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- 42 - 島根県産業技術センター研究報告 第49号(2013) 1.目   的 島根県西部の石見地方は日本三大粘土瓦産地のひとつで あり,本地域で作られる瓦は石州瓦と呼ばれる.石州瓦は 第四紀の堆積層である都野津層に由来する良質なカオリン 質の粘土を原料とする.この耐火度の高い粘土を使用する ことで,高温焼成が可能となり,吸水率の低い優れた耐久 性をもつ石州瓦ができる 1) ところで粘土とは “主に天然の細粒の鉱物からなる可塑 性を持ち,乾燥あるいは焼成したときに固結する物質” だ といえ,通常層状珪酸塩鉱物からなる 2) .都野津層でみら れる粘土鉱物は,カオリナイト,雲母,そしてスメクタイ トが主である.これら粘土鉱物の特性は瓦の成型に重要な 役割を果たす。それに対し,天然に存在する粘土層には, 粘土鉱物以外に石英や長石等がある程度含まれる.一般に 石英や長石は粗粒であり,乾燥工程での亀裂やねじれを防 ぎ乾燥速度を早める.さらに焼成において収縮を抑制し形 状,寸法精度の保持に効果をもたらす 3) 瓦の原料となる瓦坏土は粘土鉱物,石英,そして長石の 混合物であることから,安定した瓦製品を製造する上で各 成分の存在割合は重要な要素となる.しかしながら,それ らの定量的な分析は難しく,一般的には粒子径によって簡 便に判別している状況である.浜田技術センターでは過去 20 年以上にわたる瓦坏土の粒度試験において 4) 2μm 以 下を粘土,2 ~ 75μm をシルト、そして 75μm 以上を砂 と定義している(但し 1993 年以前は 74μm をシルトと砂 の境界としていた).この区分によれば石英や長石のほと んどは砂やシルトに含まれる. 土質粒子の粒度分布を測定する方法は数多く知られてい 5) .顕微鏡で粒子径を観察する直接観察法,種々の目開 きのふるいを使用するふるい分け法,重力や遠心力による 沈降速度から導く沈降法,そして照射したレーザーの回折 強度の粒子径依存性を利用したレーザー回折散乱法などが 一例である.ここでは沈降法,特に比重計を用いた沈降法 とふるい分け法を組み合わせた測定法について考察した. この測定法については,「JIS A 1204:2009土の粒度試験 方法」に詳細な分析法が規定されている.また比重計法の 特徴として,測定器具の価格が安く,特に熟練を要しない とされている 5) .しかしながら比重計法において,比重計 による個体差を含む種々の分析条件によって得られる結果 は必ずしも一定でない.特に,この方法による粒度分布測 定では懸濁液の分散が重要なポイントとなり,粒子の分散 が不十分な場合,粒子は凝集し見掛け上本来より大きな粒 子として沈降する.結果として,本来の粒度分布より,微 粒子が少ない急な傾きの曲線が得られる.本試験において 懸濁液の凝集に影響を与える操作は,分散剤の添加のタイ ミングと分散剤濃度,そして測定直前の撹拌作業であると 考えられる. そこで,本報告では種々の分析条件が比重計法に与える 影響として,①比重計の個体差が与える影響,②分散剤添 加のタイミングが与える影響,③分散剤濃度が与える影響 について検討した.さらに,JIS には言及されていない比 重計法とふるい分け法のグラフの不連続の原因を明らかに するため,レーザー回折散乱法による粒度分析をおこない, 分散剤濃度と粘土粒子の存在形態の観点から,比重計法に おけるストークスの法則の適用性について考察した.さら にデータの補正法とその妥当性についても検討した.これ らの結果を基に, 2011年の定期調査で採取した坏土(白地) 8 種類について,試験結果に与える影響が大きい “ 分散剤 濃度の影響 ” に対する比較試験をおこない,低濃度分散剤 と高濃度分散剤を使用した場合の粒度組成の換算係数を求 めたので,その結果について報告する. 2.方   法 2.1 比重計法の原理 比重計法の原理について簡単に概説する.任意の媒質を 沈降中の1個の粒子は,重力と媒質から受ける浮力,さら に媒質の粘性による上向きの抵抗力を受けながら沈んでい く.最終的に粒子が受ける力はつり合い,等速運動をおこ なう.粒子が分散媒を乱さず安定して沈降しているとき, 粒子の最終的な速度は, v = ρ s -ρ w 18η d 2 ⎝⎛ ⎝⎛ (1) g と表すことができ , これをストークス式という.ここで v: 粒子の沈降速度(m/s),d:粒子径(m),g:重力加速度(m/ s 2 ),ρ s :粒子の密度(kg/m 3 ),ρ w :溶媒の密度(kg/m 3 ),η: 溶媒の粘性(Pa・s)である.実際の粒度測定では,粒子 資 料 比重計法による瓦坏土の粒度分析条件の検討 中島  剛 ・前原 清霞 ・江木 俊雄 無機材料・資源グループ

