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Hitotsubashi University Repository Title Author(s) �, Citation �, 121(4): 551-565 Issue Date 1999-04-01 Type Departmental Bulletin Paper Text Version publisher URL http://doi.org/10.15057/11872 Right

国際製造物責任訴訟の論点 URL Right - HERMES-IRhermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/11872/... · 国際製造物責任訴訟の論点 原 竹 裕 (49)国際製造物責任訴訟の論点

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Hitotsubashi University Repository

Title 国際製造物責任訴訟の論点

Author(s) 原, 竹裕

Citation 一橋論叢, 121(4): 551-565

Issue Date 1999-04-01

Type Departmental Bulletin Paper

Text Version publisher

URL http://doi.org/10.15057/11872

Right

国際製造物責任訴訟の論点

竹   裕

(49)国際製造物責任訴訟の論点

 【設例】

 日本法人であるX社は、一九九七年に、米国デラウェ

ア州で設立されたY社から、甲機械を受注し、束京のA

工場でこれを製造して同年中に輸出した。ところが、Y

社が甲機械を米国カリフォルニア州にあるB工場内に設

置して稼動させていたところ、一九九八年に入って同機

械が発火しB工場の一部を焼損した(本件事故)。Y社は、

本件事故は、甲機械の製造上の欠陥に基づくものである

として、X社を相手取り、米国カリフォルニア州の裁判

所に製造物責任を追及する訴えを提起した(本件第一訴

訟)。本件第一訴訟の係属中に、X社は、本店所在地最

寄りの東京地方裁判所に、損害賠償債務の不存在確認訴

訟を提起した(本件第二訴訟)。X社としては、本件事

故は、甲機械について定められた使用方法をY社側が遵

守しなかったために発生したものであると主張している。

ω 本件第二訴訟は適法か。また、本件第二訴訟に関す

る判断がなされる前に、米国での第一訴訟が結審し、Y

勝訴の判決がなされた場合、本件第二訴訟はどうなるか。

② 本件第一訴訟においてY社は、X社の設計担当者に

対し、米国法上の証拠開示手続の一環として、製造技術

の詳細(ノウハウ)につき、在日米国領事館での証言録

取を求めてきた。X社側の対処としてどのようなことが

考えられるか。

㈹ 本件第二訴訟がかりに適法であるとして、同訴訟に

おいて、XY両社が、それぞれ相手方の工場設傭一の仕様

の詳細を示す文書につき、文書提出命令を申し立てた場

155

一橋論叢 第121巻第4号 平成11年(1999年)4月号 (50)

合に、どのような問題が生ずるか。

ω 本件第一訴訟におけるYの勝訴判決は、いわゆる懲

罰的損害賠償を合むものであった。この判決に基づいて、

X社の財産に対し日本で強制執行を行うことは可能か。

はじめに

 近時、経済主体の活動範囲はますます拡大し、物品も

国境を超えて流通するようになっている。これに伴い、

複数の国との関連性(渉外性)を有する事件も増加しつ

つある。しかし、国際的な民事紛争解決機構が完全には

整備されていない現状においては、いずれかの国で裁判

を行わなけれぱならない。そのような裁判権の配分を定

める国家間の取り決め(条約)も整備の途上にあり、各

国が国内法として国際民事訴訟の準則を定め、その中で

管轄権行使の基準を立てている。このような場合、ある

類型の事件について、どの国が裁判するのが最適かとい

う問題が生ずるであろう(国際裁判管轄・国際訴訟競合

の問題)。また、裁判制度は各国において差異があり、

証拠を誰が、どの範囲で提出すぺきかに関しても、訴訟

政策上の立場によって立法の方向が分かれる。企業など

の経済主体は、このような国内の法制をも考慮した上で、

文書の管理体制などを整冬ている。ところが、渉外性を

有する事件について、ある国で審理・判断をすることに

なると、当該国の裁判所が国境を越えて事案解明を行う

必要が出てくる。ここから、とくに開示すべき情報の範

囲をめぐり、証拠法秩序の相互抵触が生じてくる(国際

民事証拠法の問題)。さらに、訴訟における審理の結果

は、アウトプットとしての判決に集約される。このよう

な判決の国際的通用性を高めるために、諸国問には、判

決の相互承認・執行制度が存在している。しかし、各国

が裁判所の判断(判決)に期待する機能に偏差がみられ

るため、ここにもシステム間の調整の必要が生ずる(外

国判決の承認要件の問題)。本稿は、これらの問題を設

             (1)

例に基づいて概観するものである。

   一 国際裁判管轄-被告住所地原則と

     その修正の限界

1 国際裁判管轄の意義

 小問ωは、いわゆる国際的訴訟競合に関するものであ

るが、その前提として、製造物責任に関する国際裁判管

255

(51) 国際製造物責任訴訟の論点

轄の所在を検討する必要がある。

 国際裁判管轄とは、ある国が、渉外性ある事件につい

て、自国の裁判所の審理判断の対象となすに際しての基

  (2)

