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京都⼤学⼤学院情報学研究科社会情報学専攻松原繁夫
1/21Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved.
1. ケースとは2. ケースの事例3. ケーススタディ・ケースメソッドの対象4. ケーススタディ・ケースメソッドの設計5. ケースライティングの実施6. ケースの利⽤7. フィールド情報学におけるケース
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⽅法論として 対象として:⼈々が⽇常的に活動する場
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フィールドの定義(⽚井):「分析的、⼯学的アプローチが困難で、統制できず、多様なものが共存並⽴し、予測できない偶発的な出来事が⽣起し、常に関与することが求められる場」
記述
予測
設計
伝達
オフィス
教育現場
会議
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研究者から研究者 研究者からフィールドでの実践家
意義 「巨⼈の肩に⽴つ」現代の学問は多くの研究の蓄積の上に成り⽴つ
例えば、経営の場合• 経営学者:マーケティングや会計学などの体系を提⽰
• 経営者:経営学を援⽤して⼈事管理・資⾦調達などの経営判断
伝達の⼿段 論⽂ 講義課題 フィールドでの実践から
得られた知識に関しては、有効性の主張が困難な場合もある
単に情報として知っているだけでなく、活⽤できる知識として⾝に付けることが必要
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ある固有の状況下で実際に起こっている具体的な出来事を記述したもの現象と⽂脈の分離が明確でない対象に関する、何らかの知識を伝達する⽅法論Q:ブログやSNSの記事はケースになるか?
A:通常はNO.ケースと呼ぶには、執筆者が持つ、研究や教育という明確な⽬的が存在するはず
ケースの分類学術的知識の伝達(研究⽤):ケーススタディ実践的知識の伝達(教育⽤):ケースメソッド
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•様々な研究⽅法論(サーベイ調査、被験者実験、シミュレーションなど)の⼀つ
•社会科学では主要な研究戦略•具体的事例を詳しく調査・分析して仮説検証を⾏い、そこから⼀般的な真実を導き出す
ケーススタディ
• Harvard Business Schoolのケースが有名•他に、法律(判例)、医療(症例)の分野•要因が複雑に絡み合い、理論をそのまま実践することが困難な対象に対して、実践的な知識を学習者⾃ら学び取る
•ケースに書かれた具体的事例を追体験
ケースメソッド
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• ある課題に対する仮説検証に⽤いられる• 事象の完全・正確な描写が求められる• 必ず著者による結論が含まれる
研究⽬的:ケーススタディの成果物
• 議論の誘発装置として機能• 事象の完全・正確な記述よりは、学習者の議論が活性化するかどうかに主眼が置かれる
• 著者による結論は必須でない
教育⽬的:ケースメソッドで⽤いる事例
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経理システムバージョンアップ⼩島はA通信⼯業のハードウェア開発部総務補佐の職に就いていた。
⼩島のところに本社経理部⾨から、稼働管理システム運⽤開始説明会への出席を依頼するメールが届いていた。⾦融庁企業会計審議会からソフトウェアに関する意⾒書(平成10年)及び
実務指針(平成12年)が発表され、これまで明確でなかったソフトウェアの会計処理が設定され、税法の改正もなされた。(中略)本社経理部⾨は、これに対応するため、ソフト開発者の稼働時間集計システムを開発し、その運⽤を開始することにした。社内経理システムの機能改善に関する説明会は時折開催されていた。この⼿
の説明会では、通り⼀遍の説明に終わることが多く、⼩島にとってはあまり気乗りしないものであった。A通信⼯業では、ハードやソフトなど開発部署がいくつかのロケーションに分散しており、出張費削減のためもあって、たいていは本社に出向くことはなくテレビ会議で説明会に参加することになっている。(以下略)
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何を知りたいか? 対象の制御誰が 何を どこで どれほ
どどのように
なぜ
サーベイ調査
不要
被験者実験
必要
シミュレーション
必要
ケーススタディ
不要
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ケーススタディ
ケースメソッド講義:専⾨知識の伝達ケースメソッド:実践⼒の伝達(洞察⼒や統合⼒など、体系化・⽂字化が難しいものを伝達)
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対象制御の有無ケーススタディ:なし被験者実験:あり(実験群と統制群の⽐較)シミュレーション:あり(パラメータの変更)
対象を制御するには、現象が⽂脈から切り離せていることが必要つまり、要因が複雑に関連して、現象と⽂脈、主体と環境をうまく切り離せないとき、ケーススタディが有⼒
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ケーススタディは現象と⽂脈の境界が明確でないときに優位
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良い論⽂を書くには?単に章・節の構成や⽂の表現の⼯夫に留まらず、結局、いかに良いテーマを選択するかにたどりつく
