6
日皮会誌:98 (9), 931―936, 1988 (昭63) 高齢者に発症した皮膚腺病と好発年齢の時代変化 狩野 俊幸 小堀 幸子 81歳女.頚部リンパ節結核に続発した皮膚腺病の1 例を報告した.合わせて, 1978年から1987年までの10 年間に本邦皮膚科領域で報告された33例について統計 的考察を行った結果,本疾患の高齢化傾向が一段と進 んでいることが明らかとなった. はじめに 近年,新しい抗結核剤の導入,新しい組合せによる 併用療法の進歩に伴い真性皮膚結核患者数は著明に減 少したが,最近は恒常状態にある1).また,結核患者全 般の高年齢化が進んでいるが2),真性皮膚結核症の1 病型である皮膚腺病でも高齢者の報告が増加している ことが指摘されている3)~6).今回,われわれは81歳女性 の皮膚腺病の1例を経験しだのを機会に,最近10年間 に報告された皮膚腺病の本邦報告例について統計的観 察を試みた. 患者:81歳,女性.茶道華道教授. 初診:昭和62年4月22日. 主訴:頚部の皮下結節と痩孔. 家族歴:長姉が19歳,すぐ上の兄が21歳で肺結核に より死亡. 既往歴:18歳時(兄死亡直後)腹膜炎. 現病歴:昭和59年秋,右頚部に小指頭大の皮下結節 が出現.しだいに増大,表面に発赤を伴うようになり, 中央部が軟化し血性膿が排出された.同様の結節が両 側頚部に増加したため近医受診,内服治療を受けたが 軽快せず当科来院した. 現症:両側頚部に,弾性硬で自発痛圧痛のない皮下 結節が7~8個触知された.これらは下床と癒着があ り,一部は皮膚とも癒着があった.大きさは雀卵大か ら鶏卵大程度までで,大きい結節では痩孔を形成し, 表面に痴皮を付着した陥凹が認められ,その周囲には 紅斑を伴っていた(図1). 自治医科大学皮膚科学教室(主任 矢尾板英夫教授) 昭和63年2月5日受付,昭和63年3月7日掲載決定 別刷請求先:(〒329-04)栃木県河内郡南河内町薬師 寺3311― 1 自治医科大学皮膚科 狩野俊幸 加藤 英行 矢尾板英夫 検査所見:血沈119mm/hrと充進し, CRP 2十.血 清総蛋白7.2g/dlでA/G比0.9と低下, IgG 2,291mg/ dl, IgA 610mg/dl と増加していた. Hb lO.Og/dl,血 清鉄47μg/dlと鉄欠乏性貧血が存在した.白血球数,血 小板数,肝機能,腎機能,尿所見に異常はなかった. 梅毒血性反応陰性.ツ反15×12/51×46.スポロトリキ ソ反応陰性. DNCBは感作成立した.胸部X線検査で は,心拡大,大動脈の蛇行が存在したが,肺野に異常 は認められなかった.腹部X線像に異常はなかった. 組織所見:(1)痩孔周囲の紅斑部;真皮から脂肪組 織にかけて,好中球,形質細胞を混じたリンパ球を主 体とする細胞浸潤があり,類上皮細胞の集団,ラング ハンス型巨細胞が散見された(図2). (2)皮下結節; リンパ球で囲まれ,ラングハンス型巨細胞を混在する 類上皮細胞肉芽腫が認められた(図3a).乾酪壊死を呈 する部位も存在した(図3b).組織内にはリンパ濾胞構 造が残存し,結節はリンパ節であると判断した.なお, 抗酸菌染色で菌体は検出されなかった. 培養検査:半切した上記リンパ節を材料として,小 川培地で黄白色のコロニーが1個得られた.ナイアシ ンテスト陽性であり,人型結核菌と判断した.リンパ 節より真菌は検出されなかった. 治療および経過:以上より,頚部リンパ節結核に続 発した皮膚腺病と診断し, INH 200mg/日, RFP 450 mg/日, EB 750mg/ 日の3者併用療法を開始した.約 1ヵ月後より臨床症状,約3ヵ月後より血沈値の改善 が認められてきている. 図1 入院時現症.左側頚部にも同様の結節を認めた.

