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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 1 肺癌患者における PD-L1 検査の手引き 第 1.0 版 2017 年 3 月 27 日 日本肺癌学会 バイオマーカー委員会 谷田部恭、三窪将史、清水淳市、池田貞勝、菓子井達彦、木村英晴、後藤功一 阪本智宏、里内美弥子、曽田学、蔦幸治、豊岡伸一、西尾和人、西野和美、畑中豊 松本慎吾、横瀬智之、秋田弘俊

肺癌患者におけるPD-L1 検査の手引き肺癌患者におけるPD-L1 検査の手引き | PAGE- 1 肺癌患者におけるPD-L1 検査の手引き 第1.0版 2017年3月27日

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 1

肺癌患者における PD-L1 検査の手引き

第 1.0 版 2017 年 3 月 27 日

日 本 肺 癌 学 会

バ イ オ マ ー カ ー 委 員 会

谷田部恭、三窪将史、清水淳市、池田貞勝、菓子井達彦、木村英晴、後藤功一

阪本智宏、里内美弥子、曽田学、蔦幸治、豊岡伸一、西尾和人、西野和美、畑中豊

松本慎吾、横瀬智之、秋田弘俊

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 2

目次

1. はじめに .................................................................................................. 3

2. がん免疫療法と免疫チェックポイント阻害薬 .................................................... 3

3. 抗 PD-1 抗体薬/抗 PD-L1 抗体薬の臨床試験 .................................................... 5

3.1. セカンドライン以降の臨床試験(表 2) ...................................................... 5

3.2. ファーストラインの臨床試験(表3) ......................................................... 6

3.3. 有害事象 .............................................................................................. 8

4. 免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子 .................................................... 8

5. PD-L1 発現の診断...................................................................................... 9

5.1. 22C3 抗体を用いた PD-L1 IHC 検査 ........................................................ 11

5.2. 28-8 抗体を用いた PD-L1 IHC 検査 ......................................................... 13

5.3. ハーモナイゼーション ........................................................................... 15

6. 結果の報告 ............................................................................................. 16

6.1 解析前セクション ................................................................................ 16

6.2 解析セクション .................................................................................. 16

6.3 結果セクション ................................................................................... 16

6.4. 解釈/結論 .......................................................................................... 17

6.5. 標準的な結果様式 ............................................................................... 17

7. PD-L1 検査の実践.................................................................................... 18

7.1. 保険償還 ............................................................................................ 18

7.2. 評価者および施設要件 ........................................................................... 18

7.3. 検査実施時期と治療の流れ ..................................................................... 19

8. PD-L1 検査の課題と今後 ........................................................................... 21

9. おわりに ................................................................................................ 21

10. 文献 ..................................................................................................... 23

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 3

1. はじめに

宿主免疫を介した腫瘍排除を目指して養子免疫治療やペプチドワクチン療法など数々の試みが行われて

きたが、それらの試みとは概念の異なる免疫チェックポイントを標的とした治療法が誕生し、高い効果をあげ

ることが明らかになった。Programmed cell death 1(PD-1)および PD-1 ligand 1(PD-L1,

B7-H1 もしくは CD274 とも称される)に対する治療であり、免疫機構から逃れた腫瘍細胞を免疫シス

テムに再認識させることにより抗腫瘍効果を得ようとする試みである。すでに多くの薬剤が開発され、実臨

床に用いられているものもある。ここではそのうち保険承認されているニボルマブとペムブロリズマブに焦点を

当て、それらに必要な PD-L1 検査について解説する。

2. がん免疫療法と免疫チェックポイント阻害薬

現在行われている肺癌の治療は大きく、外科治療、薬物療法、放射線療法の3つであり、薬物療法の

中には、殺細胞性抗がん薬、分子標的治療薬、血管新生阻害薬が存在する。これらの治療に加え、近

年“第 4 のがん治療”として注目されているのが、がん免疫療法である。がん免疫療法には大きく分けて、

表 1 に示す治療法が存在する。これらの免疫療法のうち、非特異的免疫調節制御因子、とくに抑制的

に作用する免疫チェックポイント機構に関連した治療への応用が展開されている。

表 1. 主ながん免疫療法(IASLC PD-L1 Atlas から転用、改変)

