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農研機構(のうけんきこう)は、国⽴研究開発法⼈ 農業・⾷品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネーム(通称)です。 令和2年度越境性動物疾病防疫対策強化推進会議 2020102⼝蹄疫 −発⽣から10年⽬を迎えて− 農研機構動物衛⽣研究部⾨ ⼭川 (資料6) www.pirbright.ac.uk Pool 1 Pool 2 Pool 3 Pool 4 Pool 5 近年の⼝蹄疫流⾏の特徴 Pool1 (東南アジア・東アジア流⾏地域) ⾎清型 O (SEA(Mya98), MESA(PanAsia), CATHAY) および A(ASIA(Sea97)) が主に流行 ⾎清型O, MESA topotype, Ind2001d Pool 2 から Pool 1 へと拡⼤ ラオス・ベトナム(2015)、 ロシア2016)、 韓国中国 (20172016年以降、 Ind2001dの多くがInd2001e系統に再分類) 20171、 ⾎清型Asia1 (ASIA (GVIII) ) がミャンマーで確認その後報告なし Longdistance “transpool” movements from Pool 2 O/MESA/Ind2001d A/ASIA/GVII O/MESA/Ind2001d A/ASIA/GVII 常在地 散発地域 ワクチン⾮接種清浄地域 2015A/ASIA/GVII が出現し速やかにPool 3に侵⼊・拡⼤ O/MESA/Ind2001d O/MESA/Ind2001d

農研機構(のうけんきこう)は、国⽴研究開発法⼈農業・⾷ …...5/February/2011 9 2010年口蹄疫発生292症例中127例からウイルス を分離し、次世代シークエンサーにより、104株の

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  • ※ 農研機構(のうけんきこう)は、国⽴研究開発法⼈農業・⾷品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネーム(通称)です。

    令和2年度越境性動物疾病防疫対策強化推進会議2020年10⽉2⽇

    ⼝蹄疫−発⽣から10年⽬を迎えて−

    農研機構動物衛⽣研究部⾨⼭川 睦

    (資料6)

    www.pirbright.ac.uk

    Pool 1

    Pool 2Pool 3

    Pool 4

    Pool 5

    近年の⼝蹄疫流⾏の特徴

    Pool1(東南アジア・東アジア流⾏地域)⾎清型 O (SEA(Mya‐98), ME‐SA(PanAsia), CATHAY) および A (ASIA(Sea‐97)) が主に流行⾎清型O, ME‐SA topotype, Ind2001dがPool 2 から Pool 1 へと拡⼤→ラオス・ベトナム(2015)、 ロシア(2016)、 韓国・中国 (2017)

    (2016年以降、 Ind2001dの多くがInd‐2001e系統に再分類)2017年1月、⾎清型Asia1 (ASIA (G‐VIII) ) がミャンマーで確認→その後報告なし

    Long‐distance “trans‐pool” movements  from Pool 2

    O/ME‐SA/Ind‐2001d 

    A/ASIA/G‐VIIO/ME‐SA/Ind‐2001d 

    A/ASIA/G‐VII

    常在地散発地域ワクチン⾮接種清浄地域

    ★2015にA/ASIA/G‐VII が出現し速やかにPool 3に侵⼊・拡⼤

    O/ME‐SA/Ind‐2001d 

    O/ME‐SA/Ind‐2001d 

  • 2

    アジアにおける口蹄疫の発生状況(2018年1月以降の発生)

    O: SEA(Mya-98), ME-SA(PanAsia, Ind2001e), CATHAYA: ASIA(Sea-97), A/ASIA/G-VII ?

    OおよびA型ウイルスによる発生が主

    3

    ・致死率は数%と低いが、感染力・伝播力が非常に強い(急速に地域に拡大)。・産肉、産乳量が低下するため、畜産業全般に甚大な経済的損失をもたらす。・家畜・畜産物の国際貿易にも悪影響を及ぼす。

    なぜ口蹄疫は重要なのか?

