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国際開発センター International Development Center of Japan http://www.idcj.or.jp 〒140-0001 東京都品川区東品川4丁目12番6号 日立ソリューションズタワーB 22階 TEL.03-6718-5931 FAX.03-6718-1651 172 南スーダンの農業のポテンシャル (文責:国際開発センター 研究助手 石川 晃士) 皆様は「南スーダン」と聞いて何を思い浮かべられるでしょう か。 現在、私は南スーダンでJICAの「包括的農業開発マスタープラ ン策定支援プロジェクト」(CAMP)にバリューチェーン/農業金 融担当として従事しています。日本のメディアでは2011年7月9 日の独立と隣国スーダンとの石油資源をめぐる問題によく焦点が 当たっていますが、南スーダンは国土(総面積64万km 2 )の95%が 農業適地で、そのうちの50%が肥沃な土壌というアフリカでも有 数の農業国です。 同国はこれまで国家歳入の98%を石油収入に頼っており、新た な産業の育成は、独立以前から大きな課題として認識されてきま した。そのため、石油依存からの脱出策として注目を浴びている のが農業であり、南スーダン国政府の経済発展の中長期的な柱と して位置付けられ、農業セクターの拡大と開発ポテンシャルに期 待が寄せられています。 しかし、現在、実際に耕作されているのは国土の4%以下に過 ぎず、さらに、干ばつや紛争などの影響、改良種子や化学肥料な どの投入材をほとんど使用しない営農形態などにより、同国の穀 物生産量は56万トン(2011年)と、約100万トンの穀物需要が満た されていません。このため、不足分を国際機関などの食料援助に 依存する状況が続いています。また、近年の世界的な食料価格の 高騰に加えて、独立後の帰還民の増加、さらに2012年1月末にス ーダンとの石油施設利用料をめぐる交渉の末の石油生産停止の結 果、緊縮財政措置を導入したことにより国内の食料安全保障は厳 しい状況下に置かれています。 こうした背景 のもと、農業開 発ポテンシャル を把握する包括 的な調査に基づ き、具体的な事 業を実施するこ とで農業生産性 と国際競争力を 高め、中長期的 に農業生産物の 輸入依存度を低下させることを目的として、私たちのプロジェク ト(CAMP)は2012年7月に開始されました。 南スーダンでは2005年まで約40年間の長期内戦を経験してきた ため、国内流通に対する資本が形成されておらず、農村道路、倉 庫、灌がい施設などのインフラおよび農業資材の流通も脆弱であ ることから、市場志向型農業は極めて限定的になっています。 制度面においても市場経済活動に必要な法制度も未整備である 結果、首都のジュバ市内で流通する穀物や野菜、果実など主要農 産物もほとんどがウガンダなどの近隣国からの輸入となっていま す。さらに、南スーダンにおける農産物流通の主要な担い手は、 ウガンダ人をはじめとする外国人であり、南スーダン側にはほと んど利益が落ちていません。 紛争経験、資源依存、内陸性という安定的な経済成長にネガテ ィブに働く可能性がある要因を兼ね備える南スーダンが、今後、 農業を発展させ、南スーダン人の手に農産物の付加価値が落ちる 構造を如何にして構築していくか、農業のバリューチェーンを考 える上では、農業投入財の共有から生産、加工、流通、最終消費 に至る一連のプロセスに関するアクターを特定・育成しつつ、バ リューチェーン全体として価値と競争力を高める方策を練らなけ ればなりません。 南スーダンの中央政府職員と共に同国の農業現場の声を反映さ せつつ、その背景にある政治、社会、経済の事情を踏まえた包括 的な農業開発マスタープランの策定を支援するという重要な役割 に従事できる貴重な機会を得られたことを生かし、本業務が自分 自身にとっても礎となるよう一生懸命取り組んでいきたいと思い ます。 ジュバの主要マーケット(ウガンダからの輸入農産物の積み下ろし) 農業ポテンシャルが高いYeiの農地(NERICA品種栽培)

