公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.10, 2012 年 2 月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.10, February, 2012

* 正会員・佛教大学 社会学部公共政策学科 講師 博士（学術）(Bukkyo University) ** 正会員・奈良女子大学大学院 人間文化研究科 教授 工博（Nara Women’s University） ***非会員・奈良女子大学大学院 人間文化研究科 博士前期課程（Nara Women’s University）

人口減少都市で地域改善を行う NPO組織-アメリカ CDCｓ-の活動

‐ミシガン州 Salem Housingの事例‐

The activity of the NPO organization which makes a local improvement in a population decrease city - United States CDCs - The case of Salem Housing in Michigan Sates

清水陽子*・中山 徹**・前根美穂***

Yoko SHIMIZU *･Toru NAKAYAMA**・Miho MAENE*** This research clarifies the contents of activity, and the actual condition of an organization about Salem Housing (CDCs).And an activity example (Ramona Park) is reported. CDCs have passed for 50 years, after being inaugurated in the United States and it is playing an active part in various areas still now. The form of organization of NPO is recognized and it is considered to be because for the system and environment supporting organizations, such as a subsidy, to be ready.Moreover, independence of the local community became clear from investigation. It seems that an NPO like CDCs will support a local improvement and a local community even in Japan from now on. Keywords: Population Decrease, NPO, CDCs, United States

