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初中級フランス語学習者の スピーキング能力とその進歩 川口 裕司 東京外国語大学 2018122日 於西南学院大学

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初中級フランス語学習者のスピーキング能力とその進歩

川口 裕司

東京外国語大学

2018年1月22日 於西南学院大学

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説明の流れ

1.スピーキングの言語処理

2.スピーキング能力の自己評価

3.スピーキングタスク

4.スピーキングストラテジー

5.3つの言語処理系の関係

6.スピーキングタスク評価の改良

7.スピーキング能力の経年調査

結論にかえて

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1.スピーキングの言語処理

冨田かおる、小栗裕子、河内千栄子編集、「第3章 スピー

キングの習得と指導」、『英語教育学大系第9巻 リスニングとスピーキングの理論と実践 効果的な授業を目指して』, 2011, 大修館書店, p.153.

概念処理部門(モニタリング)

形式処理部門

調音処理部門

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ここでの分析

概念処理部門1.スピーキング能力の自己評価アンケート(言語化前)

調音処理部門2.スピーキングタスクの評価流暢さ(言語化)

モニタリング3.スピーキングの学習方略(言語化後)

形式処理部門2.スピーキングタスクの評価文法的適切性/語彙的適切性/発音

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2.スピーキング能力の自己評価(言語化前)

実施:

2015年1月 17名

2015年5月 9名

対象:

東京の大学2年生

26名

A学部 B学部 合計

男子 1名 4名 5名

女子 11名 10名 21名

合計 12名 14名 26名

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CEFR-J 4技能から5技能へ話すこと(やりとり・発表)

話すこと(やりとり)

・基礎的な語句を使って、「助けて!」や「~が欲しい」などの自分の要求を伝えることができる。また、必要があれば、欲しいものを指さししながら自分の意思を伝えることができる。

1. 全然できない 2. あまりできない 3. ほぼできる 4. できる

・一般的な定型の日常の挨拶や季節の挨拶をしたり、そうした挨拶に応答したりすることができる。

1. 全然できない 2. あまりできない 3. ほぼできる 4. できる

・なじみのある定型表現を使って、時間・日にち・場所について質問したり、質問に答えたりすることができる。

1. 全然できない 2. あまりできない 3. ほぼできる 4. できる

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話すこと(発表)

・簡単な語や基礎的な句を用いて、自分についてのごく限られた情報(名前、年齢など)を伝えることができる。

1. 全然できない 2. あまりできない 3. ほぼできる 4. できる

・前もって話すことを用意した上で、基礎的な語句、定型表現を用いて、人前で実物などを見せながらその物を説明することができる。

1. 全然できない 2. あまりできない 3. ほぼできる 4. できる

・基礎的な語句、定型表現を用いて、限られた個人情報(家族や趣味など)を伝えることができる。

1. 全然できない 2. あまりできない 3. ほぼできる 4. できる

・基礎的な語句、定型表現を用いて、簡単な情報(時間や日時、場所など)を伝えることができる。

1. 全然できない 2. あまりできない 3. ほぼできる 4. できる

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能力レベル

中間的な自己評価の質問

→A2とA1が混在

「ほぼできる~できる」(3点)

と自己評価した質問

→A1レベルの質問が多い

「あまりできない」(2点)

と自己評価した質問

→B1レベルの質問が多い

したがって学生たちは自分をA1~A2レベルと自己評価していることがわかる。

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学生のグループ化(クラスター分析、(平方ユークリッド距離、ウォード法)

グループ1

自己評価が低い学生たち

グループ2

自己評価が高い学生たち

学部・性別・海外経験における差はなかった

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3.スピーキングタスク(言語化)

話す(発表)と話す(やりとり)に関するA1とA2のタスクを21問出題

Q10 夏と冬ではどちらが好きですか?その理由も答えてください。

Q15 (地図を見ながら)あなたは、道を尋ねられました。交番までの行き方を説明してください。

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評価者:

言語学を専攻するフランス語ネイティブ話者2名

4段階尺度:

