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U University of Tokyo I Institute of Social Science P Panel Survey Discussion Paper Series 東京大学社会科学研究所 パネル調査プロジェクト ディスカッションペーパーシリーズ 社会ネットワーク構造と教育における人的資本形成: 日本における社会ネットワーク閉鎖性仮説の検証 Social Network Structure and Human Capital Creation in Education: An Examination of the Social Network Closure Hypothesis in Japan 石田賢示 (東京大学社会科学研究所) Kenji ISHIDA September 2016 No.99 東京大学社会科学研究所 INSTITUTE OF SOCIAL SCIENCE UNIVERSITY OF TOKYO

Center for Social Research and Data Archives (CSRDA ......Social Network Structure and Human Capital Creation in Education: An Examination of the Social Network Closure Hypothesis

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UUniversity of TokyoIInstitute of Social Science

PPanel Survey

Discussion Paper Series

東京大学社会科学研究所 パネル調査プロジェクト

ディスカッションペーパーシリーズ

社会ネットワーク構造と教育における人的資本形成:

日本における社会ネットワーク閉鎖性仮説の検証

Social Network Structure and Human Capital Creation in Education:

An Examination of the Social Network Closure Hypothesis in Japan

石田賢示 (東京大学社会科学研究所)

Kenji ISHIDA

September 2016

No.99

東京大学社会科学研究所

INSTITUTE OF SOCIAL SCIENCE UNIVERSITY OF TOKYO

Page 2: Center for Social Research and Data Archives (CSRDA ......Social Network Structure and Human Capital Creation in Education: An Examination of the Social Network Closure Hypothesis

東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクト

ディスカッションペーパーシリーズ No.99

2016 年 9 月

社会ネットワーク構造と教育における人的資本形成

――日本における社会ネットワーク閉鎖性仮説の検証――

石田賢示(東京大学社会科学研究所)

【要旨】

本稿の目的は,中学生の人的資本形成と,中学生とその母親の社会ネットワーク構造がど

のように関連しているのかを,実証的に明らかにすることである.世代間でのネットワーク

閉鎖性による信頼性の高さ,情報経路,規範や効果的なサンクションが子どもの人的資本形

成,すなわち学校での成功につながるとするコールマンの議論は,彼の社会関係資本論にお

ける重要な証拠の1つとされてきた.しかし,日本社会を事例とした実証分析はほとんどな

されておらず,先行研究でも閉鎖性仮説は認められないものが多い.

そこで本稿では,中学生親子パネル調査(JLPS-J)の第1波データを用いて,社会ネッ

トワーク閉鎖性仮説の検証を行った.中学生とその母親の相談ネットワークの重なりをも

って社会ネットワーク閉鎖性とし,学習時間と学業達成水準との関連を検証した.分析の結

果,以下の点が明らかとなった.第1に,社会ネットワーク閉鎖性とアウトカムの関連が直

線的ではなく,閉鎖性が中程度のときにアウトカムの水準が高い.第2に社会ネットワーク

閉鎖性が関連するのは学習活動に対してであり,学業達成それ自体に対してではない.第3

に,社会ネットワーク閉鎖性は子ども側のネットワークにおいて意味を持つ.以上の知見か

ら,閉鎖性による衆人環視効果と開放性による情報効率性は対立するものではなく,両者が

同時に備わった社会ネットワーク構造が人的資本形成に重要であると考えられる.

【謝辞】

本研究にあたって,JSPS 科研費 15H05397 の助成を受けた.データの使用にあたって,

社会科学研究所パネル調査企画委員会からの許可を得た.記して感謝の意を表したい.

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1. はじめに

本稿の目的は,中学生の人的資本形成と,中学生とその母親の社会ネットワーク構造がど

のように関連しているのかを,実証的に明らかにすることである.教育における人的資本の

重要な要素の1つは学校における成績(学業達成)であると広く考えられている.本稿では,

先行研究で検討されている社会ネットワークと成績の関連だけでなく,学習時間をアウト

カムとした分析もおこなう.学業達成過程の研究では何が学業達成に影響するのかが基本

的な問いとなり,社会学では個人をとりまくより広い社会構造や社会的文脈に着目するこ

ととなる.その際,それらが子どもたちを動機づけ,具体的な学習行動を生じさせることを

通じて高い学業達成に帰結することが想定されているといえるだろう.そのため,教育にお

ける人的資本形成に対する社会構造的要因の影響を検証する上では,結果である学業達成

水準だけでなく,その重要なインプットとなる学習時間も検討対象となるといえる.

本稿では,中学生と母親の社会ネットワーク構造に着目する.子どもの人的資本形成と社

会ネットワーク構造に着目した研究の代表は J. S. Coleman による社会関係資本(Social

Capital)の研究である(Coleman 1988).詳細は後述するが,Coleman の社会関係資本論

の核となるのは親子関係をとりまく社会ネットワーク構造と成績や退学の関連についての

分析結果である.学業達成過程が親子間の相互行為により生じ,さらに親子間の相互行為は

より広い社会ネットワークの影響を受けるという見方は突飛なものでも些末なものでもな

い.関連するところでは,家族社会学で育児期における親のサポート・ネットワークの研究

がなされている(星 2012).子どもの養育に社会ネットワークが影響するという観点に立

てば,その後の子どもの教育との関連を無視する必然性は低いように思われる.

それに比して,日本社会を対象とする,子どもの学業達成過程と社会ネットワーク構造の

関係に正面から光を当てた研究は少ない.その理由として,子どもや親の社会ネットワーク

の特性を把握する適切なデータがなかったことや,社会ネットワーク論にもとづくアプロ

ーチへの関心が薄かったことなどが想像される1.学業達成,教育達成の問題は社会階層間

の機会格差の問題としてとらえられることが社会学では基本的であるが,社会ネットワー

クは社会階層とは独立に影響力を持つと想定されうるものであり,また社会階層の影響力

を条件づける可能性も考えられるのである2.社会構造変数としていずれも重要な階層,ネ

ットワークへの着目は,学業達成,さらには教育達成の社会学的説明の枠組みをさらに洗練

1 あるいは,分析可能なデータがないことと社会ネットワーク論的な関心の不在が同時決

定的であったともいえるかもしれない. 2 本稿では,社会階層に関連する重要な背景要因を統制してもなお社会ネットワーク要因

が学習時間,学業達成と関連するのかが主たる関心である.より細かい交互作用効果の分

析は,今後の課題である.

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させる上で有益であるといえよう.

2. 学業達成と社会ネットワーク構造の関係に関する先行研究

(1) 社会ネットワーク閉鎖性

教育における人的資本形成と社会ネットワークの関係を分析する上で鍵となるのが,社

会ネットワーク閉鎖性(social network closure)という概念である.コールマン流の社会

関係資本は,相互行為の信頼性の高さ(trustworthiness),情報経路(information channels),

規範(norm)や効果的なサンクション(effective sanctions)などの形態で行為者の目的達

成に寄与する(Coleman 1988)3.そして,他者が義務を適切に履行してくれるだろうとい

う信頼や規範の維持,サンクションの効果的付与は,閉鎖的な社会ネットワークにおいて実

現しやすくなる.情報経路という側面では,弱い紐帯(Granovetter 1973)を含む開放的な

社会ネットワークのほうがより多くの情報を伝達,共有できるという見方が可能であるが,

獲得した情報の信頼性という観点では,やはり閉鎖的で凝集的なネットワークのほうが望

ましいと考えることとなる.閉鎖的な社会ネットワーク構造の下では行為者が相互に衆人

環視状況に置かれ,ネットワーク上の他者に対するの逸脱行為が抑制されるため,上述のよ

うな社会ネットワークメカニズムが期待できるのである.

図 1 世代間閉鎖性の模式図

(Coleman(1988)の p.107 の Fig.2.より筆者引用)

教育における人的資本形成に重要だとされ,社会ネットワーク閉鎖性の概念を応用して

提唱されたのが世代間閉鎖性(intergenerational closure)である(Coleman 1988: S107).

