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4 中学校美術科の評価について 1.指導との関連性を意識した評価 指導と評価は一体であるといわれる。したがって 評価にあたっては,指導との関連性を意識して行う ことが大切である。 授業は,計画,実施,評価,改善といった一連の 活動をくり返しながら展開される。つまり,教師に とっての評価とは,結果としてあらわれた生徒の学 習状況を鏡にして自らの指導を振り返り,指導の在 り方を見直すことや個に応じた指導の充実を図るこ となど,今後の指導計画を考え,授業改善を行う根 拠となるものといえよう。評価を行って終わるので はなく,評価した結果を活用することが大切なので ある。評価を基に教育活動の改善がなされ,それに 沿って実施された授業に対して,また評価がなされ る。指導と評価の一体化とは,まさにこうしたスパ イラルな営みを指すのである。一方,生徒にとって の評価とは,自らの学習の状況や課題を気づかせる ものであり,自発的な改善を促す契機となるもので ある。評価を基に自己の学習方法や学習態度などを 省みて,授業に対する取り組み方に改善がなされる。 評価は,このように生徒に対する指導としての機能 ももっている。 つまり評価とは,教師の指導の在り方など教育活 動の改善という面と,生徒の学習状況の自覚と自発 的改善を促すという面を併せもつものということが できる。 2.評価の基本的な考え方 (1)目標に準拠した観点別学習状況の評価を行う 学習指導要領の改訂に伴い,評価の基本的な考え 方も継続的に見直しがなされている。とりわけここ 30年あまりで,評価の考え方は一新されたといえる。 かつては集団に準拠して評価する評定が中心であっ たが,現在では,生徒の学習状況を分析的に捉える 観点別学習状況の評価と,総括的に捉える評定とが, ともに目標に準拠した評価として位置づけられてい る。 目標に準拠した評価とは何か。これは,学習指導 要領に示された目標に照らして生徒の学習状況を評 価することを意味する。学習指導要領の趣旨を踏ま えて,美術科では学習状況を評価する観点(観点別 学習状況の観点)が次のように設定されている。 ①美術への関心・意欲・態度 ②発想や構想の能力 ③創造的な技能 ④鑑賞の能力 この4観点で評価し,その結果を指導要録に記載す ることになる。 (2)妥当性,信頼性のある評価を行う 評価の妥当性とは,評価結果が生徒の資質や能力 を適切に反映していることを示すものである。妥当 性を確保していくためには,評価が学習指導要領に 示す目標に対応するものであり,その実現状況を把 握するものとして行われていることや,評価の方法 が生徒の資質や能力を適切に把握するものであるこ となどが求められる。そのため評価にあたっては, 教師の個人的な思いや考えで行うのではなく,国立 教育政策研究所教育課程研究センターが作成した 『評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための 参考資料』(以下,参考資料と記す)に示されてい る「評価の観点及びその趣旨」(本書P.5に掲載)に 沿って行う必要がある。同じく,同資料に基づいて 評価規準を設定し,明確な根拠を背景にした評価を 行う必要がある。 生徒や保護者には,「評価に先生の主観が入って いるのではないか」という不安感が根強くある。国 が示すこれらの資料に基づいて評価を行うことは, 教師の負担感の軽減を図るとともに,こうした不安 感を払拭し,評価の妥当性,信頼性を高めるもので あることにも留意しておきたい。 また,生徒個々のよい点や可能性,学習を通して の進歩の状況など,観点別学習状況の評価や評定で は十分示しきれない事柄についても評価し,積極的 に生徒に伝えることが大切である。そのためには, より密接に生徒の学習活動に接し,変容やその兆候 を把握するための個人内評価の観点や方法を工夫す る必要がある。

