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乳癌の発生,増 殖に及ぼす甲状腺機能の

影響に関する実験的ならびに臨床的研究

岡 山大学医学部第2外 科教室(主 任:寺 本 滋 教授)

加 地 信 彦

(昭和53年5月24日 受稿)

第1章  緒 言

甲状腺機能が乳癌 の発生 やその進行におよぼす影

響 に関す る報告 は意外 に古 くか らみ られてお り, 18

96年Beatson1)は 乳癌患者の治療 に卵巣摘 除と甲状

腺抽出物の投与 が臨床的に有効で あった と報告 して

いる.

その後甲状腺機能亢進症では機能低 下症に くらべ

て乳癌の発生率 が低 い こと も報 告 され てお り,り

Spencer3)は 悪性腫瘍 と甲状腺腫の頻度 を地理的

に調査 し,甲 状腺腫の多い地方 に乳癌 の発生 が有意

に高い ことを報告 し,甲 状腺機能低下状態 が乳癌 の

発生 に少 なか らず関与 していることを指摘 した.

一方疫学的に調査 した他 の報告において も, ende

mic goiterの 発生頻度の上昇 と乳癌 の発生頻度 の

上昇 には相関関係が存在す るとし, spencerの 報告

に賛同する もの も多い。4) 5) 6)また一方 臨床的 には,

甲状腺 機能低下 をと もな った乳癌は一般的 にその予

後は不良であると言われ7) Lemon8),は 転移 をと もな

った乳癌に甲状腺剤 とコーチゾンを用 いた治療をお

こない,コ ーチゾン単独で治療 した場合 よ りも,よ

い結果 が得 られ たと報告 し,乳 癌が発生 して も,甲

状腺剤 を投与 して,人 工的 に甲状腺機能 を亢進状態

にお くことによ り,そ の進行 をあ る程度遅 らせ るこ

とが出来 る可能性を示 して いる。

1958年Edelstyn9)は 乳癌患者 について, 131I摂

取率による甲状腺機能判定 をお こない,摂 取率の高

い症例 では乳癌 は限局性 であることが多 く,低 い症

例では全身性転移のみ られ る進行性 の ものが多い と

報告 している,

しか し,一 方では阿部 ら10)は乳癌 をI, Ⅱ 期の初

期群 とⅢ, IV期の進 行群にわけ, 131I摂 取率 を比較

す ると(前 者 は14,4±1.16(%),後 者は22.4±3.04(%

で)摂 取率 は進行群で高 く,両 者の間に有意差 があ

った とす る逆 の結果 を報告 している.

このよ うに乳癌の発生 と進行 にお よぼす,甲 状腺

機能 に関 して,そ の発生につ いて,甲 状腺機能低下

状態 で頻度 が上昇す るとい う見解は 多 くの報告 で一

致 している ものの,そ の進展 についての見解 は必ず

しも一致 して いるとは言えない.

乳癌 が各種 ホルモ ンの標的臓器で あることか ら,乳

癌発生 と各種内分泌環境 との関連 について,実 験的

に も検討がな されてお り,甲 状腺機能 と乳癌の関係

につ いて も,い くつかの実験的研究の結果 が報告 さ11) 12) 13) 14) 15)れてい るが

,そ の結果は必ず しも一定の

傾向 を示す ものではな く,む しろ報告者によ り異 な

る成績 が示 されてい る.

す なわちDao16), Flesher and Sydnor17)ら はラ

ッ トのMethylcholanthrehe(以 下MCと いう)誘 発

乳癌の発生率が甲状腺機能低下の時 には上 昇す る と

述べて いるが, Julland Huggins18)やGruenstein

9)らはラ ットにおいて甲状腺摘 除が, MC誘 発 乳腺

腫瘍の発生 に対 して抑制効果 をおよぼす ことを報告

して いる.

またNewman20)はMCの 投与 に先立 ってPropyl

thiouracilを 投与す ると,非 投与群 に くらべ,そ の

発生頻度が著 しく減少す るとのべ ている.

また癌誘発時期にpropylthiouracilに よ る,甲状

腺機能低下状態においた ラ ット.に対 して,乳 癌発育

の期間 中チロキシンの投与 をうけたラ ッ トでは乳癌

の発生頻度 はMC単 独投与群に くらべ,さ ほ どの差

異 はなか ったことを報告 し,甲 状腺機能低下が発癌

を抑制 してい ることを示唆 してい る.

一方Spencer3)はthyroxinに 乳癌 に対 する抗腫

瘍作用 のある ことを実験的 にみてお り, Jull and

Huggins18)ら もチ ロキシン投与 によって乳癌の発生

1179

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が抑制 されているとしているのに対 し, gruensteirn19)

らはその影響 は軽微であったと報告 してい る.

これ らの報告 からみ る限 り,甲 状腺機能が乳癌の

発生や発育に影響 をおよぼ してい る可能性 は示唆 さ

れてい るが,甲 状腺機能の低下,あ るいは亢進状態

が乳癌 の発生,発 育 に促進的であ るか否かについて

は意見がわかれてい るのが現状である.

このよ うな相違 は実験動物の種類のほかに,発 癌剤

とその投与方法 によ って生ず ることは想定出来 るが,

従来の実験 に使用 された発癌剤 は主 として, polycyc

lic aromatic hydrocarbonで ある,. MCやDim e

thyl benzanthracene(以 下DMBAと い う)で あ

った点 にかんがみ,著 者は この点 について,従 来報

告 されてい る結果 を再検討す るために発癌剤 として,

その化学構造 を異 にす るうえに,そ の乳癌発生に関

して,甲 状腺機能 との関連 をいまだ確認 され ていな

い.

N-nitrosobuthyl urea(以 下NBUと い う)をえ

らびそれによるラッ ト乳癌の発生に,甲 状腺機能が

およぼす影響 について検討 した.

本物質 はYOKORO21)ら に よ ってWistar系 ラ ッ ト

に乳癌 を誘発せ しめ ることが報告 され た化学物質で

ある.

また臨床的 には甲状腺機能 を表現す る,各 種甲状腺

ホルモ ンや,甲 状腺 ホルモ ンの分泌 に関連す るとと

もに,乳 癌の発生増殖への関与について最近 関心 を

よせ られてい る, prolactin(以 下PRLと い う)を

え らび,乳 癌 と乳腺良性疾患 につ いて,そ れ らの値

を測定 し,乳 癌患者の甲状腺 内分泌環 境の特殊性 を

検討 したのでそれ らの結果 を報告す る.

第Ⅱ 章 実験的研究

A. 実験材料 な らびに実験方法

1. 実験動物 として は 「北山ラベス」 よ り供給 さ

きれた,生 後5週 のWistar系 メス ラッ トを用い,

これ を温度20±3℃ の動物 室で固型飼料食, tap

waterに て飼育 した.

