

高い相関のアクセス分布が見られている。

図4 過去10ヶ月の RAPIDへの国別アクセス数

集 計 は ア ク セ ス 解 析 ソ フ ト AWStats

(http://awstats.sourceforge.net/)を用いた。共同

研究先のインドとアクセス元の国が不明な場合は

カウントから除いた。

2.2 原発性免疫不全症に特化した原因遺伝子変異解析ツールの開発(理研、バイオインフォマティクス研

究所)

個々の原発性免疫不全症原因遺伝子上に入った既知の変異部位は、アミノ酸残基の変化を伴うものをは

じめ、挿入・欠失や mRNA のスプライシング異常を引き起こすものなど多岐にわたっている。すなわち、変異

部位の解析は、DNA レベル、タンパク質レベルの異なる階層で評価される必要がある。しかし、既存の疾患

遺伝子変異データベースでは、アミノ酸配列もしくはDNA塩基配列上のいずれかでしか変異情報の閲覧が

できない場合がほとんどであった。そこで、遺伝子上の変異部位について、1)DNA配列、2)アミノ酸配列お

よび、3)タンパク質立体構造の各階層間で、シームレスに可視化・解析するためのツールを開発した(図5:

理研、土方ら)。同時に、ユーザー自身が持っているDNA配列(例えば、患者検体から採取したDNA配列)

上に変異があるかどうかを自動的に検出するためのインターフェースも開発した。さらに、ユーザーが入力し

た DNA配列上にアミノ酸置換を伴うミスセンス変異が起きていた場合に、そのタンパク質への影響を評価す

る SIFT法 [P.C. Ng, S. Henikoff, Nucleic Acids Res. 31 (2003) 3812-3814] を実装することで、遺伝子診断

上、判断が難しかったミスセンス変異をより客観的な方法で評価することが可能となった(図6)。このツール

を Mutation@A Glance と 名 付 け 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 上 に 公 開 し 、 論 文 発 表 を 行 っ た

(http://rapid.rcai.riken.jp/mutation)(13. Hijikata et al.)。

23

図5 Mutation@A Glance (http://rapid.rcai.riken.jp/mutation/)のスクリーンショット

図6 ユーザーが入力した DNA配列上の変異解析結果の一例

2.3 新規原発性免疫不全症原因遺伝子候補の予測法の開発(バイオインフォマティクス研究所、理研)

原発性免疫不全症の原因遺伝子はこれまで、180種類以上が明らかとなっているが、既知の原因遺伝子

上に異常がないにも関わらず、病気を発症する患者が多数存在している。このことは未知の原因遺伝子が

多く存在することを示唆しており、DNA 配列解析の対象となる原因遺伝子候補を絞り込むための方法論の

開発は、疾患原因の特定率を高める上できわめて重要な課題であった。本業務では、サポートベクターマシ

ンを用いた機械学習法により、既知の原因遺伝子に関する情報(コードタンパク質の機能、各組織発現量、

etc.)をパラメータとして、ヒトゲノムにコードされているすべての遺伝子のうち、原発性免疫不全症の原因とな

りうる遺伝子を推定した。その結果、1442個の遺伝子が未同定の原発性免疫不全症原因遺伝子候補とし

て推定することができた (7. Keerthikumar et al.)。これら遺伝子の機能の内訳は、シグナル伝達(226個)、

転写調節(224個)、免疫応答(128個)、細胞周期の調節(80個)、アポトーシス(78個)、炎症応答(61個)

であった。予測された遺伝子のうち、これまでのところ15個の遺伝子が新規に原発性免疫不全症の原因遺

伝 子 と し て 報 告 さ れ て き て お り 、 本 予 測 の 有 効 性 が 実 証 さ れ て い る

(http://rapid.rcai.riken.jp/RAPID/candidatesClassified)。

2.4 臨床所見からの原発性免疫不全症診断補助システムの開発(理研)

