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SPJP.MENAC.18.09.01782018年10月作成
特 集01
●鹿児島県大島郡大和村 ●宮崎県児湯郡西米良村
重篤な侵襲性髄膜炎菌感染症、特に寮がある学校では予防が重要
村の子どもたちを守れ!それぞれの立場でできること
特 集02
1 2
私はIMDの患者さんを診療した経験はありませんでしたが、
4価髄膜炎菌ワクチンが発売されたことで、改めてIMDという疾患を意識しました。 私が校医をしている学校では寮生活を送っている生徒がいますが、IMDは寮生活で感染リスクが高くなります。髄膜炎菌の主な感染経路は飛沫感染やペットボトルの回し飲みなどです。そのため、寮生活ではIMDの集団感染が起きやすく、何らかの対応をするべきと考えていました。4価髄膜炎菌ワクチンが発売されたことから、IMDの疾患の概要とワクチンについて学校の養護教諭や寮の看護師にお話ししました。さらに、2017年に日本小児科学会が、学校の寮などで集団生活を送る者に対する4価髄膜炎菌ワクチンの接種を勧奨したことについても学校に伝えました。その結果、2018年4月の新入生の保護者に対して、IMDという疾患があること、集団生活の場で感染リスクが高くなること1)、ワクチンで予防できることを説明する文書を送ることになりました。この文書を見た新入生のうち、何名かはすでに4価髄膜炎菌ワクチンを接種したと聞いています。
日本ではIMDの発症頻度は稀ですが、一度集団感染が起きると大変です。まして入寮する新入生は自宅通学の生徒と違って、慣れない寮生活で苦労しています。健康管理も自分でしなくてはなりませんし、生活環境の変化により強いストレスがかかり、より感染症にかかりやすくなっているとも考えられます。寮で病気になると勉強や部活動ができなくなるだけでなく、自宅に帰るよう求められることもあります。保護者の方も、寮生活を送る子どもの健康管理については、常々心配されていること
でしょう。IMDはワクチンで予防できる疾患ですので、4価髄膜炎菌ワクチンを接種して予防することがよいと思います。 IMDの予防という点だけを考えれば、本来は新入生全員に4価髄膜炎菌ワクチンを接種してもらうことが理想です。しかし、接種費用の問題もあり、全員に接種してもらうことは現実的ではありません。一方で、医療従事者でもIMDという疾患を十分に理解していない状況があり、医療従事者ではない保護者が知らなくても無理はありません。中学生や高校生になって季節性インフルエンザワクチン以外に接種が必要なワクチンがあるという認識はないと思われます。我われは少なくとも、IMDという病気があること、予防法としてワクチン接種があることを保護者の方々にお知らせし、希望者には接種してもらうための判断材料を提供するべきと考えます。
日本でも宮崎県の高等学校の寮3)や神奈川県の全寮制学校で死亡例を含むIMDの集団感染が起き、健康に問題のなかった10代の子どもが命を失っていますし2)、山口県で開催された第23回世界スカウトジャンボリーでは海外からの参加者4名が帰国途中や帰国後にIMDを発症しています4)。 IMDが発症してから対策を講じるのでは手遅れです。校医の中でも特に、寮生活を送っている生徒がいる学校の校医にとって、養護教諭や保護者にIMDがワクチンで予防できる疾患であるという情報を提供することでIMD予防に努めることが重要と考えます。
私の母校は医師を多く輩出している学校で、私はその学校で校医をしています。同級生には小児科医もおり、その先生からIMDについての基本的な情報を提供してもらいました。私はそれまでIMDのことをあまり詳しく知りませんでしたが、情報提供を受けてIMDが重篤な疾患であることを改めて痛感しました。日本での発症頻度が高くないとは言っても、もし母校で発症した場合は、非常に大きな問題となると感じました。 IMDは4価髄膜炎菌ワクチンで予防できる疾患ですので、なるべく多くの人にワクチンを接種してもらうことが理想ですが、任意接種ですから接種率を向上させるのは簡単ではありません。しかし、予防できる疾患で生徒に不幸があったら取り返しがつかず、また発症後の感染対策など大きな問題になると想定されるため、校医としては何らかの対応を行わなければと考えました。 医療従事者である私もIMDに関する知識に乏しかったくらいですから、学校関係者や保護者はIMDという疾患の存在すら知らないでしょう。たとえ学校内にポスターを貼ったとしても、生徒は関心を持たないはずです。そこで、予防のためには、まず保護者に対し情報提供をするべきと考えました。さっそく養護教諭に働きかけましたが、学校側も忙しい時期だったこともあり、なかなか話が進みませんでした。しかし、粘り強く働きかけを続け、学校長にも会う度に情報提供のお願いをしました。そうした活動が実を結び、2018年3月には、寮生の保護者全員にIMDの概要とワクチンについて記した文書を届けることになったのです。また、ホームページの寮生・保護者への案内にも掲載していただきました。
IMDの概要とワクチンについて記した文書は、養護教論と検討して作成しました。保護者宛てですから、難しいことを書いても読んでもらえません。IMDは短時間で急激に重症化する可能性があり、重症になると生命に関わること、4価髄膜炎菌ワクチンの接種により予防できること、学生寮などに入寮する場合は4週間前までの接種が望ましいことを伝えるべく要点を絞りました。 また、近年は海外に留学する生徒が増えていることも考慮し、海外ではIMDの発症頻度が高く4価髄膜炎菌ワクチンが定期接種の対象になっている国があること、留学する国や地域によっては4価髄膜炎菌ワクチンの接種が求められる場合が多くなっていることも記しました。作成した文書では、このような内容をわかりやすく伝えられるように、簡潔に1枚にまとめています。
今後も、少なくとも学生寮に入寮を予定している生徒の保護者には同様の文書を送ることになると思います。IMDは発症頻度が低いこともあり、医療従事者での認知度も低い疾患ですが、死亡例や後遺症が残る生徒が出ることは避けなくてはなりません。助からない疾患も多くあるなか、IMDは重篤ながら予防できる疾患なのです。保菌者はどこにでも存在する可能性がありますし、慣れない集団生活では免疫力の低下で感染症によりかかりやすくなることも考えられます。安心して学校生活を送るためにも、入寮する生徒の保護者にはぜひかかりつけの先生に4価髄膜炎菌ワクチンの接種について相談してほしいと思います。また、我われ医師をはじめとする医療従事者は、IMDという疾患や4価髄膜炎菌ワクチンについて適切な情報提供とワクチン接種の勧奨をしていくことが重要と考えます。
襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は、急激に症状が悪化し、重症になると死亡したり、重篤な後遺症が残ったりすることがありますが、発症初期は風邪に似た症状で診断が難しい疾患です。IMDは咳やくしゃみで感染し、寮などの集団
