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調査研究ジャーナル 2016 Vol.5 No.2 104 総説 肺のスリガラス状結節はいつまで経過観察が必要か 德田敦子 1 How Long Should Lung Pure ground-glass nodules be Followed ? Atsuko Tokuda 1 CT 検査にてスリガラス状結節はしばしば認められ、その自然史が明らかにされつつある。長期間経 過観察すると、おおよそ 10~25%のスリガラス状結節がゆっくりと増大する、あるいは内部に充実性 部分が出現するが、75~90%は不変のままである。サイズの増大や、内部に充実性部分が出現するこ とは悪性腫瘍の可能性があることを示唆する。スリガラス状結節のほとんどは異型腺腫様過形成や上 皮内腺癌であり、微小浸潤癌になるとスリガラス状陰影内部に充実性部分が出現する。異型腺腫様過 形成のいくつかは多段階的に上皮内癌、浸潤癌へと進行すると推測されており、現段階ではスリガラ ス状結節は少なくとも 3 年の経過観察が必要とされているが、3 年間不変の場合、その後いつまで経過 を見るべきかは明らかにされていない。その場合、現実的には CT 所見のみでなく年齢、パフォーマン ス・ステイタス等の個別的要素が考慮されるべきと思われる。 (調査研究ジャーナル 2016;5(2):104-110) キーワード:肺がん、CT、スリガラス状結節、pure GGN 1.はじめに CT検査の低線量化が進み、現在任意型検診とし て行われている低線量CTによる検診に加え、対策 型検診が検討されつつある。2011年に米国National Lung Screening TrialNLST)により、重喫煙者を対 象とした低線量CT検査を用いた肺がん検診を行う ことは、胸部エックス線検診より20%の肺がん死亡 率減少効果があることが報告された 1。しかし要精 検率は24.2%と高く、観察期間6.5年(中央値)で 有所見のうち96%は肺癌ではないと判断され、高い 偽陽性率、過剰診断、精密検査過程での重篤な合併 症等が懸念されている。NLSTの結果が示すように、 CT検査にて所見があっても、大多数の症例が経過 観察にて不変であり、肺がんではない。このような 症例の経過観察をいつまで続けるべきか。なかでも 1 公益財団法人ちば県民保健予防財団 連絡先:〒261-0002 千葉市美浜区新港32-14 公益財団法人ちば県民保健予防財団 德田敦子 E-mail: [email protected]Received 16 May 2016 / Accepted 8 Jun 2016均一なスリガラス状結節( pure ground-glass nodulespure GGN)は長期間の経過観察が必要と されているが、その根拠、効果は明らかではない。 2.スリガラス状結節とは 薄切CTthin-section CTTS-CT)にて、スリガ ラス状陰影が主体の結節影はスリガラス状結節 ground-glass nodulesGGN)とよばれる。GGNさらに、均一なスリガラス状陰影のみからなる結節 pure GGN)と、スリガラス状陰影が主体で一部 に軟部組織の吸収値を呈するpart-solid GGNに分け られる。GGNは軟部組織吸収値を呈する陰影(solid nodule)に対し、subsolid noduleとも言われる。 スリガラス状陰影(ground-glass opacityGGOあるいはground-glass attenuationGGA)とは「高 分解能CT上で、気管支、肺血管辺縁を透見できる 程度の肺野濃度の上昇」と定義される 2。病理学的 に肺胞の含気を残した肺胞壁、間質の肥厚や、肺胞 腔への炎症性細胞や滲出液などの充満を示唆してお り、腫瘍性病変、炎症性疾患、線維化など非特異的 所見である。間質性肺炎などでは広範囲にGGO

肺のスリガラス状結節はいつまで経過観察が必要か2005/02/04  · 調査研究ジャーナル2016 Vol.5 No.2 104 総説 肺のスリガラス状結節はいつまで経過観察が必要か

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調査研究ジャーナル 2016 Vol.5 No.2

104

総説

肺のスリガラス状結節はいつまで経過観察が必要か

德田敦子 1

How Long Should Lung Pure ground-glass nodules be Followed ?

