14
多職種連携教育(IPE)コースにおける 「チームワーク入門実習」の教育評価 吉良淳子 1) ,對間博之 2) ,富田美加 1) ,加納尚美 1) ,滝澤恵美 3) 齋藤さわ子 4) ,馬場健 5) ,武島玲子 5) ,海山宏之 6) 1)  茨城県立医療大学保健医療学部看護学科 2)  茨城県立医療大学保健医療学部放射線技術科学科 3)  茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科 4)  茨城県立医療大学保健医療学部作業療法学科 5)  茨城県立医療大学保健医療学部医科学センター 6)  茨城県立医療大学保健医療学部人間科学センター 要旨 【目的】多職種連携教育(IPE)コースの1年次に開講する「チームワーク入門実習」における教育成果と今 後の課題を明らかにする。 【方法】4学科 175 名の学生に,実習前後で学習内容の理解度とチーム医療に関する認識を調査した。 【結果】分析対象データは 101 件(有効回答率 57.7% )であった。実習後はチームワークの定義や重要性の理 解および,今後チームワークを推進する自信が有意に高まった。また学生はチーム医療を推進するた めには,多職種について関心を持ち,お互いの専門性を理解した上で積極的に意見を交換することが 重要であると考えていた。 【結語】本実習は,今後の IPE 科目の履修に必要な専門性に対する理解と意欲の向上,ならびに多職種チーム 推進のためのスキルの獲得という成果を上げていることが確認できた。今後の IPE 科目では,チーム として患者に関わるための視点を養うことが必要である。 キーワード:多職種連携教育,チームワーク,入門実習,学習成果 Ⅰ はじめに IPE(Interprofessional Education: 多 職 種 連 携 教育)は,英国で IPE を推進している専門職連携教 育推進センター(Center for the Advancement of Interprofessional Education: CAIPE) に よ り「 複 数の領域の専門職者が連携およびケアの質を改善 するために,同じ場所で共に学び,お互いから学 び合いながら,お互いのことを学ぶこと」と定義 されている 1) 。IPE の背景には,1960 年代に発展し たconsumerismによる利用者のニーズの多様化や, 医療の複雑化などがある。1990 年代には英国にお IPEコースにおけるチームワーク入門実習の教育評価 31 茨城県立医療大学紀要  第 22 A S V P I Volume 22 報  告 連 絡 先: 吉良 淳子  茨城県立医療大学保健医療学部看護学科 〒300–0394  茨城県稲敷郡阿見町阿見4669–2 電  話: 029–840–2195  FAX:029–840–2295 E–mail:[email protected]

多職種連携教育(IPE)コースにおける 「チーム …€¦多職種連携教育(IPE)コースにおける 「チームワーク入門実習」の教育評価 吉良淳子1),對間博之2),富田美加1),加納尚美1),滝澤恵美3),

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多職種連携教育(IPE)コースにおける「チームワーク入門実習」の教育評価

吉良淳子 1),對間博之 2),富田美加 1),加納尚美 1),滝澤恵美 3),齋藤さわ子 4),馬場健 5),武島玲子 5),海山宏之 6)

1) 茨城県立医療大学保健医療学部看護学科2) 茨城県立医療大学保健医療学部放射線技術科学科3) 茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科4) 茨城県立医療大学保健医療学部作業療法学科5) 茨城県立医療大学保健医療学部医科学センター6) 茨城県立医療大学保健医療学部人間科学センター

要旨

【目的】多職種連携教育(IPE)コースの1年次に開講する「チームワーク入門実習」における教育成果と今後の課題を明らかにする。

【方法】4学科 175 名の学生に,実習前後で学習内容の理解度とチーム医療に関する認識を調査した。【結果】分析対象データは 101 件(有効回答率 57.7%)であった。実習後はチームワークの定義や重要性の理

解および,今後チームワークを推進する自信が有意に高まった。また学生はチーム医療を推進するためには,多職種について関心を持ち,お互いの専門性を理解した上で積極的に意見を交換することが重要であると考えていた。

【結語】本実習は,今後のIPE科目の履修に必要な専門性に対する理解と意欲の向上,ならびに多職種チーム推進のためのスキルの獲得という成果を上げていることが確認できた。今後のIPE科目では,チームとして患者に関わるための視点を養うことが必要である。

キーワード:多職種連携教育,チームワーク,入門実習,学習成果

Ⅰ はじめに

IPE(Interprofessional Education: 多 職 種 連 携教育)は,英国でIPEを推進している専門職連携教育推進センター(Center for the Advancement of Interprofessional Education: CAIPE) に よ り「 複

数の領域の専門職者が連携およびケアの質を改善するために,同じ場所で共に学び,お互いから学び合いながら,お互いのことを学ぶこと」と定義されている 1)。IPEの背景には,1960 年代に発展したconsumerismによる利用者のニーズの多様化や,医療の複雑化などがある。1990 年代には英国にお

IPEコースにおけるチームワーク入門実習の教育評価 31

茨城県立医療大学紀要  第 22 巻A S V P I Volume  22 報  告

連 絡 先: 吉良 淳子  茨城県立医療大学保健医療学部看護学科  〒300–0394  茨城県稲敷郡阿見町阿見4669–2電  話: 029–840–2195  FAX:029–840–2295 E–mail:[email protected]

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いて保健医療福祉の現場で専門職連携が実施されないことによる様々な事故が問題視されるようになった。2000 年に複数の行政・医療機関などが問題を把握していながら子供の虐待死を阻止できなかったビクトリア事件が起こり,その検討の結果,専門職教育の過程において他職種の専門職性に関する学習やチームメンバーと協働する技術・態度の学習機会が不十分であるためにシステムの機能不全が起こっていることが問題とされ,NHS(National Health Service)を中心とした活動により,英国では全ての医療系大学でIPEを行うことが義務化された 1)。日本においては,2005 年に埼玉県立大学で初めてIPEワークショップが開催され,複数の大学での取り組みが始まった 2) 3)。

