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大動脈弁狭窄症の診断と治療
林田 健太郎先生 慶應義塾大学医学部 循環器内科 特任准教授 心臓カテーテル室主任監修者からのメッセージ
TAV I 医療従事者向け
医療従事者向け情報サイトから大動脈弁狭窄症(AS)の疾患啓発に関する資料をご請求いただけます。
http://tavi-web.com/professionals/TAV Iに関する資料のご請求や診療に役立つツール等のダウンロードもできます。
サイト監修:林田健太郎 先生 / 慶應義塾大学医学部 循環器内科 特任准教授 心臓カテーテル室主任
大動脈弁狭窄症の病態と診断
TAVI の適応
TAVI の臨床成績
使用成績調査
ビデオライブラリー
References :
1. De Sciscio P, Brubert J, De Sciscio M, et al. Quantifying the Shift Toward Transcatheter Aortic Valve Replacement in Low-Risk Patients: A Meta-Analysis. Circ Cardiovasc Qual Outcomes 2017; 10: e003287. 2. Committee for Scientific A�airs, The Japanese Association for Thoracic Surgery, Masuda M, Endo S, Natsugoe S, et al. Thoracic and cardiovascular surgery in Japan during 2015 : Annual report by The Japanese Association for Thoracic Surgery. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2018; 66: 581-615. 3. Committee for Scientific A�airs, The Japanese Association for Thoracic Surgery, Masuda M, Kuwano H, Okumura M, et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2014; 62: 734-64. 4. Committee for Scientific A�airs, The Japanese Association for Thoracic Surgery, Masuda M, Kuwano H, Okumura M, et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2015; 63: 670-701. 5. Committee for Scientific A�airs, The Japanese Association for Thoracic Surgery, Masuda M, Okumura M, Doki Y, et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2016; 64:665-97. 6. Committee for Scientific A�airs, The Japanese Association for Thoracic Surgery, Shimizu H, Endo S, Natsugoe, S et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2019; 67: 377-411. 7. 大北 裕,他:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告)弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012 年改訂版) 8. Alliance for aging research. Aortic stenosis: Under-diagnosed and under-treated[Internet]. Washington, DC: Alliance for aging research; c2016[Cited 2015 Nov 17]. Available from: http://www. agingresearch.org/newsletters/view/36 9. Eltchanino� H, Durand E, Avinée G, et al. Assessment of structural valve deterioration of transcatheter aortic bioprosthetic balloon-expandable valves using the new European consensus definition. EuroIntervention 2018; 14: e264-71.10. Douglas PS, Leon MB, Mack MJ, et al. Longitudinal Hemodynamics of Transcatheter and Surgical Aortic Valves in the PARTNER Trial. JAMA Cardiol 2017; 2: 1197-206.11. Blackman DJ, Saraf S, MacCarthy PA, et al. Long-Term Durability of Transcatheter Aortic Valve Prostheses. J Am Coll Cardiol 2019; 73: 537-45.12. 厚生労働省.脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会. 脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方について(平成29年7月)13. 日本循環器学会, 日本心不全学会 編.急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_tsutsui_h.pdf (2019年3月7日閲覧)14. Ross J Jr, Braunwald E. Aortic stenosis. Circulation 1968; 38: 61-7.15. Shimura T, Yamamoto M, Kano S, et al. Patients Refusing Transcatheter Aortic Valve Replacement Even Once Have Poorer Clinical Outcomes. J Am Heart Assoc. 2018;7:e009195.16. Mack MJ, Leon MB, Smith CR, et al. 5-year outcomes of transcatheter aortic valve replacement or surgical aortic valve replacement for high surgical risk patients with aortic stenosis (PARTNER 1): a randomised controlled trial. Lancet 2015; 385: 2477-84.17. Kapadia SR, Leon MB, Makkar RR,et al. 5-year outcomes of transcatheter aortic valve replacement compared with standard treatment for patients with inoperable aortic stenosis (PARTNER 1): a randomised controlled trial. Lancet 2015; 385: 2485-91.18. Reynolds MR, Magnuson EA, Lei Y, et al. Health-related quality of life after transcatheter aortic valve replacement in inoperable patients with severe aortic stenosis. Circulation 2011; 124: 1964-72.19. Kodali S, Thourani VH, White J, et al. Early clinical and echocardiographic outcomes after SAPIEN 3 transcatheter aortic valve replacement in inoperable, high-risk and intermediate-risk patients with aortic stenosis. Eur Heart J 2016; 37:2252-62.20. Herrmann HC, Thourani VH, Kodali SK, et al. One-Year Clinical Outcomes With SAPIEN 3 Transcatheter Aortic Valve Replacement in High-Risk and Inoperable Patients With Severe Aortic Stenosis. Circulation 2016; 134: 130-40.21. Yamamoto M, Watanabe Y, Tada N,et al. Transcatheter aortic valve replacement outcomes in Japan: Optimized CathEter vAlvular iNtervention (OCEAN) Japanese multicenter registry. Cardiovasc Revasc Med 2018. pii: S1553-8389 30569-4.
