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耳 鼻 臨 床84:11;1575~1581, 1991 1575 体外衝撃波結石破砕術による唾石の治療経験 Extracorporeal Shock Wave Lithotripsy of a Salivary Gland Stone Shigenori Matsubara (ChunoHospital) Extracorporeal shock wave lithotripsy (ESWL) using an LT-01 was performed in a 26- year-old female with sialolithiasis of the left submandibular gland. She was placed in prone position with cervical extension. ESWL was performed for 40 minutes without anesthesia at shock wave discharge frequency of 1.25Hz. The salivary stone was totally fragmented during the first lithotripsy procedure, and nopostoperative complications were observed. ESWL is a new method of fragmenting salivary stones which may be indicated for stones in the submandibular gland and transitional zone and in some stones in the duct up to about 10mm or less from the transitional zone. Key words:ESWL, salivary gland stones, indication, complications は じめ に 体 外 衝 撃 波 結 石 破 砕 術(extracorporeal shock wave lithotripsy;ESWL)は, 1980年Chaussy ら1)によ り尿路 結石 に対 す る臨床 応用 が最初 に開 さ れ, 今 日上 部 尿 路 結 石 に 対 す る 治 療 の して して る. ま た, 胆 石 症 に 対 し て は1986年Sauerbruchら2)に り本法による胆石破砕の報告が最初になされて い る. 一方 , ESWLの 唾石に対する臨床経験は 1989年Iroら3)に より耳下腺唾石の成功例が報 告 され て い る. は, 26歳女 性の左顎下腺移行部唾石 しESWLを し, 1回 の照射により 唾石 消失 を見 た. 何 の麻 酔, 鎮 痛剤を必要 しな っ た. ま た, 合 併 症 を 認 め な か っ た. まで唾 治療 は, 手 術的治療がほと ど唯一 の根 治的治 療法 であ っ た. ESWLは 非観血的な画期的治療法であ り,本法の出現は 唾石症の治療体系を大きく変える可能性がある. 本症例 の経過 の概要を述べ, 唾石症の治療 対 す るESWLの 適 応 につ い て考 察 す る. 症 例:26歳, 女性, 主訴:左 頸部腫脹, 食事 の際 の疹 痛. 既 往 歴:16歳時 よ りネ フ ロー ゼ症 候 群 が あ り, 初診 時腎機能 障害 は認 めないが, 一血尿, 蛋 白尿 を認 め る.20歳時,大腿骨骨頭壊死 にて入院. 現 病歴:1990年6月, 左顎下部腫脹に気付い た.抗 生物 質にて縮 した. 8月10日, 再び同 部 腫 脹 と疹 痛 あ り,特 に食 事 の際 に増 悪 した. 8月11日, 近医耳鼻科受診, 唾石症が疑われ, 8月21日, 手術 目的で当科受診 した. 初 診 時 所 見:左 顎 下 部 の腫 脹 を認 め た. 左 ワ 中濃 病院耳鼻咽喉科

体外衝撃波結石破砕術による唾石の治療経験 松原茂規 · 2018. 12. 30. · ESWL was performed for 40 minutes without anesthesia at shock wave discharge frequency

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Page 1: 体外衝撃波結石破砕術による唾石の治療経験 松原茂規 · 2018. 12. 30. · ESWL was performed for 40 minutes without anesthesia at shock wave discharge frequency

耳 鼻 臨 床84:11;1575~1581, 1991 1575

体外衝撃波結石破砕術による唾石の治療経験

松 原 茂 規

Extracorporeal Shock Wave Lithotripsy of a Salivary Gland Stone

Shigenori Matsubara

(Chuno Hospital)

Extracorporeal shock wave lithotripsy (ESWL) using an LT-01 was performed in a 26-

year-old female with sialolithiasis of the left submandibular gland. She was placed in proneposition with cervical extension. ESWL was performed for 40 minutes without anesthesiaat shock wave discharge frequency of 1.25Hz. The salivary stone was totally fragmentedduring the first lithotripsy procedure, and nopostoperative complications were observed.

ESWL is a new method of fragmenting salivary stones which may be indicated forstones in the submandibular gland and transitional zone and in some stones in the duct upto about 10mm or less from the transitional zone.