生活時には感染リスクが高くなります1)。2017年夏にも、寮で生活している10代男性がIMDによって死亡しました2)。日本小児科学会は、IMDが4価髄膜炎菌ワクチンの接種で予防できることから、集団生活を送る者に対し4価髄膜炎菌ワクチンの接種を勧奨しています※。そこで今回は、愛媛県内の学生寮のある学校で、IMDの予防や4価髄膜炎菌ワクチンについての情報提供に取り組まれている3名の先生方にお話を伺いました。
松山第一病院 院長 松原 泰久 先生
寮のある学校では、死に至ることもあるIMDを予防しなければならない
矢野内科 院長 矢野 誠 先生
IMDとワクチンによる予防の必要性を情報提供することが重要
1)国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)39(1):1-2, 2018(2018年9月26日アクセス:https://www.niid.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-iasrtpc/7784-455t.html)
2)横須賀市 侵襲性髄膜炎菌感染症の発生について(2018年7月24日アクセス:https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/3130/nagekomi/20180801.html)
3)国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)32(10):298-299, 2011(2018年7月24日アクセス:https://idsc.niid.go.jp/iasr/32/380/kj3802.html)
4)国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)36(9):178-179, 2015(2018年7月24日アクセス:https://www.niid.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-jasrs/5878-pr4272.html)
侵
寮生活ではIMDのリスクが高まる 頻度は低くても重篤な疾患であるIMDの予防は重要
IMDの概要とワクチン接種の必要性をわかりやすい内容で1枚に
IMDについてまず知ってもらうことが大切
寮のある教育施設ではぜひIMD予防対策を
学生寮での生活を予定している生徒はぜひワクチンの接種を
重篤な侵襲性髄膜炎菌感染症、特に寮がある学校では予防が重要
しん しゅう せい ずい まく えん きん かん せん しょう
愛媛県
※4価髄膜炎菌ワクチンの効能・効果は、血清型A、C、YおよびW-135によるIMDの予防です。
1 2
私はIMDの患者さんを診療した経験はありませんでしたが、
4価髄膜炎菌ワクチンが発売されたことで、改めてIMDという疾患を意識しました。 私が校医をしている学校では寮生活を送っている生徒がいますが、IMDは寮生活で感染リスクが高くなります。髄膜炎菌の主な感染経路は飛沫感染やペットボトルの回し飲みなどです。そのため、寮生活ではIMDの集団感染が起きやすく、何らかの対応をするべきと考えていました。4価髄膜炎菌ワクチンが発売されたことから、IMDの疾患の概要とワクチンについて学校の養護教諭や寮の看護師にお話ししました。さらに、2017年に日本小児科学会が、学校の寮などで集団生活を送る者に対する4価髄膜炎菌ワクチンの接種を勧奨したことについても学校に伝えました。その結果、2018年4月の新入生の保護者に対して、IMDという疾患があること、集団生活の場で感染リスクが高くなること1)、ワクチンで予防できることを説明する文書を送ることになりました。この文書を見た新入生のうち、何名かはすでに4価髄膜炎菌ワクチンを接種したと聞いています。
日本ではIMDの発症頻度は稀ですが、一度集団感染が起きると大変です。まして入寮する新入生は自宅通学の生徒と違って、慣れない寮生活で苦労しています。健康管理も自分でしなくてはなりませんし、生活環境の変化により強いストレスがかかり、より感染症にかかりやすくなっているとも考えられます。寮で病気になると勉強や部活動ができなくなるだけでなく、自宅に帰るよう求められることもあります。保護者の方も、寮生活を送る子どもの健康管理については、常々心配されていること
でしょう。IMDはワクチンで予防できる疾患ですので、4価髄膜炎菌ワクチンを接種して予防することがよいと思います。 IMDの予防という点だけを考えれば、本来は新入生全員に4価髄膜炎菌ワクチンを接種してもらうことが理想です。しかし、接種費用の問題もあり、全員に接種してもらうことは現実的ではありません。一方で、医療従事者でもIMDという疾患を十分に理解していない状況があり、医療従事者ではない保護者が知らなくても無理はありません。中学生や高校生になって季節性インフルエンザワクチン以外に接種が必要なワクチンがあるという認識はないと思われます。我われは少なくとも、IMDという病気があること、予防法としてワクチン接種があることを保護者の方々にお知らせし、希望者には接種してもらうための判断材料を提供するべきと考えます。
日本でも宮崎県の高等学校の寮3)や神奈川県の全寮制学校で死亡例を含むIMDの集団感染が起き、健康に問題のなかった10代の子どもが命を失っていますし2)、山口県で開催された第23回世界スカウトジャンボリーでは海外からの参加者4名が帰国途中や帰国後にIMDを発症しています4)。 IMDが発症してから対策を講じるのでは手遅れです。校医の中でも特に、寮生活を送っている生徒がいる学校の校医にとって、養護教諭や保護者にIMDがワクチンで予防できる疾患であるという情報を提供することでIMD予防に努めることが重要と考えます。
私の母校は医師を多く輩出している学校で、私はその学校で校医をしています。同級生には小児科医もおり、その先生からIMDについての基本的な情報を提供してもらいました。私はそれまでIMDのことをあまり詳しく知りませんでしたが、情報提供を受けてIMDが重篤な疾患であることを改めて痛感しました。日本での発症頻度が高くないとは言っても、もし母校で発症した場合は、非常に大きな問題となると感じました。 IMDは4価髄膜炎菌ワクチンで予防できる疾患ですので、なるべく多くの人にワクチンを接種してもらうことが理想ですが、任意接種ですから接種率を向上させるのは簡単ではありません。しかし、予防できる疾患で生徒に不幸があったら取り返しがつかず、また発症後の感染対策など大きな問題になると想定されるため、校医としては何らかの対応を行わなければと考えました。 医療従事者である私もIMDに関する知識に乏しかったくらいですから、学校関係者や保護者はIMDという疾患の存在すら知らないでしょう。たとえ学校内にポスターを貼ったとしても、生徒は関心を持たないはずです。そこで、予防のためには、まず保護者に対し情報提供をするべきと考えました。さっそく養護教諭に働きかけましたが、学校側も忙しい時期だったこともあり、なかなか話が進みませんでした。しかし、粘り強く働きかけを続け、学校長にも会う度に情報提供のお願いをしました。そうした活動が実を結び、2018年3月には、寮生の保護者全員にIMDの概要とワクチンについて記した文書を届けることになったのです。また、ホームページの寮生・保護者への案内にも掲載していただきました。