Atsuko Tokuda1

CT 検査にてスリガラス状結節はしばしば認められ、その自然史が明らかにされつつある。長期間経

過観察すると、おおよそ 10~25%のスリガラス状結節がゆっくりと増大する、あるいは内部に充実性

部分が出現するが、75~90%は不変のままである。サイズの増大や、内部に充実性部分が出現するこ

とは悪性腫瘍の可能性があることを示唆する。スリガラス状結節のほとんどは異型腺腫様過形成や上

皮内腺癌であり、微小浸潤癌になるとスリガラス状陰影内部に充実性部分が出現する。異型腺腫様過

形成のいくつかは多段階的に上皮内癌、浸潤癌へと進行すると推測されており、現段階ではスリガラ

ス状結節は少なくとも 3 年の経過観察が必要とされているが、3 年間不変の場合、その後いつまで経過

を見るべきかは明らかにされていない。その場合、現実的には CT 所見のみでなく年齢、パフォーマン

ス・ステイタス等の個別的要素が考慮されるべきと思われる。

(調査研究ジャーナル 2016;5(2):104-110)

キーワード:肺がん、CT、スリガラス状結節、pure GGN

1.はじめに

CT検査の低線量化が進み、現在任意型検診とし

て行われている低線量CTによる検診に加え、対策

型検診が検討されつつある。2011年に米国National

Lung Screening Trial(NLST)により、重喫煙者を対

象とした低線量CT検査を用いた肺がん検診を行う

ことは、胸部エックス線検診より20%の肺がん死亡

率減少効果があることが報告された1)。しかし要精

検率は24.2%と高く、観察期間6.5年(中央値)で

有所見のうち96%は肺癌ではないと判断され、高い

偽陽性率、過剰診断、精密検査過程での重篤な合併

症等が懸念されている。NLSTの結果が示すように、

CT検査にて所見があっても、大多数の症例が経過

観察にて不変であり、肺がんではない。このような

症例の経過観察をいつまで続けるべきか。なかでも

1公益財団法人ちば県民保健予防財団

連絡先:〒261-0002 千葉市美浜区新港32-14

公益財団法人ちば県民保健予防財団

德田敦子

(E-mail: [email protected]

(Received 16 May 2016 / Accepted 8 Jun 2016)

均 一 な ス リ ガ ラ ス 状 結 節 ( pure ground-glass

nodules;pure GGN)は長期間の経過観察が必要と

されているが、その根拠、効果は明らかではない。

2.スリガラス状結節とは

薄切CT(thin-section CT;TS-CT)にて、スリガ

ラス状陰影が主体の結節影はスリガラス状結節

(ground-glass nodules;GGN)とよばれる。GGNは

さらに、均一なスリガラス状陰影のみからなる結節

(pure GGN)と、スリガラス状陰影が主体で一部

に軟部組織の吸収値を呈するpart-solid GGNに分け

られる。GGNは軟部組織吸収値を呈する陰影(solid

nodule)に対し、subsolid noduleとも言われる。

スリガラス状陰影(ground-glass opacity;GGO、

あるいはground-glass attenuation;GGA)とは「高

分解能CT上で、気管支、肺血管辺縁を透見できる

程度の肺野濃度の上昇」と定義される2)。病理学的

に肺胞の含気を残した肺胞壁、間質の肥厚や、肺胞

腔への炎症性細胞や滲出液などの充満を示唆してお

り、腫瘍性病変、炎症性疾患、線維化など非特異的

所見である。間質性肺炎などでは広範囲にGGOが

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德田:スリガラス状結節の経過観察

105

見られることがあるが、30mm以下の結節状をした

スリガラス状陰影をスリガラス状結節GGNという。

Solid noduleは小さいものは肺内リンパ節や肉芽

腫であることが多く、それらは経過観察しても不変

であり、一方悪性腫瘍の場合は短期の経過観察でも

増大傾向が認められ、侵襲的診断、治療のタイミン

グを逃しにくい。TS-CT検査でGGNを認めた場合

は、異型腺腫様過形成(atypical adenomatous hyper₋

plasia; AAH)、上皮内腺癌( adenocarcinoma in

situ;AIS)、微小浸潤腺癌(minimally invasive ade₋

nocarcinoma;MIA)やlepidic patternを示す浸潤癌、

限局性肺炎、器質化肺炎、限局性線維化巣、感染症

などが鑑別にあがるが、良悪の判断が困難で長期間

の経過観察が必要とされる。特にpure GGNに対し、

いつ侵襲的生検を試みるか、あるいは経過観察とす

るか一定の見解が得られていない。

Early Lung Cancer Action Project(ELCAP)は、

part-solid GGNやpure GGNが悪性である確率(34%)