準である。このような国際裁判管轄は、各国が国内法に

よって定めるのが原則である。このように考えると、各

国が自国の国際裁判管轄規定を白由に定められるかのよ

うに思われるかもしれないが、実際には、白ずと限界が

生ずる。というのは、ある国が、緩やかに存在する国際

基準を逸脱して、内国との関連性に乏しい事件について

まで自国の管轄を認めたとすると、その判決の承認・執

行を他国において拒否される可能性が生ずるのである

(承認における管轄要件-民訴法二八条一号)。このよ

うに、内国法に依拠しつつも、国際的趨勢を睨みつつ定

められなけれぱならないのが国際裁判管轄であるという

   (3)

ことになる。では、そのような国際裁判管轄を定める基

準とは何か。ここで、まず国内における裁判管轄の原則

としての被告住所地原則について検討する必要がある。

2 被告住所地原則

 被告住所地原則(8↓o『竃君津⊆二〇;昌冨一)は、ロ

ーマ法以来の原則である(民訴法四条参照)。この目的

とするところは、被告側の心理的衝撃を考慮し、また、

応訴の準備のために短時日の猶予しか与えられない被告

                 (4)

のハンディキャップを考慮したものである。近年の交通

手段の発達・により、遠隔地における応訴の負担は以前に

比べれば軽減されたとはいうものの、とくに、国際民事

訴訟においては、このような応訴の負担は、国内事件以

上に重要さを帯びるであろうことは容易に予想がつくで

あろう。民事訴訟における管轄規定の背景にある被告住

所地原則の重要性が、まさに国際取引の拡大を背景とし

て再び顕在化しつつある。

3 管轄の決定基準

 国際裁判管轄に関する伝統的な見解は、逆推知説と呼

ばれる。こ。の見解は、国内管轄に関する規定を手がかり

                  (5)

に国際裁判管轄を定めようとするものである。ところが、

国内管轄規定は、そもそも国際裁判管轄が自国に認めら

れることを前提としてはじめて考慮されるべきものであ

る。したがって、ここから国際裁判管轄を引き出すのは、

論理の逆立ちということができる。また、国内管轄規定

(とくに被告住所地原則の例外たる特別裁判籍)の中に

は、国際民事訴訟に適用すると不都合なものも含まれて

355

橋論叢 第121巻 第4号 平成11年(1999年)4月号 (52)

おり、これらを排除するためには、条理あるいは公平な

どの一般条項に頼らざるを得なくなる。そうすると、そ

うした一般条項の内容をなすものこそが国際裁判管轄を

                      ノ

定める基準なのではないかとの視点が開けてくる。そこ

で、近時は、国際裁判管轄は、国際的視野から見た諸国

問の管轄の公平な配分の観点から行うべきであるとの見

              (6〕

解が有力となっている(管轄配分説)。

4 製造物責任訴訟と国際裁判管轄

 国内管轄規定の中心をなすのは、被告住所地原則であ

るが、多数の特別裁判籍の存在によって、国内法上は、

その原則性が希薄となっている。従って、国内管轄規定

をそのまま適用したのでは、不都合が生ずるであろうこ

とは十分に予想がつく。また、国際民事訴訟理論におい

て広く受け入れられている特別裁判籍(不法行為地の裁

判籍)についても、・不法行為地をどのようにとらえるか

をめぐり、見解の対立がある。そこで、被告住所地原則

の修正が認められる理由を考究した上で、それが本件の

ようなケースに妥当するかどうかを検討する必要がある。

 本設例では、X社もY社も、ともに自国の裁判所に訴

訟を提起している。いずれも、被告住所地ではなく、む

しろ原告住所地に訴訟を引っ張づて来た点が特徴である。

X社が主張する管轄原因としては、後述の不法行為地の

裁判籍が考えられ、本問では米国の裁判所はこの裁判籍

を認めた。本問では、X社が提起した第二訴訟(対抗訴

訟)の管轄の所在を検討することが求められているので、

こちらの検討に入ることにしよう。.

 X社が東京地裁で提起した債務不存在確認訴訟(消極

的確認訴訟)における訴訟対象(訴訟物)は、Y社のX

社に対する損害賠償請求権の存否である。これは、Y社

が米国で提起した第一訴訟のいわば裏返しの形態である

といえよう。同請求に関し、X社が主張するであろう管

轄原因としては、財産所在地の裁判籍及び不法行為の裁

判籍が考えられる。

 まず、財産所在地の裁判籍(民訴法五条四号)につい

てみることにしよう。この管轄原因は、執行制度との密

                   (7)

接な関連を念頭に置いて設けられたものである。本件の

場合、債権という財産が間題となっているが、債権の所

在はどこにあるのであろうか。・この点は必ずしも学説上

明確とはいえないが、民事執行手続における管轄規定も

援用しつつ、債権の所在地とは、それを履行すべき債務

“5

(53)国際製造物費任訴訟の論点

者の所在地であると解するのが一つの有力な見解である

            (昌)

(民事執行法一四四条二項参照)。もし、このように解し

た上で、逆推知説を素直に適用すると、第二訴訟の管轄

は、損害賠償債務の債務者とされるXの住所(本店所在

地)に認められそうである。しかし、このような理論を

認めると、すべての損害賠償請求訴訟について、加害者

と主張される者は、自己の住所地で消極的確認訴訟を提

起できることになり、被害者保護に欠ける場合も生ずる。

そこで、近時は、国際裁判管轄における財産所在地の裁

             (9)