Key words:ESWL, salivary gland stones, indication, complications

は じめ に

体 外 衝 撃 波 結 石破 砕 術(extracorporeal shock

wave lithotripsy;ESWL)は, 1980年Chaussy

ら1)に よ り尿 路 結 石 に 対 す る 臨 床 応 用 が 最 初

に開 始 され, 今 日上 部 尿 路 結 石 に対 す る治療 の

第 一 選 択 と して 世 界 的 に 普 及 して い る. また,

胆 石 症 に対 して は1986年Sauerbruchら2)に よ

り本 法 に よ る胆 石 破 砕 の報 告 が 最 初 に な され て

い る.

一 方, ESWLの 唾 石 に 対 す る 臨 床 経 験 は

1989年Iroら3)に よ り耳 下 腺 唾 石 の 成 功 例 が 報

告 され て い る.

わ れ わ れ は, 26歳 女 性 の左 顎 下 腺 移 行 部 唾 石

症 に 対 しESWLを 施 行 し, 1回 の 照 射 に よ り

唾石 の 消失 を見 た. 何 ら の麻 酔, 鎮 痛 剤 を 必 要

と しな か った. ま た, 合 併 症 を 認 め なか った.

今 日 まで唾 石 症 の 治療 は, 手 術 的 治 療 が ほ と

んど唯一の根治的治療法であった. ESWLは

非観血的な画期的治療法であ り, 本法の出現は

唾石症の治療体系を大きく変える可能性がある.

本症例の経過 の概要を述べ, 唾石症の治療に

対するESWLの 適応について考察する.

症 例

症例:26歳, 女性,

主訴:左 頸部腫脹, 食事の際の疹痛.

既往歴:16歳 時 よりネフローゼ症候群があ り,

初診時腎機能障害は認めないが, 一血尿, 蛋白尿

を認める. 20歳時, 大腿骨骨頭壊死にて入院.

現病歴:1990年6月, 左顎下部腫脹に気付い

た.抗 生物質にて縮小した. 8月10日, 再び同

部腫脹と疹痛あ り, 特に食事の際に増悪 した.

8月11日, 近医耳鼻科受診, 唾石症が疑われ,

8月21日, 手術目的で当科受診 した.

初診時所見:左 顎下部の腫脹を認めた. 左 ワ

中濃病院耳鼻咽喉科

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1576 松 原 茂 規 耳鼻臨床84:11

ル トン氏 管 開 口部 よ り少 量 の膿 汁 の排 出 が あ っ

た. 双 手 診 に て 左顎 下腺 移行 部 に 唾石 を触 れ,

圧 痛 を 認 め た. 単純X線 写 真 に て, 唾 石 を認 め

た(図1). CT検 査 に て 左顎 下腺 移 行 部 に10×8

mm, CT値441の 唾 石 を 認 め た(図2). 血 中

Ca, P共 に 正 常 範 囲 内 で あ っ た. 手 術 を 勧 め

た が, 本 人, 両 親 共 に で きれ ば手 術 を した くな

い とい う返 事 で あ った た め, 保 存 的 治 療 に よ り

経 過 観 察 と した.

図1 単純X線 写真

唾石を認め る(⇒).

図2 初診時CT像

左顎下腺移行部に唾石を認め る.

経 過:同 年11月5日, 頸 部 腫 脹 が あ り, 抗 生

物 質 内服 に て1週 間 で 軽 快 した, 12月, 当 院 に

体 外 衝 撃 波 結 石 破 砕 装 置, EDAP社 製LT-01

図3 破砕術前 の超音波断層像

唾石 とそれ に伴 う音響陰影を認め る.

図4 装置全体 の写真

図5 破砕術 中の写真

患者を腹臥位 かつ後 屈位 として左頸部が ヘ ッ ドに

接す るようにする.

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耳 鼻 臨 床84:11 ESWLに よ る唾 石 の治 療 1577

が導入された. 本人に本装置による唾石症の治

療の概要を説明し, 本人の同意を得た. 1991年

1月30日, 体外衝撃波結石破砕術を施行 した.

施行時にはワル トン氏管よ りの膿の排出, 頸部

腫脹は認めなかった. 破砕術前の超音波検査で

唾石を認めた(図3). 装置全体の写真を図4に,

術中の体位を図5に 示す. ヘ ッドを膨らませた

状態で超音波用ゼ リーを塗 り, 患者を腹臥位か

つ後屈位として左頸部がヘ ッドに接するように

した. 無麻酔にて行った. 鎮痛剤は必要 としな

かった. 衝撃波発射頻度は1.25Hz, 照射時間

は40分 間行った. 図6に 破砕術中の超音波像を

示す. モニター上に標示 される衝撃波の焦点に

唾石が位置するようにヘ ッドを移動 させる. 時

間経過と共に, 唾石の辺縁が不明瞭にな り, 音

響陰影が拡大 しているのが分かる. 破砕術後の

図7 破砕術後 のCT像

唾石 は消失 している.

