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平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業 健康経営評価指標の策定・活用事業 成果報告書 健康経営評価指標の策定・活用コンソーシアム 平成 28 年 2 月 ※取扱注意・無断転載禁 東京大学政策ビジョン研究センター 健康経営研究ユニット

健康経営評価指標の策定・活用事業 成果報告書19 Ⅲ.東京大学WG 東京大学WGでは、「企業(組織)・健保組合の健康経営可視化に関する調査」「健康経営評

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平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業

健康経営評価指標の策定・活用事業

成果報告書

健康経営評価指標の策定・活用コンソーシアム

平成 28年 2月

※取扱注意・無断転載禁

東京大学政策ビジョン研究センター

健康経営研究ユニット

19

Ⅲ.東京大学 WG

東京大学 WG では、「企業(組織)・健保組合の健康経営可視化に関する調査」「健康経営評

価指標の精査のための調査研究」「健康経営評価機構(仮称)」設立に関する基本報告」の3

つの事業を行った。

(1) 企業(組織)・健保組合の健康経営可視化に関する調査

1) 目的

先行企業(組織)・健保組合から健康経営可視化に資するデータを受領し、健康関連総コ

スト測定および健康リスク評価を実施する。

2) 実施内容

① 調査体制の整備

調査組織数等を経済産業省・厚生労働省等と協議の上決定し、調査研究体制を整

備した。9組織が参加し、8組織(74,871 人)から健診・レセプトデータを受領

し分析を行った。1組織は組織内で分析を実施し結果の提供を受けた。

② 研究参加、データ授受に関する契約

協力組織等と東大 WG、協力組織等と東京海上日動リスクコンサルティング(株)

においてデータ授受・秘密保持に関する契約を取り交わした。

③ 分析手順書整備

分析に必要なデータ項目およびデータ受領方法等を記載した企業(組織)・健保

組合説明資料を作成し、説明会を実施した。

④ データ収集・分析

健保組合から収集したデータをもとに分析を実施した。

⑤ 報告書

可視化分析結果を「健康経営評価指標の策定・活用事業」報告書にまとめた。

(2) 健康経営評価指標の精査のための調査研究

1) 目的

(1)の「企業(組織)・健保組合の健康経営可視化に関する調査」結果を踏まえ、健

康経営評価指標(案)について、評価指標自体の妥当性の検証分析を行う。また既

存の健康経営指標を整理し、健康経営評価指標案の策定を実施する。

2) 実施内容

① 指標の妥当性の検討

生産性に関する指標(プレゼンティーイズム、アブセンティーイズム)の測定手

法と有効性の検討、健康関連コストと健康リスク評価の関連性の検討から、指標

の妥当性を検討した。

② 指標・介入効果の分析

動態的評価として、2年間分の健診・問診データ(約 2,000件)を用いて、経年

変化に関する分析を実施した。

20

③ 国内外の健康経営指標の検討

国内の既存指標(経済産業省 平成 27 年度 健康経営度調査、日本政策投資銀行

健康経営格付評価項目)および国外の健康経営に関する指標(Program

measurement and evaluation guide 2015 (HERO)、THE HERO EMPLOYEE HEALTH

MANAGEMENT BEST PRACTICES SCORECARD IN CALLABORATION WITH MERCER

(VERSION4.0))の指標整理を行い、項目一覧を作成した。

④ 健康経営評価指標(案)の策定

本事業で実施した健康経営可視化に関する調査項目(東京大学 WG)を統合し、

健康経営評価指標案を策定した。

⑤ 報告書作成

本報告書に結果を取りまとめた。

(3) 「健康経営評価機構(仮称)」設立に関する基本報告書の作成

1) 目的

日本における健康経営の普及・拡大に資する評価の仕組みを設立することを目標に

基本調査を実施する。国内外の認定・評価等を行う団体の先行事例を調査し、評価

方法等を含め機構の基本スキーム設計を行う。先行事例調査は、文献調査および国

内 1 か所、国外 2か所の現地ヒアリング調査により実施する。報告書を取りまとめ、

同報告に基づき、将来の評価機構設立に向けた準備を開始する。

2) 実施内容

① 国内外の先行事例の調査

国内の健康経営評価先行事例(3 事例)、国内の類似事例(5事例)における

評価項目の設定、評価体制、評価結果の活用等について公開情報や文献調査

およびヒアリング調査(公益財団法人日本医療機能評価機構)をもとに情報

収集し比較検討を行なった。

海外における健康経営評価先行事例(3事例)の検討を行った。文献調査は、

HERO:Health Enhancement Research Organization、ACOEM:American College

of Occupational Medicine お よ び IHPM:Institute for Health and

Productivity Management の米国 NPO3 団体について実施した。HERO と ACOEM

は現地ヒアリング調査を実施した(図表 2-26)。

ヒアリング調査

<公益財団法人日本医療機能評価機構

○日時:平成 27年 10月 9日(金)17:00~18:45

○場所:日本医療機能評価機構会議室

○出席者:(日本医療機能評価機構)今村事務局長、遠矢部長、神保副部長、

(東京大学)尾形、古井、津野、(東京海上日動)小坂、(三菱総合

研究所)赤木、原田

21

<HERO>

○日時:平成 27年 11月 17日 10:30~13:30

○スピーカー:Paul E. Terry (PhD President & CEO)、Jessica Grossmeier

(PhD, MPH, Vice President, Research) 、 Emma Wheeler

(Communications Manager)、他 2名

<ACOEM>

○日時:平成 27年 11月 18日 10:00~11:30

○スピーカー:Mark A. Roberts (M.D., Ph.D., CEO)、Barry S. Eisenberg

(Executive Director)

図表 2-6 ヒアリング調査風景

② 健康経営評価機構(仮称)の基本スキームを設計

次年度以降の具体的な事業検討を進めるにあたって、骨格となる基本設計案を策

定した。

③ 「健康経営評価機構(仮称)」基本調査検討委員会の開催

検討委員会の設置

調査事業の実施においては、「平成 27年度健康経営評価機構(仮称)設立に関

する基本調査検討委員会」を設置し、委員より専門的な意見、提案を求めた。

検討委員会メンバーは 9名で構成した。

22

図表 2-7 検討委員会メンバー (敬称略・五十音順)

安藤 宣弘 株式会社大和証券グループ本社

座長 尾形 裕也 東京大学政策ビジョン研究センター 健康経営研究ユニット

川崎 哲史 株式会社日本政策投資銀行

小坂 雅人 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社

津野 陽子 東京大学政策ビジョン研究センター 健康経営研究ユニット

中島 順 株式会社電通

古井 祐司 東京大学政策ビジョン研究センター 健康経営研究ユニット

八木 雅弘 コニカミノルタ株式会社

安川 拓次 花王株式会社

<事務局>

株式会社三菱総合研究所

検討委員会の開催概要

■第1回検討委員会

日時:平成 27年 9 月 8日(火)18:00~20:00

場所:東京大学伊藤国際学術研究センター中教室

出席者:検討委員会メンバー9名、事務局 3名、オブザーバー8名

主要議事:1.趣旨説明

2.評価機構の報告書イメージについて

3.今後のスケジュール

議事概要:本事業の主旨説明と報告書への記載事項についての確認を行った。

本検討委員会における議論の進め方について検討した。

■第2回検討委員会

日時:平成 27年 10月 30日(金)14:00~16:00

場所:株式会社三菱総合研究所 4階会議室

出席者:検討委員会メンバー9名、事務局 4名、オブザーバー7名

主要議事:1.前回議事録の確認

2.日本政策投資銀行の健康経営格付について

3.類似する評価主体の概要整理について

4.日本医療機能評価機構へのヒアリング結果について

5.健康経営関連団体の概要について

6.海外調査の概要について(スケジュール、ヒアリング項目案等)

議事概要:日本政策投資銀行の健康経営格付けや、その他評価組織の概要を元

に健康経営評価のあり方を検討した。日本医療機能評価機構のヒア

リング結果を元に、評価のインセンティブ等について議論した。

23

■第3回検討委員会

日時:平成 27年 12月 22日(火)15:00~17:00

場所:株式会社三菱総合研究所 4 階会議室

出席者:検討委員会メンバー8名、事務局 3名、オブザーバー5名

主要議事:1.前回議事録の確認

2.海外ヒアリング調査結果の報告

3.健康経営評価機構の基本設計案について

議事概要:海外ヒアリング調査結果をもとに、日本における健康経営の評価の

あり方について検討した。健康経営評価推進機構(仮称)の設立に

向けた具体的な組織図や評価の仕組みなどについて議論した。

■第4回検討委員会

日時:平成 28年 1 月 18日(月)~29日(金)

場所:書面・メール開催

出席者:検討委員会メンバー9名

主要議事:1.健康経営評価推進機構(仮称)の基本スキームの検討

2.報告書内容の承認

④ 報告書作成

①~③の内容を報告書に取りまとめた。

(4) 研究会の運営

1) 目的

健康経営の可視化のため、本事業で研究会を 3回開催する

2) 実施内容

① 説明会の実施(第 1回研究会)

データ提供を行う協力組織等を対象に、事業内容および可視化のためのデータ要

件について説明を実施した。

■開催概要

日時:平成 27年 9 月 9日(水)14:00~15:30

場所:電通 14階会議室

出席者:協力組織 38名、事務局 7名、オブザーバー3名

主要議事:1.全体概要説明

2.実施内容詳細・契約について

3.データ説明、データ取扱いについて

4.今後のスケジュール

議事概要:本事業の主旨説明と契約、データ項目提出方法の事項確認等を行っ

た。

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② 中間報告(第 2回研究会)

健康課題可視化結果の説明および協力組織等との意見交換を行う。

■開催概要

日時:平成 27年 12月 15日(火)15:00~16:30

場所:電通 14階会議室

出席者:協力組織 30名、事務局 7名、オブザーバー4名

主要議事:1.中間報告

2.事業全体の進捗報告、分析結果中間報告

3.今後の進め方

議事概要:協力組織等より進捗状況の報告を行い、意見交換をした。

③ 結果報告(第 3回研究会)

可視化結果を活用したコラボヘルス状況についての発表および意見交換を行う。

■開催概要

日時:平成 28年 2 月 18日(木)14:00~16:30

場所:電通 25A階会議室

出席者:協力組織 30名、事務局 7名、オブザーバー4名

主要議事:1.事業全体の進捗状況

2.全体分析結果の報告

3.各組織の健康課題と今後の展望についての報告

議事概要:健康課題可視化の全体分析結果の提示と各組織からの報告および意

見交換を行い、研究会のまとめを行った。

図表 2-7 研究会の様子

31

3 委託事業の成果・分析結果・課題

3.1 東京大学ワーキング 事業の成果・分析結果・課題

3.1.1 企業(組織)・健保組合の健康経営可視化に関する調査

企業(組織)および健保組合のデータを活用し、健康経営指標による可視化を実現するた

めには、必要なデータを企業(組織)および健保組合から提出してもらう必要がある。可視

化の精度を上げるためには、既に企業(組織)・健保組合が保有している複数の種類のデータ

を結合・統合する上で、提出時の欠損数が最小限となり、マッチングできたデータ数が最大

限となるような工夫が必要となる。また、新たに取得するデータについては、アンケートの

実施方法の工夫や回答の督促などを企業(組織)および健保組合に行ってもらう必要がある。

今回の事業においては、以下のような工夫のもと説明と支援を行うことで、企業(組織)・健

保の理解も深まり、よりよい精度のデータを多く整備・収集できた。

(1) 工夫点

①提出データがそれぞれどの分析に活用されるのかを説明する。

②提出データフォーマットに記入例や閾値を記載し具体的なデータの値などのイメージ

をつきやすくする。

③健康組合ごとの状況については個別相談を実施し認識を合わせる。

以降、(2)~(9)にて、実際に本事業において、企業(組織)・健康保険組合向けに行った説

明方法を示す。説明を基に得たデータ内容・分析結果の報告書について(10)~(12)

に記載し、本事業の課題について(13)にまとめた。

(2) データ項目

調査に必要なデータ項目を大きく3種類に分け、それぞれシートに分けて記載するこ

とにより、必要なデータ項目を各企業(組織)および健康保険組合の担当者が一目でわ

かるようにした。以下、大別した種類ごとに、データ項目の内容をまとめた(図表 3-1

~3-3)。

① 健康リスク項目

海外先行研究および平成 26年度からの東大の研究成果から、生活習慣リスク(4項目)・

生物学的リスク(4 項目)、心理的リスク(5 項目)、計 13 項目を健康リスク項目とした。

生活習慣リスク・生物学的リスクは健診データ・問診票等、心理的リスクは追加アンケー

ト調査等による取得を依頼した。

32

図表 3-1 データ項目:健康リスク項目

カテゴリ データ内容

喫煙 現在、たばこを吸っている

運動 一回 30分以上の軽く汗をかく運動週 2日以上、1年以上

飲酒 アルコール摂取、飲酒日一日当たりの飲酒量

睡眠休養 睡眠で十分休養が取れている

血圧 血圧を下げる薬

収縮期血圧・拡張期血圧

血中脂質

コレステロールを下げる薬

中性脂肪(トリグリセリド)

HDLコレステロール・LDLコレステロール

血糖値 インスリン注射または血糖を下げる薬

空腹時血糖・HbA1c(NGSP値)

肥満 BMI

腹囲(実測)

既往歴

脳卒中にかかっている、治療を受けたことがある

心臓病にかかっている、治療を受けたことがある

慢性の腎不全にかかっている、治療を受けたことがある

貧血と言われたことがある

主観的健康感 あなたの現在の健康状態はいかがですか。

ストレス ストレス判定要チェック

仕事満足度 仕事への満足度はいかがですか

生活満足度 生活への満足度はいかがですか

※その他問診項目

② 健康関連総コスト

海外先行研究および平成 26年度からの東大の研究成果から、健康関連総コストの対象は

6 項目とした。各項目の内容・取得方法を説明するとともに、企業(組織)および健保組

合が所持しているデータの集約により、企業全体の健康関連総コストを可視化できること

を説明した(図表 3-2)。

生活習慣

リスク

生物学的

リスク

心理的

リスク

33

図表 3-2 データ項目:健康関連総コスト

③ レセプト、属性

レセプトより取得するデータを 5 項目にまとめ、属性情報としては性別・年齢、年齢階

級(5 歳階級区分)の 3 項目にまとめた。また各企業(組織)の状況に応じ、職種・所属

等の情報が属性別分析に必要であると説明した(図表 3-3)。

図表 3-3 データ項目:レセプト、属性

(3) データの時点(年度)

本事業においては、2015 年 4 月 1 日に在籍している従業員(被保険者)に紐付くデー

タを対象とした。また原則として、健診データ・レセプトデータは平成 26年度のデータ

を使用し、追加アンケート(生産性に関する項目等)は平成 27年度に実施した結果を使

医療費:レセプト(点数年合計)

傷病手当金:傷病手当金給付額+傷病手当前事業主補填金(傷病手当金付加金)

労災補償:労災給付金(もしくは、労災保険料)

アブセンティーイズム:アンケート調査により、昨年 1 年間の病気による

休業日数を取得。代替指標として、欠勤+休職日数。

プレゼンティーイズム:アンケートにより取得。

従業員賃金:標準報酬月額、標準賞与

⇒健保組合、企業(人事)が持っているデータを集約。

○レセプトデータ

● レセプト区分 (医科/歯科)

● 入院/外来区分

● ICD10(上 3桁)

● 点数(年度合計)

● 受診日数

○属性

●性別、年齢、年齢階級(5 歳階級区分)

⇒各組織の状況に応じて、属性別分析に必要な項目

●職種、所属、事業所等の情報。

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用した。健保組合ごとの事情により、原則通りデータを収集することができない場合は、

個別に相談の場を設け、可能な場合は異なる年度のデータを使用することにした。実際

に説明の場で用いた資料を図表 3-4に示す。

図表 3-4 データの時点(年度)について

(4) 可視化結果

提供したデータが分析によりどのような結果を 図表 3-5 健康関連総コストの把握

得られるか、各健康保険組合がイメージできるよう、

3つの可視化結果を事前に示し、説明した。

① 健康関連総コストの把握

医療費に加え、生産性も含めた健康関連総ストの可視

化を行うことにより、健保組合・事業主双方の共通認

識を図ることが可能になると説明した(図表 3-5)。

② 健康リスク評価(集団)