同様に、良いケースを書くには、結局良いテーマを選択する問題に帰着される問題意識を明確にせず材料集めをすると、とりあえず何でも収集しておこうという態度になって、結局集めた膨⼤な資料が整理できず、有効に利⽤できなくなるあるいは、議論を構成するのに必要な資料が抜け落ちる
よって、事前に問題意識を明確にして、作業の全体を⾒渡しておくことが必要
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解くべき問題の明確化
分析単位の明確化
仮説とデータの結びつきの明確化
証拠の収集 証拠の分析 草稿の執筆
関係者によるレビュー
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理論的サンプリング(分析的⼀般化)
• ケーススタディ• 同じ理論を⽀持するようなケースを選択
• 同じ理論が⽀持されることをもって、理論が⼀般化されると考える
確率的サンプリング(統計的⼀般化)
• サーベイ調査・被験者実験• 無作為に対象を選択• 統計処理を⾏うことで、偶然⽣じた結果かどうかを判別
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あらかじめ想定した⾒解を無理に導くようにバイアスをかけてはならない想定と異なる情報が得られた場合は、研究の失敗ではなく、新たな発⾒につながるチャンスバイアスをかけないための⽅策(再現性の保証)プロトコルの整備証拠収集⼿段だけでなく、⼿段を⽤いる際に従うべき⼿続きと⼀般規則を含める
データベースの整備証拠資料へのアクセスを容易にする
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•⽂書:⼿紙、メモ、議事録など•資料記録:組織図、地図、国勢調査の記録など•⾯接•直接観察•参与観察:観察者は単なる受⾝の存在ではなく、様々な役割を担って参加する
•物理的⼈⼯物:技術機器、道具など
証拠の収集源
•複数の証拠源:三⾓測量が複数の基準点から側点の位置を正確に計測し得るように、⽂書、資料記録、⾯接、直接観察、参与観察、物理的⼈⼯物など複数の情報源を組み合わせることで事実の論証を可能にする
•証拠の連鎖の維持
証拠収集の原則
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• ⾝元を明らかにすることが望ましい• 読者が関連するケースを想起しやすい• 批判する場合も、適切な反証を提⽰しやすい
• 関係者が損害を被る恐れがある場合は、匿名とせざるを得ない
匿名性
• 詳細なレビューは正確性を向上させるが、公表までに時間を要することになる
関係者によるレビュー
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⽬的にあった教育主題を持っているか?
話の展開が優れているか?(読みやすく興味をひくか?)
学習者に問題提起していて、学習者はそれが容易に認識できるか?
学習者⾃⾝が分析・考察することができる内容であるか?
学習者が意思決定者になりきることができる内容であるか?
議論をかもしだす内容であるか?
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I. 全体を予感させる数⾏のリード⽂
II. 意思決定に⾄る時系列項⽬、ならびに、詳述すべき主要項⽬
III. 意思決定の問題
ケース本体
IV. 付表候補群付属資料
2004年の冬、A通信⼯業ではテレビ会議を⽤いて、経理システムバージョンアップの説明会が開催されていた。A通信⼯業はルーターやスイッチなどの
通信機器のトップメーカーである。従業員数も1000名を超え、社内の情報システムの整備も課題となっていた。平成10年と12年に⾦融庁企業会計審議
会から⽰されたソフトウェアに関する会計処理の実施指針に応じた税法の改正があり、経理部⾨はそれに対応するために、経理システムに新たな機能を追加した。このようなシステムの変更がうまく機
能するかどうかは、ソフトウェアの品質だけでなく、それを使う側の意識に⼤きく依存する。⼩島はA通信⼯業のハードウェア開発部
総務補佐の職に就いていた。
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• 新たな知⾒の獲得• 研究者と実践家を媒介するコミュニケーション⼿段• 意思決定能⼒の養成• 体験の共有による⼈的関係の強化
ケース利⽤の効⽤
• ⾃⼰の問題解決に役⽴つケースを⾒つけることが難しい• 具体的事例が書かれているため、あるケースを読んだからといって、別のケースの理解が容易になるとは限らない
伝達⼿段としての問題
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•情報システム設計に適⽤し、理論と実践のギャップを埋める
•技術経営(MOT)の教育
適⽤領域の拡⼤
•ネットワーク社会におけるインセンティブの問題
情報の⾮対称性に着⽬
•ケースメソッドにおける受講者数の制限の緩和
遠隔講義システムなどIT機器の導⼊
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ケーススタディ・ケースメソッドにおいて
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伝達の意義ケースの分類
研究⽤ケース(ケーススタディ)と教育⽤ケース(ケースメソッド)ケーススタディ・ケースメソッドがの対象
現象と⽂脈の境界が明確でないときケーススタディ・ケースメソッドの設計
問題意識の明確化が重要ケースライティングの実施
プロトコルとデータベースの整備により再現性を保証ケースの利⽤
研究者と実践家を媒介するコミュニケーション⼿段としても有⽤フィールド情報学におけるケース
(ケース→情報学)情報システム設計への応⽤(情報学→ケース)証拠収集段階、あるいは、ケースメソッド実施時のIT機器の利⽤
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