茨城県立医療大学では建学理念に基づき 1995 年の開学当初からチーム医療教育を推進しており,2013 年度に導入した第 4 次カリキュラムではIPEコースを設け,多様な職種と相互に連携しながら協働できる専門職を育成するために全学科共通の科目群として位置づけた。「日本の保健医療福祉系大学におけるIPEは,定義に基づいた教育を始めたばかりで,その研究成果からは,様々な課題を抱えた発展途上の段階にある」4)と言われるように,本学のIPEにおいてもプロジェクトによるカリキュラムの検討や評価・修正を行いながら教育を行っている。初年度の評価 5)では,1 年次を対象としたチームワーク入門実習において,チームワークの基本概念,多職種理解,学習者の自信の向上など,一定の学習成果を上げていることが確認された。本研究では,IPEコースをさらに発展させるために新たな評価項目を追加し,コース全体を視野に入れた 1 年次科目の教育成果と今後の課題について検討する。

Ⅱ 研究目的

多職種連携教育(IPE)コースの 1 年次に開講する「チームワーク入門実習」における教育成果と今後の課題を明らかにする。

Ⅲ チームワーク入門実習の概要

チームワーク入門実習はIPE(Inter Professional Education:多職種連携教育)コースの 1 年次に開

講される。IPEコースは,看護学科,理学療法学科,作業療法学科,放射線技術科学科の学生がともに学ぶことで,医療/福祉/保健領域の専門職を超えた多職種と連携し,協働できる医療人の育成を目指す。

図 1 に示すようにIPEコースでは,1,2 年次に専門領域の異なる学生とのチームワークを学ぶ。3年次には各専門領域の臨床(臨地)実習で専門性を深め,4 年次に各自の専門的な学びを活かしたチーム医療演習を行う。また,選択科目として全学年を対象に国際多職種協働実習が開講される。

本コースにおいてチームワーク入門実習は,1 学年前期に開講し,多職種で協働し連携していくための基礎を学習する。そのために,第一に人と人が協働して物事を達成することの基本を学ぶ。次に,保健医療の歴史と現状を概観することを通じて協働や連携がどのような過程で発展してきたかについて理解を深める。授業概要について,表 1 に示した。

授業は,1)新入生宿泊研修でのグループ活動,2)学内の合同講義,3)大学および付属病院の見学実習で構成される。各グループは 4 学科混成の 8- 9 名からなり,宿泊研修から同じグループで活動する。2014 年度からは,学外の専門家によるファシリテーションを導入した。これは個人や集団との対話や振り返りを深め,その後の見学実習で活用するホワイトボードミーティングの手法を学習するためである。施設見学実習の前週に,学生達は実習のグループ目標(ゴール)を設定する。そして実習の個々の学びは毎回,ホワイトボードミーティングで共有し,次の学習目標を設定して翌週の実習に臨むことを繰り返す。

図1 茨城県立医療大学IPEコースの概要

医療/福祉/保健領域の専門職を超えた多職種と連携し、協働できる医療人の育成を目指す

茨城県立医療大学紀要 第22巻32

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各グループにはファシリテーターとして教員を配置し,ホワイトボードミーティングをサポートするとともに毎回の実習記録にコメントを返すなど個々の学生が学びを深めるための役割を担う。学生は実習中の成果物や記録および自己学習内容をポートフォリオに保存し,自己評価の資料とする。

2016 年度最終回の全体報告会では,①チームワーク入門実習で学んだこと,②他職種連携について今後の学びを深めるために―私たちの提案―,について各グループが発表した。そして学生と教員の投票により,多くの票を集めたグループには表彰状が授与された。

Ⅳ 研究方法

1.データ収集方法1 )対象:看護学科,理学療法学科,作業療法学

科,放射線技術科学科の 1 年次生 175 名。2 )方法:チームワーク入門実習開始時(2016 年

5 月)と最終回終了後( 7 月)に同じ内容の質問紙調査を実施した。

3 )内容:調査内容は,チームワーク入門実習の目標とする内容の理解度に関する 31 項目と,群馬大学で牧野ら 6)が作成し信頼性が確認されたIPEあるいはIPW(チーム医療)に対する態度の評価 29 項目を加えた全 60 項目である。それぞれ 5

表1 チームワーク入門実習の概要

Ⅰ.授業概要多職種で協働し連携していくための基礎を学習する。そのために,第一に人と人が協働して物事を達成することの基本を

学ぶ。次に,保健医療の歴史と現状を概観することを通じて,協働や連携がどのような過程で発展してきたかについて理解を深める。

学科横断的なグループを基本として,本学の付属病院,各学科センターの活動の実際について見学実習を行う。グループワークを通して,各学科学生(グループ)がそれぞれの学習成果を検討し,相互の理解を共有する。さらに学生全員による討論を通じて,多職種が連携し協働するあり方について理解を深める。

Ⅱ.教育目標・行動目標教育目標

保健医療,福祉の歴史,現状を概観し,多職種連携協働の理念について,付属病院,大学の場を通じて理解し,考えを深めることができる。これらを通じて,多職種の具体的な認識を得,かつ 21 世紀における保健医療福祉の目標を共有しつつ各々専門職的志向を育む基本的態度を養う。

行動目標1  人と人とが協働作業をする意義を述べられる。2  連携の概念を述べられる。3  専門職の概念を述べられる。4  保健医療サービスの利用者の視点を理解できる。5  保健医療福祉の歴史の中で,多職種の活動の流れを述べられる。6  保健医療福祉の現状における多職種の課題を列挙できる。7  実習病院(リハビリ専門病院)における多職種の現状を理解できる。8  実習病院(リハビリ専門病院)における多職種の課題を述べられる。9  多職種を養成する教育研究機関における連携及び協働の現状を理解できる。10 多職種を養成する教育研究機関における連携及び協働の課題を述べられる。11 グループワークを通じて,協働,連携活動に参加できる。12 グループワークを通じて,協働,連携活動メンバーとして省察できる。

