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平成 19 年 10 月 青森県クリスタルバレイ構想懇話会 提言書

青森県クリスタルバレイ構想懇話会 提言書 · 2008. 7. 31. · 青森県クリスタルバレイ構想懇話会 提言書 - 1 - i. fpd関連産業を取り巻く情勢変化

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平成 19 年 10 月

青森県クリスタルバレイ構想懇話会

提言書

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I. FPD 関連産業を取り巻く情勢変化

■空前絶後の巨大投資ブーム

はじめに、2001 年の構想策定時と 2007 年現在とでは、国内外の産業情勢が

大きく変化していることを認識する必要がある。2007 年の全産業合計設備投資額

は、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)に代表される経済成長国への輸出

が起爆剤となり、実に 20 兆円代の過去 高レベルに達するであろう。さらに驚く

ことは、今や名実ともに世界一となった国内自動車メーカーだけで、総額 4 兆円

の設備投資を計画していることだ。このうち約 2 兆円は、トヨタ自動車 1 社のみ

で行うというように、史上空前の巨大投資バトルが繰り広げられている。

ここで重要なことは、自動車産業は単に自動車メーカーだけの市場ではなく、

全産業に景気が波及するということである。例えば、自動車向けの特殊鋼鈑は日本

の鉄鋼メーカーでしか製造できず、半導体などを駆使した自動車向け制御機器、自

動車向けディスプレイなどは日本の電機メーカーによって製造されている。 近の

製造業は、この道のりを 10 年前に予想できた者は皆無といえるほどの黄金期を迎

えている。

2000 年から 2001 年まで日本経済は低迷期にあり、あらゆる産業が冷え込ん

だため、日本の屋台骨ともいわれた製造業を筆頭に企業が再編、倒産の危機に瀕し

ていた。しかし、かつて重厚長大といわれ、成長が鈍化していた鉄鋼などの産業が、

自動車素材、デジタル素材などをコア事業として、みごとな復活を遂げている。

■電子デバイスは想定外の市場推移

国家産業として、自動車業界と両翼を形成しているのが半導体業界である。半

導体とは、あらゆる機器を制御し、または記憶媒体となりうる電子デバイスのこと

だ。これまで半導体に書き込まれる配線の微細化と、半導体の材料であるシリコン

ウエハーの大口径化が 先端の技術革新とされていた。しかし、現在の電子産業で

大アプリケーションとなっている iPod などの民生品は、 先端の半導体技術、

半導体製品を使用せず、消費者ニーズに対応したセット製品やソフト技術の開発が

優先されている。

今後、自動車やデジタル家電の伸長に支えられつつも、主力製品の価格下落を

受けて、半導体産業は成長率 7~8%といった低成長期が訪れることが見込まれる。

また、液晶ディスプレイ(LCD)産業は、これまで年率 17~18%という驚異的

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な速度で成長してきたが、このまま成長を続けることは難しい。特にテレビの需要

