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2011年12月号 Vol.7 No.12 2011 http://sangakukan.jp/journal/ Journal of Industry-Academia-Government Collaboration 特集 市街地対策・まちづくり 貢献 シンポジウム「まちなか研究室を起爆剤にした学生によるまちづくり」 横須賀市追浜地区・こみゅに亭カフェ 小倉旦過市場・大學堂 北九州オアシスマーケット 黒崎熊手商店街 デザインによる地域貢献の可能性 筑後川流域圏地域づくりなんでも相談会 仙台市・サンモール一番町商店街 高校生のチャレンジショップ「吉商本舗」 「まちなか研究室」へのインターンシップ、登録制度の提案 白癬菌検出キットの事業化 ~基礎研究から14年、4つの「連携」を経て

市街地対策・まちづくり - 産学官連携に ... · 同学部の産学連携による商品化は 初めてである。ビジネスになるまで14年、その歩みを振り返った。

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2011年12月号Vol.7 No.12 2011

http://sangakukan.jp/journal/Journal of Industry-Academia-Government Collaboration

特集

市街地対策・まちづくり学の貢献

● シンポジウム「まちなか研究室を起爆剤にした学生によるまちづくり」● 横須賀市追浜地区・こみゅに亭カフェ● 小倉旦過市場・大學堂● 北九州オアシスマーケット● 黒崎熊手商店街 デザインによる地域貢献の可能性● 筑後川流域圏地域づくりなんでも相談会● 仙台市・サンモール一番町商店街● 高校生のチャレンジショップ「吉商本舗」●「まちなか研究室」へのインターンシップ、登録制度の提案

白癬菌検出キットの事業化~基礎研究から14年、4つの「連携」を経て

1112-表紙1.indd 11112-表紙1.indd 1 2011/12/09 9:23:072011/12/09 9:23:07プロセスシアンプロセスシアンプロセスマゼンタプロセスマゼンタプロセスイエロープロセスイエロープロセスブラックプロセスブラック

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http://sangakukan.jp/journal/産学官連携ジャーナル Vol.7 No.12 20112

CONTENTS

●巻頭言 ニュービジネス成長で元気な日本を 長谷川 裕一        3

● 白癬菌検出キットの事業化~基礎研究から 14年、4つの「連携」を経て~ 髙岡 勉        4

●特集1

市街地対策・まちづくり 学の貢献● シンポジウム「まちなか研究室を起爆剤にした学生によるまちづくり」富山・岐阜経済・岐阜・一橋の4大学が報告し、交流 大西 宏治        7

● 「まちなか研究室」から「こみゅに亭カフェ」へ―横須賀市追浜地区における試み― 昌子 住江        10

● 旦過市場の「大學堂」さまざまな企画で小倉の新名所に 竹川 大介        13

●北九州オアシスマーケットをめぐる商店街と大学の協働 楢原 真二        15

●デザインによる地域貢献の可能性 赤川 貴雄        18

● 筑後川流域圏地域づくりなんでも相談会~久留米大学経済学部の地域連携~ 駄田井 正        20

● 仙台市・サンモール一番町商店街地元大学と商店主、まちづくり関係者の連携 柳井 雅也        22

●高校生のチャレンジショップ「吉商本舗」 若園 耕平        24

● 「まちなか研究室」へのインターンシップ、登録制度の提案―まちづくりの担い手をいかにUターンさせるか― 矢部 拓也        26

● 大学との共同研究で一定の満足度―首都圏北部 4大学連合の企業調査― 伊藤 正実        29

●基礎体温測定を簡便に 本杉 常治        32

●連載 東京農工大学の産学官連携 第4回 オープンイノベーションを推進する人材養成に向けて 千葉 一裕        34

●産学官連携ジャーナル 注目記事        37

●編集後記    39

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●産学官連携ジャーナル

http://sangakukan.jp/journal/産学官連携ジャーナル Vol.7 No.12 20113

◆ニュービジネス成長で元気な日本を 政治・経済・社会システムの大変革期である現在は、ベンチャー企業やニュービジネスにとっては絶好の機会である。ベンチャースピリット、チャレンジ精神旺盛なニュービジネス協議会メンバーには、「時代の変化」こそ最良の友で、その本領が発揮される場である。新しい製品・サービス、新しいビジネスの領域、新しいビジネスモデルのアイデアはたくさんある。とはいえ、そうした企業が成長し、新しい産業を創出するためには課題が少なくない。さまざまな制度・規制の壁、十分とはいえないグローバル化への対応、厳しい資金調達などだ。 そこで、ベンチャー・ニュービジネスの振興、わが国の経済力強化に向けて3点提言したい。 まず、ニュービジネス育成・支援策の改善である。新産業の創出は行政の産業振興策の柱の1つだが、行政の支援と企業のニーズのミスマッチが少なくない。行政の施策は「年度」で動いている。決めた事業を年度内に消化しようとするため、支援先の選定などで無理をしていないだろうか。一方、企業は、支援を受けて2年でめどをつける予定のチャレンジが4年、5年かかることが少なくないが、その場合、肝心な時に支援が得られないことになる。本当に支援を必要とし、駆け込んだ企業に応えられるようなきめ細かな対応を求めたい。 第2に、国際化対応の一環として、わが国の文化の発信力強化である。日本の文化力はフランスを一馬身抜いていると見ている。ものづくりから芸術、芸能、文学まで、正確な技術・技、きめこまやかな造形、豊かな美意識の魅力に日本人自身があまり気付いていない。日本ブランドを強くするには地方自治体の役割が大きいと思う。登録制度を設け、自治体が地域の伝統に根差した産業、元気なニュービジネス、ベンチャー企業などの“仕事”を英語で情報発信していくことが有効と思われる。 第3に、経済力の基礎である科学の力をさらに強化するべきである。日本企業は応用力は優れているが、いま一度、基礎から再構築する必要がある。特に重要だと考えるのは基礎工学、環境、バイオテクノロジー、再生エネルギーの4分野で、国家レベルの世界有数のシンクタンクができることを願う。そうしたことが、われわれニュービジネス界の活性化につながる。 われわれは革新を続ける企業集団である。日本の大改革によって、われわれの潜在力が発揮され、元気で力強い日本の再生、さらには東日本大震災からの復興に少しでも寄与したいと考えている。

長谷川 裕一(はせがわ・ひろかず)

社団法人 日本ニュービジネス協議会連合会会長

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福井大学医学部が企業と共同で取り組んだ基礎研究の成果「白癬菌の簡易検出法」を、別の企業に技術移転し、キットとして事業化された。同学部の産学連携による商品化は初めてである。ビジネスになるまで14年、その歩みを振り返った。

髙岡 勉(たかおか・つとむ)

福井大学 産学官連携本部 知的財産部

白癬菌検出キットの事業化~基礎研究から 14 年、4つの「連携」を経て~

◆はじめに 福井大学医学部は、1997 年から東洋紡績株式会社(以下、東洋紡)と始めた基礎研究「白癬菌の簡易検出法」の成果をもとに JNC 株式会社(以下、JNC)と共同でキット化し、日祥株式会社(以下、日祥)はそのキットの技術を導入して事業化に乗り出し 2011 年から本格的に販売を開始した。福井大学医学部における産学連携の商品化は初めてである。

◆白癬の現状 白癬(いわゆる水虫)は、白癬菌感染による皮膚真菌症であるが、日本人の約 20%、2,500 万人ほどの患者がいるとも言われている。その診断は、病変部の鱗屑(皮膚の角質がはがれたもの)を苛性カリ(KOH)で融解して白癬菌を顕微鏡で観察する KOH検鏡法がほとんどである。そのため、患者は医療機関を訪れて皮膚科専門医に診てもらわなければならない。「そんなことしなくても、足が痒ければ水虫だよ」と思われるかもしれないが、湿疹、皮膚炎、汗疱(かんぽう)、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)など治療法の異なる疾患の鑑別は困難である。 一方、臨床検査の分野では、妊娠の判定検査薬やインフルエンザの診断キットなどOTC検査薬(薬局で買える検査薬)や感染症迅速診断薬が開発されている。しかし、日本で最も多い感染症の1つである白癬に対する検査薬はなかったのである。

◆法人化前の産学連携 そこで、本学医学部病理学の法木左近 *1 と本学附属病院皮膚科の石田久哉(現・いしだ皮膚科クリニック院長)と東洋紡・敦賀バイオ研究所の梶谷和生の3人で、白癬菌の簡易検出法の研究開発に取り組んだ。産学連携の始まりである。 3人は、多くの感染症診断薬のように抗体を用いる方法を考えたが、白癬菌に対するモノクローナル抗体の報告は少なく、国内では入手困難であった。そこで、独自に、白癬菌に対するモノクローナル抗体を作成した。得られた抗体は、白癬菌種7種類すべてに反応し、candida などの皮膚常在菌には反応しないものであった。この抗体は、抗白癬菌モノクローナル抗体と呼べるものと考えた(図1)。東洋紡は、この抗

*1:本誌 2006年4月号で「白癬(通称、水虫)の簡易診断法の開発」を執筆

図1  白癬の臨床像と白癬菌のKOH像と抗体による染色像

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体について次の特許出願を行った。 ・発明の名称:「皮膚糸状菌に対するモノクローナル抗体」 ・特 許 番 号:特許第 4117542 号(出願日 2002 年 11 月 14 日) 3人は、この抗体を用いてサンドイッチ ELISA 法を確立し、臨床材料を用いて検討を行った。KOH検鏡法で診断された足白癬患者21名からの鱗屑および爪白癬患者20名から採取した爪を試料として測定した。また、対照として、汗疱、掌蹠膿疱症患者および健常者9名からのものを測定し、検討した。その結果、患者鱗屑・爪の抽出液から有意に白癬菌抗原を検出することができた。東洋紡は、この検出方法について次の特許出願を行った。 ・発明の名称:「皮膚糸状菌の検出方法」 ・特 許 番 号:特許第 4117563 号(出願日 2004 年2月3日)

◆法人化後の産学連携 抗体もでき、サンドイッチ ELISA 法での診断も可能であった。3人はこれを、妊娠判定薬のような簡易診断キットにしたかったが、そのようなノウハウは持っておらず、ここで研究は立ち止まっていた。このような中、2005 年に、北陸経済連合会 STC 事業部の新技術開発・新産業創出を支援するための実用化助成事業に採択された。本学医学部の法木左近は、東洋紡・敦賀バイオ研究所の梶谷和生からモノクローナル抗体の提供を受け、妊娠判定薬を製造している株式会社ニッポンジーンでイムノクロマトグラフィーの原理を用いたテストストリップを作成してもらった。第2の産学連携である。 この原理は、菌がいれば、判定ラインの所に茶色の線が出るものである。多くの診断薬もこの原理を利用している(図2)。 このテストストリップを用いて、いしだ皮膚科クリニックの石田久哉院長およびボランティアの協力を得て試験を行い良い結果を得た。爪白癬患者 20例の爪、健常者ボランティア 17例の爪を用いた。重量 10~50ミリグラム程度の爪を小さな試験管に入れて沸騰水中で 10分間加熱し、それをテストストリップに添加し、5分後に判定する。その結果、患者爪では 20例中19例に陽性所見を得ることができた(感受 95%)。また、健常爪では 17例中1例に陽性所見がでた。この1例について、KOH法で顕微鏡観察したところ白癬菌を確認することができたため、これは潜在患者と考えられ偽陽性はゼロと考えられた(特異度 100%)(図3)。 本学医学部の法木左近は、白癬菌保有者個人が各人で白癬菌を検出できるようになればと考えて、テストストリップ使用者が酵素処理や加熱処理といった煩雑な操作をしなくてよい、非加熱処理による皮膚糸状菌の検出方法を開発した。福井大学は、この検出方法について次の国際特許出願を行った。 ・発明の名称:「皮膚糸状菌の非加熱検出方法」 ・出 願 番 号: PCT2007/055567

(JST 特許出願支援案件)

図2 ストリップテストとその構造

図3 臨床検体(爪)での結果

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◆技術移転の産学連携 福井大学が、主体的かつ積極的にこのテストストリップの技術移転を進めていくためには、前述の基本特許2件の特許権者である東洋紡の実施許諾が必要であった。そこで、福井大学は、このテストストリップの商品化を希望して福井大学にコンタクトを取ってきていた JNC および医薬品メーカーと協議を重ねて、福井大学が主体的に技術移転を行っていけるスキームを開発した。このスキームを東洋紡に対して提案を行って、東洋紡から福井大学が主体となって技術移転を行えるような実施許諾を得た。これは、第3の産学連携である。