Ⅲ.時期及び単位と対象科目名と単位数:実習(1 単位)45 時間実 習 時 期:2016 年 5 月~7 月対     象:2016 年度 全学科 1 年生

IPEコースにおけるチームワーク入門実習の教育評価 33

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件法(一部 4 件法)で回答を得た。さらに,チームワークを促進/阻害する因子,チーム医療を促進/阻害する因子をキーワードで各々3 項目までと,「チームワーク入門実習」の授業について望むことを自由に記述してもらった。回答はマークシート方式を用い,前後の対応を見るために学籍番号の記入を求めた。

調査にあたり,科目を担当しない教員が調査の趣旨および,協力の有無による不利益は一切ないこと,個人が特定できないように,学籍番号は個人と関連のないIDを割り当てて分析することなどを文書と口頭で説明し協力を依頼した。

調査用紙の回収ボックスへの投函をもって研究協力への同意が得られたものとした。

2.分析対象分析は,学籍番号の照合により授業前後ともに提

出があったものを対象にした。

3.分析方法まず,5 月と 7 月の対象学生のデータを 1 枚の

シートに結合し,学科ごとにランダムに並べ替えて学籍番号と関連のないコード番号をつけ個人が特定できないようにした。次に 60 項目の問いについて授業前後の得点差を見るために,対応のあるサンプルのt検定を行った。有意確率 5%未満をもって差があると判断した。

統計処理にはIBM SPSS statistics Ver.22 を用いた。テキストデータは,質問ごとに内容の共通性に基

づいてカテゴリ化した。

4.倫理的配慮本研究は,茨城県立医療大学倫理審査委員会の承

認を受けて実施した(受付番号 577)。

Ⅴ 結果

175 名へ質問紙を配布し,授業前後とも提出された分析対象データは 101 件であった(有効回答率57.7%)

1.チームワークおよびチーム医療の重要性の理解「チームワーク」と「チーム医療」について,そ

の定義と重要性を具体的に説明できるかに関する問1~4 までの授業前後の平均値は授業後の方が 0.68から 1.36 高く,4 項目全てに有意差が認められた

(P<0.001)。(表 2)「チームワークを充実し促進させる為に必要な因

子」として記述されたキーワード上位 10 までと,特徴的なキーワードについて授業前後で比較した

(表 3)。授業前後とも「コミュニケーション(意思の伝達,会話)」が一位を占めた。授業前は「協調性/調和」が 2 位にあがっていたが,授業後は協調性の順位が下がり,「積極性,主体性」が 2 位に上昇した。また「意見交換」に含まれるキーワードは,授業前の「話し合い」から「発言する」に変化した。授業後は,「報告,連絡,相談」,「オープンクエスチョン」「他(多)職種理解」という新たなキーワードが出現した。「チームワークを阻害する因子」(表 4)では,前

後とも自己中心的行動や消極的な態度が上位に入った。授業前は「差別,偏見」,「上下関係,身分」というキーワードが見られたが,授業後には見当たらず,「黙る,沈黙,発言しない」が 3 位に上昇した。「チーム医療を促進する因子」(表 5)では,前後

とも「会話,コミュニケーション」と「他(多)職種理解」が 1,2 位を占めた。授業後には新たに「他学科への理解,関心,知識」と「自職種(専門性)理解」が出現した。

表 2 チームワーク,チーム医療の重要性に関する学び

項目 npre post 対応サンプルの差(post-pre)

平均値 標準偏差 平均値 標準

偏差 平均値 標準偏差

有意確率(両側)

チームワークの定義の理解 100 2.51 0.85 3.87 0.54 1.36 0.92 0.000 ***チームワークの重要性 100 3.38 0.92 4.40 0.51 1.02 0.94 0.000 ***チーム医療の定義 99 3.23 0.95 4.01 0.48 0.78 0.99 0.000 ***チーム医療の重要性 100 3.69 0.88 4.37 0.49 0.68 0.91 0.000 ***

P<0.001***

茨城県立医療大学紀要 第22巻34

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「チーム医療を阻害する因子」(表 6)では,上位は共通のキーワードが出現した。異なる点は授業前に「医師の権力」が 2 件挙げられたことと,授業後の 5 位に「自己判断」というキーワードが含まれていたことである。

表 3 から表 6 全てにおいて,授業前よりも授業後の方が多数のキーワードが挙げられた。

2.医療職への理解の程度12 の職種において,どの程度理解できているか

表 3 チームワーク促進する因子(授業前後の認識の比較)

順位

チームワークを促進させる因子(自由回答)授  業  前 n 授  業  後 n

1 コミュニケーション,意思伝達 34 コミュニケーション,会話を持つ 402 強調(性)/調和 29 積極性,積極的な姿勢,主体性 283 コミュニケーション能力,会話力 16 協力(する力),協力する意思 284 協力 14 思いやり,相手を気遣う 175 思いやり,優しさ 13 コミュニケーション力 156 積極性 13 笑顔 127 意見交換,話し合い, 11 協調,協調性 128 相手の(意見の)尊重,尊敬 10 意見交換,発言する 129 情報交換,共有 8 信頼,信頼関係 1010 理解する力, 9 人間関係,遠慮のない関係 9

そ  

の  

人間関係

64

情報共有,知識

75

笑顔 (相互)理解,他者を理解する心目標を持つ,計画・目標の共有 周囲に目を向ける(力)信頼 聞く姿勢,聞く力相互理解,他者理解 報告,連絡,相談する知識,(専門) 相手の尊重,挨拶 オープンクエスチョン人の話を良く聞く,など 多職種理解,など

記述総数 221 258

表4 チームワーク阻害する因子(授業前後の認識の比較)

