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第4章 全国地熱資源調査

第4章 全国地熱資源調査 - JICA本調査対象地域の内、アンボン島のTeluhu 地域、スラウェシ島のLainea 地域、 Marana地 域、Bora 地域およびBituang

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  • 第4章 全国地熱資源調査

  • 4-1

    第4章 全国地熱資源調査

    4.1 73 地熱地域の予備的評価と補足資源調査地域の選定

    4.1.1 地熱資源の予備的評価結果

    (1) 調査対象地域

    予備的評価では、73 地域を対象に既存データの収集および情報の分析を行った。当初対象地

    域として予定されていた 70 地域に加えて、第1次現地調査時にインドネシア側から要請された

    北スマトラ州 Sipaholon 地域、ジャワ島東部の Iyan Argopuro 地域およびスラウェシ島ゴロンタ

    ロ州の Suwawa 地域の 3 地域を加えて、73 地域を調査対象地域とした( Fig. 4.1.1-1 参照)。

    (2) データおよび評価方法

    73 地域の広域地質・地質構造・坑井に関する地質データ、温泉・噴気ガスや坑井の噴出流体

    に関する地化学データ、および地熱概念モデル図は、CGR からの提供および公表文献・報告書

    等からの引用により収集・整理した。

    地質データに関しては、インドネシア全体の広域地質図、各地熱地域毎の地質図・断面図・

    変質帯関連図のデジタルデータで入手した。また、坑井掘削に関する情報は、掘削を実施した

    機関から CGR に情報提供が行われたもののみを解析に使用した。各地熱地帯の概念モデル図は

    確度が十分評価できるもののみを使用し、精度が不十分なものに対しては地下地熱資源を評価

    するために、地表調査結果から作成された地質図もしくは比抵抗探査データの用い、地熱資源

    の分布を検討した。

    主要化学成分データに関しては、温泉水 196 個、坑井熱水 20 個、噴気ガス 31 個、坑井噴出

    ガス 6 個のデータを収集することができた。また、水素および酸素の同位体データに関しては、

    温泉水 24 個、坑井熱水 4 個のデータを収集した。なお、温泉水の化学データは、51 地域に関

    するデータを取得できたが、その他の 22 地域については収集できなかった。化学・同位体分析

    データが得られなかった地域でも、CGR の内部資料に地表地熱徴候の最高温度や地化学温度等

    が記載されている地域については、それらのデータも検討・評価に利用した。

    (3) 地質

    インドネシアは、東西 5,120km、南北 1,760km にわたる大規模な島嶼国家である。合計 13,667

    の島が存在(別の統計では 18,000 とも報告されている)し、そのうち、住民が生活している島

    は約 6,000 と報告されている。主要なものとして、スマトラ島、ジャワ島、カリマンタン島、

    スラウェシ島、およびイリアンジャヤ島の 5 島があり、この他ヌサテンガラ群島、マルク群島

    およびその他 60 程度の小群島が存在する。これらの島々のうち、カリマンタン島は世界第 3 位

    の面積を有し、マレーシア国とブルネイ国と共有する。イリアンジャヤ島はパプアニューギニ

    アと折半している。93,000km2の内湾(海峡、湾、水域)部分を含み、国土面積は全体で1,919,317km2

    である。その他、インドネシア政府は排他的経済水域を約 5,000,000km2 としている。

    地理的には、大スンダ列島上に、スマトラ島、ジャワ島(マドゥラ島を含む)、カリマンタン

    島およびスラウェシ島が分布している。スラウェシ島を除いて、それらの島はマレー半島やイ

    ンドシナ半島の延長であるスンダ地塊に属する。インドネシア東部の世界第 2 の面積を有する

  • 4-2

    イリアンジャヤ島はサウル楯状地上に位置する。この両楯状地に挟まれて、スラウェシ島、ヌ

    サテンガラ群島(小スンダ列島)、およびマルク群島が分布している。

    インドネシアは、ジャワ島をはじめとして、地震活動および火山活動が活発な地域である。

    国内全体で約 400 の火山があり、その内約 100 が活火山である。1970 年以降、40 回以上の火山

    噴出が記録されており、その殆んどがジャワ島である。インドネシアで最近起きた最も激しい

    火山活動は、1815 年、西ヌサテンガラ州スンバワ島北岸近くのタンボラ火山による噴火であっ

    た。約 92,000 人が被災し、世界中の至るところで“ Year without a Summer(夏の無い年)”が発

    生した。1883 年には、ジャワ島とスマトラ島を画するスンダ海峡においてクラカタウ火山が噴

    火し、津波による被害で約 36,000 人の死者が西ジャワ州を中心にして発生した。近年では、2006

    年 5 月にジョグジャカルタ周辺で起きた地震によって、6,000 人以上が亡くなっている。この地

    震に関連して、ジョグジャカルタ北方のメラピ火山では、火砕流活動が活発化している。

    スマトラ島、ジャワ島、バリ島、ロンボク島、スラウェシ島およびセラム島にかけての島々

    では海抜 3,000~3,800m 程度の山脈が連なっている。一方、イリアンジャヤ島のジャヤウィジ

    ャヤおよびスディルマン連峰では、4,700~5,000m 級の山々が続いている。インドネシア最高峰

    の山は、同島スディルマン山脈のプンチャックジャヤ山で 5,039m である。

    ヌサテンガラ地域においては、バリ島から東方のイリアンジャヤ島にかけて二条の弧状列島

    が連なっている。内側の弧状列島は、スマトラ島からジャワ島・バリ島・フローレス島を通っ

    てバンダ諸島を終点とする弧形を形成し、山脈や火山が連続している。ヌサテンガラ地域の外

    側の弧状列島は、地質的にスマトラ島西方のニアス島・メンタワイ島・エンガノ島を含む弧状

    列島の延長部に相当する。このスマトラ西方の弧状列島は、ヌサテンガラにおいて再び海面上

    に現れ、断続的にスンバ島やティモール島へと連続している。

    マルク諸島は、インドネシア国内の北東部に位置し、北側をフィリピンとの国境で、東側を

    イリアンジャヤ島、南側をヌサテンガラと接し、複雑な地質構造を呈している。主要な島とし

    てはハルマヘラ島、セラム島やブル島などが存在するが、深海から急峻な山が突き出ており、

    そのため、海岸付近の平坦部が極端に少ないのが特徴である。

    インドネシアの地質構造区分については、大きく(1)マレー構造帯、(2)スマトラ構造帯、

    (3)スンダ構造帯、(4)マルク構造帯、および(5)イリアンジャヤ構造帯の5つに分けら

    れている (Fig. 4.1.1-2 参照)。

    (a) マレー構造帯

    マレー構造帯は、マレー半島からカリマンタン島西部、バンカ島、ビリトン島などを含み、

    主として古生代後期~中生代前期の花崗岩類から構成される。堆積岩類はマレー半島中央部

    を境として西部と東部で異なり、西部では非火山性の陸源性~浅海性環境下の古期大陸地殻

    上に堆積したと推定される。三畳紀の花崗岩類の貫入が知られている。東部には頁岩が多く

    分布する。石炭紀以降から三畳紀にかけて広域的な酸性火成活動、花崗岩類の貫入が認めら

    れる。ビンタン島・バンカ島・ビリトン島でのスズ硬化作用が知られている。

    (b) スマトラ構造帯

    スマトラ構造帯は、マレー構造帯の南側を取巻く形で、スマトラ島の大半からジャワ島北

    側・カリマンタン島の東南部~東部に至る地域で、古生代~中生代の様々な岩石を基盤とし

    ている。スマトラ島は主として古生界および三畳系とこれらを覆う新生代の堆積岩類・火山岩

  • 4-3

    類からなる。

    (c) スンダ構造帯

    スンダ構造帯は、スマトラ構造帯のさらに外側を位置する構造帯で、スマトラ島の西海岸

    からジャワ島南側を通り、小スンダ列島から北転してスラウェシ島の南西から北端のミナハ

    サ半島へと抜けている。中新世初期に広域的な沈降が始まり、中新世中期に最大の海進を迎

    えて頁岩が厚く堆積した。スマトラ島南西部では、流紋岩質~安山岩質火山岩類、同質砕屑

    岩類が多く見られる。

    スマトラ島、ジャワ島、バリ島、およびヌサテンガラ諸島の地熱地域は全て、このスンダ

    構造帯上に存在する。

    (d) マルク構造帯

    マルク構造帯は、スンダ構造帯の外側に位置し、スマトラ島西沖のムンタワイ諸島から、

    チモール島、タニンバール諸島・セラム島・タリアブ島、スラウェシ島東部に至る。超塩基

    性岩類によるオフィオライトが分布するが、活火山は見られない。

    本調査対象地域の内、アンボン島の Teluhu 地域、スラウェシ島の Lainea 地域、 Marana 地

    域、Bora 地域および Bituang 地域などはこの構造帯上に位置する。

    (e) イリアンジャヤ構造帯

    イリアンジャヤ構造帯はオーストラリアプレートに属し、大陸地殻と呼ばれるプレート張

    り出し部の北端に位置する。本構造帯は、東西に走る北部山脈と中央山脈および南部地域に

    三つに大別できる。北部山脈は古生代の変成岩・超塩基性岩などを基盤とし、中生代の火山岩

    類や新第三紀の堆積岩類が発達する。中央山脈地域では古生代から新生代までの堆積岩類(石

    灰岩・砂岩・頁岩等)が厚く堆積し、これに新第三紀の花崗岩類が貫入している。南部地域に

    は、中生代の石灰岩類と第四紀堆積岩類が広く発達している。

    この他、スラウェシ島北部の Lahendong 地域、Tompaso 地域、Kotamobagu 地域および Suwawa

    地域、ハルマヘラ島の Jailolo 地域、さらにはバカン島の Tonga Wayana 地域は、上述の5つの構

    造帯とは異なり、フィリピン国ミンダナウ島から連続する別個の地質構造区分に属する。これ

    らの地域は、北部のセレベス海プレートとモラカス海洋プレートの動きの結果、形成されたも

    のである。北部および南部からのストレスの影響、さらにはモラカス海洋プレートの西方移動

    による衝突などにより、スラウェシ島北部のミナハサ半島は時計回り方向に屈曲し、ハルマヘ

    ラ島の K 字型地形を形成したものと考えられている。

    (4) 地熱流体の化学特性

    収集した地熱水・ガスの化学データの整理・解析および CGR の資料に基づき求められた 73

    地熱有望地域に関する各種の流体地化学指標を Table 4.1.1-1 に纏めた。

    (a) 地熱流体の概要

    地表地熱兆候(温泉・噴気)の測定最高温度は、半数以上の地域で地表での沸点に近い 90℃

    以上の高温が確認されている。その他の地域でも、数地域を除いて 50℃以上の最高温度が観

    測されている。

    ほとんどの地域には複数の温泉・噴気が存在する。温泉水データが最も多い地域(Tulehu)