健康リスクの該当個数と健康関連コストに相関を可視

化し、集団の構成員の健康リスクの該当数を少なくす

ることが、健康コストに影響する可能性を企業と健保

が共有できることを説明した(図表 3-6)。

【健診・問診】

-血圧・BMI

-血液検査データ

-生活習慣(問診)データ データとりまとめ

→健保組合 or 企業

【ストレスチェック】

-ストレス

-仕事満足度

-生活満足度

⇒平成 26 年度実施済であれば平成 26 年度データ

【人事・属性】

-平成 27 年度在籍者のみ

-所属

平成 26 年度データ 平成 27 年度データ

【人事・属性】

-年齢・性別

-賃金(標準報酬)

-休暇日数(欠勤・休職)

-傷病手当金

-労災補償

-所属 等

【レセプト】

-医療費(点数)

-疾病分類(ICD10)

-受診日数

【生産性アンケート】

-プレゼンティーイズム

-(アブセンティーイズム)

-主観的健康度

医療費

24.0%

傷病手当金

3.5%

労災給付金

2.5%アブセン

ティーズム

(欠勤コスト)

2.6%

相対的プレゼ

ンティーズム

67.4%

35

③ 健康リスク評価(リスク指標別)

健康関連コストと個々の健康リスク

項目の相関を可視化することにより、 図表 3-7 健康リスク評価(リスク指標別)

コスト削減に繋がる健康施策の検討

活用できると説明した(図表 3-7)。

図表 3-6 健康リスク評価(集団)

(5) 連結コードの付与・データの期間(分析対象)

① 連結コードの付与

個人情報を社外に流出することなく提出データ(複数ファイル)の各データを連結

することを目的に、個人情報に該当せず、外部にて個人を特定できないコードを、連

結コードとして付与することを各健保組合に依頼した。但し、分析結果を個人に紐付

けするため、また経年変化を将来分析するために、復元できるテーブル等を各企業(組

織)/健康保険組合で保持することを勧めた。具体的には、人事・健診・アンケート・

レセプトの 4 ファイル中の各データをマッチングできるよう、連結コードを付与する

ことを依頼した。

② データの期間(分析対象)

提供データの期間(分析対象期間)は 1 年間で依頼した。開始日は各企業(組織)

/健康保険組合が設定した(1月 1 日~または 4月 1 日~)。また、人事・健診、レセ

プトの各開始日は、可能な限り揃えることを依頼した。

プレゼンティーズム

損失コスト

アブセンティーズム

損失コスト

医療費

生物学的リスク 生活習慣リスク 心理的リスク

血圧 喫煙 生活満足度

血中脂質 アルコール摂取 仕事満足度

肥満 運動習慣 ストレス

血糖 睡眠習慣

健康問題既往症

生物学的リスク 生活習慣リスク 心理的リスク

血圧 喫煙 生活満足度

血中脂質 アルコール摂取 仕事満足度

肥満 運動習慣 ストレス

血糖 睡眠習慣

健康問題既往症

生物学的リスク 生活習慣リスク 心理的リスク

血圧 喫煙 生活満足度

血中脂質 アルコール摂取 仕事満足度

肥満 運動習慣 ストレス

血糖 睡眠習慣

健康問題既往症

各コスト項目において、 有意差(5%水準)のあったリスク指標は、 以下網掛け項目(リスク有の方が損失大きい)

0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 7.00

低リスク

中リスク

高リスク

医療費 プレゼンティーズムコスト アブセンティーズムコスト

1.00

1.31

コスト比

1.97

34.1 33.5

35.636.2

37.839.1

41.242.4

43.6

50.7

30.0

35.0

40.0

45.0

50.0

55.0

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

健康リスク該当数

プレゼンテ

ィー

イズム損失

割合

(%

36

(6) 提出方法

データの提出方法は3パターン用意し、各企業(組織)/健康保険組合の事情に合わ

せ、適切な方法を選択してもらえるようにした。

図表 3-8 提出方法について

(7) 媒体・データ管理

提出された媒体・データの管理は、以下の通りである。

① 運用管理規定

・審査責任者

・管理責任者

・有資格者(管理責任者が任命し、教育受講済みの者のみ利用可とする。)

② 媒体・データの受領

・受領した媒体・データは、管理台帳で管理する。

③ 媒体・データの保管

・媒体は、施錠されたロッカーに保管し、管理責任者のみアクセス可とする。

・データは、管理責任者、有資格者のみアクセス可とし、ID・パスワード管理する。

④ データの利用

・本事業の目的のみに利用する。

・指定したサーバ、PC内のみで利用する。

⑤ 媒体・データの廃棄、消去

・本事業終了後、媒体は廃棄、データは消去し、管理台帳に記録する。

DBサーバ

ファイル アップロード

セキュリ

ティ便

組織・健保組合

健診データ

レセプトデータ

人事データ

媒体保管

データ分析拠点

データ

持ち込み PC

手持ち

連結コード付

アンケート

37

(8) 提出データ形式・注意事項

提出データについて、イメージ図を事前に健康保険組合に提示した。その際に使用し

た図表を以下に示した(図表 3-9)。

図表 3-9 提出データイメージ

また、データ作成の際の留意点について、項目ごとにまとめた。共通認識を図るため、記

入例や欠損値の定義も記載した。その際に使用した図表を以下に示した(図表 3-10)。

【レセプト ICD10上3桁】

連結用コード診療年度(西暦)

レセプト区分 入院/外来区分ICD10

(上3桁)点数

(年度合計)

A氏 0123456789 2013 1:医科 1:入院 I20 174,2520123456789 2013 1:医科 1:入院 I21 307,943

0123456789 2013 2:歯科 2:外来 {ブランク} 765

B氏 1234567890 2013 1:医科 1:入院 D06 38,5931234567890 2013 1:医科 1:入院 N71 3,996

【レセプト 診療日数】

連結用コード診療年度(西暦)

レセプト区分 入院/外来区分日数

(年度合計)

A氏 0123456789 2013 1:医科 1:入院 50日0123456789 2013 1:医科 2:外来 28日0123456789 2013 2:歯科 2:外来 1日

B氏 1234567890 2013 1:医科 1:入院 20日1234567890 2013 1:医科 2:外来 13日

【アンケート】

連結用コードアンケート実施年度

(西暦)主観的健康観 家庭生活に満足だ 仕事に満足だ

0123456789 2014 1 1 11234567890 2014 5 4 4

【健診】

連結用コード健診年度(西暦)

現在、たばこを吸っている

一回30分以上の軽く汗をかく運動

週2日以上、1年以上

日常生活において歩行又は同等の

身体活動を1日1時間以上

アルコール摂取

0123456789 2013 1 1 1 11234567890 2013 2 2 2 2

【人事】

連結用コード提供データ年度

(西暦)年齢

年齢階層コード

性別コード

2013年度標準報酬月額(円)

2014年度標準報酬月額(円)

傷病手当金支給額

(円)[年額]

傷病手当前事業主補填金/傷病手当金付加金(円)[年額]

0123456789 2013 58 09 1 456789 479135 12345678 123451234567890 2013 52 08 2 345678 357913 45678 987654

38

図表 3-10 データ作成時の留意点

(9) 健保組合/人事説明会

上記(1)~(8)の内容等を記載した資料、「データ説明」・「データ提出方法について」を

もとに、各企業(組織)/健保組合を対象とした説明会を実施した。質問・相談につい

ては、説明会後も別途電話やメールで対応した。

(10) 提供データ調査シート

受領した人事・健診・アンケート・レセプトのデータについて、受領データ数や欠損

値等の情報をデータ項目ごとに整理し、「提供データ調査シート」として健康保険組合ご

とにまとめた(図表 3-11)。一覧にまとめることにより、項目ごとのデータの有無・デー

タ数、欠損値等について、健康保険組合ごとに明確にわかるようにした。「提供データ調

査シート」を基に、データ受領後も必要に応じてデータの有無を対象の健保に調査した。

項目 項目種別 データ型 桁 補足 記入例 欠損値の定義№ (○:必須 (整数桁,少数桁)

△:任意)

- - 【標準データ項目】1 ○ 連結用コード コード 10 ※匿名化後データ連結用コード 1234567890 -2 ○ 提供データ年度(西暦) 数値 4 ※連結用コードとあわせて用いる複合キー

項目 (例)2013年度データの場合は、"2014"

2014 2014

3 ○ 年齢 数値 3 【備考】 提供データ年度末時点での年齢 (例)2014年度データの場合は、   2015年3月31日時点での到達年齢

35 -

4 ○ 年齢階層コード コード 2 【コード値】 ※5歳区切り 01:20歳未満 02:20歳以上かつ25歳未満 03:25歳以上かつ30歳未満 04:30歳以上かつ35歳未満 05:35歳以上かつ40歳未満 06:40歳以上かつ45歳未満 07:45歳以上かつ50歳未満 08:50歳以上かつ55歳未満 09:55歳以上かつ60歳未満 10:60歳以上かつ65歳未満 11:65歳以上かつ70歳未満 12:70歳以上かつ75歳未満 13:75歳以上

05 -

- -15 10代替 労災保険料(円)[1人あたり年額] 数値 8 【備考】

 会社合計金額を社員1人あたりに案分した100000 -

16 14代替 2015年3月31日時点事業所(所属) コード 5 000001 ブランク17 14代替 2015年4月 1日時点事業所(所属)

コードコード 5 000001 -

※ハイフンは欠

損値が無いこと

を示す

39

図表 3-11 提供データ調査シート(例)

(11) 提供データ項目有無

(10)に記載した通り、データの有無を企業(組織)/健保組合ごとに調査し、最終的

に 8 企業(組織)/健康保険組合の提供データを受領した。全企業(組織)健康保険組

合のデータ項目の有無について、一覧にまとめた(図表 3-12)。これらのデータを基に、

分析を実施した。

項目No. 項目名 有効値 欠損値 未定義値データ書

式定義顧客提供データ定義桁数 最小値 最大値 要否 内容

1 連結用コード 1,450 0 なし コード コード 10 否

2 提供データ年度(西暦) 1,450 0 なし 数値 数値 4 要 2014に置換

12 休職日数 1,197 20 なし 数値 数値 3,2 0 256 否 欠損値の補完

13 欠勤日数 1,197 20 なし 数値 数値 3,2 0 177 否 欠損値の補完

14 2015年度新入職員 1,450 0 0 コード コード 1 1 2 否

18 職種コード 1,200 2 - コード コード 1~2 A Z 要 欠損値にZを補完

19 事業所コード 1,200 2 - コード コード 1~2 1010 1020 要 欠損値に1100を補完

1 連結用コード 1,154 0 なし コード コード 10 否

2 健診年度(西暦) 1,154 0 なし 数値 数値 4 否

23 20歳の時から10Kg以上増加 931 203 なし コード コード 1 1 2 否

34 保健指導レベル 1,154 0 なし コード コード 1 1 5 否

2 アンケート実施年度(西暦) 1,200 0 なし 数値 数値 4 否

3 主観的健康観 1,200 0 なし コード コード 1 1 5 否

6 心理的ストレス反応(判定結果) 1,200 0 コード コード 1 - - 要 代替項目より導出

7 身体的ストレス反応(判定結果) 1,200 0 コード コード 1 - - 要 代替項目より導出

8 普通のパフォーマンス(プレゼンティーズム(B9)) 1,200 0 なし 数値 数値 2 1 10 否

112014年度病休日数(アンケート項目)※アブセンティーズム 1,200 0 なし 数値 数値 3,2 1 10 否

1 連結用コード 7,000 0 なし コード コード 10 否

2 診療年度(西暦) 7,000 0 なし 数値 数値 4 否

3 レセプト区分 7,000 0 なし コード コード 1 1 3 否

4 入院/外来区分 7,000 0 なし コード コード 1 1 2 否

5 ICD10(上3桁) 6,034 1,580 なし コード コード 3 - - 否

6 点数(年度合計) 7,000 0 なし 数値 数値 7 0 453948 否

1 連結用コード 2,000 0 なし コード コード 10 否

2 診療年度(西暦) 2,000 0 なし 数値 数値 4 否

3 レセプト区分 2,000 0 なし コード コード 1 1 3 否

4 入院/外来区分 2,000 0 なし コード コード 1 1 2 否

5 日数(年度合計) 2,000 0 なし 数値 数値 3 1 68 否

人事

健診

アンケート

レセプト(ICD10上3桁)

2015

レセプト(日数)

データ型 クレンジング処理データ数 データ値

14桁

2015

14桁

2014

14桁

2014

14桁

2014

40

図表 3-12 提供データ項目有無

項目No. 項目名 A健保 B健保 C健保 D健保 E健保 F健保 G健保 H健保

2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014

1 連結用コード ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

2 提供データ年度(西暦) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

3 年齢 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

4 年齢階層コード ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

5 性別コード ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

6 2014年度標準報酬月額(円) ○ ○ × ○ ○ ○ ○ ○

7 年間賞与額 ○ × ○ ○ ○ ○ ○ ○

8 傷病手当金支給額(円)[年額] ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ○

9 傷病手当前事業主補填金/傷病手当金付加金(円)[年額] ○ × ○ × × ○ × ○

10 労災給付金(円)[1人あたり年額] ○ ○ ○ △(保険料) ○ ○ ○ ○

11 有休日数 ○ × × × ○ × ○ ○

12 休職日数 ○ × ○ ○ ○ ○ ○ ○

13 欠勤日数 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

14 2015年度新入職員 × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014

1 連結用コード ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

2 健診年度(西暦) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

3 現在、たばこを吸っている ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

4 一回30分以上の軽く汗をかく運動週2日以上、1年以上 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

5 日常生活において歩行又は同等の身体活動を1日1時間以上 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

6 アルコール摂取 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

7 飲酒日一日当たりの飲酒量 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

8 就寝前2時間以内の夕食週3回以上 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

9 夕食後の間食週3回以上 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

10 朝食の欠食週3回以上 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

11 人と比較して食べる速度が速い ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

12 睡眠で十分休養が取れている ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

13 生活習慣改善意識 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

14 血圧を下げる薬 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

15 収縮期血圧 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

16 拡張期血圧 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

17 コレステロールを下げる薬 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

18 中性脂肪(トリグリセリド) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

19 HDLコレステロール ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

20 LDLコレステロール ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

21 BMI ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

22 腹囲(実測) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

23 20歳の時から10Kg以上増加 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

24 この1年間で3Kgの体重増減あり ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

25 脳卒中にかかっている、治療を受けたことがある ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

26 心臓病にかかっている、治療を受けたことがある ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

27 慢性の腎不全にかかっている、治療を受けたことがある ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

28 貧血と言われたことがある ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

29 インスリン注射または血糖を下げる薬 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

30 空腹時血糖 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

31 HbA1c(NGSP値) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

32 血清クレアチニン ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

33 尿蛋白(定性) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

34 保健指導レベル ○ ○ ○ ○ × ○ ○ ○

2014 2014 2015 2015 2015 2015 2015 2015

1 連結用コード ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

2 アンケート実施年度(西暦) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

3 主観的健康観 ○ × ○ ○ ○ × ○ ×

4 家庭生活に満足だ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

5 仕事に満足だ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

6 心理的ストレス反応(判定結果) ○ ○ ○ × ○ ○ ○ ○

7 身体的ストレス反応(判定結果) ○ ○ ○ × ○ ○ × ○

8 普通のパフォーマンス(プレゼンティーズム(B9)) ○ ○ × × ○ × ○ ○

9 普段の自分(プレゼンティーズム(B10)) ○ ○ × × ○ × ○ ○

10 ここ数週間の自分のパフォーマンス(プレゼンティーズム(B11)) ○ ○ ○1項目版 ○1項目版 ○ × ○ ○

11 2014年度病休日数(アンケート項目)※アブセンティーズム ○ × × ○ ○ × ○ ×

2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014

1 連結用コード ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

2 診療年度(西暦) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

3 レセプト区分 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

4 入院/外来区分 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

5 ICD10(上3桁) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

6 点数(年度合計) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014

1 連結用コード ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

2 診療年度(西暦) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

3 レセプト区分 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

4 入院/外来区分 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

5 日数(年度合計) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

新基準(低0-3) 標準 新基準(低0-3) 標準 新基準(低0-3) 標準 新基準(低0-3) 標準

項目数 13 12 13 12 13 12 13 12

レセプト(ICD10上3桁)