順位

チームワークを阻害する因子(自由回答)授  業  前 n 授  業  後 n

1 自己中心的行動,考え,態度, 39 自分勝手,自己中心的行動 472 協調性のなさ,協力しない 11 消極性,消極的な姿勢 233 消極性,消極的態度 11 黙る,沈黙,発言しない 134 コミュニケーション(能力)の不足 11 無気力,やる気のなさ, 105 勉強不足,主体的に学ばない, 10 無知,理解不足,勉強不足 96 人間関係の悪さ,不仲,いさかい 8 さぼり,怠惰,遅刻,ルーズ 87 発言しない,意見を述べない 8 無関心 88 ひとの意見を聞かない 7 冷たい態度,強い口調,無視 79 自己主張のし過ぎ,我の強さ 7 不信,不信感,そねみ,ねたみ 610 無関心 6 他人の意見(話)を聞かない 5

そ  

の  

感情(焦り,緊張,自信のなさ)

48

協調性のなさ,協力的でない

73

個人行動,個人プレー コミュニケーション不足表情(にらむ,無表情),無視 チームに加わろうとしない恥ずかしがる,人見知り, 独断的,独裁的配慮のなさ,わがまま チームの人間関係の悪さ差別,偏見,先入観 思いやりがない。傷つける言葉否定的な考え,発言 否定的,無責任,人見知り上下関係,身分,など 人間関係(不調和,不仲)

記述総数 172 209

IPEコースにおけるチームワーク入門実習の教育評価 35

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については,授業後は全ての職種において授業前よりも平均値が高くなっていた。医師以外の職種で有意差が認められ,特に前後の平均値の差が大きかったのは診療放射線技師(0.87),言語聴覚士(0.78),基礎医学研究者(0.74),作業療法士(0.71),臨床 心 理 士(0.62), 理 学 療 法 士(0.61), 保 健 師

(0.57),看護師(0.43)であった(表 7)。医師は授業前の平均値は看護師に次いで 2 番目に高かったが,前後の差は 0.1 と最も小さかった。「その他」は,自分で( )に職業を記入して回答を得たものの平均値である。最も多くあがった職種は授業前後ともメディカルソーシャルワーカーで,授業前は介

表 5 チーム医療を促進する因子(授業前後の認識の比較)

順位

チームワークを促進させる因子(自由回答)授  業  前 n 授  業  後 n

1 会話,コミュニケーション 32 他(多)職種の理解 292 他(多)職種理解 25 コミュニケーション 283 協調性 17 知識・情報の共有 244 情報共有,共通理解 12 相互理解,多学科への理解,関心 165 協力する 11 協力 156 知識,同じレベルの知識を持つ 9 報告,連絡,相談 147 積極性 7 知識の充実 138 専門分野の知識と技術を持つ 7 思いやる気持ち,気配り,優しさ 129 配慮,優しさ,思いやり 7 積極性 1110 自分の意見を持ち,発言する。 7 協調,協調性 8

そ  

の  

信頼関係,人間関係

63

相手の(互いの)尊重,認め合う

82

笑顔,挨拶 専門的な知識と技術連携,職種間の連携 コミュニケーション能力相談,報告,連絡 信頼,信頼関係意見の尊重,尊敬,尊重 主体性,やる気,責任感,意識,相互理解,理解する(力) 意見を持つ,意見交換ひとの意見を聞く 自職種(専門性)理解

記述総数 203 252

表 6 チーム医療を阻害する因子(授業前後の認識の比較)

順位

チームワークを阻害する因子(自由回答)授  業  前 n 授  業  後 n

1 自己中心的考え,行動,態度 29 自己中心的考え,行動,態度 292 他(多)職種への理解不足 10 知識・技術の不足,無知 213 コミュニケーションの不足 11 多学科,他職種への理解のなさ 194 知識不足,無知 14 コミュニケーション不足 155 自己の専門性の不足,勉強不足 6 自己判断,意見を聞かない 136 理解のなさ 5 情報共有,伝達の不足 117 協調性のなさ 6 非協力的,協調性のなさ,無視 118 情報伝達,共有の不足 4 消極的 99 人間関係の悪さ 4 人間関係が悪い,不仲,不調和, 610 非協力的 4 他者を理解しない 6

そ  

の  

無関心

53

偏見,固執,視野の狭さ,

52

情報不足 思いやり・配慮のなさ,批判的,医師の権力 何もしない,怠ける,考えない共通の目標が共有されていない 無責任,時間を守らない,人任せ,視野の狭さ 無気力消極性 報告,連絡がない。確認しない話を聞かない 発言しない,意見を持たない,偏見 自分が正しいという思い込み,

記述された因子の総数 146 192

茨城県立医療大学紀要 第22巻36

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護士,ケアマネージャー,助産師と続いた。授業後は事務職員が 2 番目に多く,助産師,救急救命士,義肢装具士と続いた。事務職員,救急救命士,義肢装具士は授業前の記述には出現していない職種であった。

3.チームワーク,チーム医療への自信「今後の学習で多職種とともに良いチームワーク

を推進していく自信」と「将来,良いチーム医療を行う自信」を質問した(表 8,9)。

5 段階評価の平均値は,チームワークを推進する知識(前 2.96,後 3.41),技術(2.84,3.29),態度

(3.57,4.08)の全てで授業後が有意に高くなった(p<0.001)。また良いチーム医療を行う自信におい

ても,授業前(3.27)と授業後(3.85)の平均値に有意な上昇がみられた(p<0.001)。

4.専門職の役割と連携の実際に関する理解9 項目すべてにおいて,授業前後の平均値に有

意差が見られた(表 10)。なかでも実際に見学した実習施設に関する 4 項目と,「自分の専攻職種の専門性と独自性」(前 2.73,後 3.14)と「班活動でのメンバーシップとリーダーシップ」(2.68,3.13)は,4 段階評価で授業前後の差が 0.4 を超えていた。一方,「各専門職における連携の実際」(2.57,2.88)と「実習施設におけるチームワークのあり方」

(2.63,2.98)は授業後の平均値が 3.0 未満であった。

表 8 今後の学習でチームワークを推進する自信

項目 npre post 対応サンプルの差(post-pre)

平均値 標準偏差 平均値 標準

偏差 平均値 標準偏差

有意確率(両側)

