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2010 ゼミナール 電磁気学で使う数学:付録 1 18 4 微分形式とマックスウェル方程式 、第 1 から第 3 学んだ 、それらに する「 」、およびマックス ェル )を、微分形式 いう「 」を って おします。 ベクトル えにくい ありますが、 ずっ すっきり した ります。さらに、マックス ェル んだ がかり るよう される す。 あま しく るこ きませんが、以 よう よりぜひ だけ たい った す。 4.1 微分形式とその積分 いう されるにふさわしい す。 から されたがっている」 いうこ れませんが、 ちろん があってそ よう いています。こ よう ある するこ にします。 、ベクトル すこ されるにふさ わしい対 ういう ある きかを え、 します。 4.1.1 ベクトル場の積分への不満 マックス ェル われるベクトル C F d l S F d S しましょう。 いえただ U してみます。 まず から。 C をそれぞれ P , Q します。 U されてい くて C きに したパラメタ (t) える きます。R [t 0 ,t 1 ] から U :[t 0 ,t 1 ] t 7(t) U

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2010年度全学自由研究ゼミナール

電磁気学で使う数学:付録

1月 18日 清野和彦

4 微分形式とマックスウェル方程式この章では、第 1章から第 3章までで学んだ場の積分、場の微分、それらに関する「微積分の基本定理」、およびマックスウェル方程式(微分形)を、微分形式という「別種の場」を使って述べなおします。微分形式はベクトル場に比べて抽象的で捉えにくい面もありますが、積分も微分も「微積分の基本定理」もずっとすっきりとした統一的な形になります。さらに、マックスウェル方程式は進んだ物理学へと進む足がかりとなるような形で表現されるのです。時間の都合であまり詳しく述べることはできませんが、以上のような理由よりぜひ紹介だけでもしたいと思った次第です。

4.1 微分形式とその積分

微分形式というのは「積分されるにふさわしい場」のことです。微分形式という名前からは「積分されたがっている」ということは全く読み取れませんが、もちろん理由があってそのような名前が付いています。このような名前である理由は追々説明することにします。この節では、ベクトル場の線積分と面積分を見直すことで「積分されるにふさわしい対象」とはどういうものであるべきかを考え、発見的に微分形式とその積分を定義します。

4.1.1 ベクトル場の積分への不満

マックスウェル方程式の積分形で使われるベクトル場の二つの積分

線積分∫

C

F • dl 面積分∫

S

F • dS

の定義を思い出しましょう。とはいえただ思い出すのも能がないので、空間 U の座標系を使わない形に書き直してみます。まず線積分から。曲線 C の始点と終点をそれぞれ P , Q とします。空間 U に座標系が指定されていなくても、C の向きに適合したパラメタ付け ℓ(t) を考えることができます。R の適当な閉区間 [t0, t1] から空間 U への写像

ℓ : [t0, t1] ∋ t 7→ ℓ(t) ∈ U

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付録 2

であって、ℓ(t0) = P、ℓ(t1) = Q、任意の t ∈ [t0, t1] について ℓ(t) ∈ C という三つの条件を満たすものです。線積分を考えるにはパラメタ付けが微分できなければなりませんでした。ℓ(t) を時刻 t における粒子の位置と見なしたとき、その粒子の速度ベクトルが考えられなければならないということです。第 2章では、パラメタ付けが微分可能であることを座標を使った表示に現れる各関数が微分可能であることと定義しました。一方、座標系を使わずに速度ベクトルを書くと、

ℓ′(t) =dℓ

dt(t) := lim

h→0

−−−−−−−→ℓ(t)ℓ(t + h)

h

となります。つまり、この極限が存在するとき「パラメタ付けは微分可能である」と定義するのです。ただし、

−−−−−−−→ℓ(t)ℓ(t + h) とは「始点が ℓ(t) で終点が ℓ(t + h) のベ

クトル」のことです。測度ベクトルのこの定義と、空間 U に座標系を入れて成分の微分で考えた速度ベクトルとは一致しています。ℓ′ は [t0, t1] から空間ベクトル空間 V への写像になるので、「連続写像かどうか」ということを考えることもできます。[t0, t1] 内の任意の t について

limh→0

ℓ′(t + h) = ℓ′(t)

が成り立つとき連続であると定義すればよいわけです。これもベクトルの成分を使った連続の定義と一致しています。これらを使うと、線積分の定義は座標系を使わずに ∫

C

F • dl :=

∫ t1

t0

F (ℓ(t)) • ℓ′(t)dt

と書けることがわかります。これが向きに適合したパラメタ付け ℓ をどう選んでも同じ値になることの証明は復習しませんが、選び方によらないので「ベクトル場 F と曲線 C だけで決まる値」になるわけです。同様に、空間 U に座標系を入れなくてもベクトル場の面積分の定義式を書くことができます。上で説明した曲線のパラメタ付けの場合と同様に、T をパラメタ(s, t) の集合 E から直接空間 U への写像として考えればよいだけです。T (s, t) の偏微分も ℓ(t) の微分と全く同様に定義します。すると、ベクトル場 F の曲面 S

での面積分は、向きに適合した S のパラメタ付け T : E → U を使って、∫S

F • dS :=

∫E

F (T (s, t)) • (Ts(s, t)× Tt(s, t)) dsdt

と書けます。これが向きに適合したパラメタ付け T をどう選んでも同じ値になることの証明はやはり復習しませんが、選び方によらないので「ベクトル場 F と曲面 S だけで決まる値」になることも線積分と同じです。さて、この二つの定義式を見ていて、ちょっと不思議というか遠回りな感じがしてこないでしょうか? というのは、積分されているのはベクトル場のはずなのに、直接の積分の相手はスカラー場だということです。一方、スカラー場の線積分や

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付録 3

面積分はマックスウェル方程式に現れてこない、マックスウェル方程式から見ると重要でない概念と言えるでしょう。また、スカラー場の線積分や面積分は曲線や曲面の向きによらないのに、ベクトル場の線積分や面積分は曲線や曲面の向きを逆にすると −1 倍されます。このように、ベクトル場の線積分や面積分の定義はどこか無理矢理な感じがすると思います。このことは、ベクトル場が線積分や面積分されるにふさわしい対象ではないということを示唆しているように感じられないでしょうか。そこで、ベクトル場の線積分と面積分において「本当に直接積分されているもの」をもっとよく見てみましょう。そうすれば、ベクトル場やスカラー場よりも線積分や面積分されるにふさわしい新しい概念が見えてくるかもしれないからです。線積分の定義式において本当に積分されているものは t の関数 F (ℓ(t)) • ℓ′(t) です。しかし、これが t の関数なのはパラメタ付けを決めているからで、t を変数だと見てしまっては新しい視点は得られないでしょう。一方、F (ℓ(t)) • ℓ′(t)

∥ℓ′(t)∥ は t ではなく ℓ(t) を「変数」と見たとき C を定義域としパラメタ付けによらないスカラー場になっています。そうれはそうなのですが、このスカラー場は、ベクトル場の線積分をこのスカラー場の線積分として定義したときに既に使ってしまいました。今はその定義の仕方に不満があるからいろいろと悩んでいるわけなので、このスカラー場を考えても埒が明きません。今はベクトル場 F と曲線 C を両方ひとつずつ選んで考えていますが、「F が積分されている」と見なすと、F を一つ固定して積分範囲である曲線をいろいろと選び直す度に線積分の値がそれに応じて決まると考えられます。そう考えると、F (ℓ(t)) • ℓ′(t) の ℓ(t) と ℓ′(t) は空間内(正確には F の定義域内)の任意の点 P

と任意の空間ベクトル v の組み合わせがあり得ます。つまり、積分されている本当の対象は F (P ) • v という、

点と空間ベクトルの組に数を対応させる関数

だと見ることができるのです。「点と空間ベクトルの組」とはいうものの、ℓ′(t) はℓ(t)における速度ベクトルなのですから、「点と、そこを始点とする空間ベクトル」と見るのが自然でしょう。ということは、空間内の矢印を平行移動で同一視するのをやめて、「始点と空間ベクトルの組」を矢印そのもの考えてしまえば、積分されているものは

矢印に数を対応させる関数

と考えることができます。面積分でも同様の考察をしてみましょう。積分されているものは F (T (s, t)) •

(Ts(s, t) × Tt(s, t)) でした。ここで、積分範囲である曲面 S はいろいろあり得るので、点 T (s, t) は空間内の任意の点 P であり得、Ts(s, t) と Tt(s, t) は二つの任意の空間ベクトル v, w であり得ます。だから、本当に積分されているものは、F (P ) • (v × w) という

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付録 4

点と二つの空間ベクトルに数を対応させる関数

だと思えます。この場合も Ts(s, t) と Tt(s, t) は T (s, t) を始点としていると見るのが自然なので、積分されているものは

始点を共有する二つの矢印に数を対応させる関数

と考えられます。

4.1.2 微分形式の定義

前節で大雑把な枠組みはつかめました。もちろん「何々に数を対応させる関数」というのは本当に大雑把な観察に過ぎません。そのような関数なら何でも積分される対象になるというわけにはいかないのです。というのは、それだけの条件では、線積分や面積分の値が積分範囲のパラメタ付けで変わってしまうことがあるからです。では、どのような性質を持っていれば線積分や面積分が可能なのでしょうか? すなわち、積分範囲のパラメタ付けによらずに積分範囲だけで値が決まるのでしょうか?ベクトル場の線積分や面積分をさらによく見ることで必要な性質を導き出す発見的考察をしたいところですが、時間の都合上、いきなり答を書いてしてしまいます。あしからずご了承ください。

U ′ を U の部分集合とし(面倒なら、とりあえず U ′ は空間全体 U だと思っておけば結構です)、V を空間ベクトル全体のなすベクトル空間とします。U ′ の点P と空間ベクトル v に数を対応させる関数 θ(P, v) が U ′ 上の 1次微分形式であるとは、U ′ × V を定義域とする関数として微分可能であり1、任意の点 P について V から R への写像として線形であること、つまり、

θ(P, v + w) = θ(P, v) + θ(P, w), θ(P, av) = aθ(P, v)

が任意の P ∈ U ′, v, w ∈ V , a ∈ R に対して成り立つことです。F (P ) • v がこの性質を持つことは見易いでしょう。なお、線形写像のうち行き先が 1次元ベクトル空間、つまり R であるものを線形形式あるいは 1次形式と呼びます。1次微分形式という名前の「微分」以外の部分は、この言葉使いからきているのです。(「微分」が付いている理由は次の節で「外微分」を導入するときに説明します。)

1次微分形式が「線積分されるべき対象」であることの説明の前に「面積分されるべき対象」の方も導入してしまいましょう。

U ′ の点 P と二つの空間ベクトル v, w に数を対応させる関数 ω(P, v, w) が U ′

上の 2次微分形式であるとは、U ′ × V × V 上の関数として微分可能であり、任意

1微分可能であるということの定義は、U に座標系を入れて θ を成分表示してからします。

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付録 5

の点 P について V × V から R への双線形写像、すなわち、

ω(P, v + u, w) = ω(P, v, w) + ω(P, u, w) ω(P, av, w) = aω(P, v, w)

ω(P, v, u + w) = ω(P, v, u) + ω(P, v, w) ω(P, v, aw) = aω(P, v, w)

が任意の P ∈ U ′, v, u, w ∈ V , a ∈ R に対して成り立ち、さらに、任意の P について二つの空間ベクトルに関し歪対称(交代とも言います)である、すなわち

ω(P, v, w) = −ω(P, w, v) (76)

が任意の P ∈ U ′, v, w ∈ V について成り立つことです。F (P ) • (v × w) が以上の性質を持つことはベクトル積の性質を考えれば分かります。なお、歪対称性の式(76)で v = w とすることにより、

ω(P, v, v) = 0

が得られることに注意してください。二つのベクトルに数を対応させる写像で、それぞれのベクトルについて線形性をもつものを双線形形式とか 2次形式と呼びます。2次微分形式という名前の「微分」以外の部分はここからきています。同様にして、任意の自然数 k について「k 次微分形式」を定義することができます。この章の目標である「微分形式によるマックスウェル方程式」に必要ですので、一般の k 次微分形式の定義も与えておきましょう。

U を n 次元空間、V を U から作った n 次元空間ベクトル空間とします。(「世界」の次元にかかわらずに同じように定義できることを強調したいためにこのような設定にしただけです。マックスウェル方程式に出てくるのは時間を加えた 4次元時空にすぎませんので、今まで通り普通の空間だけを考えていただければ十分です。)U の部分集合 U ′ を定義域とする k 次微分形式 ω とは、U ′ の点 P と k

