13
22 主要産業の動向と FTA の影響 127 主要産業の動向と FTA 等の動向 メキシコの主要産業 3 章で示した通り、メキシコの GDP は第三次産業が 6 割以上を占めており、第二次産業は 3 割程度にとどまっている。第二次産業の中では製造業が約半分を占めている。業種別にみると、 GDP に占める割合で大きい順に、製造業、不動産業、小売業、卸売業、建設業、鉱業となってい る。製造業、卸売業がここ 3 年間で微増した一方で、鉱業が半減し、不動産業も減少傾向にある。 2007 年から 2016 年で GDP 2 倍弱の伸びているのとは対照的に、産業構造に大きな変化がみら れない。 図表 22-1 メキシコ産業別 GDP 割合と GDP の推移 (出所)INEGI 統計資料より作成 同国は米国と国境を接している点で地理的に優位であり、周辺国と比較した場合に人件費をは じめとする投資コストが低いこと、輸出加工に関わる優遇策を政府が積極的に整備してきたこと などから、製造業を中心に海外からの投資を受けてきた。海外直接投資は直近 10 年間でその投資 額には波があるものの、 2006 年~2011 年が年平均で 250 億ドル、 2011 年~2017 年が年平均で 300 億ドルの間で推移し、上昇傾向にあることがわかる。 自動車や電気・電子産業を中心に、北米向け輸出の拠点として海外からの投資を集めてきた。 2016 年の海外直接投資における製造業の内訳では、最も多いのが輸送機器で 50 億ドル(31%)、 続いて化学が 37 億ドル(23%)、飲料・タバコが 17 億ドル(11%)、食品が 7 億ドル(4%)となっ ている。なお、2013 年は、ベルギー企業によるメキシコビール製造メーカー大手の買収に伴う大 11,504 12,354 12,163 13,366 14,666 15,818 16,277 17,471 18,537 20,100 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 14% 16% 18% 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (暫定) GDP10億ペソ) (年) 国内総生産(市場価格) 製造業 不動産業 小売業 卸売業 建設業 鉱業 GDPに占める割合)

主要産業の動向と FTA 等の動向 - JBIC...動車が第1 位の36.4 万台(シェア23.8%)、次いでGM、Volkswagen、トヨタとなっている。 輸出動向については、メキシコの自動車産業は歴史的に米国向けの輸出拠点として発展してき

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  • 第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

    127

    主要産業の動向と FTA等の動向

    メキシコの主要産業

    第 3 章で示した通り、メキシコの GDP は第三次産業が 6 割以上を占めており、第二次産業は 3割程度にとどまっている。第二次産業の中では製造業が約半分を占めている。業種別にみると、

    GDP に占める割合で大きい順に、製造業、不動産業、小売業、卸売業、建設業、鉱業となっている。製造業、卸売業がここ 3 年間で微増した一方で、鉱業が半減し、不動産業も減少傾向にある。2007 年から 2016 年で GDP が 2 倍弱の伸びているのとは対照的に、産業構造に大きな変化がみられない。

    図表 22-1 メキシコ産業別 GDP 割合と GDP の推移

    (出所)INEGI 統計資料より作成

    同国は米国と国境を接している点で地理的に優位であり、周辺国と比較した場合に人件費をは

    じめとする投資コストが低いこと、輸出加工に関わる優遇策を政府が積極的に整備してきたこと

    などから、製造業を中心に海外からの投資を受けてきた。海外直接投資は直近 10 年間でその投資額には波があるものの、2006 年~2011 年が年平均で 250 億ドル、2011 年~2017 年が年平均で 300億ドルの間で推移し、上昇傾向にあることがわかる。

    自動車や電気・電子産業を中心に、北米向け輸出の拠点として海外からの投資を集めてきた。

    2016 年の海外直接投資における製造業の内訳では、最も多いのが輸送機器で 50 億ドル(31%)、続いて化学が 37 億ドル(23%)、飲料・タバコが 17 億ドル(11%)、食品が 7 億ドル(4%)となっている。なお、2013 年は、ベルギー企業によるメキシコビール製造メーカー大手の買収に伴う大

