Upload
others
View
0
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
小児の呼吸障害
鳥取市立病院 小児科
坂口 真弓
例えば・・・救急外来で・・・
・2歳男児が外来を受診しました。深夜の受診です。
眠たそうな男の子はお医者さんが怖くて泣いています。
・母 「なんだか子供の息がくるしそうなんです。」
本人「(号泣)」
うーん。息が苦しそうって言っても。泣いてるし分からないよー。とりあえずSpO2測ろうかなー。いや、問診が大事かなー。まずは現病歴を・・・・
過去にはこんな事例があります。
・平成17年3月 福島県
朝8時に呼吸困難が出現、クループ症候群と診断され他院を紹介。 紹介先の病院では受付後、診察まで時間がかかった。診察時には、顔面蒼白。嫌がる患児に吸入を施行後、酸素マスクを試みるも嫌がり、その後呼吸停止。
・平成7年1月 富山県
息苦しさを主訴に救急車で来院。喘息と診断され他院へ紹介。紹介先の病院で、 入院となった。母親がチアノーゼを指摘。看護師が酸素投与を開始。その後呼吸停止。
・平成24年 東京
給食でアレルギー除去食以外のチヂミをおかわりした5年生の女児。呼吸困難を呈した本児を確認後、救急車をよび、トイレに行きたいという本児をトイレに行かせ、その後校長が駆けつけてエピペンを投与した。すでに呼吸は停止していた可能性があった。
医療安全推進者ネットワーク文部科学省 報告書概要版 より
受付で待つのは仕方ない?
苦しそうだからとりあえず酸素投与でいい?
判断に迷っていい?
→迅速な判断と対応がなければ重症になる症例がある
このようなことにならないためには?
①いち早く、緊急度に気づく!!
まずは、問診の前に全身状態をチェック。
泣いて、話せない子供でも、見逃さない緊急度のサインとは?
②適切な評価を!
泣いて大暴れの子供の聴診の結果をカルテに記載する。
SpO2 90%以下、それは本当の値でしょうか!?
③緊急度に気が付いたとき、対応は?
呼吸障害と判断された場合、どのような呼吸補助が必要?
①緊急度に気が付く
【呼吸障害とは】
•呼吸回数の異常
•呼吸困難症状
•呼吸検査異常
この2つはすぐにわかる
目で見て観察・鼻翼呼吸・肩呼吸・ぐったりした表情・チアノーゼ
服をめくって観察・陥没呼吸
聴診で確認!・喘鳴・Air入り不良
・上気道、下気道?
耳で聞いて判断・嗄声、犬吠様咳嗽・呻吟
問診をとっている場合ではないかも!?
小児呼吸回数の基準
年齢 数
乳児 30~60
幼児 24~40
就学前小児 22~34
学童 18~30
青少年 12~16
泣いているのか眠っているのかでも数にばらつきがあり数だけでは評価は困難。
重要なのは全身状態の評価も併せて総合的に判断すること
PALSより
②適切な評価を:とにもかくにも聴診、呼吸音
•まずは、問題がどこにあるのか。雑音は?
吸気性 :上気道の閉塞
呼気性 :下気道の閉塞
呼吸音低下 :どこかで閉塞が起こっている
・呼吸音をうまく伝えるために、小児で頻度の高い呼吸音
strider(ストライダー) ・・・・吸気時 連続性 高音
wheeze(ウィーズ) ・・・・呼気時 連続性 高音
rhonchi(ロンカイ) ・・・・吸気でも呼気でも 連続性 低調
coarse crackle(コース・クラックル) ・・・・吸気 断続性 低調
→治療方針に関与してくる
②適切な評価を:モニター
SpO2モニターの結果を左右しやすい要因がいくつかあります。
・巻き方小児は泣くと汗をかくのでモニターが浮いていることがあります。
・分泌物
鼻汁が多い、痰が多いだけでも簡単にSpO2は下がります。鼻汁吸引前後で改善を確認しましょう。
重要なのは数値だけで判断しないこと。
その数値と全身状態に矛盾がないかを確認しましょう。
・体位座位なのか、臥位なのか臥位のうちでも腹臥位か仰臥位かそれだけでも変化します。
・末梢循環不良
③対応
緊急度レベルNo1
そもそも、気道が開通していない
→気道確保の体制
→分泌物があるなら吸引を(挿管するときも準備)
→人を呼ぶ、バックバルブマスク、挿管の準備
緊急度レベルNo2
上気道の閉鎖が疑われる
→早急に治療開始しないと気道閉塞になる
→モニター管理、絶対に目をはなさない!
→いつ閉塞しても対応できるよう、上記の準備
気道が閉塞している子に酸素をフリーで与えても・・・?
挿管の準備~小児の場合~
①カフなし気管チューブのサイズ選択:
I.Dmm=4+年齢/4
(適切であると判断されるのは47~77%にすぎない)
②カフ付き気管チューブのサイズ選択
3+年齢/4
③深さの選択:
12+年齢/2
カフ付きチューブの場合、輪状軟骨部に当たらない深さで
→必ず胸部単純X線写真で目視で確認することが重要
①~③までのまとめ
・診察室に入った児を見て緊急度を判断し、適切な評価のうえ、場合によっては早急な対応を。
・ ここまでの時間は数分で行う。モニターが巻けなくて・・・待合が混雑していて・・・はNG。
・緊急度が低い場合はゆっくり原因検索。ex)血液検査、胸部単純X線、静脈血ガス
救急外来でよく出会う呼吸障害の原因疾患
・急性気管支炎、肺炎シーズン、年齢問わず、圧倒的No1!