レセプト(日数)

健康リスク(13項目)

人事

健診

アンケート

41

(12) 報告書作成

分析結果の図表を用いて、各健康保険組合の「健康経営評価指針の策定・活用事業」

東大 WG 報告書(word)と結果概要版(PPT)を作成した (図表 3-13、図表 3-14)。

図表 3-13 東大 WG報告書(word)

(13) データ収集に関する課題

今回のデータ取得から分析を実施する中で以下 3つの課題があった。

(a)個人情報の取り扱い

(b)レセプト処理の課題

(c)マッチング時の欠損

(a)個人情報の取り扱いについて

本来健保組合および事業主が取得・保有する従業員個人情報は目的のみに使用し、

第三者への個人情報の提供をする場合は、従業員の同意をとる必要がある。その場合、

実務的にもデータ取得量としても懸念が残る。そのため、今回多くの健保組合及び事業

主とは第三者提供ではなく業務委託とすることにより提供するという方向性で調整した。

本調整や健保組合によっては従業員に同意を取り直したところもあり、情報取得までに

多くの時間を要した。

今後、ストレスチェックの制度化に伴いさらに情報を取得するのが厳しくなると考え

られる。

●●健康保険組合・●●会社

経済産業省平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業(ヘルスケアビジネス創出支援等)「健康経営評価指針の策定・活用 事業」 東京大学WG

報告書

東京大学政策ビジョン研究センター 健康経営研究ユニット

図表 3-14 東大 WGk 結果概要版 (PPT)

(word)

42

(b)レセプト処理の課題

分析結果を確認する段になって、性別・疾病別コストに被扶養者のものと思われる疾病

が見つかった。原因は、データ引取り時の名寄せ処理において、本人以外の被扶養者のデ

ータを取り込んでいたためである。

レセプトデータは個人紐付けや疾病ごと紐付などの処理を行うことで分析に使用できる。

健保組合によって、分析に使用できる状況になるまでの過程が違うため、各健保組合とデ

ータ仕様を調整するなどが必要となる。現状の健保組合のレセプト使用関係者(基幹シス

テムベンダー等)と連携して健保組合がよりレセプトデータを簡便に提出できるしくみを

検討する必要がある。

(c)マッチング時の欠損

提供された各データについて、欠損したデータを除外すると N数(母数)が当初受領し

たデータ数から大幅に減る。(図表 3-15)そのため、分析する項目に応じて N数(母数)

をかえて分析を行ったが分析結果の信頼性が低くなるケースが発生した。そのため、欠損

値に代替の近似値等を埋めてでも母数を確保したほうがよいか考える必要があった。

図表 3-15 マッチング時の欠損

43

3.1.2 アウトカム指標による健康経営の可視化

(1) 生産性指標測定の方法と課題

生産性の指標として、アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムがある。

アブセンティーイズム:病欠、病気休業

プレゼンティーイズム:何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産

性が低下している状態。

1) アブセンティーイズム

病欠・病気休業の日数である。「昨年 1 年間に病気により仕事を休んだ日数」を取

得したいが、企業・組織で休暇理由を正確に合わせてデータを持っているとことは

少ないだろう。アブセンティーイズムのデータ取得を 2つの方法で実施した。

① 従業員本人へのアンケート調査

「昨年 1年間に、自分の病気で何日仕事を休みましたか」という質問項目により、

アブセンティーイズムを自己申告してもらう方法である。この場合、休暇の種類を

限定していないため、有給休暇を含む休暇取得の中の病気によって休んだ日数を把

握することができる。ただし、アンケート方法にもよるが回答率が 100%とすること

は難しく、欠損値が多く出てしまう懸念がある。

② 欠勤・休職日数を代替指標として使用

有休休暇を取得し終えた後の欠勤・休職であれば、疾病によることがほとんどで

あると考えられるため、「欠勤・休職日数」をアブセンティーイズムの代替指標とし

て使用した。企業・組織によって異なるが、有休休暇取得時に理由を正確に取得し

ていることころは少なく、有給休暇の中の病気による休暇取得日数は含まれていな

い。そのため、アブセンティーイズムは過小評価になっている可能性がある。ただ

し、企業・組織の持っているデータのため欠損値はない。

2) プレゼンティーイズム

プレゼンティーイズムは主観的質問項目によって測定されている。特にホワイト

カラーの労働に関するプレゼンティーイズムを客観的に測定することは難しく、自

記式調査項目で測定するためのスケールが 1990年代から複数開発されている。その

中でも WHO(世界保健機関)による Health and Work Performance Questionnaire

(WHO-HPQ)や、Work Limitations Questionnaire (WLQ)は、スケールの信頼性・妥当

性に関する検証の蓄積があり、世界的に使用されている。

スケールの信頼性・妥当性の検証については、研究が蓄積されている一方、主観

的質問項目であるため測定結果に幅があることや、生産性損失割合への換算手法に

ついて十分に合意が得られていないなど課題もある。日本においては、プレゼンテ

ィーイズムの測定は近年関心が高まり、測定が試みられている。しかし、学術論文

として発表されているものはほとんどなく、日本人におけるプレゼンティーイズム

44

の大きさやスケールの妥当性の検討が必要である。

3) 参加組織の概要

東京大学 WGには 9組織が参加した。各組織の平均年齢、男女比、プレゼンティー

イズムの測定方法、アブセンティーイズムの把握方法、健康リスク項目数は、図表

3-16の通りである。

図表 3-16 参加組織の概要

組織 平均年齢 男女比 プレゼンティーイズム アブセンティーイズム 健康リスク項目数

1 36.9 歳 3:7 WHO-HPQ アンケート

欠勤・休職 13 項目

2 42.4 歳 5:5 WHO-HPQ 欠勤 12 項目(主観的健康感なし)

3 44.2 歳 8:2 東大 1項目版 欠勤・休職 13 項目

4 39.7 歳 6:4 東大 1項目版 アンケート

欠勤・休職 12 項目(ストレスなし)

5 44.5 歳 9:1 WHO-HPQ アンケート

欠勤・休職 13 項目

6 45.0 歳 9:1 - 欠勤・休職 12 項目(主観的健康感なし)

7 39.7 歳 9:1 WHO-HPQ アンケート

欠勤・休職 13 項目

8 43.4 歳 8:2 WHO-HPQ 欠勤・休職 12 項目(主観的健康感なし)

9 41.3 歳 9:1 WLQ なし 9項目(心理的リスク 4項目な

し)

注)プレゼンティーイズムのスケールについては、2章で記述。

WHO:WHO Health and Work Performance Questionnaire

WLQ:Work Limitations Questionnaire

(2) プレゼンティーズム測定手法

1) WHO-HPQ(Health and Work Performance Questionnaire)

○ WHO(世界保健機関)で世界的に使用されている「WHO-HPQ」である。「WHO 健康と

労働パフォーマンスに関する質問紙」によるプレゼンティーイズム測定の 3項目。

作成はハーバードメディカルスクール。

○ プレゼンティーイズムに関する質問項目は、3問である(図表 3-17)。WHO-HPQ ス

ケールのリード文を作者に確認し、一部改編した。

45

図表 3-17 プレゼンティーイズムに関する質問項目

【出典】WHO Health and Work Performance Questionnaire (short form) Japanese edition

(WHO 健康と労働パフォーマンスに関する質問紙(短縮版)日本語版 http://www.hcp.med.harvard.edu/hpq/info.php)をハーバード大学メディカルスクールの了解を得たうえで、リード文等一部変更している。 (HPQ Short Form (Absenteeism and Presenteeism Questions and Scoring Rules

http://www.hcp.med.harvard.edu/hpq/ftpdir/absenteeism%20presenteeism%20scoring%20050107.pdf)

○ 得点方法は、2通り提示されている。

① 絶対的プレゼンティーイズム

絶対的プレゼンティーイズム(%)=「質問 3」*10 (範囲=0-100%)

絶対的プレゼンティーイズム損失割合(%)=100-絶対的プレゼンティー

イズム

② 相対的プレゼンティーイズム(同僚・他者との比)

相対的プレゼンティーイズム=「質問 3」 / 「質問 1」

※コスト換算のための相対的プレゼンティーイズムは、1.0<を 1.0 に変換

し、範囲 0.25-1.0 とする。

※相対的プレゼンティーイズム欠損は、相対的プレゼンティーイズムの平

均値を補完しコスト算出した。

2) WLQ(Work Limitations Questionnaire)

○ WLQ-Jは、WLQ(Work Limitations Questionnaire、タフツ大学医学部作成)の日

本語版。(版権・日本語版作成:株式会社損保ジャパン・ヘルスケアサービス※

有料)

○ 全 25 問の質問項目からなり、4 つの尺度(「時間管理」5 問、「身体活動」6 問、

「集中力・対人関係」9問、「仕事の結果」5問)で構成されている。回答は、体

調不良によって職務が遂行できなかった時間の割合や頻度を、「常に支障があっ

た」~「まったく支障はなかった」の 5段階、及び「私の仕事にはあてはまらな

い」から選択する自己記入式。

1. あなたと似たような仕事(同じ職種、同じ業務)をしている労働者の普段のパフォーマンスをあなたはどのように評価しますか?0から10までの尺度上で評価してください。

2. 過去1~2年のあなたの普段のパフォーマンスをあなたはどのように評価しますか?0から10までの尺度上で評価してください。

3. 過去4週間(28日間)の間のあなたの総合的なパフォーマンスをあなたは、どのように評価しますか?0から10までの尺度上で評価してください。

仕事のパフォーマンス(遂行状況)について伺います。0が誰でもできるような最低の仕事のパフォーマンス、10がもっとも優れた労働者のパフォーマンスとして、0から10の間で、どこにあてはまるかお答えください。

最低のパフォーマンス

最高のパフォーマンス

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

最低のパフォーマンス

最高のパフォーマンス

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

最低のパフォーマンス

最高のパフォーマンス

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

(出典:WHO健康と労働パフォーマンスに関する質問紙(短縮版)日本語版http://www.hcp.med.harvard.edu/hpq/info.php)

46

○ 算定式により数値化して業務生産性(%)が算出される。

① 時間管理:勤務時間や始業時刻等の決められた時間の管理に対して、健康上の問題が影

響を与えている度合い

② 身体活動:業務に必要な動作や作業に対して、健康上の問題が影響を与えている度合い

③ 集中力・対人関係:集中力とは、仕事への集中力に対して、健康上の問題が影響を与え

ている度合い。対人関係とはコミュニケーションに対して、健康上の問題が影響を与え

ている度合い

④ 仕事の結果:予定や期待通りに仕事の結果を出すことに対して、健康上の問題が影響を

与えている度合い

3) 東大 1項目版

○ アンケートの設問数を減らしたいなどの理由により、プレゼンティーイズムの意

味をそのまま反映したアンケート 1 項目にて取得する項目を東京大学 WG にて作

成した。

4) スケールの比較検討によるプレゼンティーイズム測定の有効性

○ 各プレゼンティーイズムスケールの平均値は、WHO-HPQ 絶対的プレゼンティーイ

ズム(5組織 35,360件)(図表 3-17)は平均 60.0±18.5%、東大 1項目版(2組

織 6,061件)(図表 3-19)は平均 84.9±15.7%、WLQ(1組織 2,450件)(図表 3-20)

は平均 93.9±4.5%であった。回答した組織数や各組織の年齢・性別の構成も異

なることから、一概に比較はできないが、プレゼンティーイズム損失割合(100%

-プレゼンティーイズム)は 6~40%であり、測定方法により平均値に差がある

ことが分かった。

○ プレゼンティーイズムのスケールごとの分布をみると、100%(プレゼンティー

イズムの損失なし)のところが最も多くなっている、東大 1項目版と WLQは分布

の傾向が似ていた。WHO-HPQ の相対的プレゼンティーイズム(コスト換算用に範

囲を 0.25-1.0 に変換した)分布(図表 3-18)は、同様の傾向であった。

○ 相対的プレゼンティーイズムは WHO-HPQのスコアリング1の1つであり、本事例に

おいては、プレゼンティーイズムをコスト換算する場合には、相対的プレゼンテ

ィーイズムを用いることが、健康関連総コストの割合からみても妥当と考えた。

1 HPQ Short Form (Absenteeism and Presenteeism Questions and Scoring Rules)2007. http://www.hcp.med.harvard.edu/hpq/ftpdir/absenteeism%20presenteeism%20scoring%20050107.pdf

【プレゼンティーイズム1項目】※東京大学健康経営研究ユニット作成

病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として過去4週間の自身の仕事を評価してください。 % (1-100%)

47

図表 3-18 WHO-HPQ絶対的プレゼンティーイズム(5組織 35,360 件):平均 60.0±18.5%

図表 3-19 WHO-HPQ相対的プレゼンティーイズム(5組織 35,360 件):平均 0.92±0.16

図表 3-20 東大 1項目版(2組織 6,061 件):平均 84.9±15.7%

0.6% 1.0%2.3%

5.6% 6.5%

21.0%

16.5%

23.1%

16.9%

4.7%

1.8%

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

絶対的プレゼンティーイズム

該当割合(%)

0.4% 0.9% 1.7% 3.6% 5.5% 7.2%

14.1%

0.1%

66.5%

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

0.25 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

相対的プレゼンティーイズム

該当割合(%)

0.0% 0.1% 0.3% 0.4% 0.7% 0.5%

3.8% 4.1%

11.3%

25.4%23.7%

29.7%

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

0 1-9 10-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-79 80-89 90-99 100

東大1項目版プレゼンティーイズム (n=6,061)

該当割合(%)

48

図表 3-21 (参考)WLQ(1組織 2450 件):平均 93.9±4.5%

(3) アブセンティーイズムの分布

○ アブセンティーイズムアンケート(4 組織 7,612 件)(図表 3-21)は平均 2.6±

14.5 日、病休日数(欠勤・休職)(8 組織 74,871 件)(図表 3-22)は平均 2.2±

18.7日であった。

○ アンケートと病休日数(欠勤・休職)の平均日数は同等であったが、分布をみる

と、アンケートでは「0 日」が 46.3%、「1~10 日」が 51.3%であるが、病休日

数(欠勤・休職)では「0日」が 97.1%となっている。

○ 病休日数(欠勤・休職)では有給休暇の中で病気で休んだ日数を把握することが

できず、本来取得したい「アブセンティーイズム」としての日数を捉えきれてい

ない可能性がある。アブセンティーイズムの代替指標として病休日数(欠勤・休

職)を使用する際は配慮が必要である。

図表 3-22 アブセンティーイズムアンケート(4組織 7,612 件)

平均 標準偏差 男性 女性(1) 0日 3527 46.3% 40.4 4.4 56.7% 43.3%(2) 1日~10日 3905 51.3% 41.0 10.0 66.5% 33.5%(3) 11日~20日 109 1.4% 42.8 9.8 56.9% 43.1%(4) 21日~30日 29 0.4% 43.6 9.4 48.3% 51.7%(5) 31日~40日 8 0.1% 44.6 8.8 37.5% 62.5%(6) 41日~50日 0 0.0% - - - -(7) 51日~60日 8 0.1% 41.3 12.9 37.5% 62.5%(8) 61日~70日 2 0.0% 34.5 13.4 50.0% 50.0%(9) 71日~80日 3 0.0% 46.7 4.7 33.3% 66.7%(10) 81日~90日 2 0.0% 43.0 15.6 50.0% 50.0%(11) 91日~100日 1 0.0% 44.0 - 100.0% 0.0%(12) 101日以上 18 0.2% 40.2 8.8 44.4% 55.6%

アブセンティーイズム(アンケート)

度数 割合平均年齢(歳) 男女比

49

■健康関連総コスト • 医療費

• 傷病手当金

• 労災補償

• アブセンティーイズム

アンケートもしくは、病休日数(欠勤・休職)で代替

• プレゼンティーイズム

• 賃金(標準報酬)

医療費

傷病手当金

労災補償

アブセンティーイズム

(病欠)