個の空間ベクトル v1, . . . , vk を決めるごとに実数が決まる写像

ω : U ′ × V × · · ·V ∋ (P, v1, . . . , vk) 7−→ ω(P, v1, . . . , vk) ∈ R

であって、任意の P について ω(P, · · · ) は k 重線形性を持つ、すなわち、v1, . . . ,

vk のうち任意の k − 1 個を固定したとき残りの一つについて線形性を持ち、さらに「任意の二つの vi と vj を入れ替えると値が −1 倍になる」という歪対称性(交代性)を持つ、すなわち任意の i < j について

ω(P, v1, . . . , vi−1, vi, vi+1, . . . , vj−1, vj, vj+1, . . . , vk)

= −ω(P, v1, . . . , vi−1, vj, vi+1, . . . , vj−1, vi, vj+1, . . . , vk)

が成り立つこと、と定義します。歪対称性から、v1, . . . , vk の中の少なくとも二つが同じベクトルだと ω(P, v1, . . . , vk) = 0 となることに注意してください。

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付録 6

k 重線形性と歪対称性から k > n である k については k 次微分形式は恒等的に0になってしまいます。k > n を満たしてさえいれば k と n がなんであっても証明の方法は同じなので、n = 3, k = 4 の場合にこれを示すことを問題にしておきます。

問題 34. 普通の空間 U における 4次微分形式は恒等的に 0であることを示せ。

なお、ベクトルを変数に持たず空間の点を決めるごとに値が決まるもの、すなわちスカラー場のことを 0次微分形式とも呼びます。

4.1.3 微分形式の積分

線積分や面積分の定義式をよく見ることで微分形式を定義したのですから、微分形式の積分の定義はすぐにできます。以下、1次微分形式の線積分と 2次微分形式の面積分を定義した後、折角ですので k 次微分形式の「k 次元の広がりをもった部分集合」での積分も簡単に紹介することにします。

1次微分形式 θ の線積分は、C の向きに適合したパラメタ付け ℓ(t)(t0 ≤ t ≤ t1)を任意に選んで、 ∫

C

θ :=

∫ t1

t0

θ(ℓ(t), ℓ′(t))dt

と定義されます。この値がパラメタ付け ℓ によらないことを示さなければなりませんが、それは、ベクトル場の線積分がパラメタ付けによらないことを示した証明が完全にそのまま通用します。なぜなら、そのときに使ったベクトル場の線積分の性質は、t = τ(s) という置換で値が変わらないことだけでしたが、1次微分形式においてもそれが成り立つからです。実際、m(s) = ℓ(τ(s)) とすると、∫ t1

t0

θ(ℓ(t), ℓ′(t))dt =

∫ s1

s0

θ(ℓ(τ(s)), ℓ′(τ(s)))τ ′(s)ds

=

∫ s1

s0

θ(m(s), ℓ′(τ(s))τ ′(s))ds =

∫ s1

s0

θ(m(s),m′(s))ds

となっています。この計算を見てお分かりのように、空間ベクトルに対する線形性が曲線のパラメタ付けによらずに積分の値が決まることを保証してくれているのです。というわけで、1次微分形式はまさに「線積分されるべきもの」だと言えます。面積分も定義は同様です。ωを2次微分形式、Sを曲面、T : E ∋ (s, t) 7→ T (s, t) ∈

S ⊂ U を向きに適合した S のパラメタ付けとして、∫S

ω :=

∫E

ω(T (s, t), Ts(s, t), Tt(s, t))dsdt

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付録 7

と定義します。この値がパラメタ付け T (s, t) によらないことを示しましょう2。S

の別のパラメタ付け T : E ∋ (u, v) 7→ T (u, v) ∈ S ⊂ U は、パラメタの変換

Φ: E ∋ (u, v) 7→ (σ(u, v), τ(u, v)) ∈ E, T = T Φ

によってもとのパラメタ付け T と結びついています。(T Φ は写像の合成を意味しています。つまり、T Φ(u, v) = T (Φ(u, v)) = T (σ(u, v), τ(u, v)) ということです。)多変数関数における合成関数の微分公式によって、

Tu = (Ts Φ)σu + (Tt Φ)τu

Tv = (Ts Φ)σv + (Tt Φ)τv

となっています。よって、∫E

ω(T , Tu, Tv)dudv

=

∫E

ω(T Φ, (Ts Φ)σu + (Tt Φ)τu, (Ts Φ)σv + (Tt Φ)τv)dudv

=

∫E

ω(T Φ, Ts Φ, Ts Φ)σuσv + ω(T Φ, Ts Φ, Tt Φ)σuτv

+ω(T Φ, Tt Φ, Ts Φ)τuσv + ω(T Φ, Tt Φ, Tt Φ)τuτv dudv

=

∫E

ω(T Φ, Ts Φ, Tt Φ)(σuτv − σvτu)dudv

=

∫E

ω(T, Ts, Tt)dsdt

となります。ただし、最後の等号は 2重積分の変数変換公式です。ヤコビアンに絶対値がついていないのに変数変換公式だと言えるのは、ヤコビアンが常に正の値をとることがわかっているからです。二つのパラメタ付けはどちらも S の向きに適合しているので、Φ は E から E への向きを保つ写像になっています。このことから Φ のヤコビアン σuτv − σvτu が常に正の値をとることが保証されます。最後に「k 次元の広がりを持つ部分集合」D を積分範囲とする k 次微分形式 ω

の積分の定義を紹介だけします。「k 次元の広がりを持つ部分集合」とは曲面のときと同様に、適当にいくつかの部分に分ければ、それぞれが k 個のパラメタによってパラメタ付けできるという意味です。(本当は「向き」の概念もあるのですが、ここでは説明しないことにします。)面積分と同様に、パラメタ付け可能な部分に分けてそれぞれで積分し、その値を足すことで積分範囲全体での積分を定義すればよいので、ここでは D は

T : E ∋ (t1, . . . , tk) 7→ T (t1, . . . , tk) ∈ D ⊂ U

2ベクトル場の面積分のときにこれを示しておくのを忘れていました。

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付録 8

という(向きに適合した)パラメタ付けを持つものとします。このときD における ω の積分を ∫

D

ω :=

∫E

ω(T, Tt1 , . . . , Ttk)dt1 · · · dtk

と定義します。この値がパラメタ付けによらないことは ω が k 重線形かつ歪対称であることによって保証されることも面積分と同様です。(証明は省略します。)なお、「grad に関する微積分の基本定理」で紹介したように、0次微分形式(すなわちスカラー場)は「点積分」されます。点の向きは「+ か − か」で付けます。すなわち φ が 0次微分形式で例えば点 P0 に「−」の向きを指定しているとき、φ

の P0 における「点積分」とは −φ(P0) のことです。

4.1.4 微分形式と線形座標系

この節では、ベクトル場の成分表示のように、空間 U に線形座標系 x1x2x3 を入れて 1次微分形式と 2次微分形式を成分表示し、成分を使って線積分と面積分を表しましょう。また、線形座標系の間の変換に対して、微分形式の成分表示がどう変わるかも見ます。なお、一般の k 次微分形式の成分表示に関しては「外微分」を導入してから考えることにします。

座標系 x1x2x3 による空間ベクトル v の成分表示を

v1

v2

v3

とします。1次微

分形式 θ は、点 P と空間ベクトル v を与えるごとに数 θ(P, v) が決まるのですから、6変数関数 f によって、

θ(P, v) = f(x1, x2, x3, v1, v2, v3)

と表されます3。(点 P の座標が (x1, x2, x3) です。)しかも P を固定して v だけを「変数」だと思ったとき線形でした。このことは、v1, v2, v3 という三つの変数については 1次関数だということを意味します。よって、

θ(P, v) = f1(x1, x2, x3)v1 + f2(x1, x2, x3)v2 + f3(x1, x2, x3)v3

となる三つの 3変数関数 f1, f2, f3 があるということになります。そこで、1次微分形式 θ の成分表示を(

f1(x1, x2, x3) f2(x1, x2, x3) f3(x1, x2, x3))

3なお、この式の左辺は座標を使わない対象そのもので、右辺は座標で表したときの関数ですので、イコールで結ぶことは本当はできません。しかし、タイピングの手間を省くためにイコールで結んでしまいます。以降、このような等式は「右辺は左辺の座標表示」と解釈しながら読んでください。

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付録 9

というように、3つの関数を横に並べて行ベクトルのように表すことにします。何故行ベクトルのように表すのかというと、空間ベクトルを縦ベクトルで表すことにしているので、

θ(P, v) =(

f1(x1, x2, x3) f2(x1, x2, x3) f3(x1, x2, x3)) v1

v2

v3

というように 1次微分形式の成分表示と空間ベクトルの成分表示を行列と見なして掛け算することで、1次微分形式のとる値を上手く書き表すことができるからです。つまり、行ベクトルではなく 1行 3列の行列として表しているのです。なお、1次微分形式が微分可能ということは、これら三つの関数がすべて微分可能ということで定義します。さて、この成分表示を使って、1次微分形式 θ の曲線 C 上での線積分を式で表してみましょう。θ の成分表示には前段落の記号を使い、C のパラメタ表示をL(t) = (ξ(t), η(t), ζ(t)) (t0 ≤ t ≤ t1)とします。すると、

∫C

θ =

∫ t1

t0

(f1(L(t)) f2(L(t)) f3(L(t))

) ξ′(t)

η′(t)

ζ ′(t)

dt

=

∫ t1

t0

(f1(L(t))ξ′(t) + f2(L(t))η′(t) + f3(L(t))ζ ′(t)) dt (77)

となります。これはベクトル場の線積分の成分表示による式と同じです。ということは、実は 1次微分形式はベクトル場と同じものなのでしょうか?

それは違います。

f1(x1, x2, x3)

f2(x1, x2, x3)

f3(x1, x2, x3)

を成分表示に持つベクトル場の線積分を表す式が式 (77)と同じになるためには、座標系 x1x2x3 が正規直交座標系でなければなりませんでした。なぜなら、二つのベクトルのスカラー積が対応する成分の積の和になるのは座標系が正規直交座標系のときに限るからです。一方、1次微分形式の成分表示は、座標系が何であれ上の式になります。このことから見ても、線積分されるにふさわしい対象は 1次微分形式の方であってベクトル場ではないということが感じられると思います。

1次微分形式とベクトル場の違いをもっとはっきり感じ取るために、座標変換に対する成分の変わり方を調べましょう。別の線形座標系 y1y2y3 をとり、x1x2x3 との間に x1

x2

x3

= P

y1

y2

y3

(78)

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付録 10

という関係があるとします。(面倒なので原点は共有としてしまいました。)する

と、同じ空間ベクトル v の x1x2x3 座標系での成分表示

v1

v2

v3

と y1y2y3 座標系

での成分表示

w1

w2

w3

との間にも、同じ関係 v1

v2

v3

= P

w1

w2

w3

があります。もし、1次微分形式 θ がベクトル場なら、その二つの成分表示(

f1(x1, x2, x3) f2(x1, x2, x3) f3(x1, x2, x3))

と (g1(y1, y2, y3) g2(y1, y2, y3) g3(y1, y2, y3)

)の間にも同じ関係 f1(x1, x2, x3)

f2(x1, x2, x3)

f3(x1, x2, x3)

= P

g1(y1, y2, y3)

g2(y1, y2, y3)

g3(y1, y2, y3)

がなければなりません。ところが、実際に計算してみると、

(g1(y1, y2, y3) g2(y1, y2, y3) g3(y1, y2, y3)

) w1

w2

w3

= θ(Q, v) =

(f1(x1, x2, x3) f2(x1, x2, x3) f3(x1, x2, x3)

) v1

v2

v3

=(

f1(x1, x2, x3) f2(x1, x2, x3) f3(x1, x2, x3))

P

w1

w2

w3

となり、最初と最後を比べて(

g1(y1, y2, y3) g2(y1, y2, y3) g3(y1, y2, y3))

=(

f1(x1, x2, x3) f2(x1, x2, x3) f3(x1, x2, x3))