主なコンテンツ
林田 健太郎先生 / 慶應義塾大学医学部 循環器内科【監修】
心臓弁膜症の代表的な疾患の一つである大動脈弁狭窄症(AS)は、高齢化の進む日本では増加する一方、多くのAS患者さんは未治療のまま症状が進行している可能性があります。ASはいったん症状が出現すると予後が急速に悪化するため、早期発見と適切なタイミングでの治療が重要になります。近年、ASの治療法は増え、患者さんの治療の選択肢は広がっています。TAVIは開胸手術が困難な患者さんを対象として、2002年に誕生した低侵襲な治療法です。現在までに蓄積された経験や、さらなるデバイスの改良により、近年では開胸手術と同等、もしくはそれを凌ぐ臨床成績をおさめることができるようになりました。そのため、ASに対する標準治療の一つとして確立されつつあります。本パンフレットは、未診断・未治療のAS患者さんを一人でも多く減らせるように、ASの現状について最新の知見を深めて頂くとともに、患者さんの最適な治療選択をお手伝いする目的で作成されております。先生方の日常臨床の一助となりましたら幸いです。
edwards.com/jp東京都新宿区西新宿6丁目10番1号 Tel.03-6894-0500本社:
©
Edwards, エドワーズ, Edwards Lifesciences, エドワーズライフサイエンス, 定型化されたEロゴ, Edwards Commander, エドワーズ コマンダー, Edwards SAPIEN, Edwards SAPIEN 3, Edwards SAPIEN XT, PARTNER, PARTNERⅡ, SAPIEN XT, サピエンXT, SAPIEN, SAPIEN 3 およびサピエン 3 はEdwards Lifesciences Corporationの商標です。その他の商標はそれぞれの商標権者に帰属します。
販売名/承認番号 エドワーズ サピエン3/22800BZX00094000
2019 Edwards Lifesciences Corporation. All rights reserved. EW2019060 1906_2_15000
1 2
経胸壁心エコー(TTE)
胸部X線
心電図
心臓カテーテル
聴 診
診 断
【ASとは?】
心臓弁膜症の代表的な疾患である大動脈弁狭窄症(Aortic Stenosis)は、特に、高齢化の進む先進国において広がりを見せています。ASの罹患率は60~ 74歳で2.8%、75歳以上で13.1%と報告されており1、同一の研究報告から、本邦における60歳以上のAS患者は約284万人、そのうち手術を要する重症の患者は約56万人と推計されています。
AS患者の年間手術件数は、2015年単年でおよそ1.2万件程度と2、多くのAS患者が未治療の可能性があるといえます。ASは、特に高齢化の進む先進国で患者数が増加しています。世界に先駆けて急速に高齢化が進む本邦においても、AS治療は重要な課題となっています。
大動脈弁狭窄症(AS)の潜在患者数と治療の現状 ASの診断方法
ASは高齢化とともに増加傾向にあるが、治療が必要なAS患者の多くが治療を受けられていない可能性がある
ASは徐々に進行するため症状を自覚しにくく、症状が現れても加齢のためと捉える患者さんが少なくありません8。そのため、症状の有無については家族や介護者への確認も必要になります。
聴診はASの発見に有効で、確定診断は心エコー図検査が重要
【代表的な症状】
動悸、息切れ、疲れやすい、めまいなど
胸の痛みを感じたことや、気を失ったことがある
以前より活動範囲が狭くなっている
1 2 3
!
弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版)【ASの重症度評価 項目と基準 7】
【心音の聴診部位】
【ASの潜在患者数(無症候性+症候性)】
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
(件)
2012年 2013年 2014年 2015年
12,50813,239 14,137
12,184
2014年以降は経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)を含む
Reprinted from Journal of the American College of Cardiology, 48(3), Robert O. Bonow, et al, ACC/AHA 2006 Guidelines for the Management of Patients With Valvular Heart Disease, e1-148., Copyright (2006), with permission from American College of Cardiology Foundation and the American Heart Association, Inc.
2.8% 13.1%
60~74歳でASと診断される ASと診断される人の割合(%)
75歳以上で
人の割合(%)
推定284万人重症AS患者は
推定56万人(19.7%)
その中で
頸動脈領域収縮期駆出性雑音が聴診できる領域です。左右の頸動脈に聴診器を当ててください。
大動脈領域 (第2肋間胸骨右縁)
大動脈弁および大動脈の音が最も強く聴診される領域です。
連続波ドプラによる大動脈弁通過最高血流速度(Jet velocity)
軽 度 < 3.0 m/s 中等度 3.0~ 4.0 m/s 高 度 ≧ 4.0 m/s
弁口面積(Valve area)
軽 度 > 1.5 cm2 中等度 1.0~ 1.5 cm2 高 度 ≦ 1.0 cm2
弁口面積係数(Valve area index)
高 度 < 0.6 cm2/m2
簡易ベルヌーイ式による収縮期平均圧較差(Mean gradient)
軽 度 < 25 mmHg 中等度 25~ 40 mmHg 高 度 ≧ 40 mmHg
図 1 本邦におけるASの年間手術件数の推移2-6
2016年
14,620
3 4
ASの治療は外科的大動脈弁置換術(SAVR)が標準治療とされていますが、本邦では2013年に経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)が導入され、治療選択肢が広がりました。
ASの治療方法
ASの治療方法が増え、患者さんの選択肢は広がっている
■ TAVIの主なアプローチ法
TAVI(経カテーテル大動脈弁治療)
SAVR(外科的大動脈弁置換術)
保存的治療
ハートチーム*で検討
TFTRANSFEMORAL
1 2 3 4
TA
TAoTRANSAORTIC
TRANSAPICAL
経大動脈アプローチけいだいどうみゃく
経心尖アプローチけいしんせん
経大腿アプローチけいだいたい
胸骨上部を小さく切開し、上行大動脈からカテーテルを挿入します。
肋間を小さく切開し、そこからカテーテルを挿入します。
鉛筆ほどの太さに折りたたまれた生体弁を装着したカテーテルを、数ミリの小さな穴から太ももの付け根にある大腿動脈に入れて、心臓まで運びます。
生体弁が大動脈弁の位置に到達したらバルーンを拡張し、生体弁を広げ、留置します。
生体弁を留置した後は、カテーテルを抜き取ります。
生体弁は留置された直後から、患者さんの新たな弁として機能します。
太ももの付け根の血管からカテーテルを挿入します。
エドワーズ コマンダーデリバリーシステム
※ASに対する治療方針は個々の患者さんの容態 または施設によって異なります。
軽症の場合は、薬で症状を緩和したり、経過観察を行います。
*ハートチームとは、循環器内科医、心臓血管外科医、麻酔科医、心エコー医、放射線科医、リハビリ科医、コメディカルなど多専門職種からなる医療チームです。患者さんの状態を考慮し、最適な治療を選択します。
長期成績も担保されており、標準治療として確立されています。
TAVIに使用される主な製品
ハートチームでの検討項目
■ 比較的若年■ TAVI不適 ● 左室流出路に伸びる石灰化 ● 低い冠動脈入口部■ 併存疾患 ● 僧帽弁逆流/僧帽弁狭窄 ● CABGが必要なCAD(冠動脈疾患) ● 透析患者 など