判籍の適用に消極的な見解もある。おそらく、原則的に

は財産所在地の裁判籍を容認しつつ、当事者間の衡平の

見地からみて不当な結果を招く場合には管轄を否定する

という処理が妥当であろう。

 次に、不法行為地の裁判籍(民訴法五条九号)につい

てみてみよう。不法行為地の裁判籍も被告住所地原則に

対する例外の一つであるが、各国の国際民事訴訟法理論

においても、不法行為地を管轄原因の一つに数えること

が広く承認されている。その理由としては、被害者保護

の見地のほか、不法行為地において審理判断を行うこと

が証拠の収集の便宜の観点から優れているということが

             (m〕

挙げられよう(情報面での最適性)。

 では、このような不法行為地の裁判籍は、製造物責任

訴訟にも当てはまるのであろうか。渉外訴訟における製

造物責任の性質の把握については争いがあり、一般不法

行為責任を修正した特別の不法行為責任であるという見

解と、独自の法定責任であるとの見解がある。しかし、

近時の立法の傾向を眺めると、不法行為の限界の克服と

いう観点から、過失責任から欠陥責任へと規定が進化す

                (H)

る現象が多くの国において見い出される。このように、

無過失責任規定を、不法行為法における発展過程の中で

とらえることができることからすると、製造物責任訴訟

についても不法行為地の裁判籍を適用することが許され

   (u)

るであろう。

 そこで、次に不法行為地はどこかが問題となる。不法

行為一般に関して、すでに、加害行為地に隈るとする見

                     (旧)

解、損害発生地をも含むとする見解などが対立する。製

造物責任に関しても、これに対応して、製造地のみなら

ず損害発生地をも合めるべきかという問題がある。近時

は、損害発生地をも合ませる方向で議論が展開しつつあ

り、フランス法のように、国内管轄につき、これを明文

555

一橋論叢第121巻 第4号 平成11年(1999年)4月号 (54〕

      (M)

で定めた例もある。これに対し、ドイツでは消極的な見

    (15)

解も見られる。

 本問の場合、X社は自己の本社最寄りの裁判所という

ことで、東京地裁に訴えを提起したのであるが、これを

財産所在地の裁判籍の観点から正当化するのは困難であ

ると解される。しかし、主として情報収集面の便宜の観

点からする不法行為地の裁判籍の観点からすると、本件

における甲機械の製造地が東京であることから、結果的

には東京地裁の管轄に属するものと認められる。もっと

も、これはX社の意図と管轄基準とが結果的にたまたま

一致したに過ぎないことには注意する必要があろう。

二 国際訴訟競合の処理

 さて、本問における第一訴訟と第二訴訟が併存するこ

とは許容されるのであろう・か。国内の民事訴訟において

は、同じ事項を審理・判断の対象とする訴訟が重複して

係属することは、判断の矛盾・抵触の発生のおそれや、

司法リソースの有効活用(訴訟経済)の観点などから、

               (16)

規制がなされている(重複訴訟の禁止)。

 では、同様の考慮は、国際民事訴訟においても働くの

であろうか。これが国際訴訟競合(国際的重複訴訟)の

   (17)

問題である。国内法上の重複訴訟禁止の背景にある考慮

をここでも重視すれば、わが国に提訴がなされても、外

国に同一事件が係属していることが判明した場合には、

わが国の裁判所は訴えの却下を行わなければならないと

いうことになろう。しかし、先行する訴訟の判決に対し

ては、必ずしも国際的な通用カが与えられるとは限らな

い。すなわち、例えば、そ・の国が国際的な趨勢を度外視

して過剰な管轄権の行使を行っている場合など、判決の

承認要件を満たさない場合には“事後的にその訴訟でな

された判決の効カが否定されることがありうる。したが

って、単に外国で訴訟が提起され。たからといって、ただ

ちにこれを規制することは急み足ということになろう。

この点を強調して、国際的訴訟競合を規制することは妥

                    (㎎)

当ではないとの見解も有カである(規制消極説)。これ

に対して、折衷的な見解として、外国訴訟で下された判

決が承認されることが確実である場合には、わが国とし

てはこれを却下すべきであるとの見解も有力である(承

  (㎎〕

認予測説)。しかし、これに対しては、規制消極説の立

場から、そのような将来の承認予測(>亮『訂……σq9

556

(55)国際製造物責任訴訟の論点

肩oσq冒ω①)は著しく困難であるとの批判がみられた。

とくに、承認要件の中には、訴訟の審理を全体として見

てみなければ判断ができない事項(手続的公序など)が

                      (20)

合まれる点が、承認予測を困難とする一因となっている。

しかし、将来的に、個別の国が相互に相手国の司法制度

のクオリティを確認した上で、承認を保障し合うシステ

ムが構築されていくことになろう。

 この点からみると、近時、承認予測説の一種として、

国際条約の存在により、承認の確実性が法秩序の上で保

障されている場合にのみ、国際訴訟競合を制隈しようと

の見解が、一つの調和点を見い出す試みとして評価さ

(21)