    11,504 12,354 12,163

    13,366 14,666

    15,818 16,277 17,471

    18,537 20,100

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    2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016(暫定)

    GDP(10億ペソ)

    (年)

    国内総生産(市場価格) 製造業 不動産業小売業 卸売業 建設業鉱業

    (GDPに占める割合)

  • メキシコの投資環境

    128

    型案件があったため、飲料・タバコは一時的に増加している。

    特に自動車関連産業は、米国、日本をはじめ世界各国から投資を集める最重要産業であり、政

    府もその育成に注力している。また、最近ではより高度な技術を要する航空産業への投資も増加

    しており、製造業の高度化・高付加価値化が進みつつある。

    図表 22-2 海外直接投資における製造業の主な内訳

    (出所)INEGI 統計資料より作成

    自動車産業

    自動車産業に対する外国直接投資の推移

    近年、日系の自動車や自動車部品を生産する企業が相次いで投資を行っているが、メキシコの

    自動車業界は日本だけでなく米国、欧州各国からも投資を集めている。2017 年の生産台数は過去最高を記録した 2016 年から 13%増の 393 万台となった。近年の主要自動車メーカーによる投資は以下のとおりである。

    -5,000

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    (10万ドル)

    (年)

    輸送機器 化学 飲料・タバコ 食品 製造業

  • 第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

    129

    図表 22-3 主要自動車メーカーによる近年の投資

    発表年 月 企業名 国 投資先 金額

    (ドル) 投資内容

    2013 1 月 Volkswagen ドイツ グアナファト 5.5 憶 最新のエンジン工場の建設

    2 月 Jatco 日本 アグアスカリエンテス 2.2 憶 第 2 工場の建設

    3 月 Superior Industries International

    米国 チワワ 1.3 憶 自動車部品用アルミホイル工場

    の建設

    5 月 Honda 日本 グアナファト 4.7 憶 トランスミッション工場の建設

    5 月 Bosch ドイツ メキシコ(不特定) 1.5 憶 国内 8 つの工場への投資

    6 月 General Motors

    米国 グアナファト、サン・ルイ

    ス・ポトシ 6.9 憶 生産力拡大

    7 月 Chrysler 米国 コアウイラ 1.6 憶 天然ガス用エンジン製造

    8 月 Mazda 日本 グアナファト 1.2 憶 エンジン機械加工工場の建設

    11 月 Bosch ドイツ ハリスコ 4.6 憶 生産拡大

    11 月 Calsonic-Kansei 日本 アグアスカリエンテス 1.5 憶 工場拡大

    2014 6 月

    Daimler and Nissan ドイツ 日本

    アグアスカリエンテス 10 憶EURO

    新工場設立

    7 月 BMW ドイツ サン・ルイス・ポトシ 10 億 新工場設立

    7 月 Bosch ドイツ メキシコ(不特定) 5.46 憶 北米向け自動車部品の製造拡大

    7 月 DENSO 日本 ヌエボ・レオン 0.9 憶 北米市場拡大に伴う工場拡張

    8 月 KIA Motors 韓国 ヌエボ・レオン 10 憶 新工場設立

    2015 3 月 VolksWagen ドイツ プエブラ 10 億 工場拡張

    4 月 Ford

    米国 チワワ 13 憶 ガソリン及びディーゼルエンジ

    ン工場の拡張

    4 月 Toyota

    日本 グアナファト 10 憶 新工場設立。カローラの生産を

    カナダから新工場へ移管

    4 月 Goodyear 米国 サン・ルイス・ポトシ 5.5 憶 タイヤ製造工場の新設

    2016 6 月

    JFE Steel 日本

    グアナファト 2.7 憶 米国の鉄鋼メーカーNUCOR との JV でメッキ工場の新設

    7 月 Michelin フランス グアナファト 5.1 憶 タイヤの製造工場の新設

    9 月 Toyota 日本 グアナファト 1.5 憶 製造拡大

    2017 2 月 安徽江淮汽車

    (JAC) 中国

    イダルゴ 44 憶 GiantMotors と安徽江淮汽車(JAC)が JV で車の生産を開始

    (出所)各社発表、ProMéxico、ジェトロ

    自動車産業の市場概要

    生産面については、メキシコの 2017 年の自動車(乗用車及びライトトラック)生産台数は 393万台であり過去最高を更新した。輸出台数も 310 万台を超え、2017 年時点でメキシコは世界第 7位の自動車生産国となっている。