がピークを迎えた時に、市場の伸びが急速に鈍化すると考えられる。

こうした状況の下、半導体産業や液晶ディスプレイ産業を含む IT 産業全体の基

軸は、電子デバイスの製造プロセス技術から装置や材料の製造技術へと移ってきた。

液晶ディスプレイの価格も製造コストを上回る市場価格の下落を受け、製造メーカ

ー自体は利益が出なくなり、製造コストの約 7 割を占める材料メーカーとそれを

動かす装置メーカーだけが大きな利益を享受している。2006 年度の国内電子材料

メーカーの総売上高は遂に 7 兆円を超え、一時は国家産業ともいわれた半導体産

業の生産額を上回る存在となった。

■FPD 関連産業の想定外の変化

さて、青森県クリスタルバレイ構想が策定された 2000 年~2001 年は、ブラ

ウン管型モニター(CRT)からフラットパネルディスプレイ(FPD)への過渡期

であり、特に LCD の製造技術が飛躍的に向上し、量産体制に移行した時期であっ

た。構想策定当時から韓国メーカー、台湾メーカーの追い上げを予測しており、こ

れは 2001 年以降に現実のものとなった。

この点、同構想の中では、日本メーカーのコスト競争力が低下すること、生産

シェアのトップが日本メーカーから韓台メーカーへと逆転することを危惧してい

た。しかし、当時の FPD の主要アプリケーションはノート型 PC、携帯電話を中

心に推移しており、これに伴って同構想では将来的にデスクトップ型 PC への移行

を予測。そうなると大型 LCD の市場、好調を維持するであろう携帯電話向け中・

小型 LCD の市場がクローズアップされ、これらに重点を置く産業、企業の集積計

画を打ち出した。この時点では、その後の誰も予想もしえない大変革となった FPD

テレビの市場を予測し得なかった。

現在の LCD 市場において、PC 向けの市場シェアは 9%しかなく、大型 LCD

では薄型テレビ向けが主役になっている。中小型 LCD であれば、まさしく携帯電

話向けに市場は移っている。また、参入メーカー別では、薄型テレビに強いシャー

プが国内市場の大部分を占め、韓国では 2 社、台湾では 3 社のみが主役となって

LCD の供給を続けているに過ぎず、ここにきて市場の寡占化は急速に進んでいる。

ここに同構想のひとつの想定外が生じた。

今後も大きな業界再編が噂されており、 終的には 1 技術につき 1 社のみが

100%シェアを握る可能性も出てきた。つまり、2001 年~2005 年においては

LCD メーカーが林立し、アジアを中心に市場競争が激化していたが、すでに勝ち

組と負け組みが明確になっている。つまり、LCD 業界が激しい市場競争を繰り広

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げるといった情勢は急速に過ぎ去り、構想策定当時には見えなかった未知の領域に

突入したといえる。先ごろ発表となったシャープ堺新工場は、空前絶後のスケール

で総投資額は約 2 兆円超を見込むが、これが LCD メーカーの中では 後の大型投

資になるといわれている。

■FPD 市場の行方

今後は、薄く、曲がり、高精細で低電力といった機能を持つ次世代ディスプレ

イの本命「有機 EL(エレクトロ・ルミネッセンス)」の量産化により、FPD 市場

において新たな競争激化が期待できる。この有機 EL は、2~3 年後は 2 兆円の産

業が予想される。ソニー、日立ディスプレイズ、東芝松下ディスプレイなどの大手

電機メーカーのほか、昭和電工、住友化学などの化学メーカーまでも参入を予定し

ており、それぞれ近い時期に量産工場を立ち上げる方針だ。

さらに 4~5 年後には、LCD 市場を巻き込んだ大競争、大再編時代となるだろ

う。国外では、韓国サムスン SDI が有機 EL に対して巨大投資を断行する見通しで、

米国コダックなどと協働する可能性もある。現在、LCD で市場の覇権を握るシャ

ープが、盛者必衰のならいの通り、有機 EL メーカーに倒される事態を想像できな

いこともない。なお、同構想策定時は、当時の 先端技術であった LCD、PDP の

みが LCD 市場を席巻するものと考えられていた点にも想定外が生じている。

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II. 時代の変化に対応した FPD 関連産業の拠点形成を図るための方策

