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車酔いメカニズムの理論化と 酔い低減装置への応用 香川大学工学部 知能機械システム工学科 准教授 和田 隆広

車酔いメカニズムの理論化と 酔い低減装置への応用頭部ロール 横加速度 Time [s] 装置無し 装置有り 実験結果 装置があることで動揺病が低減出来る

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Page 1: 車酔いメカニズムの理論化と 酔い低減装置への応用頭部ロール 横加速度 Time [s] 装置無し 装置有り 実験結果 装置があることで動揺病が低減出来る

車酔いメカニズムの理論化と酔い低減装置への応用

香川大学工学部知能機械システム工学科

准教授 和田 隆広

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背景

【車酔い】 = 乗車快適性を低下パフォーマンス低下

→ 車酔い低減手法の開発が望まれている

【快適な車両の実現】→ 快適性とは何かを理解し,車両設計へ活用

1/22

車酔いメカニズムの解明と,その,車両快適性向上技術への応用

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新技術の基となる研究成果~車酔いの理論化と応用~

カーブ走行時には加速度刺激や回転刺激を受ける

ドライバの頭部運動を見るとカーブの旋回方向に頭部を傾ける

・ドライバと同乗者では頭部運動は逆・ドライバは同乗者に比べて酔いにくい

頭部運動は酔いの低減とも関連がある

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研究目的

・感覚混乱に基づく動揺病の数理モデルを構築・実車実験を行い運転時の頭部データを計測・数理モデルによる頭部運動と動揺病の関係調査

①頭部運動の動揺病抑制効果を調査②動揺病の低減を目指す

・動揺病低減装置を考案・その効果を実験により確かめる

シミュレーション結果を基に

研究の流れ

3/22

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研究背景

半規管(回転運動)

耳石器(並進運動)

動揺病(酔い)の原因

感覚情報と内部モデルの推定誤差が蓄積することで動揺病が起こるという感覚混乱説が有力

感覚器

内部モデル

動揺病入力情報 s

1

・視覚・前庭感覚・体性感覚

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SVC(subjective vertical conflict)モデル

MSI:Motion Sickness Incidence

0 5 0 0 1 0 0 0 1 5 0 00

1 0

2 0

3 0

4 0

MS

I[%]

Time [s]

Hill関数

刺激の感受性

経過時間に伴う誤差の蓄積SVC:Subjective Vertical Conflict鉛直方向の推定誤差にのみ着目

Bos et al. Brain Res. Bulletin, (1998)

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OTO

SCCLP

SCCSCC

OTOOTOLPLP

Δv

Δa

Δω +−+−

+−+−

+−+−

+−

+−

+ +

+

+

+

+

( )( )

2

2

/

1 /

b

b+

Δv

Δv

ω

f

a%

ω%

f%

sa

sωsv

ˆsa

ˆ sω

ˆsv

( )21I

Psτ +

MSIcKω

vcK

acK

aK

a

Internal model

内部モデル

感覚器

動揺病の数理モデル

頭部加速度(重力+加速度)

動揺病発生率

頭部角速度

頭部加速度

感覚混乱に基づく動揺病の数理モデル

頭部の動き(加速度,角速度)を入力すればその動きから人がどれくらい動揺病を起こすかわかる 6/22

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理論モデルの検証

Griffinの実験結果

我々のモデルによる予測

従来モデル(並進のみ)による予測

良好な結果

低周波領域での高発症率

0.4[Hz]及び0.63[Hz]付近の変曲点の存在(赤丸)も予測可

Griffinの「緩やかな吐き気」と理論によって予測したMSIの比較

0.1[g](RMS)

0.0315~0.8[Hz]

2[h]の水平方向加振

車両への並進刺激

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運転中の頭部運動計測実験

目的:動揺病の数理モデルへ入力するデータを計測方法:実車を用いてスラローム走行を行ったときの車両運動および

ドライバや同乗者の頭部運動を計測

スラローム走行条件A)パイロン間隔20m,速度30km/h

B)パイロン間隔15m,速度40km/h

A)20mB)15m A)30km/h

B)40km/h

8名のデータを計測

ドライバ,同乗者頭部角度計測車両加速度,車両角度計測 8/22

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実験データを用いた動揺病シミュレーション

スラローム走行時の車両の加速度,角度ドライバ頭部角度,同乗者頭部角度をモデルに入力

頭部運動条件

1.ドライバ条件:ドライバの実験データを入力2.同乗者条件:同乗者の実験データを入力3.頭部垂直条件:頭部を常に垂直の状態に保つ4.車両運動条件:車両と同じ頭部運動を行う

動揺病発生率

実車実験データ

入力

頭部の動きや傾きの違いで動揺病発生率が変化するかを調査

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OTO

SCCLP

SCCSCC

OTOOTOLPLP

Δv

Δa

Δω +−+−

+−+−

+−+−

+−

+−

+ +

+

+

+

+

( )( )