  • 4-4

    では、22 個の泉源に関する温泉水化学データが得られている。自然噴気ガスについては、16

    地域に関する主要化学データが得られたが、データが得られた地域以外にも複数の地域で噴

    気の存在を示す記録が認められる。自然噴気の存在は、地下浅部に約 100℃以上の地熱流体

    が存在することを示唆する。

    (b) 地熱流体の起源

    温泉水・坑井熱水の起源について、その水素・酸素同位体組成から検討した(App.4.1.1-1)。

    温泉水のほとんどは、一般的な天水が示す水素・酸素同位体組成(天水線:Meteoric Water Line)

    に近い組成を示しており、主な起源が天水(地下に浸透した降水)であることが示唆される。

    天水線から離れた水素・酸素同位体組成をもつ温泉水のうち、Bena-Mataloko などの温泉水

    は地表付近での沸騰(蒸気分離)による同位体組成変動を受けていると考えられ、起源とな

    る水は基本的には天水であるとみなされる。

    Wai Sano の一部の温泉水は「安山岩質マグマ水」が示す水素・酸素同位体組成を示してお

    り、マグマから直接発散された水を含有している可能性がある。

    Iboih-Jaboi や Lempur/Kerinci の温泉水・坑井熱水は、酸素同位体比(δ18O)が天水線から

    1~2‰大きい側にシフトした組成を示す。これは、天水起源の熱水が、酸素同位体比の大き

    い造岩鉱物と高温で同位体交換反応を起こしたことを示唆する。したがって、これらの地域

    では、十分に岩石と反応した高温の地熱貯留層流体が存在する可能性が高いと言える。

    App.4.1.1-1 に示したデータ以外にも、CGR の内部資料には、5 地域(Seulawah Agam、Hu’u

    Daha、Marana、Jailolo、Suwawa-Gorontalo)の温泉水等に関する水素・酸素同位体組成図が示

    されている。それらの組成図によれば、温泉水の多くは主に天水起源であるとみなされる。

    ただし、Hu’u Daha および Jailolo の一部の温泉水には海水が寄与していることを示唆するデ

    ータも認められる。熱水への海水の寄与については、後述する熱水の化学成分に基づく検討

    においても考察する。

    (c) 酸性 SO4型熱水の存在

    一般に、酸性 SO4型の熱水は、浅部の地下水や地表水が地下から上昇する H2S ガスを含む

    蒸気の混入により加熱されたものであり、H2S の空気酸化により生じた硫酸イオン(SO42-)

    を高濃度で含む。したがって、酸性 SO4 型熱水の存在は、地下深部に 100℃以上の温度をも

    ち、沸騰している地熱流体の存在を示唆する。

    本調査で収集した地熱水化学データを用いて作成した主要陰イオン三成分図と Cl/SO4モル

    比-pH 関係図を各々App.4.1.1-2 と App.4.1.1-3 に示す。これらの解析図による分類によれば、

    酸性(pH

  • 4-5

    すべての地熱水データで最も低い pH(1.9)を示すのは、Sokoria-Mutubusa の温泉水(95℃)

    である。また、最も高い SO4 濃度(5,485mg/L)を示すのは、Iboih-Jaboi の温泉水である(96℃、

    Cl/SO4モル比:0.004)。

    上記地域のうち、S. Merapi-Sampuraga、Pusuk Bukit-Danau Toba、Tangkubanperahu、Hu’u Daha、

    Sokoria-Mutubusa の 5 地域の温泉水には、Cl 濃度も比較的高く、Cl/SO4モル比が約 1.0 以上を

    示すものが含まれる。これらの温泉水は、マグマ起源の強酸性ガスである HCl や SO2 の混入、

    または海水(Cl 濃度が高い)の混入を受けている可能性がある。

    (d) 中性 Cl 型熱水の存在と海水の寄与

    一般に、地熱発電において利用される地下深部の地熱貯留層熱水は、中性(~弱アルカリ

    性)で、主要な陰イオンとしては Cl イオンが卓越する(App.4.1.1-2 では Cl-type、Cl-SO4-type

    もしくは Cl-HCO3-type に分類される)。このようなタイプの熱水は、天水起源熱水への岩石

    からの Cl の溶解、もしくは Cl に富む酸性マグマ起源熱水の岩石との中和反応により生成さ

    れる。このような中性 Cl 型の熱水が、地表の温泉や坑井において確認される地域では、地下

    深部に高温の貯留層熱水が存在している可能性が高い。

    本調査で収集した地熱水化学データの分類によれば、中性(~弱アルカリ性)で Cl 型の地

    熱水は、以下の 25 地域において確認される(App.4.1.1-2、App.4.1.1-3 および Table 4.1.1-1 参

    照)。 Iboih-Jaboi Lho Pria Laot Seulawah Agam

    G. Kembar Sarula Sibual Buali

    S. Merapi-Sampuraga Muaralabuh Sungai Tenang

    Sungai Penuh Tambang Sawah Suoh Antatai

    G. Sekincau Rajabasa Wai Ratai

    Cisolok-Cisukarame Tangkubanperahu Ungaran

    Wilis/Ngebel Hu’u Daha Wai Sano

    Sokoria-Mutubusa Oka-Larantuka Marana

    Tulehu Jailolo Sipaholon-Tarutung

    Suwawa-Gorontalo

    中性 Cl 型熱水は、深部貯留層熱水に由来するものでない場合でも、海水が混入することに

    よって生成する場合があることに留意する必要がある。熱水への海水の混入について、B-

    Cl 濃度関係図(App.4.1.1-4)と T-SiO2-Cl 濃度関係図(App.4.1.1-5)に基づき検討した。低

    温の海水は一般的な地熱水に比べて B/Cl モル比が非常に低い(約 0.001)。また、低温のまま

    の海水は全シリカ(T-SiO2)濃度が低い。それらに加えて、水素・酸素同位体組成からも、

    熱水への海水混入の可能性がある地域を抽出した。その結果、上記地域のうち、下線を付記

    した 6 地域の温泉水に海水が混入している可能性が示唆される(Table 4.1.1-1 参照)。それら

    の地域はすべて、海岸沿いもしくは小離島に位置する地熱地域であり、総じて温泉水の Cl 濃

    度は高い。

    以上のことから、海水の寄与が想定される 6 地域以外(19 地域)では、主に天水起源の深

    部貯留層熱水が存在している可能性が高いと評価される。ただし、それらの地域でも、海水

    の混入が完全に否定されたわけではなく、今後さらに詳細な検討が必要と思われる。また、

  • 4-6

    海水が混入していると考えられる地域でも、貯留層熱水が存在する可能性は残されており、

    必ずしも有望性が低いと評価されるわけではない。

    (e) 地化学温度による地熱流体温度の推定

    調査・開発の初期段階にある地熱地域では、流体の起源や熱水のタイプにかかわらず、温

    泉・噴気の化学データに基づき算出される地化学温度が、その地域の有望性を評価する最も

    重要な化学的指標となる。

    温泉水・坑井熱水および自然噴気ガス・坑井ガスの化学データから算出した地化学温度を

    Table 4.1.1-1 に示す。表中に示した各温度の計算に使用した地化学温度計は以下のとおりであ

    る。

    熱水シリカ温度

    TSiO2: α-クリストバライト温度、カルセドニー温度、石英温度(Fournier, 1977)

    熱水アルカリ比温度

    Na/K: Na/K 温度(Truesdell, 1976;Fournier, 1979)

    dMg: NaKCa-dMg 温度(Fournier and Potter, 1979)

    K/Mg: K/Mg 温度(Giggenbach, 1988)

    ガス化学温度

    Gas Chem. Temp.: CO2-H2S-H2-CH4温度(D’Amor and Panichi, 1980)

    温度変化に対する化学的な再平衡に要する時間が短いシリカ濃度をパラメーターとする熱

    水シリカ温度は、比較的浅部の温度を反映する。そのため、各地域の温泉水データから計算

    されたシリカ温度は、ほとんどが 200℃未満となっている。ただし、Sarula、Sungai Penuh、

    Suoh Antatai、G. Sekincau、Wai Ratai、Lahendong の 6 地域では 200℃以上の温度(最高は G.