人口減少、NPO、CDCs、アメリカ 1. はじめに

1-1.研究の背景・目的

日本の人口は2005年より減少に転じている。人口減少は経済、

政策など様々な活動に影響を与え、このような社会構造の変化

に対応した都市政策が求められている。人口減少に対する研究

は佐藤 1）などにより公営住宅の居住者を対象としたものが見ら

れる。

しかし、今後は更に世帯数減少による住環境への影響も検討

する必要がある。総務省が行っていた平成20年の住宅・土地統

計調査では総住宅数5759万戸のうち，空き家は756万戸となっ

ており、総住宅数に占める割合（空き家率）は前回調査（平成

15年）の12.2％から13.1％に上昇し過去最高となっている。既

存の住宅地では、今後相当数の空き家が発生することが見込ま

れている。空き家・空き地の存在は地域の活力を低下させ、衰

退したイメージを抱かせる。また空き家は犯罪の温床ともなり

かねず、治安の悪化をもたらすこととなる。

これまで、アメリカの空き家への対策を行っている自治体や

外郭団体などの調査を行ってきた。その中で、空き家の含めた

地域の改善を行うには住民の力が大きなカギとなることが明ら

かになった。そこで、これまで調査を進めてきたミシガン州ジ

ェネシー郡フリント市で活動するSalem Housingに着目した。

この組織はCDCｓ（詳細は後述）であり、フリント市の行政や

Land Bank（行政の外郭団体であり、フリント市内の税金を滞

納した空き家を一括して管理している組織である）などと連携

し、活動している。

フリント市においても人口減少による地域の衰退、空き家の

増加により一時は犯罪が急増した。そのような状況を受け、

Salem Housingは地域改善と貧困世帯への住宅提供を主な目的

として設立された。

本研究は、CDCｓであるSalem Housingについて、その活動

内容と組織の実態、特に財政面とを明らかにし、活動事例

（Ramona Park）をもとに報告する。

２.ＣＤＣｓについて

CDCｓとはCommunity Development Corporationsの略で、

平山 2）3）によると「1960年代からアメリカで活動するノンプロ

フィット組織で、通常は非課税法人の資格を有し、低所得層の

特定のコミュニティに基礎を置き、住宅供給を中心とする多角

的活動を展開してきている」団体である。日本では1990年前半

に注目され、論文や著書も発表されたが、それ以降、活動や組

織実態についての報告はあまり見られない。

これまで紹介されている活動は主に低所得コミュニティ、マ

イノリティコミュニティへの住宅提供など支援活動であり、本

研究で扱う人口減少に伴う空き家に関する活動は見られない。

これは人口減少というものがこれまでにない社会問題であるた

めであると考えられる。

本来、地域改善は行政が主に担ってきた事業であるが、財政

難などの理由から現在は地域住民の自主的な活動が期待されて

いる。しかし、町内会や自治会が単独で活動に取り組むことは

難しく、CDCｓなどを立ち上げ、町内会より広域を対象とし、

専門家なども加わってもらい活動することが多い。

CDCsはNPOという組織形態で発足から50年を経て、更に

現在も様々な地域で活躍しているなど、住民主導で地域改善を

行うために、今後日本でも参考とすべき組織であると考える。

３.Salem Housingについて

本研究で取り上げるSalem Housingは1985年7月にフリン

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フリント市 ミシガン州ジェネシー郡

ト市に設立されたNPO団体である。元の組織は5つの町内会と

地元の教会であり、地域に発生した空き家や地域の質の下落（住

環境の悪化）に対し活動を行うために発足した。

フリント市は大都市であるデトロイト市から車で 1 時間半ほ

どの都市であり、鉄道・バスなどの公共交通はあまり整ってい

ない。以前はGMなど自動車産業の工場が多く立地していたが、

現在ではほとんどの工場が閉鎖されている。ミシガン州立大学

フリント校が市内にあり、再生計画などを共同で取り組んでい

るが、これまでの産業に代わる新たな産業は育っていない。ピ

ーク時の人口は196,940人であったが、2008年には124,943人

まで減少している（表-1）。

フリント市では人口減少に

伴い、多くの空き家も発生し

ている。市内の空き家率は

23.1％であり、特に市を流れ

るフリント川の北側では

50％を超える地域もある。

Salem Housingも空き家率

が50％を超える地域を中心

に活動している（図-2、図-3参照）。

Salem Housingの活動目的は①ビジネスおよび個人と近隣を

再生するために協力と共同作業を行うこと、②安全な住宅、適

切（相当）な住宅および手頃な住宅の提供すること、③持ち家

に関して所有家族を教育すること、④事業対象となった地域の

近隣に最も大きな良い効果を与えられるようにすること、であ

る。

Salem Housingの常勤職員数は8名である。昨年のボランテ

ィア159名であり、彼らが活動を支えている（表-2）。

次に、Salem Housing の活動収支を見てみる（表-3）。2009

年の収入合計は494,681ドルであるが、2010年は993,218ドル

となっている。2010年に関しては連邦政府の地域改善に関する

補助金を獲得できたため、前年から見てかなりの増額になって

いる。2009年の収入の 47.1％を民間財団からの助成金が占め、

2010年は連邦政府の助成金が39.7％、民間財団からの助成金が

30.2％を占めている。NPOであるSalem Housingは民間や政

府からの助成金が主な活動資金であり、重要な資金源である。

支出については、2009 年が総額 566,542 ドル、2010 年が

886,737ドルとなっている。

表-1 フリント市概要

市域面積 88.2k㎡

人口（ピーク時） 196,940

人口（現在） 124,943

減少率 36.55％

世帯数 48,744

住戸数 42,509

空家数 12,767

空き家率 23.1％

表-2 Salem Housing CDC概要

事務所 3216 M.L.King Ave FLINT

職員数 8名

ボランティア数 159名

表-3 Salem Housing CDC収支

◆収入（ドル）

内容 2009 2010

補助金 353,361 822,045

（内訳）

公的支援 41,885 43,676

企業寄付 3,259 5,200

一般助成 17,600 18,199

連邦政府助成 57,130 394,870

民間財団助成 233,487 300,100

その他 0 60,000

その他収入 138,194 170,443

（内訳）

テナント料 2,027 4,555

開発料 0 38,934

賃料 122,681 103,168

その他 15,513 83,786

投資収入 1,099 730

合計 494,681 993,218

◆支出（ドル）

内容 2009 2010

給与 178,350 164,066

経費 388,192 722,671

合計 566,542 886,737

（Return of Organization Exempt From Income Taxより）出典：Nathan Geisler, Shana Greenstein, Chuang-Chung Hu, Cisco Minthorn, Melissa Munsell

Urban and Regional Planning Program, University of Michigan 「Adversity to Advantage:New Vacant Land Uses in Flint」2009年

市中心部

SalemHousing 活動地域

空き家率

図－２ フリント市の空き家率

図－1 調査対象地

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2010年の支出を詳細にみる（表-4）。主な支出は給与に関する