P

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付録 11

という関係のあることが結論されます。これはベクトルの成分の間の関係ではなく、基底の間の関係になっています。物理では、基底と同じ変換を受けるものを共変的、基底と逆の変換を受けるものを反変的と呼ぶので、ベクトル場を反変ベクトル場、1次微分形式を共変ベクトル場と呼んだりします。何にせよ、1次微分形式とベクトル場は違うものなのです。ただ、正規直交座標系においては行ベクトルと列ベクトルの積が二つの列ベクトルの(数ベクトルとしての)内積と一致し、また、P が直交行列なら P−1 = tP が成り立つので、座標系が正規直交座標系の場合に限り、1次微分形式の成分表示とベクトル場の成分表示を同一視しても差し支えない、という仕組みになっているのです。

注意. 「場」というのは空間の点に「何か」を対応させる写像、つまり U(の部分集合)から何らかの集合への写像のことでした。すると、1次微分形式を場と見なすときの「何らかの集合」は何なのでしょうか?それは「空間ベクトル空間 V から R への線形形式の全体の集合」です。これのことを V ∗ と書く習慣がありますので、1次微分形式という場は、写像の記号では θ : U ′ → V ∗ と表されることになります。なお、数学 IIで学んだように、線形写像の全体はベクトル空間になります。特に V ∗ の次元は V と同じです。V とV ∗ の形式的な違いは成分表示が座標変換に対して反変か共変かということだけなので、U ′ → V を反変ベクトル場、U ′ → V ∗ を共変ベクトル場というようにどちらも「ベクトル場」と呼んでしまうことがあるのです。

2次微分形式についても同じ考察をしておきましょう。

v の他にもう一つ u があり、それの x1x2x3 座標系による成分表示を

u1

u2

u3

とし、2 次微分形式 ω(Q, v, u) の x1x2x3 座標系による成分表示を 9 変数関数f(x1, x2, x3, v1, v2, v3, u1, u2, u3)とします。まず、ω(Q, v, u)が v に関して線形であることから、

f(x1, x2, x3, v1, v2, v3, u1, u2, u3) = f1(x1, x2, x3, u1, u2, u3)v1

+ f2(x1, x2, x3, u1, u2, u3)v2

+ f3(x1, x2, x3, u1, u2, u3)v3

となる 3つの 6変数関数 f1, f2, f3 があります。さらに、これらは w に関して線形ですので、

f1(x1, x2, x3, u1, u2, u3) = f11(x1, x2, x3)u1 + f12(x1, x2, x3)u2 + f13(x1, x2, x3)u3

f2(x1, x2, x3, u1, u2, u3) = f21(x1, x2, x3)u1 + f22(x1, x2, x3)u2 + f23(x1, x2, x3)u3

f3(x1, x2, x3, u1, u2, u3) = f31(x1, x2, x3)u1 + f32(x1, x2, x3)u2 + f33(x1, x2, x3)u3

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付録 12

となる 9つの 3変数関数があります。これを行列の積を使って整理すると、

f(x1, x2, x3, v1, v2, v3, u1, u2, u3)

=(

v1 v2 v3

) f11(x1, x2, x3) f12(x1, x2, x3) f13(x1, x2, x3)

f21(x1, x2, x3) f22(x1, x2, x3) f23(x1, x2, x3)

f31(x1, x2, x3) f32(x1, x2, x3) f33(x1, x2, x3)

u1

u2

u3

と書けます。さらに、2次微分形式が歪対称であること、すなわち ω(Q, v, u) =

−ω(Q, u, v) であることから、

fii(x1, x2, x3) = 0 (i = 1, 2, 3)

fij(x1, x2, x3) = −fji(x1, x2, x3) (i = j)

が導かれます。以上より、

f(x1, x2, x3, v1, v2, v3, u1, u2, u3)

=(

v1 v2 v3

) 0 f12(x1, x2, x3) −f31(x1, x2, x3)

−f12(x1, x2, x3) 0 f23(x1, x2, x3)

f31(x1, x2, x3) −f23(x1, x2, x3) 0

u1

u2

u3

(79)

となることがわかりました。成分は実質 3つしかありませんので、1次微分形式のように横に並べることにしましょう。並べる順番は(

f23(x1, x2, x3) f31(x1, x2, x3) f12(x1, x2, x3))

を採用します。何故この順に並べるのかは、面積分を成分表示してみれば納得してもらえると思います。曲面 S のパラメタ付けを T (s, t) = (ξ(s, t), η(s, t), ζ(s, t)) ((s, t) ∈ E) としましょう。すると、ω の面積分は、∫

S

ω(T (s, t), Ts(s, t), Tt(s, t))dsdt

=

∫E

(ξs ηs ζs

) 0 f12(T ) −f31(T )

−f12(T ) 0 f23(T )

f31(T ) −f23(T ) 0

ξt

ηt

ζt

dsdt

=

∫E

(f23(T )(ηsζt − ζsηt) + f31(T )(ζsξt − ξsζt) + f12(T )(ξsηt − ηsξt)) dsdt

=

∫E

(f23(T ) f31(T ) f12(t)

) ξs

ηs

ζs

× ξt

ηt

ζt

dsdt (80)

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付録 13

となります。ただし、ベクトル積 Ts × Tt は数ベクトルとしてのベクトル積です。これも一見ベクトル場の面積分の式に見えますが、ベクトル場の面積分の式が式(80)になるのは座標系 x1x2x3 が右手正規直交系の場合だけです。一方、2次微分形式の面積分は任意の線形座標系でこの式になります。座標変換に伴う 2次微分形式の成分表示の変換も見ておきましょう。それを見れば 2次微分形式がベクトル場でも 1次微分形式でもないことがはっきり納得できると思います。座標系 x1x2x3 と変換 (78)で結ばれている線形線形座標系 y1y2y3 をとり、それにによる v と u の成分表示をそれぞれ w1

w2

w3

o1

o2

o3

とします。そして、2次微分形式 ω(Q, v, u) の y1y2y3 座標系での成分表示を(

g23(y1, y2, y3) g31(y1, y2, y3) g12(y1, y2, y3))

としましょう。すると、

(w1 w2 w3

) 0 g12(y1, y2, y3) −g31(y1, y2, y3)

−g12(y1, y2, y3) 0 g23(y1, y2, y3)

g31(y1, y2, y3) −g23(y1, y2, y3) 0

o1

o2

o3

= ω(Q, v, u)

=(

v1 v2 v3

) 0 f12(x1, x2, x3) −f31(x1, x2, x3)

−f12(x1, x2, x3) 0 f23(x1, x2, x3)

f31(x1, x2, x3) −f23(x1, x2, x3) 0

u1

u2

u3

=(

w1 w2 w3

)tP

0 f12(x1, x2, x3) −f31(x1, x2, x3)

−f12(x1, x2, x3) 0 f23(x1, x2, x3)

f31(x1, x2, x3) −f23(x1, x2, x3) 0

P

o1

o2

o3

となります。最初と最後を見比べて、 0 g12(y1, y2, y3) −g31(y1, y2, y3)

−g12(y1, y2, y3) 0 g23(y1, y2, y3)

g31(y1, y2, y3) −g23(y1, y2, y3) 0

= tP

0 f12(x1, x2, x3) −f31(x1, x2, x3)

−f12(x1, x2, x3) 0 f23(x1, x2, x3)

f31(x1, x2, x3) −f23(x1, x2, x3) 0

P

となっていることがわかります。これは、横ベクトルの書き方では上手く表せないのですが、

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付録 14

2つある添え字のどちらについても共変

と言い表すことができます。このことを、2次微分形式は 2階の共変テンソル場であると言い表します。(ただし、ここではテンソル場については説明しません。)

4.1.5 微分形式と一般の座標系

微分形式の積分の式が線形座標系なら何でも同じ形になることがわかったので、極座標などの一般の座標系でどうなるのかを考えてみましょう。以下、普通の 3次元空間で説明しますが、図がないと大変分かりにくい話です。しかし、図を書く時間がなかったので、申し訳ありませんがたとえば平面の極座標系を例に図を書きながら読んでみてください。一般の座標系とは、U(または部分集合 U ′)から R3 への写像 X : U ∋ P 7→

X(P ) = (x1(P ), x2(P ), x3(P )) で、1対 1で(十分に)微分可能なもののことです。ただし、あとで注意するように、もう少し条件が要ります。(像は R3 全体である必要はありません。)例えば、点 P の X による行き先が (1, 3, 9) なら、「点 P の座標は (1, 3, 9) である」ということになるわけです。面倒なので、この座標のことを x1x2x3 座標系と呼ぶことにします。この x1x2x3 座標系から空間ベクトル空間の成分表示を線形座標系のときと同じ方法で作ることはできません。しかし、微分形式に入れる空間ベクトルは必ず空間の点を伴います。しかも、その点は空間ベクトルの始点と見なすべきものでした。そこで、空間ベクトル空間の成分表示として点ごとに異なることを許すことにしましょう。そうすれば以下のように自然に成分表示ができます。点 P の x1x2x3 座標を (a1, a2, a3) とします。すなわち X(P ) = (a1, a2, a3) ということです。そして、P を始点とする三つのベクトルとして、

xP1 =d

dtX−1(t + a1, a2, a3)

∣∣∣∣t=0

xP2 =d

dtX−1(a1, t + a2, a3)

∣∣∣∣t=0

xP3 =d

dtX−1(a1, a2, t + a3)

∣∣∣∣t=0

をとります。上で保留した「X が座標であるための『もう少しの条件』」とは、任意の点 P においてこの三つのベクトルが 1次独立であることです。そして、点 P

を始点とするベクトルの成分表示は、この三つのベクトルを基底に選んで与えるものとします。さて、y1y2y3 を線形な座標系としましょう。x1x2x3 座標系によるベクトルの成分と y1y2y3 によるベクトルの成分との間の関係は、点ごとに違ってきます。x1x2x3 座標の値を y1y2y3 座標の値に変換する写像を Φ = (φ1, φ2, φ3) としましょう。つまり、点 P の x1x2x3 座標が (a1, a2, a3) で y1y2y3 座標が (b1, b2, b3) の

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付録 15

とき、Φ(a1, a2, a3) = (b1, b2, b3)、すなわち φ1(a1, a2, a3) = b1, φ2(a1, a2, a3) = b2,

φ3(a1, a2, a3) = b3 となるということです。この設定で、xP1, xP2, xP3 の y1y2y3

成分を計算してみます。どれでも同じなので xP1 で計算してみましょう。xP1 はx1x2x3 座標で (t + a1, a2, a3) という動点の t = 0 における速度ベクトルです。ということは、y1y2y3 座標が

Φ(t + a1, a2, a3) = (φ1(t + a1, a2, a3), φ2(t + a1, a2, a3), φ3(t + a1, a2, a3))

という動点の t = 0 における速度ベクトルです。それは

∂Φ

∂x1

(a1, a2, a3) =

∂φ1

∂x1(a1, a2, a3)

∂φ2

∂x1(a1, a2, a3)

∂φ3

∂x1(a1, a2, a3)

となります。これが xP1 の y1y2y3 成分表示です。xP2 と xP3 の y1y2y3 成分表示は、偏微分する変数をそれぞれ x2 と x3 に取り替えたものです。ということは、点 P を始点とするベクトル v の x1x2x3 座標による成分表示が v1

v2

v3

であるとき、v の y1y2y3 成分表示は

v1

∂φ1

∂x1∂φ2

∂x1∂φ3

∂x1

+ v2

∂φ1

∂x2∂φ2

∂x2∂φ3

∂x2

+ v1

∂φ1

∂x2∂φ2

∂x2∂φ3

∂x2

=

∂φ1

∂x1

∂φ1

∂x2

∂φ1

∂x3∂φ2

∂x1

∂φ2

∂x2

∂φ2

∂x3∂φ3

∂x1

∂φ3

∂x2

∂φ3

∂x3

v1

v2

v3

となります。つまり、v の点 P における x1x2x3 成分表示に写像 Φ の点 P =

(a1, a2, a3) におけるヤコビ行列を掛けたものになるわけです。ということは、1次微分形式の成分表示に関しては、y1y2y3 における成分表示(横ベクトルです)に右から同じヤコビ行列を掛ければ x1x2x3 成分表示になります。(点ごとに反変と共変の関係にあるということです。)さて、1次微分形式 θ の線積分を計算してみましょう。x1x2x3 座標系による曲線 C のパラメタ付けを L(t) = (ξ1(t), ξ2(t), ξ3(t)) とし、それを Φ によって y1y2y3

座標系に写すことによって得られるパラメタ付けを M(t) = (η1(t), η2(t), η3(t)) と

します。また、空間ベクトル v の y1y2y3 成分表示を

w1

w2

w3

とします。さらに、x1x2x3 座標系による θ の成分表示を (f1 f2 f3)、y1y2y3 座標系による成分表示を(g1 g2 g3) とします。y1y2y3 は線形座標系なので、線積分の式は既に得られていま