    Sekincau の 257℃)が算出された。これらの地域では、Lahendong を除く全てで中性 Cl 型熱

    水が確認されており、深部高温熱水が存在する可能性が高いと言える。

    坑井熱水に関するシリカ温度(石英温度)では、Lempur/Kerinci、G. Salak、G. Wayang-Windu、

    G. Karaha において 200℃以上の温度が算出された。

    熱水アルカリ比温度のうち、Na/K 温度は比較的深部の熱水温度を反映すると考えられてい

    る。算出された Na/K 温度の最高は多くの地域で 200℃を上回っている。ただし、Na/K 温度

    が深部の熱水温度を反映するのは、対象となる地熱水が深部起源の岩石と十分に反応した熱

    水を含む場合に限られる。Na/K 温度の妥当性を評価するために、各地熱水に関する Na-K-Mg

    三成分図を作成した(App.4.1.1-6)。同図において、地熱水のデータが「full equilibrium」を示

    す曲線の近くにあるほど、Na/K 温度の妥当性は高いとみなされる。Table 4.1.1-1 では、妥当

    性が高いと考えられる Na/K 温度の算出値のみを示した。その Na/K 温度の各地域での最高温

    度は 170~300℃の範囲にあり、ほとんどの地域で 200℃以上となっている。

    ガス化学温度も比較的深部の流体温度を反映すると考えられている。ガス化学データが得

    られた地域のほとんどで、ガス化学温度の最高温度は 200℃を上回っている。地下流体の度

    指標となる H2/CH4モル比とガス化学温度の関係図を App.4.1.1-7 に示す。

  • 4-7

    (5) 地熱概念モデル

    地熱構造概念モデルを構築するために、貯留層構造(地下の地質構造)、熱源(地熱活動の変

    遷)、熱水(流体特性と流動パターン)に関する主要 3 要素のデータや情報を収集し、解析を行

    った。地質解析の作業フローを Fig. 4.1.1-3 に示す。

    殆んどの地熱貯留層は、蒸気と高温の熱水から構成され、多くは断裂型の地熱モデルで説明

    できた。地熱貯留層を効率的に開発するためには、貯留層の位置を確認し、断裂の分布だけで

    はなく、断裂内での地熱流体の挙動も把握することが必要である。地域毎に作成される概念モ

    デルは、各地熱貯留層の特徴を出来るだけ明瞭化させた。そのため、モデル構築においては、

    地質・水文地質・物理探査・地化学などの各種科学データをできるだけ多く集約した。

    地熱開発が可能な深度までの地質・地質構造を 2 次元もしくは 3 次元的に図面上に表現し、重

    力や比抵抗などの物理探査データや坑井試験データから地質構造を検討した。可能な場合には、

    岩相対比、断裂の傾向および変質帯分布など表現し、坑井掘削の結果を含めて、精緻化された

    地質状況を具体化した。

    さらに、地熱系内の熱水分布や貯留層構造を明らかにするために、火山活動の歴史に基づい

    た熱供給システムやその位置を概略特定し、広域的な地熱活動の中心を解明する努力をした。

    可能な場合には深部断裂構造と関連したマグマ溜りからの貫入、伝導熱、対流熱などを例示す

    ることによって地熱系への熱の流入をモデル図上に表現した。貫入岩が存在する地域では、貫

    入岩周辺の深部断裂構造沿いに貯留層が発達するケースがしばしば見られ、これも考慮した。

    このような地域では、構造解析を目的とした調査(重力探査・磁気探査・地震探査)が総合解

    析において有効であるが、このような解析ができた地域はほとんどなかった。また、岩石年代

    に基づいた火山活動史の考察から、残存マグマの地熱系に対する影響を検討した。

    73 調査対象地域の地熱流体特性の検討は、地質構造との関係を考慮して、主に、坑井、温泉、

    噴気からの流体地化学データに基づいて実施した。地熱流体の地域特性に関して、流体の特性

    や流動パターンについて、以下の点を考慮して検討した。

    (a) 地熱貯留層の水平・垂直方向の分布を考慮した温泉や噴気の分類

    (b) 噴気や温泉の起源および形成メカニズム

    (c) 地熱流体の分布およびその中心

    (d) 広域的な流動パターン(地熱流体の通路)

    (e) リチャージエリアおよびディスチャージ

    (f) 地熱流体の挙動と地質構造との関係

    本調査では各調査対象地域の開発可能な地熱資源量(出力)評価を実施する必要があったた

    め、可能な限り精度の高い概念モデル図を作成した。モデル作成に用いた資料は、インドネシ

    ア側から提供された各地域の既存概念モデル図、論文や公表済みの概念モデル関連資料、西日

    本技術開発㈱で過去に調査した際に作成したモデル図等を集約したものである。また、調査が

    未だ予備調査段階の地域や情報が少なくモデルの精度が劣ると判断される地域に関しては、地

    表地熱徴候図(噴気・温泉・地表変質帯の分布図)と地下浅部の不透水性ゾーン(帽岩)の広がりが

    推定できるように低比抵抗分布図(Schulanberger 法もしくは MT 法探査測定結果)を参考とし

    て、これらのデータを基に、貯留層の分布域およびその深度を推定し、各地域の地熱系モデル

    を検討した。

    なお、各地域の調査結果およびモデル図は、インテリムレポート(2007 年 3 月)に詳細を記

  • 4-8

    述した。

    (6) 資源量(容積法)の算出

    Fig. 4.1.1-4 に資源量評価フローを示す。地熱資源量は、地熱概念モデルに基づいて容積法

    (Stored Heat Method)を用いて試算した。

    初期の調査段階では地熱資源量を評価する手法として一般的に容積法が用いられる。容積法

    は地熱貯留層の規模(容積)とその平均的な温度を推定して地熱貯留層内に賦存の熱エネルギ

    ーーを試算し、それから回収できる割合を想定して発電出力に換算する手法であり、次式によっ

    て地熱資源量を求める。

    賦存熱量(Stored Heat)=(Tr-Ta)x{(1-φ)Cprρr+φCpwρw}x V 回収可能熱量(Heat Recovery:H.R)=Stored Heat×Recovery Factor 地熱資源量(Resource Potential)=(H.R. x C.E.)/(Lf x P.L.)

    ただし、 Tr,Ta :貯留層温度(℃)、利用限界温度(℃) φ :空隙率(%) ρr,ρw :岩石密度(kg/m3)、流体密度(kg/m3) Cpr,Cpw :岩石比熱(kJ/kg・℃)、流体比熱 (kJ/kg・℃) V :貯留層容積(km3) C.E. :電力変換効率(%) Lf :プラント運転期間(year) P.L. :プラント利用率(%) である。