図6 破砕術中の超 音波像

1. 唾石(⇒)を 捉 える.

2. モニ ター上に標示 され る衝撃波 の焦点に唾石(⇒)が 位 置す る よ うにヘ ッ ドを移動

させ る.

3. 20分 間照射後. 唾石の辺縁が不明瞭にな り音響 陰影が拡 大 している.

4. 30分 間照射後. 唾石は さらに不明瞭にな っている.

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1578 松 原 茂 規 耳鼻臨床84:11

CT検 査で唾石の消失を認めた(図7). 左第V,

W, XII脳神経麻痺, 高ア ミラーゼ血症を認め

なかった. 破砕術後, 超音波検査で経過をみて

いるが, 5ヵ 月を経過 した現在, 再発を認めて

いない.

考 察

1. ESWLの 原理, 装置

ESWLは 体外で発生 させた衝撃波を体内の

結石に収束させ結石を破砕する, 非観血的結石

治療法である4). 衝撃波は急速な立ち上が りと

緩やかな減衰からなる単一波 として伝播する.

人体の軟部組織は水分を多量に含み, 水 と音響

インピーダンスが近い. 水中で発生させた衝撃

波は水を媒体として体内に伝播する. 衝撃波を

体内の結石に収束 させると, 結石 とそれをとり

まく液体とのインピーダンスの差により結石が

破砕される5).

衝撃波発生方式には機種により水中放電方式,

圧電方式, 電磁振動膜方式などがある. また結

石位置同定にX線 を用いる機種と超音波を用い

る機種, その両方を用いる機種がある. 開発当

初の機種は全身麻酔あるいは硬膜外麻酔を必要

としたものであったが, 最近の機種は改良され

麻 酔 を必要 と しない. わ れわ れ の用 いた

EDAP社LT-01は 圧電方式で結石位置同定は

超音波で行 う. 麻酔の必要がなく被曝の危険性

がない.

2. ESWLの 唾石への適応

本症例は左顎下腺移行部唾石で大きさは10

×8mm, CT値441で あった.

1989年, Iroら3)はESWLに よ り12mmの

左耳下腺唾石の治療に成功 した. これが最初の

唾石での成功例である. 彼は急性炎症がおさま

ってからESWLを 行った. 治療後の顔面神経

麻痺は認めなかった. 1990年Iroら6)は14名 の

唾石症(6名 の耳下腺, 8名 の顎下腺)に対 して

ESWLを 施行 し, すべての症例が1回 の治療

で唾石の粉砕をみた. 合併症を認めなかった.

どち らの報 告 も装 置 はWolf社 製Piezolith

2300を 用いた. この装置もLT-01と 同様圧電

方式で, 唾石位置同定は超音波で行い麻酔は必

要 としない.

現在, 尿路結石に対 しESWLは80%以 上の

適応症例があ り7), 胆石に対 しては15~20%の

適応症例がある8). 胆石については大 きさ, 個

数, X線 透過性, 胆嚢収縮能で基準をつ くり有

効率を高めた報告がある9). ESWLの 唾石への

適応につき, 尿路結石, 胆石 と比較 し, 成分,

部位, 大 きさ, 数, X線 検査, 超音波検査,

CT検 査につき検討 した. また合併症について

も考察した.

1) 成 分

唾石の成分は一般に無機質と少量の有機物 よ

り構成されてお り, その主なものは燐酸カルシ

ウムのhydroxy-apatiteで ある10). また, 唾石

の主成分はCa, Pで 微量元素ではSi, S, Na

が若干認められ, 腎石ではCa, Oが 主成分を

占めPは 少量存在, Si, sが 微量に認められ,

胆石ではCa, Oが 大半を占めPが 少量, Si,

Sが 微量に認められる11).

尿路結石ではシスチン結石やカルシウム結石

の一部の結石は硬すぎて衝撃波では破砕困難で

あるが, これらの成分の石はまれである12). ほ

ぼ純粋な蓚酸 カルシウム, シスチン結石は衝撃

波の照射回数が多 く必要である13). 尿路結石,

胆石では主成分が何であるかをCT値 で推定で

きる14)15). 胆石では超音波像のパターンより胆

石の種類が予想できる16). また胆石の中で黒色

石は破砕効果が悪い17).