原発性免疫不全症は種々の先天性免疫疾患の総称であり、その種類は多岐に渡っている。しかしながら

発症率は非常に低く、一般的な小児科医では原発性免疫不全症の診断が難しい場合が多い。一方で、既

24

知の原発性免疫不全症について、DNA 解析による確定診断が必要不可欠ではあるものの、疾患ごとに特

徴的な症状を持つものが多く知られている。このことは、患者臨床症状を入力パラメータとして、コンピュータ

アルゴリズムによって候補原発性免疫不全症を絞り込むことが可能であることを示唆する。そこで、比較的臨

床情報が蓄積されている、41種類の原発性免疫不全症について、それぞれの患者が起こしやすい感染症、

見られる症状、血球像のデータを文献等から収集し、プロファイルを作成した。このプロファイルと入力した

プロファイルとを比較し、その類似度を計算することに依って、どの原発性免疫不全症が最も疑われるかをラ

ンク表示するようなシステムのプロトタイプを開発し、eASPID (electric Advisory System for PID Diagnosis)と

名付けた(理研、土方、今井、金兼、大嶋ら)。専門医に試用してもらったところ、いくつかの臨床例を正しく

診断できることがわかった。しかしながら、十分な試行を行わない段階での公開は本プログラムの目的の性

格上混乱を招くと判断し、本研究期間内での拙速な公開を避けた。現在、複数の臨床医の方々による検証

を継続しており、主として原発性免疫不全症の非専門医の教育用のツールとしての利用を想定している。ア

ジアでは特にニーズの高いツールになると期待している。

2.5 細胞特異的原発性免疫不全症原因遺伝子関連シグナル伝達経路マップの作成(理研)

原発性免疫不全症原因遺伝子がコードするタンパク質の多くが、遺伝子発現調節におけるシグナル伝達

経路に関与していることが知られている。その経路においてどのような分子と相互作用しているかを理解す

ることが、発症メカニズムを理解する上で重要となる。しかしながら、ヒト原発性免疫不全症原因遺伝子がコ

ードするタンパク質

が関与するヒトシグ

ナル伝達経路が十

分明らかになってい

るものには限りがあ

るため、本業務では、

ヒトについて研究が

進んでいる1)B 細

胞の分化に重要な

役割を果たす BTK

を介した B 細胞特

異的シグナル伝達

経路、2)種々の免

疫応答、細胞周期、

腫瘍抑制、細胞増

殖および分化に関与する遺伝子群の転写を調節する転写因子である STAT5B を介したシグナル伝達経路

マップをそれぞれ作成した(図7:理研、Mohan ら)。現在、インド共同研究先で開発している新しいパスウェ

イマップとの連携強化を進めており、疾患発症の分子機序の理解を助けるための、よりインタラクティブかつ

視覚的なシグナル伝達経路マップを近い将来には実装できると考えている。

2.6 RSSフィードおよび e-mail alertサービス(理研)

RAPID に含まれるデータコンテンツは、期間中ほぼ毎日、更新を行っている。新規の原因遺伝子および

遺伝子変異情報が論文として利用可能となれば、その情報をいち早く RAPID にアップデートする。しかしな

がら、それだけでは、臨床研究者への情報発信が不足している。そこで RSS フィードおよび e-mail アラート

図7 BTKを介したシグナル伝達経路

(左)、STAT5Bを介したシグナル伝達

経路(右)

25

を 自 動 的 に 、 登 録 ユ ー ザ ー に 知 ら せ る た め の シ ス テ ム を RAPID に 導 入 し た

(http://rapid.rcai.riken.jp/rss/rss_updates.rdf)。報告書作成時点では、月平均1430ユーザー(延べ)がア

クセスしている。さらに学会発表等の広報活動を通じてさらなる認知度を高め、利用者をアジア全域に拡大

していくことが今後の課題である。

2.7 理研サイネスを利用した臨床アーカイブシステムの構築(理研)