2. 発癌剤の投与

発癌剤 としては泉化学社製 のNBUを 用い これ を

1%ア ルコール蒸溜水に0.04%に 溶解 し,生 後6週

か らラ ット一匹あた り, 1日15m1(NBU6mg/day

/rat)の 割合 で毎週土曜 日と日曜 日を除 く, 5日 間

連用投与 し,こ れをNBU投 与 後, 28週 か ら34週 に

か けて継続 した.土 曜 日,日 曜 日には水道 水を飲用

せ しめた,体 重減少 のあ きらかな ものには週 日に も

充分量の水道水 をあた えた.

3. 甲状腺摘徐

生後14週 目にエーテル麻酔 下に頚部正中切開をお

こない,甲 状腺摘除 をお こな った.

甲状腺摘徐後1週 間は1%グ ルコン酸 カル シウムを

あたえた.

4. 乾燥甲状腺末投 与

生 後14週 か ら乾燥 甲状腺末(帝 国臓器製 薬社製)

をNBUを 含む1%ア ルコール蒸溜水(前 述)中 に

混 入 し, 0.5mg/day/ratの 割 合で経 口的 に投 与 し

た.投 与は 土曜 日,日 曜 日を除 く週5日 間 とし, N

BU投 与開始後28週 よ り34週まで継続 した。

5. thyroxinの 投 与

0.1mlに10μgのthyroxin natrium(半 井化学薬

品社製)を 含 む2%苛 性 ソー ダ生理 的食塩水溶液 を

作製 し,体 重100gあ た り1日10μgの 割合 で生後

8週 か ら毎週5白 間連 用皮下 に投与 し, NBU投 与

開始 後34週 まで継 続 した.

表1  実 験 ス ケ ジ ュ ール

6. 実験 群は1)NBU投 与+甲 状腺摘 除群

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乳癌の発生,増 殖 に及 ぼす 甲状腺機能の影響に関す る実験 的な らびに臨床的研 究  1181

2) NBU+甲 状腺 末投 与群

3) NBU+サ イロキ シン投 与群

各実験 ではっね にNBU単 独 投 与群を対照 として,

それぞれ5回, 3回,お よび2回 繰返 してお こな っ

た.(表1)

表2  実験対象 ラッ ト数 なお実験動物数はNBU投 与後16週 以前 に逃亡及

び死亡 した ものは乳癌発生率の検討か ら除外 した.

第16週 にお ける各実験 の開始 時 と観 察 ラ ッ ト数 は

(表2)のLと くであ る.

実験I:甲 状 腺摘 除群は13匹 で開始 し,観 察動物

数 は11匹 であ る.対 照群 は11匹 で家験開始 し,観 察

動物数は9匹 であ った,

実験Ⅱ:甲 状腺摘 除群 は10匹 で開始 し,観 察動物

数は8匹,対 照 群は10匹 で開始 し観察動物数 は6匹

で あった.

実験Ⅲ:甲 状腺摘除群は13匹 で開始 し,観 察動物

数は11匹,対 照数 は13匹 で開始 し,観 察動物数 は11

匹で あった.

実験IV-1, 2:甲 状腺摘 除群18匹 にて実験開始

し,観 察動物数16匹,甲 状腺末投 与群は14匹 で開始

し,観 察動物数 は10匹,対 照 群は18匹 で開始 し観察

動物数 は15匹 であった.

実験V-1, 2:甲 状腺摘 除群18匹 にて実験開始 し,

観察動物数16匹,甲 状腺 宋投 与群18匹 にて開始 し,

観察動物数15匹,対 照群15匹 で開始 し,実 験動物数

は13匹 である.

実験VI:甲 状腺末投与 群11匹 にて実験開始 し,観

察動物数 は10匹,対 照群は10匹 で開始 し,観 察動物

数 は9匹 である.

図-1

(×100)腺腔 の形成す るところと,充 実性の ところが

み られ る未 分化 な腺癌 である

実 験Ⅶ; thyroxin投 与 群12匹 に て実 験 開始 し,観

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1182  加 地 信 彦

察動物数 は9匹,対 象群 は10匹 で開始 し,観 察動物

数 は10匹 である.

実験Ⅷ: thyroxin投 与群11匹 にて開始 し,観 察動

物数 は10匹,対 象群 は11匹 にて開始 し,観 察動物数

は11匹 であった.

7. NBU投 与後15週 間生存 した,生 存 ラットにつ

いて, 16週 目か ら2週 間毎に乳癌の発生 を検 し,こ

れを28週 ない し, 34週 までお こない,各 実験群 にお

ける乳癌の発生状況 を観察 した.な おNBU投 与開

始後16週 以後に逃亡 または死亡 したラッ トはなかっ

た.乳 癌の診断 は触診 にてあ きらかな腫 瘤を認 めた

時,こ の腫瘤 を摘出 し,組 織学的検索 をお こなった.

発生 した乳癌 は組織型 ではすべて腺癌であ った.

(図1)

B 実 験 成 績

1 甲状腺摘除がNBU乳 癌の発生 に及ぼす影 響 に

ついて

a 乳癌 の発生頻度 について

5回 の実験 の結果 を(表3,図2)に 示す.

1) 実験1で はNBU投 与後16週 か ら18週 にかけて,

甲状腺摘除群の発生頻度 が高 いが, 20週 以降 では,

甲状腺摘除群の発生頻度 がつね に高 く, 26週 では0.Ol

<P<0.02, 28週 では0.02<P<0.05と かな りの

有意差 がみ られた.し か し30週ではP≒0.1と そ の

有意性 は低下 した.

2) 実験Ⅱ では20週 までは甲状腺摘除群 の発生頻度

がやや高 く, 22週 以後30週 まで は対照群 の発生頻度

がやや高 かったが,そ れぞれP≒0.3, P≒0.2で

ともに有意性 はなか った.

3) 実験Ⅲ では24週, 26週 までは甲状腺摘除群の発

生頻度 が高 く, 0.05<P<0.1で 有意差 が認 め られ,

それ以後 の4週 間では差 が認 め られなかった.

4) 実験IV-1で は18週 か ら22週 までは0.01<P

<0.02, 24週 で は0.05<P<0.1と 甲状腺摘 除群 の

発生頻度 が有意 に高率 であったが26週 以後 では0.5

<P<0.7な い し, 0.1<P<0.2と その有意差 は消

失 し,対 照群の頻度 が若干高率 であった.

5) 実験V-1で は18週 か ら22週 にか けて,甲 状腺

摘除群の発生頻度 が高 く, 22週 では0.05<P<0.1

とかな りの有意差が み られたがそれ以後32週 にかけ

て両者の間に有意差 は認め られなか った.