知識に関する自信 100 2.96 0.95 3.41 0.94 0.45 1.17 0.000 ***技術に関する自信 98 2.84 0.98 3.29 0.99 0.45 1.23 0.000 ***態度に関する自信 99 3.57 0.94 4.08 0.78 0.52 0.92 0.000 ***

P<0.001***

表 7 チーム医療にかかわる各職種の理解

項目 npre post 対応サンプルの差(post-pre)

平均値 標準偏差 平均値 標準

偏差 平均値 標準偏差

有意確率(両側)

診療放射線技師 100 3.20 0.93 4.07 0.64 0.87 1.00 0.000 ***言語聴覚士 100 2.76 1.02 3.54 0.81 0.78 1.18 0.000 ***基礎医学研究者 99 1.98 0.86 2.72 0.97 0.74 1.11 0.000 ***作業療法士 100 3.50 1.02 4.21 0.57 0.71 0.92 0.000 ***臨床心理士 100 2.65 0.95 3.27 0.83 0.62 1.09 0.000 ***理学療法士 100 3.60 0.92 4.21 0.54 0.61 0.90 0.000 ***臨床検査技師 99 2.94 1.03 3.52 0.77 0.58 0.99 0.000 ***保健師 100 2.73 0.98 3.30 0.90 0.57 1.08 0.000 ***看護師 100 3.78 0.73 4.21 0.56 0.43 0.78 0.000 ***管理栄養士 99 3.00 0.93 3.42 0.80 0.42 1.10 0.000 ***薬剤師 100 3.46 0.94 3.72 0.73 0.26 0.85 0.003 **医師 100 3.61 0.84 3.71 0.80 0.10 0.80 0.213その他 43 2.72 0.93 3.44 0.96 0.72 1.20 0.000 ***

p<0.01** P<0.001***

表 9 将来,医療現場で良いチーム医療を行う自信

項目 npre post 対応サンプルの差(post-pre)

平均値 標準偏差 平均値 標準

偏差 平均値 標準偏差

有意確率(両側)

将来,良いチーム医療を行う自信 97 3.27 0.90 3.85 0.71 0.58 0.84 0.000 ***P<0.001***

IPEコースにおけるチームワーク入門実習の教育評価 37

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5.チーム医療の成果に関する考え方14 項目中 13 項目は,授業前後の平均値の変化

は 0.01 から 0.19 の範囲で,差は認められなかった。「専門職連携のチーム医療で仕事をすることは,た

いていの場合,物事を不必要に煩雑にする(否定的項目)」は平均値が 2.31 から 1.89 に変化し,前後の差 0.41 で有意差が見られた(P=0.001)(表 11)

表 10 専門職の役割と連携の実際に関する理解

項目 npre post 対応サンプルの差(post-pre)

平均値 標準偏差 平均値 標準

偏差 平均値 標準偏差

有意確率(両側)

実習施設の組織. 92 2.52 0.73 3.00 0.76 0.48 1.00 0.000 ***実習施設の機能 95 2.54 0.81 3.04 0.81 0.51 1.07 0.000 ***実習施設における各専門職の役割 93 2.62 0.78 3.08 0.92 0.45 1.02 0.000 ***実習施設で働いている各専門職の業務 92 2.65 0.75 3.09 0.77 0.43 0.98 0.000 ***各専門職における連携の実際 94 2.57 0.80 2.88 0.87 0.31 0.99 0.003 **自分の専攻職種の専門性と独自性 94 2.73 0.78 3.15 0.93 0.41 0.94 0.000 ***実習施設におけるチームワークのあり方 95 2.63 0.76 2.98 0.98 0.35 0.94 0.001 **班活動におけるメンバーシップとリーダーシップ 93 2.68 0.74 3.13 0.89 0.45 1.03 0.000 ***いろいろな分野におけるチームワークのあり方 94 2.66 0.78 3.05 0.95 0.39 1.05 0.000 ***チームワークの重要性 92 2.99 0.87 3.40 1.05 0.41 1.05 0.000 ***

p<0.01** P<0.001***

表 11 チーム医療に関する考え方

項目 npre post 対応サンプルの差(post-pre)

平均値 標準偏差 平均値 標準

偏差 平均値 標準偏差

有意確率(両側)

専門職連携のチーム医療を受けている患者は、より全人的に扱われる傾向がある。 84 3.33 0.95 3.45 1.01 0.12 1.13 0.339

チーム医療のために患者の治療計画を作成することは時間の浪費である。 84 1.81 0.88 1.64 0.91 -0.17 1.05 0.150

お互いに意見を交換することで、チームメンバーは患者の医療に関する決定により良い判断を下しやすくなる。 85 4.42 0.76 4.48 0.89 0.06 1.11 0.625

専門職連携チーム医療によるアプローチは医療の提供をより効率的にする。 85 4.25 0.84 4.32 0.85 0.07 0.94 0.489

他のメンバーと共に患者の治療計画を作成することで医療を提供する際のミスを防げる。 85 4.37 0.90 4.29 0.92 -0.07 1.02 0.526

専門職連携のチーム医療で仕事をすることは、物事を不必要に煩雑にする。 85 2.31 1.01 1.89 0.90 -0.41 1.15 0.001 **

専門職連携の環境下で仕事をすることにより、ほとんどの専門家は自分の仕事に対する熱意や興味を保つことができる。

85 3.71 0.97 3.86 0.89 0.15 1.04 0.179

専門職連携によるチーム医療方式は患者に対する医療の質を高める。 85 4.49 0.73 4.46 0.72 -0.04 0.92 0.724

チーム医療のために専門職連携の協議に要する時間は、多くは別の方面でより有効に活用できるだろう。 85 3.09 1.10 2.91 1.28 -0.19 1.28 0.178

チームで仕事をしている医療専門家は、患者の感情ならびに経済的要求に対して、より的確な対応をする。 85 3.72 0.91 3.77 0.90 0.05 1.02 0.672