  • メキシコの投資環境

    130

    図表 22-4 国別自動車生産ランキング 4(2004 年/ 2017 年比較)

    順位 2004 年 2017 年

    国 生産台数 (千台)

    国 生産台数 (千台)

    1 米国 11,989 中国 29,015 2 日本 10,511 米国 11,182 3 ドイツ 5,569 日本 9,684 4 中国 5,234 ドイツ 5,916 5 フランス 3,665 インド 4,780 6 韓国 3,469 韓国 4,115 7 スペイン 3,012 メキシコ 3,932 8 カナダ 2,711 スペイン 2,848 9 ブラジル 2,317 ブラジル 2,699

    10 英国 1,856 フランス 2,302 11 メキシコ 1,577 カナダ 2,082

    (出所)OICA(国際自動車工業連合会)、ジェトロ公表資料より作成

    図表 22-5 自動車の国内販売台数と国内生産台数の推移

    自動車の 販売生産・輸出入

    2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

    販売台数(台) 754,918 820,406 905,886 987,747 1,063,363 1,135,409 1,351,648 1,603,672 1,530,317

    生産台数(台) 1,507,527 2,260,776 2,557,550 2,884,869 2,933,465 3,219,786 3,399,076 3,465,615 3,932,119

    輸出向け生産台数(台) 1,226,513 1,875,784 2,130,143 2,405,188 2,408,345 2,642,887 2,758,896 2,768,268 3,102,604

    自動車輸出台数の生産

    台数に占める比率 81.36% 82.97% 83.29% 83.37% 82.10% 82.08% 81.17% 79.88% 82.22%

    (出所)AMIA(メキシコ自動車産業協会)より作成

    販売動向については、メキシコにおける新車販売台数は、2006 年に 120 万台近くに達したが、リーマンショック以降減少し、2009 年には 80 万台以下まで落ち込んだ。その後は順調に販売台数を伸ばし、2016 年は 160 万台となり、過去最高を記録した。しかし、2017 年にアメリカ第一主義を掲げるトランプ氏が大統領に就任し、メキシコに工場を有する企業を名指しで批判する等、

    今後しばらくはトランプリスクに留意が必要である。

    2017 年の企業別生産台数では、日産自動車が第 1 位の 82.9 万台(シェア 22.0%)で最も多く、次いで GM、FCA、Volkswagen と欧米メーカーが続いている。企業別新車販売台数でも、日産自動車が第 1 位の 36.4 万台(シェア 23.8%)、次いで GM、Volkswagen、トヨタとなっている。

    輸出動向については、メキシコの自動車産業は歴史的に米国向けの輸出拠点として発展してき

    た経緯があり、2017 年時点でも生産した自動車の多くは輸出されている。輸出台数は 2009 年に一時的に落ち込んだものの、2010 年以降は増加を続け、2017 年は 310 万台が輸出された。販売先として 8 割以上を占める北米市場への依存度は極めて高いものの、米国トランプ大統領のアメリ

    4 OICA(国際自動車工業連合会)の統計は乗用車と小型商用車を含むため、AMIA(メキシコ自動車産業協会)

    の統計数値と一致しない。

  • 第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

    131

    カ第一主義の影響を受けて 2017 年の北米向けの輸出割合はわずかに減少した。しかし、販売台数は前年度から 22 万台増加(+9.3%)しており、引き続き米国市場依存の傾向に変化はみられない。北米市場を除く全ての市場においてもメキシコの輸出は堅調に伸びている。

    図表 22-6 地域別輸出台数

    地域 2016 年 (台)

    2017 年 (台)

    差異 (台)

