5
国道18号におけるチェーン装着指導について 春原 慎一 高田河川国道事務所 道路管理第一課(〒943-0847 新潟県上越市南新町3番56号) 高田河川国道事務所が位置する新潟県上越市は,かつて「この下に高田あり」という木札が 雪上に立てられたというほどの豪雪地域として知られているが,2014年12月17日は,管内に暴 風雪警報と波浪警報に併せて,大雪警報も発令されるという希にみる悪天候となり,国道18号 において登坂不能車の発生が予測されたため,2011年以来となるチェーン装着指導を実施した. 本稿では,2014年12月の気象状況と,チェーン装着指導に至った経緯,問題点への対応策に ついて報告するものである. キーワード チェーン装着,登坂不能車,大雪,除雪 1. はじめに 冬期の厳しい気象や路面状況下において,たった一台 の大型車が引き起こした登坂不能により,多くの道路利 用者に甚大な悪影響を及ぼす可能性は非常に高く,こう いった事態を避けるためにも,ドライバーに早期にチェ ーンを装着させるための啓発活動や,チェーン装着指導 は,冬期の道路交通確保において重要な意味を持つ. 2014年11月に施行された「災害対策基本法の改正」に より,緊急車両の通行ルートを確保するため,放置車両 の撤去を道路管理者が強制的に進めることが可能となっ たが,この法律を適用するに至った場合においても,立 ち往生車両をいかに減らしておくかが,その後の現地で の対応を左右する,重要なポイントになると思われる. このため,チェーン装着指導は,多くの人員や手間を 要すものであるが,災害対応は「構えは大きく,空振り をおそれず」を第一に考え,早期に着手したことにより, 国道の大規模な立ち往生に至らずに済んだものである. 2. 2014年12月の天候と道路状況 (1)初雪直後から急変する天候 高田河川国道事務所管内における初降雪は,昨年度よ り24日遅い2014年12月5日に妙高観測所等で確認され, 除雪車が初出動した. その翌日の6日9時34分には,上越市,糸魚川市,妙高 市に大雪警報が発令され,国道18号の妙高高原・中郷の 各観測所において,一晩に60cmもの積雪を観測した. 12月中旬にかけても雪の降りやすい天候が続き, (図-1)のとおり,13日から14日にかけては大雪警報が, 16日には暴風雪警報と波浪警報,17日には管内すべての 市に大雪警報も併せて発令されるという,異例の厳しい 悪天候となった. 図-1 2014年12月の妙高高原観測所データ (2)高速道路でも通行止めが多発 国道18号と並行する上信越自動車道の上越高田ICと妙 高高原IC間では,12月初旬の初雪以降,降雪が起因する と思われる通行止めが,断続的かつ長時間にわたり発生 していた.(図-2) このため,高速道路が通行止めになるたびに,国道に 流入する車両が増加し,タイヤチェーンを装着していな い大型トレーラー等が,登坂不能を起こしたことが原因 と思われる交通渋滞も発生していた.

国道18号におけるチェーン装着指導について - mlit.go.jp国道18号におけるチェーン装着指導について 春原 慎一 高田河川国道事務所道路管理第一課(〒943-0847

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • 国道18号におけるチェーン装着指導について

    春原 慎一

    高田河川国道事務所 道路管理第一課(〒943-0847 新潟県上越市南新町3番56号)

    高田河川国道事務所が位置する新潟県上越市は,かつて「この下に高田あり」という木札が

    雪上に立てられたというほどの豪雪地域として知られているが,2014年12月17日は,管内に暴

    風雪警報と波浪警報に併せて,大雪警報も発令されるという希にみる悪天候となり,国道18号

    において登坂不能車の発生が予測されたため,2011年以来となるチェーン装着指導を実施した.

    本稿では,2014年12月の気象状況と,チェーン装着指導に至った経緯,問題点への対応策に

    ついて報告するものである.

    キーワード チェーン装着,登坂不能車,大雪,除雪

    1. はじめに

    冬期の厳しい気象や路面状況下において,たった一台

    の大型車が引き起こした登坂不能により,多くの道路利

    用者に甚大な悪影響を及ぼす可能性は非常に高く,こう

    いった事態を避けるためにも,ドライバーに早期にチェ

    ーンを装着させるための啓発活動や,チェーン装着指導

    は,冬期の道路交通確保において重要な意味を持つ.

    2014年11月に施行された「災害対策基本法の改正」に

    より,緊急車両の通行ルートを確保するため,放置車両

    の撤去を道路管理者が強制的に進めることが可能となっ

    たが,この法律を適用するに至った場合においても,立

    ち往生車両をいかに減らしておくかが,その後の現地で

    の対応を左右する,重要なポイントになると思われる.