◆事業化の産学連携 JNC および医薬品メーカーの商品化における最も重要な課題「薬局・薬店で医師の処方せんなしに購入できるOTC検査薬として、厚生労働省の認可を取りたい」ということについて医薬品メーカー等と検討を重ねて、「一般用医薬品(OTC)」の審査を行っている独立行政法人医薬品医療機器総合機構に相談をした。同機構からは、薬局・薬店で医師の処方せんなしに購入できる妊娠判定薬のような体外診断用医薬品としての認可は難しいとの指導・助言を受けた。これを受けて、JNC および医薬品メーカーと商品化の方針についての協議を重ねた結果、疾患を診断する「水虫判定薬」ではなく、菌の有無のみを判定する「白癬菌検出キット」としての商品化を目指したビジネスモデルを検討し開発した。 私は、このビジネスモデルを検討している 2008 年度に、独立行政法人科学技術振興機構(JST)が行っていた「技術移転に係わる目利き人材育成研修プログラム」の事例研究コースを受講していた。この研修の中でビジネスモデルを検討している時、ハードルの低い家畜や市場の大きいペットの白癬菌検出用としての商品化も考えられるとの示唆を得た。 福井大学、JNC および医薬品メーカーは、さらに研究開発を進めて、ついに研究用試薬としての白癬菌検出キットの商品化にこぎ着けた。2011 年春、日祥から本格的に販売が開始された(図4)。第4の産学連携である。

◆おわりに 「皮膚糸状菌の非加熱検出方法」は、界面活性剤を含有する処理液を用いて、非加熱で試料から皮膚糸状菌成分を抽出する工程を含むことを特長とする方法である。この方法においては、一般の使用者が皮膚糸状菌を含む試料を的確に効率よく採取でき、試料を処理液に浸したら短時間で皮膚糸状菌を抽出できる試料採取方法の開発が必須である。そこで、本学医学部の法木左近は、医薬品メーカー等とさらなる研究開発を進めている。第5の産学連携である。

図4 白癬菌検出キット

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http://sangakukan.jp/journal/産学官連携ジャーナル Vol.7 No.12 20117

 今年7月に富山の中心商店街にまちなか研究室「MAG.net」*1 がオープンした。MAG.net を学生がどのように活用すればよいのか、学生、商店街、大学、富山市、それぞれが模索している。そこで、まちなか研究室でまちづくりに取り組む大学の活動を紹介し、意見交換を行うシンポジウム「まちなか研究室を起爆剤にした学生によるまちづくり」を開催した。

◆富山まちなか研究室MAG.net これまで、富山市の TMO(Town Management Organization)である「まちづくりとやま」は中心市街地での大学生のまちづくり活動を支援してきたが、なかなかその活動がまちなかで定着しなかった。そこで若者の来街促進や学生によるまちづくり活動の活発化を狙い「まちなか研究室」*2 を設置した。大学もまちなか研究室のような社会と学生の接点を求めていたことから、設置に協力することになった。

◆ シンポジウム「まちなか研究室を起爆剤にした学生によるまちづくり」

1.シンポジウムの狙い まちなか研究室を設置して学生が主体となりまちづくりを進める事例に造詣の深い研究者やまちづくり活動をする学生を招聘(しょうへい)し、学生によるまちづくりの事例報告会と意見交換を行った。 シンポジウム1日目は、まちなか研究室を持つ大学の教員による講演とパネルディスカッション(富山大学・地域連携推進機構・地域づくり文化支援部門の特別公開フォーラム)、2日目には学生のまちづくり活動の発表会と意見交換会(富山大学人文学部シンポジウム開催経費による開催)を行った。

2. 大学教育としてのまちなか研究室(シンポジウム1日目)(写真1)

 まちなか研究室を活用した大学教育としては、①地域社会と大学の接点を形成し、学生たちに地域調査などを実施する際に受け入れてもらいやす

富山まちなか研究室MAGネットの運営と大学教育としての位置づけ 富山大学 准教授 大西 宏治

市街地対策・まちづくり 学の貢献シンポジウム「まちなか研究室を起爆剤にした学生によるまちづくり」富山・岐阜経済・岐阜・一橋の4大学が報告し、交流

特集

富山市の中心市街地に7月に開設された「まちなか研究室」。若者を市街地に呼び込むとともに、大学生によるまちづくりの活動を活発にするのが狙いだ。そこで、地元の富山大学と、岐阜経済大学、一橋大学、岐阜大学で同様に取り組みを行っている教員、学生が集まり、まちなか研究室を生かした学生によるまちづくりについて意見を交わした。

*2:富山市からの委託事業で「株式会社まちづくりとやま」が運営している。

*1:MAG.net M まちなかの A あすを G. 学生が考えるnet ネットワーク

大西 宏治(おおにし・こうじ)

富山大学 人文学部 准教授

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い状況を創り出す ②学生たちが地域社会と接点を持った活動をすることにより、学生が体験的に社会を知る経験を積むことができる環境を構築するという狙いである。大学のキャンパス内では学びきれないものを学ぶ場所として設定されている。これまでにまちなか研究室を利用した実践が行われている。例えば経済学部の清家研究室の学生たちが夏休みにまちなか研究室内に店舗を構え、ジェラートの販売を行った。彼らは新川育成牧場からジェラートを仕入れ、その仕入れ値、ランニングコストなどを勘案し、価格設定をして夏休みの間、まちなか研究室で販売を行い、店舗を経営するというのはどういうことなのかを学習した。このように大学教育の場として活用することで、学生たちは授業を離れてもこの場所を学生の活動の場として利用する可能性がある。

 マイスター倶楽部は 1998 年 10 月に大垣商工会議所による「空き店舗対策モデル事業」として商店街内のスペースで活動が始まった。学生たちに国内外の経済情勢の変化と身近な日常生活や商店街との連続性を理解させることのできる実践的な教育の場として大学教育上に位置付けられた。2006 年以降は、岐阜経済大学、大垣市商店街振興組合連合会、大垣商工会議所、大垣市の4者で協定を結び設置・運営がなされている。 現在では 32名で活動し、学生たちが幾つかのプロジェクトを立ち上げ活動している。都市と農村をつなぐコミュニティビジネスとして産直野菜を販売するプロジェクトや大垣市の魅力的なまちづくりについて検討するプロジェクト、中心市街地に若者のたまり場を創出するプロジェクトなどである。このように社会との接点を持ちながら学生が自ら活動をすることで学生たちは成長していくので、この仕組みを安定的に維持できる学内的な体制の整備が必要である。

 人間環境キーステーションとは商店街、国立市、一橋大学、国立市民が協働してまちづくりを行う団体で、その原点は「くにたち 2001 プロジェクト研究会」にある。高齢化や衰退する商店街という地域の課題を解決する方法を模索するものであった。それを受け、2002 年から一橋大学では「まちづくり」授業が始まり、まちの課題解決に取り組む活動に単位を与えられるようになった。2003 年には富士見台商店街内に地域活動拠点「くにたち富士見台人間環境キーステーション」(通称:KF)がオープンし、そこを拠点とした学生の地域活動が行われた。例えば、学生が中心となりコミュニティカフェが運営されたり、地産地消の店「とれたの」が営業さ

岐阜経済大学の大学教育としてのマイスター倶楽部の取り組みについて 岐阜経済大学 准教授 菊本  舞

人間環境キーステーションの取り組みと大学教育について 一橋大学 教授 林 大樹

写真1 シンポジウムの様子

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れるなど、ユニークな活動が行われている。2004 年にはこの活動が文部科学省の特色ある大学教育支援プログラムに選定された。プログラムの終了後も活動拠点の運営やまちづくり授業も継続している。 ここでの活動を通じて、学生たちは地域課題の発見やそれに取り組む方法などを実践的に学ぶ中、成長していくし、まちづくりの背景に数多くの人が関わっていることを学んでいく。このように大学と社会の接点は、学生たちが成長を感じられる学習環境を生み出している。また、現在は KFが NPO法人化して独立して運営されるところまで組織が成長している。このような例はあまり他の地域では見られない。

 3者の講演を受けて、岐阜大学の富樫幸一教授の司会でパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッションに先駆け、富樫教授の岐阜市での取り組みを紹介しながら論点整理が行われた。岐阜大学では地域科学部設置により、学生が地域学実習で地域調査を行うことになったこと、ぎふまちづくりセンターの設置により、まちづくり活動の拠点ができ、学生の中にはまちづくり活動に積極的に取り組むものが出たことが報告された。 パネルディスカッションでは ①大学にとって地域とつながる意味 ②大学が置かれている地域の事情 ③まちづくりとして学生は何を得るのかの3点で議論が行われ、どの大学も社会貢献の意識でこのような活動に取り組むことにはなったが、学生の成長につながるものになっていったこと、学生のこの活動を継続的に支援できるような大学の体制の整備の必要性などが指摘された。

3.学生のまちづくり活動(2日目) 2日目は学生のまちづくり活動に関する報告会と討論会、そして徳島活性化委員会内藤佐和子氏の講演が行われた。まず、午前中には、富山大学人文学部人文地理学研究室2年生による富山と彦根、大垣、岐阜、名古屋の商店街との比較が報告され、次に国立市(一橋大学)、高松市(香川大学)、大垣市(岐阜経済大学)、岐阜市(岐阜大学)、金沢市(金沢まちづくり会議)、富山市(富山大学)の学生によるまちづくり活動が報告された。そして、「学生と地域の連携を踏まえたまちづくり活動in 徳島」と題した講演が内藤氏により行われた。午後には学生討論会として、まちなか研究室に特大のこたつが設置され、ワークショップ形式でまちづくりに関する意見交換を行われた(写真2)。

 2日間にわたるシンポジウムであったが、学生によるまちづくりによる大学教育上の意義が確認され、また学生たちは相互にまちづくりに関する新たなネットワークを得ることができ、有意義なシンポジウムとなった。

パネルディスカッション

写真2 ワークショップ形式での意見交換

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◆まちなか研究室の誕生まで 今では、大学の研究室が商店街に進出することも珍しくはなくなったが、私が関東学院大学教授の時、横須賀市追浜(おっぱま)地区で空き店舗活用の「まちなか研究室」を始めたのは、2004 年 10 月であった。 すでに 2002 年度から「地域に出て地域に学び、地域の課題に対してコミュニティビジネスとして提案してみよう」という演習(まちづくり起業入門)を始めていたが、最初の年は共通のフィールドを定めなかったので、発表会を終えたものの授業の成果が拡散してしまったような印象があった。2003 年度はフィールドを定めようと考えていたところ、紹介する方があって大学に隣接する横須賀市追浜地区を対象地域に選んだ。この地域で継続して演習を行うとともに、地域活性化のために地元の人々と活動を行うには「拠点」が必要ということで、「まちなか研究室」の設置を目指したのである。

◆追浜(おっぱま)というまち 追浜は横須賀市の北部にあり、横浜市に境界を接している。ちなみに関東学院大学は横浜市側にある。人口約2万9千人(2011 年住民基本台帳)、面積約 7.1 平方キロメートル(追浜行政センター管内)で、海側には日産自動車株式会社、住友重機械工業株式会社など日本を代表する大企業や独立行政法人海洋研究開発機構などが立地し、山側には湘南鷹取の良好な住宅地が広がる。縄文遺跡として全国的に知られる夏島貝塚、伊藤博文の別邸跡近くの明治憲法起草の地の碑と、歴史的遺産にも事欠かない。かつては海軍航空隊や海軍航空技術廠があったため地下壕等戦争遺跡も残る。一方、同じ地域内の鷹取山ではロッククライミングができるなど多様な顔を見せるが、残念ながらこれらの資源がバラバラでうまく活かされていないという印象であった。

◆ワイナリー付き研究室の構想 2003 年度の演習が始まった(写真1)。学生たちはさまざまなことを学びながら、最終報告会を迎えた。彼らの提案の中に、海洋深層水を利用したワイナリーがあった。商店街の活性化を狙った空き店

市街地対策・まちづくり 学の貢献「まちなか研究室」から「こみゅに亭カフェ」へ  横須賀市追浜地区における試み 

特集

大学の研究者が商店街の中に設ける「まちなか研究室」。空き店舗活用を目的とした行政の助成制度を活用すれば開設は容易だが、賃料補助には期限があるため、自立するには独自の資金が必要である。そこで、ワイン醸造への挑戦が始まった。

昌子 住江(しょうじ・すみえ)