はsolid noduleが悪性である確率(7%)より高く、

またpart-solid GGNが悪性である確率は63%、pure

GGNが悪性である確率は18%と報告している3)。

2011年の新病理分類(International Association for

the Study of Lung Cancer;IASLC/American Thorac₋

ic Society;ATS/European Respiratory Society;ERS)

によれば、5mm以下のpure GGNのほとんどは異型

腺腫様過形成である。異型腺腫様過形成や上皮内腺

癌は典型的には画像上pure GGNを呈し、微小浸潤

癌になるとGGN内部に充実性部分が存在しpart-

solid GGNを呈し、浸潤性腺癌の場合はsolid nodule

となるとされている4)。異型腺腫様過形成は段階的

に上皮内癌、浸潤癌へと進行すると推測されている

が、その頻度は明らかではない(図1、2)。

3.Pure GGNの自然経過

図 1 pure GGN

(a) 65 歳女性。2008 年 3 月 左上葉に 12×

10mm 大のスリガラス状結節を認める。

(b) 2012 年 10 月スリガラス状結節はやや増

大し 14×11mm 大となる。

(c) 2016 年 1 月スリガラス状結節は 17×

12mm 大に増大した。高分化腺癌の可能性が

あり、切除を目的に他院へ紹介となった。今

後は切除の時期を見極めつつさらに経過観察

をする方針となった。8 年の経過である。現

時点で 73 歳であり、切除をすれば確定診断

となるが、切除をしない場合に比し、予後を

改善するかは容易には結論が出せないと思わ

れる。

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調査研究ジャーナル 2016 Vol.5 No.2

106

Pure GGNの自然経過について長期間経過観察し

た結果が報告されている。病変の選択範囲、増大の

判定、大きさの測定法、フォローアップ期間等、均

一ではないが、以下にいくつか紹介する(表1)。

ここで増大する(grow)とはサイズの増加あるいは

内部アテニュエーション(濃度)の増加、充実性部

分が出現することを指している。

Matsugumaらの報告では98のpure GGN病変のうち

14病変(14.2%)が増大し、充実性部分の出現は14

病変のうち9病変であった5)。増大あるいは充実性

部分が出現した病変は切除され、1例のAAHを除

きすべて腺癌であった。

Leeらは 143の pure GGNのうち増大は 28病変

(19.6%)でみられ、充実性部分の出現は28病変の

うち11病変と報告している6)。彼らはpure GGNが数

年間不変であっても、充実性部分が出現し、part-

solid GGNへと変化した以降は増大速度が速くなる

としている。

Kobayashiらは82のpure GGN病変のうち、21病変

(25.6%)が増大し、充実性部分の出現は21病変の

うち13病変であり、増大したものはすべて3年以内

に増大傾向を示したことから、少なくとも3年間フ

ォローアップすべきと結論している7,8)。

Kakinumaらは439の5mm以下のpure GGNを経過観

察し、45病変(10.3%)が増大し、4病変(0.9%)

が腺癌と診断され、その4病変すべてで充実性部分

の出現を認め、充実性部分出現時期は平均3.6年で

あったと報告している9)。

Changらは悪性疾患の既往のない89症例122病変

のpure GGNのうち12病変(9.8%)が有意に増大し、

12病変のうち2病変は充実性部分が出現したと報告

している10)。増大した症例と増大しなかった症例は、

年齢、性別、喫煙歴において有意差を認めず、 初

の 大径が大きいほど、また充実性部分が出現する

場合、有意差を持って陰影が変化したと報告してい

る。増大12病変中11病変は確定診断がつけられ、す

べて原発性肺がんの診断となっている。

以上をまとめるとpure GGNのうち約10~25%で

サイズの増大あるいは充実性部分が出現する。増大

するか不変か見極めるには少なくとも3~4年は必要

図 2 part-solid GGN

49 歳女性。エックス線検査にて他の部位に異常

影を指摘され、CT 検査を施行し、右上葉に

4mm 大の充実性部分を伴う 13mm×12mm の part-

solid GGN を認めた。経過観察はせず切除とな

り、肺腺癌 stageⅠa の診断となった。

表 1 pure GGN の自然経過

Matsuguma5) Lee6) Kobayashi7) Kakinuma9) Chang10)