比重計法による瓦坏土の粒度分析条件の検討...土質粒子の粒度分布を測定する方法は数多く知られてい る5).顕微鏡で粒子径を観察する直接観察法,種々の目開

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島根県産業技術センター研究報告 第49号(2013)中島・前原・江木:比重計法による瓦坏土の粒度分析条件の検討

1.目   的

 島根県西部の石見地方は日本三大粘土瓦産地のひとつであり,本地域で作られる瓦は石州瓦と呼ばれる.石州瓦は第四紀の堆積層である都野津層に由来する良質なカオリン質の粘土を原料とする.この耐火度の高い粘土を使用することで,高温焼成が可能となり,吸水率の低い優れた耐久性をもつ石州瓦ができる 1). ところで粘土とは “主に天然の細粒の鉱物からなる可塑性を持ち,乾燥あるいは焼成したときに固結する物質” だといえ,通常層状珪酸塩鉱物からなる 2).都野津層でみられる粘土鉱物は,カオリナイト,雲母,そしてスメクタイトが主である.これら粘土鉱物の特性は瓦の成型に重要な役割を果たす。それに対し,天然に存在する粘土層には,粘土鉱物以外に石英や長石等がある程度含まれる.一般に石英や長石は粗粒であり,乾燥工程での亀裂やねじれを防ぎ乾燥速度を早める.さらに焼成において収縮を抑制し形状,寸法精度の保持に効果をもたらす 3). 瓦の原料となる瓦坏土は粘土鉱物,石英,そして長石の混合物であることから,安定した瓦製品を製造する上で各成分の存在割合は重要な要素となる.しかしながら,それらの定量的な分析は難しく,一般的には粒子径によって簡便に判別している状況である.浜田技術センターでは過去20 年以上にわたる瓦坏土の粒度試験において 4), 2μm 以下を粘土,2 ~ 75μm をシルト、そして 75μm 以上を砂と定義している(但し 1993 年以前は 74μm をシルトと砂の境界としていた).この区分によれば石英や長石のほとんどは砂やシルトに含まれる. 土質粒子の粒度分布を測定する方法は数多く知られている 5).顕微鏡で粒子径を観察する直接観察法,種々の目開きのふるいを使用するふるい分け法,重力や遠心力による沈降速度から導く沈降法,そして照射したレーザーの回折強度の粒子径依存性を利用したレーザー回折散乱法などが一例である.ここでは沈降法,特に比重計を用いた沈降法とふるい分け法を組み合わせた測定法について考察した.この測定法については,「JIS A 1204:2009 土の粒度試験方法」に詳細な分析法が規定されている.また比重計法の特徴として,測定器具の価格が安く,特に熟練を要しない

とされている 5).しかしながら比重計法において,比重計による個体差を含む種々の分析条件によって得られる結果は必ずしも一定でない.特に,この方法による粒度分布測定では懸濁液の分散が重要なポイントとなり,粒子の分散が不十分な場合,粒子は凝集し見掛け上本来より大きな粒子として沈降する.結果として,本来の粒度分布より,微粒子が少ない急な傾きの曲線が得られる.本試験において懸濁液の凝集に影響を与える操作は,分散剤の添加のタイミングと分散剤濃度,そして測定直前の撹拌作業であると考えられる. そこで,本報告では種々の分析条件が比重計法に与える影響として,①比重計の個体差が与える影響,②分散剤添加のタイミングが与える影響,③分散剤濃度が与える影響について検討した.さらに,JIS には言及されていない比重計法とふるい分け法のグラフの不連続の原因を明らかにするため,レーザー回折散乱法による粒度分析をおこない,分散剤濃度と粘土粒子の存在形態の観点から,比重計法におけるストークスの法則の適用性について考察した.さらにデータの補正法とその妥当性についても検討した.これらの結果を基に,2011 年の定期調査で採取した坏土(白地)8 種類について,試験結果に与える影響が大きい “ 分散剤濃度の影響 ” に対する比較試験をおこない,低濃度分散剤と高濃度分散剤を使用した場合の粒度組成の換算係数を求めたので,その結果について報告する.