1. 養子免疫療法

患者由来のがん細胞を認識する T 細胞を体外で増殖・活性化させ、体内に戻してがん細胞に対す

る特異的免疫応答を引き起こすことを目的とした治療法。腫瘍関連抗原に反応する T 細胞クロー

ンや腫瘍浸潤リンパ球、遺伝子改変免疫細胞などが用いられる。

2. がんワクチン

がん細胞特異的に発現し、免疫応答を惹起するペプチドを人為的に作製し、それを投与することによ

って細胞傷害性 T 細胞を誘導し、がん細胞に対する免疫応答を惹起する治療法。

3. 非特異的免疫応答調節制御因子

免疫応答の非特異的調節因子をがん治療に応用しようとする治療法があり、T 細胞応答を増強さ

せる方法および T 細胞応答性における負の制御因子の抑制とがある。

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 4

免疫チェックポイントに関連する分子は複数存在し(図

1)、それらの分子によって細かく調節されていることが、

近年の研究結果によって明らかとなった。免疫チェックポイ

ント機構は本来、自己に対する過剰な免疫応答を制御

するためのものであるが、がん微小環境においてはがん細

胞が抗腫瘍免疫応答からの逃避を達成するためにこれ

が利用されており、PD-1 や CTLA-4 などの T 細胞表

面分子を介した経路や制御性 T 細胞、骨髄由来制御

性細胞など様々な因子が関与している。このうち、特に

臨床応用が進んでいるのが PD-1、CTLA-4 に対する

抗ヒト/ヒト化モノクローナル抗体である。

PD-1 は T 細胞表面に発現する膜タンパク質で、腫

瘍細胞が発現しているリガンド、PD-L1 や PD-L2 と結

合することで T 細胞活性化の抑制機構が促進される

(図 2)。抗 PD-1 抗体薬/抗 PD-L1 抗体薬はこの経路を阻害することで T 細胞の活性化を増強す

ることを目的として開発され、これまで様々な固形腫瘍でその臨床効果や安全性が確認されている 1。

CTLA-4 も同様にがん細胞表面に発現する CD80 や CD86 と相互作用し、T 細胞を活性化する

CD28 と競合的に働くことで免疫機能を負に制御しており、抗ヒト CTLA-4 モノクローナル抗体薬であるイ

ピリムマブの効果が切除不能の悪性黒色腫を対象とした第 III 相試験で示され 2、さらに複数のがん腫で

単剤もしくは他の免疫チェックポイント阻害薬との併用において有効性が示されている。

図 1. T-cell の免疫応答に関わる分子

図 2. リンパ組織内では抗原提示細胞により T 細胞のプライミングが起こる。CD28 と CTLA4 は CD80/CD86 と相互作用し、前

者は T 細胞を活性化し、後者は抑制的に働く。腫瘍微小環境において、プライミングされた CD8+T細胞と腫瘍細胞の間に抗腫瘍

免疫応答が起こるが、腫瘍細胞や免疫細胞に発現した PD-L1、PD-L2 は T 細胞上の PD-1 と作用することで、T 細胞の活性化

を抑制し、免疫応答からの逃避機構を促進する。CTLA4 には制御性 T 細胞を介した免疫応答の抑制作用もある。

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 5

3. 抗 PD-1 抗体薬/抗 PD-L1 抗体薬の臨床試験

非小細胞肺癌(NSCLC)においては、まずセカンドライン以降の治療における抗 PD-1 抗体薬の効果

が 3 つの大規模臨床試験で示された。それに次いでファーストライン治療での抗 PD-1 抗体薬の臨床試

験の結果が報告され、現在では抗 PD-L1 抗体薬や抗 CTLA-4 抗体薬との併用療法をはじめ、数多く

の臨床試験が並行して進行しており、そのいくつかの試験結果が報告されている。

3.1. セカンドライン以降の臨床試験(表 2)

進行 NSCLC のセカンドライン以降において、抗 PD-1 抗体薬であるニボルマブ(オプジーボ®)が 2015

年 12 月に、ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)が 2016 年 12 月に承認され保険診療で使用されてい

る。

ニボルマブでは二次治療において、扁平上皮癌と非扁平上皮癌それぞれを対象に第 III 相試験が実施

された。いずれも患者選択に PD-L1 発現の有無は問わない試験であった。扁平上皮癌を対象とした

CheckMate 017 試験では標準治療であるドセタキセル群と比較し、主要評価項目の全生存期間

(Overall Survival; OS)の延長が示された(OS 中央値 9.2 か月 対 6.0 か月、ハザード比

(HR) 0.59、p < 0.001)3。ニボルマブの抗腫瘍効果は CR 1%、PR 19%、SD 29%、PD 41%

であり、1 年無増悪生存率は 21%であった。非扁平上皮癌を対象とした CheckMate 057 でも標準

治療であるドセタキセル群と比較して主要評価項目の OS の延長が示された(OS 中央値 12.2 か月

対 9.4 か月、HR 0.73、p < 0.001)4。ニボルマブの抗腫瘍効果は CR 1%、PR 18%、SD

25%、PD 44%であり、1 年無増悪生存率は 19%であった。いずれの試験においても、ニボルマブ群で

は半数近くが初回評価で増悪と判定される一方で奏効した患者の奏効期間は非常に長い傾向が示され

た。

これに対してペムブロリズマブでは、主に PD-L1 発現陽性症例を対象とした臨床試験が実施されてい

る。PD-L1 免疫染色による腫瘍細胞における陽性率(TPS, Tumor Proportion Score)が 1%以

上を占める PD-L1 陽性の進行 NSCLC の二次治療または三次治療を対象とした第 II 相/III 相試験

(KEYNOTE-010)においてドセタキセル群との治療効果が比較検討された 5。2mg/kg、3 週間隔投

与および 10mg/kg、3 週間間隔投与が検討され、両群ともドセタキセル群と比較して OS の有意な延

長が示された(2mg/kg 群;OS 中央値 10.4 か月、HR 0.71、p = 0.0008、10mg/kg 群;

OS 中央値 12.7 か月、HR 0.61、p < 0.0001、ドセタキセル;OS 中央値 8.2 か月)。ペムブロリ

ズマブの奏効率は両群とも 18.0%であり、追跡期間中央値 13.1 か月であったが、奏効患者のうち

80.6%は増悪が見られなかった。実際の用法・用量は、二次治療以降においても、後述する

KEYNOTE-024 の投与法である 200mg/回、3 週間隔に統一されて承認されている。

抗 PD-L1 抗体薬で最も開発が進んでいる薬剤はアテゾリズマブ(Atezolizumab)であり、米国

FDA で 2016 年 10 月に承認された。PD-L1 の発現を問わない進行 NSCLC の二次治療および三次

治療を対象とした第 III 相試験(OAK 試験)にてドセタキセル群との治療効果が比較検討され、主要

評価項目の OS の有意な延長が示された(OS 中央値 13.8 か月 対 9.6 か月、HR 0.73、p =

0.0003)6。アテゾリズマブの奏効率 14%、奏効期間の中央値が 16.3 カ月であった。

その他の抗 PD-L1 抗体薬でも第 III 相試験まで進んでいるものがある。Avelumab

(MSB0010718C)ではドセタキセルと比較する第 III 相試験(JAVELIN Lung 200, NCT

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 6

02395172)が進行中であり、Durvalumab (MEDI4736)では 3 次治療において単剤化学療法

と比較する第 III 相試験(ARCTIC、NCT02352948)が進行中である。ARCTIC 試験では

Durvalumab 単剤のほかに、Durvalumab と抗 CTLA-4 抗体薬である Tremelimumab を併用す

る群の検討も行われている。

表 2.セカンドラインの抗 PD-1抗体薬/抗 PD-L1 抗体薬の臨床試験

試験名 試験の種類 対象

(PD-L1 発

現)

治療薬 例数 全生存期間

(OS、月)

HR for OS

(95% CI)

無増悪生存

期間

(PFS、月)

HR for PFS

(95% CI)

CheckMate017 試

第Ⅲ相試験 扁平上皮癌

(All

comers)

ニボルマブ

ドセタキセル

135

137

9.2

6.0

0.59

(0.44-0.79)

3.5

2.8

0.62

(0.47-0.81)

CheckMate057 試

第Ⅲ相試験 非扁平上皮癌

(All

comers)

ニボルマブ

ドセタキセル

292

290

12.2

9.4

0.73

(0.59-0.89)

2.3

4.2

0.92

(0.77-1.1)

KEYNOTE-010 試

第Ⅱ/Ⅲ相

試験

非小細胞肺癌

(PD-L1 ≧

1%)

ペムブロリズ

マブ

ドセタキセル

344

343

10.4

8.5

0.71

(0.58-0.88)

3.9

4.0

0.88

(0.74-1.23)

OAK 試験 第Ⅲ相試験 非小細胞肺癌

(All

comers)

アテゾリズマ

ドセタキセル

425

425

13.8

9.6

0.73

(0.62-0.87)

2.8

4.0

0.95

(0.82-1.10)

3.2. ファーストラインの臨床試験(表3)

ニボルマブとペムブロリズマブにおいて、それぞれ進行 NSCLC の一次治療を対象とした第 III 相試験の結

果が報告されている。

表 3.ファーストラインの抗 PD-1 抗体薬の臨床試験

ニボルマブでは PD-L1 の発現が 1%以上である進行期 NSCLC を対象としてプラチナ併用化学療法と

の比較が行われた(Check Mate026)7。主要評価項目は PD-L1 ≥ 5%の患者における PFS であ

り、PFS 中央値でニボルマブ群 4.2 か月、化学療法群 5.9 か月、HR 1.15 とニボルマブの有意な PFS

延長効果は示されなかった。PD-L1 ≥ 50%のサブグループ解析においても PFS の HR は 1.07 でやは

試験名 試験の種

対象

(PD-L1 発

現)