図1の B(C)は子ども,A(D)は親であり,E は親子以外の第三者である.図1の(a)

3 コールマン自身が“Social capital is defined by its function.”(Coleman 1988: S98)と

記述するように,社会関係資本という概念には様々な構成要素が許容されてしまうため,

ともすると概念の定義,解釈に混乱が生じかねないことに注意が必要である.

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では,A と D,つまり子どもの親同士の間には紐帯が存在せず,A,B,C,D によって構成

される社会ネットワークは開放的構造である.親 A は親 D から子 C についての情報を得ら

れないため,子どもへの働きかけやサンクションの付与をどのようにすべきか,周囲の家庭

ではどのようにしているのかが分からない.また,親 A からは見えない子 B のことについ

て,親 D が子 C を介して知っていることもありうるだろう.そのような情報も,親 A には

伝達されないことになる.

一方,図1の(b)では(a)とは逆の状況が生じる.親 A と親 D の間に紐帯が存在する

ことで,親 A は CD 間の状況をある程度知ることができ,その情報にもとづき B への働き

かけについて考えられるようになる.加えて,A には見えない B の逸脱行為が C を通じて

D の知るところとなれば,A にもその情報が伝わることになる.コールマンの合理的選択の

枠組みに沿って解釈すれば,子 B はそのことを理解しているため,逸脱行為が抑制されて

規範が守られるということになる.

以上の社会ネットワーク閉鎖性とは異なる立場が,社会ネットワーク開放性に着目する

アプローチである(Burt 2001).この立場では,図 1 の親 A は親 D ではなく異なる第三者

である行為者 E との間に紐帯を形成することのほうが重要だと考えることとなる.閉鎖性

の高いネットワークでは同類原理が強く作用するため,一方では社会ネットワーク閉鎖性

仮説が想定するような規範共有が促進される利点が想定されるが,他方ではネットワーク

を構成する行為者間で共有する情報が冗長なものとなるという欠点も考えられる.開放性

を重視する立場は後者の点に比重を置いている.図 1 の例では,親 A は自分も知っている

可能性の高い冗長な情報を親 D から得るよりも,自分の子 B の属さない別の社会ネットワ

ークから新しい,異質な情報を得るほうが情報効率は高いと想定することになる.

(2) 社会ネットワーク閉鎖性仮説に関する知見

社会ネットワーク閉鎖性に着目したコールマン自身の論文では,社会ネットワークに直

接関係する変数を操作化した分析結果には言及がなされていない.そこで取り上げられて

いるのは,中退に対するカトリック・スクールの効果である.第 10 学年から第 12 学年に

かけての中退に関するロジスティック回帰分析の結果を引用しながら,カトリック・スクー

ルの生徒はパブリック・スクールの生徒に比べて中退率が低いこと,宗教的礼拝への参加頻

度は中退率と負の関連を持っていること,カトリックだけでなく他の宗教系の学校でも中

退率が低く,それらが世代間閉鎖性により実現されているものだと主張している(Coleman

1988: S114-S116)4.学校の種類と世代間閉鎖性の関係について,コールマンは論文中で学

4 これらの分析結果は,主に Hoffer(1986)や Coleman and Hoffer(1987)によるもの

であるとの記述がある(Coleman 1988: S111).

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校の移動に伴う転居回数がカトリック・スクール,パブリック・スクール,他のプライベー

ト・スクールの順に低いと説明しており,同じ居住地に長くいるほど世代間閉鎖性が高いは

ずであるという前提に基づき議論を展開している.

宗教的コミュニティへの参加(教会での礼拝など)が家族単位でなされ,そこでの人々の

接触も家族単位となることから世代間閉鎖性の高さにつながるという前提は,休日の宗教

的活動が比較的活発なアメリカ社会においては特に問題なく受け入れられるものなのかも

しれない5.ただし,宗教的活動が世代間閉鎖性以外のことも意味することは想像に難くな

く,他の社会にも適用可能な代理指標だと主張することも難しい.そのため,何らかの方法

で世代間閉鎖性をより直接に操作化した分析が必要となる.

社会ネットワーク閉鎖性仮説をより直接に検証した研究は,Morgan and Sørensen(1999)

の手によるものである.NELS(National Education Longitudinal Study)を用いた研究で

あり,社会ネットワーク閉鎖性は以下の手続きで定義される.まず,親は子どもの友人で最

も親しい者5名の名前を書きだし,そのなかで子どもと同じ学校に通っている者の数を回

答する.続いて,その5名の子どもの友人の親のうち何名を知っているのかを回答する.同

じ学校に通っている友人数,知っている親の数の学校平均が独立変数として用いられ,それ

らの積は子どもと同じ学校に通っている友人の親を何人知っているかを意味するため,社

会ネットワーク閉鎖性の指標であるとみなされる.

Morgan and Sørensen(1999)の実証分析では,第 12 学年と第 10 学年の数学得点の差

が従属変数として用いられている.分析の結果,社会ネットワーク閉鎖性は統計的に有意な

効果を示さず,同じ学校に通っている友人数はポジティブに有意,知っている親の数はネガ

ティブに有意な結果となった.子どもの友人を通じて同じ学校内での情報を得ることがで

き,親同士のつながりが冗長であるため,親は別の学校にいる子どもの親と紐帯を形成する

方が有益だという解釈がなされている(Morgan and Sørensen 1999: 675).

ただし,同じデータを用いて別の結果も得られている点には留意が必要である

(Carbonaro 1998).第 12 学年時の数学得点を従属変数とした分析では知っている親の数

が個人レベルの変数として用いられ,数学得点に対してポジティブに有意な効果を示して

いる.数学得点の回帰分析では,学校での問題行動に関する変数をモデルに含めることで知

っている親の数の効果が有意ではなくなっており,第 12 学年時の退学経験に対しては,知

っている親の数がネガティブに有意な効果を示していることから,世代間閉鎖性が教育の

5 宗教活動と世代間閉鎖性の関連を直接示すものではないが,生活時間の国際比較調査で

は「教会の礼拝・冠婚葬祭の時間」について,アメリカの平均が他国に比べて高く(連合

総合生活開発研究所 1997),より新しい調査でも「地域,ボランティア活動,宗教活動

(教会に行くなど)」の活動頻度はアメリカで一番高いことが報告されている(連合総合

生活開発研究所 2009).

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アウトカムに対して順機能を示していると結論付けている.

教育達成にまで研究の射程を広げた研究もおこなわれている(Sandefur et al. 2006).先

に言及した先行研究と同じく NELS データを用いて,カレッジへの進学の有無を従属変数

とした分析をおこなっている.ここでも世代間閉鎖性は知っている親の数でとらえられて

いるが,中等後教育への進学に対して世代間閉鎖性は有意な効果を持たないという結果と

なっている.

ここまでで取り上げた3つの先行研究のうち2つは社会ネットワーク閉鎖性仮説を支持

しないという結果となっている.同じ NELS データであっても,いずれも異なる従属変数

を用いているため,分析対象が異なれば結果が変わるということ自体は驚くべきことでは

ないかもしれない.しかし,例えば親の SES が一貫してポジティブな効果(退学に対して

はネガティブな効果)を示していることを踏まえると,教育における人的資本形成に与える

社会ネットワーク閉鎖性の影響については,知見が一貫しないと整理すべきであろう.

先述の通り,日本の教育社会学的研究における,学業達成や教育達成過程に対する(明示

的な)社会ネットワーク論的アプローチの試みはまだなく,研究の開拓余地が十分に残され

ていると思われる.親子関係に焦点を当てた研究はすでに一定の蓄積を遂げているが(松岡

ほか 2014; 中澤 2009, 2015),教育達成,教育機会の研究が社会階層論を基礎としながら

発展を遂げてきた研究史を踏まえれば自然かつ妥当な着眼点である.本稿では社会ネット

ワーク論の視座を親子関係と子どもの学業達成の分析に取り入れることで,親子関係を従

来のアプローチとは異なる角度から意味づける.