2.方   法

2.1 比重計法の原理 比重計法の原理について簡単に概説する.任意の媒質を沈降中の1個の粒子は,重力と媒質から受ける浮力,さらに媒質の粘性による上向きの抵抗力を受けながら沈んでいく.最終的に粒子が受ける力はつり合い,等速運動をおこなう.粒子が分散媒を乱さず安定して沈降しているとき,粒子の最終的な速度は,

    v =ρs-ρw18η

d2⎝⎛

⎝⎛

(1)g

と表すことができ , これをストークス式という.ここで v:粒子の沈降速度(m/s),d:粒子径(m),g:重力加速度(m/s2),ρs:粒子の密度(kg/m3),ρw:溶媒の密度(kg/m3),η:溶媒の粘性(Pa・s)である.実際の粒度測定では,粒子

資 料

比重計法による瓦坏土の粒度分析条件の検討

中島  剛*・前原 清霞*・江木 俊雄*

*無機材料・資源グループ

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中島・前原・江木:比重計法による瓦坏土の粒度分析条件の検討

が時間 t(s)の間に距離 h(m)沈降したとすると,v=h/tより求める粒子径 de は,

  ⎝⎛

⎝⎛

(2)de =18 η

g ρs-ρw×t h

となる.h は比重計(浮ひょう)の有効深さであり,試験開始 t 秒後に記された目盛りを読み取った数値に対し,浮ひょうの寸法・体積等を考慮した値として導かれる.ここで得られた粒子径は,対象粒子と同一速度で沈降する球形粒子の径を意味し,これをストークス径と呼ぶ. 粒径が d 以下の粒子の存在割合 P(d)(%)は,m:試料質量(kg),V:溶媒の体積(m3),r:浮ひょうの読み取り値の小数点部分,C:メニスカス補正値,F:温度に依存するガラスの膨張による補正値として,

   (3)P(d)= Vm×ρsρs-ρw

×(r+C+F)ρw×100

といった百分率で表される.このように試験開始後,所定時間経過後の浮ひょうの指示値を断続的に読み取ることで,懸濁液分散粒子の粒度分布を求めることができる.2.2 JIS A 1204:土の粒度分析方法の手順 JIS A 1204 に基づいた分析の手順をまとめる.①乾燥質量で 50g 相当の試料を容器に取り分ける.②試料に 0.5%の過酸化水素水溶液 400mL を加え一晩以上放置する.③容器に蓋をし,ホットプレート上で 4 時間煮沸し,冷却後一晩放置する.④容器に所定量の分散剤(ヘキサメタりん酸ナトリウム溶液)を添加し,試料をメスシリンダーに移す.⑤この際容器の底に沈殿した試料は,超音波分散装置や撹拌機等を使用し,必ず懸濁した状態にする.⑥1000mL の懸濁液としたメスシリンダーの入り口をしっかりと手で押さえ 30 回上下に転倒を繰り返した後,メスシリンダーを実験台に戻す.⑦同時に素早くタイマーを作動させ,ゆっくりと比重計を懸濁液に浮かべる.⑧所定時間経過後の比重計の数値と時間を読み取り記録する.約 24時間経過後に最後の読み取りをおこなう.ここまでの比重計法測定によって求められる粒度範囲は凡そ 1 ~ 50μmの範囲である. 続いて⑨上澄み液を捨て目開き 75μm のふるいに残留する試料を容器に回収し,十分に乾燥させる.砂分の測定として,⑩予め秤量した目開き 75μm,150μm,250μm,425μm,840μm のふるいを順に積み重ね,上から試料を投入する.⑪ふるい分けは左右に 1 分間振とうすることでおこない,ふるいに残存した試料を秤量する.以上の操作によって得られた全てのデータを,横軸を粒子径(μm),縦軸を通過質量百分率(%)とし,片対数のグラフにプロットする.最後に,ふるい分け法による砂分のデータを基準としながら比重計法の測定点と連続的になるように曲線を引くと,粒径加積曲線が得られる.このグラフから 2μm以下の粘土分,2 ~ 75μm のシルト分、そして 75 μm 以