3.Très bien(とてもよい)、2.Bien(よい)、

1.Passable(まあまあ)、0.Mauvais(悪い)

5つの評価観点:

1.語彙的適切性、2.流暢さ、3.文法的適切性、

4.発音、5.全体的評価

タスクの評価

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評価の一致度

Cronbachアルファの信頼性係数

①語彙的適切性、②流暢さ、③文法的適切性のみを分析

0.734 0.754 0.780.582

0.668

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

語彙的適切性 流暢さ 文法的適切性 発音 全体的な評価

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(クラスター分析、平方ユークリッド距離、ウォード法)

上位グループ平均:2.34点下位グループ平均:2.10点

t=2.66, n=24, p=.014グループ間に有意な差

タスク評価と学生のグループ

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4.スピーキング学習ストラテジー(言語化後)

実施日:2015年5月22日

全54項目(うちストラテジーに関する51の質問)

カテゴリー:メタ認知(MET):15, 認知(COG):14, 補償(COM):14, 情意(AFF):4, 社会(SOC):4

回答方法:

全く当てはまらない

あまり当てはまらない

ときどき当てはま

通常当てはま

よく当てはま

常に当てはま

目参考とする頻度指数 0% ~20% ~40% ~60% ~80% ~100%

■ 普段の生活の中で

4 スピーキング能力向上のために、明確な目標を立てる 1 2 3 4 5 6

5 予定を立て、スピーキングの練習に十分時間をあてる 1 2 3 4 5 6

6 自分のスピーキング能力の進歩について考える 1 2 3 4 5 6

●項目4~54は、それぞれ1~6(1:全く当てはまらない、2:あまり当てはまらない、3:ときどき当てはまる、4:通常当てはまる、5:よく当てはまる、6:常に当てはまる)のなかで、最も自分に当てはまる数字を選んで丸してください。

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学生のグループ

(クラスタ分析、平方ユークリッド距離、ウォード法)

3つのグループ間の平均値の差は5%の危険率で有意(分散分析、Tukeyの多重比較)

グループ1あまり用いない:

6名

Avg 2.56

グループ2ときどき用いる:

12名

Avg 3.17

グループ3通常用いる:

8名

Avg 3.54

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学生グループとストラテジー補償ストラテジーは高い

Q41. 相手が日本語がわかる場合、時々日本語に切り替えて話す (4.12)Q45. なじみのある単語を使う (4.65)Q46. 簡単な文構造の文を使う (4.60)Q50. フランス語での会話中適切な語が思いつかないとき、ジェスチャーをまじえて伝える (4.11)Q54. うまく伝えられないときに相手の助けを求める (4.38)

Q42. 会話の内容を自分の知っている単語や表現を使うトピックに変えようとする (2.42)Q51. 英語で適切な語がわからないとき、新語を作る (1.73)

2.94

3.39

3.96

3.46 3.44 3.54

2.17

2.95

3.54

3.32

3.10 3.17

1.58

2.36

2.65

2.86

2.50 2.54

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

③(高グループ)

②(中グループ)

①(低グループ)

情意 認知 補償 メタ認知 社会 全体

ストラテジーの平均値

2= あまり当てはまらない, 3= ときどき当てはまる4= 通常あてはまる

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情意ストラテジーは低い

Q14. フランス語学習に関する自分の感情や考えたことを書き留める。(1.54)Q15. フランス語学習や英語を話したり聞いたりするときの自分の感情について他人に話す (2.08)Q35. フランス語を話しているときに、自分が緊張しているかどうか意識を向ける (2.19)

Q48. 間違いをしても英語で話そうとする (3.12)

2.94

3.39

3.96

3.46 3.44 3.54

2.17

2.95

3.54

3.32

3.10 3.17

1.58

2.36

2.65

2.86

2.50 2.54

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

③(高グループ)

②(中グループ)

①(低グループ)