3. 検討課題

(1) 社会ネットワーク閉鎖性の2つの意味

親子の社会ネットワーク構造と子どもの学業達成の関連を明らかにすることが本稿の目

的であり,先行研究と同様に社会ネットワーク閉鎖性仮説の検証をおこなう.ここで若干の

検討を要するのが,社会ネットワーク閉鎖性をいかにとらえるかという点である.1つには

変数としてどのように操作化をおこなうかだが,それについては後述する.もう1つの問題

は,社会ネットワーク閉鎖性が親子間で異なるという点である.

まず,先行研究では世代間閉鎖性に特に焦点が当てられていたが,社会ネットワークの閉

鎖性をある親子と別の親子の組み合わせでとらえるという観点には,コールマンが世代間

閉鎖性という概念を提起したという以上の理由がない.規範維持や効果的なサンクション

付与が社会ネットワーク閉鎖性の要点であるので,親と子に共通する紐帯の存在が閉鎖性

の十分条件だと考えられる.そのように考えれば,閉鎖性の程度は親と子,加えて共通の他

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者からなるトライアド(三者関係)の数が多ければ高いという操作化が可能である.

次に問題となるのは,親子間で社会ネットワーク閉鎖性の程度が異なるという点である.

図2は,母親と子どもの社会ネットワークの例である.母親には子どもとの間に紐帯が存在

しない相手とのつながりがあるのに対し,子どもが紐帯を形成している相手については,母

親ともつながりが存在する.母親については最大で4つのトライアドができるはずで,図2

の例ではトライアドは2つであるので,閉鎖性は 50%だといえる.一方,子どもの閉鎖性

は 100%である.

図 2 母親と子どもの社会ネットワーク閉鎖性が異なる例

先行研究では暗黙の了解として子どもに視点を据えて社会ネットワーク閉鎖性を把握し

ているように思われるが,社会ネットワークが閉鎖的であるか開放的であるかは,親子い

ずれに焦点を当てるのかによって変わりうる.母と子の間で閉鎖性のメカニズムが異なる

か否かについては議論が必要であり,本稿ではそれぞれの社会ネットワーク閉鎖性を独立

変数として分析することにとどめる.

(2) 本稿で検討する仮説

先行研究が親子の組同士の閉鎖性のみを扱っていたのに対し,本稿では世代間閉鎖性の

把握により様々な他者を含め,母親と子どもそれぞれの視点から閉鎖性を操作化して分析

をおこなう.以上が先行研究とは異なる本稿のアプローチであるが,検証すべき仮説は先行

研究とほぼ同様である.

仮説1:社会ネットワーク閉鎖性が高いほど学習時間が長い

仮説2:社会ネットワーク閉鎖性が高いほど学業成績が高い

先行研究では学習時間を分析に含めておらず,分析モデルで学習時間を共変量として含

めているという記述も特にはない(Carbonaro 1998; Morgan and Sørensen 1999).しか

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し,先にも述べた通り,社会ネットワーク閉鎖性により期待できる社会的コントロールの一

つが義務を履行させることであるとするならば,閉鎖性の高さは学習活動を促すことにま

ず作用し,それが結果的に高い学業成績につながると考えるべきである.そのため,主要な

インプットである学習時間への寄与を通じて,社会ネットワーク構造が教育における人的

資本形成と関連すると本稿では想定する.

4. データ・方法

(1) データ

本稿の分析に用いるデータは,「中学生と母親パネル調査」(実施時の調査名は「学校生活

と将来に関する親子継続調査」.通称 JLPS-J)である.この調査の概要や調査設計ついては

藤原(2016)に詳しい.調査対象は親子ペアであり,中学3年生およびその母親に対する郵

送調査が実施されている.有効回収数は 1854 ペアであり,有効回収率は 45.0%である.

(2) 変数

本稿の実証分析における従属変数は,先に述べた通り学習時間と学業成績である.学習時

間は,平日の家庭における学習時間と休日の家庭における学習時間の重みづけ平均により,

1日あたり学習時間として操作化している.学習時間の質問は「していない」「15 分くらい」

から「4時間以上」までの選択肢をとっており,選択肢に沿った値を割り当てた(「4時間

以上」については4とした).1日あたり学習時間は,「(7×平日の家庭における学習時間

+2×休日の家庭における学習時間)÷7」によって操作化している.学業成績については,

「あなたの現在の成績は学年の中でおよそ次のどれにあたりますか」という質問があり,

「1:上のほう」~「5:下のほう」までの選択肢がある.分析では,「上のほう」を5点,

「下のほう」を1点とするスコアを用いる.

鍵となる説明変数は社会ネットワーク閉鎖性である.JLPS-J では,中学生とその母親の

それぞれに対して相談相手に関する質問がなされている.中学生票では「あなたには,相談

したいことがあるときに話のできる人がいますか.」という質問文,母親票では「あなたに

は,お子様のことについて相談したいことがあるときに,お子様以外で話のできる人がいま

すか.」という質問文となっている.中学生票と母親票では回答選択肢に若干の違いがある

ため,表1の左端の列に示すように回答カテゴリを統合した6.表1では,中学生票,母親

6 「その他」に含まれている相談相手で表1の枠組みに入らないものは除外した.

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票それぞれにおける各カテゴリの選択割合も示されている.中学生の相談相手で最も多い

のは「友人・先輩」であり,母親がそれに次ぐ.一方,母親の相談相手として最も多いのは

夫であり,祖父母,親戚と親族ネットワークが動員されやすいことがわかる.また,近所の

知人も相談相手として選択されやすい.中学生と母親が共に選択する相談相手で最も多い

のは父親であり,通っている中学校の先生,祖父母がそれに続いている.親子の社会ネット

ワークにおける閉鎖性は,まずこれらの相手により形成されているといえるだろう.

表 1 相談ネットワークの操作化と度数分布

社会ネットワーク閉鎖性は,中学生,母親それぞれの相談ネットワークにおいて,中学生

であれば母親,母親であれば中学生が同時に当該相談相手を選択している割合によって定

義される.中学生(母親)の相談ネットワークにおいて母親(中学生)の相談相手にもなっ

ている割合が高ければ,社会ネットワーク閉鎖性が高いということを意味している.その他

の社会ネットワーク指標として,表1に示される相談相手の選択数を相談ネットワーク規

模として独立変数とする7.

その他,コントロール変数として,居住地の都市区分,子どもの性別,母親の年齢,母親

の働き方,母親の学歴,子どもの数,世帯年収,学校外教育を受けているか否か,母親が子

どもの相談相手であるか否か,母親・子ども間関係,および母親の学校への関与の度合いを

用いる.これらの要約統計量は表2で示される通りである.

7 厳密には相談相手の数とはいえないが,相談相手の間柄の数が多いということはより多

くのネットワークにアクセスしていることを意味していると考えられるため,相談ネット

ワークの規模とみなしても差し支えないと判断した.