高齢者に発症した皮膚腺病と好発年齢の時代変化drmtl.org/data/098090931.pdf · 皮膚腺病と好発年齢の時代変化 表1 皮膚腺病本邦報告例(1978~1987)

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日皮会誌:98 (9), 931―936, 1988 (昭63)

高齢者に発症した皮膚腺病と好発年齢の時代変化

          狩野 俊幸  小堀 幸子

          要  旨

 81歳女.頚部リンパ節結核に続発した皮膚腺病の1

例を報告した.合わせて, 1978年から1987年までの10

年間に本邦皮膚科領域で報告された33例について統計

的考察を行った結果,本疾患の高齢化傾向が一段と進

んでいることが明らかとなった.

          はじめに

 近年,新しい抗結核剤の導入,新しい組合せによる

併用療法の進歩に伴い真性皮膚結核患者数は著明に減

少したが,最近は恒常状態にある1).また,結核患者全

般の高年齢化が進んでいるが2),真性皮膚結核症の1

病型である皮膚腺病でも高齢者の報告が増加している

ことが指摘されている3)~6).今回,われわれは81歳女性

の皮膚腺病の1例を経験しだのを機会に,最近10年間

に報告された皮膚腺病の本邦報告例について統計的観

察を試みた.

          症  例

 患者:81歳,女性.茶道華道教授.

 初診:昭和62年4月22日.

 主訴:頚部の皮下結節と痩孔.

 家族歴:長姉が19歳,すぐ上の兄が21歳で肺結核に

より死亡.

 既往歴:18歳時(兄死亡直後)腹膜炎.

 現病歴:昭和59年秋,右頚部に小指頭大の皮下結節

が出現.しだいに増大,表面に発赤を伴うようになり,

中央部が軟化し血性膿が排出された.同様の結節が両

側頚部に増加したため近医受診,内服治療を受けたが

軽快せず当科来院した.

 現症:両側頚部に,弾性硬で自発痛圧痛のない皮下

結節が7~8個触知された.これらは下床と癒着があ

り,一部は皮膚とも癒着があった.大きさは雀卵大か

ら鶏卵大程度までで,大きい結節では痩孔を形成し,

表面に痴皮を付着した陥凹が認められ,その周囲には

紅斑を伴っていた(図1).

自治医科大学皮膚科学教室(主任 矢尾板英夫教授)

昭和63年2月5日受付,昭和63年3月7日掲載決定

別刷請求先:(〒329-04)栃木県河内郡南河内町薬師

 寺3311― 1 自治医科大学皮膚科 狩野俊幸

加藤 英行 矢尾板英夫

 検査所見:血沈119mm/hrと充進し, CRP 2十.血

清総蛋白7.2g/dlでA/G比0.9と低下, IgG 2,291mg/

dl, IgA 610mg/dl と増加していた. Hb lO.Og/dl,血

清鉄47μg/dlと鉄欠乏性貧血が存在した.白血球数,血

小板数,肝機能,腎機能,尿所見に異常はなかった.

梅毒血性反応陰性.ツ反15×12/51×46.スポロトリキ

ソ反応陰性. DNCBは感作成立した.胸部X線検査で

は,心拡大,大動脈の蛇行が存在したが,肺野に異常

は認められなかった.腹部X線像に異常はなかった.

 組織所見:(1)痩孔周囲の紅斑部;真皮から脂肪組

織にかけて,好中球,形質細胞を混じたリンパ球を主

体とする細胞浸潤があり,類上皮細胞の集団,ラング

ハンス型巨細胞が散見された(図2). (2)皮下結節;

リンパ球で囲まれ,ラングハンス型巨細胞を混在する

類上皮細胞肉芽腫が認められた(図3a).乾酪壊死を呈

する部位も存在した(図3b).組織内にはリンパ濾胞構

造が残存し,結節はリンパ節であると判断した.なお,

抗酸菌染色で菌体は検出されなかった.

 培養検査:半切した上記リンパ節を材料として,小

川培地で黄白色のコロニーが1個得られた.ナイアシ

ンテスト陽性であり,人型結核菌と判断した.リンパ

節より真菌は検出されなかった.

 治療および経過:以上より,頚部リンパ節結核に続

発した皮膚腺病と診断し, INH 200mg/日, RFP 450

mg/日, EB 750mg/ 日の3者併用療法を開始した.約

1ヵ月後より臨床症状,約3ヵ月後より血沈値の改善

が認められてきている.

図1 入院時現症.左側頚部にも同様の結節を認めた.

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932

図2 組織所見(痩孔周囲の紅斑部).

a 結核性肉芽腫.