専門職連携によるチーム医療によって、患者と同様に家族の介護者の要求に対しても、医療専門家は対処できるようになる。

84 4.01 0.78 4.04 0.84 0.02 0.84 0.795

観察した事柄をチームに報告しなければならないため、チームのメンバーは他の医療専門家の仕事をより良く理解できるようになる。

81 4.27 0.74 4.28 0.79 0.01 1.01 0.912

専門職連携のチーム医療を受けている入院患者は、他の患者よりも退院の準備が良くできている。 81 3.52 0.87 3.59 0.95 0.07 1.06 0.530

チームのミーティングによって,異なった専門分野のメンバー間のコミュニケーションが深められる。 81 4.54 0.65 4.56 0.55 0.01 0.75 0.883

p<0.01**

茨城県立医療大学紀要 第22巻38

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6.チーム医療教育の成果に対する考え方15 項目中,授業前後の平均値に差があったのは,

「チーム医療の学習を行うことで,学生達は他の医療職について肯定的に考えることができるようになる」(前 4.26,後 4.52),「臨床上の問題に対する解決方法は,学生達がそれぞれの学科の学習でのみ効果的に学ぶことができる(否定的項目)」(2.61,2.35),「資格取得前のチーム医療の学習は,医療者を目指す学生達がより良いチーム医療者になる助けとなるだろう」(4.33,4.59)であった(表 12)。その他の項目においては,前後の平均値の変化は0.05 から 0.15 にとどまった。

7.チームワーク入門実習の感想(自由記述)感想は,65 名から回答が得られた。分析の結果,

72 の分脈(データ)から 28 のコードが抽出され,さらに 9 つのカテゴリーが抽出された。(表 13)

最も件数の多かったのが「1.実習への満足,充実感」で,新しい知識を得ることの楽しさや,向上心を持って取り組めた自分への満足などが語られていた。また,カテゴリー2,3 では,チーム医療に関する学びや,広い視野を持つこと,コミュニケーション能力の高まりとともに,今後のIPEへの意欲や自分の将来への期待(専門職に就くという希望や期待の高まり)が表現されていた。

表 12 チーム医療教育に関する考え方

項目 npre post 対応サンプルの差(post-pre)

平均値 標準偏差 平均値 標準

偏差 平均値 標準偏差

有意確率(両側)

チーム医療の学習を行うことで,学生は他の医療職について肯定的に考えられるようになる。 81 4.26 0.70 4.52 0.61 0.26 0.80 0.005 **

臨床上の問題に対する解決方法は,学生たちがそれぞれの学科の学習でのみ効果的に学ぶことができる。 80 2.61 1.01 2.35 0.99 -0.26 1.16 0.046 *

資格取得前のチーム医療の学習は,医療者を目指す学生たちがより良いチーム医療者になる助けとなるだろう。 81 4.33 0.74 4.59 0.49 0.26 0.77 0.003 **

医療を専攻する学生たちが,協力して患者の問題を解決しようとするような学習をすることで,結果的には患者の利益となる。

79 4.33 0.75 4.43 0.59 0.10 0.71 0.208

あなたの所属する専攻の学生たちは,他の専攻の学生たちと一緒に小グループのプロジェクトに参加することにより,利益を得るだろう。

81 4.12 0.70 4.27 0.76 0.15 0.91 0.147

医療を専攻する学生たちの総合クラスでは,コミュニケーション技術が習得されるはずである。 81 4.24 0.75 4.28 0.71 0.05 0.92 0.631

チーム医療の学習は,学生たちにとって患者の問題の特質が明らかになる助けとなるだろう。 80 4.13 0.80 4.24 0.72 0.11 0.75 0.181

医療を専攻する学部の学生が一緒に学習する必要はない。 81 1.72 0.93 1.65 0.98 -0.06 1.29 0.667

他の医療専門学校の学生たちと一緒に学ぶことは,本学部の学生たちが医療チームの有能なメンバーになることに役立つ。

80 4.24 0.66 4.36 0.64 0.13 0.72 0.124

医療を専攻する学生たちが,チーム医療の学習をすることにより,臨床上の問題を理解する能力が高まる。 81 4.24 0.73 4.33 0.67 0.10 0.83 0.288

チーム医療の学習は,学生たちが自分たちの専門上の限界を理解するのに役立つだろう。 81 3.95 0.84 4.09 0.79 0.14 1.09 0.267

小グループ学習が機能するために,学生たちはお互いを信頼し尊敬する必要がある。 79 4.38 0.67 4.39 0.63 0.01 0.82 0.892

医療を専門にする学生たちがチーム医療の学習をすることは,彼らが患者や他の専門家たちとより良いコミュニケーションをはかる上で役立つ。

80 4.39 0.63 4.45 0.59 0.06 0.72 0.438

チームワークの技術は全ての医療を専攻する学生たちが学ばなければならない。 79 3.99 0.93 4.10 0.78 0.11 0.97 0.302

資格取得前に医療を専攻する学生たちが互いに学び合うことは,資格取得後の仕事上の関係を良くする。 79 4.32 0.76 4.47 0.60 0.15 0.85 0.116

p<0.05* p<0.01**

IPEコースにおけるチームワーク入門実習の教育評価 39

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カテゴリー5,6,7 は,グループで学ぶことの価値を実感し,他学科の専門性の理解や学科を超えた人間関係の広がりが表現されていた。カテゴリー9は,疲労や大変さが語られているが,これらはいずれも「楽しい」「よく勉強した」といった肯定的な文脈の続きとして語られていた。

Ⅵ 考察

1.チームワークと多職種連携の学び授業前後の比較から,チームワークやチーム医療

の定義と重要性について理解が深まり,チームワーク推進の自信につながっていることが確認できた。これは,2013 年の調査 7)とほぼ同様の結果であった。

多職種の理解に関する問いでは,学生が専攻する 4 学科の職種のほか,言語聴覚士,基礎医学研究者,臨床検査技師,臨床心理士に関して理解が深

まったことがわかった。これらは見学実習で関わった職種であり,実際に病院や大学内を見学し,その職種から直接話を聞くことにより,職業理解が深まったことがうかがえる。医師については,授業前の平均値が 3.61 と 12 職種中 3 番目に高い数値だったにもかかわらず,授業後の得点は 3.71 で有意な上昇にはつながらなかった。医師は医療職としては日常生活でもっとも関わりの深い職種であることから,入学前から職業に関する一般的な理解が得られていたことと,今回の実習で改めてその業務内容について学ぶ機会がなかったことが結果に影響したと考える。