■方向性について

2001 年~2007 年は、前章で報告した通り、全産業においては不況からの脱

出から成長への大きな移行期であった。また、LCD 産業においては、市場の寡占

化が進む中で大型設備投資が一巡し、構想策定時には予測できなかった大きな産

業構造の変化があったことを述べた。その中にあって、青森県クリスタルバレイ

構想においては、時代の流れに苦しみながらも企業誘致、研究開発、人材育成な

どの点で着実に成果を上げてきたといえよう。しかし、今後、同構想をより着実

に推進させるためには、これまでの評価すべき路線を継続しつつ、現状を踏まえ

た対応が必要である。

また、 近は設備投資の巨大化が進む一方、投資方針が一昔前の海外流出から

国内回帰へと変化している。これは知的財産権の流出を防止することと、国内の

人件費が高騰するアジア圏の人件費に比べて大差がなくなってきたことが理由だ。

さらに国内でも、西日本、関東圏における人材不足が深刻化しており、立地傾向

が日本列島を北上していることは、青森県にとって千載一遇のチャンスである。

このような観点から、クリスタルバレイ構想は、FPD 関連産業だけにとらわれず、

今こそ多角展開に刷新する必要がある。

しかし、方針や方策、戦略や戦術もなく、はたまた企業誘致や産業育成の対象

もなく、何にでも触手を伸ばして展開すればよいというわけではない。場当たり

的ではなく、ある程度の産業集積における方向性や対象を特定しつつ、一方では

全方位的かつフレキシブルな対応で企業側のニーズに応える方策が重要となる。

また、青森県が今後何をしたいのかについて明確に打ち出していかないことには、

もはや企業は丁寧に話を聞いてくれない時代だ。そこで明確にした誘致すべき基

幹産業を想定し、そうした特定の業種に対しては優遇措置などのプライオリティ

を付与する努力が必要となる。

一方、青森県クリスタルバレイ構想は、企業誘致だけではなく、研究開発、人

材育成を行うことで新たな産業拠点を形成しようとするものだ。今後も開発特区

の認定を受け、特定の産業エリアを形成することを睨みつつ、世界の産業経済、

アジアの産業経済、国内の産業経済、そして県内の産業経済の活性化と雇用の促

進に資する開発を推進しなくてはならない。これらを実現するためにも、経済界

の注目が北方に集まっていることは絶好の機会と捉えるべきである。

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■個別具体的な方策について

1 拠点形成の対象について

現状、LCD パネルメーカーは利益のでない産業となっており、青森県に誘致

すべき優位性と可能性は、絶対的に低くなっている。今後は、FPD 関連産業と

して利益の出ている部材メーカーや装置メーカーの誘致に力点を移すとともに、

FPD 関連産業の水平展開も行い、今後成長が見込まれる有機 EL や FED(フィ

ールド・エミッション・ディスプレイ)などの次世代ディスプレイを取り込む

活動を積極化させる必要がある。

また、企業のニーズにフレキシブルに応えるために、FPD 関連産業がアプリ

ケーションの市場として展開可能な範囲を捉え、また FPD 関連産業を支配する

基幹産業である材料市場に目を向けるべきである。いわば川上と川下の垂直展

開を図る必要がある。

アプリケーションとして視野に入れるべき産業は、まず好景気の起爆剤とな

っている自動車産業だ。現在の自動車は、カーナビゲーションの普及によって

LCD の搭載率が飛躍的に伸びている一方、今後は小型カメラとの連動によるミ

ラー代替 LCD の登場、各メーター類の LCD 化、そしてフロントガラスのディ

スプレイ化が進むと思われる。この自動車産業を集積させることは、将来的に

FPD 関連産業の誘致につながる可能性もあり、クリスタルバレイ構想を背面か

ら強く支えるものとなるだろう。

また、アプリケーションからのもうひとつの展開としては、太陽光発電シス

テムの製造と利用を集積させ、一大産業拠点とすることである。FPD 関連産業

に参入しているメーカーは、部材として使用する薄型半導体膜の製造技術と大

型ガラス基板を持つことから、太陽光発電システムといった新エネルギー産業

にも目を向けている。事実として、LCD 大手のシャープは、太陽光発電システ

ムで世界一の座にあり、このほど立地を表明した新工場には太陽光発電システ

ムの製造工場を隣接させることを計画している。太陽光発電システムの製造に

は、特別な材料と装置が必要であり、集積を構築するには結晶シリコンなどの

各材料メーカー、製造装置メーカーなどを広く呼び込める可能性がある。

FPD 関連市場の川下に目を向ければ、実に製造コストの 7 割を占めるという

電子材料の市場がクローズアップされる。電子材料は、かつて重厚長大といわ

れた化学産業が得意とする分野で、それゆえ大規模生産ラインを持ち、生産量

も一工場につき想像以上の規模となる。もちろん搬入出には海上輸送を利用す

る場合が多く、立地場所は特定の地域に限られてくる。この点、青森県クリス

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タルバレイ構想で位置づけられているむつ小川原開発地区は港が近く、かつ広

