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消防研究技術資料第 81 中華鍋に入れた食用油の加熱・着火・燃焼性状 に関する天ぷら油火災実験報告書 平成22年1月 総務省消防庁消防大学校 消防研究センター

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消防研究技術資料第 81号

中華鍋に入れた食用油の加熱・着火・燃焼性状

に関する天ぷら油火災実験報告書

平成22年1月

総務省消防庁消防大学校

消 防 研 究 セ ン タ ー

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まえがき

平成 19年 1月に発生した兵庫県宝塚市カラオケボックス店火災に対し、消防庁及び消防

研究センターは長官調査を実施した。消防研究センターでは、本火災の起因となったと考

えられる天ぷら油火災に係る一連の調査研究を行った。本報告書は、調査研究を行う際に

天ぷら油火災に関する系統的にまとめられた参考文献が見当たらなかったため、実施した

実験の基礎データ部分を取りまとめたものである。本データを参考に、天ぷら油火災に関

する調査研究等に活用いただければ幸いである。

本実験の実施者は以下の通りである。

消防庁・消防技術政策室(当時) 阿部 伸之

消防研究センター・大規模火災研究室(当時) 箭内 英治

消防研究センター・火災原因調査室(当時) 矢内 良直

消防研究センター・火災原因調査室(当時) 齋藤 忠男

消防研究センター・火災原因調査室(当時) 藤原 正人

消防研究センター・火災原因調査室(当時) 北島 良保

平成 22年 1月

消防研究センター 阿部 伸之

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< 目 次 >

1.はじめに ............................................................... 1

2.コンロの発熱速度 ....................................................... 2

2.1 実験手順と結果 ...................................................... 2

2.2 考察 ................................................................ 6

2.3 その他 .............................................................. 7

3.中華鍋に入れた食用油の量と高さの関係 ................................... 8

4.コンロによる中華鍋の加熱と食用油の上昇温度 ............................ 10

4.1 中華鍋の温度分布 ................................................... 10

4.2 食用油の温度分布 ................................................... 12

5.鍋形状と燃焼性状 ...................................................... 16

5.1 中華鍋を用いたメタノールの燃焼性状 ................................. 16

5.2 中華鍋を用いた N-ヘプタンの燃焼性状 ................................. 17

6.食用油の種類と燃焼熱 .................................................. 20

6.1 実験手順と結果 ..................................................... 21

6.2 生成した水の蒸発潜熱と低位発熱量 ................................... 25

7.食用油の着火可能性及び燃焼性状 ........................................ 26

7.1 つまみ開度と食用油からの白煙発生 ................................... 28

7.2 つまみ開度と食用油の着火可能性 ..................................... 33

7.3 中華鍋を用いた食用油の燃焼性状 ..................................... 40

7.4 火炎高さの経時変化 ................................................. 47

7.5 食用油燃焼時の吹きこぼれ性状 ....................................... 60

7.6 周囲可燃物への延焼可能性 ........................................... 61

8.まとめ ................................................................ 68

参考文献 .................................................................. 69

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1.はじめに

天ぷら油火災は、コンロ、鍋、食用油の三要素が複合的に関係し、各要素が

持つパラメータの組み合わせにより出火の可否、火災規模が決まる。その三要

素の依存関係を図 1に示す。鍋を加熱するために使用するコンロは、燃料であ

る可燃ガスやガス流量調整つまみの開度により火力が決まる。コンロ上のバー

ナーの設置位置、食用油の量、鍋の径や深さなどの寸法や形状によって食用油

の加熱性状が変わる。さらに、それにはコンロの火力と鍋の寸法や形状、位置

関係により熱効率も関わる。温められた食用油が着火温度に達すると火炎が立

ち上がり、食用油が燃焼する。状況によっては食用油の量やコンロの火力によ

り食用油が鍋から吹きこぼれる。立ち上がった火炎は、周囲可燃物を温め、条

件が揃うと周囲へ火災拡大する。定性的には以上のようなシナリオから天ぷら

油火災が発生することは容易に想像できる。それらのパラメータをより具体的

に定量化し、天ぷら油火災の出火可能性、出火した場合にはその燃焼性状や周

囲への影響について調べる必要がある。ここでは、主にコンロのガス流量調整

つまみの開度と発熱速度の関係、食用油の温まり方と着火可能性、そして着火

後の燃焼性状に注目し、各種実験を行った。

図 1 天ぷら油火災性状を決める三要素

コンロ 鍋

食用油

コンロ・鍋間の熱効率

鍋形状に依存した加熱特性

発熱速度(ガス調整つまみ開度、燃焼の種類)

バーナーの配置状況

寸法

形状

種類(燃焼熱、成分)

使用頻度

吹き零れ油への着火

コンロ 鍋

食用油

コンロ・鍋間の熱効率

鍋形状に依存した加熱特性

発熱速度(ガス調整つまみ開度、燃焼の種類)

バーナーの配置状況

寸法

形状

種類(燃焼熱、成分)

使用頻度

吹き零れ油への着火

-1-

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2.コンロの発熱速度

ガスコンロ台(写真 1)の向かって左側のコンロのみに注目し、左側のコン

ロを構成している外輪(直径 105 [mm])および内輪(直径 45 [mm])について、

その各々独立しているガス流量調整つまみ(以下、つまみ)の開度により、ど

の程度のガスの流量になるかを調べ、さらに、その時の発熱速度(単位時間当

たりの発熱量)を調べた。また、ガスコンロ台の内部のガス配管は、1 本のガ

ス管から左側コンロ外輪及び内輪、右側コンロの 3つに分岐した構造になって

いる。

2.1 実験手順と結果

実験で使用するガスコンロの燃料は LPガス(表 1)を用いた。宝塚市カラオ

ケボックス店の火災現場で使用していた LPガスの成分もあわせて示す。ともに

プロパンを主成分とし、実験で扱う LPガスと火災現場でのそれとはほぼ同等の

ものである。コンロのつまみの開度は閉鎖から全開の間を 4等分した 5種類と

し(写真 2)、コンロのつまみを全開にしてから所定の開度に設定した。LPGガ

スメータ(YAZAKI HY25MⅡ1)により 5 [ℓ]のガスを消費するまでの時間を 2回

計測した。

1 回目と 2 回目の実験で得られたガス消費時間を圧力一定と仮定し、シャル

ルの法則から 0 [℃]の場合のガス流量を算出したものを算術平均することによ

ってガス流量を求めた(表 2)。

ガス流量調整つまみ

内輪

外輪

写真1 ガスコンロ台及び測定対象コンロ

45mm

105mm

-2-

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LPガスの成分(表 1)から LPガスの密度 1.97 [kg/m3](0 [℃]、0.1013 [MPa])、

燃焼熱 46.4 [kJ/g]を算出し、これらと先に求めたガス流量との積により発熱

速度を求めた(表 3)。表 3の各マスの色は、すべてのつまみの組み合わせにつ

いて天ぷら油火災実験を行うことを避けるため、同じ条件として考えられる同

程度の発熱速度を目安としてグループ分けしたものである。ただし、現実には、

食用油が加熱されるには、コンロと中華鍋の伝熱の影響を考慮しなければなら

ない。

そこで、コンロの発熱量のうちの何%が中華鍋に入れた油への受熱に寄与して

いるかを評価するためのコンロと中華鍋の間の熱効率ηを表 4に示す。なお、

中華鍋には食用油ではなく水 1 [ℓ]を入れて実験を行っている。また測定は水

が常温から 80 [℃]程度まで上昇するまでの期間で、各実験 1回のみ行った。

表 1 LP ガスの各成分とその発熱量

※1 エチレン C2H4を含む。

※2 イソブタンの発熱量はノルマルブタンと同じとして扱った。

1)Drysdale, D.: An Introduction to Fire Dynamics, JOHN WILEY & SONS, (1998), p.19.

実験 火災現場

エタン C2H6 1.5 1.2 47.45

プロパン C3H8 97.0 97.8 46.45

イソブタン i-C4H10 1.1 0.9 45.69

ノルマルブタン n-C4H10 0.4 0.1 45.69

0.506 0.507

1.32 1.31

0.0003 0.0002硫黄分      質量%

モル百分率 [mol %]LPG成分 化学式

低位発熱量[kJ/g]

 液密度(15 [℃])  g/cm3

 蒸気圧(40 [℃])  MPa

1) ※1

※2

-3-

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表2 つまみ開度とガス流量の関係

表中の縦横は外輪及び内輪のつまみの開度(0:閉鎖、1:全開)

写真2 コンロのつまみの開度

内輪

外輪 閉鎖 閉鎖

全開 全開

0 1/4 1/2 3/4 10 - 0.0123 0.0446 0.0521 0.0520

1/4 0.0060 0.0180 0.0496 0.0564 0.05481/2 0.0091 0.0213 0.0521 0.0606 0.06093/4 0.0092 0.0212 0.0532 0.0605 0.06111 0.0092 0.0205 0.0528 0.0608 0.0611

ガス流量[ℓ/s]

外輪

内輪

表3 ガス流量から求めたコンロの発熱速度

0 1/4 1/2 3/4 10 - 1.06 3.83 4.47 4.47

1/4 0.51 1.54 4.26 4.84 4.701/2 0.79 1.83 4.48 5.20 5.233/4 0.79 1.82 4.56 5.20 5.241 0.79 1.76 4.53 5.22 5.24

内輪

発熱速度[kW]

外輪

表4 コンロ・中華鍋間の熱効率

0 1/4 1/2 3/4 10 - 45 32 29 31

1/4 65 39 30 29 291/2 61 39 29 30 293/4 64 39 29 29 291 61 39 29 29 27

内輪

熱効率[%]

外輪

-4-

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具体的には以下のように熱効率η[%]を求めた。

100×=f

w

QQη ······································· (1)

ここで、Qw は水の受熱量[kJ]、Qf はコンロの発熱量[kJ]であり、各々の詳細は

式(2)、式(3)のようになる。

TcmQ www ∆= ······································ (2)

ここで、mw は水の質量 1.0 [kg](=1.0 [ℓ])、cw は水の比熱 4.185 [kJ/(kg・K)]、

ΔTは水の温度変化[K]である。水の温度は、中華鍋中央の水面から深さ 1 [cm]

の位置で K型熱電対(以下、熱電対)により計測した。

100015.273 LPG

aff

HT

VQ

= ······························ (3)

ここで、Vf はガスの消費量[m3]、Ta は雰囲気温度[K](本来は LP ガス温度を用

いるべきである)、HLPGは LPガスの単位体積あたりの発熱量 91.4 [MJ/m3]であ

る。

コンロの発熱速度と熱効率の積から、実質的にはコンロからの単位時間当た

りの発熱量(実効発熱速度)は表 5のようになる。

表5 コンロ・中華鍋間の熱効率を考慮に入れた実効発熱速度

0 1/4 1/2 3/4 10 - 0.50 1.32 1.36 1.46

1/4 0.36 0.65 1.35 1.49 1.461/2 0.51 0.75 1.37 1.65 1.643/4 0.54 0.75 1.39 1.63 1.631 0.51 0.73 1.41 1.64 1.53

外輪

内輪

実効発熱速度[kW]

