71
児童養護施設の抱える今日的課題の検証 ─職員の労働環境に主眼をおいた群馬県内施設への実態調査─ 群馬大学 社会情報学部 情報社会科学科 中川 2010 年 1 月 19 日提出

児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

児童養護施設の抱える今日的課題の検証

─職員の労働環境に主眼をおいた群馬県内施設への実態調査─

群馬大学 社会情報学部 情報社会科学科

中川 綾

2010 年 1 月 19 日提出

Page 2: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

1

目次 はじめに…………………………………………………………………………………………3 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 1.社会的養護の意義と児童養護施設…………………………………………………………4 2.児童養護施設の概要

2-1.日本の児童福祉の歴史と児童養護施設の成り立ち…………………………………6 2-2.児童養護施設の役割……………………………………………………………………9 2-3.施設養護の対象となる児童と入所児童の傾向の変化………………………………9

第二章 児童養護施設に関する近年の動向 1.近年の傾向―国の新たな施策と社会保障給付費の推移………………………………12 第三章 児童養護施設の抱える課題 1.人員配置と職員の職場定着率―昭和 51年から変わらない配置基準………………15 2.財政面―措置費の中でのぎりぎりの生活………………………………………………19 3.児童の居住環境と生活単位の小グループ化施策に伴う問題点………………………21 4.施設内虐待の発生…………………………………………………………………………22 5.多様化する入所児童‐障害を持った児童の増加………………………………………25 第四章 群馬県内児童養護施設への調査と検証―職員の労働環境に主眼をおいて 1.調査の目的…………………………………………………………………………………26 2.調査方法・調査内容………………………………………………………………………26 3.調査結果の検証

3-1.施設について…………………………………………………………………………26 3-2.財政面について………………………………………………………………………29 3-3.職員の労働環境について

3-3-1.職員の安全面について…………………………………………………………30 3-3-2.職員配置について………………………………………………………………31 3-3-3.職員の職場定着率について……………………………………………………35

3-4.児童との関係性について……………………………………………………………38 3-5.障害を持つ児童の入所について……………………………………………………41

4.調査の補足―県内施設の特徴と施設の「声」 4-1.群馬県内児童養護施設の特徴・傾向………………………………………………43 4-2.施設の「声」…………………………………………………………………………43

Page 3: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

2

第五章 まとめ―群馬県内児童養護施設への実態調査を終えて―……………………45 おわりに………………………………………………………………………………………47 参考文献リスト………………………………………………………………………………48 末巻資料(インタビュー記録) ・インタビュー記録①(施設A)………………………………………………………49 ・インタビュー記録②(施設B)………………………………………………………53 ・インタビュー記録③(施設C)………………………………………………………57 ・インタビュー記録④(施設D)………………………………………………………61 ・インタビュー記録⑤(施設E)………………………………………………………64 ・インタビュー記録⑥(施設F)………………………………………………………67

Page 4: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

3

はじめに 児童相談所に寄せられる児童の虐待件数はこの 20 年足らずで 30 倍超に膨れ上がっ

たといわれており、今や 1週間に 1人の割合で、日本のどこかで子どもが虐待によって死んでいるという。児童養護施設で暮らす子どもの 6割が被虐待児であるという現実がある中で、幼少の頃に保護者から虐待を受けた児童の心身の傷は容易に癒えることはな

く、昼夜、平日休日を問わずに児童に付き添う施設職員の仕事は、想像以上に過酷であ

る1。しかし職員の人手不足は深刻であり、被虐待児だけでなく障害を持つ入所児童の

増加への対応など様々な問題から、現場を支える職員は疲れきっている。心に傷を持っ

て入所してくる児童を保護し育成する重要な役割にありながら、施設養護の最前線では

たらく職員がこうした劣悪な職場環境のもと労働者としての人権を損なわれているこ

とは、児童の健全な育成にも支障をきたしかねない深刻な問題である。 本稿は、児童養護施設が抱える今日的課題と現状を検証し、その中で特に児童養護施

設で働く職員の労働環境に主眼をおいた実態調査を群馬県内にある児童養護施設 6 ヶ所に対し行う中で、過酷な労働環境で働く施設職員の業務などを検証し考察を深めると

ともに、施設側から見た要望や問題点を明らかにすることを目的としている。 また、前半部分では児童養護施設に関する基礎的な知識及び一般的に問題とされてい

る事柄について文献をもとに咀嚼し、後半部分では本稿の眼目である県内児童養護施設

への実態調査の検証と考察、及びまとめを行うこととする。また、実態調査は各施設へ

のインタビューと書式回答の回収という二段構えで行い、前者では現場でしか聞くこと

のできない質的な情報を、後者では数値的なデータの収集を行うものとする。

1 朝日新聞 大阪本社編集局『ルポ児童虐待』朝日新書 2008 p.3

Page 5: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

4

第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

有用とされている児童養護施設について、基本的な知識について触れていく。一般に「児

童福祉施設」と称されるものには、①児童養護施設(乳児を除く保護者のいない児童や

虐待されている児童などを入所させて養護し、あわせてその自立を支援することを目的

とする施設。虚弱児施設も含まれる。)②児童自立支援施設(児童福祉法に基づく児童

の福祉施設の一つ。平成 9年の同法改正により教護院から名称変更。不良行為をした児童や将来不良行為をする恐れのある児童、及び環境上の理由で生活指導を要する児童を

入所させ、又は保護者の元から通わせて、社会生活に適応するよう指導を行い、その目

的を支援することを目的とする施設。)③母子生活支援施設(配偶者のない女子又はこ

れに準ずる事情にある女子とその児童を入所させて保護するとともに、これらの者の自

立の促進のために、その生活を支援することを目的とした施設。)④他に助産施設、乳

児院、児童厚生施設、知的障害児施設、児童家庭支援センターなど 14種類があるが、本稿ではその中の①児童養護施設に焦点を絞って論文を書いていく。

1.社会的養護の意義と児童養護施設 児童福祉法 第一条 一 すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努め

なければならない 二 すべての児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。 第二条 国および地方公共団体は、児童の保護者とともに、自動を心身ともに健や

かに育成する責任を負う。 前述の児童福祉法の文言は、社会的養護の法的な根拠とされている。児童養護施

設は児童福祉法に定められた施設であり、児童福祉法第四十一条には、「児童養護施

設は、保護者のない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入

所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための

援助を行うことを目的とする施設とする」と明記されている2。 近年、児童虐待問題に関する報道が目立たなくなってきており、一見すると児童

虐待問題が落ち着いてきているように見える。しかしながら、児童相談所における

虐待相談件数の推移を見ると依然として増加傾向にあり(図 1)、予断を許さない状況であるといえる3。

2全国児童養護施設協議会発行パンフレット「もっともっと知って欲しい 児童養護施設―子供虐待と児童

養護施設」 http://www.zenyokyo.gr.jp/motto.pdf 2010/01/17 3保延成子・堀尾恵太郎「社会的養護の展開と課題-2-」東京家政大学研究紀要 第 49集(1) 2009 p.51

Page 6: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

5

図 1 児童相談所における虐待相談処理件数の推移

出典:平成 18 年度厚生労働省社会福祉行政業務報告 平成 19 年 9 月 28 日公表

http://www.mhlw.go.jp 2010/01/17

社会的養護はこれまで様々な社会的理由による限られた人を対象としていたが、

その対象者も年々拡大傾向にある。いわゆる家庭での養育困難という状況は、障害・

単身家庭などの要因によるものだけでなく、家庭関係・育児疲労などへと拡大し続

けている。また、子育て不安・育児支援など保育・教育現場との連携を図りながら

社会的養護の位置づけを考えていかなければならない状況でもある。 児童養護施設で生活している子どもたちは、家庭などで傷ついて一時保護、施設

入所してくる。そして児童養護とは、われわれの社会において行われている、全ての

児童の健全な成長発達過程を援助促進し、こうした児童が将来社会で活躍できうるか

ぎり有用な独立自活の市民となることを目的として、社会やおとなの側から児童に対

して働きかける活動やサービスプログラムの全てをさす。家庭環境など何らかの事情

により養護を必要とする子どもたちに対するこうした活動の必要性については、以下

の通りである。 「人間の子供ほど、生物としては、他の一切の動物のそれと比較することができな

いくらい長期間にわたって養育者に依存して成長していかなければならない者はい

ない。年齢が低ければ低いほどその依存度は高く、胎児期や乳児期は絶対的全面的に

依存することを余儀なくされている。(中略)児童の成長の過程は、社会文化の発展

が進めば進むほど、その期間の長期化と、より複雑化してくる傾向が見られる。児童

養護の目的は、(中略)児童が心身共に健全に育成されていくことにより、社会・文

Page 7: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

6

化の創造の担い手として社会に巣立っていく前の十分な準備期間を児童に備えてや

ることにあるといえよう4。」 その子どもたちを最前線で支えているのが、児童相談所の児童福祉司及び児童養護

施設などの児童指導員・保育士である。特に児童養護施設においては、子供たちと共

に多くの時間を共有し、日常生活の支援・生活指導、余暇活動などから入所までの様々

な傷ついた子どもたちのケアなどを行っている。しかし、施設内虐待の問題や施設職

員の燃え尽きなどが発生しており、社会的養護を必要としている子どもたちだけでな

く「養護労働」に従事している職員も、様々な問題を抱えているといえる5。

2.児童養護施設の概要 2-1.日本の児童福祉の歴史と児童養護施設の成り立ち はじめに、我が国における児童福祉の発展と児童養護施設の成り立ちについてである

が、「社会的養護の展開と課題」(保延成子・堀尾恵太郎 東京家政大学研究紀要 第

49集(1) 2009 pp.51-52)によれば、その経緯は次のようなものである。 「社会的養護の定義・史的発展を見てみると、戦前の石井十次の岡山孤児院や野口幽

香の二葉幼稚園などを起因とし、戦後大きく発展をしてきた。終戦時の不良・浮浪児の

取り扱い問題により制度化が加速したことによる児童福祉法の早期成立、児童養護の位

置づけや社会的養護の意義などが明記されるようになった。 1946(昭和 21)年 4月に「浮浪児その他児童保護等の応急措置」が、同年 9月に「主

要都市地方浮浪児童保護要領」が出されるなか、一時保護所や児童鑑別所、児童収容所

などの設置を急ぐということであった。そして、児童の一斉収容(狩り込み)と逃走の

繰り返しが行われていた。1947(昭和 22)年に厚生省(現:厚生労働省)に児童局が新設され、戦前に存在していた児童虐待防止法と少年教護法を吸収し、新たな理念を加

えて成立した「児童福祉法」(1947(昭和 22)年)であったが、現実的には混沌とした社会状態のなかから目の前の応急的なものを拾い上げていったものであり、孤児や浮浪

児の措置、非行少年の保護などが順次行われている状況であったといえる。 孤児・浮浪児の問題に戦災孤児や引き揚げ孤児など続々と社会的養護の必要な児童が

増加していき、血縁を中心とした親探し運動や里親の開拓などが行われるようになった。

その一方で、身売り事件など血縁的養護の限界が現象化してくるようになる。売春や経

済的不安定による劣悪な養育環境下で子どもたちの遺棄・放任などが行われるようにな

り、私生児などの養育を中心に社会的養護の位置づけが展開されてきた。当時維持の社

会情勢として、寿産院乳児大量殺人事件などの嬰児の殺人・放任などが頻発しており、

社会状況の急激な変化による母親の自己または一家の恥辱を隠すために新生児を遺

4大谷嘉郎・斉藤安弘・浜野一郎『施設養護の理論と実際』ミネルヴァ書房 1978 p.7 5保延成子・堀尾恵太郎「社会的養護の展開と課題-2-」東京家政大学研究紀要 第 49集(1) 2009 p.51

Page 8: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

7

棄・放置している状況であったといえる。そのため、エリザベス・サンダーホームなど

篤志家による児童養護施設の設置が行われるようになっていった。 1960 年代に入り、私生児、不良・浮浪児童に対する社会的養護から、保護者の養育

拒否・困難による児童虐待に伴う社会的養護のニーズが高まってくるようになる。コイ

ンロッカーベビー事件に象徴されるように、貧困を理由とした養育拒否・困難による児

童養護の問題から、保護者の自己都合による養育困難・拒否へとニーズが代わってくる

ようになる。また、1980 年代に入り家庭内暴力や薬物汚染、万引きなどの虞犯行為を行う児童が増加し、「処遇困難児」として児童養護施設に入所してくるようになった。

そのため、児童養護施設に対する機能の拡大が行われるようになる。 90 年代に入り、わが国は「子どもの権利条約」の批准をし、児童に対する権利擁護

の議論が活発化していく一方、社会構造の大幅な変化が行われた。1980 年代後半から始まったバブル経済は、個人消費の拡大と不動産投資が活発に行われたため、1991 年の崩壊とともに大きな社会問題となった。不景気が長期化し、銀行・証券会社の倒産な

どが発生し、終身雇用・安定した収入といった既存の社会構造が崩壊していき、リスト

ラや就職難、自殺の増加などが起こり、生活保護受給者の数も増加していった。 子どもたちを取り巻く環境も大きく変化した。少子化・高齢化などが進行し、未婚率

や離婚率の増加などが見られるようになり、家族形態も核家族から個人主義へと変容し

ていくようになる。IT機器の発達による部屋の個別化、家族間交流の機会が減少し、

親子関係の希薄化が進行してくるようになる。低年齢による凶悪犯罪や地域から孤立し

た保護者による児童虐待など突発した事件・犯罪が増加し、児童福祉全体がその対応に

迫られている。2000(平成 12)年に「児童の虐待防止に関する法律」(以下児童虐待防止法)の施行によって児童虐待が社会的問題となり、虐待の発見と防止に重点がおかれ

た法律であった。2004(平成 16)年の改正によって、市町村が相談業務の一義的窓口となり、虐待の通告先として位置づけられたことにより、虐待の未然発生予防や早期軽

度虐待の在宅援助などが期待された。 また、2007(平成 19)年の改正では児童相談所の機能が強化され、都道府県知事(児

童相談所長)による出頭要求の制度が新設され、保護者が従わない場合には立ち入り調

査を行い、さらに立ち入り調査に従わない場合は再出頭要求を行う。それでも保護者が

拒否をした場合、裁判所の許可上に基づき臨検・捜索ができるとされた。その他にも接

見禁止命令ができるように改正がなされた。(中略)社会的養護はその時々の社会問題

に影響を受けながら、変化をしてきているといえる。」 このように、戦災孤児の衣食住を保証するために設立された児童養護施設であるが、

現在は児童の入所理由も設立当初からは考えられないほど広範なものとなった。全国に

約 560 ヵ所ある児童養護施設が現在、虐待をはじめ保護者の困窮や病気など何らかの事情により保護者と一緒に暮らすことのできない児童が暮らしている。また、平成 5年

Page 9: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

8

から平成 19年度まで児童養護施設における在籍児童数は増加の一途を辿っており、平成 5年には 26、036名であったものが平成 19年には 30,846名にまでなった。それに伴い児童養護施設の数も 530 から 564 に、定員も 33,455 名から 33,917 名に増員されたが、定員充足率も 77.8%から 90.9%への上昇しており(厚生労働省「社会福祉施設等調査」)、児童養護施設はどこもほぼ満員状態となっている6。

日本の児童福祉の年表(昭和~平成 18年) ・1929 救護法制定 ・1933 児童虐待防止法、少年救護法制定(浮浪児の早期発見に力が注がれる) ・1937 厚生省設立

母子保護法(13歳以下の子どもを持つ貧困家庭の救済が目的)制定 ・1938 社会事業法制定(育児院など児童の保護を行う施設が社会事業と位置づけられ

た) ・1945 戦災孤児等保護対策要綱が出される ・1947 児童福祉法制定で、育児院から養護施設へ名称変更。

厚生省に児童局設置 ・1948 少年法制定

各都道府県に児童相談所設置 ・1951 児童憲章制定 ・1961 児童扶養手当制定(母子家庭による貧困救済が目的) ・1964 母子福祉法制定 ・1965 母子保健法制定 ・1971 児童手当法制定 ・1975 2直変則 2交代制導入 ・1979 国際児童年 ・1987 民放改正により、特別養子縁組制度ができる ・1988 厚生労働省「自立援助相談事業」策定 ・1994 エンゼルプラン策定 ・1997 児童福祉法改正 ・1999 新エンゼルプラン策定 ・2000 児童虐待防止に関する法律制定 ・2001 児童福祉法改正(保育士が国家資格になる) ・2003 児童福祉法改正(児童虐待防止対策の強化) ・2006 児童福祉法改正(児童自立支援計画の策定が義務化) 参考:長谷川 眞人編著『子どもたちのもうひとつの家 児童養護施設における自立支援の検証―未

来を担う子どもたちへの支援をめざして―』2007 pp.20-21

6全国児童養護施設協議会 http://www.zenyokyo.gr.jp 2010/01/18

Page 10: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

9

2-2.児童養護施設の役割 児童養護施設の役割として期待されるのは、虐待など窮地を脱した子供たちの安全確

保とトラウマの治療、家族再生化の取り組み、被虐待児以外の子供への発達的課題への

試みや身体的援助を必要とするものなど、一人ひとりの生活習慣をはじめとするしつけ、

将来的な自立と自律へ向けての指導などである。 少子化、核家族化をはじめ昨今の社会・経済状況の変化により家庭だけで子育てする

ことが難しくなってきており、家庭養育機能の低下によって親による子ども虐待が増え

てきているため、虐待の発生予防から再発防止といった取り組みは社会的な緊急課題で

あるといえる。 このなかで児童養護施設では、不適切な環境におかれている多くの子どもたちを受け

入れ、心身の健全な成長を保証していく役割を担っている。また、虐待を受けた子ども

たちの増加により、施設に入って生活支援を受けながら、心のケアを必要とする子ども

が在宅に留めおかれているという問題もある。児童養護施設や里親といった、子供たち

を受け入れる場の拡大が必要である。現在、虐待を受けた子どもたちの入所が急増し、

全体の半数を超えるなか、施設における手厚い援助が必要とされている7。 2-3.施設養護の対象となる児童と入所児童の傾向の変化 児童福祉法では、(1)満 1 歳に満たないものを乳児、(2)満 1 歳から小学校就学の始期

に達するまでの者を幼児、(3)小学校の始期から満 18歳に達するまでのものを少年とし、これら全ての者を児童と呼び、施設養護の対象としている。(少年法では満 20歳に達しない者全てを一括して少年と称し、その取り扱い対象者としているのと、その年齢区分