個々の臨床情報を蓄積した臨床アーカイブは、疾患の病態を理解する上でも非常に有用である。事実、

我が国においても、理化学研究所免疫アレルギーセンターが運用している免疫不全症臨床アーカイブシス

テム(PIDJ)が、臨床研究に利用されている。こうした臨床アーカイブを恒久的かつ安全に保存、運用するた

めには、維持が保証されており、かつ情報セキュリティーにおいて安全なデータベースシステムが必要不可

欠である。そこで、理化学研究所生物情報基盤研究部門の豊田哲郎部門長に本研究に参画していただき、

様々な研究機関が開発したデータベースの統合および維持のために開発された理研サイネスシステムを本

研究に活用することとした。理研サイネスは、セマンティックウェブ技術を用いており、機械が自動的にデー

タの中身を理解できるような仕組みになっているため、様々なデータを柔軟に統合・整理できるという特徴を

持 っ て い る ( 理 研 ニ ュ ー ス リ リ ー ス 、 平 成 2 1 年 3 月 3 1 日 、

http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2009/090331_2/detail.html)。また通信データを暗号化す

ることで、より安全なデータのやりとりが可能である。こういった理由から理研サイネスは、高い情報機密性を

維持しなければならない臨床アーカイブ情報の蓄積という目的に非常に適している。このシステムに蓄積す

るためのコンテンツの詳細を、原発性免疫不全症を専門とする臨床医と共同で精査し整理を行った。そうし

てまとめられた項目を入力するためのインターフェースを開発した。入力フォームは、国際的な臨床アーカイ

ブとするために、すべて英語で統一している(図8)。現在、複数の専門医による検証を継続して行っており、

早期のアジア全域での臨床アーカイブとしての公開を目指しているが、あくまでも個人情報を取り扱う点に

配慮し、臨床的な必要性が高い限定されたメンバーでの共有化情報とすることを想定している。

図8 理研サイネス上に構築した臨床アーカイブシステム(試験的に入力した情報を表示)