中学生からみた間柄 中学生票 母親票 中学生(%) 母親(%) 共に選択(%)

母親 母親 74.2%

友人・先輩 通っている中学校の友人 お子様の友人 81.6% 3.3% 2.8%

小学校からの友人

別の中学校の友人

父親 父親 配偶者(夫) 40.5% 80.6% 36.7%

通っている中学校の先生 通っている中学校の先生 お子様が通っている学校の先生 27.0% 34.8% 12.2%

祖父母 祖父母 自分の母親 15.9% 59.7% 12.2%

自分の父親

配偶者の母親

配偶者の父親

親戚 親戚 親戚 7.7% 47.7% 4.2%

その他家族 その他家族 その他家族 5.3% 17.6% 1.2%

兄弟姉妹 きょうだい(お子様からみた)

小学校のときの先生 小学校のときの先生 小学校のときの先生 3.5% 3.7% 0.5%

塾・習い事の先生 塾・習い事の先生 塾・習い事の先生 2.3% 3.1% 0.3%

友人の保護者 友人の保護者 お子様の友人の保護者 2.2% 17.3% 0.6%

近所の知人 近所の知人 近所の知人 2.1% 58.7% 1.7%

※親子ペア数(%の基数)は1627

※JLP S-Jデータより筆者作成

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表 2 分析に用いる変数の要約統計量

平均(比率) 標準偏差 最小値 最大値

1日あたり学習時間平均(時間) 1.247 0.812 0 3.5

成績(教科全体) 3.384 1.225 1 5

都市区分(ref:区部)

6000人以上の市 0.380 0.485 0 1

6000人未満の市・町村 0.384 0.486 0 1

女子ダミー 0.514 0.500 0 1

母親年齢 45.192 3.929 33 58

母親有配偶ダミー 0.918 0.275 0 1

母親の働き方(ref:非正規雇用)

母正規雇用ダミー 0.154 0.361 0 1

母自営・家族ダミー 0.045 0.208 0 1

母経営・役員ダミー 0.012 0.110 0 1

母無業ダミー 0.168 0.374 0 1

母学歴(ref:中学校・高等学校)

母専門・短大・高専ダミー 0.459 0.498 0 1

母大学・大学院ダミー 0.160 0.367 0 1

子ども数(ref:1人)

子ども2人 0.541 0.498 0 1

子ども3人 0.301 0.459 0 1

子ども4人以上 0.084 0.278 0 1

世帯年収(万円) 677.974 333.989 5 2800

学校外教育ダミー 0.667 0.471 0 1

社会ネットワーク閉鎖性(子ども)

〜25% 0.026 0.160 0 1

〜50% 0.281 0.450 0 1

〜75% 0.100 0.300 0 1

〜100% 0.079 0.270 0 1

相談相手無し 0.093 0.291 0 1

社会ネットワーク閉鎖性(母親)

〜25% 0.125 0.331 0 1

〜50% 0.242 0.428 0 1

〜75% 0.058 0.235 0 1

〜100% 0.061 0.240 0 1

相談相手無し 0.016 0.125 0 1

子どもネットワーク規模 1.880 1.363 0 9

母親ネットワーク規模 3.266 1.493 0 9

母親への相談ダミー 0.742 0.437 0 1

母親・子ども間関係 17.204 4.355 5 25

母親の学校への関与 12.482 3.196 4 20

※N = 1637

※JLP S-Jデータより筆者作成

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うち,母親・子ども間関係と母親の学校への関与の度合いについては若干の説明が必要で

あろう.母親・子ども間関係については,中学生票で「あなたと政治・社会問題について話

し合う」「あなたと本・映画・テレビについて話し合う」「あなたと学校でうまくやっている

か話し合う」「あなたと進路や将来のことについて話し合う」「あなたの勉強をそばでみる」

という質問項目がある.それぞれ「まったくしていない」から「週に数回かそれ以上」の5

件法で尋ねられており,「まったくしていない」を1点,「週に数回かそれ以上」を5点とし

て,各項目について合計したスコアを母親・子ども間関係の強さの指標として定義した

(Cronbach のα係数は 0.7).母親の学校への関与については,母親票で「現在中学3年⽣

のお⼦様が中学⽣ころ,あなたご自身が次のようなことをどの程度していましたか.」とい

う質問がある.そこでは「学校行事に出席・参列した」「PTAや学級・学校ボランティアなど

の保護者活動に参加した」「自分から学校の担任やその他の教師と子の学力について話した」

「自分から学校の担任やその他の教師と子の学力以外(生活態度など)について話した」の

4項目が5件法で尋ねられている.「いつもしていた」を5点,「まったくしていなかった」

を1点として,その合計得点を母親の学校への関与度を示す指標として用いる Cronbach の

α係数は 0.78).

(3) 分析方法

教科全体での学業成績の分析は OLS による重回帰モデルを用いる.もう1つの1日あ

たり平均学習時間については,トービット回帰モデルを用いて分析をおこなう.1日あた

り平均学習時間の最小値は0分であり,定義上それよりも小さな値(負の値)をとること

はない.その結果,学習時間は0分に集中することとなり,通常の重回帰モデルにおける

誤差の仮定を満たさないという問題が生じる.

トービット回帰モデルでは,以下のモデルを立てて分析を進める.

𝑦𝑖∗ = 𝐱𝐢𝛃 + 𝜀𝑖 (1)

𝑦𝑖 = 𝐱𝐢𝛃 + 𝜀𝑖 if 𝑦𝑖∗ > 𝜏 (2)

𝑦𝑖 = 𝜏𝑦 if 𝑦𝑖∗ ≤ 𝜏 (3)

式(1)の左辺はアスタリスク(*)のついた y となっているが,これは従属変数 y の

潜在変数である.式(2)と(3)中の𝜏は,打ち切りが生じる境目となる値である.本稿

の学習時間の分析では,0いう値が𝜏に相当する.潜在変数が0下の場合には学習時間が0

分であるはずなので,式(3)の𝜏𝑦も0となる.データ上0という値をとっている場合で

も,条件によってはより小さな値をとりうると想定し,求めた潜在変数に対して回帰モデ

ルを適用するのがトービット回帰モデルである.パラメータの推定は最尤推定であり,式

(4)の通り打ち切りが生じていない場合と打ち切りが生じている場合の尤度を最大にす

Page 13: Center for Social Research and Data Archives (CSRDA ......Social Network Structure and Human Capital Creation in Education: An Examination of the Social Network Closure Hypothesis

-11-

るようなパラメータベクトル𝛃(回帰係数)と𝜎2(誤差分散に相当)を求める.𝜙は標準正

規密度関数,Φは標準正規分布の累積密度関数である8.

𝐿𝐿(𝛃, 𝜎2|𝐲, 𝐱) = ∏1

𝜎𝜙 (

𝑦𝑖 − 𝐱𝐢𝛃

𝜎)

𝑦𝑖>0

∏ Φ (𝜏 − 𝐱𝐢𝛃

𝜎)

𝑦𝑖=0

(4)

5. 分析結果

(1) 中学生とその母親の相談ネットワーク構造

表 3 相談ネットワークの重なりが生じている割合

従属変数と社会ネットワーク構造の関連を分析する前に,JLPS-J データからみえる親

子ネットワークの特徴を記述する.表3は,中学生と母親それぞれについて,ある相談相

手を選択している場合に中学生であれば母親,母親であれば中学生が同じ相談相手を選択

している割合である.中学生(母親)の紐帯の有無による,母親(中学生)の紐帯の有無

に関する条件付き確率だともいえるだろう.

中学生が相談相手として友人・先輩を選択している場合に母親も選択しているのが 3.5%

である一方,母親が相談相手として子どもの友人・先輩を選択している場合には中学生の

85.2%も友人・先輩を選択している.中学生の相談ネットワークのなかでも,友人・先輩

は母親の影響が及びにくい紐帯であるといえる.

しかし,その他の間柄では中学生が相談相手として選択している場合には母親も選択し

やすい.「小学校のときの先生」や「塾・習い事の先生」については%の差や比は大きくな

8 詳細は Long(1997)などを参照.

中学生からみた間柄母親にも紐帯存在

(子どもからみて)

子どもにも紐帯存在

(母親からみて)

友人・先輩 3.5% 85.2%

父親 90.6% 45.5%

通っている中学校の先生 45.2% 35.2%

祖父母 77.1% 20.5%

親戚 55.2% 8.9%

その他家族 22.1% 6.6%

小学校のときの先生 14.0% 13.1%

塾・習い事の先生 13.5% 9.8%

友人の保護者 25.0% 3.2%

近所の知人 79.4% 2.8%

※JLP S-Jデータより筆者作成

Page 14: Center for Social Research and Data Archives (CSRDA ......Social Network Structure and Human Capital Creation in Education: An Examination of the Social Network Closure Hypothesis

-12-

い.対照的に「友人の保護者」や「近所の知人」は,中学生との間に紐帯が存在しにく

く,母親独自の紐帯であるといえる.全体的には,中学生の相談ネットワークが母親のネ

ットワークに包含されやすく,中学校3年生とその母親の社会ネットワークには世代間閉

鎖性が形成されていると解釈できるだろう.