や幅にずれがあることに注意すること。) 児童養護施設で暮らす子どもたちの入所理由は様々であるが、現在主となる入所理由

は次の3つに分類することができる。保護者のない子ども、虐待されている子ども、そ

の他環境上養護を必要とする子どもである。 保護者のない子どもとは、「父母と死別した子どもまたはこれに準ずる父母の生死不

明の子ども、父母が長期にわたり入院または拘禁されている子ども、一人親があっても

これらと同じ事情にある子どもであり子どもを現に監護する者のない子ども」である。

次に虐待されている子どもとは、「保護者があっても、虐待されている子ども、育児放

棄(ネグレクト)されている子ども、著しく子どもを阻害する行為として禁止している

行為を受けている子ども」である。また、その他環境上養護を必要とする子どもとは、

「保護者の心身の病気、無関心、養育許否等のため、必要な衣食住及び監護を受けるこ

とができない子ども」である8。

7全国児童養護施設協議会発行パンフレット「もっともっと知って欲しい 児童養護施設―子供虐待と児童

養護施設」 http://www.zenyokyo.gr.jp/motto.pdf 2010/01/17 8長谷川眞人編著『子どもたちのもうひとつの家 児童養護施設における自立支援の検証!未来を担う子ど

Page 11: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

10

第二次世界大戦後戦災孤児を救出することを目的に普及した児童養護施設であるが、近

年、児童養護施設などでは入所時に両親またはそのいずれかがいる児童が多数を占めて

おり、養護問題発生理由では「養育拒否」「破産などの経済的理由」「虐待・酷使」「放

任・怠惰」が目立つようになってきている。なお、厚生労働省の「平成19年度 社会

的養護に関する実態調査結果 児童個表集計結果」によれば、児童養護施設における養

護問題発生理由の上位5位(複数回答可)は、①母の放任・怠惰②父母の離婚③母の精

神障害④母の虐待・酷使⑤破産などの経済的理由といった順になっている。また、近年

特に注目されているのが、児童養護施設における被虐待児の増加であり、現在児童養護

施設に入所している児童の6割は被虐待児である。こうした保護者による虐待の発生す

る理由には諸説あるが、厚生労働省の「虐待対応の手引き」は虐待の背景にあると考え

られるリスクをいくつか挙げている。例えば、①保護者側からの要因としては、(母親

の)望まぬ妊娠や自身の虐待された経験、育児に対する不安やストレスなどがあり、ま

た②子ども側からの要因としては、乳児期であることや何らかの育てにくさをもってい

ることが挙げられている。このほかにも③養育環境という点から考えると、内縁者や同

居人がいる家庭・親族から孤立した家庭、さらには経済的不安や夫婦不和などのある家

庭であることなどが挙げられる9。

図 2 平成 16年度新規入所児童のうち虐待を受けた児童 出典:「もっともっと知って欲しい 児童養護施設―子供虐待と児童養護施設」 全国児童養護施設協議会

発行パンフレット http://www.zenyokyo.gr.jp/motto.pdf 2010/01/17

もたちへの支援をめざして!』三学出版 2007 pp.4-5 9 朝日新聞 大阪本社編集局「ルポ児童虐待」 朝日新書 2008 pp.81-82

Page 12: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

11

図 3 児童相談所における虐待相談の内容別件数の推移

出典:http://www.crc-japan.net 2010/01/18

Page 13: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

12

第二章 児童養護施設に関する近年の動向 1.近年の傾向―国の新たな施策と社会保障給付費の推移 以下は、平成 21年度家庭福祉対策予算要求の概要である。出典:厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉 http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/01/dl/tp0106-1c.pdf 2010/01/17

「(平成20年度予算額) (平成21年度概算要求額)

253,772百万円→ 261,421百万円

1.社会的養護体制の拡充 79,867百万円→84,142百万円

(児童入所施設措置費(81,344百万円)及び児童虐待・DV対策等総合支援事

業(2,799百万円)の内数)

(1)家庭的養護の推進及び入所している子どもへの支援の充実

○ファミリーホームの推進(新規)

養育者の住居において、家庭的な養育環境の下、適切な支援の質の担保を図りつつ、

一定人数の子どもをより適切に養育する事業(ファミリーホーム)を推進する。

○里親支援機関による里親の支援の推進

里親委託を推進するため、里親制度の普及促進、子どもを受託している里親への支援

等の業務を総合的に実施する里親支援機関事業を推進する。

○小規模グループケアの推進

児童養護施設等において虐待などにより心に深い傷を持つ子どもに対し、職員との個

別的な関係を重視したきめ細やかなケアを提供するため、家庭的な環境の中で小規模グ

ループによるケアを行う体制の整備を着実に進める。613か所→ 645か所

○幼稚園費の創設(新規)

児童養護施設、里親等へ措置されている子どもが幼稚園に通うための経費を支弁する。

○基幹的職員の格付け(新規)

施設において自立支援計画の作成、進行管理や職員の指導等を担う基幹的職員(スー

パーバイザー)について、格付けを推進する。(一定の経験及び研修の受講を要件とす

る。)

○乳児院における被虐待児個別対応職員の配置

虐待を受けた子どもの入所が増加していることから、児童養護施設、児童自立支援施

設、母子生活支援施設及び情緒障害児短期治療施設に配置されている被虐待児個別対応

職員を乳児院にも配置する。

○看護師の配置の推進

医療的ケアの必要性が高い児童養護施設に対する看護師(常勤)の配置を推進する。

53カ所→ 151カ所

○学習指導費加算の拡充

学習指導費加算を充実し、部活動等にかかる経費を支弁する。

Page 14: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

13

(2)施設退所児童等への支援の充実

○児童自立生活援助事業(自立援助ホーム)の拡充

児童養護施設を退所した子ども等に対し社会的な自立を促す援助を行う自立援助ホ

ームについて、事業を充実するとともに「子ども・子育て応援プラン」に基づき、60

か所を目標に設置を推進する。

○地域生活・自立支援事業(モデル事業)の実施

施設を退所した子ども等が就業や生活に関して気軽に相談できる場の提供や同じ悩

みを抱える者同士が集まり情報交換等の活動を行うこと等を支援する地域生活・自立支

援事業(モデル事業)を引き続き実施する。

○児童家庭支援センター事業の拡充

地域に密着した虐待・非行などの問題につき、相談・支援を行う児童家庭支援センタ

ーについて、「子ども・子育て応援プラン」に基づき、100か所を目標に設置を推進

するとともに、心理療法担当職員の常勤化を図る。

○身元保証人確保対策事業の推進

児童養護施設等を退所する子どもやDV被害を受け保護された女性等が、親がいない

等により身元保証人を得られず、就職やアパート等の賃借が困難となることがないよう、

身元保証人を確保するための事業を推進する。」

以上のように、現在入所児童への支援と施設を退所する児童に向けたアフターケア支援

の両面から施策を打ち出している。前述の通り国は生活単位の小グループ化を提唱して

おり、より家庭的な環境における児童の養育の実現に向けて、小規模グループホームや

ファミリーホームの推進を行っている。(後述第 3 章 4.児童の居住環境について」)。

また看護士の配置は、障害を抱える児童の入所の増加などによる直接処遇職員の負担軽

減や児童の症状に対する専門的な対応なども期待される施策といえる。しかしその一方

で、下記のグラフからは、まだまだこの分野における行政の関心は薄く、高齢者関係給

付費と比べると十分な対策費が確保されていないように見受けられる。

図 3 社会保障給付費の推移

Page 15: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

14

出典:社会保障給付費の推移(「もっともっと知って欲しい 児童養護施設―子供虐待と児童養護施設」 全

国児童養護施設協議会発行パンフレット http://www.zenyokyo.gr.jp/motto.pdf 2010/01/17)

Page 16: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

15

第三章 児童養護施設の抱える今日的課題 1.人員配置と職員の職場定着率―昭和 51 年から変わらない配置基準 施設に入所してきた子供たちの生活は、家庭に変わる環境で子どもたちと共に生活

をする施設職員によって支えられている。特に虐待を受けて入所してきた子どもは、

保護者との間で愛着という対人関係の基礎が確立していないため、その後の人間関係

の形成においても大きな課題を抱えている。そのため子供が職員との間に愛着関係の

再形成と信頼関係を築いていけるよう援助していくことが求められている。施設であ

っても、子どもが家庭で育つ場合と同じように、日常生活の中で大人とのきめ細かな

やりとりが保証されなければならない。しかし、現実には職員の数が不足しており、

またそれを補うため、オーバーワークした職員が、疲れて辞めていくことも決して少

なくはない10。こうした問題の中で、早い段階から現場で働く職員の方々から改正の

要望が出されているにも関わらず、昭和 51 年より何ら見直されることなく放置され続けてきたのが、施設最低基準における職員配置基準の問題である。

児童養護施設で働く職員の人員数を国が定めたものを、職員配置基準という。児童

養護施設の抱える課題を取り上げるとき、政策レベルでの問題点としては、真っ先に

この施設最低基準における職員配置基準の著しいレベルの低さが取り上げられねば

ならない。ちなみに、現行の基準は、以下のように規定されている。 「児童指導員並びに保母の総数は、通じて三歳未満児は二人につき一人、三歳以上

の幼児は四人につき一人以上、少年は六人につき一人以上とする。」(児童福祉施設最

低基準 第 42条より) [政策上の問題点] 前述の職員配置基準について、子どもと職員の比率についての「著しい」レベルの

低さというものは一見感じられないが、ここでの子どもと職員の比率についての 2:1,4:1,6:1 といった基準は、実際は、一年 365日間休みなく、24 時間フルに働くことを前提とした基準である。つまり、住み込みによる完全な拘束を前提としてい

るため、学童の場合の 6:1という基準も、現実的には、職員が二交代制ならば 12:1 となり、三交代制ならば 18:1 となり、また職員の公休日なども入れると 24:1といった数になるわけである。また、職員の研修会への参加や学校などの対外行事へ

の参加、職員の病欠等々の諸事情がこのほかに入った場合、一人の職員が見なければ

ならない子どもの数も、さらに増えることになる。 10「もっともっと知って欲しい 児童養護施設―子供虐待と児童養護施設」 全国児童養護施設協議会発

行パンフレット http://www.zenyokyo.gr.jp/motto.pdf 2010/01/17

Page 17: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

16

このように、現実的には職員が一人で数十人の子どもを抱えこまねばならない状況も

ある現行の職員配置基準は、やはり多分に無理のある基準だと言わざるを得ないである。

[労働時間短縮による問題点] 1980年に定められた上述の 6:1などの現行基準は、当時の週 54時間労働(すな

わち、週 6日、一日 9時間の労働)の職員体制を前提として算出された基準であった。その後、厚生省・労働省からの指導の下、週 54 時間労働が週 48 時間になり、さらには週 46 時間、44 時間…というように(それは施設により異なるが)、労働時間の短縮のみが大幅に進められ、現在は週 40時間の勤務体制が採られている。 だが、労働時間のこれだけの短縮にも関わらず、施設最低基準における職員配置の

基準は全く見直されることなく、職員の増員が全く図られなかったため、結果的には、

職員配置の実態は、それまでの(すなわち週 54時体制の際の)かなり手薄な厳しい状況が、さらに輪をかけて進行している状況になってしまっている。 ちなみに、全養協(全国社会福祉協議会児童養護施設協議会)制度検討特別委員会

の報告書「養護施設最低基準改正にあたっての検討」によれば、望ましい児童と職員

の割合については、現行の 6:1 から 2:1 に引き上げるように提言がなされている(「季刊 児童養護」28巻 1号(全国児童養護施設協議会、1997)に、当報告書の抜粋が掲載されている)。また、先の調布学園の高橋氏らによれば、望ましい児童と職

員の割合を考えるならば、現行水準の 6倍に当たる 1:1の水準が必要だと論じられている。いずれにしても、現行の職員配置基準の大幅な改善が必要であり、施設にお

ける児童の人権・職員の人権ということを考えるならば、もうこれ以上この問題を放

置してはならないだろう。

[施設(組織)単位の問題点] 週の法定労働時間や施設最低基準における職員配置の基準など、政策上の与えられ

た条件の中でそれをどのように運用していくかは、それぞれの施設(組織)の考え方

(論理)に委ねられている。それゆえ、「住み込み」か「通勤」かといった勤務体制

も、その施設の考え方によって様々に異なっている。

これまで見てきたように、施設最低基準における職員配置基準の問題の長年の放置

は、現場で働く職員の業務を圧迫し、人員が手薄な中で 1人にかかる負担をさらに大きくしている。そこで問題となってくるのが、職員の職場定着の問題である。このよ

うな過酷な労働体制は、特に若い女性職員にとって安心して環境であるとはとても言

い難く、長く勤めることは難しいものと予想されるからである。そこで、ここでは職

場定着にとっての問題点(マイナス要因)を、施設の採る「勤務体制」という面から見ていくことにする。なぜならば、その施設ごとに勤務体制のあり方が、多分にそこで

Page 18: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

17

の職員の職場定着の度合いに影響を及ぼしていると思われるからである。 もともと、児童養護施設では、「住み込み」の「断続勤務」による(職員の)「一人担

当制」という勤務体制が普通に採られてきたようであるが、労働時間短縮への国を挙

げての取り組みや、(バブル経済期の)若者の人員確保に向けて、「通勤制」や「継続

勤務」、「交替制」などの新たな勤務体制を採る施設が次第に増えていった。 しかし、依然として「住み込み」・「断続勤務」・「一人担当制」という勤務体制を固

持している施設が今も相当数存在しているものと思われる。確かに、先に見た現行の

施設最低基準の余りにも低いレベルとそれによってもたらされる現実の大変過酷な

状況を考慮した上で入所児童の処遇を最優先しようとするのであれば、そうした勤務

体制を採ることもやむを得ない面もある。しかし、果たしてそれで今の「若者」世代

の職員がその職場で長く勤めていけるかどうか考えた時、それは厳しい状況だと言わ

ざるを得ないのではないだろうか。 また上記のような「住み込み・断続・担当制」を固持している施設において、行政

からの指導の下に止む無く週休 2日制を導入するといった場合、さらに個々の職員に対する施設管理者側からの風当たりは一層強くなることが予想され、「休みが沢山増

えて楽になった分、出勤日には勤務時間など関係なく、これまで以上に頑張って欲し

い」といった要求が出てきそうだ。 また、「宿直勤務」については、宿直の手当てが別に支給されるという理由から、

通常の勤務とは別扱いとし、週 40時間労働の枠外のものとして扱われていることが多い。その結果、先のような「住み込みで断続勤務」を採る施設の多くで、朝から夜

まで(断続で)1日勤務した者が、そのままその夜から明朝にかけて宿直の勤務にも就くといったような勤務の仕方が、ごく当たり前のこととして行われている実態があ

るのだ11。

表 3 労働者の年間労働時間の比較

出典:長谷川眞人 編著「日本福祉大学 長谷川眞人ゼミナール研究報告 地域小規模自動養護施設の

11岡本眞幸「児童養護施設職員の職場定着率に関わる施設の労働体制上の問題点―施設最低基準等の政策

レベルの問題と個々の施設レベルの問題に着目して―」横浜女子短期大学紀要 第 15 号 2000

p.4,pp.6-7

フランス (2003年)

ドイツ (2003年)

日本の労働者 (2006年)

児童養護施設・乳児院 の労働者(大阪、2003年)

過労死の ライン

1,538時間 1,525時間 1,811時間 2,800時間(宿直を含むと 3,200時間となる)

3,000時間

Page 19: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

18

現状と課題」 福村出版 2009 p.173 (表:全労連。労働総研(2006) 「2007年・国民春闘白書デ

ータブック」学習の友社、厚生労働省「毎月勤労統計調査・平成 18年分結果確報」2007年、大阪府社

会福祉協議会児童部会調査(2003)をもとに堀場氏作成。)

このようなことから、児童養護施設で働く職員は、一般の労働者の平均的な労働時

間と比べて、相当過酷な勤務体制の中に組み込まれていることが分かる。上記の表は、

フランス・ドイツ・日本の労働者と児童養護施設・乳児院の職員の年間労働時間の比

較である。宿直の時間を含むと、児童養護施設・乳児院に勤める職員の年間労働時間

はフランス・ドイツの倍近い数値になり、また、年間労働時間における過労死のライ

ンとされる 3,000時間を超えている。

[施設職員の職場定着率] 前述の通り、施設ごとの差異があるにしろ、全体としては着実に労働時間短縮の方

向に向かっての努力がなされてきた。しかしその一方で、前述の通り児童福祉法改正

に伴う施設最低基準の見直しでは、施設現場の期待に反して、職員配置基準の見直し

は行われなかった。このため、先の労働時間短縮も職員の増員なしに行わなければな

らず、児童養護施設における労働はさらに過酷で厳しいものとなった。 そんな状況の中で、施設の直接処遇職員である児童指導員や保育士の職場定着率の

低さを指摘する声がある。児童養護施設の指導員や保育士の勤続年数の短さとそれに

伴う人員の入れ替わりの激しさが危惧されているのだ。その原因として考えられるの

は、先に挙げた断続勤務などの過酷な勤務体制、そして幅広い年齢層の様々な事情を

抱える児童を見なければならないという特殊な職場環境から、職員にかかる精神的負

担も大きいということであろう。しかし、仮にそうした状況が全国で起きているのだ

とすればそれは深刻な問題である。施設を第二の家庭として生活する入所児童にとっ

て、大きなダメージを及ぼしかねない重大な問題だからである。このように無理のあ

る過酷な職員配置の状況では、なかなか職員の労働も長続きはしないであろう。この

点について、六踏園調布学園指導員の高橋氏らも次のように述べている。

「この過重労働が高度な専門性が要求される施設職員の勤続年数を短くしている

…頑張れるだけ頑張り通し、燃え尽きるように仕事をして体を壊して退職していく職

員は後を絶たない。…退職者の調査では保母の 83%が仕事を続けたかったと答えている。結婚・出産・育児などの経験の蓄積が重要な仕事であるにも関わらず、それを

可能にする条件は民間施設ではほとんどないのが実情である。」(岡本眞幸「児童養護施設

職員の職場定着率に関わる施設の労働体制上の問題点―施設最低基準等の政策レベルの問題と個々の施

設レベルの問題に着目して―」横浜女子短期大学紀要 第 15号 2000 p.7より抜粋)