-5-

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2.2 考察

表 3の色分けは、概ねコンロの発熱速度が同程度であるグループに分類した

もので、色がついてない値は単独であることを表している。例えば、外輪 1/2、

内輪 1/2のつまみ開度にした場合と、外輪全開、内輪閉鎖につまみを調整した

場合とでは、発熱速度から見れば同じことであると整理できる。それにより、5

つのグループと 5つの単独値に分類した。この分類から、本実験では 24ケース

の発熱速度を測定したが、上述のグループ化により天ぷら油燃焼実験では 10

ケースのコンロの発熱速度を条件にすればよい。

ただし、コンロの発熱速度がそのまま中華鍋の食用油に寄与するわけではな

いので、その評価のために表 4に示すコンロ・中華鍋間の熱効率を調べた。外

輪閉鎖、内輪のみ使用した場合が 60 [%]以上で他に比べて熱効率がよい。外輪

1/4の場合、内輪閉鎖で 45 [%]であり、内輪閉鎖以外では概ね 40 [%]程度であ

る。内輪のつまみ開度にかかわらず、外輪 1/2以上では 30 [%]前後の熱効率に

なる。また、外輪及び内輪を全開にした場合が最も熱効率が悪く 27 [%]であっ

た。これらの原因として、特に外輪では中華鍋の形状により火力を強めると中

華鍋中心から外側に広がる火炎形状になり外部への熱損失が大きくなることや、

中華鍋外側まで食用油が存在していないことにより加熱の効率が下がるためで

あると考えられる。このことについては、4.1 及び 4.2 で赤外線サーモグラフ

ィ装置により確認する。

表 5は、コンロ・中華鍋間の熱効率を考慮に入れた実効発熱速度である。熱

効率を考慮すると、外輪及び内輪を全開にしても必ずしもコンロの最大火力と

して食用油に伝熱するわけではない。ピンク色の領域が最も実効発熱速度が高

く、それに比べて外輪及び内輪を全開にした場合の実効発熱速度は 93 [%]ほど

に減ずる。宝塚市カラオケボックス店火災おける証言にあった「外側が最大で

内側が中火」は、最も高い実効発熱速度を持つ領域である。

-6-

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2.3 その他

外輪及び内輪のつまみの組み合わせから 24 通りのつまみ開度で発熱速度を

測定したが、各々単独で測定した外輪及び内輪の発熱速度を単純足し合わせで

発熱速度を算出しても、実測より過大評価であるが、許容できる範囲で予測で

きた(表 6、緑色領域)。

また、外輪及び内輪のつまみを全開にして、コンロに中華鍋を置いた場合、

中華鍋を置かない場合とガス流量に変化はなく、中華鍋がガスの流動にとって

抵抗になることはないことを確認した。

さらに、今回対象外であるガスコンロ台右側のコンロについて、つまみを全

開にし、左側のコンロも外輪及び内輪のつまみを全開にした場合(つまりすべ

てのコンロのつまみを全開)、発熱速度は 7.33 [kW](1回のみ測定)であった。

ガスコンロ台の仕様である 8.4 [kW]よりもわずかに小さい発熱速度であった。

表6 測定対象コンロの発熱速度(予測値)

0 1/4 1/2 3/4 10 - 1.13 4.08 4.76 4.76

1/4 0.55 1.68 4.63 5.31 5.311/2 0.84 1.96 4.92 5.60 5.593/4 0.84 1.97 4.92 5.60 5.601 0.84 1.97 4.92 5.60 5.60

発熱速度[kW]

外輪

内輪

-7-

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3.中華鍋に入れた食用油の量と高さの関係

実験で用いる食用油の量を決めるために、食用油の代わりに水を中華鍋(写

真 3)に入れ、その高さ及び直径等を計測した(写真 4、表 7)。各体積とも計

測は 1回である。

直径 33[cm]

高さ(深さ) 10[cm]

写真3 実験で使用した中華鍋の寸法

厚み 1.2[mm] 材質:鉄

写真4 2 [ℓ]の水を入れた状態(例)

-8-

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表 7から、水量を 0.5 [ℓ]ずつ増やすことにより、水面がおよそ 1 [cm]前後

上昇する。水量 2 [ℓ]の時、高さがちょうど 5 [cm]になる。実験で用いる油量

について、1.5 [ℓ]は、1 [ℓ]及び 2 [ℓ]のどちらの場合とも、水面の面積を比

較して大きな差がないため、実験では除外する。また、主観になるが、0.5 [ℓ]

については、証言にあるチキンナゲットを揚げるなど調理に用いるには高さと

しては低く(油が少なく)、2 [ℓ]ではフライヤーなど常時油を使用するケース

以外では、注文を受けてから調理をするのに時間がかかるため油量としては多

いと感じる。よって、証言から宝塚市カラオケボックス店火災では約 1 [ℓ]の

サラダ油を用いたとのことから、それも考慮し実験においては 1 [ℓ]の油量を

用いた。0.5 [ℓ]及び 2 [ℓ]の油量を用いた実験は確認実験の場合に行うことに

した。

水面の面積は、体積が減る(水位が低くなる)にしたがって中華鍋の放物面

状の形状からより減少傾向が強くなる。仮に食用油が油面近傍で燃焼するとす

れば、中華鍋の形状から燃焼過程で燃焼面積が強制的に減少することになるた

め、中華鍋の形状を把握しておくことは燃焼性状を観察することにおいて極め

て重要になる。

表7 水量と高さ等の関係

体積[ℓ] 高さ[cm] 直径[cm] 面積[m2]

0.5 2.2 21.2 0.14

1.0 3.3 24.3 0.19

1.5 4.2 26.1 0.21

2.0 5.0 27.3 0.23

-9-

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4.コンロによる中華鍋の加熱と食用油の上昇温度

中華鍋やそれに入れた食用油がどのように加熱されるかを観察するために、

赤外線サーモグラフィ装置(日本アビオニクス TVS-700)を用いて温度分布を

調べた。

4.1 中華鍋の温度分布

コンロのつまみを外輪閉鎖・内輪全開、外輪全開・内輪閉鎖、外輪及び内輪

全開にした 3 種類の条件での中華鍋の加熱状況を見てみる。図 2 は、点火 60

秒後までの中華鍋を上から見下ろした際の温度分布の経時変化を示したもので

ある。ここで、加熱の初期状況を観察するため、赤外線サーモグラフィ装置の

温度表示範囲の上限を 500 [℃]に設定した。食用油は入っていない。

コンロのつまみが内輪のみ全開の時(図 2(a))、点火 10秒後で中華鍋中央が

リング状に加熱される。この時の中華鍋の表面最高温度は約 430[℃]である。

点火 30秒後にさらに温度が上がり、点火 60秒後にさらに周囲に温度範囲拡大

しているのがわかる。ここで、他のつまみ条件の場合にも言えることだが、500

[℃]以上の温度については画像中では白色で表現され、温度が一様になってい

るように見えるが、白色領域の中でも実際は 500 [℃]以上の必ずしも一様でな

い温度が分布していることに注意されたい。

コンロのつまみが外輪のみ全開の時(図 2(b))、点火 10秒後でバーナー外輪

の火炎をかたどったように中華鍋がリング状に加熱される。点火 30秒後でさら

に温度が上がるが、中華鍋中心部の温度上昇は全体的な温度上昇に比べて緩慢

である。これは、外輪の火炎が中華鍋の放物面状の形状に沿うため、中華鍋中

心部は加熱されにくい。点火 60秒後でさらに周囲に温度範囲拡大しているが、

やはり中華鍋中心部の温度上昇は緩慢である。

コンロのつまみが外輪及び内輪全開の時(図 2(c))、点火 10秒後では内輪の

み全開の場合と外輪のみ全開の場合を重ね合わせたような温度分布になる。点

火 30秒後、中華鍋中心部に温度の低い部分が見られるが、点火 60秒後には中

華鍋全体が 500 [℃]以上になった。

コンロの外輪は中華鍋の中心以外を主に加熱し、内輪は中心付近を加熱する。

外輪と内輪を同時に使用した場合には、中華鍋をムラなく加熱するようになる。

以上から食用油が加熱されるための熱源の分布特性がわかった。中華鍋に食

用油を入れて加熱した場合、中華鍋表面から熱伝達によりどのように食用油の

-10-

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温度が上昇していくかを観察するための参考とする。

(a) 外輪・閉鎖、内輪・全開

(c) 外輪・全開、内輪・全開

図2 コンロのつまみ開度と中華鍋の温度分布の経時変化

点火 10秒後 点火 30秒後 点火 60秒後

点火 10秒後 点火 30秒後 点火 60秒後

(b) 外輪・全開、内輪・閉鎖

点火 10秒後 点火 30秒後 点火 60秒後

-11-

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4.2 食用油の温度分布

食用油の温度分布については、赤外線サーモグラフィ装置が油の表面の温度

を捕捉しているのか、食用油を透過して鍋の温度を捕捉しているのか明確でな

い場合があったので、ここでは、赤外線サーモグラフィ装置による温度分布の

他に、熱電対による温度測定もあわせて行った。食用油として、サラダ油 1 [ℓ]

を用いた。

熱電対の測定位置は、中華鍋中央から半径方向に 0、50、100 [mm]で液面か

ら 5 [mm]の深さの位置に 3点、中華鍋中央から半径方向に 0、50 [mm]で鍋底か

ら鉛直上方向に 5 [mm]の位置に 2点の合計 5点である(図 3)。熱電対のプロー

ブが干渉しないように同じ条件で 2回実験を行い、液面付近の 3点と鍋底付近

の 2点はそれぞれ別々の実験で計測した。

図 4は、コンロのつまみを外輪閉鎖・内輪全開、外輪全開・内輪閉鎖、外輪

及び内輪全開にした 3種類の条件での中華鍋に入れた食用油の温度の経時変化

を示している。

内輪のみ全開の場合(図 4(a))では、鍋底の中央付近の温度上昇が早く

(B000,B050)、次いで油面近傍の中央付近の温度が上昇し(T000,T050)、最後

に油面周囲が温度上昇する(T100)。温度上昇が始まった順番が早いほど、温度

が高い。点火 5分以降、鍋底の温度上昇(B000,B050)が他よりも顕著であり、

点火 25 分で 200 [℃]になる。内輪の火炎により加熱した中華鍋は、食用油へ

図3 熱電対の測定位置(中華鍋の中心を含む断面)

〔 T:上部、B:下部、数字:中心からの距離 〕

5

5

50 100

5 中華鍋

食用油

(単位:mm) :測定点

T000 T050 T100

B000 B050

-12-

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の伝熱として熱伝達の他に熱伝導の影響も強く、鍋底近傍の食用油が局所的に

高温になり易い傾向を示したものであると考えられる。

外輪のみ全開、外輪及び内輪全開の場合(図 4(b),(c))は、それらはほぼ同

じ傾向を示した。初めに油面周囲が温度上昇し(T100)、次いで油面近傍の中央

付近の温度が上昇し(T000,T050)、最後に鍋底の中央付近の温度が上昇する

(B000,B050)。内輪のみ全開の場合では鍋底近傍がまず温度上昇し、最後に油

面周囲が温度上昇したので、そのことと温度上昇開始の順番としては全く逆の

傾向を示した。外輪の火炎が中華鍋周囲を加熱し、それに伴って食用油も周囲

から加熱されていることになる。外輪のみ全開の場合、点火 5分後で食用油の

油面近傍は約 200 [℃]になるが、鍋底近傍の温度はそれよりも 10 [℃]程度低

い。外輪及び内輪全開の場合、全ての測定点で点火 5分後におよそ 200 [℃]に

なっており、この差は内輪の火炎が鍋底近傍の食用油を加熱しているからであ

る。

図 5は、中華鍋を上から見下ろした際の温度分布について、点火から 120秒

後までの経時変化を示したものである。内輪のみ全開の場合(図 5(a))、食用

油の中央付近を加熱していることがわかる。この加熱部分が食用油の油面近傍

か鍋底近傍かは明確ではなく、さらに図 4(a)で点火 120秒後(2分後)では油

温度が 50 [℃]に到達していないことから、図 5(a)の点火 120 秒後で 200[℃]

以上を示す部分は中華鍋自身の加熱温度を拾っている可能性がある。よって、

定性的な観測のみ行うにとどめる。外輪及び内輪全開の場合(図 5(b))、鍋の

周囲が加熱され、それに伴い食用油が周囲から温められていることが確認でき

る。以上より熱電対の温度計測結果を裏付ける食用油の加熱性状が定性的に観

測できた。

-13-

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0

50

100

150

200

250

0 5 10 15 20 25 30

時間 [分]

食用

油の

温度

 [℃

]