NPO法人アクションおっぱま 理事長/元 関東学院大学 教授

写真1 演習の様子

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舗活用には、多くの地方自治体が助成制度を持っている。追浜地域でも神奈川県、横須賀市とも同じような制度を有する。ただし、多くの場合は賃貸料の3分の1程度で期間の制限がある(神奈川県、横須賀市とも 24カ月)。助成期間を越えて空き店舗をまちなか研究室として維持するためには、独自の資金源が必要である。それが、地域の特産品として愛好されれば一挙両得、というわけであった。 ぶどう畑を持たないワイン醸造は濃縮果汁を使用することになるが、ただ濃縮果汁だけでは糖度が高過ぎる。これを緩和するものとして、海洋深層水が候補に挙がった。海洋深層水*1は、追浜の海洋研究開発機構での研究が世界的に有名であり、これを活用すれば追浜らしいワインとなる。学生たちはこうした条件のもとに「横須賀おっぱまワイン」(写真2)を提案した(ちなみに地域名を冠したワインは他にもあるが、多くは企業に醸造を委託している)。 幸い地元の方々にこれらの提案が好感を持って受け入れられ、空いていた居酒屋を改修した「追浜こみゅに亭&ワイナリー」の開設が決まった。

◆「追浜こみゅに亭&ワイナリー」開設 「追浜こみゅに亭&ワイナリー」は、大学の演習や研究室の学生の地元研究の拠点、地元の方々には独自企画の研究会やまちづくりの会合に利用することができる。ただし、大都市の商店街では空き店舗といえども賃貸料は安くない。相場が坪1万円 /月、実際には月 15万円かかる。これに対し収益はワイナリーの他、地域連携の試みとして、山形県白鷹町の農産品を入れた。なぜ白鷹町かと言えば、独自の農法で頑張る農家の支援をしたいという声があったからであるが、商店街の八百屋さんと品物が競合しないための配慮もしている。これらの収入により、施設の維持管理を図ろうとした。 なお 2007 年からはもう1店舗借り、醸造施設を移転させた。これにより、空いた場所に懸案だった喫茶・軽食コーナーを設置した。これは、商店街に一息つく場がほしいという利用者の要望に応えたものだが、そのために賃貸料はほぼ倍になった。 ワインづくりには醸造器の購入等もあるので、初期投資のためと PRを兼ねてワインのサポーター制度を設け、一口1万円でまちの方々に支援してもらった。かなり話題を呼んで 300 口ほど集まった。一方で、商店街ワイナリーは前例がないということで、醸造免許が下りるのに8カ月を要したため、「横須賀おっぱまワイン」の完成は、2005 年5月であった。 これの醸造は商店街と地元住民の有志が担っている。住民有志の多くは、定年退職で地元に戻った方々である。「一緒にワインを造りませんか」というチラシを配布したところ、これを見て退職後何をしようかと迷っていた方々が集まって来たのである。みなさんボランティアで醸造している。素人ばかりなので、醸造技術を学ぶのには相当苦労したと聞いている。 ワインは現在フルボトルで 1,300 円(サポーター価格 1,100 円)である。素人ながら研さんを積んだ成果が表れて、当初よりだいぶ美味しくなった

*1:なお、海洋深層水は三浦市油壺にあった(株)DSWが取水中止となったため、現在は横須賀市の「自然水 走水」を使用している。

写真2 横須賀おっぱまワイン

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と多くの方から言われるようになった。

◆商店街から地域へ 学生たちの演習課題の展開 演習を続けてくると取り組むべき課題が、商店街から高台の住宅地、海側の工場地帯へと広がって行く。2006 年が明けて演習と発表会を終えたころ、公益社団法人土木学会から第1回土木計画学公共政策デザインコンペの案内が来た。幸い6月に行われた同コンペ・プレゼンテーションで優秀賞を獲得した(東北大学で開かれた 2006 年度土木計画学研究発表会春大会において)(写真3)。 2007 年になると、東京湾第三海堡の保存問題が浮上した。東京湾には、明治から大正期に造られた3つの海堡(海上要塞)がある。いずれも当時東京防備のために建設されたものである。そのうち第三海堡が完成直後の関東大震災のため大破し、戦後は東京湾の船舶航行の増加とともに、航行障害物件となっていた。2000 年からの第三海堡遺構撤去と航路確保事業により、観測所等のコンクリート構造物が追浜展示施設(東亜建設工業株式会社用地内)に置かれていたが、航路確保事業終了とともに廃棄されるという話が伝わった。なんとかこれを追浜に残し、歴史遺産としてまちづくりに活かしたいとの声が上がったため、関係する国土交通省東京湾口航路事務所、横須賀市役所等と交渉を続け、また専門家を招いてシンポジウムを開催するなどの活動を行った結果、追浜地区内に保存され、活用は地元に託されることとなった。

◆コミュニティ店舗の可能性と課題 第三海堡保存問題を機に、私自身は関東学院大学を退職し、地域まちづくりを中心として活動することとなった。これまで地域の活動は任意団体として行ってきたが、NPO法人アクションおっぱまとして、2009 年2月神奈川県の認証を受けた。現在は追浜地域のまちづくり、特に歴史遺産を活かしたまちづくりや、多世代の交流を図るまちづくりを活動の中心にしている。 「こみゅに亭&ワイナリー」は移転改装で2倍近くの広さの「こみゅに亭カフェ」に衣替えした(写真4)。 大学との関係では、今度は外からの協力ということで、演習実施の協力やインターシップの学生を受け入れている。また、地域に住む多様な大学の学生が地域活動の拠点として利用しており(写真5)、今後とも新しい展開が期待できる。拠点の維持は財政的に困難を伴うが、やはり地域まちづくりに拠点の維持は必要であると痛感している。 写真5 活動の一環として理科実験教室を開催

写真3 土木計画学公共政策デザインコンペの様子

写真4 こみゅに亭カフェ

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◆無名から発信する 福岡県北九州市・小倉の「旦過(たんが)市場」と「北九州市立大学」と聞いて全国のどれだけの人が、政令指定都市にあるにぎやかな市場やユニークな公立大学をイメージできるだろうか。残念ながら「九州の小倉の名前は知っているけど、市場も大学もよく知らない」という声が返ってくることの方が多い。豊かな自然と歴史遺産、温泉、美食などなど多くの観光地を抱える九州であるが、外の人と話をすると、地元では当たり前のことが、実はあまり知られていない現実をしばしば認識させられる。 例えば、北九州市は関門海峡を挟んで下関市と向かい合っており、在来線でわずか 15分の距離にある。小倉・門司・八幡・戸畑・若松これらの街はすべて北九州市にあり、よく間違えられる博多は、北九州市からさらに 70キロほど西に位置する福岡市にある。 そして旦過市場は、そんな北九州市を代表する生鮮市場である。炭鉱や製鉄業でいち早く戦後の復興を成し遂げた北九州市には古い市場が数多く残っている。中でも旦過市場は神嶽川から水揚げする魚河岸を起源とした、日本随一の水上マーケットである(写真1)。 もし旦過市場に足を運べば、地域の海の幸や山の幸がずらりと並べられたトタン屋根の風景に誰しも驚くだろう。旦過市場は、札幌の二条市場、京都の錦市場、沖縄の牧志公設市場など、日本各地の名だたる市場に勝るとも劣らない元気な市場である。 だが、最初に書いたとおり、いかんせん無名である。 しかし、とさらに逆接を重ねよう、この「無名さ」にこそ可能性がある。私たちはそう考えた。

◆九州フィールドワーク研究会 「大規模小売店舗法」が廃止されて以来、ショッピングモールの隆盛と中央市街地の衰退は、日本のどこの地方都市にも見られる当たり前の景色になってしまった。そんな状況の中で、大学や学生の手による活性化や街づくりが注目されているが、実際にはそれは簡単ではない。例えば一過性のイベントや内輪だけの盛り上がりは実現できたとしても、長期にわたる継続性や対外的な効果に、果たしてどれほど期待できるだろうか。経済性だけはとてもショッピングモールに太刀打ちできない。 「大學堂」*1 は旦過市場のほぼ中央にある(写真2)。大學堂を運営して

市街地対策・まちづくり 学の貢献旦過市場の「大學堂」さまざまな企画で小倉の新名所に

特集

北九州市小倉の生鮮市場「旦過(たんが)市場」にある町の縁台「大學堂」は、学生たちが中心となって2008年から運営している。日替わりの店長がさまざまな企画を展開、小倉の新名所になっている。

竹川 大介(たけかわ・だいすけ)

北九州市立大学 文学部 人間関係学科 教授

*1:大學堂ホームページhttp://www.daigakudo.net/

写真1 川の上の旦過市場

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いるのは、北九州市立大学で私が担当する人類学ゼミをコアに、学生や市民が集まる「九州フィールドワーク研究会」である。 九州フィールドワーク研究会では、フィールドワークによる社会調査に興味がある人々が、大学のカリキュラムに縛られずサロン形式の研究会を続けている。創設以来 12年、これまで国内外での社会調査や村落開発事業など、外部からの事業委託も多数受けてきた。 2000 年から 04年にかけ北九州市に点在する市場の調査を行ったのも、そうした事業の一環であった。この調査の中で、市場の持つ面白さと人が集まる場所としてのポテンシャルに注目し1つの提案をした。私たちのアイデアは、市場を「劇場」と読み替えていこうというものであった。日々さまざまな人が集まってドラマが生まれる劇場だ。 そしてそのアイデアは数年の経緯を経て、2008 年7月7日、「大學堂」として結実したのである。

◆街の縁台 大学でゼミがある木曜日と、市場が休日の日曜日を除けばほぼ毎日、大學堂は開いている。店長は日替わりで、それぞれの企画を展開している。 大學堂のコンセプトは「メディアステーション」である。ここでいうメディアとは人と人をつなげる媒体。お客さんに説明するときは「街の縁台」と呼んでいる。劇場としての市場に、大學堂という桟敷が作られ、人々が集まってくる。そんなイメージだ。今では週に1度くらいの頻度で、さまざまなミュージシャンがライブを行う(写真3)。通りすがりの観客も巻き込んだ投げ銭ライブだ。街の反応がそのまま演奏者に返ってくる。刺激的な瞬間だ。 2011 年の春には2階に漆喰壁のギャラリーを完成させた。市場通りとトタン屋根が窓から見えるその素敵な空間は、渋沢敬三をリスペクトして「屋根裏博物館」と呼ばれている。お金や時間をかけなくてもできることはある。最小限のエネルギーで最大限の効果を挙げるというのが、こうした事業を持続していくための1つの要点である。 大學丼というヒット商品もそうした発想から生まれた。大學堂はご飯と汁物そして食べる場所を提供する。おかずは市場で好きなものを選ぶことができる。手軽に美味しい旬の地の食材が楽しめるので、小倉の新名所として旅行ガイドブックに取り上げられている。 ないものを新しく作るのはお金もかかり大変な作業だが、すでにそこにある「資源」を読み替えていくだけならアイデア次第である。無名であるからこそ「発見」も多い。 このごろは常連の買い物客に混じって、毎日のように大學堂を目指して観光客や旅人や視察グループがやって来るようになった。面白いことを発見し、人に伝えていく、そんな実践と研究を融合させた学びの方法論が、学生たちのソーシャルスキルを飛躍させ、街の新しい姿を生み出している。

写真2 大學堂の外観と市場の様子

写真3 大學堂でのライブ

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◆ 北九州オアシスマーケット――21世紀の商店街の生き残りをかけた模索

 北九州オアシスマーケット(図1)とは、「食の砂漠(フードデザート)」地域における、買い物の不便さを解消する「場」、出店することでの商いの「場」、そして食の砂漠地域に共通してみられる「コミュニケーション不足」を解決する憩いの「場」として機能することを意図した、商店街、町内会、大学の協働事業(ソーシャルビジネス)である。 「お魚を買いに行きたいけれどもなかなか行けなくて困っている」 「高齢者にとっては商品を持ち帰るのは重くて大変」 こうした高齢者の言葉がきっかけだったと、北九州市民の「台所」旦過(たんが)市場で鮮魚店を営む中村真也さんは言う。そんなに困っているのであればなんとかしてあげられないだろうか。こちらから出向いていくことはできないだろうか。 市場もこのままでは5年先、10年先のことを考えるとどうなるか分からない。今のようにお客さんを待っているだけでよいのか。市場も生き残りをかけて新しいアイデアが必要ではないか、新しいビジネスの形態を模索しなければならないのではないか。 中村さんは、弟で精肉店を営んでいる英夫さん、デザイナーの上田浩二さん、さらには北九州商工会議所スタッフと1年位前から話し合いを始めていたという。

◆超高齢社会・北九州市の現状 一方、筆者は、北九州市を中心に大都市の局地的高齢化が進む地域を「町丁字別」あるいは「町内会・自治会ごと」に分析し、よりミクロな視点から高齢社会のまちづくり、さらにはコミュニティを再生するにはどうすればよいか研究を進めていた。 局地的高齢化が進む地域は、高齢者がひきこもってしまい普段は誰も人がいないかのように静まりかえっている。一人暮らしが多く人間関係も希薄化し