れる。この見解に従うと、国際的訴訟競合の規則は、判

決の相互承認システムの発展の度合いに依存することと

なる。残念ながら現時点においては、相互の承認を確実

に保降しあう国際条約が存在しないため、国際訴訟競合

は未だ規制に適しないとの結論に至らざるをえないこと

になろう。

 小問ωの後半では、米国における第一訴訟の判決が先

に確定した場合の効果も問題とされている。これは、外

国判決の効カの承認の問題である(後述四参照)。わが

国においては、同一事件に関する外国の確定判決が存在

し、かつそれが承認要件(民訴法一一八条)を満たすこ

とが判明すれぱ、特別の手続を要することなく、その効

力が承認される(いわゆる白動承認)。これは、職権調

査事項であるが、実際には当事者がその旨を指摘するこ

とによって初めて裁判所がそれを考慮することになろう。

本問では、Xからの指摘により、第二訴訟については請

              (22)

求棄却判決がなされることになろう。

一一一証拠法上の問題

1 「手続1-法廷地法」原則と内国証拠法秩序

 小問のωと㈹は、国際証拠法に関するものである。と

くに、ここでは広汎な事前証拠開示(召9ユ巴2ω8く-

①q)の制度を有する米国法との関係が間題となってい

る。従来、訴訟手続それ自体の準拠法に関しては、「手

続は法廷地法に従う({O;昌『鍔二肩08ω竃昌)」との

原則が広く承認されてきた。確かに、手統の技術的性質

あるいは司法制度のハードウェア的機能からみて、この

             〔鴉)

原則には正当な点が含まれている。

 しかし、ここで問題が生ずる。手続法のうちでも、と

557

一橋論叢 第121巻 第4号 平成11年(1999年)4月号 (56)

くに、主張や証拠に関するルールは、その中に、当事者

の事前の証拠の作成・保管に関するインセンティヴ構造

     (泌)

を内包している。すなわち、予見可能性を重んずる取引

界においては、司法制度のあり方が、文書管理体制など

に関わる行動様式にも影響している。例えば、広範な開

示制度を有する国においては、辛常から訴訟に備えて契

約書類などを整え、注意義務の履行に関わるプロセスも

文書化し、開示の除外事由にあたる文書とそうでない文

                  (25)

書とを区分しておくといったことが行われる。このよう

な慣行を有しないわが国の企業が、米国の裁判所から証

拠開示要求を受けた際に、このような内国証拠法秩序の

                 (26)

相互抵触が顕在化することになるのである。

2 証拠開示要求と内国法上の秘匿特権

 小問ωにおける米国法上の証拠開示は、陪審によるト

ライアル〔事実審理〕の前に、陪審による認定に適した

形に争点を整理・集約するために設けられたプリ・トラ

                  (27)

イアル手続の一環として行われるものである。ここでは

まず、X社が証拠開示要求に応える義務があるのかどう

かが問題となる。この点、基本的には、国際司法共助の

ルートによらない、当事者による直接の証拠開示要求に

ついては応答義務はないとの見解がわが国では有カで

(閉)

ある。し。かし、問題を困難たらしめるのは、義務がない

からといって放置しておいた場合に、米国における訴訟

において不利な帰結を生じさせてしまうおそれがあるこ

  (29)

とである。

 そこで、まず、当該外国法上の論理に従って、提出除

外を求める方法が考えられる。米国法上は、証拠開示に

対する保護命令(召o宥o庄く①oa實)の中立がこれにあ

             (㏄〕

たる(連邦民訴規則二六条(C))。

 次に、何らかの対外的配慮を外国裁判所に求めるとい

う方法がある。米国法上も、他国の法人に対する証拠開

示要求に際し、当該法人がその地において享受している

秘匿特権等を防御手段として援用しうるかにつき、以前・

       (31)

から論じられてきた。その後、一九八七年のアエロスパ

シアル社事件を契機として、国際礼譲(8まξ)の範

囲内における考慮対象となりうるとの準則が受容されて

     (32)

いるようである。ただし、どの範囲で他国の証拠法秩序

を尊重するかについては、個々の裁判所の判断に依存す

る度合い.が大きい。

3 外国法人に対するわが国の文書提出命令の効カ

558

(57)国際製造物責任訴訟の論点

 従来、論じられてこなかった問題として、わが国の文

書提出命令の効カとその限界の問題がある(小問㈹)。

これはわが国の手続法の域外適用論とも関わる。

 まず、Y社側の文書提出命令申立についてみると、日

本法上の文書提出命令であることから、日本法人である

X社は、日本民訴法上の提出除外事由を援用しうる(と

くに民訴二二〇条四号イ・口に定める誕言拒絶事由該当

    (鎚〕

事項記載文書)。

 では、逆に、X社側の申立との関連で、米国法人であ

るY社は、日本の裁判所の文書提出命令にどの範囲で応

ずれぱよいの.であろうか。文書提出命令は、わが国の司

法権の行使として行われるが、これは対外的には主権の

行使として把握される。このような場合に、外国法人が

どのような裁判権行使を甘受しなければならないかとい

う基本間題が控えているものの、.少なくとも設例のよう

に、本案に関する自発的応訴がなされた場合には、裁判

権に服する意恩を表明したものと解してよいと思われる。

その上で、各国の内国法上の営業秘密(弐ぎ①器實g)