    ・感染動物との接触(呼気、よだれ、乳、糞)

    ・人、物品、車両などを介した伝播も

    ★感染動物は発潜伏期間中(発症前)からウイルスを排泄する!★発症後の経過が速い!★宿主域広い!-いろんな種類の偶蹄類に広がる

    牛、豚、山羊、緬羊、水牛、シカ、ラクダなど60種以上

    ★牛の感受性が一番高い!少量のウイルスで感染・発症

    ★豚は大量のウイルスを排泄する!★反芻獣は感染耐過後キャリア化

    期間は最長で水牛5年、牛2.5年、緬山羊9ヶ月、シカ11週。

    口蹄疫ウイルス

    ★環境中で長生きする★変異しやすい・多様性に富む=ワクチン効果に影響

    感染

    伝播

    伝播

  • 4

    感受性:高い

    感受性:中程度ウイルス排出:牛の100-2000倍

    長い潜伏期間(約10日)中からエアロゾルの状態で気道から排出

    感受性:低い症状が明確でない

    感染動物の摘発が困難移動により拡大化(2001英国)

    Detector(検出動物)

    Amplifier(増幅動物)Carrier(運搬動物) Silent shedder

    発生地域の飼養畜種とその密度が症状や感染の拡大に大きく影響(例えば、感染させる畜種と感染させられる畜種の組み合わせが違うと伝播様相は全く異なってくる)

    口蹄疫ウイルスの感染疫学(各種家畜の役割)

    5

    口蹄疫による長期的被害

    乳用牛: 年間搾乳量が25%減少肉用牛: 増体量低下による出荷期間10-20%遅延豚 : 年間生産量が20%減少

    流産により繁殖成績が最大10%低下幼獣の心筋炎による死亡率40-90%(とくに豚・緬羊)経済的負担のため発育不良家畜の淘汰が必要となる種畜の喪失等による年間経営計画の見直しを余儀なくされる

    畜産物輸出国: 海外市場の喪失畜産物輸入国: 畜産物の内外価格差があり国際競争力が

    弱い場合、国内畜産業全体が疲弊する

    (Doel TR, Virus Research, 2003)

    日本では長期化、常在化したことによる口蹄疫の本当の被害経験はない!口蹄疫の清浄性を失うと............国際市場を消失し、生産基盤の衰退を招き、畜産物の安全保障を担保できなくなる。

  • 6

    日本における口蹄疫の発生

    年 動物 場所 殺処分頭数 ウイルス

    1900-1908 牛 18県 4,051 不明

    2000 牛宮崎(3件)北海道(1件)

    740O/ME-SAtopotype

    PanAsia lineage

    2010

    牛豚

    山羊めん羊

    宮崎(292件)297,808

    (ワクチン接種動物含む)

    O/SEAtopotype

    Mya-98 lineage

    2000年、2010年の共通背景として、東アジア地域における口蹄疫流行が挙げられる。特に中国・韓国での発生に引き続いて発生が起こっている。

    2000年は伝播力の弱い低病原性株による牛のみの発生にとどまったが、2010年は典型的な株による発生であり、豚によってウイルスの増幅・拡散が起こった。

    7

    侵入時期は3月中旬と推定。4月20日時点では、少なくとも10農場以上に侵入していたと推察される。侵入経路は特定困難。

    主に人や物、車両を介して感染が拡大したと考えられる。

    ⼝蹄疫 2010

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    292 件

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    牛発生農場数 豚発生農場数 累積発生農場数

    (戸) (戸)

    発生

    事例

    宮崎県における口蹄疫発生経過(2010年)

    豚で発生したことにより感染が急速に拡大

    5/22ワクチン接種開始

    20/April/2010 19/May 4/June

    口蹄疫発生を確認

    ワクチン接種を決定

    口蹄疫対策特別措置法の施行

    27/July

    すべての移動制限区域を解除

    OIEによるワクチン非接種清浄国への復帰認定

    5/February/2011

    9

    2010年口蹄疫発生292症例中127例からウイルスを分離し、次世代シークエンサーにより、104株の全塩基配列を決定した。2010年に国内に侵入した口蹄疫ウイルスは1株のみ(侵入回数は1回のみ)であり、流行中に少しずつ変異していったことが推察された。