提案書における研究項目[(1)免疫不全症に関するデータベース構築と(2)免疫関連たんぱ

く質に関する情報収集とデータマイニングのためのプログラム作製]は、機関別の研究項目として記載

26

されていたが、本成果報告書では実施内容の流れに合わせて効率よく研究成果を説明するために研究項

目立ての再編成を行った。これは、実際の研究のほとんどが理研グループとインド共同研究先であるバイオ

インフォマティクス研究所とのインタラクティブな共同研究として実施された結果、両者の寄与を明確に区別

しての記載が困難になったためである。そのため、(1)免疫不全症に関するデータベース構築という大項目

の下に、①「原発性免疫不全症データの収集と統合化」と② 「原発性免疫不全症データベースの構築と改

良」の小項目を立て、本研究開発の流れをより理解し易くすることを意図して再編成させていただいた。本成

果報告における研究項目と提案書研究項目の対応関係を示すために、それぞれの研究項目に関与した研

究機関名を各小項目の見出し横のカッコ内に記載した。理研、バイオインフォマティクス研究所と記載されて

いるものは、それぞれ提案書研究項目(1)、(2)が含まれている成果であることを示しており、個々の成果を

どちらのグループが主体として遂行したかについてもできる限り記載した。全体として、当初提案書に計画し

ていたすべての研究項目について目標を達成した。

Ⅳ. 自己評価

1.目標達成度

ほぼ既知の原発性免疫不全症の変異情報を網羅した RAPID データベースを構築・公開しただけでな

く、その原因遺伝子の予測法や、遺伝子変異解析ツールなどの有用性の高い情報基盤までを創出できた。

当初研究アイテムとして考えていた臨床アーカイブデータおよびヒト免疫不全症モデルマウスに関するデ

ータは、臨床専門医の方との十分な議論によって適正な公開・運用方法を決めた後に、RAPID データベ

ースへと実装する予定である。安易な個人情報の取り扱いによって、大きな禍根を生まないためには妥当

な判断であったと考える。本共同研究で構築した情報基盤は、他の遺伝性疾患についても十分に適用可

能であり、こういったヒト遺伝性疾患を分子レベルから理解する上での一連の情報解析基盤を確立できた

ことは、予想以上の収穫であった。また、この情報基盤を基礎として、アジアの原発性免疫不全症臨床医

のネットワークを形成する活動にまで着手することができた。

2.成果

原発性免疫不全症研究における、未解決の問題を解決するための、アジア発の情報基盤を確立するこ

とができた。これらの成果は、原著論文としての報告、国内外での学会報告を通じて、広く認知度を高める

ことができた。2回のアジアの原発性免疫不全症の臨床医を招いた会合の開催により、アジア諸国の原発

性免疫不全症研究者からこうした情報基盤の必要性に賛同を得られ、今後、アジアだけでなく、国際的な

原発性免疫不全症研究ネットワーク形成に本研究成果の情報基盤が活用されていくことを確実なものとす

ることができた。

3.計画・手法の妥当性

当初の計画どおりにほぼ実施できたことから、計画は妥当であったと考える。手法についても、オープン

ソースのソフトウェアを最大限に活用するなど、開発にかかるコストを最小限に押さえることができており、非

常に妥当であったと考える。特に、インド共同研究先との連携を進めるに当たり、国内でのインド研究者の

雇用によって深く人的ネットワーク形成を目指した点は効果的であったと評価する。中堅研究者1名と若手

のリサーチアソシエイト1-2名のインドからの研究チームを国内雇用し、若手については単年度で入れ替

わって、インド−日本間の研究連携の活性化に寄与してもらった。この体制は、インド共同研究先の理解と

積極的な協力によって可能となったが、相互の技術移植には非常に効率的かつ現実的な手法であったと

自己評価する。

27

4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性

開発に携わったインドからの研究グループは、引き続き理化学研究所免疫アレルギー科学総合研究セ

ンターにおいて RAPID の更新、機能拡張を主とする業務に携わる予定である。また、理化学研究所生物

情報基盤部門、かずさ DNA 研究所を始め、アジア諸国の原発性免疫不全症研究グループと密に連携し

て、アジア全域をカバーする持続可能的な免疫不全症ネットワークを成熟させ、アジアでの小児医療技術

の向上への積極的な貢献を図る。

5.その他

(1.~4.の項目以外の内容で、自己評価としてもし何か示されたい点がありましたら、簡潔にお示しくださ

い)

本研究によるデータベース構築を通じて、インド共同研究先であるバイオインフォマティクス研究所では、ゲ

ノミクス研究にも着手し、今後の共同研究を拡大していくための基礎ができた。また、インドでも彼らは同様の

臨床問題の解決に向けた研究活動を開始しており、インド国内の臨床免疫研究者とのネットワークがこの共同

研究を契機に形成されたことは彼らにとっても有益であった。本共同研究を通じて、我が国との若手の研究者

の人的交流も円滑に行われ、今後のインドとの共同研究の提案が実際の研究者の顔を思い浮かべながらで

きるようになったことはこの研究開発の大きな成果であると自己評価している。更に、インド国内の免疫不全症

臨床医の人的ネットワークは今まで我が国からのアクセスが困難であったが、本共同研究先の仲介を通じて、

アジアをカバーする免疫不全症ネットワークにインドが加わることが実現された。2回のアジアからの招聘者を

含む免疫不全症のシンポジウムは本振興調整費の枠組みがあって初めて実現できたものであり、こうしたアジ

ア連携を積極的に推進しようとする我が国の取り組みに対して、他のアジア各国の参加者からも高い評価を

いただいた。

Ⅴ.その他

1.代表研究者・国内参画機関研究者への質問

①課題実施また推進において、直面した困難、障害となった事柄について、ご説明ください。

本研究は、異なる分野の研究者の連携の下に展開することが必須であり、国内外の異分野研究者間の

認識の差を埋め、かつ十分な協力を得るプロセスが最も困難な事柄であった。しかし、本研究においては、

免疫不全症の克服という共通の課題が存在したために、なんとか多くの方々の協力を得ることができた。特

に、臨床医の方々は臨床業務の多忙さのために、本研究のための物理的な時間を工面されるのに大変ご

苦労いただいたと感謝している。しかし、こうした研究開発の有益な成果を積み上げていくことで、臨床分野

の研究者との連携は更に強化していけると考えている。

②アジア地域における国際共同研究推進に向けて、提案事項があればお示しください。

本研究は、疾患克服のための情報基盤創出を通じて、アジア全域の医療問題の解決に貢献することが最

終課題であった。しかし、このゴールに向けては、アジア諸国の間に大きな格差が存在し、それぞれの国別

での取り組みがまず必要とされることが明確となった。こうした問題点の明確化のためにも今回の情報基盤

の成立は大きな前向きの意味を持ち、更にアジア各国の臨床医、遺伝子解析研究者などのノウハウ共有化

のための人的交流の促進(短期間のトレーニングや研修制度)などの次のステップに向けての活動を継続し

ていきたい。アジア各国間の状況の差は日本国内で考えるよりもはるかに大きく、実情を知り、そのギャップ

を埋めていくためには、まずは人的交流から開始するのが現実的な選択肢であると考える。

2.国外参画機関への質問

28

課題の事後評価にあたり、国外参画機関から、共同研究についての感想・コメントを求めます。

Please answer to the following questions regarding the participation of institutes which you belong to the