中学校美術科の評価について · えて,美術科では学習状況を評価する観点(観点別 学習状況の観点)が次のように設定されている。

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中学校美術科の評価について

1.指導との関連性を意識した評価

指導と評価は一体であるといわれる。したがって

評価にあたっては,指導との関連性を意識して行う

ことが大切である。

授業は,計画,実施,評価,改善といった一連の

活動をくり返しながら展開される。つまり,教師に

とっての評価とは,結果としてあらわれた生徒の学

習状況を鏡にして自らの指導を振り返り,指導の在

り方を見直すことや個に応じた指導の充実を図るこ

となど,今後の指導計画を考え,授業改善を行う根

拠となるものといえよう。評価を行って終わるので

はなく,評価した結果を活用することが大切なので

ある。評価を基に教育活動の改善がなされ,それに

沿って実施された授業に対して,また評価がなされ

る。指導と評価の一体化とは,まさにこうしたスパ

イラルな営みを指すのである。一方,生徒にとって

の評価とは,自らの学習の状況や課題を気づかせる

ものであり,自発的な改善を促す契機となるもので

ある。評価を基に自己の学習方法や学習態度などを

省みて,授業に対する取り組み方に改善がなされる。

評価は,このように生徒に対する指導としての機能

ももっている。

つまり評価とは,教師の指導の在り方など教育活

動の改善という面と,生徒の学習状況の自覚と自発

的改善を促すという面を併せもつものということが

できる。

2.評価の基本的な考え方

(1)目標に準拠した観点別学習状況の評価を行う

学習指導要領の改訂に伴い,評価の基本的な考え

方も継続的に見直しがなされている。とりわけここ

30年あまりで,評価の考え方は一新されたといえる。

かつては集団に準拠して評価する評定が中心であっ

たが,現在では,生徒の学習状況を分析的に捉える

観点別学習状況の評価と,総括的に捉える評定とが,

ともに目標に準拠した評価として位置づけられてい

る。

目標に準拠した評価とは何か。これは,学習指導

要領に示された目標に照らして生徒の学習状況を評

価することを意味する。学習指導要領の趣旨を踏ま

えて,美術科では学習状況を評価する観点(観点別

学習状況の観点)が次のように設定されている。

①美術への関心・意欲・態度

②発想や構想の能力

③創造的な技能

④鑑賞の能力

この4観点で評価し,その結果を指導要録に記載す

ることになる。

(2)妥当性,信頼性のある評価を行う

評価の妥当性とは,評価結果が生徒の資質や能力

を適切に反映していることを示すものである。妥当

性を確保していくためには,評価が学習指導要領に

示す目標に対応するものであり,その実現状況を把

握するものとして行われていることや,評価の方法

が生徒の資質や能力を適切に把握するものであるこ

となどが求められる。そのため評価にあたっては,

教師の個人的な思いや考えで行うのではなく,国立

教育政策研究所教育課程研究センターが作成した

『評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための

参考資料』(以下,参考資料と記す)に示されてい

る「評価の観点及びその趣旨」(本書P.5に掲載)に

沿って行う必要がある。同じく,同資料に基づいて

評価規準を設定し,明確な根拠を背景にした評価を

行う必要がある。

生徒や保護者には,「評価に先生の主観が入って

いるのではないか」という不安感が根強くある。国

が示すこれらの資料に基づいて評価を行うことは,

教師の負担感の軽減を図るとともに,こうした不安

感を払拭し,評価の妥当性,信頼性を高めるもので

あることにも留意しておきたい。

また,生徒個々のよい点や可能性,学習を通して

の進歩の状況など,観点別学習状況の評価や評定で

は十分示しきれない事柄についても評価し,積極的

に生徒に伝えることが大切である。そのためには,

より密接に生徒の学習活動に接し,変容やその兆候

を把握するための個人内評価の観点や方法を工夫す

る必要がある。

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評価の観点およびその趣旨 国立教育政策研究所教育課程研究センター『評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料』(平成23年7月)より