上の砂分を求めた.尚,浮ひょうは株式会社丸東製作所製のボイコース型比重計を使用した.また一度に 3 試料前後同時に測定した.2.3 評価項目 2.2 項の一連の分析方法において,実験条件の影響評価として,実験①比重計(浮ひょう)の個体差を調べるために,2 つの浮ひょうを使用し同一の試料についてそれぞれ分析をおこなった.実験②分散剤の添加のタイミングによる影響を調べるために,通常の操作である上記の手順④と手順③の煮沸操作の終了直後に添加した場合の比較分析をおこなった.両者の間には分散剤を加える時間として一晩の違いが生じる.実験③分散剤濃度の影響の評価として,試料懸濁液中の分散剤濃度を 0.01 ~ 0.2% の間で 6 種類調整し,それぞれ粒度試験をおこなった.なお,本実験において分散剤は全てヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液を使用した. 瓦坏土は瓦会社から提供された 2 種類の白地(焼成前の成型粘土:試料 A,試料 B)を用いて,種々の分析条件に対する影響をそれぞれ評価した.また 2011 年の定期調査として瓦会社7社 8 工場から提供を受けた 8 種類の白地についても試験をおこなった.  レーザー回折散乱方式による粒度測定は日揮装株式会社製マイクロトラック MT3000 Ⅱを使用した.比重計法による分析の最中,21 時間 32 分及び 31 時間 25 分経過時に懸濁液上端から 1cm,5cm,及び 10cm の部位より懸濁液をそれぞれ 5mL 採取し分析試料とした.

3.結   果

3.1 比重計(浮ひょう)の個体差による影響 最初に使用した比重計(浮ひょう)の個体差による影響を確認した.最小目盛りは 0.001g/cm3 を示し,実際は±0.0005g/cm3 の範囲に分布する.このときの標準不確かさは 0.0003g/cm3 となる.この値が結果に与える影響は,横軸の粒子径で 0.06μm 相当であるが,縦軸の累積頻度で

30323436384042444648

粘土分の割合(%)

浮ひょうA 浮ひょうB図1 浮ひょうの違いによる粘土分の割合

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島根県産業技術センター研究報告 第49号(2013)中島・前原・江木:比重計法による瓦坏土の粒度分析条件の検討

は 1.0% に及ぶ。したがって,通過質量百分率の拡張不確かさ(k=2)は 2.0% となり,縦軸に関して浮ひょうの個体差が結果に影響を与える可能性がある.そこで 2 つの浮ひょうを使用し,同一の試料で粒度分析をおこなった結果を図1に表した.グラフで黒塗は浮ひょう A でドットは浮ひょう B での結果である.また 7 回の試験は試料 A を使用し,試料 B の試験は 1 回(図中一番右)であった.データに多少のばらつきはあるものの 8 回の試験中 6 回の結果で浮ひょう B が高い値を示した.試料 A の平均値は浮ひょう A で 38.3%,浮ひょう B で 40.3% であった.この差は浮ひょうのばらつきの範囲とはいえ,系統的なデータのずれを与える可能性がある.よって以降の実験では,種々の条件による影響を評価する場合,使用する浮ひょうが同一個体に偏らないよう注意した.3.2 分散剤添加のタイミング 分散剤添加のタイミングによる影響を確認した実験結果を表 1 に表す.試験数は煮沸直後が n=13 で,試験直前がn=11 である.表より砂分の誤差がその他の成分と比べて著しく小さく,高い精度で結果が得られている.このことから,ふるい分け法で得られた粒度曲線と比重計法のそれが連続的に繋がらない場合,ふるい分け法で得られた 75μm の値を基準(固定)とし,比重計法のシルト分の曲線を適宜上下させながら砂分と滑らかに繋がるように曲線を結んだ.続いて,粘土分とシルト分の結果を比較すると,平均値では煮沸直後の粘土分が僅かに高い値を示すものの,誤差を考慮すると有意な差ではないといえる.同様にシルト分もほぼ同じ結果であった.しかしながら作業性の観点からは,沈殿物をなるべく減らした方が直前の分散作業の手間が減り好ましい.よって,以降の操作手順として懸濁液の煮沸直後に所定の分散剤を添加することとした.3.3 分散剤濃度による影響 分散剤濃度は懸濁液中に存在する粒子の分散性に大きく影響する.一般に溶液中の固体粒子は表面に電気二重層を形成し,これは固体表面と溶媒の化学種に基づく相互作用によって決定される.粒子は電気二重層内部に生じた強い引力(分子間力)によって結びつき凝集する.電気二重層が作用する範囲の電位差をζ-電位と呼び,分散剤はζ-電位の絶対値を増加させ凝集を抑制する効果を発揮する.JIS A 1204 では分散剤としてヘキサメタりん酸ナトリウムを推奨している.