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付録 16

す。それを Φ によって x1x2x3 座標による式に書き換えようというわけです。∫C

θ =

∫ t1

t0

(g1 g2 g3

) η′1

η′2

η′3

dt

=

∫ t1

t0

(g1 g2 g3

)∂φ1

∂x1

∂φ1

∂x2

∂φ1

∂x3∂φ2

∂x1

∂φ2

∂x2

∂φ2

∂x3∂φ3

∂x1

∂φ3

∂x2

∂φ3

∂x3

ξ′1

ξ′2ξ′3

dt =

∫ t1

t0

(f1 f2 f3

) ξ′1ξ′2ξ′3

dt

となります。何と、斜交座標どころか一般の曲線座標でも同じ式で表されるのです!! 証明は省略しますが、このことは面積分でも成り立ちますし、一般の n 次元空間の一般の k 次微分形式の積分でも成り立つのです。このように、微分形式はベクトル場に比べて圧倒的に積分されるにふさわしい概念なのです。

問題 35. U を平面とし、xy を正規直交座標系、rθ を xy 座標系に付随する極座標系とする。(つまり x = r cos θ, y = r sin θ となっているとする。)空間ベクトル

v の xy 座標系による成分表示が

(v1

v2

)であるとき、極座標が (r0, θ0) である点

における v の rθ 成分表示を求めよ。

4.2 外微分

この節では、微分形式の微分である外微分を紹介します。外微分は座標系を使わずに直接定義することができます。しかし、残念ながら 0次微分形式以外では「リー括弧積」なる新しい概念を導入しなければならない上、意味も全然分からないような定義です。そこで、1次以上の微分形式の定義は座標を使ってすることにし(それでも意味はわからないのですが)、座標を使わない定義は最後に紹介だけすることにします。

4.2.1 空間ベクトルと方向微分

微分形式の微分を考える前に、微分形式の「変数」である空間ベクトルについて考えを新にしておく必要があります。以下のようにして、空間ベクトルはスカラー場を「微分する操作」であると見なすのです。点 P、空間ベクトル v、スカラー場 φ に対し、実数 t を変数とする 1変数関数

g(t) をg(t) = φ(P + tv)

で定義します。(点 Q と空間ベクトル u に対し、Q + u とは u の始点を Q としたときの終点のことです。)このとき、g′(0) すなわち

d

dtφ(P + tv)

∣∣∣∣t=0

= limt→0

φ(P + tv)− φ(P )

t

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付録 17

を点 P における φ の v 方向微分といいます。ここでは vP (φ) と書くことにします。これは、スカラー場 φ の定義域を点 P を通り v を方向ベクトルとする直線に制限したときの点 P における微分のことです。ただし、その直線を数直線と見なすときに、点 P が 0で点 P + v が 1であるようにメモリを振っています。空間に座標系を固定して、方向微分を座標系を使って表してみましょう。xyz 座標系を任意の線形座標系とし、φを表す 3変数関数を f(x, y, z)とします。

また、点 P の座標を (a, b, c)、ベクトル v の成分表示を

u

v

w

とします。すると、上の g(t) は

g(t) = φ(P + tv) = f(a + tu, b + tv, c + tw)

となりますので、多変数関数における合成関数の微分法により

g′(0) = u∂f

∂x(a, b, c) + v

∂f

∂y(a, b, c) + w

∂f

∂z(a, b, c)

となります。

注意. 線形とは限らない一般の座標系でもこの表示は成立しますが、時間の都合で証明は省略します。多変数関数における合成関数の微分公式のよい練習になると思うので、興味のある方は是非考えてみてください。

4.2.2 0次微分形式の外微分

方向微分という概念は、

始点とベクトルの組 (P, v) は、スカラー場に点 P における v 方向微分 vP (φ) というスカラーを対応させる操作である

という考え方です。これを

スカラー場(すなわち 0次微分形式)φ は、始点とベクトルの組 (P, v)

に点 P における v 方向微分 vP (φ) というスカラーを対応させる操作である

と見直すと、1次微分形式になります。なぜなら、二つのベクトル v, w とスカラーa に対し、線形性

(v + w)P (φ) = vP (φ) + wP (φ) (av)P (φ) = a(vP (φ))

が成り立つからです。0次微分形式 φ からこの見なし方で作った 1次微分形式をdφ と書きます。U ′ 上のスカラー場の全体を Ω0(U ′)、U ′ 上の 1次微分形式の全体を Ω1(U ′) と書くことにすると、φ に dφ を対応させる操作は

d : Ω0(U ′) −→ Ω1(U ′)

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付録 18

という写像になります。これを 0次微分形式の外微分と言います。1次微分形式 dφ

が (P, v) に与える値を dP φ(v) と書きます4。つまり、

dP φ(v) = vP (φ)

です。座標で書いてみましょう。前小節と同じ設定にします。

vP (φ) = u∂f

∂x(a, b, c) + v

∂f

∂y(a, b, c) + w

∂f

∂z(a, b, c)

でした。これを (a, b, c) と

u

v

w

に対して対応させられた値とみるわけですから、上の式でそれらを変数と見なせばよいことになります。というわけで、dφ を線形座標系で表す式は (

∂f∂x

∂f∂y

∂f∂z

)となります。点の座標 (x, y, z) を変数とする三つの関数を横に並べた 1行 3列の行列で、これをベクトルの成分表示という縦ベクトルに左から掛けるのです。

dP φ(v) =(

∂f∂x

(a, b, c) ∂f∂y

(a, b, c) ∂f∂z

(a, b, c)) u

v

w

というわけです。ところで、座標 (x, y, z) の x, y, z 一つ一つは点に数を対応させているのですから 0次微分形式(スカラー場)です。と言うことは dx, dy, dz という 1次微分形式があります。これらはどのような 1次微分形式でしょうか。これらを xyz 座標表示してみましょう。どれでも同じですので dx を考えてみます。上の f のところを x にすればよいわけですから、

dx =(

∂x∂x

∂x∂y

∂x∂z

)=(

1 0 0)

です。つまり、

任意の点にその第 1座標を対応させる 0次形式(スカラー場)x を外微分してできる 1次微分形式 dx は、任意の点を始点とする任意の空間ベクトルにその第 1成分を対応させる 1次微分形式である。

4これまでは、1次微分形式 θ が (P, v) に対してとる値を θ(P, v) と書いてきました。しかし、「P を決めて v だけを変数と見る」という見方をすることが多いので、ここからは θP (v) というように P を小さく書くことにします。0次微分形式 φ の外微分 dφ という 1次微分形式については、これまでの書き方だと dφ(P, v)、これからの書き方だと dφP (v) となるはずです。しかし、「φ をp で外微分する」という感覚があるので、dφP ではなく dP φ と書くのが普通です。このプリントでも普通の書き方に従います。

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付録 19

というようになっているのです。同様に、dy はベクトルの第 2成分を、dz はベクトルの第 3成分を取り出す 1次微分形式です。このことから、任意の 0次形式(スカラー場)φ に対し、φ を xyz 座標で表示した関数が f のとき、

dφ =∂f

∂xdx +

∂f

∂ydy +

∂f

∂zdz

となっていることが分かります。これが、微分形式による「全微分」なるものの説明です。なお、対応関係がよく分かるようにするために、dφ のことを df と書くこともよくあります。

注意. この表示も一般の座標系で成立します。方向微分を解釈し直しただけなのだから当然なのですが、0次微分形式の外微分のよい練習になるので、興味のある方は考えてみてください。

ところで、xyz が正規直交座標系ならば、スカラー場 φ の座標による表示がf(x, y, z) のとき勾配ベクトル場 grad φ の成分表示は

∂f∂x∂f∂y∂f∂z

でした。ということは、1次微分形式とベクトル場の成分表示を

f(x, y, z)dx + g(x, y, z)dy + h(x, y, z)dz ←→

f(x, y, z)

g(x, y, z)

h(x, y, z)

によって対応させれば、外微分 d と勾配 grad は一致することになります。ただし、あくまでもこの一致は座標系が正規直交座標系の場合のみであることに気を付けてください。

4.2.3 外積と微分形式の表示

1次以上の微分形式の外微分を定義するために、二つの微分形式から一つの微分形式を作る外積という操作について説明します。

p 次微分形式 θ と q 次微分形式 ω に対し、その外積 θ ∧ ω という p + q 次微分形式を次のように定義します。

点 P と p + q 個のベクトル v1, . . . , vp+q に対し、

(θ ∧ ω)P (v1, . . . , vp+q)

:=1

p!q!

∑σ∈Sp+q

sgn(σ)θP (vσ(1), . . . , vσ(p))ωP (vσ(p+1), . . . , vσ(p+q))(81)

とする。

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付録 20

ただし、Sp+q は p+ q 個の文字の置換の全体であり、sgn(σ) は置換 σ の符号(偶置換なら 1、奇置換なら −1 )です。わかりにくいので、p と q が小さいときを置換を使わずに書いてみましょう。p

か q が 0のときはただ掛けるだけです。例えば φ が 0次微分形式、すなわちスカラー場なら、

(φ ∧ ω)P (v1, . . . , vq) = φ(P )ωP (v1, . . . , vq)

に過ぎません。(だから、いちいち φ ∧ ω と書かずに φω と書くのが普通です。)次に p = q = 1 のときは、

(θ ∧ ω)P (v, w) = θP (v)ωP (w)− θP (w)ωP (v) (82)

です。これが 2次微分形式であることは見やすいでしょう。また、p = 1, q = 2 のときは、

(θ ∧ ω)P (u, v, w) = θP (u)ωP (v, w) + θP (v)ωP (w, u) + θP (w)ωP (u, v) (83)

となります。

問題 36. 式 (82)と (83)を定義式 (81)から導け。

問題 37. 三つの 1次微分形式 θ, σ, τ と点 P と三つのベクトル u, v, w に対し、

(θ ∧ σ ∧ τ)P (u, v, w) = det

θP (u) θP (v) θP (w)

σP (u) σP (v) σP (w)

τP (u) τP (v) τP (w)

の成り立つことを示せ。

さて、以下では座標系 xyz を一つ決めて、座標と外積で微分形式を表すことを考えます。

0次微分形式はスカラー場ですから、x, y, z を変数とする 3変数関数と 1対 1に対応しています。0次微分形式に関してはこれでO.K.です。

θ を 1次微分形式としましょう。点 P を決めるごとに θP という空間ベクトル空間から Rへの線形写像が決まるのでした。ということは、座標系を使うと、(a, b, c)

を決めるごとに R3 から R への線形写像、すなわち 1行 3列の行列が決まることと同じです。というわけで、1次微分形式と、(

f(x, y, z) g(x, y, z) h(x, y, z))

という「3変数関数を三つ横に並べてできる 1行 3列の行列」は 1対 1にもれなく対応しています。一方、

(1 0 0

)は dxを、

(0 1 0

)は dy を、

(0 0 1

)は dz を表すのでした。以上より、

θ = f(x, y, z)dx + g(x, y, z)dy + h(x, y, z)dz

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付録 21

と表されることになります。ω を 2次微分形式としましょう。12ページの式 (79)で既に計算してあるように、

2次微分形式 ω に対して三つの 3変数関数 f(x, y, z), g(x, y, z), h(x, y, z) があっ

て、点 P の座標が (a, b, c)、二つのベクトル v, w の成分表示がそれぞれ

v1

v2

v3

,

w1

w2

w3

のとき、

ωP (v, w) =(

v1 v2 v3

) 0 h(a, b, c) −g(a, b, c)