    全体に占める

    割合(2016) 全体に占める

    割合(2017) 差異

    北米 2,380,048 2,602,464 222,416 86.0% 83.9% -2.1% 中米・カリブ 32,610 43,129 10,519 1.2% 1.4% 0.2% 南米 169,696 197,302 27,606 6.1% 6.4% 0.2% 欧州 115,739 168,058 52,319 4.2% 5.4% 1.2% アジア 28,214 38,969 10,755 1.0% 1.3% 0.2% アフリカ 402 2,383 1,981 0.0% 0.1% 0.1% その他 41,559 50,299 8,740 1.5% 1.6% 0.1% 合計 2,768,268 3,102,604 334,336 100.0% 100.0% 0.0% (出所)AMIA(メキシコ自動車産業協会)より作成

    自動車部品産業

    生産動向について、メキシコの自動車産業は、NAFTA をはじめとした FTA を利用して主要な素材や部品を輸入し、自動車を組み立てて再輸出する形をとってきたため、2017 年時点でも輸入に頼っている部品がある。しかし、近年は部品メーカーの進出が進み、世界でも有数の自動車部

    品生産国となっている。自動車サプライヤーの集積が進むにつれて輸出も増加し、2016 年時点でメキシコの自動車部品輸出額の約 9 割が米国向けとなっている。輸出額は 2009 年に一時的に下落したものの、その後一貫して増加し続けており、過去 15 年間で約 5 倍の規模まで成長した。

    図表 22-7 自動車部品の輸出入額

    (出所)経済産業省通商白書 2017 より作成

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    2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

    輸出 輸入

    (10億ドル)

    (年)

  • メキシコの投資環境

    132

    従来メキシコにおける自動車産業の課題として、所得格差の存在による車購買層が限定され、

    また、米国から中古車を輸入しているためメキシコにおける新車購買層を奪っているという国内

    市場の弱さがあった。また、メキシコでは従前より NAFTA の恩恵を受け自動車関連部品を輸入に頼っていたため現地の裾野産業が発達せず、特に Tier 1・2 の不足が著しく企業の調達拡大が困難であった。さらにエネルギーコストや物流コストが高いこともメキシコ投資の足かせとなって

    いた。これら潜在的な問題に対して、近年はドイツ、スペイン、日本等の外資系 Tier2 企業の進出が増え、裾野産業不足に改善がみられている。なお、自動車部品の輸出先としては、米国(86.6%)のほかに、カナダ(4.4%)、中国(2.1%)、日本(1.4%)などが主要な輸出先となっている。

    図表 22-8 自動車部品の主要輸出相手国・地域

    (出所)INA(メキシコ自動車部品工業会)より作成

    航空産業

    近年、メキシコ政府は自動車産業と並んで航空宇宙産業に対する外国投資の呼び込みに積極的

    であり、北米、ラテンアメリカのみならずアジアからの投資を呼び込むことに熱心になっている。

    航空産業は、メキシコ政府が新たな産業の柱として期待している産業であり、2006 年にボンバルディアがケレタロ州に工場を設置して以来、カナダ、米国、欧州諸国などからの投資が集まっ

    ている。2016 年末で、メキシコ航空機産業に対する直接投資は 3,113 百万ドルでメキシコの外国直接投資のおよそ0.6%である。直接投資の内訳は民間旅客機本体に全体の28%、その部品が10%、電気ケーブルとその関連部品が 9%となっている。国別内訳は米国が 1,612 百万ドル、カナダが1,112 百万米ドル、スペインが 109 万米ドル、フランスが 106 百万米ドル、スウェーデンが 84 百万米ドルであり、左記 5 か国で全体の 97%を占めている。

    メキシコ政府は 2007 年には米国との間でメキシコ-米国二国間航空安全協定(BASA: Bilateral Aviation Safety Agreement)を結び、航空機やその部品、メンテナンスなどの安全検査・認証能力の相互承認に向けて動いている。部品についてはすでに相互承認が行われており、メキシコで製造

    した航空機用部品は検査にかかるコストやリードタイムが短縮される。また、メキシコは 2012 年ワッセナー協約(Wassenaar Arrangement on Export Controls for Conventional Arms and Dual-Use Goods

    米国, 86.6%

    カナダ, 4.4%

    中国, 2.1%

    日本, 1.4%その他, 5.4%

  • 第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

    133

    and Technologies)5に加盟した。同協約への加盟国は、航空関連製品を国際的な枠組みの下で適切に管理できる国とみなされるため、航空製品の輸出はより活発化する見込みである。輸出額は年々