 分散剤濃度による影響を検討した結果を図 2 に示す.結果は試料 A についてのもので,グラフ中の誤差は標準偏差を表す.分散剤の濃度が 0.01% から 0.03%,0.04%,そして 0.1% と増加するにつれ,粘土分の割合が 29%(n=1),31.0±1.7%(n=5),32%(n=1)そして 38.9±1.5%(n=9)へと増大した.さらに分散剤の添加量を増やすと濃度0.15% で粘土分 40.2±2.3%(n=10),濃度 0.2% で粘土分40.8±2.1%(n=6)となった.このように比重計法による粒度測定では粘土分の結果は分散剤の濃度に影響を受け,特に 0.1% 以下の分散剤の濃度ではその傾向が大きいといえる.懸濁液中の粒子の分散性を促進するという分散剤の役割を考慮すると,0.04% 以下の低濃度の分散剤では測定中に粒子が凝集して存在している可能性が高い.JIS A 1204 では測定中に試料粒子が凝集した場合,測定を中止し分散剤の量を多くすると記載されている.よって,図 2の結果から分散剤として 0.04% 以下では不十分で,0.1 ~0.2% のヘキサメタりん酸ナトリウム濃度が適正だと判断できる.

図 2 分散剤濃度の違いによる粘土分の割合

図 3  分散剤濃度による比重計法とふるい分け法との

不連続               

試料A 煮沸直後 試験直前

粘土分 41.4 ± 2.1% 40.7 ± 2.3%

シルト分 37.0 ± 2.1% 37.5 ± 2.6%

砂分 21.9 ± 0.4% 21.8 ± 0.4% *数値は平均値 ±標準偏差を示す.

表 1 分散剤添加のタイミングによる影響

20

25

30

35

40

45

50

0.0% 0.1% 0.2%

粘土分の割合(%)

分散剤濃度(%)

0102030405060708090

100

1 10 100 1000

通過質量百分率(%)

粒径(μm)分散剤0.035% 分散剤0.15%

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中島・前原・江木:比重計法による瓦坏土の粒度分析条件の検討

3.4 高分散剤濃度における粒度曲線の不連続 比重計法の粒度曲線によって外挿されるシルト分の上限と,ふるい分け法で求められる粒径 75μm 以上の積算値は異なる場合がある.その相違は分散剤添加量を増やした場合に顕著に現れ,図 3 に示すように 0.04% 以下の低濃度分散剤では比重計法とふるい分け法で得られた曲線が比較的スムーズに繋がるものの,0.1 ~ 0.2% の分散剤を添加した条件では全体的に高い頻度へと移動した比重計法のグラフが得られる.図中の黒丸と黒三角のマークが比重計法によるデータ,白抜きのポイントはふるい分け法より求められた結果である. 3.5 レーザー回折散乱法による測定 図 3 の粒度曲線において特にギャップの大きい 0.1 ~0.2% 濃度の分散剤添加時の粒子状態を明らかにするため,測定開始から一定時間経過後の所定位置の試料を回収し,レーザー回折粒度分析装置による粒度分布測定をおこなった.表 2 の結果のとおり,21 時間 32 分経過時の深さ 1cmの部位において,0.6μm 以上の粒子径をもつ割合が 20%観測され,0.8,1.0μm の粒子径もそれぞれ 10% 及び 4%存在した.ここで(1)式のストークスの法則に基づく沈降速度の関係から,所定時間経過後における任意の粒子径の沈降距離が求められる.21 時間 32 分経過時の計算結果を図 4 に表す.図より 0.6μm の粒子径では 2.5cm 沈降し,0.8μmそして1.0μmの粒子径においてそれぞれ4.5cm,7.0cm沈降することが分かる.このように,深さ 1cm の位置においてストークスの法則では本来存在し得ない大きな粒子が懸濁液中に存在することが明らかとなった.同様に式(1)