    ここで、容積法における各入力パラメータ値を1つに特定することは困難であるため、各パ

    ラメータには通常想定される許容範囲があり、したがって容積法で求められる地熱資源量にも

    ある程度の幅がある。また、容積法では地熱資源の特色である再生可能性を考慮しないため、

    過小に評価される傾向がある。そこで、想定される地熱資源量の幅の中から統計的に確度の高

    い数値を求める手法としてモンテカルロ解析を適用した。

    モンテカルロ解析は、容積法に入力する各パラメータ値の想定範囲を設定し、乱数を利用し

    てそれらの任意の組み合わせによって算出される地熱資源量を統計処理して確率論で評価する

    手法である。本調査では各パラメータの組み合わせを 100,000 ケース抽出し、統計的手法によ

    り確度 20~80%の地熱資源量を求めた。

    資源量評価は、73 地域の予備的評価の際に最初に実施し、補足資源調査実施後にその結果を

    反映させ再度、実施した。その結果、最終的に地熱資源量が評価できるだけのデータが得られ

    たのは 39 地域であった。評価結果の一覧を後述する Table 4.7.1-1 に示し、各地域のモンテカル

    ロ解析結果を App.4.7.1-1 に添付する。Table 4.7.1-1 に示す計算結果は、補足地熱資源調査結果

    を反映させ計算した結果である。

    なお、既に開発段階にある地域では、貯留層シミュレーションなど容積法よりも詳細な手法

    で地熱資源量が評価されていることから、それらの地域は容積法による評価の対象から除外し、

    開発計画規模を採用した。

    (7) 簡易経済性評価

    データや情報が不十分な状況下での各地域の地熱開発事業の経済評価は、誤差が大きく、精

    度の高い評価を得るのは難しい。しかしながら、事業の経済性は資源の規模と同様に事業化の

  • 4-9

    優先順位を決定するのに必要な重要なファクターである。このため、補足調査を選定すること

    を目的に、各種の条件を仮定し、簡易経済性評価を実施した。ここでは地熱発電開発を行う場

    合の「kW 当たりの初期投資額」を求めた。簡易経済性評価は、資源量評価と同様に、73 地域

    の予備的評価に実施し、さらに、補足資源調査の後にその結果を考慮して再度、経済性評価の

    見直しを行った。

    地熱発電の場合、発電原価を左右するのは主として発電プラント費と坑井掘削費である。米

    国地熱エネルギー協会(Geothermal Energy Association)の報告では、一般的な地熱発電コストの内

    訳を見ると発電プラント費が 54%、掘削費が 23%を示し、両者の合計が全体の 77%を占めてい

    る(Hance、2005)。したがって、これらの費用を算出することで、初期投資額を概算で求めるこ

    とができる。そこで、簡易経済性評価では、発電プラント費と掘削費を初期投資額とし、これ

    を発電プラント規模で除することにより「kW 当たりの初期投資額」を求めた。なお、発電プ

    ラント規模は、各地域の地熱資源量の範囲内で電力需要を考慮して推定した。Fig. 4.1.1-5 に簡

    易経済性評価フローを示す。

    先ず、発電プラント費は、50MW 以上の発電規模については 1200US$/kW の設備単価とし、

    設備単価は規模が小さくなるほど割高になるものと考えた。

    次に、坑井掘削費は坑井1本当たりの掘削費×坑井本数により算出した。坑井1本当たりの掘

    削費は、想定される掘削深度から掘削単価を乗じて求めた。必要な坑井本数を求めるためには、

    坑井 1 本当たりの予想出力が必要である。しかし、坑井の噴出データがある地域は Kamojang

    などの開発中の地域に限定され、ほとんどの地域では噴出実績がない。このため、地熱貯留層

    の深度、温度および浸透率(kh 値)から坑井シミュレータ WELLFLOW を用いて坑井1本当たり

    の予想噴出量(出力)を試算した。ここで、地熱貯留層の深度と温度については、貯留層概念

    モデルから推定し、その圧力は深度に基づいて推定した。浸透率については、坑井データが無

    かったため、地熱地帯の一般的な数値を参考にして kh=1~5 darcy.m の範囲を設定し、深度が深

    くなるにしたがって小さくなるように設定した。以上の仮定を用いて、それぞれの条件におけ

    る坑井 1 本当たりの予想噴出量(予想される蒸気量と熱水量、および出力)を坑井シミュレー

    タ WELLFLOW で計算した。なお、貯留層温度、生産井の坑口圧力、タービン入口圧力の関係

    については、以下のように仮定した。

    貯留層温度 生産井の坑口圧力 タービン入口圧力 250℃未満 4 kg/cm2 Abs 2 kg/cm2 Abs

    250℃~290℃ 8 kg/cm2 Abs 6 kg/cm2 Abs 290℃以上 12 kg/cm2 Abs 10 kg/cm2 Abs

    地熱貯留層の深度と温度および坑井 1 本当たりの予想噴出量との関係を Table 4.7.2-1 に示す。

    最終的に、この表を用いて各地域で開発可能な規模の地熱発電所を建設する場合に必要な生

    産井と還元井の本数を求めた。坑井掘削の成功率は、生産井、還元井ともに開発中の地域につ

    いては 80%、調査段階の地域については 70%とした。還元井1本当たりの処理能力については

    一律 200 t/h と仮定し、それぞれの地域で想定される噴出熱水量からそれを処理するのに必要な

    還元井本数を算出した。こうして、必要な生産井と還元井の本数を求めた。

  • 4-10

    以上より、発電プラント費と坑井掘削費を合計して初期投資額とした。こうして求めた 49 地

    域の「kW 当たりの初期投資額」の一覧を Table 4.7.2-2 に示す。Table 4.7.2-2 に示す計算結果は、

    補足地熱資源調査結果を反映させ計算した結果である。本来ならば、アクセス道路工事や基礎

    工事などの土木費、配管費、送電線費等も初期投資には含まれるため、実際にはここに示した

    数値よりもさらに大きくなるが、各地域の経済性を比較するうえで有効であると判断した。

    4.1.2 補足資源調査地域の選定(補足地質・地化学調査)

    (1) 補足調査地域の抽出手順

    日本国内で収集した資料、第 1 次現地調査においてインドネシア側から提供された資料およ

    び各種聞き取り調査から得られた情報を踏まえて、全 73 地域の中から補足調査地域を選定する

    ための評価項目を検討した。評価項目策定の基本的な考え方は、インドネシアにおける地熱開

    発促進に繋がることを考慮して、下記の点に着目した。

    ・ 地熱構造や資源量から見て、豊富な地熱資源が期待されること

    ・ 経済性評価から見て、経済的な開発が可能と判断されること

    ・ 電力需要や開発政策・方針から地熱開発ニーズがあること

    ・ 地熱開発の障害となる社会的・環境上の課題が無いこと、もしくは回避できること

    補足資源調査地域の選定のために検討した評価項目を Table 4.1.2-1 に添付した。補足調査地域

    選定の流れは、評価項目に基づき、次の手順で実施した。

    (a) 事業経済性

    発電所建設コストおよび地域毎の貯留層の特性(深度、坑井特性(生産・還元量)を考慮

    した掘削コストに基づいた簡易経済性評価による初期投資コストのランク付け。

    (b) 地域の安全性

    現地での調査が安全に実施できない地域に関しては、将来的に地熱開発においても遅れる

    ことが考えられることから、外務省のインドネシアに関する海外安全情報の中で、安全が確

    保されていない下記の地域に存在する地熱地域は、補足調査候補地から除外した。

    ・ ナングル・アチェ・ダルサラム州(旧アチェ特別州)

    ・ マルク州、北マルク州、パプア州、西イリアンジャヤ州、中部スラウェシ州

    および東ヌサトゥンガラ州の西ティモール地区

    (c) 開発ステージ

    既開発地域、JOC 締結済地域、調査が十分に実施され、開発計画が既に確定している地域

    (Road Map2025 において開発プログラムが決定している地域。但し、掘削が実施されておら

    ず、地熱蒸気が確認されていない地域を除く)、および自然・社会環境上の制約がある地域に

    関しては、補足調査候補地から除外した。

    (d) 事業目的

    電力系統に組み込まれる大規模電源(Gridding)、 および地方電化に貢献し多目的利用等に

  • 4-11

    よる社会開発の政策的要素が加えられた小規模独立電源(Non-Gridding)別に各地熱地域を分

    類した。

    (e) 事業形態

    政府関連機関による ODA 事業、IPP 民間資金による事業、政府関連機関による無償支援事

    業別に各地熱地域を分類した。

    (f) 開発難易度

    インフラ整備状況、現地へのアクセス・立地条件、および周辺地域の開発状況等などから

    その必要性を検討した。

    (2) 補足資源調査地域

    上記の手順に従って、次に示す補足現地調査の実施が臨まれる 16 候補地(18 地熱地域)を選

    定し、第2回ワークショップ(2006 年 8 月末開催)において、インドネシア側に説明し、協議

    した。本会議において、以下の地域の地質・地化学調査に関する現地補足調査の実施が承認され

    た。

    Sipaholon-Tarutung(北スマトラ州)、Muara Labuh および G. Talang(西スマトラ州)、Sungai Penuh

    (ジャンビ州)、Bukit Gedung Hulu Lais(ベンクール州)、Marga Bayur(南スマトラ州)、Suoh

    Antatai および Genung Sekincau(ランプン州)、Cisolok-Cisukarame および Tangkuban Perahu(西

    ジャワ州)、 Citamang-G. Karang(バンテン州)、Telomoyo および Ungaran(中部ジャワ州)、

    Wilis-Ngebel および Ijen(東ジャワ州)、Sokoria-Mutubusa(東ヌサ・テンガラ州)、Tompaso(北

    スラウェシ州)、Suwawa(ゴロンタロ州)

    さらに本会議の中でインドネシア側から、次の 5 地域に関しては地熱資源の存在可能性が期

    待されることから、補足調査を実施して欲しい旨の要求があり、JICA 調査団は第 2 次現地調査

    期間内に追加して実施することに同意した。

    Pusuk Bukit-Danau Toba および Simbolon-Samosir(北スマトラ州)、Tambang Sawah(ベンクー

    ル州)、Raja Basa(ランプン州)、Kotamobagu(北スラウェシ州)

    このように、補足資源調査対象地域として次の 23 地域が選定された。Fig. 4.1.2-1 に現地補足調

    査を実施した 23 地域を示す。

  • 4-12

    補足調査対象地域一覧

    4.2 補足地質調査結果

    4.2.1 調査方法

    現地では、地層分布の確認調査を行うと共に、各地域の地熱流体の流動性に影響を与える可能

    性のある地質構造を把握するために断裂系調査を実施し、断層に関連する直接的な証拠を収集し

    た。また、新期火山岩や貫入岩が存在する場合には、岩質、分布や形状および成因等を調査し、

    地熱活動と流体の通路となる断裂・断層構造との関連性を検討した。地表変質帯が見られる地域

    に関しては、地熱流体の上昇域(ディスチャージ域)との関連性を検討する変質帯調査を実施し

    た。

    主な調査項目は以下のとおりである。

    (1) 地表地質調査

    広域地域および周辺の地質層序、地質構造、基盤岩の構造・岩相、新期火山岩の分布域の抽

    出を行った。特に断層の性状や多孔質地層の分布などの透水性に関する情報や水理を規制する

    地質構造、深部の火山活動あるいはマグマ活動に起因する熱源そのものの解明に繋がる情報等

    に収集した。

    Region Field

    North Sumatera ・ PUSUK BUKIT - DANAU TOBA (No.11) ・ SIMBOLON – SAMOSIR (No.12) ・ SIPAHOLON – TARUTUNG (No.71)

    West Sumatera ・ MUARALABUH (No.13) ・ G. TALANG (No.14)

    Jambi ・ SUNGAI PENUH (No.17)

    Bengkulu ・ B. GEDUNG HULU LAIS (No.21) ・ TAMBANG SAWAH (No.22)

    South Sumatera ・ MARGA BAYUR (No.24)

    Lampung ・ SUOH ANTATAI (No.28) ・ G. SEKINCAU (No.29) ・ RAJABASA (No.30)

    West Java ・ CISOLOK – CISUKARAME (No.35) ・ TANGKUBANPERAHU (No.40)

    Banten ・ CITAMAN - G. KARANG (No.42)

    Central Java ・ TELOMOYO (No.46) ・ UNGARAN (No.47)

    East Java ・ WILIS / NGEBEL (No.50) ・ IJEN (No.51)

    East Nusa Tenggara ・ SOKORIA – MUTUBUSA (No.57)

    North Sulawesi ・ KOTAMOBAGU (No.62) ・ TOMPASO (No.63)

    Gorontalo ・ SUWAWA-GORONTALO (No.73)