    増加を続けている。2016 年の輸出額は 70 億ドルを超える水準に達している。

    図表 22-9 航空関連製品の輸出額

    (出所)メキシコ産業省より作成

    現地ヒアリングによると、航空産業に関しては日本企業の進出はほとんどないが、欧米系のサ

    プライヤー企業が既に数多く進出しているようであり、今後も引き続き注目すべき業種の一つと

    して挙げられる。

    ひとくちメモ 21:流通・小売業界の将来性

    流通・小売業界には、米系を中心に多くの外資企業が参入している。メキシコの人口は 2015 年に 1 億

    2000 万人を突破し、国民の半数近くが 25 歳以下であるため、消費意欲が強く、企業にとって潜在力の高

    い市場になっている。

    また小売売上高の伸び率の推移をみても、2014年以降は前年同月比で一貫して増加傾向にあり、2016年

    以降は伸び率が 10%を超える場合もあることが下記グラフからも見てとれる。

    他方、世帯あたりの所得水準は下落傾向にあり、現地日系企業へのヒアリングでは中所得者層が育って

    いないとの声も聞かれた。依然として国民の多数が低所得者層に分布しているため、彼らをターゲットに

    したビジネスが発展している。地元の家電販売チェーンを営む企業では、低所得者層向け「54週分割払い

    サービス」を行っている企業もあるようだ。

    現地ヒアリングによると、日系企業のビジネスモデルは中所得者層向けであることが多く、メキシコは

    日本企業にとって導入期市場だという。既に成功している日系企業は低所得者層向けにビジネスを展開し

    ているか、数十年前から同国に進出し先行者利益によってシェアを拡大している。

    5 日本語では「通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント」と訳される。武

    器転用可能な製品の輸出や技術の移転管理、関連する情報の交換を目的とした協約であり、41 カ国が加盟している。航空機関連製品は、同協約における管理対象品目となる。

    0

    1,000

    2,000

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    2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016(年)

    (百万ドル)

  • メキシコの投資環境

    134

    メキシコ人の保守的な性格から、一度気に入ったブランドを長年使い続ける人が多いため、先行者利益

    がとても有利に働いているのも特徴的である。メキシコシティ市場に関心のある企業は、これら市場の動

    向を十分注視した上で参入の判断をする必要がある。

    <メキシコの小売業売上高の伸び率の推移>

    (出所)INEGI データより作成

    FTA

    メキシコは 46 カ国との間で FTA を締結している FTA 大国である。地理的な条件や NAFTA への加盟により、資本財や素材を北米から輸入し、安価な労働力を利用して労働集約的な工程のみ

    を担い、最終製品の多くを北米に再輸出するという産業構造が定着してきた。

    1990 年代から 2000 年代にかけて、米国との貿易は飛躍的に拡大したものの、調達と販売先の両面で極端に米国に依存する脆弱性を抱えることとなった。リーマンショックにより米国経済が

    低迷すると、メキシコでは外国直接投資が減少したほか輸出も停滞し、メキシコ国内経済は急速

    に失速した。投資や貿易面での米国への依存は続いている。

    こうした背景を受け、メキシコは積極的かつ多角的な外交を展開している。これまで米国が輸

    出全体の 8 割を占めていたことから米国依存の通商政策が続いていたが、近年はアジア太平洋や欧州、中南米との関係強化に取り組み、TPP11、メキシコ EU 自由貿易協定の改定、太平洋同盟等の交渉にも力を入れている。太平洋同盟では、オーストラリア、シンガポール、カナダ等域外の

    国々とも合意に向け交渉を続けている。なお、2005 年に日墨経済連携協定(EPA)が発行されたが、同協定は日本にとって初の本格的 EPA であり、メキシコにとっては対アジアで唯一の自由貿易協定である。また、2017 年以降、NAFTA の再交渉が継続されている。メキシコ政府は、北米地域の競争力強化や北米地域の貿易と投資の確実性の促進等を目標に再交渉に臨んでおり、経済成