6) 個 別におこなった5回 の実験成績 の結果 を集計

す ると, NBU乳 癌 の発生 は甲 状腺 摘 除群 ではNBU

投与後第16週 か ら発生 す るが対照群 では第20週 か ら

発生 し,発 生頻度は甲状腺摘除群 では, NBU投 与

後20週 で(19/62)30.6%, 22週 で(23/62)37.0

%と 対照群の(6/54)11.1%(11/54)20.3%と

比較 して高率で あ り,そ れぞれ0.01<P<0.02,

0.02<P<0.05と か な りの有意差 があったが, 26週,

28週 では実験群で(27/62)43.5%,(30/62)48.3

%,対 照群で(30/54)55.5%,(36/54)66.6%

とその差 はほ とん ど消失 するか,む しろ対照群がや

や高率 を示 し, (0.1<P<0.2)(0.02<P<0.05)

32週, 34週 で は実 験群 で(18/32)56.2%,(10/

16)62.5%,対 照群 で(21/28)75%(12/15)80

%と 両者の間 に差違 は認 め られ なか った,(0.1<P

<0.2, 0.2<P<0.3)

b NBU乳 癌発生 ラッ トあた りの平均 乳癌個数 に

及 ぼす甲状腺摘除 の効果

NBU乳 癌 の発生個数 を甲状腺摘 除群 と対照群 とで

比較 したが, NBU投 与後第30週 において, 1個 の乳

癌 を もつ もの は実験群 と対照群 では5回 の実験 で そ

れぞれ, 83%と88%, 100%と100%, 100%と100%,

90%と92%, 43%と67%で あ り,ま た2個 の乳癌 を

もつ もめ は,そ れぞれ17%と12%, 0%と0%, 0

%と0%, 10%と8%, 57%と33%で 両者間 に有意

の差違 はみ られなか った.

また実験群,対 照群 ど もに3個 以上 の乳癌 の発生 を

した ものはなか った.(表4)

c 小 括

NBU誘 発 乳癌 は投与開始後約4ヶ 月か ら発 生 す

るが,そ の発生 は甲状腺摘除群 で早 くみ られ,そ の

発生頻度 は5ヶ 月 ない し6ヶ 月頃 までは甲状腺摘 除

群で高 く,そ れ以後 は対照群 との間の差違 が消失 す

る傾 向がみ られた。

5回 の実験 を通 じて,発 生の時期 と発生頻度が この

逆の傾 向 を示 した場合 はな く, 5回 の うち, 2回 で

は前期 におけ る発生頻度 は甲状腺摘除群で有意 に高

率で あ り,甲 状腺摘除 はNBU乳 癌 の誘発 を促進 す

る もの と考 えられる.

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乳癌の発生,増 殖 に及 ぼす甲状腺機能 の影響 に関す る実験的な らびに臨床的研究  1183

図2  甲状腺摘除が ラッ トNBU乳 癌の発生 に及 ぼす影響

図3  甲状腺末投与が ラッ トNBU乳 癌の発生 に及 ぼす影響

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表3 

甲状

腺摘

除が

ラッ

トNBU乳

癌の

発生

に及

ぼす

影響

(分母:

NBU投

与ラ

ット数 

分子:乳

癌発

生ラ

ット数)

表4 

NBU乳

癌発生

ラッ

トあ

たりの

平均

乳癌

個数

(乳癌個数/乳

癌発

生ラ

ット数)

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表5 

甲状腺

末投

与が

ラッ

トNBU乳

癌の

発生

に及

ぼす

影響

(分母:

NBU投

与ラ

ット 数

分子:乳

癌発

生ラ

ット数)

表6 

NBU乳

癌発

生ラ

ットあた

りの平

均乳

癌個数

(乳癌個数/乳

癌発生

ラッ

ト数)

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表7 

thyroxin投

与が

ラッ

トNBU乳

癌の

発生

に及

ぼす

影響

(分母:

NBU投

与ラ

ット数 

分子:乳

癌発

生ラ

ット数)

表8 

NBU乳

癌発

生ラ

ットあた

りの平

均乳

癌個

(乳癌個数/乳

癌発

生ラ

ット数)

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乳癌 の発生,増 殖 に及 ぼす甲状腺機能の影響 に関 する実験的な らびに臨床的研究  1187

乳 癌発 生 ラ ッ トあた りの乳 癌 の 平均 個 数 に は甲 状腺

摘 除 の 影響 はみ られ な か っ た.

2 甲状 腺 末 投与 がNBU乳 癌 の 発生 に及 ぼ す 影響

につ い て

b 乳 癌 の 発生 頻 度 につ いて

3回 の 実験 結 果 は(表5,図3)に 示 す

1)実 験IV-2で はNBU投 与 後16週 よ り22週 迄 は,

甲状 腺 末 投 与群,対 照 群 と もに 乳癌 の 発 生 は な く,

24週, 26週 で は 甲状 腺 末 投 与群 の方 が発 生 頻度 が高

い が, 28週 以後,34週 迄 対照 群 の方 が 発 生頻 度 が 若

干 高 い, 28週 でP≒0.3, 32週 でP≒0.2で 有 意 性

は なか っ た.

2) 実 験V-2

16週, 18週 で は両 者 共 に乳 癌 の発 生 は な く20週 よ

り24週 にか け て,甲 状 腺末 投 与 群 の 発 生 頻度 がや ゝ

高 く, 22週 で は0.05<P<0.1と や ゝ有 意 性 が 認め

られ た. 26週 よ り32週 にか けて は対 照 群 の方 が発

生 頻 度 が や ゝ高 くな るが, P≒0.5で 有 意 性 はなか っ

た.

3) 実験VI

16週 よ る24週 で は対 照 群 の 方 が 若干 発生 頻 度 が 高

く, 16週 でP≒0.2,20週 でP≒0,3で 有 意 性 は な

く, 26週, 28週 で は甲 状腺 末 投 与 群 が や ゝ発 生 頻度

が高 い が, P≒0.8で 有 意 性 はな か っ た.

4) 個 別 に お こな った3回 の 実験 成績 の結 果 を集計

す る と, NBU乳 癌 の 発生 頻 度 は甲 状腺 末 投 与 群 で

はNBU投 与 後, 18週 で(1/35)2.8% 20週 で

(3/35)8.5%,対 照 群 の(2/37)5.4%(4

/37)10.8と 比 較 して少 し低 く, P≒0,5P≒0.7

と有 意差 は なか った.

22週 で は,甲 状腺 末 投 与 群(7/35)20%,対 照群

(5/37)13.5%, 24週, 26週 で は 甲状 腺 末 投 与群

(14/35)40%,(21/35)60%対 照 群(12/37)

32.4%,(20/37)54%と 対 照 群 が や ゝ発 生 頻 度 が

低 く24週 でP≒0.3と 有 意 差 は認 め られ なか った.

