生型造型ラインにおける鋳型表面安定性向上 (株)クボタ 丸尾孝司，〇田中真人，江尻礼聡，松山直也， 柳楽茂治，木村正和，西井博文

１．はじめに 当社の産業用ディーゼルエンジンは搭載性に優れ，農業機械から産業機械まで，幅広く利用されている．そのエンジン素材である鋳鉄製クランクケースは，搭載性を重視したコンパクトな設計の為，素材の水路及び油路形状は複雑かつ薄肉である．この為，外面と水路及び油路の薄肉部を貫通する欠陥（貫通欠陥）が慢性化している．そこで品質改善を目的として，貫通欠陥の低減に取り組んだ．貫通欠陥発生のメカニズムを明らかにするため，鋳造時の鋳型性状に着目した．当社は，鋳型状態と素材品質を紐付するために図 1 に示す鋳型刻印装置を導入している．この装置を活用して，鋳型刻印する際，気温・湿度・鋳型温度・主型の塗型量を測定監視して，貫通欠陥と枠毎の鋳型状態との関連を調査した． ２．対象機種 改善対象とした機種は直列 4気筒ディーゼルエンジン用クランクケース素材とした．重量は 83.1kg，材質はFC250 相当材である． ３．要因分析 初めに欠陥原因を調査するために，SEM-EDS による欠陥分析を行った．図 2 に示す欠陥分析結果より，欠陥内に異物を確認した．異物の構成元素は O，Si 及び Mnである．当社で検出されるブローホール欠陥では欠陥内部に黒鉛膜が見られるが，その分析結果とは異なる様相が見られた．次に鋳型刻印装置より注湯順番と欠陥発生頻度の関連を調査した．当社ではブローホール欠陥は最終枠に多く発生することを経験的に認識している．一方，貫通欠陥は注湯順番に関係がなく均一に発生していることからブローホール欠陥とはメカニズムの異なる欠陥であると推測できる．塗型量については塗布量が少なく鋳型温度が高い場合に増加する傾向にある．これら調査結果より鋳型の表面安定性が低下することで異物を巻き込み貫通欠陥を発生させていると考えた． ４．工程改善及び結果 要因分析結果より，表面安定性を低下させる要因について改善を実施した．第一番目に造型後の表面安定性改

善に取り組んだ．表面安定性は砂温によりその低下度が異なり，枠合せされる 30 分後には 15%低下していた．そこで，通気度を阻害する塗型以外の材料で表面安定性を確保するため，表面安定剤を選定した．その結果，図3 に示す通り，枠合わせ直前の表面安定性を確保できた．これら結果より上型には表面安定剤を塗布することとした．また下型には表面安定剤に加え，耐焼着性を確保する為，塗型を塗布することとし，塗布量の最適化と安定化を行った．第二番目にシステムサンドの砂性状安定化を図る為，回収砂の中子砂分離向上に取り組んだ．改善方法としては，中子砂と生型砂の解枠時の特性に着目し，振動搬送時の周波数変化と，エアカーテンによる分離を行った．その結果，回収砂の中子砂分離性が向上し，砂性状の安定化を図れた． ５．まとめ 今回改善に取り組んだ貫通欠陥には鋳型表面安定性が大きく影響することが明らかとなり，工程改善に取り組んだ．砂性状と適合した表面安定剤の選定と塗型塗布量の最適化と安定化及び回収砂の中子砂分離向上によるシステムサンドの安定化を行った．その結果，表面安定性を向上，貫通欠陥を低減できた．

図 1 鋳型刻印装置

図 2 欠陥分析結果

図 3 表面安定性測定結果