プレゼンティーイズム

アブセンティーイズム:病欠、病気休業

プレゼンティーイズム:何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態

生産性の指標

アンケート調査で取得

■健康リスク項目

13項目

○生物学的リスク5項目

• 血圧・血中脂質・肥満・血糖値・既往歴

○生活習慣リスク4項目

• 喫煙・飲酒・運動・睡眠休養

○心理的リスク4項目

• 主観的健康感・ストレス・

生活満足度・仕事満足度

アンケート調査で取得

中リスク

低リスク

定期健康診断・特定健診項目、問診票に含まれる項目

図表 3-23 病休日数(欠勤・休職)(8組織 74,871件)

(4) アウトカム指標の健康関連総コストと健康リスク評価の関連

1) 目的と分析項目

健康関連総コストの推計および健康リスク評価を行うことで健康課題を可視化す

ることを目的とした。分析に用いた項目は図表 3-24の通りである。

図表 3-24 分析項目

2) 分析枠組み

分析(図表 3-25)は、①健康関連総コストの推計、②健康リスク評価、健康リス

クと生産性の関連について行った。

平均 標準偏差 男性 女性 0日 72681 97.1% 42.54 11.18 73.6% 26.4% 1日~10日 462 0.6% 41.68 11.26 64.9% 35.1% 11日~20日 246 0.3% 44.23 10.74 74.4% 25.6% 21日~30日 206 0.3% 43.73 10.57 67.5% 32.5% 31日~40日 108 0.1% 42.17 10.33 67.6% 32.4% 41日~50日 120 0.2% 41.58 11.07 64.2% 35.8% 51日~60日 83 0.1% 43.66 10.23 66.3% 33.7% 61日~70日 92 0.1% 42.77 11.41 69.6% 30.4% 71日~80日 56 0.1% 40.89 10.73 62.5% 37.5% 81日~90日 61 0.1% 41.69 10.31 54.1% 45.9% 91日~100日 64 0.1% 41.28 10.36 57.8% 42.2% 101日以上 692 0.9% 41.62 9.60 55.5% 44.5%

病休日数(欠勤・休職)

度数 割合平均年齢(歳) 男女比

50

図表 3-25 分析枠組み

3) 用語の定義

1.医療費:平成 26 年度の医療費総額

2.傷病手当金:傷病手当金(+傷病手当前の事業主補填金)

3.労災補償費:平成 26年度の労災保険給付費。取得できない場合は、労災保険料で代用。

4.アブセンティーイズム:病欠、病気休業。アンケート項目「昨年 1年間に、自分の病気

で何日仕事を休みましたか」の回答日数。

アブセンティーイズムコスト=総報酬日額(円)*アブセンティーイズム(日)。

5.病休日数:欠勤日数+休職日数。アブセンティーイズムの代替指標として使用。

病休コストは、総報酬日額(円)*病休日数(日)。

6.プレゼンティーイズム:何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産

性が低下している状態。WHO-HPQ スケールの 3 項目を使用、東大 1 項目版など各組織が選択

したプレゼンティーイズムスケールで測定。

7.コスト換算のための金額

※総報酬日額(円)=(標準報酬月額*12月+標準賞与)/ 365日

※総報酬年額(円)=標準報酬月額*12月+標準賞与

4) 健康リスク評価手法

○ 健康リスク項目として、海外における先行研究を参考に日本の健診・問診項目を

活用し、健康リスク項目とリスク判定基準を図表 3-26の通り設定した。生物学

的リスク 5 項目、生活習慣リスク 4 項目、心理的リスク 4項目の計 13項目を設

定した。各組織によりデータ取得の可否があり、13 項目もしくは 12 項目の健康

リスク項目で分析を行った。

低リスク

中リスク

高リスク

医療費 プレゼンティーイズムコスト アブセンティーイズムコスト

1.0

1.3

コスト比1.6

①健康関連総コストの推計

• 医療費+生産性コストによる健康関連総コスト全体の推計を行う。健康リスク評価による現状分析を試みる。

②健康リスク評価

• 健康リスクとなる項目を設定し、健康リスクの該当数により、健康リスクレベルを低・中・高の3レベルに区分し、従業員の各リスク割合をベンチマークする。

中リスク

低リスク

医療費

長期障害

短期障害

アブセンティーイズムプレゼンティーイズム

③健康リスクと生産性の関連

• 健康リスクレベル別の医療費・生産性・全体コストの比較検討。

• 医療費・生産性に関連する健康リスク項目を検討する。

51

図表 3-26 健康リスク項目とリスク判定基準

健康リスク項目 リスク基準

生物学的(Biological)リスク:5項目

1 血圧 血圧を下げる薬服薬(1=はい)または収縮期血圧 130以上ま

たは拡張期血圧 85以上

2 血中脂質

コレステロールを下げる薬服薬(1=はい)または、中性脂肪

(トリグリセリド)150以上または HDL コレステロール 40 未

3 肥満 BMIが 25.0以上または腹囲が男性≧85、女性≧90

4 血糖値 インスリン注射または血糖を下げる薬服薬(1=はい)または、

空腹時血糖 110以上または HbA1c(NGSP値)6.0以上

5 既往歴 脳卒中、心臓病、慢性の腎不全、貧血のいずれかに該当

生活習慣(Lifestyle)リスク:4項目

6 喫煙習慣 現在喫煙習慣あり(1=はい)

7 飲酒習慣 毎日アルコール摂取(1=毎日)かつ飲酒 1日あたり 44g程度

以上(3=2~3合または 4=3合以上)

8

運動習慣:一回 30 分以上の軽

く汗をかく運動週 2日以上、1 年

以上

いいえ

9 睡眠で十分休養が取れている いいえ

心理的(Psychological)リスク:4項目

10 主観的健康感 あまりよくない/よくない

11 生活満足度 やや不満足/不満足

12 仕事満足度 やや不満足/不満足

13 ストレス 心理的・身体的ストレスいずれか要チェック (K6はカット

オフ値)

注)リスク基準は、メタボリックシンドローム判定基準(8学会策定新基準 2005年 4月)、日本循環器学会等

の禁煙治療基準(第 6版 2014年 4月)等により設定.ストレスは、「職業性ストレス簡易調査表」の簡易採

点法による心理的・身体的ストレス反応の要チェックの該当の有無を用いた。

○ 健康リスク項目から、健康リスクの数により、健康リスクレベルをパーセンタイ

ル値等により低・中・高の 3レベルに区分し、組織の健康リスクを可視化する手

法である健康リスク評価を行った。

○ 健康リスク 13項目では、低リスク(0-3個)、中リスク(4-5個)、高リスク(6

個以上)に区分した。なお、健康リスク 12 項目以下では、低リスク(0-2 個)、

中リスク(3-4個)、高リスク(5個以上)に区分した。

5) 結果:健康関連コストの推計

○ 健康関連総コストのうち、プレゼンティーイズムの割合が約 8~9割と最も大き

な割合を占めていた。プレゼンティーイズムが最も大きい割合であることは、海

外における先行研究と同様の結果であった。

○ プレゼンティーイズムコストは、WHO-HPQ 相対的プレゼンティーイズム(同様の

52

仕事をしている人のパフォーマンスに対する過去 4 週間の自分のパフォーマン

スの比)を用いた場合には、構成割合で約 8割を占め、1人当たりのプレゼンテ

ィーイズム損失コストは 564,963 円であった。(図表 3-27)

○ プレゼンティーイズムコストを東大健康経営研究ユニット作成プレゼンティー

イズム 1項目版を用いた場合には、構成割合で約 9割を占め、1人当たりのプレ

ゼンティーイズム損失コストは 1,460,353円であった。(図表 3-29)

○ プレゼンティーイズム損失コストの差は、WHO-HPQ相対的プレゼンティーイズム

損失割合は平均 8%、東大健康経営研究ユニット作成プレゼンティーイズム 1 項

目版の損失割合は平均 15.1%であり、スケールの違いにより損失割合が 7%ほど

差があったことによる。

○ アブセンティーイズムコストをアンケートで取得したデータを用いた場合は、健

康関連総コストに占める割合は 4.4%(1人あたり 31,778円)(図表 3-27)、病

休日数(欠勤・休職)を用いた場合は 3.7%(1人あたり 26,540 円)(図表 3-28)

であった。

図表 3-27 健康関連総コスト(3組織 3,429件):WHO-HPQ+アブセンティーイズム(アンケート)

注)プレゼンティーイズムは、WHO-HPQによる相対的プレゼンティーイズム(同様の仕事をしている人のパフォー

マンスに対する過去 4週間の自分のパフォーマンスの比)、アブセンティーイズムはアンケート回答による病欠日

数を採用。

(N=3429) 平均(円) 標準偏差 割合(%)2014年度医療費 113,928 372,590 15.7%労災補償費 6,870 0.9%傷病手当金支給額 7,328 96,481 1.0%アブセンティーイズム(アンケート) 31,778 140,954 4.4%相対的プレゼンティーイズム 564,963 1,053,886 77.9%

計 724,868 100%

医療費15.7%

傷病手当金1.0%

労災給付金0.9%

アブセンティーイズム

(アンケート)4.4%

相対的プレゼンティーイズム77.9%

53

図表 3-28 健康関連総コスト(3組織 3,429件):WHO-HPQ+病休日数(欠勤・休職)

注)プレゼンティーイズムは WHO-HPQによる相対的プレゼンティーイズム、アブセンティーイズムは病欠日

数(欠勤・休職)を採用。

図表 3-29 健康関連総コスト(2組織 14,238 件):東大 1項目版+病休日数(欠勤・休職)

注)プレゼンティーイズムは東大健康経営研究ユニット作成プレゼンティーイズム 1 項目版、アブセンティーイ

ズムは病欠日数(欠勤・休職)を採用。

6) 結果:健康リスク評価

○ 健康リスク項目への該当割合(図表 3-30)は、男女でリスクありの割合に差が

あった。男性では、生物学的リスク(血圧、血中脂質、肥満、血糖値)と生活習

慣リスクの喫煙習慣の該当割合が女性に比べて高くなっていた。

医療費

15.8%

傷病手当金

1.0%労災補償費

1.0%

病休日数(欠勤・休職)

3.7%相対的プレゼ

ンティーイズム

78.5%

(N=3429) 平均(円) 標準偏差 割合(%)2014年度医療費 113,928 372,590 15.8%労災補償費 6,870 1.0%傷病手当金支給額 7,328 96,481 1.0%病休日数(欠勤・休職) 26,540 236,089 3.7%相対的プレゼンティーイズム 564,963 1,053,886 78.5%

計 719,630 100%

医療費

7.7%

傷病手当金

0.4%労災補償費

1.0%

病休日数(欠勤・休職)

1.3%1項目版プレゼン

ティーイズム

89.6%

(N=14243) 平均(円) 標準偏差 割合(%)

2014年度医療費 124,869 394,851 7.7%労災補償費 16,764 1.0%傷病手当金支給額 6,865 144,966 0.4%病休日数(欠勤・休職) 20,924 245,039 1.3%1項目版プレゼンティーイズム 1,460,353 1,234,718 89.6%

計 1,629,776 100%

54

図表 3-30 男女別健康リスク該当割合(8組織)

※男女で 10%以上該当割合に差がある項目に枠を付けた。

○ 健康リスク評価(図表 3-31~図表 3-33)は、全体では低リスクレベルが 66.1%、

高リスクレベルは 9.2%となっていた。男女で比べると、低リスクレベルの割合

が女性の約 7割に対し、男性が約 6割となっており、男性より女性のほうが平均

年齢が若いこともあるが、男女差がみられた。

○ 全体として低リスク層を維持(拡大)することが組織としての課題となる。

図表 3-31 健康リスク評価(健康リスク 13項目)4組織の結果

リスクあり リスクあり リスクありリスクあ

り度数 割合% 度数 割合%

生物学的(Biological)リスク

血圧 52651 16376 31.1% 18699 1639 8.8%

血中脂質 52645 14816 28.1% 18699 1071 5.7%

肥満 52635 21146 40.2% 18686 1901 10.2%

血糖値 52646 6955 13.2% 18698 587 3.1%

既往歴 30732 1820 5.9% 14462 2621 18.1%生活習慣(Lifestyle)リスク

喫煙習慣 51908 15928 30.7% 18350 1162 6.3%

飲酒習慣 43910 3991 9.1% 14054 285 2.0%

運動習慣:一回30分以上の軽く汗をかく運動週2日以上、1年以上

51422 41139 80.0% 18051 16125 89.3%

睡眠で十分休養が取れている 52034 15324 29.4% 18162 6951 38.3%心理的(Psychological)リスク

主観的健康観 5868 768 13.1% 3326 592 17.8%生活満足度 38356 6759 17.6% 14346 2071 14.4%仕事満足度 38369 12451 32.5% 14346 4826 33.6%ストレス 34455 5956 17.3% 12768 2586 20.3%

女性(n=19996)

nn健康リスク評価項目

男性(n=54875)

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

90.0%

100.0%

全体(n=3977) 男性(n=2242) 女性(n=1735)

66.1% 60.8%73.0%

24.6%27.3%

21.2%

9.2% 11.9%5.8%

高リスク(6-)

中リスク(4-5)

低リスク(0-3)

55

図表 3-32 男性;年代別健康リスク評価(健康リスク 13項目)

図表 3-33 女性;年代別健康リスク評価(健康リスク 13項目)

7) 結果:健康リスクと生産性の関連

① 健康リスク項目別の生産性と医療費(図表 3-34)

○ プレゼンティーイズムは生活習慣リスク・心理的健康リスク項目との関連が

強かった。

○ 医療費については、生物学的リスク「あり」の人は、リスク「なし」の人に

比べ、いずれの項目においても医療費が高くなっていた。

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

90.0%

100.0%

20-24歳 25-29歳 30-34歳 35-39歳 40-44歳 45-49歳 50-54歳 55-59歳 60-64歳

80.8%75.4% 70.7%

64.3%57.6% 60.4%

47.9% 49.3% 48.1%

15.4%18.8%

21.3%27.8%

28.9% 26.0%

35.8% 29.9%40.6%

3.8% 5.8% 8.0% 7.9%13.5% 13.6% 16.3% 20.9%

11.3%

高リスク(6-)中リスク(4-5)低リスク(0-3)

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

90.0%

100.0%

20-24歳 25-29歳 30-34歳 35-39歳 40-44歳 45-49歳 50-54歳 55-59歳 60-64歳

78.6% 77.8% 75.0% 75.8%69.4% 72.3%

62.4%53.7%

68.8%

17.9% 17.5% 20.8% 20.1%23.1% 20.7%

27.0%32.8%

28.1%

3.6% 4.7% 4.2% 4.1% 7.4% 6.9% 10.6% 13.4%3.1%

高リスク(6-)

中リスク(4-5)

低リスク(0-3)

56

図表 3-34 生産性・医療費に関連のある健康リスク(5組織)

注)プレゼンティーイズムを WHO-HPQ で測定した 5 組織(n=47,348)の結果。アブセンティーイズムはそのうち

アンケートで測定した 3組織(n=3,429)の結果である。

② 健康リスク項目別の生産性と医療費(図表 3-35)

○ 健康リスクレベル別に生産性指標をみると、アブセンティーイズム(アンケ

ート)は、高リスク者で大きくなっていた。

○ プレゼンティーイズム(WHO-HPQ)は、低リスクから高リスクまで直線的に

悪化していた。

※各健康リスク項目において有意差のあった項目に網掛け。

(年齢・性別を調整した偏相関分析結果)

血圧

血中脂質

肥満

血糖値

既往歴

喫煙

アルコール

運動習慣

睡眠休養

主観的健康観

生物学的リスク 生活習慣リスク 心理的リスク

血圧

血中脂質

肥満

血糖値

既往歴

喫煙 ※逆相関

アルコール

運動習慣

睡眠休養

血圧

血中脂質

肥満

血糖値

既往歴

喫煙

アルコール

運動習慣

睡眠休養

WHO-HPQプ

レゼンティーイズム損失

アブセンティーイズム(アンケート)

医療費

生活満足度

仕事満足度

ストレス

生活満足度

仕事満足度

ストレス

主観的健康観

生活満足度

仕事満足度

ストレス

主観的健康観

57

図表 3-35 健康リスク評価別生産性(3組織 3,369件)