  • 4-13

    (2) 変質帯分布調査

    地熱流体の上昇域(ディスチャージ域)との関連性を検討するために、広域地域における地

    熱徴候・変質帯分布を抽出した。また、温泉や噴気の分布域とその位置関係(線状配列)から、

    それらの分布と断層等の地質構造との関連性を検討した。さらに、入手資料による変質帯分布

    (明礬石帯、カオリナイト帯、珪化帯等)を基に、熱水活動を推定した。

    (3) 断裂系分布調査

    広域地域の地熱流体の流動に密接な関係があると思われる断層抽出をおこなった。地表調査

    を実施した地域内には殆んど坑井調査は行われておらず、シュランベルジャー法や初期の MT

    探査等が実施されている程度で、低比抵抗部やその急変部に関しては、断層との関連を検討し

    た。また、これらデータが全く無い地域に関しては、衛星画像データや相対的に精度が高いと

    判断した地形図などからできるだけ構造を推定した。これらの断層や破砕帯の分布状況から、

    地熱流体の通路や貯留層分布域の推定に努めた。

    この他、新期火山岩や貫入岩の特定、熱水変質および火山・熱水活動の年代の把握を目的に

    岩石試料の採取を行った。

    試料分析項目および数量は、以下のとおりである

    ・岩石薄片作成 …………………21 試料

    ・岩石薄片顕微鏡観察 …………10 試料

    ・X線回折分析 ………………20 試料;全岩試料調整、全岩測定・解析、

    定方位試料調整、定方位測定・解析

    ・ICP70 成分分析 ………………11 試料

    ・年代測定 TL 法 ………………18 試料

    ・年代測定 K-Ar 法 ………………5 試料

    なお、年代測定については、既存データや現地野外状況から、より適切な年代測定手法(TL

    法もしくは K-Ar 法)を選択した。

    4.2.2 調査結果

    (1) 地質調査

    各地域の地表踏査結果は、第 4.5 章に示す地熱構造集約図(App. 4.5.2-1)および地熱構造評価

    表(App. 4.5.2-2)に反映させた。以下に本調査の実施により取得できた主な知見を列記する。

    また、App. 4.2.2-1 に地質調査内容を示す。なお、調査結果の詳細はインテリムレポートに記載

    した。

    スマトラ島の地熱地域は、広域的な断層である NW-SE 系のスマトラ断層に沿って、全島に亘

    り分布している。一部の地域(Muara Labuh および Sungai Penuh)を除いて、第四紀の活発な火

    山活動を熱源として貯留層が形成されている。概して、大規模な地熱資源量を有する地域が多

    く見られるが、(Tambang Sawah、 B. Gedung Hulu Lais、Muara Labuh、Sungai Penuh 地域では、

    Pull-Apart 盆状構造によるグラーベン型貯留層が発達している。

    ジャワ-バリ地域の地熱地帯は、大局的にはプレートの境界や火山の配列と平行に E-W 方向

  • 4-14

    に広範囲に亘って分布している。Cisolok-Cisukarame を除いて調査を実施した地域は全て第四紀

    の火山活動に関係していることが判明したが、広域的な構造から副次的に派生した N-S 系、

    NE-SW 系もしくは NW-SE 系の断層に沿って、カルデラ型もしくはドーム型の地熱貯留層を形

    成している。

    北部スラウェシ島の地熱地帯は、フィリピンのミンダナオ島から連続する火山列の南端に位

    置する。NE-SW 系の広域断層が発達しており、Tondano カルデラの南西部や Ambang 火山の周

    縁に地熱帯が形成されている。Kotamobagu 地域ではカルデラの一部が崩壊し、グラーベン型の

    地熱系(Kopandakan 地区、Bakan 地区)も形成されている。Suwawa-Gorontalo 地域には新規の

    火山活動は確認されていない。

    フローレス島の地熱地帯は比較的規模は小さいものの、新期火山岩の周辺にカルデラ型もし

    くはドーム型の地熱系を形成している。

    (2) 採取試料の解析方法・結果

    室内分析を実施した結果を以下にまとめる。

    各地域で採取した地表に分布する火山岩は、肉眼ではやや新鮮な岩相を示すが、顕微鏡観察

    の結果、造岩鉱物が変質鉱物に置換されている場合が多く観察され、地表でもやや熱水変質作

    用が進んでいることが明らかになった。

    X 線回折分析を実施することにより、各地熱地域に発達する変質帯の変質鉱物種を把握する

    ことができた。分析を実施した多くの地域で、温泉・噴気の活発な箇所では、強い酸性変質帯

    が分布することが把握された。一部の地域では(Muaralabuh など)では、中性~弱アルカリ性

    熱水による変質帯が分布することが明らかになった。これら X 線分析結果と薄片観察結果およ

    び地表踏査結果を組み合わせることにより詳細に地表の変質帯分布が把握できた。

    Pusuku Bukit-Danau Toba では、地熱貯留層分布深度の基盤岩の観察を行い、基盤岩の一部は化

    石片を含む、石灰岩からなることがわかった。

    Sungai Penuh では、盆地と丘陵を境する断層の上盤に位置する丘陵を構成する花崗岩の薄片観

    察をした。鏡下では、剪断変形構造が観察され、スマトラ断層帯による断層破砕帯が盆地西部

    の丘陵に幅広く分布することが把握された。

    火山岩の化学分析を実施することにより、熱源と関連性の深い火山層序を検討するための基

    礎的データを得ることができた。

    各地熱地域に分布する変質岩の TL 年代測定を実施した結果、変質年代として、1.7 Ka~2400

    Ka の値が得られ、各地熱地域の変質年代を明らかにすることができた。

    Cisolok-Cisukarame 地域で、Cisolok の温泉の南方に火山岩が見いだされた。偏光顕微鏡観察

    の結果、安山岩(熱水変質をやや受けている)からなることが明らかになった。また、その K-Ar

    年代測定は、測定の結果、10 Ma 程度の年代値が得られた。

    以下に分析項目ごとに記載する。App. 4.2.2-2 に室内分析項目を示す。

    (a) 岩石薄片作成・顕微鏡観察

    偏光顕微鏡観察は、岩石名、岩相および変質状況を明らかにすることを目的として実施し

    た。採取された試料のうち、岩種または変質の代表的な部分から薄片を作成し、偏光顕微鏡

    下で観察・記載した。鏡下における観察事項は、鉱物組成、組織、共生関係等である。観察・

    記載された鉱物組成、組織、共生関係等をもとに、岩相および変質状況を検討した。

  • 4-15

    岩石薄片観察結果一覧表を App. 4.2.2-3 に示す。

    (b) X 線回折分析

    粉末 X 線回折分析は、変質鉱物を同定することを目的として実施した。X 線回折用全岩粉

    末試料は、採取した試料を乳鉢で 50~100 メッシュに粉砕し、さらにメノウ鉢内で指頭に感

    じない程度(150~200 メッシュ)まですりつぶし、測定用試料とした。

    測定は、X 線回折分析装置を用いて行う。スリット条件、カウント・フルスケール等の測

    定条件は、記録紙(X 線チャート)上の各ピークが小さすぎないよう、また、スケールアウ

    トするピークが多くならないように設定し、全試料とも同一条件になるように測定した。鉱

    物の同定は、X 線チャートのピークと JCPDS (Joint committee on powder diffraction standards

    の略称)が刊行している X 線粉末回折データファイルを照合して行った。鉱物の量比は、各

    鉱物の最強ピークについて、石英指数(林、1979)を用いて整理した。石英指数は、試料中

    のある鉱物の最強X線強度 Im(cps)を同じ実験下で測定した純粋な石英の最強X線強度 Iq

    (cps)の百分率で表したものである。同定された変質鉱物種は、変質作用に係わった地熱流

    体の温度や pH の推定を行うための基礎資料として利用した。

    分析の結果、X 線回折分析により同定された変質鉱物は以下のとおりである。X 線回折分

    析一覧表を App. 4.2.2-4 に示す。

    珪酸塩鉱物 : トリディマイト・クリストバライト・石英

    粘土鉱物

    : スメクタイト・緑泥石/スメクタイト混合層鉱物・緑泥石・イライト・カオリナイト

    沸石類 : モルデン沸石 硫酸塩鉱物 : 明ばん石・硬石膏 その他 : 黄鉄鉱・菱鉄鉱・斜長石

    (c) ICP70 成分分析

    火山岩の化学成分を明らかにするために、ICP70 成分分析装置を用いて行った。火山岩の

    主成分・微量元素を分析し、化学成分と鉱物組成を比較・検討することにより、火山の性状・

    発達様式を検討した。その結果は、熱源評価や地熱系の評価の基礎資料とした。

    (d) 年代測定 TL 年代

    熱ルミネッセンス法(TL 法)は、石英や長石などを用いて火山噴出物の年代測定、土器な

    どの考古試料の年代測定や堆積物の年代測定に広く用いられている。TL 法では、試料を加熱

    すると捕獲電子が伝導帯レベルまで励起され、基底状態に戻るときに光エネルギ-を放出す

    る現象を利用する。これを熱蛍光現象あるいはサ-モルミネッセンス(TL)と呼んでいる。

    TL値は、対象鉱物が生成してから現在までに受け取った化石線量あるいは等価線量(ED)

    と、試料が1年間に被爆する年間線量(AD)との比で与えられ、これらの値を測定すること

    により、年代値を求める。

    断層粘土や変質岩の年代測定では、岩石の生成以来蓄積されていたTL信号やESR信号

    が、断層運動による摩擦熱や地熱流体の熱により消失(アニーリング、リセット、ゼロイン

    グ)し、その後再び蓄積された信号を計測することによって、熱イベント年代が推定される。

    これにより、岩石の変質年代を求めることができる。地熱地域の変質年代を求めることは、

  • 4-16

    その地域の地熱系・地熱活動を評価する上で、極めて有用なものであり、本調査では、変質

    年代を求めるために、本分析を実施した。

    熱ルミネッセンス年代測定結果一覧を App. 4.2.2-5 に示す。表に示すように、今回の石英試

    料の TL 年代は 1.7~2400ka(1700 年~240 万年)を示している。TL 信号は耐熱性が低いので、

    これらのTL年代は、試料が常温以下に冷却してからの年代を意味している。なお、石英の

    TL 年代測定の上限は数百万年であるとされている。今回の試料の一部(200 万年を超える試

    料)は限界に近いものであるといえる。

    (e) 年代測定 K-Ar 年代

    火成岩の絶対年代を明らかにするために、K-Ar 法年代測定を行った。K-Ar 法年代測定は、

    40K の壊変により 40Ar が生じるものを利用するもので、火成岩の絶対年代測定に広く用いら

    れている方法である。

    測定した試料のうち、No.62-1 は、測定した試料は、Danau Mooat 北岸の標高 1、246 m の

    円頂丘(Bulud Duluong)を構成する andesite である。

    No.62-3 および 62-4 は、Kopondakan の西に見られる火山岩を対象とした。No.62-3 の露頭

    は、上位より、礫層(2m)-―火砕流堆積物 or 再堆積物(1m)-礫層(0.6m)―非溶結火砕

    流堆積物(7m、下限不明)が観察される。火砕流堆積物の中ほどに細粒になる部分があり、

    2つのフローユニットからなる可能性がある.それぞれのフローユニット内では無構造であ

    る。石質岩片は最大径 5cm.茶色っぽい風化(角閃石)安山岩が多い。採集した試料は軽石

    片、石質岩片である。No62-4 は、Tungoi の道路西側の法面の露頭で、露頭幅 200m、高さ 30-40m.