    長の程度は、この合意内容に大きく左右されるだろう。

    NAFTA

    NAFTA は、1992 年 12 月に調印、1994 年に発効した米国、カナダ、メキシコ 3 国間の自由貿易協定である。関税の撤廃・引き下げ、金融サービス市場の開放、投資の自由化等を内容としてい

    -8%

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    2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年

  • 第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

    135

    る。2017 年 1 月に誕生した米国第一主義を唱える米国トランプ大統領は、自国の貿易収支の改善のため、NAFTA の再交渉に取り組んでいる。2018 年 6 月時点においても合意に向けた交渉が続いている状況である。他方、メキシコでは 2018 年 7 月の大統領選挙により同国初の左派政権が誕生し、米国では同年 11 月に中間選挙が予定されている。新たな国家政策が打ち出される時期にあって、NAFTA 再交渉の行方を見通すことは難しい。

    図表 22-10 NAFTA の経緯

    1989 年 1 月 米加自由貿易協定発効

    1990 年 6 月 米墨首脳会談で両国間の包括的な自由貿易協定が両国の利益になるとの合意

    1990 年 9 月 加、米墨交渉に参加すると発表

    1991 年 6 月 第 1 回 NAFTA 閣僚レベル会議開催

    1992 年 8 月 基本合意

    1992 年 12 月 NAFTA 正式署名

    1993 年 8 月 環境と労働に関する補完協定につき合意

    1994 年 1 月 NAFTA、環境と労働に関する補完協定の発効

    2008 年 1 月 NAFTA の関税撤廃スケジュールの終了

    2017 年 8 月 NAFTA 再交渉開始

    (出所)外務省より作成

    ALADI(ラテンアメリカ統合連合)

    ALADI はメキシコのほか、ブラジル、アルゼンチン等中南米の 13 カ国の加盟国と、18 のオブザーバー国からなる地域経済統合体であり、域内特恵関税などを通じ、段階的にラテンアメリカ

    に共同市場を構築することを目的としている。

    図表 22-11 ALADI 加盟国

    加盟国 (13 カ国)

    メキシコ、アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、キューバ、コロンビア、チリ、 パナマ、パラグアイ、ブラジル、ベネズエラ、ペルー、ボリビア

    メキシコは、中南米各国との間で、ALADI の枠内で特定の品目についての関税を一定割合相互

    に減免している。関税についての取り決めは数年間の期限付きであり、更新の是非については締

    結国同士の交渉で決定している。

    特に重要な協定として、2003 年に発効した「ACE55 号」がある。ACE55 号はメキシコと、アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ、ベネズエラの 5 カ国との間で、自動車や自動車部品について特恵関税を設定する協定で、2003 年から段階的に関税を引き下げ、2011 年までに完全に撤廃する取り決めとなっていた。

    ACE 発効によりメキシコのメルコスール諸国向け自動車輸出は拡大し、メキシコ産自動車の輸出先は多様化した。しかし 2012 年、メキシコからの自動車輸入の急増を受け、ブラジルとアルゼンチンが協定の見直しをメキシコに要請。交渉の結果、メキシコから輸入される自動車の無関税

    枠には 1 年あたりの上限金額が設定されることになった。

  • メキシコの投資環境

    136

    南米諸国は、自動車メーカー各社にとって北米に次ぐ重要な市場である。ACE55 号の改定を受け、メキシコに生産拠点を置く自動車メーカー各社は生産計画や輸出仕向け地の変更、ブラジル

    での現地生産の検討などの対応を図っている。当初ブラジル向けの無関税輸出制限枠は 2015 年 3月 19 日に撤廃される予定だったが、4 年間は制限枠を継続することなり、2019 年 3 月 19 日以降に完全自由化するとしている。

    TPP

    メキシコは、2011 年 11 月に TPP 協定交渉への参加意思を表明し、2012 年 10 月に協定の正式交渉メンバーとなった。その後 2015 年 10 月の大筋合意を経て、翌年 2 月に他の参加国とともに協定に署名した。前述の通りメキシコは 46 の国と FTA を締結しており、TPP を締結することによりアジア市場へのアクセスを一層強化するとともに、NAFTA を通じて築いた北米とのサプライチェーンを深化させ、さらに中南米諸国とも緊密な通商関係を築くことを狙っていた。