    このため,チェーン装着指導は,多くの人員や手間を

    要すものであるが,災害対応は「構えは大きく,空振り

    をおそれず」を第一に考え,早期に着手したことにより,

    国道の大規模な立ち往生に至らずに済んだものである.

    2. 2014年12月の天候と道路状況

    (1)初雪直後から急変する天候

    高田河川国道事務所管内における初降雪は,昨年度よ

    り24日遅い2014年12月5日に妙高観測所等で確認され,

    除雪車が初出動した.

    その翌日の6日9時34分には,上越市,糸魚川市,妙高

    市に大雪警報が発令され,国道18号の妙高高原・中郷の

    各観測所において,一晩に60cmもの積雪を観測した.

    12月中旬にかけても雪の降りやすい天候が続き,

    (図-1)のとおり,13日から14日にかけては大雪警報が,

    16日には暴風雪警報と波浪警報,17日には管内すべての

    市に大雪警報も併せて発令されるという,異例の厳しい

    悪天候となった.

    図-1 2014年12月の妙高高原観測所データ

    (2)高速道路でも通行止めが多発

    国道18号と並行する上信越自動車道の上越高田ICと妙

    高高原IC間では,12月初旬の初雪以降,降雪が起因する

    と思われる通行止めが,断続的かつ長時間にわたり発生

    していた.(図-2)

    このため,高速道路が通行止めになるたびに,国道に

    流入する車両が増加し,タイヤチェーンを装着していな

    い大型トレーラー等が,登坂不能を起こしたことが原因

    と思われる交通渋滞も発生していた.

  • 図-2 国道と高速道路の位置関係模式図

    3. チェーン装着指導等訓練

    高田河川国道事務所では,毎年,降雪期前にチェーン

    装着指導訓練及び登坂不能車牽引訓練を実施しており,

    今冬は,2014年12月11日に江口道路ステーションにて,

    妙高警察署や委託業者等約30名の参加により行った.

    訓練では,大雪警報が発令される中,妙高高原観測所

    の時間降雪量が10㎝以上となり,災害対策基本法の適用

    により国道18号が緊急道路に指定され,登坂不能に陥っ

    た車両を,道路管理者が牽引により撤去するというシナ

    リオに則り,登坂不能車両に見立てたトラックを,撤去

    の前と後で損傷状況確認を行うなどして牽引訓練を実施

    した.(写真-1)

    また,各除雪ステーションが停電に陥った場合のバッ

    クアップ電源の確保状況等も確認した.

    写真-1 チェーン装着指導訓練の様子

    4. 約4年ぶりのチェーン装着指導を実施

    こうして雪寒体制の準備を整えている中,12月17日は

    2.(1)のとおり,異例とも言える悪天候に見舞われ,雪

    害対策高田河川国道事務所支部では,午前9時に平常体

    制から注意体制へと移行し,チェーン装着指導も視野に

    入れながら,国道18号の登坂不能車発生多発箇所等への

    監視を強化していた.

    その後,上越市寺地区から妙高市三本木地区にかけて,

    大型トレーラーによる登坂不能車が確認され,今後も激

    しい降雪が継続するおそれがあったことから,今年度新

    たに事務所で策定した「異常降雪時における通行規制等

    実施要領」に該当する事態と判断し,同日13時50分,国

    道18号の上越市中郷区の江口道路ステーションにて,

    2011年3月以来となるチェーン装着指導を開始した.

    (1)他機関との連携体制

    チェーン装着指導は,猛烈な暴風雪と低気温の過酷な

    天候のもとで開始され,妙高警察署には国道からの車両

    の引き込みを依頼し,委託業者は構内誘導等の協力を頂

    いた.

    また,上越警察署には登坂不能を起こしやすい交差点

    の,国道側の信号を黄色点滅にするなどの要請を行った.

    なお,国道18号は県境で関東地方整備局 長野国道事

    務所と管理区間が隣接することから,長野県内の下り線

    を同事務所が長野市大倉地区で担当し,上越市からの上

    り線を高田河川国道事務所が実施するという連携体制と

    し,同時刻にチェーン装着指導を開始した.