IMDの概要とワクチンについて記した文書は、養護教論と検討して作成しました。保護者宛てですから、難しいことを書いても読んでもらえません。IMDは短時間で急激に重症化する可能性があり、重症になると生命に関わること、4価髄膜炎菌ワクチンの接種により予防できること、学生寮などに入寮する場合は4週間前までの接種が望ましいことを伝えるべく要点を絞りました。 また、近年は海外に留学する生徒が増えていることも考慮し、海外ではIMDの発症頻度が高く4価髄膜炎菌ワクチンが定期接種の対象になっている国があること、留学する国や地域によっては4価髄膜炎菌ワクチンの接種が求められる場合が多くなっていることも記しました。作成した文書では、このような内容をわかりやすく伝えられるように、簡潔に1枚にまとめています。
今後も、少なくとも学生寮に入寮を予定している生徒の保護者には同様の文書を送ることになると思います。IMDは発症頻度が低いこともあり、医療従事者での認知度も低い疾患ですが、死亡例や後遺症が残る生徒が出ることは避けなくてはなりません。助からない疾患も多くあるなか、IMDは重篤ながら予防できる疾患なのです。保菌者はどこにでも存在する可能性がありますし、慣れない集団生活では免疫力の低下で感染症によりかかりやすくなることも考えられます。安心して学校生活を送るためにも、入寮する生徒の保護者にはぜひかかりつけの先生に4価髄膜炎菌ワクチンの接種について相談してほしいと思います。また、我われ医師をはじめとする医療従事者は、IMDという疾患や4価髄膜炎菌ワクチンについて適切な情報提供とワクチン接種の勧奨をしていくことが重要と考えます。
襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は、急激に症状が悪化し、重症になると死亡したり、重篤な後遺症が残ったりすることがありますが、発症初期は風邪に似た症状で診断が難しい疾患です。IMDは咳やくしゃみで感染し、寮などの集団
生活時には感染リスクが高くなります1)。2017年夏にも、寮で生活している10代男性がIMDによって死亡しました2)。日本小児科学会は、IMDが4価髄膜炎菌ワクチンの接種で予防できることから、集団生活を送る者に対し4価髄膜炎菌ワクチンの接種を勧奨しています※。そこで今回は、愛媛県内の学生寮のある学校で、IMDの予防や4価髄膜炎菌ワクチンについての情報提供に取り組まれている3名の先生方にお話を伺いました。
松山第一病院 院長 松原 泰久 先生
寮のある学校では、死に至ることもあるIMDを予防しなければならない
矢野内科 院長 矢野 誠 先生
IMDとワクチンによる予防の必要性を情報提供することが重要
1)国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)39(1):1-2, 2018(2018年9月26日アクセス:https://www.niid.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-iasrtpc/7784-455t.html)
2)横須賀市 侵襲性髄膜炎菌感染症の発生について(2018年7月24日アクセス:https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/3130/nagekomi/20180801.html)
3)国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)32(10):298-299, 2011(2018年7月24日アクセス:https://idsc.niid.go.jp/iasr/32/380/kj3802.html)
4)国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)36(9):178-179, 2015(2018年7月24日アクセス:https://www.niid.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-jasrs/5878-pr4272.html)
侵
寮生活ではIMDのリスクが高まる 頻度は低くても重篤な疾患であるIMDの予防は重要
IMDの概要とワクチン接種の必要性をわかりやすい内容で1枚に
IMDについてまず知ってもらうことが大切
寮のある教育施設ではぜひIMD予防対策を
学生寮での生活を予定している生徒はぜひワクチンの接種を
重篤な侵襲性髄膜炎菌感染症、特に寮がある学校では予防が重要
しん しゅう せい ずい まく えん きん かん せん しょう
愛媛県
※4価髄膜炎菌ワクチンの効能・効果は、血清型A、C、YおよびW-135によるIMDの予防です。
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侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は髄膜炎菌が原因で発症する感染症で、進行が早く(図1)、重症化すると後遺症が残ったり
(図2)、死に至ることもあります。日本人の髄膜炎菌の保菌率は0.8%とされており1)、主な感染経路は飛沫感染であることから、集団生活を送る環境では感染リスクが高くなります2)。しかし、日本ではIMDの発症頻度が低いこともあり、医療従事者でもIMDについての認識が十分とは言えません。重症例の予後が不良であることを考えると、発症頻度が低くても予防するべきと考えます。 IMDはワクチンによる予防が可能です。日本では、2015年5月から4価髄膜炎菌ワクチンの接種が可能になりましたが、任意接種であり認知が全くされていません。そこで当院では、母子手帳に貼って使う、ワクチン接種の種類や時期を記載した一覧表に4価髄膜炎菌ワクチンも追加し、日本脳炎ワクチンの追加接種やDT(2種混合)ワクチン接種の時期に4価髄膜炎菌ワクチンの接種についてもおすすめしています。ワクチンの費用は高いですが、命には代えられないと考えています。
日本でもIMDの集団感染は発生しています。2011年に宮崎県の高等学校の運動部寮で集団感染が起きて死亡例が出ている3)
ほか、2017年には神奈川県の全寮制学校でも集団感染が起き、死亡例が報告4)されています(表1)。このような寮での集団感染事例を受け、日本小児科学会は2017年9月に「任意接種ワクチンの小児への接種」を改訂し、4価髄膜炎菌ワクチンの推奨接種対象者に「学校の寮などで集団生活を送る者」を追加しました
(表2)。 私の母校にも寮があり、中学生や高校生が寮生活を送っています。高校生の時に寮生活を送っていた私自身がそうであったように、中学生や高校生は自分の健康を自分で守るという意識が強いとは言えません。寮には寮母がいて生徒を見守ってくれていますが、多くの生徒が入寮していますので、母親と全く同じようにひとりひとりの体調の変化には気づかないでしょう。さらに、中学生や高校生は、軽度の症状であれば我慢する傾向があります。IMDの初期症状である、発熱や頭痛、嘔吐は見過ごされてしまうかもしれません。母校でもIMDの集団感染が起きる可能性