チームワークやチーム医療を推進または阻害する因子について授業前後の記述を比較すると,チームワーク/チーム医療を推進するには,多職種(他学科)について関心を持ち,その専門性を理解した上で自己の専門性をふまえた積極的なコミュニケーションを図ることが重要であることが学べていた。

表 13 チームワーク入門実習の感想

カテゴリー コード( )内は共通意見の数 n

1 .実習への満足・充実感

楽しかった。(14)充実していた。やってよかった。(3)新しい知識を得ることが楽しかった。茨城県立医療大学に入ってよかったと思った。積極的に向上心を持って取り組めて良かった。

20

2 .チーム医療に関する多くの学びや発見医療従事者として大切なこと必要なことをたくさん学んだ(6)チーム医療について学べた。(2)新発見がたくさんあった。

9

3 .今後の学習や職業に就くことへの期待,意欲

チーム医療に携わるためにもとても重要な時間だった。(4)これからのIPE/実習にも積極的に取り組みたい。(2)将来の期待が膨らんだ。(3)

9

4 .チームワークのスキルに関する自分の変化・成長

成長できた(2)これまでよりも広い視野を持てるようになった。自分の意見を積極的に言えるようになった。(2)チームワークを通して,自分に必要なところがわかった。コミュニケーション能力が高くなった。(2)

8

5 .チームメンバー・他学科とのつながり 他学科の学生と仲良くなれた(6)友人も増え,知識・価値観が広まった(2) 8

6 .チームビルディングの成果いいチームに恵まれ,メンバー間の絆が深まった(3)グループで学ぶことで様々な意見を取り入れ,気づくことが多かった(2)自分にはない意見をメンバーから聞けて刺激的だった。

6

7 .他学科への理解の深まり 普段の授業では知れない他学科のことを多く学べた(5) 5

8 .要望・その他

もっと時間が欲しかった。(2)入門だから,チームワーク(医療)を見ることがほぼなかった。もっと患者の様子や現場の医療を知りたい。レポートのレイアウト変更希望。感想や発見の枠を広げてほしい。

5

9 .疲労 学ぶことが多くて大変だった。疲れた。 2

茨城県立医療大学紀要 第22巻40

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また授業後に記述されたキーワードは,授業前よりも表現が具体的に変化している。これは,4 週にわたる見学実習とその後のホワイトボードミーティングで積極的な意見交換がなされた成果として,抽象的だったチームワークのイメージが,より具体性を帯びてきたのだと考えられる。つまり,自分たちの体験を通して実感を伴う学習ができたと評価できる。

ところで,授業前の記述において,チームワークやチーム医療を阻害する因子として「上下関係」,

「身分」,「医師の権力」といったキーワードが挙げられた。朝比奈 8)は,IPEにおいて 1 年次の時点ですでに医学部の学生は「リーダーシップをとるのは医師であるべき」,他学部の学生は「医師の意見に従う」という実際の医療現場でしばしば見られるヒエラルキーを反映した意見を持つ傾向が認められ,グループワーク演習を行う中で早期に役割固定を学習してしまう可能性があると指摘している。また,吾妻ら 9)は臨床現場のチーム医療において看護師が「医師優位の関係を打破すること」や「多職種と対等になること」などに困難を感じていることを明らかにしている。実際に医師の中には,「病院をステージとした医療は医師をヒエラルキーのトップとした医療モデルから成り立っており,医師の指示の下,病気を直す目的で看護師,薬剤師,理学療法士,レントゲン技師,臨床検査技師等が動くシステムになっている」10)という意見も見うけられる。

患者の症度や治療状況などによって,医療チームにおける,その時々のリーダーが変化するが,たとえステージが病院であっても,全ての職種が専門性を尊重しあいながら対等な立場で連携し協働するのが多職種連携であるはずだ。本学のチームワーク入門実習はコメディカル 4 学科での授業であるが,IPEコースの 2 年次には近隣の医学部との合同授業が予定されている。そこで効果的なIPEを展開するためにも早期から学生に多職種連携の概念について意識づける必要性がある。今回の調査では,学生が多職種のチームワークにおける互いの専門性の尊重やアサーティブな意見交換の重要性を学習できていることが確認できた。IPEコースの入門編として今後につながる教育効果があったと評価できる。

2.多職種連携の実際に関する理解表 10 の結果から,専門職の役割や業務について

理解が深められたことがわかった。多職種連携の実際については,実習が各部門ごとの見学であるため連携場面を見る機会はほとんどなかった。しかし,

「各専門職における連携の実際」や「実習施設におけるチームワークのあり方」についても有意な平均値の上昇が認められていることから,学生は,集合学習で得た知識と見学時の説明を統合し,理解を深めていることが推測された。

今回の調査ではチーム医療とチーム医療教育の成果に関する考え方も確認した。その結果,29 項目中,授業前後で変化がみられたのは「チーム医療の学習を行うことで,学生は他の医療職について肯定的に考えられるようになる」などの 4 項目であった。この尺度は質問の多くが臨床における具体的な連携や患者との関わりに関するもので,IPEコース修了時の到達目標として設定されている。専門科目を学習する前の 1 年生には理解しにくい内容であることから,チーム医療実習の科目目標や現在の学生のレディネスを考慮すると,この結果は妥当だと考えられる。

この結果をベースラインとして,今後のIPEコースの進行に従って縦断的に調査をしていくことで学習の積み上げの成果が評価できると考える。

3.チームワーク入門実習の教育効果と課題チームワーク入門実習後調査の学生の感想から,

学習成果として「1.実習への満足・充実感」,「2.チーム医療に関する多くの学びや発見」,「3.今後の学習や職業に就くことへの期待・意欲」,「4.チームワークのスキルに関する自分の変化・成長」,