費用と住宅売却損失である。給与関係の支出合計は 164,066 ド

ルで、全体の 18.5％となっている。経費の中で最も多くを占め

ているのは住宅売却損失であり326,422ドル、全体の 36.8％と

なっている。これはSalem HousingがLand Bankなどから入

手した物件を快適な住宅へと改修し、市場価格より安く売却を

しているためである。2010年は 46件の住宅を改修し売却して

いる。

４.Ramona Parkについて

Salem Housingの活動例としてRamona Parkの計画につい

て紹介する。

Ramona Park計画地一帯は空き家や放棄地が進み、荒廃した

一画となっていた。北部にある三角形状のRamona Parkは30

年前から公園として存在していたが、市には管理する予算もな

く荒れ放題となっていた。そこで、Salem Housingは地域改善

のため地域コミュニティ（Metawanenee Hills

Neighborhood Association）との協議を重ね、この街区すべて

を公園とすることを計画した。この地区は歴史的にはインディ

アンが居住していた土地で、ミシガン州が設立する時に重要な

役割を果たしたというNiomiというインディアンの出身地であ

るという。そのため地域コミュニティではRamona Parkに彼

の功績をたたえる碑をおきたいと考えている。

Land Bankにも協力を依頼し、Land Bankが収用していた

土地は無償で提供をしてもらい、空き家の撤去、芝生の管理な

どの実務作業はSalem Housingが管理を担当した。

また、Land Bank の所有にもならず、放棄された土地

（Abandon）についても雑草を除去し、芝生を植えるなどの活

動を行った。

現在、計画用地には 3軒の住宅が残っており、そのうち 2軒

には住民が居住している。これら住民に対しては、公的に立ち

退きを要求することは出来ず、自主的な転居などを待つしかな

い、という状況である。

将来的にはその街区全体を公園として大木のみを残し芝生を

植え、整備する計画である（図-6参照）。

しかし、このような放棄地での活動は、実は公的に認められ

た行為ではなく、あくまでSalem Housingと地域コミュニティ

の“自主的な”活動となっている。公園の計画も、Salem Housing

と地域コミュニティが希望している計画であり、所有者が拒否

し、訴訟などを起こせば活動は出来なくなる。だが、現実とし

て放棄地の所有者はこの土地に関心もなく、今後居住する意思

も見られないことからSalem Housingや地域コミュニティの活

動は市やLand Bankから黙認されている。

本来、公園の計画や地域計画は市が行うべき業務であるが、

このような活動を行う費用は市にはなく、Salem Housingや地

域コミュニティはLand Bankのプログラムを利用したり、連邦

政府の補助金などを獲得し、活動している。しかし、活動のほ

とんどがボランティアに支えられている。また、軽犯罪者の奉

仕活動としても認定され、芝生の刈り取りなどの労働力として

いる。

Metawanenee Hills Neighborhood Associationの地域におい

て空き家が多く発生している街区とそうでない街区がある（図

-4・5参照）。これは空き家が連鎖的に発生しているためである。

Salem Housingでは空き家や放棄地を“ガン”に例え、1件発

生すればそれが周囲に影響を及ぼすとして、早期の手入れや住

宅の解体などの対策を行っている。

Salem Housingにおける地域改善活動は、近隣住民および個

人の活動と地域コミュニティのプロジェクトに注目し対象とし

ている。Salem Housingが単独で活動を行うのではなく、地域

の協力が得られること、もしくは地域から必要とされているこ

とを前提としている。活動の多くは、新しく高機能で快適な住

宅の提供と、近隣美化あるいは近隣改善である。前者は付加価

値の高い住宅を提供し、高所得者の呼び込むことで地域のイメ

ージアップを狙っている。後者は低所得者に対し適切な価格で

よりよい住宅の提供を目指している。

５.まとめ

アメリカのCDCsは50年以上の実績があり、地域改善の大き

な担い手として期待されている。しかし、平山 2）3）によるとCDC

ｓ職員の給与は企業勤務者に比べると低く、待遇もいいとはい

えない。しかし、その活動が長く続いているということは、NPO

という組織形態が認知され、助成金などそれを支える制度や環

境も整っているためだと考えられる。

また、地域に対する危機感、行政任せにしない姿勢など地域

コミュニティの自立の高さが感じられた。しかし、全ての住民

が協力的というわけではない。活動を知っていても住宅を改修

しようとしなかったり、荒れたままで放置したりしていること

もある。そのような住民に対し、根気よく説明をし理解を求め

ることもCDCｓの活動の一つである。

表-4 Salem Housing CDC 2010年支出内訳（ドル）

給与 主要職員への支払い 58,720

その他職員への給与・賃金 72,852

福利 17,353

税金 15,141

小計 164,066

経費 法務 923

会計 11,500

事務所経費 2,328

占有権利費 13,260

交通費 3,074

会議 3,060

利子 12,643

消耗品 10,627

保険 14,743

住宅売却損失 326,422

不動産管理経費 127,256

コミュニティ連携経費 62,282

ワークショップ経費 61,552

税金など 55,672

その他 17,329

小計 772,671

合計 886,737

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今後日本でも、地域改善や地域コミュニティを支えていくの

はCDCsのようなNPOだと思われる。そのために先行事例の

さらなる研究と制度整備の検討が必要である。

フリント市では現在約50年ぶりに総合計画の策定に取りかか

っている。Salem HousingのようなCDCｓやLandBank、地

域コミュニティをどのように市の計画に取り込むのかに注目し

たい。

参考文献 1) 佐藤由美「人口減少が進む公営住宅地区の居住者やコミュニティの変化―ニュータウンの公営住宅居住者の居住実態―」日本都市計画学会都市計画論文集44-3、pp709-714、2009年 2）平山洋介「アメリカにおける CDCｓの発展とコミュニティ・ベースト・ハウジングの特性」日本都市計画学会学術研究論文集第 26 回 pp739-744、1991年 3）平山洋介「コミュニティ・ベースト・ハウシング 現在アメリカの近隣再生」ドメス出版、1993年

図－３ フリント市の土地利用状況

SalemHousing 活動地域

Metawanenee Hills Neighborhood Association

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Salem Housingの

活動対象地域

すべての住宅を撤去し、公園を計画

将来的にはこの街区も公園化したいと検討中

図－４ Ramona Park周辺地図

図－５ Metawanenee Hills Neighborhood Associationの活動範囲

図－６ Ramona Park将来計画図

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