があるため、卒業生としてこれを予防しなくてはならないと考えました。 母校は医師を多く輩出していて、校医を務めている卒業生もいます。そこで、私は卒業生のメーリングリストにIMDによる死亡者がいること、集団生活を送る者には、日本小児科学会としてワクチン接種を勧奨していることを情報提供しました。その結果、校医をしている卒業生の働きかけもあり、母校に入学する生徒とその保護者に向けて、学校側からIMDと4価髄膜炎菌ワクチンについてお知らせする文書を送付することになりました。IMDについて必要以上に怖がらせてはいけませんが、客観的データに基づきしっかりとした情報提供をすることは非常に重要です。
子どもの将来を奪わないためにも、4価髄膜炎菌ワクチンの接種を通してIMDから子どもを守ることはかかりつけ医の務めと
考えます。ワクチンを接種してもらうためには、情報をより幅広く提供する必要があります。「まさか…」という母親の涙を私はみたくありません。 多くの疾患を扱う内科では、IMDは身近な疾患ではないかもしれませんが、感染症はいつだれが発症するかわかりません。これから中学生になるお子さんをもつ保護者、高校や大学で寮など集団生活をしているお子さんには、かかりつけ医からIMDに関する情報を提供していくべきではないでしょうか。ただ、その年齢のお子さんたちはなかなか病院にくる機会がありませんので、校医をされている先生が学校検診や学校保健委員会への出席で学校に出向く機会に、養護の先生など学校関係者にIMDについて情報を提供することも必要であると考えています。
日本のIMD集団感染事例表1
重症なIMDの典型的な症状と発症時期
1)Takahashi H, et al. :J Infect Chemother 22(7):501-504, 20162)Immunization Action Coalition, Meningococcal:Questions and Answers
(2017年3月21日アクセス:http://www.immunize.org/catg.d/p4210.pdf)3)国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)32(10):298-299, 2011 (2018年7月24日アクセス:https://idsc.niid.go.jp/iasr/32/380/kj3802.html)4)横須賀市 侵襲性髄膜炎菌感染症の発生について(2018年7月24日アクセス:
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/3130/nagekomi/20180801.html)
1)国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)32(10):298-299, 2011(2018年7月24日アクセス:https://idsc.niid.go.jp/iasr/32/380/kj3802.html)2)国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)36(9):178-179, 2015(2018年7月24日アクセス:https://www.niid.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-jasrs/5878-pr4272.html)3)横須賀市 侵襲性髄膜炎菌感染症の発生について(2018年7月24日アクセス:https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/3130/nagekomi/20180801.html)
IMDの重症例は予後が悪く予防が重要
かかりつけ医からIMD予防に関して幅広く情報提供を
日本小児科学会では集団生活を送る者に4価髄膜炎菌ワクチン接種を勧奨
重篤な侵襲性髄膜炎菌感染症、特に寮がある学校では予防が重要
ふじえだファミリークリニック 院長 藤枝 俊之 先生
ワクチンで予防できる疾患は、ワクチン接種により積極的に予防することがかかりつけ医の務め
図1 IMDの後遺症図2
Thompson MJ, et al.:Lancet 367(9508): 397-403, 2006より作図 Rosenstein NE, et al.:N Engl J Med 344(18):1378-1388, 2001WHO:Weekly Epidemiol Rec 77(40):329-340, 2002
4価髄膜炎菌ワクチン推奨接種対象(日本小児科学会)表2発症後の時間
15~16歳の患者の場合
0~12時間
・発熱
・頭痛
・嘔吐
13~20時間 21時間~
・項部硬直
・光過敏症
・皮下出血
・意識障害
・けいれん発作
日本小児科学会 任意接種ワクチンの小児(15 歳未満)への接種(改訂版)より抜粋(2018年7月24日アクセス:http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20170924ninni.pdf)
ワクチン名 接種適応年齢 接種適応外の年齢 推奨接種対象者
①髄膜炎菌感染症流行地域へ渡航する 2歳以上の者
2歳未満
用法及び用量に関連する接種上の注意
「2歳未満の小児等に対する安全性及び有効性は確立していない」
2歳以上55歳以下
4価髄膜炎菌ワクチン
②9か月齢以上のハイリスク患者(補体欠損症・無脾症もしくは脾臓機能不全、HIV感染症)③9か月齢以上のソリリス治療患者
④学校の寮などで集団生活を送る者(発作性夜間ヘモグロビン尿症、非典型溶血性尿毒症症候群)
年 場所 概要
寮生と職員の5名がIMDと診断され、うち1名死亡。宮崎県にある高等学校の全寮制運動部寮1)2011年
海外からの参加者4名が帰国途中もしくは帰国後にIMD発症。
山口県で開催された第23回世界スカウトジャンボリー2)2015年
発症
後遺症
手足の切断
まひ
など
神経伝達の障害痙攣
耳が聞こえにくい
IMDを発症した学生1名が死亡。学生9名、職員1名が髄膜炎菌を保菌。
神奈川県の全寮制学校3)2017年
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侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は髄膜炎菌が原因で発症する感染症で、進行が早く(図1)、重症化すると後遺症が残ったり