国際開発センター - IDCJ...当たっていますが、南スーダンは国土(総面積64万km2)の95%が 農業適地で、そのうちの50%が肥沃な土壌というアフリカでも有

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  • 国際開発センターInternational Development Center of Japan

    http://www.idcj.or.jp〒140-0001 東京都品川区東品川4丁目12番6号 日立ソリューションズタワーB 22階 TEL.03-6718-5931 FAX.03-6718-1651

    172

    南スーダンの農業のポテンシャル

    (文責:国際開発センター 研究助手 石川 晃士)

     皆様は「南スーダン」と聞いて何を思い浮かべられるでしょうか。 現在、私は南スーダンでJICAの「包括的農業開発マスタープラン策定支援プロジェクト」(CAMP)にバリューチェーン/農業金融担当として従事しています。日本のメディアでは2011年7月9日の独立と隣国スーダンとの石油資源をめぐる問題によく焦点が当たっていますが、南スーダンは国土(総面積64万km2)の95%が農業適地で、そのうちの50%が肥沃な土壌というアフリカでも有数の農業国です。 同国はこれまで国家歳入の98%を石油収入に頼っており、新たな産業の育成は、独立以前から大きな課題として認識されてきました。そのため、石油依存からの脱出策として注目を浴びているのが農業であり、南スーダン国政府の経済発展の中長期的な柱として位置付けられ、農業セクターの拡大と開発ポテンシャルに期待が寄せられています。 しかし、現在、実際に耕作されているのは国土の4%以下に過ぎず、さらに、干ばつや紛争などの影響、改良種子や化学肥料などの投入材をほとんど使用しない営農形態などにより、同国の穀物生産量は56万トン(2011年)と、約100万トンの穀物需要が満たされていません。このため、不足分を国際機関などの食料援助に依存する状況が続いています。また、近年の世界的な食料価格の高騰に加えて、独立後の帰還民の増加、さらに2012年1月末にスーダンとの石油施設利用料をめぐる交渉の末の石油生産停止の結果、緊縮財政措置を導入したことにより国内の食料安全保障は厳しい状況下に置かれています。

     こうした背景のもと、農業開発ポテンシャルを把握する包括的な調査に基づき、具体的な事業を実施することで農業生産性と国際競争力を高め、中長期的に農業生産物の輸入依存度を低下させることを目的として、私たちのプロジェクト(CAMP)は2012年7月に開始されました。 南スーダンでは2005年まで約40年間の長期内戦を経験してきたため、国内流通に対する資本が形成されておらず、農村道路、倉庫、灌がい施設などのインフラおよび農業資材の流通も脆弱であることから、市場志向型農業は極めて限定的になっています。 制度面においても市場経済活動に必要な法制度も未整備である結果、首都のジュバ市内で流通する穀物や野菜、果実など主要農産物もほとんどがウガンダなどの近隣国からの輸入となっています。さらに、南スーダンにおける農産物流通の主要な担い手は、ウガンダ人をはじめとする外国人であり、南スーダン側にはほとんど利益が落ちていません。 紛争経験、資源依存、内陸性という安定的な経済成長にネガティブに働く可能性がある要因を兼ね備える南スーダンが、今後、農業を発展させ、南スーダン人の手に農産物の付加価値が落ちる構造を如何にして構築していくか、農業のバリューチェーンを考える上では、農業投入財の共有から生産、加工、流通、最終消費に至る一連のプロセスに関するアクターを特定・育成しつつ、バリューチェーン全体として価値と競争力を高める方策を練らなければなりません。 南スーダンの中央政府職員と共に同国の農業現場の声を反映させつつ、その背景にある政治、社会、経済の事情を踏まえた包括的な農業開発マスタープランの策定を支援するという重要な役割に従事できる貴重な機会を得られたことを生かし、本業務が自分自身にとっても礎となるよう一生懸命取り組んでいきたいと思います。

    ジュバの主要マーケット(ウガンダからの輸入農産物の積み下ろし)

    農業ポテンシャルが高いYeiの農地(NERICA品種栽培)