30週, 32週 では実 験 群 は(15/25)60%,(15/25)

60%で 対 照 群 は(21/28)75%,(21/28)75%で

あ り,両 者 の 間 に差 違 は み と め られ な か った.

b NBU乳 癌 発 生 ラ ッ トあ た りの 平均 乳 癌 個 数

に及ぼす 甲状腺末投与 の効果

NBU乳 癌 の発生個数 を甲状腺末投与群 と対 照 群

とで比較 したが, NBU投 与後28週 にお いて1個 の

乳癌を もつ ものは,実 験群 と対照群 では3回 の実験

でそれぞれ, 80%と88%, 56%と67%, 86%と83%

であ り,ま た2個 の乳癌 を もつ ものは,そ れぞれ20

%と12%, 44%と33%, 14%と17%で 両者間 に有意

の差違 はみ られなかった.

また実験群,対 照群 と もに3個 以上 の乳癌 を発生 し

た もの はなか った.(表6)

c 小 括

甲状腺末 投与群 と対照群共 に同 じよ うな頻度で発

生 し,発 生時期 に も大差 はみ られない.実 験V-2

の22週 で有意性 が認 め られたが,そ の他の期間にお

いてはどれ も,有 意性 は認め られなか った. 30週 よ

り34週 にかけて対照群の方がや ゝ発生頻度 が高かっ

た.甲 状腺末投与 はNBU乳 癌 発生において,そ の

発生頻度,及 び時期 においては,対 照群 と比較 して

大差なか った.乳 癌発生 ラッ トあた りの乳癌の平均

個数 に も甲状腺末投与の影響 はみ られ なか った.

3 thyroxin投 与がNBU乳 癌の発生 に及 ぼす影響

について

a 乳癌の発生頻度について

2回 の実験結果 は(表7,図4)に 示す

1) 実験 田

NBU投 与後16週, 18週 と乳癌の発生 はな く, 20

週 よ りthyroxin投 与群,対 照群 共 に発生,以 後26

週迄,同 じよ うな発生頻度を示す. 26週 よ り34週迄

対照群の方 がや ゝ高 い発生 頻度 を示 すが, P≒0.7

で有意差 はなかった.

2) 実験Ⅷ

NBU投 与後16週 よ り20週迄thyroxin投 与群,対

照群共に乳癌の発生 はな く, 22週 よ り26週では,発

生頻度に両者の差 はな く, 28週 よ り32週にかけて,

や ゝthyroxin投 与群の方が発生 頻度 が高 いが, 34

週 では両者の発生頻度 に大差は認め られなか った.

3) 個々 にお こなった,2回 の実験 成績の結 果を集

計すん と, NBU乳 癌の発生頻度 はthyroxin投 与

群,対 照群共にNBU投 与後16週18週 と乳癌の発生

がな く, 20週 ではthyroxin投 与群(1/19)5.2% ,

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1188  加 地 信 彦

対 照群(1/21)4,7%, 22週24週 で はthyroxin投

与 群(2/19)10.5%, (5/19)26.3%対 照 群

(2/21)9.5%, (5/21)23.8%と 両 者 の 間 に大

差 は認 め られ な か っ た. 28週, 30週 で はthyroxin

投 与 群(8/19)42.1%(11/19)57.8%,対 照群

(8/21)38%, (12/21)57.1%で28週 で はP≒

0.7で あ り,有 意差 は認 め られ な か った.

b NBU乳 癌 発 生 ラ ッ トあ た りの 平 均 乳 癌 個 数

に及 ぼすthyroxin投 与 の 効果

NBU乳 癌 の発 生 個 数 をthyroxin投 与 群 と対 照群

とで比 較 したが, NBU投 与 後30週 に おい て1個 の

乳癌 を もつ もの は, 2回 の実 験 をつ う じ,実 験 群 と

対照 群 で は,そ れ ぞ れ80%と83%100%と100%,

また2個 の 乳 癌 を もつ もの は それ ぞれ20%と17%,

0%と0%で 両 者 の 間 に有 意 の 差 違 は み られ な か っ

た.ま た実 験 群,対 照群 と もに, 3個 以 上 の 乳癌 を

発生 した もの はな か った.(表8)

c 小 括

NBU誘 発 乳癌 は, thyroxin投 与 群,対 照 群 とも

に, NBU投 与 後20週 で発 癌 し,以 後 両 者 と も 同 様

の 発 生 頻度 を示 し, 22週 でP≒0.7, 24週 でP≒0.8

で あ った. 26週 よ り34週 迄 発生 頻 度 に お いて 両 者 に

差 が 認 め られ な か っ た. thyroxin投 与 はNBU乳 癌

発 生 にお い て,そ の 発 生 頻 度及 び時 期 に お いて,対

照 群 と比 較 して有 意 差 はな か った.乳 癌 発 生 ラ ッ ト

あ た りの 乳 癌 の平 均 個 数 に もthyroxin投 与 の 影 響

はみ られ な か っ た.

4 甲 状腺 摘 除 群5回,甲 状 腺 末 投 与 群3回,thyroxin

投 与 群2回,合 計10回 め 実 験 にお け る乳癌 累 積 発 生

率 は(図5)に 示 す,

第Ⅲ 章  臨床的研究

A. 研究対象な らびに研究方法

1. 研究対象

乳腺線維腺腫8例,乳 腺症4例,乳 癌52例 につい

て検索 した.な お乳癌 はその病期 をU. I. C. C.の

TNM分 類に したが ってI期 か らⅣ期 まで に わ けた.

それ ぞれの例数はI期18例, Ⅱ 期26例, Ⅲ 期6例,

VI期2例 で ある(表9)

2. 研究方法

a 採 血

早 朝 空 腹 時 に肘 静 脈 よ りお こな い,採 血 直 後 直 ち

に遠 沈 し,血 清 分 離 を お こ ない 凍 結保 存 し可 及 的 す

みや か に実 験 に供 した.根 治 手 術 の施 行 で きた 乳癌

につ いて は,術 前 と術 後10日 目 に採 血 して,術 前,

術 後 の 変 動 につ い て検 討 した.

b 測 定 物 質 お よ び測 定 方 法

測 定 物 質 はtriiodothyronine(T3)

thyroxine binding globulin(TBG)

サ イ ロキ シ ン結 合蛋 白 の結 合 能 飽 和 度 お よ び

thyroid-stimulating hormone(TSH)で あ る.

そ の測 定 はT3は 第1ラ ジ オ ア イ ソ トー プ社 製 の

リア マ ッ トT3キ ッ ト, TBGはcollulose-acetate

膜 に よ る電 気 泳 動 法, TSHは 第1ラ ジオア イソ トー

プ社製 のTSHリ ア キ ッ トひよ って お こな った.

また サ イ ロキ シ ン結 合蛋 白 の結 合 能 飽 和 度 は ダ イ ナ

ボ ッ ト社 製 の レ ジ ンス ポ ン ジ,ア ップ テ イ ク法

(Triosorb test)に よ っ て お こ な っ た.そ の他 の ホ

ル モ ン と して は

表9  MATERIAL NUMBER OF THIS STUDY

表10  PROGRESSION BREAST CANCER AND TSH

prolactinの 測 定 をお こな い,そ の測 定 に は,

prolactinは 第1ラ ジオ ア イソ トー プ 社 製 の プ ロ ラ

ク チ ンキ ッ ト 「第1」 を使 用 した.