唾石の成分により破砕されやすさが異なるか

どうかは今後の課題である.

2) 部 位

唾石の発生部位は管内唾石が最も多 く, 腺内,

移行部の順である18).

尿管結石では腎臓結石に比べ結石サイズが同一であってもより多 くの衝撃波照射を要する.

これは体外衝撃波による結石破砕の機序が結石

表面 とそれを取 り巻 く液体である尿 との音響イ

ンピーダンスの差によるからである19). 胆石で

は超音波で総胆管を同定するのは困難である17).

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耳鼻臨床84:11 ESWLに よる唾石 の治療 1579

本装置ではワル トン氏管は移行部 より10mm

程度末梢までしか描出できず, より末梢の管内

唾石は適応にならないと思われる. また描出で

きても, 管内唾石は腺内唾石, 移行部唾石に比

べ周 りの唾液が乏 しいために, より多 くの衝撃

波照射を要する可能性がある.

3) 大きさ, 数

唾石 の大 きさは管内唾石は2.5mm以 上5

mm未 満に, 移行部唾石は5mm以 上7mm以

下に, 腺内唾石は2.5mm以 上5mm未 満 と10

mm以 上15mm未 満にそれぞれ ピークがみら

れ る18). 30mmを こえる移行部唾石の報告も

みられ る20)がまれである. また複数個の唾石

がみられることは少ない.

尿路結石では2cm以 下がESWLの 良い適

応である19)21)が, 2~3cm以 内な らESWL単

独で治療可能であ り3cm以 上の時は結石によ

る尿管閉塞に対する前処置が必要である22). 胆

石では10mm以 下 ならばESWLに よる胆石

消失率が高いが, 大きくなるに従い消失率は減

少する9). 胆石の個数は3個 以下がESWLの

良い適応である9).

通常の大 きさの唾石はESWLの 適応 と思わ

れる. また, 大きくなるに従いこわれにくい可

能性がある.

4) X線 検査

唾石はCaの 含有量に多少の差はあってもX

線写真に陰影を生ず る23)とい う報告 と唾石の

20%はCaの 含有量が少なくX線 を透過す る24)

とい う報告がある.

尿路結石の90%はX線 検査で結石の描出可能

であるが, 尿酸結石, キサンチソ結石は描出で

きない25)26). また, 2mm以 下の結石は描出が

難 しい27). 胆石の単純X線 陽性率は胆嚢23%,

胆管6%, 肝内0%で15), 単純X線 像で石灰化

を認め る症例は, 破砕効果不十分なことが多

い9).

唾石のX線 透過性は胆石 よりも尿路結石に近

い. X線 透過性 と破砕効果の関係は今後の課題

である.

5) 超 音波 検 査

唾 石 は2mm以 上 の大 き さ な らば 超 音 波 断 層

法 に よ り90%の 描 出 が可 能 で あ る28).

尿 路 結 石 で はX線 透 過 性 で あ っ て も結 石 成 分

に か か わ らず 同 じ超 音 波 断 層 像 とな る29). 胆 石

で は超 音波 所 見 に よ り成 分 の鑑 別 が 可 能 で あ り,

破 砕 効 果 が あ るか否 か の予 測 が で き る16).

唾 石 の超 音 波 断層 像 と破 砕 効 果 の関 係 は 今 後

の 課 題 で あ る.

6) CT検 査

唾 石 の 画 像診 断 法 は, か つ て は主 と して単 純

X線 撮 影, 唾 液腺 造 影 が行 わ れ て いた が, 最 近

は 超 音 波 断 層 法, KIP electroradiographyカ ミ用

い られ, CTは 唾 石 と腫 瘍 の鑑 別 に 施 行 され て

い る18).

尿 路 結 石 で は 超 音 波 断 層 法 で 見 つ か りが た い

結 石 で もCTで は結 石 の描 出 は 容 易 で あ る30)31).

ま たCT値 で 尿 路 結 石, 胆 石 の 主 成分 が推 定 で

き る. 尿 路 結 石 で は, 蓚 酸 カル シ ウ ム と燐酸 カ

ル シ ウ ム の混 合 結 石 は1555±193, マ グ ネ シ ウ

ム ア ソ モ ニ ウム 燐 酸 結 石 は1285±284, シス チ

ン結 石 は757±114, 尿 酸 結 石 は480で あ る14).