T000T050T100B000B050

(a) 外輪・閉鎖、内輪・全開

(b) 外輪・全開、内輪・閉鎖

(c) 外輪・全開、内輪・全開

図4 コンロのつまみ開度と食用油の温度の経時変化(※(a)の時間軸のスケールが他と異なることに注意)

0

50

100

150

200

250

0 1 2 3 4 5 6

時間 [分]

食用

油の

温度

 [℃

]

T000T050T100B000B050

0

50

100

150

200

250

0 1 2 3 4 5 6

時間 [分]

食用

油の

温度

 [℃

]

T000T050T100B000B050

-14-

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図5 コンロのつまみ開度と食用油の温度分布の経時変化

(a) 外輪・閉鎖、内輪・全開(表示範囲:20~200[℃])

点火 30秒後 点火 60秒後 点火 90秒後 点火 120秒後

(b) 外輪・全開、内輪・全開(表示範囲:20~700[℃])

点火 30秒後 点火 60秒後 点火 90秒後 点火 120秒後

-15-

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5.鍋形状と燃焼性状

実験で用いた中華鍋は底が平らではなく、放物面状の曲面を描いている。よって、食用

油の燃焼過程において、中華鍋に入れた油量が減少するに伴い、鍋形状により油面の面積

は減少していき、発熱速度が減少していくと想像できる。一方で、油面の面積に関わらず

中華鍋の縁で燃焼することも想定でき、油量に関係なく発熱速度は一定となるとも考えら

れる。そこで、ここではそれら 2通りの燃焼性状を観察することを目的とし、中華鍋を用

いてメタノール及び n-ヘプタンの 2種類の液体燃料により燃焼性状を再現してみた。後述

するが、食用油の場合、着火直後は油面で燃焼し、火炎が成長してくると次第に中華鍋の

縁で燃焼するようになることが観測できる。

5.1 中華鍋を用いたメタノールの燃焼性状

メタノールの使用量は、0.5、1、1.5、2 [ℓ]の 4種類である。コンロを使用することは

なく、裸火により直接点火した。

図 6は中華鍋に入れたメタノールの使用量と発熱速度の関係を示したものである。ここ

で、発熱速度は重量減少法により求め、その際に使用したメタノールの発熱量は 19.1

[kJ/g]である。いずれの場合も、3~4分で最大発熱速度に到達し、その後は徐々に発熱速

度が減少していく。燃焼継続時間は、体積の小さい方から約 12、17、22、27分であり、そ

れぞれ 5分の差がある。また、メタノールの体積が増えるにしたがって、発熱速度の最大

値が、15、21、23、25 [kW]とわずかであるが増加する。体積が大きいと発熱速度が大きく

なるのは、メタノールの表面近傍で燃焼が起こっておりメタノール面の面積が燃焼面積と

なって発熱速度に影響しているからである。さらに中華鍋は放物面状の形状であり、メタ

ノール量が燃焼により少なくなっていくと燃焼面積が中華鍋形状に拘束され減少していく

ために発熱速度も徐々に減少するのである。

-16-

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5.2 中華鍋を用いた n-ヘプタンの燃焼性状

n-ヘプタンの使用量は、0.5、1、1.5、2 [ℓ] の 4種類である。コンロを使用することは

なく、裸火により直接点火した。

図 7は、中華鍋に入れた n-ヘプタンの使用量と発熱速度の関係を示したものである。こ

こで、発熱速度はメタノールと同様に重量減少法から求めた。使用した n-ヘプタンの発熱

量は 41.2 [kJ/g]である。いずれの場合も、点火 1分後から 60~70 [kW]の一定の発熱速度

になる。燃焼継続時間は、体積の小さい方から約 4、8、12、15分であり、発熱速度は一定

なのでほぼ体積分だけ 4の倍数で時間が長くなる。発熱速度が一定になる理由は、n-ヘプ

タンが気化して可燃限界濃度になるまでに時間を要し(もしくは気化速度がメタノールに

比べて速く)、中華鍋の周囲の縁で燃焼が始まることから、n-ヘプタンの体積にかかわらず、

燃焼面積が中華鍋の縁で囲まれた面積で固定されるからである。

写真 5は、以上のメタノール、n-ヘプタンを燃焼させたときの様子を示している。メタ

ノールの場合は、青い火炎を立ち上げて液面から燃焼しているように観察されるのに対し、

n-ヘプタンの場合は、燃料の液面から燃焼している様子は観察されず、中華鍋の縁から燃

焼が始まっている橙色の付着火炎を形成することが観測された。

-17-

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図6 中華鍋に入れたメタノールの体積と発熱速度の関係

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30

時間 [分]

発熱

速度

 [k

W]

0.5 [ℓ]1.0 [ℓ]1.5 [ℓ]2.0 [ℓ]

図7 中華鍋に入れた n-ヘプタンの体積と発熱速度の関係

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

時間 [分]

発熱

速度

 [k

W]

0.5 [ℓ]1.0 [ℓ]1.5 [ℓ]2.0 [ℓ]

-18-

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写真5 中華鍋に入れた液体燃料の燃焼の様子

(b) n-ヘプタン(容量 1.5 [ℓ])

(a) メタノール(容量 0.5 [ℓ])

-19-

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6.食用油の種類と燃焼熱

燃料である食用油を燃焼させた際の発熱速度を求めるために、重量減少法に基づいて食

用油の燃焼中の重量減少を測定し、重量減少量とその食用油の燃焼熱の積から発熱速度を

求める。しかし、食用油の燃焼熱のデータは文献からは適当なデータが見当たらなかった

ため、種々の食用油の燃焼熱について燃研式自動ボンベ熱量計により燃焼熱を測定した。

食用油には、サラダ油、キャノーラ油、コーン油など様々な種類があり、さらに食用油

を構成する脂肪酸には、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸などがある。それらの脂

肪酸の割合は、食用油の種類で異なるが、同一種類でもわずかに異なる。そのため、単一

成分ではない食用油の燃焼熱については公表されることがなく、参考に利用できるデータ

もない。ここで試料として用いた食用油は、表 8に示すサラダ油、キャノーラ油、コーン

油、健康油と使用済みサラダ油である。使用済み油は、コンロで加熱し一度着火した油を

冷ましたものであり、揚げ物など調理に使用した油ではない。

写真 6には、種々の食用油の様子(色)と密度を示した。新品の食用油(写真 6(a)~(d))

について、コーン油が飴色の度合いが多少強いが、密度については 0.90~0.92 [g/cm3]で

あり種類によって変わらない。使用済みサラダ油に関して、実験で用いた油は写真 6(e1)

であり、参考に示した写真 6(e2)及び(e3)はそれよりも色が濃く、写真 6(e3)の油に関して

は明らかに粘度が増し、そのまま放置するとビーカーの底にタール状の物質が堆積する様

子が観察された。見かけ上は差があるそれら使用済み油に関して、密度は 0.90~0.93

[g/cm3]であり、大差はなかった。

食用油の種類 サラダ油 キャノーラ油 コーン油 健康油

名称 食用調合油 食用なたね油 食用とうもろこし油 食用調理油

原材料名食用大豆油

食用なたね油食用なたね油 食用とうもろこし油

植物性加工油脂、グリセリンエステル、酸化防止剤(ビタミンE、ビタミンC)

栄養表示(大さじ1杯(14g)当たり)

エネルギー [kcal] 126 126 126 126たんぱく質 [g] 0 0 0 0

脂質 [g] 14 14 14 14炭水化物 [g] 0 0 0 0

ナトリウム [mg] 0 0 0 0コレステロール - 0 - 0

飽和脂肪酸含有割合 [%] - 7 - -

表8 食用油の種類と容器に記載されている原材料名及び栄養表示

-20-

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6.1 実験手順と結果

燃研式自動ボンベ熱量計(島津製作所 CA-4PJ、写真 7、以下、ボンベ熱量計)を用いて、

種々の食用油の発熱量を測定した。手順は以下の通りである。ここで、ボンベ熱量計で測

定した発熱量は、燃焼により生成した水が液体としてボンベ内に残存するため、燃焼熱に

水の蒸発潜熱を含んだ高位発熱量(総発熱量)である。

(1) 写真 8に示すように、重量を測定した雁皮紙を折り、その周りに通電するための点

火用ニッケル線を巻きつける。この時、雁皮紙が横にならないように立てる。

(2) (1)で作成した雁皮紙とニッケル線をるつぼに入れ、重量のわかっている 0.6~0.7

[g]程度の食用油を入れる。

(3) (2)で作成したるつぼをボンベにセットし、ボンベには 25 [kgf/cm2]の酸素を封入

する。

(4) 酸素が漏れていないことを確認したボンベをボンベ熱量計に入れ、計測を開始する。

(5) 出力データとして発熱量が表示されるので、雁皮紙の発熱量を差し引いてから、食

用油の重量で除することにより、単位質量あたりの食用油の発熱量を求めた。

(6) (1)~(5)を繰り返し、7 回の計測から得られた発熱量のデータから、最大値及び最

小値を除く 5回のデータを平均することにより、高位発熱量を算出した。

ここで、手順(1)のような作業を入れたのは、ニッケル線を直接食用油に接触させておくこ

とで計測が不可能であったため、食用油を燃焼させるための芯の役目として雁皮紙を使用

した。また、あらかじめ発熱量が分かっている校正用の安息香酸でボンベ熱量計を校正し

ている。

以上により得られた食用油の高位発熱量を表 9に示す。健康油は他の食用油に比べて発

熱量が低いが、概ね 40 [kJ/g]弱であった。なお、表中の低位発熱量は燃焼熱から水の蒸

発潜熱を差し引いた燃焼熱であり、その詳細は 6.2に示す。

-21-

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(a) サラダ油

密度:0.91 [g/cm3](27℃)

(b) キャノーラ油

密度:0.90 [g/cm3](28℃)

(c) コーン油

密度:0.91 [g/cm3](28℃)

(d) 健康油

密度:0.92 [g/cm3](28℃)

(e1) 使用済みサラダ油

密度:0.91 [g/cm3](22℃)

(e2) 使用済みサラダ油

密度:0.90 [g/cm3](23℃)

(e3) 使用済みサラダ油

密度:0.93 [g/cm3](19℃)

写真6 種々の食用油の色と密度(カッコ内は計測時油温)

-22-

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写真7 燃研式自動ボンベ熱量計(島津製作所 CA-4PJ)

るつぼと圧縮酸素(25[kgf/cm2])が封入されている

写真8 るつぼに入れた食用油

(雁皮紙は芯として使用、ニッケル線は通電のため使用)

雁皮紙

食用油(試料)

ニッケル線

るつぼ

-23-

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表9 食用油の高位発熱量と低位発熱量

食用油の種類高位発熱量

[kJ/g]低位発熱量

[kJ/g]