表 4 相談ネットワークの重複度に関するクロス集計表

中学生(子)と母親(親)の相談ネットワークに関する相互の重複度に関するクロス集

計表を,表4に示した.子どもについては,自身の相談相手と母親の相談相手が重複しな

いという者の割合が 41.9%,相談相手がいないという者の割合は 9.3%となっている.母

親については重複しない者の割合は 49.7%,相談相手不在の割合は 1.6%である.この結

果からは,子どもに比べて母親の方がやや自律的な相談ネットワークを形成できていると

解釈できる9.ただし,中学生,母親ともに重複なしというケースの割合が 40.6%であり,

1627 ペアのなかでは最頻である.表3でみたようにサンプル全体では世代間閉鎖性が形成

されている一方,母子間のネットワークが互いに独立しているペアの規模も無視できな

い.

9 相談相手がいないという状態については,相談したいがその相手がいないという場合

と,相談する必要がないという場合の両方がありうる.相談ネットワークの質問項目から

両者を区別することは容易ではないため,相談相手不在の意味については分析結果を通じ

て解釈するしかないと思われる.

親ネットワークの重複度

子ネットワークの

重複度

子ネットとの

重複なし< = 25% < = 50% < = 75% < = 100% 相談相手無し 計(子)

親ネットとの

重複無し662 0 0 0 0 21 683

< = 25% 0 3 32 0 8 0 43

< = 50% 0 164 219 23 52 0 458

< = 75% 0 1 82 59 20 0 162

< = 100% 0 36 60 13 20 0 129

相談相手無し 147 0 0 0 0 5 152

計(親) 809 204 393 95 100 26 1627

※JLP S-Jデータより筆者作成

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表 5 中学生の相談ネットワーク重複度別にみた中学生と母親の相談相手選択

表 6 母親の相談ネットワーク重複度別にみた中学生と母親の相談相手選択

中学生からみた間柄 重複無し < = 25% < = 50% < = 75% < = 100% 相談相手無し

中学生の相談ネットワーク

母親 58.4% 97.7% 92.8% 98.1% 86.0% 47.4%

友人・先輩 95.5% 93.0% 95.6% 95.7% 32.6% 0%

父親 5.6% 93.0% 76.6% 89.5% 65.9% 0%

通っている中学校の先生 13.5% 88.4% 40.8% 57.4% 23.3% 0%

祖父母 1.9% 53.5% 21.6% 54.3% 27.1% 0%

親戚 1.9% 20.9% 10.7% 25.9% 9.3% 0%

その他家族 2.3% 41.9% 6.1% 13.0% 2.3% 0%

小学校のときの先生 1.8% 23.3% 4.6% 7.4% 1.6% 0%

塾・習い事の先生 1.9% 14.0% 2.4% 4.3% 0.0% 0%

友人の保護者 0.9% 7.0% 4.1% 3.7% 1.6% 0%

近所の知人 0.1% 4.7% 3.1% 6.8% 4.7% 0%

母親の相談ネットワーク

友人・先輩 0% 0% 0.9% 1.9% 32.6% 3%

父親 71.6% 76.7% 90.0% 95.1% 87.6% 72%

通っている中学校の先生 25.3% 11.6% 36.0% 72.8% 48.8% 28%

祖父母 54.6% 39.5% 58.5% 80.9% 67.4% 63%

親戚 44.9% 41.9% 48.7% 60.5% 51.9% 41%

その他家族 18.6% 4.7% 15.5% 23.5% 16.3% 18%

小学校のときの先生 2.3% 0% 3.3% 8.6% 7.8% 4%

塾・習い事の先生 2.6% 0% 3.1% 6.2% 4.7% 2%

友人の保護者 16.5% 4.7% 17.7% 21.0% 21.7% 16%

近所の知人 57.1% 51.2% 60.9% 68.5% 58.9% 51%

※JLP S-Jデータにより筆者作成

相談ネットワーク重複度(中学生側)

中学生からみた間柄 重複無し < = 25% < = 50% < = 75% < = 100% 相談相手無し

中学生の相談ネットワーク

母親 56.4% 88.2% 93.6% 100% 94.0% 57.7%

友人・先輩 78.2% 85.8% 85.0% 89.5% 81.0% 73%

父親 3.7% 65.7% 78.9% 90.5% 91.0% 31%

通っている中学校の先生 10.8% 29.4% 43.0% 65.3% 57.0% 19%

祖父母 1.1% 6.9% 29.0% 72.6% 48.0% 15%

親戚 1.5% 2.9% 10.4% 41.1% 26.0% 4%

その他家族 1.9% 2.9% 7.9% 12.6% 21.0% 4%

小学校のときの先生 1.4% 2.5% 3.8% 11.6% 14.0% 4%

塾・習い事の先生 1.6% 2.9% 3.6% 3.2% 1.0% 0%

友人の保護者 0.7% 1.0% 3.1% 5.3% 11.0% 0%

近所の知人 0.1% 1.5% 2.3% 9.5% 12.0% 0%

母親の相談ネットワーク

友人・先輩 1% 7% 5.3% 8.4% 5.0% 0%

父親 74.0% 95.6% 87.8% 90.5% 86.0% 0%

通っている中学校の先生 26.6% 60.8% 36.9% 55.8% 29.0% 0%

祖父母 57.8% 79.4% 59.5% 76.8% 34.0% 0%

親戚 45.7% 71.1% 50.1% 50.5% 16.0% 0%

その他家族 19.0% 23.5% 16.3% 13.7% 7.0% 0%

小学校のときの先生 2.7% 7% 4.3% 5.3% 2.0% 0%

塾・習い事の先生 2.6% 6% 3.1% 4.2% 1.0% 0%

友人の保護者 16.9% 32.4% 14.8% 20.0% 2.0% 0%

近所の知人 57.7% 85.8% 61.3% 62.1% 13.0% 0%

※JLP S-Jデータにより筆者作成

相談ネットワーク重複度(母親側)

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-14-

それでは,中学生と母親の相談ネットワーク重複度によって,相談相手の構成がどのよ

うに異なるのだろうか.表4と表5は,中学生と母親の相談ネットワークの構成を,重複

度別に集計したものである.

中学生の相談ネットワークでは,「重複無し」および「相談相手無し」での母親の選択

割合が,他のカテゴリに比べて明らかに低い.「重複無し」の中学生のネットワークで相

対的に最も選ばれやすいのは友人・先輩であるが,母親のネットワークでは全く選ばれて

いない.また,中学生のネットワークではそれ以外の相手がほとんど選択されていない.

母親のネットワークについては中学生の父親(自身の配偶者)の選択割合が小さく,その

他の間柄については表3の分布とそれほど変わらない.中学生が自律的な社会ネットワー

クを構築している一方で,母親はそのネットワークには入り込まないという構造がみてと

れる.

「0%超~25%以下」では,中学生の相談ネットワークが多くの間柄から構成されてい

る.母親のネットワークは「重複無し」よりも縮小しており,中学生の社会ネットワーク

の中に母親のネットワークが包含されているような構造となっている.中学生の相談ネッ

トワークの重複度が高まるにつれて,母親の相談ネットワークが多くの間柄によって構成

され,非親族の紐帯の割合が大きくなっている.中学生の相談ネットワークの規模も大き

くなるが,それが母親のネットワークとの重複度が最も高い状態では,中学生の相談ネッ

トワークの規模は小さい.