    (2)チェーン装着指導の経緯

    当初,チェーン装着指導で引き込む車両は,登坂不能

    に陥りやすい大型トレーラーのみに絞る予定であったが,

    降りしきる雪のためナンバープレートも見づらく,走行

    している車両を真正面から見ただけでは車種が瞬時に判

    断できずに,トラックの形状をした車両はすべて引き込

    む形となっため,対応する台数が増えたことや,ノロノ

    ロ運転の渋滞に苛立ったドライバーへの状況説明に苦慮

    するなど,現地対応者の労苦は単なるチェーン装着指導

    業務だけに留まらなかったものである.(写真-2)

    写真-2 暴風雪警報発令中

    また,深夜になっても上信越自動車道の通行止めが断

    続的に続いていたことから,国道18号に流入する車両数

    が減る傾向は見られず,交替要員を現地に向かわせた際,

    平常時であれば20分程度で到着するはずの江口道路ステ

    ーションまで2時間以上費やすなど,予想以上の交通渋

    滞にも苦慮した.(写真-3)

    写真-3 高速道路通行止めと国道の渋滞状況

  • それらに加えて,渋滞で停車した下り車線のトレーラ

    ーまでもが,降り積もった積雪にはまり,発車できなく

    なる事態が散発し,スタック車を避けるための片側交互

    交通整理要員を,事務所から新たに4名派遣した. また,渋滞により路上で停車中に居眠りをしてしまう

    ドライバーへの対応も考える必要が生じるなど,一時も

    気の抜けない状況が続いたが,幸いにしてチェーン装着

    指導を行った先の山間部では,登坂不能車が発生するこ

    とはなかった.

    (3)チェーン装着指導の終了

    翌日12月18日には,国道を通過する車両数も減少しは

    じめ,登坂不能が懸念される大型トレーラー等も見られ

    なくなり,天候も回復傾向にあると確認出来たことから,

    同日9時45分,約20時間に及んだチェーン装着指導を終

    了した.

    なお,今回江口道路ステーションでチェーン装着指導

    に従事した人数は,高田河川国道事務所においては河川

    系や事務系職員にも応援求めて人員を確保し,委託業者

    も合わせると60人程度の動員となった.

    5. 問題点の集約と対応策

    (1) チェーン装着指導箇所のスペース確保

    激しい降雪に対して,江口道路ステーション構内の消

    雪施設の能力が追いつかなかったこともあり,次第にチ

    ェーンを装着させるための駐車スペースが不足する事態

    となった.このため(写真-4)のとおり,除雪車による

    構内一斉除雪を実施し,スペースを確保した.

    写真-4 構内除雪の様子

    (2) 標高差による登坂不能車の発生

    国道18号は,新潟県上越市から長野県境までの間で,

    標高差が630mあり,特に上越市中郷区以降での上り勾

    配が著しいため,上り線側が渋滞した場合,停止した大

    型車が再発進不能になり,さらに後続の車両が登坂不能

    を誘発するという悪循環に陥る.このため,チェーン装

    着指導のため構内に入りきれなかった車両が国道本線ま

    で連なった場合も,停車した車両がそのまま登坂不能車

    となるおそれがあったため,やむを得ず,一時チェーン

    装着指導を中止するなどの措置を執った.

    (3) 道路情報板とラジオ放送による情報提供

    登坂不能車を一台でも出さないよう,(写真-5)のと

    おり,国道を走行するドライバーに対し,道路情報板に

    より「妙高方面 登坂不能続出 直ちにチェーン着けよ」

    といった,若干強い表現での情報提供や路側放送による

    周知に努めた. それらに加えて,よりきめ細かな情報を提供できる方

    法として,FMラジオによる緊急放送(割り込み)とケー

    ブルテレビの文字放送による情報発信を行った.

    (写真-6)

    これについては,降雪シーズン前から各局に直接依頼

    し,道路利用者等への情報伝達手段として緊急放送が必

    要であり,その重要性に理解をいただくことで,迅速な

    放送につながっている.

    写真-5 道路情報板

    写真-6 ケーブルテレビ文字放送

  • (4) 上新バイパスに新たなチェーン着脱場を新設

    今回,チェーン装着指導所として想定していた江口道

    路ステーションより手前の地域で大雪に見舞われ,比較

    的平坦な箇所であったにも関わらず,登坂不能車が発生

    したことから,既存施設のみを利用して実施するチェー

    ン装着指導では,装着促進効果の薄い場合があることが

    露呈した.

    また,チェーンを装着するよう道路情報板で案内して

    も,大型車がチェーンを装着するための駐車スペースが,

    国道沿いに不足していることも問題となった.

    このため,緊急の措置として国道18号上新バイパスの

    2期線を活用し(図-3)のとおり,チェーン着脱場を上

    箱井と寺町北に,新たに二箇所新設した.