を用いて,31 時間 25 分経過時の 1.0μm,1.5μm,及び 2.0μm の沈降距離を見積もるとそれぞれ 10cm,23cm,そして 41cm である.表 2 をみると,5cm の深さにおいて 1.0μm 以上の粒子が 22%,また 1.5μm 以上の粒子も 9.0%確認される.さらに,10cm の深さでは 1.5μm 及び 2.0μm 以上の粒子がそれぞれ 17% と 6.3% 観測された. レーザー回折散乱法の粒子径は対象粒子と同一な回折散乱パターンを与える球形粒子の径(回折散乱径)である.他方,天然の鉱物由来の粒子は不規則な形状をしている場合があり,特にカオリナイトや雲母粘土鉱物といった粘土鉱物は板状の形態を有することが特徴である.そのため,レーザー回折散乱測定において,レーザーが対象粒子に照射される角度によっては粒度分布が実際より小さな粒径方向に広がる場合がある.すなわち表 2 の結果はより大きな粒径に変動する可能性はあっても,小さな粒径に変わることはない.したがって,以上のレーザー回折装置による粒度分布測定結果から,高濃度分散剤を使用した比重計法による実験はストークスの法則と一致しないと結論付けられる.3.6 比重計法による曲線不連続の原因考察3.6.1 粘土粒子に対する考察 ストークスの法則では沈降する粒子を球体として仮定しており,この粒子径はストークス径あるいは沈降径と呼ばれている 5).上述のとおり,粘土鉱物は板状の扁平率の高い形態を示す.そのため粘土鉱物は水中に分散した状態で水の抵抗を受けやすい.したがって,最大径が球体直径と同一であれば,粘土鉱物の沈降速度は球体粒子のそれより小さく,両者の沈降速度が同一であれば,粒子径は球体より粘土鉱物の方が大きいといえる.即ち粘土鉱物のような板状粒子はストークスの法則に基づく沈降法において誤差の原因となる 5). 今回の場合,0.04% 以下の低分散剤濃度では粘土粒子が凝集して比較的球体に近い二次粒子を形成し,ストークスの法則が成り立つような状態だと考えられる.それに対し,溶液中の分散剤濃度の高い状態では凝集した二次粒子の分散が促進され,本来板状形態である個々の粘土粒子が水から受ける抵抗が増加した可能性が高い.その結果,実際よりも粒子の沈降距離に相当する比重計の有効深さが小さく見積もられ,粒子径が小さく計測される結果となった.したがって,ストークスの法則が適応される理想的な球状粒

0

1

2

3

4

5

6

7

8

0.6μm 0.7μm 0.8μm 0.9μm 1.0μm

沈降距離(cm)

図 4 21 時間 32 分経過時の粒子径に対応する沈降距離(ストークス式による)

区分21時間32分経過時

深さ1cm 区分31時間25分経過時

深さ5cm31時間25分経過時深さ10cm

0.6μm以上の割合 20% 1.0μm以上の割合 22% 35%

0.8μm以上の割合 10% 1.5μm以上の割合 9.0% 17%

1.0μm以上の割合 4.0% 2.0μm以上の割合 2.9% 6.3%

表 2 高濃度分散剤を添加した懸濁液のレーザー回折散乱法による粒度分布測定結果

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島根県産業技術センター研究報告 第49号(2013)中島・前原・江木:比重計法による瓦坏土の粒度分析条件の検討

子のグラフに対し,高濃度分散剤では図 3 において曲線が上,あるいは左に移動する通過質量百分率の増大をもたらしたと結論付けられる.3.6.2 石英や長石粒子に対する考察 坏土中には粘土鉱物以外に石英や長石が含まれる.比重計法で得られた粒度曲線において,石英や長石は 5μm 以上の相対的に大きな粒子径部に,粘土鉱物はそれ以下の小さな粒子径部に主に分布する.粘土鉱物は板状形態であり球体からのずれが大きいが,石英や長石粒子は塊状であり比較的球体に近い.それにもかかわらず図 3 における比重計法とふるい分け法の不連続は,50μm 付近の比較的大きな粒径部分にもみられる. 3.3 項で説明したように高濃度の分散剤を使用した場合,粘土粒子の分散が促進される.例えば図 3 をみると,このとき懸濁液中に粒径 5.4μm 以下の粒子は 53%,そして粒径 47μm 以下の粒子は 82% 含まれる.主に粘土鉱物から成るこのような濃厚な懸濁液においては,溶液の粘性が増大した状態にあることが推察される.その場合,比較的球形に近い石英や長石であっても単一の粒子が溶液を沈降している状況を想定したストークスの法則から逸脱した高い抵抗を受けた可能性が高い.その結果,比較的大きな石英や長石粒子においても,粘土粒子と同様に実際より粒子の沈降距離に相当する比重計の有効深さが小さく見積もられ,粒子径が小さく計測される結果となったと推察される.このように,ストークスの法則が適応される理想的な球状粒子のグラフに対する粒度曲線のずれは,50μm 程度の領域においても生じたと結論付けられる. 3.7 粒度分布曲線における不連続の補正 図 2 の結果から JIS A 1204 の分析法において高濃度分散剤の使用が適当であると判断できる.にもかかわらず,原理的な不一致から比重計法とふるい分け法の不連続が避けられないため,瓦坏土のような板状粒子と塊状粒子が混在した試料の分析はそもそも困難である.しかしながら,JIS A 1204 の方法は簡易な器具のみで特別な装置が必要なく,現場的には優れた方法である.そこで得られた粒度分布曲線の不連続部分の補正方法を検討し,JIS A 1204の方法により瓦坏土の粒度分布を計測する妥当な手法を提案した. 具体的には,岸,公文(1993)の方法 6)に従ったデータ補正により両者の併せ込みをおこなった.ふるい分け法による 75μm 以上の粒度分布曲線は再現性が高いため,沈降法によって得られた曲線を補正して不連続を解消することとした.レーザー回折測定による結果及びストークスの法則との対応による考察から,比重計法の曲線は相対的に通過質量百分率が高い値を示しているか粒子径が低く見積もられていると結論付けた.図 5 をみると,沈降法のデータの最大直径は 56μm であり,このデータをふるい分け法と一致させるため粒子径を大きく見積もった場合,100