治療薬 例

全生存期間

(OS、月)

HR for

OS

(95%

CI)

無増悪生存

期間

(PFS、月)

HR for

PFS

(95%

CI)

CheckMate

026

第Ⅲ相

試験

非小細胞肺癌

(PD-L1 ≧

5%)

ニボルマブ

プラチナ併用

療法

211

212

14.4

13.2

1.02

(0.80-

1.30)

4.2

5.9

1.15

(0.91-

1.45)

KEYNOTE-

024

第Ⅲ相

試験

非小細胞肺癌

(PD-L1 ≧

50%)

ペムブロリズマ

プラチナ併用

療法

154

151

NR

NR

0.60

(0.41-

0.89)

10.3

6.0

0.50

(0.37-

0.68)

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 7

り有意な延長は示されなかった。現在、CheckMate 227 試験において、抗 CTLA-4 抗体薬であるイピ

リムマブとの併用を含む第 III 相試験が進行中である(NCT02477826)。

ペムブロリズマブでは PD-L1 の発現が 50%以上の進行 NSCLC を対象として第 III 相試験が実施さ

れた(KEYNOTE-024)8。ペムブロリズマブの用量は 200mg/回に固定され、3 週間隔で投与され

た。主要評価項目である PFS は HR が 0.50(p < 0.001)、PFS 中央値でペムブロリズマブ群

10.3 カ月、化学療法群 6.0 カ月と有意な PFS 延長効果が示された。OS の HR も 0.60(p =

0.005)と有意な延長が示された。ペムブロリズマブの奏効率は 45%、12 か月無増悪生存期間も

48%であった。さらに、PD-L1 発現が 1%以上を対象とした第 III 相試験(KEYNOTE-026、

NCT02220894)と、PD-L1 発現を問わず化学療法との併用を検討する第 III 相試験

(KEYNOTE-189、NCT02578680)が進行中である。

その他にも、術前投与や局所進行肺癌、小細胞肺癌を対象とした試験など、数多くの抗 PD-1 抗体薬

/抗 PD-L1 抗体薬の臨床試験が並行して行われている(表 4)。

表 4. 開発中の抗 PD-1 抗体薬/抗 PD-L1 抗体薬

標的分子 治療薬 試験の種類 状況/NCT

number

対象 引用 企業

PD-1 PDR001 第 I/II 相試験 Ongoing /

NCT02404441

Advanced Solid

Tumors

ASCO2016,

abst 3060

Novartis

AMP-224 第 I 相試験 Completed /

NCT 01352884

Advanced

Cancer

ASCO2013,

abst 3044

Glaxo Smith Kline,

MedImmune LLC

AMP-514,

MEDI 0680

第 I/II 相試験 Ongoing / NCT

02118337

Select

Advanced

Malignancies

AstraZeneca,

MedImmune LLC

TSR-042 第 I 相試験 Ongoing / NCT

02715284

Advanced Solid

Tumors

Tesaro

INCSHR-1210 第 I 相試験 Ongoing (not

recruiting) /

NCT02492789

Cancer Incyte Co

REGN-2810,

SAR-439684

第 I 相試験 Ongoing /

NCT02383212

Advanced

Malignancies

ASCO2016,

abst 3024

Regeneron /

Sanofi

BGB-A317 第 I 相試験 Ongoing / NCT

02407990

Advanced Solid

Tumors

ASCO2016,

abst 3066

BeiGene

PD-L1 Durvalumab,

MEDI 4736

第 III 相試験 Ongoing /

ARCTIC、

NCT02352948

3rd. line NSCLC AstraZeneca

Avelumab,

MSB0010718C

第 III 相試験 Ongoing /

JAVELIN Lung

200, NCT

02395172

2nd. line NSCLC Prizer / Merk

Serono

BMS-936559,

MDX-1105

第 I 相試験 Completed /

NCT 00729664

Advanced

Cancer

NEJM 2012 Bristol-Myers

Squibb/Ono

MSB0011359C

, M7824

第 I 相試験 Ongoing / NCT

02699515,

02517398

Advanced Solid

Tumors

Merk KGaA

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 8

3.3. 有害事象

これまでに記載した抗 PD-1 抗体薬/抗 PD-L1 抗体薬のいずれの臨床試験においても、Grade3 以上

の有害事象発現頻度は既存治療と比較して低い結果が報告されている。しかしながら、悪心や食欲減

退、下痢などの一般的な副作用だけではなく、非特異的に免疫反応を増強することによる免疫学的副作

用が報告されている。免疫学的な副作用としては、大腸炎、間質性肺疾患、甲状腺炎、下垂体炎、皮

膚炎、1型糖尿病、筋炎、末梢神経炎、重症筋無力症などの報告があり、死亡例も報告されている。

副作用の発症時期はまちまちであり、投与直後から長期間のモニタリングが必要とされる。また副作用への

対処に際しては、専門医との連携も必要である。詳細はがん免疫治療ガイドライン(日本臨床腫瘍学会

2016 年 12 月)9 を参照されたい。

4. 免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子

免疫チェックポイント阻害薬の

効果予測因子として最もよく

知られているのは PD-L1 発

現であるが、それについては詳

しく後述するため、それ以外の

因子について解説する。これま

で、治療効果の予測因子とし

て表 5 に示すものが報告され

ている。PD-L2 は主に抗原提

示細胞に限定的に発現しており、腫瘍の局所においては種々のサイトカインによって発現が誘導されること

で、PD-L1 とともに腫瘍に抑制的に働くとされている。頭頚部癌において腫瘍細胞の PD-L2 発現は

PD-L1 発現と相関し、抗 PD-1 抗体治療の奏効率や PFS の延長に関連したという報告や 10、

NSCLC を含む固形癌において腫瘍内の PD-L1 発現と同時に PD-L2 が発現することでアテゾリズマブ

の奏効率がより高くなったとする報告もある 11。CD8+T 細胞は腫瘍免疫の主要なエフェクター細胞であ