注)アブセンティーイズム(アンケート)、プレゼンティーイズムは WHO-HPQ による絶対的プレゼンティー

イズムを用いた。プレゼンティーイズム損失割合(%)=100-プレゼンティーイズム。

注)健康リスク評価は健康リスク数 13項目の組織の分析結果。

③ 健康リスク評価と健康関連コスト

○ 健康リスク該当項目数別および健康リスクレベル別の健康関連コスト(全体

コスト・医療費・生産性)の比較検討を行った(図表 3-36)。

○ アブセンティーイズムコスト、プレゼンティーイズムコストは、健康リスク

レベルがよくないほど高くなっていた。健康リスクレベルは年齢が上がるほ

ど該当数が多く、年齢が上がるほど総報酬額が高いことによる影響もあると

考えられる。

○ 性別・年齢で調整した偏相関分析の結果、健康リスクレベルがよくないほど

健康関連コストが高くなる関連があった。

○ 低リスク層に比べ、医療費は高リスク層は 2.5倍、プレゼンティーイズムコ

ストは 1.2 倍、アブセンティーイズムコストは 2.6 倍となっている。

40.3%

41.6%

44.0%

1.6日

1.8日

4.8日

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

35.0

36.0

37.0

38.0

39.0

40.0

41.0

42.0

43.0

44.0

45.0

低リスク 中リスク 高リスク

アブセンティーイズム(アンケート)(日)

絶対的プレゼンティーイズム損失割合

健康リスク評価

WHO-HPQ絶対的プレゼンティーイズム損失割合

アブセンティーイズム(アンケート)

58

図表 3-36 健康リスクレベル別健康関連コスト(3組織 3,369件)

図表 3-37 健康リスクレベル別の健康関連コスト比(3組織 3,369件)

注)アブセンティーイズム(アンケート)、プレゼンティーイズムは WHO-HPQ による絶対的プレゼンティーイズムを用い

た。プレゼンティーイズム損失割合(%)=100-プレゼンティーイズム。

注)健康リスク評価は健康リスク数 13項目の組織の分析結果。

注)p値は、p<.000 ***, p<.01 **, p<.05 *。

0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000

低リスク

中リスク

高リスク

医療費WHO-HPQプレゼンティーイズムコストアブセンティーイズム(アンケート)コスト

コスト比1.4

1.3

1.01.0

1.3

2.5 1.2

1.4

2.6

1.2

1.01.0

プレゼンティーイズムコスト

アブセンティーイズムコスト

66.5% 1.00 1.00 1.00 1.0024.2% 1.31 1.91 1.22 1.389.3% 1.44 2.52 1.22 2.64

偏相関係数(性別・年齢で制御) .084 .100 .050 .067*** *** ** ***

健康関連コスト計

健康リスク割合%

低リスク(0-3)中リスク(4-5)高リスク(6-)

医療費生産性

59

④ 疾病(19傷病分類)別の健康関連コスト

○ 19傷病分類別に、健康関連コストを算出し、比較検討した。

図表 3-38 男性;19傷病分類別の平均健康関連コスト(3組織 男性 n=1,790)

注)年間の傷病名が複数ある人は、複数の 19傷病分類にカウントとなる。

注)歯科レセプトのうち、電子レセプト分のみが含まれている。

注)網掛けは、各項目上位 10位。

注)アブセンティーイズムコストはアンケート(アブセンティーイズム)コストを採用した。

注)プレゼンティーイズムコスト:WHO-HPQによる相対的プレゼンティーイズム(同様の仕事をしている人のパフォーマンスに

対する、過去 4週間の自分のパフォーマンスの比)を採用。

WHO-HPQプレゼンティーイ

ズムコスト

アブセンティーイズムコスト

Ⅰ 感染症及び寄生虫症 356 553,507 8,834 498,288 46,385

Ⅱ 新生物 167 781,669 55,385 658,873 67,411

Ⅲ 血液及び造血器の疾患並びに免疫機構の障害 69 616,074 22,787 546,207 47,080

Ⅳ 内分泌,栄養及び代謝疾患 437 725,337 38,521 643,771 43,045

Ⅴ 精神及び行動の障害 88 691,224 52,742 577,462 61,020

Ⅵ 神経系の疾患 144 667,161 46,986 560,278 59,896

Ⅶ 眼及び付属器の疾患 443 520,001 9,994 474,073 35,934

Ⅷ 耳及び乳様突起の疾患 83 799,151 8,581 748,466 42,104

Ⅸ 循環器系の疾患 297 687,472 78,630 553,931 54,910

Ⅹ 呼吸器系の疾患 835 713,301 15,336 654,649 43,316

ⅩⅠ 消化器系の疾患 447 749,769 24,456 675,458 49,856

ⅩⅡ 皮膚及び皮下組織の疾患 299 594,033 11,549 539,044 43,440

ⅩⅢ 筋骨格系及び結合組織の疾患 313 698,046 14,324 639,786 43,936

ⅩⅣ 腎尿路生殖器系の疾患 129 746,981 57,214 642,112 47,656

ⅩⅤ 妊娠,分娩及び産じょく 0 0 0 0 0

ⅩⅥ 周産期に発生した病態 0 0 0 0 0

ⅩⅦ 先天奇形,変形及び染色体異常 9 362,557 8,000 292,389 62,168

ⅩⅧ 症状,徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの

238 609,848 11,181 550,750 47,917

ⅩⅨ 損傷,中毒及びその他の外因の影響 159 624,643 22,321 553,557 48,766

不明 289 857,709 111,724 687,848 58,137

歯科 603 629,114 39,348 544,595 45,172

調剤 771 705,436 37,664 620,803 46,968

その他 11 979,420 64,345 859,225 55,849

平 均 6187 189,269 32,617 147,000 9,653

医療費

生産性コスト

19疾病分類 度数健康関連コスト計

60

図表 3-39 男性;19傷病分類別の平均健康関連コストの合計(3組織 男性 n=1,790)

0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000

ⅩⅦ先天奇形,変形及び染色体異常(n=9)

Ⅶ 眼及び付属器の疾患(n=443)

Ⅰ 感染症及び寄生虫症(n=356)

ⅩⅡ皮膚及び皮下組織の疾患(n=299)

ⅩⅧ他に分類されないもの(n=238)

Ⅲ 血液,造血器の疾患,免疫機構の障害(n=69)

ⅩⅨ損傷,中毒及びその他の外因の影響(n=159)

歯科(n=603)

Ⅵ 神経系の疾患(n=144)

Ⅸ 循環器系の疾患(n=297)

Ⅴ 精神及び行動の障害(n=88)

ⅩⅢ筋骨格系及び結合組織の疾患(n=313)

調剤(n=771)

Ⅹ 呼吸器系の疾患(n=835)

Ⅳ 内分泌,栄養及び代謝疾患(n=437)

ⅩⅣ腎尿路生殖器系の疾患(n=129)

ⅩⅠ消化器系の疾患(n=447)

Ⅱ 新生物(n=167)

Ⅷ 耳及び乳様突起の疾患(n=83)

不明(n=289)

その他(n=11)

医療費 WHO-HPQプレゼンティーイズムコスト アブセンティーイズムコスト

61

図表 3-40 女性;19傷病分類別の平均健康関連コスト(3組織 女性 n=1,639)

注)年間の傷病名が複数ある人は、複数の 19傷病分類にカウントとなる。

注)歯科レセプトのうち、電子レセプト分のみが含まれている。

注)網掛けは、各項目上位 10位。

注)アブセンティーイズムコストはアンケート(アブセンティーイズム)コストを採用した。

注)プレゼンティーイズムコスト:WHO-HPQによる相対的プレゼンティーイズム(同様の仕事をしている人のパフォーマンスに

対する、過去 4週間の自分のパフォーマンスの比)を採用。

WHO-HPQプレゼンティーイ

ズムコスト

アブセンティーイズムコスト

Ⅰ 感染症及び寄生虫症 307 660,679 18,496 618,568 23,615

Ⅱ 新生物 265 697,571 86,179 559,434 51,958

Ⅲ 血液及び造血器の疾患並びに免疫機構の障害 82 537,074 25,637 476,828 34,610

Ⅳ 内分泌,栄養及び代謝疾患 229 807,907 53,106 712,818 41,983

Ⅴ 精神及び行動の障害 59 677,362 77,772 555,985 43,605

Ⅵ 神経系の疾患 92 555,442 34,314 488,391 32,737

Ⅶ 眼及び付属器の疾患 617 558,887 7,682 530,088 21,116

Ⅷ 耳及び乳様突起の疾患 69 601,651 18,139 563,427 20,086

Ⅸ 循環器系の疾患 128 669,877 112,658 520,587 36,632

Ⅹ 呼吸器系の疾患 780 566,367 22,641 514,280 29,445

ⅩⅠ 消化器系の疾患 284 610,080 35,901 545,350 28,829

ⅩⅡ 皮膚及び皮下組織の疾患 405 613,655 21,275 560,771 31,609

ⅩⅢ 筋骨格系及び結合組織の疾患 216 552,985 76,528 449,878 26,579

ⅩⅣ 腎尿路生殖器系の疾患 257 641,070 36,552 569,409 35,108

ⅩⅤ 妊娠,分娩及び産じょく 74 534,258 169,958 335,769 28,532

ⅩⅥ 周産期に発生した病態 3 319,072 112,487 154,641 51,945

ⅩⅦ 先天奇形,変形及び染色体異常 16 436,145 22,835 391,905 21,405

ⅩⅧ 症状,徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの

168 657,135 19,032 605,115 32,988

ⅩⅨ 損傷,中毒及びその他の外因の影響 103 662,358 42,426 589,403 30,529

不明 212 553,367 49,594 470,950 32,823

歯科 540 619,268 32,410 551,745 35,113

調剤 179 630,230 27,289 564,116 38,825

その他 9 1,165,825 198,064 887,658 80,103

平 均 5094 201,050 37,075 155,599 8,375

医療費

生産性コスト

19疾病分類 度数健康関連コスト計

62

図表 3-41 女性;19傷病分類別の平均健康関連コストの合計(3組織 女性 n=1,639)

(5) 動態的評価の検討;経年変化の検討

1) 目的

本研究では、平成 25 年度および平成 26 年度の 2 年間在籍している 1 組織 1,736

名を対象とし、平成 25 年度および平成 26 年度の健康関連コストおよび健康リスク

の経年変化について分析を行った。

2) 方法

① 対象と属性

本研究では、平成 27年度在籍者のうち、平成 25 年度および平成 26年度の健

診・問診データのある 1,674 名を対象とした。平成 25 年度および平成 26 年度

の両方のデータが欠損のない 2013・平成 26年度のデータがある 1,580件を分析

対象(平成 25 年度または平成 26 年度の両方あるいはいずれかのデータが欠損

している場合は経年比較分析の対象外)とした。本研究において、年齢階級別

の分析は全て、平成 26年度の到達年齢を用いた。

② 分析方法

健康リスクについて、同一の集団の 2 時点(平成 25 年度、平成 26 年度)の

データについて比較分析を行った。分析項目は以下の通りである。

健康リスクレベルの変化

健康リスク項目の該当個数の変化量

健康リスクレベルの遷移パターン

0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000 1,400,000

ⅩⅥ周産期に発生した病態(n=3)

ⅩⅦ先天奇形,変形及び染色体異常(n=16)

ⅩⅤ妊娠,分娩及び産じょく(n=74)

Ⅲ 血液,造血器の疾患,免疫機構の障害(n=82)

ⅩⅢ筋骨格系及び結合組織の疾患(n=216)

不明(n=212)

Ⅵ 神経系の疾患(n=92)

Ⅶ 眼及び付属器の疾患(n=617)

Ⅹ 呼吸器系の疾患(n=780)

Ⅷ 耳及び乳様突起の疾患(n=69)

ⅩⅠ消化器系の疾患(n=284)

ⅩⅡ皮膚及び皮下組織の疾患(n=405)

歯科(n=540)

調剤(n=179)

ⅩⅣ腎尿路生殖器系の疾患(n=257)

ⅩⅧ他に分類されないもの(n=168)

Ⅰ 感染症及び寄生虫症(n=307)

ⅩⅨ損傷,中毒及びその他の外因の影響(n=103)

Ⅸ 循環器系の疾患(n=128)

Ⅴ 精神及び行動の障害(n=59)

Ⅱ 新生物(n=265)

Ⅳ 内分泌,栄養及び代謝疾患(n=229)

その他(n=9)

医療費 WHO-HPQプレゼンティーイズムコスト アブセンティーイズムコスト

63

3) 結果

① 健康リスクレベル(図表 3-42、図表 3-43)

男性は1年間でリスク構造に変化はほぼなかったが、女性は悪化傾向にあった。

特に女性の 30歳代、40歳代で有意に健康リスクレベルが悪化していた。

健康リスク項目を男女別でみた場合、男性では「リスクあり」が増加した健康

リスク項目はなかったのに対し、女性では「血中脂質」「既往歴」「睡眠休養」

で「リスクあり」の人が有意に増加していた。特に 30代、50代女性で「睡眠

休養」の「リスクあり」該当者が有意に増加していた。

図表 3-42 健康リスク評価の経年変化(男性)

図表 3-43 健康リスク評価の経年変化(女性)

② 健康リスク項目該当数の変化量

1年間で健康リスク数に変化ない人が約半数であり、改善群(1項目以上減

った)は 20.6%、悪化群(1項目以上増えていた)は 23.9%であった。改

善群に比べ、悪化群が 3ポイント以上多かった(図表 3-44)。

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2013 (n=461) 2014 (n=461)

56.0% 57.3%

29.9% 29.1%

14.1% 13.7%

低リスク(0-2個) 中リスク(3-4個) 高リスク(5個以上)男性

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2013 (n=1119) 2014 (n=1119)

70.0% 67.8%

26.7% 27.9%

3.3% 4.3%

低リスク(0-2個) 中リスク(3-4個) 高リスク(5個以上)女性

64

同じ健康リスクレベルに留まっていても、リスク項目該当数が増加している

人が一定数存在することが示唆された。

図表 3-44 健康リスク(10 項目)の該当数の変化割合

注)健康リスク項目該当数が減少した場合を「改善」、増加した場合を「悪化」として集計している。

③ 健康リスクレベル(低・中・高レベル)の 2013~2014 年の変遷(図表 3-45)

1年間で健康リスクレベルに変化ない人が約 8 割であり、改善群は 9.2%、

悪化群は 11.0%であった。

遷移パターンをみると、低リスクから中リスクへ遷移した人は 9.0%、中リ

スクから低リスクへ遷移した人は 7.7%と、低リスク、中リスクの間での遷

移が多かった。一方、中リスクと高リスク間の遷移及び低リスクと高リスク

間の遷移はほとんどなかった。

0.1% 0.6% 2.7%

17.3%

55.4%

20.2%

3.0%0.6% 0.1%

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

-4 -3 -2 -1 ±0 +1 +2 +3 +4

(%)

20.6% 23.9%改善= 悪化=変化なし(維持)

変化量 度数 割合改善 326 20.6%変化なし 876 55.4%悪化 378 23.9%

合計 1,580 100.0%

65

図表 3-45 健康リスクレベル(低・中・高レベル)の 2013~2014 年の変遷パターン

3.1.3 評価指標の分析による PDCA サイクルの提示

(1) 健康経営評価指標の有効性の検証:HERO Scorecard における試み

1) 背景

企業・組織の「健康経営」の評価に関しては、わが国においても、経済産業省の

「健康経営度調査」や日本政策投資銀行の「DBJ健康経営(ヘルスマネジメント)格

付」をはじめ、それぞれの目的に応じ、既にいくつかの評価指標が開発され、実践

に移されている。「健康経営」を普及・推進していくに当たって、こうした客観的な

評価は非常に重要であり、「健康経営」に関する PDCA サイクルを回していく上で中

核的な役割を担うことが期待されている。「健康経営」を単なる一過性の「流行」で

はなく、企業・組織文化に根差した持続的な「制度」として定着させていくために

は、こうした「評価」の普及・拡大が大きなカギを握っている。そして、そのため

には、「評価」自体が有効性、信頼性を有していることがその前提条件となる。

一方、わが国の既存の評価指標については、開発及び実践の日数がまだ浅く、デ

ータの蓄積が十分でないこともあり、その有効性について十分な実証的裏付けは行

われていない状況にある。今後、その有効性の検証が大きな課題であると考えられ

る。本稿においては、この面で先行しているアメリカの非営利法人 HERO(Health

Enhancement Research Organization:健康増進調査機構)の評価指標( HERO

Scorecard : HERO Employee Health Management Best Practices Scorecard in

Collaboration with Mercer)に関する有効性検証の最近の試みを紹介し、今後のわ

が国における「健康経営」評価指標自体の「評価」に当たっての参考資料を提供す

ることとしたい。

(参考文献)

〔1〕Ron Goetzel, Rachel Mosher Henke, Richele Benevent, et al. The Predictive Validity

高リスク(5個以上)

中リスク(3~4個)

低リスク(0~2個)

2.0%

1.3%

9.0%

7.7%

0.0 %

27.7%

28.2%

6.5%

7.03%

65.9%

64.8%

5.0%

56.9%

17.9% 0.1%

悪化

改善

変化なし2013年

2014年

変化

なし

凡例

66

of HERO Scorecard in Determining Future Health Care Cost and Risk Trends, Journal

of Occupational and Environmental Medicine. 2014;56 (2):136-144.