狩野 俊幸ほか

          考  按

 皮膚腺病は,リンパ節,骨,関節,筋,腱など皮膚

の下にある器官,組織に結核病巣が存在し,それらが

直接連続性に波及して皮膚に結核病変を形成する疾患

である7)~9).成書10)39)によれば,本症は青少年に好発す

るとされているが,近年高齢者の報告が増加している

ことが指摘されている3)~6).そこで,最近の皮膚腺病の

動向を明らかにするために, 1978年より10年間に本邦

皮膚科領域で報告された33例(表1)について検討を

加えた.

 1.初診時年齢

 谷奥ら39)による1926年から1965年にわたる統計報告

の集計では,10歳台,20歳台に最も多く,それぞれ

32.4%であり,61歳以上では0.4%となっている.藤田

ら4)の1965年から1980年まで32例の統計では,およそ

各年代にわたって平均的にみられ,71歳以上は9.4%と

なっている.狩野ら3)の1970年から1980年まで27例の

統計でも同様の傾向を認めている.今回,われわれの

調査では,71歳以上が51.5%と圧倒的に多く過半数を

占めた.谷奥らの集計,藤田らの統計との比較を図4

に示す.本疾患の高齢化傾向が一段と進んでいること

がうかがわれた.狩野らは皮膚腺病の高齢化の要因と

して,過去の結核蔓延期に10歳台から20歳台にあった

b 乾酪壊死.

図3 組織所見(皮下結節).

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  皮膚腺病と好発年齢の時代変化

表1 皮膚腺病本邦報告例(1978~1987)

933

靉 報告者 年齢 性 既往歴 部 位 原発病巣 結核性疾患の合併 X線所見 その他

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

32

33

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

松 井11)

島 雄12)

川 津13)

北 村14)

松 尾15)

江 竜16)

岡 田17)

久 保18)

若 新19)

中 野2o)

江 竜21)

熊 谷22)

古 川23)

 畑24)

狩 野3’

篠 m25)

藤 田4’

西 尾26)

常 田27)

柴 原28)

町 田29)

神 田3o)

熊 谷31)

実 川32)

藤 山33)

関 口5)

拒 沢34)

前 田6)

田 尻35)

瀬 川36)

山 中37)

坂 本38)

 自験例

47

76

50

50

39

58

25

38

 3

67

82

21

83

15

82

75

74

78

40

52

78

79

81

36

79

77

73

66

76

81

35

88

81

女女

男女

女男

左頚部リンパ節炎,結節性紅斑

 結核なし

頚部リンパ節結核,進行性麻輝

パーキソソソ病

 特記なし

肋膜炎,腎結核,右足骨関節結核

 結核なし

 特記なし

  胸膜炎

  腎結石

 特記なし

  胃切除

  肺結核

  肋膜炎

 結核なし

 特記なし

 結核なし

 結核なし

 結核なし

  肺結核

  胸膜炎  腹膜炎

 特記なし

  腹膜炎

 左頚部

 頚 部

 両側頚部 左鎖骨部

 左耳前部 左頚部 右飯高部 上下肢

 左側頚部両側頚部左鎖骨下部飯高部 左瞥部

 左飯高部

 右 足

 右側頚部 右飯高部 頚 部

 右鎖骨部

 右頚部 右大腿 左下腿

 右顎下部 右鎖骨部

 右飯高部

左耳介下部 前頚部

 左側頚部

左顔面,頚

部,前胸部左大腿後面

右肘関節部

 右下顎部

左肩関節部

 下顎部 両側頚部 左側頚部

 左側頚部 左頚部左鎖骨上席 右胸部

 右鼠径部

 左側頚部

 左側頚部 左頚部

 右頚部

 両側頚部

頚部リンパ節結核

頚部リンパ節結核

飯高リンパ節結核

右足骨関節結核

右上腕骨結核

頚部リンパ節結核

頚部リンパ節結核

左肩関節結核

頚部リンパ節結核

リンパ節結核

頚部リンパ節結核

頚部リンパ節結核

頚部リンパ節結核

肺結核

肺,その他に結核病巣なし

肺粟粒結核

尋常性根庸(全身)

肺結核,咽頭結核

肺結核,皮膚奨状結核(左側頚部)

肺結核

肺粟粒結核

皮膚初感染徴候(左鼻翼)

腸結核疑い

胸膜炎の痕跡.左肺尖部に陰影.

胸部異常なし.

胸部異常なし.

部結核なし.両側頚部リンパ節に石灰化像.

左上肺野に陰影.

河上肺野に陳旧性肺結核.

胸部異常なし.

右中葉掌状陰影.

鎖骨に異常なし.

胸部異常なし,

胸膜癒着.