り、腫瘍細胞の除去に大きな影響を与える。CD8+T 細胞の腫瘍内密度が DFS や OS に関係するとす

る論文は枚挙に暇がなく、肺癌においても強力な予後因子であることが報告されている 12。また、大腸癌

において、ミスマッチ修復異常を示す腫瘍ではペムブロリズマブ投与により 40%の奏効率が得られたのに対

し、ミスマッチ修復プロフィシェントの腫瘍では奏効率が 0%であった 13。これはミスマッチ修復異常によって

より多くの遺伝子変異を生じることから、より多くの免疫原性産

物(neoantigen)が産生されることと関連があるのではないかと考えられている。肺癌ではミスマッチ修

復異常と関連した腫瘍はほとんどないと考えられているが、喫煙等により多くの遺伝子変異を有する腫瘍

において免疫チェックポイント阻害薬の奏効が報告されており 14、体細胞突然変異の頻度や数

(mutation burden)との関連に興味が持たれている。PD-L1 の発現に関しては、ドライバー変異の

有無と相関するという報告や 15, 16, 17、PTEN 低下や活性化 PI3K/AKT 経路との関連を指摘する報

表 5. 免疫チェックポイント阻害薬におけるバイオマーカー

PD-L1 expression in the tumor microenvironment

PD-L2 expression in tumor cells and infiltrating

immune cells

CD8+ T-cell and effector functional markers

Tumor mutation burden

Oncogene mutations

Epithelial-mesenchymal transition

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 9

告もある 18。PD-L1 の 3’-UTR の遺伝子異常との関連を指摘する報告もあるが 19、肺癌では頻度が低

いとされている。

5. PD-L1 発現の診断

上述のバイオマーカーとは対照的に、PD-L1 IHC 検査は積極的に臨床治験に組み入れられコンパニオン

診断検査として開発が進められてきた経緯がある(表 6)。そのため、薬剤ごとに異なるコンパニオン診断

テストが開発され、それらの診断基準も異なっている(表 7)。たとえキットが同じであっても対象となる癌

腫(例えば尿路上皮癌)などではその診断基準が異なる場合もあり、どの癌腫でどの薬剤を用いるか区

別して用いる必要がある。

表 6.PD-L1 発現レベルと抗 PD-1 抗体薬/抗 PD-L1 抗体薬の臨床試験

試験名 試験の

種類

対象 抗体 カットオフ 治療薬 例

全生存

期間

(OS、

月)

HR for

OS

(95%

CI)

無増悪生

存期間

(PFS、

月)

HR for

PFS

(95%

CI)

CheckMate

057 試験

第Ⅲ相

試験

非扁平

上皮癌

28-8 ≧ 1% ニボルマブ

ドセタキセル

123

123

17.7

9.0

0.58

(0.43-

0.79)

4.2

4.5

0.70

(0.53-

0.94)

≧ 5% ニボルマブ

ドセタキセル

95

86

19.4

8.1

0.43

(0.30-

0.62)

5.0

3.8

0.54

(0.39-

0.76)

≧ 10% ニボルマブ

ドセタキセル

86

79

19.9

8.0

0.40

(0.27-

0.58)

5.0

3.7

0.52

(0.37-

0.75)

KEYNOTE-

010 試験

Ⅱ/Ⅲ

相試験

非小細

胞肺癌

22C3 ≧ 1% ペムブロリズマ

ドセタキセル

344

343

10.4

8.5

0.71

(0.58-

0.88)

3.9

4.0

0.88

(0.74-

1.05)

≧ 50% ペムブロリズマ

ドセタキセル

139

152

14.9

8.2

0.54

(0.38-

0.77)

5.0

4.1

0.59

(0.44-

0.78)

CheckMate

026

試験

第Ⅲ相

試験

非小細

胞肺癌

28-8 ≧ 1% ニボルマブ

プラチナ併用

療法

271

270

1.08 1.19

≧ 5% ニボルマブ

プラチナ併用

療法

211

212

14.4

13.2

1.02

(0.80-

1.30)

4.2

5.9

1.15

(0.91-

1.45)

≧ 50% ニボルマブ

プラチナ併用

療法

88

126

0.90 1.07

KEYNOTE-

024 試験

第Ⅲ相

試験

非小細

胞肺癌

22C3 ≧ 50% ペムブロリズマ

プラチナ併用

療法

154

151

NR

NR

0.60

(0.41-

0.89)

10.3

6.0

0.50

(0.37-

0.68)

OAK 試験 第Ⅲ相

試験

非小細

胞肺癌

SP142 TC3 or

IC3

アテゾリズマブ

ドセタキセル

72

65

20.5

8.9

0.41

(0.27-

0.64)

4.2

3.3

0.63

Page 10: 肺癌患者におけるPD-L1 検査の手引き肺癌患者におけるPD-L1 検査の手引き | PAGE- 1 肺癌患者におけるPD-L1 検査の手引き 第1.0版 2017年3月27日

肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 10

TC2/3

or

IC2/3

アテゾリズマブ

ドセタキセル

129

136

16.3

10.8

0.67

(0.49-

0.90)

4.1

3.6

0.76

TC1/2/3

or

IC1/2/3

アテゾリズマブ

ドセタキセル

241

222

15.7

10.3

0.74

(0.58-

0.93)

2.8

4.1

0.91

TC0

and IC0

アテゾリズマブ

ドセタキセル

180

199

12.6

8.9

0.75

(0.59-

0.96)

2.6

4.0

1.00

表 7. 免疫チェック阻害薬と効果予測のための PD-L1 IHC 検査

薬剤 Nivolumab Pembrolizumab Atezolizumab Durvalumab Avelumab

製造会社 BMS MERCK ROCHE AstraZeneca Pfizer

抗体クローン Dako 28-8 Dako 22C3 Ventana SP142 Ventana SP263 Dako 73-10

免疫染色プラットフ

ォーム Link 48 Link 48

BenchMark

ULTRA

BenchMark

ULTRA Link 48

評価細胞 腫瘍細胞 腫瘍細胞 腫瘍細胞および腫

瘍浸潤免疫細胞 腫瘍細胞 腫瘍細胞

陽性細胞カットオフ

≥ 1%

≥ 5%

≥ 10%

≥ 50% (一次治療)

≥ 1% (二次治療以

降)