Page 20: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

19

ちなみに、全養協(全国社会福祉協議会児童養護施設協議会)制度検討特別委員会

の報告書「養護施設最低基準改正にあたっての検討」によれば、望ましい児童と職員

の割合については、現行の 6:1 から 2:1 に引き上げるように提言がされている。また、先の調布学園の高橋氏らによると、望ましい児童と職員の割合を考えるのであ

れば現行水準の 6倍に当たる 1:1の水準が必要だと論じられている12。 以上のことから、児童養護施設職員の職場定着率の促進を考えるためには、まずは

第一にこの施設最低基準における職員配置基準の大幅な見直しが求められねばなら

ない。児童の人権を真剣に考えるのであれば、それと同時に彼らの健全な成長の鍵を

握る直接処遇職員の労働者としての人権が守られなければならないからである。児童

養護施設職員の職場定着率をあげるためには、職場環境の抜本的な改革が必要だとい

えるであろう。 2.財政面―措置費の中でのぎりぎりの生活 児童養護施設は国と自治体が半額ずつ負担する「措置費」によって運営されており、

学用品費や医療費、食費や職員の給料まで全てこの措置費で賄われている13。措置費

は入所または委託後の保護または養育について児童福祉施設最低基準を維持するた

めに要する費用のことで、都道府県や市町村が児童福祉施設に対して毎月委託費とし

て支弁する経費のことを指す。措置費の中の子ども一人当たりの月額や日額などの単

価を保護単価と呼ぶ。措置費は主に事務費と事業費の 2つに分けられ、事務費は施設を運営するために必要な人件費などを指し、事業費は直接子どもに使われる経費とな

る14。 しかしこの措置費が児童の健全な育成及び職員の現在の労働環境を整備する上で

潤沢な資金といえるかといえば、どの程度が最適かといえばまた難しい議論ではある

が、むしろ不足しているものと考えられる。 例えば、児童福祉法第 56条の 2は「国、都道府県及び市町村以外の者が設置する

児童福祉施設について、その親切、修理、改造、拡張又は整備に要する費用の 4分の3以内を補助することができる」と規定しているが、これは施設の新設等に要する費用の 4分の 1(もしくはそれ以上)を施設設置者が負担せざるを得ないということである。子どもたちのプライバシーの確保の問題などを考えると施設整備の充実が必要

不可欠であるが、日本の児童福祉施設の経営の実情から見ると、財源確保という面で

施設設備の充実は極めて困難であるといえる。

12岡本眞幸「児童養護施設職員の職場定着率に関わる施設の労働体制上の問題点―施設最低基準等の政策

レベルの問題と個々の施設レベルの問題に着目して―」横浜女子短期大学紀要 第 15号 2000 p.7 13 朝日新聞 大阪本社編集局「ルポ児童虐待」朝日新書 2008 pp.135 14 長谷川眞人 編著「子どもたちのもう一つの家 児童養護施設における自立支援の検証‐未来を担う子

どもたちの支援をめざして」 三学出版 2007 pp.203

Page 21: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

20

また、措置費によって運営される児童養護施設は、原理としては政府による児童育

成責任が確保されている。しかし実際には、措置費は最低生活費を保障したであり、

子どもの最善の利益を保障するものにはなっていない。従って措置費を上回る入学金

や授業料を要する市立高校への進学は困難であり、入学できる能力を有しながら、経

済的理由により進学を断念せざるを得ない子どもも沢山いる。そのため日本の子ども

の高校進学率が全般的に95%を超えている中で、児童養護施設入所児童のそれは60%台にとどまっている。施設入所児童には子どもの権利条約 28条でいう教育への権利が平等に保障されているとはとても言い難く、経済的理由による差別が明白に存在し

ているといえる15。

3.児童の居住環境と生活単位の小グループ化施策に伴う問題点 児童養護施設は子どもたちの生活の場であり、心に傷を受けた子どもたちが施設の中

であたたかく見守られていることを実感し、安心してくつろげる環境が必要とされる。

児童養護施設の基本的な形態には大きく分けて大舎制・中舎制・小舎制の 3 つがあり、そのほかにグループホームと呼ばれるものがある。以下は、「子どもたちのもう一つの

家 児童養護施設における自立支援の検証―未来を担う子どもたちの支援をめざして」

(長谷川眞人編著 三学出版 2007)より各施設形態に関する説明の引用である。 「・大舎制:1舎 20人以上 大きな建物の中に全員で使う食堂や風呂があり、日常生活を送る上で大きな集団を基

準とした養護を行うことが多い。ただし、最近では子どもたちをできるだけ小グループ

ごとに分けて生活するスタイルが多くなってきている。今日の児童養護施設の約 7割がこの形態をとっている。 ・中舎制(ホーム制、ユニットケア):1舎 13~19人 大舎制の集団養護と小舎制の個別養護の両方が可能な形となっている。大きな建物の

中を各ホーム・ユニットに区切り、その生活集団の中に、玄関・台所・風呂・トイレが

設置されている。大舎制よりも集団の人数が減り、13~19人程度で生活している。 ホーム制とユニットケアには基本的に違いはないが、ホーム制ではホームごとに職員

が食事の調理を行い、ユニットケアでは調理員が調理した食事を食堂や各ユニットでと

る。 ・小舎制:(1舎 12人まで) 同一の敷地内に独立した家屋を建てるなどによって、より家庭に近い小集団で子ども

が暮らす形態である。少数の養育者が少数の子どもを担当するのが特徴である。 15望月彰・平田早和子・船曳美千子・長江史憲「代替的養護(施設)における子どもの権利の現状と課題

―「日本政府第 2回報告」に対する批判的検討―」社会問題研究 第 52巻第 2号 2003 pp.132-133

Page 22: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

21

・グループホーム(ファミリーグループホーム) 専門職員の援助を受けながら少人数のメンバーが地域社会の通常の住宅で生活する。

また、これらの形態に関わらず行われていることとして、「児童養護施設分園型自活訓

練事業」と「小規模グループケア」「地域小規模施設」がある。 ・児童養護施設分園型自活訓練事業 対処が予定されている子どもを1施設あたり6人程度、概ね1年程度の期間で適切な

家庭生活訓練、社会適応訓練を地域の中で行い、退所後の社会的自立を図るものである。

施設の外に、住宅やアパートなどの生活に必要な設備を持った場所で行われている。 ・小規模グループケア 児童養護施設の本体施設の敷地内で定員の中から原則6人という小規模なケア単位

で、できる限り家庭的な環境の中で職員との個別的な関係を重視したきめ細やかなケア

を提供することを重視するものである。 ・地域小規模施設 児童養護施設の本体施設の敷地外に、分園として地域の中に設置された小規模な施設

である。そして、近隣住民との適切な関係を保持しつつ、家庭的な環境の中で生活する

ことにより、入所してくる子どもの社会的自立が即訴因されるよう支援することを目的

としている。定員は本体施設の定員とは別に6人である。」 昭和 20年代に建てられた児童養護施設は現在建て替えの時期を迎えており、建物も

老朽化が進み、また大きな集団や大部屋での生活では子どもたちが自分の居場所を実感

できないという問題もある。1人ひとりの子どもの発達保障を考え、各施設では出来るだけ小集団で生活できるよう努力しているものの、改築の際の土地や費用の問題、小集

団に対応する職員の勤務体制問題など多くの課題を抱えているのが実情である。 平成 12 年度より地域小規模児童養護施設が、さらに平成 16 年度からは小規模グル

ープケアがスタートし、地域や施設の中で 6人程度の子どもたちがより家庭に近い生活を体験できるようになった。しかし、職員体制などの問題も山積みで、一層の整備が必

要である。国は生活単位を小さくするユニットケアやグループホームなどを提唱しては

いるが、職員の人手不足が深刻な為に単に部屋を小さくしてもケアは行き届かない16。

地域小規模児童養護施設の開設も、少数の職員がほぼ住み込みで児童と共に生活するた

め、職員にかかる負担は通勤の職員と比較してやはり格段に大きくなるものと考えられ

る。また地域小規模児童養護施設の新設の際には、法人が全額その費用を負担せねばな

らないという現状があり、設立は財源的に非常に困難であり、このことはこの制度その

ものに欠陥があることを意味している17。 16朝日新聞 大阪本社編集局『ルポ児童虐待』朝日新書 2008 17望月彰・平田早和子・船曳美千子・長江史憲「代替的養護(施設)における子どもの権利の現状と課題

Page 23: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

22

4.施設内虐待の発生 被虐待児の入所が増加し続ける昨今において、本来心に傷を負った児童を虐待から保

護すべき立場にある児童養護施設における施設内虐待は決して許されることではない。

それでもなお、施設内虐待の報告は後を絶たない。以下は、昨今の施設内虐待を巡る報

道の中からほんの一部ではあるが、施設内虐待に実態を知るための過去の新聞記事の掲

載である。 2002/10/18 朝日新聞 筑波愛児園で体罰 東京都が改善指導 "県も来週立ち入り 「つくば市田中の児童養護施設「筑波愛児園」(小林弘典園長)で、数年前まで児童

への体罰が繰り返されていたことがわかり、児童を措置して措置費や補助金を出してい

る東京都は17日、文書で運営改善を指導した。県と都は、来週中にも合同で立ち入り

検査をする方針だ。社会福祉法人の前理事長兼園長は9月末に引責辞任した。 同園によると、約10年前から2年前にかけて、保育士7人と児童指導員1人の計8

人が体罰をした。児童からの聞き取り調査で、カレンダーの金具を新聞紙で包み粘着テ

ープでぐるぐる巻きにした「愛のムチ」と呼ばれる棒や、げんこつで児童のしりや頭な

どを日常的にたたく▽湯船の中や床下に長時間閉じこめる▽手足を後ろ手に縛って寝

かせるなどの体罰があったことがわかった。 同園には、児童相談所に保護された都内の児童が預けられており、現在3~15歳の

38人がいる。都は新たに同園に児童を移すことを中止している。体罰した複数の職員

は、児童が騒ぐと前園長に厳しく叱責(しっせき)されることがあったため、叱責を恐

れて体罰したと証言したという。 都は①園を運営する社会福祉法人の理事長や理事会の責任の明確化②児童の状況に

応じた処遇計画の作成③不適切な指導をした施設長や体罰をした職員の処分④外部委

員による再建委員会の設置‐を指導した。 園では、弁護士や学識経験者、住民などからなる再建委員会を来週中にも立ち上げ、

職員も早期に処分するとしている。 小林園長は「過去を清算し、二度と起こらないよう改善していく。子どもたちの心の

ふるさとになるような園の再建を目指したい」と話した。」 STOP!児童養護施設内虐待 http://gyakutai.yogo-shisetsu.info 2010/01/18

―「日本政府第 2回報告」に対する批判的検討―」社会問題研究 第 52巻第 2号 2003 p.128

Page 24: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

23

Page 25: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

24

2006/08/16 埼玉新聞

入所少年と関係 児童施設の女性保育士 県が改善勧告

「県内の民間児童養護施設の女性保育士(29)が、入所している少年と性行為を行っ

たほか、関係を知りながら別の女性保育士(28)と男性指導員(25)が女性保育士の求

めに応じて、少年を施設から女性保育士の自宅アパートまで公用車で送っていたとして、

施設を設置・運営する社会福祉法人に対し、県が児童福祉法に基づく改善勧告を行って

いたことが十八日、分かった。県は職員三人の厳正処分と再発防止策、少年への心理的

ケア、役員の責任の明確化などを文書で二十八日までに回答するよう要求した。施設側

は既にこの職員三人を懲戒解雇している。

県などによると、女性保育士は二〇〇四年から昨年四月ごろまでの約一年半、公休日

に携帯電話やメールなどで少年を自宅に呼び出し、関係を続けたという。少年が電話に

出なかった時には、男性指導員や別の女性保育士の携帯電話に連絡して少年に取り次が

せたり、施設から車で五分ほどの自宅に数回連れて来させたとされる。男性指導員らは

「断ると職場で無視されることもあり逆らえなかった」などと話しているという。

六月二十五日、少年がベテラン女性職員に、女性保育士との関係や「要求に従わなか

った時は、施設内などでけられたり、体をかみつかれた」と相談し、発覚した。連絡を

受けた主任職員二人が同日、少年に事実を確認し、出張中だった施設長(68)に報告。

施設長は女性保育士への出勤停止を指示し、主任職員は施設外に少年を保護した上で、

宿直勤務中だった女性保育士に勤務をやめさせ、帰宅させた。施設長は六月二十六日、

少年に事実を確認し、女性保育士ら三人に事情を聴いたところ事実を認めたため、三人

に出勤停止を命じた。法人は同二十七日午前、緊急理事会を開き、同日午後、施設長が

県を訪れ事態を報告した。

県は被害児童がほかにいないか確認するよう指示。六月下旬から七月上旬にかけて施

設の心理士二人が、入所児童を面接した結果、過去に暴力を振るわれたとして女性保育

士を含む職員八人の名前が挙がったという。

このため県は七月十二日、立ち入り調査を実施。過去十数年間に男性職員一人と女性

職員七人が、児童八人に暴力を振るっていたことを確認し同二十七日、改善を勧告した。

法人側は七月三十一日付で女性保育士ら三人を懲戒解雇、児童に暴力を振るった職員

四人を戒告、施設長と主任二人を減給三カ月とする十人の懲戒処分を決めた。これは職

員の約六割に当たる。施設長は「絶対にあってはならないことで、児童養護への不信感

を招き申し訳ない。理事長を含め理事、監事全員が引責辞任する覚悟」と話した。」

Page 26: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

25

子ども虐待家族間暴力の現場から<民間児童養護施設内 性的虐待> http://www.saitama-np.co.jp 2010/01/18 このように近年子ども虐待の問題が広く世間の関心を集めているが、施設内虐待は虐

待によってトラウマを体験した子ども達に再度のトラウマ体験を生じさせるという。施

設内虐待の発生に関して、筑波大学の森田展彰氏は、現在わが国の養護施設職員が置か

れている余裕のない状況が、子どもの適切な愛情形成を支援することが期待される施設

職員に、虐待家庭における親と子どもとの関係性と同じ関係性を施設の子ども達との間

に作らせてしまっていると指摘しており、結果的に家庭内で虐待が生じるのと同じ図式

で施設内虐待が生じてしまっていると説明している18。 現在被措置児童等虐待の対応としては、施設長、施設職員、一時保護所の職員、小規

模住居型養育事業を行う者及び里親等が行う暴力、わいせつな行為、ネグレクト及び心

理的外傷を与える行為を「被措置児童等虐待」と位置づけ、発見者に通告義務を定め、

被害児童による届出、通告先に都道府県等のほか都道府県児童福祉審議会を規定してい

る。また、通告があった場合には事実確認、保護、施設の立ち入り検査、質問、勧告、

業務停止等の措置等が規定されている。 5.多様化する入所児童‐障害を持った児童の増加 年々被虐待児の割合が増加する一方で、もうひとつ浮かび上がってくるのは疾患や

発達障害をもつ入所児童の増加である。平成 19 年度に構成労働省が行った実態調査によれば、身体疾患・身体障害をもつ児童の割合は全体の 22.2%、発達障害・行動障害等では 20%であった。中には、被虐待児であるとともにこうした障害を抱えている児童も少なくはなく、そのことは現場で児童に接する直接処遇職員の対応をより複

雑なものにしているといえる。 表 入所児童に占める各項目の割合

身体疾患・身体障害の割

合 発達障害・行動障害等の割合 被虐待児の割合

22.2% 20% 59.2% 参考:厚生労働省 平成 19年度 「社会的養護施設に関する実態調査結果」 2008 をもとに作成

http://www.mhlw.go.jp 2010/01/19

近年、教育の現場では、ADHD、LDなどの障害により授業中も椅子に座っていられないなど集団生活に適応できない子ども、また同年代の友人と関係を上手く築けないこ

18 JSTSS 日本トラウマティック・ストレス学会 http://www.jstss.org 2010/01/18

Page 27: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

26

とでいじめや不登校になる子どもの問題が取り上げられている。児童養護施設で暮らす

子どもの中にも、LD や ADHD などの軽度発達障害を持つ児童がかなりの割合で存在する。また、知能指数が通常範囲内であるために障害を認知されず、障害と健常の狭間

に立たされ、単に「わがまま」「常識がない」と見なされる軽度発達障害の児童もおり、

児童養護施設でも近年こうした「障害児への対応」が問題視されてきている。 『子どもたちのもう一つの家 児童養護施設における自立支援の検証―未来を担う子

どもたちへの支援をめざして』(長谷川眞人 編著 三学出版 2007)の第四章 第一

節の「障害児の割合と種類」によれば、全国の児童養護施設を対象としたアンケート(有

効回答数 162施設)において「施設に何らかの障害を持った子どもがいるか」という問いに対し、159の施設が何らかの障害を持った子どもがいると回答している。これは数値にして約 98%であり、ほぼ全ての施設に何らかの障害を抱えた児童がいることになる。 また前調査の中で「どのような障害を持った子供がいるか」という問いに対しては、

「何らかの障害を持った子どもがいる」と回答した施設の中の約 81%に知的障害を持った子どもが、約 58%には ADHDを持った子どもが入所していることがわかった。(但し一つの施設の中に障害を持つ児童が複数いることや独りの児童がいくつかの障害を

重複しているケースもあるため、正確な数値は出ていない)。またその他にも自閉症約

18%、アスペルガー症候群約 25%、PDD約 28%、LD約 30%といった割合が出ている。 このように、障害児施設があるにも関わらず障害を抱えた児童が児童養護施設に入所

してくるケースが増えている。児童福祉法第 41条には「保護者のない児童(乳児を除く。但し、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、乳児

を含む。)、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養

護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的と

する施設」とあり、本来児童養護施設が障害児のために支援機能を有した施設とは言え

ない。従って障害を抱える児童は本来であれば障害児施設の対象となる子どもであるは

ずなのだが、実際には今も沢山の障害児が児童養護施設に措置され続けている19。

19長谷川眞人 編著『子どもたちのもう一つの家 児童養護施設における自立支援の検証‐未来を担う子

どもたちの支援をめざして』 三学出版 2007 pp.93-94

Page 28: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

27

第四章 群馬県内児童養護施設への調査と検証―職員の労働環境に主眼をおい

て 1.調査の目的 本調査は、職員の方々の労働環境に主眼を置いて、児童養護施設の抱える問題の検証を

していくことを目的としている。様々な事情を抱えて入所してくる子供たちの家庭に変

わる第二の養育場所として、児童養護施設がその機能を維持・向上させていくためには、

何よりも現場で働く職員の労働環境の保障・改善が重要であり、結果としてそれが児童

にも良い影響を与えていくものと思われるからである。児童養護施設の内情や現場で働

く職員の生の声を聞き、その貴重な意見やデータを論文に反映できればと思い、今回群

馬県内6ヵ所の児童養護施設に協力を依頼した。 2.調査方法・調査内容 ・調査方法は各施設の施設長に、1時間程度のインタビュー及び書式による回答を依頼するものとし、書式回答ではインタビューで聞ききれなかった更に詳しい情報、主にデ

ータとしての数値的な情報を記入してもらい、後日郵送で回収する形をとった。 ・対象者は、群馬県内のある児童養護施設 6ヶ所の施設長とする。 ・インタビューにおける質問の内容は、大きく分けて ・施設について(形態など) ・職員の労働環境について ・職員の皆様の職場定着率について ・児童との関係性 ・入所してくる児童について ・国や社会への要望 の 6項目である。 ・インタビューの回答者は原則として各施設の施設長であるが、インタビューの内容に