international research collaboration funded by the Special Coordination Funds for Promoting Science and

Technology (SCF). The answer is not mandatory, although your input is important for the evaluation process.

We appreciate your kind cooperation.

1)本共同研究をどのように評価しているか、自由形式でコメントをお寄せください。当該課題の内容に限定

された事柄から、振興調整費の制度そのものについてまで、幅広くお考えください。

1) Please describe your evaluation of the research collaboration you have participated. Your comment may

not necessarily be limited to the specific issues regarding your research project/interest, but may also be

related to the concept/system of this program. Format unspecified.

We are very happy in the manner in which the collaboration between IOB and RIKEN has progressed under

the JST umbrella. This has not only been a very productive collaboration with 5 publications published till

date as follows:

Hijikata, A., Raju, R., Keerthikumar, S., Ramabadran, S., Balakrishnan, L., Ramadoss, S. K., Pandey, A.,

Mohan, S., and Ohara, O. (2010) Mutation@A Glance: An integrative web application for analysing

mutations from human genetic diseases./ DNA Research/.

Kandasamy, K., Mohan, S. S., Raju, R., Keerthikumar, S., Kumar, G. S. S., Venugopal, A. K., Telikicherla,

D., Navarro, J. D., Mathivanan, S., Pecquet, C., Gollapudi, S. K., Tattikota, S. G., Mohan, S.,

Padhukasahasram, H., Subbannayya, Y., Goel, R., Jacob, H. K. C., Zhong, J., Sekhar, R., Nanjappa, V.,

Balakrishnan, L., Subbaiah, R., Ramachandra, Y. L., Rahiman, B. A., Prasad, T. S. K., Lin, J., Houtman, J.

C. D., Desiderio, S., Renauld, J., Constantinescu, S. N., Ohara, O., Hirano, T., Kubo, M., Singh, S., Khatri,

P., Draghici, S., Bader, G. D., Sander, C., Leonard, W. J. and Pandey, A. (2010) NetPath: A public

resource of curated signal transduction pathways. /Genome Biology/. 11:R3.

Keerthikumar, S., Bhadra, S., Kandasamy, K., Raju, R., Ramachandra, Y. L., Bhattacharyya, C., Imai, K.,

Ohara, O., Mohan, S. and Pandey, A. (2009) Prediction of candidate primary immunodeficiency disease

genes using a support vector machine learning approach./ DNA Research/.16, 345-351.

Keerthikumar, S., Raju, R., Kandasamy, K., Hijikata, A., Ramabadran, S., Balakrishnan, L., Ahmed, M.,

Rani, S., Selvan, L. N., Somanathan, D. S., Ray, S., Bhattacharjee, M., Gollapudi, S., Ramachandra, Y. L.,

Bhadra, S., Bhattacharyya, C., Imai, K., Nonoyama, S., Kanegane, H., Miyawaki, T., Pandey, A., Ohara, O.

and Mohan, S. (2009) RAPID: Resource of Asian Primary Immunodeficiency Diseases. /Nucleic Acids

Research./ 37, D863-D867.

Mathivanan, S., et al. (2008) Human Proteinpedia enables sharing of human protein data. /Nature

Biotechnology/. 26, 164-167.

In addition, we have a number of manuscripts that are being prepared - these mainly pertain to pathways.