情意 認知 補償 メタ認知 社会 全体

ストラテジーの平均値

2= あまり当てはまらない, 3= ときどき当てはまる4= 通常あてはまる

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概念処理部門1.スピーキング能力の自己評価アンケート(言語化前)

調音処理部門2.スピーキングタスクの評価流暢さ(言語化)

モニタリング3.スピーキングの学習方略(言語化後)

形式処理部門2.スピーキングタスクの評価文法的適切性/語彙的適切性/発音

5.3つの言語処理系

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3つの言語処理系の関係

概念処理とモニタリング

学習ストラテジーと言語能力自己評価強い相関( 1%の危険率)

→言語能力自己評価が高い学習者は、学習ストラテジーを多用する傾向

形式・調音処理部門とモニタリング

タスク評価と学習ストラテジー有意な相関( 5%の危険率)

→スピーキングタスク評価が高いほど、学習ストラテジーを多用する傾向

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3つの言語処理系の機能

概念処理部門

形式処理部門

調音処理部門 顕在的発話

モニタリング

言語ストラテジー

・認知的・メタ認知的・補償的・社会的・情意的

ETC

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2015年評価ガイドラインなし

ACTFL評価ガイドラインあり

CEFR評価ガイドラインあり

3つの評価観点: ①語彙の適切さ、②流暢さ、③文法の適切さ

タスクの種類の区別なしタスクの種類の区別あり「やりとり」「発表」

2015年 2016年10月 2016年11月

タスクの遂行言語能力レベル

ACTFLの中級言語能力レベル

CEFRのA1からB2まで

4段階の尺度:1わるい~4とてもよい

4段階の尺度:1中級low~4それ以上

4段階尺度:「やりとり」:1 A1~4 B2

「発表」:1 A1~4 B2

6.スピーキング評価の改良

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Cronbachのアルファ係数

• 2015年評価よりCEFR 評価の方が高い• ACTFL評価:流暢さ以外、信頼度係数が低い• ガイドラインの詳細なCEFR評価が最も高い

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

語彙的適切性 流暢さ 文法的適切性

Cronbachのα係数

2015年評価

ACTFL 評価

CEFR 評価

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7.スピーキング能力の経年調査

対象:

2015年調査と同じ大学2年生3名全員が女性2016年9月からフランスに1年間留学

実施:

2017年8月

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スピーキングタスク

A2の11タスクは2015年調査と同じ新たな8タスクB1: 2タスク(発表)2タスク(やりとり)

B2: 2タスク(発表)2タスク(やりとり)

以下は2015年度調査と同じ

言語能力の自己評価

スピーキング学習ストラテジー

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スピーキングタスク評価

文法的適切性CEFR-Jに準拠

語彙的適切性

流暢さ評価者の基準

発音

流暢さ:レベル1:休止による中断・延長、

言い直しの意思なし、等発音:レベル1:最小対なし、理解困難(fleur:feulu)

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2015年度と2017年度スピーキングタスク評価のCronbachアルファ係数