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乳癌 の発生,増 殖 に及 ぼす甲状腺機能の影響 に関す る実験的な らび に臨床的研究  1189

図4  thyroxin投 与 がラッ トNBU乳 癌の発生 に及 ぼす影響

図5  乳 癌 の 累 積 発 生 率

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1190  加 地 信 彦

B 実 験 成 績

1 乳 腺 症,乳 腺 線 維 腺 腫 およ び 乳癌 患 者 の術 前 値

につ いて

a thyroid stimulating hormone

乳 腺 症 お よ び乳 腺 線 維 腺 腫 で は,平 均 値 ±標 準 偏

差 は3.74±1.43μu/ml,乳 癌

I 期 で は5.13±2.46μu/m1, Ⅱ 期 で4.41±2.26

μu/ml, Ⅲ 期 で4.58±0.95μu/ml, IV期 で は7.00±

3.00μu/mlで あ り,良 性疾 患 に く らべ 乳 癌 で は や

ゝ高 値 を示 す傾 向 が み られ,乳 腺 症 お よ び乳腺 線 維

線 腫 と乳癌 のI期 の間 に は有意 差 が認 め られ た が,

Ⅱ期, Ⅲ 期 の 間 に は有 意 差 はな か っ た.(表10,図

6)

b サ イ ロキ シ ン結 合 蛋 白 の結 合 能 飽 和 度(Trio

sorb test)乳 腺 症 お よ び乳 腺 線 維腺 腫 で は27.95±

4.20(%)で あ り,乳 癌I期 で は27,88±3.07(%)

Ⅱ期 で は28.33±2.89(%), Ⅲ 期 で は28.40±3.42

(%)IV期 で は25.00±6.00(%)で あ り良 性 疾 患

と乳 癌 の間 に有 意 の 差 は 認 め られ なか った.ま た 乳

癌 で は病 期 の進 行 度 によ る著明 な差 は認 め られ な か

った.(表11,図7)

c triiodothyronine

乳腺 症 お よ び乳 腺 線維 腺 腫 で は112.66±27.19ng

/dl乳 癌1期 で105.83±19.77ng/dl, Ⅱ 期 で105.10

±20.17ng/dl, Ⅲ 期 で103.33±33.49ng/dl, VI

期 で140.00±20.000ng/dlで あ っ た.良 性 疾 患 と乳

癌 の 間 に は有 意 の 差 は認 め られ な か った が,乳 癌 で

は乳 腺症 お よ び乳 腺 線維 腺 腫 に く らべ て や 低ゝ 値 を

示 し,症 例 数 の少 な か ったVI検 を除 いて,病 期 進 行

と と もに や ゝ減 少 す る傾 向 が認 め られ た.(表12,

図8)

d Thyroxine Binding Globulin

乳 腺 症及 び 乳腺 線 維 腺腫 で は25.67±7.70μg/dl

乳 癌 で は1期 で26.10±7.16μg/dl, Ⅱ 期 で23.71±

7.21μg/dl, Ⅲ 期 で28.26±8.36μg/dl IV期 で22.25

±1.45μg/dlで あ り,乳 腺 症及 び 乳腺 線 維 腺腫 と乳

癌 の 間 に は有 意 の 差 は認 め られ な か っ た.

また 乳 癌 の各 病 期 に お いて も有意 の差 は なか っ た.

(表13,図9)

e prolactin

乳腺 症 お よ び乳 腺 線 維 腺 腫 で は18.70±16.98ng/

ml,乳 癌 では1期 で38.16±23.83ng/ml, Ⅱ 期 で

14.06±10.19ng/ml, Ⅲ 期 で25.00±19.74ng/ml.

IV期 で34.50±2.50ng/mlで あ り,良 性 疾 患 と乳 癌

と くに1期 との間 に有 意 の 差 が 認 め られ た.乳 癌 の

病 期 に と もな う特 定 の 傾 向 は 認 め られ な か った.

(表14,図10)

表11  PROGRESSION OF BREAST CANCER

AND RESULT OF TRIOSORB TEST

(): Number of Cases

表12  PROGRESSION OF BREAST CANCER

AND TRIIODOTHYRONINE

(): Number of Cases

表13  PROGRESSION OF BREAST CANCER

AND THYROXINEBINDING GLOBULIN

(): Number of Cases

表14  PROGRESSION BREAST CANCER AND

SERUM PROLACTIN

(): Number of Cases

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乳癌 の発生,増 殖 に及 ぼす甲状腺機能 の影響 に関す る実験的 ならびに臨床的研究  1191

図6  TSH LEVEL IN BENIGN BREAST DISEASE AND BREAST CANCER

図7  RESULT OF TRIOSORB TEST IN BENIGN BREAST DISEASE AND BREAST CANCER

図8  TRIIODOTHYRONINE LEVEL IN BENIGN BREAST DISEASE AND BREAST CANCER

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1192  加 地 信 彦

図9  THYROX正NE BINDING GLOBULIN LEVEL IN BENIGN BREAsT DIsEAsE AND BREAsT

CANCER

図10  SERUM PROLACTIN LEVEL IN BENIGN BREAST DISEASE AND BREASTC ANCER

2 乳癌 患 者 に お け る術 前,術 後 値 の 変 動 に つ い て

根 治 手 術 例 につ い て,術 前 値 と術 後 値 の変 動 を比

較 した.

a thyroi dstimulating hormone

I 期 で は術 前 値 は5.13±2.46μu/ml,術 後 値 は4.91

±1.57μu/ml, Ⅱ 期 で は術 前 値 は4.41±2.26μu/ml,

術 後値 は4.43±1,87μu/ml, Ⅲ 期 で は術 前 値 は4.58

±0.95μu/ml,術 後値 は6.65±3.05μu/ml, IV期

で は術 前 値 は7.00±3.00μu/ml,術 後値 は3.00±1.00

μu/mlで あ り, I期 で は術 後 に お いて や ゝ低 下 す る

傾 向 が認 め られ, Ⅱ 期 で は変 動 は な く, Ⅲ 期 は む し

ろ上昇 す る傾 向 が 認 め られ た.(図11)

b サイ ロキシ ン給 合 蛋 白 の結 合能 飽 和 度(Triosorb

test)

Triosorb testの 術 前 値 は1期 で は27.88±3.07

(%) Ⅱ 期 で は28.33±2.89(%), Ⅲ 期 で は28.40

±3.42(%) Ⅳ 期 で は25,00±6.00(%)を 示 し,そ

れ そ れ の術 後 値 は25.41±3.06(%), 27.98±3.76

(%), 27.00±2.61(%)お よ び25.50±3.50(%)

で あ り,術 前,術 後 で差 異 は認 め られ な か っ た.