−h(a, b, c) 0 f(a, b, c)

g(a, b, c) −f(a, b, c) 0

w1

w2

w3

が成り立ちます。一方、2次微分形式 dx ∧ dy は上の P , v, w に対して、

(dx ∧ dy)P (v, w) = dP x(v)dP y(w)− dP x(w)dP y(v) = v1w2 − w1v2

=(

v1 v2 v3

) 0 1 0

−1 0 0

0 0 0

w1

w2

w3

となります。同様に、

(dy ∧ dz)P (v, w) = v2w3 − w2v3 =(

v1 v2 v3

) 0 0 0

0 0 1

0 −1 0

w1

w2

w3

(dz ∧ dx)P (v, w) = v3w1 − w3v1 =

(v1 v2 v3

) 0 0 −1

0 0 0

1 0 0

w1

w2

w3

です。以上より、

ω = f(x, y, z)dy ∧ dz + g(x, y, z)dz ∧ dx + h(x, y, z)dx ∧ dz

であることがわかりました。µ を 3次微分形式としましょう。e1, e2, e3 を xyz 座標系による標準基底(すな

わち e1 の成分表示が

1

0

0

である、というような三つのベクトルです)とし、三つのベクトル u, v, w の成分表示がそれぞれ u1

u2

u3

v1

v2

v3

w1

w2

w3

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付録 22

であるとします。すなわち、

u = u1e1 + u2e2 + u3e3

v = v1e1 + v2e2 + v3e3

w = w1e1 + w2e2 + w3e3

ということです。これ(と点 P)を µ に代入し、3重線形性と歪対称性を使って計算すると、

µP (u, v, w) =3∑

i=1

3∑j=1

3∑k=1

uivjwkµP (ei, ej, ek)

= u1v2w3µP (e1, e2, e3) + u1v3w2µP (e1, e3, e2) + u2v1w3µP (e2, e1, e3)

+ u2v3w1µP (e2, e3, e1) + u3v1w2µP (e3, e1, e2) + u3v2w1µP (e3, e2, e1)

= (u1v2w3 − u1v3w2 − u2v1w3 + u2v3w1 + u3v1w2 − u3v2w1)µP (e1, e2, e3)

det

u1 v1 w1

u2 v2 w2

u3 v3 w3

µP (e1, e2, e3)

となります。一方、同じ P , u, v, w に対し、問題 37より、

(dx∧dy∧dz)P (u, v, w) = det

dP x(u) dP x(v) dP x(w)

dP y(u) dP y(v) dP y(w)

dP z(u) dP z(v) dP z(w)

= det

u1 v1 w1

u2 v2 w2

u3 w3 w3

となります。よって、

f(x, y, z) = µP (e1, e2, e3) (x, y, z)は点 P の座標

によって 3変数関数 f(x, y, z) を定義すれば、

µ = f(x, y, z)dx ∧ dy ∧ dz

と表されます。同様の議論により、n 次元空間上の k 次微分形式 ω は、n 次元空間に座標系

x1x2 · · ·xn を決めることにより、nCk 個の n 変数関数

fi1i2···ik(x1, x2, . . . , xn) 1 ≤ i1 < i2 < · · · < ik ≤ n

によってω =

∑1≤i1<···<ik≤n

fi1···ikdxi1 ∧ dxi2 ∧ · · · ∧ dxik (84)

と表されることがわかります。興味のある人は考えてみてください。

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付録 23

4.2.4 1次微分形式の外微分

1次微分形式は座標系を固定することで

θ = f(x, y, z)dx + g(x, y, z)dy + h(x, y, z)dz

と表されました。微分は線形であるべきなので(つまり、足し算と順序交換できるべきなので)、f(x, y, z)dx の外微分だけ定義できれば定義完了です。そして、

d(fdx) = df ∧ dx

と定義します。(特に d(dx) = 0となります。なぜなら f が定数関数のとき df = 0

だからです。)df の座標表示は既に得られています。それを代入して

d(fdx) =∂f

∂xdx ∧ dx +

∂f

∂ydy ∧ dx +

∂f

∂zdz ∧ dx =

∂f

∂zdz ∧ dx− ∂f

∂ydx ∧ dy

となります。問題 36からわかるように dx ∧ dx = 0, dy ∧ dx = −dx ∧ dy だからです。d(gdy) と d(hdz) も同様ですので、結局、

dθ = d(fdx) + d(gdy) + d(hdz)

=

(∂h

∂y− ∂g

∂z

)dy ∧ dz +

(∂f

∂z− ∂h

∂x

)dz ∧ dx +

(∂g

∂y− ∂f

∂y

)dx ∧ dy

であることがわかります。ところで、xyz が右手正規直交座標系のとき、ベクトル場の成分表示とその回転ベクトル場の成分表示の間には f(x, y, z)

g(x, y, z)

h(x, y, z)

∂h∂y− ∂g

∂z∂f∂z− ∂h

∂x∂g∂x− ∂f

∂y

という関係がありました。ということは、1次微分形式とベクトル場の成分表示を

fdx + gdy + hdz ←→

f

g

h

と対応させ、一方、2次微分形式とベクトル場の成分表示を

fdy ∧ dz + gdz ∧ dx + hdx ∧ dy ←→

f

g

h

と対応させると、1次微分形式に対する外微分 d とベクトル場に対する回転 rotは一致することになります。ただし、この対応は座標系が右手正規直交座標系のときに限るということに気を付けてください。

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付録 24

4.2.5 2次微分形式の外微分

座標系を使うと、2次微分形式 ω は三つの 3変数関数によって

ω = fdy ∧ dz + gdz ∧ dx + hdx ∧ dy

と表さるのでした。dω の定義も 1次微分形式のときと同様に

dω = df ∧ dy ∧ dz + dg ∧ dz ∧ dx + dh ∧ dx ∧ dy

とします。これに、

df =∂f

∂xdx +

∂f

∂ydy +

∂f

∂zdz

などと dz ∧ dx = −dx ∧ dz などを使うことにより、

dω =

(∂f

∂x+

∂g

∂y+

∂h

∂z

)dx ∧ dy ∧ dz

となります。ところで、xyz が線形座標系のとき、ベクトル場の成分表示とその発散スカラー場を表す関数の間には f

g

h

と∂f

∂x+

∂g

∂y+

∂h

∂z

という関係がありました。ということは、2次微分形式とベクトル場の成分表示を

fdy ∧ dz + gdz ∧ dx + hdx ∧ dy ←→

f

g

h

と対応させ、3次微分形式とスカラー場を表す関数を

fdx ∧ dy ∧ dz ←→ f

と対応させれば、2次微分形式に対する外微分 d とベクトル場に対する発散 div

は一致することになります。ただし、この一致は座標系が線形座標系のときに限るということに注意してください。曲線座標系では一般には成り立ちません。

4.2.6 一般の k 次微分形式の外微分

n 次元空間の k 次微分形式に対しても外微分を同様に定義します。すなわち、座標系 x1x2 · · ·xn によって式 (84)のように表されている k 次微分形式 ω に対し、外微分 dω を

dω =∑

1≤i1<i2<...<ik≤n

dfi1i2...ik(x1, . . . , xn) ∧ dxi1 ∧ dxi2 ∧ · · · ∧ dxik

と定義します。

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付録 25

4.2.7 座標を使わない外微分の表示

注意. この節では、外微分が座標系の取り方によらない操作であることを説明します。(証明まではしません。)しかし、たいへん難しいので、「外微分は座標系によらない」ということを信じたうえで未練なく次の節に飛んでください。

φ をスカラー場とします。点 P を始点とするベクトル v によって、φ の点 P

における v 方向微分 vP (φ) という値が得られます。ということは、ベクトル場 F

があれば、F (φ) というスカラー場ができることになります。点 P に F (P )P (φ)

という値を対応させるのです。スカラー場なのですから、これも方向微分される対象となりえます。たとえば、もうひとつベクトル場 G があれば、G(F (φ)) というスカラー場ができます。F と G を施す順序を入れ替えて F (G(φ)) を考えることももちろんできます。ここでは説明できませんが、この二つの差には重要な意味があって、特別な記号が用意されています。

[F , G](φ) := F (G(φ))− G(F (φ))

です。実は、このようにしてできるスカラー場は φ によらずに F と G だけから決まるあるベクトル場による方向微分になっていることが証明できます。つまり、[F , G] はベクトル場を表しているのです。このベクトル場を F と G のリー括弧積と言います。リー括弧積を使うと、微分形式の外微分を座標系を使わずに書き表すことができます。このことは、外微分が座標系によらない概念であることを意味していることに注意してください。

ω が p 次微分形式のとき、dω を

(dω)(F1, F2, . . . , Fp+1)

=

p+1∑k=1

(−1)k+1Fk

(ω(F1, . . . , Fk−1, Fk+1, . . . , Fp+1)

)+

∑1≤k<l≤p+1

(−1)k+lω([Fk, Fl], F1, . . . , Fk−1, Fk+1, . . . , Fl−1, Fl+1, . . . , Fp+1)

となります。申し訳ありませんが、証明は省略します。

4.3 ストークスの定理:微分形式に関する「微積分の基本定理」

U を n 次元空間、k を n 以下の自然数、D を U 内の k 次元の部分集合とします。ただし D には向きが指定されているとします。このとき、D を定義域に含むk − 1 次微分形式 ω に対し、 ∫

D

dω =

∫∂D

ω

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付録 26

が成り立ちます。ただし、∂D の向きは D の向きからしかるべく定めます。これをストークスの定理と言います。一般のストークスの定理の証明はここではしません(できません)。U が 3次元で k = 1, 2, 3 の場合を、スカラー場やベクトル場の微分に関する「微積分の基本定理」から証明しましょう。

4.3.1 k = 1 の場合

φ を 0次微分形式、C を始点 P 終点 Q とする曲線とします。このときストークスの定理は ∫

C

dφ = φ(Q)− φ(P ) (85)

となります。これを証明しましょう。空間に正規直交座標系を固定したとき、1次微分形式 θ とベクトル場 F の成分表示が

fdx + gdy + hdz と

f

g

h

(86)

となっているなら、任意の曲線 C について∫C

θ =

∫C

F • dl

が成り立ちます。なぜならば、9の式 (77)にあるように、正規直交座標系では両方の定義式が同じだからです。さて、第 4.2.2節の最後に書いたように、式 (86)の成分表示を持つ 1次微分形式とベクトル場を対応させるとき、0次微分形式(すなわちスカラー場)を外微分してできる 1次微分形式と勾配ベクトル場の成分表示が対応するのでした。よって、ストークスの定理 (85)を正規直交座標系と適当なパラメタ付けで表した式は、勾配ベクトル場に関する微積分の基本定理∫

C

grad φ • dl = φ(Q)− φ(P )

を同じ座標系と同じパラメタ付けで表した式と一致します。勾配ベクトル場に関する微積分の基本定理が成り立つことは証明済みですので、これでストークスの定理 (85)も証明できたことになります。

4.3.2 k = 2 の場合

θ を 1次微分形式、S を表裏付き曲面、∂S を S の縁で回転ベクトル場のストークスの定理のときと同じように S の向きから決まる向きが付いているものとしま

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付録 27

す。このとき、ストークスの定理は∫S

dθ =

∫∂S

θ (87)

となります。これを証明しましょう。空間に右手正規直交座標系 xyz を固定したとき、2次微分形式 ω とベクトル場

F の成分表示がそれぞれ

fdy ∧ dz + gdz ∧ dx + hdx ∧ dy と

f

g

h

(88)

であるとき、任意の曲面 S に対して∫S

ω =

∫S

F • dS

が成り立ちます。なぜなら右手正規直交座標系では両方の定義式が同じになるからです。確かめておきましょう。

T : E ∋ (s, t) 7→ (ξ(s, t), η(s, t), ζ(s, t)) ∈ U

を S の向きに適合したパラメタ付けとすると、∫S

ω =

∫E

(f(T )dy ∧ dz(Ts, Tt) + g(T )dz ∧ dx(Ts, Tt) + h(T )dx ∧ dy(Ts, Tt)) dsdt

=

∫E

(f(T )(dy(Ts)dz(Tt)− dy(Tt)dz(Ts))

+g(T )(dz(Ts)dx(Tt)− dz(Tt)dx(Ts))

+h(T )(dx(Ts)dy(Tt)− dx(Tt)dz(Ts))) dsdt

=

∫E

f T

g T

h T

• ηsζt − ηtζs

ζsξt − ζtξs

ξsηt − ξtηs

dsdt

=

∫E

f T

g T

h T

• ξs

ηs

ζs

ξt

ηt

ζt

dsdt =

∫S

F • dS

となって、一致しています。さて、第 4.2.4節の最後に書いたように、1次微分形式とベクトル場を第 4.3.1節の式 (86)で対応させると、1次微分形式を外微分してできる 2次微分形式とその 1

次微分形式に対応するベクトル場の回転ベクトル場は式 (88)のように対応してい

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付録 28

ます。ということは、ストークスの定理 (87)を右手正規直交座標系と適当なパラメタ付けで表した式は、回転ベクトル場に関するストークスの定理∫

S

rot F • dS =

∫∂S

F • dl

を同じ座標系と同じパラメタ付けで表した式と一致します。回転ベクトル場に関するストークスの定理が成り立つことは証明済みですので、これでストークスの定理 (87)も証明できたことになります。