両部野に粟粒大陰影の散布.

頚椎,下顎骨に異常なし.

両下肺野に掌状陰影,胸膜肥厚.

胸部活動性病変なし,

陳旧性肺結核.

右下部野陰影の増強.

皮疹部下の胸膜肥厚像.

肺門部,腹腔内,

右鼠径部に広範な石灰化.

胸膜肥厚像.

胸部活動性病変なし.

胸腹部異常なし.

ベーチェット病でステロイド療法中.

姉,肺結核.

皮膚筋炎でステロイド内服中.

サルコイドの診断でステロイド服用.

父,肺結核で死亡.

胸甫翰影も抗結核剤により縮小.全身リンパ節触知せず.

父,肺結核.壊疸

性膿皮症疑いステロイド内服外用.

表在リンパ節腫大なし.

鼠径リンパ節腫脹あり.

RAでステロイド加療中.

RAで関節腔内ステロイド局注および内服.

帯状庖疹発症と同時

期に鼻翼病変出現.

頚部リンパ節腫脹

なし,

父,肺結核で死亡.

姉,兄,肺結核で

死亡.

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934

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20 30  40 50 80  70  年齢

20  30  40 50 eo  ?0  年齢

 図4 好発年齢の推移

狩野 俊幸ほか

好発年齢のピークが歳月の経過にほぼ一致して移動し

たこと,青少年期に結核に感染したものの発病に至ら

ず,老化に伴う免疫能の低下により発症した可能性,

さらに中高年齢層の総数が増加したことなどが考えら

れるとしている.

 2.性差

 男12例に対し女21例であり,女の方が多かった.こ

れまでの報告では有意な性差はないとされてい

る3)4)39)40)仙女の方が男より高齢まで生存することが

性差を出現させているのかもしれない.

 3.家族歴

 家族歴の記載は17例.結核性疾患を認めた症例は5

例(22.7%)で,すべて肺結核であった.谷奥らの集

計でも59例中14例(23.7%)に結核の家族的素因が認

められるとしており,その割合に変化はなかった.

 4.既往歴

 既往歴の記載は23例.結核性疾患の既往が考えられ

る症例は,X線所見上推定される症例を含めると11例

(47.8%)であった.肺結核が4例,リンパ節結核,骨

関節結核,腎結核がそれぞれ1例,胸膜炎が7例,腹

膜炎が2例に存在した.谷奥らの集計では,結核性疾

患の既往を有する例は24例,有しない例は52例であり,

約32%にそれが認められるとしている.既往を有する

割合が増加した背景には,本疾患の高齢化が関与して

いるものと考えられる.

 5.発生部位

 従来より頚部が好発部位とされている3)4)10)39)40)よう

に,耳前耳後部,顎下部,頚部,鎖骨部を含めた頚部

領域に病変をみた症例が24例(72.7%)と最も多かっ

た.以下,肢高部5例,下肢4例,上肢3例,胸部2

例,顔面,鼠径部,警部がそれぞれ1例であった.頚

部領域に病変が認められた症例のうち5例14)17)21)24)27)

では,同時に他領域にも病変が認められていた.

 6.原発病巣

 前述したように,本疾患は皮膚の下に存在する原発

病巣が直接連続性に波及して形成されるが,15例にお

いて,原発病巣を確認し得た(2例6)17)はX線所見より

推定).頚部のリンパ節結核に続発することが多いとさ

れている7)10)39)ように,12例がリンパ節結核(うち10例

は頚部)で,残り3例が骨・関節結核であった.

 7.結核性疾患の合併

 初診時,皮膚腺病およびその原発病巣以外に,他の

結核性疾患を合併していたと考えられる症例は15例

(45.5%)であった.肺結核の合併が12例(36.4%)に

認められ(5例5)11)19)25)26)は胸部異常陰影の記載のみ),

その他,咽頭結核,腸結核,リンパ節結核(腹腔内)

がそれぞれ1例に合併,真性皮膚結核の合併例(皮膚

初感染徴候31)尋常性狼膚2o),皮膚免状結核4))も存在

した.丸山ら41)は37.2%に肺結核の合併をみたとして

いるが,われわれの統計からも同様の数値が得られて

おり,今日でも肺結核の合併例が少なくないようであ

る.

 8.誘因

 ステロイド剤の系統的投与時の副作用の1つに感染

症があるが,今回の調査でも,他疾患でステロイド使

用中に本症を発症した症例が4例存在し,RAが2

例28)30)皮膚筋炎15)ベーチェット病11)が1例であっ

た.また,初診時他疾患と診断されステロイド使用し

たため悪化した症例が2例存在し,1例はサルコイ

ドーシス19)他は壊疸性膿皮症24)と診断された症例で

あった.