母親の相談ネットワーク側からみると,上述した特徴を逆にしたような結果がみてとれ

る.「重複無し」では中学生,母親ともにネットワーク規模は大きくなく,母親の相談ネ

ットワーク重複度が低い場合には非親族紐帯も比較的多く含まれており,子どものネット

ワークは友人・先輩と父母に限定されやすい.母親の相談ネットワーク重複度が高まるに

つれて子どものネットワーク規模が大きくなり,母親の重複度が最も高い場合には母親の

ネットワーク規模が小さい.

以上の結果から,親子の社会ネットワークの閉鎖性について次のような整理が可能であ

る.親子間のネットワークに重複がない場合が最も開放的であると言えなくもないが,同

時に中学生,母親ともに相談ネットワークの規模も小さいことから,社会ネットワーク形

成に関して活発ではない集団であるともいえるだろう.相談ネットワークの重複度が高ま

ると,親子のネットワークサイズもともに大きくなり,中学生独自のネットワークは友

人・先輩,母親独自のネットワークは保護者同士や近隣の知人との人間関係を基礎として

いると考えられる.社会ネットワークの閉鎖性は家族・親族ネットワークをなす血縁紐帯

により高められ,ある程度の開放性は非血縁紐帯によって高まる.一方が他方のネットワ

ークに完全に含まれる場合には,いずれかのネットワークは血縁紐帯中心の小さなもの

で,他方のネットワークがより多様な紐帯から構成されている.

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(2) 社会ネットワーク構造と学習時間・学業成績の関連

図 3 相談ネットワーク重複度と1日あたり平均学習時間の関連

図 4 相談ネットワーク重複度と学業成績の関連

中学生とその母親の相談ネットワークの構造が,学習時間と学業成績とどのように関連

しているのかを示したものが図3と図4である.棒グラフ中の垂線は,95%信頼区間をあ

らわす.図3では,1日あたり平均学習時間の各カテゴリの平均値も示している.

学習時間の平均を中学生側のネットワーク重複度ごとに比較すると,重複度がない場合

と 100%の場合と比べて,ある程度母親とのネットワークに重なりのあるグループで平均

値の高いことが見てとれる.たとえば,重複なしの平均値は 1.19 時間(71.4 分),重複度

1.19

1.34 1.32 1.38

1.12 1.22

1.19

1.34 1.25

1.43 1.28

1.41

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8重複なし

〜2

5%

〜5

0%

〜7

5%

〜1

00%

相談相手無し

重複なし

〜2

5%

〜5

0%

〜7

5%

〜1

00%

相談相手無し

ネットワーク重複度(中学生側) ネットワーク重複度(母親側)

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

重複なし

〜2

5%

〜5

0%

〜7

5%

〜1

00%

相談相手無し

重複なし

〜2

5%

〜5

0%

〜7

5%

〜1

00%

相談相手無し

ネットワーク重複度(中学生側) ネットワーク重複度(母親側)

Page 18: Center for Social Research and Data Archives (CSRDA ......Social Network Structure and Human Capital Creation in Education: An Examination of the Social Network Closure Hypothesis

-16-

が 50%~75%以下のグループ平均値は 1.38 時間(82.8 分)であり,1日あたり約 11 分の

差となっている.1週間あたりでみれば,1時間超の家庭における学習時間の差が生まれ

ているといえる.一方で重複度が最も高い場合には 1.12 時間(67.2 分)となり,ネット

ワークの重なりが大きすぎても学習時間が短いという結果である.95%信頼区間の重なり

があるため,以上の結果を統計的有意性の観点から強く裏付けることは難しいため,後述

の多変量解析によりさらに検討する必要がある.

学習時間の平均を母親側のネットワーク重複度間で比較すると,中学生のネットワーク

の場合と同様に重複度が高いと学習時間が長いものの,重複度が最も高い場合は中間的な

重複度よりもやや短いという結果となった.母親ネットワークでは重複度が 25%~50%の

場合に最も高い場合よりも平均値がやや小さいという不規則な傾向もみられるが,全体的

にはある程度ネットワークに重なりのある方が学習時間の平均値が高いということが,中

学生,母親のネットワーク双方について言えることであろう.

教科全体での学業成績についても,学習時間と類似の結果が得られている.こちらにつ

いても,中学生と母親の間で相談ネットワークの重なりが全くない場合よりは,ある程度

重なりのある方が学業成績平均は高いという結果となっている.学業成績の場合も,95%

信頼区間の重なりが各カテゴリ間である程度認められるため,図4の平均値の差について

みられる傾向については,より詳細に検討をおこなう必要がある.

「相談相手無し」については,中学生か母親かの別,また学習時間か学業成績かによっ

て他のカテゴリ平均値との差の出方がやや異なる.これらの結果についてはおそらく,相

談したいことがないので相談相手がいない場合と,相談したいことがあるがそのような相

手がいない場合の傾向が交絡しているものと思われる.本稿の分析では「相談相手無し」

であることの意味については十分に検討できないが,今後の研究課題として取り組む余地

はあるだろう.

(3) 多変量解析

先ほどの二変数の分析では,相談ネットワークに重複が全くない場合や,相手のネットワ

ークに対して完全に重複している場合と比べて,中程度の重複度の場合に学習時間が長く,

学業成績も高いという傾向がみられた.ただし,相談ネットワーク構造と学習時間,学業成

績の関連の背後には様々な要因が想定される.そのため,以下では他の背景変数等を考慮し

た多変量解析を通じて,社会ネットワーク構造と教育上のアウトカムの関連を検討したい.

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表 7 学習時間に関するトービット回帰分析の推定結果

表7は,学習時間を従属変数とするトービット回帰分析の推定結果である.モデル1-

1では,相談ネットワークの重複度変数ではなく子ども,母親それぞれのネットワーク規

模と,子どもが母親を相談相手として選んでいるかのダミー変数を独立変数として用いて

いる.子どものネットワーク規模が大きく,また母親を相談相手として選択している場合

に学習時間の長い傾向がある(ただし,統計的有意性は 10%水準).

モデル1-2は子どものネットワーク重複度,モデル1-3は母親のネットワーク重複

度を独立変数に含めたモデルである.図3と同様に,相談ネットワークがある程度重複し

ている場合に学習時間が長いという結果となっている(5%水準で統計的に有意).

モデル1-4と1-5は,モデル1-2,モデル1-3のそれぞれに,ネットワーク規

模,母子間関係,母親の学校への関与度を示す変数を含めた推定結果である.これらの変

数をコントロールした後でも,相談ネットワーク重複度変数の係数は統計的に有意であ

る.パーソナルネットワークの規模や,母子間のダイアド関係には回収されない,社会ネ

標準誤差 標準誤差 標準誤差 標準誤差 標準誤差

都市規模(ref:区)

6000人以上の市 0.066 0.057 0.066 0.056 0.061 0.056 0.056 0.056 0.053 0.056

6000人未満の市・町村 0.085 0.058 0.095 † 0.058 0.086 0.057 0.092 0.057 0.085 0.057

女子ダミー 0.220 *** 0.043 0.234 *** 0.044 0.237 *** 0.044 0.200 *** 0.044 0.202 *** 0.044

母親年齢 0.003 0.006 0.003 0.006 0.003 0.006 0.002 0.006 0.002 0.006

母親有配偶ダミー 0.201 * 0.086 0.191 * 0.085 0.202 * 0.086 0.184 * 0.085 0.192 * 0.085

母親働き方(ref:非正規雇用)

母正規雇用ダミー -0.064 0.064 -0.057 0.063 -0.076 0.064 -0.045 0.063 -0.061 0.063

母自営・家族ダミー -0.014 0.105 -0.023 0.105 -0.023 0.105 -0.046 0.103 -0.043 0.103

母経営・役員ダミー 0.051 0.201 0.056 0.201 0.041 0.201 0.039 0.198 0.029 0.198

母無業ダミー 0.054 0.060 0.052 0.060 0.047 0.059 0.039 0.059 0.037 0.059

母親学歴(ref:中学校・高校)