保護規定、あるいは事実上の保護の必要性をどのように

尊重すべきかを考慮する必要がある。Y社が法廷地法た

る目本法上の除外事由を主張しうることについては異論

はないであろうが、問題となるのは、当該外国法人の属

する国.(設立準拠法国)ないし活動本拠を置く国におけ

る保護水準の考慮である。その際には、相互主義の立場

を基調としつつ、国際的な保護基準の現状をも加味しつ

つ、取り扱いを定めるべきであろう。すなわち、第一に、

当該国の手統法上わが国が享受しうる秘密保護に関して

は、日本法上もこれを尊重する必要がある。このように

解することによって、両国の証拠法秩序の撹乱を避けつ

つ、相互的に知的財産の保護を実現していくことが可能

となるからである。第二に、そのような保護体制を採ら

ない国についても、国際的な保謹水準からみて保護に値

する情報に関しては、保護を与えることが必要であろう。

少なくとも米国法上の保護命令の対象たる事項に関して

は、わが国においてもこれを可及的に尊重する必要があ

    (拠)

ると解される。

四 外国判決の承認・執行

1 外国判決の承認・執行制度

 判決はその本体的効カとして、

まず、判断事項につい

955

一橋論叢 第121巻 第4号 平成11年(1999年)4月号 (58)

ての内容的拘束力(既判力)を生じ、さらに、給付判決

については、その内容の実現に際して、民事執行システ

ムを起動する効力を生ずる(執行カ)。一旦このような

効カが生ずると、再審などの非常救済手段などによらな

い限り、容易には覆せないことも、諸国の制度に共通し

ている。そして、近時は、当事者が訴訟において、十分

に主張・立証の機会を与えられて対等に争い、中立・公

平な裁判所によって判断を受けたことによって、判決の

拘束力が正当化されると考えられている(判決効の正当

化事由としての手続権保障)。外国における手続権(審

問請求権)が実効的に保障されていたかどうかを吟味す

る場面は、国際裁判管轄を自国が行使するかどうかとい

う場面においても、消極的な形でなされるが、さらに、

最後の拠り所として機能するのが、外国判決を承認する

       (肪)

か否かの場面である。外国判決の承認一執行制度は、各

国が、相手国の裁判所が下した判決の効カを尊重し、そ

の実現に協力することによって、民事判決の国際的通用

性を高めることに寄与するものであるが、判決の最低限

のクオリティを審査することが必要となるのである。わ

が国の民事訴訟法の場合、①当該外国裁判所による国際

裁判管轄の具備、②送達の実施、③当該外国裁判の内容

及び訴訟手続きが公序良俗に反しないこと、及び④相互

の保陣があることを外国判決の承認要件として定めてい

る(民訴法一一八条)。ただし、この場合、実体的内容

の再審査(忍く邑昌彗ざ邑)は行ってはならず、主と

して手統的・実体的な外枠面の審査に止めなければなら

                (36)

ないとされる(実質的再審査禁止原則)。これらの承認

要件のうち、小問ωとの関係で特に問題となるのが、③

の公序(o『串①君;o)要件である。

2 懲罰的損害賠償判決と公序

 わが国を含めた大陸法系諸国では、伝統的に、民事責

任と刑事責任、いいかえれば天秤の正義(平均的正義)

と剣の正義(配分的正義)との区別を徹底化させている。

このような民事・刑事の峻別のもとでは、不法行為責任

は損害の回復の限度においてのみ認められ、違法行為の

抑止手段(ω昌oま昌)としての機能は、すべて刑事法

にゆだねられるとの見方が根強い。ところが、英米法諸

国、な-かでも米国法においては、民事責任の分野におい

て違法行為抑止のための二倍賠償あるいは三倍賠償など

を命ずることも可能とされている。とくに、特許訴訟な

560

(59)国際製造物責任訴訟の論点

ど技術革新の激しい分野における違法行為、あるいは、

製造物責任訴訟など広範囲に拡散した損害が問題となる

分野においては、短期問の違法行為によって侵害者側に

多大な利得が生ずることがあるため、そのような違法行

為によって獲得した利益を放出させ、当該分野における

                    (37)

一般予防の効果を生じさせることが行われている。これ

がさらにクラス・アクションや弁護士の報酬制度と結び

ついて、私人のイニシアティヴによる法の実現を市場シ

                    (警

ステムに内部化する機能を果たしているとされる。

 両法系の差異が顕在化するのが、懲罰的損害賠償を命

ずる外国判決を承認し、執行すべきかという場面におい

てである。この問題は、まずドイツにおいて一大論争を

巻き起こし、そこでは、懲罰的損害賠償制度の一定の合

理性を承認し、全面的な承認を肯定する見解(承認肯定

説)、法体系の異質性を根拠に承認・執行適楮を否定す

る見解(承認否定説)、及ぴ承認国の内国で認められる

であろう相当額の範囲内でのみ承認しうるとの見解(一

         (39)

部承認説)が主張された。

 わが国の最高裁判所は近時、米国の懲罰的損害賠償判

決の承認を求められた事件の上告審において、実体的公

序違反に基づく承認否定説の立場をとることを明らかに

(柵)

した。その理由としては、前記のような法系上の差異が

挙げられている。しかし、今後、知的財産法・製造物責

任法を中心とする法領域において、懲罰的損害賠償制度

の導入が行われる可能性も皆無とはいえないし、法の実

現手続の国際的調和が図られつつある現在において、外

国で行われた審理が徒労に帰することも避ける必要があ

る。同判決については、将来、その妥当範囲が再検討さ

      (幻)