関する具体的な体験談などは、他の職員が体験したものも含むものとする。尚、インタ

ビューに関しては聞き落としのないよう、レコーダーにて録音をお願いした。

3.調査結果の検証 3-1. 施設について (1)施設の形態 児童養護施設の基本的な施設形態は、大きくわけて大舎制・中舎制・小舎制の3つに分

類される。下記の表は、県内 6施設の形態を分類したものである。

施設A 施設B 施設C 施設D 施設E 施設F

Page 29: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

28

政府が推進している方針は、小グループ化により家庭的な雰囲気で(入所児童を)育て

ることを目指すものであるが、現在はまだ小舎制をとっているところは少なく、全国の

児童養護施設の約 7割が大舎制をとっている(前述第 3章 3.児童の居住環境より)。群馬県内でも大舎制は県内全体の約 67%、小舎制は約 33%となった(但し、施設A・施設Fでは大舎制ユニット型を採用している)。 (2)地域小規模児童養護施設について 次に、家庭的な環境での養護の実現を目的として平成 12年度よりスタートした地域小規模児童養護施設の、群馬県内における開設状況を調べたところ以下のとおりであった。 問:地域小規模児童養護施設を採用していますか

また、地域小規模児童養護施設の開設により、具体的にはどのような変化があったかに

ついて、児童の生活と職員の生活の両面から見て次のような変化があったという。 児童の生活の変化 ・「生活がのんびりし、より家庭的に。全体的に見れば児童へのメリットのほうが大き

い」(施設A) ・「食事・選択など、普通の家庭と同じような状況(で生活している)」(施設C) ・「指導員との結びつきが非常に緊密になり、学習面・生活面・行動面などで、成長の

度合いが目覚しい(伸びが倍くらいはある)。」(施設D) ・「本当に家庭的になった(本体とは全く異なる形態)。」(施設E) 職員の生活の変化 ・「宿直・断続勤務などの勤務体系上、結婚して家庭を持つのは難しい状況。」(施設A) ・「小規模では、食事を全て自分たちでつくっている。」(施設C) ・「(仕事面では)子どもの細かい面がよく観察できるようになり、当然それに対応して

指導が行き届くようになった。逆に、目についた行動を全て指導してしまうのではなく、

大舎制 ○ ○ ○ ○

中舎制

小舎制 ○ ○

施設A 施設B 施設C 施設D 施設E 施設F

はい ○ ○ ○ ○

いいえ ○ ○

Page 30: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

29

ある程度目をつぶることで引き出すような形をとるようになった点も。」(施設D) ・「(生活面では)本館の職員より仕事の内容は増えているが、自分を見つめる時間は逆

に増えていると思う。指導者自身が自分のやっている仕事を見つめなおす時間は増えて

いる。(大舎では)とにかく仕事が無限にあるような感じで、常にそれを、空いている

のをお互いが奪い合うような形でやっていたが、(地域小規模では)自分なりにある程

度時間を集中して(仕事を)やって、納得いくところまでやればあとは子どもたちのこ

とをやっていれば大丈夫。」(施設D) ・「(職員の)負担は大きい。(1 人の職員が)月のうち半分(15 日)は泊まっている。「1日に 2回仕事をするようだ(と)。」(施設E) また、次の表は群馬県内の児童養護施設 6ヶ所のうち地域小規模児童養護施設を採用している 4施設に、職員の勤務体系、本園との違い、児童の構成などをお聞きしたものである。

[考察] 地域小規模児童養護施設の導入について、児童の生活の変化に関してはあまりマイナス

面は聞かれなかった。より一般家庭に近い環境での生活により、地域小規模児童養護施

施 設

A 本園職員は通勤だが、地域小規模では 2 人の職員(独身の女性 2 人)が住み込み。パートが二人。児童は女子のみ 6人。

施 設

C 地域小規模 2 つ。一つは 2 ㎞ほど離れた団地の一軒家で、指導員が住み込みで 2人、子ども(男女)が 6人で生活している。お祭り、道路掃除など、普通の家庭と同じようにありとあらゆる地域のこともやっている。もう一つ

は敷地内にあり、女子のみ 6人の構成。こちらで働く職員は、完全な住み込みではない。

施 設

D 地域小規模 2つ。経費は一括して本園の事務が担当。第二(施設)では食事の材料などは全て現地で購入し、6人の子どもに対して職員が 3人。第三では食事の材料を(本園が)渡して(食事を)作っており、4人の職員がいる。2人が専従であとの 2人がサポート、2人で 1人の仕事をしている。最終的には 3分の 1ずつ仕事をしている。

施 設

E 3 人の保育士が交代で住み込み。経費は月 15 万円。食事は(本園では献立どおりの食事をするが)地域小規模では献立がなく、チラシを見て(材料を)

買ってきて職員が調理する。本園では残り物は確実に廃棄するが、地域小規

模ではそれを翌朝食べるなど、普通の家庭と同じように生活している。365日、24時間誰か(職員)がいる。

Page 31: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

30

設に暮らす子どもたちは、施設開設の狙い通り地域の中で一般の家庭とほぼ同じような

感覚での生活を営んでいるといえる。学習面や行動面の成果の伸びにおいても格段に違

いが見られるといい、家庭的な雰囲気を味わえるといったこと以外にも子どもたちにと

ってのメリットは大きいようだ。このことから、国が掲げている養育単位の小グループ

化の、一定の成果を見て取ることができるといえるであろう。 一方職員の生活の変化という面では、やはり本園で行われているような大舎制などで働

く職員と比べ、その負担は大きいという。生活費の管理や食事の献立づくりといった本

園とは独立した業務内容や、多くの地域小規模施設で採用されている住み込みという勤

務形態の特質上、本園以上に大変で独身の職員でなければ勤まらないという。 しかしながら仕事の面から見れば、一人一人の児童に対する対応もより行き届くように

なり、今まで以上に子どもと職員との相互理解をより深めるための時間を持つことが可

能になったのも確かである。 3-2.財政面について 児童養護施設の主な収入源は、国と自治体から 50%ずつ支給される措置費である。措置費以外には、直接の収入源はない。その他の財源は、財団からの援助や寄付に頼らざ

るを得ないのが現状である。そのような中で、現在支給されている措置費について県内

3ヵ所の施設様に次のような質問をしたところ、以下のような結果となった。 問 .現在支給されている措置費は十分だと思いますか 施設A 施設B 施設C

はい

いいえ ○ ○ ○

※施設D・E・Fの 3施設については、インタビューの際時間の都合上、割愛した。

また、そう思う理由については、次のような回答であった。 ・「不十分だが、国の基準(の中)で何とかやりくりをしてまかなっている状況。宿直

も現 在一人で(2人に増やして欲しいと)要望しても、(行政からは)「措置でまかなっているから(その中でやってくれと)」という回答しかかえってこない。2 人にしていいとも悪いとも言わない。この要望は、常に群馬県中の施設が要望している。」(施設A) ・「十分ではない。職員配置の問題。人件費。最低基準はあくまでも「最低基準」であ

り、施設で必要な配置となると、人件費がたりない。措置費は事業費と事務費の 2本立てだが、事務費がとてもかかる(人件費は事務費に含まれる)。しかし、どこまでがあ

れば、何人職員がいれば十分かということは、また難しい。いればいただけいいが、い

Page 32: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

31

ればいただけ「もっと欲しい」ということにもつながるので。ただ今の状態からいえば、

国の定めている最低基準は低すぎる。」(施設B) ・「十分とはいえないが、その中でまかなっている状態。」(施設C) [考察] このように、現在支給されている措置費については「十分とはいえない」という意見が

多く聞かれた。支給される措置費の中で各施設ごとに工夫しながら、施設の運営にメリ

ハリをつけて何とかまわしている、という状況であった。中でも特に、事務費に含まれ

る「人件費」の問題に関して、措置費が「十分でない」と思われる場面が多く感じられ

るようである。 3-3. 職員の労働環境について 3-3-1. 職員の安全面について 児童養護施設に入所する児童の約 6割は、被虐待児である。それ故児童養護施設の職員は、時にこうした児童に虐待を加えていた保護者の対応をしなければならない。また、

様々な事情を抱えて入所してくる児童自身も、心的外傷などから感情的になりやすいな

ど特有の傾向を持っていることも考えられる。そこで、こうした職場環境の中で、虐待

など児童を守る立場にある職員自身が身の危険にさらされることがあるかどうかにつ

いて、次のような質問の結果が下記の表である。 問 .児童や保護者から暴言や暴力行為を受けたことがありますか

このように、県内施設でも 6ヵ所中 5ヵ所の施設で保護者や児童からの暴言や暴力行為を受けた事例がある(或いは過去にあった)ことが判明した。具体的な事例については、

後述の通りである。 具体例: 保護者から ・「虐待で入所してきた子どもの親が子どもに会わせろと言いにきて、(児童相談所から

の制限がかかっているため)できないというと「あんたらのやり方が悪い」など暴言を

吐く。その後(保護者が)学校まできたため、警察を呼んで対処した。また、突然入っ

てきて、子どもを殴る保護者も(いる)。」(施設A) ・「刃物による脅し。実害はなく、最近はこうした事例は減ったが、最近の保護者は口

施設A 施設B 施設C 施設D 施設E 施設F

ある ○ ○ ○ ○ ○

ない ○

Page 33: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

32

が達者になった。」(施設B) ・「親の思いがこちらの育て方とすれ違う場合、親が施設に対して異議を唱えるような

場面はあると聞いている。」(施設C) ・「酔った保護者が施設にクレームをつけに来て、ありもしないことを言うので、職員

は対応に困り、警察に連絡して、目の前で(保護者が)逮捕されたことも。(施設E) ・電話での暴言などはあるかもしれないが、聞いている範囲では今のところない。(施

設F) 児童から ・「若い女性職員に子ども(高学年)が「好きです」と迫ったこともあり、厳重注意を

した」(施設A) ・「暴れる子どもを制止しようとして子どもの手が顔に当たったり、又職員に対して子

どもが故意に暴力を振るうこともある。」(施設B) ・「先生に直接殴るなどの行為は聞いていないが、壁を殴ったり、ものにあたるといっ

たことはある。場合によっては高校生の男の子などが若い女性の先生に従わなかったり、

威嚇・威圧的なとったりすることはある。」(施設C) ・「暴言・暴力などを振るうのは虐待されて入所してきた子どもの特徴としてあるため、

日常的にあり、どの職員もそのようなことを経験している、というのが実情。「うぜえ」

「てめえ死ね」などの暴言のほか、たまには暴力事件に巻き込まれることも。」(施設E) ・「足を蹴られたり、興奮した子どもに髪を引っ張られた(など)。」(施設F) [考察] 保護者からの暴言・暴力行為は、直接職員に対して危害を加えるというよりは、暴言や

脅しが多いようである。施設で働く職員の方も怖いと感じることはあるというが、そう

した事態(暴力行為など)にならないように、施設側も 1人で対応せず複数で対応するようにするなどの努力を行っている。 一方児童からの暴言や暴力行為というのは、児童養護施設ではあまり珍しいことではな

いという。現在群馬県内の施設でも、保護者からの虐待を理由に入所している児童の割

合が 6割を超えているが、こうした児童には暴言や暴力を起こしやすい傾向があり、リストカット、パニック、器物破損なども度々あるという。また、幅広い年齢層の子ども

たちが一緒に生活しているので日々かかるストレスも大きい。子どもにかかるストレス

の解消法を考えていくことも大切だという。

3-3-2. 職員配置について 次に、先の第三章でも大きく扱った人員配置の問題について質問したところ、以下のよ

うな結果となった。

Page 34: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

33

問 .現行の職員配置基準は十分ですか 施設A 施設B 施設C 施設D 施設E 施設F

はい

いいえ ○ ○ ○ ○ ○

また、具体的にはどのような面で足りないと感じるのかに関しては、次のようなご意見

を頂いた。 ・「難しい子どもを扱うのに今の日本の制度は不十分。」(施設 A) ・「足りていない。宿直者も本当は 2 人にしたいが、2 人にすると日中のローテーションが回らなくなってくる。人が増えれば解決するかな、という面も確かにあるが、何人

いれば足りている、というのは難しい議論。」(施設 B) ・「6 人に 1 人の指導員という(国の)基準にのっとって(職員を)配置しているが、その基準は、60 年間くらいまったく変わっていない。戦災孤児を扱っていた頃と、現在のような虐待児などを扱っている状態では、全く子どもの質が違うにも関わらず、配

置基準は全く変わらない。」(施設 C) ・「全く足りていない。現在の配置基準は 30年以上前のもの。バブルがあったにも関わらず、職員は全く増えていない。国は個別対応加算などで心理職などの専門職を増やす

などの措置を講じているが、我々が欲しいのは直接(子どもを)ケアする職員。(専門

職の職員には)1人ずつ自分の仕事があるので、人数が増えてもケアのほうの充実にはならない。」(施設 E) ・「十分ではない。入所児童の状況(虐待など)が複雑が複雑で多岐にわたっている中

で、この人員配置だと厳しい。時間と(子どもの)質の両方から、6人に 1人の配置ではかなり厳しい。」(施設 F)

「考察」 職員の人員配置について、現行の基準では不十分であるという声が多く聞かれた。人員

配置においてまず一つ目の問題点が、労働基準法が出来た時より労働時間は減少してい

る中で配置基準だけが昔の基準のままであるということである。さらに、児童養護施設

ができた当初の戦争孤児の救済という目的と比べ、現在児童養護施設に入所している児

童の入所理由が虐待・障害など広範囲に及んでいることにより、児童への対応が難しく

なっていることがもう一つの問題である。 施設の運営は基本的には子どもの措置費(1人預かるといくら、という形で行政から県から送られてくる)で運営しており、この中から職員の給料や子どもたちの生活費を賄

っているため、子どもの人数で職員の数も決まってくる。したがってそれを度外視して

職員を沢山雇ってしまうと、施設の運営が成り立たなくなってしまう。そのため基本的

Page 35: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

34

には規定された人数を基準に雇っているが、子どもの入所・退所で多少変わるため、規

定より多めに職員を配置している施設もある。 具体的に、どのくらい人員が欲しいですかという問いに対しては、 ・「イギリスでは子ども 2人に職員 1人、アメリカでは子ども 1人に職員 2人で、本当はそのくらいがベスト。児童の年齢に関係なく「3 人に 1 人」の基準を求めているが、(行政には)30年間答えてもらったことがない。」(施設 A) ・「ユニット 365 日8時間労働で職員が週 40 時間でちゃんとできるような職員配置をしてもらいたい。ユニットをきちっと運営できるような職員配置が理想。今の倍くらい

でないとそれができないと思う。」(施設 E) といった回答であった。

また、宿直時の対応と人員配置についてもお聞きしたところ、人員配置については多

くの施設が規定に沿って 1名配置を行っていた。 問 .宿直は何名配置していますか。(規定では 1 名)

しかし実際には、宿直時の対応は 1名では負担が重いため、宿直以外に住み込みの人

員をおくなどの様々な形で宿直の職員の負担軽減をはかっている施設が殆どであった。

下記の事例からも、宿直の人数が国の定めた現行の 1人では負担が大きいことが分かる。

問 .上記の人数で困ることはありますか(どんなときに) ・「病気の子が出たときに(宿直は施設を)離れられないので、1人では対応できない。結果として、一度帰宅した職員(主任)を呼び戻す(ことになる)。その他、無断外

出や暴力行為など。」(施設A) ・「無断外出・無断外泊対応。(子どもの)無断外出が起こると、警察に届出を出し、見

つかった場合迎えにいかなければならない。夜回りにいったら、子どもがいなかった

ことも。」(施設B) ・「高校生になると、子どもが遊びに出ていない、ということも昔はあったらしい。」(施

設C) ・「夜、モンスターペアレント(のような保護者)が突然訪問してくることがあるので、

その対処。また、夜女性の指導員の(当直の)時、いかがわしい電話がかかってきた

り(することがある)。」(施設 D) ・「病人が出たときは大変。(そのときは)子どもたちに火の元などを気をつけるように

施設A 施設B 施設C 施設D 施設E 施設F

宿直人数 1 1 1 1 1 2

Page 36: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

35

言って、医者へ連れて行く。また、一番の問題は、火災などの発生した時の対処。66人の子どもを 2人で避難させるのは難しい、いち早く子どもを非難させるために、このような危険な状態を警備して欲しい。それは県にも要望を出している。」(施設 D)

・「子どもの病気。(ここでは)園長が住み込みだからまわっているが、実際全員が通勤

の職員だったらかなり難しいと思う。」(施設E) ・「鍵の管理・など一般的な管理面と、さらにおねしょ(小さい子どもが多いとき)な

ど生活面の両面で、かなり重労働になる。」(施設F) 以上のように、職員が宿直時に困ることは主に、①子どもの病気②子どもの無断外

出・無断外泊の対応③緊急時の対応(火災や夜中の訪問者など)の 3つであった。 ある施設では宿直時にトランシーバーの導入を検討しているという。外部からの侵入

者との鉢合わせなど、見回りのときの万が一の事態に備えてである。今のところあまり

問題は起きてはいないというが、「何回も 1 人で夜中に巡回するというのは、労働としても大変(施設 C)」である上に、若い女性職員がこうした業務にあたらなければならないことも考えると、やはり防犯対策や巡回時の情報伝達もしっかりと行うべきであり、

そうした体制づくりのために施設だけでなく行政や地域社会の一層の努力と理解が必

要であることは明らかである。さらに火災などが発生した場合、事態の早期発見や子ど

もを非難させるためにも専門の夜警の人手が欲しいという施設側の要望も出ており、県

にも要望を提出しているとのことである。 では次に、こうした宿直体制を補うために、各施設では人員配置の面で具体的にどの

ような対策がなされているかについて見ていこうと思う。下記は、県内 6施設で現在行われている宿直時の人員配置である。

施設A (病気の子どもが出たりした時は、)帰宅した職員を呼び戻す。(主任) 施設B 宿直の他に、建物の 3階にある宿舎に最低 1名が泊まっているので、最低でも 2

人は職員がいる状態にしてある。

施設C 9人の先生が園の中に泊まりこんでいる(住み込み)ので、宿直は 1人だが他に何人かの先生が巡回など(小さい子の夜鳴き・子どもがいるかの確認・戸締り

など)をしてくれている。何かの時には、その先生方が勤務時間関係なしに対

応してくれる。 施設D 一度帰宅した職員を呼び戻すこともあるが、住み込みがいる時もある。 施設E 園長が住み込みなので、回っている。

施設F 主・副という形で 2 名を配置。副の方については外部の方(非常勤の方)にお願いをしており、その人がだめな時は職員が務める。

Page 37: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

36

以上のように、現行の規定どおり 1名のみを宿直としておくのではなく、他に人員をおいて何らかの措置を講じている施設は多い。このような対策のための経費(人件費)