母専門・短大・高専ダミー 0.030 0.048 0.031 0.048 0.035 0.048 0.036 0.047 0.039 0.048

母大学・大学院ダミー 0.170 * 0.068 0.168 * 0.067 0.174 * 0.067 0.164 * 0.067 0.166 * 0.067

子ども数(ref:1人)

子ども2人 -0.085 0.085 -0.079 0.085 -0.085 0.085 -0.050 0.084 -0.054 0.084

子ども3人 -0.154 † 0.089 -0.155 † 0.089 -0.155 † 0.089 -0.115 0.088 -0.114 0.088

子ども4人以上 -0.182 † 0.109 -0.185 † 0.109 -0.197 † 0.109 -0.142 0.108 -0.152 0.108

世帯年収(万円) 0.00001 0.00007 0.000004 0.00007 0.00001 0.00007 0.00001 0.00007 0.00002 0.00007

学校外教育ダミー -0.053 0.047 -0.057 0.047 -0.051 0.047 -0.069 0.046 -0.065 0.046

ネットワーク重複度(子ども側)

〜25% 0.229 † 0.135 0.212 0.155

〜50% 0.176 ** 0.053 0.160 * 0.065

〜75% 0.229 ** 0.076 0.211 * 0.098

〜100% -0.057 0.084 -0.064 0.086

相談相手無し 0.044 0.078 0.042 0.083

ネットワーク重複度(母親側)

〜25% 0.188 ** 0.068 0.163 * 0.076

〜50% 0.110 * 0.054 0.065 0.067

〜75% 0.281 ** 0.094 0.233 * 0.116

〜100% 0.139 0.092 0.086 0.113

相談相手無し 0.363 * 0.173 0.253 0.179

子どもネットワーク規模 0.033 † 0.017 -0.010 0.025 0.004 0.023

母親ネットワーク規模 -0.003 0.015 -0.022 0.016 -0.026 0.017

母親への相談ダミー 0.101 † 0.053 -0.011 0.057 -0.010 0.057

母親・子ども間関係 0.027 *** 0.005 0.027 *** 0.005

母親の学校への関与 0.025 *** 0.007 0.025 *** 0.007

切片 0.680 * 0.281 0.720 ** 0.276 0.731 ** 0.275 0.114 0.293 0.124 0.290

σ 0.857 0.016 0.855 0.016 0.855 0.016 0.843 0.016 0.843 0.016

左センサーされたケース数(0)

センサーされていないケース数

N

対数尤度

B IC

*** p < .001, ** p < .01, * p < .05, † p < .1

-2043.393

4256.86

134

1493

1627

-2047.920

4251.124

134

1493

1627

134

1493

1627

-2044.375

4258.824

134

1493

1627

-2019.394

4245.834

係数 係数 係数 係数 係数

134

1493

1627

-2020.526

4248.098

モデル1-1 モデル1-2 モデル1-3 モデル1-4 モデル1-5

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-18-

ットワーク閉鎖性独自の関連があるといえるだろう.

表 8 学業成績(教科全体)に関する OLS回帰分析の推定結果

それでは,学業成績に対する社会ネットワーク構造の関連についてはどうか.表8が重

回帰分析モデルの推定結果である.まず,モデル適合度を示す BIC を見ると,モデル2-

1が最も望ましいという結果となっている10.ネットワーク規模も母親への相談も学業成

績の水準とは関連しておらず,社会ネットワークによる説明力は,その他の背景要因(母

学歴,きょうだい数,世帯収入,学校外教育経験,学習時間)に比べて弱いと解釈される

こととなる.ネットワークの重複度と学業成績の関連については,子どものネットワーク

重複度が最も高い場合にマイナスの係数を示している(モデル1-2では5%水準,モデ

ル1-4では 10%水準).

以上,表7と表8の分析結果をまとめると,仮説1は支持されそうだが仮説2が支持さ

れているとは言い難い.ある程度の社会ネットワーク閉鎖性が教育における人的資本形成

に寄与しているとするならば,それは閉鎖性が子どもの家庭学習活動を促し,その結果生

10 ベイジアン情報量基準と呼ばれるこの指標は,値が小さいほどモデルの当てはまりがよ

いと解釈できる.平易な解説は,鳶島(2014)などを参照.

標準誤差 標準誤差 標準誤差 標準誤差 標準誤差

都市規模(ref:区)

6000人以上の市 -0.013 0.076 -0.012 0.076 -0.022 0.076 -0.009 0.076 -0.012 0.076

6000人未満の市・町村 0.031 0.078 0.040 0.078 0.030 0.078 0.052 0.078 0.047 0.078

女子ダミー -0.033 0.059 -0.035 0.059 -0.032 0.059 -0.071 0.060 -0.067 0.060

母親年齢 -0.012 0.008 -0.013 † 0.008 -0.012 0.008 -0.013 0.008 -0.012 0.008

母親有配偶ダミー 0.183 0.115 0.192 † 0.114 0.183 0.115 0.177 0.115 0.173 0.115

母親働き方(ref:非正規雇用)

母正規雇用ダミー -0.139 0.085 -0.135 0.085 -0.139 0.086 -0.141 † 0.085 -0.146 † 0.086

母自営・家族ダミー 0.018 0.141 0.013 0.141 0.026 0.142 -0.004 0.142 0.018 0.141

母経営・役員ダミー -0.648 * 0.269 -0.622 * 0.269 -0.632 * 0.270 -0.626 * 0.269 -0.636 * 0.269

母無業ダミー -0.010 0.080 0.000 0.080 -0.016 0.080 -0.009 0.080 -0.016 0.080

母親学歴(ref:中学校・高校)

母専門・短大・高専ダミー 0.239 *** 0.065 0.238 *** 0.065 0.239 *** 0.065 0.238 *** 0.065 0.236 *** 0.065

母大学・大学院ダミー 0.667 *** 0.091 0.673 *** 0.091 0.665 *** 0.091 0.671 *** 0.091 0.657 *** 0.091

子ども数(ref:1人)

子ども2人 -0.052 0.114 -0.046 0.114 -0.055 0.114 -0.040 0.114 -0.040 0.114

子ども3人 -0.093 0.120 -0.089 0.120 -0.092 0.120 -0.070 0.120 -0.064 0.120

子ども4人以上 -0.288 * 0.147 -0.294 * 0.146 -0.290 * 0.147 -0.272 † 0.147 -0.262 † 0.147

世帯年収(万円) 0.00038 *** 0.00010 0.00038 *** 0.00010 0.00038 *** 0.00010 0.00038 *** 0.00010 0.00039 *** 0.00010

学校外教育ダミー 0.225 *** 0.063 0.219 ** 0.063 0.225 *** 0.063 0.211 ** 0.063 0.212 ** 0.063

1日あたり平均学習時間 0.227 *** 0.036 0.222 *** 0.036 0.230 *** 0.036 0.218 *** 0.037 0.224 *** 0.037

ネットワーク重複度(子ども側)

〜25% 0.244 0.183 0.207 0.213

〜50% 0.093 0.072 0.064 0.089

〜75% 0.185 † 0.103 0.128 0.134

〜100% -0.197 † 0.113 -0.235 * 0.117

相談相手無し -0.126 0.105 -0.126 0.114

ネットワーク重複度(母親側)

〜25% 0.067 0.093 0.001 0.105

〜50% 0.071 0.073 -0.037 0.091

〜75% 0.224 † 0.128 0.032 0.159

〜100% 0.053 0.124 -0.102 0.154

相談相手無し -0.306 0.235 -0.364 0.246

子どもネットワーク規模 0.038 0.023 -0.008 0.034 0.042 0.032

母親ネットワーク規模 0.009 0.020 0.021 0.021 0.001 0.024

母親への相談ダミー 0.093 0.072 0.054 0.077 0.050 0.077

母親・子ども間関係 0.016 * 0.007 0.017 * 0.007

母親の学校への関与 -0.019 † 0.010 -0.018 † 0.010

切片 2.809 *** 0.378 2.975 *** 0.373 2.956 *** 0.372 2.862 *** 0.399 2.827 *** 0.395

N

R 2

B IC

*** p < .001, ** p < .01, * p < .05, † p < .1

係数 係数 係数 係数 係数

モデル2-1 モデル2-2 モデル2-3 モデル2-4 モデル2-5

0.112

5238.284

1627 1627

0.116

5246.954

1627

0.118

5279.443

1627

0.112

5254.635

1627

0.121

5274.223

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-19-

じる学習時間の長さが学業達成につながっているというメカニズムであると考えられる

11.