「5.チームメンバー・他学科とのつながり」,「6.チームビルディングの成果」,「7.他学科への理解の深まり」の 7 つのカテゴリーが抽出された。先行研究で小林ら 11)は国内文献 25 文献から保健医療福祉系大学のIPEの教育効果として次の 5 つのカテゴリーを抽出している。「Ⅰ.チームとして患者に関わるための視点」,「Ⅱ.専門性に対する理解,意欲の向上」,「Ⅲ.多職種チーム推進のためのスキル」,

「Ⅳ.効果的なIPEへの評価」,「Ⅴ.FD効果」,である。このうち,本学のチームワーク入門実習の教育目標に該当するのは,カテゴリーⅡおよびⅢで

IPEコースにおけるチームワーク入門実習の教育評価 41

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ある。チームワーク入門実習の学習成果として抽出されたカテゴリー1,2,3,5,6,7 は「Ⅱ.専門性に対する理解,意欲の向上」に,カテゴリー4 は

「Ⅲ.多職種チーム推進のためのスキル」,に該当する。このことから,本学 1 年次科目としてのチームワーク入門実習は,IPEの入門編としての学習成果を満たしていることが明らかになった。「Ⅰ.チームとして患者に関わるための視点」は 2 年次以降の教育内容に含まれる。今後は,「Ⅳ.効果的なIPEへの評価」や「Ⅴ.FD効果」ついて検討するとともに,IPEコース全体を視野に入れた教育のゴールと教育内容構造の妥当性についても検討を重ねていくことが課題である。

Ⅶ 結語

本学チームワーク入門実習はIPEコースの 1 年次科目としての目標を達成できていた。そして,今後のIPE科目の履修に必要な専門性に対する理解と意欲の向上,ならびに多職種チーム推進のための基本的なスキルの獲得という成果を上げていることが確認できた。

謝辞

本調査にご協力頂いた 1 年生の皆様,ならびにチームワーク入門実習の企画・運営において多くのご協力を賜りました教職員の皆様に深く感謝申し上げます。

なお,本研究は茨城県立医療大学プロジェクト研究費(平成 26-28 年)の助成を受けて行った。

文献

1) 大 塚 眞 理 子 他 .IPW/IPE の 理 念 と そ の 姿,IPWを学ぶ.埼玉県立大学編.中央法規.東京.2009:12-24.

2) 大塚眞理子,朝日雅也.埼玉県立大学におけるIPEの歩み.保健医療福祉連携.2012,4(2),96-104.

3) 新潟医療福祉大学内IPE大学連携統合事務局.チームで支えるQOL ひろがる連携教育―保健・医療・福祉の専門職のための連携教育―.

文部科学省平成 21 年度「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」QOL向上を目指す専門職間連携教育用モジュール中心型カリキュラムの共同開発と実践平成 23 年度事業最終報告書,25-31.

4) 小林紀明他.日本の保健医療福祉系大学におけるインタープロフェッショナル教育(Inter-

Professional Education)の動向.目白大学健康科学研究.2012,5,85-92.

5) 加納尚美他.チームワーク入門実習の学習成果.茨城県立医療大学紀要.2014,19,33-44.

6) 牧野孝俊他.チームワーク実習によるチーム医療およびその教育に対する態度の変化 保健学科と医学科生の比較検討.保健医療福祉連携.2010,2(1),2-11.

7) 前掲書 4)8) 朝比奈真由美.プロフェッショナルへの初期教

育の実際 専門職連携教育(IPE)-質の高い専門職連携(IPW)をめざす卒前教育-.日本内科学会雑誌,2011,100(10),3100-3105.

9) 吾妻知美, 神谷美紀子, 岡崎美晴, 遠藤圭子.チーム医療を実践している看護師が感じる連携・協働の困難 . 甲南女子大学研究紀要看護学・リハビリテーション学編.2013,7,23-33.

10) 苛原実.医療連携と包括ケア:有床診療所の立場から.日本医師会雑誌.2014,143(4),772-774.

11) 前掲書 3)p88.

茨城県立医療大学紀要 第22巻42

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Learning Outcomes of the Introductory Practicum in Teamwork

Junko Kira 1),Hiroyuki Tsushima 2),Mika Tomita 1),Naomi Kano 1),Megumi Takizawa 3),Sawako Saito 4),Takeshi Baba 5),Reiko Takeshima 5),Hiroyuki Umiyama 6)

1)  Department of Nursing, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences2)  Department of Radiological Sciences, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences3)  Department of Physical Therapy, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences4)  Department of Occupational Therapy, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences5)  Center for Medical Sciences, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences6)  Center for Humanities and Sciences, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences

Abstract

ObjectiveTo clarify the educational outcomes of the "introductory practicum in teamwork" of the IPE course.MethodsA questionnaire survey was conducted on 175 students from the four Departments before and after the practice. 

The questions comprised 60 items related to the understanding of teamwork and team medical care. In addition, they were asked to offer their free opinions and impressions about the practicum.Results Among the responses obtained, 101 were found to be valid responses (response rate 57.7%).The results revealed that after the practice, students showed an increase in their knowledge of teamwork than before the practice. Furthermore, their scores on motivation and self-confidence were higher after the practice.The students learned the importance of the following in order to promote team medical care: 1) to take some interest in other professions, 2) to understand their own areas of expertise, and 3) to take active part in discussions with people of other professions.ConclusionThe "introductory practicum in teamwork" resulted in an educational outcome.It increased students’ knowledge, enhanced their motivation, and improved their skill acquisition needed for a multidisciplinary team to attain expertise.The future of the IPE course should be geared toward IPE subjects from the viewpoint of relating to a patient as a team.

Key words: interprofessional education, teamwork, introductory practicum, learning outcome. 

IPEコースにおけるチームワーク入門実習の教育評価 43

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