低位発熱量/

高位発熱量

サラダ油 39.9 37.3 0.94

キャノーラ油 39.5 36.9 0.94

コーン油 39.4 36.9 0.94

使用済みサラダ油 39.3 36.8 0.94

健康油 38.4 35.9 0.93

-24-

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6.2 生成した水の蒸発潜熱と低位発熱量

食用油は液体の油脂であり、グリセロールの 3つの水酸基が脂肪酸とエステルを形成し

ているトリアシルグリセロール(トリグリセリド)である。一般的に、脂肪酸は複数種で

あるが、ここでは単一種の 3つの同じ脂肪酸を持つ単純トリアシルグリセロールとして考

える。また、食用油の製造会社では食用油の成分は公開しないということから、日本油脂

検査協会の資料 2)を参考に食用油中の脂肪酸の割合を表 10と仮定し、計算を行った。ただ

し、食用油のうち健康油の一部は、主成分がジアシルグリセロール(ジグリセリド)であ

り、グリセロールの 2つの水酸基が脂肪酸とエステルを形成している。健康油以外の食用

油にも数%のジアシルグリセロールが含まれるが、計算上では無視した。厳密には、使用

した食用油の成分分析をすべきであるが、表 10の化学式を見てわかるとおり、脂質の大部

分を占めるトリアシルグリセロール(TAG)のどの脂肪酸も水素原子数に大差はない。よっ

て、食用油の燃焼による水の生成モル数も概ね大差はない。

例として、オレイン酸の単純トリアシルグリセロール 1 [mol]が燃焼した場合では、

(C17H33COO)3C3H5 + 80 O2 → 52 H2O + 57 CO2

52 [mol]の水が生成される。モルとグラムを換算し、この生成した水が蒸発潜熱として燃

焼熱を奪うと考えた。ここで、水の蒸発潜熱を 2.45 [kJ/g]とした。表 9 にある高位発熱

量から水の蒸発潜熱を差し引いたものが低位発熱量である。低位発熱量は、高位発熱量の

およそ 94 [%]であった。

サラダ油 キャノーラ油 コーン油 健康油

飽和 パルミチン酸 (C15H31COO)3C3H5 806 10 8 12 2

オレイン酸 (C17H33COO)3C3H5 884 44 62 30 9

リノール酸 (C17H31COO)3C3H5 878 36 20 53 7

α-リノレン酸 (C17H29COO)3C3H5 872 8 9 2 2

飽和 パルミチン酸 (C15H31COO)2C3H5OH 568 0 0 0 8

オレイン酸 (C17H33COO)2C3H5OH 620 1 1 1 36

リノール酸 (C17H31COO)2C3H5OH 616 1 0 2 28

α-リノレン酸 (C17H29COO)2C3H5OH 612 0 0 0 8*1 ・・・ トリアシルグリセロール*2 ・・・ ジアシルグリセロール

脂質食用油中の割合

脂肪酸 化学式 分子量

TAG*1

DAG*2

不飽和

不飽和

表 10 種々の食用油中の脂質及び脂肪酸の割合

(%)

-25-

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7.食用油の着火可能性及び燃焼性状

食用油がどのように加熱されるかは、第4章において述べた。ここでは、それからさら

に加熱すると白煙が発生、徐々に白煙量を増しながら食用油の着火温度に到達すると食用

油に着火、燃焼を始めるといった一連の流れを追って考察してみる。実験条件は、表 11

の通りである。食用油の種類、状態、油量及びコンロのつまみ開度を条件の要素としてい

る。

実験はルームカロリメータ(写真 9)のフード直下で行い、食用油の温度、現場での水

きり棚付近(中華鍋中央、ガスコンロ台上面から 945 [mm]上方)のガス温度、コンロフー

ド頂部付近(中華鍋中央、ガスコンロ台上面から 1900 [mm]上方)のガス温度、吊り棚付

近のガス温度などの温度の他に、煙濃度の指標となる減光係数、一酸化炭素、二酸化炭素、

酸素などのガス濃度、食用油の重量減少量、吊り棚付近の熱流束(水平及び鉛直下方向、)

を計測している。ルームカロリメータのフード部からの排気風量は約 1.4 [m3/s]である。

表 11 食用油の燃焼実験における種々の条件

No.気温[℃]

湿度[%]

燃料の種類 油の状態油量[ℓ]

外輪つまみ開度

内輪つまみ開度

 備 考

SN10025100 23 61 サラダ油 新品 1 1/4 1

SN10050000 22 64 サラダ油 新品 1 1/2 0

SN10050025 22 66 サラダ油 新品 1 1/2 1/4

SN10050050 20 51 サラダ油 新品 1 1/2 1/2

SN10050100 24 36 サラダ油 新品 1 1/2 1

SN10075000 20 53 サラダ油 新品 1 3/4 0

SN10075050 19 54 サラダ油 新品 1 3/4 1/2

SN10075100 23 39 サラダ油 新品 1 3/4 1

SN10100000 23 37 サラダ油 新品 1 1 0

SN10100050 24 42 サラダ油 新品 1 1 1/2

SN10100100 23 40 サラダ油 新品 1 1 1

SN1010010S 24 59 サラダ油 新品 1 1 1 着火後、直ちにガスを遮断。

SN05100100 23 52 サラダ油 新品 0.5 1 1

SN20100100 23 53 サラダ油 新品 2 1 1

SO10100100 22 66 サラダ油 使用済み 1 1 1

RN05100100 28 68 キャノーラ油 新品 0.5 1 1

CN05100100 28 68 コーン油 新品 0.5 1 1

HN05100100 29 68 健康油 新品 0.5 1 1

-26-

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図8 コンロのつまみ開度と白煙発生時間の関係

〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開

(a) 内輪全開

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

1/4 1/2 3/4 1

外輪のつまみ開度

時間

 [分

]

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 1/2 1

内輪のつまみ開度

時間

 [分

]

写真9 実験装置(ルームカロリメータ試験装置)

中華鍋

熱流束計 (水平及び鉛直下方向)

ルームカロリメータ試験装置

のフード部分

計測センサーの位置関係

レンジフード

水切り棚

重量計

熱流束計

(鉛直下向き)

熱流束計

(水平方向)

: 熱電対

単位:mm

750

1200 600

955

945

1900

ガスコンロ台から

立面図

-27-

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7.1 つまみ開度と食用油からの白煙発生

コンロのつまみを内輪全開にして外輪を種々の開度にした場合と、外輪を全開にして内

輪を種々の開度にした場合の食用油からの白煙(油煙)の発生時間を調べた(図 8)。ここ

で、時間計測は白煙観測者 2名のすべてが白煙を確認したと判断したときをもって白煙発

生時間とした。中華鍋に入れた食用油は新品のサラダ油 1 [ℓ]である。内輪を全開にし外

輪のつまみ開度を変えた場合(図 8(a))、コンロ点火から外輪つまみ開度 1/4では約 13分、

開度 1/2では約 9分、開度 3/4及び全開では約 8分であった。一方、外輪を全開にし内輪

のつまみ開度を変えた場合(図 8(b))、コンロ点火から内輪つまみを閉鎖では約 9 分、開

度 1/2及び全開では約 8分である。証言に基づき、外輪全開、内輪つまみ開度 1/2を見る

とコンロ点火から約 8分で白煙が発生していることになる。コンロの火力が白煙発生時間

に影響していることから、食用油に対応した白煙発生温度が存在すると考えられる。

200

210

220

230

240

250

260

270

280

290

300

1/4 1/2 3/4 1

外輪のつまみ開度

油温

度 

[℃]

図9 コンロのつまみ開度と白煙発生時の油温度の関係

〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開

(a) 内輪全開

200

210

220

230

240

250

260

270

280

290

300

0 1/2 1

内輪のつまみ開度

油温

度 

[℃]

~ ~

~ ~

-28-

Page 32: 中華鍋に入れた食用油の加熱・着火・燃焼性状 に関する天ぷ …nrifd.fdma.go.jp/publication/gijutsushiryo/gijutsushiryo...1.はじめに 天ぷら油火災は、コンロ、鍋、食用油の三要素が複合的に関係し、各要素が

そこで、白煙発生時の油の温度を見てみる(図 9)。油の温度は、油面中央、油面から深

さ 1 [cm]の位置を熱電対で測定している。この測定位置は、空気と接した油面付近でかつ

着火するまでに油中から空気中に露出しない深さであり、油量を変えた条件でも設置が容

易な油面中央とし、油の代表温度とした。内輪を全開にして外輪のつまみ開度を変えた場

合(図 9(a))、どの外輪つまみ開度でも 250~260 [℃]で白煙が発生しており、コンロの火

力は白煙発生温度に影響しない。一方、外輪を全開にして内輪のつまみ開度を変えた場合

(図 9(b))、どの内輪つまみ開度でも 250~260 [℃]で白煙が発生する。内輪のつまみを全

開、外輪のつまみを閉鎖にした場合の実験は行っていないが、通常揚げ物料理を作る上で

使用するコンロの火力において、コンロのつまみ開度にかかわらず新品のサラダ油 1 [ℓ]

を加熱すると 250~260 [℃]で白煙が発生すると言える。

これまでサラダ油 1 [ℓ]を加熱した場合を見てきたが、サラダ油の油量を 0.5 [ℓ]及び 2

200

210

220

230

240

250

260

270

280

290

300

0.5 1 2

食用油(サラダ油)の量 [ℓ]

油温

度 

[℃]

図 10 食用油の量と白煙発生時間及び油温度の関係

〔サラダ油(新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

(b) 白煙発生時の油温度

(a) 白煙発生時間

~ ~

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0.5 1 2

食用油(サラダ油)の量 [ℓ]

時間

 [分

]

-29-

Page 33: 中華鍋に入れた食用油の加熱・着火・燃焼性状 に関する天ぷ …nrifd.fdma.go.jp/publication/gijutsushiryo/gijutsushiryo...1.はじめに 天ぷら油火災は、コンロ、鍋、食用油の三要素が複合的に関係し、各要素が

[ℓ]にした場合と比較してみる(図 10)。コンロのつまみは外輪及び内輪ともに全開である。

白煙発生時間については、油量 0.5 [ℓ]の場合は約 5 分、1 [ℓ]の場合は約 8 分、2 [ℓ]の

場合は約 14分であった(図 10(a))油量が増えるにしたがって、加熱する効率が低くなり

白煙発生時間により時間がかかるようになる。

白煙発生時の油の温度を見てみる(図 10(b))。油の量が多くなると、油の温度が高くな

っているようにも見えるが、0.5 [ℓ]と 2 [ℓ]の場合の温度差は 14 [℃]である。油量 0.5 [ℓ]

の場合は 251 [℃]、1 [ℓ]の場合は 254 [℃]、2 [ℓ]の場合は 265 [℃]であった。新品の

サラダ油の油量が 0.5~2 [ℓ]の場合、250~270 [℃]で白煙が発生することになる。

コンロのつまみを外輪及び内輪全開にし新品のサラダ油と使用済みのサラダ油を油量 1

[ℓ]で比較すると、新品のサラダ油が約 8分で白煙を発生させたのに対し、使用済みのサラ

ダ油は約 6分で白煙が発生する(図 11(a))。使用済みのサラダ油は新品のそれよりも約

200

210

220

230

240

250

260

270

280

290

300

新品 使用済み

食用油(サラダ油)の状態

油温

度 

[℃]

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

新品 使用済み

食用油(サラダ油)の状態

時間

 [分

]

図 11 食用油の状態と白煙発生時間及び油温度の関係

(油量:1.0 [ℓ](サラダ油)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開)

(b) 白煙発生時の油温度

(a) 白煙発生時間

~ ~

-30-

Page 34: 中華鍋に入れた食用油の加熱・着火・燃焼性状 に関する天ぷ …nrifd.fdma.go.jp/publication/gijutsushiryo/gijutsushiryo...1.はじめに 天ぷら油火災は、コンロ、鍋、食用油の三要素が複合的に関係し、各要素が

2分早く白煙が発生する。

白煙発生時の油の温度について、使用済みのサラダ油をどの程度使用したかに依存する

が、一度白煙を発生させるまで加熱したサラダ油は、一度サラダ油を冷ました後再び加熱

すると低い温度で白煙を発生するようになる。図 11(b)を見ると、新品のサラダ油が 254

[℃]で白煙を発生するのに対し、使用済みのサラダ油は 213[℃]で白煙を発生した。約 40

[℃]低い温度で使用済みのサラダ油から白煙が発生し、使用済み油は白煙を発生しやすい

状態であることがわかった。

実験では主にサラダ油を用いるためにサラダ油の白煙発生について調べてきたが、サラ

ダ油以外の食用油についても簡単に調べた。調べた食用油は、キャノーラ油、コーン油、

健康油である(図 12)。コンロのつまみは外輪及び内輪全開である。中華鍋に入れた油

200

210

220

230

240

250

260

270

280

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300

サラダ油 キャノーラ油 コーン油 健康油

食用油の種類

油温

度 

[℃]

図 12 種々の食用油と白煙発生時間及び油温度

(油量:0.5 [ℓ](新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開)

(b) 白煙発生時の油温度

(a) 白煙発生時間

~ ~

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

サラダ油 キャノーラ油 コーン油 健康油

食用油の種類

時間

 [分

]