6. まとめ

本稿では,社会ネットワーク閉鎖性仮説の枠組みを援用しながら,中学生と母親をとりま

く社会ネットワーク構造が教育における人的資本形成とどのように関連しているのかを明

らかにしようとしてきた.分析の結果は大きく3点に要約される.第1に,社会ネットワー

ク閉鎖性とアウトカムの関連が直線的ではないこと,第2に社会ネットワーク閉鎖性が関

連するのは学習活動に対してであり,学業達成それ自体に対してではないということ,第3

に,社会ネットワーク閉鎖性が子ども側のネットワークにおいて意味を持つことである.

第1の点は,教育を対象とする社会ネットワーク論的アプローチではあまり言及されて

こなかったことである.しかし,組織間取引ネットワークと企業の倒産の関連を検討した経

済社会学的研究では,凝集性が中間的である場合に倒産リスクが最も低いという結果が報

告されている(Uzzi 1996).凝集的なネットワーク内では様々な取引が行いやすいが,その

ネットワーク内のどこかで問題が生じれば,取引関係が連鎖的に崩れてしまう.そのため,

ある程度距離を置いた関係(arm’s length tie)を持っておくことが重要なのだという解釈

がなされている.

組織研究の文脈を学業達成研究の文脈にそのまま当てはめることはできない.しかし,両

者に共通する社会ネットワーク閉鎖性の長所と短所に立ち返れば,社会ネットワークの持

つ意味に共通性があるとも考えられる.閉鎖性が低すぎる場合,母親が把握できる子どもの

情報量が少なくなるため,母親から子どもへの働きかけにかかるコストは高くなり,有効性

は低くなると考えられる.一方,閉鎖性が高すぎる場合には,ネットワーク内部での人間関

係上の問題が生じた場合,母子双方にとって心理的負担の生じる可能性がある.あるいは,

閉鎖性が高すぎることにより母親の子どもを理解したつもりになってしまい,結果として

母子間の相互作用が生じなくなり,母親から子どもへの働きかけが生まれないという可能

性も考えられる.一時点のパネル調査では前者の可能性をデータでとらえることは難しい

かもしれず,ありうるとすれば後者の可能性かもしれない.

以上の議論について,母子間関係と相談ネットワーク重複度の関連を示したものが図5

である.表7,表8の回帰分析では母子間関係の強さは学習時間,学業達成双方とプラスの

関連を有していた.図5をみると,重複度が低すぎる場合や高すぎる場合に比べて,中間的

11 表8について,学習時間を除いた推定結果では,子どものネットワーク重複度について

は表7とほぼ同様の結果,母親のネットワーク重複度について 50%~75%のグループでプ

ラスに有意な係数が得られた.

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な場合に母子間関係の強いことが読み取れる.社会ネットワーク閉鎖性が中程度である,す

なわち母親と子どもがそれぞれ独自のネットワークを持ちつつ,重なる部分もあるという

状況のほうが,母子間の相互作用が多くなるということを意味している.子どものネットワ

ークにある程度の独自性があるからこそ,母親は子どもとの相互作用を通じて子どもを理

解しようとし,その過程で学習活動への働きかけも生じるのではないかと思われる.

先行研究の多くでは社会ネットワーク閉鎖性と開放性を対立的にとらえる向きが強い.

しかし,両者が同時に備わった社会ネットワーク構造の存在はすでにみたように量的に決

して少なくない.閉鎖性による衆人環視効果,開放性による情報効率性の両方が生じる社会

ネットワーク構造において,人的資本形成に有利な状況が生まれるのであると考えられる.

また,以上の議論を踏まえて社会ネットワークの中の親子関係の位置付けを考えると,母子

間のネットワーク同士に適度な距離があることで親子のポジティブな相互作用が増え,教

育における人的資本形成過程にも好ましい影響があるのかもしれない.

図 5 相談ネットワークの重複度と母子間関係得点の関係

第2の点は,社会ネットワーク閉鎖性がその内部にいる者の行為に影響するという前提

に立ち返れば,自然な結果ともいえる.閉鎖性が高いため子どもの認知スキルが高まるとい

うメカニズムに現実味はない.むしろ,閉鎖性の(ある程度の)高さを通じて子どもの学習

活動が規律づけられることによって,学業達成につながるという解釈の方がありうるもの

であろう.上記の解釈は,先行研究において世代間閉鎖性が学業達成に影響せず,退学の抑

制に影響したという知見とも整合的である.

第3の点は,社会ネットワーク閉鎖性により規律づけられるのは子どもの方であり,母親

については明確な関連がみられないことを意味している.回帰モデルの BIC をみても,母

親の重複度よりも子どものネットワーク重複度を含むモデルの方が適合的である.今回の

10

12

14

16

18

20

22

重複なし

〜2

5%

〜5

0%

〜7

5%

〜1

00%

相談相手無し

重複なし

〜2

5%

〜5

0%

〜7

5%

〜1

00%

相談相手無し

ネットワーク重複度(子ども側) ネットワーク重複度(母親側)

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分析結果からは,子どものネットワークが母親のネットワークからの独立性を高めること

よりは,社会ネットワークを通じて母親が子どもをコントロールすることの影響の方が,人

的資本形成にとって重要であるといえるだろう.

以上の分析結果については,因果推論上の課題や社会ネットワークの測定などの技術的

課題を含め,今後蓄積されるデータを用いたパネルデータ分析や,別の調査データを用いて

さらに検討を進める必要がある.しかし,母子それぞれの社会ネットワークから世代間閉鎖

性を直接操作化した,日本社会を事例とする実証分析はこれまでにはない.本稿の知見に対

する批判,再検証を通じて,社会ネットワーク構造と人的資本形成の関係の解明がさらに進

めてゆくことが今後求められる.

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東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクトについて

労働市場の構造変動、急激な少子高齢化、グローバル化の進展などにともない、日本社

会における就業、結婚、家族、教育、意識、ライフスタイルのあり方は大きく変化を遂げ

ようとしている。これからの日本社会がどのような方向に進むのかを考える上で、現在生

じている変化がどのような原因によるものなのか、あるいはどこが変化してどこが変化し

ていないのかを明確にすることはきわめて重要である。

本プロジェクトは、こうした問題をパネル調査の手法を用いることによって、実証的に

解明することを研究課題とするものである。このため社会科学研究所では、若年パネル調

査、壮年パネル調査、高卒パネル調査、中学生親子パネル調査の4つのパネル調査を実施

している。

本プロジェクトの推進にあたり、以下の資金提供を受けた。記して感謝したい。

文部科学省・独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究 S:2006 年度~2009 年度、2010 年度~2014 年度 基盤研究 C:2013 年度~

2016 年度 特別推進研究:2015 年度~2017 年度 若手研究 A:2015 年度~2018 年度

基盤研究 B:2016 年度~2020 年度

厚生労働科学研究費補助金 政策科学推進研究:2004 年度~2006 年度

奨学寄付金 株式会社アウトソーシング(代表取締役社長・土井春彦、本社・静岡市):2006 年度

~2008 年度

東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクト

ディスカッションペーパーシリーズについて

東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクトディスカッションペーパーシリーズは、

東京大学社会科学研究所におけるパネル調査プロジェクト関連の研究成果を、速報性を重

視し暫定的にまとめたものである。

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東京大学社会科学研究所 パネル調査プロジェクト

http://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/panel/