TC1/2/3 or

IC1/2/3 ≥ 1% ≥ 25% ≥ 1%

米国での承認 コンプレメンタリー診

断薬 コンパニオン診断薬

コンプレメンタリー診

断薬 未承認 未承認

本邦での承認 体外診断薬 コンパニオン診断薬 未承認 未承認 未承認

これら PD-L1 IHC は検体内の PD-L1 分子を免疫組織化学的に同定しており、一般的な免疫組織

化学的検索に適した標本管理を行わねばならない。サンプルは、サンプル量の 10 倍以上の 10%中性

緩衝ホルマリンを用い、採取後速やかに固定を始め、6−48 時間後に包埋処理を行う。薄切後は 6 週

間以内に染色を行うことが推奨されており、長く室温で保存されていた切片では発現が著しく低下して見

える場合があり、偽陰性の要因となる。また、一般的な免疫組織化学検索の注意事項のほかに、

KEYNOTE 010 試験では保存検体と新鮮検体ではその効果に差はなかったという報告 20 もある一方、

ブロック状態であっても経年性の変化により発現が低下するとする報告 21, 22 もあることから、複数の検体

がある場合は含有腫瘍細胞量や固定状態などと合わせて考慮する必要がある。

検体の採取部位としては原発巣、転移巣からの検体ともに使用可能とされているが、30%の症例で両

部位間の PD-L1 の結果が不一致であったとの報告もある 23。また、腫瘍細胞と免疫細胞に対する PD-

L1 染色の結果を生検検体と切除検体で比較したところ、48%の結果の不一致があったという報告もあ

る 24。しかしながら、採取部位や採取方法による染色結果の差異や治療効果との関連は十分に検討さ

れておらず、これまで施行された第 III 相臨床試験では採取部位に規定はなく、現時点では原発巣、転

移巣および生検検体、切除検体のいずれも使用可能であると考えられる。ただし、酸脱灰した骨生検検

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 11

体では脱灰操作により抗原性が低下するため、その使用は避けるべきである。胸水や心嚢水などの体腔

液セルブロック検体を用いた検査に関しては、これまでの臨床試験でも使用されておらず、その染色性と治

療効果に関する検証がなされてないことからこれからの研究の成果によって考慮されるべきであろう。進行

肺癌では小生検組織が主体にはなるが、治療が円滑に進むためにも、可能な限り腫瘍細胞量に富んだ、

大きな検体を得る試みを行うべきであることは言うまでもない。

5.1. 22C3 抗体を用いた PD-L1 IHC 検査

22C3 抗体はペムブロリズマブ(キイトルーダ®)の臨床試験(KEYNOTE 試験)において使用された

抗体で、ペムブロリズマブの治療効果予測として用いられる。セカンドラインの試験(KEYNOTE-010)で

は TPS 1%、ファーストラインでの試験(KEYNOTE-024)では TPS 50%が cut-off として設定さ

れ、cut-off 以上の PD-L1 発現を有する患者において奏効率、OS ともに化学療法に対しての優越性

が確認された。また、KEYNOTE-010 での奏効率は TPS 1-24%, 25-49%, 50-74%, ≥ 75%で

それぞれ 8.6%, 15.8%, 22.6%, 33.7%と PD-L1 発現率と効果との相関が示されている。これらの

結果をもとに、PD-L1 IHC 22C3 pharmDx, Dako(以下 22C3 キット)がペムブロリズマブのコンパ

ニオン診断薬として承認されている。22C3 キットは PD-L1 の細胞外ドメインを認識する抗 PD-L1 マウス

モノクローナル抗体を一次抗体として用いており、自動免疫染色機(Dako Autostainer Link 48)の

専用試薬であり、この染色機での検査が必須となっている。診断キットを適正に用い、その使用方法や手

技に習熟することで、技術的な要因による結果のばらつきを最小化し、精度を高めることが重要である。

PD-L1 22C3 免疫染色に関しては、2017 年 1 月 24 日に日本病理学会より「進行肺癌に対する

PD-L1 免疫染色についての留意事項について」が発表されており 25、1.ペムブロリズマブに対する効果予

測は PD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」で行うこと、および 2. PD-L1 22C3 IHC の報告には、少な