市街地対策・まちづくり 学の貢献

北九州オアシスマーケットをめぐる商店街と大学の協働

特集

北九州市のような大都市でも、町丁字あるいは町内会・自治会ごとにみると、超高齢社会になっているところがある。一人暮らしが多く人間関係も希薄だ。商店、スーパーは撤退してしまっているので、住民は困っている。こうした買い物弱者 *1の課題に地域、大学は商店街と協働していかに取り組んだか。

*1:「買い物難民」と言うことも多い。

楢原 真二(ならはら・しんじ)

北九州市立大学 法学部 政策科学科 教授

図1 北九州オアシスマーケットの概要

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孤独死も頻繁にみられる。また、人口減少も並行して進んでいる地域が多い。 さらに 2008 年から 2011 年にかけて八幡東区大蔵で行った一連の調査 *2 では、スーパー撤退の話や買い物について困っている高齢者の声も頻繁に耳にするようになった。大蔵地区は、人口約 8,100 人で 35の町内会から構成され、そのうち高齢化率が 40%以上の町内会が 21、50%以上の町内会が6つある超高齢社会である。一般的に高齢者は食べ物の消費量は少ない。高齢化が進みさらに人口減少が進めば、近くの商店街、スーパー等が採算が取れずに撤退し、買い物弱者が生まれるのも当然のことと言えよう。 局地的高齢化が進むコミュニティをどう立て直すかという問題と同時に買い物弱者の問題をどうすればよいか。ちょうどそう思っていた時であった。2011 年3月上旬に北九州商工会議所の能美育恵課長より連絡があった。

◆産(市場)・学協働の成立 買い物弱者の救済事業を考えているが協力してもらえないか。当方サービスの提供はできるが、買い物弱者がどのようなところにいるのかがよく分からず、地域住民に入っていくことがなかなかできないとのことであった。 金もうけ中心ではなく、ビジネスの手法を用いた社会問題の解決、すなわち「ソーシャルビジネス」を事業の理念に据えて行うのであれば協力は惜しまないと提案したところ、まさに「ソーシャルビジネス」として今回の事業を考えているとのことであった。後に「オアシスマーケット」あるいは「移動式市場」と命名した「産(市場)」と「学」の協働の始まりである。 話し合いはとんとん拍子で進んでいった。そして、まず社会実験を行うことにした。場所は、北九州市門司区市営後楽町団地。後楽町団地は、2007 年の筆者の調査 *3 では、高齢化率 87%でほとんどが一人暮らしの高齢者からなる超高齢社会、「限界団地」であった。2006 年5月 23日に生活保護問題に端を発した孤独死で有名となった団地でもあるが、現在では、住民、行政、大学などの支援のもとコミュニティの再生が進んでいる。 第1回目の実験(6月 22日)では8店舗が出店。後楽町団地にこれまで見たことのないような数の人たちが買い物に顔を出した。団地再生に力を注いできた者としては非常に感慨深い光景であった。当日は大学生も販売の手伝いから、アンケート調査、さらには出張喫茶などで大活躍をした。 7月 29日に行われた第2回目の実験では出店は前回を上回り 11店舗。前回のアンケート結果から今回は、八百屋とパン屋が参加することになった。しかし、当日は暑かったこともあり、前回より客足は減ったが、どの程度の人が必要としているかニーズは把握できた。一人暮らしの高齢者対策を意図した大学生の出張喫茶は、前回同様大好評であった。座ったまま帰りたくないといった高齢者もでたほどである(写真1)。

*3:楢原真二.芳賀祥泰編著.“大都市における局地的高齢化と限界コミュニティ―北九州市を中心にして ”.福祉の学校―安全・安心・快適な福祉国家を目指して.エルダーサービス,2010,P. 68.楢原真二.“北九州市門司区市営後楽町団地の現状と問題点―2回にわたる調査からみえてきたもの ”.北九州市立大学法政論集.2010,第 37巻,第4号.

*2:楢原真二監修.大蔵地区高齢者の実態・ニーズ調査報告書―単身高齢者編.2009.楢原真二監修.大蔵地区における高齢者世帯の生活実態・ニーズ調査報告書―二人暮らし高齢者編.2011.

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 こうした実験を受けて、大型のオアシスマーケットを1・2カ月に1度、生鮮3品を中心とした小型のオアシスマーケットを毎週行うことにし、9月からは毎週火曜日の 11~12時に集会所で小型のオアシスマーケットを開催することにした。回数を重ねるごとに固定客もつき、始まる前から待っている住人も大勢でてきた。

◆オアシスマーケットの意義と課題 さて、オアシスマーケットの意義は何か、再度みておきたい。 まず、市場の側からは、新たなビジネスチャンスとなることである。換言すると市場の生き残りをかけた新しい試みとして重要な意味を持つ。 次に、町内会にとっては ①買い物問題が解決でき、 ②ひきこもりがちな高齢者に対して最低でも週に1回は住民相互に交流できる場、コミュニケーションの場、憩いの場を設定でき、地域ににぎわいをもたらすことができる。また大学生の出張喫茶などでは普段誰とも話す機会のない一人暮らしの高齢者にとってはまさに精神的なオアシスとなっている。 最後に、大学としては新しい形の地域貢献になるであろう。大学の教員にとっても自分の研究を社会のために活用することができる。また、大学生が高齢者ばかりの地域に入って活動することは地域の活性化につながるであろう。

 現在のところオアシスマーケットの第1の課題は、採算が取れる形で、住民の満足度を維持し継続していくことである。現時点で開催場所は1カ所であるが、これを2カ所3カ所と増やしていき、採算が取れるビジネス形態として継続していく必要がある。 第2に、学生が社会貢献をしながら生活費が稼げるような仕組みを作ることである。大学生は親からの仕送りも減り、多くの学生が奨学金をもらったり働きながら大学で研究している。こうした学生の手助けはできないかと模索中である。 第3に、オアシスマーケットに訪れる高齢者の安否を確認することである。現状ではまだここまでは至っていないが今後検討すべき重要課題であろう。 21世紀、市場も大学も新しいアイデアが必要とされており、新たな協働が求められているのではなかろうか。北九州オアシスマーケットが新しい協働形態を切り開いていくことを期待してやまない。

写真1 オアシスマーケットの様子

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◆「デザイン」を通した商店街と大学の連携 北九州市立大学赤川研究室では、2006 年から福岡県北九州市八幡西区の黒崎熊手商店街と連携して、さまざまな活動を行ってきた。われわれの研究室は建築設計と都市計画を主な研究テーマとしているが、両者ともに、「実践」を伴わないと社会的に意味のある貢献にならないし、教育にもならないという観点から、実際に建築を設計し、まちづくりに参加することを重視し、われわれの住む都市環境を実際に「改善」できるかどうかということを行動基準としてきた。活動はアートイベント実施から、交流スペースの設計・施工などに及ぶが、その活動の根底には「デザイン」というキーワードが共通している。 黒崎熊手商店街は、旧長崎街道沿線に位置するだけではなく、衰退の進む北九州黒崎地区の商店街の中でも、危機感を持ち、さまざまな努力が払われている商店街であった。また、細い路地などが残っており、魅力的な空間が存在することもわれわれが活動対象として選んだ要因であった。

◆学生の活動と商店街の方々との相互関係 商店街で活動する中で重視していることは「デザイン」を通じた貢献である。われわれは「デザイン」の専門家であり、将来「デザイン」を稼業としていく学生が「デザイン」を通して商店街に貢献するというポリシーを持って活動している。とはいっても、「デザイン」を通した貢献は非常に広範囲にわたるので、あらゆることを試してきた。「デザイン」という行為の多様性のケーススタディーとして、以下に示すように毎年その可能性を実験してきたともいえる。【熊手商店街で行ってきた活動】2006 年:熊手交流スペースの設計と施工(写真1)2007 年:販売カートと案内マネキンの製作2008 年:カフェの実施2009 年: 大連交流店舗の設計と施工、あんどんの製

作、モニュメントデザイン提案(写真2)

市街地対策・まちづくり 学の貢献

デザインによる地域貢献の可能性

特集

研究テーマとする建築設計と都市計画における「デザイン」は「実践」を伴わないと、社会的に意味のある貢献にならないし、教育にもならない――こうした観点から、実践の場として北九州市・黒崎熊手商店街を選び、2006年からさまざまな活動を行ってきた。

赤川 貴雄(あかがわ・たかお)

北九州市立大学 国際環境工学部建築デザイン学科 准教授

写真2  大連交流店舗の設計と施工のプロセス(2009年)

写真1 黒崎熊手交流スペース(2006年)

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2010 年: 舗装提案、デザイングッズの作成と販売、黒崎路地裏アートプロジェクト(写真3)

 学生にとってみれば、商店街での活動は未知の世界での経験となり、商店街の方々にとっては普段あまり接することのない学生という異分子が商店街に来ることが刺激となっているようである。通常あまり出会わなくなったグループが出会う機会を設けることそのものが、現在の都市の在り方を考える良い機会となっていると考える。

◆体験としての失敗 われわれが行ったさまざまな提案がすべて受け入れられてきたわけではない。完全に拒絶された提案もある。活動を引率する教員として、なんとか学生の思いを実現させてあげたいと考えてきたが、ある段階で、「実現しない理由」を考えさせて、実現しないということもそのまま体験させた方が良いと考えるようになった。商店街のニーズと一致しない提案が受け入れられないという事実を体験することも、学生が将来実務家として社会に出るまでに経験するべき重要な体験だと現在では考えている。

◆設計の仕事と同じプロセス 本プロジェクトでは、商店街のニーズを調査する→そのニーズに対して提案を行う→商店街の反応を見て修正を行う→提案を実現する方法を考える→コスト制限の中でどうやって実現するか考える→プロと連携するか自ら施工する→納品、というプロセスで案件を実施してきた。 こういったプロセスは実社会において、設計の仕事を行うプロセスと基本的には同じであり、そこで要求される暗黙知的なスキルもまったく同じである。課題解決型の教育方法を PBL(Project-Based Learning)と呼称するが、本プロジェクトが学外で実際にプロジェクトを実施する点が、学内の設計製図課題と大きく異なる点であり、かつ、学生の探求心、野心、モチベーションを向上させている要因である。 また、上記のプロジェクト実施プロセスは基本的には大学での研究プロセスと類似するものであり、大学での研究にも寄与していると考える。

◆まとめ 建築設計、都市計画のような実学的な分野においては、プロジェクトを実際に実施することが教育上も有効であり、そのことが地域貢献にもつながるという思いがわれわれのプロジェクトを支えてきた。課題も多く、活動を継続することは困難であるが、これからも継続的に活動を行っていきたいと考えている。

写真3  黒崎路地裏アートプロジェクト2010(2010年)

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◆地域のニーズに立脚したなんでも相談会 経済学部は、理工系の学部と違って、企業と連携して商品化できるような技術を持っていない。経済学部は現実の経済現象を解明し、経済状況の改善に導く政策手段の研究に携わっているが、個別的企業との具体的連携となると不思議につながらない。提供できる具体的技術がないという事情があるので、仕方のないことかも知れない。J.M. ケインズが言ったように、経済学は物理学などに比べて専門的でなく平易であるが、学問領域を超えた幅広い知識の集約を必要としている。この特色から考えると、いろいろな分野の人々を結び付けるネットワークづくりには適している。言い換えれば、自ら持つシーズを売り出すのではなく、それぞれの人々や地域が抱えているニーズを引き出し、そのニーズを実現するためのネットワークづくりを担うということである。このことから発足したのが、久留米大学経済学部の「筑後川流域圏地域づくりなんでも相談会」である(写真1)。 この相談会は、筑後川流域圏のいろいろな人々に働き掛けて、「このゆびとーまれ方式」で問題の解決を図ろうとするものである。この方式では、   Step 1 問題・テーマを出し合い、集まる   Step 2 テーマを出した人がこの指をたてる   Step 3 外部の人にも呼び掛け、人数を増やし、チームをつくるの3つの段階を経て、提案されたアイデアの実現を図っていくものである。 今まで提案されたもので、主に実現されたのは次のものである。

◆現代若衆宿 これは、久留米市で飲食店を営む若手の実業家らの提案である。若い人、特に学生と勉強会を開いて互いに切磋琢磨(せっさたくま)しようとするものである。経済学部の立場からも、学生が教室での座学ばかりでなく、実際に事業を経営している人たちと一緒に現場に則した勉強ができることは望ましいと判断した。それで、この提案を6カ月間のインターンシップ(16単位)としてカリキュラムに加えた。