語彙について特に高い信頼性が見られる総じて二人の評価は一致している

0.8

0.85

0.9

0.95

1

文法的適切性 語彙的適切性 流暢さ 発音

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3名のスピーキング能力の経年観察

学習者1 > 学習者3 > 学習者2

全体平均(発表) 3.24 2.60 2.43

進歩 語彙、文法 発音 発音

後退 発音 文法 流暢さ

全体平均(やりとり) 3.19 2.64 2.36

進歩 語彙 発音 発音

後退 流暢さ 文法 流暢さ

能力レベル + B1 + A2 + A2

2015年9月のTCFでは、全員が330-350点台

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共通タスクにおける進歩

学習者1は、流暢さ以外が大きく進歩した 学習者3は、全体的に小さく進歩した 学習者2は、流暢さが後退した

全体として発音能力が伸びているある程度、留学経験が言語能力の進歩につながっている

00.5

11.5

22.5

3語彙

流暢

文法

発音

学習者1

2015 2017

00.5

11.5

22.5

3語彙

流暢

文法

発音

学習者2

2015 2017

00.5

11.5

22.5

3語彙

流暢

文法

発音

学習者3

2015 2017

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学習ストラテジーの変化

社会ストラテジーの使用が最も伸びている

Q8. フランス語話者の文化について学習する

Q23. 他の学生とフランス語で話す

Q36. フランス語を話しているときに、間違いを直してもらうようにフランス語話者に頼む

Q49. フランス語がわからないとき、ゆっくり話してもらうか、もう一度言ってもらう

情意・メタ認知ストラテジーの使用は全体平均よりも低い

伸び幅

社会 1.00

認知 0.78

補償 0.58

全体平均 0.55

メタ認知 0.27

情意 0.16

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

情意 認知 補償 メタ認知 社会 全体

2015 2017

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学習者1の留学生活

情意 認知 補償 メタ認知 社会 全体

学生1 +1.25 +1.64 +0.50 +0.20 +1.25 +0.84

「留学先は日本人がほとんどなく、フランス人の友達に囲まれて勉強しました。学生寮では色々な国の学生とお互いにフランス語で話しました。フランス語の授業は後期だけでした。」

社会ストラテジー、認知ストラテジーなどの使用が頻繫になった。

フランス人の友達で、発音と語彙が向上。

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学習者2の留学生活

情意 認知 補償 メタ認知 社会 全体

学生2 -0.75 +0.64 +0.07 +0.40 +1.00 +0.33

「学生寮に住んでいました。仲のいい友達は外国人で、学校ではフランス人の友達ができなかったので、なかなかフランス語母語話者と話す機会がありませんでした。週に1回2時間でフランス語の授業がありました。」

社会ストラテジーの使用は頻繫になった。フランス人の友達がなく、言語能力の進歩が小さい。

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学習者3の留学生活

「学生寮で生活していました。普段の生活でフランス語を話す機会はなかったです。授業では他の国から来た留学生と学ぶ少人数コースに所属していました。友達とはフランス語で会話しました。でも留学先では英語コースに所属する留学生がいて、彼らとは英語で話すことが多かったです。」

社会ストラテジーと補償ストラテジーの使用は頻繫になった。言語能力の進歩は比較的小さい。

情意 認知 補償 メタ認知 社会 全体

学生3 0.00 +0.07 +1.14 +0.20 +0.75 +0.55

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結論にかえて

3つの言語処理系の考慮

言語化前、言語化、言語化後の能力を区別

モニタリング能力の重要性

言語能力自己評価やタスク評価との相関

留学中の生活と言語能力の進歩

社会ストラテジーの伸長、発音の上達

個別的な要因が多い

継続的研究の必要性

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佐藤千秋, 関敦彦, 伊藤玲子, 川口裕司 (2016). 「初級フランス語におけるスピーキング能力可視化の試み-CEFR-J自己評価, タスク評価, 学習ストラテジー調査」, ふらんぼー41, 東京外国語大学フランス語研究室, 165-183.

佐藤千秋, ファール・エロディ, 川口裕司 (2017).「初級フランス語におけるスピーキング能力の可視化―タスク評価法と学習ストラテジーの観点から―」, 外国語教育研究20, 1-18.

投野由紀夫 (2013). 『英語到達度指標 CEFR-J ガイドブック』, 大修館書店.

冨田かおる, 小栗裕子, 河内千栄子編集 (2011). 「第3章 スピーキングの習得と指導」, 『英語教育学大系第9巻 リスニングとスピーキングの理論と実践 効果的な授業を目指して』, 東京: 大修館書店: 146-224.

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謝辞

本研究は、

JSPS科研費 26284076 「Eラーニングに基づく英語とフランス語の学習行動の可視化の試み」, 基盤研究B, 2014-2016, 代表者吉冨朝子

JSPS科研費 16H03442 「 フランス語、ポルトガル語、日本語、トルコ語の対照中間言語分析」, 基盤研究B, 2016-2019, 代表者川口裕司

の助成を受けたものです。