・クループ症候群急性喉頭蓋炎は減っています。
・気管支喘息季節の変わり目、台風の季節に特に患者数が多いです。
・アナフィラキシー小児は食物アレルギーが多いので成人より頻度高め。
・新生児~乳児期早期の無呼吸発作あらゆる感染で呼吸を止めてしまう可能性あり。
・痙攣発作発作中は呼吸が止まりかかっています。
症例1)
【症例】5歳男児【主訴】喘鳴【既往歴】気管支喘息小発作~中発作で複数回入院歴あり【家族歴】父:アトピー 母:特記事項なし 父は喫煙者
2歳の妹も感冒症状のたびに喘鳴を起こす【現病歴】○月×日 咳嗽出現 元気で食事もしっかりとれていた
×+1日 夜間より喘鳴出現した×+2日 喘鳴が続いたが、活気あったため経過観察×+3日 夜間の喘鳴が悪化し、顔色が悪くなったため、
救急外来受診。
症例1)
【身体所見】
BT:37.2 HR:144 呼吸数:52回/分 SpO2:91%
座位を好み、表情はぐったりしている
陥没呼吸を認める
顔面蒼白
呼吸音:Air入り不良 wheezeは聴取しづらいが認める
呼気延長
→気管支喘息 中発作
①緊急度 ②評価 ③対応 はどうでしょうか??
症例1)判断
②評価努力呼吸や顔面蒼白、呼吸数の増加、HRも高め。SpO2の値は全身状態と一致した低さ。
③対応少なくとも酸素投与は早急に開始する。吸入の準備を速やかに行う。吸入の単回投与で改善なければ、持続吸入に変更になるため、病棟に早めに連絡しておく。状態が急変する可能性があることを周囲に認識させ、救急外来ではなるべく目を離さないようにしたほうがベスト。
①緊急度努力呼吸をしているため、緊急度はやや高い。Wheezeが聴取しづらいのは、Air入りが悪いためであり、今後頻回吸入で改善しなければ、さらに緊急度は増す。
症例2)
【症例】7歳男児【主訴】喉の違和感 息苦しさ【既往歴】卵、小麦アレルギーあり 蕁麻疹で受診歴あり【現病歴】○月×日 普段通り元気に登校し、普段通り生活していた。
給食は除去食を普段通りたべた。食事摂取後に喉に違和感と息苦しさを訴えた。担任の教師とともに救急者で来院した。
【身体所見】BT:36.3 HR:95 呼吸数:32回/分 SpO2:95%来院時、嘔吐を認めた。呼吸音:wheezeを両側肺で聴取皮膚:癒合傾向のある膨疹が出現している
→アナフィラキシー
症例2)判断
②評価心電図モニターと血圧測定は必須。
③対応まずはボスミン筋注。その後もモニターで管理。二峰性症状の出現に注意しながら、常に人を周囲につける。
静脈路を確保し、血圧低下時の対応に備える。バックバルブマスクの準備も行う。
①緊急度食物アレルギー素因あり、呼吸器症状と消化器症状が出現している。緊急度高い!
アナフィラキシーと呼吸器症状
・血圧が下がらなくても、危険な症状が出現して
いたらボスミン投与
・特に呼吸器症状は、気道閉塞の恐れあり
・ボスミンは筋注で投与(アナフィラキシーのときは、筋肉の血流が増加しているため)
・いったん症状が落ち着い
ても、再燃してくる可能性があるのでボスミン
を投与したら入院で経過観察がよい
症例3)
【症例】2歳女児【主訴】咳【既往歴】特記事項なし【現病歴】○月×日 昼から咳嗽と発熱ありぐったりした様子であった。
食事もあまりとらず。夜になり咳嗽が悪化。顔色が悪く救急搬送で来院。
【身体所見】BT:39.1 HR180(啼泣中) 呼吸数、SpO2:激しく暴れ測定不可啼泣しておりやや興奮気味 陥没呼吸あり顔色不良 声が出ない犬が吠えるような咳をする 涎がでている呼吸音:減弱
→急性喉頭蓋炎の疑い
症例1)判断
①評価バイタルからは正確な評価はできないが顔色不良と興奮状態から、SpO2は低いことが推定される。
③対応診察も検査も最小限に。母にそばにいてもらう。とにかく挿管の準備をしながら呼吸補助。
①緊急度涎が出ている、声がでていないので緊急性は高い。
急性喉頭蓋炎
Thumb printing sign ・原因はインフルエンザ桿菌
・ワクチンが導入されて減少した疾患の一つ
・側面で親指様に腫脹した喉頭蓋炎と披裂喉頭蓋炎の腫脹が特徴
・クループ症候群との違いとして特徴的な点は、涎がでていたり、声が出ない点。
最新ガイドライン準拠 小児科 診断・治療指針 2012
クループ症候群との違い
・クループ症候群は頻度の高い疾患
・喉頭周囲の炎症性浮腫が原因で犬吠様の金属性咳嗽を呈する
・原因はパラインフルエンザウイルスが頻度が高い
・声は出る。嗄声である。
Pencil sign
最新ガイドライン準拠 小児科 診断・治療指針2012
まとめ
・呼吸障害の小児が来たときは、速やかに緊急度を把握し、正しく評価し、評価に応じた対応を急ぎましょう。
・とくに評価においては、小児の特性に注意して評価をしましょう。
・頻度の高い緊急性のある疾患を見逃さないようにしましょう。
しんどいときはいっぱい泣くよモニターは嫌い!痛いのはもっといや!病院はこわくて、かえりたい!
そんな子供たちを理解してあげてくださいね。たとえ深夜のお疲れでも・・・。