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下肢装具の足関節背屈制動が 歩行立脚相の筋活動に及ぼす影響 ~両下肢痙性麻痺患者の筋電図学的検討~ 梅田匡純 京丹後市立弥栄病院リハビリテーション科 2013.11.3

長下肢装具の足関節背屈制動が 歩行立脚相の筋活動に及ぼす …効長が延長し、重心の急激な下降を避けるとしている。 今回の足関節背屈制動によって生じた腓腹筋のピーク時期のTst.への遅

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長下肢装具の足関節背屈制動が 歩行立脚相の筋活動に及ぼす影響

~両下肢痙性麻痺患者の筋電図学的検討~

梅田匡純

京丹後市立弥栄病院リハビリテーション科

2013.11.3

Page 2: 長下肢装具の足関節背屈制動が 歩行立脚相の筋活動に及ぼす …効長が延長し、重心の急激な下降を避けるとしている。 今回の足関節背屈制動によって生じた腓腹筋のピーク時期のTst.への遅

はじめに 歩行は立脚中期(MSt.)以降のAnkle

Rocker(AR)からForefoot Rocker(FR)に生じる足関節底屈パワーが下腿前傾を制御し、膝伸展の求心性収縮を誘発することで、股関節・体幹伸展活動へと荷重連鎖を促すことも重要な因子である。

我々は、足継手による背屈制動は、この機能を代償し、促すものと仮説を立てている。今回、膝が不安定な状態の症例に対して、足継手の背屈制動を行い、立脚相における下肢筋に与える影響を筋電図学的に検証することが本研究の目的である。

下腿三頭筋の活動が不十分な場合は下腿の前方への傾きが大きく重心位置が下がるが(黄矢印)、背屈制動(赤矢印)は膝伸展の求心性収縮を促し、重心位置を保つ(青矢印)

「観察による歩行分析」¹⁾から引用

下腿三頭筋

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フランケル分類D1

足クローヌス+

Barthel Index85点

歩行能力

両側ロフストランド杖

両側長下肢装具

理学療法室内自立

対象

Th6

Th7

MSt時に両側膝折れやスナッピングが生じ、その現象が著明な右側(下図)を被検側とした。

70歳代男性 両下肢痙性麻痺 (T6・7化膿性脊椎炎)

左側立脚

右側立脚

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測定条件1 共通条件 CCADジョイント(FRAP技研)付長下肢装具 膝継手伸展制動-10° 足継手底屈制動なし

SVA 0°

条件A 足関節背屈制動なし

膝伸展制動

-10°

制動なし

条件B 足関節背屈制動あり

前方ストッパーによる 背屈制動

膝伸展制動

-10°

条件A’ 足関節背屈制動なし

制動なし

膝伸展制動

-10°

(Shank to vertical angle)

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測定条件2 被検筋

大殿筋 外側広筋 半腱様筋 前脛骨筋 腓腹筋 ヒラメ筋

計測条件

機 器

Noraxon G2

インピーダンス

10kΩ以下

電極間距離

25mm

解析方法 ①フットスイッチにより、歩行周期を特定する ②生波形を正規化、RMS処理(50msec)し、安定した5歩行周期の電位(μV)の平均と標準偏差を求めた

③測定条件下(A-B-A’)の立脚相のみを抜き出し、それを100%とした

④各筋がピーク電位(μV)を示したタイミングを立脚相に換算し、測定条件間での変化を検証した ⑤正常歩行時の活動ピークは、RLANRCを参考にした

自由歩行を条件A-条件B-条件A´の順で測定

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結果

21.9

16.7

3.1

18.8 21.2

14.1 12.5

6.1 11

104.7

95.5

104.7

57.1

73.8

61.9 67.9

57.6 54.9

0

20

40

60

80

100

120

条件A 条件B 条件A

立脚相の時間(%)

大殿筋

外側広筋

半腱様筋

前脛骨筋

腓腹筋

ヒラメ筋

正常歩行時の ピーク

大殿筋 13.7% 外側広筋 18.4% 半腱様筋 159.2% 前脛骨筋 12.2% 腓腹筋 75.5% ヒラメ筋 81.6%

RLANRC部分修正¹⁾

´

各筋の筋電波形がピークを示した立脚相のタイミング

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①腓腹筋のピーク時期が、最も大きく変化した。条件AにおいてはMSt.で迎えていたが、条件Bにおいては立脚終期(TSt.)に移行し、正常歩行に近づいた

②同じ下腿三頭筋でもヒラメ筋のピーク時期は、腓腹筋と異なり、MSt.にとどまった

③前脛骨筋は条件間により一定の規則性があるが、いずれも正常歩行とは異なるピーク時期であった

④膝・股関節周囲筋のピーク時期は、条件間での影響が少なかった

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考察

筋の特性の視点から

二関節筋である腓腹筋は、MSt.に生じる膝伸展によって伸張され、活動効率が上がることに加え、TypeⅡ線維を多く含む筋のためTypeⅠ線維を多く含むヒラメ筋に比べ、ダイナミックな動きに対する反応が良いとされている。従って、足関節背屈制動により立脚終期(TSt.)の足底屈パワーを補うことが、腓腹筋の活動を補うことにつながり、正常歩行時に近い立脚相の73.8%

での活動ピークとなったと考える。

メカニカルな視点から

Perry²⁾は、下腿三頭筋はMSt.以降で下腿の前方への動きを制御し、膝関節に安定性をもたらすとしている。また石井³⁾は、下図のように、TSt.における下腿三頭筋の底屈モーメントが、踵離地を促し、中足指節間(MTP)関節が足関節に代わる支点(FR)とした前方への転がりとなることで、下肢の実効長が延長し、重心の急激な下降を避けるとしている。

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今回の足関節背屈制動によって生じた腓腹筋のピーク時期のTst.への遅れは、下図右のメカニズムを発生させ、荷重連鎖から生じる下肢の抗重力伸展活動を促すことができる環境が整えられる可能性があると考えた。

背屈モーメント

足関節を中心とした円軌道

①底屈モーメント 発生

③実効長の延長

中足指節間関節を中心とした円軌道

②支点の移動(FR)

④重心の急激な 下降を避ける

重心の高さ 重心の高さ

足関節背屈制動あり 足関節背屈制動なし

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まとめ

• 膝折れなどにより膝の不安定な対麻痺に対して、足関節背屈制動の長下肢装具を処方し、立脚相の下肢筋に与える影響を筋電図学的に解析した

• 足関節背屈制動を行った場合、二関節筋であり、TypeⅡ線維を多く含む腓腹筋において、TSt.(立脚相の73.8%)で活動のピークをむかえ、正常歩行に近い数値を示した

• 足関節背屈制動は、足関節底屈パワーを補うことに加え、腓腹筋の活動を誘発させる環境を与えられたと考えられる

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本研究の限界と課題

• 筋電計のみの計側であり、足関節背屈制動による底屈モーメントについては、推測の域を脱しない。今後は床反力モーメントを合わせて測定し、筋収縮のタイミングとモーメントの関連性も求める必要がある

• 被検者が1例であり、その特異性は否定できない

理学療法学研究としての意義

• 膝・股関節への荷重連鎖障害を呈する症例に対して行う歩行トレーニングの足関節戦略のひとつ