(図2)、死に至ることもあります。日本人の髄膜炎菌の保菌率は0.8%とされており1)、主な感染経路は飛沫感染であることから、集団生活を送る環境では感染リスクが高くなります2)。しかし、日本ではIMDの発症頻度が低いこともあり、医療従事者でもIMDについての認識が十分とは言えません。重症例の予後が不良であることを考えると、発症頻度が低くても予防するべきと考えます。 IMDはワクチンによる予防が可能です。日本では、2015年5月から4価髄膜炎菌ワクチンの接種が可能になりましたが、任意接種であり認知が全くされていません。そこで当院では、母子手帳に貼って使う、ワクチン接種の種類や時期を記載した一覧表に4価髄膜炎菌ワクチンも追加し、日本脳炎ワクチンの追加接種やDT(2種混合)ワクチン接種の時期に4価髄膜炎菌ワクチンの接種についてもおすすめしています。ワクチンの費用は高いですが、命には代えられないと考えています。
日本でもIMDの集団感染は発生しています。2011年に宮崎県の高等学校の運動部寮で集団感染が起きて死亡例が出ている3)
ほか、2017年には神奈川県の全寮制学校でも集団感染が起き、死亡例が報告4)されています(表1)。このような寮での集団感染事例を受け、日本小児科学会は2017年9月に「任意接種ワクチンの小児への接種」を改訂し、4価髄膜炎菌ワクチンの推奨接種対象者に「学校の寮などで集団生活を送る者」を追加しました
(表2)。 私の母校にも寮があり、中学生や高校生が寮生活を送っています。高校生の時に寮生活を送っていた私自身がそうであったように、中学生や高校生は自分の健康を自分で守るという意識が強いとは言えません。寮には寮母がいて生徒を見守ってくれていますが、多くの生徒が入寮していますので、母親と全く同じようにひとりひとりの体調の変化には気づかないでしょう。さらに、中学生や高校生は、軽度の症状であれば我慢する傾向があります。IMDの初期症状である、発熱や頭痛、嘔吐は見過ごされてしまうかもしれません。母校でもIMDの集団感染が起きる可能性
があるため、卒業生としてこれを予防しなくてはならないと考えました。 母校は医師を多く輩出していて、校医を務めている卒業生もいます。そこで、私は卒業生のメーリングリストにIMDによる死亡者がいること、集団生活を送る者には、日本小児科学会としてワクチン接種を勧奨していることを情報提供しました。その結果、校医をしている卒業生の働きかけもあり、母校に入学する生徒とその保護者に向けて、学校側からIMDと4価髄膜炎菌ワクチンについてお知らせする文書を送付することになりました。IMDについて必要以上に怖がらせてはいけませんが、客観的データに基づきしっかりとした情報提供をすることは非常に重要です。
子どもの将来を奪わないためにも、4価髄膜炎菌ワクチンの接種を通してIMDから子どもを守ることはかかりつけ医の務めと
考えます。ワクチンを接種してもらうためには、情報をより幅広く提供する必要があります。「まさか…」という母親の涙を私はみたくありません。 多くの疾患を扱う内科では、IMDは身近な疾患ではないかもしれませんが、感染症はいつだれが発症するかわかりません。これから中学生になるお子さんをもつ保護者、高校や大学で寮など集団生活をしているお子さんには、かかりつけ医からIMDに関する情報を提供していくべきではないでしょうか。ただ、その年齢のお子さんたちはなかなか病院にくる機会がありませんので、校医をされている先生が学校検診や学校保健委員会への出席で学校に出向く機会に、養護の先生など学校関係者にIMDについて情報を提供することも必要であると考えています。
日本のIMD集団感染事例表1
重症なIMDの典型的な症状と発症時期
1)Takahashi H, et al. :J Infect Chemother 22(7):501-504, 20162)Immunization Action Coalition, Meningococcal:Questions and Answers
(2017年3月21日アクセス:http://www.immunize.org/catg.d/p4210.pdf)3)国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)32(10):298-299, 2011 (2018年7月24日アクセス:https://idsc.niid.go.jp/iasr/32/380/kj3802.html)4)横須賀市 侵襲性髄膜炎菌感染症の発生について(2018年7月24日アクセス:
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/3130/nagekomi/20180801.html)
1)国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)32(10):298-299, 2011(2018年7月24日アクセス:https://idsc.niid.go.jp/iasr/32/380/kj3802.html)2)国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)36(9):178-179, 2015(2018年7月24日アクセス:https://www.niid.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-jasrs/5878-pr4272.html)3)横須賀市 侵襲性髄膜炎菌感染症の発生について(2018年7月24日アクセス:https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/3130/nagekomi/20180801.html)
IMDの重症例は予後が悪く予防が重要
かかりつけ医からIMD予防に関して幅広く情報提供を
日本小児科学会では集団生活を送る者に4価髄膜炎菌ワクチン接種を勧奨
重篤な侵襲性髄膜炎菌感染症、特に寮がある学校では予防が重要
ふじえだファミリークリニック 院長 藤枝 俊之 先生
ワクチンで予防できる疾患は、ワクチン接種により積極的に予防することがかかりつけ医の務め
図1 IMDの後遺症図2
Thompson MJ, et al.:Lancet 367(9508): 397-403, 2006より作図 Rosenstein NE, et al.:N Engl J Med 344(18):1378-1388, 2001WHO:Weekly Epidemiol Rec 77(40):329-340, 2002
4価髄膜炎菌ワクチン推奨接種対象(日本小児科学会)表2発症後の時間
15~16歳の患者の場合
0~12時間
・発熱
・頭痛
・嘔吐
13~20時間 21時間~
・項部硬直
・光過敏症
・皮下出血
・意識障害
・けいれん発作
日本小児科学会 任意接種ワクチンの小児(15 歳未満)への接種(改訂版)より抜粋(2018年7月24日アクセス:http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20170924ninni.pdf)
ワクチン名 接種適応年齢 接種適応外の年齢 推奨接種対象者
①髄膜炎菌感染症流行地域へ渡航する 2歳以上の者
2歳未満
用法及び用量に関連する接種上の注意
「2歳未満の小児等に対する安全性及び有効性は確立していない」
2歳以上55歳以下
4価髄膜炎菌ワクチン
②9か月齢以上のハイリスク患者(補体欠損症・無脾症もしくは脾臓機能不全、HIV感染症)③9か月齢以上のソリリス治療患者