大な敷地を一挙に入手できることから、電子材料の集積地とすることが可能で

ある。

これら自動車、太陽光発電システム、電子材料の三方向に展開することが必

要と考えられる。

2 拠点形成のために取るべき方策について

●現在の産業構造に見合った優位性の再検索

① 青森県クリスタルバレイの利点は、これまでも大きく掲げてきた安い電気、

豊富な水、広大な土地、日本海と太平洋に近い臨海部などである。これら

は、巨大投資を一ヶ所で完結させるという現在の産業立地の傾向に 適の

条件であり、今後の展開が期待できる前述の産業にとっても優位性として

生きてくるだろう。また、地震などの自然災害によって製造ラインが停止

し、巨額の損失が発生する電子デバイスの工場立地にとって、少ない雷、

冷涼な気候、堅固な地盤などは 大の魅力である。これらは構想当初から

提案されていたが、これからはさらに一歩を踏み込んで、 近の企業が工

場進出を決定付ける優先順位を徹底的に調べ上げ、企業のニーズに見合っ

た優位性を今以上に引き出す必要がある。

② 同地区は、すでに風力発電装置、原子力発電の関連施設があり、これに前

記の太陽光発電システムを加えれば、クリーンエネルギーの集積地を築く

ことができる。これらの集積を背景にエネルギー先進地域として世界中に

表明し、青森県を「環境県」として売り出すことも有効である。また、こ

れからの企業にとって、LCA(Life Cycle Assessment:製造、輸送、販

売、使用、廃棄、再利用まですべての段階での環境負荷を総合評価)は非

常に重要であり、同地区において環境に対する負荷が極めて少ない工場が

建つことを示すべきである。

③ 県外からの企業誘致は簡単ではない。これを逆に捉えれば、青森県内の企

業が県外に出て行く条件は何かを県内企業にアンケートすることで、県内

に立地する優位性を見つけることが可能となる。その反面、企業が県内に

おいて不足と感じている点が理解でき、これを改善に役立てることで青森

県にも県外から企業を引き寄せる方策が見えてくるものと考える。

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④ 台湾や韓国などの国外電機メーカーは現在、業界再編に伴う攻めの姿勢か

ら積極投資の傾向に転じている。これは国内投資だけでなく、より消費地

に近く、人件費や製造能力を含む生産効率を高める狙いがあり、日本にも

進出してくる気配が感じられる。これをいち早くキャッチし、前もって六

ヶ所村を経済特区にして保税扱いとするほか、さらに税の優遇やインフラ

に対する優遇措置を取ることにより、今後は電子デバイスのセルを輸入し、

モジュールやセットの組み立てを同地区で行うという体系を構築すること

が考えられる。これには制度に頼るだけでなく、青森県内で組立工程を実

施することが有利であるというデータや実績を収集し、注目を浴びるため

の活動も必要になる。

⑤ 有機ELについては今後成長が見込まれることから、同地区に進出してい

る有機 EL 企業の育成、支援が新たな優位性を引き出す上で重要となる。進

出企業が同地で大成功を納めることは、取引関係にある各部材メーカー、

デバイスメーカー、さらにはセットメーカーを引き寄せるだけでなく、新

規投資を計画するあらゆる企業が同地に目を向けることになる。成功事例

に勝る優位性はない。これを実現するためには、青森県などの公共団体も

一緒になって研究開発のリスクを取る姿勢が必要だ。また、この成功を実

現させるために既存の有機 EL 製造装置企業を後ろ盾にし、協力企業を引き

込むことも考えられる。さらには有機 EL の研究開発で有名な山形大学など

も巻き込み、東北全体を視野に入れて戦略を立てるべきである。

●企業の視点に立った PR 宣伝

① いくら優位性を引き出したとしても、それらを PR する能力、ツール、そし

て場所がなければ何の効果も期待できない。そのためには、第一にツール

となる配布パンフレットの作成が必要となる。この場合、青森県の優位性

を一見して分かるものにすべきである。また、具体的なイメージを想起で

きる情報提供を心がけるべきである。そのため、

・ 進出企業を想定したシミュレーションを明快に紹介する

・ 初期投資が安いと宣伝するよりも、具体的な施策(電気料金、水道料金、

固定資産税減免、事業所税減免など)を織り交ぜ、長期のランニングコ

ストを含めたトータルコストが安くなる条件を明記する。

・ 人材関連の PR については、近隣の大学・専門学校も含めた採用可能総

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数および人件費を技術分野・専門分野に細別するほか、さらに他県や他