4.3.3 k = 3 の場合

ω を 2次微分形式、D を空間内の領域、∂D を D の境界のなす曲面で、D の内部に触れている側を裏とします。このとき、ストークスの定理は∫

D

dω =

∫∂D

ω (89)

となります。これを証明しましょう。空間に正規直交座標系 xyz を固定したとき、3次微分形式 µ とスカラー場 φ の成分表示がそれぞれ

f(x, y, z)dx ∧ dy ∧ dz と f(x, y, z) (90)

であるとき、任意の領域 D に対して∫D

µ =

∫D

φdV

が成り立ちます。なぜなら正規直交座標系では両方の定義式が同じになるからです。確かめておきましょう。D は 3次元空間内の 3次元の広がりを持つ部分集合ですので、与えられた座標系をそのままパラメタ付けと見なすことができます。すなわち、

Id : D ∋ (x, y, z) 7→ (x, y, z) ∈ U

という恒等写像が D のパラメタ付けになっているということです。これを使って∫D

µ を計算しましょう。∫D

µ =

∫D

f(Id)dx ∧ dy ∧ dz(Idx, Idy, Idz)dxdydz

=

∫D

f(x, y, z) det

dx(Idx) dx(Idy) dx(Idz)

dy(Idx) dy(Idy) dy(Idz)

dz(Idx) dz(Idy) dz(Idz)

dxdydz

=

∫D

f(x, y, z) det

1 0 0

0 1 0

0 0 1

dxdydz =

∫D

f(x, y, z)dxdydz =

∫D

φdV

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付録 29

となって、一致しています。さて、第 4.2.5節の最後に書いたように、2次微分形式とベクトル場を式 (88)のように対応させると、2次微分形式を外微分してできる 3次微分形式とその 2次微分形式に対応するベクトル場の発散スカラー場は式 (90)のように対応しています。ということは、ストークスの定理 (89)を正規直交座標系と適当なパラメタ付けで表した式は、ガウスの発散定理∫

D

div F dV =

∫∂D

F • dS

を同じ座標系と同じパラメタ付けで表した式と一致します。ガウスの発散定理定理が成り立つことは証明済みですので、これでストークスの定理 (89)も証明できました。

4.4 マックスウェル方程式

この節の目標は、微分形式と外微分を使うことで、マックスウェル方程式を簡潔な形に書きかえることです。まず答の方程式を書いてしまい、それをベクトル場の方程式に翻訳するとマックスウェル方程式が得られる、という道筋で話すのが最短ですが、「発見的」であることを重んじてきたこのゼミの方針に合いませんので、(最早イメージ戦略は通用しなくなっているにもかかわらず、)その説明法はとらないことにします。また、最終的には電磁ポテンシャルに当たる微分形式を用いた方程式になるのですが、マックスウェル方程式を電磁ポテンシャルで書き換えた式を出発点にすることもしません。重複をいとわずマックスウェル方程式そのものから(できるだけ)発見的に話を進めることにします。ただし、ベクトル場に関して行った計算がそのまま使える場合には、以前の計算を引用します。その点はご了承ください。

4.4.1 設定

マックスウェル方程式の微分形を思い出しましょう。

ε0 div E = ρ div B = 0 rot E +∂B

∂t= 0

1

µ0

rot B − ε0∂E

∂t= J

でした。ε0 と µ0 という定数が邪魔なので、改めて

cε0E を E と、 c2ε0B を B と

と置き直します。c は光速で c = 1√ε0µ0です。このように置き換えると、マックス

ウェル方程式は

div E = cρ div B = 0 rot E +1

c

∂B

∂t= 0 rot B − 1

c

∂E

∂t= J

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付録 30

となります。さらに、定数 c も消すために、

x0 = ct, J0 = cρ

いう新しい時刻の単位と新しいスカラー場を導入します。(なぜ x0 や J0 というような添え字 0を付けているかというと、後で時空(時間と空間)の座標系としてx0x1x2x3 を使うからです。)すると、マックスウェル方程式は、定数の全くない

div E = J0 div B = 0 rot E +∂B

∂x0

= 0 rot B − ∂E

∂x0

= J

という連立方程式になります。これを微分形式に書き換えて行きましょう。ベクトル場の微分や微分形式の外微分を座標系を使って定義したので、方程式の書き換えの議論も座標系を使って進めます。以下、U を空間とし、x1x2x3 を U

の右手正規直交座標系とします。また、時間と空間の作る 4次元時空(R×U)をU と書き、時刻を上で定義した x0 で表すことにします。U の座標系は x0x1x2x3

となります。この座標系による E, B, J の成分表示をそれぞれ E1(x0, x1, x2, x3)

E2(x0, x1, x2, x3)

E3(x0, x1, x2, x3)

B1(x0, x1, x2, x3)

B2(x0, x1, x2, x3)

B3(x0, x1, x2, x3)

J1(x0, x1, x2, x3)

J2(x0, x1, x2, x3)

J3(x0, x1, x2, x3)

とします。なお、スカラー場 J0 を座標系を使ってあらわす関数は同じ記号 J0 で表すことにします。

4.4.2 「単磁極なし」div B = 0 の書き換え

まず div B = 0を書き換えましょう。なぜこの式から書き換えるかというと、場が一つと場の微分が一つだけからなっているという、4つの中で一番簡単な方程式だからです。第 4.2.5節でみたように、div に当たる外微分は d : Ω2(U)→ Ω3(U) でした。具体的には、U 上の 2次微分形式 β を

β = B1dx2 ∧ dx3 + B2dx3 ∧ dx1 + B3dx1 ∧ dx2

と定義すれば、

dβ =

(∂B1

∂x1

+∂B2

∂x2

+∂B3

∂x3

)dx1 ∧ dx2 ∧ dx3 =

(div B

)dx1 ∧ dx2 ∧ dx3

となります。よって、

div B = 0 ⇐⇒ dβ = 0 ∈ Ω3(U)

です。これで書き換えができました。

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付録 31

4.4.3 「ファラデーの法則」rot E +∂B

∂x0

= 0 の書き換え

これで B を β という微分形式に置き換えればよいことがわかったので、次に、ファラデーの法則である rot E + ∂B

∂x0= 0 を微分形式で書き換えましょう。

∂B∂x0は単純に ∂β

∂x0でよいでしょう。x0 での偏微分の意味は、係数である関数

Bi(x0, x1, x2, x3) たちの偏微分のことです。一方、第 4.2.4節で考えたように、rot

は d : Ω1(U)→ Ω2(U) に対応しているのでした。具体的には

ε = E1dx1 + E2dx2 + E3dx3

と定義すれば、

dε =

(∂E3

∂x2

− ∂E2

∂x3

)dx2 ∧ dx3 +

(∂E1

∂x3

− ∂E3

∂x1

)dx3 ∧ dx1

+

(∂E2

∂x1

− ∂E1

∂x2

)dx1 ∧ dx2

となります。この式の右辺は、β と B を対応させたのと同じ対応のさせ方によって rot E に対応しています。以上より、

rot E +∂B

∂x0

= 0 ⇐⇒ dε +∂β

∂x0

= 0 ∈ Ω2(U)

となります。これで書き換えができました。

4.4.4 「ガウスの法則」div E = J0 の言い換え

次に div E = J0 を書き換えましょう。div に当たる外微分は d : Ω2(U)→ Ω3(U)

でした。しかし、前節で E に当たる微分形式として 1次微分形式 ε ∈ Ω1(U) を選んでしまいました。仕方がないので、1次微分形式を 2次微分形式に変身させる操作を考えることにします。写像 ∗ : Ω1(U)→ Ω2(U) を

∗(f1dx1 + f2dx2 + f3dx3) := f1dx2 ∧ dx3 + f2dx3 ∧ dx1 + f3dx1 ∧ dx2

で定義します。(スター作用素と呼びます。)ε に ∗ を施してから外微分すると、

d(∗ε) = d (E1dx2 ∧ dx3 + E2dx3 ∧ dx1 + E3dx1 ∧ dx2)

=

(∂E1

∂x1

+∂E2

∂x2

+∂E3

∂x3

)dx1 ∧ dx2 ∧ dx3 =

(div E

)dx1 ∧ dx2 ∧ dx3

となります。よって、3次微分形式 ι0 を

ι0 = J0dx1 ∧ dx2 ∧ dx3

と定義すれば、div E = J0 ⇐⇒ d(∗ε) = ι0 ∈ Ω3(U)

となります。これで書き換えられました。

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付録 32

4.4.5 「アンペール・マックスウェルの法則」rot B − ∂E

∂x0

= J の書き換え

最後に rot B − ∂E∂x0

= J を微分形式に書き換えましょう。

B は 2次微分形式 β に対応させているのに、rot は外微分 d : Ω1(U) → Ω2(U)

に対応するのでした。そこで、前節とは逆に 2次微分形式 β を 1次微分形式に変身させてから d を施しましょう。写像 ∗ : Ω2(U)→ Ω1(U) を前節の ∗ の逆写像、すなわち

∗ (f1dx2 ∧ dx3 + f2dx3 ∧ dx1 + f3dx1 ∧ dx2) = f1dx1 + f2dx2 + f3dx3

で定義します。β に ∗ を施してから外微分すると、

d(∗β) = d (B1dx1 + B2dx2 + B3dx3)

=

(∂B3

∂x2

− ∂B2

∂x3

)dx2 ∧ dx3 +

(∂B1

∂x3

− ∂B3

∂x1

)dx3 ∧ dx1

+

(∂B2

∂x1

− ∂B1

∂x2

)dx1 ∧ dx2

となります。これは rot B に対応する 2次微分形式です。これで rot B の言い換えはできました。ところが、d(∗β) は 2次微分形式なのに ∂ε

∂x0は 1次微分形式です。これでは足せ

ません。そこで、 ∂E∂x0の方でも ε ではなく ∗ε を使いましょう。すると、

d(∗β)− ∂(∗ε)∂x0

= d (B1dx1 + B2dx2 + B3dx3)−∂

∂x0

(E1dx2 ∧ dx3 + E2dx3 ∧ dx1 + E3dx1 ∧ dx2)

=

(∂B3

∂x2

− ∂B2

∂x3

− ∂E1

∂x0

)dx2 ∧ dx3 +

(∂B1

∂x3

− ∂B3

∂x1

− ∂E2

∂x0

)dx3 ∧ dx1

+

(∂B2

∂x1

− ∂B1

∂x2

− ∂E3

∂x0

)dx1 ∧ dx2

となります。この 2次微分形式は rot B − ∂E∂x0に対応しています。だから、J を 2

次微分形式ι = J1dx2 ∧ dx3 + J2dx2 ∧ dx3 + J3dx3 ∧ dx1

に対応させれば、

rot B − ∂E

∂x0

= J ⇐⇒ d(∗β)− ∂(∗ε)∂x0

= ι ∈ Ω2(U)

となります。これで書き換えられました。

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付録 33

4.4.6 4次元時空 U 上の方程式に書き換える

前節まででマックスウェル方程式を微分形式と外微分を使った式に書きなおすことができました。

div E = J0 div B = 0 rot E +∂B

∂x0

= 0 rot B − ∂E

∂x0

= J

d(∗ε) = ι0 dβ = 0 dε +∂β

∂x0

= 0 d(∗β)− ∂(∗ε)∂x0

= ι

というように、一つ一つの方程式が同値な方程式に書き換えられたのです。ということは、書き換えても嬉しいことは何もなかったということになってしまいました。単に、E, B, J の成分を使って ε, β, ι を作って rot と div を d に変えただけの、記法の違いにすぎないからです。微分形式を利用することで本当に新しい視点を得るには、時間と空間を一緒にした 4次元時空 U 上の微分形式に関する方程式に書きなおす必要があります。この節では、マックスウェル方程式をよく見ることで、U 上の微分形式である ε, β,

ι0, ι たちを U 上のどのような微分形式と見なせばよいのかを考えましょう。「方程式の数をなるべく減らす」ということを方針とします。ベクトル場で考えていたときにも「電磁ポテンシャル」を使って式を二つに減らしました。その視点は微分形式で考える場合にも有効です。しかし、ここではポテンシャルを考える前の 4つの方程式を 4次元時空 U 上の方程式に書き換えることを目指すことにします。ただし、「電磁ポテンシャル」を使うことで div B = 0 と rot E + ∂B