(図12)

c triiodothyronine

I 期 の術 前値 は105.83±19.77ng/dl,術 後 値 は

114.54±19.70ng/dl, Ⅱ 期 の術 前 値 は105.10±20.17

ng/dl,術 後 値 は108.00±31.05ng/dl, Ⅲ 期 の 術

前 値 は103.33±33.49ng/dl,術 後 値 は118.33±26.11

ng/dlで あ り, VI期 の 術 前 値 は140.00±20.000ng/

dl,術 後 値 は90.00±25.00ng/dlで あ っ た.

I 期 とⅢ 期 で は術 後 に や ゝ上 昇 す る傾 向 が み られ,

Ⅱ期 で は術 前,術 後 に変 化 は な く, IV期 で は 症 例数

が少 い が,減 少 す る傾 向 が 認 め られ た.(図13)

d thyroxine binding globulin

術 前 値 は1期 で26.10±7.16μg/dl, Ⅱ 期 で23.71

±7.21μg/dl, Ⅲ 期 で は287.26±8.36μg/dlIV期 で

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乳癌の発生,増 殖 に及 ぼす甲状腺機能の影響 に関す る実験的な らび に臨床的研究  1193

は22.25±1.45μg/dlで あ り,そ れ ぞれ の術 後 値 は

32.11±9.59μg/dl, 25.37±6.55μg/dl, 32.11±

95.9μg/dl, 27.45±2.85μg/dlで あ った.平 均

値 で み る といず れ も術後 値 がや ゝ高 値 を示 す 傾 向 が

認 め られ た.(図14)

e prolactin

I期 の 術 前 値 は38.16±23.83ng/ml術 後 値 は77.11

±41.82ng/m1, Ⅱ 期 の術 前 値 は14.06±10.19ng/ml,

術後 値 は63.51±66.63ng/ml Ⅲ 期 の 術 前 値25.00±

19.74ng/ml,術 後 値 は46.00±21.17ng/ml , Ⅳ 期

の術後 値 は34.50±2.50ng/ml術 後値 は38.00±17 .00

ng/mlで あ り,ど の 病期 に お いて も術後 に高 値 を示

す傾 向 が認 め られ た.ま た45才 以 上 と45才 未 満 に わ

けて み る と, 45才 以上 の術 前 値 は16.83±13.28ng/ml,

術後 値 は56.88±39.95ng/ml, 45才 未 満 で は,術 前

値 は32.36±17.43ng/ml,術 後 値 は48.78±47.11

ng/mlで あ り,術 前 値 は45才 未 満 の 場 合, 45才 以 上

に く らべ て高 値 で あ っ た.

図11  TSH LEVEL IN BREAST CANCER

図12  RESULT OF TRIOSORB TEST IN BREAST CANCER

また術後の変動 については45才 以上の場合において

変動が大 きい傾向が認め られた.(図15,図16)

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1194  加 地 信 彦

図13  TRIIODOTHYRONINE LEVEL IN BREAST CANCER

図14  THYROXINE BINDING GLOBULIN LEVEL IN BREAST CANCER

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乳癌の発生,増 殖 に及ぼす甲状腺機能に影響 に関す る実験的 な らびに臨床的 研究  1195

図15  SERUM PROLACTIN LEVEL IN BREAST CANCER

図16  SERUM PROLACTIN LEVEL IN BREAST CANCER(PREOPERATIVE)

VI 総括 な らびに考按

乳癌 に関す る実験的研究 には一般 にラ ットとマウ

スが使用 されているが,著 者は1)発 癌 しやすい こ

と, 2)飼 育 しやす いこと, 3)甲 状腺摘出が容 易

であることの3点 か らラ ットを使用 した.発 癌剤 と

してはNBUを 使 用 したが,本 物質の発癌について

は1970年YOKORO21)ら が ウイスター系 ラッ トに 高

率 に乳癌を発生 させ ることを報告 して いる.

またNBUは1%エ タノールに溶解 出来,し たが っ

て ほとん ど水溶性 に近 い状態で経 口的 に投与出来 る

ので, methylcholanthreneが 脂溶 性の性質が強 く,

脂肪 に溶解 して与 えざるをえない欠点 を有 してい る

の に対 し,投 与 の しやす い点において利点 があった.

また, NBUの 投与 は生後6週 よ り開始 したが,こ れ

は生後早期 よ り,投 与 を開始す ると,乳 癌の発生率

が増加す るとい う, YOKORO21)ら の報告 にしたがっ

た ものであ る.

甲状腺機能低下症の作成 には,抗 甲状腺剤投与 によ

る方法 と,甲 状腺摘除 による方 法 とがあるが,前 者

は1)甲 状腺機能低下の程度が均一にな りに くく,

2)薬 物 の他 の薬理作用 を否定 しがたい欠点 を持 っ

てい ると考 えられ るため,著 者 は甲状腺摘除 を用い

た.

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1196  加 地 信 彦

しか しなが ら生直後 に これをお こな うと完全摘出が

困難 であ り,ま た ラッ トが外科的処置後死亡す る頻

度 が高 くなるため,こ れ らの難点が解消 出来 る比較

的早 い時期 として,生 後14週 を選んだ.甲 状腺機能

の上昇状態 を得 るためには,乾 燥甲状腺末 とチロキ

シン投与 をおこな ったが,前 者 は機能低下処置の時

期 と一致 させ る目的で生後14週 よ り内服投与 を開始

した.チ ロキシンは甲状腺末投与法よ りも,よ り適

確 に この 目的にかな うものと考 えられ,そ の状態 を

よ り長期間持続す るために,こ れ よ り早期 の生後8

週 か ら皮下注射によって投与 を開始 した.

結果 は甲状腺摘除群 と非摘除群 との間の乳癌発生の

頻度 は5回 の実験 を通 じて, NBU投 与後16週 な い

し18週か ら24週にいたる期間のいずれかの時期 にお

いて,明 らかな有意差 を もって 甲状腺摘除群 におい

て高率で あった.し か し26週以降30な い し35週 にか

かけては有意差 は認 め られ ないが,む しろ対照群で

発生率が高 くな る傾 向が示 された.ま た5回 の実験

の累計 において も同様の結果が得 られた.

この ように甲状腺摘除群 において,早 期 には乳癌発

生率 が有意に高かったことは,甲 状腺摘除 が乳癌の

発生 に関 して促進的 な条件 を与 えることを示す もの

と言 うことが出来 よ う.甲 状腺摘 除群 において,早

期 に乳癌発生 の頻度 が高 い原因については.甲 状腺

機能低下によって生 ずる栄養障害 が発癌 と関連す る

とい うReichlin22)の 見解 も否定出来 ないが,著 者の

実験では体重測定 をすべての ラッ トについて経時的

にお こな っていないので,こ の点 についての解析 は

出来 なか った.