④学校の寮などで集団生活を送る者(発作性夜間ヘモグロビン尿症、非典型溶血性尿毒症症候群)
年 場所 概要
寮生と職員の5名がIMDと診断され、うち1名死亡。宮崎県にある高等学校の全寮制運動部寮1)2011年
海外からの参加者4名が帰国途中もしくは帰国後にIMD発症。
山口県で開催された第23回世界スカウトジャンボリー2)2015年
発症
後遺症
手足の切断
まひ
など
神経伝達の障害痙攣
耳が聞こえにくい
IMDを発症した学生1名が死亡。学生9名、職員1名が髄膜炎菌を保菌。
神奈川県の全寮制学校3)2017年
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私は、「村民が楽しく元気で!高齢者も命ある限りいきがいを!子ど
もは村の宝!」をポリシーとして村長の職務にあたっています。その一環として、医療を充実させることに取り組み、診療所と役場、地域が一体となって、村民の健康を守る体制を整えてきました。高齢者が多い村ではありますが、子どもの健康を守ることも重視しています。 大和村では、高校生までの医療費助成や、任意接種ワクチンに対する助成を行っています。島外の高校や大学に進学し、寮生活を送る子どもがいます。また、グローバル化が進んだ現在、将来海外へ行く子もいるでしょう。そのときにIMDなど重篤な感染症で子どもの成長が妨げられてはなりません。そこで、髄膜炎菌ワクチンの接種費用に対する公費助成を行うことを決めました。 島外に出た子どもたちは、これから日本だけでなく全世界で活躍する人財になってほしいし、大和村で育ったことを誇りに思ってほしいです。子どもの医療を充実させることは、そのための投資だと考えています。
無菌性髄膜炎の後遺症で失明した子どもがいたことを聞いたことがありました。IMDは進行が早く、重症化すると死亡や重篤な後遺症のリスクがあるという話を聞き、ワクチンで予防できるなら確実に予防すべきと考えました。私たちにも子どもがいますが、親として、子どもにこのような疾患にかかってほしくないという気持ちもあります。村では高校生まで医療費助成を行うなど、子どもの医療に力を入れていますので、その一環として髄膜炎菌ワクチンに対する公費助成も行ってほしいと村長に提案しました。 大和村には、「結いの精神」といってお互いに助け合うという意識があります。また、村の年間出生数は約10名で、村全体で子どもを大切に育てていくという考え方も強くあります。このような背景もあり、公費助成はスムーズに決まりました。
診療所にIMDの疾患や予防の重要性について説明したパンフレットを設置し、住民への周知に努めています。また、髄膜炎菌ワクチンの接種をしやすい環境づくりとして、毎週水曜日が予防接種の実施日となりますが、部活動などで忙しい子どももいますので、柔軟に接種日を設定するなどの取り組みも行っています。
私はもともと外科が専門であり、過去に、劇症型溶血性レンサ球菌感染症に罹患して手足の壊死など重篤な症状を呈した患者さんの診療を経験しました。 IMDも後遺症で手足の壊死が起きる可能性があるという点で、重篤な感染症であり、進行が早く、死亡する例もあると聞き、ワクチンで予防することが重要と考えました。 大和村のある奄美大島には大学がないため、進学する子どもは島を出ていくことになります。また、本土の高校に進学して親元を離れるケースもあります。IMDは寮生活がリスクの1つとなるため、島外へ行く子どもを安心して送り出せるようにしたいというのが根底にある思いです。 大和村では髄膜炎菌ワクチン接種に公費助成が出ることになりましたので、島外の学校に進学し、入寮予定のある子どもたちに髄膜炎菌ワクチンの接種勧奨を考えています。
私は幼少時に離島で過ごし、離島の医療に貢献したいという思いがありました。縁あって大和村の診療所で診療を行うことになり、島の子どもたちが生まれてから大きくなるまでずっと見守っていけることに喜びを感じていますし、子どもを持つ親の手助けになればと思っています。 IMDは進行が早く、初期症状でIMDと気付かず、重症化してしまうこともあります。その点で、保健福祉課が髄膜炎菌ワクチンの接種費用に対する公費助成を実現したことは、大変喜ばしいことと思います。
西米良村には保育園、小学校、中学校がそれぞれ1校ありますが、
高校はありません。中学校を卒業すると、親元を離れて寮生活を送る子どもがほとんどです。西米良村の子どもは1学年につき約10人と少なく、子どもたちはみな村の宝と考えています。 子どもが健康に成長できるように、ワクチンで予防できる病気は確実にワクチンを接種するという思いから、西米良村ではこれまでも水痘やインフルエンザ菌b型(Hib)、肺炎球菌といった任意接種のワクチンの接種費用の助成を行ってまいりました。 髄膜炎菌ワクチンについても、感染リスクが高くなる10代後半という時期に寮生活などの集団生活を送る子どもたちの命を守るため、接種費用の助成を開始しています。
髄膜炎菌ワクチンの接種費用公費助成は、診療所の先生から相談されたことをきっかけに検討を始めました。西米良村では救急医療体制が整っていないこともあり、子どもたちの健康を守るという村長の思いのもと、これまでも任意接種ワクチンの接種費用を助成してきた実績があります。このような背景から、村役場でも接種費用の助成に対する抵抗は少なく、髄膜炎菌ワクチンの接種費用助成も円滑に進めることができました。 2018年4月に接種費用の助成を開始した際は、IMDの概要と髄膜炎菌ワクチンについて解説した資料を各世帯に郵送しました。接種費用助成対象者は中学生を対象としていますが、今年度に限り高校生までとしています。2018年7月時点ですでに3名の接種予約を受け付けています。 保健師として赤ちゃんのころから予防接種に立ち会った子どもたちが元気に大きくなっていく様子を見られることが、今本当にうれしいです。この子どもたちには、“ワクチンで守れる感染症”にかかってほしくないと思っています。西米良村だけでなく、寮生活を余儀なくさ
れる山間部の自治体では、髄膜炎菌ワクチンの接種の必要性は高いと考えています。今後、髄膜炎菌ワクチンの接種費用助成の輪も広がることを期待しています。
西米良村は宮崎市から車で約1時間半の山間部にあります。現在、過疎地における医療の後方支援が充実し、西米良村診療所に関しても、隣接する公立病院などとの連携体制が整っています。それでも、重篤な疾患に罹患した場合は、峠を越え、集落もまばらな山道を約1~2時間かけて患者を搬送しなくてはなりません。ワクチンで予防できる疾患はしっかりとワクチン接種をして予防することが重要です。 このような背景から西米良村では、ロタウイルスワクチンやおたふくかぜワクチン、インフルエンザワクチンの接種費用の助成をしています。また、現在は定期接種になっているB型肝炎ワクチン、水痘ワクチン、Hibワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、子宮頸がんワクチンも任意接種だった当時から接種費用の助成が行われてきました。これらは、住民や保健行政、診療担当者らによる協力体制や共通理解のもとに継続されてきた賜物です。 IMDは進行が早く、早期の診断が難しいという特徴があります。過去には、宮崎県小林市の高校の寮でIMDによる死亡例がありました。このとき現場で対応に当たった先生方から、進行が早く、救命困難であった旨を後日お聞きしました。 西米良村には高校がなく、中学卒業後はほぼすべての子どもが村外の学校に進学し、寮生活を送ることになります。IMDは寮生活など集団生活で感染リスクが高くなる疾患です。村の各学年の児童数は約10名であり、子どもは村の宝です。子どもたちが元気で学業に励み、将来、村に帰ってくること、村外に住み続けていたとしても、村を支援してくれる存在になることが村民の願いです。 髄膜炎菌ワクチンの接種費用公費助成が実現したことを受けて、診療所としても、助成制度の周知に取り組むとともに、IMDについて啓発し、IMDから身を守るためにワクチン接種が重要であることを伝えていきたいと考えています。
襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は進行が早く、国内において2013年4月~2017年10月までに届出されたIMD160例の致命率も15.0%と高く、学校保健安全法の第2種感染症に規定されています。初期症状は発熱や頭痛、吐き気などで、風邪やインフ
ルエンザとの判別がしにくく早期の診断が難しいという特徴もあり、髄膜炎菌ワクチンで予防することが重要です。 髄膜炎菌は咳やくしゃみで感染し、寮生活などの集団生活では感染リスクが高まります。このため、離島や山間部など、高校や大学への進学を機に寮生活を送る子どもの割合が高い地域には、髄膜炎菌ワクチンの接種費用に対し公費助成を開始した自治体があります。 2018年から髄膜炎菌ワクチンの接種費用の公費助成を実現した鹿児島県大島郡大和村と宮崎県児湯郡西米良村にて、村長や自治体の担当者、村内で診療にあたる医師に、髄膜炎菌ワクチンの公費助成を実施した背景や髄膜炎菌ワクチンの必要性についてお話を伺いました。
2018年度より髄膜炎菌ワクチンの接種費用を全額助成原則は中学3年生が対象だが、大学進学前の接種にも柔軟に対応
鹿児島県大島郡大和村2018年度より中学3年生が対象に髄膜炎菌ワクチンの接種費用を全額助成
宮崎県児湯郡西米良村
侵
奄美大島本島の中部に位置し、東シナ海に面しています。村の北端、東シナ海に突き出す宮古崎は景勝地として知られ、NHK大河ドラマ『西郷どん』のオープニング映像のロケ地となりました。
鹿児島県大島郡大和村
人 口世帯数面 積
1,489人864世帯88.26km2
(2018年7月31日現在)
宮崎県西部に位置し、九州山地を刻む一ノ瀬川の清流沿いには集落が点在しています。特産品として、柚子やほおずきがあり、柚子みそや柚子羊かん、ほおずきアートなど加工品の生産が盛んです。
宮崎県児湯郡西米良村
人 口世帯数面 積
1,160人587世帯271.51km2
(2018年8月1日現在)
大和村 村長 伊集院 幼 氏
村民を守ることが村長の務め 西米良村 村長 黒木 定藏 氏
村の宝である子どもたちの健康を守る
高校や大学進学で親元を離れる子どもの健康を守りたい
大和村診療所 所長 小川 信 先生
宮崎県内での死亡例を聞き、IMD予防の必要性を実感
西米良診療所 所長 片山 陽平 先生
宮崎県鹿児島県大島郡
村の子どもたちを守れ!それぞれの立場でできること
子どもには死亡や後遺症が残る疾患にかかってほしくない大和村役場 保健福祉課 課長 神田 雄一 氏
保健師 藤原 葉子 氏
進行が早いIMDを予防することが親の安心につながる
大和村診療所 小児科医師 小川 結実 先生
高校進学で寮生活を余儀なくされる地域では髄膜炎菌ワクチンの接種が重要
西米良村役場 保健師 藤澤 美貴 氏
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私は、「村民が楽しく元気で!高齢者も命ある限りいきがいを!子ど
もは村の宝!」をポリシーとして村長の職務にあたっています。その一環として、医療を充実させることに取り組み、診療所と役場、地域が一体となって、村民の健康を守る体制を整えてきました。高齢者が多い村ではありますが、子どもの健康を守ることも重視しています。 大和村では、高校生までの医療費助成や、任意接種ワクチンに対する助成を行っています。島外の高校や大学に進学し、寮生活を送る子どもがいます。また、グローバル化が進んだ現在、将来海外へ行く子もいるでしょう。そのときにIMDなど重篤な感染症で子どもの成長が妨げられてはなりません。そこで、髄膜炎菌ワクチンの接種費用に対する公費助成を行うことを決めました。 島外に出た子どもたちは、これから日本だけでなく全世界で活躍する人財になってほしいし、大和村で育ったことを誇りに思ってほしいです。子どもの医療を充実させることは、そのための投資だと考えています。
無菌性髄膜炎の後遺症で失明した子どもがいたことを聞いたことがありました。IMDは進行が早く、重症化すると死亡や重篤な後遺症のリスクがあるという話を聞き、ワクチンで予防できるなら確実に予防すべきと考えました。私たちにも子どもがいますが、親として、子どもにこのような疾患にかかってほしくないという気持ちもあります。村では高校生まで医療費助成を行うなど、子どもの医療に力を入れていますので、その一環として髄膜炎菌ワクチンに対する公費助成も行ってほしいと村長に提案しました。 大和村には、「結いの精神」といってお互いに助け合うという意識があります。また、村の年間出生数は約10名で、村全体で子どもを大切に育てていくという考え方も強くあります。このような背景もあり、公費助成はスムーズに決まりました。
診療所にIMDの疾患や予防の重要性について説明したパンフレットを設置し、住民への周知に努めています。また、髄膜炎菌ワクチンの接種をしやすい環境づくりとして、毎週水曜日が予防接種の実施日となりますが、部活動などで忙しい子どももいますので、柔軟に接種日を設定するなどの取り組みも行っています。
私はもともと外科が専門であり、過去に、劇症型溶血性レンサ球菌感染症に罹患して手足の壊死など重篤な症状を呈した患者さんの診療を経験しました。 IMDも後遺症で手足の壊死が起きる可能性があるという点で、重篤な感染症であり、進行が早く、死亡する例もあると聞き、ワクチンで予防することが重要と考えました。 大和村のある奄美大島には大学がないため、進学する子どもは島を出ていくことになります。また、本土の高校に進学して親元を離れるケースもあります。IMDは寮生活がリスクの1つとなるため、島外へ行く子どもを安心して送り出せるようにしたいというのが根底にある思いです。 大和村では髄膜炎菌ワクチン接種に公費助成が出ることになりましたので、島外の学校に進学し、入寮予定のある子どもたちに髄膜炎菌ワクチンの接種勧奨を考えています。
私は幼少時に離島で過ごし、離島の医療に貢献したいという思いがありました。縁あって大和村の診療所で診療を行うことになり、島の子どもたちが生まれてから大きくなるまでずっと見守っていけることに喜びを感じていますし、子どもを持つ親の手助けになればと思っています。 IMDは進行が早く、初期症状でIMDと気付かず、重症化してしまうこともあります。その点で、保健福祉課が髄膜炎菌ワクチンの接種費用に対する公費助成を実現したことは、大変喜ばしいことと思います。