くとも 3 段階の発現判定結果を明記すること、が述べられている。また、具体的な染色手順や評価方法

は日本病理学会 PD-L1 ガイドライン委員会でプラクティカルガイドライン(2017 年 5 月発表予定)に

記載されているため、詳細については参照されたい。

なお、MSD 社により倫理的無償供給プログラムが 2017 年 1 月 12 日~2 月 13 日に施行されてお

り、その際には未染標本 3 枚で PD-L1 22C3 免疫染色検査も併せて施行されていた。このことからも未

染標本 3 枚が臨床検査会社へ依頼する際の標準的な必要未染標本枚数と考えられる。

■免疫染色判定法

1. 評価のためには 100 個以上の Viable な腫瘍細胞が必要とされており、まず HE 標本にて十分

な腫瘍細胞が含まれていることを確認する必要がある。

2. キット同梱の細胞株陽性コントロールスライドで細胞膜染色強度 2+の腫瘍細胞が 70%以上

であること、陰性コントロールスライドで陽性細胞が 10 個以下であること、かついずれもバックグラウ

ンドの染色強度が 1+未満であることを確認し、試薬の適切性を判定する。

3. 陽性コントロール組織を組織標準として用い、組織切片が適切に作製され、試薬が反応している

ことの確認を行う。 陽性コントロールとしては扁桃上皮が含まれた扁桃組織もしくは胎盤組織

(図 3)を用いることができる。

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 12

図 3. 正常組織(左: 扁桃上皮、右:胎盤組織)における PD-L1 発現

4. 対象腫瘍細胞の細胞膜における染色性を評価の対象とし、tumor proportion score

(TPS, 全腫瘍細胞に対して PD-L1 陽性細胞が占める割合) を指標として用いる。染色強度

や細胞膜の染色が部分的か全周性かに関わらず、わずかでも染色されていれば陽性と判定す

る。TPS<1%を陰性、1-49%を陽性(低発現)、≥ 50%を陽性(高発現)と定義し、ファースト

ラインでは TPS ≥ 50%、セカンドラインでは ≥ 1%がペムブロリズマブの治療対象と判定される

(図 4,5)。PD-L1 はリンパ球やマクロファージなどにも陽性となるため、腫瘍細胞とこれらの免

疫関連細胞が混在する症例では疑陽性となる可能性があり注意が必要である。細胞の形態を

注意深く観察し、明確に区別することが重要である。

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 13

図 4. PD-L1 IHC 22C3 ≥ 50%例. 免疫細胞は TPS(tumor proportion score)には含めない。

図 5. PD-L1 IHC 22C3 1-49%例.TPS 10%程度であり、二次治療以降でのペムブロリズマブ適応となる。

5.2. 28-8 抗体を用いた PD-L1 IHC 検査

28-8 抗体はニボルマブ(オプジーボ®)の臨床試験(CheckMate 試験)において使用された抗体

で、ニボルマブの治療効果予測として用いられる。扁平上皮癌のセカンドライン治療を対象とした

CheckMate 017 では TPS 1%、5%、10%を cut-off としてサブグループ解析が行われたが、いずれ

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 14

においても TPS はニボルマブ治療の予後、効果の予測因子とはならなかった。非扁平上皮癌のセカンドラ

インを対象とした CheckMate 057 においても同様の検討が行われ、1%, 5%, 10%のいずれの cut-

off においても cut-off 以上の PD-L1 発現を有する患者ではよりニボルマブの効果がより高いことが示さ

れた。TPS ≥ 1%, ≥ 5%, ≥ 10%での OS 中央値は 17.1、18.2、19.4 ヵ月であり、TPS < 1%,

< 5%, < 10%の群の 10.5、9.8、9.9 ヵ月に比較してより高い延長効果が認められたものの、TPS <

1%の群においてもドセタキセルと同等の効果が期待できることから、ニボルマブ治療の可否を判定するため

の必須の検査とは位置付けられず、米国では、効果予測のための補助的な検査(コンプレメンタリー診断

薬1)として承認された。本邦においては PD-L1 IHC 28-8 pharmDx, Dako ではニボルマブの体外

診断薬と明記されて認可されているが、ニボルマブの添付文書上 PD-L1 28-8 免疫染色による患者選

択は必要とされていない(ただし運用に当たっては後述の適正使用ガイドラインの項を参照のこと)ので、

米国同様のコンプレメンタリー診断薬の位置付けとなる。28-8 IHC 検査キットは PD-L1 の細胞外ドメイ

ンを認識する抗 PD-L1 ラビットモノクローナル抗体を一次抗体として用いており、自動免疫染色機

(Dako Autostainer Link 48)専用試薬であるため、この染色機での染色することで保険承認され

ている。

■免疫染色判定法

PD-L1 28-8 免疫染色でも同様に、PD-L1 22C3 免疫染色の#1-#3の操作(13 ページ参

照)を行う。ただし、#2については 28-8 ではキット同梱の陽性細胞株で細胞膜染色強度 2+の腫瘍

細胞が 80%以上である確認が必要である。

そののち、腫瘍細胞の細胞膜における染色性を評価し、その染色強度や染色範囲に関わらず、わずかで

も染色されていれば陽性と判定する。TPS < 1%, > 1%, > 5%, > 10%で評価を行うが(図

6)、前述のようにニボルマブの投与の可否は TPS によって規定されず、TPS はあくまで非扁平上皮癌に

おける効果予測の参考として用いられる。

1 コンプレメンタリー診断薬とは、CheckMate 017 試験の結果を受けて PD-L1 IHC 28-8 PharmDx に初めて与えられた診断薬カテゴリーで

あり、この臨床試験の結果によれば、この診断テストによる患者選択を行わなくともニボルマブの効果は期待できるが、患者選択を行えばより高い

臨床的利益が得られる。このように、対象となる薬剤を投与するのに必須ではないが臨床的に有用な情報を与える診断テストが該当する。本邦

ではこのカテゴリーがないために、体外診断薬として扱われる。これに対して、コンパニオン診断薬においては、診断テストによる患者選択が薬剤投

与に対して必須となる点が異なる。

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 15

図 6. PD-L1 IHC 28-8 TPS > 10% であり、一定の効果が期待できる。

5.3. ハーモナイゼーション

これまで述べてきたように、使用する治療薬毎に異なった抗体を用いた IHC 検査が行われ、その結果に

基づいて治療効果についてのエビデンスが確立されてきた経緯がある。体外診断用医薬品(IVD: In-

Vitro Diagnostics)としての承認を受けている 22C3、28-8 のみならず、他の検査薬も含めて、検体

処理から染色工程が厳密に管理され、それぞれに画一化された方法を用いて臨床試験が施行された。検

査の精度を保証し、臨床試験で得られた結果と同等の結果を再現するためには同一の抗体を用いて、同

一の工程で検査が行われる必要がある。しかし、全ての薬剤に対応するためにはそれぞれの検査キットおよ

び染色機が必要となり、個々の施設にかかる経済的負担や、検査毎に評価の方法や基準が異なるた

め、評価の水準を保つために各評価者が各々の検査薬の評価トレーニングを受ける必要があるなど種々

の問題が指摘されている。それぞれの検査方法を他のものに代用し、一つの検査薬で複数の治療薬に対

応できないかというアイデアに基づいて、これまで検査薬のハーモナイゼーションに関する検討(ハーモナイゼ

ーション研究)が施行され、報告されている 26-30。これらの結果に基づいて、厚生労働省による「ニボルマ

ブ適正使用推進ガイドライン」では、28-8 の再検査が困難な場合に 22C3 の結果をもってニボルマブの

投与の可否を検討できるとしている(7.PD-L1 検査の実践を参照)。また、欧州および米国では

Roche Ventana 社の SP263 抗体キットがニボルマブの効果予測 IHC として認可されており、このよう

な検査キットの交叉が将来的に一般化される可能性がある。

5.4. LDT (Laboratory Developed Test)

PD-L1 発現の検査法には、診断薬会社や臨床検査センター等で独自に LDT として開発され構築され

た種々の抗体が存在する。E1L3N 抗体(Cell Signaling Technology)は LDT に位置付けられるラビ

ットモノクローナル抗体であるが、SP142 や他の LDT 検査法と比較して高い感度を有するという報告 31

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 16

や、28-8 や SP142 との比較では高い concordance (Kappa 値 0.69)を示したとする報告もある32。その他にも IVD として承認されている試薬を用いた結果と LDT による結果とを比較した報告がある

が、LDT が臨床応用されるには精度管理と標準化が一番の問題となる。IHC 検査では抗原賦活や検

出法の他にも、検査前処理などが結果に大きく影響し、PD-L1 IHC 検査では特にその結果が治療方針

に直結するため、検査の一連の工程を標準化し、検査の精度を保つことが求められる。LDT では十分な

精度管理や標準化がなされていないため、治療方針に関する誤った結果が情報として提供されてしまう危

険性があり、現時点では推奨されない。

6. 結果の報告

腫瘍の分子病理診断の標準的な報告と同様に、PD-L1 検査も解析前(preanalytical)、解析

(analytic)、結果(result)、および解釈/結論(interpretation/conclusion)について以下の内容が

記載されている必要がある。また、腫瘍細胞の同定には専門的な知識が必要であることから、結果は病

理診断医によって評価され、記載される必要がある。

6.1 解析前セクション

患者情報、標本の種類および診断の概要が記載される必要がある。

標本の種類:切除標本、切開生検、生検組織(気管支/経気管支生検、針生検)

提出組織:ホルマリン固定標本、骨を含む標本では脱灰の有無と方法(酸脱灰、EDTA 脱灰)、これら

の未染標本(標本の種類を記載する)