発表年 2013 2013 2013 2015 2013

病変数 98 143 82 439 122

大きさ 4-20mm 7.0mma±

3.4mm ≦30mm ≦5mm

5.5mmb

(3-20mm)

経過観察期間 2.4 年 a 3.8 年b 4.2 年 b 6.0 年 b 4.9 年 b

不変 84 (85.7%) 115 (80.4%) 61 (74.3%) 394 (89.7%) 110 (90.2%)

増大 14 (14.2%) 28 (19.6%) 21 (25.6%) 45 (10.3%) 12 (9.8%)

内、充実性部分の出現 9 11 13 17 2

a:平均値 b:中央値

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德田:スリガラス状結節の経過観察

107

であるといえる。しかし2年以上経過してから増大

などの変化を生じたpure GGNについての報告も散

見されている。GGNの4年間の経過を追えた症例で、

3年後に既存構造の集束と、内部に濃度上昇域の出

現を認め、いったん変化が見られたのちに急速に増

大し、その8ヶ月後には5㎝大の低分化腺癌の診断と

なった症例も報告されている11)。

4.腫瘍倍化時間

Hasegawa ら は 肺 が ん 61 例 の 体 積 倍 化 時 間

(Volume Doubling Time;VDT)を報告している12)。

Pure GGNを示す19例の肺がんの体積倍化時間は平

均813日、part-solid GGN を示す19例の肺がんでは

平均457日、solid noduleを示す肺がん23例では149日

であった。Changらの報告では、増大したpure GGN

12病変のVDT中央値は769日(330~3,031日)であ

った10)。5mm未満のpure GGNを検討したKakinuma

らの報告では切除した5病変(4腺癌、1AAH)の

VDTは平均476日(265~887日)、増大したが切除し

なかった40病変のVDTは平均1,149日(271~5,680

日)であった。非切除の40病変は 終CTでは28の

pure GGN、12のpart-solid GGNであり、pure GGNの

VDTは平均1,233日(±1,095日)、part-solid GGNで

は平均836日(±758日)であった9)。Leeらはpure

GGNとpart-solid GGNのVDTはそれぞれ872±649日、

1,005±732日であり有意差がなかったとしているが

6)、pure GGNはpart-solid GGNよりVDTが有意に長

いとする報告がほとんどである。

5.多発性

一般には多発するGGNはサイズに大きな違いは

なく、しばしば他葉や対側肺に認める。多発する

subsolidな病変がある場合、これらを同時多発か肺

内転移かを区別する有効な方法はないが、遺伝学的

あるいは組織学的検討からは同時多発と推測されて

いる13)。Leeらもこれらは転移ではなく、起源が異

なり多発しているとし、多発するGGNのうち大き

なものをひとつ切除することは合理的と述べている

14)。

米国から出されたFleischner Societyのガイドライ

ン15)でも、多発するGGNを認めた場合、他と比較し

て悪性の疑いが強い病変(dominant lesion)の有無

により管理方針が異なり、dominant lesionが存在す

る場合は、孤立性のpart-solid nodule と同様の扱い

としている。つまり、3ヶ月後に消褪しない場合、

特に5mm以上の充実性部分を持つ病変については生

検あるいは切除による確定診断を推奨している。こ

こで、dominant lesionの例としては、5mm以上の充

実性部分を有するもの、10mm以上のpure GGN、辺

縁にスピキュラを有するもの、泡状あるいは網状の

陰影を示すもの、pure GGNあるいは5mm以下の充

実性部分を有するpart-solid noduleで、サイズある

いはアテニュエーションの変化を有するものとされ

ている。

6.GGNが増大するかどうか予測することは可能か

多くのGGNは自然に消失する。特に、境界不明

瞭なGGNは自然消失することが多い。消失や増大