西米良村には保育園、小学校、中学校がそれぞれ1校ありますが、
高校はありません。中学校を卒業すると、親元を離れて寮生活を送る子どもがほとんどです。西米良村の子どもは1学年につき約10人と少なく、子どもたちはみな村の宝と考えています。 子どもが健康に成長できるように、ワクチンで予防できる病気は確実にワクチンを接種するという思いから、西米良村ではこれまでも水痘やインフルエンザ菌b型(Hib)、肺炎球菌といった任意接種のワクチンの接種費用の助成を行ってまいりました。 髄膜炎菌ワクチンについても、感染リスクが高くなる10代後半という時期に寮生活などの集団生活を送る子どもたちの命を守るため、接種費用の助成を開始しています。
髄膜炎菌ワクチンの接種費用公費助成は、診療所の先生から相談されたことをきっかけに検討を始めました。西米良村では救急医療体制が整っていないこともあり、子どもたちの健康を守るという村長の思いのもと、これまでも任意接種ワクチンの接種費用を助成してきた実績があります。このような背景から、村役場でも接種費用の助成に対する抵抗は少なく、髄膜炎菌ワクチンの接種費用助成も円滑に進めることができました。 2018年4月に接種費用の助成を開始した際は、IMDの概要と髄膜炎菌ワクチンについて解説した資料を各世帯に郵送しました。接種費用助成対象者は中学生を対象としていますが、今年度に限り高校生までとしています。2018年7月時点ですでに3名の接種予約を受け付けています。 保健師として赤ちゃんのころから予防接種に立ち会った子どもたちが元気に大きくなっていく様子を見られることが、今本当にうれしいです。この子どもたちには、“ワクチンで守れる感染症”にかかってほしくないと思っています。西米良村だけでなく、寮生活を余儀なくさ
れる山間部の自治体では、髄膜炎菌ワクチンの接種の必要性は高いと考えています。今後、髄膜炎菌ワクチンの接種費用助成の輪も広がることを期待しています。
西米良村は宮崎市から車で約1時間半の山間部にあります。現在、過疎地における医療の後方支援が充実し、西米良村診療所に関しても、隣接する公立病院などとの連携体制が整っています。それでも、重篤な疾患に罹患した場合は、峠を越え、集落もまばらな山道を約1~2時間かけて患者を搬送しなくてはなりません。ワクチンで予防できる疾患はしっかりとワクチン接種をして予防することが重要です。 このような背景から西米良村では、ロタウイルスワクチンやおたふくかぜワクチン、インフルエンザワクチンの接種費用の助成をしています。また、現在は定期接種になっているB型肝炎ワクチン、水痘ワクチン、Hibワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、子宮頸がんワクチンも任意接種だった当時から接種費用の助成が行われてきました。これらは、住民や保健行政、診療担当者らによる協力体制や共通理解のもとに継続されてきた賜物です。 IMDは進行が早く、早期の診断が難しいという特徴があります。過去には、宮崎県小林市の高校の寮でIMDによる死亡例がありました。このとき現場で対応に当たった先生方から、進行が早く、救命困難であった旨を後日お聞きしました。 西米良村には高校がなく、中学卒業後はほぼすべての子どもが村外の学校に進学し、寮生活を送ることになります。IMDは寮生活など集団生活で感染リスクが高くなる疾患です。村の各学年の児童数は約10名であり、子どもは村の宝です。子どもたちが元気で学業に励み、将来、村に帰ってくること、村外に住み続けていたとしても、村を支援してくれる存在になることが村民の願いです。 髄膜炎菌ワクチンの接種費用公費助成が実現したことを受けて、診療所としても、助成制度の周知に取り組むとともに、IMDについて啓発し、IMDから身を守るためにワクチン接種が重要であることを伝えていきたいと考えています。
襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は進行が早く、国内において2013年4月~2017年10月までに届出されたIMD160例の致命率も15.0%と高く、学校保健安全法の第2種感染症に規定されています。初期症状は発熱や頭痛、吐き気などで、風邪やインフ
ルエンザとの判別がしにくく早期の診断が難しいという特徴もあり、髄膜炎菌ワクチンで予防することが重要です。 髄膜炎菌は咳やくしゃみで感染し、寮生活などの集団生活では感染リスクが高まります。このため、離島や山間部など、高校や大学への進学を機に寮生活を送る子どもの割合が高い地域には、髄膜炎菌ワクチンの接種費用に対し公費助成を開始した自治体があります。 2018年から髄膜炎菌ワクチンの接種費用の公費助成を実現した鹿児島県大島郡大和村と宮崎県児湯郡西米良村にて、村長や自治体の担当者、村内で診療にあたる医師に、髄膜炎菌ワクチンの公費助成を実施した背景や髄膜炎菌ワクチンの必要性についてお話を伺いました。
2018年度より髄膜炎菌ワクチンの接種費用を全額助成原則は中学3年生が対象だが、大学進学前の接種にも柔軟に対応
鹿児島県大島郡大和村2018年度より中学3年生が対象に髄膜炎菌ワクチンの接種費用を全額助成
宮崎県児湯郡西米良村
侵
奄美大島本島の中部に位置し、東シナ海に面しています。村の北端、東シナ海に突き出す宮古崎は景勝地として知られ、NHK大河ドラマ『西郷どん』のオープニング映像のロケ地となりました。
鹿児島県大島郡大和村
人 口世帯数面 積
1,489人864世帯88.26km2
(2018年7月31日現在)
宮崎県西部に位置し、九州山地を刻む一ノ瀬川の清流沿いには集落が点在しています。特産品として、柚子やほおずきがあり、柚子みそや柚子羊かん、ほおずきアートなど加工品の生産が盛んです。
宮崎県児湯郡西米良村
人 口世帯数面 積
1,160人587世帯271.51km2
(2018年8月1日現在)
大和村 村長 伊集院 幼 氏
村民を守ることが村長の務め 西米良村 村長 黒木 定藏 氏
村の宝である子どもたちの健康を守る
高校や大学進学で親元を離れる子どもの健康を守りたい
大和村診療所 所長 小川 信 先生
宮崎県内での死亡例を聞き、IMD予防の必要性を実感
西米良診療所 所長 片山 陽平 先生
宮崎県鹿児島県大島郡
村の子どもたちを守れ!それぞれの立場でできること
子どもには死亡や後遺症が残る疾患にかかってほしくない大和村役場 保健福祉課 課長 神田 雄一 氏
保健師 藤原 葉子 氏
進行が早いIMDを予防することが親の安心につながる
大和村診療所 小児科医師 小川 結実 先生
高校進学で寮生活を余儀なくされる地域では髄膜炎菌ワクチンの接種が重要
西米良村役場 保健師 藤澤 美貴 氏
SPJP.MENAC.18.09.01782018年10月作成
特 集01
●鹿児島県大島郡大和村 ●宮崎県児湯郡西米良村
重篤な侵襲性髄膜炎菌感染症、特に寮がある学校では予防が重要
村の子どもたちを守れ!それぞれの立場でできること
特 集02