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皮膚腺病と好発年齢の時代変化

 9.治療

 治療について記載のある症例ではすべて抗結核剤が

使用されており, INA, RFPを主体として2者ないし

3者併用療法が中心を占めていた.略治に至るまでの

期間は平均約4ヵ月であったが,上述したステロイド

使用例の中には,1年8ヵ月を要した症例3o)も存在し

た.

           むすび

 今回の調査で,皮膚腺病の好発年齢が時代とともに

高齢へと推移していることが明らかとなった.また,

このことが,性差の出現,結核性疾患の既往をもつ症

                         文

  D本田光芳,新見やよい:皮膚結核の現況,皮膚臨

   床,29 : 1205-1214, 1987.

  2)青木正和:結核の現況.皮膚病診療,2 : 859-864,

   1980.

  3)狩野葉子,小林 勝,中條知孝,長島正治:皮膚腺

   病,皮膚臨床,23 : 961-967, 1981.

  4)藤田光枝,長島典安,石川豊祥,森嶋隆文:皮膚腺

   病と皮膚吏状結核の合併例ならびに結核性頚部リ

   ンパ節炎の1例について,皮膚臨床,23 : 1083

   -1088, 1981.

  5)関口直男,大沢 清,小松崎修,金井伸江,最上

   鉦:特異な臨床経過を示した高齢者の皮膚腺病,

   皮膚臨床,27 : 151-153, 1985.

 6)前田和男,高橋 誠,浜田久雄:鼠径部に発症した

   皮膚腺病の1例,皮膚臨床,28 : 1496-1497, 1986.

  7)水野信行:ヒフ結核症,ヒフの抗酸菌感染症.金原

   出版,東京, 1968, 1-90.

 8) Savin JA, Wilkinson DS : Mycobacterial

   infections including Tuberculosis, Textbook of

   Dermatology,by Rook A, Wilkinson DS, Ebling

   FJG, Champion RH, Burton JL, 4th Ed, Black・

   well, London, 1986, pp791-822.

 9) Wolff K, Tappeiner G : Mycobacterial Dis-

   eases,Dermatology in  General Medicine', by

   Fitzpatrick TB, Eisen AZ, Wolff K, Freedberg

   IM, Austen KF, 3rd Ed, McGraw-Hill, New

   York, 1987, pp2152-2180.

 10)原田誠一:皮膚結核.現代皮膚科学大系,6 A, 中

   山書店,東京, 1983, 159-230.

 11)松井恒雄,伊藤一成,永島敬士,渡辺 靖:ステロ

   イド剤に誘発された皮膚結核の2例,臨皮,32 :

   401-405, 1978.

 12)島雄周平,清水康之:Scrofuloderma,日皮会誌,

   88 : 482, 1978.

 13)川津智是:Scrofuloderma,西日皮膚,40 : 573,

   1978.

 14)北村 弥:Scrofulodermaの1例,皮膚,20 : 465,

935

例の増加などにつながっているようである.一方,著

減した真性皮膚結核患者数も最近は恒常状態にある1)

とされているように,報告総数を藤田ら4)や狩野ら3)の

統計と比較しても決して減少しておらず,むしろ増加

しているようである.結核発症の誘因となりうるステ

ロイド剤などが医療に欠くことができない治療薬と

なっている現在,本疾患の存在を忘れることなく診療

にあたることが必要と考える.

 本論文の要旨は,日本皮膚科学会第2回栃木地方会にお

いて発表した.

   1978.

 15)松尾孝彦,早川 実:高熱をともない血行性に播

   種された多発性皮膚腺病の1例,日皮会誌,89 :

   203, 1979.

 16)江竜喜史,小菅一彦,若松健一:皮膚腺病,臨皮,

   33 : 684-685, 1979.

 17)岡田誠慶,朝田康夫:皮膚腺病の1例,皮膚,22 :

   182, 1980.

 18)久保俊子,蔭山亮市:皮膚結核の4例,日皮会誌,

   90 : 211, 1980.

 19)若新多汪,徳田安章,川上恒紀,本多輝男:皮膚腺

   病の1例,皮膚病診療,2 : 873-876, 1980.

 20)中野和子,谷井 司,細井洋子,廣田稔夫:骨,関

   節結核を伴った真性皮膚結核症の1例,臨皮,34:

   563-567, 1980.