μm を超える直径のデータとなる.これは比重計法で分析できる最大値を大きく超えている. そこで,図 5 のように試料質量の補正によってグラフを下側に移動させるような方向で併せ込みをおこなった.グラフは試料 A,0.1% 分散剤濃度についての結果で,白丸のふるい分けのデータに対し補正前のデータでは 6%程度のギャップが存在する.試料質量(式(3)の m)を実際の50g から 54.3g とし再計算をおこなうと,グラフのように縦軸の値が減少し,ふるい分け法と連続的なグラフが得られた. 比重計法による測定では,測定開始直後において試料懸濁液の濃度が最も高く,同時に(3)式より求められる通過質量百分率も最大値を示す.その後測定時間が経過するにつれ,より大きな粒子の沈降とともに懸濁液密度及び通過質量百分率が減少する.比重計法測定によるグラフのずれは,この懸濁液密度(式(3)の r)の過大評価に起因するものであるが,3.6 項で説明したように測定の初期においては石英,長石,そして粘土粒子といった全ての粒子の影響を受け,測定の進行に伴い石英や長石が寄与する割合が減少し,最終的に粘土粒子のみが寄与することとなる.図5 のグラフで表すように,今回行った補正は大きな粒子領域でその効果が大きく,補正の度合いが強められている.逆に,小さな粒子領域ではその影響は小さく,元のグラフを尊重した形となっている.すなわち,質量補正による方法は,補正の必要性の重みが粒子径によって異なることを考慮した補正法だといえる. このような補正をおこなうことで,板状形態をした粘土鉱物を相当量含有する試料であっても,本来より小さく見積もられたストークス径をある程度実際に近い値に換算した粒度分布曲線を得ることができるため,瓦の製造工程に重要な影響を与える粘土鉱物の割合をより正確に知ることが可能となる.

図 5 補正による合わせ込例

0102030405060708090

100

1 10 100 1000

通過質量百分率(%)

粒径(μm)

ふるい分け法 補正前 補正後

Page 6: 比重計法による瓦坏土の粒度分析条件の検討...土質粒子の粒度分布を測定する方法は数多く知られてい る5).顕微鏡で粒子径を観察する直接観察法,種々の目開

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中島・前原・江木:比重計法による瓦坏土の粒度分析条件の検討

 以上のような操作をおこない 0.1 ~ 0.2% の分散剤濃度を使用した実験のデータ(試料 A,表 1 の総計,n=24)に対し補正処理した結果を 0.03 ~ 0.04% の分散剤の濃度の結果と比較して表 3 に示す.試料 A の 0.03 ~ 0.04% 分散剤濃度は n=2,試料 B について分散剤濃度 0.1 ~ 0.2%は n=10,そして分散剤濃度 0.03 ~ 0.04% は n=2 であった.表から,補正をおこなった分散剤濃度 0.1 ~ 0.2% の粘土分の平均値は 0.03 ~ 0.04% 分散剤の粘土分の値と比較して有意な差が存在した.3.8 定期調査における瓦坏土(白地)の粒度組成 都野津層に賦存する良質な粘土原料の枯渇が危惧されることから,島根県産業技術センターでは 1981 年から継続して瓦坏土の品質調査をおこなってきた 4).粒度組成は耐火度や化学組成と同様,基本的で重要なデータであり,既報 4)に説明されているように分析方法は JIS A 1204 に従っている.しかしながらこれまでの定期調査による分析では,0.03 ~ 0.04% 濃度の分散剤が主に使用されていた.今回の結果で,分散剤の濃度は粘土分とシルト分の結果に影響を与えることが明らかとなった.そこで 2011 年に採取した