    メキシコ国内で TPP 加盟によるメキシコ経済への影響について関心が高まったのは TPP が大筋合意した後であり、それ以前の関心は高くなかったようなのだが、大筋合意後、一般国民を巻

    き込んで農業や自動車産業等、様々な産業に対する影響が議論され、産業界や国民からも TPP への参加に慎重になるべきとの声が上がっていたものの、2016 年 2 月には交渉参加12ヵ国が TPP協定に署名した

    ところが、米国大統領選挙でトランプ氏が大統領になると、選挙戦の公約通り TPP からの脱退を発表することになり、TPP 交渉は再び暗礁に乗り上げることとなった。米国は TPP 交渉のテーブルから退いたが、その後、メキシコや日本を含む 11 か国による TPP 交渉が再開され、2017 年11 月に再び交渉の大筋合意が確認された。その後、2018 年 3 月には米国を除く 11 ヵ国で新協定「TPP11」に署名した。

    図表 22-12 TPP 交渉の経緯

    2010 年 3 月 ニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイ、米、豪、ペルー、ベ

    トナムの 8 か国で交渉開始

    2010 年 10 月 マレーシアが交渉参加

    2011 年 11 月 APEC 首脳会議、TPP 首脳会合(於:ホノルル)

    2012 年 11 月 メキシコ、カナダが交渉参加

    2013 年 2 月 日米首脳会談:日米の共同声明を発出

    2013 年 3 月 安倍総理「交渉参加」表明

    2013 年 7 月 日本が交渉参加(於:マレーシア)

    2013 年 8 月~2015 年 7 月 ・TPP 首脳会合 2 回、TPP 閣僚会合 8 回 ・日米首脳会談 2 回、日米閣僚協議 5 回

    2015 年 10 月 TPP 閣僚会合(於:アトランタ)にて大筋合意

    2016 年 2 月 署名(於:オークランド)

    2017 年 1 月 日本が締結(寄託国 NZ に通報)

    2017 年 1 月 トランプ大統領、TPP 離脱の大統領覚書を発出

    2018 年 3 月 署名(於:サンティアゴ)

    (出所)外務省より作成

  • 第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

    137

    太平洋同盟

    2012 年 6 月、メキシコ、チリ、コロンビア、ペルーの 4 カ国は、それぞれの国が個別に締結していた二国間 FTA の統合を目指して、太平洋同盟(Pacific Alliance)と呼ばれる枠組みを発足させた。以後、貿易、人の移動、資本の移動の一層の円滑化を進め、高度な経済統合を達成するため

    に、4 カ国首脳による会合が重ねられてきた。2014 年 2 月の第 8 回首脳会合では、貿易に関して90%を超える品目の関税が即時撤廃された。2014 年 6 月の第 9 回首脳会合では、4 カ国の証券市場の統合に対する取り組みなどが合意された。2017 年 6 月に新たにカナダとオーストラリア、ニュージーランド、シンガポールの 4 カ国との準加盟交渉を開始することが発表され、交渉の準備に入っている。正規加盟国 4 カ国の他に、加盟国候補オブザーバーが 2 カ国(コスタリカ、パナマ)、オブザーバーが日本を含め 47 カ国に達している。

    メキシコは積極的かつ多角的な外交を展開しており、太平洋同盟では、オーストラリア、シン

    ガポール、カナダ等域外の国々とも合意に向け交渉を続けている。

    図表 22-13 太平洋同盟の経緯

    2011 年 4 月 第 1 回首脳会合にて太平洋同盟の設立に合意

    2015 年 7 月 枠組協定が発効

    2016 年 5 月 枠組協定追加議定書が発効

    (出所)外務省より作成

    図表 22-14 メキシコの二国間、多国間経済・貿易協定の概要

    (出所)ジェトロ公表資料より作成

    NAFTA

    メキシコ

    アメリカカナダ

    主な自由貿易協定締結国

    • G3 ( コ ロ ン ビ ア )(1995)※ベネズエラは2006年脱退

    • チリ(1999年)• イスラエル(2000年)• EU(2000年)• 欧州自由貿易連合(ノル

    ウェー、スイス、アイスランド、リヒテンシュタイン)(2001)