又Dao16)やFlerher and Sydnor17)が 述べているよ

うに,甲 状腺摘除 によって全身の代謝機能 が低下 し,

この ため発癌剤 が組織 に停滞す る時間が長 くなるこ

とによって発癌頻度 が増加す ることも考 えられる.

また甲状腺摘 除が卵巣脳下垂体な どの内分泌 に影響

して,こ れが二次的 に有利 な条件 を与 える結果 にな

った こと も推察 しうる.著 者の実験では これに対す

る検討がな されていないの で,そ のいずれであるか

を断定す ることがで きない,一 方では これ らの因子

が総合的に関連 して発癌 に有利な環境 を与 えた こと

も否定はで きない.し か し乳癌発生率 の上昇 が,甲

状腺 摘除後10な い し12週 とい う早 い時期 にみ られ,

20週 以後では認 め られなか ったことは,甲 状腺機能

の脱 落が発生率 の上昇 に直接関与 した可能性 が大 き

い ことを示 す もの として よいで あろう.と くに後述

す る甲状腺機能 の低下 にと もな うプロラクチ ン分泌

亢進 の影響 は否定 しがたい.甲 状腺機能の亢進 を得

ることを企図 して乾燥 甲状腺末 を経 口的 に投与 した

ラ ッ トでの乳癌の発生 は3回 の実験 を通 じて発癌 の

時期 および頻度 ともに対照群 とほ とん ど同一 であ り,

有意差 は認 められなか った.

このことにつ いては任意 の経 口摂取 とい う投与法 で

あ ったため,各 ラッ トの摂取量 に差違 があ り,す べ

てのラ ッ トに一様 に甲状腺機能 の上昇 あるいは亢進

状態 が得 られたか否かは疑 わ しく,さ らにラ ッ トに

よ っては少量の甲状腺末 の 持 続 摂 取 の結果, TSH

の分泌 が低下 し,逆 に種 々の程度 の甲状腺 ホルモン

の分泌の減少状態 が惹起 されていた可能性 も否定 し

得ない.い ずれ にして も本実験 においてはNBUが

一定 した甲状腺機能の もとに作 用 した とす る根拠 は

とぼ しい.し たが って本実験 の結果 を甲状腺機能上

昇 状態 におけるNBUの 乳癌誘 発効 果 とみることは

妥当でない.そ こで著者 はthyroxin 10μg/100gの

皮下 注射 によ り甲状腺機 能元進 状態 を維持 す ること

をこころみた.こ の投与量はJull and Huggins18)

やGruenstein19)ら も同様の 目的の為に投与 した量

で,著 者 もこれ にしたが って この実験 をお こない,

甲状腺機能亢進状態 にお けるNBU乳 癌の発生 をみ

た もの とみな した.

Jull and Huggins18)はMC誘 発乳癌 の発生 は,チ

ロキシン投与 により抑制 された と述べ, Gruenstein19)

らはその作 用は軽微で あった としてい るが,著 者 が

2回 の実験 を通 じチロキシン投与の影 響につ いて調

査 した結果 では,乾 燥甲状腺末 投与 群 と同様 に,対

照群 と比較 して乳癌の発生率,平 均個数 と もに有意

の差は認 め られなかった.一 般 にMCの 連続的経口

投与 によ る乳癌 の発生 は投与開始後6な い し11週 頃

か ら認め られ るが,こ れ に対 して著者の実験 にみ ら

れ るごとく, NBUで は16週 頃か ら認 め られ るこ と

か らみて, NBUの 発癌作 用はMCに 比較 して弱 い

もの と見徹 され る.

Jull and Huggins18)ら が指摘 した,チ ロキシンの

MC誘 発 乳癌抑制効果 が著者のNBU誘 発 乳癌 では

み られなか った ことは, MCとNBUの 発 癌作 用の

強 さの相違 に もとつ くもの と考 え られるが, Gruen

stein19)ら がDMBAの1回 投 与 で は乳癌 発 生頻

度 はMC連 続投与 によ る発癌頻 度の約1/2に と ど

まるが,こ のよ うな弱 い発癌刺戟 を加 えた実験 で は,

チロキ シンの抑制効果 は全 くみ られなかった と述 べ

て いる点か らみて も,乳 癌の発生 か ら増殖 にいた る

機序が緩徐に進行す る場 合にはチ ロキシンの抑制効

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乳癌 の発生,増 殖 に及 ぼす甲状腺機 能の影響に関する実験的な らびに臨床的研究  1197

果 は期待 し得 ないもの と推定 され る.乳 癌 の進行 と

甲状腺機能 との関連について,臨 床 的に も検討 した

が,著 者 の検討 では甲状腺機能 に関与 する各種のホ

ルモ ンの中で, TSHの みが乳癌,と くに最 も初期で

ある, Stage Iで 乳腺線維腫や乳腺症 に くらべて,

有意の上昇 を示 してい るこ とが認め られた.し か し

T3に つ いては乳癌では多少低い傾 向にあったが,有

意差は認 め られ なか った.

一方TBGと トリオソル ブテス トについては両 者の

間 に差異 は認 め られず正常域 であった.こ の ことは

甲状腺機能低下状態の診断 に対 して, TSHの 上昇 と,

T4の 低下 が最 もよ くその状態 を表現す るといわれ,

また甲状腺機能低下の軽度 な ものでは, TSHの みが

上昇 し, T3は 正常であると言 われてい ることを考 え

あわせ ると,乳 腺線維腺腫や乳腺症 に比較 して乳癌

とくにI期 で は軽度 の甲状腺機能低下 の状態 にある

ものが多い傾向がある ことを示 してい るもの と思わ

れ る.ま たこれ らとI期 乳癌 との間のTSHの 有意

差が,病 期進行 とともに消失す ることは,乳 癌の発

生 と進行 に関 して甲状腺機能の低下 はその発生に対

してよ り重要な意義 を もつ ものではないか と思われ

る.

TBG値 や トリオソルブテス ト値 は甲状腺 ホル モ ン

の輸送蛋 白,あ るいはその結合能の飽和度 を表現す

る因子であるので,乳 癌 の進 行に ともなって血清蛋

白に減少 がお こ り,そ れにと もなってTBGも 減少

す るな らば,両者 は同列で比較出来 な くな るが, TBG

値 も,ト リオソルブテス ト値 も両者間 で差がなか っ

たとい うことは甲状腺機能 をこれ ら二者 について,

同列で比較 してよい と考 え られ る.こ のよ うな軽度

の甲状腺機能の低下 の検査 には最近 ではThyrotropin

Releasing Hormone(以 下TRHと い う)負 荷試

験が用い られ,軽 度 の低下症で はTSHの 基 礎値が

や ゝ高 く, TRH負 荷後にTSHの 反応が異常 に高 く,

かつ遅延す ると言 われている23)がMittra24)は50症 例

の乳癌 を初期群 と進行群 にわけ, TRH負 荷試験 をお

こなった ところ,両 乳 癌群 のTSH基 礎値 および

TRHに 対 するTSHの 反応 は,対照群 に比較 して有

意に高 く,ま た遅延 す る傾向が あった ことを報告 し,

乳癌 と甲状腺機 能に関 して,著 者 と同様 の見解 をと

っている.