    変質および未変質安山岩.露頭の南端から 50m 地点の幅 10~15m の部分だけが未変質.あと

    は白色に変質している。採集した試料は、未変質角閃石安山岩および変質安山岩である。Bakan

    および Tungoi の角閃石安山岩は 8-10+mm の大きな角閃石斑晶が特徴的だが、ここの角閃石

    斑晶は小さい(~2・3mm)。測定結果一覧表を App. 4.2.2-6 に示す。

    4.3 補足地化学調査結果

    各地熱地域の貯留層流体特性(起源、加熱機構、温度、混合流動状況等)を把握・推定するた

    め、もしくはその確度を向上させるため、既存データでは不足している地熱流体の化学・同位体

    データを取得することを目的とし、温泉水および噴気ガスの採取・分析を行った。

    4.3.1 調査方法

    各対象地域内および周辺地域の温泉水・噴気ガスを現地で採取し、持ち帰った試料の化学・同

    位体分析を行った。採取試料の選定は、各地域における既存データの数量・採取位置・分析項目

    等とともに、現地での地熱徴候の状況に基づき決定した。

    温泉水試料は、水量 0.5~4L をポリエチレン製容器に採取・密栓し持ち帰った。一部の試料に

    は、溶存成分の沈殿等を防止するため、採取時に塩酸による酸処理を施した。試料採取時には水

    温および気温を測定・記録するとともに、簡易的に pH および電気伝導度を測定した。

    噴気ガス試料は、事前にアルカリ溶液(NaOH)を封入した後に真空としたガラス捕集瓶を利用

    (Giggenbach 法)し、自然噴気にステンレス製ファネルを被せてシリコンチューブによりガスお

    よび蒸気凝縮水を瓶内に導入して採取した。

  • 4-17

    持ち帰った温泉水・噴気ガス試料は日本に送付し、国内の分析所において化学・同位体分析を

    行った。分析方法を App. 4.3.1-1 に、分析項目と数量を以下に示す。なお、温泉水の分析は、深部

    の地熱貯留層熱水を混入している可能性が高い温泉水、すなわち湧出温度が高く中性で塩濃度(電

    気伝導度)が高い試料を主な対象とした。

    ・温泉水

    pH、電気伝導度、T-SiO2、δD(H2O),δ18O(H2O) ………… 18 試料

    Cl ………………………………………………………………… 19 試料

    Na,K,Ca,Mg,Fe,NH4,SO4,HCO3,B ……………… 10 試料

    ・噴気ガス

    不凝結ガス濃度,CO2,H2S,HCl,H2,N2,CH4,O2,Ar …… 10 試料

    δD(H2O),δ18O(H2O)(凝縮水)………………………………… 9 試料

    本調査で温泉水もしくは噴気ガスを採取・分析した地域は、今回現地調査を行った 23 地域のう

    ちの 16 地域となった。

    4.3.2 調査結果

    温泉水・噴気ガスの化学・同位体分析結果とその分析データから算出した地化学温度や化学成

    分比を App. 4.3.2-1~App. 4.3.2-3 に示す。調査結果の詳細はインテリムレポートに記載した。

    温泉水については、ほとんどの試料において、深部の貯留層熱水の混入を示唆する高い Cl 濃度

    および T-SiO2濃度が分析された。各々の最高の濃度は、Cl 濃度が Rajabasa(6,830 mg/L)の温泉

    水で、T-SiO2濃度が Sungai Penuh(402 mg/L)の温泉水で認められた。

    噴気ガスについては、すべての試料の分析データに試料採取時もしくは採取後に混入した大気

    に由来すると考えられる O2(酸素)が含まれていたため、解析に際しては大気補正を施したデー

    タ(App. 4.3.2-3 下)を使用した(ただし、Muaralabuh の試料には過剰な O2が含まれていたため

    補正が不可能であった)。不凝結ガス(NCG:Non-Condensable Gas)の濃度は、Simbolon-Samosir・

    B. Gedung Hulu Lais・Ungaran・Wilis/Ngebel の4箇所の試料で 15 mole%以上の高い濃度が認めら

    れたが、これは、噴気温度が沸点よりも低いことから、噴気中の蒸気が地表近くで凝結したこと

    によりガス成分が濃縮されたことによると考えられる。不凝結ガスの主成分は CO2 であり、H2S

    は最高で 14.8 mole%(G. Skencau)含まれていた。マグマから直接的に発散される高温ガスに特徴

    的な HCl は、0.1 mole%以下とほとんど含まれていなかった。

    4.3.3 データ解析

    本調査により得られた温泉水・噴気ガスの化学・同位体データを使用し、下記の項目の解析を

    行った(解析結果の詳細はインテリムレポートに記載した)。

    ・熱水起源の推定(天水・海水等):水素-酸素同位体組成図(App.4.3.3-1)

    ・熱水タイプの分類、加熱機構推定:

    主要陰イオン三成分図(App.4.3.3-2)および Cl/SO4-pH 関係図(Fig.

    App.4.3.3-3)

  • 4-18

    ・熱水の起源・貯留母岩の推定:温泉水の B-Cl 濃度関係図(App.4.3.3-4)

    ・熱水化学成分による地下流体温度の推定:

    地化学温度計算(App.4.3.2 -3)

    T-SiO2-Cl 濃度関係図(App.4.3.3-5)

    Na-K-Mg 三成分図(App.4.3.3-6)

    地化学温度比較図(App.4.3.3-7)

    ・噴気蒸気の起源の推定(天水・マグマ水等):水素-酸素同位体組成図(App.4.3.3-8)

    ・噴気ガス化学成分による地下流体温度の推定:

    地化学温度計算(App.4.3.2-3)および噴気ガス地化学温度相関図(App.4.3.3-9)

    なお、App.4.3.3-1 および App.4.3.3- 8 の作成に際しては、(独)産業技術総合研究所の高橋正明

    氏より提供頂いた未公表のスマトラ島北部の地表水に関する水素・酸素同位体データも使用した。

    また、本解析で適用した地化学温度計は以下のとおりである。

    熱水シリカ温度

    T SiO2: 石英温度、カルセドニー温度、α-クリストバライト温度(Fournier, 1977)

    熱水アルカリ比温度

    T Na/K(T): Na/K 温度(Truesdell, 1976)

    T NaKCa: NaKCa 温度(Fournier and Truesdell, 1973)

    T dMg: NaKCa-dMg 温度(Fournier and Potter, 1979)

    T K/Mg: K/Mg 温度(Giggenbach, 1988)

    ガス化学温度

    T D&P: CO2-H2S-H2-CH4 温度(D’Amor and Panichi, 1980)

    T CO2/Ar: CO2/Ar 温度(Giggenbach, 1991)

    各地域の解析結果については第3章に述べる既存データも併せた解析・考察による地熱資源評

    価に反映させるが、本調査の実施により取得できた主な新たな知見や特記すべき解析結果は以下

    のとおりである。

    ・地熱流体の起源に関し、同位体データの取得によって、いくつかの地域について明確にするこ

    とができた。G. Sekincau・Ungaran・Wilis/Ngebel の流体にはマグマ起源水が含まれていることが確認できた。 ・高温の深部地熱貯留層熱水では一般的な熱水の岩石との反応による酸素同位体シフトが一部地

    域(Muaralabuh・Sungai Penuh・Suoh Antatai・Tompaso)の温泉水において明確に認められ、貯留層流体存在の可能性が非常に高いことが確認された。 ・温泉水および噴気ガスの化学データ使用に基づく新たな地化学温度データの取得により、地下

    地熱流体温度の推定精度の向上に寄与できる。本調査で得られたデータからは、Muaralabuh・

  • 4-19

    Sungai Penuh ・ B. Gedung Hulu Lais ・ Suoh Antatai ・ G. Sekincau ・ Rajabasa ・Cisolok-Cisukarame・Ungaran・Wilis/Ngebel において 200℃前後もしくはそれ以上の高温流体が存在することが推定される。 4.4 補足物理探査結果