は現在、措置費の中から各施設が工夫して捻出し、まかなわれている。群馬県中の児童

養護施設では宿直の人数を 2人にすることについての要望を出しているが、現在のところ行政からは「措置費でまかなっているのだから(その中でやってくれ)。」という回答

しか返ってこない(施設 A)という。 児童養護施設に入所する児童の多様化(虐待児・障害児など)により、施設ができた

当初のような戦災孤児よりも扱いの難しい児童を増えたため、より多くの職員が必要に

なった。しかし現行の最低基準では、6 人に 1 人という基準になっているが、仮に 12人を 2人でみるとして 2人雇っても 1人が休んだ時にはもう 1人が 12人を見る計算となり、実際には倍の人数を見なくてはならない状況が発生する(これを施設の方は、「数

字のマジック」だとおっしゃっていた)。 また、国は配置基準は変えないが、アドバイザーや心理士を置くなどの基準を新たに

設けており(個別対応加算・心理職員加算・虐待対応加算・ファミリーソーシャル加算

など)職員の配置は変えないが、加算という形で専門職員を増やす方針をとっている。

しかし、確かに心理などの専門の知識を有する職員を置くことは重要ではあるが、こう

した職にある方々は直接子どもの生活面を見るわけではないので、結局のところ子ども

に直接かかわる職員の人数は変わっていないという。 現在県内児童養護施設が行政へ要望を出していること(人員について) ・人員配置:子どもと職員の比率を「6人に 1人」から「3人に 1人」へ ・宿直時人員の増員(1人から 2人へ) ・宿直時の夜警専門の人員 3-3-3. 職員の定着率について 次に施設職員の職場定着率の問題についてであるが、現在県内施設で働く職員の勤続

年数(調査時平成 20年度 11月~12月における数値)は以下のようになった。 表 職員の勤続年数別人数(正規職員)※は未回答

施設A 施設B 施設C 施設D 施設E 施設F

1 年未満 3 ※ 1 5 4 6

1~2 年 3 7 6 5 6

3~4 年 6 4 5 4 3

5~6 年 5 0 2 0 1

7 年以上 8 12 12 20 7

Page 38: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

37

一般的には、児童養護施設職員の全国平均勤続年数は 3、4年といわれているが、上記の表から県内の施設では、現在比較的長く勤めている職員が多いことが読み取れる。

但しこれはあくまでも調査時の結果(平成 21 年 11~12 月)であるため、今後変動する可能性も十分に考えられる。施設の方からは各施設職員の職場定着の状況と傾向につ

いて、次のような声が聞かれた。 問 .一般に施設職員の職場定着率は低いと言われていますが、貴施設様ではどうですか ・「(勤続年数が)1 年未満の人もいる。3、4 年が平均で 4 年にはいかない。又、頑張るほどに結婚できる環境にないので、結婚による退職の方がかなりいる。10 年以上勤務している方は独身。」(施設A) ・「今は非常に定着率がいい(が)、職員個人や職員集団にもよる。5年以上務めている方も沢山いる。」(施設B) ・「去年は離職者ゼロ、今年は海外ボランティア研修で 1 人(辞めた)が、その前の年は 6人。平均すると、やはり入れ替わりは結構あると思う。それだけ厳しい状況。」(施設C) ・「今年度は、結婚予定はあるけれども(こちらでは)一例もない。ここでは割と(離

職は)寿退社以外にはない。」(施設D) ・「(ここでは)離職率はそれほど高くなく、長い。10~15 年くらいの(勤続年数の)職員が相当数いる。若い人で 4、5年で辞めていく人もいるが、全体とすれば、勤続年数はかなり長い。」(施設E) ・「(一般的な勤続年数と)同じようだと思う。」(施設F)

次に、一般的に児童養護施設で働く職員の平均勤続年数が短いといわれる理由につい

て、何が職場定着率に影響を与えているかという問題に対し、各施設様から次のような

お答えを頂いた。

問 .一般に施設職員の職場定着率に影響を与えている要因は、何だと思いますか (1)勤務形態 ・「学校とは逆に土日が休めず、また朝と夜が忙しい。月 1回日曜が休めるかどうか。」(施設A) ・「(直接子どもに関わる職員の)基本的な勤務は断続勤務といって、朝 6 時半から 9時半、15時半から 21時半というのが基本で、真ん中の時間は自由時間。普通(の職業)は昼間勤めているが、(施設では)朝早く夜遅いため普通の職業より変則的で、厳しい

かと。」(施設C) (2)バーンアウト

Page 39: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

38

・「ストレスから、病院に通うような状態になる人もいる。頑張れば頑張るほど、逆に

それが自分に対して厳しい問いかけになってしまう。」(施設A) ・「バーンアウトだと思う。燃え尽き症候群。思うように子どもが動いてくれなくて、

(職員が)疲れてしまう。(施設D) (3)景気 ・「一番は景気。景気のいいときより景気の悪いときのほうが定着率が良く、志願者も

多い。(施設B) (4)職場の人間関係 ・「職員集団のチームワーク。チームワークが悪いと孤立する職員がでてくる。そうす

るとどうしても離職してしまうので、いかにいいチームワークを作るかが長く勤めても

らうポイント。」(施設B) ・「チームワークでの仕事(なので)、(職員の)年齢差、複数でユニットに関わる中で

の人間関係の難しさもあるのでは。」(施設E) (5)結婚 ・「今の状況では、結婚して仕事が続けられる環境ではなく、仕事か家庭かになってし

まう。それが、離職につながるオーソドックスな形。朝と晩が中心の職業なので、結婚

しても安心して勤められる職場かというと決してそうではない。」(施設 B) ・「(勤務形態上)結婚しても勤められる環境にないということ」(施設E) ・「結婚をして、それでも勤められるかどうかが厳しいのだと思う。結婚をして続ける

場合、自分の子どもを犠牲にしなくてはならない。いくら施設側で女性に働きやすいよ

うにするといっても、働いている内容が自分の子どもに手をかける内容と全く同じなの

で、仕事で(子どもに)手をかけると自分の子どもには手を抜かなくてはならない。そ

のためどうしても勤続年数が短くなってしまう。」(施設F) このような意見から浮かび上がってきたのは、 ・断続勤務で宿直などもあり、労働時間も長い。 ・1人が年齢層の異なる子どもを何人もみなければならないので、1人の職員にかかる負担が大きい。 ・結婚して続けられる職場環境にはなく、結婚か仕事かになってしまう。 ・難しい子どもを預かるためストレスが日々かかることから、職員への精神的負担が大

きい。 ・チームで仕事に関わる職場なので、チームの人間関係がうまくいかないと厳しい。

といった問題点が離職につながりやすいということである。こうした状況の中で、職員

の定着率を上げるために必要なことは何かという問いに対しては、次のような改善策が

挙げられた。

Page 40: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

39

(1)人員を増やす ・「職員数が増え、宿直免除・昼間のみの勤務が可能になれば(結婚しても続ける職員

が)でてくると思う。」(施設 A) ・「人員が増えれば、2 交代勤務にすると早番・遅番になるので、家庭との両立もできるようになるかもしれない。」(施設 B) (2)結婚した職員の再就職 ・「結婚した退社した方を非常勤職員として迎え入れ、昼のみ・夕方のみというように

可能な範囲で仕事をしてもらう形も考えている(但し、近場に嫁いだ方でないと実現

は難しい)。(施設 B) ・「退職後結婚し、子育てを終えた職員に、自分の子育てで培ったノウハウをもう一度

就職して役立たせて欲しい。」(施設 F) やはり大きな問題として、現場の直接処遇職員の人員不足が根底にあり、また女性職員

が大半を占める職場なので、結婚をした職員も続けられるように勤務形態の幅を広げる

ことが必要との声が聞かれた。

3-4. 児童との関係性について 複雑な事情を抱えた児童を多く扱うという特殊な職場環境のなかで、職員にかかるスト

レスもかなりのものであることは容易に想像される。ここでは施設職員にかかるストレ

スとその原因について、次のような質問にお答え頂いた。 問 . 児童に対して強いストレスを感じることはありますか ・「ストレスだらけ。以前より圧倒的に増えていると思う。虐待された子や発達障害の

子は普通に話しても分からない(こともあり)、分かるための時間を多く割くことに

なる。(職員は)「自分がみたことのない子供ばかり」を見るので、毎日がストレスだ

と思う。ベテランさんと新人さんの前でがらっと態度の変わる子も。(施設A) ・「常にどの子も何らかの問題を抱えている状態。子供が憎いとかではなく、対処の仕

方がわからない。経験に頼ったり、自分の人生経験から答えを導きだすしかないのが

現状。子供たちがそうした心の葛藤をぶつけるところは、職員しかない(家であれば

両親)。若く経験があまりない先生方がかなり重い問題をぶつけられた時に、対応し

きれない、といった面もある。一緒になって悩むことで、自信を失ったりする。」(施

設C) ・「若い職員はストレスはあると思う。子供の日常を見る仕事のほかに、子供の無断外

泊、問題行動など解決する仕事が増えるので、時間的余裕がないから大変(沢山の子

を担当しているので)。子供は年中問題を起こすので、そのたびにそれ解決するため

のストレスがかかる。」(施設E)

Page 41: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

40

・「最初はあるかもしれない。養護施設の子は普通に恵まれて育ってきた子ではないの

で、なんらかの愛情が欠けている子供が多い。そうすると、言ったことを必ずその通

り実行してくれるとは限らない。普通の家庭でも子育ては悩むものなので、若い先生

などにはやはりストレスがかかるのかもしれない。だが、そうした厳しい状況の中で

人間を育てていくとあるところでパッと道が開けるので、それが生きがいややりがい

に通じてくる。」(施設F) また、こうした職場のストレスが施設内虐待などにつながる一つの要因であると考えら

れることから、以下の 2つの質問をしたところ、次のような回答であった。 問 . 児童に対して暴力行為・暴言を吐いてしまいそうになることはありますか ・「しつけのためなら大声を出したり、おしりをたたいたり程度のことはあるが、人間

関係がしっかりしていれば問題ない(子供も反省し、わかっている)。「やさしさ」と

「厳しさ」の両方が必要。」(施設A) ・「心の中で(そうした感情が)ちらつかないかといえばちらつくが、それを克服する

のがプロである。人間だからストレスを感じることはあるが、最終的にはプロ意識を

持っているかいないかという気持ちの問題。」(施設B) ・「絶対にないようにしている。なぜなら、子供たちは、そうした親の虐待でここには

いってきている。その子供たちにとってなにが一番だめかといえば、それは暴力を振

るわれることであり、それによって(暴力行為)全て積み上げてきたものがだめにな

ってしまうから。それを守るためにここに措置されているので、暴力行為は絶対に許

されることではない。先生方もよくわかっていること。但し、子供が暴れたりしたと

きに、制止することはある(落ち着かせる)。」(施設C) ・「今のところ、聞いている範囲ではない。力ずくで指導するのは調教であって、教育

というのは言葉でわからせなければいけない(という指導が行き届いている)から。

(施設D) ・「今は皆さん相当教育が行き届いているので、絶対にそういうことはないと思う。誰

もいない。ただ人間なので多少はかっとしたりするとは思うが、我慢していると思

う。」(施設E) ・「虐待に当たるのでそういうことはしてはいけないという指導が徹底しているので、

今のところそういうこと(実行に移したこと)は聞いていない。思わず大きな声を出

すことはある。」(施設F) 問 .施設内虐待のような話を報道以外で耳にすることがありますか ・「直接聞いたことがある。」(施設B) ・「施設長会という全国的な組織があり、その中で事例の報告などを聞くこともあり。

そういうのを逆に職員に(話しを)回していく。例えば、小規模で、1対 1での暴力などの事例があったという。」(施設D)

Page 42: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

41

[考察] 群馬県内の児童養護施設では、1都 6県で唯一、現在まで 1件も施設内虐待などの報告がされていないという。職員の方々も人間である以上、ストレスを感じることも多少は

あるが、そこで児童に手を上げたりすることのないよう、「養育のプロ」としての意識

がしっかりと行き届いているためであるという。施設内虐待の発生しやすい環境につい

て、施設Bの施設長の見解を以下に掲載する 「職員と子供の関係を「親子」と捉えるのは一見いい響きだが、実は落とし穴であ

る。親子の情を持つと、子供が許せない。わが子が許せないあまりに、「愛のむち」

=体罰を加えてしまう。これは、親と子の関係で施設の処遇をしようとするとでてく

るものである。 ストレスは、子供に対するものではなく、うまく対処できない自分へのもの。だけれ

どいらいらすることには変わりない。そんな時に、子供を見るとき、親子の関係で見

る指導のあり方だったら「わが子なんだから」と手が出てしまうこともある。これが

世の中で多く見られる施設内虐待の問題につながっていると思う。施設職員は、子育

てのプロでなければならない。一般家庭の親(素人)が手を出してしまうようなとこ

ろで、こらえて他の方法で子供を諭すのが「プロ」。素人が出来ないことをするのが

「プロ」である。 体罰よりもっと恐ろしいのが、「この子はもう面倒見切れない」というあきらめ。切

捨ての論理。 群馬でそういった話がないのは、施設の数が少なく、横のつながりが強いので、それ

ぞれの施設が孤立していないから。ある意味でオープンな運営がされていると思う。

あとは、長年群馬県が作ってきた組織、児童養護施設連絡協議会がしっかりしている

ため、比較的そうした問題が起こりにくいのでは。しかし、起こらないということで

はない。 (施設内虐待が発生するのは)孤立した施設、孤立した職員が危ない。児童虐待でも

「孤立した家庭」が危ないといわれており、孤立した子育て環境にあると虐待の発生

率が高く、それは施設であっても同じこと。閉鎖的な施設。 もう一つは、「親と子」の意識が強い施設。愛情ゆたかなように見える反面、感情が

でてきて、感情が行為に変わったときに虐待になる。無視などであっても、施設内で

子供が寂しい立場のなった場合、それは虐待になると思う。それは閉鎖的な施設が育

みやすい悪しき傾向。施設の数が多くなってくると派閥化してグループが孤立するこ

ともあるかもしれないし、連携がとりづらくなることもあるかもしれない。」

Page 43: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

42

このように、県内にある児童養護施設の総数は全部で 6施設と他の都道府県と比較して少なく、施設同士の横のつながりが長年しっかりと作られてきたため、オープンな運営

によって施設の孤立化を防ぐことで施設内虐待の起こりにくい環境を実現できている

ものと思われる。しかし、「今まで起こっていないということは今後の起こらないとい

うことではない。」 3-5. 障害を持つ入所児童について 現在全国の児童養護施設では、年々障害を持った児童が増加傾向にあるという。その全

体に占める割合は 20%以上とされている。実際にこうした障害を持った児童が県内施設にも入所しているかどうかの確認として、次のような質問をさせて頂いた。 問 . 現在、何らかの障害などを持った児童が入所していますか 施設A 施設B 施設C 施設D 施設E 施設F

はい ○ ○ ○ ○ ○ ○

いいえ

県内全ての施設において、何らかの障害を持つ児童が入所していることになる。また、

具体的な症例及び日常生活における問題点としては、以下の通りである。 問 .具体例として、どのような症状を持つ児童が入所していますか ・「重度(の障害)は無理だが、それでも義足・松葉杖の子供はいたことがあった。明

らかに違う子は逆にこない。(そうした)傾向をもっている子はいる(自閉症・注意

欠陥多動性症候群)、可能であるから受けている。」(施設A) ・「発達障害・知的障害の微妙なボーダーラインの児童、身体的な障害(内臓疾患など)、

小人症などの難病を家庭の代わりにやったことも。若干の肢体不自由など。個別的な

配慮が必要ということはいえると思う。アスペルガー、注意欠陥多動症などの症状が

はじめからわかっているのではなく、入所してから判明することも結構多い。例えば、

子供が幼児期に母親からひどい虐待を受けており入所し、その場合虐待をした親の問

題と捉われがちであるが、実はその子は発達障害(注意欠陥多動症)であり、火をつ

けるなどひどいいたずらをし、怒っても変わらない子供に対するしつけがエスカレー

トしたケース。虐待の影に発達障害があった事例。」(施設B) ・「アスペルガー、知的障害、養護学校や特別支援学級に通う子も。普通学級にいても

行動に問題がある(落ち着きがない、すぐカッとなるなど)子もいる。様々なタイプ

の障害を持った子がいる。」(施設C) ・「アスペルガーが一番多い。軽度の障害。重度の障害を持つ子供も(入所してきたこ

とがある)。職員に言わせると重い症状だという子も。」(施設D) ・「発達障害(LHD、アスペルガーの子も)、知的障害(軽度)、身体的障害など。」(施

Page 44: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

43

設E) ・特別支援学級に入っている子も何人かいる。診断されたわけではないが、精神的にか

っとなりやすい傾向のある子など。」(施設F) 問 .具体例として、日常生活の中で困ることはありますか ・「自閉症の子は時間がかかるので、生活がずれる。多動性の子は問題を起こしやすい

ので、ゆっくり時間をかけて習慣づけさせるしかない。我慢くらべ。対処の一つとし

て、行動規制のために薬を飲んでいる子が二人。あとは職員による授業参観など(の

問題)。(症状などは)時間をかけた判断が必要。生活ができている子供については、

抱えるのが養護施設の特徴。」(施設A) ・「こまったことだらけ。(しかし)いつまでも悩み続けるのがこの仕事。目の前の困っ

たことに対して、職員が悩みながら解決策を見つけていく。一つ解決すると次の問題

が出てくる。完結することはなく、求め続ける姿勢が大切。注意欠陥多動症がわかっ

たことでその子への対応の仕方を学び、そのことによって他の子への応用のできるよ

うになったことも。」(施設B) ・「(障害などのため)集中力に欠け、勉強についていけない子もいる。怪我・病気をす

る子が多い。」(施設C) ・「情緒等の障害を持った子が逸脱した行動をとり、それを既にいた他の子が注意し、

それを注意されただけでいじめと受け取り目安箱に投書する。本人同士で話し合わせ

ると投書したほうに非があると(分かった)。しかし話し合いを重ねる中で分かり合

い、今では仲良くしている。」(施設D) ・「児童養護施設の一番大変なところは、児童の枠組みが広いこと(年齢差・扱う児童

の幅)。特に今発達障害の児童がものすごく多くなってきているので、保母さんたち

は本当に大変で泣いている。発達障害の子も、専門的治療はペアレントトレーニング

くらいしかない。そういう子供が 1人ではなく、9人もいるから、大変(1人の負担が大きい)。 LHD の子(が入所していた時)に指導がなかなか入っていかず、1 年半面倒をみたが、施設も学校も頑張ったが結局施設も学校も対応が出来ず、協議の上情緒障害児短