∂x0= 0

が組合わさって消えてしまったことは参考にしましょう。つまり、

dβ = 0 と dε +∂β

∂x0

= 0 のペアと d(∗ε) = ι0 と d(∗β)− ∂(∗ε)∂x0

= ι のペア

をそれぞれ一つの方程式にすることを目指します。さて、この組み合わせで考えるときに問題になるのは、

dβ = 0 と d(∗ε) = ι0 は 3次微分形式の間の等式

なのに

dε +∂β

∂x0

= 0 と d(∗β)− ∂(∗ε)∂x0

= ι は 2次微分形式の間の等式

だということです。このズレを解消しなければどちらの組も一つの方程式にすることはできません。そこで、このズレの解消を時刻 x0 にしてもらいましょう。下の二つの等式の両辺に dx0 を外積してしまえばいとも簡単に 3次微分形式の間の等式になるからです。このやり方は荒っぽく感じるかもしれませんが、少なくとも ι0 と ι に関しては以下のようにイメージ的な説明をつけることができます。

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付録 34

我々は 1次微分形式を「ある点での速度に値を与える」と考えましたが、速度とは「位置の微小変化の極限」ですから、大雑把には 1次微分形式を「ある点とそこからの微小なずれに値を与える」と見なせます。同様に 2次微分形式と 3次微分形式も大雑把にはそれぞれ「微小な面に値を与える」および「微小な体積に値を与える」と見なせます。この考え方では dx0 は「微小な時刻変化(時間)に値を与える」となります。ところで、ι0 は電荷密度でした。電荷密度とは「時刻を決めると、微小体積を決めるごとに電荷が決まる」というものです。だからこそ3次微分形式で表されるわけです。一方、ι は電流密度でした。電流密度とは「微小な面と微小な時刻変化を与えると電荷が決まる」というものです。だから、空間成分の 2次微分形式だけではなく時刻成分の 1次微分形式を含む時空上の 3次微分形式であるのべきものなのです。これが ι に dx0 を外積することが正当であることのイメージ的な説明です。さて、以上の方針を受け入れてもらうことにすると、我々はマックスウェル方程式を

dβ = 0 と dε ∧ dx0 +∂β

∂x0

∧ dx0 = 0

というペアと、

d(∗ε) = ι0 と d(∗β) ∧ dx0 −∂(∗ε)∂x0

∧ dx0 = ι ∧ dx0

というペアという二組のペアとして考えを進めるということになります。以下、U 上での外微分と混乱しないように、U 上での外微分を d と書くことにします。だから、dx0 ではなく dx0 となります。また、i = 1, 2, 3 に関しては、dxi

と dxi は同じものを U 上の微分形式と見なすか U 上の微分形式と見なすかということの違いに過ぎません。断りなく dxi と書いたり dxi と書いたりしますのでご注意下さい。

4.4.7 dβ = 0 と dε ∧ dx0 + ∂β∂x0∧ dx0 = 0 の統合

まず右辺が両方とも 0で ∗ もないので簡単そうに見える第一のペアから考えてみましょう。とりあえず

β = B1dx2 ∧ dx3 + B2dx3 ∧ dx1 + B3dx1 ∧ dx2

を U 上で外微分してみます。すると、外微分の定義より

dβ =∂B1

∂x0

dx0 ∧ dx2 ∧ dx3 +∂B1

∂x1

dx1 ∧ dx2 ∧ dx3 +∂B2

∂x0

dx0 ∧ dx3 ∧ dx1

+∂B2

∂x2

dx2 ∧ dx3 ∧ dx1 +∂B3

∂x0

dx0 ∧ dx1 ∧ dx2 +∂B3

∂x3

dx3 ∧ dx1 ∧ dx2

=∂β

∂x0

∧ dx0 + dβ

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付録 35

となります。これはまさしく今考えている二つの方程式の β に関わる部分の和です。ということは、何かに d を施すことで二つの方程式の ε に関わる部分の和を作れれば、二つの方程式を一つにまとめることができます。ところが、二つの方程式のどちらにも ε の x0 による偏微分がありません。ということは ε そのものを外微分してもダメだということです。なぜなら、dε は ε の x0 による偏微分を含んでしまうからです。ところで、上の計算を見てもらってもわかるように、x0 による偏微分と共に dx0 が生まれます。ということは、外微分されるものがはじめから dx0 を外積されていれば、dx0 ∧ dx0 = 0 という関係から x0 による偏微分の入った項は消えます。そこで、ε そのものではなく ε∧ dx0 を外微分してみましょう。すると、

d(ε ∧ dx0) = d(E1dx1 ∧ dx0 + E2dx2 ∧ dx0 + E3dx3 ∧ dx0)

=∂E1

∂x2

dx2 ∧ dx1 ∧ dx0 +∂E1

∂x3

dx3 ∧ dx1 ∧ dx0 +∂E2

∂x1

dx1 ∧ dx2 ∧ dx0

+∂E2

∂x3

dx3 ∧ dx2 ∧ dx0 +∂E3

∂x1

dx1 ∧ dx3 ∧ dx0 +∂E3

∂x2

dx2 ∧ dx3 ∧ dx0

=

(∂E3

∂x2

− ∂E2

∂x3

)dx2 ∧ dx3 ∧ dx0 +

(∂E1

∂x3

− ∂E3

∂x1

)dx3 ∧ dx1 ∧ dx0

+

(∂E2

∂x1

− ∂E1

∂x2

)dx1 ∧ dx2 ∧ dx0

= dε ∧ dx0

となります。これはまさに欲しかった式です。以上より、

dβ = 0 と dε +∂β

∂x0

= 0

はd(ε ∧ dx0 + β) = 0

と同値であることがわかりました。下の方程式で dx0 を含まない部分が dβ = 0

と、dx0 を含む部分が dε + ∂β∂x0

= 0 と同値になっています。

問題 38. n 次元空間上の k 次微分形式 ξ と l 次微分形式 η に対し、

d(ξ ∧ η) = dξ ∧ η + (−1)kξ ∧ dη

が成り立つことを示せ。

4.4.8 d(∗ε) = ι0 と d(∗β) ∧ dx0 − ∂(∗ε)∂x0∧ dx0 = ι ∧ dx0 について

前節で第一のペアを一つの方程式にすることがうまく行ったので、この節では残りのペアに対しても同じこと試してみましょう。

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付録 36

まず、∗ε = E1dx2 ∧ dx3 + E2dx3 ∧ dx1 + E3dx1 ∧ dx2

に d を施してみます。すると、

d(∗ε) =∂E1

∂x0

dx0 ∧ dx2 ∧ dx3 +∂E1

∂x1

dx1 ∧ dx2 ∧ dx3 +∂E2

∂x0

dx0 ∧ dx3 ∧ dx1

+∂E2

∂x2

dx2 ∧ dx3 ∧ dx1 +∂E3

∂x0

dx0 ∧ dx1 ∧ dx2 +∂E3

∂x3

dx3 ∧ dx1 ∧ dx2

=∂(∗ε)∂x0

∧ dx0 + d(∗ε)

となります。これは今考えている二つの方程式で ∗ε に関わる部分の差です。前節のまねをするのですから、次は (∗β) ∧ dx0 の外微分です。

∗β = B1dx1 + B2dx2 + B3dx3

なので、

d((∗β) ∧ dx0) = d(B1dx1 ∧ dx0 + B2dx2 ∧ dx0 + B3dx3 ∧ dx0)

=∂B1

∂x2

dx2 ∧ dx1 ∧ dx0 +∂B1

∂x3

dx3 ∧ dx1 ∧ dx0 +∂B2

∂x1

dx1 ∧ dx2 ∧ dx0

+∂B2

∂x3

dx3 ∧ dx2 ∧ dx0 +∂B3

∂x1

dx1 ∧ dx3 ∧ dx0 +∂B3

∂x2

dx2 ∧ dx3 ∧ dx0

=

(∂B3

∂x2

− ∂B2

∂x3

)dx2 ∧ dx3 ∧ dx0 +

(∂B1

∂x3

− ∂B3

∂x1

)dx3 ∧ dx1 ∧ dx0

+

(∂B2

∂x1

− ∂B1

∂x2

)dx1 ∧ dx2 ∧ dx0

= d(∗β) ∧ dx0

となります。これはまさに欲しかった式です。以上より、

d(∗ε) = ι0 と d(∗β)− ∂(∗ε)∂x0

= ι

はd(∗ε− (∗β) ∧ dx0) = ι0 − ι ∧ dx0

と同値であることがわかりました。下の方程式で dx0 を含まない部分が d(∗ε) = ι0と、dx0 を含む部分が d(∗β)− ∂(∗ε)

∂x0= ι と同値になっています。

4.4.9 成分で書いてみる

既に計算では成分表示を使いましたが、ここでは得られた方程式そのものを成分で書いてみましょう。それによって空間上の微分形式への作用だった ∗ を時空上の微分形式への作用と解釈するにはどうすればよいかがわかるはずです。

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付録 37

一番目の方程式d(ε ∧ dx0 + β) = 0

は、

d(E1dx1 ∧ dx0 + E2dx2 ∧ dx0 + E3dx3 ∧ dx0

+B1dx2 ∧ dx3 + B2dx3 ∧ dx1 + B3dx1 ∧ dx2

)= 0

(91)

となります。時空 U 上の 2次微分形式とは

f10dx1 ∧ dx0 + f20dx2 ∧ dx0 + f30dx3 ∧ dx0

+ f23dx2 ∧ dx3 + f31dx3 ∧ dx1 + f12dx1 ∧ dx2

というもののことですので、上の方程式は

外微分すると 0になる 2次微分形式

ということを意味しています。外微分すると 0になる微分形式を閉形式と呼びます。この言葉を使うと、div B = 0 と rot E + ∂B

∂x0= 0 という二つの方程式は、

電場と磁束密度は上のようにして時空上の 2次微分形式と見なしたとき閉形式である

と言っていることになります。二番目の方程式

d(∗ε− (∗β) ∧ dx0) = ι0 − ι ∧ dx0

も同様に成分で書いてみましょう。すると、

d(E1dx2 ∧ dx3 + E2dx3 ∧ dx1 + E3dx1 ∧ dx2

−B1dx1 ∧ dx0 −B2dx2 ∧ dx0 −B3dx3 ∧ dx0)(92)

=J0dx1 ∧ dx2 ∧ dx3

− J1dx2 ∧ dx3 ∧ dx0 − J2dx3 ∧ dx1 ∧ dx0 − J3dx1 ∧ dx2 ∧ dx0

となります。式 (91)と式 (92)で d を施されている 2次微分形式を見比べて、時空上の 2次微分形式を別の 2次微分形式に写す写像 ∗ : Ω2(U)→ Ω2(U) を

∗(dx1 ∧ dx0) = dx2 ∧ dx3 ∗(dx2 ∧ dx3) = −dx1 ∧ dx0

∗(dx2 ∧ dx0) = dx3 ∧ dx1 ∗(dx3 ∧ dx1) = −dx2 ∧ dx0

∗(dx3 ∧ dx0) = dx1 ∧ dx2 ∗(dx1 ∧ dx2) = −dx3 ∧ dx0

によって定義します。これを使えば、マックスウェル方程式は次のようにまとめられることになります。

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付録 38

3次微分形式 ι を

ι = J0dx1∧ dx2∧ dx3−J1dx0∧ dx2∧ dx3−J2dx0∧ dx3∧ dx1−J3dx0∧ dx1∧ dx2

とする。時空 U 上のマックスウェル方程式とは、2次微分形式 ω ∈ Ω2(U) に関する次の二つの方程式のことである。

dω = 0 d(∗ω) = ι この二つを満たす ω を正規直交座標系を使って成分表示したものが

E1dx1∧ dx0 +E2dx2∧ dx0 +E3dx3∧ dx0 +B1dx2∧ dx3 +B2dx3∧ dx1 +B3dx1∧ dx2

であるとき、その座標系で E1

E2

E3

B1

B2

B3

という成分表示を持つベクトル場がそれぞれ電場と磁束密度である、というわけです。

問題 39. U 上のスカラー場とベクトル場の組 (φ, A)が電場と磁束密度の組 (E, B)

の電磁ポテンシャルであるとは、

E = − grad φ− ∂A

∂x0

B = rot A

の成り立つことでした。電磁ポテンシャルが存在することを第 3.4.2節で示したとき、(E, B) が「単磁極なし」と「ファラデーの法則」を満たすことしか使いませんでした。このことを使って、時空 U 上の 2次微分形式 ω が dω = 0 を満たすなら、U 上の 1次微分形式 θ で dθ = ω となるものが存在することを示せ。