    4.4.1 対象地域の選定

    物理探査地域の選定に関しては、2006 年 10 月 17 日に実施された Counterpart Meeting によって

    決定された。

    本会議において、まず JICA 調査団から、現地補足地質・地化学踏査(23 地域)および既往調

    査の結果を踏まえて、資源量および流体化学特性を考慮した MT/TDEM 調査が実施可能な 34 地域

    (Table 4.4.1-1 参照)が説明された。

    次に、地下資源センター(CGR:バンドン)側から政府管轄地域内での MT/TDEM 探査希望地

    域の説明が行われた。CGR が希望した地域の優先順位は以下の通り。

    1. Sokoria-Mutubusa(東ヌサテンガラ州)

    2. Muala Laboh(西スマトラ州)

    さらに、PERTAMINA 鉱区内での MT/TDEM 探査希望地域の説明が PERTAMINA 側から行われ

    た。PERTAMINA が希望した地域の優先順位は以下の通り。

    1. Kotamobagu(北スラウェシ州)

    2. Sungai Penuh(ジャンビ州)

    最後に、JICA 調査団と DGMCG を含めたインドネシア側地熱関係者との間で、資源量・社会環

    境面・将来の開発計画に関する議論が行われた結果、次の2地域が補足物理探査(MT/TDEM 探

    査)候補地として選定された。

    1. Sokoria-Mutubusa(東ヌサテンガラ州)

    2. Kotamobagu(北スラウェシ州)

    4.4.2 データ取得・解析方法の概要

    選定された2地域において補足物理探査(電磁探査;MT/TDEM 法)を実施し、調査地域の地

    下深部における詳細な比抵抗構造(電気的な構造)の把握に努めた。調査目的は、比抵抗分布の

    形状から断裂構造の分布や地下における熱水変質帯の分布状況等を検出し、地熱貯留層の位置・

    方向性を検討するとともに、掘削有望地域の選定の基礎資料となることとした。

    本調査では、深部までの比抵抗構造の解析が可能な地磁気地電流探査法(MT 法)を実施した。

    また、浅部の比抵抗構造を詳細に解析可能な時間領域電磁探査法(TDEM 法)も同時に実施し、

    MT 法探査データの浅部構造の補正を行い、地下比抵抗構造の解析精度の向上を図った。

    探査測点は、地熱構造、特に地熱流体の通路・貯留域となり得る断裂構造(断層・カルデラ壁

    等)の分布位置を詳細に検討するため、間隔を 600~1250mとした概略格子状に設置した。測点

    数は1地域につき 35 測点(2地域で合計 70 測点)とした。また、貯留層深度に関する過去の調

    査開発経験や経済的に掘削可能な深度から、概略 1000~2500mの貯留層構造が解明できれば良い

    ことから、MT 探査においてはこの深度あるいは、さらに深部の比抵抗情報を得ることが可能な

  • 4-20

    360~0.001Hz の周波数範囲において 30 周波数以上のデータ取得を行った。

    また、TDEM 法により浅部の比抵抗情報を取得し、その浅部比抵抗情報を基にして、現地で取

    得したMT法データ(見掛比抵抗値)の補正(スタティック補正)を実施した。さらに、補正後

    の見掛比抵抗値から地下深部までの比抵抗構造を解析するために、2次元比抵抗断面解析(有限要

    素法を用いた2次元平滑化拘束付き逆解析)を実施した。

    (1) 調査項目

    調査方法 : リモートリファレンス方式地磁気地電流探査(MT 探査)および時

    間領域電磁法探査(TDEM 探査)

    調査面積 : Sokoria 地熱地域 約 9km2、

    Kotamobagu 地熱地域 約 37.5 km2

    測点数 : Sokoria 地熱地域 35 点、

    Kotamobagu 地熱地域 35 点

    測定成分(MT) : 磁場 3 成分 (Hx, Hy, Hz)および電場 2 成分 (Ex, Ey)

    測定成分(TDEM) : 送信電流遮断後の垂直磁場成分 (Hz)

    測定周波数(MT) : 0.00041Hz~360Hz の範囲の 80 周波数

    送信周波数(TDEM): 2.5Hz

    (2) 現地調査方法

    (a) 調査地域および測点配置

    Sokoria 地域の MT/TDEM 探査調査位置図を Fig. 4.4.2-1 に、また、Kotamobagu 地域の

    MT/TDEM 探査測点位置図を Fig. 4.4.2-2 に示す。測点は比抵抗構造および断裂構造の分布位

    置を詳細に把握するために、Fig. 4.4.2-1-Fig. 4.4.2-2 に示すように、測点間隔 600~1250m

    (Sokoria 地域:約 600m、Kotamobagu 地域:約 1250m)で、概略格子状に配置した。なお、

    本調査で測定を実施した測点数は Sokoria 地域、Kotamobagu 地域とも 35 点であり、測点位置

    の座標は GPS を用いた簡易測量によって決定した(Sokoria 地域および Kotamobagu 地域の

    MT/TDEM 測点座標一覧図を Table 4.4.2-1 に示す)。現地における測定は PT. ELNUSA

    GEOSAINS の技師および西日本技術開発㈱の技師による共同作業により実施された。また

    Sokoria 地域においては CGR の技師により、Kotamobagu 地域においては PT. PERTAMINA の

    技師により、測定に必要な現地作業の許可取得および現地作業の助勢が行われた。

    (b) リモートリファレンス点の選定(MT 探査)

    電磁ノイズ除去のために設置するリモートリファレンス点は、調査地域の外に位置し、且

    つ電磁ノイズ(電線、パイプライン、民家等)が可能な限り少ない地点を選定する必要があ

    る。Sokoria 地域の調査においては調査地域の西約 20km の農地内で、また、Kotamobagu 地域

    の調査においては調査地域の北東約 70km に位置する空地で、テスト観測を実施したところ、

    電磁ノイズが非常に少なく、本調査のリモートリファレンス点として適当であると判断され

    た。このため、この地点に調査期間中、リモートリファレンス点を設置し、観測を行った。

    (c) データ取得方法

    本調査では、リモートリファレンス点と調査地域内の測点 2~3 点で、同時観測を行うリモ

  • 4-21

    ートリファレンス方式を実施した。観測点においては、電場 2 成分(Ex, Ey)および磁場 3

    成分(Hx, Hy, Hz)について時系列データの測定を実施した。なお、電位電極間隔は原則とし

    て Ex,Ey ともに 70~100mとして測定を実施した。

    電場および磁場データの測定は、主に人工ノイズが少ないと考えられる夜間帯(17 時から

    翌朝 8 時まで)に実施した。測定した周波数は 360Hz から 0.00041Hz であり、この周波数帯

    において、80 周波数の見掛比抵抗値および位相値を算出した。時系列データの取得は、各測

    定点およびリモートリファレンス地点で同時に行い、512MB のフラッシュメモリカードに記

    録した。なお、全周波数データは 20 のセグメントに分割して、周波数解析を行い、クロスパ

    ワー、インピーダンステンソルを計算した後、最終的に見掛比抵抗値および位相値を算出し

    た。この結果、算出された各周波数毎および各セグメント毎の見掛比抵抗値および位相値を

    各データの標準偏差によりチェックした。20 のセグメント毎に算出された見掛比抵抗値と位

    相値の内、平均値から大きく離れたデータは除外し、その後、除外されなかったデータのみ

    を用いて見掛比抵抗値および位相値の再計算を行った。再計算後の見掛比抵抗値および位相

    値の周波数毎の連続性がなおも低い場合には、連続性が高くなるまで、この操作を繰り返し

    行い、見掛比抵抗値と位相値の最終値を決定した。なお、各測定点において取得されたデー

    タは、ノートタイプのパーソナルコンピューターを用いて各観測点で回収し、宿舎にて外付

    け型ハードディスクに記録を行った。

    時間領域電磁法探査(TDEM 電磁探査)は、地表に設置した正方ループコイルに人工的な

    電磁エネルギーを発生させ、この電磁エネルギーにより励起される渦電流をを測定する電磁

    法探査である。本調査においては、人工電磁エネルギーを遮断した後に、渦電流により発生

    する2次電磁場を送信源となる正方ループコイルの中央に設置した受信コイルをもちいるこ

    とにより測定を行った。TDEM 法電磁探査は通常 10-500m程度の地下比抵抗構造を把握す

    る手法であるが、今回の調査においては MT 探査のスタティック補正を行う目的で実施した。

    なお、MT 探査および TDEM 探査の測定装置配置状況図を Fig. 4.4.2-3 に示す。

    (d) 現地データ処理

    各測定点およびリモートリファレンス地点において回収された電場および磁場の時系列デ

    ータは、宿舎にてリモートリファレンス処理を実施した。リモートリファレンス処理後、以

    下に示す MT パラメータの算出を行った。

    ・周波数毎の見掛比抵抗値(南北方向および東西方向)

    ・周波数毎の位相値(南北方向および東西方向)

    ・コヒーレンシー値(Ex-Hy, Ey-Hx, Ex-Hx, Ey-Hy)

    ・ティッパー値

    リモートリファレンス処理により得られるクロスパワーデータの編集後、上記データの連

    続性、S/N を確認し、データの品質が悪い場合には、同一測点による再測定を実施した。ま

    た、再測定においてもデータ品質の向上が認められない場合には、測定点を若干移動して再

    度測定を行った。今回の現地測定においては、幾つかの測点における低周波数のデータにお

    いて、標準偏差の比較的大きなデータが認められたものの、解析には充分な精度のデータの

    取得を行うことができた。

    また、各周波数の 20 クロスパワー毎の見掛比抵抗および位相をコンピューター画面出力す

  • 4-22

    ることにより、時間毎のノイズ状況を把握し、特にノイズが多い(風雨や雷)と考えられる

    時間帯のデータを取り除くエディット処理(データ編集作業)を実施した。

    (3) 解析方法

    データ解析の最終目的は、地下構造の解明に役立つ、調査地域の水平方向および垂直方向の

    比抵抗分布を精度良く解析し、比抵抗構造による地下構造解析に役立てることである。

    (a) データ解析の概要

    1) 見掛比抵抗

    MT 法データの解析の基本式はカニヤルの式(Cagniard equation)と呼ばれており、(1)式で

    表現される。この式は水平成層大地に平面電磁波が垂直に入射するとして、マックスウエル

    の方程式(Maxwell’s equations)により導かれる。

    22.0HE

    fa=ρ (1)

    ただし、

    ρα :見掛比抵抗(ohm-m) f :周波数(Hz) E :電場(mV/km)の水分成分

    H :磁場(nT)の水分成分

    2) 透入深度

    透入深度は、一般に(2)式に示す表皮深度が用いられている。これは、比抵抗一定の均質媒

    質に、平面電磁波が垂直に入射した場合に、電磁波が、地表の 1/e に減衰するまでの距離で

    あり、カニヤルの式(Cagniard equation)における見掛比抵抗値の測定対象深度を意味する。

    2/1)/(355 fρδ ×= (2)

    ただし、

    δ :透入深度(表皮深度)(m)