〔2〕Health Enhancement Research Organization and Population Health Alliance, Program

Measurement and Evaluation Guide : Core Metrics for Employee Health Management.

2015.

〔3〕HERO, Mercer, HERO Scorecard Annual Report 2014.

2) 結果要約

HEROの評価指標である HERO Scorecard の、医療費及び健康リスクの変化について

の予測能力を測定するため、2009 年から 2011 年の期間における 33 の企業・組織に

おける医療費(レセプト)データ及び健康リスク評価結果と、HERO Scorecard の評

価点数の比較分析を行った。その結果は、HERO Scorecard の評価上位点数グループ

については、インフレ調整後の医療費のトレンドが 3年間で年率平均マイナス 1.6%

と、明らかな医療費適正化効果が見られたのに対し、評価下位点数グループについ

ては、医療費が 3 年間ほぼ横ばいであった。HERO Scorecard は、医療費の変化につ

いては、十分な予測能力を有しているものと考えられる。一方、健康リスク評価結

果との関係については、データの制約もあり、どちらとも言えない(inconclusive)

結果となった。この点については、さらなる調査研究が必要である。

3) HERO Scorecardについて

HERO Scorecard は、HERO の専門家委員会によって選定された評価指標を用いた、

事業主に対するオンライン調査ツールであり、職場における健康増進に関する組織

体制、従業員の参加率、費用及び成果(outcome)等について測定を行っている。HERO

Scorecard は、こういった各種の評価ツールの中でも最もよく利用されているものの

1つであり、総数で 1,200 以上の事業主が回答を寄せている。回答企業・組織は、

大企業、中堅企業、小企業といった規模、あるいはさまざまな事業分野を広くカバ

ーしており、米国全体のサンプルとして良好な代表性を有している。

HERO Scorecard の最初のバージョンは 2006 年に開発された。その後、HERO

Scorecard に関する表面的、内容的妥当性(face and content validity)の検証は

定期的に行われ、バージョンの更新に活用されてきている。現時点では 2014 年 6月

に公表されたバージョン4が最新版である。HERO Scorecard は 6 つの領域(戦略計

画、リーダーシップ、プログラム管理、実行プログラム、参加促進策、測定・評価)

について評価が行われ、満点が 200 点となっている。ちなみに、バージョン 3 にお

ける点数分布は図表 3-46 の通りであり、上位から下位まで点数分布にはかなりの差

異があることがわかる(平均点数はバージョンによって異なるが、概ね 100 点前後

となっている)。

67

図表 3-46 HERO Scorecard(バージョン 3)における点数分布

出典:参考文献〔3〕

4) 今回の分析の方法、使用データ等

今回の検討において分析対象となったのは、2009 年から 2012 年の間に、HERO

Scorecard に回答し、従業員の医療費(レセプト)データ等を提供した 33 の事業所

である。なお、健康リスク評価データについては、2009年から 2011年の間のデータ

となっている。

医療費データについては、分析対象を現役のフルタイム被用者(18~64 歳)に限

定している。また、女性については、対象期間中に妊娠しているケースは除かれて

いる。医療費は、医療サービス及び保健医療用品(医薬品)それぞれについての消

費者物価指数を使用して、2012 年時点の価値に置き直したインフレ調整後のデータ

となっている。なお、医療費データについては、95 パーセンタイル値を外れた外れ

値は除外されている。

一方、健康リスク評価については、肥満、高血圧、高コレステロール、高血糖の 4

つの代表的な健康リスクを対象とし、従業員を高リスク者と低リスク者の 2 つのグ

ループに大別している。その基準としては、それぞれ、肥満については BMI 30 以上、

血圧は収縮期 140mm Hg 以上または拡張期 90mmHg 以上、コレステロールは総コレス

テロール値 240mg/dL 以上、血糖値は 126mg/dL 以上を高リスク者としている。これ

らの健康リスクについても、上下の大幅な外れ値については、一定の基準で除外し

ている。この 4 つ以外の健康リスクについては、対象期間中にデータを統一的に測

定している組織が少なかったため、分析対象としていない。

HERO Scorecardの成績については、対象事業所を高得点グループ(100点~200点)

及び低得点グループ(0点~99点)に二分している。ちなみに、全参加事業所(857)

の平均値は 93点であったので、ここでの基準点 100点にほぼ近い結果となっている。

分析手法としては、医療費及び健康リスクのそれぞれの項目ごとに、階層的線形

回帰モデル(hierarchical linear regression models)が推定されている。階層と

68

しては、時間、従業員、組織の 3 つのレベルが特定されている。すべてのモデルに

おいて、HERO Scorecardの成績(高得点または低得点)、分析対象年、HERO Scorecard

の成績と分析対象年の相関を独立変数としている。交絡因子をコントロールするた

め、共変数として、従業員の年齢、性、従業員の住所地(北東部、北中央部、南部、

西部の別)、給与形態(時給または月給)、事業のタイプ(サービスまたは非サービ

ス)、保険給付範囲(保険給付率)がとられている。当初のモデルにおいては、企業

規模及び事業の種類を共変数に入れていたが、それは結果に影響しなかった。

5) 分析結果

分析対象となったサンプルは、2009 年から 2011 年の間の各年における 70 万人以

上の従業員である。そのうち、2/3 が男性であり、平均年齢は 43 歳であった。そし

て、約 1/2 弱がサービス産業の企業・組織の従業員であった。

図表 3-47は、交絡因子をコントロールした階層的線形回帰モデルによって得られ

る年間医療費予測値の推移を、HERO Scorecard の成績高得点グループ(100 点~200

点)と低得点グループ(0 点~99 点)に分けて示したものである。これを見ると、

2009年から 2011 年の間で、低得点グループの医療費(破線)がほぼ横ばいであるの

に対し、高得点グループの医療費(実線)は、年率で平均 1.6%の減少となっている

ことがわかる。従業員 1 人当たりの年間医療費の変動は、高得点グループの方が低

得点グループより平均して 47.7 ドル低いことになる(P<0.001)。

図表 3-47 HERO Scorecard の成績グループ別年間医療費予測値(2012年ドル換算)の推移

出典:参考文献〔1〕及び〔3〕(P.65-P.66参照)

一方、図表 3-48 には、HERO Scorecard の成績グループ別に見た肥満、高血圧、

高コレステロール、高血糖の4種類の健康リスク(該当者割合)の推移を示した。

69

これを見ると、いずれの健康リスクについても、初年度においては、低得点グルー

プ(破線)は高得点グループ(実線)に比べ、健康リスク該当者の割合が高いこと

がわかる。これは、予測通りの結果であると言える。ところが、その後の 2 年間の

推移を見ると、血糖値を除く 3 つの健康リスクに関しては、むしろ低得点グループ

の方が高得点グループよりも改善度合いが大きくなっている(破線の方が実線より

も直線の傾斜が急である)。特に、高血圧に関しては、低得点グループの方が、3年

目にはかえって高得点グループよりも健康リスク該当者割合が低い結果となってい

る。

図表 3-48 HERO Scorecard の成績グループ別健康リスク該当割合の推移

出典:参考文献〔1〕(P.65参照)

6) 考察

この分析では、HERO Scorecard の成績が医療費のトレンド及び従業員の健康リス

クを正しく予測できているかどうかを評価することによって、HERO Scorecard の予

測妥当性(predictive validity)について検証している。

まず、医療費については、期待通り、HERO Scorecard の成績高得点グループは、

低得点グループに比べ、明らかに医療費水準が低く、しかもその後のトレンドとし

ても、大きな医療費適正化効果を示している(図表 3-47)。また、それに加えて、

興味深いことに、HERO Scorecard に回答したほとんどすべての企業・組織は、分析

70

対象期間において、医療費が減少または横ばいになっているという事実がわかった。

このことは、こうした HERO Scorecard 回答企業・組織は、一般に、(平均的な企業・

組織以上に)従業員の健康問題に関心があり、医療費適正化にも熱心であることを

示唆しているものと考えられる。

一方、従業員の健康リスクについては、サンプル数が限られていたこともあり、

肥満、高血圧、高コレステロールという 3 つの健康リスクについて、低得点グルー

プの方が高得点グループよりも改善度合いが大きいという結果となった。しかしな

がら、すべての健康リスクについて、初年度においては、低得点グループは、高得

点グループに比べ、健康リスク該当者の割合が高くなっていた。低得点グループの

方がその後の健康リスクの改善度合いが大きいのは、いわゆる平均への回帰効果

(regression to the mean)の結果かもしれない。あるいは、分析対象期間におけ

る低得点グループによる積極的改善努力の結果である可能性もある。また、分析対

象期間において、HERO Scorecard の成績は、1 企業・組織当たり 1 つに固定されて

いるので、その間における成績のシフト(高得点グループへのシフト等)は考慮さ

れていないという要因もある。

一般的に、職場における健康増進活動への参加による健康状態の改善効果は、当

初から(通常、活動開始から 1~2年の間に)観察されることが多い。これに対して、

医療費削減効果は、(まず健康状態の改善があって、その後、受診率の低下、さらに

は医療費の削減へとつながることを考えると)通常 3 年以上の期間を経て実現する

ものである。従って、HERO Scorecard の成績高得点グループは、低得点グループに

比べ、当初の健康リスク該当者の割合が低いことから来る「有利なスタート」を切

っていた可能性がある。

いずれにせよ、この分析結果は、サンプル数の少なさのために、直ちに一般化で

きるものではないという点に留意する必要がある。特に、今回の 33 のサンプルは大

企業・組織が中心であったことから来る偏りがある。中小規模の企業・組織は、一

般に、その資源制約の問題から、大企業・組織に比べ、HERO Scorecard の成績が低

く出る傾向がある。今後、中小企業・組織のデータを含め、さらに多くのデータを

追加することによって、より精度の高い分析になることが期待される。

また、データの拡充を前提として、今後、HERO Scorecard の各構成領域における

評価の有効性についての検証及びそれに基づく評価項目の更新・改善も可能になる

ものと考えられる。こうした継続的な評価の改善努力を積み重ねることによって、

より信頼性の高い健康経営評価が実現し、さらにそれが、より多くの企業・組織の

健康経営の実践をもたらすという「好循環」につながることが期待される。

なお、今回の分析対象期間は 3 年間であったが、これはより長期の医療費や健康

リスク状況の変化を見るには、必ずしも十分長い観察期間であるとは言えない。今

後、さらに長期にわたるデータ分析が必要であると考えられる。

71

(2) 既存指標の整理

医療の質を評価する手法として用いられるストラクチャー・プロセス・アウトカムと

いう枠組みで 5つの健康経営評価指標を暫定的に整理した(図表 3-49)。

① 経済産業省 平成 27年度 健康経営度調査

② 日本政策投資銀行 健康経営格付評価項目

③ Program measurement and evaluation guide 2015 (HERO)

④ THE HERO EMPLOYEE HEALTH MANAGEMENT BEST PRACTICES SCORECARD IN CALLABORATION

WITH MERCER (VERSION4.0)

⑤ 本事業で実施した健康経営可視化に関する調査項目(東京大学 WG)

72

図表 3-49 健康経営評価指標の整理

※1 アウトカムの分類は、「Program measurement and evaluation guide 2015 (HERO)」および先行研究より分類した。

評価の5側面 大項目

①経営理念・方針 企業の経営における健康への取り組みの位置づけ 労働安全衛生 2. 組織の支援、組織風土社内・社外 労務管理経営トップの発信

②組織体制 組織構築 組織体制 健診実施とデータ管理⑤健康経営スタンダード実践 制度・施策 Ⅶ.企業の経営における金銭的投資 「健康経営」に取り組むマネジメント体制の構築

情報開示

③制度・施策実行 課題把握 ストレスチェック 1. 戦略的計画立案健康診断 コンプライアンス

メンタルヘルスに関する各チェック

職員の健康配慮に関する目標・計画の設定 3. 健康管理プログラム提供

管理職教育(ラインケア)の実施有無・頻度

職員の健康に関する状況・特性の分析・把握 4. 健康管理プログラムの統合

従業員に対する教育(セルフケア)

生活習慣病対策 5. 参加を促す戦略(インセンティブ)

コミュニケーションの促進 メンタルヘルス対策 6. 効果測定と評価従業員に対する教育 職場の環境改善

禁煙CSR(社会的責任)としれの生活者や社会の健康増進に対する貢献活動

食生活 健康経営上の優れた取り組み運動感染症対策その他の施策

Ⅲ.対象者を限定した個々に応じた生活習慣予防のための支援

重症化予防支援

Ⅳ.長時間労働 労働時間

Ⅴ.健康診断結果職場復帰支援プログラム…職場復帰支援についてあらかじめ定めた事業所全体のルール休職・死亡者数

Ⅷ.保険者との連携Ⅸ.施策の効果検証

健康状態 身体的要因 ④評価・改善 制度・施策 血圧 Value on Investment frame work オプション:アウトカム測定血中脂質 • Biometric variables 健康状態(生物学的、生活習慣)

健康診断結果 適正体重維持者率 肥満血糖既往歴

生活習慣要因 喫煙率 喫煙 • Health behaviors (modifiable risk factors)運動習慣者比率 飲酒

運動睡眠休養

精神的(心理的)要因 ストレス (Mental and Emotional healyh impact)主観的健康観 • Health status生活満足度仕事満足度

その他 健康診断結果 特定保健指導対象率

生産性 アブセンティーイズム 健康診断結果 長期欠勤・休職者数 アブセンティーイズム • Productivity/performanceプレゼンティーイズム プレゼンティーイズムその他 年間総実労働時間

年間所定外労働時間年次有給休暇取得率年次有給休暇取得日数長時間労働者数退職者数在職・休職中死亡者数

医療費 医療費 医療費 • Financial outcomes (medical cost savings) 経済的インパクト(健康関連コスト)生産性コスト アブセンティーイズムコスト

プレゼンティーイズムコストその他 労災補償費

傷病手当金

満足度 (再掲) 仕事満足度 • Satisfaction Employer 従業員満足度Member/participant

参加 一般定期健康診断受診率 • Participation Rates 参加率精密検査受診率 Intensity特定健康診査実施率特定保健指導実施率

区分経済産業省 平成27年度 健康経営度調査 日本政策投資銀行 健康経営格付評価項目(2015年度) 東京大学WG(健康経営研究ユニット) Program measurement and evaluation guide

2015 (HERO)調査項目 スクリーニングシート概要 健康経営研究スキーム分類※1

健康関連コスト生産性コスト

その他

ストラクチャー

企業姿勢

健康管理

健康経営Ⅰ(運営全般)

プロセス

制度・施策健康管理

健康経営Ⅱ(実施事項)

経済的アウトカム

アウトカム

健康診断結果

Ⅰ.従業員の健康についての状況・課題把握

Ⅱ.対象者を限定しない生活習慣改善・疾病予防のための支援

Ⅵ.休暇・休職~復帰支援

THE HERO EMPLOYEE HEALTH MANAGEMENT BEST

PRACTICES SCORECARD IN CALLABORATION WITH MERCER,

VERSION4.0

健康経営Ⅰ(運営全般)