期治療施設に措置変更した。」(施設E) [考察] 児童養護施設に入所してくる子どもの中には、単純に発達障害などを抱えているだけで

なく、被虐待児の中にそうした症状を持っている子も珍しくはないという。また、入所

当時には分からなかった障害が入所後の生活の中で発覚することも、実際よくあるケー

スだという。児童養護施設では年齢・症状など他の児童福祉施設と比べても児童の受け

Page 45: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

44

入れが幅広く行われているため、発達障害や知能障害の児童に関しても障害の有無や程

度の判断が非常に難しい児童が入所してくる。被虐待児を 6割抱えているという状況の中、こうした複合的な要素を併せ持つ児童の入所も増えていることは、職員の児童への

対応をより複雑で大変なものにしているといえるであろう。 4.調査結果の補足―県内施設の特徴と施設の「声」 4-1.群馬県内児童養護施設の特徴・傾向 群馬県内の児童養護施設 6ヵ所を巡り調査していく中で知ったのは、各施設の横のつ

ながりが非常に強いということである。お互いに、密に連絡を取り合うことこそが、施

設内虐待を防ぐ環境づくりの上での要であるようだ。 4-2.施設の「声」 調査のおわりに、各施設のインタビュー内容から要望や意見を、掲載したいと思う。

私たちが日頃あまり触れることのできない、児童養護の現場で働く方々の貴重な声を、

多くの人に知って欲しいと思うからである。 行政への要望: (1) 人員配置:最低基準の見直し ・「今は 10人を 2人で見ているが、(それは)誰かが休めば 1人が倍の人数をみることになる。これでは職員が疲れ果ててしまう。」(施設 A) ・「職員をもっと安心して雇えるように。」(施設 B) ・「子どもに関われる職員の数が少ないので、先生の数を増やして欲しい。一人一人の

子どもにもっと深く関わるためにも、一番の要望。」(施設 C) ・「一番は、人員の問題。6人に 1人の指導者という形が続いているが、それを何とか 5人に対して 1人にするなど負担を減らして欲しい。これは今回の施設長会でもお願いしていること。」(施設 D) ・「(一番の要望は)人的配置。」(施設 E) ・「人員配置の問題。人員が少ないために、職員が休日をとると全体で集まれる時間な

ど物理的な時間が取れなくなる。」(施設 F) (2)予算: ・「(施設立ち上げの際など)法人で出さなくてはならない部分が随分ある。今の措置費

ではぎりぎりなので、パートで職員を増やしたりするためにももう少し増えると助か

る。」(施設 F) 社会への要望:

Page 46: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

45

(1) 地域福祉 ・「子どもを外で遊ばせると「うるさい」という電話がくる。「自分だけが良ければいい」

という人が増えて、住みづらい世の中になった。施設は地域の資源だと思っているが、

地域共生の国の方針どおりいかない状況が、多々見受けられるようになった。」(施設 A) (2)設備等の充実: ・「(当園に関して言えば)もう少し子どもが交流できるような部屋や、職員がゆっくり

休める部屋、図書室などが欲しい。小さい子から大きい子まで一緒に生活しているので、

こどもが落ち着いて勉強できる環境にない。」(施設 C)

Page 47: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

46

第五章 まとめ―群馬県内児童養護施設への実態調査を終えて― 県内 6ヵ所の児童養護施設への調査を終え、施設職員の労働環境上の課題を検証して

きたが、その深刻さたるや想像を絶するレベルであった。刃物を持った保護者の訪問や

児童からの暴力や暴言、断続勤務という過酷な労働体制と夜間宿直時の多忙な業務、近

年増加傾向にある障害を持った児童への対応など、児童養護施設を取り巻く問題は山積

している。中でも、施設最低基準における職員配置基準の早急な見直しは、県内どの施

設においても真っ先に上がる国への要望であった(第四章の 4 4.施設の声で、第一に解決すべき要望・問題点として 6 施設全てが人員配置の問題を挙げている)。最低基準の見直しをはじめとする施設職員の労働環境の改善は、児童の人権を第一に考えるので

あれば何よりも優先して取り組まねばならない急務であることは、既にこれまで記して

きたとおりである。 児童養護施設に在籍する児童数は増加の一途を辿っており、親子共に虐待などの問題

を抱えている家庭が増えている中で、頑張るほどに心身ともに追い詰められ疲弊して辞

めていく職員をこれ以上増やすことは、この国の将来に多大な損害を及ぼしかねない。

施設職員の労働環境の改善は、何よりも児童の健全な育成に直結する。職員が健康で文

化的な生活を実現できる労働環境にいてはじめて、児童への深い愛情を持って接する精

神的な余裕が生まれるのである。 もう一つ、調査の中で浮かび上がってきた事実は、社会における児童養護施設に対す

る理解度の低さである。調査の中でも、外で子どもを遊ばせると「うるさい」と苦情の

電話がくるなど、地域共生という言葉など全く念頭にない地域住民の考えが伺い知れる。 その要因を、ある施設のインタビュー内容から下記に掲載する。

「(児童養護施設が社会にあまり認知されていない)理由の一つは、(入所児童の)保

護者の力がない(こと)。障害を持つ子の保護者のような、親の会のようなしっかり

したバックアップがない(ことである)。社会に対する大人の圧力、それが児童養護

施設にはない。(障害児を持つ親の会のように)施設に子供を預けている親が団結し

て「子供の生活環境をもっとよくして欲しい」といってくれることは、まずない。大

人(保護者)の圧力団体としての機能が、非常に弱い。 もう一つの理由は、児童養護施設そのものが、PRしてこなかった。稀にテレビの取

材など特集にでている施設を見ると、とても勇気ある行動だと思う。多くの施設は、

施設内にカメラが入ることを拒むと思う。(児童養護施設)自らが情報を発信してこ

なかった。そのために(社会に)認知されていない。しかし、我々としてはもっとも

っと児童養護施設のことを知ってもらいたい」。(施設B) 児童養護施設に対する理解度という問題では、国に関しても同じことがいえる。平成

21年 12月 10日、社会的養護関係団体(全養協、全乳協、全母協、全国里親会)は福

Page 48: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

47

島瑞穂少子化担当相に面会し、民間保育所運営費の地方以上に断固反対の緊急要望を行

った。現民主党政権は目玉公約である「子ども手当て」の来年度からの実施を目指し、

長妻昭厚労相と原口一博総務相の間で財源確保の調整が進められてきたが、地方拠出分

のある現在の「児童手当」と同程度の地方負担分を残すことを提案した長妻厚労相の提

案に対し、原口総務相は反対し、また全国知事会も地方負担分について反対の意を示し

た。これに対し平成 21年 12月 4日、原口総務相が長妻厚労相に提案したのが、「地方が『子ども手当て』の財源を負担しないかわりに、現在国と地方で負担する『民間保育

所運営費』の国負担分を地方に移譲する」ということであった20。 民間保育所運営費の地方への移譲は、児童入所施設措置費にも波及の懸念があるとさ

れ、仮に移譲された場合、社会的養護に関わる国の財源関与がなくなり、都道府県の社

会的養護施策の格差が現在よりもさらに拡大することが予想されたため、民間保育所運

営費の一般財源化を阻止すべく、先に緊急要望が行われた次第である21。 平成 22 年度については一般財源化を免れたものの、平成 23 年度予算編成過程で、

民間保育所運営費の一般財源化問題が再浮上する可能性は拭えないという22。目玉政策

の財源確保のための国を挙げての経費削減の余波は、傷ついた児童たちを救済する第二

の家の存続までも脅かそうとしている。しかしこれまで本稿で見てきたとおり、措置費

以外に直接の収入源を持たない児童養護施設にとって、現行以上の予算削減は死活問題

であるといえる。本当に削減するべきものなのか、政治家の判断を狂わせているものは、

ひとえに現場の切迫した状況に対する理解のなさである。そして我々自身の無関心が、

こうした傾向を助長する一つの要因であることも確かである。施設養護の現場で働く職

員の計り知れない努力の上に、未来を担う子どもたちの人権が守られているという事実

を、我々の多くが見過ごしてしまっている。 「施設は地域の宝だと思っている。」ある施設の施設長はそう語る。子どもを地域社

会全体で育てていく昔のような環境は少なくなり、現代の子どもは保護者とごく近しい

間柄の人間との狭い養育環境で育てられることが多くなった。近年の虐待相談件数の増

加は、そうした養育環境の変化がもたらした一つの結果なのだろう。本調査の中で聞い

た、虐待の根源は「孤立」であるという言葉が、頭をよぎる。他人の子どもを社会全体

の宝として献身的に育てる「養育のプロ」、そんな施設職員の姿勢に行政のみならず我々

一人一人が学ぶべきであろう。

20 全養協通信No.215 平成 21年 12月 10日発行 http://www.zenyokyo.gr.jp 2010/01/18 21 全養協通信No.216 平成 21年 12月 18日発行 http://www.zenyokyo.gr.jp 2010/01/18 22 全養協通信No.217 平成 21年 12月 28日発行 http://www.zenyokyo.gr.jp 2010/01/18

Page 49: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

48

おわりに 今回の実態調査を通して、児童養護施設が抱える今日抱えている種々の問題は切実なも

のであり、現場の声を放置することは、わが国の行く末を担う子どもたちの将来に深刻

な影響を与えかねないということがわかった。本調査で得た結果は、児童養護施設を語

る上でまだまだ十分な理解に繋がるものとはいえない。しかし、様々な事情を抱える児

童の存在に光をあて、彼らを懸命に支える施設職員の姿を発信していくことこそが、社

会が問題意識を共有し手をとりあって解決していく上で、最も必要なのではないかと思

う。今回の調査の中で知り得た情報と施設養護の現場で働く職員の悲痛な思いを多くの

人に届けることで、児童養護施設を知るための入り口として本稿が少しでも役立てるこ

とを期待したい。 最後に、お忙しい時期にも関わらず本調査にご協力頂いた施設様に、深く御礼申し上げ

ます。ありがとうございました。

Page 50: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

49

参考文献リスト <参考文献> ・大谷嘉郎・斉藤安弘・浜野一郎編『改版 施設養護の理論と実際』 ミネルヴァ書房

1978 ・岡本眞幸「児童養護施設職員の職場定着率に関わる施設の労働体制上の問題点―施設

最低基準等の政策レベルの問題と個々の施設レベルの問題に着目して―」横浜女子短期

大学紀要 第 15号 2000 ・望月彰・平田早和子・船曳美千子・長江史憲「代替的養護(施設)における子どもの

権利の現状と課題―「日本政府第 2回報告」に対する批判的検討―」社会問題研究 第

52巻第 2号 2003 ・長谷川眞人編著『子どもたちのもう一つの家 児童養護施設における自立支援の検証

―未来を担う子どもたちへの支援を目指して』 三学出版 2007 ・朝日新聞 大阪本社編集局『ルポ児童虐待』 2008 ・長谷川眞人編著『日本福祉大学長谷川眞人ゼミナール研究報告 地域小規模児童養護

施設の現状と課題』 福村出版 2009 ・保延成子・堀尾恵太郎「社会的養護の展開と課題-2-」東京家政大学研究紀要 第 49集(1) 2009 <参考ホームページ> ・全国児童養護施設協議会 http://www.zenyokyo.gr.jp/motto.pdf 2010/01/17 ・厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp 2010/01/17 ・http://www.crc-japan.net 2010/01/18 ・STOP!児童養護施設内虐待 http://gyakutai.yogo-shisetsu.info 2010/01/18 ・子ども虐待家族間暴力の現場から<民間児童養護施設内 性的虐待>

http://www.saitama-np.co.jp 2010/01/18 ・JSTSS 日本トラウマティック・ストレス学会 http://www.jstss.org 2010/01/18

Page 51: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

50

インタビュー記録①施設A [基本情報] ○職員配置状況 職員数 33名 常勤 25名 ※( )は非常勤(内数) 施設長 1、指導員 5、保育士 16(2)、心理 3(2)、書記 1、栄養士 1、調理 4(2)、家事(2) ○家庭支援専門相談員 1:平成 16年配置 ○児童数 定員 66名(現員 66名) [インタビュー記録] ①施設について [形態]大舎制ユニットケア [地域小規模施設について] 地域小規模施設を採用していますか:はい アパート契約で建てて頂いて、月々お金をお支払いする。県の補助が出ている。経費は

何割補助(してもらう)というより、県のほうから指導があって、「このくらいの金額が

妥当であろう」といわれた金額(を補助してもらっている)。 児童の生活の変化: 生活がのんびり。より家庭的に。気持ちの問題だが児童によっては、(小さいグループに

なるため)前の環境を懐かしむ子も。しかし、少しずつ慣れて「今の生活のほうが楽し

い」というようになった。全体的にみれば児童へのメリットのほうが大きい。 職員の変化: 宿直・断続勤務などの勤務体系上、結婚して家庭を持つのは難しい状況。本園の全員職

員は通勤だが、地域小規模では 2 人の正規職員が住み込み(休みはあるが)で働いている。(そのほかに)パートが二人。児童は女子のみ 6人。 フォロー:主任が 1 人時々様子を見に行ったり手伝ったりしている。独身の女性 2 人が住み込みを担当。

[財政面について] 現在支給されている措置費は十分だといえますか:いいえ 不十分だが、国の基準(の中)で何とかやりくりをしてまかなっている状況。宿直も現

在 1人で(2人に増やして欲しいと)要望しても、(行政からは)「措置でまかなっているから(その中でやってくれと)」という回答しかかえってこない。2 人にしていいとも悪いとも言わない。(宿直担当者は、施設を)離れられないので、結果として、一度帰宅し

た職員を呼び戻すことも。(宿直を 2人にして欲しいという)この要望は、常に群馬県中の施設が要望している。

Page 52: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

51

②職員の労働環境について [職場の安全面について] 児童や保護者から暴言や暴力行為を受けたことがありますか:はい 保護者から:(保護者が)突然はいってきて、子供を殴る。玄関に親がきて子供に会わせ

ろという。しかし虐待をしている親であれば、児童相談所で制限がかかっているため、

断ると「あんたらのやり方が悪い」「なぜ会えない」などと怒鳴る。(保護者が)学校に

まで来て、警察が(学校に)きたことも。 児童から:保護者(から)より子供のほうが多い。(児童が)「好きです」と職員に迫っ

たりすることもあり、その場合は厳重注意(を児童にする)。そういうこともあるので宿

直も大変。 感情がたかまってくるとつかみあいもあるが、職員は児童を守る立場なので手を出さな

い。 児童も職員も加害者にならないようにしなければならない(処遇の技術が必要)。施設内

でしつけでしかられたことを、逆に「いじめられた」と認識する子も中にはおり、職員

に恨みの感情を持つことも。その子が高学年になって先生のミスをついてくることもた

まに見受けられる。だがたいていは話をすれば分かる。「君たちのために叱ったりするの

だから、恨んだり憎んだりしたら絶対にだめだ」と(諭す)。叱らないとしつけにならな

い、逆になめられるという面もあるので、なだめる職員と叱る職員の両方が必要。

[職員配置について] 現行の職員配置基準は十分ですか:いいえ 難しい子どもを扱うのには、日本の制度は不十分。児童の年齢に関係なく「3人に 1人」の基準を求めているが、(国からは)30年間答えてもらったことがない。イギリスでは子ども 2に職員 1、アメリカでは子ども 1に職員 2で、本当はそのくらいがベスト。予算の問題で配置基準は変わらない。

[宿直時の対応について] 宿直は何名配置していますか:1 人 上記の人数で困ることはありますか:はい 病気の子がでたときは、帰宅した職員を呼び出す(主任)。(ほかは)無断外出、暴力行

為(など)。 ③職員の早期離職・職場定着率について 一般に施設職員の職場定着率は低いといわれますが、貴施設様ではどうですか:

3、 4年平均。1年未満の人もいる。(平均勤続年数は)4年にはいかない。ストレスから病院に通うような状態になる人もなかにはいる。(子どもだから、職員に対して)全ての

Page 53: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

52

子供が「有難う」と思うわけではない(子供だから)。(しかし、)そういった子を、子供

を産んだことのない職員が見ているため(子どもがそうした性質を持っていることがわ

からない)。頑張れば頑張るほど、逆にそれが自分に対して厳しい問いかけになってしま

う。 一般に施設職員の職場定着率に影響を与えている要因は、何だと思いますか: ・勤務形態。学校と逆パターンなので土日は休めず、朝と夜が忙しい。月 1 回日曜がやすめるかどうか。 ・結婚して寿退職の方がかなりいる。職員数が少ないので、フォローしきれないので、

新しいかたをいれる。10 年以上勤務している方は、独身。がんばるほど、結婚できる環境がない。職員数が仮に増えれば、(結婚しても仕事を続ける職員が)でてくると思われ

る(宿直免除、昼間のみの勤務が可能になれば)。 ※男性職員:4分の 1程度。男性率を上げ始めている。直接処遇職員は 3人、間接処遇職員は 8人

④児童との関係性について 児童に対して強いストレスを感じることはありますか:はい ストレスだらけ。以前より圧倒的に増えていると思う。虐待された子や発達障害の子は

普通に話しても分からない(こともあり)、分かるための時間を多く割くことになる。(職

員は)「自分がみたことのない子供ばかり」を見るので、毎日がストレスだと思う。ベテ

ランさんと新人さんの前でがらっと態度の変わる子も。 児童に対して暴力行為・暴言を吐いてしまいそうになることはありますか:いいえ しつけのためなら大声を出したり、おしりをたたいたり程度のことはあるが、人間関係

がしっかりしていれば問題ない(子供も反省し、わかっている)。「やさしさ」と「厳し

さ」の両方が必要。 施設内虐待のような話を報道以外で耳にすることがありますか:いいえ 報道で目にする程度。

⑤障害を持つ入所児童について 現在、何らかの障害などを持った児童が入所していますか:はい 受け入れは、児童相談所が判断する。養護施設で生活できない子は、まずいない。

具体例として、どのような症状を持つ児童が入所していますか: 重度(の障害)は無理だが、それでも義足・松葉杖の子供はいたことがあった。明らか

に違う子は逆にこない。(そうした)傾向をもっている子はいる(自閉症・注意欠陥多動

性症候群)、可能であるから受けている。 具体例として、日常生活の中で困ることはありますか: 自閉症の子は時間がかかるので、生活がずれる。多動性の子は問題を起こしやすいので、

Page 54: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

53

ゆっくり時間をかけて習慣づけさせるしかない。我慢くらべ。対処の一つとして、行動

規制のために薬を飲んでいる子が二人。(児童の持つ症状などは)時間をかけた判断が必

要。生活ができている子供については、抱えるのが養護施設の特徴。

⑥要望・問題点 ・地域福祉:子供を外で遊ばせると「うるさい」と電話がくる。「自分だけよければいい」 という人が増えすぎている。住みづらい世の中になった。「施設は地域の資源」だと思っ