市街地対策・まちづくり 学の貢献筑後川流域圏地域づくりなんでも相談会 ~久留米大学経済学部の地域連携~

特集

各地の大学が取り組んでいる地域貢献。経済学部の強みは、いろいろな人々を結び付けるネットワークづくりだ。久留米大学では、テーマを出し、住民に参加を呼び掛け、チームで課題解決に臨む。1つのプロジェクトでは、学生のインターンシップとしてカリキュラムを加えている。

駄田井 正(だだい・ただし)

久留米大学 経済学部 教授NPO法人 筑後川流域連携倶楽部理事長

写真1  「筑後川流域圏地域づくりなんでも相談会」パンフレット

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◆薬物依存問題解決 これは、実際に子息が薬物依存で悩んでいる人からの相談から発足したプロジェクトである。シンナーや覚せい剤中毒者をどう更生させるかについて、福祉・心理などの専門家、医師、保護司、警察官などの関連する諸方面から集まって研究会が発足した。研究会を重ねるうちに、この研究会は思わぬ方向に発展した。 子どもたちが薬物に手を出さなくするには、子育てについての地域の連携が必要であるということから、大学を中心にして地域の子育てネットワークづくりをしようということになった。その一環として、「ゆにば広場」という祭りイベントを大学のキャンパスで開催されるようになった。今年、3回目が開催された。さらに、この研究会を通じて形成されたネットワークが発展し、今年NPO法人の資格を取り、いよいよ活動が本格化する方向にある。

◆ネコメ洞 中心市街地の活性化はどの自治体にとっても課題であるが、なかなか決め手がないようである。特にシャッター街という別名がつけられる商店街の不振は甚だしい。それで提案されたのが「ネコメ洞」である。商店街を単なる「物売り」の場とするのではなく、かつてあったと思われる「人々の交流の場」の要素を加えて再生しようという発想である。 「ネコメ洞」は誰でもが気軽に参加できる一種のサロンである。人々が食事や酒を酌み交わしながら会話を楽しみ交流しようというものである。このような交流の中から中心街を活性化するアイデアも生まれ、情報も共有できる。ネコメは猫の目のようにいろいろな人が入れ替わり訪れてくるという意味である。 この提案は、「交流いちば・かっぱ洞」(写真2)として久留米西鉄2番街に実現し、今年で2年目を迎える。かっぱ洞では、普段の営業の他に「歌声喫茶」や、ちょっとした勉強会などさまざまな催しもあり、いろいろな人が訪れ交流の場となっている。また、かっぱ洞は地域通貨「カッパマネー」の両替所の役割も果たしている。カッパマネーは筑後川流域約80の協力店で流通し、その運用によって得られた余剰でボランティア活動を支援している。 「なんでも相談会」では、生ゴミ処理機の共同利用、地域通貨と連携したNPO銀行、ことづけ「モノ」配送システム、筑後川ブランドづくりなどユニークな提案がなされている。これらの提案もこのネットワークの中で、実現されていくことに期待したい。 写真2 「かっぱ洞」サロンでの交流の様子

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◆はじめに 宮城県仙台市のサンモール一番町商店街は南北に伸びる一番町商店街の南端にある(図1)。戦後、露天商が集まって「中央公設市場」(現在の壱弐参横丁:壱弐参は「いろは」と読む)ができ、近くに東北大学や東北学院大学があったことから、映画館、本屋、楽器屋、レコード店、スポーツ用品店、飲み屋等でにぎわっていた。 しかし、東北大学は教養部やサークル棟が仙台市西部の川内キャンパスに移り、東北学院大学も教養部が泉キャンパスに移転すると、映画館やレコード店等は廃業または移転してしまった。歩行者も平日で1万8千人(2011 年)と、10年前の比較で30%減少した。大型店舗だった丸善書店跡地は駐車場になり、空き店舗も 2011 年現在5店舗ある。商店街の魅力が低下してきた。

◆サンモール商店街の魅力 それでも、新しく輝きだした魅力もある。例えば、サンモールのアーケード街では週4回、マルシェ・ジャポンが開催され新鮮野菜等の販売が始まった。2010 年実績で来街者 92万人、売上1億5千万円を記録し、集客と売上効果が確認されている。また、壱弐参横丁は家賃が比較的安いことから若者等の起業もみられ、昭和レトロなお店や、若者向けの雑貨屋等も増えてきた。文化横町でも老舗の中華店や洋食屋、瀟洒(しょうしゃ)な飲食店が並びサラリーマンや若者が訪れている。 また、東北大学片平キャンパスでは研究所に外国人研究者や留学生が増え、それに合わせてアイリッシュパブや旅行会社等がオープンしている。さらに 2015 年度開業予定の仙台市地下鉄東西線の一番町駅が「サンモール一番町商店街」と青葉通りとの交差点地下に設置され、それに直結して、商業施設、医療・福祉サービス、マンションが入った 22階建ての複合施設ができる等、新たな街の魅力が創出されようとしている。

◆変化の胎動 このような変化をうまく利用して街の活性化を進めようという取り組みが始まっている。これはまちなか再生支援法人仙台エリアマーク事業協同組合(代表理事:松本真明氏、以下「エリアマーク」)がコーディネータ

市街地対策・まちづくり 学の貢献仙台市・サンモール一番町商店街 地元大学と商店主、まちづくり関係者の連携

特集

仙台市のサンモール一番町商店街はJリーグのベガルタ仙台や地域の多くの大学を活用して活性化に取り組んでいる。横町めぐりツアーの企画、新名物料理の開発、公衆トイレリフォーム、「井戸端」復活プロジェクトなどさまざまなところで学生が大活躍だ。

柳井 雅也(やない・まさや)

東北学院大学 教養学部 地域構想学科 教授

図1  仙台市中心商店街とサンモール一番町商店街の位置

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役となって、Jリーグのベガルタ仙台や大学の力をうまく活用しながら壱弐参横丁を活性化しようというものである。ちなみに、この組合は土地開発、建築、商品企画、印刷関連の企業や人が結成した組織で、まちなかの再生支援をする体制が整っていることで知られている。 この組合メンバーの高橋雄志氏(まちづくりプランナー)は、2009 年に「いろは横丁活性化実行委員会」を起こし、2010 年に初めての企画「~祝どんと祭~いろは横丁の小正月」を行った。ここに東北文化学園大学、東北学院大学、東北大学、宮城教育大学等の先生や学生が参加し、チラシのデザインや横丁めぐりミステリーツアーの企画、新名物いろは汁開発、餅つき大会等を立案し実行した。また、公衆トイレのリフォームでは宮城教育大学の学生等が手伝いをした。また井戸端の復活を図るため東北工業大学ライフデザイン学部の学生が話し合いを重ねてイメージを形にし、縁台や板塀の製作、昭和レトロな外灯の設置、井戸の洗い場の整備を行った(写真1)。このような成果を上げたところで、エリアマークは大学との連携ノウハウをサンモール全体に展開することになった。

◆「実感」のある商店街活性化へ サンモール一番町商店街は、中小商業活力向上事業(経済産業省:2011~2015 年度)を受託した。これは、来街者を増やすイベントを展開しつつアーケードを改修する計画(サンモール一番町ふれあいビレッジ事業)で、振興組合とエリアマークが主体となって、そこに大学等が協力する体制となっている(図2)。 例えば、野中神社やミツバチプロジェクト等、商店街の魅力を探訪する「ぶらサンモ」企画に大学の先生や学生たちが協力している(写真2)。「みちのく酒の駅」の企画では東北工業大学が協力し、被災した酒蔵の復興映像を、建設中の再開発ビルの囲い塀を利用して投影し注目を集めた。また「留学生・在仙外国人のためのサンモール国際派商店めぐり」「マルシェ・ジャポンセンダイ井戸端会議」でも、大学の先生や学生が関わっている。

◆商店街活性化に関わる大学の力 事業が比較的うまくいっているのは、エリアマークが大学と地域商店街との間に立ち、両者の通訳と提案者としての役割を果たしているためである。これによって、大学の先生は、より専門的なアドバイスや活動に集中できるようになった。また、学生もそれに合わせてアイデアやマンパワーを発揮しやすくなった。さらに、1つのプロジェクトに複数の大学が参加することも可能になった。大学が全てを仕切る場合、ともすれば独りよがりで机上の空論を展開するケースがみられるが、この組織体制ではその弊害が極力排除されている。 いずれにしても、大学の力が最大限に活かせるような体制作りを、よく考えることが重要であるといえる。

写真1  井戸の洗い場には愛嬌のある“ゆるキャラ”の竜神

写真2 「ぶらサンモ」の様子

図2  サンモール一番町ふれあいビレッジ実行委員会の体制

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 高校生が運営する商店「吉商本舗」(写真1)は 2004 年7月 24日、静岡県富士市の吉原商店街にオープンした。当時、学校名は富士市立吉原商業高校だった(2011 年4月、学校名が富士市立高等学校と変わった)。商業高校では生徒全員が商業を学習する。商業を実際に体験するため、店舗運営の部活動を行いたいと、「商業ビジネス部」(現在はビジネス部)が発足。部員9名でスタートしたこの部が吉商本舗の主体となった。 お店で販売するのはお菓子、ジュースなどが中心だが、雑貨、オリジナル商品、フェアトレード商品などのほか、「郵便」も取り扱っている。店舗は、木曜の定休日、テスト週間、年末年始の休み以外は基本的に毎日営業している。営業時間は、平日は授業が終わってから夕方6時まで、土曜・日曜・祝日は朝 10時から午後3時まで。商店街でお店を開く以外に、出張販売も行っている。市内の出張販売の依頼が多く、最近では土日の出張販売は当たり前で、1日2、3か所訪問することもある。デイサービスを行っている老人介護施設、学童保育の施設、子ども会、地域のお祭りなど出張先もさまざまである。「販売を通して、地域や社会に貢献する」ことを目的に掲げ、地域や社会のためにできる活動を常に考えている。

◆企業とオリジナル商品開発 生徒たちは、商品の仕入れから入出金の管理、出張販売の調整や、シフトの割り振りなどを自分たちで行っている。また、企画に関しては、吉商本舗オリジナルの商品を企業と連携して開発したり、店舗でのイベントを考えたりしている。 オリジナル商品はたくさんある。「よっぷ」というあめ(写真2)は、あめの中に「吉」の文字が入っている。2年ほど前から「べにふうき」「マラウイ紅茶」「ブルーベリー」と富士市や本舗に関係のある味の製品を出してきた。今年第4弾の「だいだい」味を出し、4種類まとめてパッケージしたものも販売している。最新のオリジナル商品は、ぽんず(吉商本ぽ

市街地対策・まちづくり 学の貢献

高校生のチャレンジショップ「吉商本舗」

特集

静岡県富士市の吉原商店街にある商店「吉商本舗」は、同市立高校の「ビジネス部」の生徒が運営している。7年余りの歴史をもっている。企業といろいろなオリジナル商品を開発。また、アフリカ大陸のマラウイ共和国の子どもたちが作るブレスレットを販売し、同国の貧困やエイズに苦しむ子どもたちの支援を行っている。

若園 耕平(わかその・こうへい)

富士市立高等学校 教諭

写真1 吉商本舗

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ん津)とめんつゆ(だいだいめんつゆ)(写真3)で富士・富士宮市のマックスバリュ全店(11店舗)で 11月5日から販売を開始した。

◆マラウイの子どもたちを支援 フェアトレード関係では、アフリカ大陸南東部にあるマラウイ共和国の子どもたちが作るブレスレットを 2006 年から販売している。カラフルなビーズでできた製品だ。この売り上げで、同国の貧困やHIV・エイズに苦しむ子どもたちの支援を行っている。きっかけは、私が参加した独立行政法人国際協力機構(JICA)の「教師海外研修」。研修先の同国の村で目にしたのは、深刻なエイズ問題の現実だった。「何か私たちにできることはないか」と考えていたときに、当時、同国北部のルウェレジという町でエイズ予防の啓発活動を行っていた青年海外協力隊の尾崎瞳さんに出会った。尾崎さんは活動の一環で子どもたちとブレスレットを製作、販売し、その利益をエイズ遺児の学費や生活費に充てていた。生徒たちから「先生、やりましょう」と賛同が得られたので、吉商本舗でも販売することになった*1。 また、本年は日本たばこ産業株式会社(JT)の支援を受けて、商店街全体を巻き込んだ企画を考え(図1)、多くの小学生を商店街に呼ぶことにも成功した。 2011 年4月、富士市立高等学校という新しい学校として出発し、1年生には商業を学ばない生徒も入学してきた。難しい商業の知識がなくても店舗の経営に関われるよう工夫している。現在3年生が引退し、部員は1、2年生合わせて 13名である。 生徒たちは店舗を通して社会と関わり、さまざまな経験をしている。生徒たちが社会の中で学び、自らの行動が社会に役立つと実感する経験は、何よりも生徒たちの自信になり、成長につながっていくはずである。