を予測することは可能であろうか。増大や悪性疾患

を示唆するいくつかの因子が報告されている。

Leeらは 初のサイズが10mm以上であること、充

実性部分が存在すること、65歳以上であることがサ

イズ増大に関係すると報告している6)。Matsuguma

らはサイズが10mm以上であることと、肺がんの既

往が増大に有意に関係すると報告している5)。また、

Chang らは 初のサイズと内部の充実性部分の出

現が増大と有意に関係すると報告している10)。2005

年に米国で出されたFleischner Societyのガイドライ

ン15)でもdominant lesionとして、 初のサイズ、ス

ピキュラ、泡状陰影などが挙げられ、悪性を示唆す

る所見とされている。

Kobayashiらは増大するGGNと増大しないGGNを

示す腺癌の遺伝子解析を行った16)。104のGGNが切

除され、75%(104病変中78病変)にEGFR、K-ras、

ALK、HER2のいずれかの遺伝子変異あるいは再構

成を認めた。残りの26病変は上記4種の遺伝子変異、

再構成を認めなかった。変異あるは再構成を有する

ものの中ではEGFR変異が も多く(64%)、K-ras

(4%)、HER2(4%)、ALK(3%)は低率であった。

EGFR変異陽性のGGNは、微小浸潤癌、浸潤癌ある

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調査研究ジャーナル 2016 Vol.5 No.2

108

いは増大と相関し、上記4遺伝子変異がすべて陰性

のGGNは増大しない傾向があると報告している。

EGFRはがん細胞の増殖において必須のがん遺伝

子(driver oncogene)であり、GGN増大の指標とな

り得、また切除を検討する指標となる。しかし、

GGNの場合、術前に遺伝子変異を知ることは困難

である。

7.ガイドラインでは

Fleischner Society よりCT検査で見つかった小結

節に対する経過観察のガイドラインが示されている

15)(表2)。孤立性のpure GGNのうち、5mm以下の

ものは1mm厚のCTで真のpure GGNか見極めた上で、

経過観察は不要としている。その理由として、これ

らは典型的にはAAHであり、現時点でAAHが腺癌

に移行するかどうか、またその頻度は明らかでなく、

極めて安定した状態を何年も維持する。GGNの倍

化時間は3~5年と推測されており、また5mm以下の

小病変の正確な測定法が確立していないため、これ

らをフォローアップすると、膨大な不必要なコスト、

放射線曝露を招くからとしている。

5mmを超えるGGNは炎症性変化を除外するために

3ヶ月後の再検査を推奨しており、消褪しない場合

は、 低3年間の毎年のCT検査を推奨している。こ

れらは典型的にはAAHあるいはAISであり、これら

を前癌病変か癌かあるいは良性か診断するためには

外科的切除によらざるを得ないため、長期間のCT

サーベイランスをし、サイズの増加あるいはアテニ

ュエーションが増加した場合、外科的切除を検討す

べきとしている。

Pure GGNは多発していることもある。上記

Fleischner Societyのガイドラインでは、5mm以下の

pure GGNが複数個あった場合は2年後、4年後のCT

を推奨している。その中に他と比較して悪性の疑い

がある病変(dominant lesion)がない、5mmを超え

るpure GGNは3ヶ月後に再検し、消褪していなけれ

ば 低3年、1年ごとのCT検査を推奨している。

Dominant lesionがある場合は孤立性のpart-solid nod₋

uleと同様の扱いとし、3ヶ月後に消褪しなければ生

検あるいは切除を推奨している。

本邦においては、日本CT検診学会より、CT検診

で見つかったpure GGNの経過観察に関するガイド

ラインが提示されている17)。長径が15mmを越える

pure GGNは生検による確定診断が推奨されている。

大径が15mm未満の場合はTS-CTにて3ヶ月後、12

ヶ月後、24ヶ月後と経過観察し、ⅰ)増大あるいは

表2 Recommendations for the Management of Subsolid Pulmonary Nodules Detected at CT