ているが、地域共生の国の方針どおりいかない状況が、多々見受けられる。 ・人員の問題:職員が疲れはてていく。今 10人を 2人で見ている。しかし誰かが休めば、1人が倍の人数が見ることになる。

Page 55: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

54

インタビュー記録②施設B [基本情報] ※未回収 [インタビュー記録] ①施設について [形態]大舎制 [地域小規模施設について] 地域小規模施設を採用していますか:いいえ [財政面について] 現在支給されている措置費は十分だと思いますか:いいえ 十分ではない。職員配置の問題、人件費(の面で不十分だと思う)。最低基準はあくまで

も「最低基準」であり、施設で必要な配置となると、人件費がたりない。措置費は事業

費と事務費の 2本立てだが、事務費がとてもかかる(人件費は事務費に含まれる)。しかし、どこまでがあれば、何人職員がいれば十分かということは、また難しい。いればい

ただけいいが、いればいただけ「もっと欲しい」ということにもつながるので。ただ今

の状態からいえば、国の定めている最低基準は低すぎる。 ②職員の労働環境について [職場の安全面について] 児童や保護者から暴言や暴力行為を受けたことがありますか:はい 保護者から:刃物による脅し。実害はなく、最近はこのような事例は減った。最近では

保護者は口が達者になった。 子供から:子供から職員への暴力は、あまり珍しいことではない。子供が暴れるのを制

止しようとすると子供が更に暴れ、その手が職員の顔にあたったりするなどよくある(わ

ざとではない)。その他、職員に対して子供が故意に暴力を振るうことも中にはある。 [職員配置について] 現行の職員配置は十分ですか:いいえ 足りていない。宿直者も本当は 2名にしたいが、2名にすると日中のローテーションが回

らなくなってくる。人が増えれば解決するかな、という問題も確かにある。しかし、何人

いれば足りているというのは、難しい議論。 [宿直時の対応について] 宿直は何名配置していますか:1 人 上記の人数で困ることはありますか:はい 宿直は 1 名だが、職員が住み込みの態勢をとっているので、この建物の 3 階に宿舎があり、そこにかならず最低 1名が泊まっている(宿直のほかに)。ので、最低 2名は職員が

Page 56: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

55

いる状態。子どもが無断外出をすると警察に届出を出し、(子どもが)夜中に発見される

と、(警察に)迎えにいかなくてはならないので、宿直担当者が迎えにいけば必ず他の方

が(その間)宿直を代わらなければならない。(こういった)無断外泊対応、夜間対応(が

宿直時の問題としてある)。また、夜見回りにいったら、子供がいなかったことも。 ③職員の早期離職・職場定着率について 一般に施設職員の職場定着率は低いといわれていますが、貴施設様ではどうですか: 今は、非常に定着率がいい。職員個人や、職員集団にもよる。5 年以上務めている方も、今は(当園では)沢山いる。但し、29歳くらいになると結婚の問題も。

一般に施設職員の職場定着率に影響を与えている要因は、何だと思いますか 一番(影響が)大きいのは景気。景気のいいときより、景気の悪いときのほうが定着率

がいい。志願者も、景気が悪いときのほうが多くなる。多いときは多く、ないときはな

い。もうひとつは、職員集団のチームワーク。チームワークが悪いと、孤立する職員が

出てくる。そうするとどうしても、離職してしまう。いかにいいチームーワークを作る

かが、長く勤めてもらうポイント。今の状況では、結婚して仕事が続けられる環境では

なく、仕事か家庭かになってしまう。それが、離職につながるオーソドックスな形。朝

と晩が中心の職業なので、結婚しても安心して勤められる職場かというと決してそうで

はない。人員が増えれば、2交代勤務にすると早番・遅番になるので、家庭との両立も可能になるかもしれない。あとは、結婚で退社した方を非常勤職員という形で迎え入れ、

昼のみ・夕方のみというように可能な範囲で仕事をしてもらう形も(但し、近場に嫁い

だ方のみ)考えている。 ④児童との関係性について 児童に対して強いストレスを感じることはありますか:はい 児童に対して暴力行為・暴言を吐いてしまいそうになることはありますか:いいえ 心の中で(そうした感情が)ちらつかないかといえばちらつくが、それを克服するのが

プロである。人間だからストレスを感じることはあるが、最終的にはプロ意識を持って

いるかいないかという気持ちの問題。 施設内虐待のような話を報道以外で耳にすることがありますか:はい 直接聞いたことがある。

※ここで施設Bへのインタビューの回答の中から、施設内虐待の発生要因と発生しやすい

施設の環境についての施設長の考察を以下に掲載する。 職員と子供の関係を「親子」と捉えるのは一見いい響きだが、実は落とし穴である。親

子の情を持つと、子供が許せない。わが子が許せないあまりに、「愛のむち」=体罰を加

えてしまう。これは、親と子の関係で施設の処遇をしようとするとでてくるものである。 ストレスは、子供に対するものではなく、うまく対処できない自分へのもの。だけれど

Page 57: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

56

いらいらすることには変わりない。そんな時に、子供を見るとき、親子の関係で見る指

導のあり方だったら「わが子なんだから」と手が出てしまうこともある。これが世の中

で多く見られる施設内虐待の問題につながっていると思う。施設職員は、子育てのプロ

でなければならない。一般家庭の親(素人)が手を出してしまうようなところで、こら

えて他の方法で子供を諭すのが「プロ」。素人が出来ないことをするのが「プロ」である。 体罰よりもっと恐ろしいのが、「この子はもう面倒見切れない」というあきらめ。切捨て

の論理。

※また、以下は 1 都 6 県で唯一群馬県内ではこうした(施設内虐待の)報告がないことについての同施設長の見解である。

群馬でそういった話がないのは、施設の数が少なく、横のつながりが強いので、それぞ

れの施設が孤立していないから。ある意味でオープンな運営がされていると思う。あと

は、長年群馬県が作ってきた組織、児童養護施設連絡協議会がしっかりしているため、

比較的そうした問題が起こりにくいのでは。しかし、起こらないということではない。 (施設内虐待が発生するのは)孤立した施設、孤立した職員が危ない。児童虐待でも「孤

立した家庭」が危ないといわれており、孤立した子育て環境にあると虐待の発生率が高

く、それは施設であっても同じこと。閉鎖的な施設(が危なく、施設内虐待が発生しや

すい)。 もう一つは、「親と子」の意識が強い施設。愛情ゆたかなように見える反面、感情がでて

きて、感情が行為に変わったときに虐待になる。無視などであっても、施設内で子供が

寂しい立場になった場合、それは虐待になると思う。それは閉鎖的な施設が育みやすい

悪しき傾向。施設の数が多くなってくると派閥化してグループが孤立することもあるか

もしれないし、連携がとりづらくなることもあるかもしれない。 ⑤障害を持つ入所児童について 現在、何らかの障害などを持った児童が入所していますか:はい 発達障害・知的障害の微妙なボーダーラインの児童、身体的な障害(内臓疾患など)、小

人症などの難病を家庭の代わりにやったことも。若干の肢体不自由など(を症状として

持っている児童もいる)。個別的な配慮が必要ということはいえると思う。 アスペルガー、注意欠陥多動症などの症状がはじめからわかっているのではなく、入所

してから判明することも結構多い。例えば、子供が幼児期に母親からひどい虐待を受け

ており入所し、その場合虐待をした親の問題と捉われがちであるが、実はその子は発達

障害(注意欠陥多動症)であり、火をつけるなどひどいいたずらをし、怒っても変わら

ない子供に対するしつけがエスカレートしたケース(がある)。虐待の影に発達障害があ

った事例。入所して医学的な支援、教育的な配慮がはじまり、初めて事実がわかった。

Page 58: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

57

施設内にも現在、医師にみてもらっていたり、服薬している児童もいる。 具体例として、日常生活の中で困ることはありますか: こまったことだらけ。(しかし)いつまでも悩み続けるのがこの仕事。目の前の困ったこ

とに対して、職員が悩みながら解決策を見つけていく。一つ解決すると次の問題が出て

くる。完結することはなく、求め続ける姿勢が大切。 注意欠陥多動症がわかったことでその子への対応の仕方を学び、そのことによって他の

子への応用のできるようになったことも。 職員のオンザジョブトレーニング(仕事をしながら鍛えられていく)、様々な知識や技術

を学ぶことも必要。その中でも、ペアレントトレーニングは現場の人間にとってもっと

も使える技術ではないかと思う。各種研修会には、積極的に職員を派遣している。どの

ような技術・知識を身につけても、生活者として応用できなければ意味がない。子供と

一緒に日常生活を送る立場の人間がそうしたスキルを身につけないと、子供は育たない。 ⑥要望・問題点 ・人員の問題:最低基準の見直し。職員をもっと安心して雇えるようにしてほしい。 ・職員への注文:情熱をもって仕事をしてくれているが、物足りなさを感じることもあ

る。今の職員は、子供との距離が離れている。1歩引いて子供を見ているので、子供のいいところも悪いところも見える。そして悪いところに対して何とかしようと考える。し

かし本来の児童養護というものはその両方を見なければならない(いいところは認めて

伸ばし、悪いところは正す)。いいところは「当たり前」、悪いところ「悪い」というよ

うに、悪いところばかり見てしまう傾向の人が多い。例えるなら医者が患者をみるよう

な見方をしている。その子をありのまま見るということが不得意なように思う。 ・児童養護施設に対する正確な理解 もう一つは、社会に対して。施設に対する正確な理解をもっとよくして欲しい。 (これまで児童養護施設の存在があまり社会に認知されてこなかった理由には、次のよ

うな背景がある。) (理由の)一つは、(入所している児童の)保護者の(社会的な)力がない(こと)。障

害を持つ子の保護者のような、親の会のようなしっかりしたバックアップがない。社会

に対する大人の圧力、それが児童養護施設にはない。施設に子供を預けている親が団結

して「子供の生活環境をもっとよくして欲しい」といってくれることは、まずない。大

人の圧力団体としての機能が、非常に弱い。 もう一つ(の理由)は、児童養護施設そのものが、PRしてこなかった(ことである)。

稀にテレビの取材など特集にでている施設を見ると、とっても勇気ある行動だと思う。

多くの施設は、施設内にカメラが入ることを拒むと思う。自らが情報を発信してこなか

った。そのために認知されていない。しかし、もっともっと児童養護施設のことを知っ

てもらいたい。

Page 59: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

58

インタビュー記録③施設C [基本情報] ○職員配置状況 職員数 30名 常勤 25名 ※( )は非常勤(内数) 施設長 1、児童指導員 11(1)、保育士 9(1)、調理員等 4(助手 1)、栄養士 1、書記 1、心理職 3(2) ○家庭支援専門相談員 1:常勤 ○児童数 定員 59名(現員 58名) [インタビュー記録] ①施設について [形態]小舎制 政府も、これからは小さなグループ、家庭的な雰囲気で育てることを目指している。た

だ(現時点では)小舎制のほうが少ない。全国に 570あるうちの 130くらい(が小舎制)。 [地域小規模施設について] 地域小規模施設を採用していますか:はい(2つ)

2つあって、2キロくらい離れたところに団地のなかに一軒屋があり、そこに指導員の先生が住み込みで 2人、子供が 6人。全く普通の家と同じようにその地域で生活している。(お祭り・道路掃除など、ありとあらゆる地域のこともやっている) 経費:全て園のもので、借家ではない。そしてもうひとつ、園の敷地の中に一軒屋がも

うひとつあり、同じような形でやっている。 児童の生活の変化: 食事・洗濯なども普通の家庭と同じように(行い)生活している。但し本物の兄弟では

ないし、団地にある地域小規模のほうでは男女が一緒に生活している。敷地内のほうは

女子のみ 6 人という構成だが、そのうち 3 人は本物の姉妹。ここは兄弟で入っている子が何組かおり、最初の計画では、団地にあるほうの地域小規模には親となかなか連絡が

取れない子を入れようという予定だった(そうした子供たちが本当の家庭の雰囲気を味

わえるように、と)。今は、必ずしもそうではないが、基本的にはそうした考えで行って

いる。 職員の変化: 一番違うのは、地域小規模では食事を全て自分たちで作っている。特に団地のほうの小

規模では、生活費をもらって、その中で先生方が全てをまかなっている。園内の地域小

規模では、食事は先生が作るが、前者よりは環境的に独立しているわけではない。先生

方も、完全な住み込みというわけではない。

Page 60: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

59

[財政面について] 現在支給されている措置費は十分だといえますか:いいえ 十分とはいえないが、その中でまかなっている状態。パートを雇ったり、(職員用の)カ

ウンセラー、その他に心理職の非常勤の方を 2 人雇っている。心理職は規定では 1 名の設置だが、職員も子供のそれでは足りないので多めに配置している。

②職員の労働環境について [職場の安全面について] 児童や保護者から暴言や暴力行為を受けたことがありますか:はい 保護者から:親の思いがこちらの育て方とすれ違う場合、親が施設に対して異議を唱え

るような場面はあると聞いている。 児童から:心に傷を負って入所してくる子供が多いので、先生のささいな言葉に感情が

爆発してしまうこともあると聞いている。(当園では)先生に直接殴るなどの行為は聞い

ていないが、壁を殴ったり、ものにあたるといったことはある。場合によっては高校生

の男の子が若い女性の先生に対してしたがわなかったり、睨むなどの威嚇・威圧的な態

度をとったりすることはある。幅広い年齢層の他人が一緒に暮らしているわけなので、

日々かかるストレスも大きいのだと思う。(児童の)ストレスの解消法を考えていくこと

も大切。 [職員配置について] 現行の職員配置基準は十分ですか:いいえ

6 人に 1 人の指導員という、基準にのっとって配置。その基準は、60 年間くらい全く変わっていない。戦災孤児を扱っていた頃と、現在のような虐待児などを扱っている状態

では、全く子供の質が違うにも関わらず、配置基準は全く変わらない。但し、国はそこ

は変えないが、アドバイザー・心理士を置くなどのプラスの基準をつくった。しかしこ

うした職の方々は直接子供(の生活面)に関わるわけではないので、結局子供に直接か

かわるところの人数はかわっていない。基本的な施設の運営は、子供の措置費で運営し

ているので(1 人預かるといくら、という形で県のほうから送られてくる。)その措置費で職員の給与も子供たちの生活費も全てまかなっているので、子供の人数で先生の数も

決まる。(そのため)それを度外視して先生をいっぱいいれるとなると、今度は園がなり

たたなくなってしまう。だから基本的には措置の規定された人数を基準に雇っている。

但し子供も入ってきたりでていったりして多少変わるので、本園には規定より多めに職

員を置いている。

[宿直時の対応について]

Page 61: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

60

宿直は何名配置していますか:1 人 上記の人数で困ることはありますか: ここは 9 人の先生が園の中にアパートのように泊まりこんでいる(住み込み)ので、宿直は 1 人だが他に何人かの先生が必ず泊まり、巡回をしたりしている。何かのときはその先生方が出てきて、勤務時間関係なしに対応してくれている。(他には、)小さい子の

夜鳴き(への対処)や子供がちゃんといるかの確認、戸締りなど(が宿直の仕事として

ある)。高校生ぐらいになると子供が遊びにでていない、ということも昔はあったらしい。 宿直はトランシーバーの導入を検討している。見回りの危険性(外部からの侵入者と鉢

合わせるなど)から。今のところ問題はあまりないが、何回も一人で夜中に巡回すると

いうのは、労働としては大変だと思う。 ③職員の早期離職・職場定着率について 一般に施設職員の職場定着率は低いと言われていますが、貴施設様ではどうですか: 去年は離職者はゼロ、今年は 1人海外ボランティアの研修で 1人(辞めた)。但し、その前の年は 6 人くらい。平均すると、やはり入れ替わりは結構あると思う。それだけ厳しい状況。

一般に施設職員の職場定着率に影響を与えている要因は、何だと思いますか: ・勤務形態。(直接子供に関わる職員の)基本的な勤務は断続勤務といって朝 6時半から9時半、15時半から 21時半というのが基本で、真ん中の時間は自由時間。普通(の職業)は昼間務めているが、朝早く夜遅いため普通の職業より変則的で、厳しいかと。日勤の

人は 8 時半から 17 時半の勤務(施設長、事務)。心理士の方や調理の方などは、子供のかえってくる時間との調整で後ろにずれこんでいる。(勤務時間を)3 つくらいの形態にわけている。

④児童との関係性について 児童に対して強いストレスを感じることはありますか:はい 常にどの子も何らかの問題を抱えている状態。子供が憎いとかではなく、対処の仕方が

わからない。経験に頼ったり、自分の人生経験から答えを導きだすしかないのが現状。

子供たちがそうした心の葛藤をぶつけるところは、職員しかない(家であれば両親)。若

く経験があまりない先生方がかなり重い問題をぶつけられた時に、対応しきれない、と

いった面もある。一緒になって悩むことで、自信を失ったりする。 虐待などで入所してきた子供たちは、愛情だけではどうにもならない。子供が悩んでい

るときにどう対処をしていけばいいのかが難しい。あとの半分は技術・接するためのス

キルを磨かなければならないといわれている。それがまだまだ十分研究されていないの

で、今日本のいろいろな施設が研究している。(職員は)2歳から 18歳という幅広い年齢の子を一人で対応しなければならない。しかしそのための研修・経験をつんできている

かといえば、現実にはそうではない。施設の職員は入ったら即戦力で任されるので大変。

Page 62: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

61

児童に対して暴力行為・暴言を吐いてしまいそうになることはありますか:いいえ 絶対にないようにしている。なぜなら、子供たちは、そうした親の虐待でここにはいっ

てきている。その子供たちにとってなにが一番だめかといえば、それは暴力を振るわれ

ることであり、それ(暴力行為)によって全て積み上げてきたものがだめになってしま

うから。それを守るためにここに措置されているので、暴力行為は絶対に許されること

ではない。先生方もよくわかっていること。但し、子供が暴れたりしたときに、制止す

ることはある(落ち着かせる)。 ⑤障害を持つ入所児童について 現在、何らかの障害などを持った児童が入所していますか:はい 障害を持った児童の入所は増えている。施設内の 50%以上が虐待児であるが、その中には様々の形で障害を持った子もいる。愛情だけでは対処は難しく、精神科医などの専門

の知識や技術を持った人々との連携が不可欠。薬を処方してもらって飲んでいる子もい

る(安定剤)。 具体例として、どのような症状を持つ児童が入所していますか: アスペルガー、知的障害、養護学校や特別支援学級に通う子も。普通学級にいても行動

に問題がある(落ち着きがない、すぐカッとなるなど)子もいる。様々なタイプの障害

を持った子がいる。 具体例として、日常生活の中で困ることはありますか: (障害などのため)集中力に欠け、勉強についていけない子もいる。怪我・病気をする子

が多い。 ※その他―研修について:県、関東、全国の研修がある。必ず一人 1 回は一年に行き、戻ってきたら報告会がある。しかしそれが自分のものになるのはなかなか難しい。