    ρ :大地の比抵抗(ohm-m)

    f :周波数(Hz)

    (2)式から明らかなように、MT 法においては周波数が高くなるにつれ、より浅部の情報が、

    逆に周波数が低くなるにつれ、より深部の情報が得られる。これは、各周波数において、直

    交する電場および磁場を測定すれば、浅部から深部までの比抵抗の分布が計算できることを

    意味している。

    3) 電場・磁場の一般関係式

    地下の比抵抗構造が 2 次元や 3 次元的に変化する場合には、電場 Ex は、その垂直方向の磁

    場 Hy のみならず、磁場 Hx とも関係する。同様に電場 Ey は、磁場 Hx だけでなく、磁場 Hy

  • 4-23

    とも関係する。一般的には、地表で観測される自然電場(Ex および Ey)・磁場成分(Hx およ

    び Hy)の間では、以下の関係が成立する。

    ZyyHyZyxHxEyZxyHyZxxHxEx

    +=+=

    (3)

    ただし、

    Ex :電場の水平成分:通常南北方向 (mV/km)

    Ey :電場の水平成分:通常東西方向 (mV/km)

    Hx :磁場の水平成分:通常南北方向 (gamma)

    Hy :磁場の水平成分:通常東西方向 (gamma)

    Z :インピーダンステンソル要素

    また、磁場の鉛直成分(Hz)と磁場の水平成分(Hx および Hy)については以下の式で表

    すことができる。

    HyBHxAHz ⋅+⋅= (4)

    ただし、A,Bは係数

    上記のうち、Z(インピーダンステンソル)は地下の電気的性質(比抵抗)の指標であり、

    これらの値からカニヤルの式を用いて見掛比抵抗値を算出することができる。

    4) リモートリファレンス・データ処理

    前述してように、本調査においては、時系列データに含まれるノンコヒーレントノイズを

    除去するために、リファレンス点を設置し、リファレンス点および測定点で観測された電場・

    磁場の時系列を用いてデータリモートリファレンスデータ処理を実施した。

    観測点とリモートリファレンス間におけるデータ処理のタイミングは、測定時に時系列デ

    ータの各ブロック毎に書き込まれた測定時間、バンド番号等を参照して、両者が一致するデ

    ータを自動的に検索して処理され、20個のクロスパワーがクロスファイルとして作成される。

    これらのデータ(観測点におけるデータとリファレンス点におけるデータ)を基に以下の式

    を用いてリモートリファレンスデータ処理を実施し、インピーダンス(Zxy,Zyx,Zxx,Zyy)

    を算出した。

    Zxx = (< ExHxr* >< HyHyr* > - < ExHyr* >< HyHxr* >

    /< HxHxr* >< HyHyr* > - < HxHyr* >< HyHxr* >

    Zxy = (< ExHxr* >< HxHyr* > - < ExHyr* >< HxHxr* >

    /< HyHxr* >< HxHyr* > - < HyHyr* >< HxHxr* > (5)

    Zyx = (< EyHxr* >< HyHyr* > - < EyHyr* >< HyHxr* >

    /< HyHxr* >< HxHyr* > - < HyHyr* >< HxHxr* >

    Zyy = (< EyHxr* >< HxHyr* > - < EyHyr* >< HxHxr* >

  • 4-24

    /< HyHxr* >< HxHyr* > - < HyHyr* >< HxHxr* >

    ここで、 Ex, Ey :観測点の X 方向、Y 方向の電場

    Hx, Hy :観測点の X 方向、Y 方向の磁場

    Hxr, Hyr :リファレンス点の X 方向、Y 方向の磁場

    * :共役複素数を意味する

    互いに直行する見掛比抵抗ρxy、ρyx および位相φxy、φyx は各周波数毎に上記のインピ

    ーダンスを用いて、以下の(7)式に基づいて算出した。

    ))/(Re()(Im(tan

    ))/(Re()(Im(tan

    )5/1(

    )5/1(

    1

    1

    2

    2

    yxyxyx

    xyxyxy

    ZZ

    ZZ

    Zyxfyx

    Zxyfxy

    =

    =

    =

    =

    φ

    φ

    ρ

    ρ

    (6)

    5) 静補正(スタティック補正)

    電位電極を設置した周辺に局所的な地下浅部の比抵抗異常体が存在する場合、この局所的

    比抵抗異常が測定されたデータの全周波数成分に影響を及ぼし、見掛比抵抗曲線が上下にシ

    フトすることがある。この影響は、スタティックシフトと呼ばれ、地下の比抵抗構造を解析

    する上でこの影響を取り除くことは重要である。スタティックシフトは、局所的な地下浅部

    の比抵抗異常の影響であるため、この影響を受けた測点データは近くに存在するデータとの

    整合性に乏しく、このため高周波数域の見掛比抵抗分布において、その分布を乱す様な傾向

    を示すことが多い。

    今回の解析ではこれらのことを考慮に入れて、以下の方法によりスタティックシフトの除

    去を行った。

    i) 各測点におけるインバリアントモードの見掛比抵抗値を計算し、高周波数域でのイ

    ンバリアントモード見掛比抵抗分布図を作成する。

    ii) i)において作成したインバリアントモード見掛比抵抗分布図を基に、周辺の測点の

    値と極端に異なる値を示す測点をチェックする。

    iii) 周辺の測点におけるインバリアントモード見掛比抵抗値と極端に異なる値を示す

    場合には、この値を周辺のインバリアントモード見掛比抵抗値となだらかな変化を

    するように補間し、シフトさせる。

    iv) 3)においてシフトさせてインバリアントモード見掛比抵抗値と実測インバリアント

    見掛比抵抗値との差異から静補正係数(スタティックシフト値)を算出する。

    v) シフトさせたインバリアントモード見掛比抵抗値を基に高周波数でのインバリアン

    トモード見掛比抵抗分布図を再作成し、測点間におけるインバリアントモード見掛

  • 4-25

    比抵抗値に急激な変化がないか否かのチェックを行う。この際、測点間で急激に変

    化する箇所がまだ残っている場合には、ii)からの作業を再度実施する。

    上記の方法により算出した静補正係数(スタティックシフト値)を Table 4.4.2-2 に示す。

    以後の解析(2次元比抵抗構造解析)においては、静補正後のデータを使用して実施した。

    6) 2 次元比抵抗構造解析

    i) 2 次元モデリング解析の概要

    1 次元比抵抗構造解析では、各測点の解析が深度方向に比抵抗が変化する 1 次元の層構

    造を仮定しているのに対して、2 次元比抵抗構造解析(2 次元インバージョン解析)は、深

    度方向および測線(断面)方向に比抵抗構造が変化する構造を仮定し、2 次元の比抵抗モ

    デルから算出される断面上の各測点における見掛比抵抗値と実際の測定により得られた断

    面上の各測点の見掛比抵抗値を数学的にマッチングさせることにより、地下の比抵抗構造

    を解析する方法である(Fig. 4.4.2-4 参照)。この 2 次元インバージョン解析により、1 次元

    層構造解析から得られる比抵抗構造に比べてより精度の高い地下比抵抗構造が把握できる

    ことが期待される。

    ii) 2 次元モデリングの基礎理論

    大地および大気中の電磁場は、以下のマックスウェルの方程式で表される。

    HiE ωμ=×∇ (7)

    EH σ=×∇ (8) ここで、

    E : 電場 (mV/km)

    H : 磁場 (nT)

    ω: 角周波数 (=2πf)

    μ: 大地の透磁率 (=4π×10-7)

    σ: 大地の電気伝送率 (mho)

    ただし、変位電流は無視できるものとしている。上式から

    HkEEH 2)( =×∇×=×∇=×∇×∇ σσ (9)

    EkHiHiE 2)( =×∇×=×∇=×∇×∇ ωμωμ (10)

    となる。ここで ωμσik =2 である。H を直交座標系の成分 Hx, Hy, Hz に分解すれば、(9)

    式は以下のようになる。

    0//// 2222222 =−∂∂∂−∂∂−∂∂+∂∂ HxkzxHzyxHykzHxyHx

  • 4-26

    0//// 2222222 =−∂∂∂−∂∂−∂∂+∂∂ HykzyHzxyHxkzHyxHy (11)

    0//// 2222222 =−∂∂∂−∂∂−∂∂+∂∂ HzkyzHzxzHxkyHzxHz

    また、E を直交座標系の成分 Ex,Ey,Ez に分解すれば、(10)式は以下のようになる。

    0//// 2222222 =−∂∂∂−∂∂−∂∂+∂∂ ExkzxEzyxEykzExyEx

    0//// 2222222 =−∂∂∂−∂∂−∂∂+∂∂ EykzyEzxyExkzEyxEy (12)

    0//// 2222222 =−∂∂∂−∂∂−∂∂+∂∂ EzkyzEzxzExkyEzxEz

    2 次元比抵抗構造を考える場合、TM モードでは(11)式は以下のように簡便化される。

    0// 22222 =−∂∂+∂∂ HykzHyxHy (13)

    (13)式を有限要素法を用いて解き、Hy を算出すれば、Ex=1/σ・(∂Hy/∂z)により Ex を

    求めることができ、見掛比抵抗(ρxy)および位相(φxy)を求めることができる。

    )/arg(//1

    HyExxyHyExixy

    =

    ⋅=

    φωμρ

    (14)

    また、TE モードでは、(13)式に対応する式は以下のようになる。

    0// 22222 =−∂∂+∂∂ EykzEyxEy (15)

    TM モード同様、これを有限要素法を用いて解き、Ey を算出すれば、Hx=-1/iωμ・(∂

    Ey/∂z)により Hx を求めることができ、見掛比抵抗(ρyx)および位相(φyx)を求め

    ることができる。

    )/arg(//1

    HxEyyxHxEyiyx

    =

    ⋅=

    φωμρ

    (16)

    iii) 有限要素法による 2 次元フォワード計算

    解析対