-31-

Page 35: 中華鍋に入れた食用油の加熱・着火・燃焼性状 に関する天ぷ …nrifd.fdma.go.jp/publication/gijutsushiryo/gijutsushiryo...1.はじめに 天ぷら油火災は、コンロ、鍋、食用油の三要素が複合的に関係し、各要素が

量は 0.5 [ℓ]、すべて新品である。

白煙発生時間については、サラダ油、キャノーラ油、コーン油が約 5分であるのに対し、

健康油は約 4分であり、1分ほど早かった(図 12(a))。

白煙発生時の油の温度は、サラダ油、キャノーラ油、コーン油がそれぞれ 251 [℃]、256

[℃]、261 [℃]であるが、健康油は 228 [℃]であり 30 [℃]程度低い温度である(図 12(b))。

白煙発生について、サラダ油、キャノーラ油、コーン油は同様の性状を示すが、それらと

比べて健康油は白煙発生が早く、低い温度で白煙が発生することがわかった。

-32-

Page 36: 中華鍋に入れた食用油の加熱・着火・燃焼性状 に関する天ぷ …nrifd.fdma.go.jp/publication/gijutsushiryo/gijutsushiryo...1.はじめに 天ぷら油火災は、コンロ、鍋、食用油の三要素が複合的に関係し、各要素が

7.2 つまみ開度と食用油の着火可能性

食用油からの白煙の発生と同様に、コンロのつまみ開度が食用油の温度上昇率に影響を

与える。本来、コンロと中華鍋間の熱効率を考慮したコンロの実効発熱速度を食用油の着

火可能性のパラメータにすべきであるが、実用上つまみ開度を使用した場合の方が直感的

に理解できるのでつまみ開度をパラメータとする。また、ここでは食用油 1 [ℓ]の場合、

コンロ点火 30分以内に食用油へ着火した場合を着火可能であると判断する。

図 13は、新品のサラダ油 1 [ℓ]を中華鍋に入れた場合のコンロのつまみ開度と油への着

火時間の関係を示している。油の温度は、油面中央、油面から深さ 1 [cm]の位置を熱電対

で測定している。内輪を全開にし外輪のつまみ開度を変えた場合(図 13(a))、外輪つまみ

開度 1/2では約 21分で油へ着火、開度 3/4及び全開では 18分で着火した。開度 1/4で油

へ着火することはなかった。

図 13 コンロのつまみ開度と油への着火時間の関係

〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開

(a) 内輪全開

0

5

10

15

20

25

30

1/2 3/4 1

外輪のつまみ開度

時間

 [分

]

0

5

10

15

20

25

30

0 1/2 1

内輪のつまみ開度

時間

 [分

]

-33-

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外輪を全開にし内輪のつまみ開度を変えた場合(図 13(b))、内輪つまみ閉鎖では約 27

分、開度 1/2で約 19分、全開で約 18分で油へ着火した。

図 14は、油に着火した時の油への着火温度を示している。内輪を全開にし外輪のつまみ

開度を変えた場合(図 14(a))、外輪つまみ開度 1/2、3/4及び全開で、それぞれ 376 [℃]、

369 [℃]、374 [℃]であった。一方、外輪を全開にし内輪のつまみ開度を変えた場合(図

14(b))、内輪つまみ閉鎖、開度 1/2及び全開で、365 [℃]、374 [℃]、374 [℃]であった。

新品サラダ油 1 [ℓ]を加熱し、コンロ点火から 30分以内で油へ着火したケースでは、コン

ロの火力にかかわらず、概ね 370 [℃]前後の着火温度であることがわかった。

300

310

320

330

340

350

360

370

380

390

400

0 1/2 1

内輪のつまみ開度

油温

度 

[℃]

300

310

320

330

340

350

360

370

380

390

400

1/2 3/4 1

外輪のつまみ開度

油温

度 

[℃]

図 14 コンロのつまみ開度と油への着火温度の関係

〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開

(a) 内輪全開

~ ~

~ ~

-34-

Page 38: 中華鍋に入れた食用油の加熱・着火・燃焼性状 に関する天ぷ …nrifd.fdma.go.jp/publication/gijutsushiryo/gijutsushiryo...1.はじめに 天ぷら油火災は、コンロ、鍋、食用油の三要素が複合的に関係し、各要素が

図 15は、新品サラダ油の油量を 0.5、1、2 [ℓ]にした場合の着火時間及び着火温度であ

る。コンロのつまみは外輪及び内輪ともに全開である。油量が 0.5、1、2 [ℓ]でそれぞれ

約 12 分、約 18 分、約 32 分で油に着火する。油量 2 [ℓ]の場合、コンロ点火 30 分経過し

て着火しなくても実験を継続していた。着火時の油の温度は、油量 0.5、1、2 [ℓ]でそれ

ぞれ 375 [℃]、374 [℃]、372 [℃]であった。油量にかかわらず、着火温度 370 [℃]を超

えたところで油へ着火した。

コンロのつまみを外輪及び内輪全開にし新品のサラダ油と使用済みのサラダ油を油量 1

[ℓ]で比較すると、新品のサラダ油が約 18分で着火するのに対し、使用済みのサラダ油は

約 17分で着火する(図 16(a))。着火した時の着火温度を見ると(図 16(b))、新品のサラ

ダ油で 373.9 [℃]、使用済みサラダ油で 378.7 [℃]であった。白煙発生については、油の

状態によって差が現れたが、着火については、着火時間、着火温度ともに油の状態による

300

310

320

330

340

350

360

370

380

390

400

0.5 1 2

食用油(サラダ油)の量 [ℓ]

油温

度 

[℃]

図 15 食用油の量と油への着火時間及び着火温度の関係

(サラダ油(新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開)

(b) 着火温度

(a) 着火時間

~ ~

0

5

10

15

20

25

30

35

40

0.5 1 2

食用油(サラダ油)の量 [ℓ]

時間

 [分

]

-35-

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差は認められなかった。

油量 0.5 [ℓ]の新品のサラダ油、キャノーラ油、コーン油、健康油の着火時間及び着火

温度を見てみる(図 17)。コンロのつまみは外輪及び内輪全開である。

着火時間については、サラダ油、キャノーラ油が約 12分であるのに対し、コーン油、健

康油は約 10分であり、2分ほど早かった(図 17(a))。

着火時の油の温度は、サラダ油、キャノーラ油、コーン油がそれぞれ 375 [℃]、371 [℃]、

377 [℃]であるが、健康油は 361 [℃]であり 10 [℃]程度低い温度である(図 17(b))。健

康油の容器に、「発火温度約 350[℃]」、「一般サラダ油に比べ発火の温度が約 20 [℃]低め」

(発火は着火のことである)、との記載があり、20 [℃]の差はつかなかったが、健康油が

サラダ油に比べて低い温度で着火することは実験により確認できた。

図 18は、コンロ点火から油着火までの油面中心温度の経時変化を示している。

300

310

320

330

340

350

360

370

380

390

400

新品 使用済み

食用油(サラダ油)の状態

油温

度 

[℃]

図 16 食用油の状態と油への着火時間及び着火温度の関係

(油量:1.0 [ℓ](サラダ油)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開)

(b) 着火温度

(a) 着火時間

~ ~

0

5

10

15

20

25

30

新品 使用済み

食用油(サラダ油)の状態

時間

 [分

]

-36-

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300

310

320

330

340

350

360

370

380

390

400

サラダ油 キャノーラ油 コーン油 健康油

食用油の種類

油温

度 

[℃]

図 17 種々の食用油と油への着火時間及び着火温度

(油量:0.5 [ℓ](新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開)

(b) 着火温度

(a) 着火時間

~ ~

0

5

10

15

20

25

30

サラダ油 キャノーラ油 コーン油 健康油

食用油の種類

時間

 [分

]

-37-

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0

50

100

150

200

250

300

350

400

0 5 10 15 20 25 30

時間 [分]

油面

中心

温度

 [℃

]

1/4

1/2

3/4

1

0

50

100

150

200

250

300

350

400

0 5 10 15 20 25 30

時間 [分]

油面

中心

温度

 [℃

]

0

1/2

1

0

50

100

150

200

250

300

350

400

0 5 10 15 20 25 30

時間 [分]

油面

中心

温度

 [℃

]

サラダ油キャノーラ油コーン油健康油

図 18 コンロ点火から油着火までの油面中心温度の経時変化

(a) 内輪全開、外輪つまみ開度を変化

〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開、内輪つまみ開度を変化

〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(c) 油量

〔サラダ油(新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

(d) 食用油の種類

〔新品、油量:0.5 [ℓ] 、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

0

50

100

150

200

250

300

350

400

0 5 10 15 20 25 30 35

時間 [分]

油面

中心

温度

 [℃

]

0.5 [ℓ]

1 [ℓ]

2 [ℓ]

-38-

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図 18(a)は、新品サラダ油 1 [ℓ]をコンロつまみ内輪を全開にし、外輪つまみ開度を変化

させた場合である。油温度の経時変化は、1 分以内に温度が急上昇する。外輪つまみ開度

1/4では 27分くらいから温度一定なり、30分以内に油に着火しなかった。しばらくすると

熱力学的平衡に達するため、外輪開度 1/4の場合は 30分以上加熱していても、油への着火

可能性はない。外輪つまみ開度 3/4と全開の温度変化は同じであった。

図 18(b)は、新品サラダ油 1 [ℓ]をコンロつまみ外輪を全開にし、内輪つまみ開度を変化

させた場合である。内輪つまみ開度 1/2と全開の温度変化は同じであった。

図 18(c)は、新品サラダ油の油量を変えて、コンロつまみ外輪及び内輪を全開にした場

合である。油量 0.5 [ℓ]では、コンロ点火 5分後に約 250 [℃]、10 分後に約 350 [℃]にな

る。油量 1 [ℓ]では、5分後に約 200 [℃]、10分後に約 300 [℃]になる。油量 2 [ℓ]では、

5分後に約 130 [℃]、10分後に約 220 [℃]、15分後に約 280 [℃]になる。

図 18(d)は、新品食用油 0.5 [ℓ]の種類を変えて、コンロつまみ外輪及び内輪を全開にし

た場合である。油量が 0.5 [ℓ]と少量であるが、それぞれの温度変化の差は認められない。

-39-

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7.3 中華鍋を用いた食用油の燃焼性状

ここでは、コンロの外輪及び内輪を全開にし、食用油として新品のサラダ油 1 [ℓ]を中

華鍋に入れた場合の燃焼性状について述べる(図 19)。

図 19 コンロ点火から鎮火までのサラダ油の燃焼性状の経時変化

〔サラダ油:1 [ℓ](新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30

時間 [分]

油の

温度

[℃

]

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

発熱

速度

[kW

]

白煙発生開始

油着火

油の温度 :

発熱速度 :

-40-

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(a) ひさしを中華鍋に設置した様子

(b) ひさしの長さ:約 7 [cm] (c) 鍋縁からの距離:約 2 [cm]

(d) 着火直後の様子

写真 10 鍋底を沿うコンロからの熱気流を遮るひさしを

中華鍋に設置した実験の様子

-41-

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コンロに点火すると 30秒経過した後、サラダ油の温度が上昇を始める。約 8分後、白煙

が油面から発生し、時間経過に伴ってその量を増していく。約 18 分後、加熱した油が着火

する。

食用油への着火については、着火源が鍋底に沿って上昇するコンロからの熱気流との考

えもあるが 3)、コンロからの熱気流が食用油に直接接しないように、ひさしにより熱気流

を遮った実験を行ったところ(写真 10、No.WO000F1 と同実験条件)、着火時間は 16 分 26

秒、着火温度は 373.4 [℃]であり、ひさしがない場合(着火時間:16 分 26 秒、着火温度:

375.7 [℃])と比べて変化はなかった。また、電気コンロを使用した場合でも着火する事

例があることから 4)、着火のメカニズムについては中華鍋からの伝熱により加熱した食用

油が着火温度に達したことが原因であると考える。

着火した時には油面近傍で燃焼し火炎を形成するが、コンロからの加熱を継続している

と、しだいに火炎は付着火炎の様相を呈し、さらに浮き上がり火炎となる。浮き上がり火

炎を形成している時に最大発熱速度 344 [kW]であり、火炎高さ 160 [cm]で最大火炎高さに

なる。最大発熱速度については表 12に、火炎高さについては 7.4に示す。この最大発熱速

度には、コンロからの LPガスの燃焼による発熱速度は含まない。

(a) コンロの加熱と火炎形状

中華鍋から立ち上がる火炎の様子を写真11に示す。着火直後から着火20秒後の間では、

写真 11(a)に示すように直接油面から橙色の火炎が立ち上がっており、中華鍋に入れたメ

タノールが燃焼した際の火炎(メタノール型火炎、写真 5(a))と同様の様相となる(火炎

外輪 内輪

SN10050000 164 サラダ油 新品 1 1/2 0

SN10050025 267 サラダ油 新品 1 1/2 1/4

SN10050100 263 サラダ油 新品 1 1/2 1

SN10075100 300 サラダ油 新品 1 3/4 1

SN10100000 228 サラダ油 新品 1 1 0

SN10100050 282 サラダ油 新品 1 1 1/2

SN10100100 344 サラダ油 新品 1 1 1

SN1010010S 119 サラダ油 新品 1 1 1 着火後、直ちにガスを遮断。

SN05100100 238 サラダ油 新品 0.5 1 1

SN20100100 355 サラダ油 新品 2 1 1

SO10100100 282 サラダ油 使用済み 1 1 1

RN05100100 232 キャノーラ油 新品 0.5 1 1

CN05100100 254 コーン油 新品 0.5 1 1

HN05100100 244 健康油 新品 0.5 1 1

 備 考No.コンロつまみ開度最大発熱速度

[kW]燃料の種類 油の状態

油量[ℓ]

表 12 種々の条件における最大発熱速度

-42-

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写真 11 時間とともに変化する火炎形状

(a) 油面から

立ち上がる火炎

(b) 付着火炎

(c) 浮き上がり火炎

-43-

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の発光色は異なる)。着火 50秒後には火炎は付着火炎を形成した(写真 11(b))。これは中

華鍋に入れた n-ヘプタンの火炎(n-ヘプタン型火炎、写真 5(b))と同様の様相となった。

コンロからの加熱に加え、火炎からの自己放射によって食用油がより多く気化したため、

気化した食用油が燃焼するまで時間を要することから、火炎が中華鍋のより上方に移動す

るものと考えられる。さらにコンロの加熱を続けると火炎が中華鍋上方に鍋縁から 4~5

[cm]ほど浮き上がったように見える浮き上がり火炎を形成する(写真 11(c))。ただし、油

への着火直後、LPガスの供給を遮断し、コンロから中華鍋を加熱しないようにすると、火

炎は付着火炎を形成するものの、それ以後、浮き上がり火炎を形成することはなかった。

また、この時の最大発熱速度が実験条件中で最も低い 119 [kW]であり、中華鍋を加熱し続

けた場合の 1/3程度の発熱速度である。浮き上がり火炎を形成している時、沸騰している

油面は中華鍋の縁まで上昇していく様子が写真 11(c)からわかる。油面の上昇については、

7.5で述べる。

(b) 発熱速度の経時変化

燃焼の様子を定量的に把握するために発熱速度の経時変化を図 20で見てみる。油に着火

した時点を 0分としたことに注意されたい。

図 20(a)を見ると、内輪つまみ全開、外輪つまみ開度 3/4 の発熱速度の経時変化は、着

火から 1 分後、急激に発熱速度が上昇し、約 300 [kW]前後のピークを持つ。ここまでは、

外輪つまみ全開の場合と同じである。その後、着火 3分後まで急激に発熱速度が下がる。

これ以降の変化は、外輪つまみ開度 1/2の場合と同じ傾向を示す。コンロからの加熱を受

けた食用油の燃焼では、発熱速度にピークを持つことが大きな特徴である。

図 20(b)を見ると、外輪つまみ全開、内輪つまみ開度 1/2 及び全開の場合の発熱速度の

経時変化は同じである。

図 20(c)を見ると、付着火炎を形成すれば、n-ヘプタン(図 7)のように油量にかかわら

ず最大発熱速度が一致すると考えられるが、油量 0.5 [ℓ]の最大発熱速度は他に比べて低

い。図 20(d)を見ると、油への着火直後にコンロの加熱を停止すると発熱速度が抑えられ

ることを示しているが、約 14分間も燃焼を継続する。コンロ周辺に可燃物がないように整

理されていれば、調理中に油に火が入ったとしても、コンロの加熱を停止させることがで

きれば火災拡大を防ぐ手段になると考えられる。

(c) 減光係数(光学的煙濃度)の経時変化

図 21は、ルームカロリメータで得られた減光係数の経時変化を示している。

図 21(a)を見ると、白煙発生から着火前までは徐々に減光係数が大きくなり、着火と同

時に白煙を発生しなくなるため減光係数がほぼ 0 [1/m]まで下がる。以降、黒煙の発生に

より急激に減光係数が大きくなる。外輪つまみ開度 3/4及び全開の減光係数の経時変化は

同じである。

図 21(b)を見ると、内輪つまみ開度 1/2 及び全開の減光係数の経時変化は同じである。

油量が同じであれば、着火前では減光係数はコンロの火力に依存せず、着火後はコンロの

-44-

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火力が強いほど減光係数が大きな値になる傾向がある。

図 21(c)を見ると、油量が増えるに従い、着火前の白煙発生量は多くなる。油量が多い

と油面の面積が大きいので白煙発生量が多くなるものと考えられる。着火後については、

油量 1 [ℓ]と 2 [ℓ]の場合で最大発熱速度については差がなかったが、減光係数は油量が増

えるにしたがって減光係数も大きくなるといった傾向が出た。

図 21(d)を見ると、使用済み油はコンロ点火約 6 分後から白煙を発生し、着火前につい

ては新品油よりも煙発生量が多く約 2倍の減光係数になる。一方、着火後については、使

用済み油も新品油も最大減光係数はほぼ同じであった。

(d) ガス濃度(O2,CO2,CO)の経時変化

図 22は、ルームカロリメータで得られたガス濃度(酸素、二酸化炭素、一酸化炭素)の

経時変化を示している。油に着火した時点を 0分としたことに注意されたい。

図 22(a)を見ると、内輪全開、外輪つまみ開度 3/4 及び全開では、着火から 1 分半くら

いで出現する最小酸素濃度は約 19 [%]、最大二酸化炭素濃度は 0.6~0.7 [%]の濃度になっ

た。どちらも発熱速度のピークと一致する。一酸化炭素濃度は、外輪つまみ開度 1/2及び

3/4では、約 90 [ppm]のピークがあるが全体的に測定精度以下 5)の低濃度値であった。

図 22(b)を見ると、外輪全開、内輪つまみ開度 1/2 及び全開では、酸素濃度及び二酸化

炭素濃度について、着火から 1分半くらいでピークを持ち、発熱速度のピークと一致する。

一酸化炭素濃度については、測定精度以下であった。

図 22(c)も同様に、発熱速度のピークと同じ時間に酸素濃度減少のピーク及び二酸化炭

素濃度のピークがある。油量 1 [ℓ]及び 2 [ℓ]の場合、ピーク値は酸素濃度約 19 [%]、二

酸化炭素濃度約 0.65 [%]であった。油量 2 [ℓ]の場合での着火約 4分後に出現した 2つ目

のピークは、食用油が中華鍋からガスコンロ台上に漏洩し燃焼したことによるものであり、

2 つ目のピークが過ぎ、酸素濃度が上昇、二酸化炭素が減少し始める時に、一酸化炭素濃

度のピーク 120 [ppm]が出現した。

(e) 水切り棚温度の経時変化

図 23は、水切り棚における温度の経時変化を示している

図 23(a)を見ると、外輪つまみ全開及びつまみ開度 1/2では、最高温度は約 850 [℃]、

外輪つまみ開度 3/4では、最高温度は約 790 [℃]であった。

図 23(b)を見ると、内輪つまみ全開及びつまみ開度 1/2では、最高温度は約 850 [℃]、

内輪閉鎖の場合、最高温度は約 750 [℃]であった。

図 23(c)を見ると、油量が増えるに従い最高温度も上がり、油量 0.5 [ℓ]で約 750 [℃]、

油量 1 [ℓ]で約 850 [℃]、油量 2 [ℓ]で約 900 [℃]であった。

図 23(d)を見ると、油に着火したと同時にコンロの加熱を停止した場合、最高温度は約

510 [℃]であり、加熱を継続した場合に比べ低温だが、コンロ点火から 23~28分の 5分間

150 [℃]前後の温度を維持しつつける。

-45-

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(f) レンジフード頂部温度の経時変化

図 24は、レンジフード頂部における温度の経時変化を示している

図 24(a)を見ると、外輪つまみ全開では、最高温度は約 500 [℃]、外輪つまみ開度 3/4

では、最高温度は約 300 [℃]、外輪つまみ開度 1/2では、最高温度は約 370 [℃]であった。

図 24(b)を見ると、内輪つまみ全開では、最高温度は約 500 [℃]、内輪つまみ開度 1/2

では、最高温度は約 430 [℃]、内輪つまみ閉鎖では、最高温度は約 260 [℃]であった。

図 24(c)を見ると、油量 0.5 [ℓ]で約 210 [℃]、油量 1 [ℓ]及び 2 [ℓ]で約 500 [℃]であ

った。

図 24(d)を見ると、油に着火したと同時にコンロの加熱を停止した場合、最高温度は約

150 [℃]であった。

全体的に、レンジフード頂部温度は水切り棚の温度よりも低温である。

-46-

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7.4 火炎高さの経時変化

火炎は時間的に高さ方向に揺らぎがあるので、常に火炎が存在する領域である連続火炎

領域の高さ(連続火炎高さ)を火炎高さの指標とした。連続火炎は、火炎からの放射熱の

ほとんどを担っており、連続火炎高さは放射熱源としては連続火炎の形状を代表させる時

に使うことが多い 6)。実験の様子をビデオ撮影した映像から連続火炎高さの測定を行った

(図 25)。

図 25(a)、(b)を見ると、コンロつまみ開度を小さくしていくと連続火炎高さは小さくな

る傾向にある。コンロつまみ外輪及び内輪を全開にした場合、最大連続火炎高さは 160 [cm]

であった。コンロつまみ外輪全開、内輪開度 1/2では 150 [cm]であった。経時変化として

は、発熱速度の経時変化(図 20(a),(b))に酷似している。火炎高さと発熱速度の比例関

係はよく知られているが、中華鍋で加熱した食用油の燃焼時の発熱速度とその連続火炎高

さは経時変化を含め比例関係にあると考えられる。

図 25(c)を見ると、油量の変化に対しても、連続火炎高さと発熱速度に相関があると考

えられる。連続火炎高さは、油量 0.5 [ℓ]では 130 [cm]であり、油量 1 [ℓ]では 160 [cm]

と 30[cm]高くなった。しかし、油量 2 [ℓ]では 150 [cm]であり、油量を増やしても付着火

炎(もしくは浮き上がり火炎)を形成する際に、中華鍋の縁の径で燃焼面積が拘束される

ため、火炎高さは油量を増やしても 160 [cm]より高くならないものと考えられる。

-47-

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(a) 内輪全開、外輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開、内輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

0

50

100

150

200

250

300

350

400

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

時間 [分]

発熱

速度

 [k

W]

1/23/41

0

50

100

150

200

250

300

350

400

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

時間 [分]

発熱

速度

 [k

W]

01/21

図 20 発熱速度の経時変化(油へ着火した時間を 0分とした)(1/2)

-48-

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図 20 発熱速度の経時変化(油へ着火した時間を 0分とした)(2/2)

(c) 油量〔サラダ油(新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

(d) 油着火時のコンロの状態

〔サラダ油(新品)1 [ℓ] 、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

0

50

100

150

200

250

300

350

400

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

時間 [分]