⑥要望・問題点 ・人員配置:先生の数を増やして欲しい。子供に関われる先生の人数が少ない。一人一

人の子供にもっと深く関わるためにも、一番の要望。 ・施設の整備:(当園に関していえば)もう少し子供が交流できるような部屋や、職員が

ゆっくり休める部屋、図書室などが欲しい。小さい子から大きい子まで一緒に生活して

いるので、子供が落ち着いて勉強できる環境にない。

Page 63: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

62

インタビュー記録④施設D [基本情報] ○職員配置状況 職員数 37名 常勤 30名 ※( )内は非常勤(内数) 施設長 1、事務員 1(1)、指導員 13、保育士 10(1)、看護士 1、栄養士 2、心理担当(4)、調理師 2(1)、

○家庭支援専門相談員:1、常勤 ○児童数 定員 本園 66名、小規模(1施設に 6名)12名 (現員 75名)

[インタビュー記録] ①施設について [形態]大舎制 [地域小規模施設について] 地域小規模施設を採用していますか:はい(2つ) 経費は一括して本園の事務が担当。第二、第三(施設 Dには地域小規模施設が 2つあり、本園を第一施設として地域小規模施設をそれぞれ第二(施設)、第三(施設)と呼んでい

る)で若干支出が違ってくる(第三は食事の材料を渡して作る、第二は全て材料を現地

で購入する、など) 児童の生活の変化: 指導員との結びつきが非常に緊密になり、学習面・生活面・行動面でも成長の度合いが

目覚ましい。(伸びの具合が倍くらいある) 職員の変化:仕事面では子供の細かい面が良く観察できるようになり、当然それに対応し

て指導が行き届くようになった。逆に、目についた行動を全て指導してしまうのではな

く、ある程度目をつぶって引き出すような形を取れるようになった面も。 生活面では、本館の職員よりは仕事の内容は増えてはいるが、自分を見つめる時間は逆

に増えていると思う。指導者自身が自分のやっている仕事を見つめなおす時間は増えて

いる。(大舎では)とにかく仕事が無限にあるような感じで、常にそれを、空いているの

をお互いが奪い合うような形でやっていたが、(地域小規模では)自分なりにある程度時

間を集中して(仕事を)やって、納得いくところまでやればあとは子供たちのことを考

えていれば大丈夫。 [財政面について]※時間の都合により、割愛。

Page 64: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

63

②職員の労働環境について [職員の安全面について] 児童や保護者から暴言や暴力行為を受けたことがありますか:いいえ [職員配置について] 現行の職員配置基準は十分ですか: (地域小規模では)6人の子供に対して第二は 3 人、第三は 4人の職員がはいっている。2人が専従であと 2人がサポート、2人で 1人分の仕事をしている。最終的には 3分の 1ずつ仕事を分担している。

[宿直時の対応について] 宿直は何名配置していますか:1 人 上記の人数で困ることはありますか:いいえ 病人が出たときは大変だが、そのときは子供たちに、「火の元を気をつけて」などいって

医者へつれていく。あとはほとんどない。 一度帰宅した職員を呼び戻すときもあるが、住み込みがいるときもある。

③職員の早期離職・職場定着率について 一般に施設職員の職場定着率は低いといわれますが、貴施設様ではどうですか: 今年度は、結婚予定はあるけれども(こちらでは離職者は)一名もない。ここでは割と

離職は寿退社以外はない。 一般に施設職員の職場定着率に影響を与えている要因は、何だと思いますか バーンアウトだと思う。燃え尽き症候群。思うように子供が動いてくれなくて(職員が)

疲れてしまう。 予防策は?:常に職員の様子に気を配り、あまり頑張りすぎないように、と(気遣う)。

意図的・計画的に手を抜く(息抜きをつくる)。

④児童との関係性について 児童に対して強いストレスを感じることはありますか:いいえ (子供に関しても)今のところ、ボランティアや慰問の音楽・スポーツなどを取り入れ

ているので、あまりない。但し(子どもが)学校の中のストレスを持ち込んでくること

はある。 児童に対して暴力行為・暴言を吐いてしまいそうになることはありますか:いいえ 今のところ、聞いている範囲ではない。力ずくで指導するのは調教であって、教育とい

うのは言葉でわからせなければいけない(という指導が行き届いている)から。 施設内虐待のような話を報道以外で耳にすることがありますか:いいえ (但し)施設長会という全国的な組織があり、その中で事例の報告などを聞くこともあ

Page 65: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

64

る。そういった場合は職員に(その話を)回していく。例えば、小規模(施設内)での、

(職員と子どもが)1対 1の(時に起きた)暴力などの事例があった。

⑤障害を持つ入所児童について 現在、何らかの障害などを持った児童が入所していますか:はい 具体例として、どのような症状を持つ児童が入所していますか: アスペルガーが一番多い。軽度の障害。重度の障害を持つ子供も(入所してきたことが

ある)。(軽度の障害ということで児童養護施設に入所してきた児童でも、)職員に言わせ

ると重い症状だという子も(おり、実際には軽度か重度かの判断は難しい)。 具体例として、日常生活の中で困ることはありますか: 情緒等の障害を持った子が逸脱した行動をとり、それを既にいた他の子が注意し、それ

を注意されただけでいじめと受け取り目安箱に投書する。本人同士で話し合わせると投

書したほうに非があると(分かった)。しかし話し合いを重ねる中で分かり合い、今では

仲良くしている。 ⑥要望・問題点 ・人員の問題:一番は、児童養護に関しては、6名に1人の指導者という形が続いている。それを何とか 5 人に対して 1 人とか、負担を減らして欲しい。人員の問題。これは今回の施設長会でもまた、お願いしている問題。 今、夜の当直者は 2 人(おいて)いるが、モンスターペアレントが突然訪問してくるので(その対処なども大変である)。 それから、夜女性の指導員の時、いかがわしい電話がかかってきたり(することがある)。 一番の問題は、火災等が起きたときの、早期発見。例えばこの前、何気なく布団を整理

していたら、コンセントの消し忘れていたところへ子供が布団をかけていたり(するこ

とがあった)。66 人もいるため、その子供たちを 2 人で非難させるのは難しいため、(発火したりした時に)いち早く子供を非難させるために、こうした危険な状態(になった

ときのために夜間の施設)を警備してもらいたい。それは県にも要望を出している。

Page 66: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

65

インタビュー記録⑤施設E [基本情報] ○職員配置状況 職員数 33名 常勤 ※( )は非常勤(内数) 園長 1、副園長 1、事務 1、指導員 8(1)、保育士 15、栄養士 1、調理員 4、心理 2(1)

○家庭支援専門相談員:1、平成 18年配置、常勤 ○児童数 定員 76名(現員 75名)

[インタビュー記録] ①施設について [形態]ユニット=小舎制 [地域小規模施設について] 地域小規模施設を採用していますか:はい 経費は月 15万。

児童の生活の変化:本当に家庭的になった(本体と全く異なる形態)。食事は、本体では

献立どおりの食事をするが、地域小規模では献立がなく、チラシを見て(食材を)買っ

てきて職員(保育)が調理する。本体では残り物は確実に廃棄するが、地域小規模では

それを翌朝食べるなど、普通の家庭と同じような形態になっている。3人の保育士が交代で住み込み。365日、24時間誰かがいる。

職員の変化:(地域小規模施設で働く職員の勤務形態は)断続勤務で、朝 6 時半~10 時まで働き、(休憩をはさみ)16時から 21時まで(働いている)。(宿直制)「1日に 2日仕事をしたようだ。」 地域小規模施設(で働く職員)の負担は大きい。(1人が 1ヶ月に)15日ずつ、月のうち

半分は泊まっている。 [財政面について]※時間の都合により、割愛。 ②職員の労働環境について [職場の安全面について] 児童や保護者から暴言や暴力行為を受けたことがありますか:はい 保護者から:モンスターペアレンツ(のような)酔っ払った保護者が施設にクレームを

つけにきて、ありもしないことをいうので職員は対応に困り、警察に連絡をして目の前

で逮捕(されるという事例)も(あった)。

Page 67: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

66

児童から:暴力行為などは、日常。現在虐待ではいっている児童が 7 割を占めている。こうした子どもの特徴として暴言、暴力、器物破損(ドアや壁に穴を開けることもしば

しば。全国どこでも共通。)、パニック、リストカットなどを行う傾向があり、当然職員

への暴言も「うぜえ」「てめえ死ね」「おまえなんか帰れ」など、ボンボン言われる。た

まには暴力事件に巻き込まれることもある。どの職員もそのようなことを経験している、

というのが実情。 [職員配置について] 現行の職員配置基準は十分ですか:いいえ 全くたりていない。現在の配置基準は 30年以上前のもの。バブルがあったにも関わらず、職員は全くふえない。国は「職員の配置基準はいじれないが、加算という形で職員を増

やす」という方針をとっている。(例:個別対応加算、心理職員加算、虐待対応加算、フ

ァミリーソーシャルワーカーの加算など)。1加算で 500万くらいずつ。4、5個の加算で3、4 人職員を追加することができた。しかし、我々が欲しいのは「直接ケアする職員」である。1人ずつ自分の仕事がある職員だけを増員しても、ケアのほうに(人員が)まわらない。人数が増えても、ケアのほうの充実にはならないというのが現状。 「ユニットで 365日 8時間労働で職員が週 40時間でちゃんとできるような職員配置」をしてもらいたい。ユニットをきちっと運営できるような職員配置が理想。今の倍くらい

でないとそれができないと思う。 [宿直時の対応について] 宿直は何名配置していますか:1 人 上記の人数で困ることはありますか: 子供の病気になったとき、(ここでは)園長が住み込みだから回ってはいるが、実際全員

が通勤の職員だったらかなり難しいと思う。

③職員の早期離職・職場定着率について 一般に施設職員の職場定着率は低いといわれますが、貴施設様ではどうですか: 離職率はそれほど高くない。長い。結構 10~15年くらいの職員が相当数いる。若い人で4、5年でやめていく人もいるが、全体とすれば、勤続年数はかなり長い。

一般に施設職員の職場定着率に影響を与えている要因は、何だと思いますか: 結婚して勤められるような環境にないということ(勤務時間の問題)。またチームワーク

での仕事なので年齢差、複数でユニットに関わる中での人間関係の難しさもあるのでは。

④児童との関係性について 児童に対して強いストレスを感じることはありますか:はい 若い職員はストレスはあると思う。子供の日常を見る仕事のほかに、子供の無断外泊、

問題行動など解決する仕事が増えるので、時間的余裕がないから大変(沢山の子を担当

Page 68: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

67

しているので)。例えば、ある児童が学校で問題を起こして(担当職員が)学校に呼ばれ

たときに、(職員は一人で赤ちゃんから大きい子どもまでを複数担当しているので)赤ち

ゃんを(施設に)おいて、学校に謝りにいくにはどういう状況にしておけばいいか、と

いった問題が発生する。子供は年中問題を起こすので、そのたびにそれを解決するため

のストレスがかかる。 児童に対して暴力行為・暴言を吐いてしまいそうになることはありますか:いいえ 今は皆さん相当教育が行き届いているので、絶対にそういうことはないと思う。誰もい

ない。ただ人間なので多少はかっとしたりするとは思うが、我慢していると思う。 施設内虐待のような話を報道以外で耳にすることがありますか:いいえ 群馬県内では 1 件も起きていないが、ただ 1 都 6 県(群馬以外の)では新聞報道されるような事件が全部起こっているので、その内容は沢山でている。ただ同じ子供を預かっ

ているから、いつ起こりうるかわからないとは思っている。ただ群馬県では起こらない

ように頑張っているだけで。 ⑤障害を持つ入所児童について 現在、何らかの障害などを持った児童が入所していますか:はい 入所してくる児童の 22パーセントが障害を持っている。

具体例として、どのような症状を持つ児童が入所していますか: 発達障害(LHD、アスペルガーの子も)、知的障害(軽度)、身体的障害など。

具体例として、日常生活の中で困ることはありますか: 児童養護施設の一番大変なところは、児童の枠組みが広いこと(年齢差・扱う児童の幅)。

特に今発達障害の児童がものすごく多くなってきているので、保母さんたちは本当に大

変で泣いている。発達障害の子も、専門的治療はペアレントトレーニングくらいしかな

い。そういう子供が 1人ではなく、9人もいるから、大変(1人の負担が大きい)。 LHD の子(が入所していた時)に指導がなかなか入っていかず、1 年半面倒をみたが、施設も学校も頑張ったが結局施設も学校も対応が出来ず、協議の上情緒障害児短期治療

施設に措置変更した。 ⑥要望・問題点 ・人的配置

Page 69: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

68

インタビュー記録⑥施設F [基本情報] ○職員配置状況 職員数 28名 常勤 23名 ※( )な非常勤 施設長 1、書記1、指導員 10、保育士 7(3)、心理担当職員 2(1)、栄養士 1、調理員等 1、嘱託医 1(1)、家庭支援専門相談員 1、小規模グループケア担当指導員 1 ○家庭支援専門相談員:平成 17年度配置 ○児童数 定員 60名(現員 56名) [インタビュー記録] ①施設について [形態]一般的には大舎制といわれているところ 大舎制ユニット型といわれるもの。 [地域小規模施設について] 地域小規模施設を採用していますか:採用していない [財政面について]※時間の都合により、割愛。 ②職員の労働環境について [職場の安全面について] 児童や保護者から暴言や暴力行為を受けたことがありますか:はい 保護者から:電話での暴言などはあるかもしれないが、聞いている範囲では今のところ

ない。 児童から:足を蹴られた。興奮した子供に髪の毛を引っ張られた。 職員は、(そういったことに関して)怖いと感じることもあるかもしれないが、1 人で対応するのではなく複数で対応するようにして、そういうこと(暴力行為など)にならな

いように努力している。 [職員配置について] 現行の職員配置基準は十分ですか:いいえ 十分ではない。今の基準は 6人に対して 1人だが、24時間体制で、週の時間が昔と比べて少なくなっている。この法律(労働基準法)が出来た時よりも今の基準は週休 2 日制など労働時間が減っている中で、昔の基準のままであるということがまず(問題の)第

一点。養護施設ができた頃の、いわゆる戦災孤児を救うという目的から見て、今の施設

Page 70: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

69

に入ってくる子供の状況(虐待など)が複雑で多岐にわたってきている中で、この人員

配置だと厳しい。時間の問題と質の問題の両方から、この 6 人に 1 人の配置ではかなり厳しい。子供たちの抱えている質が多種多様なので、同じように「はい、こうですよ」

というわけにはいかない。専門の範囲が広がっている。 [宿直時の対応について] 宿直は何名配置していますか:2 人 主・副という形で 2 名を配置。副については外部の方(非常勤)にお願いをしており、その人がだめなときは職員が務める。

上記の人数で困ることはありますか:いいえ 鍵の管理・電気など一般的な管理面と、さらにおねしょ(小さい子供が多いとき)など

生活面の両面で、かなりの重労働になる。それを回避するために 2 人配置している。非常勤の方の給与は措置費から。(そのためには)どこかを節約してまわさなければならな

い。施設によってメリハリをつけているのでは。

※男性職員:直接処遇職員は次長、グループリーダーの他に、職員 2名で 4名。その他に 2名(間接処遇)。6名。(男性職員の増員については)全体のバランスも考えて、現状維持で。 ③職員の早期離職・職場定着率について 一般に施設職員の職場定着率は低いといわれますが、貴施設様ではどうですか: (一般的な勤続年数と)同じようだと思う。

一般に施設職員の職場定着率に影響を与えている要因は、何だと思いますか: ・結婚をして、それでも務められるかどうかが厳しいのだと思う。結婚をして続ける場

合、自分の子供を犠牲にしなくてはならない。矛盾が生じる。いくら施設側で女性に働

きやすいようにするといっても、働いている内容が自分の子供に手をかける内容と全く

同じなので、仕事で手を書けると自分の子供には手を抜かなくてはならない。そのため

どうしても勤務年数が短くなってしまう。だから、結婚して子供が出来ると(続けるこ

とが)厳しくなってしまう。 今考えているのは、子供に手がかからなくなったら、自分の子育てで培ったノウハウを

再度もう一回就職して役立たせて欲しい、というのが願い。残念ながら今はいない。男

性はその点、子供がいる職員も続けている(家庭の子育ては奥さんに任せられるから)。 ④児童との関係性について 児童に対して強いストレスを感じることはありますか:はい 最初はあるかもしれない。養護施設の子は普通に恵まれて育ってきた子ではないので、

なんらかの愛情が欠けている子供が多い。そうすると、言ったことを必ずその通り実行

してくれるとは限らない。普通の家庭でも子育ては悩むものなので、若い先生などには

Page 71: 児童養護施設の抱える今日的課題の検証 - Tohoku …inuzuka/lec/nakagawa.pdf4 第一章 児童養護施設に関する基礎知識 まず初めに、家庭に事情のある児童や非行性の認められる児童の避難場所として最も

70

やはりストレスがかかるのかもしれない。だが、そうした厳しい状況の中で人間を育て

ていくとあるところでパッと道が開けるので、それが生きがいややりがいに通じてくる。

最初から何もない、素直な子ばかりなら何の苦労もないが、苦労やストレスがあるから

その後の喜びや楽しみも大きい、ということで職員の方は頑張っている。 児童に対して暴力行為・暴言を吐いてしまいそうになることはありますか:いいえ 虐待に当たるのでそういうことはしてはいけないという指導が徹底しているので、今の

ところそういうこと(実行に移したこと)は聞いていない。思わず大きな声を出すこと

はある。 施設内虐待のような話を報道以外で耳にすることがありますか:いいえ ⑤障害を持つ入所児童について 現在、何らかの障害などを持った児童が入所していますか:はい 具体例として、どのような症状を持つ児童が入所していますか: 特別支援学級に入っている子も何人かいる。診断されたわけではないが、精神的にかっ

となりやすい傾向のある子など。今はいないが、不適応・不登校などで児童相談所から

(施設に)措置された子もかつてはいたらしい。 具体例として、日常生活の中で困ることはありますか: 特になし。聞いていない。

⑥要望・問題点 ・人員の問題。(児童)5 人、4 人に対して 1 人にするなど、手厚い人員体制(が必要)。人員が少ないために、職員が休日をとると全員で集まれる時間など物理的な時間がとれ

なくなる。 ・予算:(立ち上げの際など)法人で出さなくてはならない部分がずいぶんある。今の措

置費ではぎりぎりなので、パートで職員を増やしたりするためにももう少し増えると助

かる。措置費以外に直接の収入源はない。あとはいろいろなところからの寄付に頼らざ

るをえない。赤い羽根、財団からの援助が主。