労働時間

休暇・休職

健康診断結果健康リスク

身体的リスク

生活習慣リスク

心理的リスク

生産性

73

(3) 健康経営評価項目の策定(案)

健康経営評価の既存指標(健康経営度調査等)のストラクチャー(structure)-プロ

セス(process)指標に、アウトカム(outcome)評価を統合した健康経営評価項目案(図

表 3-50)を作成した。健康経営の PDCA サイクルを回すための評価指標と考えることがで

きる。

図表 3-50 健康経営評価項目(案)

【参考】「経済産業省 平成 27 年度 健康経営度調査」、「Program measurement and

evaluation guide 2015 (HERO)」、「本事業で実施した健康経営可視化に関する調査項目(東

京大学 WG)」より作成した。

3.1.4 健康経営評価推進機構(仮称)基本調査

(1) 国内外の先行事例の調査

1) 国内の類似事例の検討;評価・認定を行っている主な組織

健康経営銘柄、日本政策投資銀行健康経営格付け、その他の評価・認定機関とし

て国際標準化機構による ISO9000、一般財団法人日本情報経済社会推進協会による

プライバシーマーク、日本医療機能評価機構による病院機能評価について、①評価

②認定 ③組織 ④ガバナンス ⑤事業規模 の点から情報収集を行なった。その

一覧表を以下に示す。

PDCA

サイクル

ストラクチャー

①経営理念・方針・健康増進の捉え方・トップのコミットメント・対内的/対外的発信度

②組織体制健康増進の実施運用組織体制健康増進施策立案・企画のレベル健康増進実施運用の人員体制

③健康経営スタンダード実践

プロセス

①制度・施策実行・実施施策の質と量

(課題の把握、それに基づく施策の実施、検証有無)

・健康経営全体に対する適切な評価他性と評価実施

アウトカム

①健康状態(改善率)身体的要因生活習慣要因精神的(心理的)要因

②生産性プレゼンティーイズムアブセンティーイズム労働時間・休暇取得日数

③経済的アウトカム医療費生産性コスト

④満足度⑤参加

74

①評価

評価

主体

日本政策投資

銀行

経済産業省・

東京証券取引所 国際標準化機構

一般財団法人

日本情報経済

社会推進協会

日本医療機能

評価機構

評価名 DBJ健康経営 健康経営銘柄 ISO9000 プライバシーマーク 病院機能評価

概要

健康経営の概念

を普及・促進させ

るべく、独自の評

価システムをも

とに、従業員の健

康配慮への取り

組みに優れた企

業を評価・選定

し、その評価に応

じて融資条件を

設定する融資メ

ニュー。

経営から現場ま

で各視点からの

健康への取り組

みを評価するも

の。

5 つの柱につい

て、それぞれの項

目 毎 の 指 標 約

100 項目を用い

て評価を行う。

組織が品質マネ

ジメントシステ

ムを確立、文書

化、実施、かつ維

持し、また、その

QMS の有効性を

継続的に改善す

るために要求さ

れる規格。

日本工業規格に

適合して、個人情

報について適切

な保護措置を講

ずる体制を整備

している事業者

等を認定して、そ

の旨を示すプラ

イバシーマーク

を付与し、事業活

動に関してプラ

イバシーマーク

の使用を認める

制度。

4 つの評価対象

領域から構成さ

れる評価項目を

用いて、病院組織

全体の運営管理

および提供され

る医療について

評価。明らかとな

った病院の位置

づけや問題点か

ら、病院の更なる

改善活動を推進

し、病院体制の充

実や医療の質向

上を目指す。

評価指標の策定

ヘルスケア・コミ

ッティー株式会

社との連携(個別

評価への助言、評

価シート開発・改

訂に係る助言な

ど)。

評価内容は毎

年見直し及び改

善が図られる予

定。

学識経験者、医療

関係者、投資家、

金融機関、健康保

険組合等による

「基準検討委員

会」を設置し、評

価指標を策定。

国際規格は ISO

の会員団体の合

意の結果作成さ

れる。規格の審議

は TC(専門委員

会)または SC(分

化委員会)におい

て行われる。

学識者、有識者、

事業者団体の代

表、消費者代表、

法曹関係者等で

構成される、プラ

イバシーマーク

制度委員会が一

般財団法人日本

情報経済社会推

進協会に設置さ

れ、当該制度に関

して審議。

医療環境や社会

の変化、病院のニ

ーズに応じて評

価を適宜改定。現

在は、第三世代評

価「症例トレース

型ケアプロセス

調査」を導入。

75

②認定の仕組み

評価

主体

日本政策投資

銀行

経済産業省・

東京証券取引所 国際標準化機構

一般財団法人

日本情報経済

社会推進協会

日本医療機能

評価機構

評価名 DBJ健康経営 健康経営銘柄 ISO9000 プライバシーマーク 病院機能評価

対象

融資を希望する

企業

国内すべての上

場企業(このう

ち、調査票に回答

した企業が選定

対象)

すべての事業所 国内に活動拠点

を持つ事業者(医

療法人等、学校法

人等は一部例外

あり)で、要件を

満たすもの。

医療法で定めら

れている 20 床以

上の病院。

認定のプロセス

・企業審査

・健康経営スクリ

ーニング(事前質

問、スクリーニン

グシートに基づ

いたヒアリング

を行い評価)。

・調査票による回

・財務指標スクリ

ーニング

(公財)日本適合

性認定協会から

「認定」を受ける

か、認定を受けた

機関から「認証」

を受けるかによ

ってプロセスは

異なる。

プライバシーマ

ーク指定審査機

関による審査申

請書類の文書審

査、現地審査。

・訪問審査を 2

日間(書類確認・

面接調査・ケアプ

ロ セ ス 病 棟 訪

問・部署訪問な

ど)

・訪問審査 6-8

週間後の中間報

有効

期間

融資期間 1年(調査を毎年

実施)

3年 2年 5年

認定を受けるインセンティブ

格付に応じた金

利優遇、取り組み

の第三者評価に

よる内部管理へ

の活用、CSR面の

PR 効果

企業理念に基づ

き、従業員への健

康投資を行うこ

とは、従業員の活

力向上や生産性

の向上等の組織

の活性化をもた

らし、結果的に業

績向上や株価向

上につながると

期待され、長期的

な視点からの企

業価値の向上を

重視する投資家

へのアピールと

なる。

認定、認証を受け

ていることを文

書やマークで示

すことによって、

一般消費者や取

引先に対して組

織の信頼性をア

ピールできる。

定期的な認証審

査によって、マネ

ジメントシステ

ムの継続的な維

持・改善を図るこ

とができる。

消費者の目に見

えるプライバシ

ーマークで示す

ことによって、個

人情報の保護に

関する消費者の

意識の向上を図

る。

消費者の個人情

報の保護意識の

高まりにこたえ、

社会的な信用を

得ることができ

る。

改善のきっかけ

づくり、効果的で

具体的な改善目

標の設定、職員の

自覚と改善意欲

の醸成、改善の方

向の明示、認定証

による患者の信

頼をもたらす。

認定結果の提示方法

「格付ランク」

A,B,Cの認定

調査の翌年度健

康経営銘柄とし

て経済産業省ホ

ームページなど

に公表される。

「認定」を受けた

機関は「認定機

関」として、「認

証」を受けた機関

は「適合組織」と

して、(公財)日

本適合性認定協

会 HP にて情報公

開される。

プライバシーマ

ークの使用が可

能になる。

認定証の発行。

機構のホームペ

ージに各認定病

院の項目ごとの

評価点(S,A,Bな

ど)が示される。

76

③組織

評価

主体

日本政策投資

銀行

経済産業省・

東京証券取引所 国際標準化機構

一般財団法人

日本情報経済

社会推進協会

日本医療機能

評価機構

評価名 DBJ健康経営 健康経営銘柄 ISO9000 プライバシーマーク 病院機能評価

法人格

株式会社 (国および株式

会社)

非政府機構(NGO) 一般財団法人 公益財団法人

組織形態

業務企画部、金融

法人部、都市開発

部、国際統括部、

企業金融第 1~6

部、各支店、アセ

ットファイナン

ス部、投資本部、

ストラクチャー

ドファイナンス

部、シンジケーシ

ョン・クレジット

業務部、審査部、

法務・コンプライ

アンス部、環境・

CSR部など

(経産省および

東京証券取引所)

基準検討委員会

理事会( 18 か

国)、中央事務局、

適合性評価委員

会、適合性評価委

員会、発展途上国

対策委員会、技術

管理評議会(12

か国)

事務局組織:総務

部、安信簡情報環

境推進部、電子情

報利活用研究部、

プライバシーマ

ーク推進センタ

ー、情報マネジメ

ントセンター、電

子署名・認証セン

ター、マイナンバ

ー対応プロジェ

クト室、広報室

企画部、総務部、

評価事業推進部、

審査部、産科医療

補償制度運営部、

EBM医療情報部、

医療事故防止事

業部

人員

1,184名(平成 27

年 3月末)

※事務局は博報

堂および日経リ

サーチ

165ヶ国(会員団

体 119、通信会員

41、購読会員 5)

が加盟

(2014年 12月現

在)

108 名(平成 27

年 4月現在)

142 名(平成 27

年 10月現在)

77

④ガバナンス

評価

主体

日本政策投資

銀行

経済産業省・

東京証券取引所 国際標準化機構

一般財団法人

日本情報経済

社会推進協会

日本医療機能

評価機構

評価名 DBJ健康経営 健康経営銘柄 ISO9000 プライバシーマーク 病院機能評価

評議委員・理事など

経営の透明性確

保、コーポレート

ガバナンス強化

の観点から、社外

取締役を選任。あ

わせて、外部有識

者から構成する

人事評価委員会、

ア ド バ イ ザ リ

ー・ボード等を設

置。

東 京 証 券 取 引

所:経営の監督と

業務執行に係る

権限と責任の明

確化を図るため、

社外取締役を中

心とした指名委

員会、監査委員

会、報酬委員会の

三つの委員会を

設置するととも

に、業務執行を担

当する執行役を

置き、経営の監督

機能と業務執行

機能を分離。

総会において、投

票権は会員団体

のみ。委員会の多

くは役員及び会

員団体によって

構成される。評議

会のメンバーは

理事会によって

指名。

評議委員(会)と

理事(会)の関係

など。

経営の透明性確

保、コーポレート

ガバナンス強化

の観点から、社外

取締役を選任。あ

わせて、外部有識

者から構成する

人事評価委員会、

ア ド バ イ ザ リ

ー・ボード等を設

置。

⑤事業規模

評価

主体

日本政策投資

銀行

経済産業省・

東京証券取引所 国際標準化機構

一般財団法人

日本情報経済

社会推進協会

日本医療機能

評価機構

評価名 DBJ健康経営 健康経営銘柄 ISO9000 プライバシーマーク 病院機能評価

事業規模

健康経営格付融

資の累計金額 671

億円(2015 年 3

月末)

(不明) (不明) 25億 1,610万円

(平成 27 年度予

算)

基本財産は厚生

省から約 1億。健

保等の保険者も

出資。

認定件数

45 件(2015 年 3

月末)

22 社(平成 26 年

度)

37,069 件(平成

27年 9月末)

14,252事業者 2,257件(平成 27

年 9月)

単価

格付手数料は 50

万円(税抜)

(なお、平成 26

年度、平成 27 年

度については格

付手数料を無料

としている)

(不明) 審査料は人員規

模によって異な

る。

申請費、書類審

査、実地審査合わ

せて 1,300千円~

3,200千円

(不明) 病床規模や診療

機能により異な

る。

1,200 千 円 ~

2,500千円

サーベイヤー3~

5名

(現地までの往

復交通費と宿泊

費等、サーベイヤ

ーの現地訪問に

係る諸経費含む)

78

2) 日本医療機能評価機構へのヒアリング調査結果

① 組織(全体像)

平成元年、『病院機能評価マニュアル』発刊をきっかけに、病院を対象とし

た機能評価の検討が進められ、日本医師会内に評価機構の設立準備室が発

足。

平成 7 年、旧厚生省や日本医師会、健保等の保険者からの出捐を受けて財

団法人として設立。

② 組織(詳細)

役員は一般公募、職員は 142名(平成 27 年 10月現在)隔年で 3,4人ずつ

採用。

営業部門、研究開発部門が手薄なので強化を今後検討。

評価事業は、評価事業推進部と審査部が担当している。審査の独立性を担

保するため、部門を分離。

評価項目の開発やバージョンの更新は評価事業推進部が担当。

営業も評価事業推進部が実施しており、人員が不足。

データ分析結果のフィードバックする機能は今後の課題。企画部において、

審査時のデータと審査結果を単純集計したデータブックを毎年発刊。

サーベイヤーは 800~850 人(実稼働は 400~500 人)。病床規模と病院の機

能に応じ、往訪するサーベイヤーの人数を決定。

③ ガバナンス

理事会、評議員会は年 2回、評議員が理事を選任。

運営会議でほぼ全ての意思決定を実施。月 2 回開催。運営会議のメンバー

は理事長以下、20~25名で開催。ほとんどが非常勤役員である。

5年間の中期計画を策定。

④ 事業内容

認定病院数をたくさん増やすという考えではない。

現在も 1年間で 500~600 病院の審査を実施している。診療所も対象とすべ

きという声が内外から上がっている。

認定期間は 5年間である。

評価は一次評価部会、二次評価部会、評価委員会と続き、最終的に運営会

議で承認される。

インセンティブについては国に働きかけをしている。特に診療報酬で機能

評価を義務化してほしいと考えている。

⑤ 事業収支

公益法人のため、収支相殺。(プラスマイナスゼロ)