一方最近 プロラクチ ン(以 下PRLと い う)が 乳癌

の発生 に促進的であ るとす る実験的報告25) 26) 27) 28) 29)

30)が 多 くみ られ るが, PRL分 泌動態 はTRHを か

い して甲状腺機 能 と少 なか らず関連 している.

す なわ ち甲状腺機能低下に ともな うTRH分 泌 の増

加 はTSHと ともにPRLの 分泌 を促進 し, PRLは

乳腺の増殖 に促進的に作用す る.

Mittra31)はPRLに 対 して異常 に高 い感受性 を示す

ことを観察 し,甲 状腺別除ラ ットではPRLに よ っ

て乳房 の発育 が異常'に促進 されると して いる.

したが って著者の実験 における甲状腺摘除群の乳癌

発生率の上昇 に もこの機序 が関与 して いることが考

えられ る.ま たひとにおいて も甲状腺機能低下状態

では正常 レベルの プロラクチンであって も乳腺 に対

す る増殖促進効果 は加速 されること も考 え られ る.

著者の成績 ではPRL値 は乳癌 とくに1期 と乳腺 線

維腺腫 や乳腺症 との間に有意差 が認 められ乳癌で高

値 を示 す傾向 が認め られた.

これは前述 の甲状腺機 能低下状態が乳癌1期 におい

て最 も顕著 に認 められた ことを考 えあわせて甲状腺

機能の低下 とPRLの 分泌元進 とい う一連の 内分泌

環境が乳癌 の発生 に対 してその進行 よ りもさらに重

要 な意義 を もってい ることを示す もの と考 えて よい.

また根治手術の可能で あった乳癌症例 については術

前,術 後 の変化 について検討 した.術 後10日 目を選

定 したのは手術侵襲の消失す る早 い時期 として適 当

と考 えたのであるが2-3の 物質 につ いて は術前,

術後で変化 が認 められたが,こ の変化の機序 と臨床

的意義 の有無 については不明 であ り,今 後 さらに検

討 してゆ きたい.

V 結 語

A: Wistar系 ラッ ト, NBU連 続 的 経口投与 に

よる乳癌誘発実験 をお こない,甲 状腺機能 がこれ に

及 ぼす影響を検討 し次の結果 を得た.

1. 甲状腺摘除 は乳癌発生の初期段階 では発生 を有

意 に促進 したが, NBU投 与期 間の延長 につれてそ

の差違 は消失 した.乳 癌発生 ラッ トあた りの乳癌

個数 に差はなかった.

2. 甲状腺末投与 は乳癌発生 に影響 を及ぼ さなか っ

た.

3. チロキシンの連続的皮下投与 も乳癌の発生 に有

意の影響 を及ぼ さなかった.

B: 乳癌52例 について, TSH, T3,ト リオソル ブ

テス ト値TBG,血 清PRLを 測定 し,乳 腺 線維腺

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1198  加 地 信 彦

腫 および乳腺症 と対比 し,以 下の結論 を得 た.

1. TSH値 および血清PRL値 は良 性疾 患 に比 較

して,乳 癌 とくに1期 症例で高値 を示 した.

しか し, TSH値 および血清PRL値 ともに,乳 癌

の病期の進行 との間 には一定の傾向 が認 められな

かった.

2. 血清PRL値 は根治手術後 には術前値 に比較 し

高値 を示 した.

3. T3,ト リオソル ブテス ト値, TBGは 良性 疾 患

とと乳癌 との間 に著明な差異 は認 め られなか った.

稿を終えるにあた り,御指導,御 校閲を賜わった恩師

寺本滋教授に深甚なる感謝の意を棒げる.

本研究の実施にあた り終始直接御指導いただいた田中

聡助教授に深謝する.

いろいろ御教示いただいた住友別子病院鎌田昌平博士に

深謝す る.

あわせて本研究に際し種々の御援助をいただいた教室の

諸兄に深謝する.

なお本論文の要旨は,昭 和52年5月,第50回 日本内分泌

学会総会,及 び昭和52年12月,第52回 中国四国外科学会

にて発表 した.

文 献

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1200  加 地 信 彦

Effects of thyroid function on breast cancer

in rats and patients with breast diseases

Nobuhiko KAJI

The Second Department of Surgery, Okayama University Medical School,

Okayama, Japan

(Director: Prof. S.Teramoto)

There are controversies over the influences of thyroid function on carciogenesis and

progression of the breast cancer. To reveal the interrelation of the breast cancer and thyroid

function in rats, this study was performed by employing N-nitrosobutylurea which is known

for its carciogenetic action. Female Wistar rats were divided into 4 groups, namely, group

with total thyroidectomy, group receiving thyroid sic (without thyroidectomy), group receiv

ing thyroxin (without thyroidectomy), and control group. The thyroidectomy was done 14

weeks after birth and, thyroid sic and thyroxin started to be administered 14 weeks and 8

weeks after birth, respectively. Thyroid sic and thyroxin were given 0.5mg/day/rat and 10ƒÊg

/100g body weight for 5 days in a week, respectively. N-nitrosobutylurea of 6mg/day/rat

was administered to the rats of all the groups for 5 days in a week from the 6th post-natal

week. In patients with various breast diseases functional levels of the thyroid gland were deter

mined by measuring triiodothyroxine (T3 ), Thyroxin-binding-globulin (TBG), thyroid-stimulat

ing-hormone (TSH) and prolactin. Blood samples were obtained in early morning and, serum

samples obtained were frozen and stored. T3, TSH and prolactin were measured by radio

immunoassay, triosorb test by resin-sponge uptake method and TBG by electrophoresis with

cellulose acetate membrane. The patients studied consisted of 8 with fibroadenoma mammae,

4 with mastopathy and 52 with breast cancer.

Results obtained in the study are as follows:

1) Carciogenetic action of N-nitrosobutylurea in rats with total thyroidectomy was greater

at the beginning of the administration, but long-term administration of N-nitrosobutyl reduced

its carciogenetic effect.

2) There was no carciogenetic influence in NBU on rats with thyroid sic administration.

3) No carciogenetic effect was found in rats with subcutaneous administration of thyroxin.

4) TSH and PRL were higher in patients with breast cancer, particularly in earlier stage,

compared with those in patients with benign breast diseases, including mastopathy and fibro

adenoma mammae. However, there was no correlation of TSH and PRL levels to stages of the

breast cancer.

5) PRL was elevated after radical mastectomy than that before the operation.

6) There was no significant difference in T3, triosorb test and TBG between patients with

the benign diseases and those with breast cancer.