29

This collaboration has given an excellent opportunity to researchers from IOB as follows: i) Dr. Shivakumar

Keerthikumar was able to complete his Ph.D. based on the collaborative work carried out while he was

physically in Yokohama. ii) Dr. Sujatha Mohan, a Faculty Scientist from IOB, got to establish her own group

at RIKEN that enabled this collaboration to prosper. She was able to directly interact with Dr. Osamu Ohara,

which was crucial for the success of this program. She was also able to interact with Dr. Hijikata on a daily

basis, which led to development of a new tool. iii) Several others from IOB: Dr. Subhashri Ramabadran, a

Faculty Scientist from IOB and two Ph.D. students: Mr. Rajesh Raju and Ms. Lavanya Balakrishnan got an

excellent opportunity to be part of the newly established unit by Dr. Sujatha Mohan's at RCAI. The

invaluable training that Rajesh Raju received on this project will contribute to his Ph.D. thesis, which is

being submitted shortly. In addition, future planned manuscript will have Rajesh Raju as the first author and

include collaborators from RCAI.

2)本共同研究の問題と思われる点、改善すべきと思われる点について、箇条書きでご意見をお寄せください。

1)と同じく幅広くお考えください。

2) Please describe specific issues that you consider as problems, difficulties or subjects for improvements in

executing collaborative research. Same as the question 1), your comment may cover wide range of aspects.

Please show them by a run of the item, if possible. We did not encounter any problems during this

collaboration.

We did not encounter any problems during this collaboration.

3)本国際共同研究は、イコールパートナーシップの精神に基づいて実施されましたが、国外参画機関として

の物質的な貢献・負担(コミットメント)はどの程度だったか、ご回答ください。

*経費(研究費): ( ※金額及び使途等 )

*試料・フィールド提供: ( )

*研究室・設備提供: ( )

*人材提供(研究員他): ( )

*その他:( )

3) This international collaboration research has been operated under the spirit of “equal partnership

manner.” Specifically, participating bodies are required to provide all the resources necessary for their own

activity. In this regard, please describe what were the contributions by your side in the following categories;

- Research expense : (please describe amount(US$) and purpose)

- Provision of research materials / field stations etc.: (please describe details)

- Laboratories/equipments : ( please describe details)

- Human resource (research scientists/assistants/etc) : ( please describe details)

- Others : ( please describe details)

During this collaboration, IOB contributed the following that were enabled by grants/other support that it

received from the Government of India.

Grants received:

i) Research grant to develop a “Mouse Protein Reference Database” - Approximately, US $80,000

Goal: To develop a comprehensive database of mouse proteins which will contain information pertaining to

30

mouse proteins including domain architecture, protein functions, protein-protein interactions,

post-translational modifications, enzyme-substrate relationships, sub-cellular localization and tissue

expression. It will also include a mouse knockout database as well as data on mouse models of human disease.

We will be able to integrate this with the RAPID database that we developed jointly under the auspices of

support by JST.

ii) Senior Research Fellow grant to a Research Scientist, Rajesh Raju to further develop the signaling pathway

resource - NetPath” - Approximately, US $10,000

Goal: This project involves analysis and manual curation of pathway reactions and development of pathway

maps for 10 ligand-dependent receptor-mediated apoptosis signaling pathways. These pathways will be

integrated to NetPath.

iii) Programme Support for proteomics - Approximately, US $2,100,000

Goal: This multi-institutional collaborative research grant is provided by the Government of India to IOB to

set up the genomic and proteomic platform including DNA microarrays and high resolution mass

spectrometry.

Laboratory/equipments:

IOB has an accurate mass qTOF mass spectrometer (Agilent Technologies) and a Fourier transform

LTQ-Orbitrap Velos ETD mass spectrometer (Thermo Scientific) which are being used for pathway analysis.

Human resource:

Several scientists at IOB and other collaborating institutions from India were involved in the curation of the

data for the RAPID database, the development of an SVM-based prediction tool and NetPath pathway

resource. This included at least 10 other Ph.D. students who were not physically at the RCAI unit, two

Faculty Scientists at IOB - Dr. Keshava Prasad and Dr. Mukhtar Ahmed, one programmer - Kumaran

Kandasamy, one Faculty scientist at Kuvempu University in Shimoga, Karnataka - Dr. Y. L. Ramachandra,

one Ph.D. student from the Indian Institute of Science - Sahely Bhadra and one Faculty member from the

Indian Institute of Science - Dr. Chiranjib Bhattacharyya.