胆 石 で は 主成 分 が コ レス テ リンでは60以 下, ビ

リル ビ ン カル シ ウ ム は60~140, 炭 酸 カル シ ウ

ム は140以 上 で あ る15). また 胆 石 で はCT値 が

60以 下 の もの が破 砕 有 効 で特 に20以 下 の もの に

消 失 例 が 多 い32).

1989年8月 よ り1991年1月 まで の顎 下 腺 唾 石

症 の 自験 例, 11例12石 のCT値 は418~1535で

平 均967で あ った. 唾 石 のCT値 は 胆 石 よ りも

尿 路 結 石 に近 い. 本 症 例 のCT値 は441で 平 均

値 よ り低 く, CT値 が低 い た め 破 砕 が 有 効 で あ

った か も しれ な い. 唾 石 のESWLの 効 果 の 予

測 に は, CT値 が 参考 に な る 可能 性 が あ る.

7) 合併 症

EDAP社 製LT-01は, 圧 電 素 子 で 発 生 す る

衝 撃 波 の 立 ち上 が りと戻 りが急 速 で極 め て短 時

間 で あ る た め, 患 者 は 痛 み を 感 じな い33)と さ

れ, 繰 り返 し施 行 で き る利 点 が あ る.

尿 路 結 石 で の 本機 種 を用 い た合 併 症 は 肉眼 的

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1580 松 原 茂 規 耳鼻臨床84:11

血尿100%, 鎮痛剤使用8%, 発熱8%で あっ

た21). また破砕片による尿管閉塞は不可逆性の

腎機能障害をきたす危険がある19). 本機種は妊

婦への治療が可能である34)が, 衝撃波 の生体

に与える影響に関 しては, 未知の部分が多 く,

子供を望む婦人の卵巣には照射は避けた方がよ

い35). 胆石でのGM-1, MPL9000を 用いた合

併症は皮内, 皮下出血, 血. 尿, 肝機能障害,腹

部仙痛, 高ア ミラーゼ血症であったがいずれも一過性であった9).

唾石でおこりうる合併症は疼痛 と臓器に近い

部分を走行する脳神経麻痺であろ う. 本症例で

はどちらも認めなかった. 疼痛に対 しては, 照

射そのものの疼痛, 破砕片の ワル トン氏管閉塞

による疼痛を含めて, 治療中, 後の患者の十分

な観察, 適切な対応により重篤化することを防

ぐことができると考える. 感染のある尿路結石

にもESWLは 可能である22)が, 唾石の場合は

できるだけ感染を抑えたのちESWLを 施行す

ることが疼痛を少なくすると考える. 脳神経麻

痺はことに, 耳下腺唾石の際の顔面神経麻痺が

問題であると考 える. Iroら3)は 耳下腺唾石の

治療で顔面神経麻痺を認めなかったとし, それ

は動物実験において衝撃波が重篤な組織変化を

起さないことに基づいているとしている.

ま と め

1. 26歳女性の左顎下腺移行部唾石症に対 し,

EDAP社 製LT-01を 用いて体外衝撃波結石破

砕術(ESWL)を 施行 し, 唾石の消失をみた.

無麻酔にて, 腹臥位かつ後屈位にて施行 した.

衝撃波発射頻度は1.25Hz, 照射時間は40分 間

行なった. 術後の合併症は認めなかった.

2. 顎下腺唾石症の中で, 腺内唾石, 移行部

唾石, 管内唾石の一部(移 行部 より約10mm以

内)に 本装置に よるESWLの 適応があると考

えられた.

3. ESWLに よる唾石のこわれやすさは唾

石のCT値 により予測できる可能性がある.

4. 唾石症に対 し, ESWLは 画期的治療法

と考える.

稿 を終 えるにあた り, 御 助言を いただいた 当院院

長 加藤元義先 生, 内科, 外科, 泌尿 器科 の諸先 生,

放 射線科 ス タ ッフの方 々お よび岐阜 大学耳鼻 咽喉科

学教室宮 田英雄教授, 伊 藤八次講 師に深謝 いた しま

す.

本論 文の要 旨は第65回 東海地方部会連合講演会(名

古屋)お よび第53回 耳鼻咽喉科臨床学会(札 幌)に て発

表 した.

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原 稿受付:平 成3年7月11日

原稿採択:平 成3年7月17日 急載

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中濃病 院耳鼻咽喉科