    口蹄疫ウイルス2010年宮崎流行株の分子系統樹解析

    2010年宮崎株O:/SEA/Mya-98

    2010年流⾏時の臨床材料から分離された⼝蹄疫ウイルスの分⼦疫学的解析

    各タンパク質コード領域の変異割合

    PCR標的部位として有⽤

  • 10

    乳頭の水疱乳頭の水疱

    半日後

    潰瘍化(びらん)潰瘍化(びらん)水疱の破裂水疱の破裂

    口腔内の水疱(潰瘍化)口腔内の水疱(潰瘍化)鼻腔内の潰瘍鼻腔内の潰瘍

    舌の水疱舌の水疱

    臨床症状(牛)

    1.泌乳量の減少2.発熱、流涎、跛行3.舌、唇、歯茎、乳頭、乳房、蹄部等に水疱が出現

    短時間で大きさと数を増し、その後破裂・潰瘍化4.幼弱牛は心筋炎により死亡 多量のよだれ多量のよだれ

    11

    A. - Control B. – FMD, 24 hr PI

    Primary clinical sign: 発熱

    11

  • 12

    1.発熱、食欲不振、嗜眠2.跛行、起立しようとして犬座姿勢をとる3.鼻鏡、口唇、蹄部に水疱が出現

    短時間で大きさと数を増し、その後破裂・潰瘍化重傷例では蹄が脱落 起立不能となり死亡

    4.母豚では乳頭に水疱が出現乳が飲めない 新生豚は心筋炎になりやすい(致死率50%以上)

    鼻の水疱鼻の水疱 蹄部の水疱(潰瘍化)蹄部の水疱(潰瘍化)

    蹄部(副蹄)の水疱蹄部(副蹄)の水疱

    蹄部の潰瘍蹄部の潰瘍 蹄部の潰瘍蹄部の潰瘍

    臨床症状(豚)

    乳頭の水疱乳頭の水疱

    乳頭の潰瘍乳頭の潰瘍

    虎班心虎班心

    13

    典型的な病変の経過

    農場内家畜の臨床検査

    最も古い病変を持つ

    個体

    潜伏期牛6.2日豚10.6日

    めん羊9.0日

    農場の感染時期の推定

    ウイルス排出時期の推定発症前牛1〜5日

    豚2〜10日めん羊0〜5日前

    から排出

    発症日 臨床症状

    1日目 上皮は白く、液体で満たされた水疱が形成される。

    2日目 水疱は破裂し、生々しく明るい赤色の真皮が露呈している。真皮との境界は明確で繊維素の析出はない。

    3日目 明確な境界と明るい赤色が失われはじめ、繊維素の析出が始まる。

    4日目 破れた水疱の周囲から上皮の再生が始まる。

    7日目 瘢痕化が進行し、上皮の回復がみられる。

    経過が速い!!

    潜伏期の長さは動物種や暴露ウイルス量に依存して変動(2~14日)

    境界明瞭、病変大きめ、滲出物なく、水疱も潰瘍もきれい。

    発熱、水疱形成(口腔・鼻腔、蹄部、乳房)、流涎、跛行、乳量低下、心筋炎による幼弱動物の死亡など

  • 14

    接種2日目 蹄冠部に帯状に白色水疱

    接種3日目 水疱破裂(左側のみ) 接種4日目 水疱破裂(両側)

    口蹄疫ウイルス血清型A型接種豚の水疱病変

    15

    上写真:牛での注意ポイント上唇・硬口蓋(特に注意)下顎歯茎の内側は治りやすい舌の背側面(腹側にはなし)蹄趾間部と蹄球部

    下写真:豚での注意ポイント蹄趾間部と蹄球部(特に注意)鼻鏡や乳房もただし舌の観察は困難