*1:JICA’s World 2010年3月号参照 http://www.jica.go.jp/publication/j-world/1003/pdf/04.pdf

図1 参加募集チラシ

写真3 「だいだいめんつゆ」写真2  吉商本舗オリジナル商品「よっぷ」

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◆地方都市のまちづくりに 10年余り 私は、1999 年、東京都立大学(現・首都大学東京)大学院(社会学専攻)の博士課程時代に、滋賀県長浜市の『黒壁』を中心とするまちづくり活動への参与観察を始めた。徳島大学に赴任する 2003 年まで、毎月1週間程度長浜に滞在し、「まちづくり役場」の活動を手伝いながらメンバーとして参画してきた。現在は、年に数日しか行けなくなったが、理事として継続的に長浜のまちづくりに関わっている。徳島大学赴任後は、徳島の「銀座」商店街に居を構え、商店街のイベントやNPO活動に参加しながら活動している。また、昨年度は一般社団法人「まちづくり役場とくしま」を立ち上げ、商店街内の空き店舗を活用する「まちなかキャンパス」事業(徳島市委託事業)を行っている。 私の場合、「大学」というよりは、大学院生・大学人「個人」として地域(町場・マチバ)に入ってゆくことが多いが、気が付くと 10年以上も地方都市の中心市街地活性化・「まちづくり」に関わっている。これまでの経験を振り返りつつ、地方の商店街の活性化と大学の関わりについていつも悩んでいること、および、(自分も含めた)「まちなか研究室」のように大学が商店街に拠点を持つ場合の有効な活用の提案を行いたいと考えている。

● まちづくりの矛盾:商店街にオフィスを構える「まちなか研究室」は、地元のまちづくりの担い手を育成しているか?(在学中、商店街に集いまちづくり活動をしている学生の多くは、卒業後、商店主にはならない) 商店街の活性化を考える場合、そのまちづくりの担い手の中心は商業主である。大学の機能の1つは人材育成であり、「地元」商店街の活性化を行うのであれば、理想としては、卒業生に地元中心市街地商店街のまちづくりの担い手の1人になって欲しい。しかし、現状はどうだろう? 在学中、商店街のイベントに関わった学生が、卒業後、商店主になり、まちづくりをする人材になるかと問われると、残念ながらNoと言わざるを得ない。 町場(マチバ)でまちづくり活動をしている人たちの多くの共通した見

市街地対策・まちづくり 学の貢献「まちなか研究室」へのインターンシップ、登録制度の提案 まちづくりの担い手をいかにUターンさせるか 

特集

全国各地の商店街で、地元の大学の教員・学生が、「まちなか研究室」などさまざまな活動を行っている。しかし、ごく一部の例外を除き、そこで学び、活動する学生が、卒業後、そこの商店主になり、まちづくりに取り組むわけではない。「大学とまちづくり」というテーマを考える場合、「地元出身で外部の大学に行っている学生」への視点が欠けている。そこで、「まちなか研究室」をまちづくりの新しい担い手育成の場として活用する方法を提案する。

矢部 拓也(やべ・たくや)

徳島大学大学院 ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部 准教授/NPO法人 まちづくり役場 理事

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解は、コンサルタントや行政職員のように計画や評論ばかりする人はいらず、実際に現場で活動する町場の人間が大事だと言う。商店街活性化に関心を持つ大学人もそのようなマチバの意見に共感して「まちなか研究室」を商店街に設け、現場に学生を送り込み、商店街や地域とイベントなどさまざまな実践をし、マチバの考えを共有してゆく。しかし、これはジモトのまちづくりの担い手育成のための実践とはならない。大学時代に培ったまちづくりの「経験」は、就職活動において自分がなりたい職業を得るためのエピソードとして消費されることが多い。しかも、マチバが言う、行政職員やコンサルタントになる(志望の)学生が多いという矛盾。 考えてみれば当然だが、自分が商業主の後継者でない限り、商業主になりたいと思って大学に来る学生は少ない。実際の商業主のキャリアはといえば、地元なら、(商業)高校出身者、大卒であれば、地元大学よりも、地域外の大学出身者が多い。特別な場合を除いて、地元の大学に進学することはまれである。 「まちなか研究室」での活動は、在学中の大学生を衰退する商店街に労働力として動員する役割は果たすが、長期的な地元のまちづくりの担い手育成には寄与しにくい構造を持っている。本気で、ジモトのまちづくりの担い手育成をするのであれば、自分たちの学生以外をネットワーク化するしかないとも言える。

● 提案:外部に存在しているジモトまちづくりの担い手候補者の入口としての「まちなか研究室」・ジモト出身者登録制度(Uターン社会人が集う場、地域外に出て行った大学生が帰郷の際に立ち寄るジモト「大学」、まちづくりに関心のある人が誰でも立ち寄れる場) 地元大学の在校生は確かにまちづくりの担い手ではあるのだが、それは在学期間中という一時的な担い手に過ぎない。恒常的なまちづくりの担い手育成をも同時に行わなくては、中心市街地を活性化させるという「地域貢献」の真の目標は達成されない。現状、長期的に携わる人材は、担当する教員個人だが、それだけでは衰退する商店街を再生させる社会的な仕組みにはならない。 そこで、私が提案したいのは、①各大学における「まちなか研究室」に関わる学生たちの出身地にある「まちなか研究室」へのインターンシップ、および登録制度である。地方国立大学の特徴として、出身地への就職志向(特に公務員志向)が強いことがある。まちづくり担い手論から考えると、「今」だけを見れば地元大学の在学生を担い手として考えることは有効であるが、長期的に見れば、Uターンしてジモトに就職する現在他地域の大学生こそが、実は、ジモトのまちづくりの中心的な担い手候補者である。もちろん、他地域の「まちづくり」を経験することも重要であるが、最終的な活躍の場はジモトである。早いうちから、現状を知り、長期休業などを利用しジモトでまちづくりインターンシップを行い、自分が戻ってきた際の足場づくりをすることは、継続的なまちづくりの担い手育成を考える上で重要かつ基本的な仕組みづくりではないだろうか?

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 また、応用編として、②現在県外で就職しているジモト出身者が戻る際の、足場づくりとしての「まちなか研究室」(メンバー登録とインターンシップ制度)。地元に戻ろうにも、とっかかりが無いと感じている地域外居住者は意外に多い。また、そのような方は、出身地のまちづくりへの関心も高い。彼らに、休日の数日でも、まちづくり活動に参加してもらい、故郷への愛着がより深くなれば、何らかの職を探してジモトに戻ってきてもらうきっかけになろう。また、場合によっては、そこから職が見つかるかもしれない。大都市と比べると、地方の場合、どうしても給料などの経済的所得は減少することが多いが、人生の楽しみとしてのまちづくりがあることで、その一部を埋め合わせることは可能である。また、彼らの外部の視点が、これまであまり評価されていなかった地域の魅力を再発見させる可能性も大きく、まちづくりの大きな力になると期待できる。

◆外部から情報・資源を取り入れる●まとめ:徳島大学だから徳島の商店街を応援するのが地域貢献? ある産官学連携の関係者から、産官学の3つのうち、地元企業(産)と行政(官)は地元から離れられないが、「学」は地域から離れて活動できるから違うと、産官から大学について不満を言われることが多いと聞いた。現在は地元企業でも海外進出する時代なので、必ずしも産が地域に縛られているわけではないが、理念型としては理解できる。学生が卒業後、必ずしも大学の所在地に残らないのもこの特徴の1つであるし、大学の研究の題材が必ずしも大学の所在地域にあるとも限らない。むしろ、多くの研究者は地元以外をフィールドとして研究している。 逆に言えば、地元に必要な知識は地元以外の大学が持っているかもしれない。地域貢献を狭く捉え、衰退する商店街への人的資源動員の源泉としてのみ大学を捉えるのであれば、近接性のある地元大学が重要であるが、事の本質に立ち返り、当該地域の社会問題解決として考えるのであれば、「まちなか研究室」を通じ、世界中の関係する資源をネットワーク化し、外部から重要な情報・資源を取り入れ、新しい仕組みをつくる方が、「学」として果たすべき役割なのではないだろうか。また、卒業生が就職後の他地域でも「まちづくり」を継続して行うような仕組みづくりこそが、人材育成機能を持つ大学の使命ではないだろうか。 入学生減少という大学にとっては存亡を揺るがす大問題があるために、各大学は自分の大学の特徴として「○○大学」まちなか研究室と自分の大学をアピールしたいという気持ちは分かるが、現在、日本の大きな社会問題となっている、地方の中心商店街の衰退という大問題に「学」として対処するためには、相互の人材交流やアライアンスなどをもっと進めてこそ、真の「地域」貢献になり、志を持った学生の入学につながるのではないだろうか?

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加工組み立て産業を中心に工業が集積している地域では、企業と大学の共同研究はどんな構造、特徴なのか。首都圏北部4大学連合(群馬大学、宇都宮大学、茨城大学、埼玉大学)が4大学と共同研究している企業にアンケート調査を実施したところ、企業はその成果に一定の満足度を持っていることが分かった。

伊藤 正実(いとう・まさみ)

群馬大学 共同研究イノベーションセンター 教授 兼 知的財産戦略室長/首都圏北部4大学連合事業 事務局長

大学との共同研究で一定の満足度 首都圏北部 4大学連合の企業調査 

◆ 4u事業の背景と主たる取り組み 関東地方の北部にある群馬県、栃木県、茨城県、埼玉県の4県の工業出荷高の総計は、京浜、京葉工業地帯を擁する東京、神奈川、千葉の3県のそれとほぼ同等の規模にあることはあまり知られていない。関東平野の北部は、間違いなく日本有数の工業集積地帯である。この4県の間の交通アクセスは、平成 23年3月の北関東自動車道の全線開通により、飛躍的に向上した。かつて前橋―水戸間の自動車での移動時間が4時間以上かかっていたのが、これにより2時間近く短縮される。これより、北関東4県の経済交流がさらに発展することが予想されることから、この領域での産学官連携活動も活発化させようという機運が高まり、平成 20年3月 17日に、科学技術振興機構、中小企業基盤整備機構、関東経済産業局の協力の下、4県に立地する自治体、産業支援機関および茨城大学、埼玉大学、宇都宮大学、群馬大学の4大学が、共に連携して地域の活性化を意図して産学官連携活動に取り組むことが首都圏北部広域産学官パートナーシップ宣言により合意形成された。こうした背景から、首都圏北部4大学連合(通称「4u」)事業が、当時の文部科学省産学官連携戦略展開事業の支援を受け、平成 20年8月から活動が開始された。本事業では、各県を巡回して行う研究発表会である新技術説明会キャラバン隊や研究シーズ集 ‶4u”の発行、弁理士チャレンジ講座、産学官連携事例講演会、食の安全と健康シンポジウム等、多様な試みがなされており、最近では、より実効のある取り組みとして、4大学でそれぞれの専門性を持ち寄って地域ニーズを意識した連携研究プロジェクトの構築を開始し、4大学が連携している公私立大学や高専を巻き込んだ知財管理従事者のリテラシー向上を意図した知財管理研究会の開催等も行っている。

◆ 4u+筑波大学による広域技術相談ネットワークの構築 また、平成 21年度から、北関東のクラスター事務局である首都圏北部地域産業活性化推進ネットワークと連携し、広域での技術相談ネットワークを構築した。これより、例えば、群馬大学が群馬県の企業から技術的な相談を受けたものの、その対応ができなかった場合、他の連携する3大学から対応できる研究者を紹介してもらうことがワンストップで可能になった。このような技術相談は守秘義務を伴うので、大学間で話を振るという

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のは通常は困難であるが、これも 4u事業の大きな成果と言えよう。さらには、平成 23年3月 11日に開催された4大学の理事などで構成する首都圏北部4大学連合事業運営協議会でこの技術相談ネットワークに筑波大学にも入っていただくことが承認された。本来の北関東4県の地域活性化を産学官連携で取り組むという本来の趣旨から言えば当然のことであるが、こうした大学間連携の拡大は、個々の大学の思惑や運営の戦略の考え方の相違等もあって、そう簡単にはできないものであり、これをもって本事業は新たな展開を迎えたと言っても過言ではないであろう。