■ 比較的高齢 ■ 開胸手術が困難 ● COPD(慢性閉塞性肺疾患)、IP(間質性肺炎) ● 開胸手術の既往 (CABG:冠動脈バイパス手術、弁置換術など) ● 狭小弁輪 ● 胸壁変形 ● Porcelain Aorta(全周性の大動脈石灰化) ● フレイル エドワーズ
サピエン3生体弁
SAVRTAVI
重症ASに対する治療法で、開胸することなく、また心臓も止めることなく、カテーテルを使って人工弁を患者さんの心臓に留置します。傷口が小さく、人工心肺を使用しなくて済むことから低侵襲であり、患者さんへの負担が少なく、入院期間も短いのが特徴です。高齢であったり、体力が低下していたり、他の疾患を持つ患者さんなどが対象となる治療法です。
海外の報告9-11 によるとTAVI生体弁の耐久性は10年以上は確立されていないため、今後、さらなるデータ蓄積が期待されます。
5 6
2018年3月、急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)が発行され、新たに、心不全を進展度によってステージAからDの4段階に分類し、各ステージにおける治療目標を設けています13。弁膜症の代表的疾患であるASは、無症状でも「ステージB(器質的心疾患のあるリスクステージ)」に相当し、心不全のリスクファクターとなるため、早期発見が重要です。
ASの早期発見・治療の重要性
ASは無症状でも心不全のリスクファクターであるため、早期発見が重要
ASは、症状が出現した段階で「ステージC(心不全症状のあるリスクステージ)」となり、いったん症状が出現すると予後が急速に悪化するため14、適切なタイミングでの治療が重要です。そこで、症候性の重症 AS患者において、治療の施行を拒否したことによる治療時期の遅れが、予後に及ぼす影響について検討した研究を紹介します。
ASは症状が出現すると急速に予後が悪化するため、適切なタイミングでの治療が重要
2013年10月から2016年7月までにTAVIを施行され本邦におけるOCEAN-TAVI registryに登録された重症AS患者1,542例を、TAVI拒否群28例(うち、サピエンXT /サピエン3使用25例)、TAVI非拒否群1,514例(うち、サピエンXT/サピエン3使用1,376例)に分け、患者背景、周術期の患者転帰、死亡率について比較検討した臨床成績です。
OCEAN-TAVI registry TAVI治療の施行を1回以上拒否した患者における予後の検討
治療適応があるにも関わらずTAVI治療の施行を少なくとも1回以上拒否した患者では、中期的な予後が
悪化する可能性が示唆され15、適切なタイミングで治療を開始する必要があります。ASは無症状でも『ステージB』に相当するため、早期発見が心不全の発症予防につながります。
■
TAVIによる治療を1度でも拒否したことのある患者(拒否群)では、非拒否群に比べて30日死亡率および1年死亡率が有意に高い結果でした。
0.00
0.25
0.50
028
1514
3026
1494
7.1%1.3%
No. at Risk拒否群非拒否群
累積死亡率( %)拒否群非拒否群
18017
1021
36013
665
23.7%5.5%
28.8%10.3%
拒否群非拒否群
Log-rank p=0.010
観察期間(日)
図 2 心不全とそのリスクの進展ステージ 12
図 3 TAVIの施行拒否の有無別にみた全死亡率 15
心不全リスク状態 症候性心不全
【器質的心疾患への進展】【心不全症状の発現】【心不全治療難治化】
能機体身
AHA/ACCStage分類 1
主な治療目標● 心臓に良い生活習慣● 器質的心疾患の予防
主な治療目標● 心不全症状の予防● 器質的心疾患の進行抑制
主な治療目標● 症状コントロール、QOL改善● 入院・死亡回避● 急性増悪時の治療
主な治療目標● 症状コントロール、QOL改善● 再入院回数の減少● 人生の最終段階のケア●(適応があれば心臓移植、 補助人工心臓を考慮)
Stage A
● 危険因子あり● 器質的心疾患なし● 心不全症状なし
● 器質的心疾患あり● 心不全症状なし
● 器質的心疾患あり● 心不全症状あり (既往も含む)
● 難治性心不全
Stage B Stage C Stage D
心不全発症 心不全の難治化
時間経過
慢性心不全の増悪による入院治療
(突然死)
高血圧動脈硬化性疾患糖尿病 等
1 2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure Circulation. 2013 ;128:e240-327.