 21)江竜喜史:皮膚腺病,日皮会誌,90 : 1044, 1980.

 22)熊谷武夫,遠山龍彦,毛利 忍:皮膚腺病,日皮会

   誌,90 : 1044, 1980.

 23)古川福実,松本圭祐,早川 実:83歳男子にみられ

   た皮膚腺病,皮膚臨床,22 : 1172-1173, 1980.

 24)畑 陽子,高岩 尭:真性皮膚結核の3例,西日皮

   膚,42 : 819-821, 1980.

 25)篠田英和,大曲春次,前田謙而:皮膚腺病,臨皮,

   35 : 1104-1105, 1981.

 26)西尾一方:Scrofuloderma,日皮会誌,91 : 292,

   1981.

 27)常田順子,藤広満智子,河合秀子:皮膚腺病の1

   例,日皮会誌,92 : 339, 1982.

 28)柴原 正,斎藤義雄:Scrofulodermaの1例,日

   皮会誌,92 : 821, 1982.

 29)町田 暁,新妻 寛,沢村貞昭,野崎容子:皮膚腺

   病の1例,日皮会誌,92:823, 1982.

 30)神田正明:皮膚腺病,皮膚臨床,25 : 1197-1199,

   1983.

 31)熊谷武夫,民野 孜:顔面の結核性潰瘍に続発し

   た皮膚腺病の1例,皮膚臨床,26 : 962-963, 1984.

 32)実川久美子,田中源一,佐藤昌三,安西 喬:皮膚

Page 6: 高齢者に発症した皮膚腺病と好発年齢の時代変化drmtl.org/data/098090931.pdf · 皮膚腺病と好発年齢の時代変化 表1 皮膚腺病本邦報告例(1978~1987)

936 狩野 俊幸ほか

  腺病の1例,日皮会誌,94 : 768, 1984.

33)藤山純一,内平孝雄:皮膚腺病の1例,日皮会誌,

  94 : 870, 1984.

34)相沢晴美,竹松英明,熊井則夫:皮膚腺病(?),

  日皮会誌,95 : 914, 1985.

35)田尻明彦,井上勝平,成田博実,石井芳満,外山

  望:頚部リンパ節結核,皮膚病診療,8 : 467-471,

  1986.

36)瀬川郁雄,赤坂俊英,千葉純子,昆 宰市:高齢者

  に生じた皮膚腺病の1例,目皮会誌,97: 1160,

  1987.

37)山中克二,白浜茂穂,金丸米子:皮膚腺病の1例,

  日皮会誌,97 : 1261, 1987.

38)坂本兼一郎,後藤敏夫,柳瀬信一,古谷達孝:皮膚

  腺病の1例,日本皮膚科学会第1回栃木地方会,栃

  木市, 1987年4月.

39)谷奥喜平,吉田彦太郎:皮膚結核症.日本皮膚科全

  書, 1X2,金原出版,東京, 1968, 1-358.

40)丸山千里,本田光芳:皮膚結核およびその類症.基

  本皮膚科学Ill,医歯薬出版,東京, 1976, 581-619.

41)丸山千里,原田誠一,宗像 醇,浦辺清道,福本寅

  雄,文人正敏,本田光芳,新田睦男,三浦恒久,藤

  田栄一,植田時司,瀬底洋子,埴原 哲:昭和22年

  以後17年間のわれわれの教室における皮膚結核の

  統計的観察,日医大誌,32 : 218-224, 1965.

An Aged Case of Scrofuloderma and the Transition of the Predilection Age

      Toshiyuki Kano, Sachiko Kobori, Hideyuki Kato and Hideo Yaoita

            DepartmentofDermatology,JichiMedicalSchool

        (ReveivedFebruary5,1988;acceptedforpublicationMarch 7,1988)

  An 81-year-o】d woman with scrofuloderma originating from cervical tuberculos lymphadenitis was reported.

We then examined the statistics from 33cases of scrofuloderma reported by dermatological institutions in Japan

over the last ten years (from 1978 t0 1987). Examination of these past reports made it clear that the predilection age

has shifted to a more advanced age. This shift appears to be correlated with an increase of cases with tuberculous

past history and of female cases. 0n the other hand, there were no changes in the ratio of cases with tuberculous

family history or in the predileciton sites.Cases associated with pulmonary tuberculosis stillpredominated。

  (lpn J Dermatol 98: 931~936,1988)

Key words: scrofuloderma, statistics, predileciton age