れる可能性もある。

おわりに

 経済活動のグローバル化に伴い、国際取引紛争が頻繁

に生起するようになったが、民事訴訟法理論にも新たな

チャレンジが生じている。そこでは、各国の国内民事訴

訟法規の妥当範囲に関する相互的な論証過程を通じて、

各国の手続規定の間に一定の調和が生み出されていくこ

とが求められている。本稿では、その鳥轍図を提供する

にとどまったが、今後、個別の問題につきさらに検討が

深められていくことであろう。

165

一橋論叢 第121巻 第4号 平成11年(1999年)4月号 (60)

(1) 国際民事訴訟に関する規定の整備は、平成八年新民事

 訴訟法の制定過程においても、その課魑として取り上げら

 れていたが、結果的には、判決の承認要件に関する若千の

 明確化を施すにとどまった。当面は解釈論による工夫が横

 み重ねられる必要がある。なお、現時点においては、わが

 国は、多国聞条約のうちハーグ民訴条約(一九五四年)・

 同送達条約(一九六五年)を批准し、その他、若干の二国

 間条約を締結している。国際民事訴訟法の基本構造に関す

 る諸外国の理論に関しては、三井哲夫「国際民事訴訟法の

 基礎理論」(一九九五年)があり、概説書として、石川明

 H小島武司編『国際民事訴訟法』(一九九四年)、石黒一憲

 『国際民事訴訟法』(一九九六年)、山内惟介他『国際手続

 法(上)(中)』(一九九七-八年)がある。また、文献の

 所在も合めた概観として、斎藤秀夫編・注釈民事訴訟法

 〔第二版〕三七七頁以下〔山本和彦執筆〕(一九九一年)。

(2) 国際裁判管轄に関しては、高橋宏志「国際裁判管轄」

 澤木H青山編『国際民事訴訟法の理論』一三頁以下(一九

 八七年)、池原季雄「国際的裁判管轄権」新実務民訴講座

 (7)三頁以下(一九八二年)など参照。わが国の判例理

 論に関しては、竹下守夫「判例から見た国際裁判管轄」N

 BL三八六号一九頁以下(一九八七年)。

(3) 安達栄司「ドイツにおける過剰管轄規制の動向」法経

 研究(静岡大学)四四巻四号三九三頁以下(一九九六年)。

(4)Ω9昌9カー二巨彗畠一一〇畠一鶉Sく言『o轟零oo戸ω.

 >仁饒・一〇〇・曽二・(宛N・=ωoo-o)(δ彗).被告住所地原則とそ

 の修正要素に関しては、ごく簡潔ながら、拙稿「管轄の集

中と関連裁判籍」ジュリスト増刊・民事訴訟法の争点〔第

 三版〕四四頁以下(一九九八年)参照。

(5) 兼子一『民事訴訟法体系』六六頁以下(一九五四年)。

(6) 池原・前掲(注2)一四頁以下。利益衡量的接近方法

 を採るのは、石黒・前掲書(注1)一四五頁以下。なお、

 わが国の判例は、いわゆるマレーシア航空事件判決(最判

 昭和五六年一〇月一六日民集三五巻七号二=一四頁)以来、

基本的には逆推知説に立脚しつつも、特段の事情ある場合

 には、条理による修正の余地を認める。

(7) ドイツ・才ーストリアにおける議論を踏まえた論稿と

 して、中野俊一郎「財産所在地の国際裁判管轄権」神戸法

 学雑誌四三巻二号四一一頁以下(一九九三年)。

(8) 近時の肯定例として、東京地八王子支(中問)判平成

 三年五月二二日判タ七五五号二二=頁。隈定的肯定説とし

 て、中野・上掲のほか、池原・前掲(注2)二九頁など。

(9) 兼子H松浦n新堂n竹下『条解民事訴訟法』四四頁

 〔新堂幸司執筆〕(一九八六年)。消極的確認訴訟との関係

 で否定説に立つ裁判例として、東京地判昭和六二年七月二

 八日判時二一七五号七七頁。くoq一、09ヨ員四』.O(>目…

 仁)一ω.曽ミ.(宛N」ω竃-蜆)(ε彗).

(10) ωoξo珂声一-葦實冨巨o目巴窃Sく=く雪艘~彗彗Φo巨一

 ω-=o(カ目.N000) (一〇〇-)一09昌異一Pφ.O.(>目ヨー杜)一ω1

 ω8(沌N.崖ミよ)

(11) わが国の製造物責任法の制定も、このような責任原則

265

国際製造物責任訴訟の論点(61〕

 の変化の動向に沿ったものである。国際動向に関しては、

 東京海上研究所編『国際製造物責任法』(一九九三年)。

(12) ωoプ印o7凹-回-O(>目昌.-o)一ω-巨o↓-(カ目lN00)-

(岨) わが国の不法行為裁判籍につき損害発生地も含ませる

 見解として、例えぱ、斎藤編・前掲注解(注1)(2)二

 八七頁〔小室直人11松山恒昭執筆〕。限定的な見解として、

 池原・前掲(注2)三一頁など。

(14) ドイツでは、行為地(=彗2Eコ①q蜆oユ)、結果発生地

 (睾巨oq8己及ぴ損害発生地(ω皇邑昌ωoユ)の三種を

 区別し、前二者のみを管轄原因となしうるとする見解が有

 カである。損害発生地を除外するのは、被告の予見しえな

 い地で応訴を強いられるからであるという。ωo訂o河pp

 ○.(>目昌-昌)一〇〇.=蜆↓.(宛箏1ωoト) 一09目①『一與-唖.O.