Patients Refusing Transcatheter Aortic Valve Replacement Even Once Have Poorer Clinical Outcomes, Shimura T, Yamamoto M, Kano S, et al. Copyright © 2018 the American Heart Association Reproduced with permission of John Wiley & Sons, Inc.
厚生労働省:脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方について(平成29年7月 脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会)
虚血性心疾患左室リモデリング(左室肥大・駆出率低下)無症候性弁膜症 等
慢性心不全
■ 結果:全死亡率 15
累積死亡率
7 8
PARTNER Trial
海外の治療成績
重症AS患者を対象に、TAVIの有用性を検証するために行われたランダム化比較試験です。コホートAは手術のリスクが高いと判断されたハイリスク群において、経大腿アプローチ(TF)群(244例)および、経心尖アプローチ(TA)群(104例)を併合したTAVI群(348例)とSAVR群(351例)を比較しました。コホートBは、手術が不可能と判断された手術不適応群においてTF群(179例)と従来の標準治療群(179例)を比較しました。
PARTNER Ⅱ Trial S3 Cohort
TAVIにおいて従来のデバイスによる蓄積された種々の知見をもとに、さらなる改良を重ねた次世代デバイスであるS3 Cohortの当該製品の有用性を検証するために行われた臨床試験です。重症AS患者を対象に、手術ハイリスク群/手術不可能群と手術中等度リスク群の二つの群で構成された非無作為化ヒストリカルコントロール比較試験です。ここでは手術ハイリスク群/手術不可能群の経大腿アプローチ(TF)(491例)の成績を紹介します。
両コホートにおいて5年後の結果が報告されています。AS治療のスタンダードであるSAVRと比較したコホートAにおける全死亡率は、SAVR群62.4%に対してTAVI群67.8%と同程度の結果となりました。また、手術不可能であり根本的治療が行えない場合に選択される標準治療と比較したコホートBにおいては、5年後の全死亡率が標準治療群93.6%に対してTAVI群71.8%と有意に低い結果となりました。
質問票により患者さんの健康状態(身体活動制限、症状、QOL、社会的制限など)を評価した結果、標準治療群に比べ30日、6か月、1年時における総合的な生活の質の改善が見られました。従来、根本的な治療の選択肢がなかった手術不適応の重症AS患者さんにおいて、生命予後の改善とQOLの向上が示されました。
0
80
60
40
20
02186421
100
10
92(126) 70 (91)
TAVI 170 147(167) 121(138) 110 (124)
157 134(174)標準治療Number available (eligible)
観察期間(月)
KCCQスコア
標準治療TAVI
図 4 TAVIおよびSAVRにおける5年後の全死亡率(コホートA)16 図 5 TAVIおよび標準治療における5年後の全死亡率(コホートB)17
図 6 KCCQ*スコアによるQOLの評価(コホートB)18
手術ハイリスク群/手術不可能群のTF患者(491例)における全死亡率は、30日後1.6%、1年後12.3%でした。
中等度以上の弁周囲逆流発現率は30日後2.5%で、1年後も同様でした。
80
60
40
20
0
100
30日後(n=364) 1年後(n=364)
■ 中等度■ 軽度■ なし
図 7 手術ハイリスク/手術不可能群のTF患者における30日後および1年後の全死亡率 19,20
図 8 手術ハイリスク/手術不可能患者における30日後および1年後の弁周囲逆流発現率 20
p(McNemar test)=0.99
80
60
40
20
0
100
30日後(n=491) 1年後(n=301)Kaplan-Meier法
80
60
40
20
00 12 24 36 48 60 0 12 24 36 48 60
100
210 174 131 64
TAVI 348 262 228 191 61154
351 236SAVRNumber at risk
観察期間(月)
全死亡率(%)
全死亡率(%)
HR[95%CI] =1.04[0.86,1.24]p(log rank)= 0.76
67.8%
62.4%
SAVRTAVI 80
60
40
20
0
100
46 19 11 3
TAVI 179 124 101 81 3563
179 85標準治療Number at risk
観察期間(月)
*In an age and gender matched US population without comorbidities, the mortality at 5 years is 40.5%.