◆ 北関東4県の企業と4大学との間の共同研究に関する調査事業について

 さて、北関東4県の産業ポテンシャルは上述した通り、非常に高いものがあるが、こうした地域の共同研究の構造がどのようなものであるか平成22年度に調査した結果の一部をここでご紹介したい *1。本調査事業では平成 16年~21年の間に群馬大学、宇都宮大学、茨城大学、埼玉大学と共同研究を行った4県に立地する企業を対象にアンケートを行った。

●大学との共同研究に対して企業側は一定レベルの満足度が得られている アンケート送付先は 757 社で回答した企業は 278 社(回答率 36.7%)であった。最初の設問として、この共同研究の成果が企業側から見てあったかどうかについて問うたところ、図1に示すとおり、4大学と共同研究実績のある企業全体で、大学との共同研究の成果があったが 215 件(76%)、なかったが 18件(6%)、なんとも言えないが 51件(18%)であった。企業規模別(中小企業と大企業)では、中小企業で大学との共同研究の成果があったが 151件(74%)、なかったが 16件(8%)、なんとも言えないが 38件 (19%)、大企業で大学との共同研究の成果があったが 64件(81%)、なかったが2件(3%)、なんとも言えないが 13件(16%)であった。少なくとも回答をいただいた企業を見る限り、大学との共同研究の成果に対して一定以上の割合で、ある満足度を与えていることが、結果から示唆される。

● 大学の研究成果の提供よりも企業の技術や製品の評価や分析あるいは企業の技術課題に対する対応が主流 また、大学との共同研究の成果が出たと回答した企業へその理由を尋ねたところ、図2に示すとおり、全体で1位が「自社の課題が解決できた」で 89件、2位が「研究開発が継続しており、大

*1:詳細については、http://www.ccr.gunma-u.ac.jp/4u/News/Documents/Report20110328.pdf か ら そ の レポートをダウンロードできる。

図 1 企業側から見た共同研究の成果の有無について

図2 企業から見て共同研究で成果が出たと考える理由について

1112-04伊藤.indd 301112-04伊藤.indd 30 2011/12/07 19:20:452011/12/07 19:20:45プロセスシアンプロセスシアンプロセスマゼンタプロセスマゼンタプロセスイエロープロセスイエロープロセスブラックプロセスブラック

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学とも研究開発が継続中である」が 83件、3位が「成果の一部が事業(あるいは製品)に利用されている」が 65件であった。企業規模別(中小企業と大企業)では、中小企業における1位が「自社の課題が解決できた」と「成果の一部が事業(あるいは製品)に利用されている」で同数、3位が「研究開発が継続しており、大学とも研究開発が継続中である」、大企業における1位が「自社の課題が解決できた」、2位が「研究開発が継続しており、大学とも研究開発が継続中である」、3位が「自社の人材育成に役立った」であった。本調査では、平成 16~21年度までの期間で共同研究を行った企業を対象にしており、企業での研究開発がいまだ継続中のものが多いことも容易に想定できる。 次に、同じく大学との共同研究で成果が出たと回答した企業に対して、企業に不足しているため共同研究で大学が提供したリソースはどのようなものかという問いについては、1位は「企業の技術や製品に対する評価分析・評価試験」、2位は「新製品開発のための技術課題解決」、3位は「新製品開発のため、大学の基礎研究成果を用いた応用研究開発」、4位は「共同研究を通して得られた社員の人材育成」であった。このデータに示されるように、企業の規模を問わず、大学の基礎研究成果の提供ではなく、企業の技術や製品の評価や、企業の技術課題解決に対する知的資源の提供という形の共同研究が傾向として多いという結果が得られている(図3)。

●経済的な寄与までに至った共同研究は全体の約1割 本調査事業で対象とする企業で、大学との共同研究が、4大学との関係で、売り上げや雇用創出まで至った事例は全部で 25件あり、これは1次アンケートの回答数から見てほぼ 10%の企業が、大学との共同研究によって得られた成果が、ある種の直接的な経済効果につながったということになる。この数字自体は、企業が研究開発から事業化をしてそれが売り上げにつながるまでの必要な時間と今回対象とした企業の共同研究の実施時期を考えると、回答率が 36.7%ということを差し引いても、そんなに小さな割合ではないと判断している。また、現時点では、常に研究開発期間の短縮を迫られる中小企業での事業化事例が全体のうちの 23件を占めており、この傾向も妥当なものであろう。

 産業集積度の高い北関東での結果をそのまま一般化はできないかもしれないが、九州での産学官連携にかかわった経験のある筆者の感覚から言えば、地域の産業集積の規模にかかわらず、個々の産学連携の構造そのものの傾向は、どの地域でもそれほど大きな差異がないということを本調査事業の結果から確信しているところである。また、これをベースに 4u事業のさらなる発展を目指していきたいと思う次第である。

図3 大学が企業に提供したリソースについて(複数回答有り)

1112-04伊藤.indd 311112-04伊藤.indd 31 2011/12/07 19:20:452011/12/07 19:20:45プロセスシアンプロセスシアンプロセスマゼンタプロセスマゼンタプロセスイエロープロセスイエロープロセスブラックプロセスブラック

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女性は妊娠や避妊のために基礎体温の測定が重要。しかし、毎朝の測定結果をグラフに記録し、何日も繰り返すことは非常に面倒だ。女性社員の多かった企業が、大学などと組んで基礎体温を簡便に測定できる機器を開発した。

本杉 常治(もとすぎ・つねはる)

会津大学 産学イノベーションセンター 産学官連携コーディネーター

基礎体温測定を簡便に

◆はじめに 基礎体温を知ることは人間の健康管理上、特に女性の基礎体温は妊娠や避妊を考えると重要である。基礎体温とは活動による体温変化の要因を排除し、生命維持に必要な最小限のエネルギーしか消費していない安静状態で測定した体温をいう。この最小限のエネルギーしか消費していない安静状態は寝ている時であるが、寝ている時には体温は測れないため、一般的には起床直後に布団に横になったままの状態で測った体温を基礎体温としている。女性の基礎体温は排卵を境に 0.3~0.5 度上昇するが、基礎体温の変化から排卵日を知ることができるため、基礎体温は妊娠や避妊に重要な情報となる。しかしながら、毎朝の測定結果をグラフに記録し、何日も繰り返すことは非常に面倒なことである。 キューオーエル株式会社(以下「QOL」という)の本社が長野県上田市にあった当時(現在は東京都)、女性社員の割合が高く、「女性のために何かやりたい」と考えていた。そこで、基礎体温を簡便に測定できる機器を開発するプロジェクトを開始した。そして会津大学が参加した3年にわたるプロジェクトは「Ran’s Night」(図1)という名の商品を世に出すことで実を結んだ。

◆QOL との連携のきっかけ QOLの社員が毎朝起床直後に体温を測ってみたが、測定結果は不安定であった。調査したところ、皮膚表面の温度ではなく身体の内部の温度、すなわち深部体温の測定が重要であるとの結論にたどり着いた。そこで同社は深部体温の権威である元東京医科歯科大学教授の戸川達男先生を訪ね協力を依頼した。戸川先生は弟子である会津大学陳文西上級准教授をQOLに紹介し、同社の依頼で陳先生がプロジェクトに参加することになった。プロジェクトの資金は科学技術振興機構に応募し、採択されて交付された助成金である。戸川先生、本学の陳先生、東京医科歯科大学の先生、企業数社と婦人クリニック等がプロジェクトに参加した。

図1  商品化された研究成果。商品名は「Ran’s Night」。これをパジャマに挟んで寝る。Ran’s Night は 10分ごとに温度を測定し、測定結果はQRコードに表示される。

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◆大学のシーズ プロジェクトの狙いは基礎体温を簡便に測ることである。「寝ている間に基礎体温を測る」これが1番簡便な方法である。睡眠中に体温計を皮膚に密着しておくことは不可能ではないが、寝返り等の体動のため測定結果は雑音だらけの状況になる。本学の陳先生は雑音に埋もれた信号の抽出技術を研究しており、この信号処理技術を医療分野に応用することに主眼を置いている。すなわち、体温、脈拍、呼吸等の生体信号を抽出して無線でパソコンあるいは携帯電話に送り、インターネットあるいは携帯電話でその信号をサーバーに送信し、データベース化するシステムの研究を行っている。プロジェクトのニーズは雑音だらけのデータから体温信号を抽出し、それを日々記録して長期間の体温変化を知ることである。プロジェクトのニーズと陳先生の研究テーマとは完全にマッチングしている。陳先生は就寝中に測定したデータを携帯電話経由でサーバーに送信しデータベース化する部分と、データベースからデータマイニングの手法により体温信号を抽出する部分とを担当した。

◆開発した製品 「Ran’s Night」は 2008 年発売。長径7センチ厚さ1センチほどの卵形である。ユーザーは「Ran’s Night」をパジャマに挟んで就寝すると、10分ごとに体温が測定され、その結果はQRコードで表示される。ユーザーは翌朝QRコードを携帯電話で撮影してサーバーに送信する。図2の上の波形はサーバーに送られてきた6カ月分の生データである。生データには基礎体温の変化に関する情報が含まれているが、このままでは何も分からない。そこでデータをデータマイニング技術で処理すると、図2の下の波形に示すように高温相と低温相に明確に分離される。高温相から低温相に移行する部分の*印は自己申告による月経日であり、低温相から高温相に移行する日が排卵日である。このように、「Ran’s Night」をパジャマに挟んで寝るだけでデータマイニング技術により基礎体温の変化を簡便に知ることができる。「Ran’s Night」は発売した年に第2回キッズデザイン大賞を受賞したほか、数々の受賞実績がある。価格は税込み1万 3,440 円で1万個を超える販売実績がある。

図2  上の波形:測定データ。下の波形:信号処理後のデータ。*は自己申告による月経日。

1112-05本杉.indd 331112-05本杉.indd 33 2011/12/07 19:21:462011/12/07 19:21:46プロセスシアンプロセスシアンプロセスマゼンタプロセスマゼンタプロセスイエロープロセスイエロープロセスブラックプロセスブラック

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◆はじめに 東京農工大学では、オープンイノベーションの推進を大きな目標に掲げ、イノベーションをけん引する人材の養成がその重要なポイントであるとの認識に立ち、産学官の連携の中で積極的な活動を進めている。今回は、特にイノベーション人材養成に向けた取り組み姿勢について紹介させていただきたい。 産学官連携活動において、その目標を明確にすることは重要である。産業界と大学、公的機関が連携して進める共同研究、受託研究やベンチャー企業の創業などは、産学官連携活動の重要な要素になっていることは間違いない。しかし当たり前のことではあるが、「連携すること」や、「起業すること」そのものが最終的な目標ではない。それではその目標とは何か、と問われれば、私は「イノベーション」であると答える。イノベーションは、新たな価値を世の中に提案し、社会や企業が継続的により良い方向に進むことであるが、具体的には新しいアイデアや知見を周囲の人々や社会に対して実践することから始まる。そのためには、自分以外の人たちに理解されるよう、提案方法にもさまざまな工夫を凝らし、その重要性を分かりやすく説明し、不十分な点は再検討するようさらに努力しなければならない。そして最終的には、ある企業がそのアイデアに基づいて広げた事業によって利益を上げることや、新しい社会システムが構築されることによって、多くの人たちに喜びや満足がもたらされることが1つの到達点になると考えている。もちろんこの目標を達成することは困難を伴うものである。しかしそれを個人が、あるいは組織が乗り越える力をつけ、イノベーションを実現することこそ、産学官が連携することの本当の意味であると考えている。

◆イノベーション実現に必要なこと それではイノベーションを実現するためにはどうしたらよいのだろうか。もちろん、研究や開発の意義を明確化して精力的に日々の活動にまい進することは大切なことである。しかし、まず認識しなければならないことは、イノベーションは優れた技術開発の成果と必ずしも直接つながってはいないという点である。イノベーションに向かう上で第1に必要なことは、いつも新しいアイデアを考え、周囲の人と話し合いながら、経験に基

イノベーションを実現するために重要なのは、それを推進する人材である。このイノベーションリーダーを養成するために国内外の大学や企業、研究機関、さらに中学、高校と連携している。

千葉 一裕(ちば・かずひろ)