: A Statement from the Fleischner Society 15)

nodule type Management Recommendations

Solitary pure GGNs

≦5mm No CT follow-up required

>5mm Initial follow-up CT at 3 months to confirm persistence then annual surveillance CT

for a minimum of 3 years

Solitary part-solid nodules

Initial follow-up CT at 3 months to confirm pesistence. If persisitent and solid com₋

ponent <5mm, then yearly surveillance CT for a minimum of 3 years. If persisitent

and solid component ≧5mm, then biopsy or surgical resection

Multiple subsolid nodules

Pure GGNs ≦5mm Obtain follow-up CT at 2 and 4 years

Pure GGNs >5mm without a dominant

lesion(s)

Initial follow-up CT at 3 months to confirm persisitence and then annual surveillane

CT for a minimum of 3 years

Dominant nodule(s) with part-solid or

solid component

Initial follow-up CT at 3 months to confirm pesisitence. If persisitent, biopsy or

surgical resection is recommended, especially for lesions with >5mm solid compo₋

nent

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德田:スリガラス状結節の経過観察

109

濃度上昇の場合、確定診断を試みる;ⅱ )内部に

5mm以上のsolid 成分が出現した場合は確定診断を

実施する。solid成分が出現した場合でも 大径5mm

以下の場合はさらに経過観察する余地はある;

ⅲ)24ヶ月後不変であってもさらに原則として年1

回の経過観察CTは必要である、との指針が出され

ている。Pure GGN に対する経過観察の方針につい

て、上記ⅲ)24ヶ月不変であったpure GGNのその後

年1回の経過観察はいつまで必要なのか、あるいは

毎年検査する必要があるのか明らかではない。

両ガイドラインともpure GGNに充実性部分が出

現した場合は、切除を含めたさらなる検査をすすめ

ている。

8.まとめ

消褪しないGGNは長期間変化しない特徴を持つ

前がん病変あるいは肺がんであり、長期間のフォロ

ーアップを必要とする。いくつかは特にEGFRの変

異に誘導され浸潤癌に進行するが、その大多数は変

化なく経過する。切除する時期を逸しないために、

少なくとも3年の経過観察が必要とされ、その後の

経過観察も必要とされている。これらは、病変が肺

がんであるかどうかに視点をおいている。

3年経過をみたあと変化がなければどこで経過観

察を終えるかの指針はない。現時点では大きさ等の

CT所見に加え、他の個別的要素を考慮して個々に

検討していくのが現実的と思われる。つまり、年齢、

併存疾患、パフォーマンス・ステイタス、放射線被

曝による影響、本人の治療についての希望などが考

慮されるべきで、一律にガイドラインに乗せにくい

要素である。

Fleischner Societyが5mm以下のpure GGNを経過観

察不要としたのは、極めて安定した病変に膨大なコ

ストと放射線曝露をしないためである。Pure GGN

を長期間CT検査で経過観察することで、検診受診

者の肺がん死亡率を減少する効果はあるのか、レン

グスバイアスの問題、つまり非活動(indolent)の

病変、致死的でない肺がんを発見しているのではな

いか、CT検査の被曝量と医療コストはどうか、受

診者の心理的負担、これらの問題は、病変が肺がん

であるかどうかと同時に今後検討すべき問題と思わ

れる。

引用文献

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Adams AM, et al. Reduced lung-cancer mortality with low₋

dose computed tomographic screening. N Engl J Med

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Review Article

How Long Should Lung Pure ground-glass nodules be Followed ?

Atsuko Tokuda1

-Abstract -

Pure ground-glass nodules (GGN) on CT are frequently observed, and their natural history has

been well-studied. Approximately 10%–25% of pure GGNs gradually grow or develop their solid

components, whereas the other 75%–90% remain unchanged during long-term follow-ups. In the

GGN follow-up, imaging features that indicate a risk of malignancy include an increase in size and

attenuation, as well as the development of a solid component. Persistent GGNs represent pre₋

invasive atypical adenomatous hyperplasia or adenocarcinoma in situ with indolent growth, some of

which are thought to have a multistep progression to invasive adenocarcinoma. While surveillance

for at least 3 years is recommended, the length of the follow-up period for pure GGNs after the ini₋

tial 3 years of management remains unclear. To manage these indolent lesions for years, personal

factors, such as age and performance status, should be taken into account, in addition to the CT

findings.

(Chiba Survey Res J 2016;5(2):104-110)

Keyword: Lung cancer, CT, Ground-glass nodule, Pure GGN

1 Chiba Foundation for Health promotion and Disease Prevention