    • ウルグアイ(2004)• 日本(経済連携協定)

    (2005)• ペルー(2012)• 中米5か国(グアテマラ、

    ホンジュラス、エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカ)(2011)

    • パナマ(2015)

    ALADI(ラテンアメリカ統合連合)太平洋同盟()内は加盟を前提したオブザーバー

    チリ コロンビア ペルー

    (コスタリカ) (パナマ)

    環太平洋パートナーシップ(TPP)

    アルゼンチン

    ウルグアイ

    ボリビア ブラジル チリ

    パラグアイ

    コロンビア

    ペルー

    エクアドル

    パナマ

    ベネズエラ キューバ

  • メキシコの投資環境

    138

    ひとくちメモ 22: メキシコの小売市場① 流通チャネル

    メキシコは個人間の貧富の差、地域による貧富の差が激しい。そのため所得階層によって購入する物の

    種類や価格帯に加えて、購入する店も異なる。大都市には地場系・米国系のデパートやショッピングモー

    ルがあるほか、郊外を中心に米国系の大型スーパー(ウォルマートなど)が点在している。しかし、都市

    から離れた地域には大手チェーンが進出せず、個人経営の小規模小売店しか存在しないエリアもまだ多く

    ある。

    都市部の小売業は先進国並みに発展しているため、日系企業が市場開拓を目指す際、都市の富裕層のみ

    をターゲットにするのであれば、あまり流通上の問題はない。しかし製品をなるべく多くの国民に販売し

    ようとすると、地方部でいかに販売するか、チェーンではない小規模小売店にどのように流通させるかが

    課題になる。個人経営の店舗を通した販売では、個別店舗からの代金回収がネックになるほか、代理店を

    介した販売が中心になるためマーケティングが間接的になり、より難しい。

    メキシコの小売市場に参入する際には、自社製品をどの地域のどの所得層に売りたいのか(もしくは売

    れそうか)を決めた上で、地域別の豊かさや流通・小売網の発展度合をよく調査しつつ流通戦略を検討す

    る必要がある。

    ひとくちメモ 23: メキシコの小売市場② メキシコ人の食嗜好は保守的だが多様性がある

    メキシコのコンビニエンスストアやスーパーマーケットの食品売り場を訪れると、「多様な商品が少しず

    つ」並んでいる日本とは違い、「同じものが大量に」売られていることに気付く。

    日本発の加工食品で、今ではメキシコ人の生活に溶け込んでいるカップ麺も例外ではない。日本では毎

    年新製品が発売され、人気のあるものが定番化されるが、メキシコでは、消費者が新しい味に飛びつくこ

    とはあまりなく、なかなか新製品が受け入れられないそうだ。新しい風味が受け入れられないとなると、

    他社との差別化が難しい。そのため各社は、メキシコ人が好むチリソースを麺とは別のパックに入れて販

    売し、好みの味付けに調整できるようにする(従来製品では、カップにパウダーがあらかじめ入っている)、

    スプーンでも食べやすいように麺を短くする、などの工夫をして市場拡大に努めている。

    メキシコで販売しているカップ麺には日本にあるような「カレー」「味噌」などの風味の違いはない一方

    で、「にわとり」や「牛肉」、「えび」など、異なるダシの商品が存在する。これは、メキシコ人は地域によっ

    て食への志向が異なり、北部は牛肉を使った料理、南部は鶏肉を使った料理が好まれるためであるという。

    国土が広いため流行も地域によって異なり、地域別の伝統的な嗜好が色濃く残っているため、「全国ブラン

    ド」が育成しづらいということもメキシコの食品市場の特徴のようだ。

    現地では、特にエビやハバネロ味がよく売れており、新商品を出しても爆発的に売れるということはな

    く、従来からある味が好まれる傾向にあるという。

  • 第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

    139

    【写真説明】コンビニに並ぶ東洋水産のカップ麺

    (出所)現地調査にて撮影