標本作成時期:ブロック作成や薄切からの時間が結果に影響する可能性がある場合にはこれを記載す

る。

6.2 解析セクション

検査方法:使用した抗体の種類やキットの名称、その概要や基本的な操作手順などが記載される。使

用する抗体ごとに異なるため、評価対象細胞(腫瘍細胞、腫瘍浸潤免疫細胞)および判定方法を明確

に記載する必要がある。また、それぞれのキットには使用期限もあり、施設内において十分なロット管理を

行う必要がある。

6.3 結果セクション

総合的な標本の適切性:キット同梱のコントロールスライドや施設内コントロールの染色結果。「検査に

最適」あるいは「不適(suboptimal)」の別。不適切であった場合はその理由を述べる。

腫瘍細胞の評価

採取された検体中に、適正な評価のための十分量の腫瘍細胞があるか否かを評価するため、切

片内でのおおよその腫瘍細胞数(< 100 個または ≥ 100)を記載する。

壊死やクラッシュ・アーチファクトを伴う細胞は評価対象外となるため、これが認められる場合にはそ

の旨を記載する。

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 17

染色結果:陽性、陰性もしくは発現の程度(高発現/低発現)について、それぞれの検査法で定められた

基準に基づいて結果の報告を行う。また、陽性/陰性の評価だけでなく、陽性細胞の割合を TPS(%)とし

て記載する。とくに PD-L1 IHC 22C3 では後述の IHC 28-8 での染色結果を推定する場合があり、

TPS として記載する必要がある。評価不能の場合には、その理由について説明する。

6.4. 解釈/結論

PD-L1 IHC の結果が免疫チェックポイント阻害薬の投与適応条件を満たすか否か、もしくはその治療効

果が期待できるか否かについての臨床的解釈を説明する。評価不能であった場合には、他の標本を用い

た再検査での検討の可能性についても記載するべきである。

6.5. 標準的な結果様式

PD-L1 IHC には複数の検査方法があり、それぞれ異なる意義を持つ。混乱を防ぐためにも PD-L1 IHC

の標準記載様式を提示する。

患者氏名: XXXX 年齢: 65 性別: 男性

依頼の目的: 再発肺癌に対するペンブロリズマブ治療の適応確認のため

標本の種類: 経気管支生検

提出組織: ホルマリン固定組織の未染標本 (骨を含まず)

標本作成時期: 新鮮薄切標本

検査方法:

使用検査薬 Dako PD-L1 22C3 PharmDX (Lot # 10121104A, Exp. 2017-10-31)

染色 Dako Autostainer Link 48 を用い、検査説明書に基づき施行

染色標本の適切性:

コントロール染色結果: 陽性コントロールで細胞膜染色強度 2+の腫瘍細胞が 70%以上

陰性コントロールスライドで陽性細胞が 10 個以下

バックグラウンドの染色強度が 1+未満

腫瘍細胞数: 100 個以上

PD-L1 IHC 22C3 染色結果:

Tumor Proportion Score: 40%

Expression status High expression ≥ 50% □

Low expression 1-49%

No expression < 1% □

解釈:

PD-L1 IHC 22C3 において TPS 40%であり、Low expression (1-49%)と評価されるため、EGFR, ALK 陰性非小

細胞癌の二次治療としてペムブロリズマブによる治療が選択枝として加えることができる。

評価年月日: 2017 年 2 月 14 日 病理医氏名: XXXXX

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 18

7. PD-L1 検査の実践

7.1. 保険償還

新設された項目 E3 「PD-L1 タンパク免疫染色(免疫抗体法)病理組織標本作製」として PD-L1

IHC 22C3 pharmDx「ダコ」 、PD-L1 IHC 28-8 pharmDx「ダコ」 いずれについても 2,700 点が保

険点数として認められている。いずれも使用目的が、それぞれペムブロリズマブ、ニボルマブと特定されてお

り、対応する薬剤の効果予測に用いる。また、ペムブロリズマブでは PD-L1 陽性の切除不能な進行・再

発の非小細胞肺癌に認可されており、投与に当たっては PD-L1 陽性を PD-L1 IHC 22C3 で確認す

る必要がある。また、ニボルマブ、ペムブロリズマブを治療に用い、保険償還をする際に下記の施設要件お

よび医師要件とともに PD-L1 発現率を確認した検査の実施年月日および検査結果(発現率)を診

療報酬明細書の摘要欄に記入する必要がある(保医発 0214 4 号、平成 29 年 2 月 14 日)。

7.2. 評価者および施設要件

ニボルマブおよびペムブロリズマブについては「最適使用推進ガイドライン」が厚生労働省から発表されてお

り、その中で使用成績調査(全例調査)を行う上でも以下の施設要件および使用医師要件が提示さ

れている。なお、このガイドライン適応までの経過措置も考慮されており、医療課長通達(保医発 0214

第 4 号)を参照されたい。

施設要件

下記の(ア)~(オ)のいずれかに該当する施設であること。

(ア) 厚生労働大臣が指定するがん診療連携拠点病院等(都道府県がん診療連携拠点病院、地域

がん診療連携拠点病院、地域がん診療病院など)

(イ) 特定機能病院

(ウ) 都道府県知事が指定するがん診療連携病院(がん診療連携指定病院、がん診療連携協力病

院、がん診療連携推進病院など)

(エ) 外来化学療法室を設置し、外来化学療法加算 1 又は外来化学療法加算 2 の施設基準に係る

届出を行っている施設

(オ) 抗悪性腫瘍剤処方管理加算の施設基準に係る届出を行っている施設

使用医師要件

肺癌の化学療法及び副作用発現時の対応に十分な知識と経験を持つ医師(下記要件のいずれかに該当する

医師)が、当該診療科の本剤に関する治療の責任者として配置されていること。

(ア) 医師免許取得後 2 年の初期研修を終了した後に 5 年以上のがん治療の臨床研修を行っている

こと。うち、2 年以上は、がん薬物療法を主とした臨床腫瘍学の研修を行なっていること。

(イ) 医師免許取得後 2 年の初期研修を終了した後に 4 年以上の臨床経験を有していること。うち、3

年以上は、肺癌のがん薬物療法を含む呼吸器病学の臨床研修を行っていること。

厚生労働省 「最適使用推進ガイドライン」 より抜粋

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肺癌患者における PD-L1 検査の手引き | PAGE- 19

この最適使用推進ガイドラインには、PD-L1発現細胞割合(TPS)によってペムブロリズマブ(キイトルー

ダ®)の適応が判断されるにも拘わらず、PD-L1 IHCを行う施設についての基準は含まれていない。ま

た、ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)の添付文書には『PD-L1 を発現した腫瘍細胞が占める割合