機構が赤字にならないよう、審査料を設定しているが、病院からは審査料

引き下げの要望もある。

79

3) HERO(Health Enhancement Research Organization)へのヒアリング結果

① 参加企業・アカデミアとの関係

執行委員会(Board of Director)の決めた方針として、企業(雇用主)と、健

康増進サービス提供者とは、だいたい半々の割合になるようにしている。会員

組織とは、以下の 5つの方法で関係を持っている。

シンクタンクとして:HERO の心臓とも呼ぶべき活動であるが、会員のみが

参加できる会議を年に 2−3 回開催しており、これは会員組織がクローズド

な環境で自由に成功例やうまく行っていないことについて話せる場となっ

ている。あまり規模を大きくしたくないと思っているので、1企業当たり 2

名までの参加としているが、それでも去年は 120名が参加した。

委員会活動を通して:現在、8-10 くらいの実質的に活動している委員会が

ある。常設委員会(standing committee)は研究活動を進めるための支援

をしており、研究グループ(study group)が実際に研究をしている。研究

グループは特に全米レベルの重要な課題の研究を行っており、例えば今は、

連邦政府の中の雇用機会均等委員会(Equal Employment Opportunity

Commission: EEOC)に対して、「連邦政府に対して企業側・雇用主側がど

のような点について規制してほしいと思っているか」について提言書をま

とめている。EEOC は国家レベルの規制を検討・策定する委員会だが、雇用

主側とは意見が食い違う部分がある。

研究活動への関与:毎年研究テーマを決める際に、会員組織に連絡して、

特定の研究について資金を提供したい企業がいないかを確認している。資

金を提供した企業はより緊密に研究活動に関わることになる。

年次会議において:年に 1回の会議を開催している。これは会員に限らず、

一般からも参加できるものである。

論文を発表する時に:論文を発表する際には、HERO だけでなく、会員組織

にも是非名前を連ねてほしいと思っている。これは、より多くの企業が参

加した研究に参加している方が、提言論文としてより効力があるからであ

る。

② 会員組織の内訳・数の変化

現在の会員数は 122 組織。 90 年代は 20−30 組織程度であったが、過去 5

年で会員数が急増した。HERO としては、我々のシンクタンクとしての機能

を効果的に発揮するためにも、参加組織数は管理できる範囲に留めておき

たいと考えており、参加組織数の上限を作るべきかが議論されているとこ

ろである。

参加組織数が増加した背景として、前 CEO が非常に有能なビジネスマンで

あったこと、いわゆるオバマケアには、健康増進に関する条項が入ってお

り、企業が健康増進に関心を持つきっかけとなったことが関係しているか

80

もしれない。

また、会員組織数が増えた背景として、HERO が会員らにオーナーシップを

与えており、HERO が自分達の組織だと考えるような運営スタイルにしてい

ることが挙げられる。会員にはボランティアベースでアサイメントを与え

るなどして HEROに積極的に関わってもらい、HERO の方向性も自分達で考え

るなど、米国のフードコープ(Food Corp.)と似たような仕組みになって

いる。

③ スコアカードについて

HEROのミッションである、米国の組織の従業員の健康増進を改善すること、

が大きな目的の1つであるが、実際には、我々のパートナーであり、コン

サルティング会社であるマーサー社(Mercer)が、企業がそれぞれの持つ

従業員の健康増進戦略を改善できるようなツールを開発し、コンサルティ

ングの機会を作りたかったというのが経緯である。

スコアカードは HERO のみが開発しているわけではない。例えば、NBGH

(National Business Group on Health)や CDCでもスコアカードを開発し

ているし(CDC のスコアカードは一般に公開されている)、サミュエリ研究

所(Samueli Institute)が策定したスコアカードもある(ただし、サミュ

エリ研究所のものはとても米国に特化したものである)。

スコア(200 点満点)の平均得点が 100点以下であるが、特に目指すべき得

点は設定していない。このスコアカードを作成した際は、科学的に考案さ

れた要素を全て盛り込んでおり、実際の常用を考慮したものではなく、実

際にどういったスコアが出るかもわからなかった。過去のスコアを見てみ

ると、スコアは年々良くなっているが、最大値がどこになるかわからない。

スコアの幅やどうスコアが変化するかに関心がある。このスコアカードは

成績表を作ることを目的に開発してはいない。

スコアカード(Ver.4)ではアウトカム指標をオプショナル項目(スコアに

は含めない)としているのは、「どのような指標をアウトカムとして評価

するか」は組織によっても、また国(文化)によっても異なり、それぞれ

の組織が決めれば良いことだと考えているからである。組織によっては、

従業員の満足度が向上することをアウトカムとして重視するところもある

し、採用に良い影響を与えていることを目指す組織もあれば、投資回収率

(ROI)を重視するところもある。実際、バージョン 4のスコアカードでア

ウトカム指標を取り入れたことは、米国においても投資利益率(ROI;Return

on Investment)から、投資価値(VOI;Value on Investment)を重視する

動きへとシフトしていることを示すものである。アウトカム指標を導入し

て得られたデータは研究や分析に使う予定である。

目標とするスコアカードの回答企業数は現時点ではない。回答企業数は増

81

やしたほうが良いし、毎年 5−10%程度向上すると良いとは思うが、数値目標

は特にない。

中小企業の回答割合はわからない。ただ、スコアカードのユーザや会員は

ほとんどが大企業である。理由として、そもそも中小企業はあまり従業員

の健康増進に向けたプログラム・活動を行っていないことが挙げられる。

健康増進サービス業やスコアカードの利用は、大企業に頼っている部分が

大いにある。中小企業はもともと資金もなく、健康増進以前の福利厚生で

さえ満足に提供できていない状況である。

スコアカードのライセンスは HEROにある。一般ユーザは分析データなどへ

のアクセスはないが、例えば HEROのスコアカードを使ってコンサルティン

グしたいなどという場合には、ライセンス料を支払ってもらうことになる。

ただし、特に定額の料金は決まっておらず、ケースごとに決めている。

④ 参加企業のインセンティブについて

参加企業のインセンティブは、①他組織の同分野の専門家たちと一緒に取

り組めること(engage)、②健康増進サービス提供者などと知り合えるこ

と(connect)、③学べること(learn)、である。スコアカードそのもの

はモチベーションであってもインセンティブではない。また高いスコアを

出して採用活動に利用するというようなことも特にインセンティブとして

はない。

スコアカードそのものは無料で、かつ数分でできてしまうものである。よ

く受ける企業からの問い合わせは、「もう1回できないか?」というもの

が多く、「自社の活動を改善したい」というのが企業のインセンティブと

考える。

HERO が成功しているとすれば、それは会員組織が自らの組織として積極的

に活動に参画するように仕向けているから(focus on members are engaged)

だと思う。

⑤ 財務面について

HERO の財源は、グラント、スコアカード(のライセンス料)、年次会議の

参加費、会費、となっている。このうち、最も安定した収入源は会員費で

あり、グラントは 2014年には財団から受けたりしているが、毎年確実に確

保できている財源ではない。なお、会費は 6,000 ドルと大企業にとっては

少額となっているが、中小企業にとっては大きな負担となっており、この

金額がある意味中小企業の参加を難しくさせているとも言える。

82

4) ACOEM(American College of Occupational Medicine)へのヒアリング結果

① 従業員の健康増進(Wellness )と ACOEM の活動の最新動向について

現在、ACOEMは同様の海外各国の組織と協力し、国際的な組織を創設しよう

と進めている。全 26カ国の参加が見込まれ、日本からも参加がある。少し

前にこれらのメンバーとなる組織と集まって話し合ったところ、驚くほど

各国とも同じような問題を抱えていることがわかった。これらメンバー組

織は全世界の 35%を代表しており、それなりの影響力のある組織になるので

はないかと思う。2013 年から毎年会議を開いて組織の立ち上げを進めてお

り、現在規約を作ったところである。

ACOEMは「健康な従業員は、より生産的な従業員である」と確信しているが、

さらに次の段階に進み、「健康な従業員は、より安全な従業員である」と

考えている。しかし、実際のところ、「従業員の健康増進のためのプログ

ラムを持つことは、企業の節約に繋がるのだ」ということを経営層に理解

してもらうのはとても難しいため、それを理解してもらうべく努力してい

るところだ。そういった意味で、東証の健康銘柄はとても興味深い。

② CHAAとセルフアセスメントワークシートについて

ACOEMは 1996 年に CHAAを開発した。当時、すでに企業による従業員の健康

(health)に関する表彰はいくつかすでにあったが、健康と安全の両方に

ついて見ている組織や表彰はなかったことが、CHAA を開発するに至った経

緯である。「健康な従業員は、安全な従業員である」という視点を広める

ことは ACOEMの課題の 1つであるため、CHAAでは従業員の健康関連(health)

の項目が 6 割、職場の安全性関連(safety)の項目が 4 割の内容となって

いる。

CHAA には 1996 年以来 40 社強が参加を申請したが、そのうち実際に参加が

認められた企業は 40社程度である。そのプロセスの煩雑さや求められる書

類の量・規模などから、大企業向けの取り組みとなっている。

一方で CHAAは大企業でなければ難しいプログラムであることは我々も承知

しており、その他中小企業など誰でも利用可能なものとして、セルフアセ

スメントシート(以下 SA と省略)を、ACOEM 関係者がボランティアで開発

した。SAは現在改訂中で、2016年 3月に策定作業が終了する見込みである。

SA は無料の自己評価システムとなっており、特にフィードバックなどは行

っていない。自動返信でフィードバックする仕組みを作るのは大変なので、

そういった仕組みはない。とはいえ、SA をやってみればある程度目標値に

達したかどうかなどはわかるので、当該担当者がこの分野の予算を確保し

ようとする時に、経営層に「もっと頑張らなければダメだ」と説得する材

料として使える。今回の改訂で、3月以降は、過去に入れた情報を経年的に

確認することはできる予定である。

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ACOEM の SA は一般に公開されており、特にライセンスなどはなく、コンサ

ル会社などがこれをカスタマイズして利用しても問題はない。

ACOEM 側では特に SA に入れられた情報は管理しておらず、従ってどのよう

な企業が何件 SAをやったのかなどは把握していない。

経営層が理解できるような言葉でコミュニケーションしなければならない

ということ。我々は健康が重要なのは当然と思っているが、経営層は投資

回収率などの言葉で理解する。当初は健康・医療の経済について話すのは

あまり気乗りしなかったが、経営層が理解できる言葉や指標で話す必要が

ある。

③ 企業側の参加モチベーションとは?

CHAA への企業側の参加モチベーションとしては、その活動が認められるこ

とにある。しかしそれ以上に、CHAA で表彰されるために必要なプロセスそ

のものが、企業を動かしている面もある。データを集め、指標ごとに自社

の活動を披露し、それらを取りまとめ、最も重要なポイントとして、CEO

や CFO などのトップの経営層を巻き込むこと。こうしたプロセスを経てい

く過程で、従業員の健康を重視する文化が組成されていく。それが実際に

企業の担当者がやりたいことだ。CHAA で表彰された企業は実際、従業員の

健康増進でも優秀なだけでなく、より利益を上げている。株価が上がり、

投資家に対しても良いリターンを返している。これは良い取り組みなので、

我々は今後も支援していきたいと思っている活動である。

表彰された企業は、表彰前よりも、ACOEM の活動を支持してくれることが多

い。

CHAA のプロセスをけん引しているのは、モチベーションの高い産業医たち

である。様々な部署を巻き込んでやらなければならないため、リーダーシ

ップを取れる人間、火付け役がいないと難しい。

企業側としては、公に認められることで、他社との差別化を測れることが 1

つのモチベーションとなっているだろう。最近聞いたのは採用にも好影響

があるということである。トップ企業は、優秀な人材の確保に奔走してお

り、若い世代は自分たちが信じている価値観(女性の権利、環境問題への

取り組み、労働環境の安全性など)を持った企業で働きたいと考えている

ため、こうした表彰を受けることが採用にも役立っている。

(2) 健康経営評価推進機構(仮称)の基本スキーム設計

1) 背景

① 「健康経営」については、近年、健康経営銘柄の設定、データヘルス計画の推

進等の種々の施策を通じ、わが国の経済社会に徐々に定着・普及しつつあり、

特に「健康経営銘柄」の設定は、企業経営者の意識に大きな影響を与え、健康

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経営を前進させる有効な施策であると考えられる。

② 一方で、わが国の経済社会において「健康経営」がさらに一つの経営価値とし

て広範に普及・定着するようにするうえでは、現在の健康経営銘柄については、

以下の課題がある。

上場企業が対象なので、非上場(中小)企業や、病院、学校、行政等の非

営利組織には適用できないという限界があること

アンケート調査(健康経営度調査)を通じた貴重なデータが蓄積しつつあ

るが、必ずしも十分利活用できていないこと

これまでは、評価指標が structure-process 指標中心であり、outcome 指標

が少ないため、今後 PDCA サイクルを回して効果を志向する具体策を見出す

ためには難しい面があること

現在は経済産業省の予算によって事業が遂行されているが、今後ともこう

した事業体制を継続的に維持していくことには困難があると思われること

こういった課題に対応し、大企業(特に上場企業)だけでなく、中小企業や非営利企業も

含めて、健康経営の取り組みをさらに進めていく上では、健康経営のさらなる普及・拡大を

目指すためには、(健康経営銘柄も含めた)何らかの社会的な評価の仕組みを設け、持続可能

な体制を構築する必要がある。このため、近い将来、下記のような「健康経営評価推進機構

(仮称)」を設けることとしてはどうか。

2) 健康経営評価推進機構(仮称)の位置づけと役割

健康経営評価推進機構(仮称)の位置づけと役割(案)は図表 3-51 の通りであ

る。同機構の設立にあたっては、経済界、医療界、各学界、行政等が密接に連携・

協力する必要がある。

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図表 3-51 健康経営評価推進機構(仮称)の位置づけと役割(案)

3) 健康経営評価推進機構(仮称)のミッション

① 企業・組織(保険者)における健康経営の審査・認定を行う

② 審査・認定や関連情報の発信等により、法人等の健康経営の推進を支援する

③ 評価および審査結果の透明性を確保し、説明責任を果たす

④ 健康経営に関する科学的な調査研究を行う

4) 目的と事業

① 目的

企業・組織の健康経営の推進に関する事業を行い、職場の健康増進を通じた

従業員の活力向上や生産性の向上等の企業・組織の活性化に寄与することを目

的とする。

② 事業

前述の目的を達成するため、次の事業を行うこととする。

企業・組織の健康経営評価・認定事業

健康経営評価指標の検証事業・評価項目更新

健康経営に関する調査研究事業

健康経営推進普及事業

その他学会

健康経営支援事業者

健康経営評価推進機構(仮称)の位置づけと役割(案)

東京証券取引所

健康経営銘柄公表

健康経営銘柄評価健康経営度調査

企業・組織(保険者)

評価結果通知(認定・格付等)

企業(大企業、中堅中小企業) 医療機関等の非営利組織

健保組合・協会けんぽ等

健康経営評価推進機構(仮称)①企業・組織の健康経営評価・認定事業②健康経営評価指標の検証事業・評価項目更新③健康経営推進普及事業

評価用データ提出(企業・組織が

直接実施する場合)

健康経営評価結果

利益率データ加味

研究者

研究者

研究者

健康経営評価関連データ

健康経営支援事業者健康経営支援事業者健康経営支援事業者

健康経営支援事業者(コンサル等)

評価用データ提出(事業者が支援する場合)

医療経営学会

経済学会

経済学会

健康経営学会

学会①各学会による専門的・先進的な研究の推進②人材教育・輩出

研究用データ貸与

個別提携研究

個別詳細分析健康経営実践支援

日本医療・病院管理学会

健康経営評価 金融機関

健康経営格付け・優遇金利適用

日本産業衛生学会

活用

データ蓄積分析・開示

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〈事業モデル〉

○ 大企業のみならず、非上場企業、非営利組織まで含めた幅広い健康経営普及を推進

○ 更新審査のしくみを導入し、PDCAサイクルを回し、「改善」を継続できる仕組みの

導入

○ 産官学からなる会員組織を導入し、研究開発、新産業の創出を推進

5) 評価項目及び評価の仕組みの概要

評価項目及び評価の仕組みに関しては、以下のような健康経営を評価する国内外

の指標を参考に、evidence に基づいた適切な評価指標を設定する必要がある。基本

的な考え方としては、現行の「健康経営度調査」を継承しつつ、アウトカム指標の

充実等の拡充を図った健康経営評価・認定指標を設定することが考えられる。また、

既存の諸評価指標(金融機関による健康経営格付け制度等)に対しては、それらの

共通のベースとなる基本評価として位置付けることが考えられよう。

さらに、評価委員会のあり方、各評価項目を用いた評価基準、評価の段階数、受

審企業・組織にとって魅力ある認定の方式(合否、格付け、点数表示等)などをあ

わせて検討する必要がある。

図表 3-52 評価の流れのイメージ

6) 健康経営評価推進機構(仮称)による評価結果の通知、活用

① 評価結果の通知

○ 評価の結果、一定水準に達している企業・組織には認定証を発行して証明

する。

○ 特に先進的な取組みを行う企業・組織は表彰する。

○ データを蓄積し、分析する。

評価判定方法および公開方法も以下のような例が考えられるが、受審企業・組

織へのインセンティブや波及効果も踏まえ、適切な方法を検討する必要がある。

書類受理

書類審査

評価委員会

書類提出

認定

企業 ・ 組織

日本健康経営評価推進機構(仮称)

基準以上

認定証

基準未満

通知

更新審査

一定期間 一定期間 更新審査

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<評価判定の例>

・合否のみ

・ランク付け

・点数

<評価結果の公開方法の例>

・各審査項目の結果・評価結果ともに全部公開

・各審査項目の結果・評価結果一部公開

・評価結果のみ公開

② 評価結果の活用

○ 認定マークの掲示により、健康経営のPR。

○ 評価結果レポートをもとに自社・自法人の健康経営の実態を把握。

○ 評価結果レポートをもとに経営の見直し、改善を行う。

<受審企業・組織に対する(経済的)インセンティブの例>

・認定結果の開示

・金融的インセンティブ

・公共調達に当たっての配慮

・保険者に対するインセンティブ

・税制上のインセンティブ

7) 設立・事業開始までのスケジュール

○ 2016年 3月 経済産業省事業(東大 WG)本報告書:基本構想案提示。

○ 2016年 4月 機構設立準備室(仮称)設置。機構設立に向けた具体的な準備。

○ 2017 年 4 月 機構発足。健康経営度調査実施。評価・認定パイロット事業実施。

○ 2018年 4月 評価・認定事業開始。