http://www.nier.go.jp/kaihatsu/shidousiryou.html

美術への

関心・意欲・態度 発想や構想の能力 創造的な技能 鑑賞の能力

美術の創造活動の喜びを味わい,主体的に表現や鑑賞の学習に取り組もうとする。

感性や想像力を働かせて豊かに発想し,よさや美しさなどを考え心豊かで創造的な表現の構想を練っている。

感性や造形感覚などを働かせて,表現の技能を身に付け,意図に応じて表現方法などを創意工夫し創造的に表している。

感性や想像力を働かせて,美術作品などからよさや美しさなどを感じ取り味わったり,美術文化を理解したりしている。

3.評価規準の設定について

評価規準とは,学習指導要領に基づく目標に照ら

した学習の実施状況を「美術への関心・意欲・態度」

「発想や構想の能力」「創造的な技能」「鑑賞の能

力」などの観点ごとに適切に評価するためのよりど

ころとなるものである。評価を行う際には,参考資

料に示された「評価規準に盛り込むべき事項」を基

に「題材の評価規準」を,「評価規準の設定例」を

基に「学習活動に即した評価規準」をそれぞれ設定

する。『美術2・3』のP.64~67「季節感のある暮ら

しを楽しむ」を例に,その手順を具体的に示そう。

『美術2・3』P.64~67 「季節感のある暮らしを楽しむ」を例に

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まず題材の評価規準の設定の方法だが,参考資料

では,美術科においては学習指導要領の内容の「A

表現 (1)(3)感じ取ったことや考えたことの表現」,

「A 表現 (2)(3)目的や機能の表現」,「B 鑑

賞」を内容のまとまりとしている。

この題材は「A 表現 (2)(3)目的や機能の表現」

にあたるので,この内容のまとまりにおける第2学

年及び第3学年の「評価規準に盛り込むべき事項」

を参照する。「美術への関心・意欲・態度」「発想

や構想の能力」「創造的な技能」の3事項のうち,

「発想や構想の能力」を例にとると, 下記①のよう

に示されている。これを基に,題材の内容に合わせ

て①の下線部を下記②の下線部のように書き換え,

題材の評価規準を設定するとよい。

次に学習活動に即した評価基準の設定の方法につ

いては,参考資料の「評価基準の設定例」を参照す

る。同じく「発想や構想の能力」を例にとると,下

記③のように示されているので,これを基に学習活

動の特質をふまえて,③の下線部を下記④の下線部

のように書き換える。

●題材の評価規準の設定例 「発想や構想の能力」の場合

●学習活動に即した評価規準の設定例 「発想や構想の能力」の場合

「評価規準に盛り込むべき事項」(参考資料より)

感性や想像力を働かせて,目的や条件,伝えたい内容,使用する者の気持ちや機能などを基に形や色彩の

効果を生かして造形的な美しさなどを総合的に考え,表現の構想を練っている。

「題材の評価規準」

感性や想像力を働かせて,お菓子のコンセプト,味やイメージ,味わう者の気持ちや季節感などを基に形

や色彩の効果を生かして造形的な美しさなどを総合的に考え,表現の構想を練っている。

「評価規準の設定例」(参考資料より)

使用する者の気持ちや機能,夢や想像,造形的な美しさなどを形や色彩などの効果を生かして総合的に考

え,表現の構想を練っている。

味わう者の気持ちや季節感,お菓子のコンセプト,味やイメージ,造形的な美しさなどを形や色彩などの

効果を生かして総合的に考え,表現の構想を練っている。

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4.評価について特に留意すべきこと

(1)関心・意欲・態度の評価について

改正教育基本法において,自ら進んで学習に取り

組む意欲を高めることを重視することが示されると

ともに,平成20年の学校教育法および学習指導要領

の改訂により,学習意欲の向上が〈学力の三つの要

素〉の一つとして示されている。また,学習への関

心・意欲・態度を育むことが基礎的・基本的な知識・

技能の習得や思考力・判断力などの育成につながる

など,「美術への関心・意欲・態度」の観点は他の

観点に係る資質や能力の定着に密接に関係している。

そのため,先に示した4観点のうち,「美術への

関心・意欲・態度」の評価はそれだけを取り出して

行うというよりも,「発想や構想の能力」「創造的

な技能」「鑑賞の能力」と関係づけて把握すること

に留意したい。

(2)評価と〔共通事項〕との関連

学習指導要領では,〔共通事項〕が設けられてい

る。〔共通事項〕は,表現と鑑賞に共通するもので

あると同時に,「発想や構想の能力」,「創造的な

技能」,「鑑賞の能力」に共通して働くという意味

であり,小学校図画工作科とも関連する事項である。

評価においても,〔共通事項〕に関連した内容か

らの評価が必要となる。「評価の観点及びその趣旨」

の表の中でも,「感性や想像力を働かせて」「感性

や造形感覚などを働かせて」といった部分は,〔共

通事項〕に関連する部分である。また詳細は,「内

容のまとまりごとの評価規準に盛り込むべき事項及

び評価規準の設定例」に示されているので,評価規

準の設定および実施において留意する必要がある。

(3)評価の計画

題材全体を通して4観点全てを評価するように指

導計画を立てることを基本とする。しかし,授業時

間ごとに4観点全てを評価することは適切ではない。

観点の内容によって適時に評価することが大切であ

る。例えば,題材の前半では,「美術への関心・意

欲・態度」や「発想や構想の能力」の観点について,

「努力を要する」C基準の生徒を中心に記録するこ

とが考えられる。評価の結果に基づいてC基準の生

徒を「おおむね満足できる」B基準になるように指導

を改善したり,個別に指導したりするのである。ま

た,題材が進むにつれて,B基準と記録した生徒の

中から特に顕著な姿が見られるようになった生徒を

「十分満足できる」A基準と評価するように見直す

など,指導と評価の関連を意識しながら評価を進め

るようにすることが大切である。