最新の定期調査の瓦坏土を使用し,0.04% と 0.2% の分散剤を使用した場合の結果を比較し図 6 に示した.分散剤濃度 0.2% の試料については質量補正後のデータである.その結果,各社の坏土において 0.04% 分散剤濃度に対し 0.2%の分散剤を使用した試験で粘土分の増大が確認された.0.2% 分散剤懸濁液と 0.04% 分散剤懸濁液の粘土分の比は1.28(±0.06:標準偏差)となった.従来の低濃度分散剤を使用したときのデータにこの係数を乗じることで,0.2%濃度の分散剤で測定した場合の凡その値を見積もることができる.砂分は分散剤の濃度に影響を受けない.また,シルト分は 100 - 1.28 ×粘土分-砂分によって求めることができる.3.9 まとめ 瓦坏土の粒度組成は瓦製品の成型性や寸法に影響を与える重要な要素である.粒度分析法として,比重計法とふるい分け法を組み合わせた簡便で信頼性の高い方法が JIS A 1204 に規定されている.今回,改めて幾つかの実験条件による影響に着目し試験をおこなった.その結果以下の知見が得られた.1)比重計の個体差により分析値に偏りが生じた.各比重計の差異を補正することで,今後さらにばらつきが減少する可能性がある.2)分散剤の添加のタイミングは粒度分布に大きな影響を与えなかった.但し,作業性の観点から過酸化水素水添加懸濁液の煮沸直後に分散剤を添加することが好ましい.3)粒子が十分に分散するためには,分散剤として 0.1 ~0.2% 程度のヘキサメタりん酸ナトリウム溶液を溶媒として使用することが重要であった.4)レーザー回折法の結果とストークスの法則に基づく粘土粒子の分散状態に関する考察により,高濃度分散剤を使用した場合の比重計法とふるい分け法のグラフの不連続の原因を結論付け,試料質量による補正をおこなった.5)補正後の高濃度分散剤の場合と従来の低濃度分散剤の場合との粒度分布の違いを明らかにした.6)低濃度の分散剤で得られた粘土分の値に 1.28 を乗じることで,高濃度分散剤で得られた実験結果と対応づけることができた.

文   献

1) 江木俊雄 , 原田達也 , 中島剛 . 粘土瓦の耐凍害性と耐塩害性 . 島根県産業技術センター研究報告 . 2011, 48, p.28-33.

2) 吉村尚久編著 . 粘土鉱物と変質作用 . 地学団体研究会 . 2001.3) 田中稔著 . 粘土瓦ハンドブック . 技報堂出版株式会社 . 1980.4) 塩村隆信 , 大西亜城 , 永島晴夫 , 長野和秀 , 若槻和郎 . 石州瓦

坏土の基本特性 . 島根県産業技術センター研究報告 . 1981, 18, p.64-68.

5) 粉体工学研究会編 . 粒度測定技術 . 日刊工業新聞社 . 1975.6) 岸誠一 , 公文富士夫 . 沈降天秤法と比重計法の組み合わせに

よる泥質砂堆積物の粒度分析法 . 堆積学研究会報 . 1993, 38, p.101-106.

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

粘土分の割合(

%)

分散剤0.04% 分散剤0.2%

図 6  分散剤濃度の違いによる各社の 2011 年   定期調査の粘土分割合の比較     

試料 粒径区分0.1%以上

(補正後)0.03~0.04%

粘土分 38.8±1.6% 30.9±1.7%

試料A シルト分 39.4±1.7% 47.3±1.5%

砂分 21.9±0.4% 21.9±0.4%

粘土分 43.1±1.8% 34.5±0.7%

試料B シルト分 38.1±1.9% 46.6±0.8%

砂分 18.8±0.6% 18.9±0.1%

表 3 0.1% 以上の分散剤を使用した試験の補正結果(分散剤濃度 0.03 ~ 0.04% のデータとの比較)