問題 39の結論から、時空上の 2次微分形式に対する方程式としてのマックスウェル方程式「dω = 0 かつ d(∗ω) = ι」を時空上の 1次微分形式に対する方程式と解釈することができます。ω のところに dθ を代入するだけです。ところが、空間の次元にかかわらず、一般に任意の微分形式 η に対して d(dη) = 0 が成り立ちます。

問題 40. d(dη) = 0 を証明せよ。

よって、特に d(dθ) = 0 は自動的に成り立ってしまいます。このことから、時空上の 1次微分形式に関する方程式としてのマックスウェル方程式は、一つの式

d(∗dθ) = ι

になってしまうのです。これが目標の「簡潔な形に表されたマックスウェル方程式」です。

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付録 39

解答

問題 34の解答

空間ベクトル空間 V の基底 e1, e2, e3 を一組とっておきます。任意の 4つのベクトル u, v, w, x は基底の一次結合で表せます。それを

u = u1e1 + u2e2 + u3e3

v = v1e1 + v2e2 + v3e3

w = w1e1 + w2e2 + w3e3

x = x1e1 + x2e2 + x3e3

としましょう。4次微分形式 ω にこれらを代入し 4重線形性を使って整理すると、

ω(P, u, v, w, x) = ω

(P,

3∑i=1

uiei,3∑

j=1

vj ej,3∑

k=1

wkek,3∑

l=1

xlel

)

=3∑

i=1

3∑j=1

3∑k=1

3∑l=1

uivjwkxlω(P, ei, ej, ek, el)

となります。ところが、i, j, k, l はそれぞれ 1, 2, 3のどれかなので、i, j, k, l の中には必ず同じ値が一組はあります。よって、任意の P と任意の i, j, k, l の組について

ω(P, ei, ej, ek, el) = 0

です。これで示せました。

問題 35の解答

極座標が (r0, θ0) である点におけるベクトルの rθ 成分表示とは、xy 成分が

d

dt

((t + r0) cos θ0

(t + r0) sin θ0

)∣∣∣∣∣t=0

=

(cos θ0

sin θ0

)(93)

とd

dt

(r0 cos(t + θ0)

r0 sin(t + θ0)

)∣∣∣∣∣t=0

=

(−r0 sin θ0

r0 cos θ0

)(94)

である二つのベクトルの組を基底としたときの 1次結合の成分のことです。すなわち (

v1

v2

)= w1

(cos θ0

sin θ0

)+ w2

(−r0 sin θ0

r0 cos θ0

)

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付録 40

となる w1 と w2 を縦に並べた数ベクトルが求める成分表示です。この式は(v1

v2

)=

(cos θ0 −r0 sin θ0

sin θ0 r0 cos θ0

)(w1

w2

)(95)

と整理できるので、右辺の 2次正方行列の逆行列を両辺に左から掛ければ求める数ベクトルが(

w1

w2

)=

1

r0

(r0 cos θ0 r0 sin θ0

− sin θ0 cos θ0

)(v1

v2

)=

(v1 cos θ0 + v2 sin θ0

−v1

r0sin θ0 + v2

r0cos θ0

)(96)

となります。

式 (95)の 2次正方行列が rθ 座標系から xy 座標系への変換のヤコビ行列であり、式 (96)の 2次正方行列が xy 座標系から rθ 座標系への変換のヤコビ行列です。なお、二つのベクトル (93),(94)の図を書けば、上の結果は図形的に納得できるのですが、時間がなくて図を書くことができません。是非自分で図を書いて、計算ではなく図形的にこの問題の結果を考えてみてください。

問題 36の解答

(v, w)の置換は、置換した結果が (v, w)のままの恒等置換(符号は正)と、(w, v)

というように入れ替わる置換(符号は負)の二つがあります。また、1! = 1 です。よって、

(θ ∧ ω)P (v, w) = θP (v)ωP (w)− θP (w)ωP (v)

となります。なお、これは

det

(θP (v) θP (w)

ωP (v) ωP (w)

)と一致しています。次に、(u, v, w) の置換を考えます。互換(二つの入れ替え)は三つあって、それらはすべて奇置換(符号は負)です。互換の結果は (u, w, v), (v, u, w), (w, v, u) です。残りの三つはすべて偶置換(符号は正)で、置換の結果は (u, v, w), (v, w, u),

(w, u, v) です。これらに ω が歪対称であることを使って定義式を整理すると、

(θ ∧ ω)P (u, v, w) =1

1!2!(−θP (u)ωP (w, v)− θP (v)ωP (u, w)− θP (w)ωP (v, u)

+θP (u)ωP (v, w) + θP (v)ωP (w, u) + θP (w)ωP (u, v))

=1

2(θP (u)ωP (v, w) + θP (v)ωP (w, u) + θP (w)ωP (u, v)

+θP (u)ωP (v, w) + θP (v)ωP (w, u) + θP (w)ωP (u, v))

= θP (u)ωP (v, w) + θP (v)ωP (w, u) + θP (w)ωP (u, v)

となります。

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付録 41

問題 37の解答

式 (83)の ω に σ ∧ τ を代入して (82)を使えば得られます。

(θ ∧ σ ∧ τ)P (u, v, w)

= θP (u)(σ ∧ τ)P (v, w) + θP (v)(σ ∧ τ)P (w, u) + θP (w)(σ ∧ τ)P (u, v)

= θP (u)(σP (v)τP (w)− σP (w)τP (v)) + θP (v)(σP (w)τP (u)− σP (u)τP (w))

+ θP (w)(σP (u)τP (v)− σP (v)τP (u))

= θP (u)σP (v)τP (w) + θP (v)σP (w)τP (u) + θP (w)σP (u)τP (v)

− θP (u)σP (w)τP (v)− θP (v)σP (u)τP (w)− θP (w)σP (v)τP (u)

= det

θP (u) θP (v) θP (w)

σP (u) σP (v) σP (w)

τP (u) τP (v) τP (w)

となります。

問題 38の解答

座標系 x1x2 · · ·xn を使うと、ξ と η は

ξ =∑

1≤i1<···<ik≤n

fi1···ikdxi1 ∧ · · · ∧ dxik

η =∑

1≤j1<···<jl≤n

gj1···jldxj1 ∧ · · · ∧ dxjl

と書けます。この二つを外積すると

ξ ∧ η =∑

1≤i1<···<ik≤n1≤j1<···<jl≤n

fi1···ikgj1···jldxi1 ∧ · · · ∧ dxik ∧ dxj1 ∧ · · · ∧ dxjl

となります。よって、

ξ = fdx1 ∧ · · · ∧ dxk η = gdxk+1 ∧ · · · ∧ dxk+l

のときに証明すれば十分です。このとき

ξ ∧ η = fgdx1 ∧ · · · ∧ dxk+l

です。外微分の定義より

d(ξ ∧ η) = d(fg) ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk+l

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付録 42

となります。ここで、

d(fg) =n∑

i=1

∂(fg)

∂xi

dxi =n∑

i=1

(∂f

∂xi

g + f∂g

∂xi

)dxi = gdf + fdg

となっていますので、結局

d(ξ ∧ η) = gdf ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk+l + fdg ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk+l

です。一方、

dξ = df ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk dη = dg ∧ dxk+1 ∧ · · · ∧ dxk+l

ですので、

dξ ∧ η = (df ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk) ∧ (gdxk+1 ∧ · · · ∧ dxk+l)

= gdf ∧ dx1 ∧ · · · dxk+l

ξ ∧ dη = (fdx1 ∧ · · · ∧ dxk) ∧ (dg ∧ dxk+1 ∧ · · · ∧ dxk+l)

= (−1)kfdg ∧ dx1 ∧ dxk+l

となります。ここで、任意の m に対して

dxm ∧ dg =k+l∑

j=k+1

dxm ∧∂g

∂xj

dxj =k+l∑

j=k+1

∂g

∂xj

dxm ∧ dxj =k+l∑

j=k+1

∂g

∂xj

(−dxj ∧ dxm)

= −dg ∧ dxm

であることを k 回繰り返して使いました。この二つから、

dξ ∧ η + (−1)kξ ∧ dη = gdf ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk+l + fdg ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk+l

となります。以上で d(ξ ∧ η) = dξ ∧ η + (−1)kξ ∧ dη が示せました。

問題 39の解答

いままでどおりの座標系 x0x1x2x3 を使い、A, E, B のこの座標系による成分表示を、それぞれ A1

A2

A3

,

E1

E2

E3

,

B1

B2

B3

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付録 43

とします。(面倒なので、φ を座標で表す関数のことは同じ文字 φ で表すことにします。)この成分を使って ω を表すと、

ε = E1dx1 + E2dx2 + E3dx3

β = B1dx2 ∧ dx3 + B2dx3 ∧ dx1 + B3dx1 ∧ dx2

ω = ε ∧ dx0 + β

= E1dx1 ∧ dx0 + E2dx2 ∧ dx0 + E3dx3 ∧ dx0

+ B1dx2 ∧ dx3 + B2dx3 ∧ dx1 + B3dx1 ∧ dx2

となるのでした。さて、(φ, A) が (E, B) の電磁ポテンシャルであるという式

E = − grad φ− ∂A

∂x0

B = rot A

の二番目の式は、空間 U 上の 1次微分形式 α を

α = A1dx1 + A2dx2 + A3dx3

で定義すると、β = dα

が成り立つということを意味しています。また、一番目の式を成分で書くと、 E1

E2

E3

= −

∂φ∂x1∂φ∂x2∂φ∂x3

∂A1

∂x0∂A2

∂x0∂A3

∂x0

となり、これは

ε = −dφ− ∂α

∂x0

が成り立つことを意味しています。よって、

−(

dφ +∂α

∂x0

)∧ dx0 + dα = ε ∧ dx0 + β = ω

です。一方、

d(φdx0) =

(∂φ

∂x0

dx0 +∂φ

∂x1

dx1 +∂φ

∂x2

dx2 +∂φ

∂x3

dx3

)∧ dx0 = dφ ∧ dx0

および

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付録 44

dα = d(A1dx1 + A2dx2 + A3dx3)

=∂A1

∂x0

dx0 ∧ dx1 +∂A1

∂x2

dx2 ∧ dx1 +∂A1

∂x3

dx3 ∧ dx1

+∂A2

∂x0

dx0 ∧ dx2 +∂A2

∂x1

dx1 ∧ dx2 +∂A2

∂x3

dx3 ∧ dx2

+∂A3

∂x0

dx0 ∧ dx3 +∂A3

∂x1

dx1 ∧ dx3 +∂A3

∂x2

dx2 ∧ dx3

= −(

∂A1

∂x0

dx1 +∂A2

∂x0

dx2 +∂A3

∂x0

dx3

)∧ dx0

+

(∂A3

∂x2

− ∂A2

∂x3

)dx2 ∧ dx3 +

(∂A1

∂x3

− ∂A3

∂x1

)dx3 ∧ dx1

+

(∂A2

∂x1

− ∂A1

∂x2

)dx1 ∧ dx2

= − ∂α

∂x0

∧ dx0 + dα

となっています。以上より、

d(−φdx0 + α

)= −dφ ∧ dx0 −

∂α

∂x0

∧ dx0 + dα = ω

となります。すなわちθ = −φdx0 + α

とおけば dθ = ω が成り立ちます。

問題 40の解答

問題 38のように、η = fdx1 ∧ · · · ∧ dxk

に対して示せば十分です。

dη = df ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk =n∑

i=k+1

∂f

∂xi

dxi ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk

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付録 45

であり、k + 1 以上 n 以下の任意の i に対して

d

(∂f

∂xi

dxi ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk

)=

n∑j=k+1

j =i

∂2f

∂xj∂xi

dxj ∧ dxi ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk

=i−1∑

j=k+1

∂2f

∂xj∂xi

dxj ∧ dxi ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk

−n∑

j=i+1

∂2f

∂xj∂xi

dxi ∧ dxj ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk

となります。よって、

d(dη) =∑

k+1≤i<j≤n

(∂2f

∂xi∂xj

− ∂2f

∂xj∂xi

)dxi ∧ dxj ∧ dx1 ∧ · · · ∧ dxk

となります。我々の扱っている関数はすべて C2 級であることを仮定しているので、

∂2f

∂xi∂xj

=∂2f

∂xj∂xi

が成り立っています。これで d(dη) = 0 が示せました。