2

2

/

1 /

b

b+

Δv

Δv

ω

f

a%

ω%

f%

sa

sωsv

ˆsa

ˆ sω

ˆsv

( )21I

Psτ +

MSIcKω

vcK

acK

aK

a

Internal model

内部モデル

感覚器

頭部加速度(重力+加速度)

動揺病発生率

頭部角速度

頭部加速度

動揺病数理モデル

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実験データを用いた動揺病シミュレーション

・ドライバと同乗者を比較した場合ドライバのほうが動揺病発生率が低い傾向・カーブの旋回方向への頭部傾斜の条件が動揺病発生率は低くなる

ドライバの行う旋回方向への頭部運動には動揺病の低減効果がある

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

-15 -10 -5 0 5 10 15

頭部最大ロール角 [deg]

ピークMSI [%]

同乗者 車両運動

垂直

ドライバ

酔いやすい

旋回方向遠心方向

シミュレーション結果

旋回方向

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動揺病発生率[%]

頭部最大ロール角 [deg]

旋回方向遠心方向

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酔い低減装置

ドライバのような動揺病を低減する頭部運動を同乗者にも誘発する

カーブ時に遠心方向のパックをタイミングよく膨らます

大腿部やでん部に刺激を与えると共に傾きをつくる

ドライバのような頭部運動を実現

左カーブ

11/22

前節の結果から

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タンク

レギュレータ 排気用バルブ

エアパック

エアパックバルブ

排気用バルブバルブ

装置の構成

・車用座布団にエアパックを内臓

・バルブを開くことでタンク内の圧縮空気によりパックが膨らむ

・空気圧はレギュレータを用い0.05MPa一定に

・パックは約2秒で膨らむ

・パック内の空気は排気用バルブを開くことで約2秒で抜ける

動揺病低減装置

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装置の効果検証実験

実車を用いてカーブ走行を行い提案した装置の効果を確認する

・実験はR12の左折カーブを走行

実験条件

・カーブ進入速度は40km/h程度

・実験参加者は3名,助手席に着座・装置有り,無しの2パターンをそれぞれ6走行ずつ行った

実験車両 実験装置

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計測項目

車両加速度 頭部角度 頭部映像

カーブ時パックを膨らませる操作は後部座席にて操作者がドライバのハンドル操舵に合わせてバルブを開閉させた

装置の効果検証実験

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-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

67 69 71 73 75

-25

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

25

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

79 81 83 85 87

-25

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

25

横加速度

[m/s

2 ]

Time [s]

頭部ロール角

[deg

]

頭部ロール

横加速度

頭部ロール

横加速度

Time [s]

装置無し 装置有り

実験結果

装置があることで動揺病が低減出来る

装置有りの方が遠心方向への頭部ロールが小さい

コメント:装置が有ると体の支えとなり,姿勢が安定する

頭部ロール角は遠心方向に傾斜した場合を正とする

装置無し 装置有り

-5

0

5

10

15

20

25

1 2 3参加者 a 参加者 b 参加者 c

頭部最大ロール角

[deg

] 装置無し

装置有り

装置の効果検証実験

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まとめ

動揺病の数理モデルに実車実験値を入力し頭部運動と動揺病の関係を調査した

ドライバの頭部運動には動揺病の低減効果があることが示された

シミュレーションの結果を基に動揺病を低減する装置を作成し,その効果を検証したところ動揺病の低減効果が期待できる装置であるとわかった

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従来技術との比較

【車両制御技術】 サスペンション技術,統合制御技術

酔い低減,乗り心地向上

・高価, 同乗者,運転者同時対策【アクティブシート】 シートの傾斜角を制御

高価, 強制的姿勢制御(違和感?)

【アクティブヘッドレスト】 頭部位置を強制制御(違和感?)受動的運動では,効果半減

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新技術は,安価な手法で,同乗者のみに,自発的に姿勢変化を起こし,快適性を向上する手法である

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想定される用途

• 自動車の酔い低減装置(シート組み込み型)• 同上 (後付け)

• アミューズメント装置の酔い低減装置• 各種シミュレータの酔い低減装置

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想定される業界

・自動車メーカー,シートメーカー

・機械制御メーカー

・アミューズメント機器メーカー

・その他,機械メーカー

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実用化に向けた課題

プロトタイプを開発し,実験済み

•ハンドル角度から横加速度推定を行うロジックを組み込む

•動作タイミングの最適化•道路形状とのリンク手法

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企業への期待

• 車両CANデータ等の車両情報の利用による制御手法の技術

• エアパックの製作技術(シートへの組み込み法を含む)

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本技術に関する知的財産権• 発明の名称 :動揺病低減装置および方法

• 出願番号 :特願2010-283228• 出願人 :香川大学

• 発明者 :和田隆広,土居俊一,藤澤智

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お問い合わせ先

香川大学

知的財産コーディネーター 渡辺利光

TEL 087-864-2541

FAX 087-864-2357

e-mail watanabe@kagawa-u.ac.jp