東京農工大学 大学院 農学研究院 教授、学長補佐(イノベーション担当)、イノベーション推進機構長

第4回

オープンイノベーションを推進する人材養成に向けて

連載 東京農工大学の産学官連携

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づき優れた形に磨き上げることである。競争相手や批判的な意見にもしっかりと耳を傾け、自分の考えに傲慢(ごうまん)にならずに他人のアイデアや技術との違いを冷静に判断する勇気も必要だ。時間や価値観を共有できる素晴らしい仲間を増やしていくことも不可欠である。そして何よりも、イノベーション実現の途上で遭遇するさまざまな困難を乗り切るための「質的に高いモチベーション」が必要になる。このモチベーションは、イノベーション実現に向かう内発的な力であるが、ここで言う「質的に高い」とは、単により良い生活のためとか、利益を上げるためということではない。それは、持続する意志の力、自己制御の力と共に学びの動機づけを行い、自分自身の能力を高め、その結果として世の中で真の力を発揮できる自分になろうとするモチベーションである。最初から大きな夢を描く必要はない。何か具体的なことで早く成功しなければなどと思わなくてもよい。自分を今よりも少しでも高め、社会の中や、学術研究の中で自由な発想を展開できるよう努力したいと思うだけでまずは十分だと思う。本質的には、この段階が楽しめているかどうかがとても大切である。このような意味において、例えば学術研究のように一見社会活動と離れているように見える中にも、自分自身を高め、実践する場は無数に存在している。これに気付いている学生や研究者は、その専門的な世界を俯瞰(ふかん)し、真理を見抜く目を養い、そして何よりも仲間と共に毎日楽しんで研究をしていると思う。

◆自らイノベーションリーダーになる イノベーション実現において不可欠なものは、それをけん引するリーダーの存在である。「リーダー」と言うと、つい自分の周りでは誰のことなのだろうかと考えがちだが、自分自身がそうなろうとしているかどうかが肝要である。私なりのリーダーの条件とは、他人の意見に耳を傾け事象を的確に把握できること、組織が前向きに進むような考えを提案すること、自分自身で展望をもって実践できること、そして自己制御の力、持続する意志の力と体力を持っていることである。もっと簡単に言えば、何か今までと違うことをやってみようとか、自ら進んでアイデアを話してみようとか、名乗り出て仕事に挑戦してみようとすることだと思う。組織における役職や経験の量には無関係であり、ことさら難しく考える必要はなく、今日から誰でもリーダーへの道を歩むことができる。 しかし、リーダーとしての道を歩み始めたときに、多くの場合すぐに大きな障壁に直面するものである。その障壁とは、周囲の人が自分のアイデアを理解してくれようとせず、無関心であるということである。いやむしろ新しいアイデアや価値を提案しているのだから、そう簡単には理解されないのは当たり前のことと考えるべきだと思う。社会のニーズを捉えることがイノベーションに必須であると言われるが、そのニーズというものも、単に皆が欲しがっているものを提供するというような単純なものではない。これまでにない新たな価値を提案するのだから、最初はそれが価値あるものであるかどうかはほとんどの人には理解されない。また、人間は本

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来変化に対して保守的であり、特にその価値判断に一部でも責任を持つべき状況で、意外なアイデアや未来の価値について提案された場合には、まずは否定的になる傾向があるものである。しかし大事なことは、このような障壁に遭遇することがイノベーションリーダーとしての活動の始まりだということである。 リーダーとして次に実践しなければならないことは、説得力をもって交渉に臨むことである。交渉の場はさまざまであるが、例えば忙しいキーパーソンに話を聞いてもらうためには、1分くらいの時間で、簡潔明瞭に、印象に残る表現を使わなければならない。どうしてそれがいい考えなのか、本当に実現できるのか、そのためには何が必要なのかなどを的確に示さなければならない。気心の知れた仲間ならともかく、他人に聞いてもらうというのは、とても大変なことなのだ。しかし、その他人もやがて自分を支える強い味方になってくれることを忘れてはならない。説得し交渉をするという行為の先には、素晴らしい仲間や組織が作られ、さらにはその組織と別の組織との連携が広がっていく姿が見えてくる。1人のアイデアではなかなか実現できなかったことも、新たな仲間を集め、価値観が共有できれば、大きな仕事に発展する可能性が飛躍的に広がるものだ。これこそが今広く提唱されている「オープンイノベーション」の基本的な理念だと考えている。

◆おわりに 東京農工大学では、産学官連携活動の本質的な目標をしっかり見極め、教育機関としての役割を明確化して推進する中で、イノベーション創出の活動は人材養成の絶好の機会と捉えている。その理由は、イノベーションは人間を相手にした実際の経験や社会との対話から生まれるものであり、これをけん引するリーダーを養成することが極めて重要であるという思いがあるからだ。現在、このようなイノベーションリーダーを養成するための具体的な取り組みを、国内外の数多くの大学や企業、研究機関と連携し、さらには中学校、高等学校の教諭、生徒さんたちとも一緒に進めている。実際にここで行っている「あらかじめ用意された正解のない課題への挑戦」は、有意義な研究課題の探求や社会活動を見つめ直し、意欲と展望を持って実践するための大きな力になっていると考えている。 イノベーション人材養成ワークショップ

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37 産学官連携ジャーナル Vol.7 No.12 2011

2010.12.15~2011.1.14 ・低炭素社会支えるシリコンカーバイド デバイス実用化への道を切り開く松波弘之(2010 年 12 月号)・特集:発進 次世代自動車 次世代自動車と大学の役割清水 浩(2010 年 11 月号)・特集:第2回イノベーションコーディネータ表彰 イノベーションコーディネータ賞 若手賞 産学官連携の基盤づくり内島典子(2010 年 12 月号)

2011.1.15~2.14 ・特集:大学特許の活用戦略 大学における技術移転・産学連携活動の動向西村由希子(2011 年1月号)・誠心誠意取り組んで、失敗しても悔やまない遠藤 章(2011 年1月号)・特集:大学特許の活用戦略 パテント・トロールへの大学の対応方策隅藏康一(2011 年1月号)

2011.2.15~3.14 ・特集:大学特許の活用戦略 大学における技術移転・産学連携活動の動向西村由希子(2011 年1月号)・特集:HTLV-1 対策元年 HTLV-1の研究の推移と府省の取り組み渡邉俊樹(2011 年2月号)・特集:競争力アップ なるほど大学活用法 中小企業の海外展開支援と地域大学の役割岡田基幸(2011 年2月号)

2011.3.15~4.14 ・特集:経営者に応えるコーディネート術 産学官連携コーディネートの在り方岡田基幸(2011 年3月号)

・特集:経営者に応えるコーディネート術 「何かしたい」という企業の意欲を形にする雨森千恵子(2011 年3月号)・特集:経営者に応えるコーディネート術 産学官連携にかかわるコーディネータの3分類伊藤正実(2011 年3月号)

2011.4.15~5.14 ・特集:イノベーションシステムに欠けているもの 技術・ビジネスモデル・政策の三位一体型イノベーションシステムを必要とする時代の登場小川紘一(2011 年4月号)・特集:イノベーションシステムに欠けているもの 日本は何で稼ぎ、何で雇用するのか塚本 修(2011 年4月号)・青色 LED実現への道 未到の領域「われ一人荒野を行く」赤﨑 勇(2011 年4月号)

2011.5.15~6.14 ・特集:イノベーションシステムに欠けているもの 日本は何で稼ぎ、何で雇用するのか塚本 修(2011 年4月号)・特集:経営者に応えるコーディネート術 産学官連携コーディネートの在り方岡田基幸(2011 年3月号)・特集:イノベーションシステムに欠けているもの 技術・ビジネスモデル・政策の三位一体型イノベーションシステムを必要とする時代の登場小川紘一(2011 年4月号)

2011.6.15~7.14 ・日本知財学会「産学連携と大学知財に関する政策提言」について渡部俊也(2011 年6月号)・特集:「芸術と大学」の新デザイン 産業構造を見据えた知の生産湯元長伯(2011 年6月号)

産学官連携ジャーナル 注目記事

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38 産学官連携ジャーナル Vol.7 No.12 2011

・特集:経営者に応えるコーディネート術 産学官連携コーディネートの在り方岡田基幸(2011 年3月号)

2011.7.15~8.14 ・特集:経営者に応えるコーディネート術 産学官連携コーディネートの在り方岡田基幸(2011 年3月号)・特集:イノベーションシステムに欠けているもの 日本は何で稼ぎ、何で雇用するのか塚本 修(2011 年4月号)・日本知財学会「産学連携と大学知財に関する政策提言」について渡部俊也(2011 年6月号)

2011.8.15~9.14 ・特集:いま、原点へ――西澤潤一博士の視点 東日本大震災と福島原発事故 確かな力を持つ日本は、真摯に現実と向き合えばいい西澤潤一(2011 年8月号)・特集:経営者に応えるコーディネート術 産学官連携コーディネートの在り方岡田基幸(2011 年3月号)・特集:いま、原点へ――西澤潤一博士の視点 対象と真摯に向き合う、そして畏れ、恐れず――パラダイム転換のいま、西澤潤一先生にならう松尾義之(2011 年8月号)

2011.9.15~10.14 ・人生を決めた2冊の本鈴木 章(2011 年9月号)・特集:深化する産学官連携とイノベーションの課題 日本にテクノロジー・ベンチャーを育てる国家戦略を瀬戸 篤(2011 年9月号)・免疫学の大革命が始まった!審良静男(2010 年6月号)

2011.10.15~11.14 ・免疫学の大革命が始まった!審良静男(2010 年6月号)・人生を決めた2冊の本鈴木 章(2011 年9月号)・巻頭言:科学者 108 人の名言に学ぶ藤嶋 昭(2011 年 10 月号)

※ 産学官連携ジャーナルの発行日(原則毎月 15日)から次の発行日までの1カ月単位で、アクセス件数の多い記事をリストアップした。

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39 産学官連携ジャーナル Vol.7 No.12 2011

問合せ先:JST産学連携担当 菊地、登坂〒102-0076東京都千代田区五番町7

K’s五番町TEL :(03)5214 7993FAX :(03)5214 8399

独立行政法人 科学技術振興機構(JST)イノベーション推進本部 産学連携展開部産学連携担当

高橋 富男 東北大学 高度イノベーション博士人財育成センターシニアエキスパートCopyright

PRINT ISSN 2186-2621 ONLINE ISSN 1880-4128

©2005 JST. All Rights Reserved.

2011年12月号2011年12月15日発行

産学官連携ジャーナル(月刊)

編集責任者:

編集・発行:

★去る 11月 18日に仙台市内のホテルで東北大学総長、宮城県知事、仙台市長、社団法人東北経済連合会(以下「東経連」と記す)会長の4者による産学官連携ラウンドテーブルが開催された。高橋東経連会長は「大震災からの産業復興を図るためには、技術開発等の継続的なイノベーションによる高い付加価値を生み出し、東北地域の競争力を高めていくことである」と力を込めた。最後に具体的な6つのアクションを盛り込んだ「東日本大震災からの産業復興に向けた産学官共同宣言」を採択した。共同宣言は東北大学、宮城県、仙台市、東経連のホームページに英文でも掲載し、産業復興に向けた産学官の絆の深さを世界にアピールすることとした。 (編集委員・西山 英作)

★最近、マイケル・E・ポーター教授がこれまでの「CSR(企業の社会的責任)」概念をさらに発展させた新しい概念「Creating Shared Value(共有価値の創出)」を発表し、話題となっている。その中で教授は、これからの企業は社会的責任の域を越え、社会と共同して新しい価値を生み出すことが重要になってくると主張している。 筆者が技術移転成功 100 事例に関して包絡分析(DEA)を用いて検討した結果においても、最も効果的に R&Dを進めた上位6事例のプロジェクト全てに、当初から自治体が積極的に関与していた。 今後、技術移転分野において自治体やNPOの果たす役割はますます重要になってくるものと予想される。 (編集委員・藤川 昇)

★どの地域も雇用を増やして若い人の流出を食い止めたいと思っている。既存の産業の振興のほか、工場誘致やベンチャー企業育成という方法もある。「ベンチャー育成」は官民挙げて取り組んできた。中小企業基盤整備機構のホームページに同機構のビジネス・インキュベーター(インキュベーション施設)一覧が掲載されている。全国におよそ 35。首都圏、静岡県、愛知県、京阪神、九州の北西部(福岡・長崎・熊本3県)に集中している。これ以外では、北海道、宮城県、石川県、岡山県に各1拠点あるだけだ。大学や自治体がつくったインキュベーターを含めても地域の偏在は明らかだ。産学基盤が弱い地方は、そもそも「起業」と無縁なのか。こうした地域こそ科学技術の力が必要なのではないか、と思っていたのだが…。 (編集長・登坂 和洋)

復興に産学官の絆復興に産学官の絆

地域振興と地域振興とベンチャーベンチャー

重要な重要な自治体の役割自治体の役割

1112-08編集後記.indd 391112-08編集後記.indd 39 2011/12/07 19:23:472011/12/07 19:23:47プロセスシアンプロセスシアンプロセスマゼンタプロセスマゼンタプロセスイエロープロセスイエロープロセスブラックプロセスブラック

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