(TPS)について、「臨床成績」の項の内容を熟知し、十分な経験を有する病理医又は検査施設におけ

る検査により、PD-L1 の発現が確認された患者に投与すること』と記載されている。日本肺癌学会バイオ

マーカー委員会では厚生労働省の依頼に応じて、日本病理学会に事前照会して理事長の確認を得た

上で、以下の2点を施設要件として挙げて、医政局経済課長および保険局医療課長宛ての声明文とし

て以下の見解を答申している。

最適使用推進ガイドラインにおける施設要件に含まれる施設の多くががん拠点病院であり、がん拠点病

院の認可においては一人以上の病理医の在籍が認可要件に含まれることから、PD-L1 検査における上

記施設要件(1)から外れることは多くはないと考えられる。また、施設に対応する免疫染色装置がない場

合などでは、染色を臨床検査会社に委託し、講習会を受講した院内の病理医が評価してもよいであろ

う。また、臨床検査会社に染色のみならず評価をも委託した場合でも、評価に用いられた標本は診療記

録と同等の意味を持つことから(日本病理学会 「患者に由来する病理検体の保管・管理・利用に関す

る日本病理学会倫理委員会の見解」 平成 27 年 11 月)、院内に保存するように心がけたい。

7.3. 検査実施時期と治療の流れ

ペムブロリズマブは非小細胞肺癌の一次治療における標準治療の一つであり、PD-L1 検査は EGFR遺

伝子変異検査、ALK融合遺伝子検査と並んで一次治療を選択するための重要な検査である。一次治

療としてのペムブロリズマブ使用は EGFR/ALK陰性の非小細胞肺癌が対象となるが、EGFR/ALK遺伝

子検査の結果を確認後に PD-L1 検査を実施する場合、治療開始の遅延や検査を複数回に分けること

医療機関がそれぞれの施設で PD-L1 発現を評価する場合の施設要件

(1) 病理管理加算 2、もしくは、精度管理が十分になされている病理管理加算 1 の施設基準を

満たす施設

(2) 学会等の講習会を受講するなどして、PD-L1 発現評価に十分な教育および経験を持った判

定者による適切な判定が得られる環境にあること

PD-L1 免疫組織化学染色検査には染色前の組織検体の取扱いが染色結果に大きく影響し、ま

た組織検体スライドの作製から染色結果の判定に至るまでのプロセスを熟練した病理医が行うことが

必要と考えられ、病理管理加算 2、もしくは、精度管理が十分になされている病理管理加算 1 の施

設基準を満たす施設において、PD-L1 発現の評価が施行されることが望ましいと考えられる。

また、PD-L1 発現の評価は、ALK 免疫染色などの評価とは異なり、定量的な評価が必要とされる

ため、学会等の講習会などを受講するなどして、十分な教育および経験を持った判定者による適切な

判定が得られる環境にあることが望ましい。

日本肺癌学会 「PD-L1 免疫組織化学染色検査の保険収載にあたっての声明」 より抜粋

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による組織検査材料の浪費が危惧される。このような治療開始までの時間や組織浪費回避の観点から、

PD-L1 検査は他のバイオマーカー検査と同時に行うことが望ましい。この同時検査実施についても、前述

の日本肺癌学会の厚生労働省に対する声明文に含まれ、述べられている。

これに対してニボルマブについての PD-L1 IHC は、非扁平上皮癌におけるコンプレメンタリー診断検査の

位置付けであるため、二次治療以降のニボルマブ投与に制限を掛けるものではない。しかしながら、前述の

最適使用推進ガイドラインでは、以下のように記載されている。そのため、本邦の保険診療においては、ニ

ボルマブについても非扁平上皮癌の場合は投与患者を決定する際には PD-L1 IHC の検査結果を考慮

する必要がある。

肺癌診療ガイドライン(「EBM の手法による肺癌診療ガイドライン 2016 年版」 日本肺癌学会、2016

年 12 月)33 では、病理診断により非小細胞肺癌と判明した後は、組織型を決定するとともに、EGFR

遺伝子変異検査、ALK融合遺伝子検査、ROS1融合遺伝子検査とともに PD-L1 IHC 22C3 を施

行し、その結果に基いて、治療戦略を考える必要が記されている。この中で、PD-L1 IHC 22C3, TPS

≥ 50%かつ EGFR/ALK陰性・IV 期非扁平上皮癌の一次治療ではベムブロリズマブ単剤が唯一、推

奨グレード A として推奨されている標準治療であり、その重要性を認識する必要がある。また、初回治療

前の PD-L1 IHC はほとんどの症例で施行されることから、PD-L1 IHC 28-8 と 22C3 の同等性の報告

(5.3 ハーモナイゼーションを参照)27, 28, 34, 35 を踏まえると 二次治療におけるニボルマブの適応を考え

る上での指標となり得る。肺癌診療ガイドラインを踏まえて、進行非小細胞肺癌における PD-L1 検査と

治療法選択について図 7 にまとめた。

④ 本剤は海外第Ⅲ相試験において、扁平上皮癌及び非扁平上皮癌のいずれの患者においてもドセタキセル群に

対して優越性が検証されている。ただし、非扁平上皮癌の患者では、PD-L1 発現率により有効性の傾向が異なる

ことが示唆される結果が得られていることから、非扁平上皮癌の患者においては PD-L1 発現率も確認した上で本

剤の投与可否の判断をすることが望ましい。

PD-L1 発現率が 1%未満であることが確認された非扁平上皮癌患者においては、原則、ドセタキセル等

の本剤以外の抗悪性腫瘍剤の投与を優先する。(注 2)

ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)のコンパニオン診断薬(販売名:PD-L1 IHC 22C3 pharmDx

「ダコ」)により PD-L1 発現率を確認した非扁平上皮癌の患者であって、本剤の診断薬 (販売名:

PD-L1 IHC 28-8 pharmDx「ダコ」)による再検査が困難な場合には、以下の文献等を参考に本剤の

投与の可否を検討できる。

(注 2) ただし、他の抗悪性腫瘍剤の投与について、禁忌、慎重投与に該当することの他、臨床上問題となる副作用の発現のおそれがある

等、医学薬学上不適当と判断された患者(別紙参照)についてはその限りではない。

厚生労働省 「最適使用推進ガイドライン」 より抜粋

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8. PD-L1 検査の課題と今後

肺癌患者の大きな期待を背景に、表 4 に示した多くの新規の免疫チェックポイント阻害薬

が開発され、一部は第 III 相試験での効果も確認されている。これらの中には PD-L1 検査による選択を

行った試験もあり、それらについてはコンパニオン診断として用いられる可能性が高い一方、コンプレメンタリ

ー診断としての位置付けに留まる PD-L1 検査もある。これらの診断を小さい生検組織を用いてどのように

ハーモナイズしていくかが問題となる。また、遺伝子異常に対する分子標的治療薬の開発も進んであり、そ

れらの薬剤選択のための検査とどのような優先順位を付けて検査を行っていくかも検討課題である。PD-

L1 検査については、PD-L1 IHC 陰性例でも一定の効果を示す症例があることが知られており、PD-L1

IHC 以外のより優れた効果予測因子にコンセンサスが得られる可能性や、経時的にダイナミックな挙動を

示す PD-L1 発現の測定時期や投与前再生検の必要性などについても新たな知見が見いだされる可能

性もある。

9. おわりに

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫反応を介した療法であり、免疫効果判定法や免疫関連有害事象、

pseudo-progression など、これまでの治療法とは異なる側面を持った新たな治療法といえる。また、医

図 7. 進行肺癌における PD-L1 検査と治療選択の流れ

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学的な側面のみならず、厚生労働省から「抗 PD-1 抗体抗悪性腫瘍剤に係る最適使用推進ガイドライ

ンの策定に伴う留意事項について」などの通知も出されるなど、医療行政的にも新しい。これらの現状を認

識し、本手引きが実地臨床における PD-L1 検査の助けになれば幸いである。

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