 (>目昌-卜)一ω1竈ωR(尋.冨oo-杜).

(15) フランス民事訴訟法四六条三項は、加害行為地と損害

 発生地との双方を選択的に管轄原因としている。

(16) 重複訴訟の処理に関する議論に関しては、例えぱ、三

 木浩一「重複訴訟論の再構築」法学研究(慶応義塾大学)

 六八巻二一号一一五頁以下(一九九五年)など参照。

(17) 国際訴訟競合に関しては、石黒一憲「外国における訴

 訟係属の国内的効果」澤木“音山編・前掲書(注2)三二

 三頁以下、澤木敬郎「国際的訴訟競合」前掲講座(注2)

 (2)一〇五頁以下。詳細な分類に基づく考察として、適

 垣内「国際的訴訟競合(五・完)」法協一〇〇巻四号七一

 五頁以下、七五二頁以下(一九八三年)。このうち、石黒

 論文は、国際的訴訟競合を利益衡量的な管轄判断に解消す

 る立場を採る。

(18) ω島鼻員声>’N胃思昌o汗色o巨釘冒①目ま『刃9葦ω-

 霊目o目好ぎ享9毒ω>島扇目昌ω皇彗<宰武ミ①冨一宛き9ωN

芦M曽串、(屋雪)わが国の裁判例においては規制消極説

 が多い。東京高判昭和三二年七月一八日下民集八巻七号一

 二八二頁、大阪地判昭和四七年一〇月九日判時七二八号七

 六頁など。これらは、旧民訴法二三一条(新一四二条に対

 応)にいう「裁判所」には外国の裁判所は含まれないとす

 る。

(19) 葭きω99早奉.-.一N昌思『旨雰ざ幸后昌①qま『家争一眈-

 す叫目oq釘穴9↓①ヲoω>巨ω辰コgωoゴo目く①『武ユ冨目ω一宛與σ9ωN

 芦M震声(轟雪)一ωo~集一與』1ρ(>コヨ.昌)一ω.署①声

 (カ目.↓杜↓-2)一Ω9冒①『一凹-與.O.(>目8.ト)一ω’①↓ωい(宛N.

 塞O.O.1竃)一ω。①O。=.(カN.Nご†巴).わが国における学説と

 して、澤木・前掲(注17)一ニハ頁以下など。-承認予測説

 に立つ裁判例として、東京地(中問)判平成元年五月三〇

 日判時二二四八号九一頁。

(20) 承認予渕の具体的方法に関し、道垣内・前掲(注17)

 七七一頁以下。

(21) 安達栄司「国際的訴訟競合」前掲争点(注4)二七八

 頁以下。

(22) なお、本問とは逆に、わが国における第二訴訟の判決

 が先に確定した場には、わが国の判決の効力が優先すると

 解する見解が多い。大阪地判昭和五二年=一月二二目判タ

365

(62)一橋論叢 第121巻第4号 平成11年(1999年)4月号

 三六一号=一七頁は、先に確定した判決がわが国の公序の

 一部を構成するとして、承認要件のレペルで処理している。

 これに対して、判決の抵触の調整問題として扱うべきであ

 るとするのは、高桑昭「外国判決の承認及び執行」前掲講

 座(注2)(2)二一五貢以下、一四三頁。

(鴉) 09∋①『一PPO.(>目目.ム)一ω一-o↓-(カN.ω-o-ωNω).

 沿革に関しては、澤木敬郎「『手続は法延地法による』の

 原則について」立教法学二二号三一頁以下(一九七四年)。

(別) とくに弁論主義に相当する原則との関連において、こ

 のようなインセンティヴ構造との有機的関連を重視する必

 要がある。なお、山本和彦「『手続は法廷地法による』の

 原則の相対化」判タ八四一号一五頁以下(一九九四年)。

(25) -昌昌oq冒oq一〇。声俸=彗気宛.>.(寺井庸雅訳)「文

 書管理をめぐる法的諸問題」国際商事法務二四巻三号二七

 七頁以下(一九九六年)。

(26) 松本直樹「外国におけるデポジシ目ン」国際商事法務

 二〇巻一〇号一二〇八頁以下(一九九二年)、野一色勲

 「企業法務からみたディスカバリーの問題点」法時六六巻

 一号九〇頁以下(一九九四年)。

(〃) -凹ヨ①9向.1-二與N匝『♀OlO.Hピ①昌σωαo『い-一〇-く二、『oo①・

 α胃oし;-oI』曽(竃竃).