    図-3 チェーン着脱場位置図

    (5) 交通障害を発生させた事業者に文書で注意

    冬期の積雪路等において,道路情報板やラジオ放送等

    により,早期のチェーン装着を促しているにも係わらず,

    そのまま走行を続け,結果的に登れなくなった路上でチ

    ェーンを着けるか,その用意がなく,立ち往生する大型

    トレーラー等が必ず発生する.(写真-7)

    写真-7 登坂不能車の発生状況

    交通障害となる上に,追い越すことで対向車等への危

    険が及ぶため,やむなく除雪車等による牽引を行うが,

    これを「当然の行政サービス」と思われては不本意なた

    め,牽引した車両のドライバーに,タイヤチェーンの所

    持の有無,タイヤは冬用に履き替えているか等の聞き取

    りを実施している. その情報を元に悪質なものを抽出し,チェーン装着指

    導時に強行突破された車両などと併せ,運輸局にナンバ

    ーを照会するなどにより所有者を特定して,当該車両の

    安全運転管理者あてに「是正要請文書+啓発チラシ」を

    十数社に送付した.(図-4) その結果,複数社から謝罪を含めて連絡があった. なお,啓発チラシは降雪期前から準備し,トラック協

    会はじめ関係機関等を通じて一万枚配布している.

    図-4 是正要請文書と啓発チラシ

    (6) NEXCO東日本との確認書の締結

    国道18号と上信越自動車道のように,国道と高速道路

    が近接する状況下では,同時通行止めとなった場合の影

    響は大きいため,交通障害を未然に防止又は軽減するこ

    とを目的とした確認書を2014年10月に交わしている.

    その連絡網(ホットライン)により,雪寒期間中は緊

    密な連絡を励行したことにより,通行止めの開始や解除

    についての情報が,より早く入手できたため,道路利用

    者等への迅速な情報発信が可能となっている.(図-5)

    図-5 東日本高速道路(株)との連絡網

  • (7) 過酷な気象に対し装備品の充実で安全度向上

    今回のチェーン装着指導では,現地での対応が約20時

    間に及び,真夜中から早朝まで厳寒の中立ち続けた現地

    対応者からは「横殴りの吹雪や染みてくる雪水がたいへ

    ん冷たかった」「誘導棒が重く腕が疲れ,長時間の対応

    が辛かった(写真-8)」等の意見に加え,「猛吹雪の中

    では指導にあたる人がよく見えない」といった,一歩間

    違えば大きな事故につながりかねない問題が,後の聞き

    取りにおいていくつか指摘された.

    このため,今後の出動に備え,完全防寒防水仕様のジ

    ャンパーとズボン,手袋や長靴,軽量なLED式誘導棒,

    LED自発光式安全チョッキなどを確保し,装備の充実を

    図った.

    写真-8 誘導棒の重量比較

    (8) 万一の事態への対応は全事務所体制

    「道路除雪計画書(高田河川国道事務所)」及び「異

    常降雪時における通行規制等実施要領」では,江口道路

    ステーションでのチェーン装着指導の初動時での必要人

    員は16名(運転手含む)となっている.

    この人数には委託業者も含まれているが,今回のよう

    に第1班,第2班,第3班と編成したところ,除雪計画書

    に記載されている課の職員だけではローテーションが組

    めなくなるおそれがあったため,副所長間で調整をはか

    り,河川系や事務系の職員にも応援を要請した.

    この結果,各課からは快諾をいただき,第4班までの

    交対要員が準備できた.

    今後,万一の災害対応でも,縦割りにとらわれず,

    全事務所体制にて臨めるよう,日頃から所内の意思疎通

    を行う必要がある.

    6. 最後に

    高田河川国道事務所管内に限らず,最近の気象傾向は、

    降雪量にしても気温差にしても「局地的かつ極端」が著

    しく,今日までの想定枠で備えていては十分とは言えな

    い状況となっている.

    例えばチェーン装着指導に苦慮していた12月17日から

    18日にかけて,上越市中郷区では大雪に襲われていたが,

    同じ管内である上越市名立区では路面が乾燥していたた

    め,高速道路の「上越高田-中郷 ユキ通行止」との道

    路情報板が,現状と乖離していると思われかねない状況

    だった. (図-6)

    図-6 12月18日午前の管内降雪状況比較

    このため,住民からの通報や除雪業者からの情報など,

    地域や現場において「目にした」「耳にした」情報につ

    いても,なるべく情報共有し,対応は状況により異なる

    ことも認識しながら,冬期の道路交通確保に努めていく

    ものである.

    謝辞:本稿は,雪寒期における道路管理業務の一例とし

    て紹介させていただいたものであり,除雪作業や機動

    業務において,休日や夜間を問わず対応いただいてい

    る関係者各位のご尽力に,この場をお借りして深く感

    謝申し上げます.

    軽量品 260g

    従来品 460g

    新潟県→

    ←富山県

    ↓長野県