発熱

速度

 [k

W]

コンロ加熱継続油着火とともにコンロ加熱停止

0

50

100

150

200

250

300

350

400

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

時間 [分]

発熱

速度

 [k

W]

0.5 [ℓ]1 [ℓ]2 [ℓ]

-49-

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(a) 内輪全開、外輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開、内輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

時間 [分]

減光

係数

 [1

/m

]

1/41/23/41

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

時間 [分]

減光

係数

 [1

/m

]

01/21

図 21 減光係数の経時変化(1/2)

-50-

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(c) 油量〔サラダ油(新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

(d) 食用油の状態〔サラダ油:1 [ℓ] 、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

時間 [分]

減光

係数

 [1

/m

]

0.5 [ℓ]1 [ℓ]2 [ℓ]

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

時間 [分]

減光

係数

 [1

/m

]

新品使用済み

図 21 減光係数の経時変化(2/2)

-51-

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(a) 内輪全開、外輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

18.0

18.5

19.0

19.5

20.0

20.5

21.0

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

時間 [分]

酸素

濃度

 [%

]

1/23/41

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

時間 [分]

二酸

化炭

素濃

度 

[%]

1/23/41

0

20

40

60

80

100

120

140

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

時間 [分]

一酸

化炭

素濃

度 

[ppm

]

1/23/41

O2

CO2

CO

図 22 ガス濃度の経時変化〔上段:酸素、中段:二酸化炭素、下段:一酸化炭素〕

(油へ着火した時間を 0分とした)(1/3)

-52-

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18.0

18.5

19.0

19.5

20.0

20.5

21.0

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

時間 [分]

酸素

濃度

 [%

]

01/21

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

時間 [分]

二酸

化炭

素濃

度 

[%]

01/21

0

20

40

60

80

100

120

140

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

時間 [分]

一酸

化炭

素濃

度 

[ppm

]

01/21

(b) 外輪全開、内輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

O2

CO2

CO

図 22 ガス濃度の経時変化〔上段:酸素、中段:二酸化炭素、下段:一酸化炭素〕

(油へ着火した時間を 0分とした)(2/3)

-53-

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0

20

40

60

80

100

120

140

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

時間 [分]

一酸

化炭

素濃

度 

[ppm

]

0.5 [ℓ]1 [ℓ]2 [ℓ]

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

時間 [分]

二酸

化炭

素濃

度 

[%]

0.5 [ℓ]1 [ℓ]2 [ℓ]

18.0

18.5

19.0

19.5

20.0

20.5

21.0

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

時間 [分]

酸素

濃度

 [%

]

0.5 [ℓ]1 [ℓ]2 [ℓ]

(c) 油量〔サラダ油(新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

O2

CO2

CO

図 22 ガス濃度の経時変化〔上段:酸素、中段:二酸化炭素、下段:一酸化炭素〕

(油へ着火した時間を 0分とした)(3/3)

-54-

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(a) 内輪全開、外輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開、内輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

時間 [分]

水切

り棚

付近

温度

 [℃

]

1/23/41

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

時間 [分]

水切

り棚

付近

温度

 [℃

]

01/21

図 23 水切り棚における温度の経時変化(1/2)

-55-

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(c) 油量〔サラダ油(新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

(d) 油着火時のコンロの状態

〔サラダ油(新品)1 [ℓ] 、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

時間 [分]

水切

り棚

付近

温度

 [℃

]

0.5 [ℓ]1 [ℓ]2 [ℓ]

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

時間 [分]

水切

り棚

付近

温度

 [℃

]

コンロ加熱継続油着火とともにコンロ加熱停止

図 23 水切り棚における温度の経時変化(2/2)

-56-

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(a) 内輪全開、外輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開、内輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

時間 [分]

レン

ジフ

ード

頂部

温度

 [℃

]

1/23/41

0

100

200

300

400

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0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

時間 [分]

レン

ジフ

ード

頂部

温度

 [℃

]

01/21

図 24 コンロフード頂部における温度の経時変化(1/2)

-57-

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(c) 油量〔サラダ油(新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

(d) 油着火時のコンロの状態

〔サラダ油(新品)1 [ℓ] 、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

0

100

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1000

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

時間 [分]

レン

ジフ

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頂部

温度

 [℃

]

0.5 [ℓ]1 [ℓ]2 [ℓ]

0

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0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

時間 [分]

レン

ジフ

ード

頂部

温度

 [℃

]

コンロ加熱継続油着火とともにコンロ加熱停止

図 24 コンロフード頂部における温度の経時変化(2/2)

-58-

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0

20

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140

160

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0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

時間 [分]

連続

火炎

高さ

 [c

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0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

時間 [分]

連続

火炎

高さ

 [c

m]

0

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0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

時間 [分]

連続

火炎

高さ

 [c

m]

0.5 [ℓ]1 [ℓ]2 [ℓ]

(a) 内輪全開、外輪つまみ開度と火炎高さ〔新品サラダ油 1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開、内輪つまみ開度と火炎高さ〔新品サラダ油 1 [ℓ]〕

(c) サラダ油の油量と火炎高さ〔新品サラダ油、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

図 25 連続火炎高さの経時変化(油着火時間を 0分とした)

-59-

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7.5 食用油燃焼時の吹きこぼれ性状

食用油は温められると粘度が低くなることは調理を行う際に経験しているが、さらに熱

せられると食用油の中の不飽和脂肪酸が酸化され、熱重合を生じてくる。重合が進むと粘

度が高くなり、食用油が沸騰した際に出来る泡が消えにくくなる。それにより覆われた油

面が上昇することから、油量が多い場合やコンロの火力が強い場合には食用油は吹きこぼ

れる。ただし、油量 1 [ℓ]でコンロつまみ外輪及び内輪を全開にした場合の実験を複数回

行ったが、吹きこぼれる場合と吹きこぼれない場合があり、その差を決定づける要因は不

明である。写真 12(a)は、吹きこぼれる直前の写真で、気泡状になった油面がせり上がっ

て中華鍋の縁から盛り上がっている様子が見える。時間経過とともに消泡し油面が下降す

る場合には吹きこぼれは起きないが、油面の上昇が止まらず吹きこぼれる場合には中華鍋

の外側を垂れるように伝って吹きこぼれる(写真 12(b))。吹きこぼれの際、周囲に油が飛

び散るということはなかった。

写真 12 コンロで加熱した中華鍋の食用油が吹きこぼれる様子

(a) 吹きこぼれの直前 (b) 吹きこぼれ

-60-

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7.6 周囲可燃物への延焼可能性

周囲可燃物として火災現場においてレンジフード近傍に設置してあった吊り棚への延焼

可能性について述べる。熱流速計(鉛直下向き方向及び水平方向)で入射熱流束を、熱電

対でその場所の温度を測定した。中華鍋から鉛直方向に立ち上がる火炎の中心軸から水平

方向に 0.75 [m]の離隔距離がある。延焼可能性の判断基準は、着火限界入射熱流束 15

[kW/m2]、着火目安温度 444 [℃]とし 7),8)、両方ともそれ以上を満たすことで着火と判断し

た。ただし、厳密には可燃物の種類、放射率、含水率等の種々の要因が関与し、基準を一

定値として扱えないため、あくまで目安として取り扱う。

図 26は、吊り棚近傍(写真 9)における温度の経時変化を示している。外輪もしくは内

輪のつまみ開度を大きくしていくと(図 26(a),(b))、ピーク温度は高くなるが、外輪及び

内輪つまみを全開にした場合の最高温度で 75 [℃]程度である。また、油量 2 [ℓ]に増やし

た場合(図 26(c))、油量 1 [ℓ]での最高温度 75 [℃]を大きく上回ることはなく、60~70 [℃]

台の温度を約 3 分間維持する。油量 1 [ℓ]で油着火とともにコンロの加熱を停止した場合

は(図 26(d))、ピーク温度は 40 [℃]に到達する程度であった。したがって、一連の実験

において、吊り棚近傍温度を見る限りでは、延焼する可能性はない。

図 27は、吊り棚近傍における鉛直下方向から受ける熱流束の経時変化である。外輪もし

くは内輪のつまみ開度を大きくしていくと(図 27(a),(b))、熱流束のピーク値は高くなる

ことは温度と同じであり、そのピーク値は 3~4 [kW/m2]程度である。油量 2 [ℓ]に増やし

た場合(図 27(c))の熱流束のピーク値は約 5.7 [kW/m2]であり、一連の実験で最高熱流束

(鉛直方向)になるが、延焼するほどの熱流束ではない。油量 1 [ℓ]で油着火とともにコ

ンロの加熱を停止した場合は(図 27(d))、ピークの熱流束は約 1.5 [kW/m2]であった。

図 28は、吊り棚近傍における水平方向から受ける熱流束の経時変化である。外輪及び内

輪つまみを全開にした場合(図 28(a),(b))が最も熱流束が大きくピーク値で約 10.8

[kW/m2]であり、鉛直方向に比べて約 2.7倍の入射熱流束があった。油量 2 [ℓ]に増やした

場合(図 27(c))、油量 1 [ℓ]の場合と同程度で約 11.0 [kW/m2]であるが、油が多く燃焼時

間が長い分、受熱時間は長くなる。油量 1 [ℓ]で油着火とともにコンロの加熱を停止した

場合は(図 27(d))、ピークの熱流束は約 3.0 [kW/m2]であった。

中華鍋から立ち上がった火炎はセンサー類(熱流束計、熱電対)に直接接炎することは

なく、主に放射熱の影響を受けた。以上の結果を踏まえ、中華鍋から立ち上がった火炎で

は、放射熱だけで吊り棚に延焼することは不可能であると考える。

-61-

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図 26 吊り棚近傍における温度の経時変化(油へ着火した時間を 0分とした)(1/2)

(a) 内輪全開、外輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開、内輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

0

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時間 [分]

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(c) 油量〔サラダ油(新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

(d) 油着火時のコンロの状態

〔サラダ油(新品)1 [ℓ] 、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

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時間 [分]

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コンロ加熱継続油着火とともにコンロ加熱停止

図 26 吊り棚近傍における温度の経時変化(油へ着火した時間を 0分とした)(2/2)

-63-

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(a) 内輪全開、外輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開、内輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

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鉛直

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図 27 吊り棚近傍における鉛直方向熱流束の経時変化

(油へ着火した時間を 0分とした)(1/2)

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(c) 油量〔サラダ油(新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

(d) 油着火時のコンロの状態

〔サラダ油(新品)1 [ℓ] 、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

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コンロ加熱継続油着火とともにコンロ加熱停止

図 27 吊り棚近傍における鉛直方向熱流束の経時変化

(油へ着火した時間を 0分とした)(2/2)

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(a) 内輪全開、外輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

(b) 外輪全開、内輪つまみ開度を変化〔サラダ油(新品)、油量:1 [ℓ]〕

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図 28 吊り棚近傍における水平方向熱流束の経時変化

(油へ着火した時間を 0分とした)(1/2)

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(c) 油量〔サラダ油(新品)、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

(d) 油着火時のコンロの状態

〔サラダ油(新品)1 [ℓ] 、コンロつまみ外輪及び内輪:全開〕

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コンロ加熱継続油着火とともにコンロ加熱停止

図 28 吊り棚近傍における水平方向熱流束の経時変化

(油へ着火した時間を 0分とした)(2/2)

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8.まとめ

天ぷら油火災が発生した際の燃焼性状、周囲に与える影響について不明な点が多く、ル

ームカロリメータ試験室における実験室レベルでの燃焼実験を通してそれらを調べた。以

下、そのまとめである。

(1) 燃研式自動ボンベ熱量計を用いて、サラダ油の燃焼熱を計測した。高位発熱量 39.9

[kJ/g]及び低位発熱量 37.3 [kJ/g]である。

(2) コンロの外輪のみ点火すると中華鍋を外周から加熱し、内輪のみ点火すると中央から

加熱する。

(3) 油への着火は、中華鍋に沿って上昇した熱気流に起因するものではなく、中華鍋から

伝熱により油を加熱し、油が着火温度に到達したために生じるものである。

(4) 中華鍋をコンロで加熱し続けた場合、油面から立ち上がった火炎は、しだいに付着火

炎に移行し、さらに浮き上がり火炎に成長する(メタノール型火炎から n-ヘプタン型

火炎への移行)。

(5) 新品のサラダ油 1 [ℓ]、コンロの外輪全開、内輪つまみ 1/2もしくは内輪全開の場合、

コンロ点火から約 8分で白煙が発生する。コンロのつまみ開度にかかわらず、白煙発生

時の油温度は 250~260 [℃]である。コンロ点火からおよそ 18~19分で油に着火する。

着火時の油温度は 370~380 [℃]である。中華鍋に入れた油が燃焼したことによる発熱

速度は約 300 [kW]前後である。最大連続火炎高さは 150~160 [cm]である。油量を 2 [ℓ]

にしても変わらないが、0.5 [ℓ]では 130 [cm]と低くなる。

(6) 使用済みのサラダ油 1 [ℓ]、コンロの外輪全開、内輪全開の場合、コンロ点火から約

6 分で白煙が発生する。白煙発生時の油温度は 213 [℃]である。コンロ点火から約 17

分で油に着火する。着火時の油温度は、新品の場合と変わらない。

-68-

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参考文献

1)Drysdale, D.: An Introduction to Fire Dynamics, JOHN WILEY & SONS, (1998) , p.19.