HR[95%CI] =0.50[0.39, 0.65]p(log rank) < 0.0001
71.8%
93.6%標準治療TAVI
■ 結果:全死亡率 16,17
■ 結果:Quality of Life(QOL)18
患者割合(%)
■ 結果:TF患者の全死亡率 19,20
■ 結果:弁周囲逆流発現率 20
33.2%
64.3%
2.5%
29.1%
68.1%
2.7%
全死亡率(%)
12.3%1.6%
*カンザスシティ心筋症質問票。23項目からなる有効性の確認された自己記入式で、身体活動制限、症状、自己効力感、社会的接点および生活の質を定量化するもの。
9 10
2013年10月から2016年7月までにTAVIを施行され、14施設からなるOCEAN-TAVI registryに登録された1,613例を対象に日本でのReal WorldにおけるTAVI1年後の全死亡率、TF群/非TF群別の死亡率などTAVI
の臨床成績を紹介します。
OCEAN-TAVI registry 国内におけるTAVIのReal Worldデータ
国内の治療成績
急性冠動脈閉塞脳卒中(後遺症を伴う)急性腎機能障害大血管合併症微小血管合併症生命を脅かす重篤な出血大出血微量出血心タンポナーデ2弁留置大動脈弁輪破裂外科手術移行ペースメーカー植込み(n=1,498) バルーン拡張型生体弁(n=1,366) 自己拡張型生体弁(n=132)術後AR・noneもしくはtrivial ・mild ・moderate ・severe
1327
150898494
222189
26211620
1289731
1,028548
161
(0.8)(1.7)(9.3)(5.5)(5.2)(5.8)(13.8)(11.7)(1.6)(1.3)(1.0)(1.2)(8.5)(7.1)(23.5)(64.5)(34.4)(1.0)(0.1)
術後合併症 症例数(%)
合併症の発現率は、大血管合併症5.5%、ペースメーカー植込み8.5%でした。また、急性冠動脈閉塞および大動脈弁輪破裂の発現率はそれぞれ0.8%、1.0%と諸外国での研究と同等でした。
表 1 TAVI後合併症 21
TF群と非TF群で分けた場合の死亡率は、TF群9.2%、非TF群19.4%と、TF群で有意に低い結果でした。
AR:大動脈弁閉鎖不全症
Optimized Catheter valvular intervention(OCEAN) TAVI registryとは
年間TAVI症例数が概ね50症例以上の経験豊富なhigh volume center23施設(2019年3月現在)から構成され、日本全体の3~ 4割の症例数を占めるレジストリー。2013年に創設された、TAVI、カテーテル治療の多施設レジストリー研究グループ『OCEAN-SHD研究会』により構築され、SHD(structural heart disease、心構造疾患)のカテーテル治療の分野において、詳細な検討を行い、日本から新たなエビデンスを発信し、世界の医療の発展に寄与することを目的としている。図 10 Kaplan-Meier法によるTF群/非TF群別の死亡率 21
全死亡率は、30日で1.7%、1年後で11.3%でした。また、心血管死亡率は、30日で1.4%、1年後で4.5%でした。
図 9 Kaplan-Meier法による全死亡率 21
■ 結果:TAVI後の合併症の発現率 21
■ 結果:TF群/非TF群別の死亡率 21
1283330
1262322
1.6%2.4%
No. at RiskTF群非TF群死亡率( %)TF群非TF群
871211
560196
0 30 180 360
4.8%11.9%
9.2%19.4%
観察期間(日)
0
20
40
TF群非TF群
Log-rank p<0.001死亡率(%)
■ 結果:全死亡率 21
161316131613
158415841584
1.7%1.4%0.3%
No. at Risk全死因心血管非心血管累積死亡率( %)全死因心血管非心血管
108210821082
705705705
0 30 180 360
6.3%2.9%3.5%
11.3%4.5%7.2%
観察期間(日)
0
10
20
全死因死亡
非心血管死亡心血管死亡
Log-rank p<0.001累積死亡率(%)