(28) 春日偉知郎『民事証拠法研究』二九三頁以下、三二五

 頁以下(一九九一年、初出一九八九年)。

(29) 法的側面においては、米国法上の制裁規定(連邦民訴

 規則三七条)の発動が、また、事実上の問題としては陪審

 の心証形成への影響のおそれが考えられる。

(30) ディスカヴァリー段階における秘密保護の概要につい

 ては、以下の文献を参照。ζ…貝>。戸O冒註彗〇一竺貫

 巾『o↓oo巨く①○HO①『ω.與目{勺E一〕=o>oooωω片O巨一〇〇〇一』『戸-o蜆

 =胃く■Fヵ睾.§一(;畠)■なお、知的財産訴訟における

 技術情報の保護に関しては、拙稿「民事訴訟における情報

 財の保全と審理公開原則」一橋論叢=一〇巻一号一八頁

 (一九九八年)も参照。

(31) Zo貝3至σqコZoまぎ一〇ω⊆竃;婁彗ρUo昌霧ま

 U涼ooく雲}O『oo轟9>コご暮E9「-ゴ血q凹ごoPooooく巴①ピ.-.

 2M(冨お).

(32) ωoo季①Z與ユo冨一①-己畠一『一竺①>彗o名き巴①県凹一.

 く.Oコ箒o⊆ωけ凹↓oωU床けユo↓O〇一』ス一{ooトo⊂ω㎝Mドo①-.向P

 墨き-(-竃↓).

(33) 証言拒絶権の対象のうち、技術または職業上の秘密

 (民訴法一九七条一項三号)に該当するか否かについては、

 事件の公益性・代替証拠の有無・証明責任の所在などとの

 関係で、秘密保謹の要請との利益衡最によって決すべきで

 あるとされる。柏木邦良「企業秘密と証言拒絶」前掲講座

 (注2)(2)一二二頁以下参照。

(鋤) アメリカ連邦民訴規則二六条(c)(7)。

(35) 外国判決の承認・執行制度全般に関しては、高桑・前

 掲(注22)、高田裕成「財産関係事件における外国判決の

 承認」澤木u青山編・前掲書(注2)三六五頁以下、徳岡

卓樹「身分関係事件における外国判決の承認」同書四〇三

α5

(63)国際製造物責任訴訟の論点

 頁以下参照。わが国判例の現況に関しては、竹下守夫「判

 例から見た外国判決の承認」中野古稀(下)五一五頁以下

 (一九九五年)。新民事訴訟法は、一一八条三号において、

 承認要件としての公序の内容として、実体面のみならず手

 統的公序をも考慮すぺきことを明文化した。手続的公序に

 関しては、村上(赤刎)正子「外国判決の承認・執行にお

 ける手続的公序に関する一考察」一橋論叢一二二巻一号一

 三七頁以下(一九九五年)参照。

(36) 中西康「外国判決の承認執行におけるみく邑昌昌

 申Oまの禁止について(一){(四・完)」法律論叢二二五

 巻二号一頁以下、四号一頁以下、六号一頁以下、=二六巻

 一号一頁以下所収(一九九四年)参照。

(37) 早川吉尚「懲罰的損害賠償の本質」昆商一一〇巻六号

 一〇三六頁以下(一九九四年)。

(38) 田中英夫u竹内昭夫『法の実現における私人の役割』

 二二三頁以下(一九八七年)。

(39) 米国の懲罰的損害賠償判決の執行をめぐるドイツの議

 論に関しては、吉野正三郎“安達栄司「ドイツにおける米

 国の懲罰的損害賠償判決の執行をめぐる諸問題」ジュリ一

 〇二七号一=一頁以下(一九九三年)参照。くoq一、ωo巨o珂

 四-凹.ρ(彗昌.;)一ω.ωミー(丙POO①O)一09昌員PPρ

 (>コ…ム)ら.↓合「(ξ』㊤↓壮)一ω.ぎ酎(~1ωo雷).なお、

 わが国においても、いわゆる萬世工業事件を契機に議論が

 活発化した。承認否定説は、主として公序違反を理由とす

 るが(公序違反説)、そもそも民事判決にあたらないとす

 る見解(非民事判決説)もある。わが国の議論に関しては、

 中野俊一郎「懲罰的損害賠償を命じる外国判決の承認・執

 行」NBL六二七号一九頁以下(一九九七年)。

(40) 最判平成九年七月一一目民集五一巻六号二五七三頁

 〔萬世工業事件上告審判決〕。なお、第一審判決は、懲罰的

 損害賠償判決を、その刑事的目的等のゆえのみをもって承

 認拒絶することは妥当でないとしつつ、旦ハ体的事案との関

 係における執行内容を吟味した上で、過酷な結果を招く場

 含には承認を否定すべきであるとしていたが、上告審判決

 は控訴審判決とともに、制度的理由に基づいて承認を拒絶

 した。公序違反説に立つものとして、中野・前掲(注39)、

 田尾桃二「判批」金商一〇=二号五三頁以下(一九九八

 年)。

(41) 当面、責任の存否の宣言と、給付命令の側面とを明確

 に区別した形態で判決がなされた場合に、前者の側面(原

 因判決の側面)についてわが国における承認の対象となる

 か否かという間題が残存している。

〔追記〕 本稿は、昨年(一九九八年)十一月、本学において

開催された三犬学ゼミナールにおいて、筆者が作成した設例

に塞づくものである。論文というよりも、概説的な色彩が濃

くなった点につき寛恕を願いたい。

                (一橋大学専任講師)

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