2)日本油脂検査協会:食用植物油脂の参考データ集, http://www.oil-kensa.or.jp/,

(2005).

3)水本光浩, 井村英昭:“てんぷら油の着火に関する実験的研究”, 平成 9年度日本火災

学会研究発表会概要集, (1997), pp.398-401.

4)青柳恵子:“ガス機器の火災防止対策”, 平成 19年度日本火災学会講演討論会テキス

ト「製品設計と火災の実態」, (2008), pp.25-33.

5)篠原雅彦, 箭内英治, 山田常圭, 飯田明彦, 畑野崇:"ルームカロリーメーターによる

地下鉄車両の座席燃焼実験", 消防研究所報告, 第 98号, (2004), pp.74-83.

6)日本火災学会:火災と建築, 共立出版, (2002), pp.80-85.

7)長谷川益夫, 唐沢了:“国産広葉樹の ISO着火試験”, 木材と技術, No.56, (1984).

8)田中哮義:改訂版 建築火災安全工学入門, 日本建築センター, (2002), pp.298-301.

※ 本研究の基礎データを活用し、消防研究センターにおいて実大火災実験を実施している。

以下の文献も参考にされたい。

田村裕之, 阿部伸之: "天ぷら油火災の延焼挙動に関する実験", 日本火災学会誌「火

災」, 58(6), (2008), pp.39-44.

田村裕之, 阿部伸之, 矢内良直, 笠原孝一, 北島良保, 齋藤忠男, 藤原正人, 箭内英

治, 若月薫, 鴻田秀雄, 松島早苗, 山田常圭: "てんぷら油火災の延焼拡大に関する実

験的考察", 平成 20年度日本火災学会研究発表会概要集, (2008), pp.238-239.

山田常圭, 阿部伸之, 若月薫, 松島早苗, 田村裕之, 矢内良直, 北島良保: "てんぷら

油火災の延焼拡大に関する実験的考察", 2008年度日本建築学会大会(中国)学術講演

会, (2008), pp.33-34.

-69-

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消防研究技術資料第 81号

中華鍋に入れた食用油の加熱・着火・燃焼性状

に関する天ぷら油火災実験報告書

平成 22年 1月

総務省消防庁消防大学校 消防研究センター

東京都調布市深大寺東町 4丁目 35番 3号(〒182-8508)

電 話 (0422)44-8331㈹

FAX (0422)42-7719

印刷所 株式会社 三 州 社

ISBN 978-4-88391-089-2

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消防研究技術資料一覧 号数 題 名 年月日

1 武蔵野台地における地表水および地下水の測水資料 S43.12

2 武蔵野吉祥寺における揚水実験資料 S44.12

3 武蔵野台地における帯水槽の性状に関する調査資料 S45.12

4 地震時における少量危険薬品の出火危険とその対策 S48. 3

5 大震火災の延焼性状に関する研究野外火災実験 概要報告 S48.10

6 市街地火災の延焼性状等に関する研究 旧松尾鉱山廃屋火災実験報告書 S50. 7

7 四日市市大協石油タンク火災原因調査報告書 S50.10

8 石油タンク消火実験結果報告書 S51. 3

9 呉市山林火災現場付近の小気候 S52. 3

10 主要繊維・プラスチックの燃焼・熱分解時の重量減少と発生ガス S52. 3

11 酒田市大火の延焼状況等に関する調査報告書 S52.10

12 炭化水素系燃料による可燃性蒸気雲の爆発特性に関する研究

-ファイヤーボールに関する実験- S53.10

13 震害分布と表層地盤の関係に関する調査資料 -関東地域- S55.1

14 日本海中部地震による危険物施設の挙動に関する調査報告書 S59. 1

15 水幕と樹木の併用による延焼防止向上効果に関する研究報告書 S60. 3

16 石油タンクの底板・アニュラー板の裏面腐食に関する研究

-厚さ分布と腐食量について- S61. 2

17 円筒貯槽のスロッシングに関する研究報告書 S61. 3

18 修復石油タンクの水貼り試験時 AE 特性 S61. 3

19 簡易型火災警報器の非火災報に関する調査・研究 S61. 3

20 火源の輪郭抽出 S62. 3

21 林野火災の飛火延焼に関する研究 S63. 3

22 パソコンを用いた林野火災の拡大予測に関する研究 H2. 3

23 早期津波予測システムに関する資料 H3. 3

24 火災規模の防炎効果に及ぼす影響に関する研究 H3. 3

25 火災性状把握システムに関する研究 その 1

-非火災報データベースに関する共同研究報告書 H3. 3

26 火災性状把握システムに関する研究 その 2

-火災性状把握システムの試作に関する共同研究報告書 H3. 3

27 防炎物品等を含む火災における発生ガスの毒性に関する研究 H5. 3

28 火災性状把握システムに関する研究(2 次) 実用化をめざしたシステムの改良に

関する共同研究報告書 H5. 3

29 地下利用の特殊空間内における火災性状に関する研究報告書 H6. 3

30 大火源燃焼試験方法によるカーテンの燃焼性評価に関する研究報告書 H7. 3

31 阪神・淡路大震災における石油タンクの座屈強度に関する調査研究報告書 H8. 3

32 ISO 6941 による収縮性、溶融性繊維の燃焼性評価に関する研究報告書 H8. 3

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消防研究技術資料一覧(つづき) 号数 題 名 年月日

33 平成 5 年 8 月 6 日鹿児島豪雨災害時における鹿児島市民の災害時の行動に関する調

査報告書 H8. 3

34 火災性状把握避難誘導システムに関する研究(その 1 試作システムの概要) H8. 3

35 火災性状把握避難誘導システムに関する研究(その 2 試作システムのソフトリフ

ト) H8. 3

36 地下施設における火災の特性に関する研究報告書

その 1 地下施設の利用状況に関する調査研究

その2 深層地下駐車場模型内における機械排煙時の煙流動特性に関する実験的研究

H9. 3

37 コーンカロリメーターによる防炎材料の燃焼性状に関する研究報告書 H9. 3

38 地下施設における火災の特性に関する研究報告書

その3 深層地下駐車場模型内における無排煙状況下の火災特性に関する実験的研究 H9. 3

39 少量水による延焼阻止技術の開発に関する研究報告書 H9.12

40 被害情報の早期収集システムに関する研究 H10. 3

41 照明灯による舞台幕の着火・燃焼性状に関する実験的研究報告書 H10. 3

42 市街地火災時の空中消火による延焼阻止効果に関する研究報告書 H10. 3

43 実大規模でのカーテン類の燃焼性状に関する実験的研究報告書 H11. 3

44 大震火災時における地域防災活動拠点の安全性確保に関する研究報告書 H11. 3

45 市街地火災時における空中消火の延焼阻止効果に関する研究報告書 H11. 3

46 大規模石油タンクの燃焼に関する研究報告書 H11. 9

47 プラスチックパレットの難燃化とその燃焼性に関する研究報告書 H12. 3

48 市街地火災時の空中消火による火災抑止効果に関する研究報告書 H12. 3

49 文化財建造物等の防炎対策に関する研究報告書(その 1) H12. 3

50 地下施設における消防活動のための加圧防排煙実験

その1 中型基本地下模型を用いた加圧防排煙実験 H13. 3

51 地下施設における消防活動のための加圧防排煙実験

その 2 小型基本地下模型を用いた加圧防排煙実験 H13. 3

52 AE 法による石油タンク底部の腐食モニタリング技術に関する共同研究報告書 H13. 8

53 文化財建造物等の防炎対策に関する研究報告書(その 2) H13. 9

54 煙量を減少させる添加剤を含む可燃性液体の燃焼性状に関する研究報告書 H14. 2

55 AE 法による工水タンク底部の腐食および漏洩のモニタリング技術に関する共同研

究報告書 H14. 3

56 水による固体可燃物火災の消火と延焼阻止の機構に関する研究報告書 H14.10

57 実大規模燃焼実験による難燃杉材の燃焼性状に関する研究報告書 H14.10

58 動物性飼料の自然発火に関する研究報告書 H15.3

59 ウォーターミストの消火機構と有効な適用方法に関する研究報告書 分冊 1 H15.3

60 ウォーターミストの消火機構と有効な適用方法に関する研究報告書 分冊 2

-小中規模閉空間におけるウォーターミストの消火性能- H15.3

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消防研究技術資料一覧(つづき) 号数 題 名 年月日

61 ヒドロキシルアミン及びその塩類の危険物性に関する研究報告書 H15.11

62 消防用防火服の耐熱性能の評価に関する研究報告書 H16.1

63 林野火災の発生危険度と拡大を予測するシステムの開発に関する研究報告書 H16.3

64 消防用防火服の快適性能、機能性能の評価に関する研究報告書 H16.6

65 AE法による石油タンク底部の腐食劣化評価に関する共同研究

-平成 15 年度共同研究報告書- H16.6

66 地下鉄火災における駅構内の煙流動シミュレーションに関する研究報告書

-韓国大邱市の地下鉄中央駅の場合- H17.3

67 救急対応の実情に関する調査報告書-救急対応に関するアンケート調査結果- H17.3

68 消防用防火服の総合的な評価手法に関する研究報告書 H17.7

69 平成 16 年(2004 年)新潟県中越地震被害および消防活動に関する調査報告書 H17.9

70 斜面崩壊現場の二次崩壊危険度予測手法に関する研究報告書 H18.3

71 RDF 火災に関する調査研究報告書(平成 15 年度) H18.3

72 一般住宅における初期火災時の燃焼特性に関する研究報告書

-住宅火災による死者低減に役立つ感知特性を探る- H18.3

73 石油タンク火災の安全確保に関する研究報告書

-石油タンク火災に使用される泡消火剤の消火特性- H18.3

74 災害弱者の火災時避難安全のための警報・通報手法の開発 H18.3

75 AE 法による石油タンク底部の腐食劣化評価に関する共同研究

-平成 16・17 年度共同研究報告書- H18.3

76 新燃料自動車に求められる消火設備の能力に関する研究報告書 H19.3

77 RDF 爆発・火災に関する研究報告書(その 1) H19.9

78 RDF 爆発・火災に関する研究報告書(その 2) H19.9

79 再生資源燃料等の危険性評価に関する研究報告書 H19.3

80 2007 年能登半島地震、2007 年新潟県中越沖地震時の消防活動に関する調査報告書 H20.3

81 中華鍋に入れた食用油の加熱・着火・燃焼性状に関する天ぷら油火災実験報告書 H22.1