国と比較することで数値化し、より具体的に示す。

・ 「北は遠い」と考えている企業を説得するためには、例えば東京を中心

とし、青森市、八戸市や大阪などの主要各所までの距離を時間で表わし

た地図を示すことにより、今まで以上に近くなっていることを明確に示

す。

ことが必要である。それらを総合的により効果的なPRの方策、戦略を立

案するためには、プロフェッショナルのプロデューサーの活用も検討すべ

きである。

② PR 効果という点においては、外資系金融機関などをクリスタルバレイ構想

に巻き込む仕掛け作りが必要である。外資系金融機関が企業に対して持つ

支配力は、日本の金融機関が持っていない特色である。この外資系金融機

関に PR することで彼らに興味と関心を持たせ、彼らがまた支配力の及ぶ企

業に PR するという構図が考えられる。実際に、このパターンで立地が決ま

ったという事例も多い。外部との協働という点においては、例えば電気事

業者に企業立地の優位性を PR し、各種優遇措置の折衝、一体となった誘致

活動も検討すべきである。

③ PR の方法として、現在は「FPD インターナショナル」に毎年出展してい

るが、さらに産学官連携を推進する「イノベーション・ジャパン」や FPD

関連総合展示会の「ファインテックジャパン」への出展、日本で開催され

る国際的な情報ディスプレイ学会の「IDW」への広告掲載などを積極的に

推進すべきである。

●魅力的な街づくり

近の企業誘致では、赴任する従業員とその家族の住環境、教育環境を整え

ることが重要課題である。例えば、先ごろ宮城県に進出した半導体・FPD 製造

装置メーカーの東京エレクトロンは、東北地方における人件費の安さを立地の

決め手としつつ、生活環境を今まで以上に重視したという。現に従業員の家族

を現地に招待し、生活環境の魅力を説明して回るという活動も企業自ら実施し

ているぐらいだ。むつ小川原開発地区では、これまでもレジャー施設、商業施

設などを整備してきたが、ただ用が足りるという程度では家族の定着は難しい。

他の都市に比べて有利といえる事情が今まで以上に必要である。例えば、教育

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環境に関しては、三沢基地内のメリーランド大学に地元の日本人がより入学し

やすくするなどの特色を引き出す施策が考えられる。

3 FPD関連の研究開発について

2001 年当時は LCD 技術も未熟で、広視野角、高速動画の実現が課題であっ

たことから、FS-OCB 方式の LCD 技術の開発に取り組んだのは妥当であった。

しかし、VA 方式、IPS 方式などが改良され、民間の技術でほぼ同等の性能が実現

された現在では、FS-OCB 方式の研究開発は、培われた技術の応用分野の検討を

考えるべきである。静止画では現行の LCD では達成できないレベルの超高精細を

実現できる可能性はあり、1200ppi 程度のグラビア画質の LCD であれば特定用

途で市場を切り開くこともできる。現在の取り組みでもある医療用撮像技術を実

現できれば、また新たな市場の可能性が見込まれる。一方、ひとつのデバイスは

技術の集合体であることから、FS-OCB 方式の材料技術、装置技術等をひとつひ

とつ精査し、これらを個別に応用展開していくことも大切である。

4 FPD 関連の人材養成について

人材育成については、一朝一夕に結果が出るものではなく、時間をかけて構築

していかなければならないことから、現在、八戸工業大学などで実施されている

取り組みについては、今後も継続していくことが重要である。ただし、 近の人

材育成の流れでは、技術者にも教育機関として経営を教えることを重要視されて

いることから、今後の人材養成には、さらに経営の視点も取り入れる必要がある。